説明

有機トランジスタ及びその製造方法

【課題】ソース、ドレイン電極と有機半導体層の間の接触抵抗を低減して、短チャネル化により高速応答性能を向上させ、かつ、短チャネル化に伴うソース、ドレイン電極とゲート電極間の短絡の発生を回避可能とする。
【解決手段】絶縁性の基板と、基板上に相互間に間隔を設けて配置され、各々台状平面を形成する一対の絶縁性の台座2、3と、一方の台座が形成する台状平面上に設けられたソース電極4と、他方の台座が形成する台状平面上に設けられたドレイン電極5と、一対の台座の間の基板上に設けられたゲート電極6と、ソース電極及びドレイン電極の上面に接触させて配置された有機半導体層7とを備える。ゲート電極と有機半導体層の下面とはギャップ領域8を介在させて上下方向に対向し、ギャップ領域に面する台座の側面は、上側端縁に対して下側端縁がゲート電極から遠ざかる側に後退した形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を活性層に用いた有機トランジスタに関し、特に、チャネル長を短くすることにより応答性能を向上させるのに適した素子構造を有する有機トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、近年ではアモルファスシリコンと同等の移動度を示す例も報告されており、これら有機半導体を活性層に用いた有機トランジスタは、非常に高温の製造プロセスを必要とせず、低価格、低環境負荷の製造装置で簡単に素子を製造できるという利点を有するため、新しいエレクトロニクス産業を担う半導体素子として期待されている。
【0003】
有機トランジスタの応答速度を向上させるためには、ソース電極とドレイン電極間の距離であるチャネル長を短くすることが必須である。しかし、チャネル長を短くすると、有機半導体層とソース、ドレイン電極との間の接触抵抗が、チャネル抵抗に対する割合において大きくなるため、チャネル長を短くしてもトランジスタの動作速度の向上が制限されてしまう。このため、現在までに報告されている大気中安定な有機トランジスタの応答性能は、10kHz〜1MHz程度までの低い値に留まっている。
【0004】
チャネル長を短くしたときの有機半導体層とソース、ドレイン電極との間の接触抵抗の影響について、図10を参照してより詳細に説明する。図10は、有機トランジスタの一般的な構造の一例を示す断面図である。この有機トランジスタでは、絶縁性の基板31の上にゲート電極32が設けられ、その上部を被覆してゲート絶縁層33が形成されている。ゲート絶縁層33上には、ゲート電極32の両側に位置させてソース電極34、ドレイン電極35が設けられている。ソース電極34、ドレイン電極35の上部には有機半導体層36が設けられている。
【0005】
この有機トランジスタが応答可能な最高の周波数である遮断周波数fCは、一般的には、ゲート電流IGとドレイン電流IDの関係が、|IG|=|ID|となるときの周波数と定義される。
【0006】
有機トランジスタのon状態を、ゲート絶縁層33の両側がゲート電極32とキャリアが注入された有機半導体層36とで挟まれているとする、いわゆるコンデンサのモデルで考える。静電容量CのコンデンサのインピーダンスZは、Z=1/(j・ω・C)(但しjは虚数単位、ωは角周波数)と表されるので、ゲート容量をCG、ゲート電極32に印加されるゲート電圧をVGとすると、
|IG/VG|=ωCG
すなわち、
|IG|=ωCG|VG (1)
と表すことができる。
【0007】
次に、|ID|に関して記述する。図10の構成において、チャネル長をL、チャネル幅をW、ソース電極34とドレイン電極35間の電気抵抗をR(=RPS+RCH+RPD)とする。RPSは、ソース電極34から有機半導体層36へ電荷が移動する際に生じる接触抵抗、RCHは、有機半導体層36のチャネル内のon状態でのチャネル抵抗、RPDは、有機半導体層36からドレイン電極35へ電荷移動する際の接触抵抗である。
【0008】
ここで、ある固体中の電気伝導率σは、電子密度をn、電気素量をe、固体中での電荷移動度をμとして、σ=neμで表される。上述のコンデンサモデルを考えると、チャネルの単位面積あたりに存在する電荷量neは、on状態の有機トランジスタのチャネル単位面積あたりのゲート容量をciとして、下記のとおりに表わされる。
【0009】
ne=ciG
有機半導体材料36とソース、ドレイン電極34、35との間の接触抵抗が無視できるとき、
R=RCH=(1/σ)×(L/W)
となり、ソース電極34からドレイン電極35に流れるドレイン電流IDは、σ=neμより、ドレイン電圧をVDとして、下記の式(2)により表すことができる。
【0010】
D=VD/RCH=σ(W/L)VD=(ciGμ)(W/L)VD (2)
従って、式(1)、式(2)より、|IG|=|ID|としてω=2πfCを代入すれば、下記の式が得られる。
【0011】
C={μVD/(2πL2)}×(ciWL/CG) (3)
iWLは、チャネル部分の静電容量に相当し、(ciWL/CG)の項は、チャネル部分の静電容量と、寄生容量を含めたゲート容量全体との比であり、応答速度がこの比に比例することを表している。
【0012】
式(3)より、電極との接触抵抗が無視できる場合は、チャネル長Lを短くすれば、L2の逆数に比例して、飛躍的に最高動作周波数を上げることができることがわかる。
【0013】
一方、電極との接触抵抗が無視できない場合については、接触抵抗を加味した見かけ上の移動度μeff(以下、実効移動度と記す)を、下記の式(4)を満たすものとして定義する。
【0014】
D=VD/R=(ciGμeff)(W/L)VD (4)
接触抵抗の和をRP=RPS+RPDとし、R=RCH+RPとすると、式(2)、式(4)を用いて実効移動度μeffと材料本来の電荷移動度μとの関係を整理すると、下記の式のように表される。
【0015】
μeff=μ/{1+RP×(ciGμ)×(W/L)} (5)
この式において、接触抵抗RP=0のとき、確かにμeff=μとなることが確認できる。
【0016】
式(5)より、接触抵抗が存在する場合は、チャネル長Lが短くなるとともに、実効移動度μeffが本来のμ から低下する度合いが増すことが判る。
【0017】
この場合、遮断周波数fCは、
C={μeffD/(2πL2)}×(ciWL/CG) (6)
