説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】ハイサイクルに樹脂成形品を冷却できる有効な射出成形製造方法を提供する。
【解決手段】冷却溶媒がパーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温において液体である冷却溶媒を使用する。(a)沸点が100℃未満であり、凝固点が−50℃以下、(b)25℃における蒸気圧が5〜28KPa、(C)25℃における密度が1050kg/m以上、(d)25℃における表面張力が20mN/m以下を用いてハイサイクルを実現できる事を特徴とする射出成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイサイクルに熱可塑性樹脂成形品を冷却することにより形状安定な成形品の生産性を向上させる成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融状態の熱可塑性樹脂を目的の形状に成形して樹脂成形品を得る際には、成形品の形状保持のために冷却工程は必須である。近年のコストダウン、環境負荷の低減などの流れから、例えば射出成形においては、成形1回に必要な時間(サイクルタイム)の短縮、いわゆるハイサイクル化が求められている。
ハイサイクル化の手法としては、成形温度を下げる、金型温度を下げる、形状が保持できるぎりぎりの温度で型から取り出す等の方法で主に冷却時間を短縮することにより行われている。
【0003】
その中で、成形温度を下げる方法では、樹脂の未溶融の問題や流動長の長い製品では充填不良の問題があった。成形材料の分子量を下げれば、より低温で成形可能となるが物性の低下は避けられない。多点ゲートにして、流動長を下げるとウエルドが発生し、外観を損なう。
金型温度を下げる方法では、一般に金型冷却水の温度を下げて行われるが、大気湿度等により金型に水滴が付着して金型に錆等が発生する不具合や水滴が製品に付着するといった不具合も発生していた。
形状が保持できるぎりぎりの温度で型から取り出す等の方法では、成形品内部は未だ溶融状態にあることから、後の固化にともない変形、寸法変化、外観不良などの不具合が発生しやすい。
【0004】
併せて、冷却時間を短くすると成形品内部は未だ溶融状態にあることから、後の固化にともない変形、寸法変化、外観不良などの不具合が発生しやすい。
このように、従来から取られている方法では、ハイサイクル化には限度があった。
このために、賦形された直後の樹脂成形品を冷媒で積極的に冷却することが提案されており、その冷媒として冷水は勿論のこと、冷却されたエアなども一応提案されているが、冷媒と成形品の接触効率、冷却効果、成形サイクル、および冷媒と成形品との品質の関係というような観点から適正な冷媒が吟味されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような種々不具合や問題点を解消すれば更なるハイサイクル化が可能となり、産業の発展に寄与できると考えられる。
したがって、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、今までの製品品質を維持してハイサイクルを実現させる樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
また、特定の冷媒で冷却することによりハイサイクルにより成形品を成形できるということは生産性の向上ばかりでなく、成形品を可塑化の状態である変形領域から反り、変形が比較的少ない安定領域に短い時間で冷却することになり、成形品に反りや変形が比較的少ない安定な品質の良い成形品の成形にも寄与することになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の液体を冷媒に用いることで、冷却効率が著しく向上することに気づき本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明によれば、熱可塑性樹脂を高温で賦形した後、冷媒で冷却して樹脂成形品を得る樹脂成形品の製造方法であって、冷媒は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温で液体であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法が提供される。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜30KPa
(c)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下
【0008】
また、本発明によれば、前記の樹脂成形品の製造方法において、冷却が、成形品に冷媒を吹き付けることにより行われることを特徴とする樹脂成形品の製造方法、及び、成形品が冷媒槽に投下されることにより行われることを特徴とする樹脂成形品の製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、前記の樹脂成形品の製造方法において、賦形が、射出成形、押出成形、圧縮成形から選ばれる成形方法でなされることを特徴とする樹脂成形品の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、熱可塑性樹脂を高温で金型に充填し賦形した後、金型内に冷媒を充填し、冷媒で冷却して樹脂成形品を得る樹脂成形品の製造方法であって、冷媒は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温で液体であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法が提供される。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜30KPa
(c)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下
さらに、前記の樹脂成形品の製造方法において、賦形が、射出成形、押出成形から選ばれる成形方法でなされることを特徴とする樹脂成形品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外観の品質が良く、しかも反りや変形の少ない成形品を安定的に成形ができ、しかも、成形設備、成形環境に悪影響を与えることなく、賦形直後の成形品の冷却時間の短縮が図れる。射出成形においては成形サイクルの短縮が、押出成形においては冷却設備の小型化、省力化が達成できるので、品質および形状の安定な樹脂成形品の生産性を飛躍的に向上させることができる。さらに高サイクルに付随した成形設備のコンパクト化、省力化、省エネルギーなどの効果も達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の射出成形品の冷却状態と、他の冷却によるもの、および放置の自然冷却の状態と、成形サイクルの関係を示す模式図である。
【図2】成形品の反りの状態を示す模式図である。
【図3】本発明に用いる射出成形金型の構成の一例を説明する図である。金型冷媒注入冷却法であり、樹脂を金型内に成形を実施後に即冷媒を注入し、冷却後に成形品を取り出す方法の模式図である。(3a)樹脂射出後に冷媒注入、(3b)冷却工程、(3c)取り出し工程、をそれぞれ表す。
【図4】冷媒噴霧製品冷却法であり、樹脂を成形後に、素早く金型を開き、成形品表面に冷媒を噴霧することにより、冷却し成形品を取り出す方法の模式図である。(4a)樹脂射出工程、(4b)冷却工程、(4c)取り出し工程、をそれぞれ表す。
【図5】槽内冷却法であり、樹脂を成形後に、成形品を素早く冷媒を満たした槽に成形品を入れることにより、成形品を冷却する方法の模式図である。(5a)樹脂射出工程、(5b)冷却−型開き、(5c)槽内冷却工程、をそれぞれ表す。
【図6】本発明の冷媒による冷却をする押出成形において、成形品を下向きに直接冷媒に投入することにより冷却をする方法の模式図である。
【図7】本発明の冷媒により冷却する押出インフレーション、ブロー成形において、成形品を上向きに押出する場合に冷媒を主に塗布して冷却を実施する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いられる冷媒は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温(25℃)で液体である。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜30KPa
(c)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下
【0013】
本発明において用いることのできるパーフルオロカーボンの具体例としては、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカンなどを挙げることができる。具体的な商品としてはフロリナート(住友スリーエム)、フルーテック(ローヌプラン)、ガルデン(アウジモント)、アルフード(旭硝子)などがあげられる。上記パーフルオロカーボンは単独又は2種類以上混合してもよい。
【0014】
本発明において用いることのできるハイドロフルオロカーボン(HFC)は、炭化水素化合物の水素の一部がフッ素原子となった化合物であり、直鎖状、分岐状、環状か否かは問わず、化合物分子中にフッ素原子が少なくとも1個以上存在するものである。炭素数の範囲は好ましくは3〜12、より好ましくは4〜10である。
ハイドロフルオロカーボンの具体例としては、HFC−43−10mee、1,1,1,3,3ペンタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、オクタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3−メトキシ−4−トリフルオロメチル−ペンタン、2,3−ジハイドロデカフロロペンタンなどを挙げることができる。具体的商品としては、日本ゼオン社製「ゼオローラ」、バートレル(三井・デュポンフロロケミカル)、ソルカン365mfc(ソルベイ)などがあげられる。上記ハイドロフルオロカーボンは単独又は2種類以上混合してもよい。
【0015】
本発明において用いられるハイドロフルオロエーテル(HFE)は、特に限定されないが、好ましくは式、R−O−R(式中、R はC〜C12の炭化水素アルキル基またはハイドロフルオロカーボン、RはC〜C12の好ましくはC〜C12のパーフルオロカーボン又はハイドロフルオロカーボンである)を有するものである。
ハイドロフルオロエーテルの具体例としては、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2,−トリフルオロエチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、HFE−347pc−f(CFCHOCFCHF )、HFC−52−13p(CFCFCFCFCFCHF)、HFC−569sf(CFCFCFCFCHCH)などを挙げることができる。具体的商品としては住友スリーエム社製商品名「ノベック」、旭硝子社製商品名「アサヒクリン」、アサヒクリンAE−3000(旭硝子)、アサヒクリンAC−2000(旭硝子)、アサヒクリンAC−4000(旭硝子)、ノベックHFE−7100(住友スリーエム)、ノベックHFE−7200(住友スリーエム)などがあげられる。上記ハイドロフルオロエーテルは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明において用いられるパーフルオロケトンの具体例としては、ペンタフルオロエチルヘプタフルオロプロピルケトンなどを挙げることができる。
【0017】
本発明で用いられる冷却媒体は、沸点が100℃未満であり、好ましくは90℃未満、より好ましくは80℃未満である。沸点が100℃以上では、揮発しにくいために冷却溶媒が成形品に残りやすいためである。沸点はJIS−K2254によって求められる値をいう。
【0018】
本発明で用いられる冷却媒体は、25℃における蒸気圧が5〜30KPaであり、好ましくは5〜29KPa、より好ましくは6〜28KPaである。蒸気圧が5KPa未満では溶媒成分の揮発速度が速すぎるために充分な冷却効果が得られない。蒸気圧が28KPaを越えると、揮発速度が遅すぎるために成形品に冷却媒体が残ってしまう。蒸気圧はJIS−K2258によって求められる値をいう。
【0019】
本発明で用いられる冷却媒体は、25℃における密度が1050kg/m以上であり、好ましくは1300kg/m以上、より好ましくは1400kg/m以上である。密度が1050kg/m以上であると冷却媒体は成形品から素早く落ちて行く。密度はJIS−K2249によって求められる値をいう。
【0020】
本発明で用いられる冷却媒体は、25℃における表面張力が20mN/m以下であり、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。表面張力が20mN/mを越えると、冷却媒体の液滴の成形品表面への接触面積が少ないために冷却効果が劣る。表面張力はJIS−K2241によって求められる値をいう。
【0021】
本発明において、高温とは、熱可塑性樹脂が可塑化し熱成形が可能な状態にある温度をいい、通常、当該熱可塑性樹脂の融点以上又は軟化点以上の温度を指す。
【0022】
