説明

支持基板付キャパシタ層形成材及びキャパシタ層形成材並びにこれらの製造方法

【課題】50μmピッチレベルのファインパターンの下部電極を形成するため、下部電極形成層の厚さを30μm以下に薄くし、且つ、誘電層の膜厚安定性に優れたキャパシタ層形成材を提供する。
【解決手段】上記課題を達成するため、下部電極形成層と上部電極形成層との間に誘電層が狭持された積層構造のキャパシタ層形成材を提供するための積層部材であり、前記キャパシタ層形成材1と支持基板11とが積層され、且つ、その積層状態における少なくとも4隅を接着したことを特徴とする支持基板付キャパシタ層形成材を採用する。そして、前記キャパシタ層形成材は、その下部電極形成層に厚さ3μm〜30μmの金属箔を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、支持基板付キャパシタ層形成材及びキャパシタ層形成材並びにこれらの製造方法に関する。特に、プリント配線板の内蔵キャパシタ回路の形成に好適なキャパシタ層形成材の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
本件発明に言うキャパシタ層形成材は、上部電極形成層と下部電極形成層との間に誘電層を備える構成を持つものである。このようなキャパシタ層形成材は、エッチング加工等によりキャパシタ回路を形成するように加工され、特許文献1に開示されているように、プリント配線板等の電子材料を構成する材料として用いられるのが一般的である。
【0003】
そして、このキャパシタ層形成材は、図7〜図9に示すような製造工程を経て製造されてきた。即ち、図7(a)に示すように下部電極形成層2として厚さ50μm以上の金属箔を用意して、特許文献2〜特許文献4のいずれかに開示の方法等を用いて、図7(b)に示すように誘電層3を形成する。そして、図7(c)に示すように、スパッタリング蒸着法やメッキ法(電解メッキ及び無電解メッキの双方の概念を含む)で、当該誘電層の上に厚さ3μm〜5μmの上部電極形成層4を形成し、キャパシタ層形成材1とする。次に、図8(d−1)に示すように、このキャパシタ層形成材1の下部電極形成層2の表面にエッチングレジスト層を設けフィルムパターンを露光し現像することで、下部電極形状を形成するためエッチングレジストパターン20を形成する。そして、下部電極形成層2のエッチング処理を行い、エッチングレジストパターン20を除去することにより、図8(e−1)に示すように下部電極5を形成する。かかる場合の上部電極の形成は、上記下部電極の形成方法と同様にして事後的に行う場合、また、キャパシタ層形成材の下部電極形成面を、基材若しくは内層コア材に張り合わせた後に形成される場合もある。以下、このような方法を「キャパシタ回路形成方法1」と称する。
【0004】
また、図7(c)に示すキャパシタ層形成材1の段階から、誘電層の種類によっては、図9(d−2)に示すように、このキャパシタ層形成材1の両面にある下部電極形成層2及び上部電極形成層4の各々の表面にエッチングレジスト層を設けフィルムパターンを露光し現像することで、下部電極及び上部電極形状を形成するためエッチングレジストパターン20を形成する。そして、下部電極形成層2及び上部電極形成層4のエッチング処理を行い、エッチングレジストパターン20を除去することにより、図9(e−2)に示すように下部電極5及び上部電極6を同時に形成することもできる。以下、このような方法を「キャパシタ回路形成方法2」と称する。
【特許文献1】特表2002−539634号公報
【特許文献2】特開平06−140385号公報
【特許文献3】特開2001−358303号公報
【特許文献4】特開平07−294862号公報
【特許文献5】国際公開WO04/079776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のキャパシタ回路形成方法には、以下のような問題点が存在した。上述のキャパシタ回路形成方法1において用いるキャパシタ層形成材1は、薄くハンドリング性を改善するため、下部電極形成層2として厚さ50μm以上の金属箔を用いるのが通常である。この下部電極形成層の厚さレベルは、エッチング加工の対象としての金属箔としては厚いものであり、50μmピッチレベルのファインパターンの下部電極を形成しようとしても生産歩留まりが低く、工業的生産性を全く満足しないという問題がある。
【0006】
また、上記キャパシタ回路形成方法2においては、キャパシタ層形成材1の下部電極形成層2及び上部電極形成層4を同時にエッチング加工する。このとき、下部電極形成層2が厚さ50μm以上の厚さを備えるのに対して、上部電極形成層4は1μm〜5μm程度の厚さであり、下部電極形成層2の加工に要するエッチング時間で、上部電極形成層4もエッチングを受けることになり上部電極がオーバーエッチングを受けることになり、いかに回路設計に工夫を加えても、良好なキャパシタ回路を形成することが困難という問題があった。
【0007】
一方、下部電極形成層に薄い金属箔を用いて、この金属箔の表面に対し、種々の誘電層の形成方法(ゾル−ゲル法、MOCVD法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング蒸着法、塗工法等)を採用して誘電層を直接形成しようとしてきた。ところが、金属箔は薄くなると、しわの発生、折れの発生等があり欠陥発生率が高くなり、誘電層の膜厚均一性も不安定であり、高品質のキャパシタ回路の形成に用いることのできるキャパシタ層形成材を得ることは出来なかった。
【0008】
また、上記特許文献5(WO04/079776号公報)には、下部電極に25μm及び30μmの金属箔を用いる旨が開示されているが、当該文献に開示の手法では、誘電層の膜厚安定性に優れたキャパシタ層形成材の供給は不可能であった。
【0009】
以上の問題が存在することから、50μmピッチレベルのファインパターンの下部電極を形成するため、下部電極形成層の厚さを30μm以下に薄くし、且つ、誘電層の膜厚安定性に優れたキャパシタ層形成材に対する市場要求が強くなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、以下に述べる支持基板付キャパシタ層形成材を採用することで、キャパシタ層形成材の下部電極形成層の厚さを30μm以下に薄くし、且つ、誘電層の膜厚安定性に優れたものを提供できることに想到した。また、この支持基板付キャパシタ層形成材を効率よく製造する方法を同時に提供する。
【0011】
支持基板付キャパシタ層形成材: この支持基板付キャパシタ層形成材は、下部電極形成層と上部電極形成層との間に誘電層が狭持された積層構造のキャパシタ層形成材を提供するための積層部材であり、前記キャパシタ層形成材と支持基板とが積層され、且つ、その積層状態における少なくとも4隅を接着したことを特徴とするものである。
【0012】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材において、前記キャパシタ層形成材は、その下部電極形成層に厚さ3μm〜30μmの金属箔を用いることが好ましい。
【0013】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材において、前記誘電層は、ゾル−ゲル法、MOCVD法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング蒸着法、塗工法のいずれかで形成した厚さが20nm〜1μmの酸化物誘電膜であることが好ましい。
【0014】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材において、前記キャパシタ層形成材の上部電極形成層は、厚さ0.1μm〜30μmの金属層であることが好ましい。
【0015】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材において、前記支持基板は、厚さ30μm〜300μmの金属箔又は金属板であることが好ましい。
【0016】
キャパシタ層形成材: 本件発明にかかるキャパシタ層形成材は、上述の支持基板付キャパシタ層形成材の接着部を除去し、キャパシタ層形成材と支持基板とを分離して得られることを特徴としたものである。
【0017】
支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法: 本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法は、以下に示す工程A〜工程Dを含むことを特徴とするものである。
