説明

有機薄膜トランジスタの製造方法

有機薄膜トランジスタを形成する方法であって、有機半導体の堆積の前に1つ以上の結晶化部位でチャネル領域の外側の表面に種晶付けし、種晶付けされた表面、およびチャネル領域上に有機半導体の溶液を堆積させることにより、有機半導体が結晶化部位または各結晶化部位において結晶領域を形成し始めるようにして、結晶領域または各結晶領域が、その結晶化部位からチャネル領域を越えて、前進する表面蒸発前線により定まる方向に成長するようにし、エネルギーを印加して表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することにより、チャネル領域の外側の1つ以上の結晶化部位からの、チャネル領域を越えた結晶領域または各結晶領域の成長の方向および速度を制御することを含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタは大きく2種類に分けられる。すなわち、バイポーラ接合トランジスタと電界効果トランジスタである。いずれの種類も、3つの電極を備え、それらの間のチャネル領域に半導体材料が配置される、という共通の構造を共有する。バイポーラ接合トランジスタの3つの電極はエミッタ、コレクタ、ベースとして知られ、一方、電界効果トランジスタでは、3つの電極はソース、ドレイン、ゲートとして知られる。バイポーラ接合トランジスタは電流動作型デバイスと説明され得るが、これはベースとエミッタとの間を流れる電流によってエミッタとコレクタとの間の電流が制御されるからである。これに対して、電界効果トランジスタは電圧動作型デバイスと説明され得るが、これはゲートとソースとの間の電圧によってソースとドレインとの間を流れる電流が制御されるからである。
【0003】
また、トランジスタは、正の電荷担体(正孔)を伝導する半導体材料で構成されるか、あるいは負の電荷担体(電子)を伝導する半導体材料で構成されるかによって、それぞれp型およびn型に分類することもできる。半導体材料は、電荷を受容し、伝え、供与する能力に応じて選択され得る。正孔または電子を受容し、伝え、供与する半導体材料の能力は、材料に不純物を添加することによって高めることができる。また、ソース電極およびドレイン電極に用いられる材料は、正孔または電子を受容し注入する能力によっても選択できる。例えば、p型トランジスタ素子は、効率良く正孔を受容し、伝え、供与する半導体材料を選択し、効率良く半導体材料に正孔を注入し半導体材料から正孔を受容する材料をソース電極およびドレイン電極に選択することによって形成できる。電極のフェルミ準位と半導体材料のHOMO(最高被占分子軌道)準位とのエネルギー準位の整合をうまくとることによって、正孔の注入および受容を向上させることができる。一方、n型トランジスタ素子は、効率良く電子を受容し、伝え、供与する半導体材料を選択し、効率良く半導体材料に電子を注入し半導体材料から電子を受容する材料をソース電極およびドレイン電極に選択することによって形成できる。電極のフェルミ準位と半導体材料のLUMO(最低空分子軌道)準位とのエネルギー準位の整合をうまくとることによって、電子の注入および受容を向上させることができる。
【0004】
トランジスタは、これらの構成要素を薄膜の状態で堆積させて薄膜トランジスタを形成することにより、形成することができる。このようなデバイスで、半導体材料として有機材料が用いられたものは、有機薄膜トランジスタとして知られている。
【0005】
有機薄膜トランジスタはさまざまな構成が知られている。そのようなデバイスの1つは絶縁ゲート型電界効果トランジスタであり、このトランジスタは、間のチャネル領域に半導体材料が配置されたソース電極およびドレイン電極と、半導体材料に隣接して配置されたゲート電極と、ゲート電極とチャネル領域の半導体材料との間に配置された絶縁材料の層とを備える。
【0006】
そのような有機薄膜トランジスタの例を図1に示す。図示の構造は、基板(図示しない)に堆積させられてよく、間隔が空けられてその間にチャネル領域6が配置されたソース電極およびドレイン電極2、4を備える。チャネル領域6には有機半導体(organic semiconductor、OSC)8が堆積させられ、有機半導体8は、ソース電極およびドレイン電極2、4の少なくとも一部の上に延びてよい。有機半導体8の上には誘電体材料の絶縁層10が堆積させられ、絶縁層10は、ソース電極およびドレイン電極2、4の少なくとも一部の上に延びてよい。最後に、絶縁層10の上にゲート電極12が堆積させられる。ゲート電極12は、チャネル領域6の上に配置され、ソース電極およびドレイン電極2、4の少なくとも一部の上に延びてよい。
【0007】
上述の構造はトップゲート型有機薄膜トランジスタとして知られるが、これはゲートが素子の上側に配置されるからである。代わりに、ゲートを素子の底側に設けていわゆるボトムゲート型有機薄膜トランジスタを形成することも知られている。
【0008】
そのようなボトムゲート型有機薄膜トランジスタの例を図2に示す。図1および図2に示した各構造の関係をより明確に示すため、対応する部分には同一の参照番号を用いてある。図2に示すボトムゲート構造は、基板1に堆積させられたゲート電極12を備え、その上に誘電体材料の絶縁層10が堆積させられる。誘電体材料の絶縁層10の上には、ソース電極およびドレイン電極2、4が堆積させられる。ソース電極およびドレイン電極2、4は間隔が空けられ、その間の、ゲート電極の上にチャネル領域6が配置される。チャネル領域6には有機半導体(OSC)8が堆積させられ、有機半導体8は、ソース電極およびドレイン電極2、4の少なくとも一部の上に延びてよい。
【0009】
チャネルの導電率は、ゲートに電圧を印加することによって変えられる。このように、印加ゲート電圧を用いてトランジスタのスイッチを入れたり切ったりすることができる。所与の電圧で達成可能なドレイン電流は、デバイスの活性領域(ソース電極とドレイン電極との間のチャネル)における有機半導体の電荷担体の移動度に依存する。従って、低い動作電圧で大きなドレイン電流を達成するためには、有機薄膜トランジスタは、チャネル領域において移動度の高い電荷担体を有する有機半導体を有しなければならない。
【0010】
現在のところ、有機薄膜トランジスタの用途は、有機半導体材料の比較的低い移動度のために限られている。移動度を向上させる最も効果的な手段の1つは、有機材料が秩序正しく整列するように促すことである、ということが分かっている。薄膜トランジスタにおいて移動度が最高の有機半導体材料は相当な秩序化と結晶化を示すが、このことは、光学顕微鏡検査およびX線回折から明らかである。
【0011】
有機薄膜トランジスタにおいて有機半導体の結晶化を強化する技術としては、(i)有機半導体の堆積後の有機薄膜トランジスタの熱アニーリングや、(ii)有機半導体の、堆積後に結晶化する元々の機能を高めるように、有機半導体分子を設計することなどがある。
【0012】
