説明

機械診断方法及びその装置

【課題】信頼性の高い損傷状況の診断を可能とする。
【解決手段】機械診断装置20は、位置指令値から得られるサーボモータ3へのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定部21と、駆動対象駆動力からボールネジ4の弾性変形誤差を推定する弾性変形誤差推定部23と、サーボモータ3の回転位置とテーブル2の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算部22と、弾性変形誤差と位置偏差とを用いて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断部24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や産業機械等において部品の摩耗や作動抵抗の増加といった損傷状況を診断するための機械診断方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工作機械では、駆動対象となるテーブル等の位置決めを精度良く行うために、フルクローズドループ位置制御装置が採用される。このフルクローズドループ位置制御装置は、特許文献1に示すように、モータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記モータによる駆動対象の位置を直接検出する第2位置検出器とを有し、入力された位置指令値と、第1位置検出器から得られるモータの回転位置と、第2位置検出器から得られる駆動対象の位置とに基づいて駆動対象の位置を制御するものである。
一方、大量生産される機械加工ラインでは、機械の停止はライン全体の停止につながり、しかも突然の停止は部品の納期遅れにつながり問題となる。よって、工作機械の各ユニットの異常や寿命が事前に把握できれば、ライン非稼動時に交換するなどの対策をとることができるため、工作機械には損傷状況の診断機能が望まれている。しかし、上記従来のフルクローズドループ位置制御装置では、位置決め精度の向上を意図しているものの、駆動対象の損傷状況を診断する機能は有していなかった。
そこで、例えば特許文献2に開示の如く、モータトルクが設定された閾値を超えるか否かで判断する機能を付加することで、送り軸の異常検知を診断することが考えられる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−157018号公報
【特許文献2】特開2000−237908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工作機械の各ユニットにおいても細部の寿命、異常が診断可能となればメンテナンス時間を短縮することが出来る。しかし、上記特許文献2の異常検知では、送り軸の異常の有無を判断する材料はモータトルクの大小でしかなく、診断の信頼性が高いとは言えない。また、加工力など外部からの力が入力された場合には異常を診断することが出来ず、異常箇所の特定も困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、フルクローズドループ位置制御装置において信頼性の高い損傷状況診断が可能となる機械診断方法とその装置とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、フルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断方法であって、位置指令値から得られる少なくともモータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定ステップと、駆動対象駆動力から駆動対象の弾性変形誤差を推定する弾性変形誤差推定ステップと、モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算ステップと、弾性変形誤差と位置偏差とを用いて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断ステップと、を有することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、フルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断装置であって、位置指令値から得られる少なくともモータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定部と、駆動対象駆動力から駆動対象の弾性変形誤差を推定する弾性変形誤差推定部と、モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算部と、弾性変形誤差と位置偏差とを用いて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、フルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断方法であって、位置指令値から得られる少なくともモータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定ステップと、モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算ステップと、駆動対象駆動力と位置偏差とに基づいて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断ステップと、を有することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、フルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断装置であって、位置指令値から得られる少なくともモータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定部と、モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算部と、駆動対象駆動力と位置偏差とを記憶する機械情報記憶部と、機械情報記憶部に記憶された駆動対象駆動力と位置偏差とに基づいて機械損傷係数を演算する損傷係数演算部と、損傷係数演算部で得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項4の構成において、適正な機械情報を得て正確な診断を可能とするために、モータ或いは駆動対象の動作方向が反転した際の所定の機械情報が所定の条件を満たさない場合は、機械情報記憶部において記憶処理を実行しない、或いは損傷係数演算部において演算対象から除くことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5の構成において、機械損傷係数をより正確に算出するために、機械情報記憶部では、複数の駆動対象駆動力と位置偏差とを時系列的に記憶し、損傷係数演算部では、機械情報記憶部に記憶されている複数の駆動対象駆動力と位置偏差との関係を直線に近似して傾きを求め、その傾きと予め設定された正常時の傾きとから機械損傷係数を演算することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項4乃至6の何れかに記載の構成において、機械診断の信頼性の向上を図るために、損傷係数演算部では、駆動対象駆動力と、予め設定された駆動対象のガイド部のガイド抵抗上限値とから第2の機械損傷係数を演算し、機械損傷診断部では、機械損傷係数と閾値との比較で異常と診断されなかった場合は、第2の機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断することを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項7の構成において、異常の前兆を適切に診断可能とするために、第2の機械損傷係数を、駆動対象駆動力とガイド抵抗上限値との比が設定された条件を満足しない確率とすることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項4乃至8の何れかに記載の構成において、異常箇所の特定を可能として診断後の対応を容易とするために、機械損傷診断部では、機械損傷係数の閾値として下限値と上限値とを設定し、機械損傷係数が下限値と上限値との範囲外にある場合に異常と診断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1乃至4に記載の発明によれば、フルクローズドループ位置制御装置が備える第1及び第2位置検出器を合理的に利用して、従来に比べ大幅に信頼性の高い損傷状況の診断が可能となる。よって、事前に異常個所あるいは寿命を検知しユーザに知らせることが出来る。
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加えて、適正な機械情報を得て精度の高い機械損傷係数の演算が可能となり、正確な機械診断に寄与できる。
請求項6に記載の発明によれば、請求項4又は5の効果に加えて、複数の駆動対象駆動力と位置偏差とに基づいて機械損傷係数がより正確に算出可能となる。
請求項7に記載の発明によれば、請求項4乃至6の何れかの効果に加えて、第2の機械損傷係数の採用により、ガイド部の異常も診断可能となって機械診断の信頼性が向上する。
請求項8に記載の発明によれば、請求項7の効果に加えて、確率の上昇で異常の前兆を捕らえることが可能となり、重大なトラブルが発生する前に診断可能となる。
請求項9に記載の発明によれば、請求項4乃至8の何れかの効果に加えて、異常箇所の特定が可能となり、メンテナンス等の診断後の対応が容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、工作機械に用いられた機械診断装置の一例を示す構成ブロック図で、テーブルの位置制御装置に設けられている。まず工作機械の位置制御装置1では、駆動対象となるテーブル2が、サーボモータ3の駆動によって回転するボールネジ4によってスライド可能に設けられている。サーボモータ3には、その回転位置を検出する第1位置検出器5が設けられる一方、テーブル2には、ボールネジ4と平行なスケール6に沿ってスライド可能な第2位置検出器7が取り付けられて、テーブル2のスライド位置が検出可能となっている。
