説明

操舵制御装置

【課題】モータのロック位置によって各相のスイッチング素子への通電量が大きく変わる場合でも、推定温度の最大値に基づいて適切な過熱保護を行えるようにした操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵トルクを検出するトルクセンサと、アシストトルク付与のためのブラシレスモータ18と、アシストトルク指令値を求めるアシストトルク算出部26と、スイッチング回路を含むモータ駆動部30と、モータ18の相電流を検出する電流センサ31と、過熱保護演算部25とを備える。過熱保護演算部25では、電流センサ31からの相電流値の絶対値の最大値に基づいてモータ18の温度変化量を推定する。その温度変化量に応じたトルク補正量を算出し、このトルク補正量をもってアシストトルク指令値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の操舵制御装置に関し、特に電動モータであるブラシレスモータを動力源とするアシストトルク発生機構によって操舵補助力を得るようにしたパワーステアリング装置に好適な操舵制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のブラシレスモータの制御技術として例えば特許文献1に記載のものが提案されている。同特許文献1では、モータそれ自体またはモータ制御装置の保護を司るモータ保護部を備えていて、このモータ保護部では、少なくともモータのq軸電流iqの二乗値に予め記憶しておいた相巻線の電気抵抗値rを乗じて相巻線の発熱量を求めるとともに、この発熱量に基づいて相巻線の温度Tを算出し、この温度Tが所定のしきい値Tthを超えた場合に過電流または過熱と判定して、必要な警報信号または制御信号を出力し、もってモータそれ自体またはモータ制御装置を保護するようにしている。
【特許文献1】特開2003−164185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ブラシレスモータは3相交流電流であるので、モータが回転している状態と、モータは回転していないが所定の電流が流れてトルクを発生しているいわゆるモータロック状態とでは、q軸電流またはd軸電流が同じでも、各相への印加電流が大きく異なる場合があるだけでなく、モータがロックする位置(電気角)によっても各相への印加電流が異なる場合がある。その上、ブラシレスモータを制御するインバータでは、単一の相に大きな電流が連続して通電された場合、特定の相のFET等のパワースイッチング素子が異常に発熱することがある。
【0004】
なお、ブラシレスモータを動力源とするアシストトルク発生機構によって操舵補助力を得るようにしたパワーステアリング装置では、操舵輪(ハンドル)を所定の角度に保ったままの状態で走行することがあり、この状態をハンドル保舵状態と称するが、このハンドル保舵状態が先のモータロック状態に相当する。
【0005】
したがって、上記のようにq軸電流またはd軸電流のみを用いてモータの巻線温度を推定して過熱保護を実施しようとすると、温度推定の誤差が大きくなりすぎて適切な過熱保護を行うことが困難となる。
【0006】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、モータのロック位置によって各相のスイッチング素子への通電量が大きく変わる場合でも、各相のうち最大負荷(発熱)状態のもの、すなわち各相のうち推定される温度が最も高いものを特定し、その推定温度の最大値に基づいて適切な過熱保護を行えるようにした操舵制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の操舵制御装置は、運転者による操舵トルクを検出するトルク検出器と、車両の操舵輪に操舵補助力としてアシストトルクを付与するブラシレスモータと、前記トルク検出器の出力に基づいて前記ブラシレスモータに付与すべきアシストトルク指令値を求めるアシストトルク算出部と、前記アシストトルク指令値に基づいて前記ブラシレスモータの各相への印加電圧を出力するスイッチング回路と、前記ブラシレスモータに流れる相電流を検出する電流センサのほか、過熱保護演算部を備えている。
【0008】