となり、短チャネル化とともに実効移動度μeffが低下してしまう場合は、動作周波数を上げることができないことがわかる。このように、有機トランジスタの動作速度の高速化のためには、接触抵抗の影響を極力低減させて短チャネルデバイスを構築することが、非常に重要である。
【0018】
ところで、一般的な有機トランジスタの素子構造は、主にトップコンタクト型とボトムコンタクト型の2種類に大別される。トップコンタクト型は、半導体層上のゲート電極側と反対側にソース電極とドレイン電極とが形成された構造、ボトムコンタクト型は、半導体層の下部にソース電極とドレイン電極とが形成された、図10に示したような構造である。
【0019】
トップコンタクト型の場合には、ドレイン電流が流れる経路は、上部のソース電極から半導体層中をその厚み方向に流れ、その後チャネル部分を流れた後、再度半導体層中を厚み方向に流れてドレイン電極に至る経路となる。この場合、有機半導体層の厚み方向の移動度は、一般にチャネル方向に比べて移動度が低いことが多いため、有機半導体層を非常に薄くする技術が必要となる。また、トップコンタクト型で、フォトリソグラフィなどの微細加工プロセスを用いてチャネル長の短い構造を作製する場合、有機半導体層を作製した後にフォトリソグラフィプロセスが必要となる。しかし一般的には、フォトリソグラフィのプロセス中に有機半導体層がダメージを受ける場合が多いため、このようなプロセスを採用することができない。このため、チャネル長をあまり短くできず、高速応答性能を得ることが困難であるという課題がある。
【0020】
ボトムコンタクト型の素子構造の場合、ドレイン電流の経路として有機半導体層の厚み方向は含まれず、ソース、ドレイン電極とチャネル面内を考慮するのみでよい。また、フォトリソグラフィによりソース、ドレイン電極を形成することにより微細な短チャネルを構成した後に有機半導体層を作製できるため、チャネル長をより短くできるという利点がある。しかし、一般的に、ボトムコンタクト型で作製した素子では、電極と有機半導体との間の接触抵抗が、トップコンタクト型に比べて大きいという課題がある。このために、トランジスタの応答速度を上げるために、ボトムコンタクト型を採用しつつ、電極と有機半導体との間の接触抵抗を下げる試みがこれまでに行われている。
【0021】
例えば、ソース、ドレイン電極となる金電極の上に、膜厚が数ナノメートルの自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayer:SAM)を形成することにより、寄生抵抗を抑制する方法や、有機半導体のエネルギー準位と電極の仕事関数を合わせる技術等が提案されている。
【0022】
また、特許文献1には、金からなるソース、ドレイン電極と絶縁性基板との間に設ける密着層として、金を主成分とした合金、すなわち、金の含有量が、67原子%以上97原子%以下の範囲内である合金を採用することが開示されている。p型動作の有機トランジスタのソース、ドレイン電極を形成する材料としては、有機半導体のHOMOレベルと仕事関数が近い金からなる電極が用いられることが多いが、金は他の材料に対する密着力が低い。このため、金電極と基板との間に密着層を形成する対策が一般に行われているが、この密着層が、ソース、ドレイン電極と有機半導体層との間の寄生抵抗の原因となることが指摘されている。これに対して、特許文献1には、上述のように、金を含む合金を密着層の材料として用いることにより、有機半導体層と電極間の寄生抵抗を低減させる技術が開示されている。しかし、特許文献1に開示された有機トランジスタにおいても、その実効移動度は、0.4〜2.2cm2/Vs程度にとどまっている。
【0023】
これは、ソース電極及びドレイン電極の上面と、両電極間のゲート絶縁層の上面との間の段差の存在が原因と考えられる。すなわち、この段差の領域に形成される有機半導体層は、平坦面と比べると変形しており、分子配向に乱れが生じ、移動度の向上に対する障害となるからである。さらに、そのような有機半導体層の変形は、有機半導体層とソース、ドレイン電極との間の接触抵抗を増大させる原因ともなる。このため、さらにチャネル長が短い条件においては、この分子配向の乱れが避けられなくなり、短チャネルで高い実効移動度を得ることは困難である。
【0024】
段差に起因する有機半導体層の変形を回避して平坦な状態で有機半導体層を設けるためには、非特許文献1に開示されたギャップ構造を採用することが考えられる。ギャップ構造とは、ボトムコンタクト型の素子構造の一態様である。絶縁性の基板上に段差構造が設けられ、この段差構造の上にそれぞれソース電極とドレイン電極が独立して設けられている。単結晶有機半導体が、段差上面のソース、ドレイン電極の上に支持されており、ソース電極とドレイン電極に亘る単結晶有機半導体が平坦な形状を有する素子構造が形成されている。
【0025】
ソース電極とドレイン電極間における単結晶有機半導体の下面と基板との間には、空間すなわちギャップが形成される。ソース、ドレイン電極間の基板上に形成されたゲート電極は、ギャップを介して単結晶有機半導体と対向する。ソース、ドレイン電極は、基板上に所定の間隔を設けて形成された一対の台座上に形成され、ゲート電極は、一対の台座間の基板上に形成されている。この素子構造によれば、単結晶有機半導体がゲート電極と空気層を介して対向しているため、従来一般的に用いられている、ゲート絶縁層をなす絶縁性固体と有機半導体とが接する構造を採用する場合に比べて、ゲート絶縁体と有機半導体界面の不純物などに起因する移動度の低下を防ぐことが可能となり、単結晶有機半導体材料の固有の電荷移動度をより正確に求めることができる。
【0026】
但し、非特許文献1では、ギャップ素子構造は、有機単結晶界面の電子伝導を評価するために採用されたものであり、チャネル長を短くして高速応答を可能にするための構造は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2010−135542号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】"Elastomeric Transistor Stamps: Reversible Probing of Charge Transport in Organic Crystals", Vikram C. Sundar他, p. 1644-1646, Science March 12, 2004, Vol.303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
