説明

歩行者保護装置

【課題】フロントピラーの車両前方にエアバッグを膨張展開させる歩行者保護装置において、エアバッグが車室内へ入り込むことを防止または抑制することができる歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】フロントピラーの車両前方側へエアバッグを展開させる歩行者保護装置において、衝突予測時に、フロントドアガラスが所定位置より下降している場合(ε>ε0)には、フロントドアガラスを少なくとも前記所定位置まで上昇させる(ε=ε0)。その結果、フロントドアガラス上端とフロントドアフレームとの間の開口幅を狭くすることができるので、エアバッグの膨張展開時に、エアバッグが車室内へ入り込むことを防止または抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントピラーの前面側を覆い可能なエアバッグを備えた歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の歩行者との衝突時に、エアバッグをフロントピラーの車両前方側に膨張展開させて、歩行者のフロントピラーへの衝突を防ぐ歩行者保護装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の歩行者保護装置には、フロントドアにおけるフロントピラー近傍の部位に、エアバッグが収納されている。エアバッグは、側面膨張部を備え、ドアミラーに当接支持可能に配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−6957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フロントピラーの車両前方側にエアバッグを膨張展開させる歩行者保護装置では、フロントドアガラスが降りていた場合、ドアミラーとエアバッグとの両者の配設位置や、エアバッグの折りたたみ方、エアバッグの膨張展開形状によっては、膨張展開時にエアバッグの一部が車室内へ入り込む可能性がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、エアバッグをフロントピラーの車両前方側に膨張展開させる歩行者保護装置において、エアバッグの一部が車室内へ入り込むことを防止または抑制できる歩行者保護装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る歩行者保護装置は、上記課題を解決するために、歩行者等の衝突体との衝突を予測する衝突予測手段と、前記衝突予測手段により衝突が予測されたときにフロントピラーの車両前方側へ展開させるエアバッグと、を含んで構成された歩行者保護装置において、前記歩行者保護装置は、前記衝突予測手段により前記衝突が予測されたときにフロントドアガラスを上昇させるフロントドアガラス上昇手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、衝突予測手段により歩行者等の衝突体との衝突が予測された場合に、フロントドアガラス上昇手段によりフロントドアガラスが上昇する。したがって、フロントドアガラス上端と、フロントドアフレームとの間の開口幅が狭く、または0となる。
【0008】
請求項2に記載の発明に係る歩行者保護装置は、請求項1に記載の歩行者保護装置において、前記フロントドアガラス上昇手段は、前記フロントドアガラスが所定位置よりも下降しているときに、当該フロントドアガラスを少なくとも前記所定位置まで上昇させることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、フロントドアガラスが所定位置よりも上昇した位置(例えば、エアバッグが車室内に入り込まない程度の位置)に位置していれば、フロントドアガラスは上昇されない。
【0010】
請求項3に記載の発明に係る歩行者保護装置は、請求項1または請求項2に記載の歩行者保護装置において、前記歩行者保護装置は、車両の速度または車両と歩行者との相対速度を検出する速度検出手段をさらに備え、前記フロントドアガラス上昇手段は、前記速度検出手段により検出された速度が所定値以上であれば、前記フロントドアガラスを上昇させることを特徴とする。
【0011】
