説明

水中呼吸装置用マウスピース

【課題】顎関節に障害のある者、歯のなくなった高齢者、市販の水中呼吸装置用マウスピースでは十分な適合を得られない歯列不正者に対して、口腔周囲筋や顎関節などの負担が少なく適合性の高い水中呼吸装置用マウスピースを、容易に短期間で作成するための作成方法を提供する
【解決手段】市販のマウスピースと同形態の気体導入筒部および、犬歯部から大臼歯部まで咬合できるバイト部を併せ持つ熱流動性材料からなる構造体を利用して上下顎顎間関係を記録し、その後歯の咬合面や歯肉の形態に合わせて熱流動性材料を用いて整形を行い、埋没、流蝋した上でゴム状弾性材を填入し使用者個人の口腔内に適合した水中呼吸装置用マウスピースを作成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は水中での呼吸のために使用される呼吸装置に具備される水中呼吸装置用マウスピースの製造方法に属する

【背景技術】
【0002】
現在スキューバダイビングやシュノーケリングなど、水中で呼吸をする際に水中呼吸装置用マウスピースを口腔内に装着することにより、呼吸装置を固定して呼吸する方法が主流となっている。この水中で呼吸するための水中用シュノーケルまたはダイビング用呼吸回路に付属する水中呼吸装置用マウスピースには、一般に、シリコーンゴムやビニール、熱可塑性材料などのゴム状弾性材料が用いられている。またその形態は唇にはさまれる短い楕円形の気体導入用筒部と、各ダイバーの歯および歯肉の外側面と口唇および頬の内側面に挟みこまれる板状の構造体であるフレンジ部から構成され、フレンジには先端のひろがった二つの突起がついている。
【0003】
ダイバーはこの突起をバイト部として、犬歯または小臼歯でかんだ上で、フレンジ部を口唇や頬によって押さえ込みマウスピースを支える構造となっている。また、フレンジ部は、水中において口に水が入ってこないよう防水シールの役割も果たす。フレンジ部は通常、水中呼吸装置用マウスピースの他の部位と同一の単一材料からなり既成の形態を有する。またフレンジから突出しダイバーによって咬合されるバイト部は、通常水中呼吸装置用マウスピースの他の部位と同一の単一材料からなり、4mm前後の厚みで上歯接触面と下歯接触面は水平で同形の平面状である。
【0004】
しかし近年、この水中呼吸装置用マウスピースをより個人の口腔内形態に適合させるために、軟化温度が45〜60℃の歯列弓形の熱可塑性プラスチックを、その軟化温度に過熱し、それを口腔内に入れて上下歯牙で噛み、次いで冷却硬化させることにより、個人の咬合形態に合致したバイト部を作成することを特徴とした水中呼吸装置用マウスピースが知られている(特許文献1参照)
【0005】
さらに、歯アーチを収容するための空洞を、統計学的に予め設定された複数の個人の歯および歯肉の平均的な形状に合わせて形成したマウスピースが提案されている(特許文献2参照)
【0006】
また、上下顎の模型を作成し、その模型の表面に熱可塑性樹脂のシートを圧接するなどの操作を行うシート圧接法によるマウスピースの製造方法が提案されている。(特許文献3参照)
【0007】
【特許文献1】特開平10−167179
【特許文献2】特開平11−42311
【特許文献3】特開2005−35462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、水中呼吸装置用マウスピースをダイビング中に口腔内に保持するためには、長時間強くかみ締め続ける必要があり、このかみしめが顎関節症や頭痛などの病的状態を誘起する原因となる。また歯をなくしたり、歯周疾患や筋力低下などで強くかむことのできない高齢者や障害者などは、この水中呼吸装置用マウスピースを水中で保持し続けることが困難である。一方既成の形態をもつ水中呼吸用マウスピースにおいては使用者の口腔内形態に適合しないことが多く、装着時に不快感を感じるダイバーが多い。さらに咬合異常や歯列不正などの口腔状態であるダイバーは水中呼吸装置用マウスピースの口腔内での不適合が著しく、このためダイビング中に必要以上に強く水中呼吸装置用マウスピースをかみしめるため、水中呼吸装置用マウスピースの破損を誘起する。これらの問題は水中での水中呼吸装置用マウスピースの口腔内からの脱離を誘発し、この脱離の恐怖感からくる心身症や過喚起症候群、ひいては溺死などの水難事故を誘発する原因ともなる。
【0009】
