説明

樹脂成形のモニタ方法

【課題】樹脂の真空成形においてガス通路などの詰まりを検出可能な樹脂成形のモニタ方法の提供。
【解決手段】キャビティ30内の真空引きを開始し、キャビティ30内に樹脂注入し、注入した樹脂をキャビティ30内で硬化させて、樹脂成形を行う際に、キャビティ30内の圧力をモニタすることで、樹脂注入の状態を確認する樹脂成形のモニタ方法において、キャビティ30内の圧力を可動型12内に設けられたエア経路14及び真空引経路18の経路内圧力Pに基づいてモニタし、真空引き開始後、樹脂注入によって現れる最初の経路内圧力Pの極大値T2に基づいて異常を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形型を用いて樹脂成形をする際に、成形状態をモニタする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車などのように駆動力に用いる大きなモータを車載するケースが増えてきた。このような車載用のモータに用いられる固定子のコイルエンドは、通常はワニスなどで固められて絶縁性を確保される。しかし、ワニスを用いる場合は多数の工程を必要とするため、製作コストを下げるためには別の方法を用いることも検討されている。
モータの固定子の絶縁を確保する方法として、最近では樹脂モールドをする方法が検討されている。
【0003】
樹脂モールドに関する技術はいくつも開示されている。
特許文献1には、半導体樹脂封止装置についての技術が開示されている。型内に形成されるキャビティを真空引きした上で、真空圧力を真空計で監視しながら樹脂を注入するプランジャを駆動する技術について開示されている。
特許文献2には、真空ダイカスト鋳造方法についての技術が開示されている。特許文献2にも、特許文献1同様に型内のキャビティの真空度をサージタンク内の圧力変化を検出することで監視し、異常がある場合は設備を停止する技術について開示されている。
具体的には、サージタンク内の「設定圧力P2」に、「所定時間t+許容値」よりも短時間で到達する場合は、空気の流入経路に詰まりが発生していると判断している。
【0004】
このような、キャビティの真空引きによって溶融した樹脂への空気の巻き込みを防止し、成型された製品に巣が発生することを防止する技術は、樹脂成形においては一般的に用いられている。
この際に問題となるのは、きちんとキャビティ内を真空引きが行えるかという点である。キャビティ内の真空引きはエアベントからエアを引くことで行われるが、エアベントが大きいと、エアベント内部に樹脂が詰まってしまい真空引きができなくなることがある。そこで、特許文献3及び特許文献4のようにエアベントの形状を工夫することで、樹脂の詰まりを防ぐ技術が開示されている。
【0005】
特許文献3では、射出成形装置についての技術が開示されている。
射出成形装置に装備されているエジェクタピンは、キャビティにおけるエア溜まり発生箇所に近設されている。さらに該エジェクタピンには、キャビティと外型部とを連通する中空孔を形成するとともに、エジェクタピンのキャビティ側端部には多孔材質を設けてある。
多孔材質はエアの流通を妨げないが、樹脂が中空孔内部に侵入することを防ぐことができるので、キャビティに連通するエアベントの詰まりを防ぐことができる。
【0006】
特許文献4では、リリースフィルム封入金型に関する技術が開示されている。
封入金型面にリリースフィルムを吸い付ける際のフィルムの破れ、しわを防止するために、吸い込み口の形状を工夫している。吸い込み口の中に固定ピンを配置し、固定ピンと吸い込み口の隙間を、フィルムに破れが発生したりしわが発生したりすることを防ぐことのできる程度の隙間とする技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平1−162341号公報
【特許文献2】特開平9−66351号公報
【特許文献3】特開平10−86193号公報
【特許文献4】特開2000−202864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献4の技術には、以下のような課題があると考えられる。