【0011】
また、位置制御装置1には、図示しないNC装置から位置指令値が入力され、減算器8は、位置指令値から第2位置検出器7で得られた位置検出値(テーブル2のスライド位置信号)を減算し、位置偏差を算出する。位置制御部9はこの位置偏差に基づいて速度指令値を出力することになる。この位置ループの内側において、速度指令値は減算器10に入力され、減算器10では、第1位置検出器5から得られる回転位置信号を微分器11で微分して得た微分値(サーボモータ3の回転速度)を速度指令値から減算し、速度偏差を算出する。この速度ループにおいて、速度制御部12は速度偏差に基づいてモータトルク指令値を出力し、このモータトルク指令値が電流制御部13で増幅されてサーボモータ3へ出力される。
【0012】
機械診断装置20は、上記フルクローズドループの位置制御装置1での損傷状況を診断するための装置で、ここでは、駆動対象駆動力演算部21と、位置偏差演算部22と、弾性変形誤差推定演算部23と、機械損傷診断部24とを備えている。
まず駆動対象駆動力演算部21には、NC装置からの位置指令値Xi と、速度制御部12からのモータトルク指令値Ti と、第1位置検出器5で得られるサーボモータ3の回転位置Zi とが夫々入力され、後述するルーチンに基づいて駆動対象駆動力(弾性体となるボールネジ4に働く力)Fi を演算するものである。また、弾性変形誤差推定演算部23は、前段の駆動対象駆動力演算部21から入力された駆動対象駆動力Fi とボールネジ4のバネ定数Kとから、Fi /Kの式によって弾性変形誤差Ei を演算するようになっている。さらに、位置偏差演算部22は、サーボモータ3の回転位置Zi と、第2位置検出器7で得られるテーブル2の位置Yi とから両者の差分を算出して位置偏差Di を得るものである。
【0013】
サーボモータ3の回転位置Zi とテーブル2の位置Yi との差分である位置偏差Di は、ボールネジ4の弾性変形量であり、弾性体に働く力、すなわち駆動対象駆動力Fi に比例する。よってここでは、推定した駆動対象駆動力Fi と既知のバネ定数Kとを用いて弾性変形誤差Ei を推定するようにしている。
そして、機械損傷診断部24では、弾性変形誤差推定演算部23で算出された弾性変形誤差Ei と、位置偏差演算部22で算出された実測弾性変形量である位置偏差Di とを用いて機械損傷係数ηを演算し、予め設定されている閾値η0 との比較により、機械の損傷状況を診断する。この機械損傷係数ηは、例えば、η=Ei−Diや、η=(Ei−Di)/Di の式によって演算される。
【0014】
以上の如く構成された機械診断装置20においては、位置制御装置1で速度制御部12からモータトルク指令値Ti が出力されると、駆動対象駆動力演算部21では、図2のフローチャートに基づいて駆動対象駆動力Fi を演算する。なお、ここでは、初期設定値として、トルク推力変換係数P、回転体イナーシャJm 、正常時回転体回転トルクTi0とが予め記憶されている。
まず、S1においては、取得したモータトルク指令値Ti にトルク推力変換係数Pを乗じて駆動対象駆動力Fi が演算される。このままS2の判別で加減速トルクの補正がなく、S3の判別で正常時駆動トルクの補正もなければ、当該ルーチンを終了して駆動対象駆動力Fi が弾性変形誤差推定演算部23へ出力される。
一方、S2の判別で加減速トルクの補正がされていれば、S4において、位置指令値Xi から加速度Ai を演算し、以下の式1によって駆動対象駆動力Fi を修正する。
Fi =Fi−Jm×Ai×P ・・式1
【0015】
また、S3の判別で正常時駆動トルクの補正がされていれば、S5において、反転動作時トルク変化の補正がされたか否かを判別する。ここで当該補正がされていなければ、S6において、位置指令値Xi から速度Vi を演算し、以下の式2によって駆動対象駆動力Fi を修正する。
Fi =Fi−sing(Vi)×Ti0×P ・・式2
一方、S5の判別で反転動作時トルク変化の補正がされていれば、S7において移動方向が反転したか否かを判別し、反転していなければS9へ移行し、反転されていれば、S8で反転位置Xr を更新した後、S9へ移行する。S9では、位置指令値Xi と反転位置Xr とから以下の式3によって反転からの距離Ri を演算する。
Ri =Xi−Xr ・・式3
そして、S10では、位置指令値Xi から速度Vi を演算し、以下の式4によって駆動対象駆動力Fi を修正する。
Fi =Fi−sing(Vi)×Ti0(Ri)×P ・・式4
【0016】
こうして得られた駆動対象駆動力Fi が弾性変形誤差推定演算部23に入力されると、弾性変形誤差推定演算部23では、先述のように駆動対象駆動力Fi とボールネジ4のバネ定数Kとから弾性変形誤差Ei を算出し、機械損傷診断部24へ出力する。
一方、位置偏差演算部22では、サーボモータ3の回転位置Zi とテーブル2の位置Yi とから位置偏差Di を算出し、機械損傷診断部24へ出力する。よって、機械損傷診断部24では、弾性変形誤差Ei と位置偏差Di とから機械損傷係数ηを演算して閾値η0 と比較する。機械損傷係数ηが閾値η0 を超えていれば、機械の損傷が進んだものとして、操作画面への表示によって報知を行う。この場合、通信手段を利用して機械管理者や機械製造会社へ通知することも可能である。