非特許文献1に開示されたギャップ構造であれば、有機単結晶の材料固有の移動度に近い値を測定することが可能であり、チャネル長が長い場合に高い移動度を得ることが可能である。しかし、非特許文献1におけるギャップ素子構造は、有機単結晶界面の電子伝導を評価するために採用されたものであるため、トランジスタ応答の高速化を実現するために、短チャネル長でかつ接触抵抗が小さい素子構造を実現するための技術や具体的な構造は全く開示されていない。また、有機半導体の電極近傍での変形を低減する効果についても述べられていない。
【0030】
ギャップ構造においてチャネル長を短くしようとすると、ソース電極とゲート電極間、或いはドレイン電極とゲート電極間の短絡が発生し易いという課題がある。チャネル長を短くする場合は、いわゆるグラジュアルチャネル近似を成立させるために、ギャップ構造の段差の高さを低くすることが同時に必要となる。即ち、チャネル長を短くするだけではなく、素子構造全体のスケールダウンが必要となる。
【0031】
ここで、ギャップ構造を採用したトランジスタを作製するためには、段差壁面の垂直性を高くしておき、段差の真上から一方向に有機半導体分子を蒸着することにより、ソース、ドレイン電極とゲート電極を一度の蒸着で同時に形成する手法が用いられる。このため、段差の高さを低くする場合、分子の蒸着方向をより厳密に垂直の一方向とする必要が生じるが、現実的にこれを実現するのは非常に困難であるために、段差の上面と下面で電気的短絡が生じてしまう。
【0032】
以上を考慮して、本発明は、チャネル長が短い場合であってもソース、ドレイン電極と有機半導体層の間の接触抵抗を低減し、短チャネル化によりトランジスタ応答性能を向上させ、かつ、短チャネル化に伴うソース、ドレイン電極とゲート電極間の短絡の発生を回避可能な有機トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記課題を解決するために、本発明の有機トランジスタは、絶縁性の基板と、前記基板上に相互間に間隔を設けて配置され、各々台状平面を形成する一対の絶縁性の台座と、一方の前記台座が形成する前記台状平面上に設けられたソース電極と、他方の前記台座が形成する前記台状平面上に設けられたドレイン電極と、前記一対の台座の間の前記基板上に設けられたゲート電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上面に接触させて配置された有機半導体層とを備え、前記ゲート電極と前記有機半導体層の下面とはギャップ領域を介在させて上下方向に対向し、前記ギャップ領域に面する前記台座の側面は、上側端縁に対して下側端縁が前記ゲート電極から遠ざかる側に後退した形状を有することを特徴とする。
【0034】
また、本発明の有機トランジスタの製造方法は、絶縁性の基板上に、各々台状平面を形成する一対の絶縁性の台座を相互間に間隔を設けて形成し、一方の前記台座が形成する前記台状平面にソース電極を形成し、他方の前記台座が形成する前記台状平面にドレイン電極を形成するとともに、前記一対の台座の間の前記基板上にゲート電極を形成し、予め作製された有機半導体層を、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上面に接触させて載置して、前記ゲート電極と前記有機半導体層の下面の間にギャップ領域を形成し、前記台座を形成する工程では、前記ギャップ領域に面する前記台座の側面を、上側端縁に対して下側端縁が前記ゲート電極から遠ざかる側に後退した形状とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、有機半導体層をソース、ドレイン電極上に載置して、ゲート電極と有機半導体層間にギャップ領域が設けられた構造を採用することにより、ソース、ドレイン電極の近傍での有機半導体層の平坦度が十分に確保され、ソース、ドレイン電極と有機半導体層の間の接触抵抗が低減されて、短チャネル長であっても高速応答性能を実現できる。また、ギャップ領域における台座の側面が、台状平面側に対して底面側がゲート電極から遠ざかる側に後退した形状を有することにより、ギャップ構造を採用することに伴う、ソース、ドレイン電極とゲート電極間の短絡を容易に回避可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施の形態1における有機トランジスタの構造を示す断面図
【図2】同有機トランジスタの実施例1の特性を従来例と比較して示す図
【図3】同有機トランジスタの実施例2の特性を従来例と比較して示す図
【図4】同有機トランジスタの製造方法を示す断面図
【図5】同有機トランジスタの他の構造例を示す断面図
【図6】実施の形態2における有機トランジスタの構造を示す断面図
【図7】同有機トランジスタの製造方法を示す断面図
【図8A】実施の形態3における有機トランジスタの構造を示す断面図
【図8B】同実施の形態における有機トランジスタの構造の他の例を示す断面図
【図9A】実施の形態4における有機トランジスタの構造を示す断面図
【図9B】同実施の形態における有機トランジスタの構造の他の例を示す断面図
【図10】従来例の有機トランジスタの問題点を説明するための断面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の有機トランジスタは、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0038】
すなわち、前記ギャップ領域に面する前記台座の側面は、前記下側端縁から前記上側端縁に向かって逆テーパを形成している構成とすることができる。この場合、前記ソース電極と前記ドレイン電極間のチャネル方向を含むチャネル方向断面における前記台座の形状は、逆メサ型とすることができる。
【0039】
また、前記ギャップ領域に面する前記台座の側面は、前記ゲート電極に対向する部分を含む前記下側端縁の側の一定高さの領域が、当該領域よりも前記上側端縁の側に対して段差を形成して後退し、逆階段状となっている構成とすることができる。
【0040】
或いは、支持基板上に前記有機半導体層が形成された半導体層部材を備え、前記有機半導体層側の面を前記ソース電極及び前記ドレイン電極に対向させて、前記半導体層部材が前記ソース電極及び前記ドレイン電極上に載置されている構成とすることができる。
【0041】
また、前記ギャップ領域中の少なくとも一部が絶縁性固体からなり、前記絶縁性固体の誘電率が1よりも大きい構成とすることができる。
