説明

新規熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂及び、それを配合した樹脂組成物

【課題】新規な難燃性新規熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【解決手段】炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル類または炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル類より選ばれる少なくとも1種類のエポキシ樹脂(A)とリン原子含有2価フェノール化合物(B)を必須成分として反応させて得られ、(A)成分が全体の2モル%から52モル%であり、重量平均分子量が10,000から200,000であり、リン含有量が1重量%から5重量%である難燃性新規熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気用層間絶縁積層板、磁気テープバインダー、絶縁ワニス、自己融着エナメル電線ワニス等の電気・電子分野及び接着剤、絶縁塗料やフィルム等として有用な、リンを含有することによりそれ自体難燃性を有する、耐熱性、低弾性、低応力である可撓性に優れ、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂及び熱可塑性ポリヒドロキポリエーテル樹脂・エポキシ樹脂・硬化剤・添加剤・充填材からなる樹脂組成物並びこれらを用いた接着フィルム及びプルプレグ、さらにはこれらを用いた積層板、多層プリント配線板や絶縁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂はフェノキシ樹脂として知られており、可撓性、耐衝撃性、密着性、機械的性質等が優れることから、電気・電子分野では、磁気テープバインダー、モーター等の電気機械の絶縁ワニスや、回路基板用の接着剤やフィルム等、広範囲の用途で使用されており、なかでも電気・電子部品で火災の防止・遅延といった安全性を強く要求される分野ではハロゲン化されたフェノキシ樹脂が使用されており、主に臭素化されたものが使用されてきた。しかしながら、ハロゲン化物を使用した材料は、高温で長期に渡って使用した場合、ハロゲン化物の解離を起こし、また、これにより配線の腐食を引き起こす事が知られている。更に、使用済みの電子部品、電気機器の廃棄物を燃焼する際には、ハロゲン化物等の有害物質を発生し、環境安全性の観点からハロゲンの直接的、間接的利用が問題視されるようになり、これに代わる材料が研究されるようになって来ている。
【0003】
【特許文献1】特開平5-93041号公報
【特許文献2】特開平5-93042号公報
【特許文献3】特開2001-310939号公報
【特許文献4】特開平5-295090号公報
【特許文献5】特開2001-261789号公報
【0004】
【非特許文献1】WANG C-S、SHIEH J-Y著「Synthesis and properties of epoxy resins containing 2-(6-oxid-6H-dibenz <c,e> <1,2> oxaphosphorin-6-yl)1,4-benzenediol」Polymer(GBR)VOL.39,NO,23,PAGE.5819-5826 1998
【非特許文献2】CHO C-S、CHEN L-W、CHIU Y-S著「Novel flame reterdant epoxy resins.I.Synt-hesisi、characterization and properties of aryl phosphinate epoxy ether cured with diamine.」Polymer Bulletin VOL.41,NO.1,PAGE.45-52 1998
【0005】
特許文献1や特許文献2には、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を使用した難燃性フィルムが提案されているが、これらに使用されている難燃剤は、何れもハロゲン化物であり、リンによる難燃化については記載されていない。また、非特許文献1には、リン化合物を使用した難燃性化合物としてリン含有化合物とベンゾキノンを付加反応させて得られる化合物が記載されているが、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の反応性難燃剤として用いるものであり、熱可塑性樹脂及び絶縁性フィルムに関しては記載されていない。非特許文献2には、リン含有化合物とベンゾキノン及びエピクロロヒドリンを用いた熱硬化性樹脂としての新規エポキシ樹脂を得ているが、熱可塑性樹脂及び絶縁性フィルムに関しては記載されていない。
【0006】
また、特許文献3では、リン原子含有の難燃性熱可塑性樹脂を得て、耐熱性が向上しているが、フィルムが硬く脆くなり、また溶解溶剤の選択性が有り、人体に有害な溶剤を使用しなければならない等の悪影響が懸念され、溶剤溶解性に改良の余地があった。最近では、フレキシブル積層板など、より可撓性を重視する用途への適応性が要求されるようになってきている。また、接着剤の用途においてもより低温での可撓性が求められており、従来からあるフェノキシ樹脂では、十分な可撓性を発現させることは困難になっている。特許文献4や特許文献5では、高分子量エポキシ樹脂(本発明での「熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂」と同義)の原料とする2官能エポキシ樹脂の1つに、グリシジルエステル型エポキシ樹脂の記載があるが、カルボン酸含有熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂としての特徴についての記載は無く、難燃性についての記載もない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂とほぼ同等の粘度を有し、さらにハロゲン化物を使用しないで、それ自体で難燃性を有する、低弾性で、柔軟性に優れ、溶解溶剤選択性が無く、人体に無害な溶媒に可溶で、様々なゴム成分・熱可塑成分との相溶性の良い熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂及び該樹脂から成形される絶縁性フィルム、及び層間絶縁材用エポキシ樹脂組成物、及びこれらを用いた接着フィルム・プリプレグ等を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特定のリン化合物由来のリン原子を1重量%から5重量%含有し、炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル類または炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル類より選ばれる少なくとも1種類のエポキシ樹脂由来の構成成分として2モル%から52モル%含有する、重量平均分子量が10,000から200,000の難燃性熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、及びそれを配合して得られる樹脂組成物及びそれらから成形される電気積層板を得るものである。
