説明

構造物変位量測定方法

【課題】画像式測定方法であっても、動的測定や1mm以下の微小変位を離れた位置からの完全非接触測定を可能とし、測定精度の推定を可能にする構造物変位量測定方法を提供する。
【解決手段】動的撮影を行い、基準画像と測定画像とを比較、画素変位量を算出し、撮影距離と撮影角度の情報をもとに、画素数で表わされた変位量を実スケールの単位に変換し、変位量を算出する。あわせ実測定誤差も算出する。現地の条件により、測定誤差が大きい場合には、撮影条件を変更する。大気揺らぎの影響を軽減するために、撮影距離の制約を導入、夜間撮影による測定を可能にする。また、測定データに大気揺らぎの影響がある場合、フィルタ処理などによる軽減を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、非接触式で且つ簡易に動的な構造物の変位量を測定する構造物変位量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物としての橋桁のたわみは、列車の走行性、構造物の健全性を検討する指標として重要なものである。これまでの橋梁たわみ測定は、使用するセンサーなどにより、大きく次の6つの方法に分けられる。接触測定法については、歪ゲージ式測定法、光ファイバー式測定法が用いられ、非接触測定法については、光波(レーザー)式測定法、超音波式測定法、レーザードップラー式測定法、画像式測定法等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−325209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歪ゲージ式測定法は、測定センサーが低価格であるため、よく用いられる測定法である。しかし、現地立ち入りの困難な河川橋、架道橋などにおいては、変位計の設置が困難であり、作業員の安全確保が重要課題、動的測定が困難であるといった問題がある。また、光ファイバー式測定法は、長期間のモニタリングが可能であるが、施工時にセンサーを取り付ける必要がある、施工後の観測に費用がかかる等の問題がある。
【0005】
一方、非接触型の橋桁のたわみ測定法として光波式測定法があるが、足場等の設置が必要、橋梁下が道路や河川の場合測定不可、作業員の安全確保が重要課題等の問題がある。また、超音波測定法は、他の方法に比べ測定精度が低い、動的測定が困難、測定箇所を特定困難等の問題がある。レーザードップラー式測定法は、非接触方式で最も優れた測定法であるが、測定距離が離れた場合、ターゲット反射板が必要、システム価格が高価である等の問題がある。
【0006】
画像式測定法には「ターゲットを用いる方法」「パターン光を投光する方法」「テンプレートマッチングを用いる方法」があるが、「ターゲットを用いる方法」(例:特許公開2008−58178)はターゲットを設置する必要があるため完全非接触とならない。「パターン光を投光する方法」(例:特許公開2011−2378)はパターン投光器が必要であり簡易的な方法とは言えないうえ遠方へのパターン投光が困難である。本発明は「テンプレートマッチングを用いる方法」に属する。この方法の例として特許公開2006−329628や特許公開2006−343160があるが、これらはカメラも大気も変動しないことが前提となっており、高倍率の望遠レンズを用いて遠方から撮影する場合には対応できない。また、大型の構造物上の局所を拡大して撮影する場合、撮影範囲内に非接触で大きさの基準を与えることは困難であり、カメラだけを用いた方法では画素から実寸への変換を行うことができない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、構造物の変位量を完全非接触で手軽かつ精度よく測定することのできる構造物変位量測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る構造物変位量測定方法は、基準画像と測定画像を比較し、画素変位量を算出した上で、撮影距離と撮影角度の情報から実寸変位量を算出する完全非接触の構造物変位量測定方法である。
【0009】
また、本発明に係る構造物変位量測定方法は、撮影装置により基準画像と測定画像を撮影し、測定装置により撮影距離と撮影角度の情報を得る第1のステップと、前記に撮影された基準画像と測定画像とを比較して画素変位量を算出する第2のステップと、前記画素変位量を実寸変位量に変換する第3のステップと、前記画像連番を実時間に変換する第4のステップと、前記第3のステップと第4のステップで変換されたデータから変化量が0の位置を推定する第5のステップと、前記第3のステップと第4のステップで変換されたデータから異常値を検出して除去する第6のステップと、前記第5のステップと第6のステップにより補正された変換データから変位量を決定する第7のステップと、前記第5のステップと第6のステップにより補正された変換データの変化量0区間から測定誤差を算出する第8のステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、構造物の変位量を完全非接触で手軽かつ精度よく測定することのできる構造物変位量測定方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る構造物動的変位量測定方法の基本的なフローチャートを示す図である。