【0017】
このように、上記形態1の機械診断方法及びその装置によれば、フルクローズドループ位置制御装置が備える第1及び第2位置検出器を合理的に利用して、従来に比べ大幅に信頼性の高い損傷状況の診断が可能となる。よって、事前に異常あるいは寿命を検知しユーザに知らせることが出来る。
【0018】
なお、上記形態1では、機械損傷係数ηを単一の閾値η0 と比較して損傷程度を診断しているが、閾値を複数設けて損傷程度を段階的に通知することも可能である。
また、位置偏差演算部22で瞬間の差分を利用して診断を行うと、診断が不安定となる可能性があるため、図示しない記憶部に予め設定された期間の差分を記憶して平均値を求め、その平均値を閾値と比較するようにしてもよい。また、閾値との比率を算出してこれを診断パラメータとし、診断パラメータの積算或いは別途設定した関数を用いて求めた値を機械要素寿命カウンタとして利用することも考えられる。この場合、機械要素寿命カウンタの値が別途設定された寿命カウンタ閾値を超えた際に寿命と判断される。
さらに、駆動対象駆動力Fi と位置偏差Di とからバネ定数Kn を算出することが可能であるため、算出されたバネ定数Kn と既知の装置固有のバネ定数K0 とを比較することによっても装置の損傷状況を診断することは可能である。
【0019】
[形態2]
次に、本発明の他の形態を説明する。なお、テーブルの位置制御装置等、形態1と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
図3に示す機械診断装置20aにおいては、駆動対象駆動力演算部21で得られる駆動対象駆動力Fi と、位置偏差演算部22で得られる位置偏差Di とが、位置指令値Xi と共に機械情報記憶部25に入力され、機械情報記憶部25で後述する機械情報記憶処理を行った後、各値を記憶する。そして、ここで記憶された駆動対象駆動力Fi 、位置偏差Di 、位置指令値Xi とに基づいて、損傷係数演算部26が後述するルーチンで機械損傷係数ζを算出し、その機械損傷係数ζに基づいて機械損傷診断部24が損傷状況を診断する構成となっている。
【0020】
機械情報記憶部25における機械情報記憶処理は、図4のフローチャートに従って実行される。なお、ここでは初期設定値として、反転距離の最小値Rimin、指令速度の最小値Vimin、最大値Vimax、加減速度の最大値Aimaxが夫々予め与えられている。
まず、S11で移動方向が反転したか否かが判別される。移動方向が反転していれば、S12において反転位置Xr を更新した後、反転していなければそのまま反転位置を更新せずに、S13において現在位置Xi を取得して、Xr との差によって反転からの距離Ri を演算する。
次に、S14で、演算して得た距離Ri の絶対値|Ri| がRiminより大きいか否かを判別し、Riminより小さければ、当該記憶処理を行わずにS11へ戻る。一方、Riminより大きければ、S15で、以下の式5,6に基づいて指令速度Vi 、指令加速度Ai を夫々演算する。
Vi =(Xi−Xi−1)/t ・・式5
Ai =(Vi−Vi−1)/t ・・式6
【0021】
同様に、S16では、指令速度の絶対値|Vi| が設定範囲(Vimin〜Vimax)にあるか否かを、S17では、加減速度の絶対値|Ai|がAimax より小さいか否かを夫々判別し、夫々範囲外の場合は当該記憶処理を行わずにS11へ戻る。
そして、指令速度の絶対値|Vi| が設定範囲(Vimin〜Vimax)にあり、且つ加減速度の絶対値|Ai| がAimaxより小さければ、S18において、駆動対象駆動力Fi 、位置指令値Xi 、位置偏差Di を夫々記憶する。
このように、駆動方向の反転からの距離、速度、加減速度に対して夫々所定の条件で判別を行い(S14,S16,S17)、当該条件を満たさない場合には当該記憶処理を行わないようにしたのは、反転時や高速移動の場合には機械情報にばらつきが発生するおそれがあるからである。
【0022】
こうして記憶された駆動対象駆動力Fi 、位置指令値Xi 、位置偏差Di に基づいて、損傷係数演算部26では、ζ=(Fi/Di)や、ζ=(Fi/Di)/K0 (K0 :装置固有のバネ定数)、さらにはζ=(Fi/Di−K0)/K0等の式により演算する。そして、機械損傷診断部24では、得られた機械損傷係数ζを閾値ζ0 と比較して、機械の損傷状況を診断する。
【0023】
このように、上記形態2の機械診断方法及びその装置においても、フルクローズドループ位置制御装置が備える第1及び第2位置検出器を合理的に利用して、従来に比べ大幅に信頼性の高い損傷状況の診断が可能となり、事前に異常個所あるいは寿命を検知しユーザに知らせることが出来る。特にここでは、テーブル2の移動方向が反転した際の反転からの距離、速度、加減速度といった機械情報に所定の条件を夫々設定し、各所定の条件を満たさない場合は機械情報記憶部25に記憶しないようにしたことで、適正な機械情報を得て精度の高い機械損傷係数の演算が可能となり、正確な診断に寄与できる。
【0024】
[形態3]