【0009】
すなわち、本発明は、炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル類または炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル類より選ばれる少なくとも1種類のエポキシ樹脂(A)とリン原子含有2価フェノール化合物(B)を必須成分として反応させて得られ、(A)成分が全体の2モル%から52モル%であり、重量平均分子量が10,000から200,000(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)にて、溶離液として、20mM臭化リチウム含有したN,N−ジメチルホルムアミドを使用し、試料濃度0.5%で測定した標準ポリエチレンオキサイド換算による重量平均分子量である。以下、分子量というのはこの測定法による重量平均分子量をいう)であり、リン含有量が1重量%から5重量%であり、それ自体で難燃性のある、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、及びそれを配合して得られる樹脂組成物及びそれらから成形される電気積層板を得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂に於いて、分子量が10,000未満では、熱可塑性が失われて、自己造膜性を示さなくなる。また分子量が200,000を超えると、溶剤で溶解しても、一般に工業的に利用されている溶媒濃度である70重量%から40重量%の濃度では、溶液粘度が高過ぎ、成膜使用可能な溶液粘度にするために溶剤を多量に加えなければならず、不経済であり、環境に対してもVOC(揮発性有機化合物)を可能なかぎり低減する方向にある現状では好ましいとはいい難い。こうしたことから、分子量は11,000〜100,000が好ましく、より好ましくは12,000〜65,000である。
【0011】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は、一般に知られている2官能エポキシ樹脂と2価フェノール化合物の付加重合反応によって得られ、製造反応に使用する2官能エポキシ樹脂と2価フェノールの配合当量比は、フェノール性水酸基:エポキシ基=0.9:1〜1.1:1が好ましい。この配合当量比が0.9より小さくなっても、1.1より大きくなっても充分に高分子量化することができない。より好ましくは0.94:1〜1.06:1、最も好ましくは0.97:1〜1.03:1である。
【0012】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂の製造に使用する2価フェノール化合物に、リン含有2価フェノール化合物を必須成分として、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のリン含有量が1重量%〜5重量%になる様に導入する。リン含有量が1重量%未満では十分な難燃性を付与できない。1重量%以上ではどの濃度でも難燃性が付与可能となる。5重量%以上ではフィルムとしての柔軟性が極端に悪化する。また、溶剤溶解性が極端に悪くなり、特定の溶剤でしか溶解しなくなることから、リン含有量は1重量%から5重量%の範囲に制御する必要があり、より好ましくは1.5重量%から4.5重量%である。
【0013】
特に本発明に適したリン含有2価フェノール化合物は、一般式(1)または一般式(2)で表されるリン含有2価フェノール化合物である。
【0014】
【化1】

【0015】
式中R1、R2はC1〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、置換アリール基であり、互いに結合して環状構造を形成していても良い。式中R3はC1〜C6の炭化水素基であり、qは0〜3の整数を示す。nは0または1の整数を示す。
【0016】
【化2】

【0017】
式中R4、R5はC1〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、置換アリール基であり、互いに結合して環状構造を形成していても良い。式中R6はC1〜C6の炭化水素基であり、rは0〜5の整数を示す。mは0または1の整数を示す。
【0018】
これらのリン含有2価フェノール化合物の具体例としては、HCA−HQ(三光化学株式会社製、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド)、10−(2,7−ジヒドロキシナフチル)−10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、PPQ(北興化学工業株式会社製、ジフェニルホスフィニルハイドロキノン)、ジフェニルホスフィニルナフトキノン、CPHO−HQ(日本化学工業株式会社製、シクロオクチレンホスフィニル−1,4−ベンゼンジオール)、シクロオクチレンホスフィニル−1,4−ナフタレンジオール等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、また、2種類以上使用しても良い。
【0019】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂の製造に使用するリン含有2価フェノール化合物以外の2価フェノール化合物は、2個の水酸基が芳香族環に結合したものであればどのようなものでもよく、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールD、ビスフェノールE、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン等のビスフェノール類、ビフェノール、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等が挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではない。これらの2価フェノール化合物を単独または2種類以上併用し使用することもできる。
【0020】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂の製造に使用する2官能エポキシ樹脂は、分子内に2個のエポキシ基を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン等の単環2価フェノールのジグリシジルエーテル、フタル酸、イソフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、ダイマー酸等の2価カルボン酸のジグリシジルエステル等、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、プロピレングリコール等の脂肪族2価アルコールのジグリシジルエーテル類が挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではない。
