説明

放熱材料およびそれを用いた半導体用放熱板と半導体用放熱部品、並びに放熱材料の製造方法

【課題】低熱膨張率と高熱伝導率を両立し、なおかつ安価な放熱材料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】CrとCuに加えてWおよび/またはMoを含有し、W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、かつ粒子状Cr相に加えて、粒子状W相および/または粒子状Mo相がCu相基地中に分散した組織を有する放熱材料である。その製造方法の一例として、CrとCuに加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、得られた焼結体を500〜750℃の温度範囲で時効熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に搭載された半導体素子等の発熱体から発生する熱を速やかに放散させるために用いられ、低い熱膨張率と高い熱伝導率を両立させた放熱材料、およびそれを用いた半導体用放熱板(たとえばヒートシンク材,ヒートスプレッダー材等)や半導体用放熱部品(たとえば半導体用キャリア,半導体用ケース等)、並びに放熱材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の電子部品を搭載した電子機器を作動させる際には、電子回路への通電に伴い電子機器が発熱する。電子機器の高出力化に伴い、作動時の発熱量はますます増加する傾向にあるが、温度が上昇し過ぎると半導体素子の特性が変化し、電子機器の動作が不安定になる問題が生じる。また長時間にわたって使用することによって過剰な高温に曝されると、電子部品の接合材(たとえばハンダ等)や絶縁材(たとえば合成樹脂等)が変質して、電子機器の故障の原因になる。そのため、電子部品から発熱する熱を速やかに放散させる必要がある。そこで、熱を放散させるための放熱材料が種々検討されている。
【0003】
半導体素子は、たとえば窒化アルミニウム(AlN)にAl電極をダイレクトボンディングした基板(いわゆるDBA基板)上にハンダ付けあるいはロウ付けされた後、放熱材料の上に同様の方法により固定される。その際、DBA基板の熱膨張率は5〜7×10-6-1であるため、接合される放熱材料としては、これに近い熱膨張率を有することが要求される。現在使用されている放熱材料としては、W−Cu系複合材料の熱膨張率が6〜9×10-6-1であり、Mo−Cu系複合材料の熱膨張率が7〜14×10-6-1である。このように接合される相手材に近い熱膨張率を有することにより、半導体素子の発熱によって発生する熱応力の影響を小さく抑えることができる。
【0004】
放熱材料は、熱膨張が少ないことに加えて、熱伝導率が大きいことが要求されるが、単相の材料で両者を同時に達成することは難しい。そのため、熱膨張率の小さい材料と熱伝導率の大きい材料を組み合わせた複合材料が多く用いられている。
このような例として、たとえば特許文献1には、W−Cu,Mo−Cu等の金属−金属系複合材料が提案されている。W,Moは熱膨張率が低く、他方、Cuは熱伝導率が高いという特性を利用する技術である。
【0005】
また特許文献2には、SiC−Al,Cu2O−Cu等のセラミックス−金属系の複合材料が開示されている。
さらに特許文献3にはCr−Cu,Nb−Cu等の金属−金属系複合材料が開示されている。特許文献3は、Cr−Cu系合金について、低熱膨張率と高熱伝導率を共に達成するための技術である。この技術は、2〜50質量%のCrを含有するCu合金について、第2相として存在する凝固の際に析出するCr相のアスペクト比を10以上とすることによって、複合則から予想されるよりも低い熱膨張率を得ることが可能になるというものである。しかしながら、製造方法は溶解鋳造法を前提としているので、開示されている鋳造方法ではCr含有量が増加すると、融点が高くなる上、凝固偏析が生じるので均質な合金製造が困難である。これを均質化するためには、高温長時間の均質化熱処理に加えて、熱間鍛造や熱間圧延工程が必要となる。したがって、特許文献3の実施例には、30質量%を超えるCrを含有する例は開示されていない。また、凝固の際の1次析出相であるCr相のアスペクト比を10以上とするので、たとえば冷間圧延では90%以上の圧下を必要とする。その結果、製造コストの上昇を招き、しかも製品として提供できる放熱材料の寸法が制限されるという問題がある。
【0006】
