説明

有機薄膜トランジスタ及び有機薄膜発光トランジスタ

【課題】大気中の安定性に優れ、かつ動作速度が大きい有機薄膜トランジスタが望まれている。
【解決手段】この有機薄膜トランジスタは、基板上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子と、ソース電極及びドレイン電極とゲート電極との間を絶縁する絶縁体層と、有機半導体層とが設けられていて、ゲート電極に印加された電圧によりソース−ドレイン間電流を制御する有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の結晶性を制御する結晶性化合物から成膜される結晶性制御層を備え、該結晶性制御層上に、複素環基を有する化合物またはキノン構造を有する化合物を含んでなる有機半導体層が成膜されていることを特徴とするものである。また、前記有機薄膜トランジスタのソース電極とドレイン電極のうち、いずれか一方を正孔注入性電極で構成し、残りの電極を電子注入性電極で構成したことを特徴とする有機薄膜発光トランジスタを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のものより大気中の安定性に優れ、かつ動作速度が大きい有機薄膜トランジスタ及びこれを利用した有機薄膜発光トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(以下、TFTと略称する)は、液晶表示装置などの表示用のスイッチング素子として広く用いられている。代表的なTFTの断面構造を図11に示す。同図に示したTFTは、基板上にゲート電極及び絶縁体層、有機半導体層をこの順に有し、有機半導体層上に、所定の間隔をあけて形成されたソース電極及びドレイン電極を有している。このような構成のTFTでは、有機半導体層がチャネル領域を成しており、ゲート電極に印加される電圧でソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御されることによってオン/オフ動作するようになっている。
従来、このようなTFTは、アモルファスや多結晶のシリコンを用いて作製されていたが、このようなシリコンを用いたTFTの作製に用いられるCVD装置は非常に高額であるため、TFTを用いた表示装置などを大型化するうえで製造コストの大幅な増加を伴うという問題点があった。また、アモルファスや多結晶のシリコンを成膜するプロセスは非常に高い温度下で行われるので、基板として使用可能な材料の種類が限られてしまうため、軽量であるにも拘わらず樹脂基板などを使用できないという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、アモルファスや多結晶のシリコンに代えて有機物を用いたTFTが提案されている。有機物でTFTを形成する際に用いる成膜方法として真空蒸着法や塗布法などが知られているが、これらの成膜方法によれば、製造コストの上昇を抑えつつ素子の大型化が実現可能になり、成膜時に必要となるプロセス温度を比較的低温にすることができる。このため、有機物を用いたTFTでは、基板に用いる材料の選択時の制限が少ないといった利点があるためにその実用化が期待されており、有機物を用いたTFTについて、例えば非特許文献1〜4などを挙げることができる。また、TFTの有機化合物層に用いる有機物としては、p型では共役系ポリマーやチオフェンなどの多量体(特許文献1)、ペンタセンなどの縮合芳香族炭化水素(特許文献2)などが用いられている。また,n型FETの材料では、例えば、特許文献3には、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシルジアンヒドライド(NTCDA)、11,11,12,12-テトラシアノナフト-2,6- キノジメタン(TCNNQD)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシルジイミド(NTCDI)等が開示されている。
【0004】
一方、同じように電気伝導を用いるデバイスとして有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子があるが、有機EL素子が、一般に100nm以下の超薄膜の膜厚方向に105V/cm以上の強電界をかけ強制的に電荷を流しているのに対し、有機TFTの場合には数μm以上の距離を105V/cm以下の電界で高速に電荷を流す必要があり、有機化合物自体に、さらなる電導性が必要になる。しかしながら、従来の有機TFTに用いる有機化合物は電界効果移動度が小さく、動作速度が遅く、トランジスタとしての高速応答性に問題があった。また、オン/オフ比も小さかった。ここで言うオン/オフ比とは、ゲート電圧をかけたとき(オン)のソース−ドレイン間に流れる電流を、ゲート電圧をかけないとき(オフ)のソース−ドレイン間に流れる電流で割った値である。オン電流とは通常ゲート電圧を増加させていき、ソース−ドレイン間に流れる電流が飽和したときの電流値(飽和電流)のことである。
【0005】
また、これまでの化合物は有機TFT素子において大気中での安定性に欠けるという欠点がある。例として、代表的な有機半導体薄膜としては、ペンタセン薄膜を使用したものが最も高いキャリア移動度が知られているが、大気中に保存しておくとキャリア移動度が小さくなり、またオン/オフ比も著しく小さくなるという欠点があり、これらの改善が望まれていた。
【0006】
他方で、ペンタセン上にルブレンを成膜した例が2件知られている。一件は非特許文献(J. H. Seoら, Applied Physics Letters, 89巻, 163505頁, 2006年)であり、ペンタセン(10nm)/ルブレン(40nm)を積層した有機薄膜トランジスタが開示されている。この場合、ペンタセンを10nm成膜すると連続膜が形成されてペンタセンにチャネルが形成される。上記の有機TFTはペンタセンの移動度が観測されている。別の一件は非特許文献(M. Haemoriら, Japanese Journal of Applied Physics,44巻,3740頁,2005年)であり、ペンタセン/ルブレン(23nm)を積層した有機薄膜トランジスタが開示されているが、ペンタセンやルブレンのみを使ったTFTよりも移動度が小さい。
【0007】
【特許文献1】特開平8-228034号公報
【特許文献2】特開平5-55568号公報
【特許文献3】特開平10-135481号公報
【非特許文献1】C.D. Dimitrakopoulosら,IBM J. RES. & DEV. 45巻 1号,11頁,2001年
【非特許文献2】Horowitzら,Advanced Materials,8巻,3号, 242頁,1996年
【非特許文献3】H. Fuchigamiら,Applied Physics Letter,63巻,1372頁,1993年
【非特許文献4】Lay-Lay Chuaら,Nature,434巻,2005年3月10日号,194頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、従来のものより大気中の安定性に優れ、かつ動作速度が大きい有機TFTを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、有機半導体層の結晶性を制御する結晶性制御層上に有機半導体層を成膜することにより、動作速度を高速化することができること、大気中保存で安定になることを見出し、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明は、基板上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子と、ソース電極及びドレイン電極とゲート電極との間を絶縁する絶縁体層と、有機半導体層とが設けられていて、ゲート電極に印加された電圧によりソース−ドレイン間電流を制御する有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の結晶性を制御する結晶性化合物から成膜される結晶性制御層を備え、該結晶性制御層上に、複素環基を有する化合物又はキノン構造を有する化合物を含んでなる有機半導体層が成膜されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、前記した有機薄膜トランジスタの構成を備え、該有機薄膜トランジスタのソース電極とドレイン電極のうち、いずれか一方を正孔注入性電極で構成し、残りの電極を電子注入性電極で構成したことを特徴とする有機薄膜発光トランジスタを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機薄膜トランジスタによれば、結晶性制御層が自身の上に成膜される有機半導体層の結晶性を制御して有機半導体層の結晶秩序度を向上化するので、キャリア移動度を高めることができる。併せて分子のパッキングが密になることにより大気成分の侵入を防いで大気中での安定性を向上化させることができる。その結果、動作速度が高速化されて大気中での安定性に優れた性能の高いトランジスタとして提供される。また、動作速度が高速であることから、有機薄膜発光トランジスタにも好適に適用されて提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る有機薄膜トランジスタ(以下、有機TFTと略称する)の実施形態について詳細に説明する。