【0042】
また、前記ギャップ領域の全域がイオン液体からなる構成とすることができる。あるいは、前記ギャップ領域中の、少なくとも前記有機半導体層に接する部分が前記絶縁性固体からなり、前記絶縁性固体以外の部分がイオン液体からなる構成とすることができる。
【0043】
また、前記ソース電極と前記ドレイン電極間の距離であるチャネル長Lが20μm以下であることが好ましい。
【0044】
また、前記台座の高さdが、前記チャネル長Lに対して、d≦L/2μmの関係を満足することが好ましい。
【0045】
本発明の有機トランジスタの製造方法は、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0046】
すなわち、支持基板上に前記有機半導体層を形成した半導体層部材を作製し、前記有機半導体層側の面を前記ソース電極及び前記ドレイン電極に対向させて、前記半導体層部材を前記ソース電極及び前記ドレイン電極上に載置する工程を用いることができる。
【0047】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0048】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における有機トランジスタの構造を示す断面図である。この有機トランジスタは、絶縁性の基板1の上に形成された一対の台座2、3を有する。台座2、3は、基板1の上面に対して段差を有する台状平面2a、3aを形成し、相互間に間隙を設けて対向している。
【0049】
一方の台状平面2a上にはソース電極4が設けられ、他方の台状平面3a上にはドレイン電極5が設けられている。台座2、3間の間隙中の基板1上には、ゲート電極6が設けられている。ソース電極4及びドレイン電極5の上面に接触させて、有機半導体層7が配置されている。この構成によれば、基板1の上面、台座2、3の側面、及び有機半導体層7の下面により囲まれた空間がギャップ領域8を形成している。従って、基板1上に形成されたゲート電極6が、ギャップ領域8を介して有機半導体層7と対向したギャップ構造が形成されている。なお、図1に示される構成では、ギャップ領域8は空気層であるが、ギャップ領域は、乾燥窒素等の気体が充填された構成、あるいは後述するように、少なくとも一部に絶縁性固体等が充填された構成とすることもできる。
【0050】
図1の断面形状は、ソース電極4とドレイン電極5間のチャネル方向を含む断面を示したものである。この断面形状において、台座2、3は逆メサ構造を有する。逆メサ構造とは、台形状の断面を有する順メサ構造に対する上下逆の構造を意味し、逆台形状の断面構造である。言い換えれば、ギャップ領域8に面する台座2、3の側面は、その下側端縁(底面側、すなわち基板1側の端縁)から、上側端縁(上面側、すなわち台状平面2a、3a側)に向かって、逆テーパ形状を形成している。
【0051】
台座2、3のこのような形状は、ギャップ領域8に面する台座2、3の側面に、本発明に特有の形状、すなわち、上側端縁に対して下側端縁がゲート電極6から遠ざかる側に後退した形状を与えるために採用される。この形状は、ゲート電極6がギャップ領域8を介して有機半導体層7と対向した構造において短チャネル化を図ることに伴う、ソース電極4及びドレイン電極5と、ゲート電極6間の短絡を回避するために有効である。
【0052】
すなわち、ギャップ構造を持つトランジスタを作製するためには、ソース、ドレイン電極4、5、及びゲート電極6を、1度の成膜により同時に形成することが効率的である。しかし、チャネル長が短い構造を採用するために素子サイズ全体を縮小する場合、同時に基板1と有機半導体7との間の距離、即ち台座2、3の高さも低くする必要があるため、台状平面2a、3a及び台座2、3間の基板1面上に同時に形成される電極は、成膜中に互いに繋がり易くなる。これが、チャネル長を短くするのに伴う短絡発生の原因である。特に、台座2、3の側面が垂直あるいは順テーパを有する台形状(順メサ)であると、台状平面2a、3a上、及び台座2、3間の基板1面上に成膜される電極層は繋がり易い。これに対して、台座2、3の側面形状が上述のような状態であれば、成膜される電極どうしが繋がり難くなり、電気的短絡を回避できる。
【0053】
なお、電気的短絡を回避する効果を得るためには、台座2、及び台座3がギャップ領域8に面する側面のうちの少なくとも一部分が逆テーパ状であればよく、必ずしも全体として逆メサ型である必要はない。また、電極の短絡を防止するための台座2、3の側面の形状は、逆テーパ形状に限られない。他のどのような形状であっても、ギャップ領域8に面する台座2、3の側面に、上側端縁に対して下側端縁がゲート電極6から遠ざかる側に後退した形状を与えることができれば、電気的短絡を防止する効果を得ることができる。
【0054】
有機半導体層7としては、予め作製した単独の有機半導体層、あるいは支持基板上に有機半導体層を形成したものを用いる。そして、基板1上に形成されたソース、ドレイン電極4、5上に、有機半導体層7を貼り合せることにより上記構成の有機トランジスタを作製することができる。有機半導体層7は、台座2、3上に載置したとき、その下面が所定の平坦さを維持できる状態に作製することが必要である。但し、短チャネル化により応答性能を向上させる場合には、台座2、3の間の間隙の長さが極めて短くなるので、下面の平坦さを維持可能とすることは容易である。
【0055】
以上のような、本実施の形態の構成によれば、ギャップ構造の採用により、平坦に形成された有機半導体層7がソース、ドレイン電極4、5上に載置される。そのため、有機半導体層が段差部分に成膜された構造と比べて、ソース、ドレイン電極4、5の電極近傍での有機半導体層7の分子配向の乱れが極小化される。それにより、ソース、ドレイン電極4、5と有機半導体層7の間の接触抵抗が格段に低減され、短チャネル長であっても高速応答性能を実現可能な有機トランジスタが得られる。また、ギャップ構造を採用することに伴う、ソース、ドレイン電極4、5とゲート電極6間の電気的短絡のおそれは、ギャップ領域8に面する台座2、3の側面に、上側端縁に対して下側端縁がゲート電極6から遠ざかる側に後退した形状を与えることにより回避することができる。
【0056】
本実施の形態の構成を有する有機トランジスタの特性について、従来例の構成を有する有機トランジスタと比較した結果について、図2及び図3を参照して説明する。同図において、横軸はチャネル長(μm)、縦軸は実効移動度μeff(cm2/Vs)を示す。
