説明

機能性フィルムおよび機能性フィルムの製造方法

【課題】支持体と、無機膜とを有する機能性フィルムにおいて、支持体のダメージが少なく、かつ、無機膜の密着性が良好で、さらに、緻密な無機膜の圧縮応力に起因する剥離やクラックの発生を抑制した機能性フィルム、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】機能性フィルムの無機膜が、領域Bと、領域Bよりも低密度/薄い領域Aとを有し、領域B−領域A−領域Bの積層構造を1以上有する機能性フィルム、および、複数のプラズマCVDによって、成膜領域から外部へのガス流を制御しつつ無機膜を形成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルム等の機能性フィルム、および、この機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、各種の半導体装置、太陽電池等の各種装置において防湿性が必要な部位や部品、食品や電子部品等を包装する包装材料などガスバリアフィルムが利用されている。
ガスバリアフィルムは、一般的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のプラスチックフィルムを支持体(基板)として、その上に、ガスバリア性を発現する膜(ガスバリア膜)を形成してなる構成を有する。
【0003】
また、ガスバリア性を発現する膜としては、各種の無機膜(無機化合物からなる膜)が知られている。
具体的には、窒化珪素、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機膜が、ガスバリアフィルムに利用されている。
【0004】
ここで、ガスバリアフィルムに利用される無機膜には、支持体(下層)との密着性等にも優れることが要求される。
また、無機膜にクラックや剥離等の欠陥部が有ると、ガスバリア性が大きく低下してしまう。そのため、高いガスバリア性能を得るためには、ガスバリアフィルムに形成される無機膜は、クラック、剥離、欠陥部等が無い(少ない)ことが要求される。
このような要求を満たすために、ガスバリア性を有する無機膜を形成してなるガスバリアフィルムにおいて、各種の提案が成されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、支持体(合成樹脂シート)の上に、ガスバリア性を有する無機膜として酸化窒化珪素を形成してなるガスバリアフィルムにおいて、無機膜の密度分布を調整したガスバリアフィルムが記載されている。
具体的には、特許文献1には、無機膜(酸化窒化珪素膜)の支持体側の界面付近の密度をA、この界面付近を除いた領域の密度をBとして、無機膜が、0.905≦A/B<1.000の関係を有する、膜厚方向で連続した1層の蒸着層であるガスバリアフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4531381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるガスバリアフィルムでは、無機膜が上述のような密度分布を有すること、すなわち無機膜内部に密度が異なる部分が存在することにより、無機膜内部の構造を単純なものでは無く、複雑化している。
特許文献1に記載されるガスバリアフィルムは、この無機膜の内部構造の複雑化によって、水蒸気の透過を妨げる機能を発現し、高いガスバリア性を発現している。
【0008】
しかしながら、このような低密度な領域を形成した後に、高密度な領域を形成してなる無機膜では、膜厚や無機膜の組成によっては、必要な膜厚を形成する際に、全体の膜応力のバランスが崩れ易く、膜のクラックや剥離が生じ易い。
この傾向は、高いガスバリア性が得られる緻密な無機膜ほど、高くなる。
【0009】
また、無機膜の形成途中で膜内でクラックや欠陥部が生じてしまった場合は、クラックや欠陥が、そのまま成長してしまうことが多い。
この場合には、形成された無機膜に、大きなクラックや欠陥が残存する結果となり、ガスバリア性能が、大幅に低下してしまう。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、プラスチックフィルム等の支持体の上に無機膜を形成してなる、ガスバリアフィルムなどの機能性フィルムにおいて、支持体と無機膜との密着性に優れ、かつ、無機膜のクラック、剥離および欠陥部等を大幅に低減し、さらに、無機膜を形成する際の支持体のダメージも、大幅に低減することが可能な機能性フィルム、および、このような高性能な機能性フィルムを好適に製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の機能性フィルムは、支持体と、前記支持体の上に形成された無機膜とを有する機能性フィルムであって、前記無機膜は、領域B、および、この領域Bよりも低密度かつ薄い領域Aを有し、さらに、厚さ方向に積層された領域B−領域A−領域Bの積層構造を、1以上有することを特徴とする機能性フィルムを提供する。
【0012】
このような本発明の機能性フィルムにおいて、前記無機膜が、さらに、厚さ方向に積層された領域A−領域B−領域Aの積層構造を、1以上有するのが好ましい。
また、前記領域Aの密度をa、前記領域Bの密度をbとした際に、『0.6<a/b<1』を満たすのが好ましい。
また、前記無機膜が、珪素と窒素とを含むのが好ましい。
また、前記領域B−領域A−領域Bの積層構造の厚さが10〜200nmであるのが好ましい。
また、前記領域A−領域B−領域Aの積層構造の厚さが5〜100nmであるのが好ましい。
さらに、前記無機膜がガスバリア性を有するのが好ましい。
【0013】
また、本発明の機能性フィルムの製造方法は、支持体を搬送しつつ、前記支持体の搬送方向に配列された複数のプラズマCVDによる成膜手段によって同じ無機膜を成膜すると共に、前記支持体の搬送方向に連続する成膜手段において、上流の前記成膜手段の成膜領域の下流側から成膜領域外に向かうガス流を制御する下流側制御手段、および、下流の前記成膜手段の成膜領域の上流側から成膜領域外へのガス流を制御する上流側制御手段の、少なくとも一方を用いて、前記無機膜の形成を行うことを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供する。
【0014】
このような本発明の機能性フィルムの製造方法において、前記無機膜の形成を、最上流の成膜手段の成膜領域の上流側から成膜領域外へのガス流を制御する制御手段を用いて行うのが好ましい。
また、前記無機膜の形成を、前記下流側制御手段および上流側制御手段の両方を用いて行うのが好ましい。
