説明

摺動装置

【課題】安価な費用で製作することができ、摺動面に対して潤滑油が保持される保油性を向上させることができる摺動装置を提供する。
【解決手段】カムロブ1が回転してバルブリフタ4の頂部4aに当接すると、バルブリフタが上下方向に往復運動する。潤滑油は、リフタ頂部に供給され、さらにリフタ頂部から互いに摺動しているバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びバルブリフタのリフタ外周面4bの間の上部に流れていく。リフタ外周面の全域には、ブラスト加工により多数の凹部11が形成されている。バルブリフタ用ガイド穴の内周面及びリフタ外周面の間に流れ込んだ潤滑油は、リフタ外周面の全域に形成した多数の凹部に入り込んで保持され、即座にリフタ外周面の下方に流れ落ちて行かない。このため、バルブリフタ用ガイド穴の内周面及びリフタ外周面の間の摩擦が低減され、バルブリフタの上下方向の往復運動が円滑に行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の一対の摺動部材同士が摺動する摺動装置に関し、具体的には、内燃機関の動弁機構を構成するバルブリフタ用ガイド穴と、この穴の内周面に摺動して軸方向に往復運動を行なうバルブリフタとからなる摺動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の動弁機構に関するものとして、特許文献1、特許文献2に記載の技術が知られている。
特許文献1の技術は、カムシャフトに固定したカムロブとバルブステムとの間に配設したバルブリフタを、シリンダヘッドに設けたガイド孔(特許文献1では嵌合孔と称している)に摺動自在に配置し、バルブリフタの外周の摺動面に摺動方向に沿って延びる縦溝を形成することで、バルブリフタ及びガイド孔の間の摺動面の面圧を減少させるとともに、摺動面に充分な潤滑油を供給するようにしている。
【0003】
また、特許文献2の技術は、摺動時に面圧が高くなるバルブリフタの上部及び下部の外周に窪み(特許文献2では上部滞留部、下部滞留部と称している)を設け、それら窪みに潤滑油を滞留させることでバルブリフタ及びガイド孔の摩擦低減を図ろうとするものである。
【特許文献1】実開昭63−190503号公報
【特許文献2】特開2000−179307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の技術は、バルブリフタの上端から下端まで縦溝が形成されているので、バルブリフタ及びガイド孔の間の摺動面に導かれた潤滑油が自重により下端に流れ出やすく、摺動面に潤滑油が滞留しにくいという問題がある
また、特許文献2の技術は、バルブリフタの上部及び下部の外周に設けた窪みに潤滑油が溜まり、摺動面に潤滑油が滞留しやすくなるが、バルブリフタの外周の上部の窪みと下部の窪みの形状を適宜変化させており、各々の窪みの形成に多くの加工工程が必要となるので、動弁機構の製作費の面で問題がある。また、特許文献2の技術は、バルブリフタが、ガイド孔に完全に埋没して上下方向に往復運動するときには、バルブリフタの上部及び下部の外周の窪みに滞留した潤滑油で摩擦の低減が図られるが、バルブリフタがガイド孔に完全に埋没せずに往復運動する場合には、バルブリフタの上部及び下部の外周の窪みに潤滑油が滞留しにくいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、安価な費用で製作することができるとともに、摺動面に対して潤滑油が保持される保油性を向上させることができる摺動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、金属製の一対の摺動部材同士が上下方向に摺動するように配置され、これら一対の摺動部材の上部に潤滑が供給されている摺動装置において、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域に表面処理を施すことで、前記摺動面に前記潤滑油が保持可能な多数の凹部を形成したことを特徴とする。
また、請求項2の発明は、請求項1記載の摺動装置において、前記表面処理は、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域にブラスト加工を施すことであることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、請求項1記載の摺動装置において、前記表面処理は、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域に窒化処理を施すことであることを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1記載の摺動装置において、前記表面処理は、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域に化成処理を施すことであることを特徴とする。
さらに、請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の摺動装置において、前記一対の摺動部材を、内燃機関の可動弁機構を構成するシリンダヘッドに形成したバルブリフタ用ガイド穴と、このバルブリフタ用ガイド穴に上下方向に摺動自在に配置され、リフタ頂部に当接したカムシャフトのカムロブが回転することで上下方向に往復運動を行なうバルブリフタとした。
【0008】
さらに、請求項6記載の発明は、請求項5記載の摺動装置において、前記潤滑油は、前記バルブリフタの前記リフタ頂部に供給されてから、互いに摺動している前記バルブリフタ用ガイド穴の内周面及び前記バルブリフタの外周面の上部に流れていくようにしたことを特徴とする。