例えばエアバッグが作動しない程度の車両の速度または車両と歩行者との相対速度であれば、フロントドアガラスを上昇させる必要がない。上記構成によれば、速度検出手段により検出された車両の速度または車両と歩行者との相対速度が所定値以上であればフロントドアガラス上昇手段によりフロントドアガラスが制御(上昇)されるので、フロントドアガラスの上昇を、エアバッグの膨張展開に応じて調節することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明に係る歩行者保護装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置において、前記歩行者保護装置は、フロントドアフレームから車外側に乗員の一部位が突出されているか否かを判別する突出状態判別手段と、前記突出状態判別手段によりフロントドアフレームから車外側に乗員の一部位が突出されていると判別されたときに前記フロントドアガラスの上昇を禁止するフロントドアガラス上昇禁止手段をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、突出状態判別手段によりフロントドアフレームから車外側に乗員の一部位が突出されていると判別された場合には、フロントドアガラス上昇禁止手段によりフロントドアガラスの上昇が禁止される。そのため、フロントドアガラスの上昇による乗員の一部位の挟み込みが防止または抑制される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る歩行者保護装置は、エアバッグの膨張展開時に、エアバッグの一部が車室内に入り込むことが防止または抑制されるという優れた効果を有する。
【0015】
また、請求項2記載の本発明に係る歩行者保護装置は、より効率的にフロントドアガラスの制御を行うことができるという優れた効果を有する。
【0016】
また、請求項3記載の本発明に係る歩行者保護装置は、例えば、エアバッグを作動させる車速と連動させることで、より効率的にフロントドアガラスの制御を行うことができるという優れた効果を有する。
【0017】
また、請求項4記載の本発明に係る歩行者保護装置は、運転席または助手席あるいは運転席と助手席両方の乗員の一部位を挟み込みから保護することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る歩行者保護装置の基本構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る歩行者保護装置が備えられた車両のフロントピラー近傍の概略を示す斜視図ある。
【図3】第1の実施形態に係る歩行者保護装置の制御形態を示すフローチャートである。
【図4】第2の実施形態に係る歩行者保護装置の基本構成を模式的に示すブロック図である。
【図5】第2の実施形態に係る歩行者保護装置の制御形態を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態に係る歩行者保護装置の衝突可能性・衝突不可避性を判別する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
以下に、本発明の第1の実施形態について図1乃至図3を参照して説明する。
【0020】
図1には、本実施形態における歩行者保護装置10の基本構成を模式的に示すブロック図が示されている。図1に示されるように、本実施形態における歩行者保護装置10は、エアバッグ装置12と、歩行者等の衝突体との衝突を検出する衝突センサ13と、車両前方を撮影する第1のCCDカメラ14と、車速を検出する車速センサ16と、ドアガラスの昇降を調節するパワーウィンドウ装置18と、運転席または助手席またはそれら両方の乗員の状態を撮影する第2のCCDカメラ20と、歩行者保護装置10の作動を制御する電子制御ユニット(ECU)22とを含んで構成されている。なお、ECU22は、判定部と記憶部とを含んで構成されている。
【0021】
図2に示されるように、エアバッグ装置12は、車両のフロントピラー32よりも車両前後方向後方側に配置されたフロントドア34に搭載されている。より具体的には、エアバッグ装置12は、フロントドア34の一部として設けられたドアミラー36より車両前後方向前方のドアパネル38内に搭載されている。このエアバッグ装置12は、エアバッグとインフレータとを含んで構成され、運転席側と助手席側との両方のフロントドア34に搭載されている。インフレータはECU22に接続されている。
【0022】
衝突センサ13はECU22に接続され、ECU22とともに衝突検出手段を構成している。本実施形態では、衝突センサ13はフロントバンパの内部に配設され、車幅方向に延在している光ファイバで構成されている。そして、歩行者等の衝突体との衝突によって光ファイバが変形すると、光ファイバを伝搬する光強度が変化するため、この光強度の変化の信号がECU22に送信され、ECU22によって、歩行者等の衝突体との衝突が検出される構成とされている。