また、前記ガス流を制御する制御手段が、ガス流を規制するマスクであるのが好ましい。
また、長尺な前記支持体を、長手方向に搬送しつつ、前記複数の成膜手段によって無機膜の形成を行うのが好ましい。
また、前記長尺な支持体を巻回してなる支持体ロールから支持体を送り出して搬送し、形成済の支持体を、再度、ロール状に巻回するのが好ましい。
さらに、前記長尺な支持体の搬送経路に、前記長尺な支持体を周面に巻き掛けて回転することによって搬送する円筒状のドラムを有し、前記複数の成膜手段は、前記ドラムの周面に対向して配置されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成を有する本発明の機能性フィルムは、プラスチックフィルムの上に無機膜を有する機能性フィルムにおいて、無機膜が、厚さ方向に、主に無機膜を形成する領域Bと、この領域Bより薄く低密度な領域Aとを有し、さらに、領域B−領域A−領域Bの積層構造を1以上有し、好ましくは、領域A−領域B−領域Aの積層構造も、1以上有する。
【0016】
そのため、領域Aの緩衝効果によって、無機膜全体の膜応力を低減/制御することができるので、高密度(緻密)な無機膜であっても、膜応力のバランスの崩れ等に起因するクラックや剥離の発生を大幅に防止できる。また、形成中の領域でクラック、剥離、欠陥等が生じても、領域が変わる際に、一度、初期の状態に戻せるため、クラックや欠陥等が大きく成長することを防止できる。
そのため、本発明によれば、無機膜と支持体との密着力が高く、かつ、高密度で膜応力も低く、しかも、クラック、剥離、欠陥等を大幅に低減した、高品質な機能性フィルムを得ることができる。さらに、無機膜の形成に起因する支持体のダメージも、大幅に低減できる。従って、例えば、本発明をガスバリアフィルムに利用することにより、優れたガスバリア性能を有するガスバリアフィルムを得ることができる。
【0017】
また、本発明の製造方法では、支持体を搬送しつつ、支持体搬送方向に配列された複数のプラズマCVDによる形成手段を用い、かつ、制御手段によって、プラズマCVDによる形成領域の上下流端から外部に流れるガス流を調整することにより、このような優れた性能を有する機能性フィルムを、好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の機能性フィルムの一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の機能性フィルムの製造方法の一例を実施するプラズマCVD装置の一例を概念的に示す図である。
【図3】図2に示すプラズマCVD装置の成膜手段を拡大して、概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の機能性フィルムおよび機能性フィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0020】
図1に、本発明の機能性フィルムの一例を概念的に示す。
本発明の機能性フィルム10は、支持体Zと、この支持体Zの上に形成された、無機膜12とを有するものである。
【0021】
ここで、本発明の機能性フィルム10は、支持体Zと無機膜12のみを有するものに限定はされず、支持体Zと、その上に形成された無機膜12とを有するものであれば、各種の層構成が利用可能である。
【0022】
一例として、無機膜12の下に、高品質な無機膜12を形成するための下地層としての有機膜を有してもよい。すなわち、本発明の機能性フィルム10は、プラスチックフィルム等を基材として、その上に、下地層としての有機膜を形成したものを、支持体Zとして用いてもよい。
あるいは、有機膜に変えて、もしくは、有機膜の下層および/または上層に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されている物を、支持体Zとして用いてもよい。
【0023】
また、本発明の機能性フィルムは、無機膜12の上に、保護層としての有機膜が形成されたものであってもよい。
さらに、有機膜と、この有機膜表面に形成された無機膜12との積層構造を、複数、繰り返し有するものでもよく、あるいはさらに、最上層に保護層としての有機膜が形成されたものでもよい。
複数の無機膜12を有する場合には、各無機膜12は、同じ物でも、互いに異なる物でもよい。同様に、複数の有機膜を有する場合も、有機膜は、同じ物でも互いに異なる物でもよい。なお、複数の無機膜12を有する場合には、全ての無機膜12が、後述する層構成を有するのが好ましいが、本発明は、これに限定はされない。
【0024】
本発明の機能性フィルム10は、プラスチックフィルム等の基材の上に有機膜を形成した支持体Zのように、支持体Zは、表面に無機膜12の下地層となる有機膜を有するのが好ましい。
また、本発明の機能性フィルム10は、最上層に、保護層としての有機膜を有するのが好ましい。
【0025】
本発明において、有機膜の形成材料には、特に限定は無く、公知の有機化合物(樹脂/高分子化合物)が、各種、利用可能である。
具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他の有機珪素化合物の膜が好適に例示される。
中でも、強度等に優れる等の点で、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された有機膜は、好適であり、中でも特に、前記強度に加え、屈折率が低い、光学特性に優れる等の点で、アクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂空なる有機膜は、好適に例示される。
【0026】
本発明の機能性フィルム10において、支持体(基材/基体)Zには、特に限定はなく、プラズマCVDによる無機膜12の形成が可能な、各種のシート状物が、全て利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなるプラスチックフィルム(樹脂フィルム)が、支持体Zとして、好適に利用可能である。
なお、支持体Zは、このようなプラスチックフィルムの表面に、無機膜12の下地層となる有機膜などを形成した物も好適に利用されるのは、前述の通りである。
【0027】
前述のように、本発明の機能性フィルム10は、支持体Zの上に、無機膜12を形成してなるものである。
本発明の機能性フィルム10において、無機膜12は、無機化合物からなる膜である。ここで、無機膜12は、厚さ方向の全域が同じ無機化合物からなる膜であるが、密度(緻密さ)の異なる2種類の領域(2種類の層)の積層構造となっている。
【0028】