有機薄膜トランジスタデバイスにおいて結晶化を強化する上記の方法には、いくつか問題がある。熱アニーリング技術の問題の1つは、デバイスを加熱しなければならないことである。これによって、デバイスの部品が傷んだり、製造業者のエネルギーコストが増加したり、そのようなデバイスを製造するのに必要な処理時間が増加したりする恐れがある。分子設計の手法の問題の1つは、強化された結晶化機能をもつ新しい分子を設計するのに時間や費用がかかるということである。さらに、有機半導体の分子構造を変えると、結果として得られる薄膜トランジスタにおいて材料の機能特性に悪影響が出る恐れがある。そのうえ、有機半導体の分子構造を変えると、有機薄膜トランジスタの製造時に材料の処理性に悪影響が出る恐れがある。例えば、材料の溶解性が影響を受けて、スピンコーティングまたはインクジェット印刷のような堆積技術を用いて材料を溶液処理するのが困難になりかねない。
【0013】
さらなる問題のいくつかは、上記の両技術に共通のものである。問題の1つは、どちらの技術も、結果的に有機半導体層全体で結晶化を高めてしまうということである。有機薄膜トランジスタの特定の領域では有機半導体の結晶化度、したがって導電率を高めるのが望ましくない場合があるが、これは、電流漏れ、ならびに下および上にある金属化部分の間の短絡の問題につながる可能性があるためである。このようなわけで、有機半導体の結晶化を有機薄膜トランジスタの所望の領域でだけ高める方法を提供すれば有利であろう。
【0014】
さらに、いずれの技術も、半導体が結晶化する際に有機結晶の配向を容易に制御できない。有機半導体の導電率は有機結晶の配向に敏感であるから、これは重要である。有機結晶が整列すれば、半導体の導電率は、有機結晶の配向に対する電流の流れの方向に応じて変化する。
【0015】
ここで、最大コンダクタンスの向きは必ずしも有機結晶の配向に平行ではないことに注意すべきである。また、必ずしも有機結晶の配向と垂直でもない。実のところ、最大コンダクタンスの方向は、結晶内の有機分子の構造に依存する。ただし、これは、材料にいろいろな異なる角度方向で電流を通してコンダクタンスを測定することにより、特定の分子について試験することが可能である。材料によっては、最大導電率が達成される結晶方位がいくつか存在して、それらの間の角度方向では極小導電率になるような場合さえある。
【0016】
理論に拘束されるものではないが、有機半導体材料を通した伝導は2つのメカニズムによって起こる。すなわち、(1)有機分子に沿った伝導と、(2)分子どうしの間の分子間ホッピングである。従って、伝導の支配的メカニズムが有機分子に沿ったものであれば、最大コンダクタンスの方向は、分子配向と非常によくそろう傾向を持つ。あるいは、伝導の支配的メカニズムが分子どうしの間のホッピングであれば、最大コンダクタンスの方向は、ある分子から次の分子に電荷がホップするのに最も容易な方向に対応する傾向を持つ。これはたいてい、分子配向に対してより垂直な方向であるが、これは隣接分子間で横方向においてπ軌道がより重なるためである。
【0017】
これら2つのメカニズムの寄与は、有機半導体の分子構造に依存する。例えば、超長鎖の半導体ポリマーが用いられると、有機分子に沿った伝導が支配的になる場合がある。従って、ポリマーがソース電極とドレイン電極との間の距離以上の鎖長を有する場合、最大コンダクタンスの方向は、ソース電極とドレイン電極とを結ぶ線に平行な方向に整列したポリマーと一致する傾向を持つ。ところが、ずっと短い分子が用いられる場合は、分子間ホッピングが支配的になり始める。この場合、「真向かいの」分子どうしの間では軌道の重なりがほとんどなく、整列方向の伝導は低くなる場合がある。従って、ソース電極とドレイン電極とを結ぶ線に対して垂直な方向に結晶を配向させるのが有益かもしれない。しかし、これだと、電荷がソースとドレインとの間を通過するのに多数の分子間ホッピングが必要となりかねない。従って、ソース電極とドレイン電極との間の距離よりもずっと短い分子では、ソース電極とドレイン電極とを結ぶ線に対して垂直と平行との間のどこかの角度に傾いた結晶方位が、最大コンダクタンスの向きに対応することになる。
【0018】
いくつかの従来技術文書が、有機薄膜トランジスタのチャネル領域における有機半導体分子の配向を制御する技術を開示している。以下、これらについて論じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1684360(A1)号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1679752(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0126003号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0117298(A1)号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0012914(A1)号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0289859(A1)号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0208266(A1)号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2006/0113526(A1)号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0029514(A1)号明細書
【0020】
欧州特許出願公開第1684360(A1)号明細書は、有機半導体分子の配向を、その主鎖の分子軸がソース電極からドレイン電極への方向に対して傾いて配向するように制御すると有利であると開示している。上記の構成を有する有機薄膜トランジスタを製造する際は、共役有機半導体分子が所定の溶媒に溶解され、その溶液が、所望の配向方向と平行に溝が形成された基板に付けられる。
【0021】
欧州特許出願公開第1679752(A1)号明細書は、有機薄膜トランジスタの有機半導体層が、半導体材料と半導体材料の配向を制御するために利用される液晶材料との混合物を用いて形成される構成について記載している。配向の方向は、上記の混合物が堆積させられる表面をソース電極からドレイン電極への方向のような所定の方向にこすることによって制御される。
【0022】
米国特許出願公開第2007/0126003号明細書は、自己組織化単層膜が、有機薄膜トランジスタのチャネル領域において上に配置された有機半導体の配向を制御するのに用いられ得ると開示している。有機半導体分子は結晶粒の状態で規則的に配向すると記載されている。さらに、チャネル領域において自己組織化単層膜上に配置された有機半導体分子は、より大きな粒子を有し、自己組織化単層膜が設けられないチャネル領域の外側の部分のものよりも高い配向秩序を有すると記載されている。
【0023】
米国特許出願公開第2007/0117298(A1)号明細書は、化学的な種晶付けを用いた有機薄膜トランジスタの製造方法を開示している。疎液性材料をチャネル領域の周囲に堆積させて、後にチャネル領域内に堆積させられる、インクジェット印刷される有機半導体を閉じ込めることができると記載されている。さらに、有機半導体膜の結晶化と分子配向とを制御するためにチャネル領域に疎液性パターンを設けることができると記載されている。
【0024】