非特許文献1には、30質量%以上のCrを含むCr−Cu合金を溶解と冷間加工によって均一に製造する技術が開示されている。すなわち、CrとCuの混合粉末を焼結したものを消耗電極として用い、高価なアーク溶解法で鋳造し、さらに室温での延性が不十分なCrが変形しないように押出し法によって丸棒を製造する方法である。押出し法は、Crに対してCu相からの静水圧が働くため、加工が容易となることを利用したものである。この技術では経済性に問題があり、かつ放熱材料のような薄い板状の材料の製造には適していない。
【0007】
また発明者らは、特許文献4に、熱処理によって熱膨張率を調整したCr−Cu材を放熱材料に適用する技術を開示している。この技術は、Cr粉末を使用し、Cuと焼結あるいは溶浸を行なって合金化し、同様に時効熱処理を行なってCr相中から粒子状のCr相の析出を図るものである。
【特許文献1】特公平5-38457号公報
【特許文献2】特開2002-212651号公報
【特許文献3】特開2000-239762号公報
【特許文献4】特開2005-330583号公報
【非特許文献1】Siemens Forsch.-Ber.Bd,17(1988)No.3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した通り、発熱量の大きい半導体素子は、主にハンダ付けによって半導体用放熱板や半導体用放熱部品に固定することによって効率良く放熱しながら使用される。
しかし、特許文献1で提案されているW−Cu,Mo−Cuなどの金属−金属系複合材料を用いた放熱材料は、切削加工やプレス加工等の機械加工性は良好であるものの、その原料であるWやMoの粉末が高価であるという問題点がある。
【0009】
また特許文献2で提案されているSiC−Al,Cu2O−Cuなどのセラミックス−金属系複合材料は硬くて、機械加工性に劣り、さらに均一なめっき処理が困難であるという問題がある。
本発明は、上述の複合材料と同程度の熱膨張率をもちながら、W,Moの含有量を少なくすることにより、低熱膨張率と高熱伝導率を両立し、なおかつ安価な放熱材料、並びに放熱材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、CrがWやMoと同じく周期表のVIa族に属する金属であって、Moに近い熱膨張率と、金属の中では比較的高い熱伝導率を有し、かつWやMoに比べて安価に入手できることに着目し、Cr−Cu系の金属材料について鋭意研究した。その結果、Crを少量含む高Cu合金に適当な熱処理を施すことによって、熱膨張率が極めて低くなることを見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち本発明は、CrとCuに加えてWおよび/またはMoを含有し、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、かつCr相粒子に加えて、W相粒子および/またはMo相粒子がCu相基地中に分散した組織を有する放熱材料である。
本発明の放熱材料においては、前記した組成のW含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であることが好ましい。
【0012】
また、Cr相粒子に加えてW相粒子および/またはMo粒子がCu相基地中に分散し、かつ長径100nm以下の微細粒Cr相が形成されることが好ましい。その微細粒Cr相のアスペクト比は10未満であることが好ましい。微細粒Cr相の分布密度は20個/μm2 以上であることが好ましい。
さらに本発明は、上記した放熱材料を使用した半導体用放熱板、あるいは上記した放熱材料を一部に取付けた半導体用放熱部品である。
【0013】
また本発明は、W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、CrとCuに加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、得られた焼結体を500〜750℃の温度範囲で時効熱処理する放熱材料の製造方法である。
【0014】
あるいは本発明は、W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、CrとCuに加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結し、得られた焼結体に900〜1050℃の温度範囲で溶体化熱処理を施して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、さらに500〜750℃の温度範囲で時効熱処理する放熱材料の製造方法である。