図1に示される機能性フィルム10において、無機膜12は、層12a〜12gの7つの層(7つの領域)で構成される膜であり、層12a、12c、12eおよび12gは、層12b、12dおよび12fよりも、薄く、かつ、低密度である。
なお、本例では、便宜的に『層』と称してはいるが、無機膜12を形成する各層は、隣接した層の密度が異なるだけで、界面を有する1枚の独立した膜というわけではなく、一体的に形成されている。すなわち、無機膜12は、7つの領域を有する1枚の膜である。
また、領域Aは、内部に、厚さ方向に連続的(傾斜的)に密度が変化する領域を有してもよい。あるいは、領域Aは、全域が、厚さ方向に向けて連続的に密度が変化していてもよい。ここで、領域Aが、密度が連続的に変化する領域を有する場合には、通常、この領域の密度は、隣接する領域Bの一方に向かって、漸次、高くなる傾向を有する。
【0029】
すなわち、図示例の機能性フィルム10においては、層12b、12dおよび12fが、本発明における領域Bであって、主に無機膜12を構成するものである。
また、層12a、12c、12eおよび12gが、領域Bよりも低密度で、かつ、厚さが薄い、本発明における領域Aである。
なお、層12a、12c、12eおよび12gは、基本的に同じ密度であり、同様に、層12b、12dおよび12fも、基本的に同じ密度である。
【0030】
従って、図示例の機能性フィルム10は、本発明における領域B−領域A−領域Bの積層構造として、層12b−層12c−層12dの積層構造と、層12d−層12e−層12fの積層構造との、2つを有する。
また、本発明における領域A−領域B−領域Aの積層構造として、層12a−層12b−層12cの積層構造と、層12c−層12d−層12eの積層構造と、層12e−層12f−層12gの積層構造との、3つを有する。
【0031】
本発明の機能性フィルムは、このような密度と厚さの異なる領域(層)からなる領域B−領域A−領域Bの積層構造を1以上有し、好ましくは、さらに、領域A−領域B−領域Aの積層構造を1以上有することにより、主に無機膜12を構成する領域Bの間の領域Aの緩衝効果によって、無機膜全体の膜応力を低減/制御することができる。そのため、高密度(緻密)な無機膜12であっても、膜応力のバランスの崩れ等に起因するクラックや剥離の発生を大幅に防止できる。
また、無機膜12は、基本的にプラズマCVDによって形成(成膜)されるが、形成中の領域内でクラック、剥離、欠陥等が生じても、領域が変わる際に、一度、成膜初期の状態に戻るため(リセットできる)、クラックや欠陥等が大きく成長のを防止できる。
さらに、好ましくは、領域A−領域B−領域Aの積層構造を有することにより、支持体Zの表面への領域Bの形成に先立ち、低密度な領域Aが形成されるので、主に無機膜12を構成する領域Bの形成するためのプラズマ等による支持体Zの損傷を防止でき、しかも、支持体Zと無機膜12との密着性も向上することができる。
【0032】
すなわち、本発明によれば、支持体Zのダメージが少なく、無機膜12と支持体Zとの密着性が高く、しかも、無機膜12が、高密度で膜応力も低く、かつ、クラック、剥離、欠陥等を大幅に低減した、高品質な機能性フィルムを得ることができる。
従って、例えば、本発明をガスバリアフィルムに利用することにより、強度が高く、しかも、優れたガスバリア性能を有するガスバリアフィルムを得ることができる。
【0033】
なお、本発明の機能性フィルム10において、無機膜12の構成は、図示例に限定はされず、領域Aと領域Bとを厚さ方向に交互に有し、かつ、領域B−領域A−領域Bの積層構造を1以上有し、好ましくは、領域A−領域B−領域Aの積層構造を1以上有するものであれば、各種の構成が利用可能である。
【0034】
例えば、図示例の機能性フィルム10の無機膜12において、最下層の層12aおよび最上層の層12gの少なくとも一方を有さない無機膜であってもよい。
ただし、支持体Zの損傷防止、支持体Zと無機膜12との密着性等の点で、最下層の層12a、すなわち、支持体Zの表面には、領域Aを形成するのが好ましい。従って、この点でも、本発明の機能性フィルム10は、領域A−領域B−領域Aの積層構造を1以上有するのが好ましい。
【0035】
また、図示例の機能性フィルム10において、無機膜が、層12a〜層12dの4層(4領域)から構成されるものでもよく、あるいは、層12a〜層12eの5層から構成されるものでもよい。また、領域B−領域A−領域Bを1つのみ有する、層12b〜層12dの3層のみで構成される無機膜12であってもよい。
さらに、領域Aと領域Bとを、交互に、合計で8層以上、有する無機膜でもよい。
【0036】
本発明の機能性フィルム10において、領域Aおよび領域Bの密度には、特に限定はなく、機能性フィルム10の用途や無機膜12を形成する無機化合物等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明においては、領域Aの密度をa、領域Bの密度をbとした際に、無機膜12が、『0.6<a/b<1』を満たすのが好ましい。
無機膜12が『0.6<a/b<1』を満たすことにより、応力バランス、支持体Zとの密着力、耐久性(高温高湿下での膜質経時変化など)等の点で、好ましい結果を得ることができる。
【0037】
また、無機膜12の厚さにも、特に限定はなく、機能性フィルム10の用途、機能性フィルム10(無機膜12)に要求される性能、無機膜12を形成する無機化合物、要求される生産性等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明の機能性フィルム10においては、領域A−領域B−領域Aの厚さが、5〜100nmであるのが好ましい。また、領域B−領域A−領域Bの厚さが、10〜200nmであるのが好ましい。
このような構成を有することにより、応力バランス、耐久性(高温高湿下での膜質経時変化など)、生産性(装置構成など)等の点で好ましい結果を得ることができる。
なお、領域A同士、および、領域B同士は、互いに厚さが同じでも異なってもよい。
また、領域Aと領域Bとの厚さの比にも特に限定はないが、先と同様の理由で、領域Aの厚さが、隣接する領域Bの厚さの3〜30%であるのが好ましい。
【0038】
ここで、前述のように、本発明の機能性フィルム10の無機膜12では、領域Aと領域Bとは密度が異なるだけで一体的になっており、境界が明確に現れるわけではない。
従って、一例として、無機膜12として想定した一定の密度が厚さ方向に連続する領域を領域Bとし、これ以外の領域を領域Aとして、前記積層構造の厚さを設定する。
【0039】
