説明

油圧駆動装置および油圧駆動装置の制御方法

【課題】ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの目詰まりを的確に防止しながら効率的な再生処理を実現する。
【解決手段】駆動源であるディーゼルエンジンと、ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置において、ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧が所定の閾値より大きい場合、エンジン回転数の目標値を差圧が閾値未満である場合のエンジン回転数の目標値より低くするとともに、ポンプ容量の目標値を差圧が閾値未満である場合のポンプ容量の目標値より大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータとを備えた油圧駆動装置および当該油圧駆動装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダやブルドーザ等の建設機械として使用される車両には、駆動源であるディーゼルエンジンと、車輪または履帯との間にHST(Hydro-Static Transmission)と称される油圧駆動装置とを備えているものがある。油圧駆動装置は、ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出された圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータとを有し、油圧モータの駆動力を車輪または履帯に伝達することによって車両を走行させている。
【0003】
この油圧駆動装置を適用した車両によれば、油圧ポンプおよび油圧モータの容量を適宜調節することにより、互いの回転数の比率を任意に変更することができるため、煩雑な変速レバー操作を行うことなくアクセルペダルの操作のみにより車両の速度を無段階に変更することができ、操作性を著しく向上させることが可能となる。
【0004】
建設機械では、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるススなどの微粒子の外部への排出を防止するために、ディーゼルエンジン微粒子除去フィルター(以下、「DPF」という)が搭載される。DPFを搭載した車両では、DPF内部に堆積した微粒子を燃焼させる再生処理を行う。再生処理には、ディーゼルエンジンの負荷が高く排気ガスの温度(排気温度)が上昇することによって自動的に微粒子が燃焼する自然再生処理と、DPFに燃料を供給して微粒子を強制的に燃焼させる強制再生処理がある。このような再生処理を行うための再生方式としては、DPFで微粒子を捕集しながら再生を行う連続再生方式、DPFが捕集した微粒子を間欠的に再生する間欠再生方式、少なくとも二つのDPFの各々が微粒子の捕集と再生とを交互に行う交互再生方式が知られている。
【0005】
上述した三つの再生方式の中で最も再生の効率がよく、かつ構成が単純であるのは連続再生方式である。しかしながら、連続再生方式の場合には、排気温度が低温である状態が続くと、DPF内の微粒子が燃焼せずにフィルターの目詰まりを発生してしまうという問題があった。この問題を解決するために、再生処理中に排気温度を上昇させることによって効果的に微粒子を燃焼させる技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。この技術では、DPFの微粒子堆積量を推定した後、エンジンの吸気を絞るとともに、エンジンの出力トルクを推定結果に応じて定められる目標値まで上昇させるのに必要な燃料の噴射を行うことによって排気温度を上昇させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−48620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術は、エンジンの回転数の変化が考慮されていないため、出力トルクを上げる際に燃料を必要以上に噴射し、エンジン出力に無駄が生じてしまうおそれがあり、必ずしも効率的であるとは言い難かった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの目詰まりを的確に防止しながら効率的な連続再生処理を実現することができる油圧駆動装置および油圧駆動装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る油圧駆動装置は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、前記油圧ポンプのポンプ容量を制御するポンプ容量制御手段と、を備え、前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記ポンプ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記ポンプ容量の目標値より大きくすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る油圧駆動装置は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、前記油圧ポンプのポンプ容量を制御するポンプ容量制御手段と、を備え、前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る油圧駆動装置は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、前記油圧モータのモータ容量を制御するモータ容量制御手段と、を備え、前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記モータ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記モータ容量の目標値より小さくすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る油圧駆動装置は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、前記油圧モータのモータ容量を制御するモータ容量制御手段と、を備え、前