米国特許出願公開第2007/0012914(A1)号明細書は、結晶化を促進する層がチャネル領域に設けられ、その上に有機半導体が堆積させられた有機薄膜トランジスタを開示している。有機半導体層は、少なくとも、有機シラン構造を有するポルフィリンを含有し、結晶化促進層は、少なくともポリシロキサン化合物を含むと開示されている。結晶化促進層は、均一な膜厚であると記載されている。結晶化はシロキサン構造と有機シラン構造との組み合わせの効果によって促進されると述べられている。さらに、各層は溶液から堆積させられ得ると開示されている。有機半導体は、前駆体の形態で堆積させられ、結晶化有機半導体層を形成するために加熱され得る。この加熱ステップは、結晶化促進機能を実現する上で重要な役割を演じると述べられている。
【0025】
米国特許出願公開第2006/0289859(A1)号明細書は、絶縁ポリマーと表面処理剤との混合物を含むゲート絶縁層を設けることによって有機半導体の結晶化が向上する有機薄膜トランジスタを開示している。絶縁ポリマーおよび表面処理剤は、混合物として溶液から堆積させられる。表面処理剤の例としてオクタデシルトリクロロシランが挙げられ、絶縁ポリマーの例としてポリビニルフェノールが挙げられている。また、溶液が堆積させられて乾燥させられる際に成分が架橋するように、混合物には架橋剤も含まれる。
【0026】
米国特許出願公開第2006/0208266(A1)号明細書は、有機半導体の堆積前にチャネル領域にバッファ層が設けられる有機薄膜トランジスタを開示している。バッファ層は、上に重なる有機半導体の配向を決定するように機能すると記載されている。バッファ層は、液晶コアを有する有機ポリマー材料で作られると記載されている。バッファ層を堆積させる前に、上に有機半導体を堆積させる前にバッファ層の分子が特定の方向に配向するように擦ることによって、表面が調製される。バッファ層は、前駆体材料の溶液を調製し、これらの材料を溶液から堆積させてから、材料を重合させてバッファ層を形成することによって形成され得ると記載されている。
【0027】
米国特許出願公開第2006/0113526(A1)号明細書は、液晶性有機半導体材料を含む有機薄膜トランジスタを開示している。有機半導体材料の堆積前に液晶配向層が設けられる。液晶配向層は、ポリイミド系材料をコーティングしてから摩擦処理を施すことによって調製された層、微細な凹凸を有する硬化性樹脂を含む層、または微細な凹凸を有する硬化性樹脂を含む層であって結晶配向層と基材とが一体化されたもののうちの1つであってよいと記載されている。
【0028】
米国特許出願公開第2005/0029514(A1)号明細書は、複数の溝を用いて上に重なる有機半導体をチャネル領域に整列させた有機薄膜トランジスタを開示している。
【0029】
上記の開示を踏まえれば、有機薄膜トランジスタにおける有機半導体材料の結晶配置を改善する目的で、さまざまな集団によって多くの仕事が行われてきたことは明らかである。しかしながら、有機薄膜トランジスタのチャネル領域内における有機半導体材料の結晶領域間の電荷ホッピングの必要性を無くすことに完全に成功した技術は1つもない。これは、これらの技術すべてにおいて、チャネル領域内の複数の異なる箇所で結晶の成長が開始されることになるからである。その結果、複数の結晶領域がチャネル領域内で成長し、ソース電極からドレイン電極までの間隔全体に及ぶものがない。従って、ソースとドレインとの間を流れる電荷はどれも必然的に結晶領域の境界に衝突し、旅を続けるには隣接する結晶領域へのホッピングが必要になる。こうした結晶領域の境界によって、有機半導体内の電流の流れに対する抵抗が増加し、電荷移動度およびコンダクタンスが低下してしまうのである。
本発明の実施の形態の目的の1つは、上記の問題に対処することである。
【発明の概要】
【0030】
本発明の第1の態様によれば、請求項1ないし16に特定されたように有機薄膜トランジスタを形成する方法が提供される。
【0031】
特に、チャネル領域が間にあるソース電極およびドレイン電極と、ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極とゲート電極との間に配置された誘電体層と、少なくともソース電極とドレイン電極との間のチャネル領域に配置された有機半導体とを備える薄膜トランジスタを形成する方法であって、有機半導体の堆積の前に、結晶化を開始するための1つ以上の部位(結晶化部位)でチャネル領域の外側の表面に種晶付けし、種晶付けされた表面、およびチャネル領域上に有機半導体の溶液を堆積させることにより、有機半導体が結晶化部位または各結晶化部位において結晶領域を形成し始めるようにして、結晶領域または各結晶領域が、その結晶化部位からチャネル領域を越えて、前進する表面蒸発前線により定まる方向に成長するようにし、エネルギーを印加して表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することにより、チャネル領域の外側の1つ以上の結晶化部位からの、チャネル領域を越えた結晶領域または各結晶領域の成長の方向および速度を制御することを含む方法である。
【0032】
表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することは、有機半導体の溶液を結晶化部位およびチャネル領域の上に流し、それにより結晶が溶液の流れる方向に成長するようにすることによって達成されてよい。例えば、堆積方法としてスピンコーティングを用いることが可能であり、この場合はスピンコーティング中に溶液の接線流方向に結晶領域が成長する。この手法の欠点の1つは、結果として生じる結晶領域が曲がり、これに対応するソース電極およびドレイン電極の配列が必要になることである。従って、多くの用途では直線流が好ましいかもしれない。
【0033】
有機半導体の流動溶液を供給する代わりに、表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することが、結晶化部位または各結晶化部位の上にドクターブレードを当て、ドクターブレードがチャネル領域上を移動させられ、それにより結晶がドクターブレードの移動方向に成長させられるようにすることによって達成されてもよい。同様の効果は、ドクターブレードの代わりにエアーナイフを用いても達成できる。エアーナイフまたはドクターブレードは、加熱されてもよい。
【0034】
他には、結晶化部位または各結晶化部位およびチャネル領域に温度勾配をかけ、それにより結晶領域または各結晶領域が、温度勾配により定まる方向に成長するようにすることによって、表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御してもよい。例えば、有機薄膜トランジスタが形成されている最中の基板が、異なる領域で異なる温度に加熱されてよい。あるいは、結晶化部位または各結晶化部位およびチャネル領域の上の周囲温度が、温度勾配を与えるように制御されてもよい。
【0035】
さらに別の代替手法は、溶液せん断堆積として知られている技術を用いることである。この技術では、堆積させられた有機半導体の溶液の上面にせん断基板を当てて、せん断基板を結晶の成長にとって望ましい方向に引きずることによって、溶液にせん断力が加えられる。チャネル領域が濡れ面を有し、せん断基板が脱濡れ面を有すると好ましい。
