説明

排気浄化システム

【課題】燃料改質器に用いる燃料における燃料性状の変動によらず、常に高い収率で還元性気体を生成することができる排気浄化システムを提供すること。
【解決手段】排気浄化システムは、排気中のNOxを還元雰囲気下で浄化する第2触媒コンバータと、燃料および空気を改質触媒に供給することにより還元性気体を生成し、当該生成した還元性気体を第2触媒コンバータよりも上流側に供給する燃料改質器と、改質触媒に対する空気供給量および燃料供給量を制御する改質器制御手段と、を備える。改質器制御手段は、改質触媒温度が最適温度帯域に含まれ、かつ、O/C比(空気供給量の燃料供給量に対する割合)が最適O/C比帯域に含まれるように、改質触媒に供給する燃料のセタン価の推定値に基づいて、空気供給量および燃料供給量の総量を増減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化システムに関する。より詳しくは、内燃機関の排気中のNOxを還元雰囲気下で浄化する触媒コンバータと、還元性気体を生成し触媒コンバータよりも上流側に供給する燃料改質器と、を備えた排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電機や自動車などの内燃機関から大気中へ排出される様々な環境汚染物質が問題視されている。環境汚染物質は、酸性雨や光化学スモッグの原因となるうえ、人体の健康被害の原因ともなり、世界的にその排出量を規制する動きがある。特に、ディーゼルエンジンやガソリンのリーンバーンエンジンなどの内燃機関では、希薄燃焼を行うため、例えば窒素酸化物(NOx)が多く排出されるため、NOxを浄化するための浄化技術の検討が進められている。
【0003】
例えば特許文献1および2には、排気中のNOxを捕捉するNOx浄化触媒を設け、このNOx浄化触媒の上流から水素を含んだ還元性気体を供給することにより、排気中のNOxまたはNOx浄化触媒に捕捉されたNOxを選択的に還元する技術が示されている。また還元性気体の中でも水素は比較的低温でも高い還元性能を発揮することが知られている。
【0004】
ところで、水素を含む還元性気体を生成する具体的な方法としては、例えば、下記式(1)に示すように、酸化剤として酸素を用いた部分酸化反応が知られている。この部分酸化反応は、燃料と酸素を用いた発熱反応であり、自発的に反応が進行する。このため、一旦、反応が始まると、外部から熱の供給をすることなく水素を製造し続けることができる。また、このような部分酸化反応において、燃料と酸素とを高温状態で共存させた場合には、下記式(2)に示すような燃焼反応も進行する。また、酸化剤として水蒸気を用いた、下記式(3)に示す水蒸気改質反応が知られている。この水蒸気改質反応は、燃料と水蒸気とを用いた吸熱反応であり、自発的に進行する反応ではない。このため、水蒸気改質反応は、上述の部分酸化反応に対して制御しやすいものとなっている。
+1/2nO→nCO+1/2mH (1)
+(n+1/4m)O→nCO+1/2mHO (2)
+nHO→nCO+(n+1/2m)H (3)
【0005】
特許文献3には、以上のような改質反応を利用して還元性気体を生成する燃料改質器が示されている。ところで、上述のような改質反応において、還元性気体の収率と触媒温度とは相関があることが知られている。そこで特許文献3の燃料改質器では、高い収率で還元性気体を生成するため、空気供給量と燃料供給量をと調整することで触媒温度を所定の目標温度に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3642273号公報
【特許文献2】特開2002−89240号公報
【特許文献3】特開2008−184942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料改質器に用いる燃料の性状が変わると改質触媒における改質反応の特性も変化すると考えられるが、特許文献3では、このような燃料の性状の変化について、十分な検討がなされていない。
特許文献3の技術では、上述のように空気供給量および燃料供給量を調整することにより改質触媒の温度を所定の目標温度に維持できるものの、燃料性状が変わると改質反応の特性も変わってしまうため、改質触媒の温度を上記目標温度に維持するための空気と燃料の供給比率も変わってしまい、結果として還元性気体の収率が燃料性状の変動に伴い悪化するおそれがある。
【0008】
本発明は、燃料改質器に用いる燃料における燃料性状の変動によらず、常に高い収率で還元性気体を生成することができる排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン2)の排気通路(例えば、後述の排気管4)に設けられ、前記内燃機関の排気中のNOxを還元雰囲気下で浄化する触媒コンバータ(例えば、後述の第2触媒コンバータ47)と、前記排気通路とは別に設けられ、燃料および空気を改質触媒(例えば、後述の改質触媒82)に供給することにより還元性気体を生成し、当該生成した還元性気体を前記排気通路のうち前記触媒コンバータよりも上流側に供給する燃料改質器(例えば、後述の燃料改質器8)と、を備える排気浄化システム(例えば、後述の排気浄化システム1)を提供する。前記排気浄化システムは、前記改質触媒に供給する燃料の燃料性状(例えば、後述のセタン価)を推定する燃料性状推定手段(例えば、後述のECU7および図5のステップS22の実行に係る手段)と、前記改質触媒に対する空気供給量および燃料供給量を制御する改質器制御手段(例えば、後述のECU7および図5のHリッチ化制御の実行に係る手段)と、を備える。空気供給量の燃料供給量に対する割合を供給比率(例えば、後述のO/C比)と定義し、前記改質器制御手段は、前記改質触媒の温度が所定の温度帯域(例えば、後述の最適温度帯域)に含まれ、かつ、前記供給比率が所定の比率上限値(例えば、後述のO/C比上限値)と比率下限値(例えば、後述のO/C比下限値)との間に含まれるように、前記燃料性状推定手段による燃料性状の推定結果に基づいて、空気供給量と燃料供給量の総量を増減する。
