説明

油圧開放弁

【課題】開閉する際に生じる貫通孔に供給される油圧の変動を滑らかにすることが可能な油圧開放弁を提供する
【解決手段】プレッシャーリリーフバルブ1は、貫通孔50bを介してカップ状部材2の底部2Bに作用する例えばセカンダリ圧PSECの押圧力がスプリング3の付勢力以上となった際に、底部2Bが貫通孔50bから離れて該貫通孔50bを開放し、該貫通孔50bに供給されるセカンダリ圧PSECをバルブ穴50aの側面に形成された排出ポート50cから排出する。そのカップ状部材2に、底部2Bの外周縁に環状に配設された切欠部2aを備え、かつ該切欠部2aに、内周側から円筒部2Aの外周面2dにかけて傾斜したテーパ部2cを形成する。これにより、貫通孔50bから排出ポート50cに流れる油が整流となり、開閉時のセカンダリ圧PSECの変動が滑らかになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両用自動変速機の油圧制御装置等に用いられる油圧開放弁に係り、詳しくは、貫通孔に供給される油圧の作用が付勢部材の付勢力以上となった際に該貫通穴と排出ポートとを連通して油圧を排出する油圧開放弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車等の車両に搭載される自動変速機には、変速機構を油圧制御ないし潤滑するための油圧制御装置が備えられている。その油圧制御装置にあっては、制御している油圧が何らかの原因で高くなり過ぎてしまうことを防止したり、又はエアの混入を防止したりするために、所定圧以上の油圧が作用した際に開いて該油圧を排出し、油圧が所定圧未満に低下した際に閉じて油路を遮断する油圧開放弁(いわゆるリリーフバルブやチェックバルブなど)が、様々な部位に用いられている(例えば特許文献1のチェックバルブ15など)。
【0003】
このような油圧開放弁は、バルブボディに形成されたバルブ穴にカップ状部材が摺動自在に嵌合し、かつ油路に連通する貫通孔を該カップ状部材で閉塞する方向にスプリングによって付勢されるように構成されており、該スプリングの付勢力が貫通孔の油圧作用に打ち負けるとカップ状部材が後退し、バルブ穴の側面に形成された排出ポートを開放して、該貫通孔と該排出ポートとを連通して油圧を排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−329118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような油圧開放弁にあっては、貫通孔が形成されたバルブ穴の底面(特許文献1では貫通孔が形成された板)と、カップ状部材の円筒部を閉塞する底部とが、スプリングの付勢力によって密着することで該貫通孔を閉塞し、油圧の流れを遮断するように構成されているが、バルブ穴の底面とカップ状部材の底部との間に油が取り残されると、それらが密着せずに僅かな隙間を生じ、貫通孔からの油圧が入り込んで残圧として作用してカップ状部材を僅かに後退させることがあり、つまり油圧開放弁を僅かながら開いてしまう形となる虞がある。このように油圧開放弁から油圧の漏れが常時発生してしまうと、油路内において必要な油圧を保つために、余計なエネルギーを使って油圧上昇を図る必要が生じ、最終的には車両の燃費向上の妨げとなる虞もある。
【0006】
そのため、例えば図4(a)及び(b)に示すように、従来の油圧開放弁100においては、バルブ穴50aの底面50dとカップ状部材102の底部102Bとの間に油が取り残されないように、該カップ状部材102の底部102Bの外縁に排出ポート50cに連通する環状の切欠部102aを設け、該切欠部102aから排出ポート50cに残圧を逃がし得るようにしておく構成が採用されている。これにより、バルブ穴50aの底面50dとカップ状部材102の底部102Bとの間に油が取り残されることの防止を図り、スプリング3の付勢力でそれらを密着させることを図っている。
【0007】
しかしながら、この切欠部102aの形状が、図4に示すように、例えば断面視で矩形状(いわゆる溝形状)であると、油圧開放弁100の開閉時における貫通孔50bから排出ポート50cへの油の流れが整流とならず、図5に示すように、開放時には、スプリング3の付勢力よりも油圧Paの作用が強くなった時点taから時点tbまでの短時間で、バルブストロークSが急変化(急速移動)すると共に油圧が急降下し、反対に閉塞時には図5の可逆変化的に油圧が急上昇するという問題がある。
【0008】
