説明

有機金属化学蒸着法用原料及び該原料を用いた金属含有膜の製造方法

【課題】低温条件での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【解決手段】本発明のMOCVD法用原料は次の式(1)で示される有機金属化合物を用いたことを特徴とする。
【化10】


但し、Mは2価のPb、4価のPb、4価のZr又は4価のTiであり、R1及びR2は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であってR1とR2は互いに同一でも異なっていてもよく、R3は炭素数2〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、Mが2価のPbであるときnが2でかつmが2であり、Mが4価のPbであるときnが2でかつmが0であり、Mが4価のZr、4価のTiであるときnが4でかつmが4であるか或いはnが2でmが0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やFeRAM(Ferroelectric Random Access Memory;強誘電体メモリー)等の誘電体メモリー、誘電体フィルター等に用いられる複合酸化物系誘電体薄膜を有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法という。)により形成するための原料、特にチタン酸ジリコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3;以下、PZTという。)薄膜形成用として好適なMOCVD法用原料及び該原料を用いた金属含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、ワークステーションのメインメモリーとして使われるDRAMは高集積化の動きがめまぐるしく、高集積化に対応可能な誘電体材料や電極材料の技術開発が盛んである。また、DRAMに代わるFeRAM等の次世代メモリー等も実用化に向けて研究開発が進んでいる。
高集積化に対応可能な誘電体材料としてはPZTやSrTiO3(以下、STという。)が期待され、電極材料としてはPtやRu、RuO2、Ir、IrO2が注目されている。これら材料の成膜法として、他の膜製造方法に比べて、平滑性及び段差被覆性に優れたMOCVD法が用いられている。
【0003】
PZT薄膜やST薄膜用のMOCVD法用原料としては主としてビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナート)鉛(以下、Pb(dpm)2という。)、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナート)ジルコニウム(以下、Zr(dpm)4という。)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナート)ストロンチウム(以下、Sr(dpm)2という。)、ジイソプロポキシビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナート)チタン(以下、Ti(iPrO)2(dpm)2という。)のようなβジケトン化合物の室温で固体状態を示す有機金属化合物が用いられている。
【0004】
従来の上記MOCVD法用原料は室温で固体状態を示す有機金属化合物を用いているため、この有機金属化合物を有機溶媒に溶解した溶液原料にして、気化供給することで大量生産に対応していた。MOCVD装置への供給に適したMOCVD法用原料としては、化学気相成長用の下記一般式(I)で表されるジ(アルコキシ)ビス(ジイソブチリルメタナート)チタン並びにこのチタン化合物を原料としてPZT薄膜を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
Ti(OR)2(dibm)2 ……(I)
式中、Rはメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、neo−ペンチル、i−アミル、s−アミル、t−アミルを表し、dibmはジイソブチリルメタナートを表す。
【0006】
この特許文献1に示される有機金属化合物は、従来よりMOCVD法用原料として使用してきた有機金属化合物に比べて、有機溶媒への溶解度に優れ、かつ低温での成膜に適している。
【特許文献1】特開2004−59562号公報(請求項1、段落[0022]、段落[0024])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記特許文献1に示される有機金属化合物も従来より使用されているMOCVD法用原料と同様、室温で固体状態を示す有機金属化合物であるため、この有機金属化合物を有機溶媒に溶解した溶液原料にして成膜室に気化供給するが、気化供給の際には気化器内で溶液原料中の有機溶媒成分のみが気化してしまい、固体状態の有機金属化合物は熱分解を起こして気化器に接続された配管等を詰まらせてしまうため、成膜室では形成する薄膜への金属成分の取り込み量がばらつくなどの問題があった。その結果、形成した薄膜に段差被覆性の劣化をもたらしていた。
【0008】
本発明の目的は、低温条件での成膜に優れた、MOCVD法用原料及び該原料を用いた金属含有膜の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる、MOCVD法用原料及び該原料を用いた金属含有膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、次の式(1)で示される有機金属化合物を用いたことを特徴とするMOCVD法用原料である。
【0010】
【化2】

