方向情報報知装置
【課題】 音像が定位された音に加えて機械的刺激をヘルメットの装着者に与えることにより、同装着者に認識させたい方向をより明瞭に知覚させることができる方向情報報知装置を提供すること。
【解決手段】 この方向情報報知装置は、自動二輪車BYに適用され、ヘルメット10に装着された運転者用ヘッドホン11及び複数のバイブレータ13、警報装置22、並びに車載ユニット30等からなる。方向情報報知装置は、警報装置から発生される音源信号とその付随情報(例えば、どの方向から障害物が接近するかについての情報)に基づいて同音源信号に基づく警報音の音像を定位させるとともに、その音像の定位位置の方向にあるバイブレータ13の少なくとも一つを振動させる。
【解決手段】 この方向情報報知装置は、自動二輪車BYに適用され、ヘルメット10に装着された運転者用ヘッドホン11及び複数のバイブレータ13、警報装置22、並びに車載ユニット30等からなる。方向情報報知装置は、警報装置から発生される音源信号とその付随情報(例えば、どの方向から障害物が接近するかについての情報)に基づいて同音源信号に基づく警報音の音像を定位させるとともに、その音像の定位位置の方向にあるバイブレータ13の少なくとも一つを振動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルメットを装着した情報の取得者に対し、例えば、警報すべき対象物の方向や経路案内における進行すべき道路或いは目的物の存在する方向等の方向に関する情報を与える方向情報報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車の運転者用のヘルメットに左右のスピーカを装備し、警報すべき対象物の方向から警報音が聞こえるように頭部伝達関数を用いて同警報音を定位させながら同スピーカから発生させる二輪車用警報装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この装置によれば、運転者は、注意を向けるべき対象物等の方向を音により認識することができる。
【特許文献1】特開2000−355820号
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、自動二輪車の運転者の意識は運転に集中していることに加え、風切音などの雑音が大きい場合もあるため、突然発生する警報音が定位されていても、その音のみに基づいて警報音の方向(定位位置)を認識することができない場合がある。このような問題は、自動二輪車等の運転者用ヘルメットに限らず、ヘルメットの内部に設けられた左右のスピーカから発生される「定位された音」に基づいて同音の方向を認識させようとする装置において一般的に存在する問題である。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的の一つは、音に加えて音以外の機械的刺激をヘルメットの装着者に与えることにより、同装着者に認識させたい方向をより明瞭に知覚させることができる方向情報報知装置を提供することにある。
【0005】
かかる目的を達成する本発明による方向情報報知装置は、
ヘルメット内の左右に設けられたスピーカと、前記スピーカから発生させる音の音像を所定の情報に基づいて所定の音像定位位置に定位させる音像定位手段と、を備え、音像の定位によってヘルメット装着者に少なくとも方向に関する情報を与える方向情報報知装置であって、
前記ヘルメットの複数箇所に配設されるとともにそれぞれが外部信号に応答して前記ヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する複数の刺激付与手段と、
前記所定の音像定位位置に対応する位置に配設された前記刺激付与手段の少なくとも一つに対し前記外部信号を付与する駆動手段と、
を備えた装置である。
【0006】
これによれば、ヘルメットのスピーカから発生される音像の定位位置に対応する位置に配設された刺激付与手段の少なくとも一つが、ヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する。従って、音のみでなく機械的刺激によってヘルメット装着者の意識を定位された音像の方向に向けることができる。
【0007】
この場合、前記複数の刺激付与手段は、前記ヘルメットの前方側の方が同ヘルメットの後方側よりも互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離が短くなるように配設されていることが好適である。
【0008】
一般に、前方の音源についての頭部伝達関数は、後方の音源についての頭部伝達関数に比べて複雑である。このため、受聴者(聴取者)であるヘルメット装着者に対し、前方に存在する音源を精度良く定位することは容易でない。従って、上記構成のように、ヘルメットの前方側における「互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離」の方が同ヘルメットの後方側における「互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離」よりも短くなるように刺激付与手段を配設しておくことにより、ヘルメット装着者に対して音のみによっては精度良く知覚させ難い前方側の方向について、前方において高密度に配設された刺激付与手段により精度良く知覚させることができる。その結果、同じ個数の刺激付与手段を用いた場合であっても、ヘルメット装着者に伝えるべき方向をより精度高く認識させることができる。
【0009】
また、前記複数の刺激付与手段の少なくとも一つは、前記ヘルメットの内側であって同ヘルメットの装着者の正中面に対応する位置に配設されることが好適である。
【0010】
一般に、頭部伝達関数を用いた音像定位によれば、正中面方向において音像を精度良く定位することは水平面方向において音像を精度良く定位することより困難である。これは、正中面方向の頭部伝達関数は受聴者間の差(個人差)が大きく、様々な受聴者に適合する一つの正中面(前後)方向の頭部伝達関数を設定(再現)することが困難だからである。従って、上記構成のように、刺激付与手段の少なくとも一つをヘルメットの装着者の正中面に対応する位置に配設することにより、ヘルメット装着者に知覚させるべき方向を正中面方向を含むあらゆる方向について精度高く認識させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による方向情報報知装置の各実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書、特許請求の範囲及び図面において、「音源の位置(音源の仮想位置)」とは、「音源から出力される音を生成するための信号である音源信号の音像の位置(音像の仮想位置)」と同義として扱われる。
【0012】
<第1実施形態>
(装置の構成)
この方向情報報知装置は、図1に示したように、自動二輪車BYに適用され、いずれもフルフェイス型の運転者用ヘルメット10に装着された、運転者用ヘッドホン11、運転者用マイクロホン12、複数のバイブレータ13(13a〜13h)及び運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14を備えている。更に、この方向情報報知装置は、運転者ユニット15、車体向き検出用地磁気センサ21、警報装置22及び車載ユニット30を備えている。
【0013】
運転者用ヘッドホン11は、図1、ヘルメット10の斜視図である図2及びヘルメット10を上方からみたヘルメットの平面図である図3に示したように、左スピーカ11L及び右スピーカ11Rからなっている。左スピーカ11Lは、運転者用ヘルメット10を装着した運転者の左耳近傍に位置されるように運転者用ヘルメット10の内側左方部に配設されている。右スピーカ11Rは、運転者用ヘルメット10を装着した運転者の右耳近傍に位置されるように運転者用ヘルメット10の内側右方部に配設されている。
【0014】
運転者用マイクロホン12は、図1及び図2に示したように、運転者用ヘルメット10を装着した運転者の口の近傍に位置されるように運転者用ヘルメット10の内側前方下部に配設されている。
【0015】
複数(本例では全部で8個)のバイブレータ13(13a〜13h)は、図1乃至図3に示したように、ヘルメット10の装着者の頭部の周方向に沿い且つ互いに離間した位置に対向するヘルメット10の内側の位置に配設・固定されている。複数のバイブレータ13は、それぞれが外部信号に応答してヘルメット10の装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する刺激付与手段を構成している。なお、便宜上、バイブレータ13a〜13hは、順に第1〜第8バイブレータともそれぞれ称呼される。
【0016】
図3を参照して詳細に説明すると、バイブレータ13aは、ヘルメット10の装着者の正中面CP上であってヘルメット10の前部上方位置に配設されている。正中面CPとは、ヘルメット10の装着者の頭部を左右二つの略対称な部分に分割する面であって、頭部の左右方向中心を通る頭部前後方向及び頭部上下方向に広がる面である。
【0017】
バイブレータ13b〜バイブレータ13hは、同様にヘルメット10の内側上方であって、表1の角度θ1及び角度θ2で表された位置に配設・固定されている。角度θ1及び角度θ2は、図3に示したように、ヘルメット10の中心Pの回りにヘルメット10の前方(運転者用ヘルメット10の前後方向の軸の前方)から時計方向及び反時計方向にそれぞれ回転した角度を表している。従って、バイブレータ13eは、ヘルメット装着者の正中面CP上であってヘルメット10の後部上方位置に配設されていることになる。
【表1】
【0018】
運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14は、運転者用ヘルメット10の内側又は外側上部に配設されている。運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14は、運転者用ヘルメット10の方位(運転者用ヘルメット10の前後方向の軸の前方の方位)を検出するようになっている。
【0019】
運転者ユニット15は、所定の機能を達成する電気回路を収容している。運転者ユニット15は、図1及び図2に示したように、コードにより運転者用ヘッドホン11、運転者用マイクロホン12、複数のバイブレータ13及び運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14と接続されている。
【0020】
運転者ユニット15は、運転者用ヘッドホン11を駆動して同運転者用ヘッドホン11から音を発生させるとともに、複数のバイブレータ13のうちの所定のバイブレータ13を選択し、その選択したバイブレータ13を振動させる信号(外部信号)をその選択したバイブレータ13に送信するようになっている。更に、運転者ユニット15は、運転者用マイクロホン12からの音声信号を入力するとともに、運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14が検出した運転者用ヘルメット10の方位を入力するようになっている。運転者ユニット15は、車載ユニット30と無線通信により必要な情報を交換するようになっている。
【0021】
車体向き検出用地磁気センサ21は、自動二輪車BYの車体に固定されている。車体向き検出用地磁気センサ21は、車体の前後方向の方位(車体の前後方向の軸の前方の方位)を検出するようになっている。
【0022】
障害物及び警報音検知装置(以下、「警報装置」と称呼する。)22は、例えば、特開2000−355820号公報等に記載されている技術を使用した周知の装置であって、自動二輪車BYの車体に固定されている。警報装置22は、図示しないセンサと接続されていて、これらのセンサからの信号に基づき障害物が接近する方向(即ち、運転者に報知すべき障害物が接近してくる車体に対する方向)を検出するようになっている。
【0023】
更に、警報装置22は、車体の左右前後に配設された複数の指向性の高いマイクロホン(図示省略)と接続されていて、車体の周囲から発せられた警報等を検出し、その警報等の方向(即ち、運転者に報知すべき警報等の発生した車体に対する方向)を決定するようになっている。
【0024】
警報装置22は、障害物の接近や警報等を検出すると、音源信号及び付随情報を表す信号を出力するようになっている。音源信号とは、ある音源から発生される信号であって、その音源による音(この場合、警報音)を生成させるための信号である。付随情報とは、音源信号に基づいて発生されるべき音に関する情報であって、この場合、障害物の車体に対する方向及び車体と障害物との距離についての情報等である。
【0025】
車載ユニット30は、自動二輪車BYの車体に固定されている。車載ユニット30は、コードにより、車体向き検出用地磁気センサ21及び警報装置22と接続されていて、これらの発生する信号を入力するようになっている。車載ユニット30は、更に、同乗者ユニット43と無線通信により必要な情報を交換するようになっている。
【0026】
図4に示したように、車載ユニット30は、通信装置31、音源位置決定装置32、音源定位装置(音像定位手段)33及び振動パターン決定装置34を備えている。
【0027】
通信装置31は、無線通信により運転者ユニット15と信号の交換を行うようになっている。
【0028】
音源位置決定装置32は、車体向き検出用地磁気センサ21、警報装置22、通信装置31、音源定位装置33及び振動パターン決定装置34と接続されている。音源位置決定装置32は、警報装置22が出力する音源信号及び付随情報を表す信号を受信するようになっている。
【0029】
音源位置決定装置32は、受信した音源信号に基づく音像を定位させる位置である仮想音源位置(音源の音像位置、音源に対する仮想音源位置)を、受信した音源信号及び付随情報を表す信号に基づいて決定し、その仮想音源位置を表す情報(音源位置情報)を音源定位装置33及び振動パターン決定装置34に出力するようになっている。
【0030】
仮想音源位置とは、ある音源(音源からの音源信号に基づく音像)が、あたかも仮想音源位置に存在しているかのように受聴者である運転者(ヘルメット10の装着者)に聴かせることができる音源の仮想的な位置である。従って、警報装置22、後述する会話用無線通信装置(同乗者と言うこともできる。)35及びその他の音源23は、音源を構成している。
【0031】
更に、音源位置決定装置32は、車体向き検出用地磁気センサ21の出力信号と、通信装置31を介して受信したヘルメット向き検出用地磁気センサ14の出力信号と、に応じて前記音源位置情報を決定(補正)するようになっている。
【0032】