このように開閉時に油圧が急上昇・急降下する油圧開放弁100を、自動変速機の各種の油圧制御に用いる油路に配置して用いると、その油圧変動がその油路によって制御される制御対象に影響を及ぼす虞があって好ましくない。例えば油圧開放弁がライン圧に影響する場合には、クラッチやブレーキの急係合や急解放を引き起こしたり、またセカンダリ圧に影響する場合には、ロックアップクラッチの急係合や急解放を引き起こしたりすることが考えられ、トルク変動によるショックが生じて、乗り心地に悪影響を与える虞もある。
【0009】
そこで本発明は、開閉する際に生じる貫通孔に供給される油圧の変動を滑らかにすることが可能な油圧開放弁を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は(例えば図1乃至図3参照)、円筒状に形成された円筒部(2A)と、該円筒部(2A)の一端側を閉塞するように形成された底部(2B)と、を有してカップ状に形成され、前記円筒部(2B)がバルブボディ(50)のバルブ穴(50a)の側面(50e)に摺動自在に支持されると共に、前記底部(2B)が前記バルブ穴(50a)の底面(50d)に形成された貫通孔(50b)の開口部(50b)に接離するカップ状部材(2)と、
前記カップ状部材(2)を前記貫通孔(50b)に向けて付勢する付勢部材(3)と、を備え、
前記貫通孔(50b)に供給される油圧(例えばPSEC)により前記カップ状部材(2)の底部(2B)に作用する押圧力が前記付勢部材(3)の付勢力以上となった際に、前記底部(2B)が前記貫通孔(50b)から離れて該貫通孔(50b)を開放し、前記貫通孔(50b)に供給される油圧(例えばPSEC)を前記バルブ穴(50a)の側面(50e)に形成された排出ポート(50c)から排出する油圧開放弁(1)において、
前記カップ状部材(2)は、前記底部(2B)の外周縁に環状に配置され、かつ内周側から前記円筒部(2A)の外周面(2d)にかけて傾斜したテーパ部(2c)が形成された切欠部(2a)を有することを特徴とする。
【0011】
また本発明は(例えば図2(a)参照)、前記排出ポート(50c)の開口部(50ca)は、前記カップ状部材(2)の円筒部(2B)の摺動方向(X1−X2方向)よりも周方向(Y1−Y2方向)が長い形状からなり、
前記切欠部(2a)のテーパ部(2c)は、前記カップ状部材(2)の底部(2B)が前記貫通孔(50b)の開口部(50b)に接した状態で該切欠部(2a)が前記排出ポート(50c)の開口部(50ca)の周方向全長に亘って隙間を有するように形成されたことを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は(例えば図2(b)参照)、前記付勢部材(3)は、前記カップ状部材(2)の円筒部(2B)の内部に形成されたスプリング室(2C)に収納されるコイルスプリング(3)であり、
前記底部(2B)の底面側における前記切欠部(2a)の内径(d)は、前記スプリング室(2C)の内径(D)よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0013】
また本発明は(例えば図1参照)、調圧バルブ(例えば24)によって調圧された油圧(例えばPSEC)が前記貫通孔(50b)に供給されるように構成された油圧制御装置(20)に用いられ、かつ該調圧バルブ(例えば24)のフェール時に該油圧(例えばPSEC)が所定圧(Pa)以上となった際に、該油圧(例えばPSEC)を前記排出ポート(50c)から排出して該油圧(例えばPSEC)の上昇を止めるフェールセーフ弁として用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、貫通孔に供給される油圧によりカップ状部材の底部に作用する押圧力が付勢部材の付勢力以上となった際に、底部が貫通孔から離れて該貫通孔を開放し、該貫通孔に供給される油圧をバルブ穴の側面に形成された排出ポートから排出する油圧開放弁において、カップ状部材が、底部の外周縁に環状に配設され、かつ内周側から円筒部の外周面にかけて傾斜したテーパ部が形成された切欠部を有しているので、該油圧開放弁が開閉する際に、貫通孔から排出ポートに流れる油が整流となり、開放時における油圧の下降及び閉塞時における油圧の上昇が滑らかになり、つまり当該油圧開放弁が配設されている油路の油圧(貫通孔に供給される油圧)の変動を滑らかにすることができる。これにより、当該油圧開放弁が配設されている油路の油圧によって制御される制御対象(例えばクラッチ、ブレーキ、ロックアップクラッチなど)に急変動を生じさせることを防止することができ、例えば当該油圧開放弁を車両用自動変速機に用いた場合には、トルク変動等によるショックを緩和することができて、乗り心地の向上を図ることもできる。
