説明

洗浄方法及びその装置

【課題】被洗浄物を変形や損傷させずに、この被洗浄物の有する貫通孔を効果的に洗浄する洗浄方法及びその装置を提供すること。
【解決手段】洗浄装置1のチャンバー2内を仕切るように、ステンシルマスク67をホルダー11により固定配置してA室とB室に分離し、この両室を連通するバイパス3の弁3aを開き、A室の排出口6を閉じてチャンバー2内をCO2の臨界温度以上に保ち、B室に供給口4から臨界温度以上に加熱したCO2ガスを供給し、CO2ガスを更に供給して圧力を高め、両室を等圧力の超臨界CO2で満たした後に、バイパス弁3aを閉じ、B室へ超臨界CO2を加圧して供給し、A室内との圧力差を形成する。これにより、高圧力のB室側から低圧力のA室側へステンシルマスク67の貫通孔59を通る超臨界CO2の流れが生じ、この超臨界CO2の運動エネルギーによって貫通孔59を損傷させずに、貫通孔59内のパーティクル27を洗浄できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、洗浄方法及びその装置に関し、例えば電子線露光用マスクの洗浄方法、及びその方法を実施する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体素子の微細化は、光リソグラフィの解像限界を超えるために、電子線又はイオンビーム等の荷電粒子線を用いて微細な回路パターンを露光して描画する微細加工技術が開発されている。
【0003】
この露光技術は、例えば、高エネルギーの電子線を使用する電子線転写リソグラフィ(EPL;Electron-beam Proximity Lithography,H. C. Pfeiffer, Jpn. J.Appl. Phys. 34, 6658 (1995) 参照。)、低エネルギーの電子線を使用する低速電子線近接転写リソグラフィ(LEEPL;Low Energy Electron-beam Proximity Projection Lithography,T. Utsumi, U. S. Patent No. 5831272 (3 November 1998) 参照。)、イオンビームを使用するイオンビーム転写リソグラフィ(IPL;Ion-beam Lithography,H. Loeschner et al., J. Vac. Sci. Technol. B19, 2520 (2001) 参照。)等である。
【0004】
このうち、エレクトロンビームプロジェクションリソグラフィは、ステンシルマスクを用いた半導体製造用リソグラフィー技術であり、電子線(エレクトロンビーム)を透過する開口部と透過しない遮蔽部分を利用して、開口部と遮蔽部を組み合わせて回路パターンのステンシルマスクを作り、電子線でマスクパターンをシリコン等の基板に縮小或いは等倍で転写をさせることにより、微細な回路パターンを形成するものである。
【0005】
即ち、縮小転写は、例えば露光しようとするチップ全体のパターンを1mm×12mmのストライプ状に分割して作り、これをスキャンしながらウェーハ上に1/4に縮小転写するか、又はマスク上で1mm角の転写エリアをステップアンドリピート方式により、順次に縮小転写するものである。
【0006】
また、等倍転写は、例えばウェーハとステンシルマスクを約50μmの距離に近接配置し、低速電圧電子ビームを照射することにより、マスクパターンを等倍に転写するものであり、微細パターンを正確に転写できる利点がある。
【0007】
上記の低速電子線近接転写リソグラフィ(LEEPL)は、100nm以下の高スループットの電子線露光技術の一つであり、上記した等倍転写技術に好適である。使用されるステンシルマスクは厚さ100nm〜10μm程度であり、Si、SiC又はダイアモンド等の薄膜(メンブレン)にビーム貫通孔を開けたものである。
【0008】
ステンシルマスクは、図13((a)は平面図、(b)は(a)のX−X’線断面図)に示すように、例えば、電子線を透過するための幅(D2)0.03〜0.04μmの複数の貫通孔(パターン開口部)59が形成された厚さ(t)0.4〜0.5μmのメンブレン(薄膜)51を有している(パターン開口部59は理解容易のために、数個分を簡略図示している)。このメンブレン51は、パターン開口部59の周囲に形成された20〜40mm径(D1)の開口部61を有するSiO2膜55を介して、SiO2膜55の開口部61より大きいサイズの開口部60を有するSiウェーハ56に支持されている。ステンシルマスク67の全厚(T)は例えば725μmであり、非常に薄いため、電子ビームにより加熱されても冷め易い。