【0011】
但し、Mは2価のPb、4価のPb、4価のZr又は4価のTiであり、R1及びR2は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であってR1とR2は互いに同一でも異なっていてもよく、R3は炭素数2〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、Mが2価のPbであるときnが2でかつmが2であり、Mが4価のPbであるときnが2でかつmが0であり、Mが4価のZr、4価のTiであるときnが4でかつmが4であるか或いはnが2でmが0である。
【0012】
請求項1に係る発明では、上記(1)で示される有機金属化合物をMOCVD法用原料として用いることで、500℃のような低温条件での成膜でも、高い成膜速度が得られる。また、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のMOCVD法用原料を用いてMOCVD法により金属含有膜を製造する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のMOCVD法用原料及び該原料を用いた金属含有膜の製造方法は、βジケトン構造の末端に酸素原子−炭素原子を有するアルキルアセテートが金属原子にキレート配位した構造を有する上記式(1)で示される有機金属化合物をMOCVD法用原料として用いた場合に、低温条件での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明者は、従来より知られている配位子としてβジケトンが金属原子に配位して構成されている有機金属化合物について鋭意検討した結果、βジケトン構造の末端に酸素原子−炭素原子を有するアルキルアセテートが金属原子にキレート配位した構造を有する有機金属化合物をMOCVD法用原料として用いた場合、低温での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができることを見出し、本発明に至った。
【0016】
本発明のMOCVD法用原料は、次の式(1)で示される有機金属化合物を用いたことを特徴とする。
【0017】
【化3】

【0018】
但し、Mは2価のPb、4価のPb、4価のZr又は4価のTiであり、R1及びR2は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であってR1とR2は互いに同一でも異なっていてもよく、R3は炭素数2〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、Mが2価のPbであるときnが2でかつmが2であり、Mが4価のPbであるときnが2でかつmが0であり、Mが4価のZr、4価のTiであるときnが4でかつmが4であるか或いはnが2でmが0である。
【0019】
βジケトン構造の末端に酸素原子−炭素原子を有するアルキルアセテートが金属原子にキレート配位した構造を有する上記式(1)で示される有機金属化合物は、室温で液体状態であって、MOCVD法用原料として用いた場合に、500℃のような低温条件での成膜でも高い成膜速度が得られるので低温での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。βジケトン構造の末端に酸素原子−炭素原子を有して金属への電子供与能を向上させることにより、成膜時には熱安定性を損なわず、多量化しない安定な組成構造で成膜室へ運ばれるためであると考えられる。
【0020】
上記式(1)のMを2価のPbとし、nを2とし、かつmを2とするとき、有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、以下の式(2)で示される。
【0021】
【化4】

【0022】
また、上記式(1)のMを4価のPbとし、nを2とし、かつmを0とするとき、有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、以下の式(3)で示される。
【0023】
【化5】

【0024】
また、上記式(1)のMを4価のZrとし、nを4とし、かつmを4とするとき、有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、以下の式(4)で示される。
【0025】
【化6】

【0026】
また、上記式(1)のMを4価のPbとし、nを2とし、かつmを0とするとき、有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、以下の式(5)で示される。
【0027】
【化7】

【0028】
また、上記式(1)のMを4価のTiとし、nを4とし、かつmを4とするとき、有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、以下の式(6)で示される。
【0029】
【化8】

【0030】
更に、上記式(1)のMを4価のTiとし、nを2とし、かつmを0とするとき、有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、以下の式(7)で示される。
【0031】
【化9】