そして、この過熱保護演算部では、前記電流センサにより検出された相電流値の絶対値の最大値に基づいて当該相電流値のもとでの前記ブラシレスモータの温度変化量を推定した上で、その温度変化量に応じたトルク補正量を算出し、このトルク補正量をもって前記アシストトルク算出部からのアシストトルク指令値に補正を加えるものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、相電流値の最大値に基づいて温度変化量を推定した上で、その温度変化量に応じたトルク補正量をもってアシストトルク指令値に補正を加えるので、先に例示したハンドル保舵状態のようにモータのロック位置によって各相のスイッチング素子への通電量が大きく変わる場合でも、適切な過熱保護を行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明に係る操舵制御装置が適用されるパワーステアリング装置の概略説明図である。
【0011】
同図に示すように、パワーステアリング装置は、運転者のステアリングホイール(ハンドル)5による操舵力を伝達する操舵伝達機構1と、運転者の操舵力に対して操舵補助力としてアシストトルクを発生させるアシストトルク発生機構2と、アシストトルク発生機構2に油圧を供給する油圧供給機構3と、上記各機構を統括制御するコントロールユニット4とを備える。
【0012】
操舵伝達機構1は、ステアリングホイール5からコラムシャフト6、ユニバーサルジョイント7、中間軸8、ユニバーサルジョイント9および入力軸10が順に接続され、入力軸10には操舵トルクを検出するトルク検出器としてトルクセンサ11を設けてある。また、入力軸10の先端にはピニオン12を接続してある。
【0013】
アシストトルク発生機構2はパワーシリンダ13を主要素として構成してあり、このパワーシリンダ13は、シリンダチューブ14と、シリンダチューブ14の内部を軸方向に移動可能なピストン15と、ピストン15と一体に移動可能なピストンロッドを兼ねたラック16とを有している。そして、シリンダチューブ14の内部は、ピストン15によって第1シリンダ室R1と第2シリンダ室R2とに隔離形成してある。
【0014】
油圧供給機構3は、油圧を発生させるポンプ17と、ポンプ17を駆動する電動モータすなわちブラシレスモータ18と、油圧をパワーシリンダ13に供給する第1油路19および第2油路20を有する。第1油路19はパワーシリンダ13の第1シリンダ室R1とポンプ17とを接続し、第2油路20はパワーシリンダ13の第2シリンダ室R2とポンプ17とを接続している。また、第1油路19と第2油路20との間にはノーマルオープン型のフェールセーフバルブ21を設けてある。
【0015】
コントロールユニット4は、車速セン22とバッテリ23とが接続される。このコントロールユニット4は、車速センサ22からの車速情報に応じてブラシレスモータ18を駆動して、アシストトルク発生機構2への油圧の供給量を調節し、もって車速に応じてアシストトルク発生機構2が発生するアシストトルクを可変制御する。
【0016】
操舵伝達機構1のピニオン12とアシストトルク発生機構2のラック16とは互いに噛み合っていて、運転者のステアリングホイール5による操舵力と、アシストトルク発生機構2によるアシストトルクとが、タイロッド24を介して図示外の転舵輪に伝達される。
【0017】
コントロールユニット4は、通常はノーマルオープン型のフェールセーフバルブ21を遮断して、第1油路19と第2油路20との間の油圧の移動を阻止している。そして、ステアリングホイール5が操舵されることによりトルクセンサ11から所定の操舵トルク情報が入力されると、操舵トルクに応じたアシストトルクを発生させるためにブラシレスモータ18によりポンプ17を駆動する。
【0018】
より詳しくは、ステアリングホイール5が左に操舵されたときには、第1油路19を介してパワーシリンダ13の第1シリンダ室R1に油圧が供給され、左側への操舵に対してアシストトルクを発生させる。一方、ステアリングホイール5が右に操舵されたときには、第2油路20を介してパワーシリンダ13の第2シリンダ室R2に油圧が供給され、右側への操舵に対してアシストトルクを発生させる。
【0019】
なお、故障等のフェール時には、ノーマルオープン型のフェールセーフバルブ21を開放し、第1シリンダ室R1と第2シリンダ室R2との間の作動油の移動を許容して、運転者のステアリングホイール5による操舵を可能にする。
【0020】
図2は上記コントロールユニット4の制御ブロック図である。
【0021】
コントロールユニット4は、後述する過熱保護演算部25、アシストトルク算出部26、リミッタ27、モータ制御部28、回転位置算出部29、モータ駆動部30、電流センサ31および回転センサ32等のほか、温度センサ33を備えている。
【0022】