図5に示す機械診断装置20bにおいては、図3に示す形態2と比較して、まず機械情報記憶部25に、工作機械の主軸モータ制御装置27から主軸モータトルクTsiが入力される点が異なる。よって、機械情報記憶部25による機械情報記憶処理においては、図6に示すように、S18において、主軸モータトルクの絶対値|Tsi|が、これも初期設定値として予め与えられている主軸モータトルクの最小値であるTsminより小さいか否かがさらに判別される。絶対値|Tsi|がTsminより大きい場合は当該記憶処理を行わないようにして、小さい場合にのみS19で、駆動対象駆動力Fi 、位置指令値Xi 、位置偏差Di 、主軸モータトルクTsiを夫々記憶するようにしている。すなわち、形態2による駆動方向の反転時、加減速時、高速移動時の3つの条件に加えて、加工力が大きい場合にも得られる機械情報にばらつきが発生するおそれがあるため、この条件も満たさない場合は機械情報記憶部25に記憶しないようにしたものである。
【0025】
また、ここでは、損傷係数演算部26における機械損傷係数の演算を、図7に示すフローチャートに従って行っている。
まず、S21では、機械情報記憶部25で時系列的に記憶されている駆動対象駆動力Fi と位置偏差Di との関係を、以下の式7に基づいて近似し、最小自乗法により傾きKn 、オフセットδを演算する。
Fi =Kn ×Di +δ ・・式7
次に、S22において、演算された傾きKn と、初期設定値として予め与えられている正常時の傾きK0 とから、機械損傷係数ζを演算する。この演算は、ζ=(Kn−K0)/K0 や、ζ=Kn/K0等により行えばよい。
【0026】
そして、S23では、駆動対象駆動力Fi と、これも初期設定値として予め与えられているガイド抵抗上限値Fimaxとから、第2の機械損傷係数γを演算する。この第2の機械損傷係数γの演算は、γ=Fi/Fimax や、γ=(Fi−Fimax)/Fimax 等により演算される。また、駆動対象駆動力Fi と、ガイド抵抗上限値Fimaxとの比が、予め設定された条件(例えば設定定数C以下である)を満足しない(Fi/Fimax >Cとなる)確率を第2の機械損傷係数γとすることもできる。このようにすれば、確率の上昇で異常の前兆を捕らえることが可能となり、重大なトラブルが発生する前に診断可能となる。
最後にS24において、得られた機械損傷係数ζ及び第2の機械損傷係数γを夫々記憶して終了する。
【0027】
さらに、機械損傷診断部24での機械損傷診断は、図8に示すフローチャートに従って行われている。
ここでは、初期設定値として、正の閾値ζmax と負の閾値ζmin 、さらには閾値γmax が夫々予め与えられており、まずS31では、機械損傷係数ζが正の閾値ζmax より大きいか否かを判別し、大きければS32において、軸受、ナット等の回転抵抗が増加したことに起因する損傷の度合いが進行しているものとして、当該内容を報知する機械異常パターンAを実行する。
一方、S31の判別において機械損傷係数ζが正の閾値ζmax より小さい場合、今度はS33において、機械損傷係数ζが負の閾値ζmin より小さいか否かを判別し、小さければS34において、軸受、ナット等の摩耗が進行しているものとして、当該内容を報知する機械異常パターンBを実行する。
【0028】
このように大小2つの閾値ζmax、ζminを設定して機械損傷係数ζと夫々比較するようにしたのは、モータなどの軸受が損傷した場合、演算される駆動対象駆動力Fi は正常時に比べ大きくなるため、ζも大きくなる一方、ボールネジナットなどが摩耗によりガタが生じた場合、位置偏差Di は正常時に比べ大きくなるため、ζが小さくなることから、2つの閾値と比較することで異常を原因別に診断可能としたものである。
そして、S33の判別において機械損傷係数ζが負の閾値ζmin よりも大きい場合、S35において、第2の機械損傷係数γが閾値γmax より大きいか否かを判別し、大きい場合はS36において、ガイド抵抗の増加が進行しているものとして、当該内容を報知する機械異常パターンCを実行するようにしている。機械損傷係数ζに異常が見られず、第2の機械損傷係数γに異常が見られる場合はガイド部の異常と判断できるからである。
【0029】
このように、上記形態3の機械診断方法及びその装置においても、従来に比べ大幅に信頼性の高い損傷状況の診断が可能となり、事前に異常個所あるいは寿命を検知しユーザに知らせることが出来る。特にここでは、テーブル2の移動方向が反転した際の反転距離、速度、加減速度、主軸モータトルクに所定の条件を夫々設定し、各所定の条件を満たさない場合は機械情報記憶部25に記憶しないようにしたことで、適正な機械情報を得て精度の高い機械損傷係数の演算が可能となり、正確な診断に寄与できる。
また、機械情報記憶部25では、複数の駆動対象駆動力と位置偏差とを時系列的に記憶し、損傷係数演算部26では、記憶されている複数の駆動対象駆動力と位置偏差のとの関係を直線に近似して傾きを求め、その傾きと予め設定された正常時の傾きとから機械損傷係数ζを演算するようにしているため、複数の駆動対象駆動力と位置偏差とに基づいて機械損傷係数がより正確に算出可能となっている。
【0030】