【0032】
次に、上記式(3)のR1をt−ブチル基、R2をメチル基、R3をエチル基とした有機Pb化合物の製造方法について説明する。
先ず、金属アルコキシドとしてPb−OCH3を、溶媒としてn−デカンをそれぞれ用意する。Pb−OCH3を1モル等量計り取って、この計り取った金属アルコキシドをn−デカン500mlに溶解して金属アルコキシド溶解液を調製する。次いで、調製した金属アルコキシド溶解液にt−ブチルアセトアセテートを1モル等量、ゆっくりと攪拌しながら滴下し、アセテートを滴下した後は、溶解液をオイルバスにより約120℃で2時間程度加熱還流することにより金属アルコキシドとアセテートを反応させる。次に、加熱還流した溶解液に対して2Torr(約266Pa)、80℃の条件で溶解液中の溶媒を除去することにより、0.5〜0.6モル程度の有機Pb化合物の粗生成物が得られる。更に、得られた粗生成物を0.1Torr(約13.3Pa)、60℃の条件で減圧蒸留することにより、有機Pb化合物の精製物が得られる。
【0033】
この金属アルコキシドが有するアルキル基を炭素数2〜4の直鎖又は分岐状アルキル基の範囲内に任意に選択することで、式(3)中のR3を炭素数2〜4の直鎖又は分岐状アルキル基のうちの任意の官能基に変更して有機Pb化合物を合成することが可能である。同様に、このアセテートが有するアルキル基を炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基の範囲内に任意に選択することで、式(3)中のR1及びR2を炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基のうちの任意の官能基に変更して有機Pb化合物を合成することが可能である。また、上記合成方法の金属アルコキシドとアセテートのモル等量割合を、金属アルコキシド1モル等量に対してアセテートを4モル等量として有機Pb化合物を合成することで、式(2)で示される2価のPbに配位子が配位した有機Pb化合物を合成することができる。上記合成方法で使用した金属アルコキシドの金属種をZrに変更することで、上記式(4)〜式(5)の有機Zr化合物を合成することができる。また、金属種をTiに変更することで上記式(6)〜式(7)の有機Ti化合物を合成することができる。
【0034】
本発明のMOCVD法用原料を用いてMOCVD法により金属含有膜を製造することで、低温での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【0035】
なお、本発明のMOCVD法用原料は、室温で液体状態であるので、このままMOCVDに用いることができる以外に、この原料を有機溶媒に12〜15重量%溶液となるように溶解して溶液を調製し、この溶液をMOCVD法用原料として使用しても良い。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
次の表1及び表2に示される構造をもつNo.1−1〜No.1−39の有機Pb化合物をそれぞれ合成した。得られた化合物の同定は1H-NMRにより行った。1H-NMRの結果を次の表1及び表2にそれぞれ示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
<比較例1>
有機Pb化合物としてPb(dpm)2を用意した。
<比較例2>
有機Pb化合物としてビス2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナート鉛(以下、Pb(dmhd)2という。)を用意した。
<比較例3>
有機Pb化合物としてビスイソブチリルピバロイルメタナート鉛(以下、Pb(ibpm)2という。)を用意した。
【0040】
<比較試験1>
実施例1で得られたNo.1−1〜No.1−39の有機Pb化合物と比較例1〜3で用意した有機Pb化合物をそれぞれMOCVD法用原料として、以下の条件でPbO薄膜を成膜し、成膜したPbO薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。
先ず、上記有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料を次の表3及び表4に示す溶媒に溶解して12重量%濃度の溶液原料を調製した。次いで、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板をMOCVD装置の成膜室に設置し、調製した溶液原料を原料容器に貯留した。次に、基板温度を500℃、気化温度を100℃、圧力を約1.33kPa(10torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを、キャリアガスとしてArガスを用い、その分圧を1000ccmの割合でそれぞれ供給して、原料容器に貯留した溶液原料を成膜室に送り込んで基板上にPbOを成膜した。成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えて成膜室より取出した基板上の薄膜を走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope;以下、SEMという。)により測定した断面SEM像から膜厚を測定した。
【0041】
(2)段差被覆性試験
成膜時間が10分で成膜室より取出した基板上の薄膜を原子間力顕微鏡(atomic force microscope、AFM)により測定し、薄膜表面のRa(average roughness)を測定した。
【0042】
(3)段差被覆性試験
成膜時間が10分で成膜室より取出した基板上の薄膜をSEMにより測定した断面SEM像から段差被覆性を測定した。
【0043】
実施例1及び比較例1〜3のMOCVD法用原料を用いたPbO薄膜における試験結果を表3及び表4にそれぞれ示す。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
表3及び表4より明らかなように、従来より知られている比較例1〜3で用意した有機Pb化合物を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、またAFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、これらの従来より知られている比較例1〜3で用意した有機Pb化合物を用いてPbO薄膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。以上の評価試験より比較例1〜3で用意した有機Pb化合物は500℃のような低温での成膜には適していないことが判った。これに対して実施例1で得られたNo.1−1〜No.1−39の有機Pb化合物を用いて得られた薄膜は、比較例1〜3で用意した有機Pb化合物を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、AFMによる表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料は、PZT薄膜等のPb含有薄膜の製造に好適であることが判る。また、溶媒には溶解せずに、実施例1で得られたNo.1−1〜No.1−39の有機Pb化合物をそのままMOCVD法用原料としてPbO薄膜を製造しても、上記溶液とした試験結果と差異がない優れた結果が得られた。
【0047】
<実施例2>
次の表5及び表6に示される構造をもつNo.2−1〜No.2−39の有機Zr化合物をそれぞれ合成した。得られた化合物の同定は1H-NMRにより行った。1H-NMRの結果を次の表5及び表6にそれぞれ示す。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
<比較例4>
有機Zr化合物としてZr(dpm)4を用意した。
<比較例5>
有機Zr化合物としてテトラキス2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナートジルコニウム(以下、Zr(dmhd)4という。)を用意した。
<比較例6>
有機Zr化合物としてテトラキスイソブチリルピバロイルメタナートジルコニウム(以下、Zr(ibpm)2という。)を用意した。
【0051】
<比較試験2>
実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39の有機Zr化合物と比較例4〜6で用意した有機Zr化合物をそれぞれMOCVD法用原料として、以下の条件でZrO2薄膜を成膜し、比較試験1と同様にして成膜したZrO2薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。
先ず、上記有機Zr化合物を用いたMOCVD法用原料を次の表7及び表8に示す溶媒に溶解して12重量%濃度の溶液原料を調製した。次いで、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板をMOCVD装置の成膜室に設置し、調製した溶液原料を原料容器に貯留した。次に、基板温度を500℃、気化温度を100℃、圧力を約1.33kPa(10torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを、キャリアガスとしてArガスを用い、その分圧を1000ccmの割合でそれぞれ供給して、原料容器に貯留した溶液原料を成膜室に送り込んで基板上にZrO2を成膜した。成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
実施例2及び比較例4〜6のMOCVD法用原料を用いたZrO2薄膜における試験結果を表7及び表8にそれぞれ示す。
【0052】
【表7】