【0021】
これらの2官能エポキシ樹脂を単独または2種類以上併用し使用することもできる。これらの2官能エポキシ樹脂の末端基純度は特に規定する必要はないが、製造される熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂が十分に高分子量化するために、加水分解性塩素が500ppm以下であり、αジオール含有量が10meq/100g以下であることが好ましい。
【0022】
本発明においては熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を柔軟にし、低弾性、低応力、高伸び性を達成するために、炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル類または炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル類より選ばれる少なくとも1種類のエポキシ樹脂を全官能基の2モル%から52モル%導入している。2モル%未満では十分な柔軟性の付与ができない。52モル%以上使用すると、難燃性や耐熱性の低下が激しいため、2モル%から52モル%の範囲に制御する必要があり、好ましくは4モル%から40モル%であり、より好ましくは5モル%から30モル%である。
【0023】
また、2価脂肪族カルボン酸または2価脂肪族アルコールの炭素数が15未満では十分な柔軟性、伸び性を付与することができない。炭素数が64以上では、難燃性や耐熱性の低下が激しいため、炭素数が15から64の範囲の骨格に制御する必要がある。なお、カルボン酸またはアルコールの骨格は炭素数が15から64の範囲の二官能脂肪族であればどんな構造でもよく、直鎖でも分岐していても、また、骨格中に環状脂肪族基、不飽和結合基、複素環、ヘテロ原子を含んでいても良い。
【0024】
炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸としては、例えば、2−ドデシルこはく酸、ヘキサデカン二酸、8−ヘキサデセン二酸、8,9−ジエチルヘキサデカン二酸、エイコサン二酸、7‐ビニルテトラデカン二酸、1,16−(6−エチルヘキサデカン)ジカルボン酸、1,18−(7,12−オクタデカジエン)ジカルボン酸、1,12−(ジエチルドデカン)ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、不飽和脂肪酸(リノール酸、オレイン酸等)の2個ないしそれ以上の分子間反応により得られる主成分が炭素数36の二塩基酸であるダイマー酸やそのダイマー酸を水素化して得られる水添ダイマー酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの2価脂肪族カルボン酸を公知のエポキシ化技術を用いてジグリシジルエステル化することによって炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル類のエポキシ樹脂が得られる。
【0025】
炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールとしては、例えば、1,15‐ペンタデカンジオール、1,16‐ヘキサデカンジオール、1,18‐オクタデカンジオール、1,19‐ノナデカンジオール等の長鎖脂肪族ジオールやオクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール等のポリエチレングリコールや、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール等のポリプロピレングリコールや4,4′−(プロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサノール)等のシクロ環含有ジオールや、前述のダイマー酸や水添ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基にまで還元したダイマージオールや水添ダイマージオール等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの2価脂肪族アルコールを公知のエポキシ化技術を用いてジグリシジルエーテル化することによって炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル類のエポキシ樹脂が得られる。
【0026】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂の製造に使用する触媒は、エポキシ基とフェノール性水酸基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えば、アルカリ金属化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、環状アミン類、イミダゾール類等が挙げられる。アルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属フェノキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウム等、酢酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0027】
有機リン化合物の具体例としては、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、テトラメチルホスフォニウムブロマイド、テトラメチルホスフォニウムアイオダイド、テトラメチルホスフォニウムハイドロオキサイド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムクロライド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムブロマイド、トリメチルベンジルホスホニウムクロライド、トリメチルベンジルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルブチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルエチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルエチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