そして、損傷係数演算部26では、駆動対象駆動力とガイド抵抗上限値とから第2の機械損傷係数γを演算し、機械損傷診断部24では、機械損傷係数ζと閾値との比較で異常と診断されなかった場合は、第2の機械損傷係数γを閾値と比較して損傷状況を診断するようにしているので、ガイド部の異常も診断可能となって機械診断の信頼性が向上する。
また、機械損傷診断部24では、機械損傷係数ζの閾値として下限値と上限値とを設定しており、機械損傷係数ζが下限値と上限値との範囲外にある場合に機械損傷と診断するようにしているので、異常箇所の特定が可能となり、メンテナンス等の診断後の対応が容易に行える。
【0031】
なお、上記形態3では、前述の最小自乗法による傾きの算出の際に近似誤差Sn を演算し、得られた機械損傷係数ζの信頼性を評価するようにしてもよい。例えば、データにばらつきが多い場合、すなわち近似誤差Sn が大きい場合は、診断の信頼性が低い可能性があるため、診断を実行しないなどの処理を行い、逆に近似誤差Sn が大きい状態が続く場合は、機械の損傷が進行していると推定するものである。このように近似誤差Sn の大きさで閾値を設定して機械の損傷状況を診断することが可能である。
さらに、駆動対象の動作範囲を複数に分割し、分割区間それぞれで機械損傷係数ζを演算するようにしてもよい。前述のオフセットδを傾きKn で割った値は第1位置検出器と第2位置検出器のオフセットを表しており、ボールネジなどの熱膨張により発生する誤差である。この熱膨張による誤差はボールネジの位置によって変化するため、動作範囲を複数に分割し、各区間で診断を行うものである。但し、熱膨張による誤差は時間によっても変化するため、機械情報記憶部に記憶されている過去のデータの使用期限に注意が必要で、熱変位の影響を受ける場合には演算利用可能期間を予め設定するのが望ましい。
【0032】
一方、形態2、3における機械情報記憶処理では、反転時の距離や速度等に設定して全ての条件を満たした場合に当該記憶処理を行うようにしているが、少なくとも1つのみ条件を満たす場合に当該記憶処理を行うようにすることもできる。
そして、各形態に共通して、駆動対象駆動力の演算や機械情報記憶処理において、位置指令値Xi を用いているが、これに代えて、第1位置検出器の出力Zi や第2位置検出器の出力Yi を用いることも可能である。但し、駆動対象駆動力の演算は、これら複数の機械情報に限らず、モータトルク指令値のみに基づいて算出しても差し支えない。
その他、本発明は工作機械のテーブルの位置制御装置に限らず、主軸頭等の他の駆動対象にも適用可能であるし、搬送用ロボット等の他の産業機械にも採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】形態1の機械診断装置の構成ブロック図である。
【図2】駆動対象駆動力演算のフローチャートである。
【図3】形態2の機械診断装置の構成ブロック図である。
【図4】機械情報記憶処理のフローチャートである。
【図5】形態3の機械診断装置の構成ブロック図である。
【図6】機械情報記憶処理のフローチャートである。
【図7】機械損傷係数演算のフローチャートである。
【図8】機械損傷診断のフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
1・・位置制御装置、2・・テーブル、3・・サーボモータ、4・・ボールネジ、5・・第1位置検出器、7・・第2位置検出器、8,10・・減算器、9・・位置制御部、11・・微分器、12・・速度制御部、13・・電流制御部、20,20a,20b・・機械診断装置、21・・駆動対象駆動力演算部、22・・位置偏差演算部、23・・弾性変形誤差推定演算部、24・・機械損傷診断部、25・・機械情報記憶部、26・・損傷係数演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記モータによる駆動対象の位置を直接検出する第2位置検出器とを有し、入力された位置指令値と、前記第1位置検出器から得られる前記モータの回転位置と、前記第2位置検出器から得られる前記駆動対象の位置とに基づいて前記駆動対象の位置を制御するフルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断方法であって、
前記位置指令値から得られる少なくとも前記モータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定ステップと、
前記駆動対象駆動力から駆動対象の弾性変形誤差を推定する弾性変形誤差推定ステップと、
前記モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算ステップと、
前記弾性変形誤差と位置偏差とを用いて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断ステップと、
を有することを特徴とする機械診断方法。
【請求項2】
モータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記モータによる駆動対象の位置を直接検出する第2位置検出器とを有し、入力された位置指令値と、前記第1位置検出器から得られる前記モータの回転位置と、前記第2位置検出器から得られる前記駆動対象の位置とに基づいて前記駆動対象の位置を制御するフルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断装置であって、