温度センサ33は、コントロールユニット4のうち、後述するモータ駆動手段30を形成しているスイッチング回路(例えばFET等のパワースイッチング素子)34〜39の近傍に設けてあり、このスイッチング回路34〜39の近傍の温度を検出して、その温度情報を過熱保護演算部25に出力する。
【0023】
過熱保護演算部25には、温度センサ33からの温度情報と、後述する電流センサ31からのモータ電流情報(ブラシレスモータ18の各相ごとに供給する電流値)が入力される。そして、過熱保護演算部25では、温度センサ33からの温度情報のほか、電流センサ31からのモータ電流に基づいて算出したブラシレスモータ18の各相ごとの温度情報に応じて所定の演算を行う。より具体的には、コントロールユニット4のうちでも特にスイッチング回路34〜39およびブラシレスモータ18の各相の巻線が正常可動温度範囲内となるように、アシストトルク発生機構2が発生するアシストトルクを制限するべく、後述するようにトルク補正量としての過熱保護トルクリミット値を算出して上で、これをリミッタ27に出力することになる。なお、この過熱保護部25の詳細については後述する。
【0024】
アシストトルク算出部26は、図1に示したトルクセンサ11からの操舵トルク情報と車速センサ22からの車速情報とを入力とし、これらの入力された情報に基づいてブラシレスモータ18に付与すべきアシストトルク指令値を算出して、このアシストトルク指令値を後段のリミッタ27に出力することになる。
【0025】
リミッタ27は、先に述べた過熱保護演算部25からのトルク補正量としての過熱保護トルクリミット値と、アシストトルク算出部26からのアシストトルク指令値とを入力とし、これらの入力された情報に基づいて後段のモータ制御部28に付与すべきモータトルク指令値を算出して、このモータトルク指令値をモータ制御部28に出力する。
【0026】
回転位置算出部29は、ブラシレスモータ18の回転角を検出する回転角センサ32からの回転角情報を入力とし、ブラシレスモータ18の回転位置を算出して、その回転位置情報をモータ制御部28に出力する。
【0027】
モータ制御部28には、リミッタ27からのモータトルク指令値のほか、回転位置算出部29からのブラシレスモータ18の回転位置情報、および電流センサ31が検出したブラシレスモータ18のU相、V相およびW相の各相ごとの電流情報(電流値)が入力される。そして、このモータ制御部28では、U相、V相およびW相の3相の電流を2相の電流に変換する3相2相変換、その逆の2相3相変換およびPWM変換のほか、PI制御等のフィードバック制御を行うことでブラシレスモータ18の駆動信号(PWM信号)を生成して、この信号を後段のモータ駆動部30に出力することになる。
【0028】
なお、電流センサ31が検出したブラシレスモータ18のU相、V相およびW相の各相ごとの電流情報(電流値)は、同時に過熱保護演算部25にも出力される。
【0029】
モータ駆動部30は、例えば図3に示すように、FETに代表されるトランジスタ等のパワースイッチング素子を含むスイッチング回路34〜39にて3相インバータ回路のかたちで構成され、前段のモータ制御部28から入力されるモータ駆動信号に応じてスイッチング回路34〜39をスイッチングして、所定の電圧をブラシレスモータ18に出力することでそのブラシレスモータ18を駆動する。
【0030】
図4は図2に示した過熱保護演算部25の機能ブロック図であり、この過熱保護演算部25では温度センサ33からの温度情報と、電流センサ31が検出したブラシレスモータ18のU相、V相およびW相の各相ごとの電流情報(電流値)を入力とし、トルク補正量としての過熱保護トルクリミット値を出力とするものであることは先に述べたとおりである。
【0031】
図4の過熱保護演算部25は、A/D変換器40および温度変化量推定部41のほか、第1トルクリミット値演算部42、第2トルクリミット値演算部43およびセレクトロー演算部44を有している。
【0032】
A/D変換器40では、温度センサ33からの実測温度情報に関するアナログ信号をデジタル信号に変換した上で、これを温度センサ実測温度情報として後段の第1トルクリミット値演算部42に出力する。
【0033】
第1トルクリミット値演算部42では、A/D変換器40からの温度センサ実測温度情報を所定の演算式にあてはめて、スイッチング回路34〜39の近傍の温度に基づく過熱保護トルクリミット値として第1トルクリミット値を算出する。この第1トルクリミット値は後段のセレクトロー演算部44に入力される。
【0034】