【0010】
空気と燃料の供給比率を一定にしたまま空気供給量と燃料供給量の総量を大きくすると、改質触媒の温度は高くなる傾向がある。また、この総量を一定にしたまま供給比率を大きくすると、改質触媒の温度は高くなる傾向がある。本発明によれば、このような改質反応の特性を利用して、改質触媒の温度が所定の温度帯域に含まれ、かつ、供給比率が所定の比率上限値と比率下限値との間に含まれるように、燃料性状の推定結果に基づいて空気供給量および燃料供給量の総量を増減する。これにより、改質触媒に供給する空気および燃料の供給比率を最適な値に維持できるので、燃料の燃料性状によらず還元性気体の収率を高く維持し続けることができる。またこのとき、改質触媒の温度も最適な値に維持できるので、改質触媒に過剰な量のコークが堆積したり、改質触媒が劣化したりするのを防止することができる。
【0011】
この場合、前記燃料性状推定手段は、前記内燃機関の燃焼室内に噴射された燃料の燃焼状態(例えば、後述の着火遅れ角)に基づいて、燃料の燃料性状を推定することが好ましい。
【0012】
この発明によれば、内燃機関の燃焼状態に基づいて燃料性状を推定することにより、燃料性状を推定するために必要なセンサ類を内燃機関に備え付けられたものでまかなうことができるので、燃料改質器に余分なセンサ類を設ける必要がなくなる。したがって、排気浄化システムを簡素にできる。
【0013】
この場合、前記改質器制御手段は、前記改質触媒の温度が前記温度帯域に含まれるように、前記燃料性状推定手段による燃料性状の推定結果に基づいて前記供給比率の目標値(例えば、後述のO/C比の目標値のベース値)を算出し、前記目標値が前記比率上限値以上である場合には、前記改質触媒の温度が前記温度帯域に含まれ、かつ、前記供給比率が前記比率上限値と比率下限値との間に含まれるように空気供給量および燃料供給量の総量を増量側に制御し、前記目標値が前記比率上限値より小さい場合には、前記改質触媒の温度が前記温度帯域に含まれ、かつ、前記供給比率が前記比率上限値と比率下限値との間に含まれるように空気供給量および燃料供給量の総量を減量側に制御することが好ましい。
【0014】
この発明によれば、燃料性状の推定結果に基づいて改質触媒の温度が上記温度帯域に含まれるように供給比率の目標値を算出する。そして、算出した目標値が比率上限値以上である場合には、上記改質反応における温度の特性を利用して、空気供給量および燃料供給量の総量を増量側に制御することにより、改質触媒の温度が温度帯域に含まれ、かつ、供給比率が比率上限値と比率下限値との間に含まれるようにすることができる。
一方、算出した目標値が比率下限値より小さい場合には、上記改質反応における温度の特性を利用して、空気供給量および燃料供給量の総量を減量側に制御することにより、改質触媒の温度が温度帯域に含まれ、かつ、供給比率が比率上限値と比率下限値との間に含まれるようにすることができる。これにより、燃料の燃料性状によらず還元性気体、特に水素の収率を高く維持し続けることができる。
【0015】
この場合、前記改質器制御手段は、所定の上限値を上回らないように空気供給量および燃料供給量を増量し、かつ、所定の下限値を下回らないように空気供給量および燃料供給量を減量することが好ましい。
【0016】
この発明によれば、所定の上限値および下限値のもとで空気供給量および燃料供給量を増減することにより、燃料改質器で生成され触媒コンバータに供給される還元性気体に過不足が生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気浄化システム、およびこれを適用したエンジンの構成を示す模式図である。
【図2】上記実施形態に係るECUによるリッチ運転制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図3】上記実施形態に係る改質触媒の温度とO/C比との関係を示す図である。
【図4】上記実施形態に係る改質触媒の温度と空気供給量および燃料供給量の総量との関係を示す図である。
【図5】上記実施形態に係る燃料改質器を制御し排気空燃比をリッチ化する具体的な手順を示す図である。
【図6】上記実施形態に係る燃料のセタン価とエンジンの燃焼室内に噴射された燃料の着火遅れ角との関係を示す図である。
【図7】上記実施形態に係るセタン価の推定値とO/C比の目標値のベース値との関係を示す図である。
【図8】上記実施形態に係るO/C比の目標値に対する補正値と温度偏差との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る排気浄化システム1、およびこれを適用した内燃機関(以下「エンジン」という)2の構成を示す模式図である。エンジン2は、各気筒21の燃焼室内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンである。
【0019】
エンジン2に燃料を供給する燃料供給系は、燃料タンク23に貯留された燃料を加圧する燃料ポンプ(図示せず)と、この燃料ポンプにより加圧された燃料をエンジン2の気筒21ごとに設けられたインジェクタに供給するコモンレール(図示せず)と、を含んで構成される。