【0018】
工程A: 厚さ30μm〜300μmの支持基板に対し、下部電極形成層となる厚さ3μm〜30μmの金属箔を重ね合わせ、当該金属箔を前記支持基板に接着させ支持基板付金属箔とする接着工程。
工程B: 前記支持基板付金属箔の金属箔の表面に誘電層を形成する誘電層形成工程。
工程C: 前記誘電層の上に上部電極形成層を設け支持基板付キャパシタ層形成材とする上部電極形成工程。
【0019】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法において、前記接着工程における前記金属箔の少なくとも4隅を前記支持基板に接着させるため、スポット溶接、超音波溶接、ろう付け、接着剤接着のいずれかを用いることが好ましい。
【0020】
そして、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法において、前記誘電層は、ゾル−ゲル法を採用して酸化物誘電膜として形成する場合には、以下の(I)〜(III)の工程により形成されたものであることが好ましい。
【0021】
(I)所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(II)前記ゾル−ゲル溶液を、前記支持基板付金属箔の金属箔表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返し膜厚調整を行う塗工工程。
(III)そして、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【0022】
また、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法において、前記誘電層は、ゾル−ゲル法を採用して酸化物誘電膜として形成する場合には、以下の(i)〜(iii)の工程により形成されたものであることが好ましい。
【0023】
(i)所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(ii)前記ゾル−ゲル溶液を、前記支持基板付金属箔の金属箔表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に1回以上の550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程。
(iii)そして、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【0024】
そして、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法において、前記誘電層は、その表面に、樹脂ワニスを塗工して含浸させ、樹脂乾燥、樹脂硬化させることが好ましい。
【0025】
前記誘電層の表面に塗工する樹脂ワニスは、樹脂ワニス重量を100wt%としたとき、固形分量が0.1wt%〜1.0wt%の希薄樹脂ワニスを用いることが好ましい。
【0026】
キャパシタ層形成材の製造方法: 本件発明にかかるキャパシタ層形成材の製造方法は、前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位を除去し、支持基板を分離除去してキャパシタ層形成材を得ることを特徴とするものである。
【0027】
そして、前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位の除去は、切断法又はエッチング法を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材は、支持基板の存在により、トータル厚さの薄くなったキャパシタ層形成材のハンドリング性を向上させ、薄いキャパシタ層形成材を加工に用いる直前まで折れ、傷発生、汚染等から保護することが可能となる。
【0029】
また、本件発明にかかるキャパシタ層形成材は、支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位を除去し、支持基板を分離除去して得られるものであるため、製造過程において、下部電極形成層の厚さを30μm以下に薄くし、且つ、誘電層を膜厚安定性に優れたものとすることが可能であるため、下部電極形成層に50μmピッチレベルを超えるファインパターン下部電極を形成することが可能となる。
【0030】
更に、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法は、下部電極形成層を薄くしたキャパシタ層形成材の製造に好適であり、トータル厚さの薄いキャパシタ層形成材を効率よく生産することができる。そして、本件発明にかかるキャパシタ層形成材の製造方法は、前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位を除去するのみであり、特段の製造設備の導入を要さず、生産効率に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本件発明に係る支持基板付キャパシタ層形成材: この支持基板付キャパシタ層形成材は、下部電極形成層と上部電極形成層との間に誘電層が狭持された積層構造のキャパシタ層形成材を提供するための積層部材であり、前記キャパシタ層形成材と支持基板とが積層され、且つ、その積層状態における少なくとも4隅を接着したことを特徴とするものである。即ち、支持基板付キャパシタ層形成材の中央部においては、キャパシタ層形成材と支持基板とが未接着の状態となる。
【0032】
このとき、「少なくとも4隅を接着」の意味に関して説明する。この概念に含まれる接着形態に関して、図1に前記キャパシタ層形成材と支持基板との平面図を示し、この接着部12を破線により示している。図1(a)には、前記キャパシタ層形成材と支持基板との外周縁端部を接着した状態を示している。そして、図1(b)には、前記キャパシタ層形成材と支持基板との外周縁端部の対向する2辺のみを接着した状態を示している。更に、図1(c)には、前記キャパシタ層形成材と支持基板との4隅のみを接着した状態を示している。なお、破線部で示した接着部12は、不連続な接着でも、隙間の無い連続的な接着でも構わない。
【0033】
図2(図1(a)の斜視図。)を参照して説明する。この支持基板付キャパシタ層形成材10は、下部電極形成層2と誘電層3と上部電極形成層4とからなるキャパシタ層形成材1と、支持基板11とを積層して、その積層状態における縁端外周部を接着して破線で示した部位(以下、単に接着部12と称する。)のみを張り合わせて一体化したものである。このように、支持基板11を備えることで、トータル厚さの薄くなったキャパシタ層形成材1のハンドリング性を向上させ、薄いキャパシタ層形成材1を市場に供給し、需要者が加工に用いる直前まで折れ、傷発生、汚染等から保護することが可能となる。
【0034】
ここで、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材10において、前記キャパシタ層形成材1の下部電極形成層2には、厚さ3μm〜30μmの金属箔を用いることが好ましい。下部電極形成層2の厚さが、3μm未満の厚さでは下部電極に加工した際のキャパシタ性能の信頼性が損なわれる。これに対し、下部電極形成層2の厚さが、30μmを超えると、50μmピッチレベルを超えるファインパターン下部電極を安定して形成することが不可能となる。
【0035】
そして、下部電極形成層2の構成には、銅、ニッケル、コバルト、金、白金等種々の材質の導電性材料を使用することが可能である。しかしながら、ゾル−ゲル法を用いて誘電層を形成する場合には、高温を負荷されることとなるので、耐熱性金属の内、ニッケル箔又はニッケル合金箔を採用することが好ましい。
【0036】
ここで言うニッケル箔とは、所謂純度が99.9%(その他、不可避不純物)以上の純ニッケル箔で形成される。そして、ニッケル合金箔とは、例えばニッケル−リン合金を用いて形成されたものである。ここで言うニッケル−リン合金のリン含有量は0.1wt%〜11wt%である事が好ましい。ニッケル−リン合金箔のリン成分は、キャパシタ層形成材の製造及び通常のプリント配線板の製造プロセスにおいて高温負荷されることがあれば、誘電層の内部に拡散し、誘電層との密着性を劣化させ、誘電率にも変化を与えていると考えられる。しかしながら、適正なリン含有量を備えたニッケル−リン合金箔は、キャパシタとしての電気特性を向上させる。リン含有量が0.1wt%未満の場合には、純ニッケルを用いた場合と変わらないものとなり、合金化することの意義が失われるのである。これに対し、リン含有量が11wt%を超えると、誘電層の界面にリンが偏析し、誘電層との密着性が劣化し、剥離しやすいものとなるのである。従って、リン含有量は、0.1wt%〜11wt%の範囲が好ましい。そして、誘電層とのより安定した密着性を確保するためには、リン含有量が0.2wt%〜3wt%の範囲であれば工程に一定のバラツキがあっても安定した品質のキャパシタ回路の形成が可能となる。なお、最適な範囲を敢えて指摘するならば、リン含有量が0.25wt%〜1wt%で最も良好な誘電層との密着性を確保し、同時に良好な誘電率をも確保出来るのである。なお、本件発明におけるリン含有量は、[P成分重量]/[Ni成分重量]×100(wt%)として換算した値である。