【図2】図1の測定撮影の前処理作業のフローチャートを示す図である。
【図3】本発明の構造物動的変位量測定方法に係る構成例を示すブロック図である。
【図4】大気揺らぎの影響が大きい場合の静止範囲の標準偏差を示す図である。
【図5】平滑化フィルタの効果を示す図である。
【図6】静止範囲の標準偏差と最適なフィルタサイズの関係を示す図である。
【図7】測定の適用性判定処理に用いる専用スケールの例を示す図である。
【図8】対象橋梁の撮影と距離・角度測定の概観図である。
【図9】図1の変位量算出のフローチャートを示す図である。
【図10】撮影距離の較正を示す図である。
【図11】カメラの焦点距離補正を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。構造に関する図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0013】
まず、概要を説明する。本実施形態における構造物動的変位量測定方法では、動的撮影を行い、基準画像と測定画像とを比較し、画素変位量を算出する。その上で、撮影距離と撮影角度の情報から実寸変位量を算出する。この実寸変位量は、画素数で表わされた変位量を実スケールの単位に変換することで算出される。あわせて実測定誤差も算出する。実測定誤差とは実際に測定された誤差であり、後述する測定推定誤差とは異なる。現地の条件により実測定誤差が大きい場合は撮影条件を変更する。大気揺らぎの影響を軽減するために撮影距離の制約を導入した。また、離れて撮影しないといけない場合において大気揺らぎの小さい夜間撮影による測定を可能にする。また、測定データに大気揺らぎの影響がある場合はフィルタ処理などによる軽減を可能とする。
【0014】
このような構造物動的変位量測定方法を手軽に実現する方法の一例として、民生用のデジタルカメラを利用する非接触の橋梁たわみ測定を提案する。本手法は橋梁を高倍率で連続的に撮影した一連画像のフレーム間移動量を画像処理よって自動的にサブピクセルオーダーで求め、レーザー計測された撮影距離と焦点距離に基づいて実寸の変位量に変換する。サブピクセルとは1画素よりも細かい単位をいう。撮影するカメラとレンズの組み合わせについてあらかじめ較正を行うことにより、フォーカス調整による焦点距離の変化の影響を取り除き、高精度に実寸の変位量を計算する。以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の構造物動的変位量測定方法の主要な処理ステップを示している。最初に、S1に示すように、測定撮影の前処理作業を行う。この前処理作業は、図2に示すように、測定撮影前シミュレーション作業(S11〜S16、S19)と、測定撮影前現場確認作業(S17〜S18、S19)とに大きく分けられる。
【0016】
このような構造物動的変位量測定方法を実現するためのシステムは、図3に示すように、撮影装置1、携帯用パソコンやサーバー等の演算処理装置2、測定適用性判定部3を備えている。演算処理装置2は、入力部21、登録部22、動的変位量測定部23、出力部24、記憶部25、発生変位量予測部26、撮影設定条件算出部27、変位算出部28、異常値検出・除去部29、測定精度推定部30で構成される。
【0017】
以下、測定撮影前シミュレーション作業について説明する。この作業では、まず、対象橋梁登録(S11)を行う。ここでは、たわみ測定を行う橋梁名、橋梁構造条件(支間長、構造(単桁、連続桁)、素材(メタル・コンクリート))、通過列車条件(車両重量、車両長、車軸間長、車両数、列車速度、想定乗車率)を入力部21から入力して、対象橋梁情報を登録部22に登録し、記憶部25に記憶させる。
【0018】
次に、発生変位量予測(S12)を行う。発生変位量予測部26は、上記橋梁構造条件、通過列車条件から、最大たわみ量、たわみ波形、最大たわみ周波数をシミュレーション手法により予測・算出する。
【0019】
次に、目標測定精度の決定(S13)を行う。S12で予測した結果に基づき、対象橋梁のたわみ測定の目標精度を決定する。次に、撮影条件設定(S14)を行う。S14では、測定対象橋梁の周辺状況を考慮し、たわみ測定撮影条件(デジタルカメラ、三脚(構造・重量)、撮影距離、撮影モード(連写、或いは動画))を設定する。その後、測定推定誤差を計算(S15)する。
【0020】
測定推定誤差の決定を難しくしているのは大気揺らぎによる影響である。大気揺らぎの影響は非線形であるばかりでなく、気象条件や場所により変化する。そのため、測定推定誤差の式に大気揺らぎの項を設けて評価すべきである。撮影装置が受ける外力に起因する誤差の項(A×K×D)、撮影画像に起因する誤差の項(P×s/f×D)、大気揺らぎに起因する誤差の項(B×D1.5)、それ以外の誤差の項(C)をした場合、最も単純なモデルは次に示す式のような各項を線形結合した式である。
【数1】