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る油圧駆動装置は、上記発明において、前記制御手段は、前記ディーゼルエンジンの目標出力トルクをトルク線図における最大負荷トルク線上に設定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る油圧駆動装置は、上記発明において、前記制御手段は、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧の変化を予測し、この予測結果に基づいて前記ディーゼルエンジンの目標出力トルクを設定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る油圧駆動装置の制御方法は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記ポンプ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記ポンプ容量の目標値より大きくする制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る油圧駆動装置の制御方法は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行う制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る油圧駆動装置の制御方法は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記モータ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記モータ容量の目標値より小さくする制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る油圧駆動装置の制御方法は、駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行う制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、DPFの前後の差圧が所定の閾値以上である場合、ディーゼルエンジンのエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を、ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、排気温度がより高温となる位置に変更する制御を行うため、DPFの目詰まりを的確に防止しながら、エンジン出力の無駄が少ない効率的な連続再生処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置の制御方法の処理の概要を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置の制御方法におけるマッチング位置の設定処理の概要を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置の制御方法におけるDPFの差圧と目標出力トルクとの関係を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置のコントローラがマッチング位置を変更する際に制御信号を出力する処理の概要を示す処理フロー図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置のコントローラが出力した制御信号に基づいてマッチング位置を設定した場合のポンプ容量、モータ容量、車速のエンジン回転数に応じた特性を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1の変形例に係る油圧駆動装置が参照するDPFの差圧とモータ容量に乗じる係数との関係を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1の変形例に係る油圧駆動装置のコントローラが出力した制御信号に基づいてマッチング位置を設定した場合のポンプ容量、モータ容量、車速のエンジン回転数に応じた特性を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置の制御方法の概要を示すフローチャートである。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置の制御方法における予測処理の概要を示す図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置の制御方法において、到達時間が標準時間以上である場合のDPFの差圧と目標出力トルクとの関係を示す図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置の制御方法において、到達時間が標準時間未満である場合のDPFの差圧と目標出力トルクとの関係を示す図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置の制御方法におけるマッチング位置の設定処理の概要を示す図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置のコントローラがマッチング位置を変更する際に制御信号を出力する処理の概要を示す処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る油圧駆動装置の構成を示す図である。同図に示す油圧駆動装置1はHSTと称され、ホイールローダやブルドーザ等のスロットル可変式の建設機械に搭載されるもので、閉回路を構成する一対の油圧供給管路2、3によって接続された油圧ポンプ4および油圧モータ5を備える。
【0023】
油圧ポンプ4は、駆動源であるディーゼルエンジン6によって駆動されるものであり、斜板の傾転角を変更することによって容量を変更することができる可変容量型のポンプである。油圧ポンプ4の斜板には、傾転角を変化させるシリンダを有する容量制御部7(ポンプ容量制御手段)が接続されている。
【0024】