音源定位装置33は、通信装置31にも接続されている。音源定位装置33は、警報装置22が出力する信号(音源信号及び付随情報を表す信号)を受信するとともに、音源位置決定装置32から音源位置情報を受信し、音源信号に基づく音像を音源位置情報に応じた位置に定位させるための信号である音源定位信号(出力信号)を生成するようになっている。
【0033】
更に、音源定位装置33は、音源定位信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に送信するようになっている。運転者ユニット15は、受信した音源定位信号を増幅し、その増幅信号を運転者用ヘッドホン11のスピーカ11R,11Lに出力するようになっている。この結果、定位された音源信号に応じた音がスピーカ11R,11Lから発生させられる。
【0034】
ここで、音源定位装置33の構成について図5を参照しながら説明する。音源定位装置33は、タップ位置決定回路33a、ゲイン決定回路33b、A/Dコンバータ(ADC)33c、ディレイライン33d、バンドパスフィルタ33e、ゲイン乗算器33f、ゲイン乗算器33g、加算器33h、FIRフィルタ33i、加算器33j、D/Aコンバータ(DAC)33kを備えている。なお、音源定位装置33及び音源位置定位方法(ヘッドホンを使用して音の音像を三次元において定位する音像定位方法)は、例えば、特開2002−44796及び特開平10−23600等により周知である。
【0035】
タップ位置決定回路33aは、音源位置決定装置32及びディレイライン33dと接続されている。タップ位置決定回路33aは、音源位置決定装置32からの音源位置情報に基づいてディレイライン33dのタップ位置(タップ位置については後述する)を指示する信号をディレイライン33dに送信するようになっている。
【0036】
ゲイン決定回路33bは、音源位置決定装置32、ゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gと接続されている。ゲイン決定回路33bは、音源位置決定装置32からの音源位置情報に基づいて、ゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gの後述するゲインを指示する信号をゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gに送信するようになっている。
【0037】
ADC33cの入力端は、警報装置22と接続されている。ADC33cは、警報装置22から入力した音源信号をデジタル信号に変換し、出力端から出力するようになっている。ADC33cの出力端は、第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33fの入力端に接続されるとともに、ディレイライン33dの入力端に接続されている。ADC33cの出力端から第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33fの入力端に直接入力される信号は、「先行音」と称呼される。
【0038】
ディレイライン33dは、複数のシフトレジスタから構成されている。複数のシフトレジスタは直列に接続され、多段のシフトレジスタを構成している。ディレイライン33dは、この多段のレジスタの所定のレジスタとその所定のレジスタに続くレジスタとの間にタップを設けるようになっている。
【0039】
ADC33cの出力端からディレイライン33dに入力され、且つ、所定の時間だけディレイされて前記タップから取り出される信号は、「後行音」と称呼される。ディレイライン33dは、タップの位置を、タップ位置決定回路33aから送信されてくる信号に基づいて変更するようになっている。
【0040】
ディレイライン33dの前記タップは、バンドパスフィルタ33eの入力端に接続されている。バンドパスフィルタ33eの出力端は、第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33gの入力端に接続されている。これにより、後行音は、バンドパスフィルタ33eを通過した後に第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33gの入力端に入力される。
【0041】
各チャンネルのゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gは、何れもゲイン決定回路33bと接続されている。これにより、各ゲイン乗算器33fは、ゲイン決定回路33bから出力される信号に基づいて自身のゲインを変更するようになっている。同様に、各ゲイン乗算器33gは、ゲイン決定回路33bから出力される信号に基づいて自身のゲインを変更するようになっている。
【0042】
ところで、一般に、受聴者が先行音及び後行音のように互いに同一の2つの音を時間差をもって受聴した場合、受聴者は、より先に到達した音及び/又はよりレベルの大きい方の音の方向に、その音の音源が存在すると知覚する。この効果は、先行音効果(ハース効果)と呼ばれるよく知られた効果である。そこで、ゲイン乗算器33gのゲインを適切に変更して、後行音を受聴位置に対して先行音の反対側となるように定位させるとともに、ディレイライン33dの前記タップの位置を変更して先行音と後行音の時間差(ディレイ時間)を調整する。これにより、定位させたい先行音の方向感を一層強調することができる。
【0043】
しかしながら、先行音と後行音との時間差及びレベル差が極端に小さいと、音像は頭内に定位してしまい、方向感が失われる。逆に、時間差が過大となると受聴者は受聴音を2つの別の音として知覚してしまう。また、レベル差が過大となると、前述した後行音の効果(先行音の方向感を強調する効果)が失われる。
【0044】
このような観点に基づき、タップ位置決定回路33a及びゲイン決定回路33bは、上記時間差(タップ位置)及びレベル差(後行音に対するゲイン)を適切な値に設定するようになっている。
【0045】
各チャンネルのゲイン乗算器33fの出力端及びゲイン乗算器33gの出力端は、各チャンネルの加算器33hの入力端に接続されている。各チャンネルの加算器33hの出力端は各チャンネルのFIRフィルタ33i(実際には、左耳用FIRフィルタ33iL及び右耳用FIRフィルタ33iR)の入力端に接続されている。これにより、先行音信号及び後行音信号は、それぞれゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gによって増幅され、加算器33hにて加算されてからFIRフィルタ33iに入力される。
【0046】
第1チャンネルCh1のFIRフィルタ33iLは、音が図6の#1の方向から受聴者の左耳に聞こえてくる場合の周波数特性を頭部伝達関数(Head Related Transfer Function; HRTF)によりシミュレートするようになっている。即ち、第1チャンネルCh1のFIRフィルタ33iLは、音が図6の#1の方向から受聴者の左耳に聞こえてくる場合の音の伝達特性である頭部伝達関数により、第1チャンネルCh1の加算器33hから出力された信号を畳み込み演算するフィルタである。
【0047】
なお、図6においては、受聴者(運転者)の頭部は#1〜#8の位置により規定される立方体の中央部に存在し、受聴者は#1、#2、#6及び#5の位置により構成される面に正対している(この面の垂直方向を向いている)。#1乃至#4の位置により形成される面は受聴者の下方の面、#5乃至#8の位置により形成される面は受聴者の上方の面である。この立方体の向きは、受聴者の頭部の向き(運転者用ヘルメット10の前後方向の軸の前方の向き)の変化に伴って変化する。
【0048】
同様に、第2チャンネルCh2乃至第8チャンネルCh8のFIRフィルタ33iL及びFIRフィルタ33iRは、それぞれ図6の#2乃至#8の方向から受聴者の左右の耳への音の伝達を頭部伝達関数によりシミュレートするようになっている。
【0049】
ここで、仮想音源位置が、上述した基本となる方向#1〜#8の間の方向である場合について説明する。今、仮想音源位置を、図7の(A)乃至(C)に示した空間上の任意の点Ptgtに設定するべきであると仮定する。この場合、仮想音源Ptgtは受聴者の左右の耳の中央の点Dから見て、#1、#2、#5及び#6から形成される正方形内にある。なお、図7の(B)及び(C)は、それぞれ図7の(A)の立方体の上面図及び側面図である。
【0050】
ここで、点Dと点Ptgtとを通る直線Lと、#1、#2、#5及び#6の位置により形成される面と、の交点を交点Crと称呼する。この場合、交点Crは横方向(水平方向、即ち、#1−#2又は#5−#6に沿った方向)において、辺#1−#2の長さ(図6及び図7の(A)に示した立方体の一辺の長さ)をa:bにて内分した位置P1に存在している。更に、交点Crは縦方向(鉛直上下方向、即ち、#1−#5又は#2−#6に沿った方向)において、辺#1−#5の長さ(図6及び図7の(A)に示した立方体の一辺の長さ)をc:dにて内分した位置P2に存在している。また、点Dから仮想音源Ptgtまでの距離L1は、点Dから交点Crまでの距離L2のx倍(音源距離比x=L1/L2)であるとする。
【0051】
このとき、ゲイン決定回路33bは、第1チャンネルCh1、第2チャンネルCh2、第5チャンネルCh5及び第6チャンネルCh6の各先行音に対するゲイン乗算器33fのゲインを、チャンネル間距離比a:b、c:d及び音源距離比xから求められるゲインに設定する。具体的には、各チャンネルのゲインは、チャンネル間距離比に逆比例し、音源距離比xの2乗に反比例するように定めれば良い。即ち、第nチャンネルの先行音に対するゲインkChn(nは、1,2,5,6)は、下記(1)式乃至(4)式により決定される。また、ゲイン乗算器33fの残りのチャンネルの先行音に対するゲインは「0」に設定される。
【数1】
【0052】
後行音の仮想音源Ptgt’は、前述した後行音の効果をもたらすために、先行音により定位される仮想音源Ptgtの点Dに関する点対称の位置に定位される。後行音は、先行音に対して一定量の減衰量(ゲイン)とディレイ量(時間差)を有するように発音される。これらの量(減衰量及びディレイ量)は、音源位置には依存せず、受聴者の聴特性及び嗜好等に基づいて設定される。いま、先行音に対する減衰量をpとすると、ゲイン決定回路33bは、第3チャンネルCh3、第4チャンネルCh4、第7チャンネルCh7及び第8チャンネルCh8の各後行音に対するゲイン乗算器33gのゲインを、上記先行音に対するゲインに応じて下記の(5)式乃至(8)式に基いて決定する。また、ゲイン乗算器33gの残りのチャンネルの後行音に対するゲインは「0」に設定される。
【数2】
【0053】
運転者用ヘルメット10の向き(運転者用ヘッドホン11の向き)及び/又は仮想音源位置である点Ptgtが変化すると、点Ptgtと運転者用ヘッドホン11のなす角度も変化する。この場合においても、点Dと点Ptgtとを通る直線Lと、#1乃至#8の位置により形成される立方体の何れかの面とが交差し、その面上にて交点Crが求められる。従って、ゲイン決定回路33bは、その交点Crとその面を規定する#1乃至#8の位置のうちの4つの位置から、上述した距離比(スピーカ間距離比)a:b,c:d及び音源距離比xを求め、各チャンネルの先行音ゲイン乗算器33fのゲイン及び後行音ゲイン乗算器33gのゲインを、これらの比及び上記(1)乃至(8)により定まるゲインに設定する。この結果、運転者用ヘッドホン11の向きにかかわらず、仮想音源位置を点Ptgtに常に定位させることができる。
【0054】
再び図5を参照すると、各チャンネルのFIRフィルタ33iL,33iRは、加算器33j(実際には、左耳用加算器33jL及び右耳用加算器33jR)の入力端に接続されている。これにより、各チャンネルのFIRフィルタ33iL,33iRから出力された信号は、加算器33jにより加算合成される。
【0055】
加算器33j(左耳用加算器33jL及び右耳用加算器33jR)の出力端は独立してDAC33kの入力端に接続されている。これにより、各加算器33jから出力された信号はアナログ信号に変換される。DAC33kの出力端は通信装置31に接続されている。これにより、アナログ信号に変換された左耳用及び右耳用の信号(音源定位信号)は、通信装置31を介して運転者ユニット15に送信される。
【0056】
再び、図4を参照すると、振動パターン決定装置34は通信装置31にも接続されている。振動パターン決定装置34は、音源位置決定装置32から音源位置情報を受信し、音源位置情報に基づいて複数のバイブレータ13a〜13hのうちから振動させるべきバイブレータを(一つ又はそれ以上)決定し、その決定したバイブレータを表す信号(バイブレータ選択信号)を生成するようになっている。なお、振動パターン決定装置34は、音源定位装置33から音源定位信号を取得し、その音源定位信号に基づいて振動させるべきバイブレータを決定するように構成されてもよい。
【0057】
上述した「振動させるべきバイブレータ」は、音像定位位置(仮想音源位置)に対応する位置に配設されたバイブレータである。例えば、図3に示したように、音像定位位置を複数のバイブレータ13が配設されている面に投影した場合の位置が三角形のプロットにより示した位置Ptgt1である場合、振動パターン決定装置34は、振動させるべきバイブレータは第2バイブレータ13bであると決定する。また、音像定位位置を複数のバイブレータ13が配設されている面に投影した場合の位置が正方形のプロットにより示した位置Ptgt2である場合、振動パターン決定装置34は、振動させるべきバイブレータは第4バイブレータ13dであると決定する。
【0058】
このように、振動パターン決定装置34は、音像定位位置を複数のバイブレータ13が配設されている面に投影した位置を決定し、その位置とヘルメットの中心Pとを結んだ線分(以下、「定位方向線分」と称呼する。)に最も近いバイブレータを「音像定位位置に対応する位置に配設されたバイブレータ」、つまり、「振動させるべきバイブレータ」として決定する。換言すると、音像定位位置の方向に最も近い方向にあるバイブレータが、「振動させるべきバイブレータ」として選択される。
【0059】
更に、振動パターン決定装置34は、バイブレータ選択信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に送信するようになっている。運転者ユニット15は、受信したバイブレータ選択信号が示すバイブレータを振動させる駆動信号を対応するバイブレータに出力するようになっている。この結果、音像定位位置(仮想音源位置)に対応する位置に配設されたバイブレータが振動せしめられる。
【0060】
(実際の作動)