【0015】
請求項2に係る本発明によると、切欠部のテーパ部が、カップ状部材の底部が貫通孔の開口部に接した状態(油圧開放弁の閉塞状態)で該切欠部が排出ポートの開口部の周方向全長に亘って隙間を有するように形成されているので、該切欠部と排出ポートとが比較的大きな開口面積で連通して、該切欠部における残圧の発生を生じ難くすることができ、当該油圧開放弁が付勢部材の付勢力未満の低い油圧で誤開放してしまうことの防止を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る本発明によると、切欠部における底部の底面側の内径が、スプリング室の内径よりも小さく形成されているので、例えば切欠部を矩形状で形成しつつ該切欠部が排出ポートの開口部の周方向全長に亘って連通するように形成すると、スプリング室に干渉しないようにカップ状部材の底部の肉厚を厚くする必要があり、当該油圧開放弁の全長が長くなってしまうが、切欠部にテーパ部が形成されているので、カップ状部材の底部の肉厚を厚くせず、かつスプリング室に干渉しないように該切欠部を配設することができ、油圧開放弁のコンパクト化を図ることができて、例えば当該油圧開放弁を用いる油圧制御装置のコンパクト化も可能とすることができる。
【0017】
請求項4に係る本発明によると、油圧開放弁が、調圧バルブによって調圧された油圧が貫通孔に供給されるように構成された油圧制御装置に用いられ、かつ該調圧バルブのフェール時に該油圧が所定圧以上となった際に、該油圧を排出ポートから排出して該油圧の上昇を止めるフェールセーフ弁として用いられるので、フェールが発生するまで当該油圧開放弁が開放せず、かつ開放した後はハンチングが生じないように、カップ状部材の底部の底面積に比して貫通孔の開口面積が小さく設定されているため、カップ状部材の底部とバルブ穴の底面とがオーバーラップする面積が大きく、つまり閉塞時における残圧の閉じ込み面積が大きい構造であるが、上述のように該切欠部と排出ポートとが比較的大きな開口面積で連通して、該切欠部における残圧の発生を生じ難くすることができているので、当該油圧開放弁が付勢部材の付勢力未満の低い油圧で誤開放してしまうことの防止を図ることができる。これにより、フェールセーフ弁としての信頼性の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態に係るプレッシャーリリーフバルブを用いた油圧制御装置の一部を示す回路図。
【図2】本実施の形態に係るプレッシャーリリーフバルブを示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図。
【図3】本実施の形態に係るプレッシャーリリーフバルブの開放時の状態を示すタイムチャート。
【図4】従来のプレッシャーリリーフバルブを示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)のB−B矢視断面図。
【図5】従来のプレッシャーリリーフバルブの開放時の状態を示すタイムチャート。
【図6】参考例に係るプレッシャーリリーフバルブを示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)のC−C矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図3に沿って説明する。まず、本発明に係る油圧開放弁1(以下、「プレッシャーリリーフバルブ1」という)を適用し得る自動変速機の油圧制御装置20について図1に沿って説明する。
【0020】
自動変速機の油圧制御装置20は、図1に示すように、本発明に係るプレッシャーリリーフバルブ1、ストレーナ22、オイルポンプ21、プライマリレギュレータバルブ23、セカンダリレギュレータバルブ(調圧バルブ)24、チェックボール弁25、トルクコンバータ(T/C)30、潤滑油路(LUBE)31等を備えて構成されている。
【0021】
なお、自動変速機の油圧制御装置20には、図1に示した部分の他に、自動変速機構のクラッチやブレーキの油圧サーボに油圧を供給するための各種バルブや油路、及びトルクコンバータ30内のロックアップクラッチに油圧を供給するための各種バルブや油路などが備えられているが、説明の便宜上、本発明の要部を除き、省略して説明する。
【0022】
自動変速機の油圧制御装置20は、エンジンの回転に連動して駆動されるオイルポンプ21を備えており、該オイルポンプ21により不図示のオイルパンからストレーナ22、油路d1,d2を介してオイルを吸上げる形で油圧を発生させている。上記オイルポンプ21により発生された油圧は、油路a1,a2,a3,a4,a5,a6に出力されると共に、詳しくは後述するプライマリレギュレータバルブ23によって調圧される。
