説明

樹脂封止金型および当該金型により封止された樹脂封止品

【課題】ゲートブレイクにより不要樹脂を正確に取り除くために行っていた基板上の表面処理を不要とする。また、ゲートブレイクの自由度を向上させる。
【解決手段】半導体チップ12が搭載された基板13をクランプして、溶融した樹脂を流入することにより基板13の少なくとも一部の表面を樹脂にて封止する樹脂封止金型であって、樹脂の流入先となるキャビティ9と、該キャビティ9に対する樹脂の流入通路となるゲート8と、を備え、キャビティ9とゲート8との境界20を、クランプする基板13の平面視における端面13Aと一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスファ成形により半導体製品を樹脂にて封止する樹脂封止の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図5乃至図7に示す樹脂封止金型が公知である。この樹脂封止金型は、半導体チップ12が搭載された基板(被成形品)13をクランプして、溶融した樹脂を流入することによってこの基板13の少なくとも一部の表面を樹脂にて封止する樹脂封止金型である。
【0003】
この樹脂封止金型は、下金型1と上金型2とを有した構成とされている。これら下金型1と上金型2とは、図示せぬプレス機構によって互いに当接・離間可能とされている。下金型1には、樹脂5が投入されるポット3と、当該ポット3に嵌合して上下に(図5において上下に)摺動可能なプランジャ4とが設けられている。一方、上金型2は、下金型1と当接した状態で、下金型1のポット3の位置に対応するカル6と、当該カル6から後述するキャビティ9への樹脂の通路となるランナ7と、当該ランナ7とキャビティ9とを連結するゲート8とを有している。またこのゲート8の先方(樹脂流入先)には、キャビティ9が形成されている。このキャビティ9は、上金型2と下金型1とが基板13をクランプした状態で、その基板13の表面に載置されている半導体チップ12を樹脂にて封止する空間に相当する。即ち、当該キャビティ9が、樹脂封止後における基板13の樹脂封止部分に相当することとなる。
【0004】
この樹脂封止金型では、上金型2と下金型1とが開いた(離間した)状態で、下金型1の表面上に図示せぬ搬送機構によって基板13が搬送供給される。その後、下金型1と上金型2とが当接し当該基板13をクランプする。また、ポット3内に固形の樹脂5が投入された後、当該ポット3の周囲に配置されるヒータ(図示しない)によって当該ポット3内に投入された固形の樹脂5を溶融させる。その後、この溶融した樹脂がプランジャ4によって押圧され、カル6、ランナ7およびゲート8を介してキャビティ9へと流入する(図6参照)。プランジャ4によって押圧された溶融樹脂はキャビティ9内に充填される(図7参照)。
【0005】
その後、当該溶融樹脂が硬化する程度の所定の時間を経過した後、当該上金型2と下金型1とが離間される。その結果、図8に示したような樹脂封止品が出来上がる。この樹脂封止品は、半導体チップが搭載された基板13と、当該基板13上の一部を封止する封止樹脂15と、後工程においてゲートブレイクによって破棄される不要樹脂16を有して構成される。この不要樹脂16は、ポット3からキャビティ7への溶融樹脂の通路となる部分、即ち、カル6、ランナ7およびゲート8の部分に残存した樹脂である。なお、図8においてはこの樹脂封止品の一部しか示していないが、不要樹脂16を挟んで右側(図8における右側)においても、同様に基板13および封止樹脂15が位置している。
【0006】
このようにして製造された樹脂封止品は、上金型2および下金型1による樹脂封止工程の後工程において、不要部分、即ち不要樹脂16が取り除かれることとなる。この不要樹脂16は、上金型2および下金型1によって樹脂封止する際の単なる樹脂の通路に過ぎず、最終製品(半導体製品)としては不要な部分である。この不要樹脂16を取り除く方法としては、後工程に配置されたゲートブレイク手段(図示していない)によって基板13および封止樹脂15部分と、不要樹脂16部分とを折り曲げることによって取り除かれる(折断される)。即ち、図9および図10に示したように、封止樹脂15と不要樹脂16の境界20において、外部から加えられた力によって、折断される。
【0007】