これらの問題に対して、より使用者の口腔内に適合した水中呼吸装置用マウスピースがいくつか提案されている。しかし特許文献1の水中呼吸装置用マウスピースはバイト部の突片部の形状を口腔内に合わせてあるだけで、フレンジ部においては使用者にあわせて整形されていない。また、特許文献2におけるマウスピースは、あくまでも歯および歯肉の平均的な数値を基に成型されているものであり、特に歯列不正者については適合しないことが多い。さらに特許文献3の水中呼吸装置用マウスピースは、各使用者の口腔内形態にあわせて成型されるため、使用者個人への適合は望めるが、熱可塑性樹脂のシートを圧接して形成するため、専用のシート形成機が必要になり、また気体導入筒の作成に個人の使用する水中呼吸装置用マウスピースの気体導入用筒部の内周形状に合わせた筒部の模型を別途作成する必要があり作成操作が煩雑である。その上熱可塑性樹脂のシートは一般に硬度が高く、フレンジ部を拡大した場合歯肉などの口腔内軟組織にあたって痛みを感じる原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、発明が解決しようとする課題を解決するため、顎関節に障害を持つ者や、歯をなくした高齢者の口腔周囲組織への負担を軽減し、歯列不正者を含む多くのダイバーの口腔内に適合する水中呼吸装置用マウスピースを、容易に作成する技術を提供するものであり、すなわち下記の発明からなるものである。
加熱流動性材を材料とした、市販されている水中呼吸装置用マウスピースと同形態の気体導入用筒部と、犬歯部から大臼歯部まで咬合できるようなバイト部を併せ持つ構造体を元に、使用者の口腔内形態に適合する水中呼吸装置用マウスピースを作成する作成方法
請求項1に記載された加熱流動性材料の構造体における、気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体を、請求項1に記載された構造体の気体導入用筒部の筒状構造体に挿入した状態で使用者の口腔内形態に適合する水中呼吸装置用マウスピースを作成する作成方法
常法により採得した印象から上下顎歯列模型を作成した上で、請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体を利用して適正な顎位での咬合採得を行い、この上下顎顎間関係を元に上下顎歯列模型を咬合器に装着する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体を上下顎歯列模型に適合させ、バイト部に印記された犬歯部から大臼歯部までの頬舌側の余剰部分をトリミングした上で咬合面形態が明瞭になるよう整形する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体を上下顎歯列模型に適合させ、上下顎歯列模型の犬歯部から大臼歯部までの歯牙頬側面および歯肉頬移行部付近までの歯肉頬側面を被覆するフレンジ部を、請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体に加熱流動性材料を築成しつつ整形する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体のバイト部およびフレンジ部の整形が完了した後に、常法に従って埋没を行い加熱流動性材料を琉蝋してから請求項2の円柱形構造体を埋没材の元の位置に復元し、流蝋により生じた陰形にゴム状弾性材料を填入して成形する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
水中呼吸装置用マウスピースが、シュノーケル用のものであることを特徴とする、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の水中呼吸装置用マウスピース
水中呼吸装置用マウスピースが、スキューバダイビング用のものであることを特徴とする、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の水中呼吸装置用マウスピース
【発明の効果】
【0011】
上記に記載される本発明によれば、特殊な機材を購入したり気体導入用筒部の内周形状に合わせた筒部の模型を別途作成する必要がなく、短時間で容易に使用者の口腔内に適合した水中呼吸装置用マウスピースを作成することができる。
【0012】
また、本発明においては、使用者の歯によって咬合されるバイト部が犬歯部から大臼歯部までにおよぶため、マウスピースを支えるために強くかむ必要がなくなる上、一部歯のなくなった高齢者なども、より楽にマウスピースを支えることができるようになる。
【0013】
さらに、市販されている水中呼吸装置用マウスピースでは十分な適合を得られない歯列不正者や不正咬合者にも、適合した水中呼吸装置用マウスピースを提供できるようになるため、強くかんで保持する必要がなくなり、水中呼吸装置用マウスピースの破損を防止することができるようになる。
【0014】
一方硬度の低いゴム状弾性材料を利用して、歯肉や頬などの口腔内軟組織にあたっても痛みを感じることなくフレンジ部を十分拡大できるようになり、唇の力を有効に利用できるようになる。このためマウスピースを持続的にかみしめる必要がなくなり、口腔周囲の筋肉や関節など口腔周囲組織への負担を軽減することができるようになる上、防水シールとしての効果を向上させることができるようになる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における水中呼吸装置用マウスピースは、図1、2、3に示すごとく、市販されている水中呼吸装置用マウスピースと同形態の気体導入用筒部3と、犬歯部から大臼歯部まで咬合できるようなバイト部4を併せ持つ構造体をもとに作成する。