[1.基本素子構成]:
本発明の有機TFTの素子構成としては、基板上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子、絶縁体層、結晶性制御層及び有機半導体層が設けられ、結晶性制御層上に有機半導体層が積層されており、ソース−ドレイン間電流をゲート電極に電圧を印加することによって制御するTFTであれば、特に限定されない。公知の素子構成を基本とするものあっても良い。本発明ではこれらの有機半導体層を設ける前に有機半導体層の下地として結晶性制御層を設け、その上に有機半導体層をこの順で積層することを特徴とする。代表的な有機TFTの基本素子構成を基にして本発明の構成素子A〜Dを図1〜4に示す。このように、電極の位置、層の積層順などによりいくつかの公知の基本構成が知られており、本発明の有機TFTは、電界効果トランジスタ(FET: Field Effect Transistor)構造を有している。有機TFTは、有機半導体層(有機化合物層)と、相互に所定の間隔をあけて対向するように形成されたソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極との間に少なくとも絶縁体層を介して形成されたゲート電極とを有し、ゲート電極に電圧を印加することによってソース−ドレイン電極間に流れる電流を制御するようになっている。ここで、ソース電極とドレイン電極との間隔は本発明の有機TFTを用いる用途によって決定され、通常は0.1μm〜1mm、好ましくは1μm〜100μm、更に好ましくは5μm〜100μmである。
素子A〜Dのうち、図3の素子Cを例として更に詳しく説明すると、素子Cの有機TFTは、基板上に、ゲート電極、絶縁体層、結晶性制御層、有機半導体層をこの順に有し、有機半導体層上に、所定の間隔をあけて形成された一対のソース電極及びドレイン電極を有している。有機半導体層がチャネル領域を成しており、ゲート電極に印加される電圧でソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御されることによってオン/オフ動作する。
本発明の有機TFTは、前記素子A〜D以外の素子構成にも、有機TFTとして種々の構成が提案されており、ゲート電極に印加される電圧でソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御されることによってオン/オフ動作や増幅などの効果が発現する仕組みであれば、前記した素子A〜Dの素子構成に限定されるものではない。例えば、産業技術総合研究所の吉田らにより第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集27a−M−3(2002年3月)において提案されたトップアンドボトムコンタクト型有機TFT(図5参照)や、千葉大学の工藤らにより電気学会論文誌118−A(1998)1440頁において提案された縦形の有機TFT(図6参照)のような素子構成を有するものを基本構成とし、有機半導体層の下地として結晶性制御層を先に設け、その上に有機半導体層を積層すればよい。
【0013】
[2.結晶性制御層]:
「1.結晶性制御層の機能」;
結晶性制御層の働きは、その上に成膜される有機半導体層の結晶性を制御して結晶性(秩序度)を向上させることにより、キャリア移動度を向上させること、及び分子のパッキングが密にあることにより大気成分の侵入を防ぎ、大気中での安定性を向上させることである。
【0014】
「2.結晶性制御層に用いる材料」;
結晶性制御層に用いられる材料としては成膜過程において結晶粒(グレイン)を形成することができれば特に制限はないが、 グレインが基板と直角の方向のみならず平行の方向へも成長するものが望ましい。基板と直角の方向にだけ高く成長すると、その上に成長する有機半導体膜のチャネル部分の凹凸が激しくなり電流を流すことの妨げになることに加え,有機半導体層自体のグレインもその影響を受け、高く成長して膜の連続性が劣ることとなる。これらのことから、結晶性制御層に用いられる材料系としては、置換基を有してもよい、縮合環化合物、ヘテロ縮合環化合物、芳香族多環化合物からなることが望ましい。これら縮合環化合物、ヘテロ縮合環化合物、芳香族多環化合物では炭素数が6〜60であるものが望ましい。更に望ましくは炭素数が6〜30であり6〜20であれば特段によい。これは環数が多くなると分子のねじれが大きくなり、結晶制御層自体の結晶性が低下するためである。具体的には以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0015】
前記の縮合環化合物としては、例えば、アセン類:ナフタレン,アントラセン,テトラセン,ペンタセン,ヘキサセン,ヘプタセンなど、以下の一般式(2)で表わされる化合物が挙げられる。
【化1】

一般式(2)において、n=2〜20である。
前記一般式(2)の化合物は、具体的には、フェナントレン ,クリセン ,トリフェニレン ,テトラフェン ,ピレン ,ピセン ,ペンタフェン ,ペリレン ,ヘリセン ,コロネンである。
また、上記の芳香族多環化合物としては、例えば、ビフェニル ,ターフェニル,クォーターフェニル,セキシフェニルなど、トリフェニルメタン、フェノールフタレインなどが挙げられる。
そして、上記のヘテロ縮合環化合物としては、例えば、キノリン,キノキサリン,ナフチリジン,フェナジン,カルバゾール,ジアザアントラセン,ピリドキノリン,ピリミドキナゾリン,ピラジノキノキサリン,フェナントロリン,ジベンゾチオフェン,チエノチオフェン,ジチエノチオフェン,ベンゾジチオフェン,ジベンゾフラン,ベンゾジフラン,ジチアインダセン,ジチアインダセン,ジチアインデノインデン,ジベンゾセレノフェン,ジセレナインダセン,ジセレナインデノインデン,ジベンゾシロールなどが挙げられる。
【0016】
「3.結晶形態」;
結晶性制御層の望ましい形態としては少なくとも結晶粒(グレイン)を有していることである。結晶性制御層の結晶性が強いことで、その上に成膜される有機半導体層の結晶性も向上する。すなわち、グレインの大きさを10〜0.02μm、好ましくは2〜0.05μm程度に制御することにより、有機半導体層の結晶性を向上させることができる。また、結晶性制御層を形成するグレイン内の結晶性を向上させるため、結晶性制御層を成膜する前に予め基板あるいはゲート絶縁膜などの下地層の上に、オクタデシルトリクロロシラン(OTS),ヘキサメチルジシラザン(HMDS),フッ素置換オクタデシルトリクロロシラン(PFOTS),β-フェネチルトリクロロシラン(β-Phe),γ-プロピルトリエトキシシラン(APTES)などの自己組織化単分子層を形成しておいて、結晶性制御層のグレインの結晶性を向上させるようにしてもよい。
【0017】
「4.膜厚」;
結晶性制御層が有機半導体層の結晶を制御するための膜厚の制限は無い。しかしながら、結晶性制御層の膜厚が厚いと材料によっては有機TFTのチャネルが結晶性制御層にも形成され、移動度向上の効果が発現しない。したがって、膜厚は薄いことが望ましく,望ましい平均膜厚は0.01〜10nmであり、更に望ましくは平均膜厚0.05〜5nmである。ここで,平均膜厚とは、水晶振動式成膜モニターやAFMで求めた平均の膜厚である。例えばペンタセンをSiO2上に成膜すると、分子はほぼ一分子層あたり1.4〜1.5nmで積層されていると報告されている(C. D. Dimitrakopoulos, A. R. Brown, and A. Pomp,"Molecular Beam Deposited Thin Films of Pentacene for Organic Field Effect Transistor Applications," J. Appl. Phys. 80, 2501 (1996). )。したがって、結晶性制御層としてペンタセンを用いて平均膜厚が一分子層以下の数字をとった場合,基板上にペンタセンが数分子層堆積している部分と全く堆積していない部分とが存在する島状構造をとる(G.Yoshikawa et.al , Surf. Sci. 600 (2006) 2518)。本発明において我々は鋭意検討した結果,結晶性制御層が前記の島状構造をとれば、その上に成膜する有機半導体層の全体にわたって結晶性を向上させることができることを見出した。また、これまで基板やゲート絶縁膜上に直接有機半導体膜を成膜すると、下地層(基板やゲート絶縁膜)の表面エネルギーが場所により不均一であるため、その上に有機半導体を成膜してもトランジスタ性能が悪いという欠点があった。島状構造は表面エネルギーがよく制御された部位を下地に成長させることにより、結晶性制御層自体にチャネルが形成され電流が流れることによる移動度低下を招くことを防止できるという点において望ましい形態である。一方、前述のように有機TFTのチャネル内において結晶性制御層の膜厚が厚いところと薄いところの差が大きすぎると、電流の円滑な流れが妨げられ移動度が向上しない。そこで、チャネル内での結晶性制御層の最大膜厚を0.3〜30nmの範囲にとれば、有機半導体層の結晶性向上に効果がある。この場合、島状構造をとってもよいので、膜厚の最小値は0としている。
