説明

改善された性能を有する切削液

500〜1,000,000の分子量を有し、1分子当り3個より多くの酸基を含む未中和の又は部分的に中和された高分子酸により中和されたポリアルキレングリコールを含む切削液によって、ワイヤ鋸による半導体結晶の切断が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削液に関する。一実施態様において、本発明はポリアルキレングリコール(PAG)を含む切削液に関し、別の実施態様において、本発明は高分子酸で中和されたPAGを含む切削液に関する。さらに別の実施態様において、本発明はPAGを製造する方法に関し、さらに別の実施態様において、本発明は半導体結晶を切断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ鋸(wire saw)切断は、電子デバイス及び光起電力デバイスを製造するためのウェハーを生産するために、半導体結晶、例えばシリコンインゴット、ガリウムヒ素(GaAs)、ガリウムリン(GaP)などをスライスすることに広く使用されている。ワイヤ鋸スライスは、切削液と当該液中に懸濁された研磨剤粒子、一般的には炭化ケイ素(SiC)の研磨剤粒子とからなる研磨スラリーにより提供される研磨研削作用によって機能する。切削液は、(i)研磨剤粒子及び切り屑(すなわち、結晶の切断により生じた半導体結晶の小片)を懸濁及び保持すること、(ii)加工物を潤滑すること、及び(iii)切断部位で生じた摩擦熱を除去することによって、効率的かつ正確なスライスを達成するのに重要な役割を果たす。
【0003】
ポリアルキレングリコール(PAG)、特にポリエチレングリコール(PEG)は、半導体結晶の切削液として一般的に使用されている。半導体ウェハーの需要は、特に光起電力市場において、増大し続けており、シリコンウェハーのより費用効果の高い生産が求められている。シリコンウェハーの生産についての費用及び品質は、切断速度を増加させること、ウェハーの歩留まりを増加させること、ウェハーの全厚変動(TTV)を減少させること、鋸の痕及びゆがみを減少させること、ウェハーの厚さを減少させること、及びカッティングワイヤの寿命を長くすることによって改善することができる。これらの改善は全て、研磨剤、例えばSiC粒子、及び結晶、例えばシリコンの切り屑をより有効に分散させることのできるより高性能の切削液を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1つの周知の解決法は、分散剤、例えば高分子電解質などをPAGに加えて、配合PAG系切削液(formulated PAG-based cutting fluids)を製造することである。しかしながら、この追加の配合工程は、切削液の製造の複雑さ及び費用を増加させる。本発明は、SiC及びSi粒子に対する分散性能が改善されたが分散剤を加えるさらなる工程を必要としない切削液としてPAG材料を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施態様において、本発明は、高分子酸で中和されたポリアルキレングリコールである。
【0006】
一実施態様において、本発明は、中和されたポリアルキレングリコールの製造方法であって、
A.塩基触媒を使用してアルキレンオキシドを重合して塩基性PAGを形成する工程、及び
B.前記塩基性PAGを中和量の高分子酸で中和する工程、
を含む方法である。
上記重合は、水、アルキレングリコール、アルキレングリコールのオリゴマー、又は脂肪族若しくは芳香族のモノ−、ジ−、トリ−又は多官能性アルコールのうちの1又は2種以上により開始される。塩基触媒は、典型的には、水酸化ナトリウム又はカリウムである。
【0007】
一実施態様において、本発明は、高分子酸で中和されたPAGを含む切削液である。本発明の高分子酸で中和されたPAGは、単独で使用するか、あるいは、従来通り中和された1又は2種以上の他のPAGと組み合わせて又はリサイクルされたPAG材料と混合された1又は2種以上の他のPAGと組み合わせて使用することができる。従来通り中和された1又は2種以上の他のPAGと組み合わせて又はリサイクルされたPAG材料と混合された1又は2種以上の他のPAGと組み合わせて使用される場合、本発明の高分子酸で中和されたPAGは、典型的には、その組み合わせの少なくとも30体積%、好ましくは少なくとも50体積%を構成する。
【0008】