【0037】
本件発明に言うニッケル箔及びニッケル合金箔とは、圧延法及び電解法等で得られたものの全てを含む。そして、金属箔の最表層に、これらニッケル若しくはニッケル合金層を備えた複合箔の如きものも含む概念として記述している。例えば、下部電極形成層2を構成する材料として、銅箔の表面にニッケル層若しくはニッケル合金層を備えた複合材を用いることもできる。
【0038】
ニッケル箔及びニッケル合金箔のレベルの高温耐熱特性があれば、フッ素樹脂基板、液晶ポリマー等を基板材料としたプリント配線板での、300℃〜400℃の高温加工プロセスを経ても強度の劣化は殆ど無く、結果として、この下部電極形成層2を用いたキャパシタ層形成材の品質劣化も殆ど無いことになる。なお、本件発明に言うニッケル箔及びニッケル合金箔の結晶組織は、結晶粒が可能な限り細かく強度を向上させたものであることが好ましい。更に具体的に言えば、平均結晶粒径0.5μm以下のレベルに微細化され、機械的強度の高い物性を備えることが好ましいのである。
【0039】
次に、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材における前記誘電層は、ゾル−ゲル法、MOCVD法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング蒸着法、塗工法のいずれかで形成した厚さが20nm〜1μmの酸化物誘電膜であることが好ましい。このゾル−ゲル法、MOCVD法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング蒸着法のいずれの方法を採用して形成する誘電層は、結果として、所望の前記酸化物誘電膜として、(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO膜のいずれかであればよいのである。ここで、(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜において、x=0の場合にはBaTiO組成を意味し、x=1の場合にはSrTiO組成を意味するものとなる。そして、この中間組成として、(Ba0.7 Sr0.3)TiO等が存在する。一方、塗工法では、熱硬化性のエポキシ系樹脂成分の中に、粒状のペロブスカイト構造を持つ誘電体フィラーを分散させ、この誘電体フィラー含有樹脂を下部電極形成層の上に塗布して、乾燥、硬化させたものである。このときの樹脂成分、誘電体フィラーの成分に関する特段の限定はない。
【0040】
特に、通常の条件でゾル−ゲル法、MOCVD法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング蒸着法のいずれかで形成した酸化物誘電膜に関しては、その結晶組織内の構造欠陥が多く存在し、酸化物誘電膜の組織を一定の範囲に粗大化し、結晶粒界の少ない状態を作り出すことは困難である。そこで、ゾル−ゲル法、MOCVD法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング蒸着法のいずれかで形成した酸化物誘電膜に樹脂成分を含浸させリーク電流の流路となる構造欠陥を埋設した誘電層を形成することも好ましい。
【0041】
ここで上記含浸に用いる樹脂成分には、エポキシ系樹脂を主剤として用いた樹脂組成物を用いることが好ましい。中でも、樹脂成分総量に対してエポキシ樹脂40重量%〜70重量%、ポリビニルアセタール樹脂20重量%〜50重量%、メラミン樹脂またはウレタン樹脂0.1重量%〜20重量%を含有し、該エポキシ樹脂の5重量%〜80重量%がゴム変成エポキシ樹脂である樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0042】
ここに用いられるエポキシ樹脂としては、積層板等や電子部品の成型用として市販されているものであれば特に制限なく使用できる。具体的に例示すれば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミン化合物、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル等の臭素化エポキシ樹脂等がある。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。またエポキシ樹脂としての重合度やエポキシ当量は特に限定されない。
【0043】
そして、エポキシ系樹脂の「硬化剤」とは、ジシアンジアミド、有機ヒドラジド、イミダゾール類、芳香族アミン等のアミン類、ビスフェノールA、ブロム化ビスフェノールA等のフェノール類、フェノールノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂等のノボラック類、無水フタル酸等の酸無水物等である。また、硬化剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。エポキシ樹脂に対する硬化剤の添加量は、それぞれの当量から自ずと導き出されるものであるため、本来厳密にその配合割合を明記する必要性はないものと考える。従って、本件発明では、硬化剤の添加量を特に限定していない。
【0044】
その他、必要に応じて適宜量添加する硬化促進剤がある。この硬化促進剤には、3級アミン、イミダゾール系、尿素系硬化促進剤等を用いることが出来る。本件発明では、この硬化促進剤の配合割合は、特に限定を設けていない。なぜなら、硬化促進剤は、誘電層の製造工程での生産条件等を考慮して、製造者が任意に選択的に添加量を定めて良いものであるからである。
【0045】
この樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂の配合量は、樹脂成分総量の40重量%〜70重量%であることが好ましい。配合量が40重量%未満であれば、電気特性としての絶縁性及び耐熱性が劣化する。一方、70重量%を超えて配合すると、硬化中の樹脂流れが大きくなり過ぎて、誘電層内で樹脂成分の偏在が起こりやすくなる。
【0046】
そして、エポキシ樹脂組成物の一部として、ゴム変成エポキシ樹脂を使用する事が好ましい。このゴム変性エポキシ樹脂は、接着剤用や塗料用として市販されている製品であれば特に制限なく使用できる。具体的に例を挙げれば、“EPICLON TSR−960”(商品名、大日本インキ社製)、“EPOTOHTO YR−102”(商品名、東都化成社製)、“スミエポキシ ESC−500”(商品名、住友化学社製)、“EPOMIK VSR 3531”(商品名、三井石油化学社製)等がある。これらのゴム変成エポキシ樹脂は1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。ここにおけるゴム変成エポキシ樹脂の配合量は全エポキシ樹脂量の5重量%〜80重量%である。ゴム変成エポキシ樹脂の使用により、誘電層内への樹脂成分の定着を促進する。従って、当該ゴム変成エポキシ樹脂の配合量が5重量%未満の場合には、誘電層内への定着促進効果は得られない。一方、当該ゴム変成エポキシ樹脂の配合量が80重量%を超えるものとすると硬化後の樹脂としての耐熱性が低下する。
【0047】
そして、当該エポキシ樹脂組成物に使用されるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールとアルデヒド類の反応により合成されるものである。現在、ポリビニルアセタール樹脂として、様々な重合度のポリビニルアルコールと1種又は2種類以上のアルデヒド類の反応物が塗料用や接着剤用として市販されているが、本件発明ではアルデヒド類の種類やアセタール化度には特に制限なく使用できる。また原料ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されないが、硬化後の樹脂としての耐熱性や溶剤に対する溶解性を考慮すると、重合度2000〜3500のポリビニルアルコールから合成された製品の使用が望ましい。さらに分子内にカルボキシル基等を導入した変成ポリビニルアセタール樹脂も市販されているが、組み合わされるエポキシ樹脂との相溶性に問題がなければ、特に制限なく使用できる。絶縁層に配合されるポリビニルアセタール樹脂の配合量としては樹脂組成物総量の20重量%〜50重量%である。当該配合量が20重量%未満であれば、樹脂としての流動性を改良する効果が得られない。一方、当該配合量が50重量%を超えると硬化後の絶縁層の吸水率が高くなるので、誘電層の構成材としては極めて好ましくないものとなる。