本発明の上記(a)〜(d)の特性を有する常温で液体である冷却用媒体(冷媒)を使用すれば、熱可塑性樹脂の賦形直後の成形品の表面温度が、例えば、140〜280℃の場合に、その成形品の表面に接触する冷媒が、成形品の表面に満遍なく均一に適用でき、しかも表面と親和的に接触でき、そして、成形品を冷却するための熱交換をしてから表面から適度に瞬時に離反するものであることが好ましい。もし、均一な冷却ができないと、成形品に反り、変形、歪が発生する原因にもなりかねない。冷却用媒体は、成形品の温度を熱変形しない程度の温度に、瞬時に下げて、その後の離反する性質を有する冷却用媒体の備えなければならない特性を詳細に吟味した結果、通常に使用される冷却水とは異なる、上記の(a)〜(d)の観点で示される特性を備えていることが要求されるということを知見したものである。
【0023】
このために、冷却用媒体は、25℃における蒸気圧が5〜30KPaであり、この蒸気圧が34KPa、38KPa、43KPaと蒸気圧が比較的高い冷却用媒体になれば、冷却媒体を高い温度の成形品の表面に接触すれば、瞬時に揮発して飛散するような部分もある為に、取り扱い難いばかりでなく、成形品の表面の冷却が万便に、均一に、適正に達成できないばかりでなく、もし、この冷却用媒体を回収するシステムを敷設する場合に、揮発性の高い媒体は回収、それの再利用および取り扱いが不便である。一方、蒸気圧が3KPa、1KPaと小さい値になれば、揮発しにくいとか、揮発速度が遅すぎる為に、成形品に冷却用媒体が、成形品の表明に残ったり、成形品の下側にしずくとして残り、これが不均一な冷却の原因になるばかりでなく、冷却用媒体の除去にも時間や、労力を要することになり、ハイサイクル成形を適正に達成する為の支障となる。
【0024】
本発明の冷却用媒体は、ハイサイクルを達成する為には、25℃における密度が1050kg/m以上である必要がある。密度が1000kg/m、960kg/mと低くなれば、塗布の為の取り扱いが難しくなる。例えば、賦形直後の成形品の表面温度を下げた冷却用媒体は、成形品表面から揮発により除かれるもの、或いは、吹き付け量の若干多い冷却用媒体は、自重により自由に滴下して成形品から除かれるので、ある程度の重量が要求される。また、冷却用媒体を、ドライアイス、冷凍設備により、温度を常温より下げて使用する場合にも、比熱の関係で、密度がある場合に冷却の達成に有利であることがある。さらに、自然環境の保全、成形作業現場の環境を考えると、冷却用媒体を回収すること、それが再利用することが推奨される。この場合も、若干の密度があれば、選別、回収、および取り扱いが容易になる。
【0025】
本発明で用いられる冷却用媒体は、25℃における表面張力が20mN/m以下である必要がある。賦形直後の成形品の表面温度は、140〜280℃と非常に高い温度であって、しかも熱可塑性樹脂成形品の表面は疎水性の樹脂である場合が多い。冷却用媒体は、このような成形品の表面と瞬時に所定の時間に、所定量を接触させて、成形品の表面を冷却する為の熱交換をさせることによる、成形品の温度を熱変形以下の温度にするには、成形品表面と媒体の接触状態が微妙に影響することになる。この表面張力が22mN/m、28mN/m、と大きくなれば、媒体が丸くなったり、反発して、表面と媒体の接触において接触面が広くならない傾向を示すことが予測され、熱交換の接触が十分にできなくなるおそれがある。
従来型の冷却用媒体として表面張力が約72mN/m程度の冷却水による賦形直後の成形品を冷却した場合の手法に比較して、本発明において冷媒の特性を仔細に吟味するという点から見ても、適正な配慮をすることができたものである。
【0026】
射出成形を参考にして、本発明の冷却用溶媒により冷却される成形品の冷却状態および成形サイクルの状態の関係を示す概要を図1の模式図を参考にして説明をする。図1のY軸には、射出成形後の成形品の温度が常温の下降していく状態を示す。同様に、X軸は、サイクル方向を示す。又図1のY軸には、破線で示す、成形品の温度がまだ高い為に、成形品の変形が有り得る「変形領域」および変形が発生しない程度に冷えた「安定領域」という境界が、熱可塑性樹脂の性質や種類により若干上下に変化することが有りうるが、一応存在する。成形品をこの安定領域にまでできるだけ早くに冷やすことが成形品の安定性を高める成形サイクルを上げるために重要である。金型内へ射出された熱可塑性樹脂は、図1のP点から、徐冷が開始され、図1の(丸3)は、通常の射出成形における金型内で成形品が冷却されてS点に至る状態を、冷却放物線として示した模式図である。このような射出成形方法は、最もサイクル時間(sec)が長くなる状態のものである。成形品の大きさや、多数個取り成形品個数、冷媒の温度、冷媒の塗布量、冷却方法、熱可塑性樹脂の種類という条件により若干影響を受けるが、成形サイクルは、通常は約40〜55秒程度を要する場合が多い。一方、図1の(丸1)の放物線物は、本発明の上記(a)〜(d)の特性を有する冷媒により成形品を冷却した場合に想定される冷却放物線である。
【0027】
この場合の成形サイクルは、条件により若干変わるが、通常は、約30〜40秒と短縮されることが可能である。さらに、図1の(丸2)は、本発明の冷媒以外の、例えば冷却水、或いは他の公知の溶媒などを使用したり、本発明の冷媒でも、上記(a)〜(d)の特性を満たさない、例えば、密度が800kg/mとか、25℃における蒸気圧が3MPaとか、25℃における表面張力が35mN/mというような、本発明で特定する条件を満たさない冷媒は、このような図1の(丸2)の冷却放物線に近づくことが予測される。
冷媒の温度は、成形条件の変化により若干変わるが、約10〜70℃の範囲で適用するのが好ましい。この冷媒温度、冷却に使用する冷媒量などは、現場の成形状況を考慮して、理論値として、または試行錯誤によりサイクルが短縮する方向の放物線を描くような適正値を決めることができる。
【0028】
本発明の特定の冷媒による成形品の急速冷却方法は、成形サイクルの向上ばかりでなく、成形品の自然放置の冷却に比べると、成形品の、大きさL、厚さd、成形条件、熱可塑性樹脂により若干変動するが、冷却過程の経時変化におけるそり、変形を防止することにも役立つ。図2に示す模式図に基づいて、特に射出成形品の例で一番簡単な方法で説明をする。成形品の、長さ、幅がL、厚さdの正方形の成形品の例に基づいて説明をする。成形性が冷却する場合に、成形品に反り(warp)が発生する場合がある、このそり(W)、変形は、温度が高い環境に放置するという、いわゆる放冷時間が長いと発生する確率が高くなることが予測される。その冷却過程に発生する反り(W)の状態を、図2に基づいて説明をすれば、成形品Fの厚さdの中央線を中心に、反りの最大変形箇所の大きさをΔdと定義して算定すると、中心線からの反り(W)は、W=1/2d+Δdと定義することができる。その反りの逆数を、形状安定率S(%)=[d/(d+2Δd)]×100、と定義して算定することにより定量的に評価できる、例えば、厚さd=30mm、成形品の最大変形箇所Δd=1mmと仮定すれば、S=93.8%となる。変形が全くないこと、即ちΔdが零という、形状安定率(%)が100%であることが理想であるが、本発明の冷媒による冷却方法を採用した場合には、成形品の大小(L、d)、形状により若干の変化があるにせよ、90%以上、通常は、形状安定率Sが95%以上、精度が要求される成形品の場合には、形状安定率Sが98,5%以上と、或いは殆ど変形が見られないということである。勿論、この形状安定率Sは、単品や、抜き取りも検査も有り得るが、10個、30個というような成形品を測定して、平均値を求めることが形状安定率sの精度を高くする。