本発明において、無機膜12を形成する無機化合物(無機膜12の主成分となる無機化合物)には、特に限定はなく、機能性フィルム10の用途に応じて、要求される機能を発現する無機化合物が、各種、利用可能である。
一例として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物; 窒化アルミニウムなどの金属窒化物; 炭化アルミニウムなどの金属炭化物; 酸化珪素、酸化窒化珪素、酸炭化珪素、酸化窒化炭化珪素などの珪素酸化物; 窒化珪素、窒化炭化珪素などの珪素窒化物; 炭化珪素等の珪素炭化物; これらの水素化物; これら2種以上の混合物; および、これらの水素含有物等の、無機化合物からなる膜が、好適に例示される。
【0040】
ここで、本発明の機能性フィルム10は、クラック、剥離、欠陥等の極めて少ない無機膜12を有する。そのため、これらに起因する性能劣化が大きな用途には、好適に利用され、中でも特に、ガスバリアフィルムには、好適に利用される。
従って、無機膜12は、ガスバリア性を有する膜であるのが好ましく、無機膜12を形成する無機化合物は、窒化珪素、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化アルミニウム等のガスバリア性を発現する無機化合物が、好適に利用される。中でも、窒化珪素や酸化窒化珪素などの珪素と窒素とを含有する無機化合物は、特に好適である。
【0041】
図2に、本発明の機能性フィルムの製造方法の一例を実施して、本発明の機能性フィルム10を製造する、プラズマCVD装置の一例を概念的に示す。
図2に示すプラズマCVD装置14(以下、CVD装置14とする)は、長尺な支持体Z(ウエブ状のフィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この支持体Zの表面に、容量結合型プラズマCVD(CCP(Capacitively Coupled Plasma)−CVD)によって無機膜12を形成(成膜)して、ガスバリアフィルムや各種の光学フィルムなどの本発明の機能性フィルム10を製造するものである。
【0042】
なお、本発明の製造方法においては、無機膜12の形成は、CCP−CVDによって行うのに限定はされず、ICP−CVD(誘導結合型プラズマCVD)等、各種のプラズマCVDが、利用可能である。
【0043】
図2に示すCVD装置14は、長尺な支持体Zをロール状に巻回してなる支持体ロールZrから支持体Zを送り出し、支持体Zを長手方向に搬送しつつ、連続的に無機膜12を形成し、無機膜12を形成した支持体Zを巻取り軸16に、再度、ロール状に巻き取る、いわゆるロール・トゥ・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRともいう)を利用して無機膜を形成する装置である。
なお、本発明の製造方法は、長尺な支持体Zを用いるRtoRを利用するものに限定はされない。すなわち、本発明は、無機膜12を形成する支持体Zを搬送しつつ、搬送方向に配列された複数のプラズマCVD手段によって無機膜12を形成するものであれば、カットシート状の支持体Zに、無機膜12を形成するものでもよい。しかしながら、生産性を考慮すれば、図示例のようなRtoRによって無機膜12を形成するのが好ましい。
【0044】
このCVD装置14は、供給室18と、成膜室20と、巻取り室24とを有している。
なお、CVD装置14は、図示した部材以外にも、各種のセンサ、搬送ローラ対や支持体Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、支持体Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)等、長尺な支持体Zに、RtoRによって、プラズマCVDで形成を行なう装置が有する各種の部材を有してもよい。
【0045】
供給室18は、回転軸28と、ガイドローラ30と、真空排気手段32とを有する。
支持体Zを巻回した支持体ロールZrは、供給室18の回転軸28に装着される。
回転軸28に支持体ロールZrが装着されると、支持体Zが支持体ロールZrから引き出され、供給室18から、成膜室20を通り、巻取り室24の巻取り軸14に至る所定の搬送経路を通紙される(所定の搬送経路を通される)。
CVD装置14においては、支持体ロールZrからの支持体Zの送り出しと、巻取り室24の巻取り軸14における支持体Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な支持体Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室20において、支持体Zに、CCP−CVDによる無機膜12の形成を連続的に行なう。
【0046】
供給室18は、図示しない駆動源によって回転軸28を図中反時計方向に回転して、支持体ロールZrから支持体Zを送り出し、ガイドローラ30によって所定の経路を案内して、支持体Zを、隔壁34に設けられたスリット34aから、成膜室20に送る。
【0047】
図示例のCVD装置14においては、好ましい態様として、供給室18に真空排気手段32を、巻取り室24に真空排気手段70を、それぞれ設けている。CVD装置14においては、形成中は、それぞれの真空排気手段によって、供給室18および巻取り室24の圧力を、後述する成膜室20の圧力(形成圧力)に応じた、所定の圧力に保つ。これにより、隣接する室の圧力が、成膜室20の圧力(すなわち、成膜室20での形成)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段32には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ドライポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空形成装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段60および70も同様である。
【0048】
前述のように、支持体Zは、ガイドローラ30によって案内されて、隔壁34のスリット34aから成膜室20に搬送される。
成膜室20は、支持体Zの表面に、CCP−CVDによって領域Aおよび領域Bで形成される無機膜12を形成(成膜)するものである。前述のように、領域Bは、無機膜12を主に構成するものであり、領域Aは、領域Bよりも薄く、かつ、低密度である。
図示例において、成膜室20は、ドラム38と、ガイドローラ42、46、48および50と、無機膜12を形成する3つの成膜手段52a、52bおよび52cと、真空排気手段60とを有する。
【0049】