特許文献1乃至特許文献4は鋳造に関する技術であり、成型条件の異なる樹脂成型にも、そのまま適用することも考えられる。
しかし、出願人がモータの固定子のコイルエンドを樹脂成形するにあたって、樹脂成形型内の圧力を調査したところ、詰まりがある場合と無い場合で特徴的な差が出ることが判明した。
したがって、樹脂成形を行う場合には樹脂成形型内の圧力をモニタするのに適した方法を提供する方が、より効果的に製品の不良等を判断できるのではないかと考えられる。
【0009】
そこで、本発明はこのような課題を解決するために、樹脂の真空成形においてガス通路などの詰まりを検出可能な樹脂成形のモニタ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明による樹脂成形のモニタ方法は以下のような特徴を有する。
(1)樹脂成形型内の真空引きを開始し、前記樹脂成形型内に樹脂注入し、注入した樹脂を前記樹脂成形型内で硬化させて、樹脂成形を行う際に、前記樹脂成形型内の圧力をモニタすることで、樹脂注入の状態を確認する樹脂成形のモニタ方法において、
前記樹脂成形型内の圧力を、前記樹脂成形型内に設けられた真空引き経路中の経路内圧力に基づいてモニタし、真空引き開始後、樹脂注入によって現れる最初の前記経路内圧力の極大値に基づいて異常を判別することを特徴とする。
【0011】
(2)(1)に記載の樹脂成形のモニタ方法において、
前記極大値と、樹脂注入開始後に最初に現れる前記経路内圧力の極小値との差に基づいて異常を判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する本発明による樹脂成形のモニタ方法により、以下のような作用、効果が得られる。
まず、(1)に記載される発明は、樹脂成形型内の真空引きを開始し、樹脂成形型内に樹脂注入し、注入した樹脂を樹脂成形型内で硬化させて、樹脂成形を行う際に、樹脂成形型内の圧力をモニタすることで、樹脂注入の状態を確認する樹脂成形のモニタ方法において、樹脂成形型内の圧力を、樹脂成形型内に設けられた真空引き経路中の経路内圧力に基づいてモニタし、真空引き開始後、樹脂注入によって現れる最初の経路内圧力の極大値に基づいて異常を判別するものである。
【0013】
樹脂成形型内を、真空ポンプ等を用いて真空引き開始後、経路内圧力は一旦極小まで下がる。樹脂成形型には、ガス抜きを目的とした流路が設けられているため、樹脂成形型内に樹脂を注入する以前は真空引き経路等からエアが流入し真空度の上昇が阻害される。
しかし、真空引き通路が詰まっている場合、空気の流入口が閉じるか狭くなり、真空度が上がり易くなる。この点は従来技術と同様である。
その後、樹脂成形型内に樹脂を注入することで、型内に残存する空気が真空度計の方に流れ、型内圧力が上昇する。またこの際に、真空引き通路に詰まりがあると圧力上昇が伝わり難く、圧力上昇が正常時に比べて低くなる。つまり経路内圧力の極大値の値は、正常時に高く真空引き経路に詰まりがある際には低くなるため、真空引き通路の詰まりが判別できる。
【0014】
なお、経路内圧力は極大値を迎えた後、樹脂成形型内に流入した樹脂によって真空引き経路が塞がれるため、再び真空度が上がる。
このように、樹脂成形型内の圧力に特有な波形のモニタを行い、極大値を検出することで真空引き経路の詰まりを検出することができる。真空引き経路の詰まりを早期に発見できることで、樹脂成形品の不良の低減に寄与することができる。
【0015】
次に、(2)に記載される発明は、(1)に記載の樹脂成形のモニタ方法において、極大値と、樹脂注入開始後に最初に現れる経路内圧力の極小値との差に基づいて異常を判別するものである。
樹脂成形型内に樹脂注入開始後には、前述の通り樹脂成形型内の圧力は樹脂に塞がれることで低下する。このため短時間で真空度は上がり易い。また、真空引き経路が詰まっていた場合にも、同様の結果となる。すなわち樹脂注入開始後に最初に現れる経路内圧力の極小値は、真空引き通路が詰まっている、詰まっていない、にかかわらず、同じ値が得られる。したがって、極大値と極小値の差を用いることで、判別精度の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の樹脂成形のモニタ方法について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態の樹脂成形装置10の概略図を示す。図2に、樹脂成形装置10を用いて固定子の端部を樹脂成形する様子を示す。