【0023】
プライマリレギュレータバルブ23は、スプール23pと、該スプール23pを上方に付勢するスプリング23sとを備えていると共に、該スプール23pの下方に油室23aと、該スプール23pの上方に油室23bと、調圧ポート23cと、排出ポート23dとを備えている。上記油室23aには、不図示のリニアソレノイドバルブSLTより油路b1を介して例えばスロットル開度に基づき調圧された制御圧PSLTが入力され、また、油室23bには、詳しくは後述するライン圧Pが油路a2,a4を介してフィードバック圧として入力される。
【0024】
該プライマリレギュレータバルブ23のスプール23pには、上記フィードバック圧に対向してスプリング23sの付勢力と制御圧PSLTとが作用し、即ち、該スプール23pの位置は、主に制御圧PSLTの大きさによって制御される。該スプール23pが図中の右半分で示す位置(以下、「右半位置」という)の状態であると、調圧ポート23cと排出ポート23dとが連通し、また、スプール23pが図中の左半分示す位置(以下、「左半位置」という)の状態に移動制御されると、調圧ポート23cと排出ポート23dとの連通量(絞り量)が絞られて(遮断されて)いく。つまり上記油室23aに入力される制御圧PSLTの大きさによってスプール23pが左半位置となる上方側に向けて移動制御されると共に、排出ポート23dより排出される油圧量が調整されることで調圧ポート23cの油圧が調圧され、これによって油路a1,a2,a3,a4,a5,a6の油圧がスロットル開度に応じたライン圧Pとして調圧される。なお、油路a5より出力されるライン圧Pは、例えばマニュアルバルブ(不図示)等を介して自動変速機構におけるクラッチやブレーキの油圧サーボに係合圧を供給する各種リニアソレノイドバルブなどに供給される。
【0025】
油路a6を介してライン圧Pが作用するチェックボール弁25は、貫通孔25aと、該貫通孔25aに接離し得るボール25bと、該ボール25bを貫通孔25a側に向けて付勢するスプリング25sとを備えて構成されている。該チェックボール弁25は、例えば上記プライマリレギュレータバルブ23又は不図示のリニアソレノイドバルブSLTがフェールする等して、油路a6を介して貫通孔25aに作用するライン圧Pが所定の設定圧以上となると、スプリング25sの付勢力がライン圧Pに打ち負ける形でボール25bが貫通孔25aより離れ、ドレーンポートEXより該ライン圧Pを排出し、該ライン圧Pの不要な上昇を防いで、例えば該ライン圧Pによって制御される制御対象(即ち、自動変速機構におけるクラッチやブレーキの油圧サーボに係合圧を供給する各種リニアソレノイドバルブなど)を保護する。
【0026】
セカンダリレギュレータバルブ24は、スプール24pと、該スプール24pを上方に付勢するスプリング24sとを備えていると共に、該スプール24pの上方に油室24aと、調圧ポート24bと、排出ポート24cと、出力ポート24dと、該スプール24pの下方に油室24eとが形成されて構成されている。また、油室24aには、詳しくは後述するセカンダリ圧PSECがフィードバック圧として入力され、油室24eにはライン圧Pを一定圧に調圧したモジュレータ圧PMODが入力される。
【0027】
セカンダリレギュレータバルブ24のスプール24pの位置は、図中の左半位置の状態であると、調圧ポート24bと出力ポート24dとが連通し、また、スプール24pが図中の右半位置の状態に移動制御されると、調圧ポート24bと出力ポート24dとの連通量(絞り量)が絞られて(遮断されて)いくと共に、該調圧ポート24bと排出ポート24cとが連通していく。つまりプライマリレギュレータバルブ23の出力ポート23eから出力され、上記油室24aに入力されるフィードバック圧の大きさによってスプール24pが移動制御されると共に、排出ポート24c又は出力ポート24dより排出される油圧量が調整されることで調圧ポート24bの油圧が調圧され、これによって油路c1,c2,c3,c4、c5,g1の油圧がスロットル開度に応じたセカンダリ圧PSECとして調圧される。該油路g1から出力されたセカンダリ圧PSECは、不図示のロックアップリレーバルブ等を介してトルクコンバータ30の内圧又はロックアップクラッチの制御圧として供給される。
【0028】