【0048】
本件発明で用いる樹脂組成物は、上記成分に加えて、前記ポリビニルアセタール樹脂の架橋剤としてメラミン樹脂またはウレタン樹脂を配合させることが好ましい。ここで使用されるメラミン樹脂としては塗料用として市販されているアルキル化メラミン樹脂が使用できる。具体的に例示すると、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂、およびこれらの混合アルキル化メラミン樹脂がある。メラミン樹脂としての分子量やアルキル化度は特に限定されない。
【0049】
当該ウレタン樹脂としては、接着剤用、塗料用として市販されている分子中にイソシアネート基を含有した樹脂が使用できる。具体的に例示するとトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパンやポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等のポリオール類との反応物がある。これらの化合物は樹脂としての反応性が高く、雰囲気中の水分で重合する場合があるので、本件発明では、この不具合の起きないように、これらの樹脂をフェノール類やオキシム類で安定化したブロックイソシアネートと呼ばれるウレタン樹脂の使用が好ましい。
【0050】
本件発明における樹脂組成物に添加するメラミン樹脂またはウレタン樹脂の配合量は、樹脂組成物総量の0.1重量%〜20重量%である。当該配合量が0.1重量%未満ではポリビニルアセタール樹脂の架橋効果が不十分となり、絶縁層の耐熱性が低下し、20重量%を超えて配合すると、誘電層内での定着性が劣化する。
【0051】
この樹脂組成物には、上記必須成分に加えてタルクや水酸化アルミニウムで代表される無機充填剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤等の添加剤を所望により使用することもできる。これらは誘電層に対する樹脂成分の浸透性を改良し、難燃性向上、コストの低減等に効果がある。
【0052】
以上に述べた樹脂組成物は、誘電層内への含浸が容易となるように、溶剤を用いて固形分量を一定の範囲に制御した希薄樹脂ワニスとして用いる。
【0053】
更に、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材において、前記キャパシタ層形成材の上部電極形成層は、厚さ0.1μm〜30μmの金属層であることが好ましい。
上部電極形成層は、誘電層の上に、金属箔を用いて張り合わせる方法、メッキ法で導電層を形成する方法、スパッタリング蒸着等の方法で形成されるものであり、通常0.1μm〜30μm程度の厚さが採用される。上部電極形成層4の厚さが、0.1μm未満の厚さでは上部電極に加工した際のキャパシタ性能の信頼性が損なわれる。これに対し、上部電極形成層4の厚さが、30μmを超える厚さとすると、下部電極に比べ上部電極の方が小さく作り込まれるのが通常であり、下部電極をファインパターンで形成しても、その精度に追随できる上部電極形状に加工することが困難となる。
【0054】
そして、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材において、前記支持基板は、厚さ30μm〜300μmの金属箔又は金属板を用いることが好ましい。支持基板の厚さが30μm未満の場合には、支持基板付キャパシタ層形成材としての強度が不足し、ハンドリング性を飛躍的に向上させるものとならない。また、支持基板の厚さが300μmを超えると、支持基板をエッチング除去しようとしたときのエッチング時間が長くなり、工業的に求められる生産効率を満足しない。
【0055】
キャパシタ層形成材: 本件発明にかかるキャパシタ層形成材は、上述の支持基板付キャパシタ層形成材の接着部を除去し、キャパシタ層形成材と支持基板とを分離して得られることを特徴としたものである。支持基板付キャパシタ層形成材の中央部においては、キャパシタ層形成材と支持基板とは未接着であるから、上述の支持基板付キャパシタ層形成材の接着部を除去することで、キャパシタ層形成材が容易に得られることになる。
【0056】
支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法: 本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法は、以下に示す工程A〜工程Dを含むことを特徴とするものである。以下、行程ごとに説明する。
【0057】
工程A: この接着工程では、厚さ30μm〜300μmの支持基板に対し、下部電極形成層となる厚さ3μm〜30μmの金属箔を重ね合わせ、当該金属箔の少なくとも4隅を前記支持基板に接着させ支持基板付金属箔とする。なお、この接着に際して、当該金属箔にシワの発生無きよう一定の張力がかかった状態で行うことが好ましい、
【0058】
図3の模式断面図を用いて説明する。最初に、図3(a)に示すように、厚さ30μm〜300μmの支持基板11に対し、下部電極形成層2となる厚さ3μm〜30μmの金属箔を重ね合わせ、接着部12で前記支持基板に接着させ、図3(b)に示す支持基板付金属箔とする。
【0059】
このときの前記金属箔の縁端外周部のみを前記支持基板に接着させるには、スポット溶接、超音波溶接、ろう付け、接着剤接着のいずれかを用いることが好ましい。特に、接着部12の厚さの変動が少ないスポット溶接又は超音波溶接のいずれかを用いることが好ましい。スポット溶接、ろう付け、接着剤接着に関しては、当業者間では公知であり、特段の説明は要さないと考える。そこで、超音波溶接に関して説明しておく。支持基板11に対し、下部電極形成層2を積層し、重ねられた下部電極形成層(金属箔)2と支持基板11の縁端外周部を超音波溶接ユニットで溶接する。このときの超音波溶接ユニットには、例えば、円盤形状の振動体であるホーンと、ホーンに対向して設置される円盤形状のアンビルとが設けられ、積層された下部電極形成層(金属箔)2と支持基板11とを前記ホーンとアンビルとで挟み超音波振動を負荷しつつ加圧して連続溶接できるようにしたものである。
【0060】
工程B: この誘電層形成工程では、図3(b)に示した前記支持基板付金属箔の下部電極形成層(金属箔)2の表面に誘電層3を形成する。このときの誘電層の形成には、以下に述べる2種類の方法のいずれかを採用することが好ましい。
【0061】
第1の誘電層の形成方法は、以下の(I)工程〜(III)工程を備える。(I)工程は、所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程である。この工程に関して、特段の制限はなく、市販の調製剤を使用しても、自らが配合しても構わない。結果として、所望の(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO膜のいずれか得ることが出来ればよいのである。
【0062】
(II)工程は、前記ゾル−ゲル溶液を下部電極形成層2とする金属箔の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返し膜厚調整を行う塗工工程である。ここで、ゾル−ゲル溶液を下部電極形成層2の表面に塗工する際の塗工手段に関しては、特に限定を要さない。しかしながら、膜厚の均一性及びゾル−ゲル溶液の特質等を考慮する限り、スピンコーターを用いることが好ましい。
【0063】
そして、ゾル−ゲル溶液の塗工が完了すると、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う。このときの乾燥条件は、120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で行われる。この条件を外れると、乾燥が不十分で後の熱分解後の誘電膜表面に粗れが生じたり、乾燥が過剰になると、後の熱分解反応が不均一になり得られる誘電膜の場所的な品質バラツキを生じやすくなる。この乾燥及び熱分解を行うときには、酸素含有雰囲気で行う。即ち、還元雰囲気で行うと有機物の分解が促進されない。