【0020】
インジェクタからの燃料噴射量は、後述する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)7によって設定される。また、このインジェクタの開弁時間は、設定された燃料噴射量が得られるように、ECU7からの駆動信号により制御される。
【0021】
エンジン2には、吸気が流通する吸気管3と、排気が流通する排気管4と、排気管4内の排気の一部を吸気管3に還流する排気還流通路5と、吸気管3に吸気を圧送する過給機6とが設けられている。
【0022】
吸気管3は、吸気マニホールド31の複数の分岐部を介してエンジン2の各気筒21の吸気ポートに接続されている。排気管4は、排気マニホールド41の複数の分岐部を介してエンジン2の各気筒21の排気ポートに接続されている。排気還流通路5は、排気マニホールド41から分岐し吸気マニホールド31に至る。
【0023】
過給機6は、排気管4に設けられた図示しないタービンと、吸気管3に設けられた図示しないコンプレッサと、を備える。タービンは、排気管4を流通する排気の運動エネルギーにより駆動される。コンプレッサは、タービンにより回転駆動され、吸気を加圧し吸気管3内へ圧送する。また、タービンは、図示しない複数の可変ベーンを備えており、可変ベーンの開度を変化させることにより、タービン回転数(回転速度)を変更できるように構成されている。タービンのベーン開度は、ECU7により電磁的に制御される。
【0024】
吸気管3のうち過給機6の上流側には、エンジン2の吸入空気量を制御するスロットル弁32が設けられている。このスロットル弁32は、アクチュエータを介してECU7に接続されており、その開度はECU7により電磁的に制御される。また、吸気管3のうち過給機6の下流側には、過給機6により加圧された吸気を冷却するためのインタークーラ33が設けられている。
【0025】
排気還流通路5は、排気マニホールド41と吸気マニホールド31とを接続し、エンジン2から排出された排気の一部を還流する。排気還流通路5には、還流される排気を冷却するEGRクーラ51と、排気の還流量を制御するEGR弁52と、が設けられている。EGR弁52は、図示しないアクチュエータを介してECU7に接続されており、その弁開度はECU7により電磁的に制御される。
【0026】
排気管4のうち過給機6の下流側には、排気を浄化するための第1触媒コンバータ45とディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF(Diesel Particulate Filter)」という)46と第2触媒コンバータ47とが上流側からこの順で設けられている。また、排気管4には、水素(H)、一酸化炭素(CO)、および炭化水素(HC)などの還元性気体を含む改質ガスを生成し、生成した改質ガスを排気管4内の第1触媒コンバータ45の上流側から供給する燃料改質器8が接続されている。
【0027】
第1触媒コンバータ45は、例えば、三元触媒を内蔵し、この触媒と排気との反応により排気を浄化するとともに、排気と触媒の反応により発生する熱で排気を昇温する。より具体的には、この第1触媒コンバータ45には、例えば、触媒として作用する白金(Pt)をアルミナ(Al)担体に担持させたものに、NOxの還元能力に優れたロジウム(Rh)や、排気の急激な酸素濃度変化に対し安定した触媒作用を発揮させるため酸素貯蔵能力に優れたセリア(CeO)などを加えたものが用いられる。
より具体的には、この三元触媒は、白金を2.4(g/L)と、ロジウムを1.2(g/L)と、パラジウム(Pd)を6.0(g/L)と、セリアを50(g/L)と、アルミナを150(g/L)と、バインダーを10(g/L)と、で構成される材料を、水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを製造し、このスラリーをFe−Cr−Al合金製担体にコーティングし、600℃で2時間にわたり乾燥、焼成することで調製される。
【0028】
DPF46は、排気がフィルタ壁の微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とする粒子状物質(PM(Particulate Matter))を、フィルタ壁の表面およびフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。DPF46の捕集能力の限界、すなわち堆積限界までPMを捕集すると、圧損が大きくなるので、DPF46に堆積したPMを燃焼し、DPF46を再生するDPF再生処理が適宜実行される。
【0029】
第2触媒コンバータ47は、エンジン2で燃焼する混合気を化学量論比よりもリーンに設定し、流入する排気の酸素濃度が比較的高い酸化雰囲気下で排気中のNOxを捕捉する。また、第2触媒コンバータ47は、流入する排気の還元性気体の濃度が比較的高い還元雰囲気下で、上記捕捉したNOxを還元浄化する。
【0030】
本実施形態では、第2触媒コンバータ47として、触媒担体に2つの層からなるNOx浄化触媒を担持させることによって形成されたものを用いる。
NOx浄化触媒の下層は、白金を4.5(g/L)と、セリアを60(g/L)と、アルミナを30(g/L)と、Ce−Pr−La−Oxを60(g/L)と、Zr−Oxを20(g/L)と、で構成される材料を水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを製造し、このスラリーを上述の下層にコーティングして形成される。