【0021】
ここに、Aは環境によって異なる係数、Kは三脚など機材によって固有な係数、D(m)は撮影距離、Pはサブピクセル係数、s(μm)はセンササイズ、f(mm)は焦点距離、Bは撮影時の大気揺らぎの大きさに関する係数、C(mm)はそれ以外の誤差である。
【0022】
まず、大気揺らぎの影響について判断するため、大気揺らぎが大きい場合の影響を調べた。図4は、大気揺らぎが大きい計測データの静止範囲の標準誤差と、それらを大気揺らぎの項だけを使って表現すべく係数Bを定めたときのグラフを示したものである。参考のため、第1項と第2項を合算した推定精度を点線で示す。
【0023】
次に、サブピクセル係数Pの推定方法について説明する。ここでは、現地の環境条件を一定に保つことで第一項の影響を受けない測定を行い、サブピクセル係数Pの精度を推定した。また、焦点距離や撮影モード、被写体の明るさや変化の大きさがサブピクセル係数Pにどのように影響を与えるかを調べた。以下に推定方法の手順1〜4を示す。
【0024】
1.環境条件を一定に保ち、同時に(1)変動する対象と(2)静止している対象を撮影し、(1)−(2)を計算することで、変動のみを捉えた測定データを得る。
【0025】
2.1.と同一な環境において同一の変動に対して複数回の測定を行い、1.と同じ処理により複数回分の測定データを得る。
【0026】
3.複数回分の測定データ間のばらつきにより測定精度の推定を行う。
【0027】
4.測定精度を空間分解能(=s/f×D)で除することによりPの値を得る。
【0028】
ところで、対象iを測定したときの全体の精度をσi, 第一項相当の精度をσi1, 第二項の精度をσi2としたとき、
【数2】

【0029】
となる。変動のみを捉えた測定データはσi1分がキャンセルされるためσi2のみの影響が残る。変動のみを捉えた測定データの精度をσmとし、変動した対象をi=1, 静止した対象をi=2とすると、誤差伝播則より
【数3】

【0030】
となる。静止した対象も変動した対象も同じ精度であるとすると(iを省略して)、σ2=σm/√2となる。
【0031】
さて、1回目の測定と2回目の測定の差を求め、その平均二乗誤差としてσdを得たとする。1回目の測定と2回目の測定に精度の差がないとすると、数3と同様に誤差伝播則を適用して、σm=σd/√2を得る。従ってσ2=σd/2として第2項の精度を得る。よって、
【数4】

【0032】
としてサブピクセル係数が算出される。3回以上の測定を行っている場合は、σdの平均値を用いる。なお、良い条件で撮影されたときのグラフが得られているときは、そのグラフとの平均二乗誤差を求め、良い条件で撮影されたときのσ2の値を用いて
【数5】

【0033】
として計算することができる。
【0034】
次に、大気揺らぎが発生する場合の対策について説明する。
【0035】
大気揺らぎの影響は時間方向及び空間方向の平滑化によってある程度緩和できる。ただし、たわみの変動を正しく把握するには、時間方向について大きく平滑化するのは適切ではない。一方、空間方向の平滑化のためにマッチング用の領域をあまり大きくしてしまうと、マッチングそのものが失敗する可能性が高くなる。また、マッチング用の処理時間も大きくなる。そのため、マッチング用の小領域を複数とり得られたグラフを平滑化する方法が考えられる。
【0036】
次に、フィルタによる大気揺らぎの低減方法について説明する。
【0037】
図5は、画像計測した計測グラフ(実線)と既往測定システムによる実測値(点線)のグラフを重ね合わせたものである。フィルタの値を大きくすることで計測グラフ(実線)が随分なめらかになっており、既往測定システムのグラフ(点線)と形が近くなっている。フィルタの効果がよく表れている例である。
【0038】
このようにフィルタを利用する場合は、どの程度のフィルタサイズに設定するかが問題となるため、様々な大きさのフィルタをかけて最適なフィルタサイズを調査した。その結果、全体的なおおまかな傾向としては、図6に示すように、標準偏差が小さいときのフィルタサイズの変化は急であり、徐々に変化が穏やかとなることがわかった。このような傾向を示すモデル式としては、逆数をとる累乗関数や対数(log)がある。今回の調査データに最も当てはまりやすいのは対数であったので、以下のようなモデル式を立てて係数を求めることにした。
【数6】