【0009】
図14は上記したステンシルマスク67を用いた等倍転写の一例を示し、(a)は断面図、(b)は転写パターンの拡大平面図である。
【0010】
即ち、図14(a)に示すように、例えばSi基板20上にSiO221、配線層22としてのアルミニウム膜を順次積層したウェーハ25の上にネガ型のフォトレジスト層23を配し、この上に間隔C(約50μm)の距離でステンシルマスク67を配置して、ステンシルマスク67の上面に電子ビーム26を照射する。照射された電子ビーム26はステンシルマスク67のパターン開口部59を通過し、図14(b)に示すように、ウェーハ25上のフォトレジスト膜23が転写パターン24に露光される。
【0011】
図14(b)は一つの転写領域19を拡大図示したものであり、転写パターン24も簡略して示したが、実際には、上記した如く開口径が0.03〜0.04μmの微細パターンを形成されたステンシルマスク67の開口パターンが、一つの転写領域19としてステッパ露光により、ウェーハ25上のフォトレジスト膜23に転写され、これを現像することによって、多数の微細な転写パターン24が1個のウェーハ25上に形成される。
【0012】
ところが、上記したようにステッパ露光によってパターンが転写されるため、例えばステンシルマスク67のパターン開口部59内にごみ等の異物が詰まっていると、この異物も等倍転写されてしまうためにマスクパターンの転写精度が大きく低下し、場合によってはウェーハ25上に転写されるべき微細パターンの全部が不良品となってしまう。そしてこのようなごみ詰まりはステンシルマスク67の製造工程において発生し易い。
【0013】
このようなごみは、図15〜図16に示すステンシルマスク67の製造工程において生じる。
【0014】
まず、図15(a)に示すように、Siウェーハ56にSiO2膜55及びSi又はSiCからなるメンブレン51をそれぞれ所定の厚さで順次形成する。
【0015】
次に、図15(b)に示すように、Siウェーハ56上にレジスト57を所定パターンに設け、Siウェーハ56の一部をSiO2膜55の表面に至るまで、ドライエッチングで除去して開口部60を形成する。
【0016】
次に、図15(c)に示すように、レジスト57を除去した後に、Siウェーハ56をマスクとしてSiO2膜55の一部をメンブレン51の表面に至るまで、ドライエッチングで除去して開口部61を形成する。
【0017】
次に、図15(c)の状態を上下反転させた図16(d)に示すように、メンブレン51上に新たなレジスト57を設け、このレジスト57をフォトリソグラフィー技術によって所定のパターンに加工する。
【0018】
次に、図16(e)に示すように、レジスト57をマスクとして、メンブレン51をドライエッチングにより貫通させてパターン開口部59を形成する。その後に、メンブレン51上のレジスト57をO2アッシング等で除去する。このようにSOI(シリコン・オン・インシュレータ)技術によって、図16(f)に示すステンシルマスク67は作製される。
【0019】
上記したように、ステンシルマスク67のパターン開口部59は、電子線の吸収や散乱をなくすために貫通孔構造になっているが、上記したマスク製造プロセスにおいて、Si及びSiO2のドライエッチング、フォトレジストのアッシング、ハンドリング時に発生したパーティクル(ごみ)等がマスク表面上のみならず、微細なパターン開口部59に侵入して付着し易い。
【0020】
ところが図17に示すように、ステンシルマスク67のパターン開口部(以下、貫通孔と称する。)59にごみ27等の異物が侵入し、開口部が詰まった状態で図14に示した如く使用した場合は、電子ビーム26が遮蔽されて正確なパターンでの露光不能が生じ、このごみ27の存在に気付かないままステッパ露光を続ければ、全てのパターン転写が不良になる。従って、このような異物を洗浄によって除去することが不可欠である。
【0021】