一方、排出ポート24cより排出された油圧は、油路d3,d2を介してオイルポンプ21に戻され、オイルポンプ21の元圧となるため、結果的にオイルポンプ21が必要な駆動力を下げることとなり、無駄なエネルギーを消費することを防ぐことができ、自動変速機の油圧制御装置20を備える車輌の燃費向上に寄与することが可能となる。また、出力ポート24dより油路f1に出力された油圧は、セカンダリレギュレータバルブ24から排出された排圧として潤滑油路31や不図示のオイルクーラ等に供給される。
【0029】
そして、油路c5を介してセカンダリ圧PSECが作用するプレッシャーリリーフバルブ1は、例えば上記セカンダリレギュレータバルブ24(或いはプライマリレギュレータバルブ23や不図示のリニアソレノイドバルブSLT)がフェールする等して、油路c5を介して貫通孔50bに供給されるセカンダリ圧PSECによる押圧力が所定圧以上となると、詳しくは後述する排出ポート50cより該セカンダリ圧PSECを排出し、該セカンダリ圧PSECの不要な上昇を防いで、例えば該セカンダリ圧PSECによって制御される制御対象(即ち、ロックアップクラッチを制御するリニアソレノイドバルブやトルクコンバータ30など)を保護するフェールセーフ弁として用いられている。
【0030】
ついで、本発明の要部となるプレッシャーリリーフバルブ1について、図2に沿って詳細に説明する。本プレッシャーリリーフバルブ1は、図2(a)及び(b)に示すように、大まかにバルブボディ50に形成されたバルブ穴50aと、該バルブ穴50aに挿入されるカップ状部材2と、該カップ状部材2を付勢するコイルスプリング(付勢部材)(以下、単に「スプリング」という)3と、該スプリング3の反力を受圧するためにバルブボディ50に固着された押え板51と、を備えて構成されている。なお、押え板51には、孔51aが形成されており、後述するカップ状部材2のスプリング室2Cを大気開放している。
【0031】
上記バルブボディ50には、図2(a)及び(b)に示すように、X1−X2方向(即ちカップ状部材2の摺動方向)が長手方向の円筒状となるバルブ穴50aが形成されており、該バルブ穴50aの底面50d(X1方向側)には、上記セカンダリ圧PSECが供給される油路c5に貫通する貫通孔50bが形成されている。また、バルブ穴50aの側面50eには、排出ポート50cが図中横方向に向けて形成されている。排出ポート50cは、バルブ穴50a(カップ状部材2)の周方向であるY1−Y2方向に対して長い下段開口部分50cと周方向に対して短い上段開口部分50cとが繋がる形で1つの開口部50caが形成されている。
【0032】
なお、上段開口部分50cは、その側方に例えばボルト穴(不図示)等の制限を受ける部位が配設されており、そのため、Y1方向(周方向)に対する制約を受ける形となって、Y1方向(周方向)に対して短くなっている。
【0033】
また、このバルブボディ50は鋳造等により形成されるものであり、つまりバルブ穴50a、貫通孔50b、排出ポート50c、該排出ポート50cの近傍に配置されるボルト穴(不図示)が金型形状によって、その配置・形状が決定されてしまっているものであり、これらの配置や形状を変更することは、莫大なコストが生じてしまうので現実的ではない。
【0034】
また、本実施の形態では、バルブボディ50にバルブ穴50a及び貫通孔50bが例えば鋳造等により一体的に形成されているが、底面50dを形成する部分がバルブボディ50と別体のプレートで形成されたものであってもよい。
【0035】
上記カップ状部材2は、大まかに、X1−X2方向に延びる円筒状の円筒部2Aと、該円筒部2Aの一端側(X1方向側)を閉塞するように形成された底部2Bと、該円筒部2Aの内部に形成されて上記スプリング3を収納するスプリング室2Cとを有しており、円筒部2AのX1方向側の端部であって底部2Bの外周縁には、詳しくは後述するように環状に配置された切欠部2aが形成されている。
【0036】
上記円筒部2Aの外周面2dは、バルブ穴50aの側面50eに摺動し得るように略々同径に形成されており、該バルブ穴50aの側面50eに摺動自在に支持されている。また、上記カップ状部材2の底部2Bの端面は、上記バルブボディ50の貫通孔50bの開口部50bに対して接離し得るように、該開口部50bよりも大きな外径を有するように形成されている。これにより、底部2Bの端面は、貫通孔50bの周囲におけるバルブ穴50aの底面50dに所定長さ(数ミリ程度)オーバーラップし、該底部2Bの端面がバルブ穴50aの底面50dに接した状態で(プレッシャーリリーフバルブ1の閉状態で)十分なシール性を確保するように、かつ油の逃げ場が確保されるように構成されている。
【0037】
