説明

放電制御装置

【課題】待機電力を増加させることなく、メインスイッチがオフ状態となった場合に、迅速に、インバータのスイッチング素子を介して平滑コンデンサの残存電荷を放電させる。
【解決手段】主電源からの電力供給の有無に拘わらず、少なくとも残存電荷が放電する放電時間に亘り、放電制御装置10が動作可能な電力を供給するバックアップ電源1と、インバータを構成するスイッチング素子3に対し、スイッチング素子3を飽和領域で動作させるスイッチング制御信号S1を印加するドライバ回路12とは独立して備えられ、スイッチング素子3を活性領域で動作させる放電制御信号S2を生成して印加する放電制御部2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータと直流の主電源との間に介在された平滑コンデンサに蓄積され、当該インバータと当該主電源との接続が切断された際に当該平滑コンデンサに残存する残存電荷を放電させる放電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機により駆動される電気自動車や、内燃機関及び回転電機により駆動されるハイブリッド自動車では、バッテリから供給される直流電力がインバータにより交流電力に変換されてモータとして機能する回転電機が駆動される。回転電機がジェネレータとして機能する際には、回転電機により発電された交流電力がインバータにより直流電力に変換されてバッテリへ回生される。バッテリとインバータとの間には、直流電力を平滑するコンデンサが備えられ、脈動などの直流電力の変動が抑制される。バッテリとインバータとは、イグニッションスイッチなどのメインスイッチが投入されることによって電気的に接続され、平滑コンデンサが充電される。回生の際には、インバータを介して平滑コンデンサに充電された電力がバッテリに供給され、バッテリが充電される。メインスイッチが切れると、バッテリと平滑コンデンサとの接続も切れるが、平滑コンデンサには電荷が残存する。残存電荷は自然放電により減少もするが、自然放電には時間を要する。メインスイッチを切り、引き続いて点検整備などを行う場合もあり、自然放電よりも早く、平滑コンデンサの残存電荷を放電させることが好ましい。
【0003】
特開平9−201065号公報(特許文献1)には、メインスイッチがオフの時に、インバータを構成するスイッチング素子を活性領域で動作させて、所定値に制御された電流を流し、残存電荷を放電させる電源回路が開示されている。具体的には、スイッチング素子を活性領域で動作させるためにスイッチング素子のゲート電圧を調整する制御装置が備えられている。この制御装置は、スイッチング素子のゲート端子へつながる制御線に直列接続される抵抗器を切り換えて、当該制御線の抵抗値を変更することによってゲート電圧を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−201065号公報(第8−20段落、図1,2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の制御装置は、メインスイッチがオフの時に動作する必要があるため、メインスイッチの状態に拘わらず車両のバッテリから常時電力の供給を受けていると解される。これは、いわゆる待機電力となるため、車両全体の待機電力を増加させることになり、バッテリの負担が大きくなる。また、特許文献1の制御装置は、放電時にも通常動作時と同じドライバ回路を用いてスイッチング素子にゲート制御信号を与える。従って、制御装置に故障が生じてインバータの制御に支障があり、メインスイッチをオフ状態としたような場合では、平滑コンデンサの残存電荷も迅速に放電できない可能性がある。
【0006】
従って、待機電力を増加させることなく、メインスイッチがオフ状態となった場合に、迅速に、インバータのスイッチング素子を介して当該インバータの直流電源の平滑コンデンサの残存電荷を放電させることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る放電制御装置の特徴構成は、
直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータと直流の主電源との間に介在された平滑コンデンサに蓄積され、前記インバータと前記主電源との接続が切断された際に当該平滑コンデンサに残存する残存電荷を放電させる放電制御装置であって、
前記主電源からの電力供給の有無に拘わらず、少なくとも前記残存電荷が放電する放電時間に亘り、当該放電制御装置が動作可能な電力を供給するバックアップ電源と、