このようなステンシルマスク67を微細なパターンの転写に用いる場合には、上記したように、このパターン開口部(貫通孔構造)が非常に微細であるため、洗浄時にマスク上のパターンが非常に壊れ易い。従って、ステンシルマスク67上のごみ27を除去するための洗浄として、従来のように、水を溶媒として用いたり、有機溶剤などの液体を用いた場合には、図17に示すように、液体28による気−液界面での表面張力70によってステンシルマスク67のパターンが壊れてしまう場合がある。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
従って、ステンシルマスク67のパターンを破壊しないようにするために、表面張力の発生しないガスや蒸気、又は超臨界流体を用いる洗浄方法が検討されている。しかしながら、マスク上のごみを除去するのに例えばフッ化水素を用いてごみをエッチング除去したり、有機化合物でごみを錯体化して除去する場合には、洗浄媒体と反応する特定のごみしか除去できないので、この方法はごみ一般には適用不可能である。
【0023】
表面張力の発生しないガスや蒸気、又は超臨界流体を用いた洗浄方法によって貫通孔構造のステンシルマスク67の破壊は防げるが、被洗浄物であるステンシルマスク67を効果的に洗浄するためには、洗浄に用いるガスや蒸気、又は超臨界流体が被洗浄物表面、或いは微細なパターンの構造内部に十分に供給され、被洗浄物の表面から除去され、表面近傍に漂っている汚染物を効率的に系外或いは被洗浄物の表面から十分離れ、被洗浄物に再付着しないところまで移動させることが重要である。
【0024】
しかしながら、従来の半導体製造においては、基板表面に形成された微細構造を洗浄することから、基板表面上の液を含めてガスや蒸気、又は超臨界流体などを均一に流して洗浄する方法(更に速い速度で流すことで効果向上させること)が一般的であったが、貫通孔を有するステンシルマスク67の貫通孔の内壁を洗浄するためには、マスク表面に沿って洗浄剤(ガスや蒸気、又は超臨界流体など)を流しても、マスク表面に垂直に空いている貫通孔の内部に洗浄剤の流れを作り出すことは困難であるため、洗浄効果が向上しない。また、ステンシルマスク67自体が弱いために、あまり速い流速で洗浄剤を流すと、マスクが壊れてしまう可能性がある。
【0025】
特にステンシルマスク67の貫通孔の内部に入ってしまった異物(パーティクル)を除去することは困難である。しかし、ステンシルマスク67の場合、中空になった部分に異物が入り込むと、電子線が遮蔽されてしまうため大きな問題になるので、貫通孔構造内の汚染物又は異物(パーティクル)を除去することが重要であるが、従来の方法では除去が困難である。
【0026】
そこで本発明の目的は、ステンシルマスクの如く貫通孔を有する被洗浄物を変形若しくは損傷することなしに、いかなるごみ等の異物でも十二分に洗浄できる洗浄方法及びその装置を提供することにある。
【0027】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、一方の面側と他方の面側との間にビーム貫通孔を有する露光マスクの洗浄方法であって、
前記一方の面側と前記他方の面側とに気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させる工程と、
前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に圧力差を形成する工程と
を有する、洗浄方法(以下、本発明の第1の洗浄方法と称する。)、及びこの洗浄方法の実施に用いる洗浄装置(以下、本発明の第1の洗浄装置と称する。)に係るものである。
【0028】
本発明の第1の洗浄方法及び洗浄装置によれば、露光マスクの一方の面側と他方の面側とに気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させて、この一方の面側と他方の面側とで洗浄媒体に圧力差を形成するので、高圧力側から低圧力側へ移動しようとする洗浄媒体の運動エネルギーによって、露光マスクのビーム貫通孔を通過する洗浄媒体の流れが生じ、この洗浄媒体の流れによって貫通孔内をも十二分かつ効果的に洗浄することができ、いかなる種類の異物も洗浄することができ、しかも洗浄媒体が気相状態であるために洗浄媒体の表面張力が生じず、露光マスクのビーム貫通孔を変形及び損傷させることがない。
【0029】
また、本発明は、一方の面側と他方の面側との間にビーム貫通孔を有する露光マスクの洗浄方法であって、