【0028】
第3級アミンの具体例としては、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。第4級アンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0029】
イミダゾール類の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。環状アミン類の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5等が挙げられる。
【0030】
これらの触媒は併用することができる。通常、触媒の使用量は反応固形分中、0.001重量%〜1重量%であり、その使用量は特に規定する必要はないが、アルカリ金属化合物を使用すると熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中にアルカリ金属分が残留し、残留量によっては、それを使用した電気電子部材の絶縁特性を極端に悪化させることが知られており、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のアルカリ金属含有量の総量は10 ppm以下にすることが好ましい。
【0031】
また、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、環状アミン類、イミダゾール類等を触媒として使用した場合も、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中に触媒残渣として残留し、残留量によっては、アルカリ金属化合物の残留と同様に電気電子部材の絶縁特性を悪化させることが知られており、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中の窒素含有量を150 ppm以下にすることが好ましい。
【0032】
本発明における熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は、その製造時の合成反応の工程において、溶媒を用いても良く、その溶媒としては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を溶解するものであれば、どのようなものでも良い。例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒等が挙げられる。芳香族系溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アセチルアセトン、ジオキサン等が挙げられる。
【0033】
アミド系溶媒の具体例としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0034】
これらの溶媒は併用することができる。合成反応においてこれらの溶媒を使用する場合の固形分濃度は35%〜95%が好ましい。また、反応途中で溶媒を添加して反応を続けることができる。反応終了後、溶媒は必要に応じて、除去することもできるし、更に追加することもできる。
【0035】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を製造する重合反応は、使用する触媒が分解しない程度の反応温度で行う。反応温度は、50〜230℃が好ましく、より好ましくは60〜210℃、特に好ましくは90℃〜190℃である。反応圧力は通常、常圧であり、反応熱の除去が必要な場合は、使用する溶剤のフラッシュ蒸発・凝縮還流法、間接冷却法、またはこれらの併用法により行われる。また、アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することもできる。
【0036】
本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は難燃性、耐熱性、可撓性のある物質であり、単独で用いることもできるが、本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を必須成分として、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、溶剤、無機充填剤、繊維基材等種々の材料を併用することもできる。本発明に使用されるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等の種々のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0037】
また、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネートエステル樹脂等を使用することができる。また、本発明に使用される硬化剤としては、例えば、芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ポリビニルフェノール類等各種フェノール系硬化剤を、単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
さらに、窒素原子を含有してなるフェノール系硬化剤を使用する事もできる。フェノール系硬化剤を使用すれば難燃性、接着性が向上する。窒素原子を有するフェノール系硬化剤としては、トリアジン構造含有ノボラック樹脂、大日本インキ化学工業株式会社製フェノライト7050シリーズ、油化シェル(株)製メラミン変性フェノールノボラック樹脂、群栄化学製、アミノトリアジンノボラック樹脂PS-6313などがある。上記のフェノール樹脂の配合量については、1エポキシ当量のエポキシ樹脂に対し0.5〜1.3フェノール性水酸基当量のフェノール樹脂を配合することが望ましい。この範囲を外れると得られるエポキシ樹脂組成物の耐熱性が損なわれるという問題が生じる。
【0039】
また、その硬化促進剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、グアニジン類、各種のイミダゾールイミダゾール類や三級アミン類、またはこれらのマイクロカプセル化したもののほか、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスフォニウム・テトラフェニルボレート等の有機ホスフィン系化合物など、公知慣用のものを単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
さらに、必要に応じて溶剤を添加しても良く、その溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール等が挙げられ、これらの溶剤は単独または、2種類以上の混合溶剤として使用することも可能である。
【0041】
