説明

有機金属触媒の失活方法およびそのための反応装置系

本発明は、触媒プロセスにおいて利用される有機金属触媒を失活させる方法であって、プロセス反応器の触媒含有出口流を加熱装置内において少なくとも160℃の温度に曝すことを特徴とする方法、およびそのための反応装置系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒プロセスに利用される有機金属触媒の失活方法およびそのための反応装置系に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属触媒は、線状アルファオレフィンを得るための、エチレンのオリゴマー化などの、均一および不均一触媒プロセスに広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機溶媒および均一触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化による線状アルファオレフィンの製造プロセスが開示されている。このプロセスは、空の管状反応器内で行われ、溶媒、触媒、溶解しているエチレンおよび線状アルファオレフィンを含む出口流を提供する。そのプロセス反応器に続く設備部品内の触媒のさらなる働きは避けるべきであるので、触媒は、非常に短い期間内で失活させなければならない。この失活は、従来技術によれば、水、アルコールまたは脂肪酸の添加により行われるであろう。
【0004】
さらに、特許文献2には、触媒の失活プロセスであって、触媒の活性を抑えるために、活性触媒をプロトン溶媒中の金属水酸化物の溶液と混合されるプロセスが開示されている。
【0005】
当該技術分野において公知の有機金属触媒の失活方法には、特に苛性アルカリおよび水が適用された場合、費用のかかる構造材料を必要とし、相当な量の無機廃物を生じるという欠点がある。
【特許文献1】独国特許発明第4338414C1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19807226A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来技術の欠点を克服した、均一触媒プロセスにおいて利用される有機金属触媒の失活方法を提供し、特に、多量の廃物と共に、費用のかかる抽出系および失活化合物を避ける方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに別の課題は、本発明の方法を実施するための反応装置系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、プロセス反応器の触媒含有出口流が、加熱装置内で少なくとも160℃の温度に曝されるという点で達成される。
【0009】
意外なことに、均一触媒プロセスにおいて利用される有機金属触媒が、少なくとも160℃の温度での触媒の熱処理によって不可逆的に失活されるであろうことが発見された。触媒がその温度に迅速に加熱されることが好ましい。
【0010】
本発明による方法を利用すると、苛性ソーダ/水などの費用のかかる抽出系が完全に排除される。さらに、生成される廃物が最小になり、触媒成分が回収されるであろう。
【0011】
もちろん、本発明の方法は、エチレンのオリゴマー化、オキソ合成および液相重合などの、全ての均一触媒反応に適用できるが、エチレンのオリゴマー化に使用することが好ましい。
【0012】
前記触媒は、有機酸のジルコニウム塩および少なくとも1種類の有機アルミニウム化合物を含むことが好ましい。
【0013】
ジルコニウム塩が化学式ZrCl4-mmを有し、ここで、X=OCORまたはOSO3R’であり、RおよびR’が独立してアルキル、アルケンまたはフェニルであり、0<m<4であることがより好ましい。
【0014】
ある実施の形態において、少なくとも1種類のアルミニウム化合物は、Al(C253、Al2Cl3(C253またはAlCl(C252である。
【0015】
加熱装置は、薄膜型蒸発器または熱交換器およびフラッシュドラムであることが最も好ましい。
【0016】
さらに、前記出口流は、溶媒、触媒、溶解しているエチレンおよび線状アルファオレフィンを含んでよい。
【0017】
この点に関して、溶媒は、トルエン、ベンゼンおよびヘプタンから選択してよく、トルエンが好ましい。
【0018】
さらに、失活された触媒が出口流から分離されることが好ましい。
【0019】
加熱装置内の触媒含有出口流の滞留時間は、約1ミリ秒から約1分であることがより好ましい。
【0020】
さらに、前記課題は、反応器と、反応器の触媒含有出口流を少なくとも160℃の温度に加熱するためのそこに連結された加熱装置を含む、触媒プロセスのための反応装置系により達成される。
【0021】
最後に、その加熱装置は、薄膜型蒸発器または熱交換器およびフラッシュドラムであることが好ましい。
【0022】
本発明の方法の追加の特徴および利点は、エチレンのオリゴマー化のプロセスにおける本発明の方法の例示の実施の形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