油圧モータ5は、油圧ポンプ4から吐出した圧油によって駆動されるものであり、斜板の傾転角を変更することによって容量を変更することができる可変容量型のモータである。油圧モータ5の斜板には、傾転角を変化させるシリンダを有する容量制御部8(モータ容量制御手段)と接続している。また、油圧モータ5の出力軸は減速機9と接続している。この減速機9は、車輪または履帯等からなる走行部100と接続している。油圧モータ5は、減速機9を介して走行部100を回転駆動する。油圧モータ5の回転方向は、油圧ポンプ4からの圧油の供給方向に応じて切り替えることが可能である。
【0025】
容量制御部7、8は、圧油の供給を受ける電磁弁10、11とそれぞれ接続している。電磁弁10、11には、チャージ管路12を介して圧油が供給される。この圧油は、チャージポンプ13がタンク14から吸引して吐出したものである。
【0026】
電磁弁10が容量制御部7へ供給する圧油の量は、油圧駆動装置1の電気的な制御を行うコントローラ15が電磁弁10へ出力するポンプ容量制御信号に応じて定まる。また、電磁弁11が容量制御部8へ供給する圧油の量は、コントローラ15が電磁弁11へ出力するモータ容量制御信号に応じて定まる。
【0027】
油圧供給管路2、3には、両管路をつなぐ分岐管路16が設けられている。分岐管路16には、圧油の流出口が油圧供給管路2、3とそれぞれ接続するチェック弁18、19が設けられている。チェック弁18、19の中間位置には、所定のリリーフ圧が設定されたチャージリリーフ弁20が分岐して接続されている。分岐管路16、チェック弁18、19は、二つの油圧供給管路2、3のうちチャージリリーフ弁20で設定された圧力より低い低圧側の油圧供給管路に圧油を供給する。
【0028】
油圧供給管路2、3には、両管路をつなぐもう一つの分岐管路17が設けられている。分岐管路17には、圧油の流入口が油圧供給管路2、3とそれぞれ接続するチェック弁21、22が設けられている。チェック弁21、22の中間位置には、チャージリリーフ弁20の設定圧より高い所定のリリーフ圧が設定された高圧リリーフ弁23が設けられている。この高圧リリーフ弁23はチャージ管路12に接続されており、流入した圧油が所定のリリーフ圧に達した場合に圧油をチャージ管路12へリリーフする。チェック弁21、22は、二つの油圧供給管路2、3のうち高圧側の油圧供給管路を選択するように配置されている。
【0029】
油圧供給管路2、3には、油圧を検出する圧力センサ24、25がそれぞれ設けられている。圧力センサ24、25はコントローラ15と電気的に接続しており、検出結果をセンサ信号としてコントローラ15へ送信する。
【0030】
ディーゼルエンジン6の駆動軸6aは、油圧ポンプ4に接続されている。ディーゼルエンジン6は、排気ガスを通す排気通路26と接続している。排気通路26の途中には、ディーゼルエンジン6から出た排気ガス中に含まれるススなどの微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルター(DPF)27が設けられている。また、ディーゼルエンジン6は、コントローラ15の制御のもとで燃料を噴射する燃料噴射装置28と接続している。燃料噴射装置28は、ディーゼルエンジン6の回転数を制御するエンジン回転制御手段の機能を有する。ディーゼルエンジン6には、エンジン回転数を検出する回転センサ29が設けられている。回転センサ29は、検出結果をセンサ信号としてコントローラ15へ送信する。
【0031】
DPF27は、セラミックなどの材料からなるフィルターを有する。DPF27には、フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段である差圧センサ30が設けられている。差圧センサ30は、検出結果をセンサ信号としてコントローラ15へ送信する。なお、差圧検出手段として、二つの圧力センサをフィルターの前後に設けてもよい。
【0032】
コントローラ15には、圧力センサ24、25、回転センサ29、差圧センサ30がそれぞれ出力するセンサ信号に加えて、建設機械の移動方向を切り替えるF/Rレバー31、ステアリングの負荷を検出するステアリング負荷検出装置32、車速レンジを切り替える車速レンジ切替スイッチ33、およびアクセル34から信号が入力される。コントローラ15は、入力された各種信号と、コントローラ15の内部に設けられたメモリ151が記憶するデータとに基づいて、電磁弁10、11、燃料噴射装置28を作動させる制御信号を出力する。
【0033】
図2は、本実施の形態1に係る油圧駆動装置の制御方法の処理の概要を示すフローチャートである。図2において、まず差圧センサ30がDPF27の前後の差圧ΔP(以下、単に「差圧ΔP」という)を検出する(ステップS1)。
【0034】
続いて、コントローラ15は、差圧センサ30から入力された差圧ΔPと所定の閾値ΔPthの大小関係を判定する(ステップS2)。差圧ΔPが閾値ΔPth未満である場合(ステップS2:No)、コントローラ15は通常の制御によってディーゼルエンジン6のエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を設定する(ステップS3)。以下、差圧ΔPが閾値ΔPth未満である場合にコントローラ15が設定するマッチング位置を通常位置という。
【0035】
一方、ステップS2において、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合(ステップS2:Yes)、コントローラ15は、通常位置と同じ馬力を有し、かつ通常位置よりも排気温度が高い領域にマッチング位置を設定する(ステップS4)。
【0036】
ステップS3またはS4の後、差圧ΔPを検出してから所定時間が経過した場合(ステップS5:Yes)、コントローラ15はステップS1に戻る。一方、ステップS3またはS4の後、差圧ΔPを検出してから所定時間が経過していなければ(ステップS5:No)、コントローラ15はステップS5を繰り返す。ステップS5における所定時間はチェックサイクルタイムであり、その値は建設機械の種類や使用環境等の条件に応じて適宜設定される。
【0037】
以下、上述したステップS4におけるマッチング位置の設定処理について説明する。図3は、ステップS4におけるマッチング位置の設定処理の概要を示す図であり、ディーゼルエンジン6のエンジン回転数Neを横軸とする一方、ディーゼルエンジン6の出力トルクTeを縦軸とするトルク線図である。
【0038】