【0036】
本発明の実施の形態は、結晶領域の成長がチャネル領域の外側の所定の位置で開始されてからチャネル領域を越えて所望の方向に前進して、チャネル領域の結晶領域がチャネルの全長にわたって延びるようにすることによってチャネル領域の有機半導体材料の結晶構造を強化する技術を提供する。この構成によれば、電荷は結晶境界に衝突することなくソースとドレインとの間を流れ、結晶領域間の電荷ホッピングの必要性を回避することができる。従って、このような構成により、ソース電極とドレイン電極との間の電荷移動度およびコンダクタンスが増加する。
【0037】
さらに、本技術は、有機半導体材料の分子構造の変更を必要とせずに有機半導体の結晶方位の制御を強化するので、新しい分子の設計に伴う時間と費用が回避される。そのうえ、有機半導体の分子構造の変更によって起こり得る有機半導体材料の機能特性および処理特性への悪影響が回避される。例えば、既知の有機半導体をその機能特性および処理特性で選択することができ、その上で、その材料が有機薄膜トランジスタのチャネル領域に堆積させられる時にその材料の結晶性を増すために、本技術を用いることができる。
【0038】
さらにまた、本発明の実施の形態は、有機半導体の結晶化を、例えばチャネル領域ならびにソース電極およびドレイン電極上のような、有機薄膜トランジスタの所望の領域でだけ高める方法を提供する。先に述べたように、デバイスのすべての領域で有機半導体の結晶化度、したがって導電率を高めるのは望ましくない場合があるが、これは、デバイスの両端での電流漏れ、ならびに下および上にある金属化部分の間の短絡の問題につながる可能性があるためである。種晶付けして制御する本技術を用いることにより、結晶方位の強化をソース電極およびドレイン電極上、ならびにチャネル領域に局在化させることができ、その結果、有機半導体は、この領域においてデバイスの他の領域より高い導電率を有するようになる。それに応じて、電流漏れおよび短絡の問題を低減できる。
【0039】
いくつかの実施の形態によれば、1つ以上の結晶化部位はチャネル領域のソース電極側もしくはドレイン電極側のいずれかまたは両方に設けられる。1つ以上の結晶化部位は、ソース電極およびドレイン電極のどちらかの上に、または実際には接して、設けられてもよい。結晶領域または各結晶領域は、ソース電極とドレイン電極との間のチャネル領域の全長にわたって延びてよい。例えば、結晶領域は、細長い形状で、ソース電極とドレイン電極とを結ぶ線に平行な方向に延びてよい。
【0040】
しかしながら、先に背景の節で論じた理由から、結晶領域内における最大コンダクタンスの方向は必ずしも結晶領域の長軸と一致しないことに注意すべきである。結晶領域内の伝導は依然として、分子に沿った伝導と、分子どうしの間の分子間ホッピングとを両方とも含む。そこで、本発明を用いれば、結晶領域の最大コンダクタンスの軸がソース電極とドレイン電極とを直接結ぶ想像線に対して実質的に平行(すなわち、動作時にソース電極とドレイン電極との間を電流が流れる方向)となるように、結晶領域を配向させることも可能である。好ましくは、最大コンダクタンスの軸は、ソース電極とドレイン電極とを結ぶ線からプラスマイナス20°、より好ましくはプラスマイナス10°、さらに好ましくはプラスマイナス5°の方向に合わされる。
【0041】
結晶領域の最大コンダクタンスの軸は、結晶領域にいろいろな異なる角度方向で電流を通してコンダクタンスを測定することにより、特定の有機材料について容易に見つけることができる。材料によっては、最大導電率が達成される方位がいくつか存在して、それらの間の角度方向では極小になるような場合さえある。この場合、最大コンダクタンスの軸のうちの1本は、ソース電極とドレイン電極との間を直接通過する線に実質的に平行な方向を向く。
【0042】
複数の結晶化部位が、複数の結晶領域のそれぞれに対して1つずつ設けられてよい。あるいは、単一の結晶化部位だけが設けられてもよい。ただし、単一の結晶化部位は、単一の結晶化部位に沿った異なる箇所から複数の結晶領域が成長できるように、細長く、チャネル領域の一辺に隣接して延びてよい。
【0043】
結晶化部位は1つ以上の物理的構造を備えてよい。例えば、物理的構造(または複数の物理的構造)は、有機半導体が堆積させられる表面に1つ以上のくぼみを備えてよい。くぼみは、例えば表面にスタンプを押すことによって形成されてよい。くぼみを形成するためにスタンプを押され得る材料で表面が前処理されてよい。あるいは、物理的構造は、有機半導体が堆積させられる表面に浮き出しパターンを形成することによって設けられてもよい。例えば、パターン形成された層がスタンプから転写されてよい。
【0044】
物理的構造は、例えばソース電極またはドレイン電極の上または隣に、チャネル領域の一辺に沿って延びる溝または隆起であってよい。
【0045】
物理的構造でチャネルの表面に種晶付けする代わりに、化学的手法を用いて表面に種晶付けすることもできる。結晶化部位は、局在する濡れ領域または脱濡れ領域によって形成されてよい。局在する脱濡れ領域がチャネル領域のソース側およびドレイン側にあると、有機半導体をデバイスの活性領域内に閉じ込めるように働くことができ、また結晶領域の結晶化開始・終了点として働くこともできるので、特に有利な場合がある。
【0046】
ある構成によれば、有機薄膜トランジスタはボトムゲート型有機薄膜トランジスタであり、方法は、基板にゲート電極を形成し、ゲート電極上に誘電体層を形成し、ゲート電極上に位置するチャネル領域が間にあって間隔の空いたソース電極およびドレイン電極を誘電体層上に形成し、1つ以上の結晶化部位でチャネル領域の外側の表面に種晶付けし、種晶付けされた表面、およびチャネル領域上に有機半導体の溶液を堆積させ、表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することにより、チャネル領域の外側の1つ以上の結晶化部位からの、チャネル領域を越えた結晶領域または各結晶領域の成長の方向および速度を制御することを含む。
【0047】
代替となる構成によれば、有機薄膜トランジスタはトップゲート型有機薄膜トランジスタであり、方法は、チャネル領域が間にあって間隔の空いたソース電極およびドレイン電極を基板上に形成し、1つ以上の結晶化部位でチャネル領域の外側の表面に種晶付けし、種晶付けされた表面、およびチャネル領域上に有機半導体の溶液を堆積させ、表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することにより、チャネル領域の外側の1つ以上の結晶化部位からの、チャネル領域を越えた結晶領域または各結晶領域の成長の方向および速度を制御し、有機半導体上に誘電体層を形成し、誘電体層上にゲート電極を堆積させることを含む。
【0048】
本発明の別の態様によれば、請求項17ないし23に特定されたように有機薄膜トランジスタが提供される。上述した方法によって好ましく形成された場合、有機薄膜トランジスタは、チャネル領域が間にあるソース電極およびドレイン電極と、ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極とゲート電極との間に配置された誘電体層とを備え、チャネル領域の外側の表面が1つ以上の結晶化部位を備え、有機半導体が1つ以上の結晶化部位およびソース電極とドレイン電極との間のチャネル領域の上に配置されており、有機半導体が、1つ以上の結晶化部位からチャネル領域上を延びる1つ以上の結晶領域を備える。各結晶領域は、単結晶または整列した複数の結晶からなってよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