温度変化量推定部41では、電流センサ31が検出したブラシレスモータ18のU相、V相およびW相の各相ごとのモータ電流情報を入力として、そのモータ電流情報を所定の演算式にあてはめて、当該モータ電流情報のもとでの発熱量として温度変化量を推定して算出する。そして、この算出した温度変化量を後段の第2トルクリミット値演算部43に出力する。
【0035】
第2トルクリミット値演算部43では、温度変化量推定部41からの推定温度変化量情報を所定の演算式にあてはめて、その推定した温度変化量に基づく過熱保護トルクリミット値として第2トルクリミット値を算出する。この第2トルクリミット値は後段のセレクトロー演算部44に入力される。
【0036】
セレクトロー演算部44では、第1トルクリミット値演算部42からの第1トルクリミット値と、第2トルクリミット値演算部43からの第2トルクリミット値とを入力として、これらの第1,第2トルクリミット値のうちいずれか小さい方を選択して、その選択したトルクリミット値をトルク補正量としての過熱保護トルクリミット値として出力する。
【0037】
ここで、上記温度変化量推定部41の詳細は図5のとおりであって、先に述べた電流センサ31が検出したブラシレスモータ18のU相、V相およびW相の各相ごとの電流情報を相電流最大値検出部45の入力として、U相、V相およびW相の各相ごとの電流のうち、最も電流が流れている相の電流値、すなわち絶対値での最大電流値を検出する。そして、相電流最大値検出部45の後段の二乗値算出部46では、相電流最大値検出部45で検出した絶対値での最大電流値の二乗値を算出し、これを後段の一次遅れ関数器47に入力する。なお、絶対値での最大電流値の二乗値を算出しているのは、温度は電流値の二乗値に比例することに基づいている。
【0038】
さらに、一次遅れ関数器47からの出力を後段の二乗値−温度変換部48に入力し、その一次遅れ関数器47からの出力に対し温度変換ゲイン(係数)Kを乗じて、その値を図4の温度変化量推定部41からの出力である推定温度変化量ΔTとする。
【0039】
図6,7は図2の回路での処理手順を示すフローチャートである。
【0040】
図6に示すように、ステップS1ではブラシレスモータ18の各相に流れる電流、すなわちU相、V相およびW相それぞれの電流を図2の電流センサ31にて検出して、その値を読み取る。
【0041】
続くステップS2では、モータ駆動部30を形成している発熱部であるところのスイッチング回路34〜39の近傍の温度(図6では「発熱部温度」としてある。)を図2の温度センサ33で検出して、その値を読み取る。
【0042】
その一方、ステップS3では、アシストトルク算出部26の機能として、図1のトルクセンサ11からの信号と車速信号とに基づいてアシストトルクを算出する。
【0043】
ステップS4では、図5の相電流最大値検出部45の機能として、ステップS1で検出したU相、V相およびW相の電流値のなかで絶対値が最大のものを検出または特定し、ステップS5,S6にて一定周期分その絶対値での最大電流値を積算する。
【0044】
次に、ステップS7では、図5の二乗値算出部46の機能として、最大電流値の積算値の二乗値を算出するとともに、ステップS8では、同じく図5の一次遅れ関数器47の機能として、その二乗値について一次遅れ関数処理を行った上で、続く図7のステップS9では、同じく図5の二乗値−温度変換部48の機能として、二乗値の一次遅れ値に温度変換ゲインkを乗じて、推定温度変化量ΔTを算出する。
【0045】
そして、ステップS10では、図4の第2トルクリミット値演算部43の機能として、先に求めた推定温度変化量ΔTに基づいて第2トルクリミット値を算出する。
【0046】
これらの一連の処理と並行して、あるいは相前後して、ステップS11では、図4の第1トルクリミット値演算部42の機能として、温度センサ33による実測温度に基づいて第1トルクリミット値を算出する。
【0047】
ステップS12では、図4のセレクトロー演算部44の機能として、先に算出した第1トルクリミット値と第2トルクリミット値を比較して、ステップS13,S14の処理としていずれか小さい方のトルクリミット値を選択し、その値をトルク補正量としての過熱保護トルクリミット値として出力する。
【0048】
この後、ステップS15では、過熱保護演算部25の出力である過熱保護トルクリミット値をもってアシストトルク算出部26からのアシストトルクを補正するべく、図2のリミッタ27の機能として、先に算出したアシストトルクと過熱保護トルクリミット値とに基づいて適切なモータ指令トルクを算出して、これをモータ制御部28に付与し(ステップS16)、もってブラシレスモータ18を駆動する。