前記インバータを構成するスイッチング素子に対し、当該スイッチング素子を飽和領域で動作させるスイッチング制御信号を印加するドライバ回路とは独立して備えられ、当該スイッチング素子を活性領域で動作させる放電制御信号を生成して印加する放電制御部と、を備える点にある。
【0008】
この構成によれば、バックアップ電源を有するので、待機電力を増加させることなく、メインスイッチがオフ状態となった場合に、迅速に、平滑コンデンサの残存電荷を放電させることができる。また、インバータを構成するスイッチング素子を活性領域で動作させる放電制御信号を生成して印加する放電制御部は、インバータが通常動作する際のスイッチング制御信号を印加するドライバ回路とは独立して備えられる。従って、例え制御装置に故障が生じ、インバータの制御が困難となってメインスイッチをオフ状態とした場合であっても、迅速に、インバータのスイッチング素子を介して当該インバータの平滑コンデンサの残存電荷を放電させることができる。
【0009】
ここで、本発明に係る放電制御装置は、前記スイッチング制御信号と前記放電制御信号との干渉を防止する干渉防止部を備えると好適である。スイッチング制御信号と放電制御信号とは、共にスイッチング素子の制御端子(ゲートやベース)に入力される。また、スイッチング制御信号をスイッチング素子に作用させるドライバ回路と、放電制御信号をスイッチング素子に作用させる放電制御部とは、独立して構成される。従って、スイッチング制御信号と放電制御信号との干渉を防止し、特に通常動作時においてドライバ回路によるスイッチング制御信号の印加を妨げない干渉防止部が備えられると信頼性が向上する。
【0010】
また、本発明に係る放電制御装置は、前記ドライバ回路に動作電力を供給するドライバ電源の電圧低下を検出する電圧低下検出部を備え、前記放電制御部は、前記ドライバ電源の電圧が所定の放電開始電圧よりも低下した場合に、前記放電制御信号を生成して前記スイッチング素子に印加すると好適である。放電制御部は、インバータが通常動作しなくなった場合、つまり、ドライバ回路を介してスイッチング素子が制御されなくなった場合に、迅速に残存電荷を放電させることが好ましい。単純にスイッチング制御信号の有無により判定すると、単なる制御休止中の場合にも放電制御部を働かせてしまう可能性がある。ドライバ回路は、ドライバ電源の供給を受けて動作している。従って、ドライバ電源の電圧が低下すれば、単なる制御休止中ではなくメインスイッチが切断されたことなどにより、インバータが通常動作しなくなり、ドライバ回路を介してスイッチング素子が制御されなくなったと判定することができる。つまり、ドライバ電源の電圧を監視することによってインバータが通常動作しなくなり、平滑コンデンサの放電が必要であることを良好且つ迅速に判定することができる。本構成によれば、放電制御装置が電圧低下検出部を備え、放電制御部が電圧低下検出部の検出結果に基づいて放電制御を迅速に開始することができる。
【0011】
また、本発明に係る放電制御装置は、前記残存電荷の放電に伴って前記スイッチング素子を流れる電流の大きさを検出する電流検出部をさらに備え、前記スイッチング素子は、当該スイッチング素子を流れる電流よりも小さく、当該電流に比例した微小電流を出力する電流センス端子を有し、前記電流検出部は、前記微小電流に基づいて前記スイッチング素子を流れる電流の大きさを検出し、前記放電制御部は、前記電流検出部の検出結果に基づいて前記放電制御信号をフィードバック制御すると好適である。スイッチング素子には製造に起因するものや、実装状態に起因するものなど、その特性に個体差が存在する。スイッチング素子を飽和領域で使用する際には、信号レベルにマージンを持ったスイッチング制御信号を印加することによって当該個体差はほぼ吸収可能である。一方、活性領域では、制御信号の信号レベルに対して出力が敏感に反応する。この場合の出力とは、残存電荷を放電させるために流す電流であり、電流の値が大きすぎるとスイッチング素子の寿命にも影響を与える。従って、電流検出部を備えてスイッチング素子を流れる電流を検出し、放電制御部がその検出結果に基づいて放電制御信号をフィードバック制御すると好適である。さらに、スイッチング素子には、電流センス端子を有したものもあるので、当該端子から出力される信号を利用して電流検出部を構成すると、小規模な構成で電流検出部を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】モータ駆動回路の一例を模式的に示すブロック図
【図2】電力系統図
【図3】スイッチング制御信号の波形を模式的に示す波形図
【図4】放電制御装置を含むインバータの1つのレッグの模式的ブロック図