線状アルファオレフィンを得るためのエチレンのオリゴマー化のプロセスにおいて、エチレンは、溶媒および均一有機金属触媒の存在下で反応器内においてオリゴマー化される。そのオリゴマー化反応器から、エチレンと軽質アルファオレフィンの混合物が、溶媒として用いられてきたトルエンと共に、第1のラインを通じて採取されることが好ましい。第2のラインを通じて、トルエン、触媒、溶解しているエチレンおよび線状アルファオレフィンの液体混合物が排出される。オリゴマー化反応器に続く設備部品内の触媒のさらなる働きを避けるために、触媒をできるだけ直ぐに失活させることが必須である。本発明の方法によれば、このことは、オリゴマー化反応器からのこの触媒含有出口流を加熱装置内で少なくとも160℃の温度にさらすことによって達成される。そのような加熱装置は、その出口流を迅速に所望の温度に加熱できる熱交換器およびフラッシュドラムまたは薄膜型蒸発器であることが好ましい。この温度で、出口流内に含まれる活性触媒成分は不可逆的に破壊される。
【0024】
それゆえ、本発明の反応装置系は、反応器およびそれに連結された加熱装置を含み、よって、反応器からの触媒含有出口流が、その出口流を少なくとも160℃の温度に加熱するために加熱装置に移送されるであろう。加熱装置内の出口流の滞留時間は約1ミリ秒から約1分であることが最も好ましい。
【0025】
その出口流中に存在する線状アルファオレフィンも、約60から約300℃の温度範囲で安定であり、よって、少なくとも160℃の温度での出口流の処理が、線状アルファオレフィンを得るのに有害ではないことが分かった。
【0026】
加熱装置内での熱処理後、今では失活された触媒成分を含有する出口流を、従来技術のプロセスにしたがってさらに処理してもよい。すなわち、その触媒成分を出口流から分離し、線状アルファオレフィンを分留してもよい。
【0027】
先の説明または特許請求の範囲に開示された特徴は、別々と、その任意の組合せの両方で、本発明を様々な形態で実現するための素材であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒プロセスにおいて利用される有機金属触媒を失活させる方法であって、プロセス反応器の触媒含有出口流を加熱装置内において少なくとも160℃の温度に曝すことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記プロセス反応器内で行われるプロセスが、エチレンの均一触媒オリゴマー化、オキソ合成または液相重合であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記プロセスがエチレンのオリゴマー化であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が有機酸のジルコニウム塩および少なくとも1種類の有機アルミニウム化合物を含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ジルコニウム塩が化学式ZrCl4-mmを有し、ここで、X=OCORまたはOSO3R’であり、RおよびR’が独立してアルキル、アルケンまたはフェニルであり、0<m<4であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種類のアルミニウム化合物が、Al(C253、Al2Cl3(C253、またはAlCl(C252であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記加熱装置が、薄膜型蒸発器または熱交換器およびフラッシュドラムであることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記出口流が、溶媒、触媒、溶解しているエチレンおよび線状アルファオレフィンを含むことを特徴とする請求項3から7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒が、トルエン、ベンゼンおよびヘプタンから選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
失活された触媒が前記出口流から分離されることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記加熱装置内の前記触媒含有出口流の滞留時間が約1ミリ秒から約1分であることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
反応器と、該反応器の触媒含有出口流を少なくとも160℃の温度に加熱するためのそこに連結された加熱装置を含む、触媒プロセスのための反応装置系。
【請求項13】
前記加熱装置が、薄膜型蒸発器または熱交換器およびフラッシュドラムであることを特徴とする請求項12記載の反応装置系。

【公表番号】特表2009−502819(P2009−502819A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523149(P2008−523149)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005647
【国際公開番号】WO2007/016997
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(507055615)リンデ アーゲー (29)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AG
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】