【0053】
【表8】

【0054】
表7及び表8より明らかなように、従来より知られている比較例4〜6で用意した有機Zr化合物を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、またAFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、これらの従来より知られている比較例4〜6で用意した有機Zr化合物を用いてZrO2薄膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。以上の評価試験より比較例4〜6で用意した有機Zr化合物は500℃のような低温での成膜には適していないことが判った。これに対して実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39の有機Zr化合物を用いて得られた薄膜は、比較例4〜6で用意した有機Zr化合物を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、AFMによる表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機Zr化合物を用いたMOCVD法用原料は、PZT薄膜等のZr含有薄膜の製造に好適であることが判る。また、溶媒には溶解せずに、実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39の有機Zr化合物をそのままMOCVD法用原料としてZrO2薄膜を製造しても、上記溶液とした試験結果と差異がない優れた結果が得られた。
【0055】
<実施例3>
次の表9及び表10に示される構造をもつNo.3−1〜No.3−39の有機Ti化合物をそれぞれ合成した。得られた化合物の同定は1H-NMRにより行った。1H-NMRの結果を次の表9及び表10にそれぞれ示す。
【0056】
【表9】

【0057】
【表10】

【0058】
<比較例4>
有機Ti化合物としてTi(dpm)4を用意した。
<比較例5>
有機Ti化合物としてテトラキス2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナートチタン(以下、Ti(dmhd)4という。)を用意した。
<比較例6>
有機Ti化合物としてテトラキスイソブチリルピバロイルメタナートチタン(以下、Ti(ibpm)2という。)を用意した。
【0059】
<比較試験3>
実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39の有機Ti化合物と比較例7〜9で用意した有機Ti化合物をそれぞれMOCVD法用原料として、以下の条件でTiO2薄膜を成膜し、比較試験1と同様にして成膜したTiO2薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。
先ず、上記有機Ti化合物を用いたMOCVD法用原料を次の表11及び表12に示す溶媒に溶解して12重量%濃度の溶液原料を調製した。次いで、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板をMOCVD装置の成膜室に設置し、調製した溶液原料を原料容器に貯留した。次に、基板温度を500℃、気化温度を100℃、圧力を約1.33kPa(10torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを、キャリアガスとしてArガスを用い、その分圧を1000ccmの割合でそれぞれ供給して、原料容器に貯留した溶液原料を成膜室に送り込んで基板上にTiO2を成膜した。成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
実施例3及び比較例7〜9のMOCVD法用原料を用いたTiO2薄膜における試験結果を表11及び表12にそれぞれ示す。
【0060】
【表11】

【0061】
【表12】

【0062】
表11及び表12より明らかなように、従来より知られている比較例7〜9で用意した有機Ti化合物を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、またAFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、これらの従来より知られている比較例7〜9で用意した有機Ti化合物を用いてTiO2薄膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。以上の評価試験より比較例7〜9で用意した有機Ti化合物は500℃のような低温での成膜には適していないことが判った。これに対して実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39の有機Ti化合物を用いて得られた薄膜は、比較例7〜9で用意した有機Ti化合物を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、AFMによる表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機Ti化合物を用いたMOCVD法用原料は、PZT薄膜等のTi含有薄膜の製造に好適であることが判る。また、溶媒には溶解せずに、実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39の有機Ti化合物をそのままMOCVD法用原料としてTiO2薄膜を製造しても、上記溶液とした試験結果と差異がない優れた結果が得られた。
【0063】
<比較試験4>
有機Pb化合物としてPb(DPM)2を、有機Zr化合物として実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39を、有機Ti化合物として実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39をそれぞれMOCVD法用原料として、上記比較試験1と同様の条件でPZT薄膜を成膜し、比較試験1と同様にして成膜したPZT薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。また、比較対象として有機Pb化合物としてPb(DPM)2を、有機Zr化合物として比較例4〜6を、有機Ti化合物として比較例7〜9をそれぞれMOCVD法用原料として、PZT薄膜を成膜し、同様に上記評価試験を行った。
先ず、上記有機金属化合物を用いたMOCVD法用原料を次の表13及び表14に示す溶媒にそれぞれ溶解して12重量%濃度の第1溶液原料、第2溶液原料及び第3溶液原料を調製した。次いで、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板をMOCVD装置の成膜室に設置し、調製した第1〜第3の各溶液原料を原料容器に貯留した。次に、基板温度を500℃、気化温度を100℃、圧力を約1.33kPa(10torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを、キャリアガスとしてArガスを用い、その分圧を1000ccmの割合でそれぞれ供給して、原料容器に貯留した第1〜第3の各溶液原料を成膜室に送り込んで基板上にPZTを成膜した。成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。また、得られたPZT薄膜が高い比誘電率を有しているか否か確認するために、成膜を終えた基板上に厚さ200nmのPtによる上部電極を形成し、LCRメーター(HP社製、4284A)を用いてPZT薄膜の比誘電率を測定した。PZT薄膜における試験結果を表13及び表14にそれぞれ示す。
【0064】
【表13】