【図5】放電制御装置の構成例を示す模式的回路図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を電気自動車やハイブリッド自動車のモータ駆動回路に適用した場合の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の放電制御回路が適用されるモータ駆動回路を示している。視認性を優先し、図1には本発明の放電制御回路は不図示である。尚、モータ(回転電機)MGは、当然ながらジェネレータとしても機能するものである。図1に示すように、モータ駆動装置は、直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータ18と、直流のメインバッテリ(主電源)14と、インバータ18とメインバッテリ14との間に介在されて直流電力を平滑する平滑コンデンサ15を備えて構成される。メインバッテリ14は、充電可能な2次電池であり、モータMGの力行動作時にインバータ18に直流電力を供給すると共に、モータMGの回生動作時にインバータ18から直流電力を受け取って蓄電する。インバータ18は、3相交流モータであるモータMGに3相交流電力を供給するために、直流電力を交流電力に変換する。
【0014】
インバータ18は、複数のスイッチング素子を有して構成される。スイッチング素子には、IGBT(insulated gate bipolar transistor)やMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)を適用すると好適である。図1に示すように、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT3が用いられる。インバータ18は、モータMGの各相(U相、V相、W相の三相)のそれぞれに対応するU相レッグ17U、V相レッグ17V、及びW相レッグ17Wを備えている。各レッグ17(17U、17V、17W)は、それぞれ直列に接続された上段側アームのIGBT3Aと下段側アームのIGBT3Bとにより構成される1組2個のスイッチング素子を備えている。各IGBT3A、3Bには、それぞれフライホイールダイオード19が並列接続されている。
【0015】
U相レッグ17U、V相レッグ17V、W相レッグ17Wは、モータMGのU相コイル、V相コイル、W相コイルに接続される。この際、各相レッグ17U,17V,17Wの上段側アームのIGBT3Aのエミッタと下段側アームのIGBT3Bのコレクタとの間とモータMGの各相コイルとの間が電気的に接続される。また、各レッグ17の上段側アームのIGBT3Aのコレクタは、直流電源14の正極端子につながる高圧電源ラインPに接続され、各レッグ17の下段側アームのIGBT3Bのエミッタは、直流電源14の負極端子につながる高圧グラウンドラインNに接続されている。
【0016】
インバータ16は、フォトカプラ4及びドライバ回路12を介して制御ユニット11に接続されており、制御ユニット11が生成する制御信号に応じてスイッチング動作する。フォトカプラ4及びドライバ回路12の役割については、後述する。制御ユニット11は、不図示のマイクロコンピュータなどの論理回路を中核とするECU(electronic control unit)として構成される。ECUは、マイクロコンピュータの他、不図示のインターフェース回路やその他の周辺回路などを有して構成される。
【0017】
モータMGは、制御ユニット11の制御により、所定の出力トルク及び回転速度で駆動される。この際、モータMGのステータコイルに流れる電流の値が制御ユニット11にフィードバックされる。このため、インバータ18の各相レッグ17U、17V、17WとモータMGの各相コイルとの間に設けられた導体(バスバーなど)を流れる電流値が、ホールICなどを用いた電流検出装置16により検出される。また、モータMGのロータの回転角度は、例えばレゾルバなどの回転センサ13に検出され、制御ユニット11に伝達される。そして、制御ユニット11は、電流検出装置16及び回転センサ13の検出結果に基づいて、目標電流との偏差に応じてPI制御(比例積分制御)やPID制御(比例微積分制御)を実行してモータMGを駆動制御する。尚、図1では、3相全てに対して電流検出装置16が配置される例を示しているが、3相各相の電流は平衡しており瞬時値はゼロであるから、2相のみの電流値を検出する構成であっても構わない。
【0018】
ところで、本実施形態のようにモータMGが車両の駆動装置である場合などでは、メインバッテリ14は200〜300Vの高電圧であり、インバータ18の各IGBT3A,3Bは、高電圧をスイッチングする。一方、マイクロコンピュータなどの論理回路を中核とする制御ユニット11は、一般的には定格12V以下程度、多くの場合3.3〜5V程度の低電圧で動作する電子回路である。高電圧をスイッチングするIGBTのゲートに入力されるパルス状のゲート駆動信号(スイッチング制御信号)の電位は、共通のグラウンドレベルで比較すれば、マイクロコンピュータなどの一般的な電子回路の動作電圧よりも遥かに高い電圧である。従って、ゲート駆動信号は、フォトカプラ4及びドライバ回路12を介して電圧変換や絶縁された後、インバータ18の各IGBT3A,3Bに入力される。
