説明

搬送機構

【課題】アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することが可能な搬送機構を提供する。
【解決手段】処理容器56内で被処理体Wに熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアーム94、96、98を有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部36A、36Bと、アーム部の先端に連結されて被処理体を保持するフォーク部38A、38Bと、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に設けた熱遮蔽板104とを備える。これにより、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の半導体ウエハ等の被処理体を処理装置等へ搬送する搬送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイス等を製造するためには、板状の半導体ウエハやガラス基板等の被処理体に対して、成膜処理、エッチング処理、酸化拡散処理、改質処理等の各種の処理を繰り返し施す必要がある。例えば枚葉式の処理装置で複数種類の処理を施す場合には、内部に搬送機構を備えた共通搬送室の周囲に、複数の処理装置をゲートバルブを介して連結している(例えば特許文献1)。そして、上記共通搬送室内の搬送機構を用いて、半導体ウエハを上記各処理装置に向けて順に搬送して半導体ウエハに対して順次所望の処理を施すようになっている。
【0003】
ここで従来の搬送機構により処理装置に対して半導体ウエハを搬送する時の状況について説明する。図12は従来の搬送装置と処理装置との位置関係を示す概略構成図である。図12に示すように、処理装置2は、真空排気が可能になされた処理容器4を有しており、この処理容器4内には、その上に半導体ウエハWを載置するための載置台6が設けられている。この載置台6には、抵抗加熱ヒータ等よりなる加熱手段8が設けられており、載置される半導体ウエハWを加熱するようになっている。
【0004】
上記処理容器4の天井部には、上記載置台6に対向させてシャワーヘッド10が設けられており、処理容器4内へ必要なガスを導入できるようになっている。また処理容器4の側壁には、半導体ウエハWの搬出入口12が設けられており、この搬出入口12には、ゲートバルブGを介して図示しない真空の搬送室が設けられている。そして、この真空の搬送室内に半導体ウエハWを搬出入させる搬送機構14が設けられている。
【0005】
この搬送機構14は、屈伸及び旋回が可能になされたアーム部16と、このアーム部16の先端に連結されたフォーク部18とによりなっている。そして、このフォーク部18を含むアーム部16の一部を上記搬出入口12より処理容器4内へ侵入させることにより半導体ウエハWを搬出入させるようになっている。また、ここで半導体ウエハWを載置台6上へ載置させるには、図示しない昇降ピンを昇降させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−160613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のように半導体ウエハの搬出入に伴って搬送機構14のアーム部16を処理容器4内へ繰り返し侵入させると、加熱手段8の熱によって高温状態になされた載置台6からの輻射熱によってアーム部16の先端側がかなりの高温状態、例えばプロセス条件にもよるが300℃程度までの高温状態になることは避けられない。このため、アーム部16自体が熱膨張して反りが発生したり、アーム部16内に設けられている旋回のためのタイミングベルトのテンション等も変化してしまう。この結果、1回の動作に±0.05mm以内の高い搬送精度を有するアーム部16の搬送精度が低下してしまう、といった問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することが可能な搬送機構である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して前記被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部と、前記アーム部の先端に連結されて前記被処理体を保持するフォーク部と、前記アーム部の内で前記処理容器内に侵入する部分に設けた熱遮蔽板と、を備えたことを特徴とする搬送機構である。
【0010】
このように、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部の先端に被処理体を保持するフォーク部を連結し、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に熱遮蔽板を設けるようにしたので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することが可能となる。
【0011】
請求項5の発明は、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して前記被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部と、前記アーム部の先端に連結されて前記被処理体を保持するフォーク部と、前記アーム部の表面に形成された熱遮蔽層と、を備えたことを特徴とする搬送機構である。
【0012】
このように、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部の先端に被処理体を保持するフォーク部を連結し、アーム部の表面に熱遮蔽層を形成するようにしたので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することが可能となる。
【0013】
請求項16の発明は、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して前記被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部と、前記アーム部の先端に連結されて前記被処理体を保持するフォーク部と、前記アーム部の内で前記処理容器内に侵入する部分に設けた熱遮蔽板と、前記アーム部の表面に形成された熱遮蔽層と、を備えたことを特徴とする搬送機構である。
【0014】
このように、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部の先端に被処理体を保持するフォーク部を連結し、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に熱遮蔽板を設け、更にアーム部の表面に熱遮蔽層を形成したので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る搬送機構によれば、次のような優れた作用効果を発揮することができる。
