説明

有機無機複合体の製造方法

【課題】膜中の非架橋部位が低減されて十分に低い誘電率を呈する膜を形成できる有機無機複合体、その有機無機複合体からなる膜、及びその膜を用いた半導体装置の各製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による有機無機複合体の製造方法は、第一調製工程で調製した特定の架橋性化合物を含む前駆体Aと、第二調製工程で調整した酸触媒を含む前駆体Bとを混合工程で混合して、特定の架橋性化合物を加水分解させた後、複合体形成工程において、その加水分解物にアルカリ触媒を加え、その加水分解物を縮合させて有機無機複合体を形成する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合体の製造方法、有機無機複合体膜の形成方法、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ULSI(超大規模集積回路)等の半導体装置においては、配線多層化による微細化及び高集積化がますます進んでいる。この配線多層化におけるもっとも大きな課題は、層間絶縁膜や配線間絶縁膜の機能の向上である。具体的に、これらの絶縁膜には、高絶縁性、配線間容量の低減、微細な配線スペースへの確実な成膜、表面の平坦化といった種々の高機能が要求され、なかでも更なる低誘電率化が熱望されている。
【0003】
また、半導体装置の表面を被覆保護する目的で形成される保護膜(パッシべーション膜)についても、耐湿性等の機能とともに、その保護膜の上層にボンディングパッドが形成される場合、或いは、再配列配線を形成するような場合には、保護膜と下層配線との間の寄生容量が駆動速度低下の主たる要因の一つとなるため、それを防止するためにも一層の低誘電率化が求められている。
【0004】
現在、層間絶縁膜や配線間絶縁膜、保護膜等に主として使用されている絶縁材料は、酸化シリコン(SiO2)が主流であり、その比誘電率kはおよそ4.0であるが、更なる低誘電率化を達成すべく、フッ素ドープ酸化シリコン(k:約3.7)、有機高分子材料(k:2.0〜2.7)等のいわゆる‘Low−k’材料と呼ばれる新材料が種々検討されている。しかしながら、これらの材料は、半導体装置の近時の高速化・高集積化への要求に対しては、未だ低誘電率化が不十分であった。
【0005】
このような状況下、ナノポーラス膜であって極めて低い誘電率を達成できるガス中蒸発法で成膜されるシリコン超微粒子酸化膜(SiOx超微粒子膜)が得られている。しかしながら、このナノポーラス膜は、吸湿性が高く、経時的な誘電率の増加が著しく、また脆性のために取り扱いが困難な上、成膜工程も工数が多く煩雑といった数々の問題を有しており、実用に供し得る程度のものではなかった。
【0006】
一方、特許文献1には、下記式(2)及び式(3);
1a(W2O)3-aSi−(W5c−Si(OW33-b4b …(2)
6dSi(OW74-d …(3)
で表される二種の化合物を混合し、アルカリ触媒存在下で加水分解及び縮合させて得られる加水分解縮合物を含む膜形成用組成物が記載されている。
【0007】
なお、上記式(2)及び式(3)は、それぞれ特許文献1における式(1)及び式(2)に対応し、本明細書における記載との混同を防止するため、それらの式における基Rを‘W’で表している。また、上記式(2)及び式(3)におけるW1、W2、W3及びW4は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1価の有機基を示し、a及びbは、同一でも異なっていてもよく、0 〜 2の整数を示し、W5は酸素原子、フェニレン基、−(CH2lm(CH2l−、または−(CH2n−で表される基を示し、l、m、nは、それぞれ1〜 4、1〜4、1〜9の整数を、cは0又は1を示し、W6は水素原子、フッ素原子又は1価の有機基、W7は1価の有機基、dは1〜2の整数を示す。
【特許文献1】特開2005−82789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1記載の膜形成用組成物は、低誘電率化とCMP耐性を向上させるべく提案されたものではあるが、本発明者が詳細な検討を行ったところ、製造工程におけるアルカリ触媒下での加水分解速度が遅いため反応に長時間を要し、その反応時間を短縮するには反応温度を過剰に高める必要があることが判明した。そうすると、加水分解と同様に縮合反応も促進されてしまい、その結果、未反応のシラノールが残留した状態で含まれる膜形成用組成物が得られる。