さらにまた、請求項7記載の発明は、請求項5又は6記載の摺動装置において、前記バルブリフタは、前記バルブリフタ用ガイド穴内に回転自在に配置されているとともに、前記カムロブ及び前記リフタ頂部は、前記カムロブの厚さ方向の中心位置と前記リフタ頂部の中心位置がオフセットした状態で当接している。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る摺動装置によれば、少なくとも一方の摺動部材の摺動面全域に表面処理を施すことで、前記摺動面に前記潤滑油が保持可能な多数の凹部を形成したことから、一対の摺動部材の摺動面同士の間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部に入り込んで保持され、即座に摺動面の下方に流れ落ちて行かないので、一対の摺動部材が上下方向に往復運動する際の摺動面同士の保油性を向上させることができる。
【0010】
また、少なくとも一方の摺動部材の摺動面全域に表面処理を施すだけで潤滑油が保持可能な多数の凹部が形成されるので、潤滑油を保持する構造を安価に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1から図3は、本発明に係る第1実施形態を示すものである。図1は内燃機関の動弁機構を示す断面図であり、図2は動弁機構の平面図であり、図3は動弁機構を構成するバルブリフタの外周面を示す斜視図である。
【0012】
図1の符号1は、カムシャフト2に直交して一体に固定され、カムシャフト2とともに回転するカムロブであり、このカムロブ1は、径方向の長さが他の部分と比較して長い長径部3を備えている軸方向から見た形状が略卵形の部材である。
カムロブ1は、バルブリフタ4のリフタ頂部4aに当接しており、カムシャフト2とともにカムロブ1が回転することで、バルブリフタ4が、カムシャフト2の回転駆動をバルブ機構5に上下方向の往復運動として伝達する。
【0013】
バルブリフタ4は有蓋円筒形状の金属部材であり、このバルブリフタ4のリフタ外周面4bに、シリンダヘッド6に形成した円筒形のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面が摺動する。
バルブ機構5は、内燃機関の燃焼室の吸気口又は排気口を開閉するバルブ部(図示せず)と、下端が前記バルブ部に連結し、上端がバルブリフタ4の頂部内壁に連結されて上下方向に延在しているバルブステム8と、バルブステム8の外周に配置されたコイルスプリング9とを備えている。ここで、バルブリフタ4は、バルブステム8に対して回転自在となるようにバルブステム8の上端に連結されている。
【0014】
また、コイルスプリング9は、下端がシリンダヘッド6の底部(図示せず)に支持され、上端が、バルブステム8の外周に上下方向に移動自在に配置されたリテーナ10に連結されている。
また、図2に示すように、カムシャフト2の軸に直交してカムロブ1の厚さ方向の中心位置を通過する線をカムロブ中心線S1とし、カムシャフト2の軸に直交してバルブリフタ4のリフタ頂部4aの中心Pを通過する線をリフタ中心線S2とすると、カムロブ中心線S1及びリフタ中心線S2の間が所定のオフセット量δで離間するように、カムロブ1の厚さ方向の中心位置及びリフタ頂部4aの中心位置がオフセットした状態で当接している。
【0015】
そして、カムシャフト2とともにカムロブ1が回転し、このカムロブ1の長径部3側がバルブリフタ4のリフタ頂部4aに当接してバルブリフタ4を押し下げることでバルブステム8が下方に移動するとともに、カムロブ1の長径部3側以外の部分がバルブリフタ4のリフタ頂部4aに当接してコイルスプリング9のバネ力によりリテーナ10を介してバルブリフタ4が押し上げられバルブステム8が上方に移動することで、バルブ機構5の開閉動作が行なわれるようになっている。
【0016】
ここで、図3に示すように、本実施形態のバルブリフタ4は、平滑な曲面としたリフタ外周面4bの全域に多数の凹部11が設けられている。また、図示しないが、バルブシリンダ用ガイド穴7の内周面は、リフタ外周面4bに摺動する平滑な曲面として形成されている。
リフタ外周面4bの全域に設けた多数の凹部11は、リフタ外周面4bの全域に、圧縮空気や遠心力などを用いて鋼球ショットを高速で噴射するショットブラスト加工を行なうことで形成されている。
【0017】
なお、リフタ外周面4bに鋼球ショットを噴射するショットブラスト加工に限らず、珪砂の研削剤をリフタ外周面4bに噴射するサンドブラスト加工、鋳鉄粒等の金属粒をリフタ外周面4bに噴射するスチールグリッドブラスト加工等のブラスト加工であってもよい。
ここで、請求項の少なくとも一方の摺動部材がバルブリフタ4の外周面4bに対応し、請求項の表面処理で形成した多数の凹部がブラスト加工で形成した多数の凹部11に対応する。
【0018】
次に、本実施形態の動弁機構に潤滑油を供給する際の本実施形態の動作について説明する。
カムシャフト2とともにカムロブ1が回転し、カムロブ1の長径部3側及び長径部3以外の部分がバルブリフタ4の頂部4aに当接することで、バルブリフタ4及びバルブステム8が上下方向に往復運動する。
【0019】
潤滑油は、バルブリフタ4のリフタ頂部4aに供給されるとともに、このリフタ頂部4aから互いに摺動しているバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びバルブリフタ4のリフタ外周面4bの間の上部に流れていく。
潤滑油がリフタ外周面4bの全域に形成した多数の凹部11に入り込んで保持され、即座に外周面4bの下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間の摩擦が低減され、バルブリフタ4の上下方向の往復運動が円滑に行なわれる。
【0020】