次に、本発明について、単に例として、添付の図面を参照してさらに詳しく説明する。
【図1】従来技術の構成によるトップゲート型有機薄膜トランジスタ構造を示す図である。
【図2】従来技術の構成によるボトムゲート型有機薄膜トランジスタ構造を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態による有機薄膜トランジスタの形成に関連する方法ステップを説明する図である。
【図4】図3の方法における中間生成物の平面図を示す。
【図5】本発明の別の実施の形態による有機薄膜トランジスタを説明する図である。
【図6】本発明の別の実施の形態による有機薄膜トランジスタを説明する図である。
【図7】本発明の別の実施の形態による一連の中間生成物の平面図を示す。
【図8】本発明の別の実施の形態による一連の中間生成物の平面図を示す。
【図9】本発明の別の実施の形態による一連の中間生成物の平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本技術の実行方法の例を図3に模式的に示す。
ステップ1において、まず基板1が、基板1の上にソース電極およびドレイン電極2、4を形成することにより調製される。
【0051】
ステップ2において、ソース電極およびドレイン電極2、4に隣接して基板1上に結晶化部位14、16が形成される。結晶化部位14、16はテフロン(登録商標)のような脱濡れ材料を含んでよい。
【0052】
ステップ3において、有機半導体8の溶液が堆積させられる。有機半導体材料は、例えばインクジェット印刷により、溶液から堆積させられ得るように、溶液処理可能であってよい。有機半導体材料は、小分子有機半導体、ポリマー、またはデンドリマーを含んでよい。そのような半導体材料は当技術分野で多く知られている。
【0053】
ステップ4において、有機半導体8の溶液がまだ濡れている間に、せん断基板18が溶液上に置かれ、図の矢印に示されたようにソースからドレインの方向に引きずられる。これにより、結晶領域が結晶化部位14から結晶化部位16まで成長して、ステップ5に示される構造が形成される。
【0054】
最後に、ステップ6において、誘電体層10と、その上にゲート電極12とを堆積させることにより、デバイスが完成する(これはトップゲート型トランジスタ構成である)。
【0055】
各電極は、当技術分野で知られた他の単純なパターン形成技術を用いて印刷または堆積可能である。
【0056】
誘電体材料は溶液処理可能であってよい。例えば、誘電体層は、容易にスピンコーティングおよびパターン形成され得るポリイミドのような有機フォトレジストであってよい。あるいは、誘電体層はSiO2のような無機材料であってもよい。
【0057】
秩序化および結晶化の傾向をもつ有機半導体が好ましい。高沸点溶媒を含有する有機半導体配合も好ましいが、これは結晶領域が成長している間に分子が再配列する時間枠がより長くなるからである。例えば、100℃ないし200℃の範囲に沸点を有する溶媒が好ましく、より好ましくは150℃ないし200℃の間、最も好ましくは175℃程度である。これは、用いられる堆積方法の種類によって決まる。
【0058】
溶液の濃度は、好ましくは0.5%ないし5%の範囲、より好ましくは1%ないし2%、最も好ましくは2%程度である。スピンコーティングOSC溶液では2%程度の濃度が好ましい。他の堆積技術では、これよりわずかに高いか、または低い濃度が必要となる場合がある。
【0059】
また、結晶領域が成長するのに十分な時間、有機半導体溶液が確実に流体状態にとどまるようにするため、乾燥温度も制御される。乾燥温度は、25℃ないし100℃の範囲、より好ましくは25℃ないし50℃、最も好ましくは25℃程度としてよい。これは、用いられる溶媒システムによって決まる。
【0060】
配向結晶成長をもたらす、前進する乾燥前線を生成するためには、乾燥速度が有機半導体溶液の流速/せん断速度と等しいと有利である。好ましくは、乾燥時間は10秒ないし10分の範囲であり、より好ましくは20秒ないし5分、さらに好ましくは40秒ないし4分である。典型的には、アクティブマトリクスバックプレーン基板では数十秒ないし数分の範囲のコーティング時間が用いられる。
【0061】
ステップ4において、溶液に溶かされた分子は、核形成部位14で結晶化し始める。この実施の形態は、ぬれ特性が大きく異なる表面パターンどうしの間の境界を、溶液から堆積させられる有機半導体の結晶化を局所的に誘発するための好ましい核形成部位として利用する。速い脱ぬれは脱ぬれ領域から起こる。この効果と、せん断力を加えることとの組み合わせにより、脱ぬれ領域の境界において有機半導体溶液が細くなる。この結果、脱ぬれ境界において、乾燥処理が局所的に加速し、種晶が局所的に形成(核形成)される。溶媒の蒸発の結果、濃度勾配が増加して、有機半導体濃度が、ぬれ性境界において最高となり、せん断力の方向に減少する。その結果、結晶成長が、脱ぬれ境界において最初に形成された種晶から生じて、加えられたせん断力の方向に進む。最初の種晶はリボン状かもしれない。しかし、脱ぬれ境界からの距離が増すにしたがって、これらのOSC結晶リボンは合体して単結晶領域になる。トランジスタのソース電極およびドレイン電極に対して好適な距離および向きにぬれ性境界を作ることによって、トランジスタチャネルを橋渡しするほどの大きな、単結晶の有機半導体結晶を生成することができる。
【0062】
従って、本発明は、好ましい核形成部位を画定することにより、結晶化がどこで開始するか、すなわち生じる結晶の正確な発生位置を制御することができる。
【0063】
さらに、結晶の発生源の位置の画定に加えて、せん断力を加えることによって配向効果が生じ、それにより結晶がせん断力方向と平行に成長する。
【0064】
最後に、結晶の発生源の位置の画定および結晶の配向に加え、本発明によれば、結晶の大きさ/寸法を以下に応じて制御できる。すなわち、(1)好ましい核形成が生じる境界を画定するぬれ領域および脱ぬれ領域の、領域の大きさと形状、(2)溶媒の沸点および有機半導体溶液の濃度、ならびに(3)加えられるせん断力の大きさ、である。
【0065】
本発明は、以下を制御するために有機薄膜トランジスタの製造に適用され得る。すなわち、(1)TIPSペンタセン(6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン)のような小分子有機半導体の結晶の位置/発生源、(2)生じる有機半導体結晶の大きさおよび寸法、ならびに(3)生じる有機半導体結晶の、有機薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極に対する配向、である。
【0066】
小分子有機半導体膜における電荷担体移動度は結晶形態に決定的に依存するので、実施の形態によって、所与の有機半導体材料で移動度を増加させることができ、また再現性を向上させること、すなわち所与のチャネル長さをもつ有機薄膜トランジスタデバイスで得られる移動度の値の散らばりを減らすことができる。