前記一方の面側と前記他方の面側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させる工程と、
前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に前記拡散物質の濃度差を形成する工程と
を有する、洗浄方法(以下、本発明の第2の洗浄方法と称する。)、及びこの洗浄方法の実施に用いる洗浄装置(以下、本発明の第2の洗浄装置と称する。)に係るものである。
【0030】
本発明の第2の洗浄方法及び洗浄装置によれば、露光マスクの一方の面側と他方の面側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させて、この一方の面側と他方の面側とで洗浄媒体に拡散物質の濃度差を形成するので、拡散物質の濃度の高い側から拡散物質の濃度の低い側へ移動しようとする拡散物質の拡散流によって、露光マスクのビーム貫通孔を通過する洗浄媒体の流れが生じ、この洗浄媒体の流れによって貫通孔内をも十二分かつ効果的に洗浄することができ、いかなる種類の異物も洗浄することができ、しかも洗浄媒体が気相状態であるため、表面張力が生じず、露光マスクのビーム貫通孔を変形及び損傷させることがない。
【0031】
また、本発明は、一方の面側と他方の面側との間にビーム貫通孔を有する露光マスクの洗浄方法であって、
前記一方の面側と前記他方の面側とに気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させ、前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に圧力差を形成する工程と、
前記一方の面側と前記他方の面側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させ、前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に前記拡散物質の濃度差を形成する工程と
を併用する、洗浄方法(以下、本発明の第3の洗浄方法と称する。)、及びこの洗浄方法の実施に用いる洗浄装置(以下、本発明の第3の洗浄装置と称する。)に係るものである。
【0032】
本発明の第3の洗浄方法及び洗浄装置によれば、露光マスクの一方の面側と他方の面側とに気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させて、この一方の面側と他方の面側とで洗浄媒体に圧力差を形成すると共に、この洗浄媒体に拡散物質を添加して拡散物質の濃度差を形成するので、圧力及び拡散物質の濃度の高い側から圧力及び拡散物質の濃度の低い側へ移動しようとする洗浄媒体の運動エネルギーと、拡散物質の拡散流によって露光マスクのビーム貫通孔を通過する洗浄媒体の運動エネルギーとが相乗して、貫通孔内を含めて更に効果的に洗浄することができ、しかも洗浄媒体が気相状態であるため、表面張力が生じず、露光マスクのビーム貫通孔を変形及び損傷させることがない。
【0033】
また、本発明は、貫通孔を有する洗浄対象物の洗浄方法であって、
前記貫通孔の一方の側と他方の側とに超臨界流体を存在させ、前記一方の側と前記他方の側とで前記超臨界流体に圧力差を形成することと、
前記一方の側と前記他方の側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させ、前記一方の側と前記他方の側とで前記洗浄媒体に前記拡散物質の濃度差を形成することと
の少なくとも一つを行う、洗浄方法(以下、本発明の第4の洗浄方法と称する。)、及びこの洗浄方法の実施に用いる装置(以下、本発明の第4の洗浄装置と称する。)に係るものである。
【0034】
本発明の第4の洗浄方法及び洗浄装置によれば、超臨界流体を存在させて圧力差を形成する場合は、高圧力側から低圧力側へ貫通孔を通過する超臨界流体の流れが生じ、貫通孔内に異物が存在していても、超臨界流体の運動エネルギーによって除去されるため、超臨界流体の洗浄作用によって貫通孔をも十二分かつ効果的に洗浄できる。
【0035】
また、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させて拡散物質の濃度差を形成する場合は、拡散物質の濃度の高い側からの拡散物質の拡散流により、拡散物質の濃度の高い側から低い側へ貫通孔を通過する拡散物質の流れが生じ、この拡散物質の運動エネルギーによって貫通孔をも十二分かつ効果的に洗浄できる。