ここで、バルブリフタ用ガイド穴7内でバルブリフタ4が回転せず、例えば、図1のようにカムロブ1の長径部3がリフタ頂部4aの外周側に位置して当接面積が増大しているときのように、カムロブ1が所定の回転位相まで回転すると、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)となり、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間に潤滑油膜が形成されないおそれがある。
【0021】
しかし、本実施形態では、バルブステム8に対して回転自在に連結されているバルブリフタ4が、リフタ外周面4bの多数の凹部11に保持されている潤滑油を介してバルブリフタ用ガイド穴7に接触しているので、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転しやすい状態となっている。そして、図2で示したように、カムロブ1の厚さ方向の中心及びリフタ頂部4aの中心がオフセットした状態で当接していることから、カムロブ1の回転により上下方向の往復運動が伝達されるバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転する。このように、バルブリフタ4が回転することから、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れを起こさないので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減される。
【0022】
したがって、本実施形態は、バルブリフタ4の外周面4b全域に多数の凹部11を形成したことから、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部11に入り込んで保持され、即座に外周面4bの下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ4が上下方向に往復運動する際のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【0023】
また、バルブリフタ4がバルブリフタ用ガイド穴7内で摺動しながら回転するので、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れが防止されるので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減することができる。
また、リフタ外周面4bの全域に多数の凹部11を形成する処理として、複雑な加工工程を必要としないブラスト加工を用いたので、動弁機構を安価に製作することができる。
(第2実施形態)
次に、図4は、本発明に係る第2実施形態を示すものである。なお、図1から図3で示した第1実施形態の構成と同一構成部分には同一符号を付して説明する。
【0024】
本実施形態は、バルブリフタ用ガイド穴7の平滑な曲面とした内周面の全域に多数の凹部12が設けられており、バルブリフタ4のリフタ外周面4bは、図示しないが、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に摺動する平滑な曲面形状として形成されている
多数の凹部12は、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面全域に、圧縮空気や遠心力などを用いて鋼球ショットを高速で噴射するショットブラスト加工を行なうことで形成されている。
【0025】
なお、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に鋼球ショットを噴射するショットブラスト加工に限らず、サンドブラスト加工、スチールグリッドブラスト加工等のブラスト加工であってもよい。
ここで、請求項の少なくとも一方の摺動部材がバルブリフタ用ガイド穴7の内周面に対応し、請求項の表面処理で形成した多数の凹部がブラスト加工で形成した多数の凹部12に対応する。
【0026】
次に、本実施形態の動弁機構に潤滑油を供給する際の本実施形態の動作について説明する。
潤滑油は、バルブリフタ4のリフタ頂部4aに供給されるとともに、このリフタ頂部4aから互いに摺動しているバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びバルブリフタ4のリフタ外周面4bの間の上部に流れていく。
【0027】
潤滑油は、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面の全域に形成した多数の凹部12に入り込んで保持され、即座にバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間の摩擦が低減され、バルブリフタ4の上下方向の往復運動が円滑に行なわれる。
また、バルブステム8に対して回転自在に連結されているバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面の多数の凹部12に保持されている潤滑油を介してバルブリフタ用ガイド穴7に接触しているので、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転しやすい状態となっている。そして、カムロブ1の厚さ方向の中心及びリフタ頂部4aの中心がオフセットした状態で当接していることから、カムロブ1の回転により上下方向の往復運動が伝達されるバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転し、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れを起こさないので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減される。
【0028】