【0067】
図4は、図3のステップ5に示した中間生成物の平面図を示す。有機半導体8の結晶領域が、脱ぬれ領域14から脱ぬれ領域16までソース電極およびドレイン電極2、4の間のチャネル領域を越えて延びている。
【0068】
図5は、図3のステップ6に示された構成をわずかに変更した型を示す図である。図5に示した構成において、結晶化部位14、16は、ソース電極およびドレイン電極2、4に隣接して基板1上に形成されるのではなく、ソース電極およびドレイン電極2、4上に形成される。
【0069】
図5はトップゲート型有機薄膜トランジスタを説明する図である。これに対して、図6はボトムゲート型有機薄膜トランジスタを説明する図である。この場合、基板1にゲート電極12が形成され、ゲート電極上に誘電体層10が形成され、誘電体層10上にソース電極およびドレイン電極2、4が形成される。ソース電極およびドレイン電極2、4は、ゲート電極12上に位置するチャネル領域が間にあって間隔が空いている。ソース電極およびドレイン電極2、4上に核形成部位14、16が形成され、有機半導体8の溶液がチャネル領域および核形成部位の上に堆積させられた後、前述したように乾燥中にせん断力が加えられる。
【0070】
図7ないし図9は、共通の基板1に多数の有機薄膜トランジスタを一体で形成する方法による、一連の中間生成物の平面図を示す。図7に示すように、ソース電極およびドレイン電極2、4は、結晶化部位14、16と並んで基板に堆積させられる。図7では、5個の有機薄膜トランジスタデバイスのために、対向する5組のソース電極およびドレイン電極2、4が設けられている。
【0071】
次に、図8に示すように、有機半導体の溶液が各組のソース電極とドレイン電極との間に堆積させられる。脱ぬれ材料が結晶化部位14、16に用いられていれば、半導体材料の溶液を所望の領域に閉じ込めるのに役立つ。
【0072】
次に、せん断基板が、各デバイス領域において有機半導体溶液に接触するように基板1上に置かれる。せん断基板がソースからドレインの方向に引きずられて、図9に示す結晶領域構造が形成される。
【0073】
そして、誘電体層およびゲート電極を堆積させることによって各デバイスを完成させることができる。その後、デバイスの間で基板に刻み目をつけて割ることによって5個のトランジスタが分離されてよい。
【0074】
本発明の実施の形態による有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor、OTFT)のさらなる特徴について、以下に論じる。
【0075】
[基板]
基板は、リジッドでもフレキシブルでもよい。リジッド基板は、ガラスまたはシリコンから選択されてよく、フレキシブル基板は、薄いガラス、またはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、およびポリイミドのようなプラスチックで構成されてよい。
【0076】
有機半導体材料は、好適な溶媒を用いて溶液処理可能としてよい。代表的な溶媒としては、トルエンやキシレンのようなモノアルキルベンゼンまたはポリアルキルベンゼン、テトラリン、クロロホルムなどがある。溶液堆積技術としては、スピンコーティング、インクジェット印刷などがある。その他の溶液堆積技術には、スプレーコーティング、浸漬コーティング、ロール印刷、スクリーン印刷などがある。
【0077】
[有機半導体材料]
有機半導体材料としては、随意に置換されたペンタセンのような小分子、ポリアリーレンのような、特にポリフルオレンおよびポリチオフェンのような随意に置換されたポリマー、そしてオリゴマーなどがある。異なる種類の材料の混合物(例えばポリマーと小分子との混合物)といった材料の混合物を用いてもよい。
【0078】
p型有機半導体材料の例としては、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPSペンタセン)のようなペンタセンの可溶性誘導体、およびフッ素化5,11−ビス(トリエチルシリルエチニル)アントラジチオフェン(diF−TESADT)のようなアントラジチオフェンの可溶性誘導体などがある。より一般的には、テトラセン、クリセン、ペンタセン、ピレン、ペリレン、コロネン、ベンゾジチオフェン、アントラジチオフェン、縮合芳香族炭化水素および複素芳香族炭化水素のようなアセンの可溶性誘導体、銅フタロシアニン、ルテチウムビスフタロシアニン、または他のポルフィリンおよびフタロシアニン化合物の金属錯体の可溶性誘導体、ならびに以下の共役炭化水素および複素環ポリマー、すなわちポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフラン、ポリピリジン、およびポリチエニレンビニレンの、可溶性の、好適には置換された、オリゴマー(四量体〜六量体)である。
【0079】
n型有機半導体材料の例としては、[6,6]−フェニル−C61−酪酸エステル([60]PCBM)のような可溶性メタノフラーレン[60]、[6,6]−フェニル−C71−酪酸メチルエステル([70]PCBM)のような可溶性メタノフラーレン[70]、ナフタレンジカルボキシ無水物およびナフタレンジカルボキシミドの可溶性誘導体、およびジシアノペリレン−3,4:9,10−ビス(ジカルボキシミド)の可溶性誘導体などがある。
【0080】
[ソース電極およびドレイン電極]
pチャネル型OTFTでは、ソース電極およびドレイン電極が、例えば金、プラチナ、パラジウム、モリブデン、タングステン、銀、またはクロムなどのような、3.5eVより大きな仕事関数をもつ高仕事関数材料、好ましくは金属で構成されることが好ましい。その金属が4.5eVから5.5eVの範囲の仕事関数を有するとさらに好ましい。また、三酸化モリブデンや酸化インジウムスズなどのような他の好適な化合物、合金、および酸化物を用いてもよい。当技術分野で周知のように、ソース電極およびドレイン電極は、熱蒸着によって堆積させられてよく、標準的なフォトリソグラフィおよびリフトオフ技術を用いてパターン形成されてよい。
【0081】
あるいは、ソース電極およびドレイン電極として導電性ポリマーを堆積させてもよい。そのような導電性ポリマーの例はポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)であるが、当技術分野では他の導電性ポリマーも知られている。そのような導電性ポリマーは、例えばスピンコーティング技術またはインクジェット印刷技術などの上で論じた溶液堆積技術を用いて、溶液から堆積させられてよい。
【0082】
nチャネル型OTFTでは、ソース電極およびドレイン電極が、カルシウム、バリウムまたは金属化合物の薄層のような3.5eVより小さな仕事関数を有する材料、特に、例えばフッ化リチウム、フッ化バリウム、酸化バリウムなどといったアルカリまたはアルカリ土類金属の酸化物またはフッ化物の薄層で構成されることが好ましい。あるいは、ソース電極およびドレイン電極として導電性ポリマーを堆積させてもよい。
【0083】