なお、図示例のCVD装置14は、支持体Zの搬送方向に配列されて、3つの成膜手段を有するが、本発明は、これに限定はされず、成膜手段は2つであってもよく、あるいは、4つ以上の成膜手段を有してもよい。
【0050】
成膜室20のドラム38は、中空の円筒状の部材で、中心線を前記円筒と一致する回転軸を中心に、図中矢印方向(時計方向)に回転する。
ドラム38は、ガイドローラ42および46によって所定の経路に案内された支持体Zを、表面の所定領域に掛け回して(所定の巻き掛け角で掛け回して)、図示しない駆動源によって回転することにより、支持体Zを所定位置に位置しつつ、長手方向に搬送する。
【0051】
本発明の製造方法において、支持体Zを掛け回して搬送するドラム38は、CCP−CVDにおける対向電極としても作用する。すなわち、ドラム38と、後述する各成膜手段のシャワー電極40(成膜電極)とで、CCP−CVDによる成膜を行なうための電極対を形成する。
そのため、ドラム38には、バイアス電力を供給するためのバイアス電源を接続してもよく、あるいは、接地してもよい。あるいは、バイアス電源との接続と接地とが、切り換え可能であってもよい。
また、ドラム38は、支持体Zの冷却や加熱を行うため、支持体Zを支持する周面の温度を調整する、温度調整手段を有してもよい。
【0052】
成膜手段52a、52bおよび52cは、いずれも、ドラム38に巻き掛けられて搬送される支持体Zに、CCP−CVDによって無機膜12を形成するものである。
成膜手段52a、52bおよび52cは、基本的に、同じ構成を有するものであって、シャワー電極40と、高周波電源54と、ガス供給手段58とを有して構成される。
また、各成膜手段は、シャワー電極40の上流側(支持体搬送方向の上流側 以下、同様)端部近傍とドラム38との間に入口マスク58aを、シャワー電極40の下流側端部近傍とドラム38との間に出口マスク58aを、それぞれ有する(図3参照)。
【0053】
シャワー電極40は、支持体Zの対向面から原料ガスを噴射する、CCP−CVDによる成膜に利用される、公知のシャワー電極(シャワープレート)である。成膜室20では、シャワー電極40とドラム38とによって、CCP−CVDを行うための電極対を構成するのは、前述のとおりである。
図示例において、シャワー電極40は、一例として、一面がドラム38(すなわち支持体Z)に対面して配置される、内部に空間(ガス供給空間)が形成された、略直方体形状を有する。また、シャワー電極40のドラム38との対向面には、この内部空間に連通するガス供給孔が、多数、形成されている。
また、図示例において、シャワー電極40のドラム38と対向(対面)する面は、ドラム38と表面と平行になるように(すなわち、ドラム38とシャワー電極との間隔が全面的に均一になるように)、凹状の曲面となっている。
【0054】
成膜室20においては、各成膜手段のシャワー電極40が、支持体Zの搬送方向すなわちドラム38の回転方向に配列して、配置される。
すなわち、図示例のCVD装置14は、プラズマCVDによる3つの成膜手段によって、1つの無機膜12を形成するものであり、支持体Zは、ドラム38に巻き掛けられ搬送されることで、CCP−CVDによる同じ無機膜の成膜を最大で3回行われて、表面に無機膜12が形成される。
【0055】
ガス供給手段56は、プラズマCVD装置等の真空形成装置に用いられる、公知のガス供給手段である。
このガス供給手段56は、シャワー電極40の内部空間に原料ガスを供給する。また、前述のように、シャワー電極40のドラム38との対向面には、内部空間に連通する多数のガス供給孔が形成されている。従って、シャワー電極40に供給された原料ガスは、このガス供給孔から、シャワー電極40とドラム38との間に供給される。
なお、ガス供給手段56が供給する原料ガス(プロセスガス/材料ガス)は、形成する無機膜12に応じた公知のものでよい。例えば、窒化珪素膜を形成する場合には、ガス供給手段56は、一例として、シランガス、アンモニアガスおよび窒素ガス(あるいはさらに水素ガス)を供給する。
【0056】
高周波電源54は、シャワー電極40に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源54も、13.56MHzの高周波電力を供給する電源等、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源である。
真空排気手段60は、プラズマCVDによる成膜のために、形成室内を排気して、所定の圧力に保つものであり、前述のように、真空形成装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0057】
なお、本発明の製造方法において、支持体Zの搬送速度、形成圧力、原料ガスの供給量、プラズマ励起電力の強さなど、無機膜12の成膜条件には、特に限定はない。すなわち、成膜条件は、通常のプラズマCVDによる成膜と同様に、形成する無機膜12の種類や膜厚、支持体Zの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
なお、無機膜12を形成する際には、成膜手段52a、52bおよび52cは、基本的に、同じ成膜条件で成膜を行う。しかしながら、本発明は、これに限定はされず、必要に応じて、無機膜12を形成する際に、成膜手段52a、52bおよび52cの1以上で、他の成膜手段と成膜条件を変えてもよい。
【0058】
前述のように、成膜手段52a、52bおよび52cは、いずれも、シャワー電極40の上流側端部近傍とドラム38との間に入口マスク58aを、シャワー電極40の下流側端部近傍とドラム38との間に出口マスク58aを、それぞれ、有する。
【0059】
この入口マスク58aは、成膜領域の上流側から成膜領域外に流れる原料ガス流を制御する、上流側制御手段である。具体的には、図3に成膜手段52aを例に模式的に示すように、入口マスク58aは、成膜領域(シャワー電極40と支持体Zとの対面領域)から、シャワー電極40(成膜領域)の上流側に流れる原料ガス流を規制する。なお、最上流の成膜手段52aの入口マスク58aは、最上流の成膜手段の成膜領域から、シャワー電極40の上流側に流れる原料ガス流を制御する制御手段である。
他方、出口マスク58bは、成膜手段の下流側から成膜領域外に流れる原料ガス流を制御する、下流側制御手段である。具体的には、同じく、図3に模式的に示すように、出口マスク58bは、成膜領域から、シャワー電極40の下流側に流れる原料ガス流を規制する。
【0060】