そして、その膜形成用組成物をそのまま焼成等によって架橋させると、未反応のシラノール部分が架橋に寄与しないので、得られる膜の誘電率が十分に低くならないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、膜中の非架橋部位が低減されて十分に低い誘電率を呈する膜を形成できる有機無機複合体、その有機無機複合体からなる膜、及びその膜を用いた半導体装置の各製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による有機無機複合体の製造方法は、(1)複数の架橋性基、及びそれら複数の架橋性基のそれぞれに共有結合した炭素原子を有する架橋性化合物を含む前駆体Aを調製する第一調製工程と、(2)酸触媒を含む前駆体Bを調製する第二調製工程と、(3)前駆体Aと前駆体Bとを混合して加水分解物を得る混合工程と、(4)加水分解物にアルカリ触媒を加え、その加水分解物を縮合させて有機無機複合体を形成する複合体形成工程とを備える。
【0011】
かかる構成を有する有機無機複合体の製造方法においては、第一調製工程で調製した前駆体Aと、第二調製工程で調製した前駆体Bとを混合工程で混合することにより、架橋性化合物を加水分解速度の速い酸性下で迅速にかつ十分に反応させた後、複合体形成工程を実施してアルカリ触媒下で比較的ゆっくりと縮合反応を進行させる。よって、架橋性化合物を確実に加水分解・縮合させることができるので、架橋性化合物に含まれる例えばシラノール基等の架橋に関与する構造がそのまま残留してしまうことを抑止できる。その結果、未反応のまま残留した部位が格段に低減された有機無機複合体を得ることができ、その複合体を架橋させて得られる有機無機複合体膜の誘電率を十分に低減することができる。
【0012】
また、有機無機複合体膜の架橋密度が十分に高められることにより、膜の脆性と柔軟性(可撓性)が改善され、これらにより、温度変化や機械的衝撃に対する耐性が向上されるとともに、環境条件の変化に起因する寸法形状及び強度の変化を防止できる。さらに、柔軟性に富み機械的強度も高められるので、例えば1psiといった高圧下でのCMP耐性も格段に向上されるとともに、有機無機複合体膜自体のみならず、その上層及び下層の膜へのストレスを緩和する緩衝膜としても機能し得る。これらのことから、本発明によって形成される有機無機複合体膜が設けられた半導体装置等の電子部品や電子デバイスの信頼性を高めることが可能となる。
【0013】
より具体的には、架橋性化合物として、下記式(1);
【化2】

で表される化合物を用いることが好ましい。
【0014】
式(1)中、Mは金属又は13〜15族(3B,4B,5B族)の元素の原子を示し、より好ましくはケイ素原子を示す。また、Xは架橋に関与する−O−結合又は−OH基を示し、より好ましくは、−Cl,−OCH3,−OC25,−OC65,−OH又は−OCOCH3で表される基を示す。さらに、R1は炭素数1〜50、より好ましくは炭素数8〜20の炭素原子含有基を示し、更に好ましくはポリメチレン基であり、一層好ましくは直鎖状ポリメチレン基であり、特に好ましくはオクタメチレン基(―(CH28―)を示す。またさらに、R2はメチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基を示し、これらのなかでも、より好ましくはメチル基を示し、式(1)中の二つのR2は同一でも異なっていてもよい。さらにまた、n1,n2は0〜2の整数を示す。
【0015】
かかる分子構造を有する架橋性化合物を用いることにより、例えば比誘電率が2.2以下の値を有する有機無機複合体からなる絶縁膜を簡便に得ることが可能となるほか、上述した種々の利点を有する膜を実現できる。
【0016】
また、本発明による有機複合体膜の形成方法は、本発明の有機無機複合体の製造方法によって得られる有機無機複合体を、基体上に成膜し、焼成することにより、有機無機複合体膜を形成する方法である。
【0017】
さらに、本発明による半導体装置の製造方法は、基体として、半導体基板、又は半導体基板上に素子の少なくとも一部が形成されたものを用い、本発明の有機無機複合体膜の形成方法により、その基体上に有機無機複合体膜からなる層間絶縁膜又は保護膜(パッシべーション膜)を形成する方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機無機複合体、それらから得られる膜、及び半導体装置の各製造方法によれば、前駆体Aと前駆体Bとを混合工程で混合することにより、架橋性化合物を加水分解速度の速い酸性下で迅速にかつ十分に反応させた後、複合体形成工程においてアルカリ触媒下で比較的ゆっくりと縮合反応を進行させる。よって、有機無機複合体中の未反応部位が確実に低減され、有機無機複合体膜を十分に架橋させることができ、これにより、誘電率を十分に低減できるとともに、種々の膜物性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。また、同一要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。さらに、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0020】