【0016】
気体導入用筒部3の内面には、気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体10が挿入されており、水中呼吸装置用マウスピースの成形作業は、気体導入用筒部内面に適合する円柱形構造体前面6より突出したハンドル1を把持して行う。また、バイト部4の前方正中部には正中を示すマーク5が記入されている。
【0017】
一方、気体導入用筒部3の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体10には、図4、5、6に示すごとく、レギュレータを固定する時に必要な気体導入用筒部内側面にレギュレータ固定用溝を成形する凸部9が備えられている、また気体導入用筒部内面に適合する円柱形構造体前面6からはハンドル1が突出しており、気体導入用筒部内面に適合する円柱形構造体後面7はバイト部前方内側面8と同一平面をなす曲面をもつ平面となっている。
【0018】
さらに、図7には図1に示す構造体をもとに、フレンジ部およびバイト部の整形を完了した状態を示す。整形の完了したフレンジ部11は上下顎前歯部から大臼歯部までの歯および歯肉の唇側面を被覆しており、前歯部においては歯肉頬移行部にいたる拡大が施されている。また、整形の完了したバイト部12には上下顎犬歯部から大臼歯部までの咬合面が印記されており、ダイバーはこの印記された咬合面にあわせてバイト部を咬合し、フレンジ部を口唇または頬で圧迫して水中呼吸装置用マウスピースを保持する。
【実施例】
【0019】
本発明の水中呼吸装置用マウスピースの作成の実施例を図面に基づき詳説する。先ず、図1、2、3に示す市販のスキューバダイビング用マウスピースと同形態の気体導入用筒部と、犬歯から大臼歯部まで咬合できるようなバイト部を併せ持つ構造体を利用して咬合採得を行う。
【0020】
この際術者はハンドル1を把持して作業を行い、バイト部4を温湯にて軟化した上で、ダイバーの上顎前歯部正中に正中を示すマーク5を合わせ、バイト部4を左右上下顎の犬歯部から大臼歯部で咬合できるように位置を調節し、習慣性咀嚼路上にて4〜5mm前後の咬合挙上を施した状態で上下顎顎間関係を記録する。なお、歯列や咬合が著しく不正である場合には、常法に従って咬合採得用材料を利用して咬合採特を行ってもよい。また同時に、常法によりアルジネート印象材などを用いて使用者の上下顎の印象採得を行っておく
【0021】
次いで、採得した印象に練和した石膏を注入して硬化後に取り出し、上下顎の模型を作成する。この上下顎模型の鋭利な部分をトリミングし、咬合面や歯頚部における凹部をブロックアウトした後に、バイト部4に印記された咬合面にあわせて咬合器に装着する。
【0022】
その後、図7の整形が完了したバイト部12に示すようにバイト部の頬舌側に認める余剰部分をトリミングして形態を整え、上下顎歯列模型の犬歯部から大臼歯部までの歯および歯肉の頬側面を被覆するフレンジ部を熱流動性材料を築成しつつ、図7の整形が完了したフレンジ部11に示すように、前歯部においては歯肉頬移行部付近まで拡大する。またその際、バイト部前方内側面8と上下顎前歯部唇側面との間に生じた間隙も、気体導入口13を狭窄させないように熱流動性材料で埋めておく。
【0023】
整形が完了した後に、上下顎歯列模型に装着した状態で常法に従って石膏などの埋没材を用いて埋没し、埋没材硬化後熱流動性材料を琉蝋する。流蝋後ハンドル1の位置関係をもとに気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体10を埋没材に復元する。その後埋没材の陰形にゴム状弾性材を填入して硬化させ、本発明の水中呼吸装置用マウスピースを完成させる。
【0024】
またこの際利用するゴム状弾性材量についてはシリコーンゴムや熱可塑性樹脂などが適当であり、図1、2、3に示す市販のスキューバダイビング用マウスピースの気体導入用筒部と同形態の筒状構造体と、犬歯から大臼歯部まで咬合できるようなバイト部を併せ持つ構造体の材料およびフレンジ部とバイト部を整形する際に用いる熱流動性材料についてはパラフィンワックスが適当である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
図1、2、3に示す、本発明の水中呼吸装置用マウスピース作成方法において、その原型となる気体導入用筒部とバイト部を併せ持つ構造体および図4、5、6に示す円柱形構造体については、その形態や大きさを規格化して製造販売することが可能である