前記位置指令値から得られる少なくとも前記モータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定部と、
前記駆動対象駆動力から駆動対象の弾性変形誤差を推定する弾性変形誤差推定部と、
前記モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算部と、
前記弾性変形誤差と位置偏差とを用いて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断部と、
を備えたことを特徴とする機械診断装置。
【請求項3】
モータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記モータによる駆動対象の位置を直接検出する第2位置検出器とを有し、入力された位置指令値と、前記第1位置検出器から得られる前記モータの回転位置と、前記第2位置検出器から得られる前記駆動対象の位置とに基づいて前記駆動対象の位置を制御するフルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断方法であって、
前記位置指令値から得られる少なくとも前記モータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定ステップと、
前記モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算ステップと、
前記駆動対象駆動力と位置偏差とに基づいて機械損傷係数を演算し、得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断ステップと、
を有することを特徴とする機械診断方法。
【請求項4】
モータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記モータによる駆動対象の位置を直接検出する第2位置検出器とを有し、入力された位置指令値と、前記第1位置検出器から得られる前記モータの回転位置と、前記第2位置検出器から得られる前記駆動対象の位置とに基づいて前記駆動対象の位置を制御するフルクローズドループ位置制御機械において、機械の損傷を診断する機械診断装置であって、
前記位置指令値から得られる少なくとも前記モータへのトルク指令値に基づいて駆動対象駆動力を推定する駆動対象駆動力推定部と、
前記モータの回転位置と駆動対象の位置とから位置偏差を演算する位置偏差演算部と、
前記駆動対象駆動力と位置偏差とを記憶する機械情報記憶部と、
前記機械情報記憶部に記憶された前記駆動対象駆動力と位置偏差とに基づいて機械損傷係数を演算する損傷係数演算部と、
前記損傷係数演算部で得られた機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断する機械損傷診断部と、
を備えたことを特徴とする機械診断装置。
【請求項5】
前記モータ或いは駆動対象の動作方向が反転した際の所定の機械情報が所定の条件を満たさない場合は、前記機械情報記憶部において記憶処理を実行しない、或いは前記損傷係数演算部において演算対象から除くことを特徴とする請求項4に記載の機械診断装置。
【請求項6】
前記機械情報記憶部では、複数の前記駆動対象駆動力と位置偏差とを時系列的に記憶し、前記損傷係数演算部では、前記機械情報記憶部に記憶されている複数の前記駆動対象駆動力と位置偏差との関係を直線に近似して傾きを求め、その傾きと予め設定された正常時の傾きとから機械損傷係数を演算することを特徴とする請求項4又は5に記載の機械診断装置。
【請求項7】
前記損傷係数演算部では、前記駆動対象駆動力と、予め設定された駆動対象のガイド部のガイド抵抗上限値とから第2の機械損傷係数を演算し、前記機械損傷診断部では、前記機械損傷係数と閾値との比較で異常と診断されなかった場合は、前記第2の機械損傷係数を予め設定されている閾値と比較して駆動対象の損傷状況を診断することを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載の機械診断装置。
【請求項8】
前記第2の機械損傷係数を、前記駆動対象駆動力とガイド抵抗上限値との比が設定された条件を満足しない確率とすることを特徴とする請求項7に記載の機械診断装置。
【請求項9】
前記機械損傷診断部では、前記機械損傷係数の閾値として下限値と上限値とを設定し、前記機械損傷係数が下限値と上限値との範囲外にある場合に異常と診断することを特徴とする請求項4乃至8の何れかに記載の機械診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−154274(P2009−154274A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337601(P2007−337601)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】