【0057】
比較実験のために、本実施の形態における有機トランジスタについては、ルブレン結晶からなる有機半導体層を用いたp型の有機トランジスタを実施例1とし、PDIF−CN2(fluorocarbon-substituted dicyanoperylene-3,4:9,10-bis(dicarboximide))結晶からなる有機半導体層を用いたn型の有機トランジスタを実施例2として用意した。一方、比較例としては、図10に示すボトムコンタクト型構造を採用したトランジスタを、実施例1、2の場合と全く同様に作製した有機結晶を有機半導体層に用いてそれぞれ作製し、比較例1、2とした。
【0058】
実施例の有機トランジスタの構造としては、図1に示す構造を用い、比較例と同様にボトムコンタクト型の構造を採用した。基板1としてガラス基板を、台座2、3の材料として逆テーパ形状の形成が可能なフォトレジストを用い、ソース、ドレイン、ゲート電極4、5、6として、いずれも金電極を採用した。各部の寸法は、チャネル長Lを3μm〜200μm(実施例1)及び3μm〜50μm(実施例2)の範囲で変化させ、チャネル幅Wを450μm、台座2、3の高さを1μmで共通とした。
【0059】
比較例については、図10の構造において、基板31としてガラス基板を、ゲート絶縁体33としてシリコン酸化膜を、ソース、ドレイン、ゲート電極32、34、35としていずれも金電極を用いた。また、ゲート絶縁層33をフッ素系アモルファス樹脂とし、ゲート絶縁層33の膜厚を200nmとした以外は、実施例と同様の寸法を用い、チャネル長Lを3μm〜200μm(比較例1)及び3μm〜50μm(比較例2)の範囲で変化させ、チャネル幅Wを450μmとした。
【0060】
トランジスタ特性の測定は、大気による影響を避けるため、窒素置換したグローブボックス中で行った。ドレイン電圧VDは1Vとし、ゲート電圧VGを10V〜−10Vで変化させて、トランスコンダクタンスの値(ゲート電圧VGを変化させたときのドレイン電流IDの変化分△ID/△VG)を求めた。得られたトランスコンダクタンスの値、チャネル長L、チャネル幅W、及びドレイン電圧VD、及びチャネル静電容量の値ciの値を式(4)に入れることにより、接触抵抗の影響を含んだ実効移動度μeffの値を求めた。
【0061】
図2には、実施例1であるルブレンを用いたp型の有機トランジスタの特性が、曲線A1で示される。比較例1の有機トランジスタの特性は、曲線B1で示される。この図から明瞭に判るとおり、曲線A1で示される実施例1の有機トランジスタは、チャネル長を10μmまで短くしても、10cm2/Vs程度という高い実効移動度μeffを示す。これに対して、曲線B1で示される比較例1の場合は、チャネル長50μmでも実効移動度μeffは5cm2/Vs未満と低く、チャネル長が20μm以下に短くなると実効移動度μeffは2.5cm2/Vs未満まで低下する。ちなみに、チャネル長が200μmの場合は、実施例1の構造、及び比較例1の場合のいずれも、実効移動度μeff が12cm2/Vsと、同程度の値が得られた。
【0062】
図3には、実施例2であるPDIF−CN2を用いたn型の有機トランジスタの特性が、曲線A2で示される。比較例2の有機トランジスタの特性は、曲線B2で示される。この図に示される比較においても、曲線A2で示される実施例2の有機トランジスタは、チャネル長を10μmまで短くしても、5cm2/Vsを超える高い実効移動度μeffを示す。これに対して、曲線B2で示される比較例2の場合は、チャネル長50μmでも実効移動度μeffは1cm2/Vs未満と低く、チャネル長が20μm以下に短くなると実効移動度μeffはさらに低下する。
【0063】
以上のとおり、本発明の実施例の有機トランジスタでは、非常に短チャネルでも高い実効移動度が得られる。これにより、桁違いに高速動作が可能な有機トランジスタが実現可能になる。
【0064】
また、比較例3として、図1の構造において逆メサ型構造を採用せず、ギャップ領域8と台座2、3との境界が垂直である構造とし、それ以外の寸法を全て同一とした構造を作製した。この場合、ソース、ドレイン電極4、5とゲート電極6は電気的に短絡してしまった。
【0065】
次に、本実施の形態における有機トランジスタを製造する方法について、図4を参照して説明する。但し、図1に示した要素には同一の参照番号を付して、構造についての説明の繰り返しを省略する。
【0066】
先ず、図4(a)に示すように、絶縁性の基板1の上面に、一対の絶縁性の台座2、3を相互間に間隔を設けて形成する。台座2、3は、逆メサ型に形成する。次に図4(b)に示すように、一対の台座2、3の台状平面2a、3aの一方にソース電極4を、他方にドレイン電極5を形成し、同時に、台座2、3の間の基板1上にゲート電極6を形成する。これらの電極の形成は、例えば蒸着やスパッタリング法によって行う。
【0067】
次に、図4(c)に示すように、予め作製した有機半導体層7を、ソース電極4及びドレイン電極5の上面に接触させて載置し、これらを静電気力を利用して貼り合わせる。具体的には、有機半導体層7を保持した基板とソース電極4、及びドレイン電極5が形成された構造体とを接触させる、或いは接合させることにより行う。これにより、ゲート電極6と有機半導体層7の下面とがギャップ領域8を介在させて上下方向に対向し、ソース電極4とドレイン電極5が、ギャップ領域8を介在させて横方向に対向したギャップ構造を有する有機トランジスタが完成する。
【0068】
以上のように、本実施の形態の製造方法によれば、基板1上に台座2、3の凹凸構造を予め形成し、その凹凸構造上にトランジスタの電極構造を作製し、これらの電極構造と有機半導体とを貼り合わせる工程を用いることができる。
【0069】
台座2、3を逆メサ型に形成する方法としては、例えば、逆テーパ形状が形成できるフォトレジストを用いることができる。逆メサ型ではなく、ギャップ領域8に面する部分のうちの少なくとも一部分のみが逆テーパ状に形成されるように、例えば、別の材料で段差を作製した後に、上記フォトレジスト等により台座2、3を形成してもよい。或いは、フォトレジストの作製条件を調整することにより、台座の上部の部分のみを逆テーパ形状としてもよい。
【0070】
有機半導体層7とソース、ドレイン電極4、5を貼り合せる手段は静電気力に限られず、例えば、構造体と基板とを接合させることにより接触させる手法を用いることができる。
【0071】