一実施態様において、本発明は、脆い材料をワイヤ鋸により切断する方法であり、当該方法は、高分子酸で中和されたPAGを含む切削液を、材料がワイヤ鋸により切断される際にその材料に適用する工程を含む。一実施態様において、脆い材料は半導体結晶又はインゴットである。
【0009】
高分子酸は、500〜1,000,000の分子量を有するポリマーであり、典型的には、高分子酸は、1分子当り3個以上の酸基を含む。本発明の実施において使用される高分子酸は中和されておらず、ほんの部分的な中和もされていないため、PAG中の残留塩基触媒を中和するのに十分な酸性度を提供することができる。
【0010】
本発明の高分子酸で中和されたPAGは、従来製造されていたPAG切削液と比べて、研磨剤SiC及びシリコン粉末を分散させることについて著しい改善を示す。本発明は、高性能の切削液、及び費用効果の高いその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール300の炭化ケイ素沈降速度を報告するグラフである。
【0012】
【図2】図2は、炭化ケイ素粒子と、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール300とを含むサンプルについての沈降試験の上部透明体積を報告する図である。
【0013】
【図3】図3は、部分的に中和(NaOHにより)されたポリアクリル酸で中和されたPEG 300を含む分散体の沈降と酢酸で中和されたポリエチレングリコール300の沈降とを比較するケイ素粉末分散体の写真である。
【0014】
【図4】図4は、SiC粒子と、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール300とを含む試験サンプルの粘度を報告する図である。
【0015】
【図5】図5は、SiC粒子と、シリコン粉末(切り屑)と、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール300とを含む試験サンプルの粘度を報告する図である。
【0016】
【図6】図6は、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール300中にSiC粒子を含む試験スラリーの粘度を報告するグラフである。
【0017】
【図7】図7は、SiC粒子と、シリコン粉末と、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール300とを含む試験スラリーの粘度を報告するグラフである。
【0018】
【図8】図8は、SiC粒子と、種々の酸で中和されたポリエチレングリコール200とを含む試験スラリーの粘度を報告するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特に断らず、文脈から暗示されておらず、又は当該技術分野において慣例でない限り、全ての部数及び百分率は質量を基準とし、全ての試験方法は、本開示の出願日当時のものである。米国特許のプラクティスのために、いずれの特許、特許出願又は刊行物の内容も、特に合成法、定義(本開示で具体的に示す定義と矛盾しない範囲で)及び当該技術分野での一般知識について、それらの全体を引用により本明細書に援用する(又はその対応する米国版を引用により援用する)。
【0020】
本開示における数値範囲はおおよその範囲であるため、特に断らない限りその範囲の外側の値を含むことがある。数値範囲は、任意の小さい方の値と任意の大きい方の値との間が少なくとも2単位離れている場合、1単位きざみで、下限値及び上限値からの値及び下限値及び上限値を含む全ての値を含む。一例として、組成、物理的特性又は他の特性、例えば分子量、粘度、メルトインデックスなどが100〜1,000である場合に、100、101、102などの全ての個々の値と、サブ範囲、例えば、100〜144、155〜170、197〜200などが明示的に列挙されていることを意図する。1未満である値を含む範囲又は1よりも大きい分数(例えば1.1、1.5など)を含む範囲の場合、1単位は必要に応じて0.0001、0.001、0.01又は0.1である。10未満の一桁の数字を含む範囲(例えば1〜5)の場合、1単位は典型的には0.1であると見なされている。これらは、具体的に何を意図しているのかの例にすぎず、列挙した最低値と最高値の間の全ての可能な組み合わせが本開示に明示的に記載されているとみなされるべきである。数値範囲は、特に、切削液の成分の量及び様々なプロセスパラメーターについて、本開示中に示されている。