【0018】
[3.有機半導体層]:
本発明で用いられる有機半導体層は複素環基を有する化合物あるいはキノン構造を有する化合物を含む以外には特に制限を受けるものではない。上記の化合物群は実質的にヘテロ原子まで共役系がおよんでいる。我々は鋭意研究の結果、有機半導体が複素環基を有する化合物あるいはキノン構造を有する化合物を含んでいる場合、結晶制御層がその機能を発現し移動度と保存安定性の向上が得られることを見出した。一般に開示されている有機TFTに用いられる複素環基あるいはキノン構造を有する有機半導体を用いることができる。かかる有機化合物として以下に具体例を示す。
チオフェン環を含む化合物としては、例えば、α−4T,α−5T,α−6T,α−7T,α−8Tの誘導体などの置換基を有してもよいチオフェンオリゴマーや、ポリヘキシルチオフェン,ポリ(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル-コ−ビチオフェン)などのチオフェン系高分子や、ビスベンゾチオフェン誘導体,α,α'-ビス(ジチエノ[3,2-b:2',3'-d]チオフェン),ジチエノチオフェン−チオフェンのコオリゴマー、ペンタチエノアセンなどの縮合オリゴチオフェン特にチエノベンゼン骨格又はジチエノベンゼン骨格を有する化合物,ジベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体が好ましい。更に好ましいのは、有機半導体が下記の一般式(1)で表わされる化合物から構成されていることである。
【化2】

式中、R1〜R10はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のハロアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数1〜30のハロアルコキシル基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数2〜60のジアルキルアミノ基(アルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成していても良い)、炭素数1〜30のアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のハロアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のハロアルキルチオ基、炭素数3〜30のアルキルシリル基、炭素数6〜60の芳香族炭化水素基、又は炭素数1〜60の芳香族複素環基であり、これらの各基は置換基を有していても良い。
【0019】
前記した化合物(1)の具体例を以下の一般式(3)〜(32)で例示するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
あるいは、セレノフェンオリゴマー,無金属フタロシアニン,銅フタロシアニン,フッ素化銅フタロシアニン,鉛フタロシアニン,チタニルフタロシアニン,白金ポルフィリン,ポルフィリン,ベンゾポルフィリンなどのポルフィリン類,N,N'-ジフェニル-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド, N,N'-ジオクチル-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(C8−PTCDI), NTCDA,1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシルジイミド(NTCDI)などのテトラカルボン酸類,テトラチアフルバレン(TTF)及びその誘導体が挙げられる。ベンゾフラン,ジベンゾフランなどを含む化合物である。
また、上記のキノン類としては、例えば、テトラシアノキノジメタン(TCNQ),11,11,12,12-テトラシアノナフト-2,6-キノジメタン(TCNNQ)らのキノイドオリゴマー,アントラキノンなどが挙げられる。
【0023】
[4.有機半導体の膜厚及び成膜方法]:
本発明の有機TFTにおける有機半導体層の膜厚は、特に制限されることはないが、通常、0.5nm〜1μmであり、2nm〜250nmであると好ましい。また、有機半導体層の形成方法は特に限定されることはなく公知の方法を適用できる。例えば、分子線蒸着法(MBE法)、真空蒸着法、化学蒸着、材料を溶媒に溶かした溶液のディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法などの印刷、塗布法及びベーキング、エレクトロポリマラインゼーション、分子ビーム蒸着、溶液からのセルフ・アセンブリ、及びこれらの組合せた手段により、前記したような有機半導体層の材料から形成される。有機半導体層の結晶性を向上させると電界効果移動度が向上するため、気相からの成膜(蒸着、スパッタなど)を用いる場合は成膜中の基板温度を高温に保持することが望ましい。その温度は50〜250℃が好ましく、70〜150℃であると更に好ましい。また、成膜方法に関わらず成膜後にアニーリングを実施すると、高性能デバイスが得られるために好ましい。アニーリングの温度は50〜200℃が好ましく、70〜200℃であると更に好ましく、時間は10分〜12時間が好ましく、1〜10時間であると更に好ましい。
【0024】
[5.結晶性制御層および有機半導体層に用いられる有機化合物の純度]:
また、トランジスタのような電子デバイスにおいては材料の純度の高いものを用いることにより電界効果移動度やオン/オフ比の高いデバイスを得ることができる。したがって、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、再結晶、蒸留、昇華などの手法により原材料に精製を加えることが望ましい。好ましくはこれらの精製方法を繰り返し用いたり、複数の方法を組み合わせたりすることにより純度を向上させることが可能である。更に、精製の最終工程として昇華精製を少なくとも2回以上繰り返すことが望ましい。これらの手法を用いることにより高速液体クロマトグラフ(HPLC)で測定した純度90%以上の材料を用いることが好ましく、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の材料を用いることにより、有機TFTの電界効果移動度やオン/オフ比を高め、本来材料の持っている性能を引き出すことができる。
【0025】
[6.結晶性制御層と有機半導体層の望ましい組み合わせ]:
結晶性制御層は平均膜厚0.01〜10nmであり、ソース電極−ドレイン電極間のチャネル領域内での膜厚の最大値が0.3〜30nmの範囲であれば、特に材料の組合せに制限は無く移動度や安定性能の向上が得られるが、特に望ましい組合せは以下の通りである。結晶性制御層と有機半導体は表面エネルギーの値が近いものを用いることが望ましい。表面エネルギーの値が近い場合は結晶性制御層と有機半導体とが同様な結晶化傾向を持つため、有機半導体層の結晶性及びグレインサイズを向上させることができる。表面エネルギーの差は0〜30mN/mであることが好ましく、0〜20mN/m以内であることが更に望ましい。表面エネルギー差が大きいと、有機半導体層のグレインの成長方向が垂直方向に偏り、膜の連続性やチャネルの平滑性が劣ることとなるので、移動度が向上しなくなったり、有機半導体の結晶性が悪くなって分子が揃わずトランジスタ性能を発現しなくなったりする。
【0026】
以下に好ましい組み合わせの具体例を示すが、本発明はそれに限定されるものでない。
第一の好ましい組み合わせは、結晶性制御層が縮合環化合物であり、有機半導体層がチオフェン環を含む化合物である結晶性制御層が、アントラセン,テトラセン,ペンタセン,ヘキサセンのうちのいずれかから選ばれ、有機半導体層がα−4T,α−5T,α−6T,α−7T,α−8Tの誘導体あるいはチエノベンゼン骨格又はジチエノベンゼン骨格を有する化合物,ジベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体から選ばれる場合が特に好ましい。最も好ましいのは結晶性制御層がアントラセン,テトラセン,ペンタセン,ヘキサセンのうちいずれかから選ばれたもので構成され、有機半導体が下記の一般式(1)の化合物で構成された組み合わせである。