上述のとおり、電極間の短絡を回避するための台座2、3の側面形状は、逆メサ構造あるいは逆テーパ形状に限られない。図5に、台座の側面形状の他の一例を示す。この例におけるギャップ領域8に面する台座9、10の側面は、逆階段状に形成されている。逆階段状とは、台座9、10の側面が、下端側のゲート電極6に対向する部分を含む一定高さの領域が当該領域よりも上端側に対して段差部9b、10bを形成して後退している形状を意味する。
【0072】
この逆階段状の形状により、ギャップ領域8に面する9、10の側面に、上側端縁に対して下側端縁がゲート電極6から遠ざかる側に後退した形状を与えられている。従って、ゲート電極6の厚みに対して、段差部9b、10bの基板1の上面からの高さの方が大きくなるように設定すれば、ソース、ドレイン電極4、5とゲート電極6間の短絡を回避することが容易である。
【0073】
逆階段状の台座9、10を形成する方法としては、例えば、現像速度の異なる2層のフォトレジストを組み合わせる方法を用いることができる。
【0074】
本実施の形態において、台座2、3、9、10の寸法は、次のような条件を考慮して設定される。チャネル長Lは0.1〜20μmが好ましく、さらに好ましくは、L=1〜10μmとする。この場合、台座高さdは、d≦L/2μmとすることが好ましい。この限定が好ましい理由は、次のとおりである。すなわち、図2、図3に示した実験等の結果、チャネル長Lを20μm以下とした場合に、本発明の有機トランジスタの構成を採用することにより、従来例の構成の場合と比べて実効移動度が顕著に向上し、実用上十分に高い実効移動度が得られることが判った。一方、チャネル長Lが小さい方が動作速度を速くできるが、量産可能なフォトリソグラフィで加工する場合は、チャネル長L=1μm程度が微細加工の限界となる。台座高さdについては、いわゆるグラジュアルチャネル近似を成り立たせるために、d≦L/2μm以下程度とすることが好ましい。
【0075】
台座2、3、9、10を形成する材料としては、絶縁体であって上述のように、ギャップ領域8に面する台座の側面が、台状平面側に対して底面側がゲート電極から遠ざかる側に後退した状態を有する形状に台座を形成できるものであれば、任意のものを使用することができる。例えば、ガラスをエッチングしたもの、現像速度の異なる2層のフォトレジストを組み合わせたもの、大きさの異なる絶縁体2層を積層したもの、あるいは、Si基板上のSiO2膜を逆テーパ形状にエッチングしたもの等を用いることができる。
【0076】
1層で逆テーパ形状の台座を形成可能な膜を用いた場合は、作製プロセスが簡単にできるという利点がある。用いる材料として具体的には、フォトレジストの場合、例えば東京応化工業のTLOR−POO3、AZ社のAZ5214E、AZ−CTP、日本化薬(株)社のSU8シリーズ、KMPRシリーズ等(全て登録商標)、逆テーパ形状の形成が可能なものを用いることができる。或いは、逆テーパ形状をSiや石英等の型を用いて形成し、そこにPDMS樹脂(polydimethylsiloxane)等の剛性の低い樹脂を流しこみ、離型させて本発明の台座の形状を形成することができる。
【0077】
また2層の膜を組み合わせて台座を形成する場合は、上述のような台座の形状を形成しやすいため、作製条件のマージンが広がり、確実に所望の形状を形成できる利点がある。
台座を2層で作製する例としては、日本化薬(株)社のPMGI、LORなど(全て登録商標)のアンダーカットの形成が可能なフォトレジストを用いることができる。
【0078】
基板1の材質としては、例えば、ガラス基板、各種のプラスチック基板等、少なくともその表面が絶縁体である基板を用いることができる。
【0079】
有機半導体層7としては、例えば、ルブレン、DNTT(dinaphtho[2,3-b:2',3'-f]thieno [3,2-b]thiophene)、アルキル−DNTT、TIPSペンタセン(6,13-Bis(triisopropylsilylethynyl)pentacene)、PDIF−CN2等の低分子材料、pBTTT(poly[2,5-bis(3-alkylthiophen-2-yl)thieno(3,2-b)thiophene])、pDA2T(poly(dialkylthieno[3,2-b]thiophene-co-bithiophene))、P3HT(poly(3-hexylthiophene))、PQT(poly[5,5′-bis(3-alkyl-2-thienyl)-2,2′-bithiophene])等の高分子材料、グラフェン、多層グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)等の各種有機材料等、任意の有機半導体材料を用いることができる。
【0080】
有機半導体層7の作製には、単結晶を気相中で作製する方法、蒸着等の気相成長手法や、スピンコート、インクジェット、印刷、各種のキャスト手法等の塗布手法を用いることができる。
【0081】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2における有機トランジスタの構造を示す断面図である。本実施の形態は、実施の形態1における有機半導体層7に代えて、支持基板11上に有機半導体層12が形成された半導体層部材13を用いることが特徴である。従って、実施の形態1の要素と同一の要素には同一の参照番号を付して、説明の繰り返しを簡略化する。
【0082】
この有機トランジスタは、実施の形態1の構成と同様、絶縁性の基板1の上に形成された一対の台座2、3を有する。台座2、3の断面形状は逆メサ構造を有する。台状平面2a、3a上にはそれぞれ、ソース電極4、ドレイン電極5が設けら、台座2、3間の間隙中の基板1上には、ゲート電極6が設けられている。ソース電極4及びドレイン電極5の上面に有機半導体層12を接触させて、半導体層部材13が載置されている。
【0083】
これにより、基板1の上面、台座2、3の側面、及び有機半導体層12の下面により囲まれた空間が形成され、基板1上に形成されたゲート電極6が、ギャップ領域8を介して有機半導体層12と対向した構造が形成されている。
【0084】
台座2、3の断面形状は、実施の形態1と同様、少なくともギャップ領域8において、側面が底面側から台状平面2a、3a側に向かって、逆テーパを形成していればよい。あるいは、図2に示したように逆階段上とすることもできる。
【0085】
本実施の形態の構成による作用・効果は、実施の形態1の場合と同様である。