請求項1及びこれを引用する請求項に係る発明によれば、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部の先端に被処理体を保持するフォーク部を連結し、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に熱遮蔽板を設けるようにしたので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することができる。
【0016】
請求項5及びこれを引用する請求項に係る発明によれば、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部の先端に被処理体を保持するフォーク部を連結し、アーム部の表面に熱遮蔽層を形成するようにしたので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することができる。
【0017】
請求項16及びこれを引用する請求項に係る発明によれば、処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部の先端に被処理体を保持するフォーク部を連結し、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に熱遮蔽板を設け、更にアーム部の表面に熱遮蔽層を形成したので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る搬送機構を有する一般的な処理システムの一例を示す概略平面図である。
【図2】図1に示す処理システムを示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る搬送機構の第1実施例を示す平面図である。
【図4】熱遮蔽板を設けた搬送機構のアーム部の一部を示す図である。
【図5】本発明の搬送機構の第2実施例のアーム部の一部を示す部分断面図である。
【図6】第3アームを示す断面図である。
【図7】フォーク部を示す平面図である。
【図8】評価に用いた搬送機構の第2アームの部分を示す概略斜視図である。
【図9】稼働時間と搬送機構のアーム部の上下方向への変位量(反り量)を示すグラフである。
【図10】搬送機構のアーム部の長さ方向への変化を示すグラフである。
【図11】アルミナ層の輻射率と熱放射の波長との関係を示すグラフである。
【図12】従来の搬送装置と処理装置との位置関係を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る搬送機構の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る搬送機構を有する一般的な処理システムの一例を示す概略平面図、図2は図1に示す処理システムを示す概略断面図、図3は本発明に係る搬送機構の第1実施例を示す平面図、図4は熱遮蔽板を設けた搬送機構のアーム部の一部を示す図である。
【0020】
まず、本発明に係る搬送機構を有する処理システムの一例について説明する。図1及び図2に示すように、この処理システム22は、真空引き可能になされた4つの処理装置24A、24B、24C、24Dを有している。これらの処理装置24A〜24Dとしては、成膜処理やエッチング処理等の真空雰囲気下で行われる全ての処理装置が適用される。これらの処理装置24A〜24Dは、真空引き可能になされた六角形状のトランスファチャンバ26の周囲にそれぞれゲートバルブGを介して接続されている。また、この処理システム22は、上記トランスファチャンバ26内に対して、この真空を破ることなく被処理体としての半導体ウエハWを搬送するためのロードロック装置30A、30Bを有しており、両ロードロック装置30A、30Bは上記トランスファチャンバ26にそれぞれゲートバルブGを介して接続されている。
【0021】
そして、上記各処理装置24A〜24D内には、半導体ウエハWを載置するための載置台32A〜32Dがそれぞれ設けられている。また、上記トランスファチャンバ26内には、半導体ウエハWを搬送するために屈伸及び旋回可能になされた本発明に係る搬送機構34が設けられ、各処理装置24A〜24D間及びこれらと各ロードロック装置30A、30Bとの間で半導体ウエハWを移載できるようになっている。具体的には、この搬送機構34は、上述のように屈伸及び旋回可能になされた2つのアーム部36A、36Bと、これらのアーム部36A、36Bの各先端に設けられたフォーク部38A、38Bとにより主に構成されており、これらのフォーク部38A、38B上に半導体ウエハWを直接的に載置保持して、上述のように搬送できるようになっている。この搬送機構34の詳細については後述する。
【0022】
また各ロードロック装置30A、30B内には、半導体ウエハWを一時的に保持するためにベース台40A、40Bがそれぞれ設けられている。また上記ロードロック装置30A、30Bの反対側には、それぞれゲートバルブGを介して横長のロードモジュール42が取り付けられ、このロードモジュール42の一側には、複数枚の半導体ウエハを収容できるカセット(図示せず)を載置するI/Oポート44が設けられている。そして、このロードモジュール42内には、屈伸及び旋回可能になされた大気側搬送機構46が設けられている。
【0023】
この大気側搬送機構46は、上述のように屈伸及び旋回可能になされた2つのアーム部48と、このアーム部48の先端に設けられた2つのフォーク部50とにより主に構成されており、これらのフォーク部50上に半導体ウエハWを直接的に載置保持して搬送できるようになっている。また、この大気側搬送機構46は案内レール52に沿ってその長手方向へ移動可能になされている。そして、このロードモジュール42の一端には、半導体ウエハWの位置合わせ及び方向付けを行うオリエンタ54が設けられており、処理装置24A〜24Dに半導体ウエハWを搬入する前に、ここで半導体ウエハWの位置合わせ及び方向付けを行うようになっている。
【0024】
<処理装置及び本発明の搬送機構の第1実施例を有するトランスファチャンバ>
ここで図2を参照して各処理装置及び本発明の搬送機構の第1実施例を有するトランスファチャンバについて説明する。尚、図2中において、4つの処理装置24A〜24Dを代表して処理装置24Aを示しており、この中に載置台32Aが設けられている。
【0025】
この処理装置24Aは、例えばアルミニウム合金等により箱状に成形された処理容器56を有している。この処理容器56内に設けられる上記載置台32Aは、容器底部より起立された支柱58の上端に取り付けられている。この載置台32A内には、例えば抵抗加熱ヒータよりなる加熱手段60が埋め込むようにして設けられており、載置台32A上に載置した半導体ウエハWを所定の温度に加熱し得るようになっている。この加熱手段60により、後述するように搬送機構34のアーム部36A、36Bも加熱されてしまうことになる。また、この載置台32A上には、半導体ウエハWの搬出入時にこの半導体ウエハWを押し上げ、引き下げるリフタ機構62が設けられる。