【0021】
ポリアルキレングリコール(PAG)
本発明の一実施態様は、水及び一価、二価又は多価化合物のうちの1又は2以上により開始され、当該技術分野で知られている反応条件(例えば"Alkylene Oxides and Their Polymers", Surfactant Science Series, Vol. 35参照)のもとで塩基触媒により促進される、アルキレンオキシドモノマー又はアルキレンオキシドモノマーの混合物の重合によるポリアルキレングリコールの製造である。重合の完了によって、反応混合物をベントし、反応混合物を1又は2種以上の高分子酸の添加により中和する。中和されたポリアルキレングリコール生成物は4.0〜8.5のpH値を有し、ウェハー切削液として有用である。
【0022】
一実施態様において、開始剤はエチレン若しくはプロピレングリコール又はそれらのうちの1つのオリゴマーである。一実施態様において、開始剤は、式:
O−(CHRCHO)−R
(式中、R及びRは、独立に、直鎖又は分岐構造を有するC〜C20脂肪族又は芳香族基であって、1又は2個以上の不飽和結合を含んでいてもよいC〜C20脂肪族又は芳香族基であるか、水素であり、ただし、R及びRのうちの少なくとも1つは水素であることを条件とし;各Rは独立に水素、メチル又はエチルであり;mは0〜20の整数である)により表される化合物である。一実施態様において、出発化合物は3個以上のヒドロキシル基を含む炭化水素化合物、例えばグリセロール又はソルビトールである。
【0023】
触媒は、塩基、典型的には、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩、脂肪族アミン、芳香族アミン、又は複素環式アミンのうちの少なくとも1つである。一実施態様において、水酸化ナトリウム又はカリウムが塩基触媒である。
【0024】
重合においてモノマーとして使用されるアルキレンオキシドはC〜Cオキシド、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、ヘキセンオキシド、又はオクテンオキシドである。一実施態様において、アルキレンオキシドはエチレン又はプロピレンオキシドである。
【0025】
本発明の一実施態様において、ポリアルキレンオキシドはポリエチレンオキシド、又はエチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)の水溶性コポリマー、又は、それらのうちの1つのモノメチル、エチル、プロピル又はブチルエーテル、あるいは、グリセロールにより開始されたポリエチレンオキシド又はEOとPOのコポリマーである。一実施態様において、ポリアルキレングリコールは、130〜1,000、より典型的には200〜600の平均分子量を有する。
【0026】
高分子酸
本発明の実施において使用される高分子酸は、典型的には、500〜1,000,000の分子量を有し、1分子当たり3個より多くの酸基を含む。酸基は、典型的には、ポリマー主鎖に組み込まれたか、炭素−炭素(C−C)結合、エステル結合、エーテル結合又は他の共有化学結合を介してポリマー主鎖にグラフト化したカルボン酸、マレイン酸、スルホン酸又はリン酸のうちの1又は2以上である。一実施態様において、高分子酸は、切削液製品において酸又はその中和塩の溶解性を高めるために、アルキレンオキシド単位を含むコポリマーである。本発明の実施に使用される高分子酸は、未中和又は部分的に中和(例えば、75%以下、典型的には50%以下)された酸性状態にあるものであるため、ポリアルキレングリコール中の塩基触媒を中和するのに十分な酸性度を与えることができる。
【0027】
一実施態様において、高分子酸の典型的な分子量は500〜500,000の範囲内、より典型的には1000〜10,000の範囲内である。
【0028】
一実施態様において、高分子酸は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ−又はコポリマーであり、ポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシドのモノ−アルキル又はアリールエーテルがエステル又はエーテル結合を介してグラフト化したものである。一実施態様において、高分子酸は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のうちの1又は2以上がラジカルグラフト化したポリアルキレンオキシドである。一実施態様において、酸基又は高分子酸鎖は、加水分解的に安定なC−C又はエーテル結合を介してアルキレンオキシド反復単位と結合している。