[有機無機複合体の製造方法]
本発明の有機無機複合体の製造方法は、(1)複数の架橋性基、及びそれら複数の架橋性基のそれぞれに共有結合した炭素原子を有する架橋性化合物を含む前駆体Aを調製する第一調製工程と、(2)酸触媒を含む前駆体Bを調製する第二調製工程と、(3)前駆体Aと前駆体Bとを混合して加水分解物を得る混合工程と、(4)加水分解物にアルカリ触媒を加え、その加水分解物を縮合させて有機無機複合体を形成する複合体形成工程とを備える。
【0021】
(第一調製工程)
第一調製工程では、架橋性化合物を溶媒に溶解又は分散させて前駆体A(溶液)を調製する。
【0022】
前駆体Aの主成分である架橋性化合物は、複数の架橋性基、及びそれら複数の架橋性基のそれぞれに共有結合した炭素原子を有するものである。架橋性基としては、酸素原子と結合して架橋構造を構成し得る元素(金属/非金属元素)と酸素原子との結合を有する基、例えば、金属−酸素結合や13〜15族の元素の原子と酸素原子との結合を有する基が挙げられ、具体的には、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、チタン原子、又はジルコニウム原子等と酸素原子との結合を有する基を例示できる。
【0023】
また、前駆体Aに含まれる架橋性化合物は、一種に制限されず、複数種の化合物を混合してもよい。この場合、ケイ素原子と酸素原子との結合を有する基を含む架橋性化合物を必須成分として用い、他の金属原子又は非金属原子(リン原子、ホウ素原子等)と酸素原子との結合を含む架橋性化合物を併用しても好ましい。このとき、前駆体Aに含まれる架橋性化合物の全体における酸素原子に結合した元素の原子総量に対するケイ素原子の原子比率が、50モル%以上であることが望ましい。
【0024】
ケイ素原子と酸素原子との結合を有する基を含む架橋性化合物としては、架橋性シリル基すなわち加水分解性シリル基とこれに共有結合した炭素原子を有するものが好ましく、加水分解性シリル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基等のアルコキシ基がケイ素原子に直接結合したアルコキシシリル基、塩素原子等のハロゲン原子がケイ素原子に結合したハロゲン化シリル基、アセトキシ基等のカルボキシシリル基、等を例示できる。
【0025】
このような架橋性化合物は、有機無機複合体の骨格を形成するものであり、上記の金属又は非金属原子を含む架橋性化合物を用いることにより、有機無機複合体及びそれから得られる有機無機複合体膜の耐強酸性が高められ、また、高温高湿度の環境下においても安定した膜を得ることができる。これらのなかでも、ケイ素原子は半導体装置を構成する基本元素であり、半導体装置の他の素子構造に与える悪影響がないため、極めて有効である。
【0026】
より具体的には、架橋性化合物が下記式(1);
【化3】

で表される化合物を用いることが好ましい。なお、式(1)中、Mは、上述したように金属又は13〜15族の元素の原子を示し、特に好ましくはケイ素原子である。
【0027】
また、Xは架橋に関与する−O−結合又は−OH基を示し、好ましくは、−Cl,−OCH3,−OC25,−OC65,−OH又は−OCOCH3で表される基が挙げられる。
【0028】
さらに、R1は炭素数1〜50、より好ましくは炭素数8〜20の炭素原子含有基を示す。このR1の炭素数が50を超えると、複合体形成工程での縮合反応が不十分となることがあり、こうなると、有機無機複合体から得られる膜の耐熱性及び機械的特性を十分に高められないことがある。
【0029】
また、R1が何らかのヘテロ原子を有していた場合には、酸或いは熱によって結合が切断されるおそれがあるものの、炭化水素化合物はこのような酸或いは熱による悪影響が少なく極めて安定であるので、この点において、R1が炭素原子含有基であることが望ましい。さらに、R1が炭素原子含有基であることにより、得られる有機無機複合体で形成される膜の柔軟性(可撓性)等が向上される。逆に言えば、R1が炭素原子を含まない場合には、得られる有機無機複合体及びそれから形成される膜の物性が比較的不安定となってしまう。
【0030】
ここで、炭素原子含有基としては、好ましくはアルキレン基、含芳香環含有基等の炭化水素基が挙げられ、より好ましくは−(CH2n−で表されるポリメチレン基を例示できる。なお、nは2以上の整数を示し、上述の如く好ましくは8〜20の整数である。