ソース電極およびドレイン電極は、製造を簡単にするために同じ材料から形成されることが好ましい。しかしながら、ソース電極およびドレイン電極が、それぞれ電荷の注入および取り出しの最適化のために異なる材料で形成されてもよいことは認められるであろう。
【0084】
ソース電極とドレイン電極との間に画定されるチャネルの長さは最大で500マイクロメートルまで可能であるが、この長さは、200マイクロメートル未満であることが好ましく、100マイクロメートル未満がさらに好ましく、20マイクロメートル未満が最も好ましい。
【0085】
[ゲート電極]
ゲート電極は、例えば金属(例えば金)または金属化合物(例えば酸化インジウムスズ)などの、広範囲の導電性材料から選択することができる。あるいは、導電性ポリマーをゲート電極として堆積させてもよい。そのような導電性ポリマーは、例えばスピンコーティングまたはインクジェット印刷技術などの上で論じた溶液堆積技術を用いて、溶液から堆積させられてよい。
【0086】
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の厚さは、5〜200nmの範囲にあってよい。ただ、例えば原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy、AFM)によって測定すると、典型的には50nmである。
【0087】
[絶縁層]
絶縁層は、高い抵抗率を有する絶縁材料から選択された誘電体材料で構成される。本誘電体の誘電率kは、典型的には2〜3あたりであるが、kの値の高い材料が望ましい。なぜなら、OTFTで達成可能な静電容量はkに正比例し、ドレイン電流IDは静電容量に正比例するからである。従って、低い動作電圧で高いドレイン電流を達成するためには、チャネル領域の誘電体層が薄いOTFTが好ましい。
【0088】
誘電体材料は、有機であっても無機であってもよい。好ましい無機材料としては、SiO2、SiNX、スピンオンガラス(SOG)などがある。好ましい有機材料は概してポリマーであり、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリジン(polyvinylpyrrolidine、PVP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなアクリレート、ダウコーニング社から入手できるベンゾシクロブテン(benzocyclobutene、BCB)といった絶縁ポリマーなどがある。他の例としては、フッ素化ポリマーのフッ素化溶媒液などがある。絶縁層は、材料の混合物から形成されてもよいし、多層構造で構成されてもよい。
【0089】
誘電体材料は、当技術分野で周知のように、熱蒸着、真空処理、または積層法によって堆積させられてよい。あるいは、誘電体材料は、例えばスピンコーティングまたはインクジェット印刷技術などの上で論じた溶液堆積技術を用いて、溶液から堆積させられてよい。
【0090】
誘電体材料が溶液から有機半導体に堆積させられる場合は、有機半導体の溶解を引き起こしてはならない。同様に、有機半導体が溶液から誘電体材料に堆積させられる場合は、誘電体材料が溶解してはならない。そのような溶解を回避するための技術としては、直交する溶媒の使用、すなわち最上層の堆積に下の層を溶解しない溶媒を使用することや、下の層を架橋することなどがある。
【0091】
絶縁層の厚さは、好ましくは2マイクロメートル未満であり、さらに好ましくは500nm未満である。
【0092】
[さらなる層]
本デバイス構成には他の層が含まれてもよい。例えば、自己組織化単分子層(self- assembled monolayer、SAM)をゲート、ソース電極またはドレイン電極、基板、絶縁層、および有機半導体材料に堆積させることで、必要に応じて、結晶性を高め、接触抵抗を減らし、表面特性を修復し、付着性を高めてよい。特に、チャネル領域の誘電体表面に結合領域と有機領域とを備える単分子層を設けることで、例えば有機半導体の形態(特にポリマーの配列および結晶性)を改善し電荷トラップを覆うことによってデバイス性能を向上させ、特に、高いkをもつ誘電体表面を実現してよい。そのような単分子層の代表的な材料としては、長いアルキル鎖をもつクロロシランまたはアルコキシシラン、例えばオクタデシルトリクロロシランなどがある。同様に、有機半導体と電極との間の接触を向上させるため、ソース電極およびドレイン電極にSAMが設けられてよい。例えば、チオール結合基と、接触を向上させる基とを備えるSAMが、金のソース・ドレイン電極に設けられてよく、接触を向上させる基は、高い双極子モーメント、ドーパント、または共役部分を有する基であってよい。
【0093】
[OTFTへの応用]
本発明の実施の形態によるOTFTは、広範囲に応用することが可能である。そのような応用の1つは、光デバイス、好ましくは有機光デバイスにおいて、画素を駆動することである。そのような光デバイスの例としては、光応答デバイス、特に光検出器、および発光デバイス、特に有機発光デバイスなどがある。OTFTは、アクティブマトリクス有機発光デバイスでの使用、例えばディスプレイ用途での使用に、特に適している。
【0094】
以上、本発明について、その好ましい実施の形態を参照して詳しく示し説明したが、添付の請求の範囲により定められた本発明の範囲から離れることなく本実施の形態において構成および細部に多様な変形が可能であることは、当業者に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル領域が間にあるソース電極およびドレイン電極と、ゲート電極と、前記ソース電極およびドレイン電極と前記ゲート電極との間に配置された誘電体層と、少なくとも前記ソース電極とドレイン電極との間の前記チャネル領域に配置された有機半導体とを備える有機薄膜トランジスタを形成する方法であって、
前記有機半導体の堆積の前に、結晶化を開始するための1つ以上の部位で前記チャネル領域の外側の表面に種晶付けし、
前記種晶付けされた表面、および前記チャネル領域上に前記有機半導体の溶液を堆積させることにより、前記有機半導体が前記部位または各部位において結晶領域を形成し始めるようにして、前記結晶領域または各結晶領域が、その結晶化部位から前記チャネル領域を越えて、前進する表面蒸発前線により定まる方向に成長するようにし、
エネルギーを印加して前記表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することにより、前記チャネル領域の外側の1つ以上の部位からの、チャネル領域を越えた前記結晶領域または各結晶領域の成長の方向および速度を制御する
ことを含む方法。
【請求項2】
エネルギーを印加して前記表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することが、前記有機半導体の溶液を前記結晶化を開始するための部位および前記チャネル領域の上に流し、それにより前記結晶領域または各結晶領域が前記溶液の流れる方向に成長するようにすることによって達成される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エネルギーを印加して前記表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することが、前記結晶化を開始するための部位または各部位の上にドクターブレードまたはエアナイフを当て、前記ドクターブレードまたはエアナイフが前記チャネル領域上を移動させられ、それにより前記結晶領域または各結晶領域が前記ドクターブレードまたはエアナイフの移動方向に成長するようにすることによって達成される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