上記切欠部2aは、上述のように貫通孔50bの内径より所定長さを存した位置からX2方向に対して垂直面2bを有するように切欠かれており、即ち底部2Bの底面側において切欠部2aは内径d(垂直面2bの径)となるように形成されている。この切欠部2aの内径dは、上述したようにシール性を確保し、かつ油の逃げ場が確保されるような大きさに設定されるため、上述したスプリング室2Cの内径Dよりも小さく形成されている。
【0038】
そして、切欠部2aは、該切欠部2aの内周側から、即ち上記垂直面2bのX2方向側の下端から、円筒部2Aの外周面2dにかけて下方側(X2方向側)に向けて傾斜したテーパ部2cが形成されている。該テーパ部2cの下端、即ち円筒部2Aの外周面2dと該テーパ部2cとの境界部分は、図2(a)に示すように、上記排出ポート50cの開口部50caの下段開口部分50c内に位置するように形成されており、つまり切欠部2aが排出ポート50cの開口部50caの周方向全長に亘って隙間を有する(連通する)ように形成されている。
【0039】
なお、円筒部2Aの外周面2dと該テーパ部2cとの境界部分は、例えばバルブボディ50やカップ状部材2の製造工差を加味して、下段開口部分50cの上端よりも数ミリ程度下方に位置するように設定されており、つまり切欠部2aは、製造上に誤差が生じても、必ず開口部50caの周方向全長に亘って隙間を有するように設計されている。
【0040】
以上のように構成されたプレッシャーリリーフバルブ1は、図3に示すように、時点t1において、貫通孔50bを介してカップ状部材2の底部2Bに作用するセカンダリ圧PSECの押圧力がスプリング3の付勢力以上(油圧Pa以上)となった際に、底部2Bが貫通孔50bから離れて該貫通孔50bを開放し、該貫通孔50bに供給されるセカンダリ圧PSECをバルブ穴50aの側面50eに形成された排出ポート50cから排出を開始する。そして、時点t1から時点t2にかけて、滑らかにカップ状部材2をストロークさせ(バルブストローク)、時点t2に貫通孔50bと排出ポート50cとを全開状態にする。
【0041】
ところで、図4(b)に示すように、従来のプレッシャーリリーフバルブ100において、カップ状部材102の切欠部102aが浅い溝状(断面視矩形状)であると、図4(a)に示すように、プレッシャーリリーフバルブ100の閉状態で、切欠部102aが排出ポート50cの開口部50caの下段開口部分50cには連通せず、周方向(Y1−Y2方向)の幅が狭い上段開口部分50cの一部だけしか連通しない。このため、切欠部102aから油を排出しきれず、残圧が生じてカップ状部材102を押圧してプレッシャーリリーフバルブ100が誤開放してしまう虞があった。
【0042】
図4に示すプレッシャーリリーフバルブ100が誤開放してしまう虞の主たる原因は、当該プレッシャーリリーフバルブ100の閉状態で、切欠部102aと排出ポート50cとの連通量(開口面積)が不足していることである。そこで、図6(a)及び(b)に示すような参考例のプレッシャーリリーフバルブ200のように構成することが考えられる。
【0043】
即ち、断面視矩形状の切欠部202aを、上記図4に示す切欠部102aに比して、カップ状部材202の摺動方向(X2方向)に長く形成し、排出ポート50cの下段開口部分50cの幅方向(Y1−Y2方向)全長に亘って隙間を有する(連通する)ように構成することが考えられる。このように構成することで、プレッシャーリリーフバルブ200の閉状態で切欠部202aから油圧が十分に排出され、残圧が生じることの防止を図ることができる。しかしながら、上述したように切欠部202aの内径dは、スプリング室202Cの内径Dよりも小さいため、カップ状部材202の底部202Bとスプリング室202Cとが干渉(貫通)しないように、該底部202Bの肉厚を厚くする必要がある。すると、スプリング3の付勢力を同等に保つためには、プレッシャーリリーフバルブ200全体のX1−X2方向の長さを長くする必要が生じてしまい、プレッシャーリリーフバルブ200のコンパクト化、油圧制御装置20のコンパクト化の妨げとなってしまう。
【0044】
さらに、図6に示すプレッシャーリリーフバルブ200の切欠部202aも、図4に示す従来のプレッシャーリリーフバルブ100と同様に、断面視矩形状であり、つまり貫通孔50bから排出ポート50cに油が流れる際に段差形状を乗り越える形となるので、油が整流とならず、図5に示すように、開放時には、スプリング3の付勢力よりも油圧Paの作用が強くなった時点taから時点tbまでの短時間で、バルブストローク(カップ状部材のストローク)Sが急速移動すると共に油圧が急降下し、反対に閉塞時には図5の可逆変化的に油圧が急上昇するという問題がある。
【0045】