【0031】
また、R1に分岐鎖が含まれると、場合によっては、有機無機複合体からなる膜における架橋間を結ぶ結合が切断される可能性がある。これに対し、R1が直鎖状のポリメチレン鎖であると、種々の外的因子に対して安定な膜が形成され、しかも、炭化水素鎖の疎水性によって膜の耐湿性も向上する利点がある。さらに、安定性のみならず、直鎖状ポリメチレン鎖が、その結合特性上、屈曲可能な構造であるため、形成される膜に適度の柔軟性を付与することがより一層可能となり、加えて、膜の緻密性等の物性の調整・制御も容易である。例えば、膜の緻密性は、ポリメチレン鎖の分子長を種々変化させることによって容易に調整することができる。
【0032】
また、ポリメチレン鎖の両末端に、上述したような金属/非金属原子と酸素原子との架橋性結合として例えばケイ素原子−酸素原子の結合を導入するための原料としては、種々のビス(加水分解性シリル)ポリメチレンが知られており、一例を挙げると、ポリメチレン基がオクタメチレンのものが市販されている(ゲレスト(Gelest)社製)。また、この他にも、両末端が不飽和結合とされている1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、1,13−テトラデカジエン等にヒドロシリル化反応を行うことにより、R1がオクタメチレン、デカメチレン、テトラデカメチレンである原料を合成することができ、炭素数が20までのポリメチレン鎖であれば、いずれの合成も簡便である。
【0033】
さらにまた、R1がポリメチレン基の場合でも、その分子長としては、上述したように炭素数が8〜20であることが望ましく、このようにすれば、得られる膜の耐熱性、柔軟性、及び耐水性のいずれをも十分に高めることができ、特に、炭素数が8のものが一層好ましい。
【0034】
また、式(1)において、R2はメチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基を示し、これらのなかでも、特に好ましくはメチル基を示す。
【0035】
すなわち、本発明で用いる架橋性化合物としては、式(1)で表される化合物のなかでも、上記の如くMがケイ素原子であり、R1がオクタメチレン基であり、かつ、R2がメチル基である下記式(4);
【化4】

で表されるものが、上述した機能上の利点に加え、原料の入手が更に容易であって工業上利用性の観点からも特に好適である。
【0036】
つまり、式(4)で表されるようにポリメチレンの両末端にSi−O構造を有する構造体は、絶縁膜(体)の基本架橋構造体として極めて安定かつ有用である。
【0037】
なお、式(1)及び式(4)における分子中の二つのR2は同一でも異なっていてもよく、また、R2が異なる架橋性化合物を混合して前駆体Aに用いてもよい。例えば、n1,n2は0〜2の整数を示すが、前駆体Aの成分として、例えば、n1=0のものと、n2=1のものとを混合して用いることができる。このようにしても、有機無機複合体からなる膜における架橋密度等の調整・制御が可能となり、その結果、形成される膜の空隙構造、柔軟性(可撓性)等の膜物性を調整することができる。
【0038】
また、前駆体Aに含まれる溶媒としては、上記の架橋性化合物を溶解又は分散させることが可能な溶媒であれば特に制限されず、通常、有機溶媒が用いられ、なかでも沸点が100〜130℃であるものが好ましく、望ましくは1−ブタノール、iso−ブタノール等を例示できる。
【0039】
この有機溶媒の沸点が100℃を下回ると、得られた有機無機複合体を基体上に例えばスピンコート法によって塗布する際に、放射状の‘スジ’が発生し易くなってしまい、塗布膜の平坦性が損なわれるおそれがある。一方、有機溶媒の沸点が130℃を超えると、式(1)で表される架橋性化合物との相溶性が低下する傾向にあり、こうなると膜厚にもよるが十分に均質な塗布膜が得られないことがある。
【0040】
(第二調製工程)
第二調製工程では、酸触媒に加え、必要に応じて水、界面活性剤、有機添加剤、有機溶媒等を混合して前駆体B(溶液)を調製する。ここで、水を混合する場合、その水の量が、加水分解する基のモル数に対して、好ましくは0.5〜10倍モル量、より好ましくは1〜2倍モル量となるように添加することが望ましい。この水の量が、0.5倍モル量未満、場合によっては1モル量未満であると、架橋性化合物に含まれる加水分解されるべき基の全量が一度に加水分解され難くなる傾向にある。一方、その水の量が、10倍モル量、場合によっては2倍モル量を超えると、加水分解前の前駆体Aの溶液との相溶性が不都合な程度に悪化してしまう傾向にある。
【0041】