その他、必須成分ではないが、物性を落とさない範囲であるならば、保存安定性のために紫外線防止剤、可塑剤等、また無機充填材として水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸カルシウム、シリカ等、カップリング剤としてシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等も使用可能である。また、さらに難燃性を向上させるために、ノンハロゲンタイプのP系、N系、シリコン系難燃剤等を添加しても良い。さらに柔軟性、接着性を向上させるために、ポリエステル系、ポリビニルブチラール系、アクリル系、ポリアミド系熱可塑性高分子物質等やNVRBCTBN、VTBN等のゴム成分等を添加しても良い。例えば日本ゼオン製品ニポール1072、日本合成ゴム製品PNR-1H、N-632S、宇部興産製品RLP、CTBN-1008等をそのまま用いることができる。
【0042】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、硬化物の機械強度の向上や難燃性の向上の為、有機及び/または無機のフィラーを添加することできる。有機フィラーとしては、コアシェル構造を有するアクリルゴム微粒子、シリコンパウダー、ナイロンパウダー等を挙げることができ、また無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、酸化アンチモン等を挙げることができ、繊維状無機物絶縁材料は繊維状チタン酸カリウムを挙げることができる。これらの無機フィラーは、特開2000-121629号公報に開示されているようなシラン系カップリング剤等で表面処理して使用することもできる。
【0043】
また、高誘電率無機充填剤としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、二酸化チタン等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。これらの高誘電率無機充填剤は、特開2000-121629号公報に開示されているようなシラン系カップリング剤等で表面処理して使用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を具体的に説明するが本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例に於いて、「部」は「重量部」を示す。さらに本発明では以下の試験方法を使用した。
【0045】
(1)分子量:ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)にて、溶離液としてN,N−ジメチルホルムアミド(20mM臭化リチウム含有品)を使用した標準ポリエチレンオキサイド換算による重量平均分子量。
(2)エポキシ当量:JIS K-7236で測定し、樹脂固形分としての値に換算した。
(3)不揮発分:JIS K-7235で測定した。
(4)加水分解性塩素:1N-KOHメタノール溶液を使用して70℃の温水中で30分反応させた後、電位差滴定法により測定し、樹脂固形分としての値に換算した。
(5)αジオール含有量:過沃素酸とチオ硫酸ナトリウムを使用し、電位差滴定法により測定し、樹脂固形分としての値に換算した。
(6)リン含有量:蛍光X線装置で測定し、樹脂固形分としての値に換算した。
(7)ガラス転移温度:熱機械測定装置(TMA)にて、−20℃から5℃/分の昇温速度により測定した。
(8)弾性率:JIS K-7127により、試験片タイプ5で5mm/minの試験速度で測定した。(JIS K 7127/5/5)
(9)伸び:JIS K-7127により、試験片タイプ5で5mm/minの試験速度で測定した。(JIS K 7127/5/5)
(10)接着力:JIS K6854-1に準拠し、オートグラフにて、25℃雰囲気下、50mm/minによる測定した。
(11)燃焼性:UL-94規格に従い垂直法により評価した。
【0046】
実施例1.
ダイマー酸ポリグリシジルエステル樹脂(東都化成社製YD-171、エポキシ当量435 g/eq)を真空薄膜蒸留装置(短行程蒸留装置KD4型、UIC GmbH社製)にて、回収温度:200℃、回収圧力:0.1 Paの条件で、5ml/minで4時間処理して、エポキシ当量410g/eq、加水分解性塩素500 ppm、αジオール含有量4meq/100g、25℃での粘度は700 mPa・sのエポキシ樹脂Aを600g得た。
【0047】
同エポキシ樹脂Aを154部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成製YD-128、エポキシ当量187 g/eq、加水分解性塩素200 ppm、αジオール含有量5meq/100g)を74部、リン含有フェノールとしてHCA-HQ(三光製、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、水酸基当量162 g/eq、リン含有量9.5%)を122部、シクロヘキサノンを150部、触媒として2エチル4メチルイミダゾール(四国化成工業製、以後2E4MZと略す)0.07部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で9時間反応させた後、シクロヘキサノン175部、メチルセロソルブ325部を加えて、エポキシ当量15,600 g/eq、リン含有率3.3%、固形分濃度35%(以後NV.と略す)、重量平均分子量50,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを985部得た。
【0048】
この樹脂を合成樹脂ワニスIとした。合成樹脂ワニスIを離型フィルム(PET)に溶剤乾燥後の樹脂厚みが60 μmになる様にローラーコーターにて塗布し、140℃〜160℃、30〜60分間溶剤乾燥を行った後、離型フィルムから樹脂フィルムを剥がし絶縁性フィルムを得た。また、標準試験板(PM-3118M、日本テストパネル工業製)に得られて絶縁性フィルムと35 μm銅箔(3EC−III 、三井金属鉱業製)を重ねてドライラミネーターにより160℃でラミネートして、銅箔剥離強度測定用試験片を得た。
【0049】
また、CCL-HL830(三菱瓦斯化学製銅張積層板、UL-94V-0、0.8 mm板)の銅箔を除去した物に絶縁性フィルムを離型紙付きで重ねてドライラミネーターにより160℃でラミネートした後、離型フィルムを剥がし、燃焼性測定用試験片を得た。さらに、合成樹脂ワニスIの固形分9部に対し、ゴムとしてPNR-1H(日本合成ゴム製、カルボキシル基含有低イオン多官能NBR、酸当量1,395 g/eq、CN含有量27%、ムーニー粘度60)1部を混合溶解してゴム相溶性試験サンプルとした。判定は、目視にて、相溶した物を○とし、分離や白濁した物を×とした。また、合成樹脂ワニスI90部にMEKを10部混合溶解しMEK相溶性試験サンプルとした。判定は、目視にて、透明な物を○、白濁した物を×とした。
【0050】
実施例2.