ディーゼルエンジン6の排気温度は、エンジン回転数と出力トルクの影響を受けることが知られている。図3において、ディーゼルエンジン6の最大負荷トルク線Lと横軸および縦軸で囲まれた領域は、ディーゼルエンジン6の排気温度に応じて4つの領域S1〜S4に分割されている。具体的な温度帯域は、領域S1が350℃程度以上、領域S2が200〜350℃程度、領域S3が150〜200℃程度、領域S4が150℃程度以下である。このうち、領域S1では、自然再生によって微粒子が燃焼する。これに対して、領域S2〜S4では微粒子を燃焼させるために強制再生を行う必要があるが、強制再生の内容は領域ごとに異なっており、高温の領域ほど簡易な強制再生を行うことによって微粒子を燃焼させることができる。なお、領域S2〜S4で行う強制再生の詳細については、例えば特開2005−76604号公報に開示されている。
【0039】
図3に示す曲線MA、MBは、エンジン回転数に対する目標出力トルクを与える目標トルク線である。このうち、曲線MAは、差圧ΔPが閾値ΔPth未満であり、通常の制御が行われる場合の目標トルク線である。また、曲線MBは、差圧ΔPが閾値ΔPth以上であり、マッチング位置が通常位置から変更された場合の目標トルク線である。曲線MBは、最大負荷トルク線Lとの交点付近で自然再生が行われる高温度の領域S1を通過している。目標トルク線MA、MBは、エンジン回転数Neと出力トルクTeが線型に近い関係を有している。目標トルク線MA、MB上でのマッチング位置は、燃料噴射装置28のスロットルの開度に応じて定められ、最大負荷トルク線Lを超えないように制御される。目標トルク線MA上の点Aおよび目標トルク線MB上の点Bは最大負荷トルク線L上の点でもあり、フルスロットル時のマッチング位置である。
【0040】
図3に示す曲線Hは、エンジン回転数Neと出力トルクTeとの積が一定である等馬力線である。したがって、点Aと点Bは同一の等馬力線H上にある。
【0041】
本実施の形態1では、差圧センサ30が検出した差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合、マッチング位置を、通常位置である点Aと同じ等馬力線H上にあり、かつ最大負荷トルク線L上にある点Bに変更して設定する。換言すれば、本実施の形態1では、差圧センサ30が検出した差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合、マッチング位置を、点Aを通過する目標トルク線MAよりも高いトルク領域を通過する目標トルク線MB上に位置し、点Aと同じ等馬力線H上を通過し、かつ最大負荷トルク線L上にある点Bに変更して設定する。図4は、差圧ΔPに応じて設定される目標出力トルクの値を示す図である。図4において、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合の目標出力トルクはTBであり、点Bに対応している。一方、差圧ΔPが閾値ΔPth未満である場合の目標出力トルクはTAであり、点Aに対応している。このようにして、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合にコントローラ15がマッチング位置を変更することにより、図3に示す場合には排気温度の温度領域が領域S2から領域S1に変わる。したがって、ディーゼルエンジン6の排気温度が上昇し、DPF27の自然再生が促されることとなる。
【0042】
図5は、コントローラ15がマッチング位置を変更する際に制御信号を出力する処理の概要を示す処理フロー図である。コントローラ15には、差圧センサ30から差圧ΔPが入力され、回転センサ29からエンジン回転数Neが入力され、圧力センサ24または25から負荷圧力pが入力される。ここでいう「負荷圧力」とは、油圧供給管路2、3のうち、油圧モータ5に圧油を供給する高圧側の油圧供給管路の圧力として定義される。したがって、油圧供給管路2から油圧モータ5に圧油が供給される場合には、圧力センサ24の検出結果が負荷圧力となる一方、油圧供給管路3から油圧モータに圧油が供給される場合には、圧力センサ25の検出結果が負荷圧力となる。
【0043】
コントローラ15は、差圧ΔPに応じて、ポンプ容量qpを大きくする際に必要な係数k1を定める(ステップS11)。係数k1の値は、差圧ΔPが閾値ΔPth未満である場合に1である一方、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合に1より大きい定数である。差圧ΔPと係数k1との関係は、図1に示すメモリ151に格納されている。
【0044】
コントローラ15は、ステップS11の処理と並行して、圧力センサ24または25から入力された負荷圧力pを用いることにより、ディーゼルエンジン6の負荷に応じてポンプ容量およびモータ容量を変更する係数f1(p)、f2(p)を定める(ステップS12)。ステップS36に示す直線f1、f2にそれぞれ対応する関係式はメモリ151に格納されている。なお、直線f1、f2はあくまでも一例に過ぎない。
【0045】
コントローラ15は、ステップS11で定めた係数k1、ステップS12で定めた係数f1(p)、f2(p)に加えて、ポンプ容量qp、モータ容量qm、エンジン回転数Neを用いることにより、ポンプ目標容量(ポンプ容量の目標値)qp’、 モータ目標容量(モータ容量の目標値)qm’、 エンジン目標回転数(エンジン回転数の目標値)Ne’を、次の三つの式
p’=qp×f1(p)×k1 ・・・(1)
m’=qm×f2(p) ・・・(2)
e’=(qm’/qp’)×V=(qm’/qp’)×(Ne×qp/qm) ・・・(3)
によってそれぞれ算出する(ステップS13)。なお、式(3)では、車速Vを不変とすることを用いている。
【0046】
この後、コントローラ15は、式(1)〜(3)の算出結果に基づいて制御信号を送信する。具体的には、コントローラ15は、電磁弁10へポンプ容量制御信号を送信し、電磁弁11へモータ容量制御信号を送信し、燃料噴射装置28へ燃料制御信号を送信する。
【0047】