【0086】
本実施の形態における有機トランジスタを製造する方法について、図7を参照して説明する。但し、図6に示した要素には同一の参照番号を付して、構造についての説明の繰り返しを省略する。
【0087】
先ず、図7(a)に示すように、絶縁性の基板1の上面に、一対の絶縁性の台座2、3を相互間に間隙を設けて形成し、台状平面2a、3aの一方にソース電極4を、他方にドレイン電極5を形成するとともに、間隙中の基板1上にゲート電極6を形成する。ここまでの工程は、実施の形態1における図4(a)、(b)に示した工程と同様である。
【0088】
また、図7(b)に示すように、支持基板11上に有機半導体層12を形成することにより、半導体層部材13を作製する。有機半導体層12を形成するには、例えばスピンコート、各種キャスト手法、インクジェット等の塗布方法、及び、蒸着等の気相成長方法を用いることができる。
【0089】
次に、図7(c)に示すように、半導体層部材13を、ソース電極4及びドレイン電極5の上面に有機半導体層12を接触させて載置し、これらを静電気力で貼り合せる。これにより、ゲート電極6と有機半導体層12の下面とがギャップ領域8を介在させて上下方向に対向し、ソース電極4とドレイン電極5が、ギャップ領域8を介在させて横方向に対向したギャップ構造を有する有機トランジスタが完成する。
【0090】
(実施の形態3)
図8A、図8Bは、実施の形態3における有機トランジスタの構造を示す断面図である。本実施の形態は、実施の形態1のようなギャップ領域8の全域が気体層からなる構成に代えて、ギャップ領域の少なくとも一部が絶縁性固体(或いは封止材)で形成された構成を有することを特徴とする。なお、実施の形態1の要素と同一の要素には同一の参照番号を付して、説明の繰り返しを簡略化する。
【0091】
図8Aに示す有機トランジスタは、図1に示した構成におけるギャップ領域8(気体層)に対応する全域に、絶縁性固体14が充填された構成を有する。本実施の形態の特徴は、さらに、ギャップ領域の絶縁性固体14の比誘電率が1より大きいことである。それにより、空気層の場合と比べて有機トランジスタの出力電流を増大させることができる。ギャップ領域に充填する絶縁性固体14としては、例えば、パリレン、ポリスチレン、アクリル樹脂等を用いることができる。
【0092】
一方、図8Bに示す有機トランジスタのように、ギャップ領域の一部が絶縁性固体14により構成され、気体部15が残された構成であってもよい。この場合、少なくとも有機半導体層7に接する部分が絶縁性固体14からなることが好ましい。
【0093】
ギャップ領域の絶縁性固体14の部分を形成する方法の一例としては、まず、図4に示した工程と同様にして、絶縁性の基板1の上に、一対の台座2、3、ソース電極4、ドレイン電極5、ゲート電極6を形成し、ソース電極4及びドレイン電極5の上面に有機半導体層7を配置して、ギャップ領域に相当する空間が形成された構造体を作製する。
【0094】
次に、その構造体の全体を封止するようにパリレン膜を成膜する。それにより、ギャップ領域である空間にパリレンが充填され、絶縁性固体14の層が形成される。その際、パリレン膜の成膜量を適宜設定することにより、図8Aに示すようにギャップ領域の全域に絶縁性固体14の層を形成するか、図8Bに示すように気体部15が残された状態を形成するかを調整することができる。
【0095】
(実施の形態4)
図9A、図9Bは、実施の形態4における有機トランジスタの構造を示す断面図である。本実施の形態は、実施の形態1のようなギャップ領域8の全域が気体層からなる構成に代えて、ギャップ領域の少なくとも一部がイオン液体で形成された構成を有することを特徴とする。なお、実施の形態1の要素と同一の要素には同一の参照番号を付して、説明の繰り返しを簡略化する。
【0096】
図9Aに示す有機トランジスタは、図1に示した構成におけるギャップ領域8(気体層)に対応する全域が、注入されたイオン液体16からなる構成を有する。
【0097】
一方、図9Bに示す有機トランジスタは、図1に示した構成におけるギャップ領域8中の、少なくとも有機半導体層7に接する部分が、実施の形態3で用いた絶縁性固体14からなる構成を有する。つまり、ギャップ領域中に気体部分が残るように、絶縁性固体14の層が形成され、気体部分にイオン液体16aが注入されている。
【0098】
図9Aの構成は、イオン液体16をゲート絶縁層として用いる場合の適用例である。図9Bの構成は、絶縁性固体14を第1のゲート絶縁層とし、イオン液体16aを第2のゲート絶縁層として用いる場合の適用例である。ギャップ領域にイオン液体を用いることにより、界面で強い電界強度が得られる。そのため、ゲート電極に印加するスイッチング電圧(ゲート電極とソース電極及びドレイン電極の間の電圧)が低くても、充分に大きな出力電流を得る事ができる。したがって、電界効果トランジスタの消費電力を低減することができる。
【0099】
イオン液体は、粘度が低いため、ゲル状電解質等の他の電解質に比べて、高い周波数応答性、高いイオン伝導度を実現することができる。このため、本実施の形態の構成によりイオン液体を適用することは、より低電圧で高い周波数応答性を得ることが可能になる点で効果的である。
【0100】
イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、アンモニウム系カチオンなどのカチオンと、bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(TFSI)、bis(fluorosulfonyl)imide(FSI)、bis(perfluoroethylsulfonyl)imide(BETI)、tetrafluoroborate(BF4)、hexafluorophosphate(PF6)などのアニオンから構成される材料を用いることができる。
【0101】
特にイオン液体電解質として、EMI(CF3SO22Nを用いた場合、高い応答性能が得られる。例えば、実施の形態1に関して説明した実施例1の設定において、チャネル長L=5μmの構造に、イオン液体としてEMI(CF3SO22Nを注入した有機トランジスタについて、ゲート電圧=0.2V、ドレイン電圧=0.2Vで特性を測定したところ、実効移動度1.0cm2/Vsという結果が得られた。
【0102】