エネルギーを印加して前記表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することが、前記結晶化を開始するための部位または各部位および前記チャネル領域に温度勾配をかけ、それにより前記結晶領域または各結晶領域が、前記温度勾配により定まる方向に成長するようにすることによって達成される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
エネルギーを印加して前記表面蒸発前線の移動の方向および速度を制御することが、前記有機半導体の溶液の上面にせん断基板を当てて、前記せん断基板を結晶領域の成長にとって望ましい方向に引きずり、それにより前記結晶領域または各結晶領域が、前記せん断基板の移動方向に成長するようにすることによって達成される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記チャネル領域が濡れ面を有し、前記せん断基板が脱濡れ面を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結晶化を開始するための1つ以上の部位が前記チャネル領域のソース電極側もしくはドレイン電極側のいずれかまたは両方に設けられる請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記結晶化を開始するための1つ以上の部位が前記ソース電極、前記ドレイン電極、または前記ソース電極およびドレイン電極の両方の上または隣に設けられる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記結晶化を開始するための1つ以上の部位が脱濡れ材料の境界によって与えられる請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記結晶領域または各結晶領域が、その結晶化部位から前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル領域の全長にわたって成長する請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記結晶領域または各結晶領域が、前記ソース電極と前記ドレイン電極とを直接結ぶ想像線からプラスマイナス20°の方向に合わされた最大コンダクタンスの軸を有する請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記有機半導体の溶液が、100℃ないし200℃の範囲に沸点を有する溶媒を含む請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記有機半導体の溶液が、0.5%ないし5%の範囲に有機半導体濃度を有する請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記制御ステップの際の周囲温度が、25℃ないし100℃の範囲になるように制御される請求項1ないし13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記制御された周囲温度が10秒ないし10分の範囲の間、適用される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記結晶領域または各結晶領域が単結晶からなる請求項1ないし15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
チャネル領域が間にあるソース電極およびドレイン電極と、
ゲート電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極と前記ゲート電極との間に配置された誘電体層と、
有機半導体層と、
を備え、
前記チャネル領域の外側の表面が、結晶化を開始するための1つ以上の部位を備え、前記有機半導体が前記1つ以上の部位および前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル領域の上に配置されており、前記有機半導体が、前記1つ以上の結晶化部位から前記チャネル領域上を延びる1つ以上の結晶領域を備える有機薄膜トランジスタ。
【請求項18】
前記結晶化を開始するための1つ以上の部位が前記チャネル領域のソース電極側もしくはドレイン電極側のいずれかまたは両方に設けられる請求項17に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項19】
前記結晶化を開始するための1つ以上の部位が前記ソース電極、前記ドレイン電極、または前記ソース電極およびドレイン電極の両方の上または隣に設けられる請求項18に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項20】
前記結晶化を開始するための1つ以上の部位が脱濡れ材料の境界によって与えられる請求項17ないし19のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項21】
前記結晶領域または各結晶領域が、その結晶化部位から前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記チャネル領域の全長にわたって延びる請求項17ないし20のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項22】
前記結晶領域または各結晶領域が、前記ソース電極と前記ドレイン電極とを直接結ぶ想像線からプラスマイナス20°の方向に合わされた最大コンダクタンスの軸を有する請求項17ないし21のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項23】
前記結晶領域または各結晶領域が単結晶からなる請求項17ないし22のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項24】
請求項17ないし23のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタを備える有機発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−524394(P2012−524394A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505218(P2012−505218)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000739
【国際公開番号】WO2010/119243
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】