【特許文献1】特開2003−25370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された樹脂封止金型によって製造した樹脂封止品をゲートブレイクする際には、以下のような2つの問題点があった。第1の問題点としては、前述のとおり不要樹脂16部分は事後的にゲートブレイクによって取り除かれるため、基板13の表面における不要樹脂16相当部分(図10におけるα部分)には、ゲートブレイク時において不要樹脂16が無理なく剥離することができるように表面処理(例えばめっき等)をする必要があった。この表面処理は、基板13上の不要樹脂16相当部分にのみ処理しなければならない(封止樹脂15相当部分に処理してしまうと、封止樹脂15が剥離しやすくなってしまう)ため、作業が煩雑であると共に、当該表面処理のためのコストが別途必要であった。
【0009】
また、第2の問題点として、封止樹脂15と不要樹脂16との境界20は、基板13上に位置しているため、ゲートブレイクをする際には、不要樹脂16を基板13に対して上側(図10において上側)方向に折り曲げてゲートブレイクする手法しか取り得ず、ゲートブレイクの手法を限定する要因ともなっていた。
【0010】
本発明は、これらの問題点を一挙に解決するべくなされたものであって、基板13上に不要樹脂16を剥離するためだけの表面処理を不要とすると共に、より自由なゲートブレイク手法を採用することが可能な樹脂封止品および当該樹脂封止品を製造できる樹脂封止金型を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、半導体チップが搭載された被成形品をクランプして、溶融した樹脂を流入することにより前記被成形品の少なくとも一部の表面を樹脂にて封止する樹脂封止金型であって、前記樹脂の流入先となるキャビティと、該キャビティに対する樹脂の流入通路となるゲート部と、を備え前記キャビティと前記ゲートとの境界が、前記クランプする被成形品の平面視における端面とを一致させることにより、上記課題を解決するものである。
【0012】
このような構成を採用することによって、樹脂封止品における不要樹脂(ゲート等に残存した樹脂)をゲートブレイクにより折断する際に、基板端面の位置にて折断することが可能となる。その結果、基板表面上に剥離性向上のための表面処理を施す必要がなくなり、当該表面処理に伴う手間およびコストを削減することが可能となった。また、基板端面と境界(即ち折断される場所)とが一致しているため、ゲートブレイクの際に基板に対して不要樹脂を上方向、下方向のいずれの側にも折り曲げることが可能となる。その結果、ゲートブレイク手法の自由度を向上させることが可能となる。
【0013】
また、1つの前記キャビティに対して、複数の前記ゲートを設けるように構成すれば、キャビティに対して満遍なく均等に樹脂を流入させることが可能となる。
【0014】
また、当該樹脂封止金型における前記キャビティと前記ゲートとの境界の少なくとも一部を、当該樹脂封止金型の対向方向に向かって突起するように構成してもよい。このような「突起」を設ければ、当該樹脂封止金型にて封止した樹脂封止品において、封止樹脂と不要樹脂とが連結している面積(即ち、ゲートブレイクによる折断面の面積)を小さくすることができ、ゲートブレイクをより容易なものとすることができる。
【0015】
なお、本発明は見方を変えれば、半導体チップが搭載された基板と、該基板上にて前記半導体チップを被覆して保護する封止樹脂と、樹脂封止の際に樹脂の通路となった部分に残存した不要樹脂と、を有し、前記封止樹脂と前記不要樹脂との境界が、前記基板の平面視における端面と一致している半導体チップの樹脂封止品と捉えることも可能である。
【0016】
また、ここでいう「一致」とは、厳密な意味で基板端面と一致している必要は無い。例えば、封止樹脂と不要樹脂とを折断する際に、基板の表面に対して無理なストレスが掛からず、また、基板に対して上下両方向側に折り曲げて無理なく折断することができる範囲において僅かにずれていることを許容する意味である。
【0017】
また、「境界」とは、ゲートブレイクにおいて、封止樹脂と不要樹脂とを分離することを設計的な観点から想定した部分を意味している。必ずしも、例えば視覚的に明確な段差や形状の変化を要求する性質のものではない。
【発明の効果】
【0018】