【0036】
また、気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させて圧力差を形成し、更に洗浄媒体に拡散物質を添加して拡散物質の濃度差を形成する場合は、圧力及び拡散物質の濃度の高い側から低い側へ移動しようとする洗浄媒体の運動エネルギーにより、貫通孔を通過する洗浄媒体の流れが生じ、拡散物質を含有した洗浄媒体の運動エネルギーによって貫通孔をも十二分かつ効果的に洗浄できる。
【0037】
そしていずれの場合も、洗浄媒体が気相状態であるため、洗浄対象物を変形させたり、損傷させることがない。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0039】
上記した本発明の第1、第3及び第4の洗浄方法及び洗浄装置においては、前記露光マスク等の前記一方の面側と前記他方の面側とに前記洗浄媒体を等圧力に配した状態で、前記一方の面側に前記洗浄媒体を加圧して供給するか、或いは/並びに、前記一方の面側を前記他方の面側よりも昇温することにより、前記圧力差を形成することが、洗浄媒体に効果的な運動エネルギーを発生させる点で望ましい。
【0040】
この場合、チャンバー内を仕切るように前記露光マスクを配して第1空間と第2空間を形成し、前記第1空間と前記第2空間とを選択的に連通するバイパスを設けた状態で、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間とに存在する前記洗浄媒体を等圧力にした後、前記バイパスを閉じ、更に前記第1空間に前記洗浄媒体を加圧して供給するか或いは、前記第1空間を昇温して前記圧力差を形成することが、圧力差を形成し易い点で望ましい。
【0041】
更に、前記チャンバーの洗浄媒体供給側から排出側の方向において、前記第1空間内のフィルタ及び整流板、前記露光マスク、前記第2空間内の整流板を順次配し、前記第1空間側及び前記第2空間側に、前記洗浄媒体を供給又は排出するための供給口及び排出口をそれぞれ設け、前記洗浄媒体を加圧して供給する加圧供給手段又は昇温する昇温手段、及び前記洗浄媒体の圧力を測定するための圧力測定手段を設けることが、圧力差の形成及び圧力差を解消し易い点で望ましい。
【0042】
そして、前記加圧供給手段として昇圧ポンプ(例えば、日本分光(株)SCF−Get型超臨界CO2送液ポンプなど)、前記昇温手段として加熱ヒータを前記チャンバに設けることが望ましい。
【0043】
この場合、前記圧力差を時間的に変動させるようにしてもよい。
【0044】
また、前記洗浄媒体として、超臨界流体、ガス又は蒸気、又はこれらを溶媒(或いは希釈物質)とした洗浄剤を含有させたものを用いることが望ましく、この場合は前記第1空間及び前記第2空間に超臨界流体を供給し、この超臨界流体を超臨界状態の圧力及び温度に保持し、前記第1空間と前記第2空間とで前記超臨界流体を等圧力とした後に、前記第1空間と前記第2空間との間に前記圧力差を形成することが望ましい。
【0045】
また、本発明の第2〜第4の洗浄方法及び洗浄装置においては、前記露光マスク等の前記一方の面側と前記他方の面側とに前記洗浄媒体を等圧力に配した状態で、前記一方の面側の前記洗浄媒体に拡散係数が大きく、前記洗浄媒体よりも分子量あるいは原子量の大きな気体状の第1の拡散物質を添加するか、或いは/並びに、前記他方の面側の前記洗浄媒体に拡散係数が小さく、前記洗浄媒体よりも分子量あるいは原子量の小さな気体状の第2の拡散物質を添加することが、前記露光マスクの貫通孔を通して拡散する第1、第2の拡散物質の相互拡散流による一方向への運動量を増加させる点で望ましい。
【0046】
この場合、チャンバー内を仕切るように前記露光マスクを配して第1空間と第2空間を形成し、前記第1空間と前記第2空間を選択的に連通するバイパスを設けた状態で、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間に存在する前記洗浄媒体を等圧力にした後、前記バイパスを閉じ、更に前記第1空間の前記洗浄媒体に前記第1の拡散物質を添加するか、或いは前記第2空間の前記洗浄媒体に前記第2の拡散物質を添加することが、拡散係数の差を形成し易い点で望ましい。