【0026】
このリフタ機構62は、3本(図示例では2本のみ記す)の昇降ピン64を有しており、各昇降ピン64の下端部は円弧状になされた昇降板66により共通に支持されている。そして、この昇降板66は、容器底部を貫通させて設けた昇降ロッド(図示せず)の上端で支持されると共に、この昇降ロッドは、アクチュエータ(図示せず)により昇降可能になされている。
【0027】
そして、上記載置台32Aには、上記昇降ピン64を挿通させるためのピン挿通孔68が設けられており、半導体ウエハWの搬出入時に上記昇降ピン64を昇降させて、このピン挿通孔68より上方へ出没させることができるようになっている。また処理容器56の天井部には、例えばシャワーヘッドよりなるガス供給手段70が設けられており、処理容器56内に必要なガスを供給するようになっている。このガス供給手段70は、シャワーヘッドに限定されているのは勿論である。
【0028】
また容器底部には排気口72が設けられており、この排気口72には、処理容器56内の雰囲気を排気するための排気手段74が設けられる。上記排気手段74は、容器内の圧力を調整する圧力調整弁や及び真空ポンプ(図示せず)を有している。この処理容器56の側壁には、半導体ウエハWの搬出入口76が設けられており、この搬出入口76は、ゲートバルブGを介して上記トランスファチャンバ26に連結されている。このように形成された処理装置24A内で、例えば成膜処理等の熱処理を行うようになっている。
【0029】
また、他の処理装置24B〜24Dとしては、必要に応じて半導体ウエハWに対して施すべき種々の処理に対応した処理装置が用いられ、またプラズマ処理装置も用いることができる。ここで上記熱処理とは、半導体ウエハWの処理の結果、半導体ウエハ自体及び載置台32Aが高温になってしまうような状態の処理を全て含み、プラズマの有無に直接的には関係しない。
【0030】
そして、上記トランスファチャンバ26は、アルミニウムやアルミニウム合金等により箱状に成形されたトランスファ用容器80を有している。このトランスファ用容器80の側壁には、上記各処理装置24A〜24B及び各ロードロック装置30A、30Bに対応させて半導体ウエハを搬出入させる搬出入口82が形成されており、ここにゲートバルブGを介して上記各装置が連結されている。
【0031】
このトランスファ用容器80には、ガス導入口84及びガス排出口86が設けられており、このガス導入口84を介して不活性ガスとして例えばN ガスを導入できるようになっていると共に、上記ガス排出口86より内部雰囲気を真空引きできるようになっている。このトランスファチャンバ26内は、稼働時には常時真空雰囲気になされている。
【0032】
そして、このトランスファチャンバ26内に、前述したように本発明に係る上記搬送機構34が設けられる。この搬送機構34の基本構造は、例えば特開2005−229087号公報等に開示されている。具体的には、図3及び図4にも示すように、この搬送機構34は、前述したように、ここでは2つのアーム部36A、36Bと、これらの先端に連結したフォーク部38A、38Bとを主に有している。ここで図3(A)は両アーム部36A、36Bが共に縮退している状態を示し、図3(B)は一方のアーム部が伸長している場合を示している。
【0033】
具体的には、上記各アーム部36A、36Bは、駆動軸88を介して回転可能に容器底部に設けられた回転基台90に旋回可能にそれぞれ取り付けられている。この駆動軸88は、例えば二軸構造になされており、モータよりなる駆動源92により別個独立に回転駆動される。この二軸構造の駆動軸88の一方の軸は上記回転基台90に連結されて、これを回転駆動するようになっている。上記各アーム部36A、36Bは、その基端部側より第1アーム94、第2アーム96及び第3アーム98を、この順序で相互に屈曲可能に直列に連結してそれぞれ形成されており、水平方向へ向けて伸縮できるようになっている。
【0034】
そして、上記第1アーム94の基端部が上記回転基台90に回転自在に支持されている。この回転基台90には、上記二軸構造の他方の駆動軸に連結された駆動アーム97が取り付けられている。この駆動アーム97の先端部と上記各アーム部36A、36Bの第1アーム94の長さ方向の中央部との間に従動アーム100(図3参照)が掛け渡されており、この従動アーム100の両端は回転可能に軸支されている。従って、後述するように、上記回転基台90を旋回させることによってフォーク部38A、38Bの方向付けを行い、上記駆動アーム97を左右に旋回させることによって、上記2つのアーム部36A、36Bを交互に選択的に伸縮できるようになっている。図2においては、主に一方のアーム部36Aを示しているが、他方のアーム部36Bも同様に形成されている。
【0035】
ここで、上記第1アーム94及び第2アーム96は、アルミニウムやアルミニウム合金等により細長い箱状に成形されたアームケース99を有しており、このアームケース99の内部の両端側にプーリ101A、101B及び101C、101Dがそれぞれ設けられる。そして、旋回中心側のプーリ101A、101Cは、それぞれ第1アーム94及び第2アーム96のアームケース99に固定され、反対側のプーリ101B、101Dは、回転軸105B、105Cを介してそれぞれアームケース99に回転可能に設けられる。また回転基台90の上部には、駆動源92からの駆動力により回転される回転軸105Aが設けられ、この回転軸105Aが第1アーム94の基端部側に固定されている。
【0036】
そして、このプーリ101A、101B間及び101C、101D間にはタイミングベルト103A、103Bがそれぞれ掛け渡されており、駆動力を各アーム部36A、36Bの先端側まで伝達するようになっている。
【0037】
また第3アーム98は、アルミニウムやアルミニウム合金等により短い板状に形成されており、この先端に連結部材102を介して上記フォーク部38A、或いはフォーク部38Bが連結されている。上記フォーク部38A、38Bは、2股状に成形されており、この材料は、例えばアルミナや窒化アルミやシリコンカーバイトのようなセラミック材よりなる。また上記連結部材102は、熱伝導率が低い低熱伝導部材、例えばアルミナに添加剤を加えるなどして加工性を向上させるようにしたマシナブルセラミック材を用いることができる。
【0038】
ここで上記各部材の寸法は、処理すべき半導体ウエハWの直径が例えば300mmの場合には、第1アーム94は長さが370mm程度、厚さが10〜20mm程度、幅が90〜100mm程度であり、第2アーム96は長さが370mm程度、厚さが10〜20mm程度、幅が80〜90mm程度であり、第3アーム98は長さが150mm程度、厚さが5〜10mm程度、幅が80〜90mm程度である。
【0039】