【0065】
【表14】

【0066】
表13及び表14より明らかなように、Pb(dpm)2に、従来より知られている比較例4〜6で用意した有機Zr化合物並びに比較例7〜9で用意した有機Ti化合物を用いて得られたPZT薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、またAFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、これらの従来より知られている比較例4〜6で用意した有機Zr化合物並びに比較例7〜9で用意した有機Ti化合物を用いてPZT薄膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39の有機Zr化合物並びに実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39の有機Ti化合物を用いて得られたPZT薄膜は、非常に成膜速度が高く、AFMによる表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機Zr化合物を用いたMOCVD法用原料並びに本発明の有機Ti化合物を用いたMOCVD法用原料は、Pb(dpm)2とともに、PZT薄膜を製造するのに好適であることが判る。
【0067】
<比較試験5>
有機Pb化合物として実施例1で得られたNo.1−1〜No.1−39を、有機Zr化合物として実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39を、有機Ti化合物として実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39をそれぞれMOCVD法用原料として、上記比較試験4と同様の条件でPZT薄膜を成膜し、比較試験1と同様にして成膜したPZT薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。また、比較試験4と同様にして比誘電率測定を行った。また、比較対象として有機Pb化合物として比較例1〜3を、有機Zr化合物として比較例4〜6を、有機Ti化合物として比較例7〜9をそれぞれMOCVD法用原料として、PZT薄膜を成膜し、同様に上記評価試験を行った。PZT薄膜における試験結果を表15及び表16にそれぞれ示す。
【0068】
【表15】

【0069】
【表16】

【0070】
表15及び表16より明らかなように、従来より知られている比較例1〜9で用意した有機Pb化合物、有機Zr化合物並びに有機Ti化合物を用いて得られたPZT薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、またAFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、これらの従来より知られている比較例1〜9で用意した有機Pb化合物、有機Ti化合物並びに有機Zr化合物を用いてPZT薄膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例1で得られたNo.1−1〜No.1−39の有機Pb化合物、実施例3で得られたNo.3−1〜No.3−39の有機Zr化合物並びに実施例2で得られたNo.2−1〜No.2−39の有機Ti化合物を用いて得られたPZT薄膜は、非常に成膜速度が高く、表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機Pb化合物を用いたMOCVD法用原料、本発明の有機Zr化合物を用いたMOCVD法用原料並びに本発明の有機Ti化合物を用いたMOCVD法用原料は、PZT薄膜を製造するのに好適であることが判る。また、溶媒には溶解せずに、実施例1〜3で得られた有機金属化合物をそのままMOCVD法用原料としてPZT薄膜を製造しても、上記溶液とした試験結果と差異がない優れた結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)で示される有機金属化合物を用いたことを特徴とする有機金属化学蒸着法用原料。
【化1】

但し、Mは2価のPb、4価のPb、4価のZr又は4価のTiであり、R1及びR2は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であってR1とR2は互いに同一でも異なっていてもよく、R3は炭素数2〜4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、Mが2価のPbであるときnが2でかつmが2であり、Mが4価のPbであるときnが2でかつmが0であり、Mが4価のZr、4価のTiであるときnが4でかつmが4であるか或いはnが2でmが0である。
【請求項2】
請求項1記載の有機金属化学蒸着法用原料を用いて有機金属化学蒸着法により金属含有膜を製造する方法。

【公開番号】特開2007−197804(P2007−197804A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20477(P2006−20477)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】