【0047】
更に、前記チャンバーの洗浄媒体供給側から排出側の方向において、前記第1空間内のフィルタ及び整流板、前記露光マスク、前記第2空間内の整流板を順次配し、前記第1空間側及び前記第2空間側に、前記洗浄媒体を供給又は排出するための供給口及び排出口をそれぞれ設け、前記洗浄媒体に前記第1の拡散物質又は第2の拡散物質を添加する添加供給手段、及び前記洗浄媒体の圧力を測定するための圧力測定手段を設けることが、拡散係数の差の形成及び解消をし易い点で望ましい。
【0048】
そして、前記第1の拡散物質として、前記洗浄媒体よりも分子量又は密度が大きくて前記洗浄媒体に溶解性のある物質(例えば、超臨界流体を洗浄媒体とする場合はエタノール、メタノールなど)又は、使用状態(超臨界状態の温度及び圧力の状態)で気体状の物質を用い、前記第2の拡散物質として、前記洗浄媒体よりも分子量又は密度が小さくて前記洗浄媒体に溶解性のある物質(例えば、超臨界流体を洗浄媒体とする場合は水素、アルゴンなど)又は、使用状態で気体状の物質を用いることが望ましい。勿論この場合、これらの拡散物質と洗浄媒体との間で化合物を形成しないことが望ましく、これらの拡散物質の添加濃度は液相が形成されない条件で高濃度とするのが好ましい。
【0049】
また、前記洗浄媒体として、超臨界流体、ガス又は蒸気、又はこれらを溶媒(或いは希釈物質)とした洗浄剤を含有させたものを用いることが望ましく、この場合は前記第1空間及び前記第2空間に超臨界流体を供給し、この超臨界流体を超臨界状態の圧力及び温度に保持し、前記第1空間と前記第2空間とで前記超臨界流体を等圧力とした後に、前記第1空間と前記第2空間との間で前記超臨界流体に前記拡散物質の濃度差を形成することが好ましい。
【0050】
この場合、前記第1空間に対して、前記第1の拡散物質の添加又は前記第1の拡散物質を含有した超臨界流体との置換を行い、或いは/並びに前記第2空間に対して、前記第2の拡散物質の添加又は前記第2の拡散物質を含有した超臨界流体との置換を行うことが、常に拡散物質の濃度差を形成し易い点で望ましい。
【0051】
そして、本発明の第1〜第3の洗浄方法及び洗浄装置は、電子ビーム露光用のステンシルマスクの洗浄に適用することが望ましい。
【0052】
また、本発明の第1〜第4の洗浄方法及び洗浄装置においては、洗浄処理後は、前記第1空間及び前記第2空間に存在する前記超臨界流体を臨界温度以上又はガス状態とする温度以上に保ちつつ、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間との圧力差を解除し、しかる後に前記第1空間及び前記第2空間内を超臨界流体が液相状態及び気液2相共存状態とならない条件に保ちつつ、常温、常圧とすることが望ましい。
【0053】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下で具体的に説明する。
【0054】
以下の説明においては、超臨界流体として、超臨界CO2を用いてステンシルマスクを洗浄する例で説明する。そして超臨界CO2だけでは洗浄効果が低い場合やその他の理由で、超臨界CO2に可溶な添加剤を複数種類混合してもよいが、ここでは添加剤が入った超臨界CO2であっても、単に超臨界CO2と記述する(後述する他の実施の形態も同様)。
【0055】
実施の形態1
一般にガスや蒸気、又は超臨界流体を用いて洗浄する場合、洗浄チャンバー内部は、圧力を一定にするが、ガスや蒸気、又は超臨界流体を用いて洗浄する時に、ステンシルマスクの表面側と裏面側の間に圧力差をつけることで、ガスや蒸気、又は超臨界流体を積極的にステンシルマスクの貫通孔の内部を通過させることにより、洗浄効果を高めることができる。本実施の形態はこの原理を用いた洗浄方法である。
【0056】
図1は、本発明の第1の洗浄方法及びその装置に基づく本実施の形態の洗浄装置を示す概略断面図である。
【0057】
即ち、この洗浄装置1は、洗浄チャンバー(以下、単にチャンバーと称する)2の内部側壁の全面にホルダー11が設けられ、チャンバー2の内部を仕切るように、被洗浄物である低速電子線近接転写リソグラフィ(LEEPL)用のステンシルマスク67がホルダー11によって支持されて配され、チャンバー2の内部空間が、第1空間としてのB室と第2空間としてのA室とに分離されている。そして、ステンシルマスク67と所定間隔を置いて、A室側には整流板9b、B室側には整流板9a、パーティクルフィルター10の順に、いずれもホルダー11に支持され、更にチャンバー2を囲むようにヒータ12が設けられている。