【0049】
このように本実施の形態によれば、U相、V相およびW相の電流値のうち絶対値での最大値を特定した上で、その絶対値での最大値の二乗値に基づいて温度変化量を推定し、その推定値に応じてモータ指令トルクを決定して駆動するようにしている。そのため、先に述べたハンドル保舵状態のように、モータのロック位置によってスイッチング回路34〜39への通電量が大きく変わる場合でも、最大負荷状態すなわち最大電流値の流れているスイッチング回路での温度変化量(発熱量)に応じた適切な過熱保護を行うことが可能となる。
【0050】
例えば図8のA位置にてモータがロックした場合と、図9のB位置にてモータがロックした場合とを想定し、それぞれの場合のU相、V相およびW相のうちの最大電流値の絶対値に基づいて算出したスイッチング回路34〜39(ここでは、パワースイッチング素子をFETとする。)の推定温度変化と、温度センサ33によるスイッチング回路34〜39の実測温度とを比較してみた。その結果を図10に示す。
【0051】
同図から明らかなように、いずれの場合にも最大電流値の絶対値に基づいて算出したスイッチング回路34〜39の推定温度変化と温度センサ33による実測温度とがきわめて近似しており、双方の温度の間に大きな差がないことがわかる。これは、モータロック位置が変化しても推定温度変化と実測温度との間に差が生じないことを意味し、モータロック位置の変化にかかわらず常に適切な過熱保護を行えることを意味している。
【0052】
これに対して、先に述べた従来例のように例えばq軸電流に基づいて過熱保護を行った場合、図11,12から明らかなようにモータロック位置の変化にかかわらずq軸電流値は一定したものとなるので、図13に示すようにq軸電流に基づいて算出した推測温度変化と実測温度との間に大きな誤差が発生してしまい、適切な過熱保護を行うことはできないことになる。
【0053】
ここで、上記実施の形態では、U相、V相およびW相の3相の電流値を電流センサ31にて個別に検出しているが、3相のうちいずれか2相の電流値を電流センサにて検出し、残りの1相の電流値は演算あるいは推測によって取得するようにしても良い。
【0054】
図14〜16は本発明の第2の実施の形態を示し、特に図14は図4に示した過熱保護演算部25の別の例を示している。
【0055】
この第2の実施の形態では、図14と図4とを比較すると明らかなように、A/D変換器40の出力であるA/D変換後の温度センサ33による実測温度を、加算器49にて温度変化量推定部41の出力である推定温度変化量ΔTに加算するようにしている点で第1の実施の形態のものと異なっている。その結果、第2トルクリミット値演算部Aの入力は、温度センサ33の実測値に推定温度変化量ΔTを上乗せしたものとなり、第1の実施の形態のような単位時間当たりの変化量ではなく、実質的にモータ駆動部30を形成しているスイッチング回路34〜39の近傍の推定温度(ここでは、「実質推定温度」と称する。)そのものとなる。したがって第2トルクリミット値演算部43Aでは、加算器49の出力である実質推定温度に応じた第2トルクリミット値が算出される。
【0056】
そして、図2の過熱保護演算部25を図14のものに置き換えた場合の処理手順を図15,16のフローチャートに示してある。図14の加算器49の機能である図16のステップS30の処理が加わっている点で図6,7の第1の実施の形態のものと異なっており、それ以外の各ステップの処理は図6,7のものと基本的に同様である。
【0057】
この第2の実施の形態によれば、図14の第2トルクリミット値演算部43Aにおける入力が、第1の実施の形態のものと異なり、モータ駆動部30を形成しているスイッチング回路34〜39の近傍の推定温度そのものとなり、その推定温度そのものに応じて第2トルクリミット値を算出するため、例えば制御開始初期段階のようにモータ駆動部30そのものの温度が低い場合、あるいは外部環境温度が低い場合において、スイッチング回路34〜39やブラシレスモータ18の過熱保護を行う際に、モータ駆動部30の実温度や外部環境温度を考慮したより適切な過熱保護を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の操舵制御装置が適用されるパワーステアリング装置の概略説明図。
【図2】図1のブラシレスモータを含むコントロールユニットの制御ブロック図。
【図3】図2のモータ駆動部の詳細を示す説明図。
【図4】図2の過熱保護演算部の詳細を示すブロック図。
【図5】図4の温度変化量推定部の詳細を示すブロック図。