【0023】
第1のCCDカメラ14はECU22に接続され、ECU22とともに衝突予測手段を構成している。本実施形態では、第1のCCDカメラ14はルームミラー近傍に配設されている。そして、ECU22から所定の時間間隔おきに、車両前方を連続撮影する信号が送られることで、第1のCCDカメラ14は車両前方の画像を連続撮影している。この撮影により得られた連続撮影画像がECU22に送信されるとともに、ECU22により、歩行者等の衝突体の有無が判別され、衝突体の移動速度が算出されて、衝突予測が行われる。
【0024】
車速センサ16はECU22に接続され、ECU22とともに速度検出手段を構成している。本実施形態では、車速センサ16はフロントタイヤ近傍に配設されている。車速センサ16は、車軸の回転数を電気信号化した車速パルス数を検出し、車速パルス数がECU22に送信され、ECU22によって車速Vが算出されている。第1のCCDカメラ14とECU22とで衝突予測手段が構成され、この衝突予測手段によって衝突が予測されると、ECU22は、車速Vを記憶する構成とされている。そして、衝突検出手段によって、車両に歩行者等の衝突体が衝突したことが判別されると、衝突予測時の車速Vがあらかじめ定められた車速V1より大きいか否かが判別される。そして、車速Vがあらかじめ定められた車速V1より大きいと判別された場合には、インフレータに信号を送信して点火電流が流される。インフレータはこの点火電流により作動して、多量のガスがガス噴出口から噴出される。エアバッグはこのガスの供給を受けて膨張し、フロントピラー32の車両前方側に展開する構成とされている。
【0025】
パワーウィンドウ装置18は、ドアガラスを昇降させる昇降機構と、パワーウィンドウ用モーターと、モーターに連動してドアガラスの昇降に応じてパルスを発生させるパルス発生部とを含んで構成され、ECU22とともにフロントドアガラス上昇手段を兼ねている。本実施形態では、パワーウィンドウ装置18の電子制御ユニットがECU22の一部とされており、パルス発生部で発生したパルス信号がECU22に送信されて、ECU22によって現在のフロントドアガラス39の下降量εが算出されている。ここで、ε=0は、フロントドアガラス39が下降していない状態を表し、ε>0は、フロントドアガラス39が下降している状態を表す。なお、パワーウィンドウ装置18を作動させた場合には、フロントドアガラス39の下降量εがECU22に記憶される構成とされている。
【0026】
第2のCCDカメラ20はECU22に接続され、ECU22とともに突出状態判別手段を構成している。本実施形態では、第2のCCDカメラ20はドアミラー36近傍に配設されている。この第2のCCDカメラ20は、車幅方向左右2つのドアミラー36近傍にそれぞれ設けられ、運転席および助手席の乗員の状態を撮影可能とされている。
【0027】
次に、本実施形態における作用及び効果について図3を参照して説明する。
【0028】
本実施形態における歩行者保護装置10は、図3に示されるようなフローチャートに基づいて制御が行われる。
【0029】
まずはじめに、第1のCCDカメラ14に撮影された連続画像から、車両と歩行者等の衝突体との衝突が予測される(ステップ10)。車両と衝突体との衝突が予測された場合には、衝突予測時の車速VがECU22に記憶され、後述するステップ20へ進む。一方、衝突が予測されない場合には、制御を終了させる。
【0030】
ステップ20では、車速Vが所定値V0以上であるか否かが判別される。車速Vが所定値V0以上であると判別された場合には、ステップ30へ進む。一方、車速Vが所定値V0より小さいと判別された場合には、制御を終了させる。なお、所定値V0は任意に設定可能である。
【0031】
ステップ30では、フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0よりも大きいか否かが判別される。フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0よりも大きいと判別された場合には、ステップ40へ進む。一方、フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0以下と判別された場合には、後述するステップ60へ進む。なお、下降基準量ε0は任意に設定可能であり、下降基準量ε0=0すなわちフロントドアガラスが降りていない(閉じられた)状態が下降基準位置であってもよい。
【0032】