そして、このように形成された各アーム部36A、36Bの内で、上記処理容器56内に侵入する部分に、本発明の特徴とする熱遮蔽板104が設けられており、載置台32A側から伝わる主として輻射熱を遮断するようになっている。具体的には、図2乃至図4に示すように、ここでは第2アーム96の先端、すなわち第3アーム98側の先端に設けている。この時の状態は図4に示されており、図4(A)は上面図を示し、図4(B)は側断面図を示し、図4(C)は下面図を示している。図4では、上記熱遮蔽板104として第2アーム96の先端部の側面全体を囲んで覆うように側面用熱遮蔽板104Aを設けると共に、この第2アーム96の先端部の下面全体を覆うように下面用熱遮蔽板104Bを設けている。
【0040】
上記側面熱遮蔽板104Aは、図示するようにU字状に成形されており、第2アーム96の側面より僅かに、例えば1〜5mm程度だけ浮かせて、その両端にスペーサ部材106を介在させてピン108により第2アーム96に取り付け固定している。また、下面用熱遮蔽板104Bは板状に成形されており、第2アーム96の下面より僅かに例えば1〜5mm程度だけ浮かせて、スペーサ部材110を介在させてピン112により第2アーム96に取り付け固定している。ここでは上記熱遮蔽板104は、アーム部36Aを伸長した時にゲートバルブを境にして、このゲートバルブGよりも処理容器56内へ侵入した部分に設けられていることになる。上記熱遮蔽板104としては、熱容量が小さい材料、例えばアルミニウムやアルミニウム合金やステンレススチール等の金属板、或いは酸化アルミニウムやアルミナ等のセラミック材を用いることができる。
【0041】
また、この熱遮蔽板104の表面は、輻射熱を反射し易くするために研磨加工によりミラー面にしておくのがよい。この熱遮蔽板104の厚さは0.5〜2mm程度であり、また第2アーム96の先端を覆う長さL1は、第1アーム96の処理容器56内への侵入長さにもよるが、例えば120mm程度である。また上記スペーサ部材106、110は、熱伝導性の低い材料、例えばアルミナや窒化アルミニウム等のセラミック材を用いることができる。ここでは上記熱遮蔽板104として、側面用熱遮蔽板104Aと下面用熱遮蔽板104Bの双方を設けたが、これに限定されず、これらのいずれか一方のみを設けるようにしてもよい。また、ここでは主として一方のアーム部36Aを例にとって説明したが、前述したように他方のアーム部36Bにも熱遮蔽板104(104A、104B)が同様に設けられているのは勿論である。
【0042】
次に、以上のように、搬送機構34の動作について説明する。まず、最初に処理システム22における半導体ウエハの概略的な流れについて説明する。I/Oポート44に設置されたカセット容器(図示せず)からは、未処理の半導体ウエハWが大気側搬送機構46によりロードモジュール42内に取り込まれ、この取り込まれた半導体ウエハWはロードモジュール42の一端に設けたオリエンタ54へ搬送されて、ここで位置決め及び方向付けがなされる。上記半導体ウエハWは例えば板状のシリコン基板よりなる。
【0043】
位置決め等がなされた半導体ウエハWは、上記大気側搬送機構46により再度搬送され、2つのロードロック装置30A、30Bの内のいずれか一方のロードロック装置内へ搬入される。このロードロック装置内が真空引きされた後に、予め真空引きされたトランスファチャンバ26内の搬送機構34を用いて、上記ロードロック装置内の半導体ウエハWがトランスファチャンバ26内に取り込まれる。
【0044】
そして、このトランスファチャンバ26内へ取り込まれた未処理の半導体ウエハは、本発明の搬送機構34によって各処理装置24A〜24Dへ必要に応じて順次搬送され、各処理装置24A〜24D内においてそれぞれ所定の処理が施されることになる。例えば半導体ウエハWに対して、成膜処理やエッチング処理や酸化拡散処理等の熱処理が施されることになる。ここで施された処理の態様によっては半導体ウエハWは例えば300〜700℃程度の高温状態になっている。
【0045】
このようにして施すべき各種の処理が全て施されて処理済みとなった半導体ウエハWは、搬送機構34により2つのロードロック装置30A、30Bの内のいずれか一方のロードロック装置内へ搬入される。そして、このロードロック装置内を大気圧復帰し、大気圧復帰後に、このロードロック装置内の半導体ウエハWは大気側搬送機構46を用いてロードモジュール42内へ取り込まれ、更に、I/Oポート44の処理済み半導体ウエハ用のカセット容器(図示せず)内へ収容されることになる。そして、以上の動作が繰り返し行われて、半導体ウエハWは連続的に処理される。
【0046】
ここで上記トランスファチャンバ26内における搬送機構34の動作について詳しく説明する。前述したように、搬送機構34の回転基台90を回転させることによってフォーク部38A、38Bの方向付けを行い、駆動アーム97を左右に回転させることによって2つのアーム部36A、36Bを交互に選択的に伸長させることができ、一方のアーム部が伸長している時は、他方のアーム部は縮退状態を維持することになる。図2は処理装置24Aを一例にとして取り上げて示しており、一方のアーム部36Aが伸長して、開放されたゲートバルブGを介してアーム部36Aの先端及びフォーク部38Aが処理容器56内へ侵入している。
【0047】
そして、載置台32Aの昇降ピンを昇降させることにより、このフォーク部38Aと載置台32Aとの間で半導体ウエハWの移載が行われる。この一回の移載でフォーク部38Aが処理容器56内に留まる時間は、搬送スピードにもよるが例えば1〜2sec程度である。
【0048】
ここで、載置台32Aは、熱処理のプロセス条件にもよるが、例えば300〜700℃程度の高温状態となっている。従って、搬送機構34を用いて半導体ウエハWを搬出入する毎にフォーク部38Aやアーム部36Aは、載置台32A側からの輻射熱を受けて次第に昇温して行くことは避けられない。特に、図2に示すように、第2アーム96の先端側は、載置台32Aに最も近付くので、矢印120(図2参照)に示すように大きな輻射熱を受けることになる。この場合、図12に示す従来の搬送機構にあっては、アーム部には、輻射熱を遮断する保護部材を何ら設けていなかったので、アーム部が高温状態になって搬送精度の低下等の不都合が生じていた。
【0049】
しかしながら、本発明にあっては、上述したように、アーム部36Aの内で処理容器56内に侵入する部分である第2アーム96の先端側に熱遮蔽板104、すなわち側面用熱遮蔽板104Aと下面用遮蔽板104Bとを設けているので、載置台32Aから放射される上記矢印120に示すような輻射熱を遮断することができる。この結果、第2アーム96の過度の昇温を防止することができ、このアーム部36Aの全体が熱膨張によって反りが生ずることを抑制することができるのみならず、内部に設けたタイミングベルトのテンション等にも悪影響を与えることを抑制することができる。従って、半導体ウエハWの搬送精度も高く維持することが可能となる。
【0050】