しかしながら、本プレッシャーリリーフバルブ1は、カップ状部材2の切欠部2aに上記テーパ部2cを有しているので、該プレッシャーリリーフバルブ1が開閉する際に、貫通孔50bから排出ポート50cに流れる油が整流となり、図3に示すように、開放時には、スプリング3の付勢力よりも油圧Paの押圧力が強くなった時点t1から滑らかにバルブストローク(カップ状部材2のストローク)Sが移動して油圧が滑らかに降下しつつ時点t2にバルブストロークSが完了し、つまり長時間かけて滑らかに全開状態へ移行する。また、反対に閉塞時には図3の可逆変化的に滑らかにバルブストロークが行われ、油圧も滑らかに上昇する。
【0046】
従って、本プレッシャーリリーフバルブ1は、開放時における油圧の下降及び閉塞時における油圧の上昇が滑らかになり、つまり当該プレッシャーリリーフバルブ1が配設されている油路c5のセカンダリ圧PSECの変動を滑らかにすることができる。これにより、当該プレッシャーリリーフバルブ1が配設されているセカンダリ圧PSECによって制御される制御対象(本実施の形態では、例えばロックアップクラッチやトルクコンバータ30の内圧など)に急変動を生じさせることを防止することができ、例えば本プレッシャーリリーフバルブ1を車両用自動変速機の油圧制御装置20に用いた場合には、トルク変動等によるショックを緩和することができて、車両の乗り心地の向上を図ることもできる。
【0047】
また、切欠部2aのテーパ部2cが、カップ状部材2の底部2Bが貫通孔50bの開口部50bに接した状態(プレッシャーリリーフバルブ1の閉状態)で該切欠部2aが排出ポート50cの開口部50caの周方向全長に亘って隙間を有するように形成されているので(図2(a)参照)、該切欠部2aと排出ポート50cとが比較的大きな開口面積で連通して、該切欠部2aにおける残圧の発生を生じ難くすることができ、当該プレッシャーリリーフバルブ1がスプリング3の付勢力未満の低い油圧で誤開放してしまうことの防止を図ることができる。
【0048】
さらに、切欠部2aにおける底部2Bの底面側の内径dが、スプリング室2Cの内径Dよりも小さく形成されているので、例えば図6に示すプレッシャーリリーフバルブ200の切欠部202aのように断面視矩形状で形成しつつ該切欠部202aが排出ポート50cの開口部50caの周方向全長に亘って連通するように形成すると、スプリング室202Cに干渉しないようにカップ状部材202の底部202Bの肉厚を厚くする必要があり、当該プレッシャーリリーフバルブ200の全長が長くなってしまうが、切欠部2aにテーパ部2cが形成されているので、カップ状部材2の底部2Bの肉厚を厚くせず、かつスプリング室2Cに干渉しないように(スプリング室2Cと切欠部2aとの間に十分な肉厚を確保した状態で)該切欠部2aを配設することができ、プレッシャーリリーフバルブ1のコンパクト化を図ることができて、油圧制御装置20のコンパクト化も可能とすることができる。
【0049】
また、本プレッシャーリリーフバルブ1の構造は、カップ状部材2の切欠部2aの形状を変更するだけで本発明の目的を達成することができ、図6に示すプレッシャーリリーフバルブ200のように全長を長くする必要もないので、バルブボディ50の形状変更が不要となり、特に貫通孔50b、排出ポート50cの配置や形状等も変更する必要がなく、つまりバルブボディ50を鋳造する際に用いる金型を設計変更する必要がなくなる。例えばバルブボディの金型を変更すると、金型だけでなく、油圧動作試験、生産ラインの見直し、実車搭載試験など、各種作業をやり直す必要が生じ、莫大なコストアップを生じてしまうが、このように金型の設計変更が不要となるので、コストアップの防止も図ることが可能となる。
【0050】
そして、本プレッシャーリリーフバルブ1が、セカンダリレギュレータバルブ24によって調圧されたセカンダリ圧PSECが貫通孔50bに供給されるように構成された油圧制御装置20に用いられ、かつ該セカンダリレギュレータバルブ24のフェール時に該セカンダリ圧PSECが所定圧以上となった際に、該セカンダリ圧PSECを排出ポート50cから排出して該セカンダリ圧PSECの上昇を止めるフェールセーフバルブとして用いられるので、フェールが発生するまで当該プレッシャーリリーフバルブ1が開放せず、かつ開放した後はハンチングが生じないように、カップ状部材2の底部2Bの底面積に比して貫通孔50bの開口面積が小さく設定されているため、カップ状部材2の底部2Bとバルブ穴50aの底面50dとがオーバーラップする面積が大きく、つまり閉塞時における残圧の閉じ込み面積が大きい構造であるが、上述のように該切欠部2aと排出ポート50cとが比較的大きな開口面積で連通して、該切欠部2aにおける残圧の発生を生じ難くすることができているので、当該プレッシャーリリーフバルブ1がスプリング3の付勢力未満の低い油圧で誤開放してしまうことの防止を図ることができる。これにより、フェールセーフバルブとしての信頼性の向上も図ることができる。