前記成形サイクル(sec)の向上、形状安定率S(%)の向上ばかりでなく、インサート成形のような、成形品に与える冷媒の作用を考慮すれば、本発明の冷媒による冷却法は非常に有意なものであることが推察できる。
【0029】
例えば、本発明に係わる射出成形品の製造方法は金型内での冷却においては、冷媒がパーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温において液体である冷媒を金型内に充填できるインジェクターを有した金型設備を使用することができる。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜28KPa
(c)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下
【0030】
本発明において、用いることができる成形機は、少なくとも加熱シリンダーと、開閉可能なキャビティ型とコア型からなる金型を具備する射出成形機である。
射出成形における、冷媒金型内注入冷却タイプの例を、図3に基づいて示すと、射出成形装置は、キャビティの形成されている可動金型31と、コアの形成されている固定金型32からなる射出成形用の金型を備えている。この可動金型31又は固定金型32のいずれか一方に、キャビティに冷却用媒体を注入する溶媒注入機33が設置されている。この固定金型32は、スプルー溝38を通じて溶融樹脂が金型キャビティに射出され、所定の形状を有する賦形された成形品Fが成形され、成形品の少なくとも表面が固化した後、可動金型31が開く寸前、または可動金型が開いて成形品Fがキャビティ壁面から離型する寸前に冷媒注入機33より所定量の冷却用媒体(冷媒)をキャビティに注入して成形品Fを冷却する。即ち、図3に示すような、(3a)「樹脂射出後に冷媒を注入」する。次いで、(3b)「冷却工程」を経て、(3c)「取り出し工程」にいたる。成形品の取り出しの際の冷却温度は、熱変形により成形品にソリ変形が発生しない程度に冷却すること、熱可塑性樹脂の種類により若干相違するが、常温近くである25〜65℃程度に冷却すれば足りる。
【0031】
この冷媒の注入量は、冷媒の種類、冷媒の温度、成形品の大きさ、冷却温度により決めることができる。したがって、この冷媒注入機33は、成形品の大きさや規模に応じて、1回の冷媒の所定量を注入する為の、例えば、強力な、初歩的な慣用のシリンダーとピストンの機構のような構造からなる秤量および注入が最も確実なインゼクターのような慣用の注入機構(詳細な構造は図示せず)を採用することが好ましい。さらに、この冷媒注入機33は、成形品の冷却を無駄が無く、効率的に実施する為に、必要量だけを注入する為の冷媒の計量装置(図示せず)および冷媒を所定温度に調整する為の冷媒の温度制御装置(図示せず)を付設することが好ましい。この冷媒による冷却は、成形サイクルを大幅に短縮できるばかりでなく、成形品の表面特性、外観において非常に良好であり、さらに成形品にそり、歪み、変形のない寸法安定な製品が得られる。
【0032】
さらに、熱可塑性樹脂成形品に、金属部品または金属金具を埋め込んだ、いわゆるインサート成形品の場合には、本発明の冷媒は、金属の洗浄も兼ね、熱可塑性樹脂と金属金具が密接に接合、組み合わさった、インサート成形品が成形できるということは、予期し得ない挙動であり、このインサート成形品は長期に放置しても、いわゆる錆や腐蝕が見られない。また、このような冷媒注入法は、溶融樹脂を射出後に、型締めにより圧縮賦形する、いわゆる射出圧縮成形により成形した場合においても同様に有利な効果を発現する。
また、冷媒の回収を容易にするために、トレー、覆い、フード、ドラフトのような慣用の冷媒回収装置(図示せず)を併設することも有効である。
【0033】
或いは、金型にポーラス状の金型材質を使用して射出後冷却過程においてポーラス部分より冷媒がパーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温において液体である冷媒を金型内隙間に注入できるようしてもよい。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜28KPa
(C)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下

【0034】
このポーラス状の金型を使用する場合には、金型キャビティの内壁部分を穿孔、焼結のような手法により、冷媒が容易に通過する程度の連通の空隙、気孔を形成することが必要である。勿論、金型内に冷媒を通す為の冷媒注入機33が必要である。この冷媒注入機33は上記の注入機構のものが使用できるが、金型の特殊性に応じて、若干構造を変えた、設計変更の範囲のものも使用できる。成形品を均一に冷却する場合に有利であるが、金型の製作、金型内の空隙、気孔の冷媒が残留する場合のあり、冷媒の取り扱いに若干の注意を要する。また、冷媒の回収は、必要により別途併設することが好ましい。
冷媒の温度は、−5〜80℃程度の温度範囲に温度調整をして使用できる。汎用の射出成形機を使用して、標準的な射出成形をした場合の冷媒注入量は、成形温度、成形品の温度、成形品の大きさ、形状、冷媒温度、冷媒と成形品の接触時間などにより若干変動するが、冷媒の温度が25℃程度という常温の場合には、単位時間における冷媒注入量は、約1〜5000cm/sec程度である。成形品の大小、樹脂の種類、成形温度、冷媒の温度の違いにもよるが、成形品の重量の1kgに換算して冷媒注入量を算定すれば、約50〜8000cm/kg程度の冷媒の冷媒注入量で所定の冷却が達成できる。

【0035】
また、射出成形後の型開き後に於いて冷却噴霧する際に噴霧する装置を設置してもよい。