具体的には、一回の搬送操作で±0.05mm以内の搬送精度を達成することが可能となる。この場合、上記熱遮蔽板104の表面は、研磨処理によってミラー面になされているので、輻射熱の遮断効果を一層向上させることができる。特に、処理容器56やトランスファ用容器80の搬出入口76、82の幅は36mm程度なので、上述のようにアーム部36Aの反りを抑制できる効果は、特に有効である。
【0051】
更に、半導体ウエハWの搬送処理によってフォーク部38自体も、載置台32Aからの輻射熱や高温状態の半導体ウエハWからの熱伝導によって高温状態になるが、本実施例では第3アーム98とフォーク部38Aとをつなぐ連結部材102としてマシナブルセラミック材等の熱伝導率の低い材料を用いているので、第3アーム98及び第2アーム96側への熱伝導が抑制されて、その分、第2アーム96の温度上昇を更に抑制することができる。
【0052】
ここでは一方のアーム部36Aについて説明したが、他方のアーム部36Bにおいても同様な作用効果を発揮できるのは勿論である。また、他の処理装置24B〜24Dにおいても、半導体ウエハWや載置台の温度が高温状態になるような熱処理を行う場合には、上述したと同様な作用効果を発揮できるのは勿論である。
【0053】
このように、本発明の第1実施例によれば、処理容器56内で被処理体、例えば半導体ウエハに熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアーム94、96、98を有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部36A、36Bの先端に被処理体を保持するフォーク部38A、38Bを連結し、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に熱遮蔽板104を設けるようにしたので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することができる。
【0054】
尚、上記実施例では、第2アーム96の先端側に熱遮蔽板104を設けたが、これに限定されず、この熱遮蔽板104を第2アーム96の下面の全面、或いは側面の全面に、又は上記両全面に設けるようにしてもよい。
【0055】
<第2実施例>
次に本発明の搬送機構の第2実施例について説明する。先の第1実施例の場合には、搬送機構のアーム部に熱遮蔽板104を設けたが、これに替えて、搬送機構の表面に断熱性の高い熱遮蔽層を形成するようにしている。図5は、このような本発明の搬送機構の第2実施例のアーム部の一部を示す部分断面図、図6は第3アームを示す断面図、図7はフォーク部を示す平面図である。尚、図1乃至図5に示す構成部分と同一構成部分については同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図5に示すように、ここでは搬送機構のアーム部36Aの表面に熱伝導性の低い熱遮蔽層121を形成している。この熱遮蔽層121としては、ここでは例えばセラミック溶射層122を用いている。具体的には、アーム部36Aの第2アーム96のアームケース99の側面の全体に側面用セラミック溶射層122Aを設けると共に、アームケース99の下面の全体に下面用セラミック溶射層122Bを形成しており、第2アーム96の内部の昇温を抑制するようにしている。このセラミック溶射層122の材料としては、アルミナ、窒化アルミニウム、シリコンカーバイト等のセラミック材を用いることができる。また、このセラミック溶射層122の厚さは、例えば0.35〜0.45mm程度の厚さである。
【0057】
また、このセラミック溶射層122は、非常に薄いセラミック溶射層を複数層積層することにより多層構造としてもよい。この際、各層毎にセラミック材の材質を変えるようにしてもよい。この場合には、更に熱伝導性を低くすることが可能となる。更に、上記アーム部36Aのみならず、他方のアーム部36Bにおいても上述したと同様に構成されているのは勿論である。ここで上記熱遮蔽層121としては、波長が7〜10μmの範囲内の熱線に対する輻射率が、波長が1〜4μmの範囲内の熱線に対する輻射率よりも大きくなっているような特性を有しているものを用いる。具体的には、上記波長が7〜10μmの範囲内の熱線に対する輻射率は66%よりも大きく、上記波長が1〜4μmの範囲内の熱線に対する輻射率は66%以下であるような特性の熱遮蔽層121を用いる。そして、上記セラミック溶射層122は上記特性を満たした特性を有している。これにより、第2アーム96が高温状態の載置台32Aに接近した時には輻射率が小さい(反射率が高い)ので加熱され難くなり、これに対して第2アーム96が低温状態のトランスファチャンバ26内に入ると輻射率が大きい(反射率が低い)ので、放熱され易くなって迅速に冷却されるようになっている。
【0058】
この第2実施例の場合においても、先の第1実施例と同様に、図2に示すように載置台32Aに接近した第2アーム96が矢印120に示すように大きな輻射熱を受けても、ここに設けた上記セラミック溶射層122(122A、122B)の熱伝導性が低く、且つ上述したように波長が1〜4μmの範囲内の熱線(熱源温度は450〜2500℃程度)に対しては輻射率は小さいので熱線を反射して加熱され難くなっており、熱が第2アーム96の内部に伝わることを抑制することができる。また、波長が7〜10μmの範囲内の熱線(熱源温度は15〜140℃程度)に対しては輻射率は大きいので熱線を放出し易く冷却し易い状態となっている。この結果、先の第1実施例と同様に第2アーム96の過度の昇温を防止することができ、このアーム部36Aの全体が熱膨張によって反りが生ずることを抑制することができるのみならず、内部に設けたタイミングベルトのテンション等にも悪影響を与えることを抑制することができる。従って、半導体ウエハWの搬送精度も高く維持することが可能となる。具体的には、一回の搬送操作で±0.05mm以内の搬送精度を達成することが可能となる。
【0059】
このように、本発明の第2実施例によれば、処理容器56内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアーム94、96、98を有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部36A、36Bの先端に被処理体を保持するフォーク部38A、38Bを連結し、アーム部の表面に熱遮蔽層121、例えばセラミック溶射層122を形成するようにしたので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することができる。
【0060】