【図6】図2のコントロールユニットでの処理手順を示すフローチャート。
【図7】図2のコントロールユニットでの処理手順を示すフローチャート。
【図8】相電流絶対値とモータロック位置との関係を示す説明図。
【図9】同じく相電流絶対値とモータロック位置との関係を示す説明図。
【図10】図8,9の場合の推定温度変化と実温度とを比較した説明図。
【図11】従来例での相電流絶対値とモータロック位置との関係を示す説明図。
【図12】同じく従来例での相電流絶対値とモータロック位置との関係を示す説明図。
【図13】図11,12の場合の推定温度変化と実温度とを比較した説明図。
【図14】本発明の第2の実施の形態として図2に過熱保護演算部の別の例を示すブロック図。
【図15】図14の過熱保護演算部を図2のブロック図に適用した場合の処理手順を示すフローチャート。
【図16】図14の過熱保護演算部を図2のブロック図に適用した場合の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0059】
1…操舵伝達機構
2…アシストトルク発生機構
3…油圧供給機構
4…コントロールユニット
11…トルクセンサ(トルク検出器)
17…ポンプ
18…ブラシレスモータ
25…過熱保護演算部
26…アシストトルク算出部
27…リミッタ
28…モータ制御部
30…モータ駆動部
31…電流センサ
33…温度センサ
34〜39…スイッチング回路
41…温度変化量推定部
45…相電流最大値検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による操舵トルクを検出するトルク検出器と、
車両の操舵輪に操舵補助力としてアシストトルクを付与するブラシレスモータと、
前記トルク検出器の出力に基づいて前記ブラシレスモータに付与すべきアシストトルク指令値を求めるアシストトルク算出部と、
前記アシストトルク指令値に基づいて前記ブラシレスモータの各相への印加電圧を出力するスイッチング回路(パワースイッチング素子)と、
前記ブラシレスモータに流れる相電流を検出する電流センサと、
前記電流センサにより検出された相電流値の絶対値の最大値に基づいて当該相電流値のもとでの前記ブラシレスモータの温度変化量を推定した上で、その温度変化量に応じたトルク補正量を算出し、このトルク補正量をもって前記アシストトルク算出部からのアシストトルク指令値に補正を加える過熱保護演算部と、
を備えたことを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記過熱保護演算部では、前記電流センサにより検出された相電流値における絶対値の最大値の二乗値からその一次遅れ値を求めた上でこれに温度変換係数を乗じたものを前記ブラシレスモータの温度変化量として推定することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記スイッチング回路の近傍の温度を検出する温度センサを備えていて、
前記過熱保護演算部では、前記ブラシレスモータの温度変化量に応じたトルク補正量を第1のトルク補正量として算出する一方で、前記温度センサにより検出された温度に基づいて第2のトルク補正量を算出し、
これら第1,第2のトルク補正量のうちいずれか一方の小さい値のトルク補正量をもって前記アシストトルク算出部からのアシストトルク指令値に補正を加えるものであることを特徴とする請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記スイッチング回路の近傍の温度を検出する温度センサを備えていて、
前記過熱保護演算部では、前記ブラシレスモータの温度変化量に前記温度センサにより検出された温度を加えて、この加算値に応じたトルク補正量を第1のトルク補正量として算出する一方で、前記温度センサにより検出された温度に基づいて第2のトルク補正量を算出し、
これら第1,第2のトルク補正量のうちいずれか一方の小さい値のトルク補正量をもって前記アシストトルク算出部からのアシストトルク指令値に補正を加えるものであることを特徴とする請求項2に記載の操舵制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−111265(P2010−111265A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285306(P2008−285306)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】