射出成形における冷媒噴霧する、冷媒噴霧製品冷却タイプの例を、図4に基づいて示すと、射出成形装置は、キャビティ34の形成されている可動金型31と、コアの形成されている固定金型32からなる射出成形用の対の金型を備えている。具体的には、図4に示す(4a)「樹脂射出工程」があり、次いで(4b)「冷却工程」があり、さらに(4c)「取り出し工程」に基づく。この可動金型31および固定金型32の外部の型合わせ境界付近に、冷媒噴霧装置36が設けられており、射出成形後に可動金型31が移動して型開きされたら、冷媒噴霧装置36が金型内の成形品Fの片面に冷媒を塗布する位置に移動して、所定量の冷媒を噴霧することにより成形品を冷却するという冷却機構である。この冷媒噴霧装置36を金型内の噴霧位置に移動させる為には、対の金型の開閉に連動して冷媒噴霧装置36を所定の位置に移動させる配置機構(図示せず)が設けられている。成形品の取り出しの際の冷却温度は、熱変形により成形品にソリ変形が発生しない程度に冷却すること、熱可塑性樹脂の種類により若干相違するが、常温近くである25〜65℃程度に冷却すれば足りる。
【0036】
この冷媒の噴霧量は、冷媒の種類、冷媒の温度、成形品の大きさ、冷却温度により決めることができ、成形サイクルの長短にも影響する場合がある。したがって、この溶媒噴霧機36による噴霧量は、成形品の大きさや規模に応じて、1回の冷媒の所定量を噴霧する為の、例えば、強力な、初歩的な慣用のシリンダーとピストンの機構のような構造からなる最も確実な圧入のための噴霧機構(図示せず)を採用することが好ましい。さらに、この溶媒噴霧機36は、成形品の冷却を無駄が無く、効率的に実施する為に、必要量だけを噴霧する為の溶媒の計量装置(図示せず)および冷媒を所定温度に調整する為の冷媒の温度制御装置(図示せず)を付設することが好ましい。また、このような冷媒噴霧法は、溶融樹脂を射出後に、型締めにより圧縮賦形した、いわゆる射出圧縮成形により成形品の場合においても有利な効果を発揮する。
【0037】
冷媒噴霧量は、成形温度、特に成形後の成形品の温度、成形品の大きさ、形状、冷媒と成形品の接触時間などにより若干変動するが、冷媒の温度が25℃程度という常温の場合には、単位時間における冷媒の噴霧量は50〜2000cm/sec程度である。成形品の大小、樹脂の種類、成形温度、冷媒の温度の違いにもよるが、成形品の重量(kg)当たりに換算して冷媒の使用量を算定すれば、約50〜8000cm/kg程度の冷媒の塗布量で所定の冷却が達成できる。
【0038】
冷却槽への投入においては成形品取り出し近くにその設備を設置することができる。
射出成形における、冷媒槽へ投入する槽内冷却タイプの例を、図5に基づいて示すと、射出成形装置(図示せず)は、キャビティの形成されている可動金型31と、コアの形成されている固定金型32からなる射出成形用の金型を備えている。この開閉金型の、好ましくは下位置に冷却用媒体を入れた冷却槽37が設置されている。この固定金型32は、スプルー溝38を通じて溶融樹脂が金型キャビティに射出され、所定の形状を有する賦形された成形品Fが成形され、型開の段階になり、可動金型31が移動して金型が開いてたら、成形品Fの自然落下または突き出し手段により、冷却槽内に投入して、瞬時に冷却するシステムである。成形品Fをロボットで金型から取り出し、成形品Fをロボットで冷却槽内への投入してもよい。その後、冷却槽から成形品Fを順次回収すればよい。この冷却槽には、冷却、加温または恒温の装置(図示せず)が付帯することが可能である。
【0039】
冷媒の入った冷却槽に成形品を投入する場合には、型から取り出した成形品が変形を開始する以前に、即投入することが好ましい。成形温度、成形後の成形品の温度、成形品の大きさ、形状などを考慮して投入状態を調整する。冷媒の温度が25℃程度という常温の場合には、成形品を冷却槽内への投入時間は1〜15秒程度にすることにより瞬時に冷却すれば足りる。熱伝導率の悪い合成樹脂成形品の場合に、成形品の内部まで完全に冷却する必要がある場合には、5〜30分投入すれば足りる。勿論、特殊な成形品を内部まで完全に冷却する場合には、投入時間を1〜24時間とするというように、冷却時間を任意に設定することができる。成形品の高い温度と冷媒の温度との較差の大きさに起因して、突沸のような現象が見られる場合には、冷媒の温度を40℃、50℃、60℃のように若干高くしたり、或いは成形品を徐冷後に投入するとか、その投入状態を現場サイドで調整する必要がある。冷却槽からの成形品の回収は、バッチ操作でも良いし、エンドレスベルト、バケットのような各種慣用段で回収する。成形品の表面に、無用の冷媒が付着することがないから、大掛かりな冷媒除去手段、乾燥手段を必要としないから、成形品の品質が極めて鮮明である。特にポリプロピレン樹脂成形品の場合に非常に透明なものとなる。
【0040】
このような本発明の上記(a)〜(d)の特性を有する特定の冷媒を使用する、押出成形における槽内冷却の例を図6に基づいて説明をする。原料の熱可塑性樹脂を供給するホッパーを備えた押出機Eから、押出ダイを通してシート、繊維、ストランド、フイルム、積層成形品、又は環状ダイを使用したインフレーションフイルム、ブローのような単層または多層の中空成形品、ホースのような各種合成樹脂成形品Fが押し出され、その成形品は、エアー処理を介して、または直接に上記冷媒を満たした冷却槽37へ導入される。その成形品は、ガイドロールを解して、再度空気中に導かれ、対の引っ張りロールにより巻取装置(図示せず)に導かれる。この押出成形方法は、慣用の成形装置を使用することにより実施できる。本発明は、その冷却槽に上記(a)〜(d)の特性を有する冷媒を入れることを特徴とする。この冷媒による冷却することにより、押出速度を若干早くすることができるので、生産性を高めることができるばかりでなく、成形品の外観、品質や、変形が無いというような製品の品質やおよび成形効率を著しく高めることができる。
この冷却槽37には、冷媒の温度を一定にする為の、恒温装置(図示せず)、冷却装置、加温装置、オバーフローなどを防止する設備を付帯することが可能である。
【0041】
また、特にパイプ成形に見られるように、押出機E、サイジング冷却槽、冷却槽が水平に、しかも直列に連結されている成形装置(図示せず)により成形する方法においては、それらの冷却槽に入れる媒体は、本発明で特定する冷媒を使用することができる。これにより、成形品の表面特性が非常に鮮やかであり、しかも寸法安定性が良く、変形のない成形品が容易に成形できる。
【0042】
慣用の押出成形機を使用して、通常の押出速度で押出成形品を冷媒の入った冷却槽へ押出成形品を連続的に投入する場合には、成形品の変形が開始する前に出来るだけ早く投入することが好ましい。射出成形品の冷却槽による冷却法と実質的に同じであるが、成形温度、成形後の成形品の温度、成形品の大きさ、形状などを考慮して投入状態を調整する。冷媒の温度が25℃程度という常温の場合には、成形品を冷却槽内に投入する時間は1〜15秒程度にすることにより瞬時に冷却すれば足りる場合が多い。熱伝導率の悪い合成樹脂成形品の場合に、押出成形品の内部まで完全に冷却する必要がある場合には、10〜30秒投入すれば足りる。冷却槽を横長に設計すれば、冷却時間をコントロールすることができる。特殊な押出成形品を内部まで完全に冷却する場合には、二次冷却槽、三次冷却槽を任意に設置して、冷媒温度を若干調整して、冷却時間および冷却状態を任意に調整することができる。押出成形品の高い温度と冷媒の低い温度との較差の大きさに起因して、突沸のような現象が見られる場合には、冷媒の温度をあげるとか、投入時間を遅らせて成形品を徐冷後に投入するとか、その投入状態を現場サイドで調整する必要がある。押出成形品の表面に、無用の冷媒が付着することがないから、押出成形から大掛かりな冷媒除去手段、乾燥手段を必要としないから、押出成形品の品質が極めて均一かつ鮮明である。さらに、冷却が適正に機能するので、押出速度を3〜30%程度上げても、変形による不良性成形品が少ないという有利な点がある。