【0015】
あるいは本発明は、W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、Cr、またはCrとCu、に加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結し、得られた焼結体にCuまたはCu−Cr合金を溶浸して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、さらに得られた溶浸体を500〜750℃の温度範囲で時効熱処理する放熱材料の製造方法である。
【0016】
あるいは本発明は、W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、Cr、またはCrとCu、に加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結し、得られた焼結体にCuまたはCu−Cr合金を溶浸し、得られた溶浸体に900〜1050℃の温度範囲で溶体化熱処理を施して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、さらに500〜750℃の温度範囲で時効熱処理する放熱材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高熱伝導率と低熱膨張率を両立させた放熱材料を安価に得ることができる。さらに、その放熱材料を使用する(あるいは一部に取付ける)ことによって、優れた放熱特性を有する半導体用放熱板や半導体用放熱部品を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、本発明の放熱材料の製造方法について説明する。
本発明では、Cr粉末に加えて、W粉末および/またはMo粉末を原料として、粉末冶金技術を採用する。粉末冶金技術の採用によって、Cr,W,Moの粉末を原料として使用し、これを焼結した後でCuまたはCr−Cu合金を溶浸することによって、Cr,W,Moを均一に分布させた放熱材料の製造が可能になった。さらに時効熱処理を施すことによって、溶浸のままの状態に比べて熱膨張率を低減させることができる。
【0019】
Cr粉末,W粉末,Mo粉末の粒度は、いずれも250μm以下のもの(JIS規格Z2510に準拠して篩分けしたもの)を使用することが好ましい。特に、小型の放熱材料を製造する場合には、Cr粉末,W粉末,Mo粉末の粒度は、いずれも平均粒度D50が150μm以下であることが一層好ましい。
また、Cr,W,Moの粉末中の不純物は、溶浸体の加工性向上の観点から、可能な限り低減することが好ましい。すなわちCr粉末,W粉末,Mo粉末の純度は、いずれも99質量%以上が好ましい。
【0020】
本発明の放熱材料を製造するにあたって、原料となるCr粉末に加えて、W粉末および/またはMo粉末を型に充填し、さらに必要に応じて加圧成形し、その充填したままの充填成形体あるいは加圧成形した加圧成形体を焼結して、得られた焼結体にCuまたはCr−Cu合金を溶浸させて放熱材料とする。
また本発明では、Cr粉末に加えて、W粉末および/またはMo粉末にCu粉末を混合し、得られた混合粉末を原料として使用しても良い。その場合は、混合粉末を型に充填し、さらに必要に応じて加圧成形し、その充填したままの充填成形体あるいは加圧成形した加圧成形体を焼結して、得られた焼結体を放熱材料とする。なお、さらに必要に応じてCr−W,Cr−Mo,Cr−W−Mo,Cr−Cu−W,Cr−Cu−Mo,Cr−Cu−W−Moからなる焼結体にCuまたはCu−Cr合金を溶浸させてもよい。
【0021】
加圧成形を行なう成形工程では、使用する粉末の充填性や密度の目標値に応じて圧力を調整しながら成形する。
焼結の条件は、1000〜1600℃の範囲内(好ましくは1050〜1450℃の範囲内)の温度で30〜300分保持することが好ましい。雰囲気は水素雰囲気または真空が好ましい。
焼結して得られた焼結体にCuを溶浸させる場合は、工業的に製造される金属Cu(たとえばタフピッチ銅,りん脱酸銅,無酸素銅等)あるいはCu粉末(たとえば電解銅粉、アトマイズ銅粉等)を使用することが好ましい。また、Cr−Cu合金を溶浸させる場合は、不純物が少ないものを使用することが好ましい。
【0022】