したがって、本実施形態は、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に全域に多数の凹部12を形成したことから、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部12に入り込んで保持され、即座にバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ4が上下方向に往復運動する際のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態も、バルブリフタ4がバルブリフタ用ガイド穴7内で摺動しながら回転するので、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れが防止されるので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減することができる。
(第3実施形態)
次に、図5は、本発明に係る第3実施形態を示すものである。
【0030】
本実施形態は、バルブリフタ4の平滑な曲面としたリフタ外周面4bの全域に、窒化処理を施すことで多数の凹部13を設けており、バルブシリンダ用ガイド穴7の内周面は、図示しないが、リフタ外周面4bに摺動する平坦な曲面形状として形成されている。
図5に示すように、窒化処理を施したバルブリフタ4のリフタ外周面4bには、深さの異なる多数の凹部13が形成されている。
【0031】
ここで、請求項の少なくとも一方の摺動部材がバルブリフタ4の外周面4bに対応し、請求項の表面処理で形成した多数の凹部が、窒化処理を施すことで形成した多数の凹部13に対応する。
本実施形態によると、バルブリフタ4の外周面4b全域に多数の凹部13を形成したことから、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部13に入り込んで保持され、即座に外周面4bの下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ4が上下方向に往復運動する際のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【0032】
また、バルブステム8に対して回転自在に連結されているバルブリフタ4は、バルブリフタ4の外周面4bの多数の凹部13に保持されている潤滑油を介してバルブリフタ用ガイド穴7に接触してバルブリフタ用ガイド穴7内で回転しやすい状態となっており、しかも、カムロブ1の厚さ方向の中心及びリフタ頂部4aの中心がオフセットした状態で当接していることから、カムロブ1の回転により上下方向の往復運動が伝達されるバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転し、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れを起こさないので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減することができる。
【0033】
また、リフタ外周面4bの全域に多数の凹部13を形成する処理として、複雑な加工工程を必要としない窒化処理を用いたので、動弁機構を安価に製作することができる。
(第4実施形態)
次に、図6は、本発明に係る第4実施形態を示すものである。
本実施形態は、バルブリフタ用ガイド穴7の平滑な曲面とした内周面の全域に窒化処理を施すことで多数の凹部14を設けており、バルブリフタ4のリフタ外周面4bは、図示しないが、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に摺動する平滑な曲面形状として形成されている
図6に示すように、窒化処理を施したバルブリフタ用ガイド穴7の内周面には、深さの異なる多数の凹部14が形成されている。
【0034】
ここで、請求項の少なくとも一方の摺動部材がバルブリフタ用ガイド穴7の内周面に対応し、請求項の表面処理で形成した多数の凹部が窒化処理で形成した多数の凹部14に対応する。
本実施形態によると、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に全域に多数の凹部14を形成したことから、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部14に入り込んで保持され、即座にバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ4が上下方向に往復運動する際のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【0035】
また、バルブステム8に対して回転自在に連結されているバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面の多数の凹部14に保持されている潤滑油を介してバルブリフタ用ガイド穴7に接触してバルブリフタ用ガイド穴7内で回転しやすい状態となっており、しかも、カムロブ1の厚さ方向の中心及びリフタ頂部4aの中心がオフセットした状態で当接していることから、カムロブ1の回転により上下方向の往復運動が伝達されるバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転し、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れを起こさないので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減することができる。
【0036】
また、バルブリフタ用ガイド穴7の全域に多数の凹部14を形成する処理として、複雑な加工工程を必要としない窒化処理を用いたので、動弁機構を安価に製作することができる。