酸触媒としては、種々の無機酸、又は有機酸を用いることができ、無機酸としては、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等を例示でき、有機酸としては、ギ酸、酢酸等を例示できる。特に、半導体向けの絶縁膜を形成するための有機無機複合体を調製する場合には、金属劣化を引き起こすと言われているハロゲン元素、ドーピングに用いられるリンやヒ素を含まないこと、及び、加水分解のみを行い脱水縮重合を抑止するために溶液のpHを2〜3に調整するという観点から、硝酸、又は酢酸を用いることが好ましく、両者のうち酢酸を用いることが更に望ましい。
【0042】
また、有機添加剤又は有機溶媒としては、前駆体Aに含まれる架橋性化合物との相溶性に優れ、かつ、分子量がかかる架橋性化合物と同程度のものが好ましく、望ましいものとして、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350等が挙げられる。
【0043】
ここで、前駆体Aと前駆体Bとの混合液、すなわち、次に説明する混合工程での混合液の組成の具体例としては、例えば、架橋性化合物としての1,8−ビス(ジエトキシメトキシシリル)オクタン7gと1,8−ビス(トリエトキシメトキシシリル)オクタン3gとの混合物、1−ブタノール90g、0.1N(規定:以下同様)硝酸2.1g、及び、非イオン性界面活性剤TWEEN0.5gに加え、絶縁膜形成時の焼成によってミクロポア(孔直径が1〜5nm程度の空孔)を生成せしめるべく、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350 2gを添加した組成が挙げられる。
【0044】
(混合工程)
混合工程では、第一調製工程で得た前駆体Aと第二調製工程で得た前駆体Bとを、所定の温度に保持しながら、所定時間攪拌混合する。具体的には、例えば、混合物を室温、或いは氷冷等によって低温に保った状態で、一般的に使用される攪拌機を用いて一定速度で数十分〜数時間、好ましくは氷令しながら5分〜4時間程度、特に好ましくは10分〜1時間程度攪拌する。
【0045】
これにより、前駆体Bに酸触媒が含まれているので、反応雰囲気が酸性に保持され、前駆体Aに含まれる架橋性化合物の加水分解反応が促進される。よって、架橋性化合物の加水分解反応を迅速に完了することができる。また、加水分解反応が迅速に進行するので、縮合反応が抑制され、加水分解反応を経ない未反応の部位が残ってしまうことが防止される。
【0046】
(複合体形成工程)
複合体形成工程では、混合工程で得られた結果物、すなわち架橋性化合物の加水分解物を含む混合物にアルカリ触媒を添加し、さらに所定の温度、好ましくは室温(23℃程度)に保持しながら、所定時間攪拌混合する。具体的には、例えば、混合物を室温に保った状態で、一般的に使用されるマグネティックスターラー等の攪拌機を用いて一定速度で好ましくは1時間〜48時間程度、より好ましくは3時間〜10時間程度攪拌する。これにより、アルカリ触媒の存在下で比較的ゆっくりと、混合工程で得られた架橋性化合物の加水分解物の縮合反応が進行し、絶縁膜や保護膜の材料として有用な有機無機複合体の組成物溶液を得る。
【0047】
このとき、アルカリ触媒の添加量としては、架橋性化合物の加水分解物に含まれる架橋性基が縮合反応を生じるのに必要な量を添加する。特に、混合液のpHを13以上に調整する観点から、1〜3Nのアルカリ触媒を用いることが好ましく、また、アルカリ種としては、同様の観点から強アルカリ性を示すことに加え、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含まないという点で、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド((CH34NOH)が特に好ましい。
【0048】
[有機無機複合体膜の形成方法]
ここでは、本発明の有機無機複合体膜の形成方法の例として、本発明の有機無機複合体の製造方法で得られる有機無機複合体を用いた本発明の半導体装置の製造方法について説明する。
【0049】
図1は、本発明の半導体装置の製造方法によって得られる半導体装置の一実施形態の構成を示す概略断面図であり、図2(A)〜(E)は、図1に示す半導体装置を製造している状態を示す工程図である。
【0050】
半導体装置100は、シリコン基板1(基体)上に、素子分離のために形成された絶縁膜2と、その絶縁膜2によって画成された素子領域に設けられたMOSFETとを備えるものである。MOSFETは、主として、素子領域のシリコン基板表層部に形成されたゲート酸化膜3を介して形成されたゲート電極4と、低濃度不純物拡散領域5a,5b、及び高濃度不純物拡散領域6a,6bを有するLDD(Lightly Doped Drain)構造のソース・ドレイン領域で構成されている。