ステップ40では、フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から乗員の一部位が突出しているか否かが判別される。フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から乗員の一部位が突出していないと判別された場合には、フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0となるようにフロントドアガラス39を上昇させる(ステップ50)。一方、フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から乗員の一部位が突出していると判別された場合には、フロントドアガラス39が上昇されない。言い換えれば、フロントドアガラス39の上昇が禁止され、この禁止が本実施形態においてはフロントドアガラス上昇禁止手段に相当する。なお、乗員の一部位が、フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から突出しているか否かの判別は、以下の手順で行われる。すなわち、ECU22が第2のCCDカメラ20に信号を送信して運転席および助手席の画像が撮影されるとともに、ECU22に撮影画像が送信される。そして、ECU22において、この撮影画像に対してパターンマッチングが行われ、乗員の一部位がフロントドアガラス39が降りて形成された開口37から突出しているか否かが判別される。
【0033】
そして、衝突センサ13により歩行者等の衝突体との衝突が検出されると(ステップ60)、衝突予測時の車速Vが所定値V1以上であるかどうかが判別される(ステップ70)。車速Vが所定値V1以上である場合には、エアバッグをフロントピラー32の車両前方側に膨張展開させる(ステップ80)。一方、衝突が検出されない場合、衝突が検出されても車速Vが所定値V1より小さい場合には、エアバッグを膨張展開させることなく、制御を終了させる。
【0034】
上記構成によれば、衝突予測手段によって車両と衝突体との衝突が予測されると、フロントドアガラス39が所定位置より下降している場合(ε>ε0)であってかつ衝突予測時の車速Vが所定値V0以上である場合(V≧V0)には、このフロントドアガラス39が所定位置(すなわちε=ε0となる位置)まで上昇される。したがって、フロントドアガラス39上端とフロントドアフレーム33との間の開口37幅を狭くすることができるので、エアバッグの膨張展開時に、エアバッグの一部が車室内へ入り込むことを防止または抑制することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、エアバッグを膨張展開させるか否かの車速の基準値V1と、フロントドアガラス39を上昇させるか否かの車速の基準値V0とを同じ値(V0=V1)とすると、エアバッグが作動しないときは、フロントドアガラス39が上昇されない。したがって、より効率的にフロントドアガラス39の上昇を制御することができる。
【0036】
さらに、フロントドアガラス39の下降量εがフロントドアガラス39下降基準量ε0より大きいと判別された場合であってかつこのフロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から車外側に乗員の一部位が突出されていると判別された場合には、フロントドアガラス39を上昇させることが禁止される。そのため、フロントドアガラス39を上昇させることによる乗員の一部位の挟み込みが抑制される。したがって、着座乗員の一部位を挟み込みから保護することができる。
【0037】
なお、単にステップ10で衝突が予測されたときに、フロントドアガラス39を所定量上昇させて、または完全に上昇させて制御を終了させてもよいし、ステップ20をとばしてステップ30に向かってもよい。また、ステップ70の車速Vは、衝突予測時の車速に限る必要はない。
【0038】
<第2の実施形態>
上記第1の実施形態では、衝突予測手段は第1のCCDカメラ14を含んで構成されていたが、これに限る必要がなく、ミリ波レーダ等であってもよい。
【0039】
本実施形態における歩行者保護装置40は、上記第1の実施形態における衝突予測手段の一部を構成する第1のCCDカメラ14に代えて、ミリ波レーダ44を有し、衝突が予測されてかつ衝突が回避できない場合にフロントドアガラス39の制御を行うことに特徴がある。
【0040】