尚、上記第2実施例では、第2アーム96の側面全体と下面全体にセラミック溶射層122を形成した場合を例にとって説明したが、先の第1実施例の熱遮蔽板104と同様に第2アーム96の先端部側にだけ設けるようにしてもよいし、或いは上記側面全体と下面全体とに加えて第2アーム96の上面全体にも熱遮蔽層121としてセラミック溶射層122を設けるようにしてもよい。更に、上記構成に加えて、図6に示すように第3アーム98の全面、すなわち、下面、側面及び上面に熱遮蔽層121としてセラミック溶射層124を形成してもよい。この場合、上記下面、側面及び上面のいずれか1以上の表面に形成するようにしてもよく、少なくとも下面に形成するようにすれば、断熱性から特に有効である。
【0061】
更には、上記各構成に加えて、図7に示すようにフォーク部38A(38B)の全面、すなわち下面、側面及び上面に熱遮蔽層121としてセラミック溶射層126を設けるようにしてもよい。この場合にも、下面、側面及び上面のいずれか1以上の表面に形成するようにしてもよく、少なくとも下面に形成するようにすれば、断熱性から特に有効である。尚、ここでは図示されていないが、上記各構成に加えて第1アーム94の表面に熱遮蔽層121としてセラミック溶射層を形成するようにしてもよい。また、上記実施例では熱遮蔽層121としてセラミック溶射層122を設ける場合を例にとって説明したが、これに限定されず、例えば塗料を塗布して形成した塗料層を設けてもよく、いずれにしても上述したような波長に対する輻射率を有する物質ならば、どのようなものを用いてもよい。この点は、以下に説明する実施例においても同様である。
【0062】
<第3実施例>
次に本発明の搬送機構の第3実施例について説明する。先の第1及び第2実施例では熱遮蔽板104と熱遮蔽層121であるセラミック溶射層122とをそれぞれ別個に設けるようにしているが、これに限定されず、第3実施例として上記熱遮蔽板104と熱遮蔽層121であるセラミック溶射層122との双方を設けるようにしてもよい。この場合の第1実施例の熱遮蔽板104と第2実施例の熱遮蔽層121であるセラミック溶射層122の組み合わせは、第1実施例で説明した各種の実施形態と第2実施例で説明した各種の実施形態とをそれぞれ任意に選択して適用すればよい。
【0063】
これによれば、処理容器56内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して被処理体を搬出入させる搬送機構において、複数のアーム94、96、98を有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部36A、36Bの先端に被処理体を保持するフォーク部38A、38Bを連結し、アーム部の内で処理容器内に侵入する部分に熱遮蔽板104を設け、更にアーム部の表面に熱遮蔽層121としてセラミック溶射層122を形成したので、アーム部自体の温度上昇を抑制して搬送精度を高く維持することができる。
【0064】
特に、上記熱遮蔽板104と熱遮蔽層121であるセラミック溶射層122とを組み合わせることにより、後述するように、アーム部自体の温度上昇をより大きく抑制することができ、アーム部の変位量(反り量)及び長さ方向の熱膨張量を大幅に抑制することが可能となる。
【0065】
<熱遮蔽板とセラミック溶射層の評価>
次に、上記熱遮蔽板104を設けた本発明の第1実施例と、上記熱遮蔽板104と熱遮蔽層121として用いたセラミック溶射層122の双方を設けた本発明の第3実施例の各搬送機構34を実際に動作させる実験を行ったので、その評価結果について説明する。ここで第1実施例としては、搬送機構に熱遮蔽板104として側面用熱遮蔽板104Aのみを設けており、下面用熱遮蔽板104Bを設けていない搬送機構を用いた。また第2実施例としては、搬送機構に熱遮蔽層121の一例であるセラミック溶射層122として図5に示すように側面用セラミック溶射層122Aと下面用セラミック溶射層122Bとを形成した搬送機構を用いた。
【0066】
図8は評価に用いた搬送機構の第2アームの部分を示す概略斜視図である。更に第3実施例として図8に示すように、ここでは熱遮蔽板104として側面用熱遮蔽板104Aのみを設けており、下面用熱遮蔽板104Bを設けていない搬送機構を用いた。更にこの第3実施例の搬送機構には熱遮蔽層121の一例であるセラミック溶射層122として図5に示したと同様に側面用セラミック溶射層122Aと下面用セラミック溶射層122Bの両方を設けている。
【0067】
また処理装置24Aの載置台32Aの温度は700℃に設定し、半導体ウエハを繰り返し搬出入させた。図9はこの時の稼働時間と搬送機構のアーム部の上下方向への変位量(反り量)を示すグラフである。比較のために熱遮蔽板とセラミック溶射層とを設けていない従来の搬送機構のデータも示す。
【0068】
図9に示すデータから明らかなように、搬送動作を開始すると、全ての搬送機構のアーム部の温度が次第に上昇して行くので上下方向の変位量(反り量)が徐々に増加している。この場合、従来の搬送機構は、変位量の増加量が非常に大きくて急激に増加している。そして、300min程度稼働した時に変位量は1mm程度に達して飽和している。これに対して、本発明の第1実施例及び第3実施例の場合は共に変位量の増加量はかなり少ない。そして、第1実施例の場合は300min程度稼働した時に変位量は0.7mm程度に達して飽和している。また第3実施例の場合は240min程度稼働した時に変位量は0.45mm程度に達して飽和している。
【0069】
このように、変位量は、本発明の第1実施例の場合には、従来の搬送機構よりも0.3mm程度少なく、また第3実施例の場合には、第1実施例よりも更に0.25mm程度少ないことが判った。そして、アーム部の上下方向の変位量の上限値は±1.0mmなので、第1実施例及び第3実施例の場合には変位量を十分に抑制できることが判った。尚、上記第1実施例と第3実施例との間における変位量の差分がアーム部にセラミック溶射層を設けた本発明の第2実施例の効果であると認識できる。
【0070】
また熱遮蔽板104、或いはセラミック溶射層122を単独で用いた場合でも、先の第1及び第2実施例で説明したようにアーム部の上下方向変位量をある程度抑制することができたが、この第3実施例のように熱遮蔽板104とセラミック溶射層122の双方を適用することにより、より大きな作用効果を発揮できることが判った。
【0071】
このように大きな作用効果を発揮できる理由は、載置台側から伝わってくる輻射熱をまず熱遮蔽板104で反射、或いは遮断して第2アーム94側へ入る入熱量を抑制すると共に、第2アーム94の表面に熱が入ってきても、その表面に形成されている熱伝導性の低いセラミック溶射層122の作用によって第2アーム94の内部に侵入する熱が抑制されることになり、この結果、上述したような大きな作用効果を発揮するものと推察される。
【0072】
また、この実験の時に、従来の搬送機構と本発明の第3実施例の搬送機構の長さ方向への熱膨張量を調べた。図10は搬送機構のアーム部の長さ方向への変化を示すグラフである。図10に示すように、アーム部の長さ方向の熱膨張量は、従来の搬送機構のアーム部の場合は、稼働時間が増加するに従って、熱膨張量は次第に増加して4時間程度の稼働時間で約1.4mm程度まで変化しているのが判る。これに対して、本願の発明の場合には、稼働時間が増加しても熱膨張量はそれ程変化せずに約0.4mmになっている。従って、従来の搬送機構よりも、本発明の搬送機構の第3実施例の方が約1mmも熱膨張量が少なくなっており、本発明の第3実施例は特に優れていることが判る。