【0051】
なお、本実施の形態においては、本発明に係る油圧開放弁として、セカンダリ圧が所定圧以上になることを防止するプレッシャーリリーフバルブ1に適用したものを説明したが、例えば特許文献1のもののように、単に油路にエアが混入することを防止する逆止弁としても本発明に係る油圧開放弁を用いることができる。
【0052】
また、勿論であるが、ライン圧が所定圧以上になることを防止するチェックボール弁25の代わりに本発明に係る油圧開放弁を用いてもよく、さらに、所定圧以上の油圧の上昇を防止するバルブとして用いられるのであれば、どのようなものであっても本発明に係る油圧開放弁を適用し得る。
【0053】
また、本実施の形態におけるカップ状部材2の切欠部2aは、垂直面2bを有しているものを説明したが、垂直面2bを有している必要はなく、例えば底部2Bの端面からそのまま傾斜して円筒部2Aの外周面2dに到達するように、一直線状のテーパ部を設けてもいい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る油圧開放弁は、乗用車、トラック等に搭載される自動変速機やハイブリッド駆動装置等の油圧制御装置に用いることが可能であり、特に開閉する際に油路の油圧を滑らかに変動させることで、ショックの緩和や乗り心地の向上を図ることが求められるものに用いて好適である。
【符号の説明】
【0055】
1 油圧開放弁(プレッシャーリリーフバルブ)
2 カップ状部材
2A 円筒部
2B 底部
2C スプリング室
2a 切欠部
2c テーパ部
2d 外周面
3 付勢部材、コイルスプリング
20 油圧制御装置
24 調圧バルブ(セカンダリレギュレータバルブ)
50 バルブボディ
50a バルブ穴
50e 側面
50b 貫通孔
50b 開口部
50c 排出ポート
50ca 開口部
D スプリング室の外径
d 切欠部の内径
Pa 所定圧
SEC 貫通孔に供給される油圧(セカンダリ圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成された円筒部と、該円筒部の一端側を閉塞するように形成された底部と、を有してカップ状に形成され、前記円筒部がバルブボディのバルブ穴の側面に摺動自在に支持されると共に、前記底部が前記バルブ穴の底面に形成された貫通孔の開口部に接離するカップ状部材と、
前記カップ状部材を前記貫通孔に向けて付勢する付勢部材と、を備え、
前記貫通孔に供給される油圧により前記カップ状部材の底部に作用する押圧力が前記付勢部材の付勢力以上となった際に、前記底部が前記貫通孔から離れて該貫通孔を開放し、前記貫通孔に供給される油圧を前記バルブ穴の側面に形成された排出ポートから排出する油圧開放弁において、
前記カップ状部材は、前記底部の外周縁に環状に配設され、かつ内周側から前記円筒部の外周面にかけて傾斜したテーパ部が形成された切欠部を有する、
ことを特徴とする油圧開放弁。
【請求項2】
前記排出ポートの開口部は、前記カップ状部材の円筒部の摺動方向よりも周方向が長い形状からなり、
前記切欠部のテーパ部は、前記カップ状部材の底部が前記貫通孔の開口部に接した状態で該切欠部が前記排出ポートの開口部の周方向全長に亘って隙間を有するように形成された、
ことを特徴とする請求項1記載の油圧開放弁。
【請求項3】
前記付勢部材は、前記カップ状部材の円筒部の内部に形成されたスプリング室に収納されるコイルスプリングであり、
前記底部の底面側における前記切欠部の内径は、前記スプリング室の内径よりも小さく形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の油圧開放弁。
【請求項4】
調圧バルブによって調圧された油圧が前記貫通孔に供給されるように構成された油圧制御装置に用いられ、かつ該調圧バルブのフェール時に該油圧が所定圧以上となった際に、該油圧を前記排出ポートから排出して該油圧の上昇を止めるフェールセーフ弁として用いられる、
ことを特徴とする請求項2又は3記載の油圧開放弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−67872(P2012−67872A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214305(P2010−214305)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】