また、NOx浄化触媒の上層は、β型のゼオライトに鉄(Fe)およびセリウム(Ce)をイオン交換したものを75(g/L)と、アルミナを7(g/L)と、バインダーを8(g/L)と、で構成される材料を、水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを製造し、このスラリーを上述の下層にコーティングして形成される。
【0031】
以上のようなNOx浄化触媒を担持して構成された第2触媒コンバータ47は、具体的には以下のように動作し、排気中のNOxを浄化する。
【0032】
[リーン状態1]
先ず、エンジン2の混合気を化学量論比よりもリーン側に設定する所謂リーンバーン運転を行い、第2触媒コンバータ47に流入する排気を酸化雰囲気にすると、排気中のNOxは、上層を通過して下層に到達し、白金によって酸化(例えば、NO→NO)される。そして、酸化されたNOx(例えば、NO)は、下層に一旦吸着されて貯蔵される。このとき、白金はNO酸化触媒として機能し、セリアやCe−Pr−La−Oxは、NOx吸着材として機能する。
【0033】
[リッチ状態]
次に、例えば、エンジン2の混合気を化学量論比近傍もしくは化学量論比よりもリッチ側に設定するかまたは燃料改質器8で生成した還元性気体を排気管4内に導入する所謂リッチ運転制御を行うことにより、第2触媒コンバータ47に流入する排気を還元雰囲気にすると、排気中の一酸化炭素と水のシフト反応により二酸化炭素と水素が生成される(下記式(4)参照)。また、上記リーン状態1で貯蔵されていたNOxおよび排気中のNOxは水素と反応し、アンモニアが生成される(下記式(5)参照)。ここで生成されたアンモニアは、上層に移動し、ゼオライトに吸着されて貯蔵される。なお、以上のようなリッチ運転制御を行うことで第2触媒コンバータ47に流入する排気を還元雰囲気にすることを、以下では排気空燃比をリッチ化するともいう。
CO+HO→H+CO (4)
NOx+H→NH (5)
【0034】
[リーン状態2]
次に、再びリーンバーン運転を行い、第2触媒コンバータ47に流入する排気を酸化雰囲気にすると、上層に貯蔵されたアンモニアと、排気中のNOxとがアンモニア選択接触還元法(NH−SCRという)による反応で窒素に変換され(下記式(6)参照)、当該窒素は上層から放出される。このとき、鉄およびセリウムイオン交換βゼオライトは、NH−SCR触媒として機能する。
NOx+NH+O→N+HO (6)
【0035】
このように、第2触媒コンバータ47によれば、還元雰囲気下で生成されるアンモニアがゼオライトに吸着され、吸着したアンモニアがリーンバーン運転中にNOxと反応するので、NOxの浄化を効率良く行うことができる。
【0036】
燃料改質器8は、排気管4にその一端側が接続されたガス通路81と、このガス通路81内に設けられた改質触媒82と、原料をガス通路81の他端側から改質触媒82に供給する原料供給装置83と、を含んで構成される。
【0037】
原料供給装置83は、燃料タンク23に貯蔵された燃料と、コンプレッサ84により供給された空気とを所定の割合で混合して原料を製造し、この原料をガス通路81内の改質触媒82に供給する。この原料供給装置83は、改質触媒82に供給される空気の量(以下、「空気供給量」という)を制御する空気バルブ85と、改質触媒82に供給される燃料の量(以下、「燃料供給量」という)を制御する燃料バルブ86と、これら空気バルブ85および燃料バルブ86を介して供給された空気と燃料を混合し改質触媒82に噴射する図示しない噴射器と、を備える。これら空気バルブ85および燃料バルブ86は、それぞれ図示しないアクチュエータを介してECU7に接続されており、空気供給量、燃料供給量、並びに、空気供給量の燃料供給量に対する割合(空気供給量/燃料供給量)は、ECU7により制御される。なお本実施形態では、この空気供給量の燃料供給量に対する割合をO/C比という。
【0038】
改質触媒82は、ロジウム、白金、パラジウム、ニッケル、およびコバルトよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒成分と、セリア、ジルコニア、アルミナ、およびチタニアよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物またはこれらを基本組成とした複合酸化物と、を含む。この改質触媒82は、原料供給装置83から供給された原料を改質し、水素、一酸化炭素、および炭化水素などの還元性気体を含む改質ガスを生成する。より具体的には、この改質触媒82は、原料を構成する炭化水素と空気との部分酸化反応により、水素および一酸化炭素を含む改質ガスを生成する。
【0039】
本実施形態では、この改質触媒82として、セリアおよびロジウムの粉末を、セリアに対するロジウムの質量比が1%となるように秤量し、この粉末を水系媒体とともにボールミルに投入して攪拌、混合することでスラリーを製造し、このスラリーをメタル製の担体にコーティングし、さらに600℃で2時間に亘り乾燥、焼成して調製されたものを用いる。
【0040】
燃料改質器8は、グロープラグやスパークプラグなどを含んで構成された図示しない加熱ヒータを備えており、燃料改質器8の始動時などに、改質触媒82を加熱することが可能となっている。また、この燃料改質器8は、排気管4とは別に設けられている。すなわち、燃料改質器8の原料供給装置83および改質触媒82は、排気管4内には設けられていない。
【0041】