【0073】
また、この際、サーモラベルを用いて各部の温度を調べた。この温度を調べた箇所は、図3(B)中のポイントP1、P2、P3の3点であり、ポイントP1は第3アーム98の基端部、ポイントP2は第2アーム96の先端部のアームカバー内、ポイントP3は第2アーム96の基端部のアームカバー内である。従来の搬送機構の場合は、上記各ポイントP1〜P3の温度は、それぞれ272℃、193℃及び189℃であったが、本発明の第3実施例の場合には、それぞれ204℃、148℃及び137℃であった。このように、本発明の第3実施例の場合には各ポイントP1〜P3において温度を大幅に低下させることができることが判った。
【0074】
<セラミック溶射層の作用解析>
次に、上記セラミック溶射層が前述したような熱遮蔽効果を有する原因について検討して解析を行ったので、その検討結果について説明する。
【0075】
本発明者等は、セラミック溶射層の輻射率が熱遮蔽効果に大きな影響を与えるとの推測に基づいて、セラミック溶射層の輻射率と熱放射との関係について調べた。ここでは、セラミック溶射層としてアルミナ(Al )層を用いた。図11はアルミナ層の輻射率と熱放射の波長との関係を示すグラフである。横軸には熱放射の波長に対応させて熱源温度が併記されている。周知のように、黒体は輻射率が”1”であり、図11に示すグラフのようにアルミナ層は受ける熱放射の波長によってその輻射率はかなり大きく変動している。波長が、2.5〜3.5μm付近において特性の凹凸が多少生じてはいるが、傾向としては波長が1μmから10μmに向けて大きくなる程、輻射率も大きくなっている。
【0076】
ここで上記搬送機構のアーム部は、半導体ウエハの搬送のために高温状態の処理容器56内と室温状態のトランスファチャンバ26内とを繰り返し往復移動することになる。上記処理容器56内では高温に加熱された載置台32Aに接近し、トランスファチャンバ26内では室温状態のトランスファ用容器80等により囲まれることになる。
【0077】
そして、処理容器56内では”熱源”となる載置台32Aからは、その温度に対応した熱放射がなされ、この熱放射の波長はプロセス温度にもよるが1〜4μm程度の範囲である。これは、プロセス温度である熱源温度の450〜2500℃の範囲に相当する。ここで処理容器56内での実際の使用温度は、一般的には例えば500〜1000℃程度の範囲内である。
他方、トランスファチャンバ26内では”熱源”となるトランスファ用容器80からは、その温度に対応した熱放射がなされ、この熱放射の波長は7〜10μm程度の範囲である。これは熱源温度の15〜140℃の範囲に相当する。ここでトランスファチャンバ26内での実際の使用温度は、一般的には例えば50〜100℃程度の範囲内である。
【0078】
このような状態において、図11に示すような特性を有するセラミック溶射層を有するアームがトランスファチャンバ26内と処理容器56内を往復移動すると、処理容器56内では熱源温度が高いことから熱放射の波長は上述のように例えば1〜4μmの範囲内であるので、この波長に対してはセラミック溶射層の輻射率は比較的低くなっており、例えば66%以下になっている。この結果、セラミック溶射層の反射率は高いことになるので、セラミック溶射層は上記熱放射を反射してこれを遮断する傾向が大きくなり、アーム自体が加熱されるのを抑制することができる。
【0079】
これに対して、トランスファチャンバ26内では熱源温度が低い(室温程度)ことから、熱放射の波長は上述のように例えば7〜10μmの範囲内であるので、この波長に対してはセラミック溶射層の輻射率は、上記の場合と比較して高くなっており、例えば66%よりも大きくなっている。この結果、セラミック溶射層の反射率は低いことになるので、セラミック溶射層は上記熱放射を反射し難くなって熱を放射し易くなる。この結果、セラミック溶射層からの放熱が促進されてアーム自体の冷却が効率的に行われることになる。このような現象により、前述したようなアーム自体の温度上昇を抑制することができる原理を理解することができる。
【0080】
更には、熱遮蔽層としてはセラミック溶射層に限らず、図11に示したような特性、すなわち室温程度の熱源からの熱放射の波長(7〜10μm程度)に対しては輻射率が高く、且つプロセス温度程度の熱源からの熱放射の波長(1〜4μm程度)に対しては輻射熱が低くなるような特性を有する材料を熱遮蔽層121として用いることにより、前述したような本発明の作用効果を発揮できることを理解することができる。
【0081】
尚、以上説明した各実施例では、熱遮蔽板104と熱遮蔽層121とをそれぞれ別個に設けた場合を例にとって説明したが、これに限定されず、熱遮蔽板104の表面は熱遮蔽層121を形成して熱遮蔽効果をより増加させるようにしてもよい。
【0082】
また、上記各実施例では、アーム部として第1アーム、第2アームに加えて第3アームを設けた場合を例にとって説明したが、これに限定されず、第3アームを省略して第2アームの先端にフォーク部を直接連結した搬送機構にも本発明を適用することができる。また、上記各実施例では、真空雰囲気で熱処理する処理装置に対して本発明の搬送機構を用いる場合を例にとって説明したが、これに限定されず、本発明の搬送機構は大気圧、或いはこれに近い雰囲気中で熱処理する処理装置にも適用できる。
【0083】
また、上記各実施例では、2つのアーム部の外に駆動アームと従来アームを用いた形式の搬送機構を例にとって説明したが、これに限定されず、本発明は、いわゆるフロッグレグ形式の搬送機構やスカラー形式の搬送機構など、全ての形式の搬送機構に適用することができる。更に、上記各実施例では被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、これに限定されず、ガラス基板、LCD基板、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
22 処理システム
24A〜24D 処理装置
26 トランスファチャンバ
32A〜32D 載置台
34 搬送機構
36A,36B アーム部
38A,38B フォーク部
56 処理容器
60 加熱手段
74 排気手段
80 トランスファ用容器
90 回転基台
92 駆動源
94 第1アーム
96 第2アーム
97 駆動アーム
98 第3アーム
99 アームケース
110 従動アーム
102 連結部材
104 熱遮蔽板
104A 側面用熱遮蔽板
104B 下面用熱遮蔽板
121 熱遮蔽層
122,124,126 セラミック溶射層
122A 側面用セラミック溶射層
122B 下面用セラミック溶射層
W 半導体ウエハ(被処理体)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して前記被処理体を搬出入させる搬送機構において、