【0051】
また、ソース・ドレイン領域の一方には、第一層配線8が接続されており、他方には、コンタクトホール9に充填されたタングステン等の金属プラグを介して第二層配線10が接続されている。そして、第一層配線8と第二層配線10との間には、本発明の有機無機複合体膜の製造方法で得られる低誘電率薄膜からなる層間絶縁膜7が形成されている。また、第二層配線10の上部には、半導体装置100の略全領域を被覆するように、パッシベーション膜11が設けられている。
【0052】
この半導体装置100の製造工程では、まず、シリコン基板1の表層部に、例えば一般に用いられる熱酸化等によってゲート酸化膜3を形成し、その上部にゲート電極4を形成する。それから、このゲート電極4をマスクとして不純物拡散を行ってソース・ドレイン領域を構成する低濃度不純物拡散領域5a,5bを形成する(図2(A)参照)。
【0053】
次に、その上層に、例えばCVD法を用いて酸化シリコン膜を形成し、異方性エッチングを行ってゲート電極4の側壁にサイドウォール3sを形成する(図2(B)参照)。次いで、サイドウォール3sが形成されたゲート電極4をマスクとして高濃度の不純物拡散を行って高濃度不純物拡散領域6a,6bを形成し、LDD構造のソース・ドレイン領域を形成する(図2(C)参照)。
【0054】
さらに、第一層配線8を形成した後、その上に、上述した本発明の有機無機複合体の製造方法を用いて得た有機無機複合体の組成物溶液を、例えばスピンコート法により所定の厚さで塗布する。次いで、所定の温度勾配及び雰囲気下でその塗布膜を焼成し、有機無機複合体(縮合物)を架橋せしめて層間絶縁膜7(有機無機複合体膜)を形成する。このときの加熱方法(温度勾配)としては、例えば、まず、好ましくは100℃〜130℃の任意の温度で1時間程度加熱(プリ・ベーク)し、それに引き続いて、例えば400℃〜425℃のより高温で焼成する(キュア)方法を例示できる。
【0055】
それから、こうして得た層間絶縁膜7にフォトリソグラフィによってコンタクトホール9を形成する(図2(D)参照)。次いで、コンタクトホール9を金属で埋め込んでコンタクトプラグを形成した後、第二配線層10を形成し、さらに、層間絶縁膜7と同様にして、本発明の有機無機複合体の製造方法を用いて得た有機無機複合体の組成物溶液を所定の厚さ塗布し、焼成してパッシベーション膜11(保護膜)を形成し、半導体装置100を得る(図2(E)参照)。
【0056】
このようにして得られた半導体装置100においては、層間絶縁膜7及びパッシベーション膜11を構成する有機無機複合体膜が、上述した前駆体Aと前駆体Bとを混合工程で混合して迅速かつ十分に反応させて得た加水分解物を、複合体形成工程で比較的ゆっくりと縮合させて得た有機無機複合体から形成されているので、残留シラノールのような非架橋部分が確実に低減されており、それら層間絶縁膜7及びパッシベーション膜11の誘電率を十分に低下させることが可能となる。その結果、第一層配線8と第二層配線10との間の層間容量の低減を図ることができ、半導体装置100の高速駆動性を向上させることができる。
【0057】
また、層間絶縁膜7及びパッシベーション膜11において十分な架橋密度を達成できるので、それらの膜の柔軟性を高めることができ、温度変化や機械的・熱的衝撃に対する耐性を向上させることが可能となる。さらに、環境条件の経時変化による寸法形状及び強度の変化を防止できるとともに、耐湿性をも向上できる。よって、半導体装置100の信頼性を高めることが可能となる。しかも、層間絶縁膜7及びパッシベーション膜11の焼成を、半導体装置100の他の素子構造(下地構造)にとって比較的低温下で実施することができるので、それらの他の素子構造に与える影響を最小限に抑えることができる。このことからも、半導体装置100の信頼性をより一層高めることができる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、前駆体A及び前駆体B、並びに、層間絶縁膜7やパッシベーション膜11を形成するための塗布液には、適宜他の添加剤を加えてもよい。また、有機無機複合体膜の適用例は、半導体装置の層間絶縁膜や保護膜に限定されず、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、半導体レーザ等の化合物半導体を用いた半導体デバイス、マイクロ波IC等の高周波デバイス、フィルムキャリア等を用いたマイクロ波伝送線路、或いは、多層プリント基板等に形成される絶縁体(膜)、保護膜等にも適用可能である。さらに、有機無機複合体膜は、薄膜のみならず、厚膜、バルク体、さらにはテープ状体として形成してもよく、また、粘着層を有する基体に設けて、半導体装置等の上記各種デバイスに貼着するものとしても有用である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