図6は、コントローラ15が出力した制御信号に基づいてマッチング位置を点Bに設定した場合のポンプ容量qp、モータ容量qm、車速Vのエンジン回転数Neに応じた特性を示す図であり、エンジン回転数Neの増加に伴って出力トルクがTeが上昇していく際の途中経過を示す図である。図6において、ポンプ容量qpは、エンジン回転数Neの増加とともに式(1)で算出されるポンプ目標容量qp’(=qpBとおく)に達するまで増加していく。ポンプ容量qpは、ポンプ目標容量qpBに達すると、エンジン回転数Neがさらに増加しても変化しない。なお、図6では、比較のため、差圧ΔPが閾値ΔPth未満であり、マッチング位置が通常位置(点A)である場合のポンプ容量qpの特性を示している。図6からも明らかなように、マッチング位置が点Aである場合のポンプ目標容量qpAは、マッチング位置が点Bである場合のポンプ目標容量qpBより小さい値を有する。
【0048】
本実施の形態1において、モータ容量qmは、ポンプ容量qpがポンプ目標容量qpBに達した後、式(2)で算出されるモータ目標容量qm’ (=qm0とおく)まで減少するように制御される。この際のモータ目標容量qm0は、マッチング位置が点Aである場合のモータ目標容量と同じ値を有する。なお、モータ容量qmをポンプ容量qpとともに変化させるような制御を行うことも可能である。
【0049】
上記の如くポンプ容量qpとモータ容量qmが変化することにより、車速Vはエンジン回転数Neの増加とともに増加していく。エンジン回転数Neがエンジン目標回転数Ne’(=NeBとおく)に達した状態での車速V0は、マッチング位置が点Aである場合にエンジン回転数Neがエンジン目標回転数Ne’(=NeAとおく)に達した状態の車速と等しい。すなわち、本実施の形態1では、マッチング位置が変更しても車速が変わらないような制御が行われる。ここで、図6からも明らかなように、二つのエンジン目標回転数NeA、NeBは、NeA>NeBを満たす。
【0050】
本実施の形態1では、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合、圧力センサ24または25が検知した負荷圧力pに応じた通常時の制御に加えて、ディーゼルエンジン6の馬力を通常時と等しくしながら、エンジン目標回転数Ne’を通常時より低く設定するとともにポンプ目標容量qp’を通常時より大きく設定する制御を行う。このような制御を行うことにより、通常時と比較して油圧ポンプ4の吸収トルクが増加し、ディーゼルエンジン6の排気温度が上昇する。この排気温度の上昇によってエンジン回転数Neと出力トルクTeとの関係が領域S1に達した場合、DPF27では自然再生によって微粒子が自動的に燃焼する。この結果、DPF27の目詰まりが解消され、差圧ΔPが低下する。
【0051】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、DPF27の前後の差圧ΔPが閾値ΔPthより大きい場合、ディーゼルエンジン6のエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を、ディーゼルエンジン6の馬力を一定に保ちながら、排気温度がより高温である位置に変更する制御を行うため、DPF27の目詰まりを的確に防止しながら、エンジン出力の無駄が少ない効率的な連続再生処理を実現することができる。
【0052】
以上説明した本発明の実施の形態1の変形例として、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合に、圧力センサ24または25が検知した負荷圧力pに応じた通常時の制御に加えて、ディーゼルエンジン6の馬力を通常時と等しくしながら、エンジン目標回転数Ne’を通常時より低く設定するとともにモータ目標容量qm’を通常時より小さく設定する制御を行うことも可能である。この場合のポンプ目標容量qp’およびモータ目標容量qm’は、次の二つの式
p’=qp×f1(p) ・・・(4)
m’=qm×f2(p)×k2 ・・・(5)
によってそれぞれ算出される(車速Vは式(3)によって算出)。ここで、式(5)の係数k2は、図7に示すように、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合に1よりも小さい定数であり、差圧ΔPが閾値ΔPth未満である場合に1である。差圧ΔPと係数k2との関係は、図1に示すメモリ151に格納されている。
【0053】
図8は、本変形例において、コントローラ15が出力した制御信号に基づいてマッチング位置を点Bに設定した場合のポンプ容量qp、モータ容量qm、車速Vのエンジン回転数Neに応じた特性を示す図であり、エンジン回転数Neの増加に伴って出力トルクがTeが上昇していく際の途中経過を示す図である。図8において、まずモータ容量qmは、エンジン回転数Neの増加とともに式(5)で算出されるモータ目標容量qm’(=qmBとおく)に達するまで減少していく。モータ容量qmは、モータ目標容量qmBに達すると、エンジン回転数Neがさらに上昇しても変化しない。なお、図8では、比較のため、差圧ΔPが閾値ΔPth未満であり、マッチング位置が通常位置(点A)である場合のモータ容量qmの特性を示している。図8からも明らかなように、マッチング位置が点Aである場合のモータ目標容量qmAは、マッチング位置が点Bである場合のモータ目標容量qmBより大きい値を有する。
【0054】
本変形例において、ポンプ容量qpは、モータ容量qmがモータ目標容量qmBに達した後、式(4)で算出されるポンプ目標容量qp’ (=qp0とおく)まで増加するように制御される。この際のポンプ目標容量qp0は、マッチング位置が点Aである場合のポンプ目標容量と同じ値を有する。
【0055】
上記の如くポンプ容量qpとモータ容量qmが変化することにより、車速Vは、エンジン回転数Neの増加とともに増加していく。エンジン回転数Neがエンジン目標回転数NeBに達した状態での車速V0は、マッチング位置が点Aである場合にエンジン回転数Neがエンジン目標回転数NeA(>NeB)に達した状態の車速と等しい。このように、本変形例においても、マッチング位置によらず車速を不変とする制御が行われる。
【0056】
以上説明した本発明の実施の形態1の変形例によれば、実施の形態1と同様、DPF27の目詰まりを的確に防止しながら、エンジン出力の無駄が少ない効率的な連続再生処理を実現することができる。
【0057】
なお、本実施の形態1においては、式(1)と式(5)を用いることによってマッチング位置を設定する制御を行うことも可能であるし、ポンプ容量qpおよびモータ容量qmの値に応じて式(1)、(2)の組と式(4)、(5)の組のいずれか一方の組を用いた制御を行うことも可能である。