【0039】
次に、時季・夜間における測定誤差の定式化について説明する。
【0040】
数1(基礎式)の第1項と第2項は撮影距離Dに比例するが、第3項は撮影距離に応じて非線形に大きな影響を与える。大気揺らぎが十分小さい場合は、第1項や第2項の影響に隠れて、かなり撮影距離が大きくなるまでは非線形な影響は現れないが、大気揺らぎが大きくなると撮影距離が小さいうちから非線形な影響が現れる。
【0041】
ここで、大気揺らぎの影響は撮影時期や時間帯、大気の状況により大きく異なるため、大気揺らぎの影響を小さくする撮影距離の制約を導入する。大気揺らぎに起因する項を除去した推定式によって測定推定誤差を算出すれば、夏場測定や夜間測定などが可能となる。
【0042】
次に、測定撮影前現場確認作業について説明する。測定撮影前現場確認作業として、現場撮影(S17)を行い、適用性判定(S18)を行う。撮影機材を用いた橋梁たわみ測定撮影を行う前に、撮影場所の周辺状況や気象条件などたわみ測定撮影に適した状態であるかどうかを確認するため、現場撮影を行った後、たわみ測定撮影と同じ状況で静止状態の変動量を目視で確認する。具体的には、デジタルカメラの液晶モニターに貼り付けた専用スケールシートを用いて、静止物の変動がたわみ測定適用範囲内であるかどうかをS18で判定する。
【0043】
現場の天候や風などの気象条件や自動車による振動などの環境条件等の影響により、画像方式の測定精度は大きく異なる。そのため、画像式測定法が適用可能かどうかの判定を現地で行う仕組みを考え実現した。画像式測定法が適用可能かどうかの判定には、第1に、三脚やカメラ、レンズにたわみやガタつき、緩みがないか、力を加えて確認することである。第2に、ストーンバッグの紐が張った状態になっているか、接地しているかを確認することである。第3に、風、振動、大気揺らぎの影響をチェックすることである。第4に、液晶モニター上で測定対象箇所の露光等の状態をチェックし、測定可能な撮影(シャッター速度、絞り、ISO感度)かどうかを確認をすることである。
【0044】
上記の事項を確認した後、専用スケールシートによる確認を行う。ここで、専用スケールについて説明する。動的に変動する測定対象物の変位量をカメラにより測定するためには、1)カメラ自身が受ける振動などの影響、2)カメラと測定対象物との間にある大気などの影響に配慮する必要がある。そのため、測定の前に静止した対象をモニタリングすることで測定誤差を推定し、測定推定誤差が許容範囲内であることを確かめる必要がある。上記1)、2)の影響は測定位置周辺におけるその時々の環境に左右されることから、現場において測定直前にモニタリングできることが望ましい。
【0045】
その方法のひとつとして、カメラの背面部にある液晶モニターを利用し、最大倍率で観測することにより測定推定誤差を評価することが考えられる。しかし、カメラの液晶モニターには変動量を測定する機能がないため、専用のスケールを貼り付けることにより定量的に誤差の量を推定できるようにする。ここでは、カメラの液晶モニターと専用スケール等が測定適用判定部3に該当する。
【0046】
許容される誤差範囲(以下許容誤差範囲)は、撮影機材ごとに定められたパラメータKによって規定される。そのパラメータKが適用される場合の許容誤差範囲を表す目盛りを打った専用スケールを利用することで、現場において測定しようとしている環境が許容誤差範囲内となる状況であるかを、他に特別な装置を利用することなく簡便かつ即座に判断できる。
【0047】
数1の測定推定誤差のうち、環境要因となる誤差を表すのが第1項のD×A×Kである。専用スケールはこの第1項の影響を判断するために用いられる。さて、カメラのd画素分の揺れが及ぼす対象物上での誤差の大きさδは以下の式で与えられる。
【0048】
δ=D/f×S×d
よって、D×A×Kの誤差に相当する画素数dは以下の式から算出できる。
【0049】
D×A×K= D/f×S×d
よって
d = A×K×f/S
撮影機材安全率係数K及び画素サイズSはカメラごとに固定した値であり、レンズの焦点距離を最大にすることにしておけば、焦点距離fの概算値も決定される。つまり撮影時の設定を決めておけば、測定誤差に相当する画素数dは撮影距離Dに関わらず一定の値となる。