【化6】

(式中、R1〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のハロアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数1〜30のハロアルコキシル基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数2〜60のジアルキルアミノ基(アルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成していても良い)、炭素数1〜30のアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のハロアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のハロアルキルチオ基、炭素数3〜30のアルキルシリル基、炭素数6〜60の芳香族炭化水素基、又は炭素数1〜60の芳香族複素環基であり、これらの各基は置換基を有していても良い。)
【0027】
別の好ましい組み合わせは、結晶性制御層がヘテロ縮合環化合物で構成され、有機半導体層が、テトラシアノキノジメタン(TCNQ),11,11,12,12-テトラシアノナフト-2,6-キノジメタン(TCNNQ)らのキノイドオリゴマー,フタロシアニン類,ポルフィリン類,テトラカルボン酸類,テトラチアフルバレン(TTF)及びその誘導体うちのいずれかから選ばれる場合である。これらの組み合わせは結晶性制御層、有機半導体層ともに極性基を有するため、表面エネルギーが大きい値をとる傾向にある。そのために結局、その表面エネルギー差を小さくとることができる。
【0028】
[7.基板]:
本発明の有機TFTにおける基板は、有機TFTの構造を支持する役目を担うものであり、材料としてはガラスの他、金属酸化物や窒化物などの無機化合物、プラスチックフィルム(PET,PES,PC)や、金属基板、又はこれら複合体や積層体などを用いることが可能である。また、基板以外の構成要素により有機TFTの構造を十分に支持し得る場合には、基板を使用しないことも可能である。また、基板の材料としてはシリコン(Si)ウエハが用いられることが多い。この場合、Si自体をゲート電極兼基板として用いることができる。また、Siの表面を酸化し、SiO2を形成して絶縁層として活用することも可能である。この場合、図7に示すように、基板兼ゲート電極のSi基板にリード線接続用の電極として、Auなどの金属層を成膜することもある。
【0029】
[8.電極]:
本発明の有機TFTにおける、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の材料としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金,金,銀,ニッケル,クロム,銅,鉄,錫,アンチモン鉛,タンタル,インジウム,パラジウム,テルル,レニウム,イリジウム,アルミニウム,ルテニウム,ゲルマニウム,モリブデン,タングステン,酸化スズ・アンチモン,酸化インジウム・スズ(ITO),フッ素ドープ酸化亜鉛,亜鉛,炭素,グラファイト,グラッシーカーボン,銀ペースト及びカーボンペースト,リチウム,ベリリウム,ナトリウム,マグネシウム,カリウム,カルシウム,スカンジウム,チタン,マンガン,ジルコニウム,ガリウム,ニオブ,ナトリウム−カリウム合金,マグネシウム/銅混合物,マグネシウム/銀混合物,マグネシウム/アルミニウム混合物,マグネシウム/インジウム混合物,アルミニウム/酸化アルミニウム混合物,リチウム/アルミニウム混合物などが用いられる。
【0030】
前記電極の形成方法としては、例えば、蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、大気圧プラズマ法、イオンプレーティング、化学気相蒸着、電着、無電解メッキ、スピンコーティング、印刷又はインクジェットなどの手段により形成される。また、必要に応じてパターニングする方法としては、上記の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェットなどにより、レジストを形成しエッチングする方法がある。このようにして形成された電極の膜厚は電流の導通さえあれば特に制限はないが、好ましくは0.2nm〜10μm、更に好ましくは4nm〜300nmの範囲である。この好ましい範囲内であれば、膜厚が薄いことにより抵抗が高くなり電圧降下を生じるといったことがない。また、厚すぎないため膜形成に時間がかからず、保護層や有機半導体層など他の層を積層する場合に、段差が生じることが無く積層膜を円滑に形成できる。
【0031】
本発明の有機TFTにおいて、上記とは別のソース電極、ドレイン電極,ゲート電極およびその形成方法としては、上記の導電性材料を含む、溶液、ペースト、インク、分散液などの流動性電極材料を用いて形成したもの、特に、導電性ポリマー、又は白金、金、銀、銅を含有する金属微粒子を含む流動性電極材料が好ましい。この場合に用いる溶媒や分散媒体としては、有機半導体層へのダメージを抑制するため、水を60質量%以上、好ましくは90質量%以上含有する溶媒又は分散媒体であることが好ましい。金属微粒子を含有する分散物としては、例えば、公知の導電性ペーストなどを用いても良いが、通常粒子径が0.5nm〜50nm、1nm〜10nmの金属微粒子を含有する分散物であるのが好ましい。この金属微粒子の材料としては、例えば、白金,金,銀,ニッケル,クロム,銅,鉄,錫,アンチモン鉛,タンタル,インジウム,パラジウム,テルル,レニウム,イリジウム,アルミニウム,ルテニウム,ゲルマニウム,モリブデン,タングステン,亜鉛などを用いることができる。これらの金属微粒子を、主に有機材料からなる分散安定剤を用いて、水や任意の有機溶剤である分散媒中に分散した分散物を用いて電極を形成するのが好ましい。このような金属微粒子の分散物の製造方法としては、ガス中蒸発法、スパッタリング法、金属蒸気合成法などの物理的生成法や、コロイド法、共沈法などの、液相で金属イオンを還元して金属微粒子を生成する化学的生成法が挙げられ、好ましくは、特開平11−76800号公報、特開平11−80647号公報、特開平11−319538号公報、特開2000−239853号公報などに示されたコロイド法、特開2001−254185号公報、特開2001−53028号公報、特開2001−35255号公報、特開2000−124157号公報、特開2000−123634号公報などに記載されたガス中蒸発法である。
これらの金属微粒子分散物を用いて直接インクジェット法によりパターニングしても良く、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成しても良い。また、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。前記電極を成形し、溶媒を乾燥させた後、必要に応じて100℃〜300℃、好ましくは150℃〜200℃の範囲で形状様に加熱することにより、金属微粒子を熱融着させて目的の形状を有する電極パターンを形成することができる。
【0032】
更に、別のゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の材料としては、ドーピングなどで導電率を向上させた公知の導電性ポリマーを用いることも好ましく、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体など)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸の錯体などを好適に用いることができる。これらの材料によって、ソース電極およびドレイン電極と有機半導体層との接触抵抗を低減することができる。これら電極の形成方法もインクジェット法によりパターニングして良く、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成しても良い。また、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0033】
特に、ソース電極及びドレイン電極を形成する材料は、前述した例の中でも有機半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。この際の電気抵抗は、すなわち電流制御デバイスを作製したときの電界効果移動度と対応しており、大きな移動度を得る為には出来るだけ抵抗が小さいことが必要である。これは、一般に電極材料の仕事関数と有機半導体層のエネルギー準位との大小関係で決まる。