【0029】
切削液
本発明の切削液は、高分子酸で中和された塩基触媒(base-catalyzed)ポリアルキレングリコールを含む。高分子酸、又は複数の高分子酸の混合物を、ポリアルキレングリコールニートに、あるいは、水溶液、又は極性溶剤、例えばアルコール、グリコール、グリコールエーテル、アミド、エステル、ケトン又はスルホキシドのうちの1又は2種以上の溶液に加えることができる。切削液が4.0〜8.5、又は4.5〜8.0、あるいは5.0〜7.5の範囲内のpHを有するように十分な高分子酸をポリアルキレングリコールに加える。典型的には、高分子酸は、重合反応の終わりに、極性溶剤又は水中の高分子酸の溶液として濃度1〜99質量%(wt%)、より典型的には濃度5〜60wt%で、塩基触媒ポリアルキレングリコールに加えられる。
【0030】
切削液は、他の成分を、例えば極性溶剤(例えば、アルコール、アミド、エステル、エーテル、ケトン、グリコールエーテル又はスルホキシド)、増粘剤(例えば、キサンタンガム、ラムサンガム又はアルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロール)、界面活性剤、殺生物剤、腐食防止剤、染料、香料などを含んでもよい。これら他の成分は、周知の様式で、周知の量で使用される。本発明の切削液は、水を含んでいたとしても少しである。水が存在する場合、水は、典型的には15wt%未満、より典型的には5wt%未満、さらに典型的には1wt%未満である。
【0031】
一実施態様において、切削液は、高分子酸により4.0〜8.5のpHに中和又は部分的に中和された、式:
O−(CHRCHO)
(式中、Rは、直鎖又は分岐構造を有するC〜C20脂肪族又は芳香族基であって、1又は2個以上の不飽和結合を含んでいてもよいC〜C20脂肪族又は芳香族基であるか、水素であり;Rは水素、メチル又はエチルであり;nは1〜50の整数である)により表される塩基触媒ポリアルキレングリコールを含む。切削液中のポリアルキレングリコールの量は、典型的には80〜99.5wt%、より典型的には90〜99.5wt%、さらに典型的には95〜99wt%である。切削液中の高分子酸の量は典型的には0.01〜5質量%(wt%)、より典型的には0.05〜3wt%、さらに典型的には0.1〜2wt%である。切削液中の添加剤の合計量は、典型的には0.01〜10質量%(wt%)、より典型的には0.05〜5wt%、さらに典型的には0.1〜3wt%である。
【0032】
切削液の使用
最終的には、切削液は、切削スラリーを形成するために、研磨剤材料と混合される。本発明のこの実施態様の実施において使用できる研磨剤材料としては、ダイヤモンド、シリカ、炭化タングステン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、又は他の硬質グリット粉末、あるいは類似の材料が挙げられる。最も好ましい研磨剤材料の1つは炭化ケイ素である。一般的に、平均粒子サイズは、グリット粉末の国際グレード呼称に依存して、約2〜50ミクロン、好ましくは5〜30ミクロン、さらに好ましくは5〜15ミクロンである。切削スラリー中の研磨剤材料の濃度は典型的には20〜70wt%、より典型的には25〜60wt%、さらに典型的には35〜60wt%である。
【0033】
切削スラリーは、周知の様式で使用される。典型的には、切削スラリーは、加工物をカッティングワイヤに接触させる際に、カッティングワイヤに吹き付けられる。カッティングワイヤは、一般的にワイヤ鋸又はワイヤウェブ(wire−web)として知られている切削装置の一部であり、通常、互いに平行に一定のピッチで配置された細いワイヤの列から構成される。加工物を、同じ方向に互いに平行に並んでいるこれらの細いワイヤ(典型的には0.1〜0.2ミリメートル(mm)の直径を有する)に押し当て、一方、切削スラリーを加工物とワイヤの間に供給し、加工物を研磨研削作用によりウェハーにスライスする。ワイヤ−ウェブが加工物に当たる直前に、切削スラリーのブランケットカーテンをウェブ上に落下させる循環システムを通じて、運動しているウェブ又はワイヤ上に液体懸濁研磨剤粒子をコートする。このようにして、液体により担持された研磨剤粒子は、コートされたワイヤにより転写され、研削又は切削効果を生じる。これらのワイヤ鋸は米国特許第3,478,732号、第3,525,324号、第5,269,275号及び第5,270,271号により詳しく記載されている。