図4には、本実施形態における歩行者保護装置40の基本構成を模式的に示すブロック図が示されている。本実施形態における歩行者保護装置40は、エアバッグ装置12と、歩行者等の衝突体との衝突を検出する衝突センサ13と、車両前方の歩行者等の衝突体を検出するミリ波レーダ44と、ドアガラスの昇降を調節するパワーウィンドウ装置18と、運転席または助手席またはそれら両方の乗員の状態を撮影する第2のCCDカメラ20と、歩行者保護装置10の作動を制御する電子制御ユニット(ECU)42とを含んで構成されている。なお、エアバッグ装置12、衝突センサ13、パワーウィンドウ装置18、第2のCCDカメラ20は、第1の実施形態と同様のものであるので説明を省略する。また、ECU42は、エアバッグ装置12、衝突センサ13、パワーウィンドウ装置18、第2のCCDカメラ20と接続されている。
【0041】
ミリ波レーダ44はECU42に接続され、ECU42とともに衝突予測手段を構成している。本実施形態では、ミリ波レーダ44はフロントバンパ近傍に配設されている。そして、ECU42から所定の時間間隔おきにミリ波を出射する信号が送られることで、ミリ波レーダ44は車両前方にミリ波を出射し、歩行者等の衝突体から反射してきた電波を受信している。この受信信号がECU42に送信されるとともに、ECU42により、歩行者等の衝突体との距離Lおよび相対速度Vrが算出されている。すなわち、ミリ波レーダ44はECU42とともに速度検出手段もかねている。
【0042】
次に、本実施形態における作用及び効果について図5および図6を参照して説明する。
【0043】
本実施形態における歩行者保護装置40は、図5に示されるようなフローチャートに基づいて制御が行われる。
【0044】
まずはじめに、ミリ波レーダ44およびECU42とからなる衝突予測手段から、歩行者等の衝突体との距離Lおよび相対速度Vrが計測され、距離Lおよび相対速度Vrとから衝突するまでの時間TTC(Time to Collision=L/Vr)が計算される(ステップ100)。次に、相対速度Vrがあらかじめ定められた値Vr0以上か否かが判別される(ステップ105)。ステップ105において、相対速度VrがVr0以上であれば、ステップ110へ進む。一方、相対速度VrがVr0より小さければ、制御を終了させる。次に、ステップ110では、相対速度VrとTTCとの値から、衝突の可能性があるかどうかが判別される。衝突の可能性があると判別された場合には、ステップ120へ進む。一方、衝突の可能性がないと判別された場合には、制御を終了させる。なお、衝突の可能性かあるか否か、衝突回避が可能かの詳細については後述する。
【0045】
ステップ120では、衝突回避可能性が判別される。衝突回避可能と判別された場合には、衝突の可能性はあっても衝突回避可能であると判断されて、フロントドアガラス39の制御が行われること無く、制御を終了させる。一方、衝突回避不可能と判別された場合には、ステップ130へ進む。
【0046】
ステップ130では、フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0より大きいか否かが判別される。フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0より大きいと判別された場合には、ステップ140へ進む。一方、フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0以下の場合には、後述するステップ160へ進む。
【0047】
ステップ140では、フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から乗員の一部位が突出しているか否かが判別される。フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から乗員の一部位が突出していないと判別された場合には、フロントドアガラス39の下降量εがあらかじめ定められた下降基準量ε0となるようにフロントドアガラス39を上昇させる(ステップ150)。一方、フロントドアガラス39の上端とフロントドアフレーム33との間に形成された開口37から乗員の一部位が突出していると判別された場合には、フロントドアガラス39が上昇されない。言い換えれば、フロントドアガラス39の上昇が禁止され、この禁止が本実施形態においてはフロントドアガラス上昇禁止手段に相当する。
【0048】
そして、衝突センサ13により歩行者等の衝突体との衝突が検出されると(ステップ160)、エアバッグをフロントピラー32の車両前方側に膨張展開させる(ステップ170)。
【0049】
