説明

旋回式作業機械

【課題】決められた作業領域内で旋回する旋回式作業機械において、上部旋回体のオーバーランや旋回不足を防止し、目標位置に正確に停止させる。
【解決手段】下部走行体1に被検出体40を設けるとともに、上部旋回体2に、これを検出して減速・停止信号を発する減速、停止両センサ36,37を設け、減速センサ36からの減速信号に基づいて旋回駆動部に減速指令を出力し、停止センサ37からの停止信号に基づいて旋回駆動部に停止指令を出力することによって上部旋回体2を予め設定された目標位置に停止させる。これを前提として、被検出体40の長さ方向の中間部に非検出領域、この非検出領域を挟んだ片側に第1減速区間、反対側に第2減速区間をそれぞれ設定し、第1減速区間で一定の第1減速度を指令するとともに、第2減速区間において第1減速区間から被検出領域に到達するまでの所要時間から推定された旋回速度に応じた第2減速度を指令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーンやショベル、あるいはこれらを軌道作業用に転用した車両のように下部走行体上に上部旋回体を搭載して構成される旋回式作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルタイプの軌道作業車両を例にとって背景技術を説明する。
【0003】
軌道作業車両は、図7〜図9に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2を縦軸まわりに旋回自在に搭載するとともに、上部旋回体2に掘削用の作業アタッチメント3を取付けて構成され、下部走行体1の前後両側に設けられた昇降式の左右一対ずつの車輪4,5を軌道Aの線路6,6上に下ろし、機体を持ち上げた状態で軌道Aに沿って走行する。図9中、Bは隣接する軌道である。
【0004】
なお、作業アタッチメント3の先端部に吊りフックを取付け、軽量物の吊り作業を行う場合もある。
【0005】
作業アタッチメント3は、ブーム7と、このブーム7の先端に取付けられたアーム8と、このアーム8の先端に取付けられたバケット9、それにこれらを駆動するブーム、アーム、バケット各シリンダ10,11,12等によって構成される。
【0006】
ここでは、ブーム7についてオフセット式のもの、すなわち、ブーム7が、基端側部分7aと、この基端側部分7aにピン連結された先端側部分7bとから成り、図8中に破線で示すように先端側部分7bが左右両側にオフセットし得るように構成されたものを例示している。
【0007】
このような車両においては、作業中に、作業アタッチメント3が隣接軌道Bを走行する電車等の対向車両と接触しないように、図9に示すように予め隣接軌道側に進入禁止領域を設定し、上部旋回体2の旋回範囲をこの進入禁止領域に進入しない範囲、たとえばブーム中心線Xが前向き及び後向きの双方で車両中心線Y(軌道A,B)と平行となる180°に制限している。
【0008】
あるいは、とくに図示のようにブーム中心線Xが車両中心線Yに対して作業範囲内側にオフセットする車両の場合、作業範囲のロスをできるだけ小さくするために、図9中に破線で示すように旋回範囲を180°以上に設定することも考えられる。
【0009】
従来、このように上部旋回体2の旋回範囲を制限する方法として、旋回角度検出手段によって上部旋回体2の旋回角度を検出し、その検出信号に基づき、操作手段による手動制御に介入して旋回駆動部を自動的に減速・停止させる方法が公知である。
【0010】
これを図10〜図13によって説明する。
【0011】
図10は上部旋回体2の旋回駆動部とその制御系の構成を示す。同図において、13は上部旋回体2の旋回駆動源である旋回モータ(油圧モータ)、14は油圧源としての油圧ポンプ、15は旋回モータ13に対する圧油の給排を制御する油圧パイロット式のコントロールバルブで、このコントロールバルブ15の両側パイロットポート15a,15bと、コントロールバルブ15を遠隔操作する操作手段としてのリモコン弁16とを結ぶ両側パイロットライン17,18に、コントローラ19によって制御される電磁式の比例減圧弁(正確には入力電流の増加に応じて二次圧が減少する逆比例式の減圧弁。以下、単に比例弁という)20,21が設けられている。
【0012】
コントローラ19には、旋回角度を検出する検出部22からの検出信号、及び作業領域切換スイッチ23のスイッチ信号が入力され、検出部22からの検出信号に基づく比例弁20,21の作用により、コントロールバルブ15が左右両側の旋回位置ロ,ハの一方から中立ブロック位置イに向けて復帰作動する。
【0013】
これにより、旋回モータ13に対する圧油の供給が減少し停止するため、旋回モータ13が減速→停止する。
【0014】
図11〜図13に検出部22の構成を示す。
【0015】