【0019】
フォトカプラ4は、アイソレータとして機能し、制御ユニット11からドライバ回路12へ光伝送によりゲート駆動信号を伝達する。フォトカプラ4を介してゲート駆動信号が伝達されることにより、制御ユニット11とドライバ回路12とは、ゲート駆動信号を受け渡ししながらも電気的に絶縁される。ドライバ回路12は、光伝送により受け取ったゲート駆動信号を、所定の電圧幅の信号に電圧変換してスイッチング制御信号として各IGBT3へ供給する。
【0020】
各IGBT3は、ゲートとエミッタとの間に所定の電圧、本実施形態では15V程度の電圧が印加されることによってオン状態となる。インバータ回路2の電源電圧P−Nとは無関係に、即ち、メインバッテリ14の負極Nを基準(グラウンドレベル)とするIGBT3のエミッタやコレクタの電位とは関係なく、単純にゲート−エミッタ間が所定の電位となれば各IGBT3はオン状態となる。ドライバ回路12は、メインバッテリ14の負極Nを共通の基準(グラウンドレベル)とせず、インバータ18の電源とは電気的に独立してゲート駆動信号を制御ユニット11からインバータへとドライブする。このため、ドライバ回路12は、インバータ18の各IGBT3に対応して複数個、本実施形態では6つ備えられる。
【0021】
ドライバ回路12は、インバータ18とグラウンドレベルが必ずしも共通ではない独立回路である(特に上段側アーム)。従って、ドライバ回路12を動作させるための電源(ドライバ電源)も、インバータ18とは独立している。具体的には、ドライバ電源は、フローティング電源であるトランス9によって生成される。複数のドライバ回路12は、互いに電気的に独立して構成されるため、各ドライバ回路12には、少なくとも出力が互いに独立した6個のトランス9からそれぞれ電源が供給される。即ち、各ドライバ回路12は、それぞれトランス9を用いたフローティング電源により駆動される。トランス9から供給されるドライバ電源は、正極がT+、負極がT−である。6個のトランス9の電源を個別に表す場合には、U,V,W相の各レッグのハイサイドをU,V,W、ローサイドをX,Y,Zとして、以下のように区別して表す(図1及び図3参照)。
T+:U+,V+,W+,X+,Y+,Z+
T−:U−,V−,W−,X−,Y−,Z−
【0022】
ここで、図2の電力系統図を利用して、電源系を整理しておく。メインバッテリ(主電源)14は、モータMG(インバータ18)の駆動用電源であり、ここでは定格300Vの直流電源である。図1及び図2に示すように、インバータ18は、車両のイグニッションスイッチに連動するスイッチであるメインスイッチIGを介してメインバッテリ14に接続されている。また、メインバッテリ14には、メインスイッチIGを介してDC−DCコンバータ26が接続されている。このDC−DCコンバータ26によって、降圧された直流電力は、例えば定格12Vのサブバッテリ27に蓄電される。サブバッテリ27は、制御ユニット11や、その他の車載機器(補機と称される空調機やオイルポンプなど)に電力を供給する。
【0023】
トランス9は、サブバッテリ27や、あるいはメインバッテリ14から一次側電圧を受け取り、整流回路を介して二次側電圧としてドライバ電源T+,T−を出力する。尚、車両には電動ドアや電動シート、パワーウィンドウなどの現在位置を記憶するメモリや、時計など、常時微量の電力を供給する必要がある装置もある。従って、メインスイッチIGは、図2に実線で示したようにメインバッテリ14の直下において1つだけ設定される必要はない。破線で示す複数のスイッチIG2,IG3などのようにイグニッションスイッチに連動するスイッチとして、複数箇所に設定されていてもよい。尚、メインバッテリ14とインバータ18との接続が切断される際には、ドライバ回路12が動作する必要はないので、トランス9への電力供給も切断される。
【0024】
メインスイッチIGが切断されると、メインバッテリ14と平滑コンデンサ15との接続も切れるが、平滑コンデンサ15には電荷が残存する。そこで、放電制御装置は、メインスイッチIGがオフの時に、インバータ18を構成するIGBT3(スイッチング素子)を活性領域で動作させて、所定値に制御された電流を流し、平滑コンデンサ15の残存電荷を放電させる。以下、放電制御装置10を含むインバータ18の1つのレッグ17を示す模式的ブロック図(図4)、放電制御装置10を構成する放電制御回路10Aの一例を示す模式的回路図(図5)も利用して、放電制御装置10の詳細について説明する。尚、図4において二重線は電力系統線を示す。