本発明を適用することにより、半導体製品の製造コストを低減させることができる。また、自由度の高いゲートブレイクが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型のキャビティ周辺の断面図である。図2は、樹脂封止後の基板の上面図である。図3は、境界の拡大図である。
【0021】
なお、以下説明する樹脂封止金型の基本的な構成は、前述した特許文献1に記載されている樹脂封止金型と同じであるため、同一または類似する部分に関しては同一の符号を付している。また、異なる部分を中心に図示して説明し、共通する部分の図示は部分的に省略している。
【0022】
本発明に係る樹脂封止金型は、下金型1と上金型2とを有した構成とされている。これら下金型1と上金型2とは、図示せぬプレス機構によって互いに当接・離間可能とされている。
【0023】
下金型1には、樹脂が投入されるポットと、当該ポット内を摺動可能なプランジャとが設けられている。一方、上金型2は、下金型1と当接した状態で、下金型1のポットの位置に対応するカルと、当該カルから後述するキャビティ9への樹脂の通路となるランナと、当該ランナとキャビティ9とを連結するゲート8とを有している。またこのゲート8の先方(樹脂流入先)には、キャビティ9が形成されている。このキャビティ9は、上金型2と下金型1とが基板(被成形品)13をクランプした状態で、その基板13の表面に載置されている半導体チップ12を樹脂にて封止する空間に相当する。即ち、当該キャビティ9が、樹脂封止後における基板13の樹脂封止部分(封止樹脂15)に相当する。
【0024】
本発明に係る樹脂封止金型では、キャビティ9とゲート8との境界20が、上金型2と下金型1とでクランプした基板13の基板端面13Aと一致するような構成とされている。即ち、樹脂封止品X(当該樹脂封止金型にて封止されたもの)における、封止樹脂15と不要樹脂16との境界20が、基板13の端面13Aと一致している。即ち、下金型1に配置される基板13の基板端面13Aの位置と、上金型2の表面(下金型1側表面)に形成されるキャビティ9とゲート8との境界分20が一致するように構成されている。なお、ここでいう「一致」とは、厳密な意味で基板端面13Aと一致している必要は無い。例えば、封止樹脂15と不要樹脂16とを折断する際に、基板13の表面に対して無理なストレスが掛からず、また、基板13に対して上下両方向側に折り曲げて無理なく折断することができる範囲において僅かにずれていることを許容する意味である。
【0025】
本発明に係る樹脂封止金型によって基板13を樹脂封止すると、例えば図2に示すように、樹脂封止品Xができ上がることとなる。この樹脂封止品Xは、基板13におけるその表面の少なくとも一部が樹脂によって封止され(封止樹脂15)、当該封止樹脂15が、基板13における基板端面13Aの位置まで延在している。この延在した封止樹脂15と不要樹脂16との境界20において、不要樹脂16がゲートブレイクによって折断されることとなる。
【0026】
また、本実施形態においては、図3に示したように、封止樹脂15と不要樹脂16との境界20には、ノッチ部(切り欠き部)Nが設けられている。即ち、上金型2側から見ると、当該境界20において上金型2が下金型1側に向って「突起」している。このようなノッチ部Nを設けることによって、封止樹脂15と不要樹脂16との連結面積(即ち、ゲートブレイクによる折断面の面積)を小さくすることができ、ゲートブレイクをより容易なものとすることができる。勿論、このようなノッチ部Nは必須のものではなく、例えば図4に示したようにノッチ部Nを設けない形で構成することも可能である。
【0027】
また、「境界20」とは、ゲートブレイクにおいて、封止樹脂15と不要樹脂16とを分離することを、設計的な観点から想定した部分のことを意味している。必ずしも、上記のノッチ部N等のように、視覚的に明確な段差や形状の変化を要求する性質のものではない。
【0028】
なお、本発明に係る樹脂封止金型で製造した樹脂封止品Xは、図1乃至図4にて示したように、基板13の基板端面13Aと、境界20(封止樹脂15と不要樹脂16との境界)が一致しているため、不要樹脂16を折断する際に基板13上の封止樹脂15の一部が剥離しなければならない必要性が無い。即ち、基板13の表面上に不要樹脂16の剥離性を向上させるための表面処理(例えばめっき等)をする必要が無い。その結果、当該表面処理に要するコストを低減できると共に、当該表面処理に伴う煩雑さを解消することができる。更に、境界20と基板端面13Aとが一致していることによって、不要樹脂16の折断方向が自由となる。即ち、封止樹脂15に対して不要樹脂16を上下のいずれの方向に折り曲げて折断した場合でも、無理なく不要樹脂16を取り除くことができ、より自由度の高いゲートブレイク手法を利用することが可能となっている。