ここで、電極材料の仕事関数(W)をa、有機半導体層のイオン化ポテンシャルを(Ip)をb、有機半導体層の電子親和力(Af)をcとすると、以下の関係式を満たすことが好ましい。ここで、a、b及びcはいずれも真空準位を基準とする正の値である。
【0034】
p型有機TFTの場合には、
b−a < 1.5eV (I)

であることが好ましく、更に好ましくは b−a < 1.0eV である。
有機半導体層との関係において上記関係が維持できれば高性能なデバイスを得ることができるが、特に電極材料の仕事関数はできるだけ大きいことものを選ぶことが好ましく、仕事関数4.0eV以上であることが好ましく、更に好ましくは仕事関数4.2eV以上である。
【0035】
金属の仕事関数の値は、例えば化学便覧 基礎編II−493頁(改訂3版 日本化学会編 丸善株式会社発行1983年)のリストに記載されている4.0eV、又はそれ以上の仕事関数をもつ有効金属の前記リストから選別すれば良い。高仕事関数金属は、主としてAg(4.26,4.52,4.64,4.74eV),Al(4.06,4.24,4.41eV),Au(5.1,5.37,5.47eV),Be(4.98eV),Bi(4.34eV),Cd(4.08eV),Co(5.0eV),Cu(4.65eV),Fe(4.5,4.67,4.81eV),Ga(4.3eV),Hg(4.4eV),Ir(5.42,5.76eV),Mn(4.1eV),Mo(4.53,4.55,4.95eV),Nb(4.02,4.36,4.87eV),Ni(5.04,5.22,5.35eV),Os(5.93eV),Pb(4.25eV),Pt(5.64eV),Pd(5.55eV),Re(4.72eV),Ru(4.71eV),Sb(4.55,4.7eV),Sn(4.42eV),Ta(4.0,4.15,4.8eV),Ti(4.33eV),V(4.3eV),W(4.47,4.63,5.25eV),Zr(4.05eV)である。これらの中でも、貴金属(Ag,Au,Cu,Pt),Ni,Co,Os,Fe,Ga,Ir,Mn,Mo,Pd,Re,Ru,V,Wが好ましい。金属以外では、ITO、ポリアニリンやPEDOT:PSSのような導電性ポリマー及び炭素が好ましい。電極材料としてはこれらの高仕事関数の物質を1種又は複数含んでいても、仕事関数が前記の式(I)を満たせば特に制限を受けるものではない。
【0036】
n型有機TFTの場合には、
a−c < 1.5eV (II)

であることが好ましく、更に好ましくは、a−c < 1.0eV である。
例えば、金属として仕事関数が大きなAu(5.1,5.37,5.47eV)を用いたときでも有機半導体の電子親和力が4.2eVの材料を用いれば、式(II)の関係が成り立つ。
有機半導体層との関係において上記関係が維持できれば高性能なデバイスを得ることができるが、特に電極材料の仕事関数はできるだけ小さいものを選ぶことが好ましく、仕事関数4.3eV以下であることが好ましく、更に好ましくは仕事関数3.7eV以下である。
【0037】
低仕事関数金属の具体例としては、例えば化学便覧 基礎編II−493頁(改訂3版 日本化学会編 丸善株式会社発行1983年)のリストに記載されている4.3eV、又はそれ以下の仕事関数をもつ有効金属の前記リストから選別すれば良く、Ag(4.26eV),Al(4.06,4.28eV),Ba(2.52eV),Ca(2.9eV),Ce(2.9eV),Cs(1.95eV),Er(2.97eV),Eu(2.5eV),Gd(3.1eV),Hf(3.9eV),In(4.09eV),K(2.28),La(3.5eV),Li(2.93eV),Mg(3.66eV),Na(2.36eV),Nd(3.2eV),Rb(4.25eV),Sc(3.5eV),Sm(2.7eV),Ta(4.0,4.15eV),Y(3.1eV),Yb(2.6eV),Zn(3.63eV)などが挙げられる。これらの中でも、Ba,Ca,Cs,Er,Eu,Gd,Hf,K,La,Li,Mg,Na,Nd,Rb,Y,Yb,Znが好ましい。電極材料としてはこれらの低仕事関数の物質を1種又は複数含んでいても、仕事関数が前記式(II)を満たせば特に制限を受けるものではない。ただし、低仕事関数金属は、大気中の水分や酸素に触れると容易に劣化してしまうので、必要に応じてAgやAuのような空気中で安定な金属で被覆することが望ましい。被覆に必要な膜厚は10nm以上必要であり、膜厚が厚くなるほど酸素や水から保護することができるが、実用上、生産性を上げるなどの理由から1μm以下にすることが望ましい。
【0038】
また、本実施形態の有機薄膜トランジスタでは、例えば、注入効率を向上させる目的で、有機半導体層とソース電極及びドレイン電極との間に、バッファ層を設けても良い。バッファ層として、n型有機薄膜トランジスタに関しては、有機ELの陰極に用いられるLiF、Li2O、CsF、NaCO3、KCl、MgF2、CaCO3などのアルカリ金属、アルカリ土類金属イオン結合を持つ化合物が望ましい。また、Alqなど有機ELで電子注入層、電子輸送層として用いられる化合物を挿入しても良い。
【0039】
p型有機薄膜トランジスタに係るバッファ層としては、FeCl3,TCNQ,F4−TCNQ,HATなどのシアノ化合物や、CFxや、GeO2,SiO2,MoO3,V25,VO2,V23,MnO,Mn34,ZrO2,WO3,TiO2,In23,ZnO,NiO,HfO2,Ta25,ReO3,PbO2などのアルカリ金属、アルカリ土類金属以外の金属酸化物、ZnS,ZnSeなどの無機化合物が望ましい。多くの場合、これらの酸化物は酸素欠損を起こし、これが正孔注入に好適である。更にはTPDやNPDなどのアミン系化合物や、CuPcなど有機EL素子において正孔注入層、正孔輸送層として用いられる化合物でもよい。また、上記の化合物二種類以上からなるものが望ましい。
【0040】
一般に、バッファ層はキャリアの注入障壁を下げることにより閾値電圧を下げ、トランジスタを低電圧駆動させる効果があることが知られているが、われわれは、本発明の化合物に関して低電圧効果のみならず移動度を向上させる効果があることを見出した。これは、有機半導体層と絶縁体層との界面にはキャリアトラップが存在し、ゲート電圧を印加してキャリア注入が起こると最初に注入したキャリアはトラップを埋めるのに使われるが、バッファ層を挿入することにより、低電圧でトラップが埋められて移動度が向上するためである。バッファ層は電極と有機半導体層との間に薄く存在すればよく、その厚みは0.1nm〜30nm、好ましくは0.3nm〜20nmである。
【0041】
[9.絶縁体層]:
本発明の有機TFTにおける絶縁体層の材料としては、電気絶縁性を有し薄膜として形成できるものであれば特に限定されず、金属酸化物(珪素の酸化物を含む)、金属窒化物(珪素の窒化物を含む)、高分子、有機低分子など、室温での電気抵抗率が10Ωcm以上の材料を用いることができ、特に、比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。かかる皮膜に用いる無機酸化物としては、酸化ケイ素,酸化アルミニウム,酸化タンタル,酸化チタン,酸化スズ,酸化バナジウム,チタン酸バリウムストロンチウム,ジルコニウム酸チタン酸バリウム,ジルコニウム酸チタン酸鉛,チタン酸鉛ランタン,チタン酸ストロンチウム,チタン酸バリウム,フッ化バリウムマグネシウム,ランタン酸化物,フッ素酸化物,マグネシウム酸化物,ビスマス酸化物,チタン酸ビスマス,ニオブ酸化物,チタン酸ストロンチウムビスマス,タンタル酸ストロンチウムビスマス,五酸化タンタル,タンタル酸ニオブ酸ビスマス,トリオキサイドイットリウム及びこれらを組合せたものが挙げられ、酸化ケイ素,酸化アルミニウム,酸化タンタル,酸化チタンが好ましい。また、窒化ケイ素(Si34,SixNy(x、y>0)),窒化アルミニウムなどの無機窒化物も好適に用いることができる。
【0042】
更に、絶縁体層は、アルコキシド金属を含む前駆物質で形成されていても良い。この場合、前駆物質の溶液を、例えば基板に被覆し、これに熱処理を含む化学溶液処理をすることにより絶縁体層が形成される。前記アルコキシド金属における金属としては、例えば、遷移金属、ランタノイド、又は主族元素から選択され、具体的には、バリウム(Ba),ストロンチウム(Sr),チタン(Ti),ビスマス(Bi),タンタル(Ta),ジルコン(Zr),鉄(Fe),ニッケル(Ni),マンガン(Mn),鉛(Pb),ランタン(La),リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs),フランシウム(Fr),ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ニオブ(Nb) ,タリウム(Tl),水銀(Hg),銅(Cu),コバルト(Co),ロジウム(Rh),スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)などが挙げられる。また、前記アルコキシド金属におけるアルコキシドとしては、例えば、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,ブタノール,イソブタノールなどを含むアルコール類、メトキシエタノール,エトキシエタノール,プロポキシエタノール,ブトキシエタノール,ペントキシエタノール,ヘプトキシエタノール,メトキシプロパノール,エトキシプロパノール,プロポキシプロパノール,ブトキシプロパノール,ペントキシプロパノール,ヘプトキシプロパノールを含むアルコキシアルコール類などから誘導されるものが挙げられる。