次に、上記のように構成された方向情報報知装置の作動について説明する。上述した音源位置決定装置32及び振動パターン決定装置34の機能は実際にはマイクロコンピュータのCPUが図8及び図11にフローチャートにより示した処理を一定時間の経過毎にそれぞれ行うことにより達成される。また、音源定位装置33の機能は、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)が図10にフローチャートにより示した処理を一定時間の経過毎に行うことにより達成される。いま、警報装置22が、運転者に報知すべき障害物の接近及び運転者に報知すべき警報等を全く検出しておらず、従って、音源信号を発生していないと仮定する。
【0061】
音源位置決定装置32のCPUは、図8に示したステップ100から処理を開始すると、ステップ110に進んで自動二輪車BYの前後方向軸の前方に対する運転者用ヘルメット10の角度(運転者用ヘルメット10の向き)を、車体向き検出用地磁気センサ21が検出する車体の方位と運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14が検出する運転者用ヘルメット10の方位とに基づいて決定する。
【0062】
次いで、CPUはステップ120に進み、警報装置22からの音源信号が発生しているか否かを判定する。前述の仮定に従えば、現時点において音源信号は発生していない。従って、CPUはステップ120にて「No」と判定し、ステップ195に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。以上のステップは、警報装置22から音源信号が発生するまで繰り返し行われる。ステップ120は、音源信号の発生を検知するためのステップである。
【0063】
この状態において、警報装置22が運転者に報知すべき障害物の接近又は運転者に報知すべき警報等を検出したと仮定する。この場合、警報装置22は音源信号及び付随情報を出力する。従って、CPUは、図8に示したステップ110に続くステップ120にて「Yes」と判定し、ステップ130に進んで仮想音源位置、即ち、警報音を定位させるべき位置を、音源信号の付随情報及びステップ110にて決定した運転者用ヘルメット10の向き(角度)に基づいて決定する。
【0064】
ところで、図9の(A)に示したように、警報装置22が「障害物が自動二輪車BYの車体の右前方から接近してくる」ことを検出し、その旨を警報音にて警告するための音源信号を発生したと仮定する。このとき、運転者(運転者用ヘルメット10)が自動二輪車BYの車体の前後方向の軸の前方を向いていたとする。この場合、警報装置22からの音源信号に基づく警報音の音像はヘルメット10(ヘッドホン11)の右前方に定位すればよい。
【0065】
ところが、図9の(B)に示したように、運転者が自動二輪車の前後方向の軸の前方に対して平面視において90度だけ時計方向に回転した向き(即ち、右)を向いていたとすると、警報装置22からの音源信号に基づく警報音の音像はヘルメット10(ヘッドホン11)の左前方に定位させられるべきである。
【0066】
そこで、音源位置決定装置32のCPUは、上述したステップ130において、運転者用ヘルメット10の向きにも応じて音源信号の仮想音源位置を決定する。これにより、上記図9の(B)に示した例において、警報音の音像はヘルメット10(ヘッドホン11)の左前方に定位されるから、運転者が障害物の接近方向を誤って認識する可能性が低減できる。
【0067】
次いで、音源位置決定装置32のCPUはステップ140に進み、上記ステップ130にて決定された音源位置情報を出力し、ステップ195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0068】
一方、音源定位装置33(DSP)は、図10に示したルーチンの処理を一定時間の経過毎にステップ200から開始し、ステップ210に進んで「CPUが出力している音源位置情報」に基づいて音源信号の仮想音源位置に対するFIRフィルタ33iL,33iRの係数を決定する。次いで、DSPはステップ220に進み、ゲイン乗算器33fのゲイン及びゲイン乗算器33gのゲインを決定する。ゲイン乗算器33fのゲイン及びゲイン乗算器33gのゲインは、上述した(1)〜(8)式等に基づいて、第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8の各チャンネルに対して決定される。
【0069】
次いで、DSPはステップ230に進み、音源信号のAD変換をADC33cに実行させる。これにより、DSPはAD変換後の音源信号を取得する。なお、警報装置22から出力される音源信号がデジタル信号であれば、ステップ230及びADC33cは省略される。次に、DSPはステップ240に進み、ステップ210にて決定したFIRフィルタ33iL,33iRの係数と、ステップ220にて決定したゲイン乗算器33fのゲイン及びゲイン乗算器33gのゲインと、を使用して、音源信号に基づく音像(警報音)を音源位置情報に応じた位置に定位させるための信号(音源定位信号)を生成する。
【0070】
その後、DSPはステップ250に進み、上記ステップ240にて生成した音源定位信号をDAC33kによりアナログ信号に変換し、そのアナログ信号に変換した音源定位信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に出力する。そして、DSPは、ステップ295にて本ルーチンを一旦終了する。以上によって、警報音が仮想音源位置に定位される。
【0071】
他方、CPUは、図11に示したルーチンの処理を一定時間の経過毎にステップ300から開始し、ステップ310に進んで音源位置情報に基づいて振動させるべきバイブレータを上述した方法に基づいて決定する。即ち、CPUはバイブレータ選択信号を生成する。この場合、CPUは、音源位置パターンデータベースと同様なバイブレータ振動パターンデータベースを備え、音源信号の種類及び音源信号の種類の変化の少なくとも一方と、バイブレータ振動パターンデータベースと、から振動させるべきバイブレータを決定してもよい。次いで、CPUはステップ320に進み、バイブレータ選択信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に出力し、ステップ395にて本ルーチンを一旦終了する。以上によって、警報音が聞こえてくる方向に略一致したバイブレータ13のうちの少なくとも一つが振動する。
【0072】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る方向情報報知装置は、ヘルメット10内の左右に設けられたスピーカ11R,11Lから発生させる音(警報音)の音像を、所定の情報(付随情報)に基づいて所定の音像定位位置(警報音を発生するべき位置)に定位させる音像定位手段(音源位置決定装置32、音源定位装置33及び運転者ユニット15)を備える。従って、この音像の定位により、ヘルメット装着者に少なくとも方向(注意すべき方向)に関する情報が与えられる。更に、音源信号の音像が定位されるから、ヘルメット装着者に特定の音の方向及び距離感を認識させることができる。
【0073】
加えて、上記方向情報報知装置は、外部信号(バイブレータ選択信号)に応じてヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する複数の刺激付与手段(バイブレータ13a〜13h)と、前記所定の音像定位位置に対応する位置に配設された前記刺激付与手段の少なくとも一つに対し前記外部信号を付与する駆動手段(振動パターン決定装置34及び運転者ユニット15)と、を備える。従って、ヘルメット装着者の頭部であって、前記所定の音像定位位置の方向に略等しい方向の局所的部分に機械的刺激が発生するので、ヘルメット装着者は、音(音像の定位)のみでなく機械的刺激により、自己の意識を定位された音像の方向に容易に向けることができる。
【0074】
更に、上記方向情報報知装置においては、前記ヘルメット10の前方側の方が同ヘルメットの後方側よりも互いに隣接する二つのバイブレータの間の距離が短く設定されている。従って、ヘルメット装着者は、音像定位によって定位感を得難い前方からの音(前方に定位された音像)の方向を、密度が高く配置されたバイブレータ13の振動により精度高く認識することができる。
【0075】
加えて、バイブレータ13a及びバイブレータ13eは、ヘルメットの装着者の正中面に対応するヘルメット10の内側の位置に配設されている。従って、ヘルメット装着者に伝えるべき方向をより精度高く認識させることができる。
【0076】
なお、上記実施形態においては、警報音が定位され、それにともなってバイブレータ13の少なくとも一つが振動せしめられていたが、定位されるべき音は「方向についてヘルメット装着者に認識させたい情報に関する音」であれば警報音に限らない。
【0077】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る方向情報報知装置は、図1及び図4に破線により示したように、警報装置22の他に例えば音楽プレーヤや音声ナビゲータ装置等のその他の音源23を備え、警報装置22以外からの音源信号に基づく音を発生するとともに、同乗者ユニット43と通信を行うことにより、自動二輪車BYの運転者であるヘルメット装着者が、同乗者と無線による会話をすることができるようになされている点において、第1実施形態の方向情報報知装置と相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0078】
その他の音源23は、携帯電話、音楽プレーヤ、ナビゲーション装置、車両・走行状態検出装置等の何れかであってもよく、これらを統合した機能を有する装置であってもよい。
【0079】
携帯電話は、一般に使用される携帯電話であり、少なくとも、着信音を表す信号及び通話音声を表す信号を出力するようになっている。音楽プレーヤは、例えば、MP3プレーヤ等であり、音楽データを内部に格納しているか、外部から通信により取得し、その音楽データに基づいて音楽を再生するための信号を出力するようになっている。ナビゲーション装置は、GPS装置を内蔵している。GPS装置は、GPS(Global Positioning System)人工衛星から放射される自車位置検出用の航法電波を受信して自動二輪車BYの現在位置を取得するようになっている。ナビゲーション装置は、現在位置から所定の操作により設定された目的地までの経路を計算により求め、経路案内を音声により行うための信号を出力するようになっている。
【0080】
車両・走行状態検出装置は、自動二輪車BYの状態を検出する種々のセンサやスイッチ等(図示省略)と接続されている。車両・走行状態検出装置は、接続されたセンサからの信号に基づいて、自動二輪車BYの各部の異常状態を含む車両状態や自動二輪車BYの走行状態を検出し、検出された車両・走行状態を運転者に音声又は警報音により報知するための信号を必要に応じて出力するようになっている。車両状態には、例えば、方向指示器の点滅状態(左右どちらの方向指示器が点滅しているかを含む)、ブレーキシステムが異常となっていること及び燃料残量が少ないこと等が含まれる。走行状態には、例えば、エンジン回転速度、車両速度、路面や路側帯等に配設された車両外部の装置から無線通信により得られる路面状態等の状態が含まれる。
【0081】
また、自動二輪車BYに同乗者が搭乗した場合、上記方向情報報知装置は、同乗者用ヘルメット40に装着された同乗者用ヘッドホン41及び同乗者用マイクロホン42、並びに同乗者ユニット43を含むようになる。
【0082】
車載ユニット30は、その他の音源23と接続されていて、その他の音源23からの信号(音源信号及び付随情報を表す信号)を入力するようになっている。更に、車載ユニット30は、会話用無線通信装置35を備えている。会話用無線通信装置35は、同乗者ユニット43と無線通信により信号の交換を行うようになっている。
【0083】
会話用無線通信装置35は、通信装置31と接続され、通信装置31が運転者ユニット15から受信した「運転者(ヘルメット10の装着者)が発生した音声に基づく音声信号」を同乗者ユニット43に送信するようになっている。また、会話用無線通信装置35は、音源位置決定装置32及び音源定位装置33と接続されていて、同乗者ユニット43から送られてくる「同乗者(ヘルメット40の装着者)が発生した音声に基づく音声信号」を音源位置決定装置32及び音源定位装置33に送信するようになっている。
【0084】
同乗者ユニット43は、コードにより同乗者用ヘッドホン41及び同乗者用マイクロホン42と接続されている。同乗者ユニット43は、会話用無線通信装置35との通信により得られる「運転者(ヘルメット10の装着者)が発生した音声に基づく音声信号」に応答して同乗者用ヘッドホン41を駆動し、同乗者用ヘッドホン41から音声を発生させるようになっている。同乗者ユニット43は、同乗者用マイクロホン42からの音声信号を入力し、その音声信号を会話用無線通信装置35に送信するようになっている。
【0085】
以上の構成により、第2実施形態に係る音源位置決定装置32は、警報装置22のみならず、その他の音源23及び会話用無線通信装置35が出力する音源信号及び付随情報を表す信号を受信するようになっている。
【0086】
更に、第2実施形態に係る音源位置決定装置32は、音源位置パターンデータベース32aを備えている。音源位置パターンデータベース32aには、音源信号の種類及び音源信号の種類の変化の少なくとも一方に対応する仮想音源位置パターンが予め記憶されている。音源位置決定装置32は、実際に入力される各音源からの音源信号の種類及び同音源信号の種類の変化と音源位置パターンデータベース32a内に記憶されている関係とに基づいて、実現すべき仮想音源位置のパターンを決定し、そのパターンを表す情報を前述した音源位置情報として出力するようになっている。
【0087】
加えて、第2実施形態に係る音源定位装置33は、音源位置情報に基づいて音源信号毎に音源を定位させるようになっている。また、第2実施形態に係る振動パターン決定装置34は、音源の種類の変化(新たな音源信号の追加)があったときにのみバイブレータ13の少なくとも一つを選択し、その音源信号の種類の変化があった時点から所定時間だけ同選択したバイブレータを振動させるようになっている。
【0088】
次に、上記のように構成された第2実施形態に係る方向情報報知装置の作動について一例を用いて説明する。
【0089】
例えば、図12の(A)に示したように、運転者がその他の音源23に含まれる音楽プレーヤの発生する音源信号のみに基づいて音楽を再生し、その音楽を聴いていたとする。この場合、音源位置決定装置32は、再生される音楽が運転者の頭部(運転者用ヘルメット10)全体に広がり、通常の音楽聴取時のような自然な感じで音楽が聞こえるように音楽プレーヤからの音源信号の音像に対する仮想音源位置を決定する。そして、音源定位装置33は、その仮想音源位置に音楽プレーヤからの音源信号に基づく音像を定位させる。この結果、運転者は、あたかも4つのスピーカ(前方左スピーカ、前方右スピーカ、後方左スピーカ及び後方右スピーカ)で囲まれた範囲内の適切な位置にて音楽を楽しんでいるかのように、音楽を聴くことができる。