【0029】
また、本実施形態においては、1つのキャビティ9に対して複数のゲート8が対応している。このように構成すれば、キャビティ9内に万遍なく均一な状態で樹脂を流入させることができ、高品質な樹脂封止品を製造することが可能となる。
【0030】
また、図示していないが、例えば不要樹脂16部分の最大高さを、封止樹脂15部分の最大高さ以下となるように設計すれば(金型側の視点から見ると、ゲートやランナ、ポット部分の最大高さ(深さ)以上のキャビティ部分の最大高さ(深さ)が確保されるように設計すれば)、樹脂封止後の工程において、例えば自動的に当該樹脂封止品を把持して搬送等する場合において、不要樹脂16部分が邪魔になり難く、搬送等が行い易くなるというメリットがある。また、一括封止(マップ封止)のダイシングの際にも同様のメリットがある。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、半導体チップを樹脂にて封止する樹脂封止装置用の金型として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型のキャビティ周辺の断面図
【図2】樹脂封止後の基板の上面図
【図3】境界の拡大図
【図4】境界の他の構成例
【図5】特許文献1に記載される樹脂封止金型の断面図
【図6】特許文献1に記載される樹脂封止金型の断面図
【図7】特許文献1に記載される樹脂封止金型の断面図
【図8】特許文献1に記載される樹脂封止金型により封止された基板(封止済み基板)の概略構成図
【図9】図8における矢示IX部拡大図
【図10】不要樹脂を取り除く過程を示した図
【符号の説明】
【0033】
1…下金型
2…上金型
3…ポット
4…プランジャ
5…固形樹脂
6…カル
7…ランナ
8…ゲート
9…キャビティ
12…半導体チップ
13…基板
13A…基板端面
15…封止樹脂(封止部)
16…不要樹脂(破棄部)
20…境界(折断部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップが搭載された被成形品をクランプして、溶融した樹脂を流入することにより前記被成形品の少なくとも一部の表面を樹脂にて封止する樹脂封止金型であって、
前記樹脂の流入先となるキャビティと、
該キャビティに対する樹脂の流入通路となるゲート部と、を備え
前記キャビティと前記ゲートとの境界が、前記クランプする被成形品の平面視における端面と一致している
ことを特徴する樹脂封止金型。
【請求項2】
請求項1において、
1つの前記キャビティに対して、複数の前記ゲートが設けられている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項3】
請求項1または2において、
当該樹脂封止金型における前記キャビティと前記ゲートとの境界の少なくとも一部が、当該樹脂封止金型の対向方向に向かって突起している
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項4】
半導体チップが搭載された基板と、該基板上にて前記半導体チップを被覆して保護する封止樹脂と、樹脂封止の際に樹脂の通路となった部分に残存した不要樹脂と、を有し、
前記封止樹脂と前記不要樹脂との境界が、前記基板の平面視における端面と一致している
ことを特徴とする半導体チップの樹脂封止品。
【請求項5】
請求項4において、
前記不要樹脂部分の最大高さが、前記封止樹脂部分の最大高さ以下とされている
ことを特徴とする半導体チップの樹脂封止品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−39867(P2009−39867A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204016(P2007−204016)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】