本発明において、上記したような材料で絶縁体層を構成すると、絶縁体層中に分極が発生しやすくなり、トランジスタ動作の閾電圧を低減することができる。また、上記材料の中でも、特に、Si34,SixNy,SiONx(x、y>0)などの窒化ケイ素で絶縁体層を形成すると、分極がいっそう発生しやすくなり、トランジスタ動作の閾電圧を更に低減させることができる。
【0043】
有機化合物を用いた絶縁体層としては、ポリイミド,ポリアミド,ポリエステル,ポリアクリレート,光ラジカル重合系,光カチオン重合系の光硬化性樹脂,アクリロニトリル成分を含有する共重合体,ポリビニルフェノール,ポリビニルアルコール,ノボラック樹脂,及びシアノエチルプルランなどを用いることもできる。その他、ワックス,ポリエチレン,ポリクロロピレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリオキシメチレン,ポリビニルクロライド,ポリフッ化ビニリデン,ポリメチルメタクリレート,ポリサルホン,ポリカーボネート,ポリイミドシアノエチルプルラン,ポリ(ビニルフェノール)(PVP),ポリ(メチルメタクレート)(PMMA),ポリカーボネート(PC),ポリスチレン(PS),ポリオレフィン,ポリアクリルアミド,ポリ(アクリル酸),ノボラック樹脂,レゾール樹脂,ポリイミド,ポリキシリレン,エポキシ樹脂に加え、プルランなどの高い誘電率を持つ高分子材料を使用することも可能である。
【0044】
絶縁体層の材料として、特に好ましいのは撥水性を有する有機化合物であり、撥水性を有することにより絶縁体層と有機半導体層との相互作用を抑え、有機半導体が本来保有している凝集性を利用して有機半導体層の結晶性を高めデバイス性能を向上させることができる。このような例としては、Yasudaら, Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 42 (2003) pp.6614-6618に記載のポリパラキシリレン誘導体や、Janos Veres ら, Chem. Mater., Vol. 16 (2004) pp. 4543-4555に記載のものが挙げられる。
また、図1及び図4に示すようなトップゲート構造を用いるときに、このような有機化合物を絶縁体層の材料として用いると、有機半導体層に与えるダメージを小さくして成膜することができるため有効な方法である。
前記絶縁体層は、前述したような無機又は有機化合物材料を複数用いた混合層であっても良く、これらの積層構造体であっても良い。この場合、必要に応じて誘電率の高い材料と撥水性を有する材料を混合したり積層したりすることにより、デバイスの性能を制御することもできる。
また、前記絶縁体層は、陽極酸化膜、又は該陽極酸化膜を構成の一部に含んでも良い。陽極酸化膜は封孔処理されることが好ましい。陽極酸化膜は、陽極酸化が可能な金属を公知の方法により陽極酸化することにより形成される。陽極酸化処理可能な金属としては、アルミニウム又はタンタルを挙げることができ、陽極酸化処理の方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。陽極酸化処理を行なうことにより、酸化被膜が形成される。陽極酸化処理に用いられる電解液としては、多孔質酸化皮膜を形成することができるものならばいかなるものでも使用でき、一般には、硫酸,燐酸,蓚酸,クロム酸,ホウ酸,スルファミン酸,ベンゼンスルホン酸などあるいはこれらを2種類以上組み合わせた混酸又はそれらの塩が用いられる。陽極酸化の処理条件は使用する電解液により種々変化するので一概に特定し得ないが、一般的には、電解液の濃度1〜80質量%、電解液の温度5〜70℃、電流密度0.5〜60A/cm2、電圧1〜100ボルト、電解時間10秒〜5分の範囲が適当である。好ましい陽極酸化処理は、電解液として硫酸、リン酸又はホウ酸の水溶液を用い、直流電流で処理する方法であるが、交流電流を用いることもできる。これらの酸の濃度は5〜45質量%であることが好ましく、電解液の温度20〜50℃、電流密度0.5〜20A/cm2で20〜250秒間電解処理するのが好ましい。
絶縁体層の厚さとしては、層の厚さが薄いと有機半導体に印加される実効電圧が大きくなるので、デバイス自体の駆動電圧、閾電圧を下げることができるが、逆にソース−ゲート間のリーク電流が大きくなるので、適切な膜厚を選ぶ必要があり、通常10nm〜5μm、好ましくは50nm〜2μm、更に好ましくは100nm〜1μmである。
【0045】
また、前記絶縁体層と有機半導体層の間に、任意の配向処理を施しても良い。その好ましい例としては、絶縁体層表面に撥水化処理などを施し絶縁体層と有機半導体層との相互作用を低減させ有機半導体層の結晶性を向上させる方法であり、具体的には、シランカップリング剤、例えば、ヘキサメチルジシラザン,オクタデシルトリクロロシラン,トリクロロメチルシラザンや、アルカン燐酸,アルカンスルホン酸,アルカンカルボン酸などの自己組織化配向膜材料を、液相又は気相状態で、絶縁膜表面に接触させ自己組織化膜を形成後、適度に乾燥処理を施す方法が挙げられる。また、液晶の配向に用いられるように、絶縁膜表面にポリイミドなどで構成された膜を設置し、その表面をラビング処理する方法も好ましい。
【0046】
前記絶縁体層の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、特開平11−61406号公報、特開平11−133205号公報、特開2000−121804号公報、特開2000−147209号公報、特開2000−185362号公報に記載の大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、それぞれ材料に応じて使用できる。ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を、任意の有機溶剤又は水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。
【0047】
[10.有機TFTの形成プロセス全般]:
本発明の有機TFTの形成方法としては、特に限定されず公知の方法によれば良いが、所望の素子構成に従い、基板投入、ゲート電極形成、絶縁体層形成、結晶性制御層形成、有機半導体層形成、ソース電極形成、ドレイン電極形成までの一連の素子作製工程を全く大気に触れることなく形成すると、大気との接触による大気中の水分や酸素などによる素子性能の阻害を防止できるため好ましい。止むを得ず、一度大気に触れさせなければならないときでも、有機半導体層成膜以後の工程を大気に全く触れさせない工程とし、有機半導体層成膜直前には、有機半導体層を積層する面(例えば素子B(図2参照)の場合は絶縁層に一部ソース電極、ドレイン電極が積層された表面)を紫外線照射、紫外線/オゾン照射、酸素プラズマ、アルゴンプラズマなどで清浄化・活性化した後、有機半導体層を積層することが好ましい。また、p型有機半導体の中には一旦大気に触れさせて酸素などを吸着させることにより性能が向上するものもあるので、材料によっては適宜大気に触れさせても構わない。
更に、例えば、大気中に含まれる酸素、水などの有機半導体層に対する影響を考慮し、有機トランジスタ素子の外周面の全面又は一部に、ガスバリア層を形成しても良い。ガスバリア層を形成する材料としては、この分野で常用されるものを使用でき、例えば、ポリビニルアルコール,エチレン−ビニルアルコール共重合体,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリクロロトリフロロエチレンなどが挙げられる。更に、前記絶縁体層で例示した、絶縁性を有する無機物も使用できる。
【0048】
[11.発光トランジスタ]:
本発明における有機TFTは、ソース電極又はドレイン電極から注入した電荷を用いて発光素子として用いることができる。すなわち、有機TFTを発光素子(有機EL)の機能を兼ねた有機薄膜発光トランジスタとして用いることができる。すなわち、ソース−ドレイン電極間に流れる電流をゲート電極で制御することにより発光強度を制御できるのである。これにより、発光を制御するためのトランジスタと発光素子を統合できるため、ディスプレイの開口率向上や作製プロセスの簡易化によるコストダウンが可能となり実用上の大きなメリットを与える。有機薄膜トランジスタとして用いるときは、結晶性制御層を有する上記詳細な説明で述べた内容で十分であるが、本発明の有機TFTを有機発光トランジスタとして動作させるためには、ソース電極又はドレイン電極のいずれか一方から正孔を注入し、残りの一方から電子を注入する必要があり、発光性能を向上させるため以下の条件を満たすことが好ましい。