【0090】
かかる状態において、同乗者が同乗者用マイクロホン42及び同乗者ユニット43を使用して会話を開始した(発言を行った)と仮定する。即ち、タンデム会話が同乗者の発言により開始されたと仮定する。一般に、運転者は、音楽を聴いているときには音楽に注意が集中しているので、同乗者からの不意な発言を聞き逃す可能性が高い。
【0091】
そこで、音源位置決定装置32は、図12の(B)に示したように、音源位置パターンデータベース32aを参照することにより、同乗者の音声が運転者の直近で発せられたかのように音源である会話用無線通信装置35(音源としての同乗者)からの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。
【0092】
同時に、音源位置決定装置32は、音楽プレーヤからの音源信号に基づく音楽が運転者用ヘルメット10の下方から聞こえるように音楽プレーヤからの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。これにより、運転者には急に音楽が下方から聞こえ出し、且つ、同乗者の発言が耳元で聞こえるから、運転者が同乗者の最初の会話を聞き逃す可能性が低減する。
【0093】
更に、振動パターン決定装置34は、このように新たな音源信号(この場合、会話用無線通信装置35からの同乗者の音声信号)が加わったとき、音源位置情報に基づいて、新たに加わった音源信号の仮想音源位置(定位位置)の方向に対応したバイブレータ13の少なくとも一つを選択する。この場合、新たに加わった音源信号である同乗者の音声信号の定位位置は左及び右方向である。従って、振動パターン決定装置34は、バイブレータ13c及び13gを選択し、それらを所定時間だけ振動させる。
【0094】
その後、同乗者との会話が継続すると、音楽プレーヤと会話用無線通信装置35(同乗者)からの音源信号が継続する。即ち、音源の種類は変化しない。しかしながら、この場合、図12の(A)に示した音楽だけを再生している場合とは音源信号の種類(音源信号の種類の組合せ)が相違している。
【0095】
そこで、音源位置決定装置32は、図12の(C)に示したように、音楽プレーヤからの音源信号に基づく音楽が運転者用ヘルメット10の下方から聞こえるように音楽プレーヤからの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定するとともに、同乗者の音声が運転者の直近ではなく運転者用ヘルメット10の上部全体にて聞こえるように会話用無線通信装置35からの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。
【0096】
このような状態が継続しているとき、その他の音源23のナビゲーション装置が、運転者が進むべき道路が右前方であることを音声により報知するための音源信号を発生したと仮定する。この場合、音源位置決定装置32は、音源位置パターンデータベース32aを参照することにより、音楽プレーヤからの音源信号に基づく音楽を聞こえないようにし、会話用無線通信装置35からの音源信号に基づく同乗者の音声が運転者の直近で聞こえるようにし、且つ、その他の音源23からの音源信号に基づく経路案内音声が運転者用ヘルメット10の右前方から聞こえるように、各音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。これにより、運転者は、進行すべき方向が右前方向であることを確実に知ることができるとともに、同乗者との会話を継続することができる。
【0097】
同時に、振動パターン決定装置34は、新たな音源信号(この場合、その他の音源23からの経路案内音声の信号)が加わったとき、音源位置情報に基づいて、新たに加わった音源信号の仮想音源位置の方向に対応したバイブレータ13の少なくとも一つを選択する。この場合、新たに加わった音源信号である経路案内音声の信号の仮想音源位置(定位位置)は右前方向である。従って、振動パターン決定装置34は、バイブレータ13bを選択し、バイブレータ13bを所定時間だけ振動させる。以上が、一例を用いて説明した第2実施形態に係る方向情報報知装置の作動の概要である。
【0098】
次に、第2実施形態に係る方向情報報知装置の実際の作動について簡単に説明する。上述した音源位置決定装置32及び振動パターン決定装置34の機能は実際にはマイクロコンピュータのCPUが図13及び図14にフローチャートにより示した処理を一定時間の経過毎にそれぞれ行うことにより達成される。また、音源定位装置33の機能は、DSPが図10と同様な処理を行うことにより達成されるので、説明を省略する。
【0099】
CPUは、図13の処理をステップ400から開始すると、ステップ405にて図8のステップ110と同様に運転者用ヘルメット10の向きを決定する。次いで、CPUはステップ410にて音源の状況に変化があったか否か、即ち、その時点までの音源からの音源信号に加えて、別の音源からの音源信号が新たに発生したか否かを判定する。
【0100】
このとき、別の音源からの音源信号が新たに発生していれば、CPUはステップ415に進み、現在の状況に応じた音源位置パターンを音源位置パターンデータベース32aから読み出す。その後、CPUはステップ420に進み、各音源信号の仮想音源位置を、ステップ415にて読み出した音源位置パターンとステップ405にて決定した運転者用ヘルメット10の向きに基づいて補正することにより、最終的な各音源の仮想音源位置を決定する。次いで、CPUはステップ425に進み、ステップ420にて決定した各音源信号の仮想音源位置を音源定位装置(DSP)33に音源位置情報として出力し、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0101】
一方、音源の状況が変化していなければ、CPUはステップ410にて「No」と判定してステップ430に進み、「音源の状況が最後に変化してから所定時間が経過したか否か」を判定する。音源の状況が最後に変化してから所定時間が経過していなければ、CPUはステップ420以降に直接進む。また、音源の状況が最後に変化してから所定時間が経過していると、CPUはステップ430にて「Yes」と判定してステップ435に進み、現在の状況(特定の種類の音源信号が所定時間以上継続している状況)に応じた音源位置パターンを音源位置パターンデータベース32aから読み出し、その後、ステップ420以降に直接進む。以上のようにして、CPUは音源位置情報を決定する。
【0102】
更に、CPUは図14に示した処理を一定時間の経過毎に繰り返し行うことにより、バイブレータ選択信号を出力する。即ち、CPUは、ステップ500に続くステップ510にて新たな音源信号が発生した直後であるか否かを音源位置情報に基づいて判定する。そして、新たな音源信号が発生した直後であれば、CPUはステップ520に進み、音源位置情報に基づいて、新たな音源信号の仮想音源位置(定位位置)に対応するバイブレータを振動させるべきバイブレータとして決定する。即ち、CPUはバイブレータ選択信号を生成する。そして、CPUはステップ530に進み、そのバイブレータ選択信号を所定時間だけ出力し、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0103】
一方、新たな音源信号が発生した直後でなければ、CPUはステップ510の判定において「No」と判定し、直接ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0104】
以上、説明したように、第2実施形態に係る音源位置決定装置32は、音源信号の種類及び音源信号の種類の変化の少なくとも一方に応じて各仮想音源位置を決定する。音源位置決定装置32は、実際には音源位置パターンデータベース32a内に、前記音源信号の種類及び同音源信号の種類の変化の少なくとも一方に対応する仮想音源位置パターンを予め記憶している。そして、音源位置決定装置32は、実際に入力される各音源からの音源信号の種類及び同音源信号の種類の変化と音源位置パターンデータベース32a内に記憶されている関係とに基づいて、実現すべき仮想音源位置のパターンを決定する。
【0105】
そして、決定されたそれぞれの仮想音源位置に、それぞれの仮想音源位置に対応する音源信号に基づく音像が定位せしめられる。従って、受聴者であるヘルメット装着者は、現時点でどの音源が音を発生させているのか、或いは、現時点においてどの音が重要であるのか等を容易に認識することができる。また、ヘルメット装着者は、複数の音源から発生される複数の音源信号に基づく音の中から、現時点で必要な音を直感的に選択して聴くことができる。
【0106】
また、第2実施形態の方向情報報知装置の振動パターン決定装置34は、新たな音源信号が加わったとき、複数のバイブレータ13の中から新たに加わった音源信号の定位された音像の方向に相当するバイブレータを選択し、そのバイブレータを所定時間だけ振動せしめる。従って、複数の音源が存在する場合にも、方向に関する情報が定位された音像のみでなく機械的な振動によっても報知されるから、ヘルメット装着者(運転者)は重要な音源信号の方向に関する情報を確実に取得することができる。
【0107】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、振動パターン決定装置34は、複数のバイブレータ13が配設されている面に音像定位位置を投影した位置を求め、その位置とヘルメットの中心Pとを結んだ線分に最も近いバイブレータと、次に近いバイブレータを「振動させるべきバイブレータ」として決定してもよい。
【0108】
更に、このように、二つのバイブレータを「振動させるべきバイブレータ」として決定する場合、定位方向線分に近い方のバイブレータの振動数及び/又は振動の振幅を定位方向線分から遠い方のバイブレータよりも大きくしてもよい。更に、定位方向線分の長さ(定位された音源とヘルメット10との仮想的な距離)が短いほど、バイブレータの振動数及び/又は振動の振幅を大きくしてもよい。
【0109】
また、上記各実施形態において、バイブレータ13が刺激付与手段として採用されていたが、例えば、刺激付与手段としてエアーインジェクションを採用し、それによりヘルメット装着者の頭部に向けて局所的に高圧の空気を噴射してよい。
【0110】
更に、上記各実施形態においては、複数のバイブレータ13はヘルメット10の内側であって略同一平面上に配置されていたが、異なる2以上の平面上に配置されてもよく、或いは、互いに所定の間隔を有しながら頭部全体をカバーするようにヘルメット10の内側に設けられてもよい。
【0111】
加えて、同乗者用ヘルメット40にも、運転者用ヘルメット10と同様に、バイブレータを複数備えさせ、運転者用ヘルメット10と同じ方向のバイブレータを振動させることにより、認識させるべき方向を同乗者に報知するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1及び第2実施形態に係る方向情報報知装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した運転者用ヘルメットの斜視図である。
【図3】図1に示した運転者用ヘルメットの平面図である。
【図4】図1に示した方向情報報知装置の回路ブロック図である。
【図5】図2に示した音源定位装置の回路ブロック図である。
【図6】図1に示した方向情報報知装置による音像定位方法を説明するための図である。
【図7】(A)乃至(C)は、図1に示した方向情報報知装置による音像定位方法を説明するための図である。
【図8】図2に示した音源位置決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図9】運転者用ヘルメットの向きと警報音の向きとの関係を説明するための図である。
【図10】図2に示した音源定位装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図11】図2に示した振動パターン決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態に係る方向情報報知装置による音源定位パターンの一例を示した図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る方向情報報知装置の音源位置決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図14】本発明の第2実施形態に係る方向情報報知装置の振動パターン決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0113】
10…運転者用ヘルメット、11…運転者用ヘッドホン、11R…右スピーカ、11L…左スピーカ、12…運転者用マイクロホン、13,13a〜13h…バイブレータ、14…運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ、15…運転者ユニット、21…車体向き検出用検出用地磁気センサ、22…警報装置、23…その他の音源、30…車載ユニット、31…通信装置、32…音源位置決定装置、32a…音源位置パターンデータベース、33…音源定位装置、33a…タップ位置決定回路、33b…ゲイン決定回路、33c…A/Dコンバータ、33d…ディレイライン、33e…バンドパスフィルタ、33f…ゲイン乗算器、33g…ゲイン乗算器、33h…加算器、33i…FIRフィルタ、33iL…左耳用FIRフィルタ、33iR…右耳用FIRフィルタ、33j…加算器、33jR…右耳用加算器、33jL…左耳用加算器、33k…D/Aコンバータ、34…振動パターン決定装置、35…会話用無線通信装置、40…同乗者用ヘルメット、41…同乗者用ヘッドホン、42…同乗者用マイクロホン、43…同乗者ユニット、CP…正中面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルメットを装着した情報の取得者に対し、例えば、警報すべき対象物の方向や経路案内における進行すべき道路或いは目的物の存在する方向等の方向に関する情報を与える方向情報報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車の運転者用のヘルメットに左右のスピーカを装備し、警報すべき対象物の方向から警報音が聞こえるように頭部伝達関数を用いて同警報音を定位させながら同スピーカから発生させる二輪車用警報装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この装置によれば、運転者は、注意を向けるべき対象物等の方向を音により認識することができる。
【特許文献1】特開2000−355820号