ダイマージオールジグリシジルエーテル樹脂(東都化成製FX-318、エポキシ当量368 g/eq、加水分解性塩素200 ppm、αジオール分2.3 meq/100g、25℃での粘度200 mPa・s)を239部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂YD-128(前述)を3部、リン含有フェノールとしてHCA-HQ(前述)を49部、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(新日鐵化学製、水酸基当量175 g/eq)を57部、シクロヘキサノンを150部、触媒としてトリフェニルフォスフィン(北興化学製、以後、TPPと略す)0.35部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で18時間反応させた。
【0051】
次に、シクロヘキサノン175部、メチルセロソルブ325部を加えて、エポキシ当量7,100 g/eq、リン含有率1.3%、NV.35%、重量平均分子量30,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを985部得た。この樹脂を合成樹脂ワニスIIとした。合成樹脂ワニスIIを使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0052】
実施例3.
ダイマージオールジグリシジルエーテル樹脂FX-318(前述)を112部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂YD-128(前述)を134部、リン含有フェノールとしてジフェニルフォスフィニルハイドロキノン(水酸基当量155 g/eq、リン含有量10.0%)を155部、シクロヘキサンノンを170部、触媒としてTPP(前述)0.4部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で8時間反応させた後、シクロヘキサノン130部、メチルセロソルブ300部を加えて、エポキシ当量16,000 g/eq、リン含有率3.9%、NV.40%、重量平分子量44,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを990部得た。
【0053】
この樹脂を合成樹脂ワニスIII とした。合成樹脂ワニスIII を使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0054】
実施例4.
ポリプロピレンジグリシジルエーテル樹脂(東都化成製PG-207S、エポキシ当量289 g/eq、加水分解性塩素500 ppm、αジオール含有量5meq/100g)を19部、ビフェノール型エポキシ樹脂(東都化成製YDC-1500、エポキシ当量194 g/eq、加水分解性塩素120 ppm、αジオール含有量2meq/100g)を205部、リン含有フェノールとしてHCA-HQ(前述)を176部、シクロヘキサノンを170部、触媒として2E4MZ(前述)0.08部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で8時間反応させた後、シクロヘキサノンを130部、メチルセロソルブ300部を加えて、エポキシ当量9,400 g/eq、リン含有率4.2%、NV.40%、重量平均分子量41,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを990部得た。
【0055】
この樹脂を合成樹脂ワニスIVとした。合成樹脂ワニスIVを使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0056】
実施例5.
ダイマージオールジグリシジルエーテル樹脂FX-318(前述)を229部、リン含有フェノールとしてHCA-NQ(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと1,4−ナフトキノンとの反応物、水酸基当量187 g/eq、リン含有量8.2%)を111部、シクロヘキサノンを145部、触媒として2E4MZ(前述)0.07部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で10時間反応させた後、シクロヘキサノン170部、メチルセロソルブ315部を加えて、エポキシ当量7,800 g/eq、リン含有率2.7%、NV.35%、重量平均分子量35,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを955部得た。
【0057】
この樹脂を合成樹脂ワニスVとした。合成樹脂ワニスVを使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0058】
比較例1.