溶浸は従来から知られている技術を使用する。たとえば焼結体の上面および/または下面にCuあるいはCr−Cu合金の板や粉末を付着させ、1100〜1300℃の範囲内(好ましくは1150〜1250℃の範囲内)の温度で20〜120分保持する。雰囲気は水素雰囲気または真空が好ましい。ただし、溶浸した後の加工性向上の観点から真空中で溶浸することが好ましい。溶浸後は表面に残留するCuまたはCu−Cr合金を機械加工(たとえばフライス盤による切削加工,砥石による研削加工等)により除去して放熱部品にするための加工を行なう。あるいは必要に応じて冷間または温間の圧延を行ない、表面を仕上げることができる。
【0023】
このようにしてCr−W−CuまたはCr−Mo−Cuの3元系の放熱材料、あるいはCr−W−Mo−Cuの4元系の放熱材料が得られる。3元系の放熱材料では、Cr相粒子に加えてW相粒子またはMo相粒子がCu相基地中に分散している。4元系の放熱材料では、Cr相粒子に加えてW相粒子およびMo相粒子がCu相基地中に分散している。
なお本発明者らの研究によれば、焼結,溶浸あるいは後述する溶体化熱処理した後の冷却速度は、焼結体,溶浸体あるいは溶体化熱処理体の熱膨張率に影響を及ぼすことが判明した。より大幅な熱膨張率の低減を達成するために、具体的には、冷却速度を30℃/分以下とする。現在のところ、冷却速度に応じて熱膨張率が変化する原因は明らかではないが、焼結中,溶浸中あるいは溶体化熱処理中にCu相に固溶したCrが時効熱処理によって析出する際に、冷却速度に応じて形態が変化するためと考えられる。
【0024】
Crは、本発明の放熱材料において、熱膨張率の低減を達成するための重要な元素である。
上記したような手順で焼結体にCuを溶浸させると、CrがCu中に0.9〜2.0質量%程度固溶する。また、溶体化熱処理では、CrがCu中に0.1〜0.9質量%程度固溶する。そのCu相に固溶したCrを、冷却速度30℃/分以下で冷却した後の時効熱処理によって長径100nm(ナノメートル)以下の微細粒Cr相として、Cu相中に析出させる。この微細粒Cr相の析出が熱膨張率を低減させる。
【0025】
さらに、Cuを溶浸させた溶浸体を熱間,温間,冷間にて圧延しても良い。冷間圧延を施すことによってCr相に方向性を付与し、微細粒Cr相のアスペクト比を調整することが可能となる。一般的には、Cr−Cu材は冷間,温間,熱間での圧延が可能であるが、W−Cu材は熱間圧延でも圧延は難しく、Mo−Cu材は熱間圧延は可能であるが、温間圧延,冷間圧延は大きな圧下率で圧延を行なうことは困難である。このように冷間加工性に乏しいMoやWを多く添加する場合は、熱間圧延が好ましい。熱間圧延の後は溶体化熱処理を行なうことが好ましく、しかも溶体化熱処理は30℃/分以下の冷却速度で冷却することが好ましい。
【0026】
微細粒Cr相のアスペクト比を所定の範囲に保持することによって、溶体化熱処理体,溶浸体あるいは焼結体の熱膨張率を一層低減することが可能となる。
熱間圧延を行なった場合は、表面に形成された酸化層を除去して放熱部品とすることが好ましい。酸化層の除去は、機械加工(たとえばフライス盤による切削加工,砥石による研削加工等)すれば良い。酸化層を除去した後、放熱部品にするための加工を行なう。あるいは必要に応じて冷間または温間の圧延を行ない、表面を仕上げることができる。
【0027】
なお、溶体化熱処理体,溶浸体あるいは焼結体に微細粒Cr相を析出させるための時効熱処理を行なう前、または時効熱処理を行なった後に、冷間または温間圧延,スウェージング加工,ダイス引き抜き,鍛造等の冷間または温間加工を行なって、放熱材料を所定の形状に加工しても良い。
次に、本発明の放熱材料の組織について説明する。
【0028】
本発明の放熱材料は、Cr相粒子に加えてW相粒子および/またはMo相粒子がCu相基地中に分散する。
さらに長径100nm以下の微細粒Cr相が形成されることが好ましい。Cu中に固溶していたCrが通常の溶体化熱処理、すなわち溶体化保持した後600℃/分程度の冷却速度で水冷し、450℃程度で時効熱処理すると、Crが10nm以下の大きさで特定の結晶面上に2次析出する。この析出により材料は硬化し、いわゆる析出時効現象が生じる。このような析出硬化を生じる場合は、熱膨張率の低減は起こらない。
【0029】
一方、焼結後,溶浸後あるいは900〜1050℃で溶体化保持した後、30℃/分以下の冷却速度で冷却した後、500〜750℃で時効熱処理を行なうと、Crの析出は析出硬化の場合より大きくなり、長径100nm以下のCrの2次析出が生じる。この場合にのみ熱膨張率の低減現象が生じることが判明した。その原因は現在調査中であるが、透過型電子顕微鏡で析出したCrを観察すると、Cu相上に整合析出しており、熱膨張率低減との関連が考えられる。また、750℃より高い温度で時効熱処理すると、さらに大きなCrが析出するが、その場合は熱膨張率の低減は見られない。この2次析出した微細粒Cr相の分布密度を20個/μm2以上とすると、熱膨張率の低減効果が顕著となり好ましい。