図示例の成膜室20においては、成膜手段52a、52bおよび52cの3つの成膜手段を有し、かつ、各成膜手段が、このような入口マスク58aおよび出口マスク58bを有することにより、主に無機膜12を形成する領域Bと、領域Bよりも薄く低密度である領域Aとを交互に有し、かつ、領域B−領域A−領域Bの積層構造を1以上有する、無機膜12を形成している。
【0061】
プラズマCVDは、原料ガスを利用する成膜であるので、必然的に、成膜領域から、成膜領域外に向かう原料ガス(原料ガスや成膜種となる活性ラジカル)のガス流が生じる。
ここで、図3に、成膜手段52aを例に模式的に示すように、シャワー電極40の上下流端とドラム38との間に、成膜領域の上流側から流れる原料ガス流を規制する入口マスク58aおよび同下流側から流れる原料ガス流を規制する出口マスク58bを設けると。成膜領域から、成膜領域の上下流に流れるガス量は、非常に少なくなる。
【0062】
そのため、成膜手段52aにおいては、支持体Zは、まず、成膜領域(入口マスク58a)の直上流において、入口マスク58aから漏れた原料ガスによって、無機膜が形成される。ここで、入口マスク58aから漏れる原料ガスは、少量である。また、成膜領域外(入口マスク58aの上流側=マスクの外)は、電界が掛からずにプラズマが形成されていないので、活性ラジカル(成膜種)が少なく、形成される膜の密度は低くなる。その結果、成膜領域(入口マスク58a)の直上流では、極薄く、かつ、非常に低密度の無機膜すなわち領域Aが形成される。
次いで、支持体Zは、成膜領域に侵入して、通常のCCP−CVDによる成膜と同様に無機膜を形成される。すなわち、成膜手段52aの成膜領域において、主に無機膜を構成する領域Bが形成される。
さらに、支持体Zは、成膜手段52aの成膜領域から搬出され、成膜領域(すなわち、出口マスク58a)の直下流において、出口マスク58bから漏れた原料ガスによって、無機膜が形成される。先と同様、出口マスク58aから漏れる原料ガスは少量で、しかも、成膜領域外で形成される膜の密度は低くなるので、支持体Zには、再度、極薄く、かつ、非常に低密度の無機膜すなわち領域Aが形成される。
以上の作用は、成膜手段52bおよび52cでも同様である。
【0063】
前述のように、図示例の成膜室20は、3つの3つの成膜手段52a、52bおよび52cを有する。また、各成膜手段のシャワー電極40は、ドラム38に対面して支持体Zの搬送方向(ドラム38の回転方向)に配列されている。
従って、支持体Zは、まず、成膜手段52aの成膜領域の直上流において、入口マスク58aから漏れた原料ガスによって領域Aである層12aを形成され、次いで、成膜手段52aの成膜領域において領域Bである層12bを形成される。
ここで、領域Aである層12aは、成膜領域から漏れた原料ガスによる成膜であるので、層12aの形成によって、支持体Zの表面にプラズマ等によるダメージを与えることはない。しかも、無機膜12を主に構成する領域Bである層12bを成膜する際には、層12aが保護膜として作用する。そのため、層12bを形成するためのプラズマによる支持体Zの損傷を抑制した高品質な機能性フィルムを製造できる。
【0064】
次いで、支持体Zは、成膜手段52aの直下流および成膜領域52bの直上流において、出口マスク58bおよび入口マスク58aから漏れた原料ガスによって領域Aである層12cを形成され、次いで、成膜手段52bの成膜領域において領域Bである層12dを形成される。
次いで、支持体Zは、成膜手段52bの直下流および成膜領域52cの直上流において、から漏れた原料ガスによって領域Aである層12dを形成され、次いで、成膜手段52cの成膜領域において領域Bである層12fを形成される。
さらに、支持体Zは、成膜手段52cの直下流において、出口マスク58bから漏れた原料ガスによって領域Aである層12gを形成される。
これにより、図1に示す、領域Aおよび領域Bが交互に積層された、層12a〜層12gの7つ領域のからなる無機膜12が形成される。
【0065】
以上のように、RtoRによる成膜のように支持体Zを搬送しつつ成膜を行うと共に、複数の成膜手段を支持体の搬送方向に配列し、さらに、入口マスク58aおよび出口マスク58bのように、成膜領域から、成膜領域の上下流側の成膜領域外に流れる原料ガス流を制御するガス流の制御手段を設けることにより、領域Aおよび領域Bが交互に積層され、かつ、領域B−領域A−領域Bの積層構造を1以上有し、好ましくは領域A−領域B−領域Aの積層構造も1以上有する、本発明の機能性フィルムを、好適に製造することができる。
また、本例においては、入口マスク58aおよび/または出口マスク58bと、ドラム38との間隙の調整等、成膜領域から成膜領域外に流れる原料ガス流の量などを、原料ガスの導入方法や排気の制御などで調整することにより、領域Aの密度や厚さ等を調整することができる。例えば、成膜領域から成膜領域外に流れる原料ガス流の量を多くすることで、領域Aの密度を高くし、かつ、厚さも厚くできる。
さらに、成膜室20の構造の調整によっても、同様に、領域Aの密度や厚さ等を調整することができる。
【0066】
無機膜12が形成された支持体Zすなわち機能性フィルム10は、ガイドローラ48および50に案内されて、隔壁64のスリット64aから、巻取り室24に搬送される。
【0067】
図示例において、巻取り室24は、ガイドローラ68と、巻取り軸14と、真空排気手段70とを有する。
巻取り室24に搬送された支持体Zは、ガイドローラ68に案内されて巻取り軸14に搬送され、巻取り軸14によってロール状に巻回されガスバリアフィルムなどの機能性フィルムを巻回してなるロールとして、次の工程に供される。
また、先の供給室18と同様、巻取り室24にも真空排気手段70が配置され、形成中は、巻取り室24も、成膜室20における形成圧力に応じた真空度に減圧される。
【0068】
以下、CVD装置14の作用を説明する。
回転軸28に支持体ロールZrが装着されると、支持体Zは、支持体ロールZrから引き出される。支持体ロールZrから引き出された支持体は、ガイドローラ30によって案内されて成膜室20に至り、成膜室20において、ガイドローラ42および46に案内されて、ドラム38の表面の所定領域に掛け回され、次いで、ガイドローラ48および50によって案内されて巻取り室24に至り、巻取り室24において、ガイドローラ68に案内されて巻取り軸14に至る、所定の搬送経路を通紙される。
【0069】
支持体Zの通紙が終了すると、供給室18、成膜室20および巻取り室24が閉塞される(密閉される)。次いで、真空排気手段32、60、および70が駆動され、供給室18、成膜室20および巻取り室24が、所定の圧力まで減圧される。各室の圧力が安定したら、成膜室20では、成膜手段52a、52bおよび52cにおいて、ガス供給手段56からシャワー電極40に、原料ガスが供給される。