ECU7には、筒内圧センサ91、エアフローメータ94、UEGOセンサ95、排気温度センサ96、および改質触媒温度センサ97などの各種センサが接続されている。これら筒内圧センサ91、エアフローメータ94、UEGOセンサ95、排気温度センサ96、および改質触媒温度センサ97は、それぞれ、エンジン2の筒内圧、エンジン2の吸入空気量、排気管4内の排気空燃比、第2触媒コンバータ47の下流側の排気温度、および改質触媒82の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。
【0042】
ECU7は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU7は、CPUで実行される各種演算プログラムおよび演算結果などを記憶する記憶回路と、エンジン2の燃料噴射弁などに制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0043】
図2は、リッチ運転制御の具体的な手順を示すフローチャートであり、ECUにより繰り返し実行される。以下、詳細に説明するように、本実施形態のリッチ運転制御では、エンジン2の混合気を化学量論比もしくは化学量論比よりもリッチ側に設定する通常リッチ化制御と、燃料改質器で生成した改質ガスを排気管に供給するHリッチ化制御とを、所定の条件に応じて選択的に実行可能となっている。
【0044】
ステップS1では、排気空燃比をリッチ化する時期に達したか否かを判別する。より具体的には、第2触媒コンバータのNOx捕捉量積算値を取得し、この積算値が所定の閾値を超えた場合には、排気空燃比をリッチ化する時期に達したと判別する。なお、第2触媒コンバータに捕捉されるNOx量は、吸入空気量やエンジンの燃料噴射量などに基づいて逐次推定することができる。したがって、上記NOx捕捉量積算値は、この第2触媒コンバータに捕捉されるNOx量を積算することで算出することができる。ステップS1の判別がYESの場合にはステップS2に移り、ステップS1の判別がNOの場合にはこの処理を直ちに終了する。
【0045】
ステップS2では、排気温度センサの検出値に基づいて第2触媒コンバータの温度を算出し、この第2触媒コンバータ温度が所定の第1判定温度TAよりも低いか否かを判別する。この判別がNOであり、第2触媒コンバータ温度が第1判定温度TA以上である場合には、通常リッチ化制御の実行が適していると判断し、ステップS3に移る。ステップS3では、通常リッチ化制御における排気空燃比の目標値を算出し、ステップS4に移る。この排気空燃比の目標値は、第2触媒コンバータ温度、NOx捕捉量積算値、エンジン回転数、および要求トルクなどに基づいて算出される。
【0046】
ステップS4では、通常リッチ化制御の実行を開始し、ステップS5に移る。この通常リッチ化制御では、排気空燃比が上記ステップS3で算出した目標値に一致するように、エンジンの主噴射量、ポスト噴射量、吸入空気量のうちの少なくとも1つを調整する。ステップS5では、通常リッチタイマが「0」であるか否かを判別する。この判別がNOの場合にはステップS7に移り、この判別がYESの場合にはステップS6に移り、通常リッチタイマをスタートした後にステップS7に移る。ステップS7では、通常リッチタイマの計測値が所定の終了判定値より小さいか否かを判別する。この判別がYESの場合には、この処理を直ちに終了する。一方、この判別がNOの場合には、ステップS8に移る。ステップS8では、通常リッチ化制御を終了するとともに、通常リッチタイマをリセットし、この処理を終了する。
【0047】
一方、ステップS2の判別がYESであり、第2触媒コンバータ温度が第1判定温度TAよりも低い場合には、Hリッチ化制御の実行が適していると判断し、ステップS9に移る。ステップS9では、Hリッチ化制御における排気空燃比の目標値を算出し、ステップS10に移る。ステップS10では、Hリッチ化制御の実行を開始し、ステップS11に移る。このHリッチ化制御の詳細な手順については、後に図3〜図8を参照して説明する。
【0048】
ステップS11では、Hリッチタイマおよび通常リッチタイマをスタートし、ステップS12に移る。ステップS12では、排気温度センサの検出値に基づいて第2触媒コンバータの温度を算出し、この第2触媒コンバータ温度が所定の第2判定温度TB以上であるか否かを判別する。この判別がYESの場合にはステップS14に移り、NOの場合にはステップS13に移る。ここで、第2判定温度TBは、第1判定温度TAよりも高く設定される。
【0049】
ステップS13では、Hリッチタイマの値が所定の終了判定値より小さいか否かを判別する。この判別がYESの場合にはステップS7に移り、NOの場合にはステップS14に移る。Hリッチタイマの終了判定値は、上述の通常リッチタイマの終了判定値より短く設定される。ステップS14では、燃料改質器による改質ガスの供給を停止するとともに、Hリッチタイマをリセットし、ステップS7に移る。
【0050】
次に、図3〜図8を参照して、ステップS10の燃料改質器によるHリッチ化制御の手順について説明する。先ず、具体的な手順について説明する前に、燃料改質器における改質反応の特性について詳細に説明する。
【0051】
図3は、O/C比と改質触媒温度との関係を示す図である。図3において、横軸はO/C比を示し縦軸は改質触媒温度を示す。図3中、一点鎖線は燃料が低セタン価である場合におけるO/C比と改質触媒温度との関係を示し、破線は燃料が高セタン価である場合におけるO/C比と改質触媒温度との関係を示す。また、図3には、O/C比と水素収率との関係を示す水素収率曲線を、O/C比と改質触媒温度との関係を示す上記グラフに重ねて実線で示す。なお、これら図3中のO/C比と改質触媒温度との関係を示すグラフおよび水素収率曲線は、それぞれ空気供給量および燃料供給量の総量を所定の値に保ちながらO/C比を変化させることで得られたものを示す。