(架橋性化合物の合成)
(1)1,7−オクタジエン(和光純薬製)11.0gと、ジエトキシメチルシラン(信越シリコン社製)26.9gのトルエン溶液に、塩化白金酸(和光純薬製)とジビニルテトラメチルジシロキサン(Gelest社製)から調製したカルステッド触媒(Karsted:USP3775452)溶液0.05mmolを混合し、30℃の窒素雰囲気下で一昼夜攪拌した。このようにして得られた反応混合物を蒸留にて精製し、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタンを得た。その分子構造は、1H−NMR(Bruker製 核磁気共鳴分光機 DRX−300)で確認した。
【0061】
(2)ジエトキシメチルシランの代わりにトリエトキシシランを用いたこと以外は、上記(架橋性化合物の合成)(1)と同様にして1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタンを得た。
【0062】
〔実施例1〕
上記(架橋性化合物の合成)で合成した二官能前駆体である1.8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン7.0gと、三官能前駆体である1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン3.0gとを、1−ブタノール23.33gに溶解し、前駆体A溶液を調製した(第一調製工程)。
【0063】
一方、0.01N硝酸2.1mlと、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル350 2.0gと、非イオン性界面活性剤(TWEEN20を1−ブタノールで2倍に薄めたもの)1.0gとの混合物に、1−ブタノール66.67gを加え、前駆体B溶液を得た(第二調製工程)。
【0064】
次に、前駆体A溶液及び前駆体B溶液を混合し、氷冷しながら4時間攪拌した(混合工程)。その後、25%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドメタノール溶液2.593ccを加えてさらに6時間反応させ、有機無機複合体の組成物溶液としての塗布液を得た(複合体形成工程)。
【0065】
この塗布液を、スピンコート法(2000rpm、10秒間)により、図2(c)に示すものと同様の構造を有する半導体基板(低抵抗シリコウェハ)上に塗布し、120℃にて1時間、さらに窒素雰囲気下400℃で1時間焼成して、層間絶縁膜7(有機無機複合体膜)を形成した。
【0066】
〔実施例2〕
前駆体A溶液及び前駆体B溶液の混合物を室温で20分撹拌したこと(混合工程)、及び、その後、25%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドメタノール溶液2.593ccを加えてさらに22時間反応させたこと(複合体形成工程)以外は、実施例1と同様にして層間絶縁膜7を形成した。
【0067】
〔比較例1〕
前駆体A溶液及び前駆体B溶液の混合物を室温で4時間攪拌し、複合体形成工程を実施せずに塗布液を得たこと以外は、実施例1と同様にして層間絶縁膜を形成した。
【0068】
〔比較例2〕
硝酸を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして層間絶縁膜を形成した。
【0069】
〔層間絶縁膜の物性測定〕
実施例1で得た層間絶縁膜7及び比較例1で得た層間絶縁膜のそれぞれについて、以下に示す方法で比誘電率及びヤング率を測定した。その結果、実施例1の層間絶縁膜7は、比誘電率が2.0であり、ヤング率が4.1GPaであった。一方、比較例1の層間絶縁膜は、比誘電率が2.8であり、ヤング率が6.9GPaであった。
【0070】
(比誘電率)
〈1〉 アルバック機工社製の真空蒸着装置VPC260Fを用い、直径8mmのアルミニウム膜を50nm前後の膜厚となるように、測定対象である層間絶縁膜上に真空蒸着してアルミニウム電極を作成し、コンデンサを形成した。
【0071】
〈2〉 低抵抗シリコンウェハから層間絶縁膜を機械的に掻きとった後、Vecco社製の接触式段差計Dektak6Mを用いて段差高を測定し、それを層間絶縁膜の膜厚とした。なお、平均的な膜厚は、200nm程度であった。
【0072】
〈3〉 HP社製4195Aインピーダンスアナライザを用い、〈1〉で形成したコンデンサの100kHzでの容量を測定した。