【0025】
放電制御装置10は、3つのレッグ17の内、1つのみに備えられてもよいが、複数のレッグ17に備えられていると、並行して平滑コンデンサ15を放電させることができて好適である。この際、各レッグ17における構成は同一であるので、1つのレッグ17を代表して説明する。また、放電制御装置10は、上段側アームのIGBT3Aに備えられる第1放電制御回路10Aと、下段側アームのIGBT3Bに備えられる第2放電制御回路10Bとを有して構成されている。つまり、上段側アームのIGBT3Aと下段側アームのIGBT3Bとの双方が導通することによって、1相のレッグ17を利用して平滑コンデンサ15を放電させる。第1放電制御回路10Aと第2放電制御回路10Bとは全く同じ構成でもよいが、本実施形態では、若干異なる構成のものとしている。以下、第1放電制御回路10Aについて説明を進め、両者の差異については適宜説明する。
【0026】
図4に示すように、第1放電制御回路10A(放電制御装置10)は、バックアップ電源1と、放電制御部2と、干渉防止部5と、電圧低下検出部6と、電流検出部7とを有して構成される。放電制御部2は、IGBT3(スイッチング素子)を活性領域で動作させて平滑コンデンサ15を放電させるために当該IGBT3に流す電流を所定値に制御する。
【0027】
バックアップ電源1は、主電源としてのメインバッテリ14からの電力供給の有無に拘わらず、少なくとも平滑コンデンサ15の残存電荷が放電する放電時間に亘り、第1放電制御回路10A(放電制御装置10)が動作可能な電力を供給する。コンデンサの電荷はC-t/τ(C:電荷の初期値、e:ネイピア数、τ:時定数、t:時間)で減少する。厳密に考えれば、平滑コンデンサ15の残存電荷の放電時間は無限大である。従って、実用上、残存電荷が無視できると考えられる時間(時定数τの数倍、例えば、2〜5倍程度の時間)が上記放電時間に相当する。
【0028】
本実施形態では、図5に示すように、バックアップ電源1は、通常動作時にドライバ電源9により充電されるコンデンサC1により構成される。ドライバ電源9の正極(T+)からコンデンサC1へ向かう方向を順方向として接続されたダイオードD1は逆流防止用ダイオードである。即ち、ダイオードD1は、通常動作時にドライバ電源9によるコンデンサC1の充電を許容すると共に、メインスイッチIGが切断されてドライバ電源9の電圧が低下した際には、コンデンサC1からドライバ電源9への逆流を防止する。従って、ダイオードD1もバックアップ電源1を構成する。尚、バックアップ電源1は、コンデンサC1を利用した上記のような形態に限定される必要はない。二次電池や化学反応により電力を発生する電池がバックアップ電源1として設けられていてもよい。
【0029】
放電制御部2は、インバータ18を構成するIGBT(スイッチング素子)3に対し、当該IGBT3を活性領域で動作させる放電制御信号S2を生成して印加する。第1放電制御回路10Aでは、放電制御部2は、主制御部2aと電流制限部2bとを有して構成される。上述したように、インバータ18の通常動作時には、ドライバ回路12を介して当該IGBT3を飽和領域で動作させるスイッチング制御信号S1が印加される。図4に示すように、放電制御部2は、ドライバ回路12とは完全に独立して備えられる。さらに、スイッチング制御信号S1と放電制御信号S2との干渉を防止する干渉防止部5が設けられているから、インバータ18の通常動作時において放電制御信号S2がIGBT3に影響を与えることもない。即ち、IGBT3には、スイッチング制御信号S1及び放電制御信号S2の何れかであるゲート制御信号Sが印加される。
【0030】
電圧低下検出部6は、ドライバ回路12に動作電力を供給するドライバ電源9の電圧低下を検出する。メインスイッチIGが切断されるなど、ドライバ電源9の電圧が低下すると、電圧低下検出部6は、この電圧低下を検出し、放電制御部2を動作させる。つまり、放電制御部2は、ドライバ電源9の電圧が所定の放電開始電圧よりも低下した場合に、放電制御信号S2を生成してIGBT3に印加する。
【0031】
電流検出部7は、平滑コンデンサ15の残存電荷の放電に伴ってIGBT3を流れる電流(コレクタ−エミッタ間電流)の大きさを検出する。放電制御部2は、電流検出部8の検出結果に基づいて放電制御信号S2をフィードバック制御する。本実施形態では、IGBT3が、コレクタ−エミッタ間電流よりも小さく、当該電流に比例した微小電流を出力する電流センス端子ISを有している場合を例示している。電流センス端子ISからは、コレクタ−エミッタ間電流の1/5000程度(1/2000〜1/10000)の微小電流が出力される。電流検出部7は、この微少電流をシャント抵抗R7により電圧変換してIGBT3を流れる電流の大きさを検出する。当然ながら、電流センサ等を利用して、コレクタ−エミッタ間電流を直接検出することを妨げるものではない。