ここで、衝突の可能性および衝突回避可能性には、図6に示されるようにあらかじめ定められたVr−TTCマップが用いられる。Vr−TTCマップには、衝突の可能性がある領域(衝突可能性領域)と、衝突の回避が不可能な領域(衝突不可避領域)とが定められている。衝突可能性領域および衝突不可避領域は、制動回避(ブレーキ操作による回避)と操蛇回避(ステアリング操作による回避)とを基に決定されている。
【0050】
衝突可能性領域は、以下の条件3つを満たす領域として定義されている。第1の条件は、相対速度Vrが所定値Vr0以上であることであり、第2の条件は、運転者の制動回避にかかわる下限領域であり、第3の条件は、運転者の操蛇回避にかかわる下限領域であることである。すなわち、衝突可能性領域は、所定値Vr0以上の相対速度Vrを持ち、ブレーキ操作およびステアリング操作の両方を行わなければ衝突する領域とされる。ここで、第2の条件は、図6において相対速度Vrが大きいほどTTCが大きくなる一点鎖線A1で示されている。また、第3の条件は、図6において相対速度VrによらずTTC=TTC1となる点線B1で示されている。すなわち、衝突可能性領域は図6において斜線部C1の領域で示されている。
【0051】
また、衝突不可避領域は、以下の条件3つを満たす領域として定義されている。第1の条件は、相対速度Vrが所定値Vr0以上であることであり、第2の条件は、運転者の制動回避にかかわる限界以上の領域であり、第3の条件は、運転者の操蛇回避にかかわる限界以上の領域であることである。すなわち、衝突不可避領域は、所定値Vr0以上の相対速度Vrを持ち、ブレーキ操作およびステアリング操作の両方を行っても衝突を回避できない領域とされる。ここで、第2の条件は、図6において相対速度Vrが大きいほどTTCが大きくなり、一点鎖線A1に対して図中の右側にシフトされた一点鎖線A2で示されている。また、第3の条件は、図6において相対速度VrによらずTTC=TTC2となる点線B2で示されている。なお、TTC1はTTC2より大きく設定されている。すなわち、衝突不可避領域は図6において斜線部C2の領域で示されている。
【0052】
上記制御構成によれば、衝突の可能性があった場合であっても、衝突が回避可能な場合には、フロントドアガラス39の制御がなされない。言い換えれば、衝突不可避の場合にのみフロントドアガラス39の制御が行われるので、フロントドアガラス39の制御を最低限におさえることができる。なお、図6のVr−TTCマップに示されているA1、A2、B1、B2、Vr0はあらかじめ設定しておけばよい。
【0053】
なお、上記第2の実施形態において、衝突可能性領域であれば、フロントドアガラス39を制御しても(上昇させても)よい。また、ステップ100の次にステップ105をとばしてステップ110に進んでもよい。また、ステップ105が相対速度の判定ではなく、車速の判定であってもよい。この場合、車速を検出する速度検出手段をさらに備えている必要がある。
【0054】
以上上記第1の実施形態および第2の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれらの実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。例えば車両に対して車幅方向のどの位置に衝突体が衝突するかといった衝突形態を判別する衝突形態判別手段を有しており、車幅方向左側に歩行者等の衝突体がいると判別された場合には、車幅方向左側のエアバッグとフロントドアガラス39のみを制御してもよい。例えば、上記第1の実施形態において第1のCCDカメラ14とECU22とから衝突形態判別手段が構成され、第1のCCDカメラ14により撮影された画像から歩行者等の衝突体の有無および衝突予測が行われるとともに、撮影画像中にあらわれた衝突体の位置から、車幅方向左側への衝突、車幅方向中央への衝突、車幅方向右側への衝突、といった衝突形態が判別されてもよい。また、上記第2の実施形態において、車両前方を撮影可能なCCDカメラを有し、このCCDカメラとECU42とから衝突形態判別手段を構成していてもよい。
【0055】
また、上記第1の実施形態および第2の実施形態において、フロントドアガラス39の下降量εがフロントドアガラス39の下降基準量ε0より大きく、乗員の一部位が車室外に突出していると判別された場合であっても、フロントドアガラス39を下降基準量ε0まで上昇させてもよい。この場合においては、乗員の一部位がフロントドアフレーム33とフロントドアガラス39上端との間に挟まれて、パワーウィンドウ装置18を構成するモーターおよびパルス発生部に抵抗が生じた場合には、フロントドアガラス39を所定量下降させればよい。所定量はあらかじめ設定しておけばよく任意であるが、所定量下降させた場合にエアバッグが車室内に入り込まない程度の値に設定されていることが望ましい。一方、フロントドアガラス39を下降基準量ε0まで上昇させても、乗員の一部位がフロントドアフレーム33とフロントドアガラス39上端との間に挟まれなければ、フロントドアガラス39を所定量下降させる必要はない。