【0030】
次に、本発明の放熱材料の組成について説明する。
Cr,WおよびMoの合計含有量が30質量%以下では、放熱材料に要求される低熱膨張率(約14×10-6-1以下)が得られない。一方、90質量%を超えると、熱伝導率が低下し、放熱材料として十分な放熱効果が得られない。したがって、Cr,WおよびMoの合計含有量は30質量%超え90質量%以下であることが好ましい。残部はCuおよび不可避的不純物である。
【0031】
CrとMoおよびWとの比率は特に限定せず、目標とする熱伝導率と熱膨張率の値に合わせて配合を決定すればよい。ただし、Crは安価であり、焼結後,溶浸後あるいは溶体化熱処理後に30℃/分以下の冷却速度で冷却し、500〜750℃の範囲で時効熱処理を行なうことにより、熱膨張率を下げることができる。また、圧延により、圧延方向にCr相が伸びることにより、圧延方向の熱膨張率を低減することができるので、なるべくCrを多く配合することが好ましい。また圧延を行なう場合は、極力Wを少なくすることが好ましい。時効熱処理で熱膨張率を下げる場合は、0.5質量%程度のCrを添加することが好ましい。
【0032】
以上に説明した放熱材料を使用する(あるいは一部に取付ける)ことによって、優れた放熱特性を有する半導体用放熱板や半導体用放熱部品を製造することができる。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
平均粒径100μmのCr粉末と平均粒径5μmのMo粉末とを1:1の質量比で混合したのち、型に自然充填して、真空中にて1350℃で焼結し、気孔率が約50体積%となる焼結体(70mm×70mm×12mm)を作製した。その焼結体の上面にCu板を載置し、真空中で1200℃に加熱してCuを溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCuを除去して厚さを10mmとした後、900℃の熱間にて圧延して厚さ3mmの圧延板を作製した。これを発明例1とする。
【0034】
一方、比較例1として、平均粒径10μmのMo粉末のみを型に自然充填して、発明例1と同様に焼結し、気孔率が約40体積%となる焼結体を作製した。その焼結体の上面にCu板を載置し、真空中で1200℃に加熱してCuを溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCuを除去して厚さを10mmとした後、900℃の熱間にて圧延して厚さ3mmの圧延板を作製した。
【0035】
また発明例1と比較例1の圧延板の密度を測定し、気孔率≒0と仮定して組成比を求めた。その結果を表1に示す。
さらに発明例1と比較例1の圧延板から圧延方向を長手方向として長さ25mm,幅8mm,厚さ2mmの板状の熱膨張率測定用試験片、および直径16mm,厚さ2mmの円盤状の熱伝導率測定用試験片を切り出した。これら各試験片に、真空中1050℃にて60分間保持し溶体化処理を行なった後、30℃/分の冷却速度で冷却した。さらに真空中、500〜700℃において60分保持する時効熱処理を施した後、熱伝導率および熱膨張率を測定した。得られた結果を表1に併せて示す。なお、熱伝導率はレーザーフラッシュ法により常温の熱伝導率を求めた。熱膨張率は試験片の長手方向の伸びに基づいて常温から200℃までの平均熱膨張率を求めた。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように発明例1と比較例1では、熱膨張率および熱伝導率が同等の放熱材料が得られている。ただし発明例1は、Mo量を比較例1の1/2以下に低減することに成功しており、大幅なコスト削減が可能となる。さらに発明例1は、比較例1に比べて密度を約10%低減しており、放熱材料の軽量化にも寄与できる。
<実施例2>
平均粒径10μmのW粉末を、型に自然充填して、水素中にて1450℃で焼結し、気孔率が約62体積%となる焼結体(70mm×70mm×5mm)を作製した。その焼結体の上面に4.5質量%Cr−Cu合金板を載置し、真空中で1200℃に加熱してCr−Cu合金を溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。なお、溶浸時に1200℃保持後、30℃/分の冷却速度で冷却した。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCr−Cu合金を除去して厚さ2mmの溶浸体を作製した。これを発明例2とする。
【0038】