【0052】
図3においてハッチングで示すように、改質触媒温度が低くかつO/C比が小さいと改質触媒にコークが堆積し、改質触媒温度が高くかつO/C比が大きいと改質触媒が劣化してしまう。このため、このようなコークの堆積や触媒の劣化を防止するためには、改質触媒温度を最適温度帯域内に維持することが望まれる。一方、図3に示すように、水素収率曲線はO/C比の変化に対し上に凸の形状となる。したがって、水素収率を高く維持し、効率的に水素を生成するためには、反応量論比を含む所定の最適O/C比帯域内にO/C比を維持することが望まれる。
以上のことから、空気供給量および燃料供給量は、改質触媒温度およびO/C比が最適温度帯域と最適O/C比帯域が重複した最適反応領域内に含まれるように調整することが望まれる。
【0053】
一方、図3に示すように、改質触媒温度は、O/C比を大きく、すなわち改質触媒に供給する原料のうち空気の割合を大きくするに従って高くなる傾向がある。また、燃料のセタン価が高くなると、同じO/C比であっても改質触媒温度は低くなる傾向がある。
したがって、空気および燃料の総量が一定の下で、改質触媒温度を上記最適温度帯域内に維持するには、セタン価に応じてO/C比を調整する必要がある。このため、例えば高セタン価燃料を用いた場合、図3において星印で示すように、O/C比を最適O/C比帯域より大きくしなければ、改質触媒温度を最適温度帯域内に維持できなくなってしまう場合がある。また、例えば低セタン価燃料を用いた場合、図3において丸印で示すように、O/C比を最適O/C比帯域より小さくしなければ、改質触媒温度を最適温度帯域内に維持できなくなってしまう場合がある。
【0054】
図4は、改質触媒温度と空気供給量および燃料供給量の総量との関係を示す図である。なお、図4には、O/C比を一定に保ちながら空気および燃料の総量を変化させたときに得られるものを示す。図4に示すように、改質触媒温度は、空気および燃料の総量に応じて大きくなる傾向がある。これは、O/C比を一定に保ちながら空気および燃料の総量を増減することにより、改質触媒温度を高くしたり低くしたりできることを示している。
【0055】
このような、空気および燃料の総量と改質触媒温度との関係を考慮した上で、高セタン価燃料や低セタン価燃料を用いた場合について、図3に戻り再び検討する。
上述のように、燃料が高セタン価であることにより、改質触媒温度を最適温度帯域内に制御したときにおけるO/C比が星印に示すように最適O/C比帯域よりも大きくなってしまう場合がある。このとき、O/C比を最適O/C比帯域内に制御すると改質触媒温度が最適温度帯域よりも低くなってしまう。このような高セタン価燃料を用いた場合、空気および燃料の総量を増量側に制御することにより、O/C比および改質触媒温度がともに最適反応領域内に含まれるようにすることができる。
また上述のように、燃料が低セタン価であることにより、改質触媒温度を最適温度帯域内に制御したときにおけるO/C比が丸印に示すように最適O/C比帯域よりも小さくなってしまう場合がある。このとき、O/C比を最適O/C比帯域内に制御すると改質触媒温度が最適温度帯域よりも高くなってしまう。このような低セタン価燃料を用いた場合、空気および燃料の総量を減量側に制御することにより、O/C比および改質触媒温度がともに最適反応領域内に含まれるようにすることができる。
【0056】
図5は、以上のような改質反応の特性を利用したHリッチ化制御、すなわち燃料改質器により排気空燃比をリッチ化する制御の具体的な手順を示す図である。以下、詳細に説明するように、このHリッチ化制御では、上述のような改質反応の特性を利用して、燃料のセタン価の推定結果に基づいて空気供給量および燃料供給量を制御することで、改質触媒温度およびO/C比がともに最適反応領域内に含まれるようにする。
【0057】
S21では、改質触媒への空気の供給を開始する。なお、このときの空気供給量の目標値は、図2のステップS9で決定した排気空燃比の目標値に応じて設定したQair_normalとする。ここで、排気空燃比の目標値に応じて設定した空気供給量の目標値Qair_normalとは、水素収率が最大となる条件で運転し、さらに排気空燃比の目標値に応じた量の還元性気体を生成するようにO/C比、並びに、空気および燃料の総量を調整したと仮定したときにおける空気供給量とする。
【0058】
ステップS22では、改質触媒に供給する燃料のセタン価の推定値を算出し、ステップS23に移る。より具体的には、以下に示すように、エンジンの燃焼室内に噴射された燃料の燃焼状態に基づいて、燃料のセタン価を推定する。
図6は、燃料のセタン価と、エンジンの燃焼室内に噴射された燃料の着火遅れ角との関係を示す図である。ここで着火遅れ角とは、目標となる着火時期と実際の着火時期との差を示すものである。図6に示すように、燃料噴射時期が同一であっても、使用する燃料のセタン価によって実際の着火時期が変化する。このステップS22では、エンジンの筒内圧センサの検出値に基づいて着火遅れ角を算出し、さらにこの着火遅れ角に基づいて図7に示すようなマップを検索することにより、燃料のセタン価の推定値を算出する。なお、以上のように着火遅れ角に基づいて燃料のセタン価を推定するための具体的な手法については、本願出願人による特開2007−56776号公報に詳しく説明されているので、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0059】