【0049】
「発光トランジスタとしてのソース電極、ドレイン電極」;
本発明の有機薄膜発光トランジスタは、正孔の注入性を向上させるため、少なくとも一方の電極は正孔注入性電極とすることが好ましい。正孔注入電極とは上記仕事関数4.2eV以上の物質を含む電極である。また、電子の注入性を向上させるため、少なくとも残りの電極を電子注入性電極とすることが好ましい。電子注入性電極とは上記仕事関数4.3eV以下の物質を含む電極である。更に好ましくは一方が正孔注入性の電極であり、かつ、もう一方が電子注入性の電極を備える有機薄膜発光トランジスタである。
【0050】
「発光トランジスタとしての素子構成」;
本発明の有機薄膜発光トランジスタは、正孔の注入性を向上させるため、少なくとも一方の電極と有機半導体層の間に正孔注入層を挿入することが好ましい。正孔注入層には有機EL素子において、正孔注入材料や正孔輸送材料として用いられるアミン系材料などが挙げられる。また、電子の注入性を向上させるため、少なくとも一方の電極と有機半導体層との間に電子注入性層を挿入すること好ましい。正孔と同じく電子注入層には有機EL素子に用いられる電子注入材料などを用いることができる。更に好ましくは、一方の電極下に正孔注入層を備え、もう一方が電子注入性の電極を備え、正孔注入電極の仕事関数が電子注入電極の仕事関数より大きい電極を備える有機薄膜発光トランジスタである。
【0051】
「発光トランジスタとして特に好ましい有機半導体」;
本発明における有機薄膜発光トランジスタに用いられる最も好ましい有機半導体は以下に示す化合物で構成される。
既に述べたように、下記の一般式(1)で表わされる化合物では移動度が特に向上する傾向がある。また、一般式(1)の化合物自身、光を発することができるので、本発明にて高移動度が得られることにより高効率に発光する。
【化7】

(式中、R1〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のハロアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数1〜30のハロアルコキシル基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数2〜60のジアルキルアミノ基(アルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成していても良い)、炭素数1〜30のアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のハロアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のハロアルキルチオ基、炭素数3〜30のアルキルシリル基、炭素数6〜60の芳香族炭化水素基、又は炭素数1〜60の芳香族複素環基であり、これらの各基は置換基を有していても良い。)
【実施例】
【0052】
次に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。
「化合物(1)の合成」;
化合物(1)の合成経路を以下に示す。
【化8】

300ミリリットルの3つ口フラスコにベンゾ[1,2−b:4,3−b’]ジチオフェニル−2−カルボアルデヒド 3.00g(13.7mmol)、{ベンゾ[1,2−b:4,3−b’]ジチオフェニル−2−イル−メチル}トリフェニルホスホニウムブロマイド 7.50g(13.7mmol)を入れ、アルゴン置換した。これにテトラヒドロフラン 50ml,エタノール 200mlの混合溶液を加えた後、室温にて、カリウムターシャリーブトキサイド 2.30g(20.6mmol)のエタノール溶液 40mlを加え、16時間攪拌した。反応物に、水、10%塩酸(10ml)を加え、濾過により得られた固体をエタノール、へキサンにて洗浄することで粗生成物を得た。更に、昇華精製を行うことで、化合物(1)5.38g(13.3mmol、収率97%)を得た。1H−NMR(90MHz)及びFD−MSの測定結果から、目的物であることを確認した。
【0053】
[実施例1]
「有機TFTの製造」;
有機TFTを以下の手順で作製した。まず、Si基板(n型比抵抗0.02Ωcmゲート電極兼用)を熱酸化法にて表面を酸化させ、基板上に300nmの熱酸化膜を作製して絶縁体層としたものを用意した。この基板をアセトンで約5分間超音波洗浄し、HMDS蒸気に24時間さらして疎水化処理した。次に、上記基板を真空蒸着装置(エイコーエンジニアリング社製、EO−5)に設置して1.2×10-4Paまで真空排気し絶縁体層上にペンタセンを1.6nmの結晶性制御層として成膜した。続いて30nmの膜厚の化合物(1)からなる薄膜を有機半導体層として蒸着した。このときの基板温度は室温であり、蒸着速度はペンタセンが0.0087nm/sであり、化合物(1)は0.018nm/sであった。有機薄膜用真空蒸着装置から試料を取り出し、大気中を経由して金属薄膜用真空蒸着装置に試料を入れ、真空度2.2×10-3Paまで排気したのち、チャネル長が20μmでチャネル幅が2mmの電極パターンが形成されたメタルマスクを介して、蒸着レート0.24nm/sで、厚さ50nmの金薄膜を蒸着し、ソース電極とドレイン電極とした。図7に本実施例で作製した有機TFTの構造断面図を示す。
【0054】
得られた有機TFTのゲート電極に0〜−100Vのゲート電圧を印加し、ソース−ドレイン間に電圧を0〜−100V印加して電流を流した。この場合、正孔が有機半導体層のチャンネル領域(ソース−ドレイン間) に誘起され、p型トランジスタとして動作する。正孔の電界効果移動度μを下記の式(III)より算出したところ1.2cm2/Vsであった。

D=(W/2L)・Cμ・(VG −VT)2 (III)

式(III)中、IDはソース−ドレイン間電流、Wはチャンネル幅、Lはチャンネル長、Cはゲート絶縁体層の単位面積あたりの電気容量、VTはゲート閾値電圧、VGはゲート電圧である。
更に、この有機TFTを大気中に9日間保存しておいたところ、移動度は0.34cm2/Vsと、依然として高い値を保っていた。このとき、ペンタセンの表面エネルギーは45mN/mであり、化合物(1)の表面エネルギーは37mN/mであった。また、結晶性制御層を成膜したところで基板を取り出し、原子間力顕微鏡(AFM)で観察をしたところ、図8に示すように、グレインG,G,G,・・・が島状に成長していた。
【0055】
[実施例2]
「有機TFTの製造」;
実施例1における結晶性制御層としてペンタセンの代わりにアントラセンを用い、有機半導体層として化合物(1)の代わりにα−6Tを用いたこと以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。作製した有機TFT素子のトランジスタ特性を表1に示す。このとき、アントラセンの表面エネルギーは40mN/mであり、α−6Tの表面エネルギーは32mN/mであった。
【化9】

【0056】
[実施例3]
「有機TFTの製造」;
実施例1における結晶性制御層としてペンタセンの代わりに銅フタロシアニンを用い、有機半導体層として化合物(1)の代わりにPTCDI−C13を使ったこと以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。この有機TFT素子の有機半導体はn型として用いられる。得られた有機TFTのゲート電極に0〜100Vのゲート電圧を印加し、ソース−ドレイン間に電圧を0〜100V印加して電流を流した。作製した有機TFT素子のトランジスタ特性を表1に示す。このとき、銅フタロシアニンの表面エネルギーは34mN/mであり、PTCDI-C13の表面エネルギーは47mN/mであった。
【化10】

【0057】
[比較例1]
「有機TFTの製造」;
結晶性制御層を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして有機TFTを作製したが、表1に示すようにトランジスタ特性は示さなかった。
【0058】
[比較例2]
「有機TFTの製造」;
結晶性制御層を用いず、有機半導体層を化合物(1)の代わりにペンタセンを用いて形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機TFTを作製した。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
「有機TFTの製造」;