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、自動二輪車の運転者の意識は運転に集中していることに加え、風切音などの雑音が大きい場合もあるため、突然発生する警報音が定位されていても、その音のみに基づいて警報音の方向(定位位置)を認識することができない場合がある。このような問題は、自動二輪車等の運転者用ヘルメットに限らず、ヘルメットの内部に設けられた左右のスピーカから発生される「定位された音」に基づいて同音の方向を認識させようとする装置において一般的に存在する問題である。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的の一つは、音に加えて音以外の機械的刺激をヘルメットの装着者に与えることにより、同装着者に認識させたい方向をより明瞭に知覚させることができる方向情報報知装置を提供することにある。
【0005】
かかる目的を達成する本発明による方向情報報知装置は、
ヘルメット内の左右に設けられたスピーカと、前記スピーカから発生させる音の音像を所定の情報に基づいて所定の音像定位位置に定位させる音像定位手段と、を備え、音像の定位によってヘルメット装着者に少なくとも方向に関する情報を与える方向情報報知装置であって、
前記ヘルメットの複数箇所に配設されるとともにそれぞれが外部信号に応答して前記ヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する複数の刺激付与手段と、
前記所定の音像定位位置に対応する位置に配設された前記刺激付与手段の少なくとも一つに対し前記外部信号を付与する駆動手段と、
を備えた装置である。
【0006】
これによれば、ヘルメットのスピーカから発生される音像の定位位置に対応する位置に配設された刺激付与手段の少なくとも一つが、ヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する。従って、音のみでなく機械的刺激によってヘルメット装着者の意識を定位された音像の方向に向けることができる。
【0007】
この場合、前記複数の刺激付与手段は、前記ヘルメットの前方側の方が同ヘルメットの後方側よりも互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離が短くなるように配設されていることが好適である。
【0008】
一般に、前方の音源についての頭部伝達関数は、後方の音源についての頭部伝達関数に比べて複雑である。このため、受聴者(聴取者)であるヘルメット装着者に対し、前方に存在する音源を精度良く定位することは容易でない。従って、上記構成のように、ヘルメットの前方側における「互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離」の方が同ヘルメットの後方側における「互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離」よりも短くなるように刺激付与手段を配設しておくことにより、ヘルメット装着者に対して音のみによっては精度良く知覚させ難い前方側の方向について、前方において高密度に配設された刺激付与手段により精度良く知覚させることができる。その結果、同じ個数の刺激付与手段を用いた場合であっても、ヘルメット装着者に伝えるべき方向をより精度高く認識させることができる。
【0009】
また、前記複数の刺激付与手段の少なくとも一つは、前記ヘルメットの内側であって同ヘルメットの装着者の正中面に対応する位置に配設されることが好適である。
【0010】
一般に、頭部伝達関数を用いた音像定位によれば、正中面方向において音像を精度良く定位することは水平面方向において音像を精度良く定位することより困難である。これは、正中面方向の頭部伝達関数は受聴者間の差(個人差)が大きく、様々な受聴者に適合する一つの正中面(前後)方向の頭部伝達関数を設定(再現)することが困難だからである。従って、上記構成のように、刺激付与手段の少なくとも一つをヘルメットの装着者の正中面に対応する位置に配設することにより、ヘルメット装着者に知覚させるべき方向を正中面方向を含むあらゆる方向について精度高く認識させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による方向情報報知装置の各実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書、特許請求の範囲及び図面において、「音源の位置(音源の仮想位置)」とは、「音源から出力される音を生成するための信号である音源信号の音像の位置(音像の仮想位置)」と同義として扱われる。
【0012】
<第1実施形態>
(装置の構成)
この方向情報報知装置は、図1に示したように、自動二輪車BYに適用され、いずれもフルフェイス型の運転者用ヘルメット10に装着された、運転者用ヘッドホン11、運転者用マイクロホン12、複数のバイブレータ13(13a〜13h)及び運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14を備えている。更に、この方向情報報知装置は、運転者ユニット15、車体向き検出用地磁気センサ21、警報装置22及び車載ユニット30を備えている。
【0013】
運転者用ヘッドホン11は、図1、ヘルメット10の斜視図である図2及びヘルメット10を上方からみたヘルメットの平面図である図3に示したように、左スピーカ11L及び右スピーカ11Rからなっている。左スピーカ11Lは、運転者用ヘルメット10を装着した運転者の左耳近傍に位置されるように運転者用ヘルメット10の内側左方部に配設されている。右スピーカ11Rは、運転者用ヘルメット10を装着した運転者の右耳近傍に位置されるように運転者用ヘルメット10の内側右方部に配設されている。
【0014】
運転者用マイクロホン12は、図1及び図2に示したように、運転者用ヘルメット10を装着した運転者の口の近傍に位置されるように運転者用ヘルメット10の内側前方下部に配設されている。
【0015】
複数(本例では全部で8個)のバイブレータ13(13a〜13h)は、図1乃至図3に示したように、ヘルメット10の装着者の頭部の周方向に沿い且つ互いに離間した位置に対向するヘルメット10の内側の位置に配設・固定されている。複数のバイブレータ13は、それぞれが外部信号に応答してヘルメット10の装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する刺激付与手段を構成している。なお、便宜上、バイブレータ13a〜13hは、順に第1〜第8バイブレータともそれぞれ称呼される。
【0016】
図3を参照して詳細に説明すると、バイブレータ13aは、ヘルメット10の装着者の正中面CP上であってヘルメット10の前部上方位置に配設されている。正中面CPとは、ヘルメット10の装着者の頭部を左右二つの略対称な部分に分割する面であって、頭部の左右方向中心を通る頭部前後方向及び頭部上下方向に広がる面である。
【0017】
バイブレータ13b〜バイブレータ13hは、同様にヘルメット10の内側上方であって、表1の角度θ1及び角度θ2で表された位置に配設・固定されている。角度θ1及び角度θ2は、図3に示したように、ヘルメット10の中心Pの回りにヘルメット10の前方(運転者用ヘルメット10の前後方向の軸の前方)から時計方向及び反時計方向にそれぞれ回転した角度を表している。従って、バイブレータ13eは、ヘルメット装着者の正中面CP上であってヘルメット10の後部上方位置に配設されていることになる。
【表1】
【0018】
運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14は、運転者用ヘルメット10の内側又は外側上部に配設されている。運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14は、運転者用ヘルメット10の方位(運転者用ヘルメット10の前後方向の軸の前方の方位)を検出するようになっている。
【0019】
運転者ユニット15は、所定の機能を達成する電気回路を収容している。運転者ユニット15は、図1及び図2に示したように、コードにより運転者用ヘッドホン11、運転者用マイクロホン12、複数のバイブレータ13及び運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14と接続されている。
【0020】
運転者ユニット15は、運転者用ヘッドホン11を駆動して同運転者用ヘッドホン11から音を発生させるとともに、複数のバイブレータ13のうちの所定のバイブレータ13を選択し、その選択したバイブレータ13を振動させる信号(外部信号)をその選択したバイブレータ13に送信するようになっている。更に、運転者ユニット15は、運転者用マイクロホン12からの音声信号を入力するとともに、運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14が検出した運転者用ヘルメット10の方位を入力するようになっている。運転者ユニット15は、車載ユニット30と無線通信により必要な情報を交換するようになっている。
【0021】
車体向き検出用地磁気センサ21は、自動二輪車BYの車体に固定されている。車体向き検出用地磁気センサ21は、車体の前後方向の方位(車体の前後方向の軸の前方の方位)を検出するようになっている。
【0022】
障害物及び警報音検知装置(以下、「警報装置」と称呼する。)22は、例えば、特開2000−355820号公報等に記載されている技術を使用した周知の装置であって、自動二輪車BYの車体に固定されている。警報装置22は、図示しないセンサと接続されていて、これらのセンサからの信号に基づき障害物が接近する方向(即ち、運転者に報知すべき障害物が接近してくる車体に対する方向)を検出するようになっている。
【0023】
更に、警報装置22は、車体の左右前後に配設された複数の指向性の高いマイクロホン(図示省略)と接続されていて、車体の周囲から発せられた警報等を検出し、その警報等の方向(即ち、運転者に報知すべき警報等の発生した車体に対する方向)を決定するようになっている。
【0024】
警報装置22は、障害物の接近や警報等を検出すると、音源信号及び付随情報を表す信号を出力するようになっている。音源信号とは、ある音源から発生される信号であって、その音源による音(この場合、警報音)を生成させるための信号である。付随情報とは、音源信号に基づいて発生されるべき音に関する情報であって、この場合、障害物の車体に対する方向及び車体と障害物との距離についての情報等である。
【0025】
車載ユニット30は、自動二輪車BYの車体に固定されている。車載ユニット30は、コードにより、車体向き検出用地磁気センサ21及び警報装置22と接続されていて、これらの発生する信号を入力するようになっている。車載ユニット30は、更に、同乗者ユニット43と無線通信により必要な情報を交換するようになっている。
【0026】
図4に示したように、車載ユニット30は、通信装置31、音源位置決定装置32、音源定位装置(音像定位手段)33及び振動パターン決定装置34を備えている。
【0027】
通信装置31は、無線通信により運転者ユニット15と信号の交換を行うようになっている。
【0028】
音源位置決定装置32は、車体向き検出用地磁気センサ21、警報装置22、通信装置31、音源定位装置33及び振動パターン決定装置34と接続されている。音源位置決定装置32は、警報装置22が出力する音源信号及び付随情報を表す信号を受信するようになっている。
【0029】
音源位置決定装置32は、受信した音源信号に基づく音像を定位させる位置である仮想音源位置(音源の音像位置、音源に対する仮想音源位置)を、受信した音源信号及び付随情報を表す信号に基づいて決定し、その仮想音源位置を表す情報(音源位置情報)を音源定位装置33及び振動パターン決定装置34に出力するようになっている。
【0030】
仮想音源位置とは、ある音源(音源からの音源信号に基づく音像)が、あたかも仮想音源位置に存在しているかのように受聴者である運転者(ヘルメット10の装着者)に聴かせることができる音源の仮想的な位置である。従って、警報装置22、後述する会話用無線通信装置(同乗者と言うこともできる。)35及びその他の音源23は、音源を構成している。
【0031】
更に、音源位置決定装置32は、車体向き検出用地磁気センサ21の出力信号と、通信装置31を介して受信したヘルメット向き検出用地磁気センサ14の出力信号と、に応じて前記音源位置情報を決定(補正)するようになっている。
【0032】
音源定位装置33は、通信装置31にも接続されている。音源定位装置33は、警報装置22が出力する信号(音源信号及び付随情報を表す信号)を受信するとともに、音源位置決定装置32から音源位置情報を受信し、音源信号に基づく音像を音源位置情報に応じた位置に定位させるための信号である音源定位信号(出力信号)を生成するようになっている。
【0033】
更に、音源定位装置33は、音源定位信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に送信するようになっている。運転者ユニット15は、受信した音源定位信号を増幅し、その増幅信号を運転者用ヘッドホン11のスピーカ11R,11Lに出力するようになっている。この結果、定位された音源信号に応じた音がスピーカ11R,11Lから発生させられる。
【0034】
ここで、音源定位装置33の構成について図5を参照しながら説明する。音源定位装置33は、タップ位置決定回路33a、ゲイン決定回路33b、A/Dコンバータ(ADC)33c、ディレイライン33d、バンドパスフィルタ33e、ゲイン乗算器33f、ゲイン乗算器33g、加算器33h、FIRフィルタ33i、加算器33j、D/Aコンバータ(DAC)33kを備えている。なお、音源定位装置33及び音源位置定位方法(ヘッドホンを使用して音の音像を三次元において定位する音像定位方法)は、例えば、特開2002−44796及び特開平10−23600等により周知である。
【0035】
タップ位置決定回路33aは、音源位置決定装置32及びディレイライン33dと接続されている。タップ位置決定回路33aは、音源位置決定装置32からの音源位置情報に基づいてディレイライン33dのタップ位置(タップ位置については後述する)を指示する信号をディレイライン33dに送信するようになっている。
【0036】
ゲイン決定回路33bは、音源位置決定装置32、ゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gと接続されている。ゲイン決定回路33bは、音源位置決定装置32からの音源位置情報に基づいて、ゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gの後述するゲインを指示する信号をゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gに送信するようになっている。