【0050】
ところで、カメラセンサの解像度と液晶モニターの解像度は一致しない。実際、液晶モニターの素子数はカメラセンサの素子数と比べずっと少ない。そのため、被写体の細部を表示するための拡大機能を有している。その方法は大きく分けて2種類あり、多くの一眼レフカメラで採用されているモニターの表示倍率を変える方法、多くのコンパクトカメラで採用されているデジタルズームを用いる方法である。
【0051】
例えば、撮影時の画像画素数がW×Hであり液晶モニターのドット数がw×hであったとすると、対象とするのが縦方向の変位なのでH/h以上の倍率で表示できればよい。最大表示倍率をmとすると、m×h/Hが1画素あたりの表示ドット数である。さらに、液晶モニターの1ドットの縦方向の幅(mm)をsとすると、以下の式により許容誤差範囲に相当する液晶モニター上での変動幅δ(mm)を算出できる。
【0052】
δ= A×K×f/S×m×h/H×s
専用スケールの例を図7に示す。
【0053】
カメラの種類と、撮影機材安全率係数(三脚の種類)を変えて、専用スケールシートを液晶パネルに貼り付け、液晶パネルの条件設定を行い、静止物を観測した。測定適用範囲内であれば、S2へ進む。測定適用範囲内でなければ、環境条件(振動、風、大気ゆらぎなど)を考慮し、撮影条件変更を行い、S14に進む。
【0054】
ここで、S11で登録した情報に加え、線路名、撮影位置見取図(GPS観測値)、測定箇所、測定撮影日時、気象状況(天候、湿度、風)、撮影距離、撮影作業者名、解析作業者名などの情報を入力部21等を用いて登録部22に登録し、撮影関連データを取り込む。
【0055】
測定適用範囲内となってS2に進むと、対象橋梁測定撮影が行われる。すなわち、決定した撮影条件に基づき、現地において対象橋梁のたわみ測定撮影を行う。測定撮影は、列車通過前から列車通過までの間、連続して撮影(動的撮影)を行う。図8に示すように、デジタルカメラ11で橋梁50の中央部を側面から連写撮影もしくは動画撮影する。撮影は通過前数秒と通過後数秒も含めて行う。予想されるたわみ量の大きさや必要な測定精度、また桁の長さや列車速度を考慮して撮影機材やフレームレート(F)や焦点距離(f)を決定する。また、カメラから橋梁の撮影部位までの距離(D)および撮影位置からの傾斜角(Φ)をハンディ型レーザー距離計12等で測定しておく。
【0056】
次に、動的撮影された画像データは記憶部25に保存されるが、この保存データから処理画像の選択を行い(S3)、撮影画像の判定(S4)を行う。S4では、たわみ測定時に撮影した画像が連写(静止画像)であるか動画像であるかを判定する。静止画像の場合はS6に進み、動画像の場合は動画から静止画への変換(S5)、すなわち1コマ毎の静止画像に変換する。これらの処理を動的変位量測定部23で行う。
【0057】
S6では最終的に最大変位量を算出するのであるが、その詳細な手順を図9に示す。まず、基準画像(例えば、無負荷時の画像)を測定画像(例えば、列車通過時の画像)と比較し、さらに、基準画像をテンプレート、測定画像を探索プレートとして所定の処理を行う。
【0058】
まず、通過前に撮影された画像の1つを基準画像Rとし、たわみによって一様に動いているとみなせる箇所の時系列画像データをCn(n:撮影画像枚数)とする。基準画像Rと他の一連の画像Cnの間の鉛直方向の時系列の移動量Δypixを画素単位で自動的に計測する。計測をサブピクセルにかつ自動的に安定して計算する方法として最小二乗マッチングアルゴリズムを適用する。最小二乗マッチングにより輝度差が最小になるように輝度補正を行い(S61)、画素単位の変化量測定を行い(S62)、グラフ化を行う(S63)。グラフ化したデータから、縦軸の画素数をたわみ量(mm)に、横軸の撮影枚数を経過時間(秒)に変換する(S64)。
【0059】
(1) 画像座標(画素)と写真座標(mm)との関係
いま写真の画像座標を(u,v)としたとき、レンズ歪を無視して写真の中心位置を原点とする写真座標(x ,y)は、センサの1素子のサイズをs (mm/画素)、画素数をw×hとしたとき、以下のように表される。
【数7】