この検出部22は、上部旋回体2が減速・停止させるべき角度に到達したことを検出するセンサ(たとえば近接スイッチ)24〜27と、旋回中心Oを中心とする円弧状に形成された被検出体(金属板)28とによって構成される。
【0016】
センサ24〜27は、左旋回用と右旋回用の二組に分けて旋回中心Oに対して対称配置で設けられ、かつ、それぞれについて減速用と停止用の二種類(計四個)が旋回方向に間隔を置いて設けられている。
【0017】
具体的にいうと、24は左旋回時の減速センサ、25は同停止センサ、26は右旋回時の減速センサ、27は同停止センサで、図9とは逆に軌道左側を作業領域とする場合は、図10中の作業領域切換スイッチ23により、各センサ24〜27が、上記の順で、右旋回時の停止、減速用、左旋回時の停止、減速用として機能が切換えられる。
【0018】
以下、各センサ24〜27について、図9に示すように右側を作業領域とする場合を基準に左減速センサ、左停止センサ、右減速センサ、右停止センサという。
【0019】
この各センサ24〜27は旋回軸受部分において上部旋回体2側に取付けられている。
【0020】
一方、被検出体28は左旋回、右旋回共通として下部走行体1側に取付けられ、各センサ24〜27がこの被検出体28に近接対向して作動し、図10中のコントローラ19に送る。29はこの被検出体28を下部走行体1に取付けるための取付部である。
【0021】
この構成において、たとえば左旋回時に、左減速センサ24がまず作動して図10中の旋回モータ13が減速され、その後に左停止センサ25が作動して同モータ13が停止する。
【0022】
この作用により、図7,8に示す作業アタッチメント3が、図9に示す進入禁止領域に入り込んで対向車両と接触しないように、上部旋回体2が自動的に停止して旋回範囲が制限される。
【0023】
なお、このような検出部22を用いて上部旋回体2を目標位置に自動的に停止させる技術は、実施技術として公知であるが先行特許文献としては見当たらない。
【0024】
一方、関連する技術として、旋回開始時の旋回速度を検出し、この旋回速度と目標停止位置から減速度を求め、これを旋回駆動部に指令して上部旋回体を自動停止させる技術が公知である(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−310374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ところが、図10〜図13に示す従来の技術によると、減速センサ24,26が作動すると、そのときの旋回速度に関係なく一定の減速度で減速する構成であるため、高速旋回時には減速が間に合わずに目標位置を超えて停止するオーバーランが発生し、逆に低速旋回時には目標位置よりも手前で停止する旋回不足が発生する等、目標位置に停止させる上での制御の精度が悪いものとなっていた。
【0026】
このため、例示した軌道作業車両において、オーバーランにより作業アタッチメント3が対向車両に接触し、旋回不足により作業領域の空白が発生して作業効率が悪くなる等の問題が生じていた。
【0027】
一方、特許文献1に示された公知技術によると、旋回速度に応じた減速度を加える点で合理的ではあるが、旋回開始時の旋回速度をもとにするため、その後のオペレータの操作による速度変化等が反映されない。これは、旋回開始後、一定時間経過後の速度を検出するようにした場合も同様で、目標位置近くでの旋回速度を基準にしないかぎり、制御の精度が悪くなる。
【0028】
そこで本発明は、制御精度を高め、上部旋回体を目標位置に正確に停止させることができる旋回式作業機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1の発明は、下部走行体上に上部旋回体が縦軸まわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体を旋回駆動する旋回駆動部と、オペレータによる操作に基づいてこの旋回駆動部を手動制御する操作手段と、上部旋回体の旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、この旋回角度検出手段からの信号に基づき上記操作手段による手動制御に介入して上記旋回駆動部を自動制御する旋回制御手段とを備え、上記旋回角度検出手段として、下部走行体と上部旋回体の一方に旋回方向に所定の長さをもった被検出体を設けるとともに、他方に、この被検出体を検出して減速信号を発する減速センサと、被検出体を検出して停止信号を発する停止センサとを旋回方向に間隔を置いて設け、上記旋回制御手段は、上記減速センサからの減速信号に基づいて上記旋回駆動部に減速指令を出力し、上記停止センサからの停止信号に基づいて旋回駆動部に停止指令を出力することによって上部旋回体を予め設定された目標位置に停止させるように構成された旋回式作業機械において、上記被検出体の長さ方向の中間部に上記減速、停止両センサが反応しない非検出領域、この非検出領域を挟んだ片側に第1減速区間、反対側に第2減速区間がそれぞれ設定され、上記旋回制御手段は、上記第1減速区間で一定の第1減速度を指令するとともに、第2減速区間において上記第1減速区間から被検出領域に到達するまでの所要時間から旋回速度を推定し、この推定された旋回速度に応じた第2減速度を指令するように構成されたものである。