【0034】
以下の実施例は、本発明の幾つかの実施態様の例示である。全ての部数及び百分率は、特に断らない限り、質量を基準とする。
【実施例】
【0035】
具体的実施態様
実施例1:ポリエチレングリコール(PEG 300)材料の合成及び中和
5ガロン耐圧反応器を窒素でパージし、5201グラム(g)のジエチレングリコール及び29.55gの水酸化カリウム溶液(45wt%KOH)を入れた。反応器に窒素を20ポンド毎平方インチ(psia)(2.90mPa)まで充填し、135℃に加熱した。約20〜50psia(2.90〜7.25mPa)の圧力で、130℃〜140℃で、エチレンオキシド(9850g)を反応器に24時間(hr)にわたって計量供給した。エチレンオキシドの供給が完了した後、反応器を135℃の反応温度でさらに2時間攪拌して未反応のオキシドを消費した。
【0036】
重合が完了したら、約1リットルの反応混合物を窒素保護下でフラスコに移し入れた。窒素充填ドライボックス中で、表1に掲載した酸を、生成物のpHが5.0〜7.5の範囲内になるまで加えた。pH値は、pH計により室温で生成物の5%水溶液について求めた。酢酸及び他のモノカルボン酸、ビカルボン酸、クエン酸、ポリアクリル酸(PAA)、部分的に中和されたポリアクリル酸ナトリウム塩(PAA Na)、及びポリ(アクリル酸−co−マレイン酸)を使用して粗生成物を中和した。加えた酸のそれぞれの量及び最終生成物の塩基性を表1に掲載する。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例2:種々の酸で中和されたPEG材料におけるSiC粒子(#1200)の沈降試験
200ミリリットル(ml)広口ガラスボトルに、秤量した13.3±0.1gのSiC(中国のOmex製の#1200)を入れ、次に120±1gのPEG 300液を入れた。蓋をしたボトルをVWR DS−500 Orbital Shakerにより250回毎分(rpm)で20時間振とうした。混合したサンプルを100ml目盛り付きシリンダー(±1ml)に即座に入れた。底部にある沈降物層の体積を様々な時間で記録した。沈降物の体積がより小さいほど、SiC粒子に対する液の分散性がより良好であることを示す。種々の酸で中和されたPEG材料から得られた結果を図1に報告する。部分的に中和されたPAA及びPAMAで中和されたPEG 300は、モノ−、ジ−及びトリ酸で中和されたPEG 300材料よりもSiC粒子の分散がかなり良好である。PAAはPEG 300に可溶でないため、生成物は十分に中和されなかった。
【0039】
実施例3:種々の酸で中和されたPEG材料におけるSi粒子の沈降試験
200ml広口ガラスボトルに、秤量した13.3±0.1gのSi粉末(99.0+%、サイズ<10ミクロン、Atlantic Equipment Engineers)を入れ、次に120±1gのPEG 300液を入れた。蓋をしたボトルをVWR DS−500 Orbital Shakerにより250rpmで24時間振とうした。混合したサンプルを100ml目盛り付きシリンダー(±1ml)に即座に入れた。シリンダーに栓をし、室温で静置した。28時間後、上部の透明層の体積を記録した。種々の酸で中和されたPEG材料から得られた結果を図2に報告する。透明層の体積がより小さいほど、Si粉末の分散がより良好であることを意味する。これらの結果から、部分的に中和されたPAA(Na PAA)及びPAMAで中和されたPEG 300材料は、モノ−、ジ−及びトリ酸で中和されたPEG 300材料よりもSi粉末の分散がかなり良好であることが判る。
【0040】
室温で6日間静置した後に、Na PAAで中和されたPEG 300材料及び酢酸で中和されたPEG 300材料中のSi粉末分散体の写真を撮影した。それらの写真を図3に示す。Na PAAで中和されたサンプル中のSi粉末はまだよく分散していたが、酢酸で中和されたPEG中の粉末は完全に沈降していた。
【0041】
実施例4:種々の酸で中和されたPEG材料中のSiC−PEGスラリーの粘度