【0043】
押出成形の別の態様として、冷媒噴霧塗布タイプの例を、いわゆるインフレーション成形といわれる、押出成形の例を図7に基づいて説明をする。原料の熱可塑性樹脂を供給するホッパーを備えた慣用の押出機Eから、押出ダイ42を通してシート、フイルムのようなインフレーション、ブローフイルムのような中空の合成樹脂成形品Fが押し出され、その中空成形品Fは、冷却の為のエアリング43が敷設されている領域を通過する。本発明では、この部分から上記(a)〜(d)の特性を有する冷媒を噴霧、塗布することにより冷却が容易に達成できる。これにより冷却され中空成形品Fは、ニップロールにより折りたたまれ、巻き取り装置(図示せず)へ案内される。この押出成形方法は、慣用の成形装置を使用することにより実施できる。このエアリング43に供給される冷媒の温度は、冷却または加温装置(図示せず)を付帯することにより調整することができる。
【0044】
また、冷媒を成形品に塗布するような場合には、または溶媒槽へ投入する場合には、ブロー成形品にも応用可能である。勿論この噴霧、塗布した冷媒を回収する為の、慣用の装置(図示せず)を任意に敷設することも可能である。
冷媒塗布または噴霧量は、成形温度、特に成形後の成形品の温度、成形品の移動速度、成形品の大きさ、形状、冷媒と成形品の接触面側、時間などにより若干変動するが、冷媒の温度が25℃程度という常温の場合には、冷媒の噴霧量は1〜2000cm/sec程度である。成形品の大小、樹脂の種類、成形温度、冷媒の温度の違いにもよるが、単位時間内に移動または押出される成形品の樹脂の重量(kg)当たりに換算して、使用する冷媒の量(cm)を算定すれば、約30〜5000cm/kg程度の冷媒の塗布量で所定の冷却が達成でき、変形による不良品が少なく、外観の良い成形品が収得できる。
【0045】
本発明の冷媒を使用する成形方法は、代表的な上記射出成形、押出成形方法以外にも、例えば、圧縮成形、加圧成形にも適用できる。長尺のまたは一定の長さの材料を可動型を使用して単品に加工するとか、二次加工により、容器、トレーのような各種成形品を、いわゆる可動金型、真空成形、などを使用して加工する際に、冷媒により冷却することが好ましい。また、シートのような長尺の製品を、例えば、ロールによるカレンダー加工、エンドレスベルトにより圧縮成形する場合にも、冷却が必要な場合には、成形品に冷媒を塗布、噴霧するか、成形品を冷媒槽に投入することにより、製品の品質を高める為に有利であり、成形速度を上げて生産性を高くすることが可能である。勿論フイルム、シートのような二次加工においても、冷却が必要とする場合には、冷水に比較して、本発明の冷媒は製品の冷却効率を高め、また製品中に残留冷媒がないという点で、製品の品質を高めることができる。
【0046】
この冷媒の塗布または噴霧量は、成形温度、特に成形後の成形品の温度、成形品の移動速度、成形品の大きさ、形状、冷媒と成形品の接触面側、時間などにより若干変動するが、冷媒の温度が25℃程度という常温の場合には、冷媒の噴霧量または塗布量は1〜2000cm/sec程度である。成形品の大小、樹脂の種類、成形温度、冷媒の温度の違いにもよるが、単位時間内に移動または成形される成形品の樹脂の重量(kg)当たりに換算して、使用する冷媒の量(cm)を算定すれば、約1〜5000cm/kg程度の冷媒の塗布または噴霧量で所定の冷却が達成できる。
【0047】
本発明において、使用可能な樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に制限はされない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン・2,6−ナフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−11、ナイロン−12等のポリアミド樹脂、ポリオキシメチレン等のポリエーテル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体等のエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体等のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体樹脂、およびそれらの金属イオン架橋物(アイオノマー樹脂)、ポリスチレン、ABS樹脂等を挙げることができる。
【0048】
本発明によれば、ハイサイクルにも拘らず得られる成形品は従来は高温で製品の変形・ヒケ・艶ムラ等が問題であるが本工法で得られる成形品は冷却に優れる事からで製品の変形・ヒケ・艶ムラ等に優れる成形品を得ることができる。かかる成形品の用途は、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品、バンパ、バックドア等の自動車外装部品、化粧台、洗面台、トイレタリー製品等のアメニティ部材をはじめとする工業部品等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。

1.使用原材料
(1)熱可塑性樹脂
樹脂(A)・日本ポリプロ(株)製BC03B(MFR30g/10分結晶化温度124℃)
樹脂(B)・日本ポリプロ(株)製MH4(MFR5g/10分結晶化温度123℃)
樹脂(C)・日本ポリプロ(株)製MG03B(MFR30g/10分結晶化温度120℃)
(2)冷媒
NOVEC7200・・住友スリーエム(株)より電子部品洗浄剤として市販されているハイドロフルオロエーテル(沸点76℃、蒸気圧16kPa、密度1430kg/m、表面張力13.6mN/m)
NOVEC7600・・住友スリーエム(株)より電子部品洗浄剤として市販されているハイドロフルオロエーテル(沸点131℃、蒸気圧1kPa、密度1540kg/m、表面張力17.7mN/m)
水・・工業用水(沸点100℃、蒸気圧3kPa、密度1000kg/m、表面張力72mN/m)
【0050】
2.評価
(1)成形
以下の条件で射出成形又は射出圧縮成形を行い、得られた製品、及び金型の観察を行った。