【0030】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、被検出体の長さ方向の中間部に切欠を設けることによって非検出領域が設定されたものである。
【0031】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、旋回制御手段は、自動制御時に上部旋回体の最大旋回速度を制限する指令を旋回駆動部に出力するように構成されたものである。
【0032】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかの構成において、操作手段の操作状態を検出する操作検出手段を備え、旋回制御手段は、検出された操作状態と推定された旋回速度から第2減速度を決定するように構成されたものである。
【0033】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかの構成において、上部旋回体に作業アタッチメントが取付けられ、旋回制御手段は、この作業アタッチメントが予め設定された進入禁止領域に進入しないことを条件として上部旋回体の目標停止位置が設定されたものである。
【0034】
請求項6の発明は、請求項5の構成において、軌道上を走行する下部走行体を備え、旋回制御手段は、隣接する軌道側に設定された進入禁止領域に進入しないことを条件として上部旋回体の目標停止位置が設定されたものである。
【0035】
請求項7の発明は、請求項5または6の構成において、作業アタッチメントは起伏自在なブームを備え、このブームは、基端側部分とこの基端側部分に対して側方にオフセット可能な先端側部分とによって構成され、旋回制御手段は、自動制御時において上記ブーム先端側部分のオフセット状態に応じて上部旋回体の最大旋回速度を制限するように構成されたものである。
【0036】
請求項8の発明は、請求項5乃至7のいずれかの構成において、減速及び停止両センサから成る二組のセンサ対が、左旋回用及び右旋回用として旋回中心に対して対称配置で設けられ、この両組のセンサ対の旋回中心に対してなす角度である中心角が被検出体の中心角よりも大きく設定されたものである。
【0037】
請求項9の発明は、請求項8の構成において、旋回制御手段は、減速センサの検出終了点と停止センサの検出開始点の間は第2減速度の指令を維持するように構成されたものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によると、第1減速区間で一定の減速度(第1減速度)で減速し、被検出体の非検出領域を挟んだ第2減速区間において、第1減速区間から非検出領域に到達するまでの所要時間から推定された旋回速度に応じた減速度(第2減速度)で減速するため、いいかえれば目標停止位置の直前での旋回速度に基づいて減速制御するため、旋回速度に関係なく常に一定の減速度を加える場合や、旋回速度に基づくにしても目標停止位置よりもはるか手前の速度に基づいて減速度を決める場合等と比べて、目標位置で停止させるのに過不足のない適切な減速作用を働かせることができる。
【0039】
しかも、たとえば減速開始から一定時間後に速度センサで旋回速度を検出し、これに基づいて第2の減速度を割り出して指令する制御プログラムを組んだ場合と比較して、第2の減速に入るタイミングと第2の減速度を正確に決定することができる。
【0040】
これらの点により、制御精度を高め、上部旋回体のオーバーランや旋回不足を発生させることなく目標位置に正確に停止させることができる。
【0041】
ここで、請求項2の発明によると、被検出体の長さ方向の中間部に切欠を設けることによって非検出領域を設定するため、非検出領域を低コストで容易に設定できる。
【0042】
請求項3の発明によると、自動制御時に上部旋回体の最大旋回速度を制限する指令を旋回駆動部に出力するように構成したから、旋回の初速を抑え、これにより減速が追いつかずにオーバーランが発生する事態を回避できるとともに、減速のショックを抑えることができる。
【0043】
請求項4の発明によると、検出された操作状態と推定された旋回速度から第2減速度を決定するように構成したから、たとえばオペレータが誤って旋回力を強める操作をしてしまった場合でも、減速度を強めるように設定することにより、オーバーランを防止することができる。
【0044】