SiC粒子(Omex製#1200)及び上記のように調製された中和されたPEG 300を1:1(質量/質量)で混合し、次に、Cowlesブレードを使用してLightninミキサーにより1000rpmで10分間(min)攪拌し、SiC−PEGスラリーを形成した。このスラリーの粘度を、#31スピンドル及び小サンプルアダプターを使用してブルックフィールド(Brookfield)レオメーターにより25℃で測定した。種々の酸で中和されたPEG 300材料中のスラリーの粘度を図4に報告する。Na PAAで中和されたPEG 300から調製されたスラリーは、他の酸で中和されたものよりもかなり低い粘度を有していた。このことは、Na PAAで中和されたPEG材料中の粒子の凝集がより少ないことを示している。
【0042】
実施例5:種々の酸で中和されたPEG材料中にSi粉末(切り屑)を含むSiC−PEGスラリーの粘度
SiC粒子(Omex製#1200)及び上記のように調製された中和されたPEG 300を1:1(質量/質量)で混合し、次に、5wt%のSi粉末(99.0+%、サイズ<10ミクロン、Atlantic Equipment Engineers)を加えた。混合物を、Cowlesブレードを使用してLightninミキサーにより1000rpmで10分間攪拌し、SiC−PEGスラリーを形成した。スラリーの粘度を、#31スピンドル及び小サンプルアダプターを使用してブルックフィールドレオメーターにより25℃で測定した。種々の酸で中和されたPEG 300材料中のスラリーの粘度を図5において比較する。Na PAAで中和されたPEG 300から調製されたスラリーは、他の酸で中和されたものよりもかなり低い粘度を有していた。このことは、Na PAAで中和されたPEG材料中の粒子の凝集がより少ないことを示している。
【0043】
実施例6:ポリエチレングリコール(PEG 300)材料の合成及び高分子酸による中和
実施例1に記載したPEG 300の調製及び中和の手順に従って、PEG 300材料を調製し、表2に掲載した種々の高分子酸で中和した。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例7:種々の高分子酸で中和されたPEG 300材料におけるSiC粒子(#1200)の沈降試験
200ml広口ガラスボトルに、秤量した13.3±0.1gのSiC粉末(Omex製#1200)を入れ、次に120±1gのPEG 300液を入れた。蓋をしたボトルをVWR DS−500 Orbital Shakerにより250rpmで20時間振とうした。混合したサンプルを100ml目盛り付きシリンダー(±1ml)に即座に入れた。底部の沈降物層の体積を様々な時間で記録した。沈降物の体積がより小さいほど、SiC粒子に対する液の分散がより良好であることを示す。種々の高分子酸で中和されたPEG材料から得られた結果を表3において比較する。
【0046】
【表3】

【0047】
上記結果は、従来の酢酸で中和されたPEG 300と比べて、高分子酸で中和されたPEG 300材料がSiC粒子を良好に懸濁することを示している。
【0048】
実施例8:高分子酸で中和されたPEG 300におけるSiCスラリーの粘度
SiC粒子(#1200)及び実施例6で調製したEPML−483で中和されたPEG 300をそれぞれ0.8:1、1:1及び1.2:1(質量/質量)で混合し、Cowlesブレードを使用してLightninミキサーにより1000rpmで10分間攪拌し、SiC−PEGスラリーを形成した。スラリーの粘度を、#31スピンドル及び小サンプルアダプターを使用してブルックフィールドレオメーターにより25℃で測定した。スラリーの粘度を、従来の酢酸で中和されたPEG 300から調製されたスラリーの粘度と図6において比較する。EPML−483で中和されたPEG 300におけるSiC添加量の増加に伴う粘度の増加は、従来の酢酸で中和されたPEG 300におけるものよりも遅かった。
【0049】
SiC粒子(#1200)及び実施例6で調製したEPML−483で中和されたPEG 300を1:1(質量/質量)で混合し、次に、3、5及び7wt%のSi粉末(99.0+%、サイズ<10ミクロン、Atlantic Equipment Engineers)を加えた。混合物を、Cowlesブレードを使用してLightninミキサーにより1000rpmで10分間攪拌し、SiC−PEGスラリーを形成した。スラリーの粘度を、#31スピンドル及び小サンプルアダプターを使用してブルックフィールドレオメーターにより25℃で測定した。Si含有スラリーの粘度を、従来の酢酸で中和されたPEG 300材料から調製された同様のスラリーと比較し、図7に報告する。EPML−483で中和されたPEG 300から調製された同様のスラリーと比較し、様々なSi粉末添加量で、従来の酢酸で中和されたPEG 300から調製されたものよりも低かった。