図5に戻って、ステップS23では、取得したセタン価の推定値に基づいて、所定のマップを検索することによりO/C比の目標値のベース値を決定し、ステップS24に移る。このステップS23では、燃料のセタン価によらず改質触媒温度を上記最適温度帯域内に設定された目標温度に維持するように、セタン価の推定値に応じてO/C比の目標値のベース値を決定する。
図7は、セタン価の推定値とO/C比の目標値のベース値との関係を示す図であり、上記マップの具体例を示す。
上述のように、燃料のセタン価が高くなると同じO/C比であっても改質触媒温度は低くなる傾向があり、また、O/C比が大きくなると改質触媒温度が高くなる傾向がある。そこで、改質触媒温度を最適温度帯域内の目標温度に維持するためには、図6に示すように、燃料のセタン価が高くなるに従いO/C比の目標値のベース値を大きな値に設定する。
【0060】
ステップS24では、セタン価に応じて決定したO/C比の目標値のベース値が、最適O/C比帯域の上限値(以下、「O/C比上限値」という)より小さいか否かを判別する。この判別がYESの場合にはステップS25に移る。
ステップS25では、セタン価に応じて決定したO/C比の目標値のベース値が、最適O/C比帯域の下限値(以下、「O/C比下限値」という)より大きいか否かを判別する。この判別がYESの場合にはステップS26に移る。
【0061】
ステップS26では、セタン価に応じて決定したO/C比の目標値のベース値が最適O/C比帯域内に含まれていると判別されたことに応じて、このベース値に応じて燃料供給量の目標値Qfuel_normalを設定し、ステップS27に移る。より具体的には、上記ステップS21で設定した空気供給量の目標値Qair_normalに対する比が、O/C比の目標値のベース値となるように、燃料供給量の目標値Qfuel_normalを設定する。次にステップS27では、設定した目標値Qfuel_normalに応じた量の燃料の供給を開始し、ステップS32に移る。
【0062】
一方、ステップS24における判別がNOであり、セタン価に応じて決定したO/C比の目標値のベース値がO/C比上限値以上である場合には、ステップS28に移る。ここで、O/C比の目標値のベース値がO/C比上限値以上であるということは、空気および燃料の総量を増量側に制御しなければ、改質触媒温度およびO/C比を最適反応領域内にすることができないことを意味する(図3の星印参照)。
したがって、このステップS28では、改質触媒温度およびO/C比が最適反応領域内に含まれるように空気および燃料の総量を増量側に制御するべく、O/C比の目標値を、上記ステップS23で決定したベース値から、最適O/C比帯域内の所定の値に変更する。そして、空気供給量の目標値を上記ステップS21で設定した値Qair_normalからQair_highに増量するとともに、この空気供給量の目標値Qair_highに対する比が上記O/C比の目標値となるように燃料供給量の目標値Qair_highを設定し、ステップS29に移る。
なお、還元性気体の生成量が排気空燃比の目標値に対して過剰になるのを防止するため、これら空気供給量の目標値Qair_highおよび燃料供給量の目標値Qfuel_highは、それぞれ予め設定された所定の上限値を上回らないように、増量側に設定する。
ステップS29では、空気供給量の目標値をQair_normalから上記ステップで設定したQair_highに変更するとともに、目標値Qfuel_highに応じた量の燃料の供給を開始し、ステップS32に移る。
【0063】
一方、ステップS25における判別がNOであり、セタン価に応じて決定したO/C比の目標値のベース値がO/C比下限値より小さい場合には、ステップS30に移る。ここで、O/C比の目標値のベース値がO/C比下限値より小さいということは、空気および燃料の総量を減量側に制御しなければ、改質触媒温度およびO/C比を最適反応領域内にすることができないことを意味する(図3の丸印参照)。
したがって、このステップS30では、改質触媒温度およびO/C比が最適反応領域内に含まれるように空気および燃料の総量を減量側に制御するべく、O/C比の目標値を、上記ステップS23で決定したベース値から、最適O/C比帯域内の所定の値に変更する。そして、空気供給量の目標値を上記ステップS21で設定した値Qair_normalからQair_lowに減量するとともに、この空気供給量の目標値Qair_lowに対する比が最適O/C比帯域内の所定値となるように燃料供給量の目標値Qair_lowを設定し、ステップS30に移る。
なお、還元性気体の生成量が排気空燃比の目標値に対して不足するのを防止するため、これら空気供給量の目標値Qair_lowおよび燃料供給量の目標値Qfuel_lowは、それぞれ予め設定された下限値を下回らないように、減量側に設定する。
ステップS30では、空気供給量の目標値をQair_normalから上記ステップで設定したQair_lowに変更するとともに、目標値Qfuel_lowに応じた量の燃料の供給を開始し、ステップS32に移る。
【0064】
ステップS32では、触媒温度センサにより検出された改質触媒の実温度と、上記最適温度帯域内に設定された目標温度との偏差に基づいて、O/C比の目標値を補正し、この処理を終了する。より具体的には、上記改質触媒温度の偏差に基づいて、所定のマップを検索することでO/C比の目標値に対する補正値を算出し、この補正値を上記ステップS23で設定した目標値のベース値またはステップS28およびS30で変更した目標値に減算することで、O/C比の目標値を補正する。