【0037】
ADC33cの入力端は、警報装置22と接続されている。ADC33cは、警報装置22から入力した音源信号をデジタル信号に変換し、出力端から出力するようになっている。ADC33cの出力端は、第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33fの入力端に接続されるとともに、ディレイライン33dの入力端に接続されている。ADC33cの出力端から第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33fの入力端に直接入力される信号は、「先行音」と称呼される。
【0038】
ディレイライン33dは、複数のシフトレジスタから構成されている。複数のシフトレジスタは直列に接続され、多段のシフトレジスタを構成している。ディレイライン33dは、この多段のレジスタの所定のレジスタとその所定のレジスタに続くレジスタとの間にタップを設けるようになっている。
【0039】
ADC33cの出力端からディレイライン33dに入力され、且つ、所定の時間だけディレイされて前記タップから取り出される信号は、「後行音」と称呼される。ディレイライン33dは、タップの位置を、タップ位置決定回路33aから送信されてくる信号に基づいて変更するようになっている。
【0040】
ディレイライン33dの前記タップは、バンドパスフィルタ33eの入力端に接続されている。バンドパスフィルタ33eの出力端は、第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33gの入力端に接続されている。これにより、後行音は、バンドパスフィルタ33eを通過した後に第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8のゲイン乗算器33gの入力端に入力される。
【0041】
各チャンネルのゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gは、何れもゲイン決定回路33bと接続されている。これにより、各ゲイン乗算器33fは、ゲイン決定回路33bから出力される信号に基づいて自身のゲインを変更するようになっている。同様に、各ゲイン乗算器33gは、ゲイン決定回路33bから出力される信号に基づいて自身のゲインを変更するようになっている。
【0042】
ところで、一般に、受聴者が先行音及び後行音のように互いに同一の2つの音を時間差をもって受聴した場合、受聴者は、より先に到達した音及び/又はよりレベルの大きい方の音の方向に、その音の音源が存在すると知覚する。この効果は、先行音効果(ハース効果)と呼ばれるよく知られた効果である。そこで、ゲイン乗算器33gのゲインを適切に変更して、後行音を受聴位置に対して先行音の反対側となるように定位させるとともに、ディレイライン33dの前記タップの位置を変更して先行音と後行音の時間差(ディレイ時間)を調整する。これにより、定位させたい先行音の方向感を一層強調することができる。
【0043】
しかしながら、先行音と後行音との時間差及びレベル差が極端に小さいと、音像は頭内に定位してしまい、方向感が失われる。逆に、時間差が過大となると受聴者は受聴音を2つの別の音として知覚してしまう。また、レベル差が過大となると、前述した後行音の効果(先行音の方向感を強調する効果)が失われる。
【0044】
このような観点に基づき、タップ位置決定回路33a及びゲイン決定回路33bは、上記時間差(タップ位置)及びレベル差(後行音に対するゲイン)を適切な値に設定するようになっている。
【0045】
各チャンネルのゲイン乗算器33fの出力端及びゲイン乗算器33gの出力端は、各チャンネルの加算器33hの入力端に接続されている。各チャンネルの加算器33hの出力端は各チャンネルのFIRフィルタ33i(実際には、左耳用FIRフィルタ33iL及び右耳用FIRフィルタ33iR)の入力端に接続されている。これにより、先行音信号及び後行音信号は、それぞれゲイン乗算器33f及びゲイン乗算器33gによって増幅され、加算器33hにて加算されてからFIRフィルタ33iに入力される。
【0046】
第1チャンネルCh1のFIRフィルタ33iLは、音が図6の#1の方向から受聴者の左耳に聞こえてくる場合の周波数特性を頭部伝達関数(Head Related Transfer Function; HRTF)によりシミュレートするようになっている。即ち、第1チャンネルCh1のFIRフィルタ33iLは、音が図6の#1の方向から受聴者の左耳に聞こえてくる場合の音の伝達特性である頭部伝達関数により、第1チャンネルCh1の加算器33hから出力された信号を畳み込み演算するフィルタである。
【0047】
なお、図6においては、受聴者(運転者)の頭部は#1〜#8の位置により規定される立方体の中央部に存在し、受聴者は#1、#2、#6及び#5の位置により構成される面に正対している(この面の垂直方向を向いている)。#1乃至#4の位置により形成される面は受聴者の下方の面、#5乃至#8の位置により形成される面は受聴者の上方の面である。この立方体の向きは、受聴者の頭部の向き(運転者用ヘルメット10の前後方向の軸の前方の向き)の変化に伴って変化する。
【0048】
同様に、第2チャンネルCh2乃至第8チャンネルCh8のFIRフィルタ33iL及びFIRフィルタ33iRは、それぞれ図6の#2乃至#8の方向から受聴者の左右の耳への音の伝達を頭部伝達関数によりシミュレートするようになっている。
【0049】
ここで、仮想音源位置が、上述した基本となる方向#1〜#8の間の方向である場合について説明する。今、仮想音源位置を、図7の(A)乃至(C)に示した空間上の任意の点Ptgtに設定するべきであると仮定する。この場合、仮想音源Ptgtは受聴者の左右の耳の中央の点Dから見て、#1、#2、#5及び#6から形成される正方形内にある。なお、図7の(B)及び(C)は、それぞれ図7の(A)の立方体の上面図及び側面図である。
【0050】
ここで、点Dと点Ptgtとを通る直線Lと、#1、#2、#5及び#6の位置により形成される面と、の交点を交点Crと称呼する。この場合、交点Crは横方向(水平方向、即ち、#1−#2又は#5−#6に沿った方向)において、辺#1−#2の長さ(図6及び図7の(A)に示した立方体の一辺の長さ)をa:bにて内分した位置P1に存在している。更に、交点Crは縦方向(鉛直上下方向、即ち、#1−#5又は#2−#6に沿った方向)において、辺#1−#5の長さ(図6及び図7の(A)に示した立方体の一辺の長さ)をc:dにて内分した位置P2に存在している。また、点Dから仮想音源Ptgtまでの距離L1は、点Dから交点Crまでの距離L2のx倍(音源距離比x=L1/L2)であるとする。
【0051】
このとき、ゲイン決定回路33bは、第1チャンネルCh1、第2チャンネルCh2、第5チャンネルCh5及び第6チャンネルCh6の各先行音に対するゲイン乗算器33fのゲインを、チャンネル間距離比a:b、c:d及び音源距離比xから求められるゲインに設定する。具体的には、各チャンネルのゲインは、チャンネル間距離比に逆比例し、音源距離比xの2乗に反比例するように定めれば良い。即ち、第nチャンネルの先行音に対するゲインkChn(nは、1,2,5,6)は、下記(1)式乃至(4)式により決定される。また、ゲイン乗算器33fの残りのチャンネルの先行音に対するゲインは「0」に設定される。
【数1】
【0052】
後行音の仮想音源Ptgt’は、前述した後行音の効果をもたらすために、先行音により定位される仮想音源Ptgtの点Dに関する点対称の位置に定位される。後行音は、先行音に対して一定量の減衰量(ゲイン)とディレイ量(時間差)を有するように発音される。これらの量(減衰量及びディレイ量)は、音源位置には依存せず、受聴者の聴特性及び嗜好等に基づいて設定される。いま、先行音に対する減衰量をpとすると、ゲイン決定回路33bは、第3チャンネルCh3、第4チャンネルCh4、第7チャンネルCh7及び第8チャンネルCh8の各後行音に対するゲイン乗算器33gのゲインを、上記先行音に対するゲインに応じて下記の(5)式乃至(8)式に基いて決定する。また、ゲイン乗算器33gの残りのチャンネルの後行音に対するゲインは「0」に設定される。
【数2】
【0053】
運転者用ヘルメット10の向き(運転者用ヘッドホン11の向き)及び/又は仮想音源位置である点Ptgtが変化すると、点Ptgtと運転者用ヘッドホン11のなす角度も変化する。この場合においても、点Dと点Ptgtとを通る直線Lと、#1乃至#8の位置により形成される立方体の何れかの面とが交差し、その面上にて交点Crが求められる。従って、ゲイン決定回路33bは、その交点Crとその面を規定する#1乃至#8の位置のうちの4つの位置から、上述した距離比(スピーカ間距離比)a:b,c:d及び音源距離比xを求め、各チャンネルの先行音ゲイン乗算器33fのゲイン及び後行音ゲイン乗算器33gのゲインを、これらの比及び上記(1)乃至(8)により定まるゲインに設定する。この結果、運転者用ヘッドホン11の向きにかかわらず、仮想音源位置を点Ptgtに常に定位させることができる。
【0054】
再び図5を参照すると、各チャンネルのFIRフィルタ33iL,33iRは、加算器33j(実際には、左耳用加算器33jL及び右耳用加算器33jR)の入力端に接続されている。これにより、各チャンネルのFIRフィルタ33iL,33iRから出力された信号は、加算器33jにより加算合成される。
【0055】
加算器33j(左耳用加算器33jL及び右耳用加算器33jR)の出力端は独立してDAC33kの入力端に接続されている。これにより、各加算器33jから出力された信号はアナログ信号に変換される。DAC33kの出力端は通信装置31に接続されている。これにより、アナログ信号に変換された左耳用及び右耳用の信号(音源定位信号)は、通信装置31を介して運転者ユニット15に送信される。
【0056】
再び、図4を参照すると、振動パターン決定装置34は通信装置31にも接続されている。振動パターン決定装置34は、音源位置決定装置32から音源位置情報を受信し、音源位置情報に基づいて複数のバイブレータ13a〜13hのうちから振動させるべきバイブレータを(一つ又はそれ以上)決定し、その決定したバイブレータを表す信号(バイブレータ選択信号)を生成するようになっている。なお、振動パターン決定装置34は、音源定位装置33から音源定位信号を取得し、その音源定位信号に基づいて振動させるべきバイブレータを決定するように構成されてもよい。
【0057】
上述した「振動させるべきバイブレータ」は、音像定位位置(仮想音源位置)に対応する位置に配設されたバイブレータである。例えば、図3に示したように、音像定位位置を複数のバイブレータ13が配設されている面に投影した場合の位置が三角形のプロットにより示した位置Ptgt1である場合、振動パターン決定装置34は、振動させるべきバイブレータは第2バイブレータ13bであると決定する。また、音像定位位置を複数のバイブレータ13が配設されている面に投影した場合の位置が正方形のプロットにより示した位置Ptgt2である場合、振動パターン決定装置34は、振動させるべきバイブレータは第4バイブレータ13dであると決定する。
【0058】
このように、振動パターン決定装置34は、音像定位位置を複数のバイブレータ13が配設されている面に投影した位置を決定し、その位置とヘルメットの中心Pとを結んだ線分(以下、「定位方向線分」と称呼する。)に最も近いバイブレータを「音像定位位置に対応する位置に配設されたバイブレータ」、つまり、「振動させるべきバイブレータ」として決定する。換言すると、音像定位位置の方向に最も近い方向にあるバイブレータが、「振動させるべきバイブレータ」として選択される。
【0059】
更に、振動パターン決定装置34は、バイブレータ選択信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に送信するようになっている。運転者ユニット15は、受信したバイブレータ選択信号が示すバイブレータを振動させる駆動信号を対応するバイブレータに出力するようになっている。この結果、音像定位位置(仮想音源位置)に対応する位置に配設されたバイブレータが振動せしめられる。
【0060】
(実際の作動)
次に、上記のように構成された方向情報報知装置の作動について説明する。上述した音源位置決定装置32及び振動パターン決定装置34の機能は実際にはマイクロコンピュータのCPUが図8及び図11にフローチャートにより示した処理を一定時間の経過毎にそれぞれ行うことにより達成される。また、音源定位装置33の機能は、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)が図10にフローチャートにより示した処理を一定時間の経過毎に行うことにより達成される。いま、警報装置22が、運転者に報知すべき障害物の接近及び運転者に報知すべき警報等を全く検出しておらず、従って、音源信号を発生していないと仮定する。
【0061】
音源位置決定装置32のCPUは、図8に示したステップ100から処理を開始すると、ステップ110に進んで自動二輪車BYの前後方向軸の前方に対する運転者用ヘルメット10の角度(運転者用ヘルメット10の向き)を、車体向き検出用地磁気センサ21が検出する車体の方位と運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ14が検出する運転者用ヘルメット10の方位とに基づいて決定する。
【0062】
次いで、CPUはステップ120に進み、警報装置22からの音源信号が発生しているか否かを判定する。前述の仮定に従えば、現時点において音源信号は発生していない。従って、CPUはステップ120にて「No」と判定し、ステップ195に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。以上のステップは、警報装置22から音源信号が発生するまで繰り返し行われる。ステップ120は、音源信号の発生を検知するためのステップである。
【0063】
この状態において、警報装置22が運転者に報知すべき障害物の接近又は運転者に報知すべき警報等を検出したと仮定する。この場合、警報装置22は音源信号及び付随情報を出力する。従って、CPUは、図8に示したステップ110に続くステップ120にて「Yes」と判定し、ステップ130に進んで仮想音源位置、即ち、警報音を定位させるべき位置を、音源信号の付随情報及びステップ110にて決定した運転者用ヘルメット10の向き(角度)に基づいて決定する。
【0064】
ところで、図9の(A)に示したように、警報装置22が「障害物が自動二輪車BYの車体の右前方から接近してくる」ことを検出し、その旨を警報音にて警告するための音源信号を発生したと仮定する。このとき、運転者(運転者用ヘルメット10)が自動二輪車BYの車体の前後方向の軸の前方を向いていたとする。この場合、警報装置22からの音源信号に基づく警報音の音像はヘルメット10(ヘッドホン11)の右前方に定位すればよい。