【0058】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2に係る油圧駆動装置の制御方法の概要を示すフローチャートである。なお、本実施の形態2に係る油圧駆動装置の構成は、上述した油圧駆動装置1と同じである。
【0059】
図9において、まず差圧センサ30が差圧ΔPを検出する(ステップS21)。その後、コントローラ15は、差圧センサ30から入力された差圧ΔPと所定の閾値である第1閾値ΔPth1との大小関係を判定する(ステップS22)。
【0060】
差圧ΔPが第1閾値ΔPth1以上である場合(ステップS22:Yes)、コントローラ15は、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1より大きい第2閾値ΔPth2に到達するまでの到達時間t1→2を予測する(ステップS23)。第2閾値ΔPth2は、上記実施の形態1における閾値ΔPth(図4を参照)と同程度の値である。図10は、ステップS23における予測処理の概要を示す図であり、具体的には差圧ΔPの時間変化(実線)と予測結果(1点鎖線)を示している。図10において、差圧センサ30はチェックサイクルタイムΔtごとに差圧ΔPを検出している。図10に示す場合には、時刻tnにおいて測定開始後初めて差圧ΔPが第1閾値ΔPth1よりも大きくなっている(点Qn)。この場合、コントローラ15は、時刻tnの1サイクル前の時刻tn-1の検出結果に対応する点Qn-1と点Qnとを通過する直線が第2閾値ΔPth2に達するまでの時間を到達時間t1→2として算出する。なお、図10において、差圧ΔPlimitは強制再生が必要なDPF27の目詰まり限界ラインを示している。
【0061】
続いて、コントローラ15は、差圧ΔPおよび到達時間t1→2に基づいて、通常位置と同じ馬力を有し、かつ通常位置よりも排気温度が高い領域にマッチング位置を設定する(ステップS24)。本実施の形態2においては、到達時間t1→2を、DPF27の再生処理の緊急度を示す指標となる指標時間t0と比較し、この指標時間t0との大小関係に応じて目標出力トルクの設定を変える。指標時間t0は、より具体的には、到達時間t1→2が当該指標時間t0以上である場合、排気温度の迅速な上昇が必要とされるような時間として設定される。図11は、到達時間t1→2が指標時間t0以上である場合の差圧ΔPと目標出力トルクとの関係を示す図である。また、図12は、到達時間t1→2が指標時間t0未満である場合の差圧ΔPと目標出力トルクとの関係を示す図である。図11に示す線R1では、差圧ΔPがΔPth1≦ΔP<ΔPth2の範囲にある場合に線型に増加していき、ΔP≧ΔPth2で一定値TBをとる。これに対して、図12に示す線R2では、差圧ΔPがΔPth1≦ΔP<ΔPth2の範囲にある場合に線R1と同じ増加率で線型に増加していくが、ΔP=ΔPth1における目標トルクTth1がTAよりも大きい値を有するように設定される。したがって、線R2においては、線R1よりも差圧ΔPが小さいうちに目標出力トルクが第2閾値ΔPth2に達する。具体的には、差圧ΔPが第2閾値ΔPth2よりも小さい値ΔP’で目標出力トルクがTBに達し、ΔP≧ΔP’では目標出力トルクが一定値TBをとる。線R1、R2において、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1未満である場合の目標出力トルクは一定値TAである。なお、図11と図12に示す差圧ΔPと到達時間t1→2との関係はあくまでも一例に過ぎない。
【0062】
ここまで、ステップS22の判定の結果、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1以上である場合を説明してきたが、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1未満である場合(ステップS22:No)、コントローラ15は、マッチング位置を通常位置に設定する(ステップS25)。
【0063】
ステップS24またはS25でマッチング位置を設定した後、差圧ΔPを検出してから所定時間(チェックサイクルタイム)が経過していれば(ステップS26:Yes)、コントローラ15はステップS21に戻る。一方、ステップS24またはS25でマッチング位置を設定した後、差圧ΔPを検出してから所定時間が経過していなければ(ステップS26:No)、コントローラはステップS26を繰り返す。
【0064】
図13は、上述したステップS24におけるマッチング位置の設定処理の概要を示す図である。本実施の形態2においては、通常のマッチング位置が点Aである場合、差圧ΔPおよび到達時間t1→2に応じて、マッチング位置を、点Aを通過する等馬力線H上の点のうち、等馬力線Hと最大負荷トルク線Lとの交点Bと点Aとの間の位置に設定することができる。図13では、点Aと点Bの間の等馬力線H上に、点Aに近い方から4つの点C、D、E、Fが記載されている。これらの点C、D、E、Fをそれぞれ通過する目標トルク線MC、MD、ME、MFは、目標トルク線MA、MBと同様、エンジン回転数NeとトルクTeが線型に近い関係を有しており、目標トルク線MBに近いほど高いトルク領域を通過する。このため、差圧ΔPが小さく緊急度が低い場合には通常のマッチング位置Aに近いマッチング位置(例えば点C)が設定される一方、差圧ΔPが大きく緊急度が高いほど点Bに近いマッチング位置(例えば点F)が設定されることとなる。
【0065】
図14は、コントローラ15がマッチング位置を変更する際に制御信号を出力する処理の概要を示す処理フロー図である。コントローラ15には、差圧センサ30から差圧ΔPが入力され、回転センサ29からエンジン回転数Neが入力され、圧力センサ24または25から負荷圧力pが入力される。
【0066】