樹脂成形装置10は、固定型11と可動型12を備えている。固定型11と可動型12はシャフト19で接続されており、可動型12には油圧シリンダなどの駆動装置が備えられている。そして、固定型11に対して可動型12はシャフト19に沿って近接、離間することが可能な構成となっている。
固定型11には射出機17が接続されている。射出機17から供給される樹脂は、固定型11に形成される樹脂供給路11aを通過して、固定型11、可動型12、及び固定子コア20で形成するキャビティ30内に供給される。
キャビティ30に樹脂が供給されることで、固定子コア20のコイルエンドを樹脂成形する。樹脂成形装置10は横形の樹脂成形機であるので、固定子コア20は固定型11及び可動型12に左右から挟まれる形となる。
【0017】
図3に、固定子23の斜視図を示す。
固定子コア20の両端に樹脂モールド部21が形成されており、モータの固定子23として機能する。固定子23の一面には端子部22が設けられている。固定子コア20は車載用のモータに用いられるものであり、図示しないコイルが固定子コア20に形成された後コイルエンドに樹脂モールド部21が形成される。樹脂成形装置10は、固定子23の樹脂モールド部21を形成する装置である。
固定子コア20のコイルエンドに樹脂モールド部21を形成することで、固定子コア20のコイルエンドの絶縁性を確保するとともに、コイルエンドへの物理的衝撃から保護することが可能である。
【0018】
可動型12には、エア経路14が複数形成されている。エア経路14は射出機17から樹脂を注入する際にキャビティ30内のエアを排出するための経路である。エア経路14には真空引経路18が接続されており、真空引経路18は真空ポンプ15と接続されている。
図4に、エア経路14の形状を表す模式図を示す。
エア経路14は、図4に示されるように可動型12に形成される円筒孔12aとその内部に挿入されるエアベント用ポスト12bとの間に形成される。円筒孔12aは可動型12に8カ所形成されており、エアベント用ポスト12bは七角形に形成されて各頂点が円筒孔12aの内面に当接するように設計されている。
なお、エアベント用ポスト12bはノックアウトピンとしても機能し、樹脂成形後の固定子23を可動型12から離型するのに用いられる。
円筒孔12aとエアベント用ポスト12bの隙間Xは数μmであり、樹脂の粒子が入り込まない幅に設定されている。
【0019】
真空ポンプ15はキャビティ30内を真空引きする為に用いられる。真空ポンプ15で真空引きすることで、キャビティ30内の空気は、エア経路14を通過して真空ポンプ15側に排出される。真空引経路18の一部には真空引経路18の内部の圧力を測るために真空度計16が設けられている。
エア経路14及び真空引経路18が真空引き経路として接続されており、真空引き経路内の真空度を真空度計16によって確認することができる。
【0020】
真空度計16の真空度を示すデータは、樹脂成形装置10に備えられる制御装置13に送られる。制御装置13には図示しない記憶装置や中央演算装置を備えている。そして、制御装置13は真空度計16で計測した真空度を記憶するとともに、真空度をモニタする。具体的なモニタ方法は後述する。
なお、制御装置13は、樹脂成形装置10に接続されており、真空ポンプ15、射出機17及び可動型12の制御等も行っている。
【0021】
次に、樹脂成形装置10を用いて固定子コア20の端部に樹脂モールド部21を形成する手順の説明を行う。
樹脂成形装置10の可動型12に、図2に示すように固定子コア20をセットした後、可動型12を固定型11に近接させる。固定子コア20には図示しないコイルが備えられており、コネクタも接続されている。コネクタ部分はスライド型でカバーする。