【0032】
図4に示すように、第2放電制御回路10Bの構成も、第1放電制御回路10Aとほぼ同様である。しかし、本実施形態では、第2放電制御回路10Bは、電流検出部7を有することなく構成される場合を例示している。1つのレッグ17において一方のアームを構成するIGBT3が活性領域で制御され、コレクタ−エミッタ間電流が制御されれば、直列接続された他方のIGBT3を流れる電流の最大値は、そのコレクタ−エミッタ間電流に拘束される。従って、一方のアームを構成するIGBT3が活性領域で制御されれば、他方のアームは、飽和領域で制御されても問題はない。本実施形態では、下段側アームのIGBT3Bは、上段側アームのIGBT3Aよりも大きいコレクタ−エミッタ間電流を流す状態で、放電制御が実行される。このため、下段側アームのIGBT3Bに備えられる第2放電制御回路10Bには、電流検出部7を備えていない例を示している。また、IGBT3Aと3Bとは、基本的に同一のIGBTであるから、IGBT3Bも電流センス端子ISを有する。図4においては、下段側アームのIGBT3Bの電流センス端子ISを省略している。
【0033】
しかし、これに限定されることなく、両アームにおいて第1放電制御回路10Aを設置してもよい。何れかのアームの第1放電制御回路10Aによる電流制御に不具合があっても、他方において電流が制限されるから、IGBT3に過電流が流れることを抑制することができる。即ち、フェールセーフ機構として両アームに第1放電制御回路10Aを採用してもよい。尚、当然ながら、上段側アームに第2放電制御回路10Bを設け、下段側アームに第1放電制御回路10Aを設ける構成も許される。
【0034】
以下、図5の模式的回路図を利用して、第1放電制御回路10Aの動作について説明する。上述したように、第2放電制御回路10Bの動作についても基本的に同様である。メインスイッチIGがオン状態であり、インバータ18が通常動作を行っているとき、ドライバ電源9の正極T+と負極T−との間の電圧は、放電開始電圧よりも高い電圧である。ここでは、例えば15Vとする。以下、理解を容易にするために適宜具体的な数値を例示するがそれらは本発明を何ら限定するものではない。ドライバ電源9の正極T+と負極T−との間の電圧は、図3に示すように、IGBT3を飽和領域で動作させる際のスイッチング制御信号S1のパルスのローレベルとハイレベルとを規定する電圧となる。即ち、IGBT3が充分飽和領域に達し、且つ、IGBT3の推奨動作範囲に含まれるゲート−エミッタ間電圧が、ドライバ電源9の正負両極間電圧として設定されている。放電開始電圧は、IGBT3が飽和領域で動作するほぼ下限に近いゲート−エミッタ間電圧に設定されると好適である。この値は、一例として12V程度である。放電制御回路10Aは、バックアップ電源1により駆動されるので、当然ながら放電開始電圧はさらに低い電圧、例えば、0Vに近い電圧であることを妨げるものではない。
【0035】
電圧低下検出部6を構成するトランジスタQ6は、ここでは、ベース−エミッタ間電圧が2V以上でオンし、2V未満でオフするものとする。抵抗R4及びR5による分圧比を5:1とすれば、ドライバ電源9の正負両極間電圧が12Vのとき、トランジスタQ6のベース−エミッタ間電圧が2Vとなる。ドライバ電源9の正負両極間電圧が12V以上のとき、ベース−エミッタ間電圧は2V以上であるので、トランジスタQ6はオンし、放電制御信号S2は、ほぼドライバ電源9の負極電圧T−となる。
【0036】
このとき、放電制御部2から、スイッチング制御信号S1と放電制御信号S2との合流点に向かって順方向接続されたダイオードD5が干渉防止部5として機能する。ダイオードD5の順方向電圧は、約0.6〜0.7Vである。従って、ダイオードD5のアノード端子側における放電制御信号S2の電圧が、負極電圧T−に対して0.7V以上高くなければ、ダイオードD5は導通しない。ダイオードD5のアノード端子側における放電制御信号S2の電圧は、ほぼドライバ電源9の負極電圧T−に固定されているから、ダイオードD5は導通しない。従って、放電制御信号S2が干渉することなく、スイッチング制御信号S1は、図3に示すようにドライバ電源9の正負両極間電圧の間で出力可能である。
【0037】
尚、抵抗R1は、トランジスタQ6がオン状態のときにバックアップ電源1として機能するコンデンサC1の電荷を放電させることなく、ドライバ電源9によって充電させるための抵抗として機能する。つまり、抵抗R1が無ければ、トランジスタQ6を経由してコンデンサC1の電荷が放電される。従って、抵抗R1は、放電制御部2の一部を構成すると共に、バックアップ電源1の一部としても機能する。