【0064】
上記乾燥が終了すると、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う。ここで、採用した熱分解温度が極めて特徴的である。従来の熱分解温度には450℃〜550℃の温度範囲が採用されてきた。これに対し、本件発明に係る製造方法では、下部電極形成層の余分な酸化を防止するため270℃〜390℃という低温域での熱分解温度を採用しているのである。ここで熱分解温度を270℃未満とすると、いかに長時間の加熱を続けても良好な熱分解が起こりにくく、生産性に欠けると共に、良好なキャパシタ特性が得られない。一方、誘電膜は、下部電極形成層の表面上に形成するものであり、390℃を超える加熱を行うと、誘電膜と下部電極形成層との界面に於いて、下部電極形成層の表面の酸化が顕著に見られるようになる。しかしながら、大量生産を行う上での工程のバラツキと品質の安全性を考慮すると、それ以下の温度である370℃程度を上限とする事が好ましい。そして、加熱時間は、採用する分解温度とゾル−ゲル溶液の性状によって決められるものであるが、上記の加熱温度範囲を採用することを前提に、5分未満の加熱では十分な熱分解が行えない。また、加熱時間が30分を超えると、上記温度範囲でも下部電極形成層表面の酸化が進行するのである。
【0065】
上述した(II)の工程は、複数回繰り返され、所望の膜厚とする調整が行われる。繰り返し行うときの、乾燥及び熱分解条件に関しても、上述と同様の条件を用いることが出来る。
【0066】
(III)工程は、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。この焼成工程を経て、最終的な誘電層となる。この焼成工程では、金属材である下部電極形成層の酸化劣化を防止するため、不活性ガス置換又は真空雰囲気で加熱を行う。このときの加熱温度には、550℃〜800℃×5分〜60分の条件を採用する。この温度条件未満の加熱では、焼成が困難であり、下部電極形成層との密着性に優れ、酸化物結晶組織が適度に肥大化した良好な誘電膜が得られないのである。そして、この温度条件を超える過剰の加熱を行うと、誘電膜の劣化及び下部電極形成層の物理的強度の劣化が進行し、機械的強度に優れたキャパシタ層形成材が得られないばかりか、キャパシタ特性である高い電気容量及び長寿命化が図れなくなる。
【0067】
第2の誘電層の形成方法は、結晶粒径を可能な限り大きく、且つ、緻密なものとするために、以下の(i)工程〜(iii)工程を備えることが好ましい。
【0068】
(i)工程は、所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程である。この工程に関して、特段の制限はなく、市販の調製剤を使用しても、自らが配合しても構わない。結果として、所望の前記酸化物誘電膜として、(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO膜のいずれか得ることが出来ればよいのである。
【0069】
(ii)工程は、前記ゾル−ゲル溶液を下部電極形成層の表面に塗工し(以下の説明上、単位「塗工」と称する。)、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し(以下の説明上、単位「乾燥」と称する。)、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う(以下の説明上、単位「熱分解」と称する。)一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に少なくとも1回以上の550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程である。
【0070】
即ち、この工程では、塗工→乾燥→熱分解の連続した一連の工程を1単位工程と称している。そして、従来の方法では、単にこの1単位工程を複数回繰り返して、最終的に焼成していた。これに対し、本件発明では、1単位工程を複数回繰り返す途中に、少なくとも1回以上の予備焼成工程を設けるのである。従って、例えば6回の1単位工程を繰り返し行う場合で考えると、1回の予備焼成工程を設けるとすれば1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→1単位工程(3回目)→1単位工程(4回目)→1単位工程(5回目)→1単位工程(6回目)のプロセスを採用する等である。そして、2回の焼成工程を設けるとすれば、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→1単位工程(3回目)→予備焼成工程→1単位工程(4回目)→1単位工程(5回目)→1単位工程(6回目)のプロセスを採用する等である。更に、全ての1単位工程間に焼成工程を設けるとすれば、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→予備焼成工程→1単位工程(3回目)→予備焼成工程→1単位工程(4回目)→予備焼成工程→1単位工程(5回目)→予備焼成工程→1単位工程(6回目)のプロセスを採用することになる。
【0071】
従来のゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電膜の結晶状態は、微細な結晶粒が存在し、結晶粒内に多数のボイドが確認出来る。これはゾル−ゲル液に含まれる有機成分が、焼成時に蒸発気散するためであると考えられる。これに対して、この(ii)工程を採用することにより、酸化物誘電膜の組織が、膜密度が高く緻密で、結晶粒内のボイド等の構造欠陥の少ない状態になる。従って、ここに樹脂成分を含浸させれば、よりリーク電流は小さく、高容量の誘電層を備えるキャパシタ層形成材が得られる。
【0072】
ここで、1単位工程の塗工に関して述べる。ゾル−ゲル溶液を下部電極形成層の表面に塗工する際の塗工手段に関しては、特に限定を要さない。しかしながら、膜厚の均一性及びゾル−ゲル溶液の特質等を考慮する限り、スピンコーターを用いることが好ましい。
【0073】
そして、ここで言う金属基材には、上述と同様の理由でニッケル層又はニッケル合金層を用いることが好ましい。
【0074】
次に、1単位工程の乾燥に関して述べる。ゾル−ゲル溶液の塗工が完了すると、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う。このときの乾燥条件は、120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で行われ、この条件を外れると、乾燥が不十分で後の熱分解後の誘電膜表面に粗れが生じたり、乾燥が過剰になると、後の熱分解反応が不均一になり得られる誘電膜の場所的な品質バラツキを生じやすくなる。この乾燥及び熱分解を行うときには、酸素含有雰囲気で行う。即ち、還元雰囲気で行うと有機物の分解が促進されない。
【0075】
更に、1単位工程の熱分解に関して述べる。上記乾燥が終了すると、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う。ここで、採用した熱分解温度が極めて特徴的である。従来の熱分解温度には450℃〜550℃の温度範囲が採用されてきた。これに対し、本件発明に係る製造方法では、金属基材の余分な酸化を防止するため270℃〜390℃という低温域での熱分解温度を採用しているのである。ここで熱分解温度を270℃未満とすると、いかに長時間の加熱を続けても良好な熱分解が起こりにくく、生産性に欠けると共に、良好なキャパシタ特性が得られない。一方、誘電膜は、金属基材の表面上に形成するものであり、390℃を超える加熱を行うと、誘電膜と金属基材との界面に於いて、金属基材の表面の酸化が顕著に見られるようになる。しかしながら、大量生産を行う上での工程のバラツキと品質の安全性を考慮すると、それ以下の温度である370℃程度を上限とする事が好ましい。そして、加熱時間は、採用する分解温度とゾル−ゲル溶液の性状によって決められるものであるが、上記の加熱温度範囲を採用することを前提に、5分未満の加熱では十分な熱分解が行えない。また、加熱時間が30分を超えると、上記温度範囲でも金属基材表面の酸化が進行するのである。
【0076】
そして、上述した1単位工程と1単位工程との間に設ける予備焼成工程は、550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行う。この条件は、以下に述べる(iii)工程と同様であるため、その説明で数値の臨界的意義等を述べることとする。