複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部と、
前記アーム部の先端に連結されて前記被処理体を保持するフォーク部と、
前記アーム部の内で前記処理容器内に侵入する部分に設けた熱遮蔽板と、
を備えたことを特徴とする搬送機構。
【請求項2】
前記複数のアームは、第1アーム、第2アーム及び第3アームよりなり、この順序で相互に屈曲可能に直列に連結されていることを特徴とする請求項1記載の搬送機構。
【請求項3】
前記熱遮蔽板は、前記第2アームの前記第3アーム側の先端に設けられることを特徴とする請求項2記載の搬送機構。
【請求項4】
前記熱遮蔽板は、前記第2アームの下面側及び/又は側面側に設けられることを特徴とする請求項3記載の搬送機構。
【請求項5】
処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して前記被処理体を搬出入させる搬送機構において、
複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部と、
前記アーム部の先端に連結されて前記被処理体を保持するフォーク部と、
前記アーム部の表面に形成された熱遮蔽層と、
を備えたことを特徴とする搬送機構。
【請求項6】
前記複数のアームは、第1アーム、第2アーム及び第3アームよりなり、この順序で相互に屈曲可能に直列に連結されていることを特徴とする請求項5記載の搬送機構。
【請求項7】
前記セラミック溶射層は、前記第2アームに設けられていることを特徴とする請求項6記載の搬送機構。
【請求項8】
前記セラミック溶射層は、前記第2アームと前記第3アームとに設けられていることを特徴とする請求項6記載の搬送機構。
【請求項9】
前記セラミック溶射層は、前記第2アームの下面と側面とに設けられていることを特徴とする請求項7又は8記載の搬送機構。
【請求項10】
前記セラミック溶射層は、前記第3アームの全面に設けられていることを特徴とする請求項8又は9記載の搬送機構。
【請求項11】
前記フォーク部の表面には、更に熱遮蔽層が設けられていることを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項12】
前記熱遮蔽層は、波長が7〜10μmの範囲内の熱線に対する輻射率 が、波長が1〜4μmの範囲内の熱線に対する輻射率よりも大きくなっているような特性を有していることを特徴とする請求項5乃至11のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項13】
前記波長が7〜10μmの範囲内の熱線に対する輻射率は66%よりも大きく、前記波長が1〜4μmの範囲内の熱線に対する輻射率は66%以下であることを特徴とする請求項12記載の搬送機構。
【請求項14】
前記熱遮蔽層は、セラミック溶射層よりなることを特徴とする請求項5乃至13のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項15】
前記熱遮蔽層は、塗料を塗布して形成した塗料層よりなることを特徴とする請求項5乃至13のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項16】
処理容器内で被処理体に熱処理を施す処理装置に対して前記被処理体を搬出入させる搬送機構において、
複数のアームを有して屈伸及び旋回が可能になされたアーム部と、
前記アーム部の先端に連結されて前記被処理体を保持するフォーク部と、
前記アーム部の内で前記処理容器内に侵入する部分に設けた熱遮蔽板と、
前記アーム部の表面に形成された熱遮蔽層と、
を備えたことを特徴とする搬送機構。
【請求項17】
前記複数のアームは、第1アーム、第2アーム及び第3アームよりなり、この順序で相互に屈曲可能に直列に連結されていることを特徴とする請求項16記載の搬送機構。
【請求項18】
前記熱遮蔽板は、前記第2アームの前記第3アーム側の先端に設けられることを特徴とする請求項17記載の搬送機構。
【請求項19】
前記熱遮蔽板は、前記第2アームの下面側及び/又は側面側に設けられることを特徴とする請求項18記載の搬送機構。
【請求項20】
前記熱遮蔽層は、前記第2アームに設けられていることを特徴とする請求項16乃至19のいすれか一項に記載の搬送機構。
【請求項21】
前記熱遮蔽層は、前記第2アームと前記第3アームとに設けられていることを特徴とする請求項16乃至19のいすれか一項に記載の搬送機構。
【請求項22】
前記熱遮蔽層は、前記第2アームの下面と側面とに設けられていることを特徴とする請求項20又は21記載の搬送機構。
【請求項23】
前記熱遮蔽層は、前記第3アームの全面に設けられていることを特徴とする請求項21又は22記載の搬送機構。
【請求項24】
前記フォーク部の表面には、更に熱遮蔽層が設けられていることを特徴とする請求項16乃至23のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項25】
前記熱遮蔽層は、波長が7〜10μmの範囲内の熱線に対する輻射率 が、波長が1〜4μmの範囲内の熱線に対する輻射率よりも大きくなっているような特性を有していることを特徴とする請求項16乃至24のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項26】
前記波長が7〜10μmの範囲内の熱線に対する輻射率は66%よりも大きく、前記波長が1〜4μmの範囲内の熱線に対する輻射率は66%以下であることを特徴とする請求項25記載の搬送機構。
【請求項27】
前記熱遮蔽層は、セラミック溶射層よりなることを特徴とする請求項16乃至26のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項28】
前記熱遮蔽層は、塗料を塗布して形成した塗料層よりなることを特徴とする請求項16乃至26のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項29】
前記熱遮蔽板は、ステンレススチール、アルミニウム、アルミニウム合金及びセラミック材よりなる群から選択される1つの材料よりなることを特徴とする請求項1乃至26のいずれか一項に記載の搬送機構。
【請求項30】
前記アーム部と前記フォーク部とは熱伝導率が低い低熱伝導部材により連結されていることを特徴とする請求項1乃至27のいずれか一項に記載の搬送機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−187910(P2011−187910A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162561(P2010−162561)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】