そして、図1に示すように固定型11と可動型12で固定子コア20を挟み、シール性を確保するために加圧する。この結果、固定型11と可動型12等の樹脂成形型と固定子コア20によって、キャビティ30が形成される。
【0022】
固定型11と可動型12と固定子コア20で形成されたキャビティ30の内部は、この時点でほぼ大気圧と同じ圧力であるため、真空引経路18に接続された真空ポンプ15を稼働して真空引きを行う。真空ポンプ15を稼働させることで、キャビティ30に接続されたエア経路14を通し、真空引経路18からキャビティ30内の空気が排出される。
キャビティ30内の圧力はマイナス数十kPa程度となるまで真空引きを行う。真空度は型や固定子23の大きさなどによって設定される。
真空引経路18の真空度は真空度計16で計測し、制御装置13に備える記憶装置に記憶する。それとともに、真空度のモニタを行う。もっとも、真空度計16の設置スペース等の都合上、キャビティ30の真空度を直接計測することはできないため、エア経路14で接続する真空引経路18の真空度、すなわち経路内圧力Pから推定することになる。
【0023】
次に、真空度のモニタ方法について説明する。
図5に、エア経路14に詰まりが無い場合の経路内圧力Pについてのグラフを示す。図6に、エア経路14に詰まりがある場合の経路内圧力Pについてのグラフを示す。
縦軸はキャビティ30の真空度に相当する経路内圧力Pの値を示し、横軸は経過時間を示す。
図7に、図5に対応する型ストロークと射出タイミングを表したグラフを示す。
左側の縦軸はキャビティ30内の真空度に相当する経路内圧力Pを表し、右側の縦軸は可動型12及び射出機17のストロークを示す。
【0024】
まず、図5から説明する。図5に示したデータは可動型12に形成されたエア経路14に詰まりがない場合の経路内圧力Pのデータである。したがって、真空ポンプ15で真空引きを開始すると、数秒で経路内圧力Pは第1極小値T1に到達する。ここでエア経路14に詰まりがない場合の第1極小値T1を正常時第1極小値T1aと呼ぶことにする。なお、図5に示すように、経路内圧力Pが正常時第1極小値T1aに到達する前に、キャビティ30内に射出機17から樹脂の射出を開始する。
この後、キャビティ30内に射出機17からの樹脂が満たされるにしたがって、経路内圧力Pの値は上昇する。これは、キャビティ30内に残存する気体がエア経路14を通って真空引経路18側に押し出され、その値を真空度計16が計測するためである。また、射出機17から射出される樹脂からも若干ガスが出ており、これも真空度の悪化に影響していると思われる。
【0025】
射出機17から射出される樹脂がキャビティ30内をある程度満たすことで、エア経路14は樹脂によって塞がれる。このため、キャビティ30とエア経路14の接続は徐々に断たれて真空引経路18内の経路内圧力Pも極大値T2を境に下降に転ずる。ここで、エア経路14に詰まりがない状態の極大値T2を正常時極大値T2aと呼ぶことにする。
その後、経路内圧力Pは第2極小値T3を迎える。ここで、エア経路14に詰まりがない場合の第2極小値T3を正常時第2極小値T3aと呼ぶことにする。用いている真空ポンプ15の性能上、これ以上の真空度を得ることはできないので、経路内圧力Pはこの値で安定する。
その後、真空ポンプ15での真空引きを中止するので、再び経路内圧力Pは低下する。
そして、図7に示すように射出機17からのキャビティ30への樹脂供給を終えて、所定時間経過した後、可動型12を動かして型開きを行う。こうして固定子23の樹脂モールド部21を形成する。
【0026】
一方、エア経路14に詰まりがある場合には、図6に示すような状態となる。エア経路14が詰まっている場合には真空ポンプ15は真空引経路18内の真空度は上がりやすくなる。このため、エア経路14に詰まりがある場合の経路内圧力Pの異常時第1極小値T1bは正常時第1極小値T1aよりも小さくなる。つまり、真空引経路18の圧力は低くなる。
その後、エア経路14に詰まりがあると言っても、完全に詰まっているわけではないので、キャビティ30内に射出機17によって樹脂が供給され始めると、経路内圧力Pは上昇する。そして、経路内圧力Pは異常時極大値T2bを迎える。