【0077】
(iii)工程は、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程である。この焼成工程が所謂本焼成工程であり、この焼成を経て、最終的な誘電層となる。この焼成工程では、金属材である基材の酸化劣化を防止するため、不活性ガス置換又は真空雰囲気で加熱を行う。このときの加熱温度には、550℃〜800℃×5分〜60分の条件を採用する。この温度条件未満の加熱では、焼成が困難であり、基材との密着性に優れ、適正な緻密さと適度な粒度の結晶組織を備える誘電膜が得られないのである。そして、この温度条件を超える過剰の加熱を行うと、誘電膜の劣化及び基材の物理的強度の劣化が進行し、キャパシタ特性である高い電気容量及び長寿命化が図れなくなる。
【0078】
そして、当該誘電層3に樹脂成分を含浸させリーク電流を低くしようとする場合の樹脂ワニスは、上述の樹脂成分を、有機溶剤を用いて溶解し、固形分量0.1wt%〜1.0wt%の樹脂ワニスとするのである。ここで、固形分量が0.1wt%未満の場合には粘度が低すぎて、誘電層中に有機成分が残留せず、樹脂含浸を行う意義が没却する。一方、固形分量が1.0wt%を超えると、塗工工程にバラツキがあり、スピンコーターで過剰量の樹脂を塗工する状況となったとき、粘度が高すぎるため、誘電層の上に樹脂膜を形成することになり、結果として電気容量密度が低下するため好ましくない
【0079】
ここで樹脂ワニスの固形分量の調整に用いる有機溶剤は、例えば、エチルメチルケトンとシクロペンタノンのいずれか一種の溶剤又はこれらの混合溶剤を用いて溶解するのである。エチルメチルケトンとシクロペンタノンとは、190℃程度の加熱により効率よく揮発除去することが容易であり、且つ、揮発ガスの浄化処理も容易である。しかも、樹脂溶液の粘度を誘電層に含浸させるのに最も適した粘度に調節することが容易だからである。そして、エチルメチルケトンとシクロペンタノンとの混合溶剤を用いて溶解することは、環境的な見地より好ましいのである。混合溶剤とする場合の、混合割合にも特に限定はないが、シクロペンタノンを用いる場合には、揮発除去の速度を考え、エチルメチルケトンをその共存溶媒とすることが好ましいのである。但し、ここに具体的に挙げた溶剤以外でも、本件発明で用いるすべての樹脂成分を溶解することの出来るものであれば、その使用が可能である。
【0080】
そして、この樹脂ワニスを誘電層の表面に塗布するには、種々の方法を採用することが可能である。しかし、樹脂ワニスの固形分量が、通常の樹脂ワニスと比べて極めて希薄であるため、スピンコート法を採用して塗工することが塗工の均一性を維持する観点から好ましい。以上に述べた誘電層3の形成が終了すると、図3(c)に示すような模式断面図の状態となる。
【0081】
工程C: この工程は、前記誘電層の上に上部電極形成層を設け支持基板付キャパシタ層形成材とする上部電極形成工程である。この上部電極形成層4は、誘電層3の上に、金属箔を用いて張り合わせる方法、メッキ法で導電層を形成する方法、スパッタリング蒸着等の方法で形成される。この上部電極形成層4の形成が終了すると、図4(d)に示すような模式断面図の支持基板付キャパシタ層形成材10の状態となる。
【0082】
キャパシタ層形成材の製造方法: 本件発明にかかるキャパシタ層形成材の製造方法は、前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着部を除去し、支持基板を分離除去して、図4(e)に示すように、キャパシタ層形成材を得ることを特徴とするものである。このときの接着部を除去する際の方法に関しては、特段の限定はない。当業者の考え得る手段を採用することが可能である。
【0083】
しかしながら、前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着部の除去は、切断法又はエッチング法で除去することが好ましい。切断法とは、図4(e)に観念的に示したように、カット刃14で接着部12の内側で切断して、支持基板11とキャパシタ層形成材1とを分離するのである。これに対して、エッチング法は、上部電極形成層4の表面にエッチングレジスト層を設け、エッチングパターンを露光し、現像して、接着部12の領域の上部電極形成層4、誘電層3、下部電極形成層2をエッチングして接着部12までを溶解除去し、支持基板11とキャパシタ層形成材1とを分離するのである。
【実施例1】
【0084】
<本件発明に係る支持基板付キャパシタ層形成材の製造>
(支持基板の製造)
ここでは、圧延法で製造した厚さ100μm、30cm×30cmサイズのニッケル箔を使用した。なお、圧延法で製造したニッケル箔の厚さはゲージ厚さとして示したものである。以下、同様である。
【0085】
(下部電極形成層用の金属箔の製造)
ここでは、圧延法で製造した厚さ10μm、30cm×30cmサイズのニッケル箔を使用した。
【0086】
(支持基板と下部電極形成層(金属箔)との張り合わせ)
支持基板11の表面に、下部電極形成層(金属箔)2をシワの発生無きよう一定の張力を掛けた状態で重ねて、図3(b)に示すように、少なくとも上記支持基板11と下部電極形成層用箔2との界面で接着するように、スポット溶接で縁端外周部を接着した。
【0087】
(誘電層の形成)
上述の下部電極形成層(金属箔)2の表面にゾル−ゲル法を用いて誘電層を形成した。ゾル−ゲル法で誘電層を形成する前の、下部電極形成層(金属箔)2は、前処理として、250℃×15分の加熱を行い、紫外線の1分間照射を行った。
【0088】
(a)この溶液調製工程では、ゾル−ゲル法に用いるゾル−ゲル溶液を調製した。ここでは、 三菱マテリアル株式会社製7wt%BST(70/30/100)を用いて、所望の組成の(Ba0.7 Sr0.3)TiO酸化物誘電膜を得られるように調製した。
【0089】
(b)上記ゾル−ゲル溶液を、スピンコーターを用いて、前記ニッケル箔の表面に塗工し、150℃×2分の酸素含有雰囲気(大気雰囲気)で乾燥し、330℃×15分の大気雰囲気での熱分解を行い、更にこの塗工工程を5回繰り返し膜厚調整を行った。
【0090】
(c)そして、最終的に650℃×15分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)での焼成処理を行い所定の組成の誘電層3を形成した。
【0091】
(上部電極形成層の形成)
以上のようにして形成した誘電層3の上に、スパッタリング蒸着法により0.2μm厚さの銅層を上部電極形成層4として形成した。このようにして、図4(d)に模式的に示した支持基板付キャパシタ層形成材10を得た。
【0092】
<本件発明に係る支持基板付キャパシタ層形成材の製造>
以上のようにして得た支持基板付キャパシタ層形成材10の4辺を接着した部位を、図4(e)に示す要領でシェアカッターで切り落として、支持基板を分離して、図4(f)に示すごとき下部電極形成層2が10μm厚さのキャパシタ層形成材1を得た。
【0093】
<キャパシタ回路の形成>
前記キャパシタ形成材の上部電極形成層4の表面にエッチングレジスト層を設け、上部電極形状を形成するためのエッチングパターンを露光し、現像した。その後、塩化銅系銅エッチング液で上部電極形成層4をエッチングして、エッチングレジスト剥離を行うことで、上部電極面積が5mm×5mmサイズの400個のキャパシタ回路を形成した。
【0094】
<誘電特性等の評価>
以下の諸特性は、HIOKI社製 3532−50 LCR Hi TESTER(1kHz、1V)で測定した。キャパシタ回路の形成後に、各試料の400個のキャパシタ回路に、所定の電圧を負荷して、層間耐電圧測定を行い、上部電極と下部電極との間でのショート現象の見られない割合をみた。その結果、電極歩留りは73%であった。そして、平均電気容量密度は1310nF/cmと高い電気容量を示し、誘電損失は2.4%であった。
【実施例2】
【0095】
この実施例では、本件発明に係る支持基板付キャパシタ層形成材の製造にあたり、支持基板の両面にキャパシタ層形成材を備えるタイプを製造した。
【0096】
<本件発明に係る支持基板付キャパシタ層形成材の製造>
(支持基板の製造)
実施例1と同様の圧延法で製造した厚さ100μm、30cm×30cmサイズのニッケル箔を使用した。
【0097】
(下部電極形成層用の金属箔の製造)
ここでは、圧延法で製造した厚さ10μm、30cm×30cmサイズのニッケル箔を2枚使用した。
【0098】
(支持基板と下部電極形成層(金属箔)との張り合わせ)