一方、比較例2として、平均粒径10μmのW粉末を型に充填して、加圧力294.2MPa(=3tonf/cm2)で加圧して発明例2と同様に焼結し、気孔率が約69体積%となる焼結体を作製した。その焼結体の上面にCu板を載置し、真空中で1200℃に加熱してCuを溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCuを除去して厚さ2mmの溶浸体を作製した。
【0039】
また発明例2と比較例2の圧延板の密度を測定し、気孔率≒0と仮定して組成比を求めた。その結果を表1に示す。
さらに発明例2と比較例2の溶浸体から長さ25mm,幅8mm,厚さ2mmの板状の熱膨張率測定用試験片、および直径16mm,厚さ2mmの円盤状の熱伝導率測定用試験片を切り出した。これら各試験片に、真空中、500〜700℃において60分保持する時効熱処理を施した後、熱伝導率および熱膨張率を測定した。得られた結果を表1に併せて示す。なお、熱伝導率および熱膨張率は実施例1と同様にして求めた。
【0040】
表1から明らかなように発明例2と比較例2では、熱膨張率および熱伝導率が同等の放熱材料が得られている。ただし発明例2は、W量を比較例2の約6%低減することに成功しており、大幅なコスト低減が可能となる。さらに発明例2は、比較例2に比べて密度を5%程度低減しており、放熱材料の軽量化にも寄与できる。
<実施例3>
平均粒径20μmのMo粉末を型に自然充填して、真空中にて1500℃で焼結し、気孔率が約60体積%となる焼結体(70mm×70mm×12mm)を作製した。その焼結体の上面に7質量%Cr−Cu合金板を載置し、真空中1200℃に加熱してCr−Cu合金を溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCuを除去して厚さを10mmとした後、900℃の熱間にて圧延して厚さ3mmの圧延板を作製した。これを発明例3とする。
【0041】
一方、比較例3として、平均粒径10μmのMo粉末を型に押し込み充填して、発明例3と同様に焼結し、気孔率が約55体積%となる焼結体を作製した。その焼結体の上面にCu板を載置し、真空中で1200℃に加熱してCuを溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCuを除去して厚さを10mmとした後、900℃の熱間にて圧延して厚さ3mmの圧延板を作製した。
【0042】
また発明例3と比較例3の圧延板の密度を測定し、気孔率≒0と仮定して組成比を求めた。その結果を表1に示す。
さらに発明例3と比較例3の圧延板から圧延方向を長手方向として長さ25mm,幅8mm,厚さ2mmの板状の熱膨張率測定用試験片、および直径16mm,厚さ2mmの円盤状の熱伝導率測定用試験片を切り出した。これら各試験片に、真空中1050℃にて60分間保持し溶体化処理を行なった後、30℃/分の冷却速度で冷却した。さらに真空中、500〜700℃において60分保持する時効熱処理を施した後、熱伝導率および熱膨張率を測定した。得られた結果を表1に併せて示す。なお、熱伝導率および熱膨張率は実施例1と同様にして求めた。
【0043】
表1から明らかなように、発明例3は少量のCrを含有することにより、比較例3と比べて熱伝導率を同等に維持しながら、熱膨張率を約15%低減することに成功している。
<実施例4>
平均粒径100μmのCr粉末に平均粒径2μmのW粉末と平均粒径5μmのMo粉末を表1に示す組成でパラフィンワックスを添加したエタノール溶液中に添加し、混練乾燥させた。この混合粉末を型に自然充填して、600℃水素中でパラフィンワックスを脱脂後、1350℃に焼結し、気孔率約38%となる焼結体(70mm×70mm×4mm)を作製した。その焼結体上面に純Cu板を載置し、真空中にて1200℃に加熱してCuを溶解し、焼結体に溶浸させて溶浸体を得た。次いでフライス盤を用いて、溶浸体の表面に残留するCuを除去して厚さ2mmの溶浸体を作製した。これを発明例4とする。
【0044】
また発明例4の用浸体の密度を測定し、気孔率≒0と仮定して組成比を求めた。その結果を表1に示す。
さらに発明例4の溶浸体から長さ25mm,幅8mm,厚さ2mmの板状の熱膨張率測定用試験片、および直径16mm,厚さ2mmの円盤状の熱伝導率測定用試験片を切り出した。この各試験片に、真空中1050℃にて60分間保持し溶体化処理を行なった後、30℃/分の冷却速度で冷却した。さらに真空中、500〜700℃において60分保持する時効熱処理を施した後、熱伝導率および熱膨張率を測定した。得られた結果を表1に併せて示す。なお、熱伝導率および熱膨張率は実施例1と同様にして求めた。