【0038】
一方、ドライバ電源9の正負両極間電圧が12Vを下回ると、トランジスタQ6のベース−エミッタ間電圧も2Vを下回り、トランジスタQ6はターンオフする。厳密には、トランジスタQ6にも活性領域と飽和領域とが存在するので、完全にオフ状態とはならない場合があるが、説明を容易するためにここでは、オフするものとする。トランジスタQ6がターンオフすると、放電制御信号S2は、原則としてドライバ電源9の負極電圧T−を基準として、ドライバ電源9の正極電圧T+の電圧値、又はバックアップ電源1としてのコンデンサC1の正極(ダイオードD1側)の電圧値に応じた電圧値となる。ここで、原則としてというのは、ツェナーダイオードD2により、放電制御信号S2の最高電圧値が制限されているからである。
【0039】
本実施形態において、ツェナーダイオードD2の逆降伏電圧は9Vとする。ドライバ電源9の正負両極間電圧やコンデンサC1の両端電圧が9Vを超えているときは、電圧レギュレータとして機能するツェナーダイオードD2によって、放電制御信号S2の電圧値が9Vに制限される。一方、ドライバ電源9が出力を停止し、バックアップ電源1としてのコンデンサC1の両端電圧も低下して9Vを下回ると、放電制御信号S2は、コンデンサC1の両端電圧に応じた電圧値となる。
【0040】
上述したように、ドライバ電源9の正負両極間電圧は、IGBT3が活性領域から飽和領域となるゲート−エミッタ間電圧よりも高い電圧に設定されている。このため、ドライバ電源9の正負両極間電圧(例えば15V)よりも低い電圧(例えば10〜12V)であっても、IGBT3が飽和領域で動作する可能性がある。従って、IGBT3のゲート−エミッタ間電圧とコレクタ−エミッタ間電流との電圧−電流特性に応じた逆降伏電圧を有する素子を、ツェナーダイオードD2として選択しておくと好適である。これによって、放電制御信号S2は、IGBT3を飽和領域に遷移させることなく、活性領域で動作させる信号として生成される。
【0041】
このように、ツェナーダイオードD2は、放電制御部2において、放電制御信号S2を生成する主制御部2aとして機能すると共に、IGBT3のコレクタ−エミッタ間電流を制限する電流制限部2bとして機能する。つまり、IGBT3を飽和領域に遷移させることなく活性領域で動作させることによってIGBT3のコレクタ−エミッタ間電流を制限する。
【0042】
尚、第1放電制御回路10Aに電流制限部2bとして機能するツェナーダイオードD2が設けられる場合、第2放電制御回路10Bには同様のツェナーダイオードD2が設けられなくてもよい。直列接続された一方のIGBT3のコレクタ−エミッタ間電流が制限されれば、他方のIGBTが飽和領域で動作してもコレクタ−エミッタ間電流は制限された電流値の範囲に収まるからである。あるいは、第2放電制御回路10Bに設けられるツェナーダイオードD2が、第1放電制御回路10Aに設けられるツェナーダイオードD2よりも高い逆降伏電圧を有する素子であってもよい。
【0043】
第1放電制御回路10Aには、ツェナーダイオードD2のみでなく、さらにOPアンプQ7を用いて構成される電流制限部2bも備えられる。このOPアンプQ7は、一般的な電流引き込み、吐き出し動作を行う素子を用いればよい。また、OPアンプQ7の電源電圧は、バックアップ電源1より供給されるので、OPアンプQ7は、低消費電力、低電圧駆動、低飽和であると好適である。
【0044】
OPアンプQ7は、電流検出部7により検出された電流値を示す電圧値と基準値Vrefとを比較して、放電制御信号S2を制御してIGBT3のコレクタ−エミッタ間電流を制御する。コレクタ−エミッタ間電流が大きいと、電流検出部7を構成するシャント抵抗R7の両端電圧が大きくなる。例えば、この電圧が基準値Vrefを超えるとOPアンプQ7の出力が低レベル(T−側)になる。すると、ダイオードD7を介して電流がOPアンプQ7に引き込まれるため、放電制御信号S2の電圧レベルが低下する。その結果、IGBT3のコレクタ−エミッタ間電流が低下するので、電流検出部7の検出結果に基づいたフィードバック制御が達成される。一例として、放電制御信号S2の電圧レベルは、約7V〜9Vの範囲で調整されることになる。一方、シャント抵抗R7の両端電圧が基準値Vrefよりも小さいときにはOPアンプQ7の出力が高レベル(T+側)になる。従って、ダイオードD7は導通せず、放電制御信号S2は上述したように、バックアップ電源1やツェナーダイオードD2に依存した電圧レベルで出力される。
【0045】