(第5実施形態)
次に、図7は、本発明に係る第5実施形態を示すものである。
【0037】
本実施形態は、バルブリフタ4の平滑な曲面としたリフタ外周面4bの全域に、燐酸マンガン系化成処理を施すことで多数の凹部15を設けており、バルブシリンダ用ガイド穴7の内周面は、図示しないが、リフタ外周面4bに摺動する平坦な曲面形状として形成されている。
図7に示すように、燐酸マンガン系化成処理を施したバルブリフタ4のリフタ外周面4bには、深さの異なる多数の凹部15が形成されている。
【0038】
ここで、請求項の少なくとも一方の摺動部材がバルブリフタ4の外周面4bに対応し、請求項の表面処理で形成した多数の凹部が、燐酸マンガン系化成処理を施すことで形成した多数の凹部15に対応する。
本実施形態も、バルブリフタ4の外周面4b全域に多数の凹部15を形成したことから、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部15に入り込んで保持され、即座に外周面4bの下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ4が上下方向に往復運動する際のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【0039】
また、バルブステム8に対して回転自在に連結されているバルブリフタ4は、バルブリフタ4の外周面4bの多数の凹部15に保持されている潤滑油を介してバルブリフタ用ガイド穴7に接触してバルブリフタ用ガイド穴7内で回転しやすい状態となっており、しかも、カムロブ1の厚さ方向の中心及びリフタ頂部4aの中心がオフセットした状態で当接していることから、カムロブ1の回転により上下方向の往復運動が伝達されるバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転し、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れを起こさないので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減することができる。
【0040】
また、リフタ外周面4bの全域に多数の凹部13を形成する処理として、複雑な加工工程を必要としない燐酸マンガン系化成処理を用いたので、動弁機構を安価に製作することができる。
(第6実施形態)
次に、図8は、本発明に係る第6実施形態を示すものである。
【0041】
本実施形態は、バルブリフタ用ガイド穴7の平滑な曲面とした内周面の全域に燐酸マンガン系化成処理を施すことで多数の凹部16を設けており、バルブリフタ4のリフタ外周面4bは、図示しないが、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に摺動する平滑な曲面形状として形成されている
図8に示すように、燐酸マンガン系化成処理を施したバルブリフタ用ガイド穴7の内周面には、深さの異なる多数の凹部16が形成されている。
【0042】
ここで、請求項の少なくとも一方の摺動部材がバルブリフタ用ガイド穴7の内周面に対応し、請求項の表面処理で形成した多数の凹部が燐酸マンガン系化成処理で形成した多数の凹部16に対応する。
本実施形態によると、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面に全域に多数の凹部16を形成したことから、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの間に流れ込んだ潤滑油が多数の凹部16に入り込んで保持され、即座にバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の下方に流れ落ちて行かないので、バルブリフタ4が上下方向に往復運動する際のバルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【0043】
また、バルブステム8に対して回転自在に連結されているバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7の多数の凹部16に保持されている潤滑油を介してバルブリフタ用ガイド穴7に接触してバルブリフタ用ガイド穴7内で回転しやすい状態となっており、しかも、カムロブ1の厚さ方向の中心及びリフタ頂部4aの中心がオフセットした状態で当接していることから、カムロブ1の回転により上下方向の往復運動が伝達されるバルブリフタ4は、バルブリフタ用ガイド穴7内で回転し、カムロブ1及びバルブリフタ4のリフタ頂部4aの相対速度が0(ゼロ)とならず、カムロブ1及びリフタ頂部4aの間の潤滑油膜切れを起こさないので、カムロブ1及びバルブリフタ4の摩耗も低減することができる。
【0044】
また、バルブリフタ用ガイド穴7の全域に多数の凹部16を形成する処理として、複雑な加工工程を必要としない燐酸マンガン系化成処理を用いたので、動弁機構を安価に製作することができる。
ここで、図3で示した第1実施形態ではリフタ外周面4bの全域に潤滑油を保持可能な多数の凹部11をブラスト加工により形成し、図4で示した第2実施形態ではバルブリフタ用ガイド穴7の内周面に全域に潤滑油を保持可能な多数の凹部12をブラスト加工により形成したが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、リフタ外周面4b及びバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の両者に、潤滑油を保持可能な多数の凹部をブラスト加工により形成しても同様の効果を奏することができる。
【0045】