ビスフェノールA型エポキシ樹脂YD-128(前述)を189部、リン含有フェノールとしてHCA-HQ(前述)を162部、シクロヘキサノンを150部、触媒として2E4MZ(前述)0.07部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で11時間反応させた後、シクロヘキサノン175部、N,N−ジメチルホルムアミド325部を加えて、エポキシ当量17,000 g/eq、リン含有率4.4%、NV.35%、重量平均分子量60,500の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・N,N−ジメチルホルムアミド混合ワニスを990部得た。
【0059】
この樹脂を合成樹脂ワニスVIとした。合成樹脂ワニスVIを使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0060】
比較例2.
ポリプロピレンジグリシジルエーテル樹脂PG-207S(前述)を23部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂YD-128(前述)を218部、リン含有フェノールとしてHCA-HQ(前述)を32部、ビスフェノールA(新日鐵化学製、水酸基当量114 g/eq)を115部、シクロヘキサノンを165部、触媒として2E4MZ 0.08部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で15時間反応させた後、シクロヘキサノン125部、メチルセロソルブ290部を加えて、エポキシ当量8,900 g/eq、リン含有率0.7%、NV.40%、重量平分子量41,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを950部得た。
【0061】
この樹脂を合成樹脂ワニスVII とした。合成樹脂ワニスVII を使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0062】
比較例3.
ビスフェノールA型熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂YP-50SC(東都化成製、エポキシ当量18,000、分子量45,000)を400部、シクロヘキサノンを240部、メチルエチルケトン360部を、撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、反応温度を40℃〜60℃に保ち3時間撹拌し、完全に溶解させて、NV.40%のシクロヘキサノン・メチルエチルケトン混合ワニスとした。この樹脂を合成樹脂ワニスVIIIとした。合成樹脂ワニスVIIIを使用した以外は実施例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0063】
分子量は合成ワニスを、ガラス転移温度、弾性率及び伸びは絶縁性フィルムを、接着力は銅箔剥離強度測定用試験片を、難燃性は燃焼性測定用試験片を、ゴム相溶性はゴム相溶性試験サンプルを、MEK相溶性はMEK相溶性試験サンプルを、それぞれ使用して測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1では樹脂としての物性を示している。比較例1においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中の(A)成分が0モル%と2モル%より小さく、弾性率が1.0 GPaであり、実施例に比較して高弾性率となっている。また、伸びも3%であり、実施例に比較して低伸び性になっている。さらに、MEK相溶性、ゴム相溶性がともに×で、相溶性が悪いことを示している。
【0066】
比較例2においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のリン含有量が0.7重量%と1重量%よりも小さく、難燃性(UL-94)がV−1で、実施例に比較し難燃性が充分でないことを示している。比較例3においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中の(A)成分が0モル%と2モル%より小さく、弾性率が1.0 GPaであり、実施例に比較して高弾性率となっている。また、伸びも7%であり、実施例に比較して低伸び性になっている。また、リン含有量が0重量%と1重量%よりも小さく、難燃性(UL-94)がNGとなっていて、実施例に比較し難燃性が充分でないことを示している。
【0067】
実施例6.
実施例1で得られた合成樹脂ワニスI 285.7部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてジシアンジアミド(日本カーバイト製、以後DICYと略す)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た。この組成物ワニスを離型フィルム(前述)へ溶剤乾燥後の樹脂厚みが60 μmになるようにローラーコーターにて塗布し、130℃〜150℃、60分間溶剤乾燥及び硬化を行った後、離型フィルムから樹脂フィルムを剥がし、さらに樹脂フィルムを180℃、60分間後硬化させて、硬化フィルムを得た。
【0068】
それとは別に、標準試験板(前述)に溶剤乾燥後の樹脂厚みが50 μmになるようにローラーコーターにて組成物ワニスを塗布し、130℃〜150℃、5分〜15分間溶剤乾燥を行った後、35 μm銅箔(前述)を重ねてドライラミネーターにより180℃でラミネートして、銅箔剥離強度測定用試験片を得た。また、CCL-HL830(前述)の銅箔を除去した物に溶剤乾燥後の樹脂厚みが60 μmになる様にローラーコーターにて塗布し、140℃〜160℃、30〜60分間溶剤乾燥した後、180℃、60分間後硬化させて、燃焼性測定用試験片を得た。
【0069】
実施例7.
実施例2で得られた合成樹脂ワニスII 285.7部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0070】
実施例8.
実施例3で得られた合成樹脂ワニスIII 250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0071】
実施例9.
実施例4で得られた合成樹脂ワニスIV 250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0072】
実施例10.