コントローラ15は、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1以上であれば(ステップS31:Yes)、到達時間t1→2を予測し(ステップS32)、この予測結果に応じて係数k1を定める(ステップS33)。ステップS33において、コントローラ15は、差圧ΔPと係数k1との関係を与える直線αを参照して差圧ΔPに応じた係数k1を定める。この直線αはメモリ151に格納されており、ステップS32の予測結果に応じて異なる関係式(直線)が適用される。一方、コントローラ15は、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1未満であれば(ステップS31:No)、係数k1を1とする(ステップS34)。コントローラ15は、差圧ΔPと第1閾値ΔPth1との関係に応じた係数k1を出力する(ステップS35)。ステップS35の出力は、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1以上である場合にはステップS33の出力値k1であり、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1未満である場合にはステップS34の出力値k1(=1)である。図14では、ステップS35の出力として、差圧ΔPが第1閾値ΔPth1以上であり、ステップS33で算出した係数k1を出力する場合を記載している。
【0067】
コントローラ15は、ステップS31〜S35の処理と並行して、圧力センサ24または25から入力された負荷圧力pを用いることにより、ディーゼルエンジン6の負荷に応じてポンプ容量およびモータ容量を変更する係数f1(p)、f2(p)を定める(ステップS36)。
【0068】
続いて、コントローラ15は、ステップS35で定めた係数k1、ステップS36で定めた係数f1(P)、f2(P)、ポンプ容量qp、モータ容量qm、エンジン回転数Neを用いることにより、上記式(1)〜(3)によってそれぞれ定められるポンプ目標容量qp’、モータ目標容量qm’、エンジン目標回転数Ne’を算出する(ステップS37)。このように、本実施の形態2において、ポンプ目標容量qp’、モータ目標容量qm’、エンジン目標回転数Ne’を設定する際に式(1)〜(3)を用いる点は、上述した実施の形態1と同様である。すなわち、本実施の形態2においても、差圧ΔPが閾値ΔPth以上である場合、圧力センサ24または25が検知した負荷圧力pに応じた通常時の制御に加えて、ディーゼルエンジン6の馬力を通常時と等しくしながら、エンジン目標回転数Ne’を通常時より低く設定するとともにポンプ目標容量qp’を通常時より大きく設定する制御を行う(図6を参照)。ただし、式(1)における係数k1の定め方は、上述した実施の形態1とは異なる(ステップS32〜S35を参照)。
【0069】
この後、コントローラ15は、ステップS37の算出結果に基づいて、制御信号を送信する。具体的には、電磁弁10へポンプ容量制御信号を送信し、電磁弁11へモータ容量制御信号を送信し、燃料噴射装置28へ燃料制御信号を送信する。
【0070】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、DPF27の前後の差圧ΔPが第1閾値ΔPth1より大きい場合、ディーゼルエンジン6のエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を、ディーゼルエンジン6の馬力を一定に保ちながら、排気温度がより高温である位置に変更する制御を行うため、DPF27の目詰まりを的確に防止しながら、エンジン出力の無駄が少ない効率的な連続再生処理を実現することができる。
【0071】
また、本実施の形態2によれば、差圧ΔPの値に応じてマッチング位置の変更の仕方を変えているため、例えば差圧ΔPが比較的小さい場合には、通常のマッチング位置の近くで再生処理を行わせることができる。したがって、DPFの微粒子堆積量に応じて柔軟な再生処理を行うことが可能となる。
【0072】
なお、本実施の形態2においても、差圧センサ30が検出した差圧ΔPが第1閾値ΔPth1以上である場合、圧力センサ24または25が検知した負荷圧力pに応じた通常時の制御に加えて、ディーゼルエンジン6の馬力を通常時と等しくしながら、エンジン目標回転数Ne’を通常時よりも低く設定するとともにモータ目標容量qm’を通常時より小さく設定する制御を行ってもよい。また、負荷圧力pに応じた通常時の制御に加えて、ディーゼルエンジン6の馬力を通常時と等しくしながら、エンジン目標回転数Ne’を通常時より低く設定し、ポンプ目標容量qp’を通常時より大きく設定し、かつモータ目標容量qm’を通常時より小さく設定する制御を行ってもよい。
【0073】
また、本実施の形態2において差圧ΔPの予測を行う方法は上述したものに限られるわけではなく、従来より既知の予測方法を使用することも可能である。
【0074】
ここまで、本発明を実施するのに好適な形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態1、2によってのみ限定されるべきではない。すなわち、本発明は、上記以外にも様々な実施の形態を含みうるものである。
【符号の説明】
【0075】
1 油圧駆動装置
2、3 油圧供給管路
4 油圧ポンプ
5 油圧モータ
6 ディーゼルエンジン
7、8 容量制御部
9 減速機
10、11 電磁弁
12 チャージ管路
13 チャージポンプ
15 コントローラ
16、17 分岐管路
18、19、21、22 チェック弁
20 チャージリリーフ弁
23 高圧リリーフ弁
24、25 圧力センサ
26 排気通路
27 ディーゼルエンジン微粒子除去フィルター(DPF)
28 燃料噴射装置
29 回転センサ
30 差圧センサ
100 走行部
151 メモリ
L 最大負荷トルク線
A、MB、MC、MD、ME、MF 目標トルク線
H 等馬力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、
前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、
前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、
前記油圧ポンプのポンプ容量を制御するポンプ容量制御手段と、
を備え、
前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記ポンプ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記ポンプ容量の目標値より大きくすることを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項2】
駆動源であるディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、