エア経路14が詰まっている影響で、経路内圧力Pの異常時極大値T2bは正常時極大値T2aよりも低くなっている。これは、エア経路14の流路が狭くなることで、キャビティ30からのエアの流入量よりも真空ポンプ15からのエアの排出量が多いためである。なお、エア経路14が完全に詰まっている場合は、経路内圧力Pは異常時第1極小値T1bの値から上昇しないため、異常を検出することができる。
その後、エア経路14が完全に塞がれることで、真空引経路18内の圧力は降下し経路内圧力Pは異常時第2極小値T3bを迎える。異常時第2極小値T3bは正常時第2極小値T3aと同じ値となる。
【0027】
このように、エア経路14に詰まりがある場合には経路内圧力Pの第1極小値T1と極大値T2に差が出るため、この値を制御装置13でチェックしておき、制御装置13に備える記憶装置に予め記憶されるデータと比較することで、エア経路14の詰まりを検出することが可能となる。
つまり、正常時第1極小値T1a、正常時極大値T2a、及び正常時第2極小値T3aを正常値として制御装置13に記憶しておけば、図6に示される状態は異常と判断することが可能であり、異常を検出した場合は、制御装置13によってアラームを鳴して警告することが可能である。
エア経路14が詰まったまま固定子23を製造すると、キャビティ30内の真空引きが十分行えないために、樹脂モールド部21にエアを巻き込み不良となる虞がある。このため、経路内圧力Pの値に異常を検出した際には樹脂成形装置10による製造を停止しても良い。
【0028】
本実施形態によれば、上記した樹脂成形装置10の構成により上記作用が示されるので、以下に説明する効果を奏する。
まず第1の効果として、エア経路14の詰まりを簡易な構成で判別することが可能となる。
本実施形態による樹脂成形装置10は、キャビティ30内の真空引きを開始し、キャビティ30内に樹脂注入し、注入した樹脂をキャビティ30内で硬化させて、樹脂成形を行う際に、キャビティ30内の圧力をモニタすることで、樹脂注入の状態を確認する樹脂成形のモニタ方法において、キャビティ30内の圧力を可動型12内に設けられたエア経路14及び真空引経路18の経路内圧力Pに基づいてモニタし、真空引き開始後、樹脂注入によって現れる最初の経路内圧力Pの極大値T2に基づいて異常を判別するものである。
【0029】
前述したように、真空引き開始後に現れるキャビティ30内の経路内圧力Pは第1極小値T1まで一旦下がる。可動型12には、ガス抜きを目的としたエア経路14が設けられているため、キャビティ30内の真空度の上昇はエア経路14等から流入する空気によって阻害される。しかし、エア経路14が詰まっている場合、空気の流入口が閉じるか狭くなり、真空度が上がり易くなる。
その後、樹脂の注入によりキャビティ30内に残存する空気が真空度計16の方に流れるためにキャビティ30内の圧力が上昇するが、エア経路14に詰まりがあると圧力上昇が伝わり難く、圧力上昇が正常時に比べて低くなる。つまり極大値T2の値は、正常時に高くエア経路14に詰まりがある際には低くなるため、エア経路14の詰まりが判別できる。
【0030】
このように、キャビティ30内の圧力に特有な波形のモニタを行い、極大値T2を検出することでエア経路14の詰まりを検出することができる。極大値T2が現れるのは、樹脂成形装置10を用いて固定子23を形成する際において、図7に示すようなタイミングで真空引きと材料の射出、及び可動型12を動作させるからである。
正常な状態であれば、このように特徴的な極大値T2である正常時極大値T2aが、所定のタイミングで現れることが分かっているので、そのタイミングで極大値T2を検出して、制御装置13に記憶する正常時極大値T2aと比較することで、正常に樹脂成形が行われているかどうかを判断することが可能となる。エア経路14の詰まりを早期に発見できることで、樹脂成形品の不良の低減に寄与することができる。
【0031】
また、極大値T2と、樹脂注入開始後に最初に現れる経路内圧力Pの第2極小値T3との差に基づいて異常を判別することで、判別精度の向上に寄与することができる。