【0073】
〈4〉 上記〈2〉及び〈3〉で得られた膜厚及び容量の測定値を、下記式(5)で表される関係から得られる式(6)に代入し、比誘電率を求めた。
C=ε0・εs・S/d …(5)
εs=C・d/(ε0・S) …(6)
なお、式中、Cはコンデンサの容量[F]を示し、ε0は真空の誘電率ε0=8.85×10-12[F/m]を示し、εsは比誘電率[−](無次元)を示し、Sはアルミニウム電極の面積[m2]を示し、dは層間絶縁膜の膜厚[m]を示す。
【0074】
(ヤング率)
Hysitron社製Triboscopeを用いて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明した通り、本発明の有機無機複合体の製造方法、有機無機複合膜の形成方法、及び半導体装置の製造方法は、誘電率が十分に小さく、耐湿性や可撓性が高く、機械的特性に優れた有機無機複合体からなる膜、ひいては信頼性の高い半導体装置を実現できるので、電子・電気部品、デバイス、機器、及びその材料、特に優れた誘電特性が要求される絶縁膜、保護膜、多層基板、積層板、封止剤、接着剤等の用途に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の半導体装置の製造方法によって得られる半導体装置の一実施形態の構成を示す概略断面図である。
【図2】(A)〜(E)は、図1に示す半導体装置を製造している状態を示す工程図である。
【符号の説明】
【0077】
1…シリコン基板(基体)、2…絶縁膜、3…ゲート酸化膜、3s…サイドウォール、4…ゲート電極、5a,5b…低濃度不純物拡散領域(ソース・ドレイン領域)、6a,6b…高濃度不純物拡散領域(ソース・ドレイン領域)、7…層間絶縁膜(有機無機複合体膜)、8…第一層配線、9…コンタクトホール、10…第二層配線、11…パッシベーション膜(保護膜)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の架橋性基、及び該複数の架橋性基のそれぞれに共有結合した炭素原子を有する架橋性化合物を含む前駆体Aを調製する第一調製工程と、
酸触媒を含む前駆体Bを調製する第二調製工程と、
前記前駆体Aと前記前駆体Bとを混合して加水分解物を得る混合工程と、
前記加水分解物にアルカリ触媒を加え、該加水分解物を縮合させて有機無機複合体を形成する複合体形成工程と、
を備える有機無機複合体の製造方法。
【請求項2】
前記架橋性化合物として、下記式(1);
【化1】

(式中、Mは金属又は13〜15族の元素の原子を示し、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基を示し、R1は炭素数1〜50の炭素原子含有基を示し、R2はメチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基を示し、二つのR2は同一でも異なっていてもよく、n1,n2は0〜2の整数を示す。)、
で表される化合物を用いる、
請求項1記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項3】
前記架橋性化合物の少なくとも一部又は全部として、前記式(1)における前記Mがケイ素原子であるものを用いる、
請求項1又は2記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項4】
前記架橋性化合物として、前記式(1)における前記R1が炭素数8〜20の炭素原子含有基であり、かつ、前記Xが、−Cl,−OCH3,−OC25,−OC65,−OH又は−OCOCH3で表される基であるものを用いる、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項で得られる前記有機無機複合体を、基体上に成膜し、焼成することにより、有機無機複合体膜を形成する、
有機無機複合体膜の形成方法。
【請求項6】
基体として、半導体基板、又は半導体基板上に素子の少なくとも一部が形成されたものを用い、
請求項5記載の有機無機複合体膜の形成方法により、前記基体上に前記有機無機複合体膜からなる層間絶縁膜又は保護膜を形成する、
半導体装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−112911(P2007−112911A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306403(P2005−306403)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】