請求項5〜9の発明によると、進入禁止領域が決まっている作業時、たとえば請求項6のように軌道作業時に、オーバーランによって作業アタッチメントが対向車両等に接触したり、旋回不足によって作業領域中に作業できない空白域が発生して作業効率が悪くなったりする問題を解消することができる。
【0045】
この場合、請求項7の発明によると、ショベルタイプでしかもオフセットブームを備えた軌道作業車両において、たとえばブームがオフセットした状態では非オフセット状態のときよりも最大旋回速度を低く制限することにより、作業アタッチメントの進入禁止領域への進入を防止することができる。
【0046】
また、請求項8,9の発明によると、減速及び停止両センサから成る二組のセンサ対を、左旋回用及び右旋回用として旋回中心に対して対称配置で設け、この両組のセンサ対の旋回中心に対してなす角度である中心角が被検出体の中心角よりも大きく設定したから、減速が働いた後、停止がかかるまで一定の空白ができ、その分、停止が遅れるため、図9中に破線で示すように作業領域が前側、後側の双方で車両中心線Yから少しはみ出して設定された場合に、とくに低速旋回時に早めに旋回停止してしまう事態を回避し、作業領域に空白を発生させない。
【0047】
この場合、請求項9の発明によると、減速センサの検出終了点と停止センサの検出開始点の間は第2減速度の指令を維持するように構成したから、請求項8の構成に基づく検出の空白区間で減速が行われないこと(減速抜け)によるオーバーランの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明の実施形態を図1〜図6によって説明する。
【0049】
この実施形態では図7〜図10に示すショベルタイプでかつオフセットブーム式の軌道作業車両を適用対象として例にとっている。
【0050】
図1は従来技術における図10に、図2,3は同図11,12にそれぞれ対応し、この図1〜図3において図10〜図12と同一部分には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
【0051】
図1に示す旋回駆動部とその制御系において、コントロールバルブ15の両側パイロットポート15a,15bと、コントロールバルブ15を遠隔操作する操作手段としてのリモコン弁16とを結ぶ両側パイロットライン17,18に、電磁式の比例減圧弁(入力電流の増加に応じて二次圧が減少する逆比例式の減圧弁。以下、単に比例弁という)20,21が設けられ、この比例弁20,21がコントローラ30によって制御される。
【0052】
コントローラ30には、旋回角度を検出する検出部31からの検出信号及び作業領域切換スイッチ23のスイッチ信号が入力され、検出部31からの検出信号に基づく比例弁20,21の作用により、コントロールバルブ15が作動して旋回モータ13が減速→停止する点は従来と同じである。
【0053】
また、この実施形態では、コントローラ30に情報を送るセンサ、スイッチとして、リモコン弁16の操作状態をパイロット圧の変化を通じて検出する圧力センサ32,33と、図7〜図9に示すブーム7のオフセット状態(オフセットの有無)を検出するオフセットセンサ34、それにオペレータの所望に応じて自動制御を解除する解除スイッチ35が設けられている。
【0054】
検出部31の構成を図2〜図4によって説明する。
【0055】
上部旋回体2側に左旋回用の減速、停止両センサ(たとえば近接スイッチ)36,37及び右旋回用の減速、停止両センサ38,39が設けられている。
【0056】
下部走行体1側には、旋回中心Oを中心とする円弧状の被検出体(金属板)40が取付部41を介して取付けられ、各センサ36〜39がこの被検出体40に近接対向して作動し、コントローラ30に減速または停止信号を送る。
【0057】
以下、各センサ36〜39について、必要に応じ、図9に示すように右側を作業領域とする場合を基準として左減速センサ、左停止センサ、右減速センサ、右停止センサという。
【0058】
ここで、左旋回用と右旋回用の二組のセンサ対は、旋回中心Oに対して対称配置で設けられ、かつ、この両組のセンサ対の旋回中心Oに対してなす角度である中心角αが被検出体40の中心角βよりも大きく設定されている。
【0059】
従って、左右旋回時に、減速及び停止両センサ36,37及び38,39がともに被検出体40から外れる状態、すなわち減速センサ36,38が働いた後、停止センサ37,39が作動するまで一定の空白区間が発生することとなる。図2,3は左減速、停止両センサ36,37が被検出体40から外れた状態を示す。
【0060】
また、被検出体40の長さ方向の中間部に切欠40aが設けられ、この切欠40a分の旋回領域C(図4参照)が減速及び停止両センサ36,37及び38,39が反応しない非検出領域となるとともに、この非検出領域Cを挟んで片側に第1減速区間D、反対側に第2減速区間Eがそれぞれ設定されている。