キャビティ30に樹脂注入開始後には、前述の通りキャビティ30内の圧力は樹脂に塞がれることで低下する。このため短時間で真空度は上がり易い。また、エア経路14が詰まっていた場合にも、同様の結果となる。すなわち樹脂注入開始後に最初に現れる経路内圧力の第2極小値T3は、真空引き通路が詰まっている、詰まっていない、にかかわらず、同じ値が得られる。
前述したように第1極小値T1は図5の状態と図6の状態で異なるが、第2極小値T3は必ず同じ値が得られるので、極大値T2の比較をする際には相対的な指標とすることが可能である。つまり、極大値T2と第2極小値T3の差を用いることで、判別精度の向上に寄与することができる。
【0032】
樹脂成形装置10の運転条件により、射出機17からの樹脂供給量やタイミングに若干誤差が生じることは避けられない。こうした条件の変化に対応するためには、第2極小値T3のような指標となる値が得られた方が、より精度良く異常を判断することが可能となる。
【0033】
以上、本実施形態に則して発明を説明したが、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更することにより実施することもできる。
例えば、本実施形態の樹脂成形装置10は横型成形機であるが、縦型成形機においても同じ第1極小値T1、極大値T2、第2極小値T3を用いての異常判別は可能である。
また、本実施形態でしめした型の形状などは一例に過ぎないので、適宜変更することを妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態の、樹脂成形装置10の概略図である。
【図2】本実施形態の、樹脂成形装置10を用いて固定子の端部を樹脂成形する様子を示す概略図である。
【図3】本実施形態の、固定子23の斜視図である。
【図4】本実施形態の、エア経路14の形状を表す模式図である。
【図5】本実施形態の、エア経路14に詰まりが無い場合の経路内圧力Pについてのグラフである。
【図6】本実施形態の、エア経路14に詰まりがある場合の経路内圧力Pについてのグラフである。
【図7】本実施形態の、図5に対応する型ストロークと射出タイミングを表したグラフである。
【符号の説明】
【0035】
10 樹脂成形装置
11 固定型
11a 樹脂供給路
12 可動型
12a 円筒孔
12b エアベント用ポスト
13 制御装置
14 エア経路
15 真空ポンプ
16 真空度計
17 射出機
18 真空引経路
19 シャフト
20 固定子コア
21 樹脂モールド部
22 端子部
23 固定子
25 モニタ
30 キャビティ
P 経路内圧力
T1 第1極小値
T2 極大値
T3 第2極小値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形型内の真空引きを開始し、前記樹脂成形型内に樹脂注入し、注入した樹脂を前記樹脂成形型内で硬化させて、樹脂成形を行う際に、前記樹脂成形型内の圧力をモニタすることで、樹脂注入の状態を確認する樹脂成形のモニタ方法において、
前記樹脂成形型内の圧力を、前記樹脂成形型内に設けられた真空引き経路中の経路内圧力に基づいてモニタし、
真空引き開始後、樹脂注入によって現れる最初の前記経路内圧力の極大値に基づいて異常を判別することを特徴とする樹脂成形のモニタ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形のモニタ方法において、
前記極大値と、樹脂注入開始後に最初に現れる前記経路内圧力の極小値との差に基づいて異常を判別することを特徴とする樹脂成形のモニタ方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−248510(P2009−248510A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101522(P2008−101522)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】