成形温度:200℃ 金型温度:30℃ 冷媒温度(NOVEC7200・水):20℃
射出時間:15秒(一次:5秒 二次:10秒)(射出圧縮についても同様設定)
金型 :175mm×95mm×50mm(板厚:3mm)
【0051】
(3)判定:次の基準で判断した。
1)製品変形
◎:製品表面に歪みが無く、ソリ変形が発生しない
○:製品表面に歪みが無いが、1mm未満のソリ変形が発生
×:製品表面に歪みが発生しており、1mm以上のソリ変形が発生
2)製品状態
○:製品取り出し後に異物(水滴等)が無く問題ないもの。
×:製品取り出し後に異物(水滴等)が付着及び製品表面に痕跡が残っているもの。
3)金型状態
100ショット成形後、金型の整備をせず一週間後にさび発生の有無を観察した。
○:成形中及び成形後に金型に錆等は発生しない通常使用と同等の状態
×:成形の冷却工程で金型内に異物(水滴等)が付着し次工程の製品外観不具合発生
【0052】
(実施例1)
樹脂(A)を射出成形し、射出時間終了後、直ちに金型に設置されている溶媒注入インジェクターで常温のNOVEC7200(重量約50g)を約1秒間で型内に注入し設定冷却時間(10秒)後インジェクターをOFFにし製品の取り出し工程に移り取出しを行う。射出開始から金型開き開始まで25秒であった。成形サイクルは32秒/ショットであった。取り出し直後の成形品表面の温度は30℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。
【0053】
(実施例2)
樹脂(A)を射出成形し、射出時間終了後、7秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出すと同時に、冷媒3秒間噴霧した。冷却時間の合計は10秒間であった。成形サイクルは32秒/ショットであった。冷却完了直後の成形品表面の温度は43℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。
【0054】
(実施例3)
樹脂(A)を、キャビティ内にインサート部品が設置された状態で、射出成形し、射出時間終了後、8秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出し、冷媒で満たされた冷却槽に2秒間浸漬した。冷却時間の合計は10秒間であった。成形サイクルは32秒/ショットであった。冷却槽から取り出された直後の成形品表面の温度は38℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。
【0055】
(実施例4)
所定量の樹脂(C)を、所定位置より開かれたキャビティ内に5秒間で射出した後、所定位置まで圧縮し10秒間保持した。その後、7秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出すと同時に、冷媒3秒間噴霧した。冷却時間の合計は10秒間であった。成形サイクルは37秒/ショットであった。冷却完了直後の成形品表面の温度は42℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。
【0056】
(実施例5)
所定量の樹脂(B)を、所定位置より開かれた、インサート部品が設置されたキャビティ内に5秒間で射出した後、所定位置まで圧縮し10秒間保持した。その後、8秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出し、冷媒で満たされた冷却槽に2秒間浸漬した。冷却時間の合計は10秒間であった。成形サイクルは38秒/ショットであった。冷却槽から取り出された直後の成形品表面の温度は40℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。
【0057】
(実施例6)
所定量の樹脂(B)を、所定位置より開かれた、インサート部品が設置されたキャビティ内に5秒間で射出した後、所定位置まで圧縮し10秒間保持した。その後、7秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出すと同時に、冷媒3秒間噴霧した。冷却時間の合計は10秒間であった。成形サイクルは47秒/ショットであった。冷却完了直後の成形品表面の温度は40℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。

【0058】
(実施例7)
樹脂(B)をキャビティ内にインサート部品が設置された状態で、射出成形し、射出時間終了後、9秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出し、冷媒で満たされた冷却槽に3秒間浸漬した。冷却時間の合計は12秒間であった。成形サイクルは34秒/ショットであった。冷却槽から取り出された直後の成形品表面の温度は36℃であった。成形品には変形は認められず、表面に冷媒が残存することもなかった。
【0059】
(比較例1)
実施例1において冷媒のNOVEC7200を工業用水に変更する以外は、実施例1と同様に射出成形した。取り出し直後の成形品表面の温度は32℃であった。成形品には変形は認められなかったが、水滴が付着していたので、乾燥が必要であった。また、金型及び周辺設備に水分が付着したので、次ショットに入る前に金型の水分除去等が必要で大きな時間ロスと設備ダメージが伴った。水分除去せずに次ショットに入ると成形品表面にシルバーや発泡などの外観不良が発生すると考えられた。
【0060】
(比較例2)
実施例2において冷媒のNOVEC7200を工業用水に変更する以外は、実施例2と同様に射出成形した。冷却完了直後の成形品表面の温度は44℃であった。成形品には変形は認められなかったが、水滴が付着していたので、乾燥が必要であった。また、金型及び周辺設備に水分が付着したので、次ショットに入る前に金型の水分除去等が必要で大きな時間ロスと設備ダメージが伴った。水分除去せずに次ショットに入ると成形品表面にシルバーや発泡などの外観不良が発生すると考えられた。
【0061】
(比較例3)
樹脂(A)を射出成形し、射出時間終了後、8秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出し、冷媒(工業用水)で満たされた冷却槽に2秒間浸漬した。冷却時間の合計は10秒間であった。成形サイクルは32秒/ショットであった。冷却槽から取り出された直後の成形品表面の温度は40℃であった。成形品には変形は認められなかったが、水滴が付着したので、除去作業をする必要があった。
【0062】
(比較例4)