【0045】
表1から明らかなように発明例4と比較例1では、熱膨張率および熱伝導率が同等の放熱材料が得られている。ただし発明例4は、Mo量とW量を合計した量を比較例1のMo量の27%に低減することに成功しており、大幅なコスト削減が可能となる。さらに発明例4は、比較例1に比べて密度を約10%低減しており、放熱材料の軽量化にも寄与できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CrとCuに加えてWおよび/またはMoを含有し、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、かつCr相粒子に加えて、W相粒子および/またはMo相粒子がCu相基地中に分散した組織を有することを特徴とする放熱材料。
【請求項2】
前記組成のW含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の放熱材料。
【請求項3】
前記Cr相粒子に加えて前記W相粒子および/または前記Mo相粒子がCu相基地中に分散し、かつ長径100nm以下の微細粒Cr相がCu相中に分散されることを特徴とする請求項1または2に記載の放熱材料。
【請求項4】
前記微細粒Cr相のアスペクト比が10未満であることを特徴とする請求項3に記載の放熱材料。
【請求項5】
前記微細粒Cr相の分布密度が20個/μm2 以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の放熱材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の放熱材料を使用することを特徴とする半導体用放熱板。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の放熱材料を一部に取付けたことを特徴とする半導体用放熱部品。
【請求項8】
W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、CrとCuに加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、得られた焼結体を500〜750℃の温度範囲で時効熱処理することを特徴とする放熱材料の製造方法。
【請求項9】
W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、CrとCuに加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結し、得られた焼結体に900〜1050℃の温度範囲で溶体化熱処理を施して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、さらに500〜750℃の温度範囲で時効熱処理することを特徴とする放熱材料の製造方法。
【請求項10】
W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、Cr、またはCrとCu、に加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結し、得られた焼結体にCuまたはCu−Cr合金を溶浸して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、さらに得られた溶浸体を500〜750℃の温度範囲で時効熱処理することを特徴とする放熱材料の製造方法。
【請求項11】
W含有量および/またはMo含有量とCr含有量との合計が30質量%超え90質量%以下であり、残部がCuと不可避的不純物である放熱材料の製造方法において、Cr、またはCrとCu、に加えてWおよび/またはMoの粉末を混合した後、焼結し、得られた焼結体にCuまたはCu−Cr合金を溶浸し、得られた溶浸体に900〜1050℃の温度範囲で溶体化熱処理を施して30℃/分以下の冷却速度で冷却し、さらに500〜750℃の温度範囲で時効熱処理することを特徴とする放熱材料の製造方法。


【公開番号】特開2010−126791(P2010−126791A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304828(P2008−304828)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(593178340)JFE精密株式会社 (17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】