【0058】
そして、A室側には排出口6及び圧力計7bが設けられ、B室側にはCO2の供給口4と、昇圧ポンプ(例えば、日本分光(株)SCF−Get型超臨界CO2送液ポンプ)5及び圧力計7aが設けられ、更に、A室とB室とを連通するバイパス3とその弁3aが設けられている。
【0059】
また、ヒータ12は図2(a)に示すように、A室側及びB室側を等温に加熱可能な抵抗r1の第1ヒータ14と、B室側を更に加熱可能な抵抗r2の第2ヒータ15と、第2ヒータ15に通電するためのスイッチ13とを有して構成されている。このヒータの機能は後述する他の実施の形態も同様であってよい。
【0060】
そして、第1ヒータ14はA、B両室がCO2を臨界温度(Tc)以上に保つ熱量を放熱し、第2ヒータ15はB室側を更に加熱可能な熱量を放熱する。即ち、図2(b)に示す回路図(i1、i2は各ヒータを流れる電流を表す。)のように、第1ヒータ14によってA、B両室に発熱される熱量(ジュール熱)は、超臨界温度Tcに関してr112>Tcである。また、第2ヒータ15を選択的にオンすることによって、B室側の発熱量をr122+r222>Tcとし、A室よりも大きくしてもよい。この場合は、A、B両室に同じ圧力でCO2を供給し、B室をより高温にすることによって、B室の圧力をA室よりも高めるときに適用してよい。
【0061】
被洗浄物であるステンシルマスク67の洗浄に際しては、まず、ステンシルマスク67をチャンバー2の内部に装填する。ステンシルマスク67をホルダー11に取りつけることにより、チャンバー2がこのステンシルマスク67によってA室とB室とに分離される。この時、分離されたA室とB室は、バイパス弁3aを開放した場合に、バイパス3を通る経路以外に流通がないようにすることが望ましい。
【0062】
一般に、ステンシルマスク67をチャンバー2に入れる作業は常温常圧で行われるため、ステンシルマスク67をチャンバー2に入れた後に、チャンバー2内をCO2の臨界温度及び臨界圧力以上の温度にする必要がある。このため、例えば、バイパス弁3aを開放し、バイパス3を流通させた後、排出口6を閉じ、チャンバー2内のCO2ガス圧力を上昇させる。この時、内部の空気などを予め排出してもよい。
【0063】
この時、第1ヒータ14を不図示のスイッチによって作動させ、チャンバー2内部をCO2が液化しない温度又は臨界温度以上に保つようにする。なお、A室とB室とをつなぐバイパス3はチャンバー2の外部に1ヶ所設置しているが、特にこの形式でなくても、必要に応じてA室とB室とをつなぐことができれば、どのようなものであってもよい。
【0064】
圧力差形成の手順としては、まずCO2が液化しない温度以上又は臨界温度以上に加熱したCO2ガスを供給口4から供給する。供給されたCO2ガスは、チャンバー2のB室から、バイパス3を通り、チャンバー2のA室まで達する。又、一部のガスは、パーティクルフィルター10、整流板9a、ステンシルマスク67、整流板9bを通り、A室まで達する。この場合、供給するCO2ガスは昇圧ポンプ5により供給加圧し、チャンバー2内が臨界圧力以上になるまで供給加圧する。
【0065】
昇圧ポンプ5を作動させてCO2ガスを更に供給することで、A、B両室内の圧力を等圧力に保ちながら圧力を上昇させ、チャンバー2内を例えば臨界圧力以上にし、温度を臨界温度以上にすることで、チャンバー2内部は超臨界CO2で満たされることになる。両室内の圧力は圧力計7a、7bにて確認することができる。
【0066】
次に、バイパス弁3aを閉じてバイパス3の流路を閉じ、供給口4から昇圧ポンプ5によって超臨界CO2を加圧供給する。これにより、チャンバー2内のA室とB室とに圧力差が発生し、B室がA室よりも高い圧力になる。
【0067】
B室がA室よりも高い圧力になると、圧力を緩和するために、超臨界CO2は、まず、パーティクルフィルター10を通ることで、ステンシルマスク67を汚染したり、貫通孔59を塞ぐパーティクルが除去される。更に、整流板9aを通ることで、ステンシルマスク67の貫通孔59に均一に超臨界CO2が流れるように整流される。整流された超臨界CO2は、ステンシルマスク67の貫通孔59を通り、更に整流板9bを通過してA室に達する。