【0056】
また、上記第1の実施形態および第2の実施形態では、車速Vとフロントドアガラス39の下降基準量ε0との関係についてふれていないが、車速Vに応じて下降基準量ε0を変化させてもよい。具体的には、車速Vが大きい場合には下降基準量ε0を小さくしておけば、より具体的には、車速Vが大きい場合にはε0=0としておけば、仮に歩行者等の衝突体と衝突してエアバッグが膨張展開された場合に、エアバッグがフロントドアガラス39の側面に回りこんでも、フロントドアガラス39が閉じられているので、フロントドアガラス39でエアバッグを支持することができる。
【0057】
さらに、上記第1の実施形態および第2の実施形態では、エアバッグ装置12はフロントドア34に搭載されていたが、エアバッグをフロントピラー32の車両前方側へ展開されるエアバッグ装置であれば、搭載位置は任意であり、例えば、ドアミラー36に格納されていてもよい。また、速度検出手段や突出状態判別手段も、上記実施形態のものに限る必要はない。さらに、車速センサやCCDカメラのサンプリング周期は任意である。また、エアバッグ装置12は、運転席側のフロントピラー32または助手席側のフロントピラー32のいずれか一方の車両前方側に展開可能とされ、突出状態判別手段がエアバッグ装置12の配設サイドと同様のサイドに配設されていてもよい。また、撮影画像からの突出判別方法については上記に限る必要はない。
【符号の説明】
【0058】
10 歩行者保護装置
12 エアバッグ装置
13 衝突センサ
14 第1のCCDカメラ(衝突予測手段の一部)
16 車速センサ(速度検出手段の一部)
18 パワーウィンドウ装置(フロントドアガラス上昇手段の一部)
20 第2のCCDカメラ(突出状態判別手段の一部)
22 電子制御ユニット
ε フロントドアガラスの下降量
ε0 フロントドアガラス下降基準量(所定位置)
32 フロントピラー
33 フロントドアフレーム
39 フロントドアガラス
40 歩行者保護装置
42 電子制御ユニット
44 ミリ波レーダ(速度検出手段の一部、衝突予測手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者等の衝突体との衝突を予測する衝突予測手段と、前記衝突予測手段により衝突が予測されたときにフロントピラーの車両前方側へ展開させるエアバッグと、を含んで構成された歩行者保護装置において、前記歩行者保護装置は、前記衝突予測手段により前記衝突が予測されたときにフロントドアガラスを上昇させるフロントドアガラス上昇手段を備えたことを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歩行者保護装置において、前記フロントドアガラス上昇手段は、前記フロントドアガラスが所定位置よりも下降しているときに、当該フロントドアガラスを少なくとも前記所定位置まで上昇させることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の歩行者保護装置において、前記歩行者保護装置は、車両の速度または車両と歩行者との相対速度を検出する速度検出手段をさらに備え、前記フロントドアガラス上昇手段は、前記速度検出手段により検出された速度が所定値以上であれば、前記フロントドアガラスを上昇させることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置において、前記歩行者保護装置は、フロントドアフレームから車外側に乗員の一部位が突出されているか否かを判別する突出状態判別手段と、前記突出状態判別手段によりフロントドアフレームから車外側に乗員の一部位が突出されていると判別されたときに前記フロントドアガラスの上昇を禁止するフロントドアガラス上昇禁止手段をさらに備えることを特徴とする歩行者保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−183882(P2011−183882A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49491(P2010−49491)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】