実施例5で得られた合成樹脂ワニスV 285.7部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0073】
比較例4.
比較例1で得られた合成樹脂ワニスVI 285.7部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0074】
比較例5.
比較例2で得られた合成樹脂ワニスVII 250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0075】
比較例6.
比較例3で得られた合成樹脂ワニスVII 250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例6と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0076】
ガラス転移温度及び弾性率は硬化フィルムを、接着力は銅箔剥離強度測定用試験片を、難燃性は燃焼性測定用試験片をそれぞれ使用して測定した。
【0077】
【表2】

【0078】
表2では硬化物として物性をそれぞれの示している。比較例4においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中の(A)成分が0モル%と2モル%より小さく、硬化物の弾性率が1.2GPaであり、実施例に比較して高弾性率となっている。また、伸びも2%であり、実施例に比較して低伸び性になっている。比較例5においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のリン含有量が0.7重量%と1重量%よりも小さく、硬化物の難燃性(UL-94)がV-1で、実施例に比較し難燃性が充分でないことを示している。
【0079】
比較例6においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中の(A)成分が0モル%と2モル%より小さく、硬化物の弾性率が1.2GPaであり、実施例に比較して高弾性率となっている。また、伸びも4%であり、実施例に比較して低伸び性になっている。また、リン含有量が0重量%と1重量%よりも小さく、硬化物の難燃性(UL-94)がNGとなっていて、実施例に比較し難燃性が充分でないことを示している。
【0080】
発明の効果
本発明による熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を用いると、弾性率が小さく、柔軟で伸びのある密着性の優れた、かつハロゲンを使用しない難燃性フィルムが得られる。これは、通常の使用範囲において必要十分な耐熱性を有し、通常の使用環境においても物性が実質上低下しない絶縁フィルムが製造可能なことに相当するものである。さらに、ゴムや溶剤との相溶性も改善されていて、その技術上の意味に大きなものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル類または炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル類より選ばれる少なくとも1種類のエポキシ樹脂(A)とリン原子含有2価フェノール化合物(B)とを反応させて得られ、(A)成分が全体の2モル%〜52モル%であり、重量平均分子量が10,000〜200,000であり、リン含有量が1重量%〜5重量%である難燃性熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【請求項2】
前記リン原子含有2価フェノール化合物が、一般式(1)または一般式(2):
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立にC1〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、又は置換アリール基であり、或いは互いに結合して環状構造を形成していてもよく、式中R3はC1〜C6の炭化水素基であり、qは0〜3の整数を示し、そしてnは0または1の整数を示す)
【化2】

(式中、R4及びR5はそれぞれ独立にC1〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、又は置換アリール基であり、或いは互いに結合して環状構造を形成していてもよく、式中R6はC1〜C6の炭化水素基であり、rは0〜5の整数を示し、そしてmは0または1の整数を示す)
で示される有機リン化合物類より選ばれる少なくとも1種類のリン原子含有2価フェノール化合物である請求項1に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【請求項3】
前記炭素数15〜64の2価脂肪族カルボン酸がダイマー酸または水添ダイマー酸より選ばれる少なくとも1種類の2価脂肪族カルボン酸である請求項1または請求項2に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【請求項4】
前記炭素数15〜64の2価脂肪族アルコールがダイマージオールまたは水添ダイマージオールより選ばれる少なくとも1種類の2価脂肪族アルコールである請求項1または請求項2に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、熱硬化性樹脂、及び、硬化剤を必須成分とする樹脂組成物。
【請求項6】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂以外の熱可塑性成分及びゴム成分等、可撓性成分を更に含む、請求項5または請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂または、請求項5〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物から成形される絶縁フィルム及び薄膜を支持ベースフィルム上に形成してなる接着フィルム。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂または、請求項5〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を銅箔に塗布してなるプリント配線板用樹脂付き銅箔及びフレキシブルプリント配線板用樹脂付き銅箔。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂または、請求項5〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を繊維からなるシート状補強基材に塗工及びまたは含浸する事を特徴とするプリプレグ。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、または請求項5〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物、または請求項8に記載の絶縁フィルム、または請求項9に記載のプリント配線板用樹脂付き銅箔、かたは請求項10に記載のプリプレグのいずれかから得られる電気積層板・フレキシブル電気積層板。

【公開番号】特開2008−239696(P2008−239696A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79348(P2007−79348)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】