【0060】
(2) カメラ座標系と対象座標系との関係
カメラの焦点距離をfとしたとき、橋桁の列車進行方向(Z)に対するカメラの光軸方向の水平方向の回転量をθ、カメラの傾斜角をφとしたとき、カメラ座標系(x, y, -f) とカメラ座標系と座標原点を同一とする橋桁の計測点を現す対象座標系(X,Y,Z)との関係は以下のように表される。
【数8】

【0061】
ここに、ΔX, ΔYはそれぞれ計測点(X,Y,Z)における横揺れ量とたわみ量である。また、Δx, Δyはたわみと横揺れによる写真上の変動量である。λは縮尺変数である。なお、Z方向の変動はないものと仮定した。また、カメラの光軸まわりの回転量をκとし、橋桁は傾いていないと仮定した。
【0062】
さて、φは距離計に搭載される傾斜計の値をそのまま用いればよいが、θ, κは画像から求めることにする。まずκであるが、画像の中央付近で上下方向に向いたエッジを探す。望遠撮影であることから、中央付近の微小な変化では縮尺係数λは変化しないと仮定すると、画像上のエッジのベクトル(dx,dy)と対象上のベクトル(0, dY, 0)を用いて、
【数9】

【0063】
のように表すことができる。この式から、
κ=arctan(-dx/dy)
としてκを得ることができる。次に、左右方向のエッジの画像上のベクトル(dx’, dy’)と対象上のベクトル(0, 0, dZ)を用いて、
【数10】

【0064】
なる関係式からθを解く。
【0065】
θ=arctan(sinφ(dx’cosκ+dy’sinκ)/(-dx’sinκ+dy’cosκ))
以下、簡単のためκ=0として話を進める。
【0066】
(3)たわみ量の簡易計算
まず簡単のため正面から撮影した場合、すなわちθ=π/2のときについて考える。このとき、は以下のように変形できる。
【数11】

【0067】
さて、写真の中心(x, y) = (0, 0)を計測点としたとき、たわみも横揺れもないときには、Z = 0、Ycosφ-Xsinφ=0 すなわち Y=Xtanφが成り立つ。
【0068】
このとき、たわみ(=ΔY)のみが発生したと仮定した場合は
Δx = 0
Δy ≒ fΔYcosφ/X(cosφ+tanφsinφ)
のような簡単な関係となるため、
ΔY = ΔyX(cosφ+ tanφsinφ)/fcosφ
としてたわみ量を計算できる。φが小さいなら、tanφsinφ≒0なのでΔY = ΔyX/fとしてもよい。ちなみに、近似可能な範囲を±1%、すなわち0.99 <(cosφ+ tanφsinφ)/cosφ<1.01とするなら、-5.7°<φ<5.7°である。
【0069】
ところで、測定時には写真の中央付近にある対象物までの水平距離Dを計測している。この水平距離D用いると、わざわざθを計算しなくても簡単にたわみ量を計算できる。
【0070】
(x, y) =(0, 0)付近の対象座標X, Zと水平距離Dとの関係は以下のように表される。
【0071】
X=D sinθ、Z=-D cosθ
ところで、
【数12】

【0072】
となるので、上式は写真中央付近ではDを用いて以下のように書き直すことができる。
【数13】

【0073】
これから、変動がない場合のYを計算すると、Y = D tanφとなる。よって、横揺れΔXがないと仮定するなら、-5.7°<φ<5.7°の範囲で
ΔY = ΔyD/f
としても、ほぼ正確なたわみ量を計算可能である。傾斜角がこの範囲を超える場合は
ΔY = ΔyD(cosφ+ tanφsinφ)/fcosφ
を用いて計算すればよい。なお、この式が適用できるのは写真の中央付近に写った対象でなおかつ水平距離がほぼDとなる場合に限ることに注意が必要である。
【0074】
(4) 厳密な計算
より厳密に計算するなら、上記(2)で示した式を逆に解けばよい。すなわち以下の式を解くことになる。
【数14】