前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、
前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、
前記油圧ポンプのポンプ容量を制御するポンプ容量制御手段と、
を備え、
前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行うことを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項3】
駆動源であるディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、
前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、
前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、
前記油圧モータのモータ容量を制御するモータ容量制御手段と、
を備え、
前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記モータ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記モータ容量の目標値より小さくすることを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項4】
駆動源であるディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、
前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、
前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数を制御するエンジン回転制御手段と、
前記油圧モータのモータ容量を制御するモータ容量制御手段と、
を備え、
前記差圧検出手段が検出した差圧が所定の閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行うことを特徴とする油圧駆動装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記ディーゼルエンジンの目標出力トルクをトルク線図における最大負荷トルク線上に設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の油圧駆動装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧の変化を予測し、
この予測結果に基づいて前記ディーゼルエンジンの目標出力トルクを設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の油圧駆動装置。
【請求項7】
駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、
前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、
前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記ポンプ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記ポンプ容量の目標値より大きくする制御ステップと、
を含むことを特徴とする油圧駆動装置の制御方法。
【請求項8】
駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、
前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、
前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行う制御ステップと、
を含むことを特徴とする油圧駆動装置の制御方法。
【請求項9】
駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、
前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、
前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、前記エンジン回転数の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記エンジン回転数の目標値より低くするとともに、前記モータ容量の目標値を前記差圧が前記閾値未満である場合の前記モータ容量の目標値より小さくする制御ステップと、
を含むことを特徴とする油圧駆動装置の制御方法。
【請求項10】
駆動源であるディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出した圧油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、前記ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる微粒子を低減するディーゼルエンジン微粒子除去フィルターと、を備えた油圧駆動装置の制御方法であって、
前記ディーゼルエンジン微粒子除去フィルターの前後の差圧を検出する差圧検出ステップと、
前記差圧検出ステップで検出した差圧を所定の閾値と比較する比較ステップと、
前記比較ステップで比較した結果、前記差圧が前記閾値以上である場合、前記ディーゼルエンジンの馬力を一定に保ちながら、トルク線図におけるエンジン回転数と出力トルクとのマッチング位置を定める目標トルク線として、前記差圧が前記閾値未満である場合の目標トルク線より高い出力トルクの領域を通過する目標トルク線を用いることによってエンジン回転数と出力トルクとのマッチングを行う制御ステップと、
を含むことを特徴とする油圧駆動装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−229821(P2010−229821A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74973(P2009−74973)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】