尚、抵抗R2は、「ツェナーダイオードD2」、「OPアンプQ7及びダイオードD7」、「トランジスタQ6」の何れもがアクティブではないとき、即ち、これらの何れもが放電制御信号S2の電圧値の設定に寄与しないときに、放電制御信号S2の電圧値を保証する抵抗である。抵抗R2は必須ではないが、放電制御部2の一部を構成する。
【0046】
このように、放電制御回路10Aは非常に安価な部品により構成される小規模な回路により実現可能である。当業者であれば、同等の機能を異なる回路構成で構築することも可能であろうが、本発明の要旨を逸脱しない範囲での別構成の回路は、当然ながら、本発明の技術的範囲に属するものである。放電制御装置10は、それぞれのIGBT3をドライブするドライブ回路12の電源系において構成されるから、ドライブ回路12とも親和性がよい。従って、IGBT3が通常動作時する際の制御信号(スイッチング制御信号S1)とも親和性がよく、良好に放電制御が達成される。また、親和性は高くても、放電制御装置10は、ドライブ回路12とは全く独立した回路により構成されている。従って、制御ユニット11やドライブ回路12に故障等が生じてメインスイッチIGがオフ状態となった場合であっても迅速に平滑コンデンサ15を放電させることができる。
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、待機電力を増加させることなく、メインスイッチがオフ状態となった場合に、迅速に、インバータのスイッチング素子を介して当該インバータの平滑コンデンサの残存電荷を放電させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、インバータと直流の主電源との間に介在された平滑コンデンサに蓄積され、当該インバータと当該主電源との接続が切断された際に当該平滑コンデンサに残存する残存電荷を放電させる放電制御装置に適用することができる。特に、駆動源及び回生源となる回転電機を搭載した電気自動車やハイブリッド自動車における放電制御装置に適用すると好適である。
【符号の説明】
【0049】
1:バックアップ電源
2:放電制御部
3:IGBT(スイッチング素子)
5:干渉防止部
6:電圧低下検出部
7:電流検出部
9:トランス(ドライバ電源)
10,10A,10B:放電制御装置
12:ドライバ回路
14:メインバッテリ(主電源)
15:平滑コンデンサ
18:インバータ
IS:電流センス端子
S1:スイッチング制御信号
S2:放電制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータと直流の主電源との間に介在された平滑コンデンサに蓄積され、前記インバータと前記主電源との接続が切断された際に当該平滑コンデンサに残存する残存電荷を放電させる放電制御装置であって、
前記主電源からの電力供給の有無に拘わらず、少なくとも前記残存電荷が放電する放電時間に亘り、当該放電制御装置が動作可能な電力を供給するバックアップ電源と、
前記インバータを構成するスイッチング素子に対し、当該スイッチング素子を飽和領域で動作させるスイッチング制御信号を印加するドライバ回路とは独立して備えられ、当該スイッチング素子を活性領域で動作させる放電制御信号を生成して印加する放電制御部と、
を備える放電制御装置。
【請求項2】
前記スイッチング制御信号と前記放電制御信号との干渉を防止する干渉防止部を備える請求項1に記載の放電制御装置。
【請求項3】
前記ドライバ回路に動作電力を供給するドライバ電源の電圧低下を検出する電圧低下検出部を備え、
前記放電制御部は、前記ドライバ電源の電圧が所定の放電開始電圧よりも低下した場合に、前記放電制御信号を生成して前記スイッチング素子に印加する請求項1又は2に記載の放電制御装置。
【請求項4】
前記残存電荷の放電に伴って前記スイッチング素子を流れる電流の大きさを検出する電流検出部をさらに備え、
前記スイッチング素子は、当該スイッチング素子を流れる電流よりも小さく、当該電流に比例した微小電流を出力する電流センス端子を有し、
前記電流検出部は、前記微小電流に基づいて前記スイッチング素子を流れる電流の大きさを検出し、
前記放電制御部は、前記電流検出部の検出結果に基づいて前記放電制御信号をフィードバック制御する請求項1から3の何れか一項に記載の放電制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−205746(P2011−205746A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68757(P2010−68757)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】