【0061】
図5は減速及び停止両センサ36,37及び38,39の出力波形を示し、センサ出力が第1減速区間Dで立ち上がった後、非検出領域Cで途絶え、第2減速区間Eで再び立ち上がる。Fは第2減速区間Eを過ぎて停止センサ出力があるまでの空白区間である。
【0062】
コントローラ30は、この検出部31からの信号に基づいて両比例弁20,21の一方(圧力センサ32,33によって検出される操作状態に基づいて選択される)に減速及び停止指令を出力し、上部旋回体2を目標位置に自動停止させる。
【0063】
この点の作用を図6のフローチャートを併用して説明する。ここでは左旋回時を例にとっている。
【0064】
制御開始とともに解除スイッチ35がONか否かが判断され(ステップS1)、NOの場合に、ステップS2で左減速センサ36からの減速信号の入力回数が0(n←0。入力なし)に設定される。
【0065】
ステップS3で、オフセットセンサ34からの信号に基づいてブーム7がオフセットしているか否かが判別され、オフセットしていなければ、ステップS4でオーバーランの可能性が低いとして最大旋回速度が通常値(相対的に高い制限値)にセットされ、オフセットしていれば、ステップS5で最大旋回速度が規制値(同、低い制限値)にセットされる。
【0066】
これにより、最大旋回速度が制限され、オーバーランを回避する基本態勢として上部旋回体2の初速が抑えられる。
【0067】
ステップS6では左減速センサ36がONか否か(第1減速区間Dに入ったか否か)が判別され、YESの場合は、ステップS7で減速センサ信号の入力回数を1回加え(n←n+1)、ステップS8で減速センサ信号の入力が2回目か否かが判別される。
【0068】
ここでNOの場合は、左減速センサ36が第1減速区間Dにあるとして、ステップS9で、この後の旋回速度の推定のためのタイムカウントに向けて図示しないタイマをリセットした後、ステップS10で第1減速度(一定の減速度)の指令が左旋回側に出力される。これにより、上部旋回体2が一定の減速度で減速される。
【0069】
なお、ステップS10の後、次の減速信号が入力されないまま一定時間が経過する(ステップS11でタイムアップとなる)と、旋回速度が十分に低くて停止指令が出れば十分に目標位置に停止できるため減速度を変える必要がないとしてステップS2に戻る。
【0070】
一方、ステップS8でYES、つまり減速センサ36が第2減速区間Eにあると判別されると、第1減速区間Dから非検出領域Cに到達するまでの所要時間からそのときの旋回速度が推定される(ステップS12)。
【0071】
そして、ステップS13でタイマリセット後、ステップS14で、推定された旋回速度に応じた第2減速度の指令が左旋回側に出力される。これにより、上部旋回体2が、旋回速度が高いときには大きな減速度で、旋回速度が低いときには小さな減速度でそれぞれ減速される。
【0072】
この後、ステップS11を経てステップS6に戻り、このステップS6でNO、すなわち左減速センサ36がONでない場合は、ステップS15で左停止センサ37がONか否かが判別され、ここでYESとなると、ステップS16で旋回停止指令が出力され、上部旋回体2が自動的に停止する。
【0073】
これに対し、ステップS15でNOとなり、かつ、一定時間が経過していない場合(ステップS17でNOの場合)には、ステップS6を経由して再びステップS15に戻る。すなわち、第2減速度での減速指令が出された後、左停止センサ37がONとなるまでの間は第2減速度での減速が維持される。
【0074】
従って、この実施形態のように減速、停止両センサ36,37のいずれもが被検出体40から外れる空白区間(減速センサ36の検出終了点と停止センサ37の検出開始点の間。図5のF)が生じるセンサ配置(図2,3参照)をとった場合でも、空白区間Fで第2減速度での減速指令が維持される。
【0075】
なお、ステップS15でNO(左停止センサ37がONでない)となり、かつ、一定時間が経過している場合(ステップS17でタイムアップの場合)は、減速、停止両センサ36,37が一定時間内にともに被検出体40に到達しておらず、旋回速度が十分に低くて旋回速度を規制する必要がないとしてステップS2に戻る。
【0076】
上記のように、第1減速区間Dで一定の減速度(第1減速度)で減速し、被検出体40の非検出領域Cを挟んだ第2減速区間Eにおいて、第1減速区間Dから非検出領域Cに到達するまでの所要時間から推定された旋回速度に応じた減速度(第2減速度)で減速するため、いいかえれば目標停止位置の直前での旋回速度に基づいて減速制御するため、旋回速度に関係なく常に一定の減速度を加える場合や、旋回速度に基づくにしても目標停止位置よりもはるか手前の速度に基づいて減速度を決める場合等と比べて、目標位置で停止させるのに過不足のない適切な減速作用を働かせることができる。