【0075】
最初に、変動がない状態での対象座標(X, Y, Z)を求める必要があるが、式の数が3つであるのに対して、変数の数がλを含めると4つであるので、このままでは解けない。そこで、計測する橋梁桁の面がほぼ鉛直な平面であると仮定する。この場合Xは一定となる。写真のほぼ中心までの水平距離Dを用いると、すでに述べたようにX = D sinθとなる。これを変動量0として前記の式に代入してY、Zを解くと以下のようになる。
【数15】

【0076】
ここで得られたX, Y, Z を式に代入して、最終的に以下の式を得る。
【数16】

【0077】
この式を用いることで、鉛直方向のたわみ量ΔYだけでなく、横揺れ量ΔXを計算することができる。また、写真の中心付近から外れた場所を計測してたわみ量を出すこともできる。
【0078】
以上の理論により、画素単位の変位量をmm単位鉛直方向変位量(たわみ量)に、写真連番(コマ)を撮影経過時間(秒単位)に変換する。
【0079】
たわみ量の変換式
ΔY = Δy×D×(cosφ+ tanφsinφ)/fcosφ
経過時間の変換式
t = n / F
ここで、上記変換式で変換する前に、S69に示されるように、撮影距離較正処理及び焦点距離補正処理を行う必要がある。図10に示すように、デジタルカメラには距離計が装着されている。距離計による測定値D’と撮影距離DとのずれをΔDは、焦点距離fを固定したうえで、ピントが合う範囲内で異なる撮影距離で複数の撮影を行ったうえ、最小二乗法によって算出する。
【0080】
AF(オートフォーカス)を有効にして近距離でたわみ測定撮影を行う場合は、予め寸法が既知である被写体を撮影し、撮影距離と焦点距離の関係から算出した近似式を用いて、公称焦点距離の補正を行う。図11に例を示す。 縦軸は公称焦点距離と実際の焦点距離との差を、横軸は撮影距離を示す。撮影距離がある値より小さくなると急激に焦点距離の差が増大している。これらのデータを用いて、撮影距離に対する焦点距離補正処理を行う。
【0081】
次に、たわみ量0位置の推定(S65)を行う。たわみが発生していない区間(無負荷区間、列車通過前区間)を指定し、その区間の平均値を算出し、グラフの全体からその平均値を差し引きし、たわみ量0の位置を推定する。以上、S61〜S65、S69の各処理については、変位算出部28により行われる。
【0082】
S66では、異常値があるか否かの異常値判定を行う。例えば、メディアンフィルタによる異常値判定を行う。具体的には、明らかに異常があると判別できるのは、隣接するデータと比べて非常に大きいか小さいかのいずれかのデータである。そこでメディアンフィルタを用いて異常値をカットすることにした。
【0083】
メディアンフィルタとは、中間値をとるフィルタのことである。中間値とは例えば{1 15 2} のような系列があったとき、{1 2 15}のように昇順に並べ替えをしたときの中間に位置する値であり、この場合は2が中間値に相当する。
【0084】
具体的には、ある時刻の移動量ΔY は、前後3枚の移動量の中間値(最大から最小に並べたときの中間に位置する値、メディアン値)Δymed 、異常値判定の閾値をTh として、(ΔYmed-ΔY) ≧ Th の場合、異常値と判定する(S66)。異常値と判定された場合、次式を用いて、異常値を補正し、除去する(S67)。
【0085】
(ΔYmed-ΔY) ≧ Thの場合 ΔY = ΔYmed
(ΔYmed-ΔY) < Thの場合 ΔY = ΔY
そして、変位量(最大たわみ量)を出力する(S68)。以上、S66〜S68までが、異常値検出・除去部29で実行される。
【0086】
次に、測定精度推定部30は、たわみ量0推定時の区間における変位の標準偏差を算出し、測定精度を推定する。すなわち、列車通過前の静止状態(たわみ0)の変位量の標準偏差を算出し、この数値より、列車通過時におけるたわみ量測定値の測定精度を推定する(S7)。最後に、対象橋梁のたわみ測定結果の最大たわみ量、たわみ波形、推定した測定精度、測定場所、測定対象物等の情報を出力部24によりレポート出力する(S8)。
【0087】
以上のように、本発明の構造物変位量測定方法によれば、構造物の変位量を完全非接触で手軽かつ精度よく測定することができる。すなわち、画像式測定方法であっても、動的測定や微小たわみ量の測定ができ、測定精度の推定を行なうことができる。さらには、近距離から長距離までの広範囲撮影で高精度測定を行うことができ、現地の条件が違っても測定精度を同程度にすることができる。