図8は、O/C比の目標値に対する補正値と温度偏差との関係を示す図であり、上記マップの具体例を示す図である。
図8に示すように、温度偏差が「0」のときにおける補正値を「0」として、温度偏差が大きくなるに従い、補正値を大きな値に設定する。これにより、実温度が目標温度よりも高くなるに従い、O/C比の目標値は小さな値に、すなわち総量に対する燃料供給量の割合が大きくなるように補正される。
【0065】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態では、改質触媒温度が最適温度帯域に含まれ、かつ、O/C比が最適O/C比帯域に含まれるように、燃料のセタン価の推定結果に基づいて空気供給量および燃料供給量を増減する。これにより、O/C比を最適O/C比帯域内に維持できるので、燃料のセタン価によらず還元性気体、特に水素の収率を高く維持し続けることができる。またこのとき、改質触媒温度も最適温度帯域内に維持できるので、改質触媒に過剰な量のコークが堆積したり、改質触媒が劣化したりするのを防止することができる。
【0066】
(2)本実施形態では、エンジンの燃焼室内に噴射された燃料の着火遅れ角に基づいて燃料のセタン価を推定することにより、セタン価を推定するために必要なセンサ類をエンジンに備え付けられたものでまかなうことができるので、燃料改質器8に余分なセンサ類を設ける必要がなくなる。したがって、排気浄化システム1を簡素にできる。
【0067】
(3)本実施形態では、セタン価の推定結果に基づいて改質触媒温度が上記最適温度帯域に含まれるようにO/C比の目標値のベース値を算出する。そして、算出した目標値のベース値がO/C比上限値以上である場合には、空気および燃料の総量を増量側に制御することにより、改質触媒温度が最適温度帯域に含まれ、かつ、O/C比が最適O/C比帯域に含まれるようにすることができる。
一方、ベース値がO/C比下限値より小さい場合には、空気および燃料の総量を減量側に制御することにより、改質触媒温度が最適温度帯域に含まれ、かつ、O/C比が最適O/C比帯域に含まれるようにすることができる。これにより、燃料のセタン価によらず還元性気体、特に水素の収率を高く維持し続けることができる。
【0068】
(4)本実施形態では、所定の上限値および下限値のもとで空気供給量および燃料供給量を増減することにより、第2触媒コンバータ47に供給される還元性気体に過不足が生じるのを防止することができる。
【0069】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…排気浄化システム
2…エンジン(内燃機関)
47…第2触媒コンバータ(触媒コンバータ)
7…ECU(燃料性状推定手段、改質器制御手段)
8…燃料改質器
82…改質触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気中のNOxを還元雰囲気下で浄化する触媒コンバータと、
前記排気通路とは別に設けられ、燃料および空気を改質触媒に供給することにより還元性気体を生成し、当該生成した還元性気体を前記排気通路のうち前記触媒コンバータよりも上流側に供給する燃料改質器と、を備える排気浄化システムであって、
前記改質触媒に供給する燃料の燃料性状を推定する燃料性状推定手段と、
前記改質触媒に対する空気供給量および燃料供給量を制御する改質器制御手段と、を備え、
空気供給量の燃料供給量に対する割合を供給比率と定義し、
前記改質器制御手段は、
前記改質触媒の温度が所定の温度帯域に含まれ、かつ、前記供給比率が所定の比率上限値と比率下限値との間に含まれるように、前記燃料性状推定手段による燃料性状の推定結果に基づいて、空気供給量と燃料供給量の総量を増減することを特徴とする排気浄化システム。
【請求項2】
前記燃料性状推定手段は、前記内燃機関の燃焼室内に噴射された燃料の燃焼状態に基づいて、燃料の燃料性状を推定することを特徴とする請求項1に記載の排気浄化システム。
【請求項3】
前記改質器制御手段は、
前記改質触媒の温度が前記温度帯域に含まれるように、前記燃料性状推定手段による燃料性状の推定結果に基づいて前記供給比率の目標値を算出し、
前記目標値が前記比率上限値以上である場合には、前記改質触媒の温度が前記温度帯域に含まれ、かつ、前記供給比率が前記比率上限値と比率下限値との間に含まれるように空気供給量および燃料供給量の総量を増量側に制御し、
前記目標値が前記比率上限値より小さい場合には、前記改質触媒の温度が前記温度帯域に含まれ、かつ、前記供給比率が前記比率上限値と比率下限値との間に含まれるように空気供給量および燃料供給量の総量を減量側に制御することを特徴とする請求項1または2に記載の排気浄化システム。
【請求項4】
前記改質器制御手段は、
所定の上限値を上回らないように空気供給量および燃料供給量を増量し、かつ、所定の下限値を下回らないように空気供給量および燃料供給量を減量することを特徴とする請求項3に記載の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−149388(P2011−149388A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12823(P2010−12823)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】