【0077】
しかも、被検出体40に非検出領域Cを設定し、減速センサ36が第1減速区間Dから非検出領域Cに到達するまでの所要時間から推定した旋回速度に基づいて第2減速度を求めるため、たとえば減速開始から一定時間後に速度センサで旋回速度を検出し、これに基づいて第2の減速度を割り出して指令する制御プログラムを組んだ場合と比較して、第2の減速に入るタイミングと第2の減速度を正確に決定することができる。
【0078】
これらの点により、制御精度を高め、上部旋回体のオーバーランや旋回不足を発生させることなく目標位置に正確に停止させることができる。
【0079】
従って、この実施形態のように進入禁止領域が決まっている軌道作業時に、オーバーランによって作業アタッチメント3が対向車両等に接触したり、旋回不足によって作業領域中に作業できない空白域が発生して作業効率が悪くなったりする問題を解消することができる。
【0080】
また、自動制御時に、ステップS4,S5において最大旋回速度を通常値または規制値に制限する構成としたから、旋回の初速を抑え、これにより減速が追いつかずにオーバーランが発生する事態を回避することができる。
【0081】
さらに、実施形態のようにブーム7がオフセットしている場合は、最大旋回速度の制限度合いを強めるようにしたから、作業アタッチメント3の進入禁止領域への進入をより確実に防止することができる。
【0082】
一方、二組のセンサ対を、左旋回用及び右旋回用として旋回中心Oに対して対称配置で設け、この両組のセンサ対の中心角αを被検出体40の中心角βよりも大きく設定したから、減速が働いた後、停止がかかるまで一定の空白区間Fができ、その分、停止が遅れるため、図9中に破線で示すように作業領域が前側、後側の双方で車両中心線Yからはみ出して設定された場合に、とくに低速旋回時に早めに旋回停止してしまう事態を回避し、作業領域に空白を発生させない。
【0083】
この場合、前記のように空白区間Fで第2減速度の指令を維持するように構成したから、この空白区間Fで減速が行われないこと(減速抜け)によるオーバーランの発生を防止することができる。
【0084】
他の実施形態
(1) 上記実施形態では、推定された旋回速度のみに基づいて第2減速度を決定するようにしたが、推定された旋回速度と、圧力センサ32,33によって検出された操作状態とに基づいて第2減速度を決定するように構成してもよい。
【0085】
こうすれば、たとえばオペレータが停止直前で誤って旋回力を強める操作をしてしまった場合に、この操作を打ち消すように減速度を強めることにより、オーバーランを防止することができる。
【0086】
(2) 被検出体40に非検出領域Cを設定する方法として、切欠40aを設ける方法に代えて、たとえばセンサ36〜39として近接スイッチを用いる場合にこれらが反応しないプラスチック等の非金属材を貼り付ける方法をとってもよい。
【0087】
(3) 上記実施形態では、ブーム7のオフセットの有無に応じて最大旋回速度の制限値を決める構成(図6のステップS3〜S5)構成をとったが、ブームオフセット量を検出し、このオフセット量の大小に応じて最大旋回速度の制限値を決めるようにしてもよい。
【0088】
(4) 上記実施形態ではショベルタイプの軌道作業車両を例にとったが、作業アタッチメントとして吊りブーム(伸縮式のものを含む)を備えたクレーンタイプの軌道作業車両にも、また、軌道作業車両に限らず、停止目標位置が設定される現場で使用される旋回式作業機械に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態にかかる軌道作業車両における旋回駆動部とその制御系の構成を示す図である。
【図2】同検出部の構成を示す平面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】検出部を構成する被検出体の斜視図である。
【図5】検出部のセンサ出力波形図である。
【図6】制御系の作用を説明するためのフローチャートである。
【図7】ショベルタイプの軌道作業車両を示す側面図である。
【図8】同平面図である。
【図9】同車両の作業状況を示す平面図である。
【図10】従来の旋回駆動部とその制御系の構成を示す図である。
【図11】同検出部の構成を示す平面図である。
【図12】図11の一部拡大図である。
【図13】図12のXIII−XIII線断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 作業アタッチメント
7 ブーム
7a 基端側部分
7b 先端側部分
8 アーム
9 バケット
A 軌道
B 隣接軌道
O 旋回中心
X ブーム中心線
Y 車両中心線
13 旋回駆動部を構成する旋回モータ
14 油圧ポンプ
15 コントロールバルブ
16 操作手段としてのリモコン弁
20,21 比例弁
30 旋回制御手段としてのコントローラ