【0065】
ところが、図9の(B)に示したように、運転者が自動二輪車の前後方向の軸の前方に対して平面視において90度だけ時計方向に回転した向き(即ち、右)を向いていたとすると、警報装置22からの音源信号に基づく警報音の音像はヘルメット10(ヘッドホン11)の左前方に定位させられるべきである。
【0066】
そこで、音源位置決定装置32のCPUは、上述したステップ130において、運転者用ヘルメット10の向きにも応じて音源信号の仮想音源位置を決定する。これにより、上記図9の(B)に示した例において、警報音の音像はヘルメット10(ヘッドホン11)の左前方に定位されるから、運転者が障害物の接近方向を誤って認識する可能性が低減できる。
【0067】
次いで、音源位置決定装置32のCPUはステップ140に進み、上記ステップ130にて決定された音源位置情報を出力し、ステップ195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0068】
一方、音源定位装置33(DSP)は、図10に示したルーチンの処理を一定時間の経過毎にステップ200から開始し、ステップ210に進んで「CPUが出力している音源位置情報」に基づいて音源信号の仮想音源位置に対するFIRフィルタ33iL,33iRの係数を決定する。次いで、DSPはステップ220に進み、ゲイン乗算器33fのゲイン及びゲイン乗算器33gのゲインを決定する。ゲイン乗算器33fのゲイン及びゲイン乗算器33gのゲインは、上述した(1)〜(8)式等に基づいて、第1チャンネルCh1乃至第8チャンネルCh8の各チャンネルに対して決定される。
【0069】
次いで、DSPはステップ230に進み、音源信号のAD変換をADC33cに実行させる。これにより、DSPはAD変換後の音源信号を取得する。なお、警報装置22から出力される音源信号がデジタル信号であれば、ステップ230及びADC33cは省略される。次に、DSPはステップ240に進み、ステップ210にて決定したFIRフィルタ33iL,33iRの係数と、ステップ220にて決定したゲイン乗算器33fのゲイン及びゲイン乗算器33gのゲインと、を使用して、音源信号に基づく音像(警報音)を音源位置情報に応じた位置に定位させるための信号(音源定位信号)を生成する。
【0070】
その後、DSPはステップ250に進み、上記ステップ240にて生成した音源定位信号をDAC33kによりアナログ信号に変換し、そのアナログ信号に変換した音源定位信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に出力する。そして、DSPは、ステップ295にて本ルーチンを一旦終了する。以上によって、警報音が仮想音源位置に定位される。
【0071】
他方、CPUは、図11に示したルーチンの処理を一定時間の経過毎にステップ300から開始し、ステップ310に進んで音源位置情報に基づいて振動させるべきバイブレータを上述した方法に基づいて決定する。即ち、CPUはバイブレータ選択信号を生成する。この場合、CPUは、音源位置パターンデータベースと同様なバイブレータ振動パターンデータベースを備え、音源信号の種類及び音源信号の種類の変化の少なくとも一方と、バイブレータ振動パターンデータベースと、から振動させるべきバイブレータを決定してもよい。次いで、CPUはステップ320に進み、バイブレータ選択信号を通信装置31を介して運転者ユニット15に出力し、ステップ395にて本ルーチンを一旦終了する。以上によって、警報音が聞こえてくる方向に略一致したバイブレータ13のうちの少なくとも一つが振動する。
【0072】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る方向情報報知装置は、ヘルメット10内の左右に設けられたスピーカ11R,11Lから発生させる音(警報音)の音像を、所定の情報(付随情報)に基づいて所定の音像定位位置(警報音を発生するべき位置)に定位させる音像定位手段(音源位置決定装置32、音源定位装置33及び運転者ユニット15)を備える。従って、この音像の定位により、ヘルメット装着者に少なくとも方向(注意すべき方向)に関する情報が与えられる。更に、音源信号の音像が定位されるから、ヘルメット装着者に特定の音の方向及び距離感を認識させることができる。
【0073】
加えて、上記方向情報報知装置は、外部信号(バイブレータ選択信号)に応じてヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する複数の刺激付与手段(バイブレータ13a〜13h)と、前記所定の音像定位位置に対応する位置に配設された前記刺激付与手段の少なくとも一つに対し前記外部信号を付与する駆動手段(振動パターン決定装置34及び運転者ユニット15)と、を備える。従って、ヘルメット装着者の頭部であって、前記所定の音像定位位置の方向に略等しい方向の局所的部分に機械的刺激が発生するので、ヘルメット装着者は、音(音像の定位)のみでなく機械的刺激により、自己の意識を定位された音像の方向に容易に向けることができる。
【0074】
更に、上記方向情報報知装置においては、前記ヘルメット10の前方側の方が同ヘルメットの後方側よりも互いに隣接する二つのバイブレータの間の距離が短く設定されている。従って、ヘルメット装着者は、音像定位によって定位感を得難い前方からの音(前方に定位された音像)の方向を、密度が高く配置されたバイブレータ13の振動により精度高く認識することができる。
【0075】
加えて、バイブレータ13a及びバイブレータ13eは、ヘルメットの装着者の正中面に対応するヘルメット10の内側の位置に配設されている。従って、ヘルメット装着者に伝えるべき方向をより精度高く認識させることができる。
【0076】
なお、上記実施形態においては、警報音が定位され、それにともなってバイブレータ13の少なくとも一つが振動せしめられていたが、定位されるべき音は「方向についてヘルメット装着者に認識させたい情報に関する音」であれば警報音に限らない。
【0077】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る方向情報報知装置は、図1及び図4に破線により示したように、警報装置22の他に例えば音楽プレーヤや音声ナビゲータ装置等のその他の音源23を備え、警報装置22以外からの音源信号に基づく音を発生するとともに、同乗者ユニット43と通信を行うことにより、自動二輪車BYの運転者であるヘルメット装着者が、同乗者と無線による会話をすることができるようになされている点において、第1実施形態の方向情報報知装置と相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0078】
その他の音源23は、携帯電話、音楽プレーヤ、ナビゲーション装置、車両・走行状態検出装置等の何れかであってもよく、これらを統合した機能を有する装置であってもよい。
【0079】
携帯電話は、一般に使用される携帯電話であり、少なくとも、着信音を表す信号及び通話音声を表す信号を出力するようになっている。音楽プレーヤは、例えば、MP3プレーヤ等であり、音楽データを内部に格納しているか、外部から通信により取得し、その音楽データに基づいて音楽を再生するための信号を出力するようになっている。ナビゲーション装置は、GPS装置を内蔵している。GPS装置は、GPS(Global Positioning System)人工衛星から放射される自車位置検出用の航法電波を受信して自動二輪車BYの現在位置を取得するようになっている。ナビゲーション装置は、現在位置から所定の操作により設定された目的地までの経路を計算により求め、経路案内を音声により行うための信号を出力するようになっている。
【0080】
車両・走行状態検出装置は、自動二輪車BYの状態を検出する種々のセンサやスイッチ等(図示省略)と接続されている。車両・走行状態検出装置は、接続されたセンサからの信号に基づいて、自動二輪車BYの各部の異常状態を含む車両状態や自動二輪車BYの走行状態を検出し、検出された車両・走行状態を運転者に音声又は警報音により報知するための信号を必要に応じて出力するようになっている。車両状態には、例えば、方向指示器の点滅状態(左右どちらの方向指示器が点滅しているかを含む)、ブレーキシステムが異常となっていること及び燃料残量が少ないこと等が含まれる。走行状態には、例えば、エンジン回転速度、車両速度、路面や路側帯等に配設された車両外部の装置から無線通信により得られる路面状態等の状態が含まれる。
【0081】
また、自動二輪車BYに同乗者が搭乗した場合、上記方向情報報知装置は、同乗者用ヘルメット40に装着された同乗者用ヘッドホン41及び同乗者用マイクロホン42、並びに同乗者ユニット43を含むようになる。
【0082】
車載ユニット30は、その他の音源23と接続されていて、その他の音源23からの信号(音源信号及び付随情報を表す信号)を入力するようになっている。更に、車載ユニット30は、会話用無線通信装置35を備えている。会話用無線通信装置35は、同乗者ユニット43と無線通信により信号の交換を行うようになっている。
【0083】
会話用無線通信装置35は、通信装置31と接続され、通信装置31が運転者ユニット15から受信した「運転者(ヘルメット10の装着者)が発生した音声に基づく音声信号」を同乗者ユニット43に送信するようになっている。また、会話用無線通信装置35は、音源位置決定装置32及び音源定位装置33と接続されていて、同乗者ユニット43から送られてくる「同乗者(ヘルメット40の装着者)が発生した音声に基づく音声信号」を音源位置決定装置32及び音源定位装置33に送信するようになっている。
【0084】
同乗者ユニット43は、コードにより同乗者用ヘッドホン41及び同乗者用マイクロホン42と接続されている。同乗者ユニット43は、会話用無線通信装置35との通信により得られる「運転者(ヘルメット10の装着者)が発生した音声に基づく音声信号」に応答して同乗者用ヘッドホン41を駆動し、同乗者用ヘッドホン41から音声を発生させるようになっている。同乗者ユニット43は、同乗者用マイクロホン42からの音声信号を入力し、その音声信号を会話用無線通信装置35に送信するようになっている。
【0085】
以上の構成により、第2実施形態に係る音源位置決定装置32は、警報装置22のみならず、その他の音源23及び会話用無線通信装置35が出力する音源信号及び付随情報を表す信号を受信するようになっている。
【0086】
更に、第2実施形態に係る音源位置決定装置32は、音源位置パターンデータベース32aを備えている。音源位置パターンデータベース32aには、音源信号の種類及び音源信号の種類の変化の少なくとも一方に対応する仮想音源位置パターンが予め記憶されている。音源位置決定装置32は、実際に入力される各音源からの音源信号の種類及び同音源信号の種類の変化と音源位置パターンデータベース32a内に記憶されている関係とに基づいて、実現すべき仮想音源位置のパターンを決定し、そのパターンを表す情報を前述した音源位置情報として出力するようになっている。
【0087】
加えて、第2実施形態に係る音源定位装置33は、音源位置情報に基づいて音源信号毎に音源を定位させるようになっている。また、第2実施形態に係る振動パターン決定装置34は、音源の種類の変化(新たな音源信号の追加)があったときにのみバイブレータ13の少なくとも一つを選択し、その音源信号の種類の変化があった時点から所定時間だけ同選択したバイブレータを振動させるようになっている。
【0088】
次に、上記のように構成された第2実施形態に係る方向情報報知装置の作動について一例を用いて説明する。
【0089】
例えば、図12の(A)に示したように、運転者がその他の音源23に含まれる音楽プレーヤの発生する音源信号のみに基づいて音楽を再生し、その音楽を聴いていたとする。この場合、音源位置決定装置32は、再生される音楽が運転者の頭部(運転者用ヘルメット10)全体に広がり、通常の音楽聴取時のような自然な感じで音楽が聞こえるように音楽プレーヤからの音源信号の音像に対する仮想音源位置を決定する。そして、音源定位装置33は、その仮想音源位置に音楽プレーヤからの音源信号に基づく音像を定位させる。この結果、運転者は、あたかも4つのスピーカ(前方左スピーカ、前方右スピーカ、後方左スピーカ及び後方右スピーカ)で囲まれた範囲内の適切な位置にて音楽を楽しんでいるかのように、音楽を聴くことができる。
【0090】
かかる状態において、同乗者が同乗者用マイクロホン42及び同乗者ユニット43を使用して会話を開始した(発言を行った)と仮定する。即ち、タンデム会話が同乗者の発言により開始されたと仮定する。一般に、運転者は、音楽を聴いているときには音楽に注意が集中しているので、同乗者からの不意な発言を聞き逃す可能性が高い。
【0091】
そこで、音源位置決定装置32は、図12の(B)に示したように、音源位置パターンデータベース32aを参照することにより、同乗者の音声が運転者の直近で発せられたかのように音源である会話用無線通信装置35(音源としての同乗者)からの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。
【0092】
同時に、音源位置決定装置32は、音楽プレーヤからの音源信号に基づく音楽が運転者用ヘルメット10の下方から聞こえるように音楽プレーヤからの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。これにより、運転者には急に音楽が下方から聞こえ出し、且つ、同乗者の発言が耳元で聞こえるから、運転者が同乗者の最初の会話を聞き逃す可能性が低減する。
【0093】
更に、振動パターン決定装置34は、このように新たな音源信号(この場合、会話用無線通信装置35からの同乗者の音声信号)が加わったとき、音源位置情報に基づいて、新たに加わった音源信号の仮想音源位置(定位位置)の方向に対応したバイブレータ13の少なくとも一つを選択する。この場合、新たに加わった音源信号である同乗者の音声信号の定位位置は左及び右方向である。従って、振動パターン決定装置34は、バイブレータ13c及び13gを選択し、それらを所定時間だけ振動させる。
【0094】
その後、同乗者との会話が継続すると、音楽プレーヤと会話用無線通信装置35(同乗者)からの音源信号が継続する。即ち、音源の種類は変化しない。しかしながら、この場合、図12の(A)に示した音楽だけを再生している場合とは音源信号の種類(音源信号の種類の組合せ)が相違している。
【0095】