図5(a)に示すように、支持基板11の両面に、下部電極形成層(金属箔)2を、シワの発生無きよう一定の張力を掛けた状態で、超音波溶接法を用いて隙間無く張り合わせた。即ち、下部電極形成層(金属箔)2に重ねて、図5(b)に示すように、少なくとも上記支持基板11と下部電極形成層用箔2との界面が溶液等の侵入無きように、超音波溶接で縁端外周部を接着した。
【0099】
(誘電層の形成)
上述の両面にある下部電極形成層(金属箔)2の表面にゾル−ゲル法を用いて誘電層を形成した。ゾル−ゲル法で誘電層を形成する前の、両面の下部電極形成層(金属箔)2は、前処理として、250℃×15分の加熱を行い、紫外線の1分間照射を行った。
【0100】
(a)この溶液調製工程では、ゾル−ゲル法に用いるゾル−ゲル溶液を調製した。ここでは、ここでは、三菱マテリアル株式会社製の商品名 BST薄膜形成剤 7wt%BST(70/30/100)を用いて、Ba0.7Sr0.3TiOの組成の酸化物誘電膜を得られるように調製した。
【0101】
(b)上記ゾル−ゲル溶液の中に、支持基板11の両面に下部電極形成層(金属箔)2を超音波溶接法で隙間無く張り合わせたものを浸漬して引き上げて、150℃×2分の酸素含有雰囲気(大気雰囲気)で乾燥し、330℃×15分の大気雰囲気での熱分解を行い、更にこの塗工工程を5回繰り返し膜厚調整を行った。
【0102】
(c)そして、最終的に650℃×15分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)での焼成処理を行い、図5(c)に示すように両面に誘電層3を形成した。
【0103】
(上部電極形成層の形成)
以上のようにして形成した誘電層3の上に、スパッタリング蒸着法により0.2μm厚さの銅層を上部電極形成層4として形成した。このようにして、図6(d)に模式的に示した支持基板付キャパシタ層形成材10を得た。
【0104】
<本件発明に係る支持基板付キャパシタ層形成材の製造>
以上のようにして得た支持基板付キャパシタ層形成材10の4辺の接着部12を、図6(e)に示す要領でシェアカッターで切り落として、支持基板を分離して、図6(f)に示すように、2枚の下部電極形成層2が10μm厚さのキャパシタ層形成材1を得た。以下、キャパシタ層形成材A及びキャパシタ層形成材Bと称する。
【0105】
<キャパシタ回路の形成>
前記キャパシタ形成材(キャパシタ層形成材A及びキャパシタ層形成材B)の上部電極形成層4の表面にエッチングレジスト層を設け、上部電極形状を形成するための、エッチングパターンを露光し、現像した。その後、塩化銅系銅エッチング液で上部電極形成層4をエッチングして、エッチングレジスト剥離を行うことで、上部電極面積が5mm×5mmサイズの400個のキャパシタ回路を形成した。
【0106】
<誘電特性等の評価>
以下の諸特性は、HIOKI社製 3532−50 LCR Hi TESTER(1kHz、1V)で測定した。キャパシタ回路の形成後に、各試料の400個のキャパシタ回路に、所定の電圧を負荷して、層間耐電圧測定を行い、上部電極と下部電極との間でのショート現象の見られない割合をみた。その結果、電極歩留りはキャパシタ層形成材Aを用いた場合が72%、キャパシタ層形成材Bを用いた場合が71%であった。そして、平均電気容量密度はキャパシタ層形成材Aを用いた場合が1357nF/cm、キャパシタ層形成材Bを用いた場合が1352nF/cmと高い電気容量を示し、誘電損失はキャパシタ層形成材Aを用いた場合が2.5%、キャパシタ層形成材Bを用いた場合が2.6%であった。この結果より、キャパシタ層形成材Aを用いた場合、キャパシタ層形成材Bを用いた場合共に、大きな品質変動はなく、良好なキャパシタ回路の形成が可能となることが分かる。
【実施例3】
【0107】
この実施例では、実施例1の支持基板付キャパシタ層形成材の製造条件の中で、誘電層の形成方法が以下のように異なるのみである。
【0108】
即ち、誘電層の形成にあたり、まず実施例1と同様のゾル−ゲル溶液を調製し(実施例1の(a)工程に相当)、そのゾル−ゲル溶液を下部電極形成層2の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で150℃×2分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で330℃×15分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とした。そして、この1単位工程を6回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に少なくとも1回以上の700℃×15分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行った。即ち、1回目の1単位工程と2回目の1単位工程との間及び3回目の1単位工程と4回目の1単位工程との間の計2回の予備焼成工程を設けた(実施例1の(b)工程に相当)。そして、上記の試料を650℃×15分の不活性ガス置換(窒素置換雰囲気)雰囲気で焼成処理を行い、下部電極形成層2の表面に誘電層3を形成した(実施例1の(c)工程に相当)。
【0109】
以下、実施例1と同様にして、支持基板付キャパシタ層形成材10を得て、その4辺の接着部を、シェアカッターで切り落として、支持基板を分離して、図4(f)に示すような、下部電極形成層2が10μm厚さのキャパシタ層形成材1を得た。
【0110】
そして、実施例1と同様にエッチング法で、上部電極面積が5mm×5mmサイズの400個のキャパシタ回路を形成し誘電特性等の評価を行った。
【0111】
<誘電特性等の評価>
その結果、電極歩留りはキャパシタ層形成材Aを用いた場合が72%、キャパシタ層形成材Bを用いた場合が64%であった。そして、平均電気容量密度は1689nF/cmと高い電気容量を示し、誘電損失は3.5%であった。
【比較例】
【0112】
この比較例では、図7(a)に示すように下部電極形成層2として厚さ10μm、30cm×30cmサイズのニッケル箔を用意して、実施例1と同様の方法で、図7(b)に示すように誘電層3を形成した。しかしながら、誘電層3の形成過程において、当該10μm厚さのニッケル箔にシワが生じ、良好な膜厚均一性に優れた誘電層3の形成が出来たとは考え得なかった。
【0113】
そして、図7(c)に示すように、実施例1と同様の方法で、上部電極形成層4を形成しキャパシタ層形成材1とした。この段階のキャパシタ層形成材1としてのトータル厚さは、約10.4μmであり、ハンドリングに際してかなり慎重な取扱が必要であった。
【0114】
次に、このキャパシタ層形成材1の上部電極形成層4の表面にエッチングレジスト層を設けフィルムパターンを露光し現像することで、上部電極形状を形成するためエッチングレジストパターンを形成し、上記実施例と同様の上部電極面積が5mm×5mmサイズの400個のキャパシタ回路を形成し誘電特性等の評価を行った。
【0115】
<誘電特性等の評価>
その結果、電極歩留りは5%であり、上記実施例と比べ、かなり低く工業的生産性を満足しないレベルであった。そして、平均電気容量密度は834nF/cmであり、実施例と比べて低くなっており、しかも、ここの回路による測定値のバラツキは非常に大きかった。また、誘電損失は12.1%であり、上記実施例に比べ大きなものであった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材は、支持基板の存在により、トータル厚さの薄くなったキャパシタ層形成材のハンドリング性を向上させる。従って、当該支持基板付キャパシタ層形成材を使用する者は、細心の注意を払う必要なく、薄いキャパシタ層形成材を加工に用いる直前までハンドリングでき、折れ、傷発生、汚染等から保護することが可能となる。
【0117】
そして、本件発明にかかるキャパシタ層形成材は、上記支持基板付キャパシタ層形成材の接着部を除去し、支持基板を分離除去して得られるものである。即ち、一旦、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の形態を経て得られるものであり、下部電極形成層の厚さを30μm以下に薄くし、且つ、誘電層を膜厚安定性に優れたものとできる。従って、従来の技術では不可能であった50μmピッチレベルを超えるファインパターンの下部電極を形成することが可能となる。
【0118】