結晶性制御層であるペンタセンの膜厚を30nmとした以外は、実施例1と同様にして有機TFTを作製した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より、結晶性制御層を設けたものは移動度と大気中での保存安定性が向上することが明確になった。また、比較例2と比べて明らかなように、実施例1の素子では電流がペンタセンを流れておらず化合物(1)の層をチャネルとして流れていることが明確になった。
【0062】
[実施例4]
「有機薄膜発光トランジスタの製造」;
有機TFTを以下の手順で作製した。この作製手順を図9(a)〜(d)に示す。まず、Si基板13(n型比抵抗0.02Ωcmゲート電極兼用)を熱酸化法にて表面を酸化させ、基板上300nmの熱酸化膜を作製して絶縁体層14としたものを用意した。この基板13をアセトンで約5分間超音波洗浄し、HDMS蒸気に24時間さらして疎水化処理した。次に、上記基板13を真空蒸着装置(エイコーエンジニアリング社製、EO−5)に設置して1.2×10-4Paまで真空排気し絶縁体層14上にペンタセンを結晶性制御層15(膜厚1.6nm)として成膜した。続いて、化合物(1)の薄膜(膜厚30nm)を有機半導体層16として蒸着した。このときの基板温度は室温であり,蒸着速度はペンタセンが0.0087nm/sであり,化合物(1)は0.018nm/sであった。有機薄膜用真空蒸着装置から試料を取り出し、大気中を経由して金属薄膜用真空蒸着装置に試料を入れ、真空度2.2×10-3 Paまで排気したのち、チャネル長が20μmでチャネル幅が2mmの電極パターンが形成されたメタルマスク17を介して、基板12を蒸発源に対して45度傾けた状態でメタルマスク17を通して金を蒸着させ(同図(a))、50nm膜厚の金層を成膜した。次に、基板12を逆方向に45度傾けた状態でマグネシウムを蒸着させ(同図(b))、100nm膜厚のマグネシウム層を成膜した(同図(c))。これにより、互いに接しないソース電極及びドレイン電極として実質的に正孔注入性電極18(Au)と電子注入性電極19(Mg)を備えた有機薄膜発光トランジスタ20を作製した(同図(d))。このように作製した有機薄膜発光トランジスタ20のソース−ドレイン間に−100Vの電圧を印加し、ゲート電極に−100Vの電圧を印加すると、有機半導体層16から30cd/m2の青緑色発光が照射された。図10に有機半導体層16から発せられた光の発光スペクトルを示す。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳細に説明したように、本発明の有機TFTは、高い移動度と高い保存安定性を有するため、トランジスタとしての性能が高いものであり、発光可能な有機薄膜発光トランジスタとしても好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図2】本発明の別実施形態に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図3】本発明の更なる別実施形態に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図5】本発明の更なる他の実施形態に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図6】本発明の更に別の実施形態に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図7】本発明の実施例1に係る有機TFTの素子構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係る有機TFTの結晶性制御層の結晶状態を示す図である。
【図9】本発明の実施例4に係る有機薄膜発光トランジスタの作製手順を示す図である。
【図10】本発明の実施例4に係る有機半導体層からの光の発光スペクトルを示す図である。
【図11】一般的な有機TFTの素子構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
12 基板
13 基板
14 絶縁体層
15 結晶性制御層
16 有機半導体層
17 メタルマスク
18 正孔注入性電極
19 電子注入性電極
20 有機薄膜発光トランジスタ
G グレイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子と、ソース電極及びドレイン電極とゲート電極との間を絶縁する絶縁体層と、有機半導体層とが設けられていて、ゲート電極に印加された電圧によりソース−ドレイン間電流を制御する有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の結晶性を制御する結晶性化合物から成膜される結晶性制御層を備え、該結晶性制御層上に、複素環基を有する化合物またはキノン構造を有する化合物を含んでなる有機半導体層が成膜されていることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
結晶性制御層の平均膜厚が0.01nm以上10nm以下で、かつ、ソース−ドレイン間のチャネルにおける結晶性制御層の最大膜厚が0.3nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
結晶性制御層が、島状に現れるグレインを有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
結晶性制御層の表面エネルギーと有機半導体層の表面エネルギーとの差が30mN/m以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
結晶性制御層が、置換基を有してもよい、縮合環化合物、ヘテロ縮合環化合物または芳香族多環化合物のいずれかからなる結晶性化合物を含んでなる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
結晶性制御層が、炭素数6〜60の縮合環化合物からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
結晶性制御層が、炭素数2〜60のヘテロ縮合環化合物からなることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
有機半導体層が、チオフェン環を有する化合物を含んでなることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項9】
有機半導体層が、チエノベンゼン骨格またはジチエノベンゼン骨格を有する化合物を含んでなることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
有機半導体層が、下記の一般式(1)で表わされる化合物を含んでなることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【化1】

(式中、R1〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のハロアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数1〜30のハロアルコキシル基、炭素数1〜30のアルキルアミノ基、炭素数2〜60のジアルキルアミノ基(アルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成していても良い)、炭素数1〜30のアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のハロアルキルスルホニル基、炭素数1〜30のアルキルチオ基、炭素数1〜30のハロアルキルチオ基、炭素数3〜30のアルキルシリル基、炭素数6〜60の芳香族炭化水素基、又は炭素数1〜60の芳香族複素環基であり、これらの各基は置換基を有していても良い。)
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタの構成を備え、該有機薄膜トランジスタのソース電極とドレイン電極のうち、いずれか一方を正孔注入性電極で構成し、残りの電極を電子注入性電極で構成したことを特徴とする有機薄膜発光トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−59751(P2009−59751A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223575(P2007−223575)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)和歌山北部エリア委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】