【0050】
実施例9:ポリエチレングリコール(PEG 200)材料の合成及び中和
実施例1に記載したものと同様の手順に従って、酢酸、EPML−483、ポリ(4−スチレンスルホン酸)(PSA)、50%TMAH中和EPML−483、及び30%TMAH中和ポリアクリル酸により仕上げされたPEG 200材料を調製した。
【0051】
実施例10:種々の高分子酸で中和されたPEG 200材料におけるSiC粒子(#1200)の沈降試験
200ml広口ガラスボトルに、秤量した13.3±0.1gのSiC粉末(Omex製#1200)を入れ、次に120±1gの実施例9で調製したPEG 200液を入れた。蓋をしたボトルをVWR DS−500 Orbital Shakerにより250rpmで20時間振とうした。混合したサンプルを100ml目盛り付きシリンダー(±1ml)に即座に入れた。底部の沈降物層の体積を様々な時間で記録した。沈降物の体積がより小さいほど、SiC粒子に対する液の分散がより良好であることを示す。種々の高分子酸で中和されたPEG材料から得られた結果を表4に報告する。
【0052】
【表4】

【0053】
上記データから、高分子酸により仕上げされたPEG 200材料が、従来の酢酸で中和されたPEG 200よりもSiC粒子に対して良好な懸濁を示すことが判る。
【0054】
実施例11:高分子酸で中和されたPEG 200におけるSiCスラリーの粘度
SiC粒子(#1200)及び実施例10で調製したEPML−483で中和されたPEG 200をそれぞれ0.8:1、1:1及び1.2:1(質量/質量)で混合し、Cowlesブレードを使用してLightninミキサーにより1000rpmで10分間攪拌し、SiC−PEGスラリーを形成した。スラリーの粘度を、#31スピンドル及び小サンプルアダプターを使用してブルックフィールドレオメーターにより25℃で測定した。スラリーの粘度を、従来の酢酸で中和されたPEG 200から調製されたスラリーの粘度と図8において比較する。EPML−483で中和されたPEG 200から調製されたスラリーの粘度は、従来の酢酸で中和されたPEG 200から調製されたものよりも、SiC粒子添加量の増加に伴う増加がより遅かった。
【0055】
実施例12:高分子酸で中和されたPEG 200材料と従来の酢酸で中和されたPEG 200との混合物におけるSiC粒子(#1200)の沈降試験
200ml広口ガラスボトルに、秤量した13.3±0.1gのSiC(中国のOmex製の#1200)を入れ、次に、実施例9で調製したEPML−483で中和されたPEG 200液と従来の酢酸で中和されたPEG 200との質量比1:1の混合物120±1グラムを入れた。蓋をしたボトルをVWR DS−500 Orbital Shakerにより250rpmで20時間振とうした。従来の酢酸で中和されたPEG 200中の同様なSiC分散体を比較例として調製した。混合したサンプルを100ml目盛り付きシリンダー(±1ml)に即座に入れた。底部にある沈降物層の体積を記録した。2時間後、従来の酢酸で中和されたPEG 200から調製されたサンプルにおける沈降物層の体積は4.5mlであり、EPML−483で中和されたPEG 200と従来の酢酸で中和されたPEG 200との混合物から調製されたサンプルにおける沈降物層の体積は約0.1mlであった。このことは、混合PEG 200サンプルにおける分散がかなり良好であることを示す。
【0056】
本発明を上記の特定の実施態様により詳しく説明したが、この詳細は、例示を主な目的とする。特許請求の範囲に記載の本発明の精神及び範囲から離れずに、当業者は多くの変更及び改良を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
500〜1,000,000の分子量を有し、1分子当り3個より多くの酸基を含む未中和の又は部分的に中和された高分子酸で中和されたポリアルキレングリコール。
【請求項2】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のうちの1又は2種以上がラジカルグラフト化したポリアルキレンオキシドである、請求項1に記載のポリアルキレングリコール。