成膜室20内が形成に対応する所定圧力で安定したら、供給室18から巻取り室24に向かう支持体Zの搬送が、開始され、また、成膜手段52a、52bおよび52cにおいて、高周波電源54からシャワー電極40へのプラズマ励起電力の供給を開始する。
【0070】
供給室18から成膜室20に搬送された支持体Zは、ガイドローラ42および46によって案内され、ドラム38に巻き掛けられた状態で搬送されつつ、搬送方向に配列された成膜手段52a、52bおよび52cによって、前述のように層12a〜層12gが、順次、形成されて無機膜12が形成される。
【0071】
無機膜12が形成された支持体Zすなわち機能性フィルム10は、ガイドローラ48および50によって案内されて、巻取り室24に搬送される。
巻取り室24に搬送された支持体Zは、ガイドローラ68によって所定の経路に案内され、巻取り軸14によってロール状に巻回される。
【0072】
図2および図3に示すCVD装置14は、成膜手段52a、52bおよび52cの全てが入口マスク58aおよび出口マスク58bを有しているが、本発明は、これに限定はされない。
例えば、成膜手段52aの出口マスク58bおよび成膜手段52bの入口マスク58aのいずれかを有さず、さらに、成膜手段52bの出口マスク58bおよび成膜手段52cの入口マスク58aのいずれかを有さない構成であっても、図1に示す層12a〜層12bの7つの層からなる無機膜12を形成できる。
【0073】
また、最上流の成膜手段52aの入口マスク58aを有さない場合には、図1に示す無機膜12において、最も下の層12aを有さない層12b〜層12gの6つの層からなる無機膜を形成できる。しかしながら、支持体Zの表面には、領域Aを成膜するのが好ましいのは、前述のとおりである。
さらに、最下流の成膜手段52cの出口マスク58bを有さない場合には、図1に示す無機膜12において、最も上の層12gを有さない層12a〜層12fの6つの層からなる無機膜を形成できる。
【0074】
また、CVD装置14では、成膜手段52a、52bおよび52cの全てを駆動するのに限定もされず、2以上を駆動すればよい。
すなわち、何れかを駆動しないことにより(無くすことにより)、図1に示す無機膜12において、層12a〜層12eの5つの層からなる無機膜を形成できる。
【0075】
本発明の製造方法において、成膜領域から外部に流れる原料ガス流を制御する制御手段は、図示例のような原料ガスの流れを規制するマスクに限定はされない。
例えば、原料ガスの供給方向と排気方向とを調整することにより、成膜領域から外部に流れる原料ガス流を制御して、成膜領域の直上流および/または直下流において、領域Aを成膜するようにしてもよい。また、成膜電極の上流側と下流側の電界の調整を、成膜領域から外部に流れる原料ガス流を制御する制御手段と見なして、成膜領域の上流および/または下流において、領域Aを成膜するようにしてもよい。
【0076】
以上、本発明の機能性フィルムおよび機能性フィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
図1に示すようなCVD装置14を用いて、支持体Zの表面に、窒化珪素膜を形成して、ガスバリアフィルムを製造した。
【0078】
ドラム38は、ステンレス製で、直径1500mmの物を用いた。また、このドラム38は、温度調節手段を内蔵しており、成膜中は、ドラム38の表面温度を10℃に調節した。
支持体Zは、幅100cm、厚さ70μmのPETフィルムを用いた。
原料ガスは、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、水素ガス(H2)および窒素ガス(N2)を用いた。成膜圧力は100Paとした。
シャワー電極40には、高周波電源54から、周波数13.5MHzで、3kWのプラズマ励起電力を供給した。
【0079】
以上の条件において、成膜手段52aおよび52bの2つを駆動して、支持体Zの表面に、厚さ約100nmの窒化珪素膜を形成し、ガスバリアフィルムを作製した。
【0080】
TEMによる断面構造の観測によって測定した所、窒化珪素膜は、図1に示す無機膜12における層12a〜層12eの5つの層からなるものであった。すなわち、この窒化珪素膜は、領域B−領域A−領域Bの積層構造を1つ、領域A−領域B−領域Aの積層構造を2つ、有するものである。
また、領域Aである層12aおよび12eの厚さは約5nmで層12cの厚さは約10nmであり、領域Bである層12bおよび12dの厚さは約40nmであった。
【0081】
[実施例2]
成膜手段52a、52bおよび52cの全てを駆動して、実施例1と同様にして、厚さ約100nmの窒化珪素膜を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。なお、膜厚は、支持体Zの搬送速度で調整した。
実施例1と同様に測定したところ、窒化珪素膜は、図1に示す無機膜12と同様の層12a〜層12gの7つの層からなるものであった。すなわち、この窒化珪素膜は、領域B−領域A−領域Bの積層構造を2つ、領域A−領域B−領域Aの積層構造を3つ、有するものである。
また、領域Aである層12aおよび12gの厚さは約5nmで、層12cおよび12eの厚さは約10nmであり、領域Bである層12b,12dおよび12fの厚さは約23nmであった。
【0082】
[比較例1]
成膜手段52aのみを駆動して、実施例1と同様にして、厚さ約100nmの窒化珪素膜を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。なお、膜厚は、先の例と同様に、支持体Zの搬送速度で調整した。
実施例1と同様に測定したところ、窒化珪素膜は、図1に示す無機膜12における層12a〜12cの3つの層からなるものであった。また、領域Aである層12aおよび12cの厚さは約5nm、領域Bである層12bの厚さは、約90nmであった。
【0083】
[比較例2]
成膜手段52aのみを駆動して、実施例1と同様にして、厚さ約100nmの窒化珪素膜を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。なお、本例においては、成膜手段52aの出口マスク58bを取り外した。なお、膜厚は、先の例と同様に、支持体Zの搬送速度で調整した。
実施例1と同様に測定したところ、窒化珪素膜は、図1に示す無機膜12における層12aおよび12bの2つの層からなるものであった。また、領域Aである層12a厚さは約5nm、領域Bである層12bの厚さは、約95nmであった。
【0084】
[比較例3]