以上のような本発明の各実施の形態における有機トランジスタによれば、有機論理素子の動作速度の高速化が可能である。また、プラスチック基板上へも形成できるため、プラスチック基板上で動作可能な論理素子の高速化を実現できる。応用例としては、高速の有機論理素子、例えばディスプレイを駆動するためのアクティブマトリクス素子、アクティブマトリクスを駆動するためのドライバ回路、有機pMOS、有機cMOS回路、インバータ、AD/DAコンバータ、フリップフロップ回路等の論理素子、センサデバイスの信号処理回路、IDタグ用の信号処理回路などが挙げられる。或いは有機トランジスタ構造を用いたセンシングデバイスへも適用できる。中でも、ドライバ回路や論理回路は、高速で動作することが強く求められるため、本発明による効果を得ることが、実用上重要な利点を与えることになる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の有機トランジスタは、チャネル長の短縮化により高速応答性能を十分に向上させることが可能であり、ディスプレイ、センサ、ICカード等に用いる有機トランジスタとして有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 基板
2、3、9、10 台座
2a、3a、9a、10a 台状平面
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 ゲート電極
7、12 有機半導体層
8 ギャップ領域
9b、10b 段差部
11 支持基板
13 半導体部材
14 絶縁性固体
15 気体部
16、16a イオン液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板と、
前記基板上に相互間に間隔を設けて配置され、各々台状平面を形成する一対の絶縁性の台座と、
一方の前記台座が形成する前記台状平面上に設けられたソース電極と、
他方の前記台座が形成する前記台状平面上に設けられたドレイン電極と、
前記一対の台座の間の前記基板上に設けられたゲート電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上面に接触させて配置された有機半導体層とを備え、
前記ゲート電極と前記有機半導体層の下面とはギャップ領域を介在させて上下方向に対向し、
前記ギャップ領域に面する前記台座の側面は、上側端縁に対して下側端縁が前記ゲート電極から遠ざかる側に後退した形状を有することを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項2】
前記ギャップ領域に面する前記台座の側面は、前記下側端縁から前記上側端縁に向かって逆テーパを形成している請求項1に記載の有機トランジスタ。
【請求項3】
前記ソース電極と前記ドレイン電極間のチャネル方向を含むチャネル方向断面における前記台座の形状は、逆メサ型である請求項2に記載の有機トランジスタ。
【請求項4】
前記ギャップ領域に面する前記台座の側面は、前記ゲート電極に対向する部分を含む前記下側端縁の側の一定高さの領域が、当該領域よりも前記上側端縁の側に対して段差を形成して後退し、逆階段状となっている請求項1に記載の有機トランジスタ。
【請求項5】
支持基板上に前記有機半導体層が形成された半導体層部材を備え、
前記有機半導体層側の面を前記ソース電極及び前記ドレイン電極に対向させて、前記半導体層部材が前記ソース電極及び前記ドレイン電極上に載置されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項6】
前記ギャップ領域中の少なくとも一部が絶縁性固体からなり、前記絶縁性固体の誘電率が1よりも大きい請求項1〜5のいずれか1項に記載に記載の有機トランジスタ。
【請求項7】
前記ギャップ領域の全域がイオン液体からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載に記載の有機トランジスタ。
【請求項8】
前記ギャップ領域中の、少なくとも前記有機半導体層に接する部分が前記絶縁性固体からなり、前記絶縁性固体以外の部分がイオン液体からなる請求項6に記載に記載の有機トランジスタ。
【請求項9】
前記ソース電極と前記ドレイン電極間の距離であるチャネル長Lが20μm以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載に記載の有機トランジスタ。
【請求項10】
前記台座の高さdが、前記チャネル長Lに対して、d≦L/2μmの関係を満足する請求項9に記載に記載の有機トランジスタ。
【請求項11】
絶縁性の基板上に、各々台状平面を形成する一対の絶縁性の台座を相互間に間隔を設けて形成し、
一方の前記台座が形成する前記台状平面にソース電極を形成し、他方の前記台座が形成する前記台状平面にドレイン電極を形成するとともに、前記一対の台座の間の前記基板上にゲート電極を形成し、
予め作製された有機半導体層を、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上面に接触させて載置して、前記ゲート電極と前記有機半導体層の下面の間にギャップ領域を形成し、
前記台座を形成する工程では、前記ギャップ領域に面する前記台座の側面を、上側端縁に対して下側端縁が前記ゲート電極から遠ざかる側に後退した形状とすることを特徴とする有機トランジスタの製造方法。
【請求項12】
支持基板上に前記有機半導体層を形成した半導体層部材を作製し、
前記有機半導体層側の面を前記ソース電極及び前記ドレイン電極に対向させて、前記半導体層部材を前記ソース電極及び前記ドレイン電極上に載置する請求項7に記載の有機トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−38127(P2013−38127A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171136(P2011−171136)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、開発項目「ナノテク・先端部材実用化研究開発/革新的な高性能有機トランジスタを用いた薄型ディスプレイ用マトリックスの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(512109161)地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 (13)
【Fターム(参考)】