また、図5で示した第3実施形態ではリフタ外周面4bの全域に潤滑油を保持可能な多数の凹部13を窒化処理により形成し、図6で示した第4実施形態ではバルブリフタ用ガイド穴7の内周面に全域に潤滑油を保持可能な多数の凹部14を窒化処理により形成したが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、リフタ外周面4b及びバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の両者に、潤滑油を保持可能な多数の凹部を窒化処理により形成しても同様の効果を奏することができる。
【0046】
また、図7で示した第5実施形態ではリフタ外周面4bの全域に潤滑油を保持可能な多数の凹部15を燐酸マンガン系化成処理により形成し、図8で示した第6実施形態ではバルブリフタ用ガイド穴7の内周面に全域に潤滑油を保持可能な多数の凹部16を燐酸マンガン系化成処理により形成したが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、リフタ外周面4b及びバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の両者に、潤滑油を保持可能な多数の凹部を燐酸マンガン系化成処理により形成しても同様の効果を奏することができる。
【0047】
さらに、上述した第1実施形態から第6実施形態では、バルブリフタ4のリフタ外周面4b及びバルブリフタ用ガイド穴7の内周面の少なくとも一方の全域に潤滑油が保持可能な多数の凹部を設けたことから、バルブリフタ4がバルブリフタ用ガイド穴7に完全に埋没せずに上下方向に往復運動する構造であっても、バルブリフタ用ガイド穴7の内周面及びリフタ外周面4bの保油性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る第1実施形態の内燃機関の動弁機構を示す断面図である。
【図2】第1実施形態の動弁機構の平面図である。
【図3】第1実施形態のバルブリフタのリフタ外周面全域にブラスト加工により多数の凹部を形成した状態を示す図である。
【図4】本発明に係る第2実施形態のバルブリフタ用ガイド穴の内周面全域にブラスト加工により多数の凹部を形成した状態を示す図である。
【図5】本発明に係る第3実施形態のバルブリフタのリフタ外周面全域に窒化処理により多数の凹部を形成した状態を示す要部断面図である。
【図6】本発明に係る第4実施形態のバルブリフタ用ガイド穴の内周面全域に窒化処理により多数の凹部を形成した状態を示す図である。
【図7】本発明に係る第5実施形態のバルブリフタのリフタ外周面全域に燐酸マンガン系化成処理により多数の凹部を形成した状態を示す要部断面図である。
【図8】本発明に係る第6実施形態のバルブリフタ用ガイド穴の内周面全域に燐酸マンガン系化成処理により多数の凹部を形成した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1…カムロブ、2…カムシャフト、3…長径部、4…バルブリフタ、4a…リフタ頂部、5…バルブ機構、4b…リフタ外周面、6…シリンダヘッド、7…バルブリフタ用ガイド穴、8…バルブステム、9…コイルスプリング、10…リテーナ、11,12,13,14,15,16…凹部、P…リフタ頂部の中心、S1…カムロブ中心線、S2…リフタ中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の一対の摺動部材同士が上下方向に摺動するように配置され、これら一対の摺動部材の上部に潤滑が供給されている摺動装置において、
少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域に表面処理を施すことで、前記摺動面に前記潤滑油が保持可能な多数の凹部を形成したことを特徴とする摺動装置。
【請求項2】
前記表面処理は、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域にブラスト加工を施すことであることを特徴とする請求項1記載の摺動装置。
【請求項3】
前記表面処理は、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域に窒化処理を施すことであることを特徴とする請求項1記載の摺動装置。
【請求項4】
前記表面処理は、少なくとも一方の前記摺動部材の摺動面全域に化成処理を施すことであることを特徴とする請求項1記載の摺動装置。
【請求項5】
前記一対の摺動部材を、内燃機関の可動弁機構を構成するシリンダヘッドに形成したバルブリフタ用ガイド穴と、このバルブリフタ用ガイド穴に上下方向に摺動自在に配置され、リフタ頂部に当接したカムシャフトのカムロブが回転することで上下方向に往復運動を行なうバルブリフタとしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の摺動装置。
【請求項6】
前記潤滑油は、前記バルブリフタの前記リフタ頂部に供給されてから、互いに摺動している前記バルブリフタ用ガイド穴の内周面及び前記バルブリフタの外周面の上部に流れていくようにしたことを特徴とする請求項5記載の摺動装置。
【請求項7】
前記バルブリフタは、前記バルブリフタ用ガイド穴内に回転自在に配置されているとともに、前記カムロブ及び前記リフタ頂部は、前記カムロブの厚さ方向の中心位置と前記リフタ頂部の中心位置がオフセットした状態で当接していることを特徴とする請求項5又は6記載の摺動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−75591(P2008−75591A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257208(P2006−257208)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】