所定量の樹脂(B)を、所定位置より開かれたキャビティ内に5秒間で射出した後、所定位置まで圧縮し10秒間保持した。その後、8秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出し、冷媒(工業用水)で満たされた冷却槽に3秒間浸漬した。冷却時間の合計は11秒間であった。成形サイクルは48秒/ショットであった。冷却槽から取り出された直後の成形品表面の温度は39℃であった。成形品には変形は認められなかったが、水滴が付着したので、除去作業をする必要があった。
【0063】
(比較例5)
樹脂(B)を、キャビティ内にインサート部品が設置された状態で、射出成形し、射出時間終了後、9秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出し、冷媒(工業用水)で満たされた冷却槽に3秒間浸漬した。冷却時間の合計は12秒間であった。成形サイクルは34秒/ショットであった。冷却槽から取り出された直後の成形品表面の温度は36℃であった。成形品には変形は認められなかったが、付着した水滴の除去作業をする必要があった。
【0064】
(比較例6)
樹脂(A)を、キャビティ内にインサート部品が設置された状態で、射出成形し、射出時間終了後、7秒間型冷却を保持した後金型を開き、冷却が不完全な状態で製品を取り出すと同時に、冷媒(工業用水)を3秒間噴霧した。冷却時間の合計は10秒間であった。冷却完了直後の成形品表面の温度は43℃であった。成形品には変形は認められなかったが、水滴が付着したので、除去作業をする必要があった。また、金型及び周辺設備に水分が付着したので、次ショットに入る前に金型の水分除去等が必要で大きな時間ロスと設備ダメージが伴った。ウエスで水分をふき取った成形品を1週間後に確認したところインサート金属に錆が発生していた。
【0065】
(比較例7)
実施例3において冷媒のNOVEC7200をNOVEC7600に変更する以外は、実施例3と同様に射出成形した。取り出し直後の成形品表面の温度は39℃であった。成形品には変形は認められなかったが、冷媒が付着していたので、冷媒の除去作業が必要であった。また、金型及び周辺設備に冷媒が付着したので、次ショットに入る前に金型の冷媒除去等が必要で大きな時間ロスが伴った。冷媒除去せずに次ショットに入ると成形品表面にシルバーや発泡などの外観不良が発生すると考えられた。
【0066】
(比較例8)
樹脂(B)を、射出成形し、射出時間終了後、10秒間型冷却を保持した後金型を開き、製品を取り出した直後の成形品表面の温度は55℃であった。成形サイクルは32秒/ショットであった。成形品には変形が認められた。なお、成形品に変形が認められない程度の温度(実施例4によれば42℃)まで冷却しようとすると、成形サイクルは約90秒/ショットとなった。
以上の実施例を表1に、比較例を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、本発明による冷却効果は有効で且つ冷却後の水等による錆・製品を乾燥する等の処理必要なし。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、成形品外観や成形設備に悪影響を与えることなく、冷却時間の短縮が図れる。射出成形においては成形サイクルの短縮が、押出成形においては冷却設備の小型化が期待できる。本発明によれば、ハイサイクルにも拘らず得られる成形品は従来の場合には高温で製品の変形・ヒケ・艶ムラ等の発生の問題であるが、本工法で得られる成形品は冷却に優れる事からで製品の変形・ヒケ・艶ムラ等に優れる成形品を得ることができる。プラスチック材料の成形を主体とする産業分野の発展に著しき寄与するものである。このような成形技術により、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品、バンパ、バックドア等の自動車外装部品、化粧台、洗面台、トイレタリー製品等のアメニティ部材をはじめとする工業部品等の用途に成形品を供給するような成形技術に係わる産業分野の発展に有意な役割を果たす。

【符号の説明】
【0071】
E 押出機
F 成形品
31 射出成形用可動金型
32 射出成形用固定金型
33 冷媒注入機
34 キャビティ
35 パーティング面
36 冷媒噴霧装置
37 冷却槽
38 スプール
42 押出ダイ
43 冷却リング
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特開2003−127191
【特許文献2】特開2007−152587

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を高温で賦形した後、冷媒で冷却して樹脂成形品を得る樹脂成形品の製造方法であって、冷媒は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温で液体であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜30KPa
(c)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下
【請求項2】
冷却が、成形品に冷媒を吹き付けることにより行われることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
冷却が、成形品が冷媒槽に投下されることにより行われることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
賦形が、射出成形、押出成形、圧縮成形から選ばれる成形方法でなされることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を高温で金型に充填し賦形した後、金型内に冷媒を充填し、冷媒で冷却して樹脂成形品を得る樹脂成形品の製造方法であって、冷媒は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびパーフルオロケトンの少なくとも1つを含み、下記特性(a)〜(d)を持つ常温で液体であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
(a)沸点が100℃未満
(b)25℃における蒸気圧が5〜30KPa
(c)25℃における密度が1050kg/m以上
(d)25℃における表面張力が20mN/m以下
【請求項6】
賦形が、射出成形、押出成形から選ばれる成形方法でなされることを特徴とする請求項5に記載の樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−189506(P2011−189506A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54789(P2010−54789)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】