成膜手段52aおよび52bの2つを駆動して、実施例1と同様にして、厚さ約100nmの窒化珪素膜を形成し、ガスバリアフィルムを作製した。なお、本例においては、成膜手段52aおよび52bの入口マスク58aおよび出口マスク58bを取り外した。
実施例1と同様に測定したところ、窒化珪素膜は、領域Bのみで形成されていた。
【0085】
作製した5種のガスバリアフィルムについて、ガスバリア性および密着性を測定した。
ガスバリア性は、モコン法によって水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定することで、測定した。なお、モコン法の測定限界を超えた例は、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、水蒸気透過率を測定した。
【0086】
密着性は、テープ剥離試験によって無機膜を剥離することで測定した。
テープ剥離試験によって、無機膜が全く剥離しなかったものをランクA;
テープ剥離試験によって、無機膜の一部が剥離したものをランクB;
テープ剥離試験によって、無機膜が全面剥離しものをランクC; と評価した。
結果を下記表に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
上記表に示されるように、領域B−領域A−領域Bの積層構造、および、領域A−領域B−領域Aの積層構造を1以上有する本発明の機能性フィルムにかかる実施例1および実施例2のガスバリアフィルムは、いずれも、優れたガスバリア性を有し、さらに、無機膜の密着性も高い。
これに対し、領域Aと領域Bとの積層構造であっても、領域B−領域A−領域Bの積層構造を有さない比較例1および比較例2のガスバリアフィルムは、ガスバリア性および無機膜の密着性が、共に、不十分である。さらに、領域Aと領域Bとの積層構造を有さない比較例3のガスバリアフィルムは、ガスバリア性および無機膜の密着性が、共に、低い。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
ガスバリアフィルムや反射防止フィルムなど、各種の機能性フィルムおよび機能性フィルムの製造に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
10 機能性フィルム
12 無機膜
14 (プラズマ)CVD装置
16 巻取り軸
18 供給室
20 形成室
24 巻取り室
28 回転軸
30,42,46,48,50,68 ガイドローラ
32,60,70 真空排気手段
34,64 隔壁
38 ドラム
40 シャワー電極
52a,52b,52c 成膜手段
54 高周波電源
56 ガス供給手段
58a 入口マスク
58b 出口マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体の上に形成された無機膜とを有する機能性フィルムであって、
前記無機膜は、領域B、および、この領域Bよりも低密度かつ薄い領域Aを有し、さらに、厚さ方向に積層された領域B−領域A−領域Bの積層構造を、1以上有することを特徴とする機能性フィルム。
【請求項2】
前記無機膜が、さらに、厚さ方向に積層された領域A−領域B−領域Aの積層構造を、1以上有する請求項1に記載の機能性フィルム。
【請求項3】
前記領域Aの密度をa、前記領域Bの密度をbとした際に、『0.6<a/b<1』を満たす請求項1または2に記載の機能性フィルム。
【請求項4】
前記無機膜が、珪素と窒素とを含む請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項5】
前記領域B−領域A−領域Bの積層構造の厚さが10〜200nmである請求項1〜4のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項6】
前記領域A−領域B−領域Aの積層構造の厚さが5〜100nmである請求項2〜5のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項7】
前記無機膜がガスバリア性を有する請求項1〜6のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項8】
支持体を搬送しつつ、前記支持体の搬送方向に配列された複数のプラズマCVDによる成膜手段によって同じ無機膜を成膜すると共に、
前記支持体の搬送方向に連続する成膜手段において、上流の前記成膜手段の成膜領域の下流側から成膜領域外に向かうガス流を制御する下流側制御手段、および、下流の前記成膜手段の成膜領域の上流側から成膜領域外へのガス流を制御する上流側制御手段の、少なくとも一方を用いて、前記無機膜の形成を行うことを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記無機膜の形成を、最上流の成膜手段の成膜領域の上流側から成膜領域外へのガス流を制御する制御手段を用いて行う請求項8に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記無機膜の形成を、前記下流側制御手段および上流側制御手段の両方を用いて行う請求項8または9に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ガス流を制御する制御手段が、ガス流を規制するマスクである請求項8〜10のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項12】
長尺な前記支持体を、長手方向に搬送しつつ、前記複数の成膜手段によって無機膜の形成を行う請求項8〜11のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記長尺な支持体を巻回してなる支持体ロールから支持体を送り出して搬送し、形成済の支持体を、再度、ロール状に巻回する請求項12に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記長尺な支持体の搬送経路に、前記長尺な支持体を周面に巻き掛けて回転することによって搬送する円筒状のドラムを有し、前記複数の成膜手段は、前記ドラムの周面に対向して配置される請求項12または13に記載の機能性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−56514(P2013−56514A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197471(P2011−197471)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】