31 検出部
32,33 操作検出手段としての圧力センサ
34 オフセットセンサ
35 解除スイッチ
36 左減速センサ
37 左停止センサ
38 右減速センサ
39 右停止センサ
40 被検出体
40a 切欠
α センサの中心角
β 被検出体の中心角
C 非検出領域
D 第1減速区間
E 第2減速区間
F 空白区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体が縦軸まわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体を旋回駆動する旋回駆動部と、オペレータによる操作に基づいてこの旋回駆動部を手動制御する操作手段と、上部旋回体の旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、この旋回角度検出手段からの信号に基づき上記操作手段による手動制御に介入して上記旋回駆動部を自動制御する旋回制御手段とを備え、上記旋回角度検出手段として、下部走行体と上部旋回体の一方に旋回方向に所定の長さをもった被検出体を設けるとともに、他方に、この被検出体を検出して減速信号を発する減速センサと、被検出体を検出して停止信号を発する停止センサとを旋回方向に間隔を置いて設け、上記旋回制御手段は、上記減速センサからの減速信号に基づいて上記旋回駆動部に減速指令を出力し、上記停止センサからの停止信号に基づいて旋回駆動部に停止指令を出力することによって上部旋回体を予め設定された目標位置に停止させるように構成された旋回式作業機械において、上記被検出体の長さ方向の中間部に上記減速、停止両センサが反応しない非検出領域、この非検出領域を挟んだ片側に第1減速区間、反対側に第2減速区間がそれぞれ設定され、上記旋回制御手段は、上記第1減速区間で一定の第1減速度を指令するとともに、第2減速区間において上記第1減速区間から被検出領域に到達するまでの所要時間から旋回速度を推定し、この推定された旋回速度に応じた第2減速度を指令するように構成されたことを特徴とする旋回式作業機械。
【請求項2】
被検出体の長さ方向の中間部に切欠を設けることによって非検出領域が設定されたことを特徴とする請求項1記載の旋回式作業機械。
【請求項3】
旋回制御手段は、自動制御時に上部旋回体の最大旋回速度を制限する指令を旋回駆動部に出力するように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の旋回式作業機械。
【請求項4】
操作手段の操作状態を検出する操作検出手段を備え、旋回制御手段は、検出された操作状態と推定された旋回速度から第2減速度を決定するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の旋回式作業機械。
【請求項5】
上部旋回体に作業アタッチメントが取付けられ、旋回制御手段は、この作業アタッチメントが予め設定された進入禁止領域に進入しないことを条件として上部旋回体の目標停止位置が設定されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の旋回式作業機械。
【請求項6】
軌道上を走行する下部走行体を備え、旋回制御手段は、隣接する軌道側に設定された進入禁止領域に進入しないことを条件として上部旋回体の目標停止位置が設定されたことを特徴とする請求項5記載の旋回式作業機械。
【請求項7】
作業アタッチメントは起伏自在なブームを備え、このブームは、基端側部分とこの基端側部分に対して側方にオフセット可能な先端側部分とによって構成され、旋回制御手段は、自動制御時において上記ブーム先端側部分のオフセット状態に応じて上部旋回体の最大旋回速度を制限するように構成されたことを特徴とする請求項5または6記載の旋回式作業機械。
【請求項8】
減速及び停止両センサから成る二組のセンサ対が、左旋回用及び右旋回用として旋回中心に対して対称配置で設けられ、この両組のセンサ対の旋回中心に対してなす角度である中心角が被検出体の中心角よりも大きく設定されたことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の旋回式作業機械。
【請求項9】
旋回制御手段は、減速センサの検出終了点と停止センサの検出開始点の間は第2減速度の指令を維持するように構成されたことを特徴とする請求項8記載の旋回式作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−191283(P2007−191283A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12251(P2006−12251)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】