【0088】
なお、ここでは、橋梁を列車が通過する場合を例示して説明したが、もちろん、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、橋梁以外の構造物であっても同様の手法で変位量を測定することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準画像と測定画像を比較し、画素変位量を算出した上で、撮影距離と撮影角度の情報から実寸変位量を算出する完全非接触の構造物変位量測定方法。
【請求項2】
撮影装置により基準画像と測定画像を撮影し、測定装置により撮影距離と撮影角度の情報を得る第1のステップと、
前記に撮影された基準画像と測定画像とを比較して画素変位量を算出する第2のステップと、
前記画素変位量を実寸変位量に変換する第3のステップと、
前記画像連番を実時間に変換する第4のステップと、
前記第3のステップと第4のステップで変換されたデータから変化量が0の位置を推定する第5のステップと、
前記第3のステップと第4のステップで変換されたデータから異常値を検出して除去する第6のステップと、
前記第5のステップと第6のステップにより補正された変換データから変位量を決定する第7のステップと、
前記第5のステップと第6のステップにより補正された変換データの変化量0区間から測定誤差を算出する第8のステップとを備えたことを特徴とする構造物変位量測定方法。
【請求項3】
前記第8のステップにおいて、
現地の条件に応じた実測定誤差を算出することを特徴とする請求項2記載の構造物変位量測定方法。
【請求項4】
前記第1のステップによる撮影が行われる前に、
前記撮影装置に取り付けられた専用スケールを用いて現地の条件による影響を測定し、影響が大きい場合には、撮影条件を変更することを特徴とする請求項2記載の構造物変位量測定方法。
【請求項5】
撮影装置が受ける外力に起因する誤差の項(A×K×D)、撮影画像に起因する誤差の項(P×s/f×D)、大気揺らぎに起因する誤差の項(B×D1.5)、それ以外の誤差の項(C)をした場合、下記の式によって前記測定推定誤差を算出することを特徴とする請求項2記載の構造物変位量測定方法。
測定推定誤差σ = A×K×D + P×s/f×D + B×D1.5 + C
環境によって異なる係数をA、機材によって固有な係数をK、撮影距離をD、サブピクセル係数をP、センササイズをs、焦点距離をf、撮影時の大気揺らぎの大きさに関する係数をBとする。
【請求項6】
前記測定推定誤差に応じた撮影条件を設定することを特徴とする請求項5記載の構造物変位量測定方法。
【請求項7】
撮影装置の較正作業において、
同時に変動する対象と静止している対象を撮影することによって、前記サブピクセル係数Pを算出することを特徴とする請求項6記載の構造物変位量測定方法。
【請求項8】
測定対象に近接する静止した対象を同時に測定し、大気揺らぎの高周波成分を除去したうえで、測定対象の測定結果から静止した対象の測定結果を差し引くことで前記大気揺らぎの影響を軽減することを特徴とする請求項6記載の構造物変位量測定方法。
【請求項9】
前記大気揺らぎの大きさに応じたフィルタをかけることで前記大気揺らぎの影響を軽減することを特徴とする請求項6記載の構造物変位量測定方法。
【請求項10】
大気揺らぎの影響を小さくする撮影距離の制約を導入することで、前記測定推定誤差の大気揺らぎに起因する項を除去した推定式によって前記測定推定誤差を算出することを特徴とする請求項6記載の構造物変位量測定方法。
【請求項11】
大気揺らぎの影響を小さくするために、夜間による測定を可能としたことを特徴とする請求項6記載の構造物変位量測定方法。
【請求項12】
撮影距離による焦点距離補正、および距離計による測定値と撮影距離とのずれ補正が施された撮影装置を使用して基準画像と測定画像を得る請求項1記載の構造物変位量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−257389(P2011−257389A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109218(P2011−109218)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(591074161)アジア航測株式会社 (48)
【出願人】(510134237)株式会社ズームスケープ (2)
【Fターム(参考)】