そこで、音源位置決定装置32は、図12の(C)に示したように、音楽プレーヤからの音源信号に基づく音楽が運転者用ヘルメット10の下方から聞こえるように音楽プレーヤからの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定するとともに、同乗者の音声が運転者の直近ではなく運転者用ヘルメット10の上部全体にて聞こえるように会話用無線通信装置35からの音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。
【0096】
このような状態が継続しているとき、その他の音源23のナビゲーション装置が、運転者が進むべき道路が右前方であることを音声により報知するための音源信号を発生したと仮定する。この場合、音源位置決定装置32は、音源位置パターンデータベース32aを参照することにより、音楽プレーヤからの音源信号に基づく音楽を聞こえないようにし、会話用無線通信装置35からの音源信号に基づく同乗者の音声が運転者の直近で聞こえるようにし、且つ、その他の音源23からの音源信号に基づく経路案内音声が運転者用ヘルメット10の右前方から聞こえるように、各音源信号に基づく音像の位置(仮想音源位置)を決定する。これにより、運転者は、進行すべき方向が右前方向であることを確実に知ることができるとともに、同乗者との会話を継続することができる。
【0097】
同時に、振動パターン決定装置34は、新たな音源信号(この場合、その他の音源23からの経路案内音声の信号)が加わったとき、音源位置情報に基づいて、新たに加わった音源信号の仮想音源位置の方向に対応したバイブレータ13の少なくとも一つを選択する。この場合、新たに加わった音源信号である経路案内音声の信号の仮想音源位置(定位位置)は右前方向である。従って、振動パターン決定装置34は、バイブレータ13bを選択し、バイブレータ13bを所定時間だけ振動させる。以上が、一例を用いて説明した第2実施形態に係る方向情報報知装置の作動の概要である。
【0098】
次に、第2実施形態に係る方向情報報知装置の実際の作動について簡単に説明する。上述した音源位置決定装置32及び振動パターン決定装置34の機能は実際にはマイクロコンピュータのCPUが図13及び図14にフローチャートにより示した処理を一定時間の経過毎にそれぞれ行うことにより達成される。また、音源定位装置33の機能は、DSPが図10と同様な処理を行うことにより達成されるので、説明を省略する。
【0099】
CPUは、図13の処理をステップ400から開始すると、ステップ405にて図8のステップ110と同様に運転者用ヘルメット10の向きを決定する。次いで、CPUはステップ410にて音源の状況に変化があったか否か、即ち、その時点までの音源からの音源信号に加えて、別の音源からの音源信号が新たに発生したか否かを判定する。
【0100】
このとき、別の音源からの音源信号が新たに発生していれば、CPUはステップ415に進み、現在の状況に応じた音源位置パターンを音源位置パターンデータベース32aから読み出す。その後、CPUはステップ420に進み、各音源信号の仮想音源位置を、ステップ415にて読み出した音源位置パターンとステップ405にて決定した運転者用ヘルメット10の向きに基づいて補正することにより、最終的な各音源の仮想音源位置を決定する。次いで、CPUはステップ425に進み、ステップ420にて決定した各音源信号の仮想音源位置を音源定位装置(DSP)33に音源位置情報として出力し、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0101】
一方、音源の状況が変化していなければ、CPUはステップ410にて「No」と判定してステップ430に進み、「音源の状況が最後に変化してから所定時間が経過したか否か」を判定する。音源の状況が最後に変化してから所定時間が経過していなければ、CPUはステップ420以降に直接進む。また、音源の状況が最後に変化してから所定時間が経過していると、CPUはステップ430にて「Yes」と判定してステップ435に進み、現在の状況(特定の種類の音源信号が所定時間以上継続している状況)に応じた音源位置パターンを音源位置パターンデータベース32aから読み出し、その後、ステップ420以降に直接進む。以上のようにして、CPUは音源位置情報を決定する。
【0102】
更に、CPUは図14に示した処理を一定時間の経過毎に繰り返し行うことにより、バイブレータ選択信号を出力する。即ち、CPUは、ステップ500に続くステップ510にて新たな音源信号が発生した直後であるか否かを音源位置情報に基づいて判定する。そして、新たな音源信号が発生した直後であれば、CPUはステップ520に進み、音源位置情報に基づいて、新たな音源信号の仮想音源位置(定位位置)に対応するバイブレータを振動させるべきバイブレータとして決定する。即ち、CPUはバイブレータ選択信号を生成する。そして、CPUはステップ530に進み、そのバイブレータ選択信号を所定時間だけ出力し、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0103】
一方、新たな音源信号が発生した直後でなければ、CPUはステップ510の判定において「No」と判定し、直接ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0104】
以上、説明したように、第2実施形態に係る音源位置決定装置32は、音源信号の種類及び音源信号の種類の変化の少なくとも一方に応じて各仮想音源位置を決定する。音源位置決定装置32は、実際には音源位置パターンデータベース32a内に、前記音源信号の種類及び同音源信号の種類の変化の少なくとも一方に対応する仮想音源位置パターンを予め記憶している。そして、音源位置決定装置32は、実際に入力される各音源からの音源信号の種類及び同音源信号の種類の変化と音源位置パターンデータベース32a内に記憶されている関係とに基づいて、実現すべき仮想音源位置のパターンを決定する。
【0105】
そして、決定されたそれぞれの仮想音源位置に、それぞれの仮想音源位置に対応する音源信号に基づく音像が定位せしめられる。従って、受聴者であるヘルメット装着者は、現時点でどの音源が音を発生させているのか、或いは、現時点においてどの音が重要であるのか等を容易に認識することができる。また、ヘルメット装着者は、複数の音源から発生される複数の音源信号に基づく音の中から、現時点で必要な音を直感的に選択して聴くことができる。
【0106】
また、第2実施形態の方向情報報知装置の振動パターン決定装置34は、新たな音源信号が加わったとき、複数のバイブレータ13の中から新たに加わった音源信号の定位された音像の方向に相当するバイブレータを選択し、そのバイブレータを所定時間だけ振動せしめる。従って、複数の音源が存在する場合にも、方向に関する情報が定位された音像のみでなく機械的な振動によっても報知されるから、ヘルメット装着者(運転者)は重要な音源信号の方向に関する情報を確実に取得することができる。
【0107】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、振動パターン決定装置34は、複数のバイブレータ13が配設されている面に音像定位位置を投影した位置を求め、その位置とヘルメットの中心Pとを結んだ線分に最も近いバイブレータと、次に近いバイブレータを「振動させるべきバイブレータ」として決定してもよい。
【0108】
更に、このように、二つのバイブレータを「振動させるべきバイブレータ」として決定する場合、定位方向線分に近い方のバイブレータの振動数及び/又は振動の振幅を定位方向線分から遠い方のバイブレータよりも大きくしてもよい。更に、定位方向線分の長さ(定位された音源とヘルメット10との仮想的な距離)が短いほど、バイブレータの振動数及び/又は振動の振幅を大きくしてもよい。
【0109】
また、上記各実施形態において、バイブレータ13が刺激付与手段として採用されていたが、例えば、刺激付与手段としてエアーインジェクションを採用し、それによりヘルメット装着者の頭部に向けて局所的に高圧の空気を噴射してよい。
【0110】
更に、上記各実施形態においては、複数のバイブレータ13はヘルメット10の内側であって略同一平面上に配置されていたが、異なる2以上の平面上に配置されてもよく、或いは、互いに所定の間隔を有しながら頭部全体をカバーするようにヘルメット10の内側に設けられてもよい。
【0111】
加えて、同乗者用ヘルメット40にも、運転者用ヘルメット10と同様に、バイブレータを複数備えさせ、運転者用ヘルメット10と同じ方向のバイブレータを振動させることにより、認識させるべき方向を同乗者に報知するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1及び第2実施形態に係る方向情報報知装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した運転者用ヘルメットの斜視図である。
【図3】図1に示した運転者用ヘルメットの平面図である。
【図4】図1に示した方向情報報知装置の回路ブロック図である。
【図5】図2に示した音源定位装置の回路ブロック図である。
【図6】図1に示した方向情報報知装置による音像定位方法を説明するための図である。
【図7】(A)乃至(C)は、図1に示した方向情報報知装置による音像定位方法を説明するための図である。
【図8】図2に示した音源位置決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図9】運転者用ヘルメットの向きと警報音の向きとの関係を説明するための図である。
【図10】図2に示した音源定位装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図11】図2に示した振動パターン決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態に係る方向情報報知装置による音源定位パターンの一例を示した図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る方向情報報知装置の音源位置決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【図14】本発明の第2実施形態に係る方向情報報知装置の振動パターン決定装置が行う処理手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0113】
10…運転者用ヘルメット、11…運転者用ヘッドホン、11R…右スピーカ、11L…左スピーカ、12…運転者用マイクロホン、13,13a〜13h…バイブレータ、14…運転者用ヘルメット向き検出用地磁気センサ、15…運転者ユニット、21…車体向き検出用検出用地磁気センサ、22…警報装置、23…その他の音源、30…車載ユニット、31…通信装置、32…音源位置決定装置、32a…音源位置パターンデータベース、33…音源定位装置、33a…タップ位置決定回路、33b…ゲイン決定回路、33c…A/Dコンバータ、33d…ディレイライン、33e…バンドパスフィルタ、33f…ゲイン乗算器、33g…ゲイン乗算器、33h…加算器、33i…FIRフィルタ、33iL…左耳用FIRフィルタ、33iR…右耳用FIRフィルタ、33j…加算器、33jR…右耳用加算器、33jL…左耳用加算器、33k…D/Aコンバータ、34…振動パターン決定装置、35…会話用無線通信装置、40…同乗者用ヘルメット、41…同乗者用ヘッドホン、42…同乗者用マイクロホン、43…同乗者ユニット、CP…正中面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルメット内の左右に設けられたスピーカと、前記スピーカから発生させる音の音像を所定の情報に基づいて所定の音像定位位置に定位させる音像定位手段と、を備え、音像の定位によってヘルメット装着者に少なくとも方向に関する情報を与える方向情報報知装置であって、
前記ヘルメットの複数箇所に配設されるとともにそれぞれが外部信号に応答して前記ヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する複数の刺激付与手段と、
前記所定の音像定位位置に対応する位置に配設された前記刺激付与手段の少なくとも一つに対し前記外部信号を付与する駆動手段と、
を備えた方向情報報知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の方向情報報知装置において、
前記複数の刺激付与手段は、前記ヘルメットの前方側の方が同ヘルメットの後方側よりも互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離が短くなるように配設されたことを特徴とする方向情報報知装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方向情報報知装置において、
前記複数の刺激付与手段の少なくとも一つは、前記ヘルメットの内側であって同ヘルメットの装着者の正中面に対応する位置に配設されたことを特徴とする方向情報報知装置。
【請求項1】
ヘルメット内の左右に設けられたスピーカと、前記スピーカから発生させる音の音像を所定の情報に基づいて所定の音像定位位置に定位させる音像定位手段と、を備え、音像の定位によってヘルメット装着者に少なくとも方向に関する情報を与える方向情報報知装置であって、
前記ヘルメットの複数箇所に配設されるとともにそれぞれが外部信号に応答して前記ヘルメット装着者の頭部に局所的な機械的刺激を付与する複数の刺激付与手段と、
前記所定の音像定位位置に対応する位置に配設された前記刺激付与手段の少なくとも一つに対し前記外部信号を付与する駆動手段と、
を備えた方向情報報知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の方向情報報知装置において、
前記複数の刺激付与手段は、前記ヘルメットの前方側の方が同ヘルメットの後方側よりも互いに隣接する二つの刺激付与手段の間の距離が短くなるように配設されたことを特徴とする方向情報報知装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方向情報報知装置において、
前記複数の刺激付与手段の少なくとも一つは、前記ヘルメットの内側であって同ヘルメットの装着者の正中面に対応する位置に配設されたことを特徴とする方向情報報知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−31875(P2007−31875A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216335(P2005−216335)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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