更に、本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法は、支持基板とキャパシタ層形成材とを予め張り合わせることで、下部電極形成層を薄くしたキャパシタ層形成材の製造を可能とした。この製造方法は、トータル厚さの薄いキャパシタ層形成材を効率よく生産することができる。そして、本件発明にかかるキャパシタ層形成材の製造方法は、前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着部を除去するのみであり、特段の製造設備の導入を要さず、生産効率に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】キャパシタ層形成材と支持基板との接着部の概念を示す平面模式図である。
【図2】本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材の層構成等を理解するための模式斜視図である。
【図3】本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材を得て、キャパシタ層形成材を製造するまでのフローを示す模式断面図である。
【図4】本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材を得て、キャパシタ層形成材を製造するまでのフローを示す模式断面図である。
【図5】本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材を得て、キャパシタ層形成材を製造するまでのフローを示す模式断面図である。
【図6】本件発明にかかる支持基板付キャパシタ層形成材を得て、キャパシタ層形成材を製造するまでのフローを示す模式断面図である。
【図7】従来の方法によるキャパシタ層形成材の製造フローを示す模式断面図である。
【図8】従来の方法によるキャパシタ層形成材の製造フローを示す模式断面図である。
【図9】従来の方法によるキャパシタ層形成材の製造フローを示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0120】
1 キャパシタ層形成材
2 下部電極形成層(金属箔)
3 誘電層
4 上部電極形成層
5 下部電極
6 上部電極
10 支持基板付キャパシタ層形成材
11 支持基板
12 接着部
14 カッター刃
20 エッチングレジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極形成層と上部電極形成層との間に誘電層が狭持された積層構造のキャパシタ層形成材を提供するための積層部材であり、
前記キャパシタ層形成材と支持基板とが積層され、且つ、その積層状態における少なくとも4隅を接着したことを特徴とする支持基板付キャパシタ層形成材。
【請求項2】
前記キャパシタ層形成材は、その下部電極形成層に厚さ3μm〜30μmの金属箔を用いたものである請求項1に記載の支持基板付キャパシタ層形成材。
【請求項3】
前記誘電層は、ゾル−ゲル法、MOCVD法、スパッタリング蒸着法、エアロゾルデポジション法、塗工法のいずれかで形成した厚さが20nm〜1μmの酸化物誘電膜である請求項1又は請求項2に記載の支持基板付キャパシタ層形成材。
【請求項4】
前記キャパシタ層形成材の上部電極形成層は、厚さ0.1μm〜30μmの金属層である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の支持基板付キャパシタ層形成材。
【請求項5】
前記支持基板は、厚さ30μm〜300μmの金属箔又は金属板である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の支持基板付キャパシタ層形成材。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位を除去し、キャパシタ層形成材と支持基板とを分離して得られることを特徴としたキャパシタ層形成材。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法であって、
以下に示す工程A〜工程Dを含むことを特徴とする支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法。
工程A: 厚さ30μm〜300μmの支持基板に対し、下部電極形成層となる厚さ3μm〜30μmの金属箔を重ね合わせ、当該金属箔の少なくとも4隅を前記支持基板に接着させ支持基板付金属箔とする接着工程。
工程B: 前記支持基板付金属箔の金属箔の表面に誘電層を形成する誘電層形成工程。
工程C: 前記誘電層の上に上部電極形成層を設け支持基板付キャパシタ層形成材とする上部電極形成工程。
【請求項8】
前記接着工程における前記金属箔の少なくとも4隅を前記支持基板に接着させるため、スポット溶接、超音波溶接、ろう付け、接着剤接着のいずれかを用いる請求項7に記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法。
【請求項9】
前記誘電層は、ゾル−ゲル法を採用して酸化物誘電膜として形成する場合において、以下の(I)〜(III)の工程により形成されたものであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法。
(I)所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(II)前記ゾル−ゲル溶液を、前記支持基板付金属箔の金属箔表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返し膜厚調整を行う塗工工程。
(III)そして、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【請求項10】
前記誘電層は、ゾル−ゲル法を採用して酸化物誘電膜として形成する場合において、以下の(i)〜(iii)の工程により形成されたものであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法。
(i)所望の酸化物誘電膜を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(ii)前記ゾル−ゲル溶液を、前記支持基板付金属箔の金属箔表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に1回以上の550℃〜800℃×2分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程。
(iii)そして、最終的に550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換又は真空雰囲気での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【請求項11】
前記誘電層は、その表面に、樹脂ワニスを塗工して含浸させ、樹脂乾燥、樹脂硬化させるものである請求項7〜請求項10に記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法。
【請求項12】
前記誘電層の表面に塗工する樹脂ワニスは、樹脂ワニス重量を100wt%としたとき、固形分量が0.1wt%〜1.0wt%の希薄樹脂ワニスである請求項11に記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法。
【請求項13】
請求項6に記載の下部電極形成層と上部電極形成層との間に誘電層が狭持された積層構造のキャパシタ層形成材の製造方法であって、
前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位を除去し、支持基板を分離除去してキャパシタ層形成材を得ることを特徴としたキャパシタ層形成材の製造方法。
【請求項14】
前記支持基板付キャパシタ層形成材の接着した部位の除去は、切断法又はエッチング法を用いる請求項13に記載のキャパシタ層形成材の製造方法。
【請求項15】
請求項7〜請求項12のいずれかに記載の支持基板付キャパシタ層形成材の製造方法を用いて得られる支持基板付キャパシタ層形成材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−35975(P2007−35975A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218060(P2005−218060)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】