【請求項3】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ又はコポリマーであり、ポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシドのモノ−アルキル若しくはアリールエーテルがグラフト化したものである、請求項1に記載のポリアルキレングリコール。
【請求項4】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ−又はコポリマーである、請求項1に記載のポリアルキレングリコール。
【請求項5】
中和されたポリアルキレングリコールの製造方法であって、
A.塩基触媒を使用してアルキレンオキシドを重合して塩基性PAGを形成する工程、及び
B.中和量の、500〜1,000,000の分子量を有し、かつ、1分子当り3個より多くの酸基を含む未中和の又は部分的に中和された高分子酸によって、前記塩基性PAGを中和する工程、
を含む製造方法。
【請求項6】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のうちの1又は2種以上がラジカルグラフト化したポリアルキレンオキシドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ−又はコポリマーである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記高分子酸がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ−又はコポリマーであり、ポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシドのモノ−アルキル若しくはアリールエーテルがグラフト化したものである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
500〜1,000,000の分子量を有し、かつ、1分子当り3個より多くの酸基を含む未中和の又は部分的に中和された高分子酸で中和されたPAGを含む切削液。
【請求項10】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のうちの1又は2種以上がラジカルグラフト化したポリアルキレンオキシド;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ−又はコポリマー;あるいは、かかるホモ−又はコポリマーであって、ポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシドのモノ−アルキル若しくはアリールエーテルがグラフト化したホモ−又はコポリマーである、請求項9に記載の切削液。
【請求項11】
ワイヤ鋸により半導体結晶を切削する方法であって、500〜1,000,000の分子量を有し、かつ、1分子当り3個より多くの酸基を含む未中和の又は部分的に中和された高分子酸で中和されたPAGを含む切削液を、ワイヤ鋸により前記結晶を切削する際に前記結晶に適用する工程を含む方法。
【請求項12】
前記高分子酸が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のうちの1又は2種以上がラジカルグラフト化したポリアルキレンオキシド;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸のホモ−又はコポリマー;あるいは、かかるホモ−又はコポリマーであって、ポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシドのモノ−アルキル若しくはアリールエーテルがグラフト化したホモ−又はコポリマーである、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−507488(P2013−507488A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533451(P2012−533451)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/CN2009/001149
【国際公開番号】WO2011/044716
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】