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の水中呼吸装置用マウスピースの上面および側面の二面図
【図2】本発明の水中呼吸装置用マウスピースの前方斜視図
【図3】本発明の水中呼吸装置用マウスピースの後方斜視図
【図4】気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体の上面および側面の二面図
【図5】気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体の前方斜視図
【図6】気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体の後方斜視図
【図7】バイト部、フレンジ部の整形が完了した水中呼吸装置用マウスピース
【符号の説明】
【0027】
1 ハンドル
2 気体導入用筒部外側面レギュレータ固定用溝
3 気体導入用筒部
4 バイト部
5 正中を示すマーク
6 気体導入用筒部内面に適合する円柱形構造体前面
7 気体導入用筒部内面に適合する円柱形構造体後面
8 バイト部前方内側面
9 気体導入用筒部内側面にレギュレータ固定用溝を成形する凸部
10 気体導入用筒部内面に適合する円柱形構造体
11 整形の完了したフレンジ部
12 整形の完了したバイト部
13 気体導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱流動性材を材料とした、市販されている水中呼吸装置用マウスピースと同形態の気体導入用筒部と、犬歯部から大臼歯部まで咬合できるようなバイト部を併せ持つ構造体を元に、使用者の口腔内形態に適合する水中呼吸装置用マウスピースを作成する作成方法
【請求項2】
請求項1に記載された加熱流動性材料の構造体における、気体導入用筒部の筒状構造体内面に適合する円柱形構造体を、請求項1に記載された構造体の気体導入用筒部の筒状構造体に挿入した状態で使用者の口腔内形態に適合する水中呼吸装置用マウスピースを作成する作成方法
【請求項3】
常法により採得した印象から上下顎歯列模型を作成した上で、請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体を利用して適正な顎位での咬合採得を行い、この上下顎顎間関係を元に上下顎歯列模型を咬合器に装着する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
【請求項4】
請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体を上下顎歯列模型に適合させ、バイト部に印記された犬歯部から大臼歯部までの頬舌側の余剰部分をトリミングした上で咬合面形態が明瞭になるよう整形する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
【請求項5】
請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体を上下顎歯列模型に適合させ、上下顎歯列模型の犬歯部から大臼歯部までの歯牙頬側面および歯肉頬移行部付近までの歯肉頬側面を被覆するフレンジ部を、請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体に加熱流動性材料を築成しつつ整形する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
【請求項6】
請求項1に記載された加熱流動性材料からなる構造体のバイト部およびフレンジ部の整形が完了した後に、常法に従って埋没を行い加熱流動性材料を琉蝋してから請求項2の円柱形構造体を埋没材の元の位置に復元し、流蝋により生じた陰形にゴム状弾性材料を填入して成形する水中呼吸装置用マウスピースの作成方法。
【請求項7】
水中呼吸装置用マウスピースが、シュノーケル用のものであることを特徴とする、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の水中呼吸装置用マウスピース
【請求項8】
水中呼吸装置用マウスピースが、スキューバダイビング用のものであることを特徴とする、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の水中呼吸装置用マウスピース

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−220705(P2008−220705A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64329(P2007−64329)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(307003456)
【Fターム(参考)】