【0068】
この時、ステンシルマスク67の貫通孔59を超臨界CO2が通りぬけることになるので、貫通孔59内に超臨界CO2の流れが発生し、洗浄効果が向上する。しかも、洗浄媒体がCO2ガスであるので、強度の弱いステンシルマスク67を変形させたり、貫通孔59を損傷させたりすることがない。
【0069】
しかし、A室とB室との圧力差をあまり大きくしすぎると、ステンシルマスク67が破壊してしまう。一方、ステンシルマスク67の貫通孔59の内部の洗浄効果は、超臨界CO2の流速が速いほど向上するので、圧力差をつけて処理した方がよい。このため、適当な圧力差になるように調節する。ステンシルマスク67を破壊せずに洗浄効果を向上させるための圧力差は、ステンシルマスク67の強度や貫通孔59の開口面積によって異なるので、予め評価して決める。
【0070】
また、ステンシルマスク67上の貫通孔59部分が均一でない場合や、貫通孔59が限られた部分に偏在する場合にも、ステンシルマスク67の貫通孔59に均一に超臨界CO2が流れるように、整流板9aや整流板9bを設置したり、その効果を調整した方がよい。
【0071】
ここで整流板とは、穴のあいた板状のもの(均一に穴があいているもの、穴の大きさや形や場所による穴の密度の異なるものなどや、ルーバー形状になって流れをコントロールするものなど)であり、必要に応じて、複数枚設置したり、或いはなくてもよい。また、超臨界CO2中に存在するパーティクルが少ない場合は、パーティクルフィルター10を設置しなくてもよい。
【0072】
洗浄処理が終了した後は、A室とB室との圧力差をなくし、バイパス弁3aを開放してバイパス3を流通させ、洗浄チャンバー2内部の圧力を低下させる。この時、CO2が臨界温度以上の温度、或いはCO2がガス状態になる温度以上に保つことで、CO2が液相状態及び気液2相共存状態を経ることなしに減圧されるので、CO2が液化してその表面張力によりステンシルマスク67を破壊することを防止できる。その後、常温常圧に戻し、ステンシルマスクをチャンバー2から取り出し、洗浄を終了する。
【0073】
既述したように、本発明の洗浄方法に使用する洗浄媒体はガスや蒸気、又は超臨界流体であり、本実施の形態においては超臨界CO2を用いるのが好ましいが、その超臨界条件(臨界温度、臨界圧力以上における物質の状態)を図3の状態図により、その特性を図4により説明する。
【0074】
図3に示すように、物質の臨界状態は、この物質が臨界圧力(気体が液化するときの圧力)Pc及び臨界温度(圧力をかけても気体が液化しない温度)Tcの条件(臨界点)下に置かれたときに呈する現象であり、気体でもない又液体でもない状態であるが、ガス的性質と液体的性質との中間の性質を有している。
【0075】
従って、分子が高温、高圧に圧縮された状態であるため、密度が高く(即ち、質量が大きく、運動エネルギーが大である)、活性であり、衝突時の圧力が強いと共に、粘度が小さくて動き易い性能を有する。
【0076】
しかし、図3に示すように、臨界点Cは気相と液相との分岐点であり、圧力又は温度のいずれもこの臨界点Cよりも低下した場合は、上記した液体的性質又はガス的性質のいずれかが、或いは両方の性質が失われてしまい、まして液体的となった場合には液体の表面張力の問題が加わることになり、本実施の形態による洗浄目的は達成し難くなる。
【0077】
従って、本実施の形態による洗浄方法は、臨界圧力(Pc)及び臨界温度(Tc)を超える域(即ち、超臨界領域D)の状態の超臨界CO2ガスを洗浄媒体として用い、A室とB室に圧力差を形成し、B室からA室へステンシルマスク67の貫通孔59を通過する超臨界CO2の流れを形成することで、付着力の相対的に弱い異物を流し取ると共に、その流れでは除去できない異物(特に微小な異物の場合、流れによる力に比較して付着力が強いため、流れのみでは除去できない。)を洗浄媒体(超臨界CO2)に添加された洗浄剤によりステンシルマスク67の表面から除去し、ステンシルマスク67の貫通孔59内部や表面に異物が再付着しないように、上記方法で形成した超臨界CO2の流れによって効率よく除去するようにする。
【0078】
図4は、本実施の形態において洗浄媒体の溶媒として使用可能な物質と、その臨界温度、臨界圧力等を示す図である。
【0079】
即ち、図4に示すように、本実施の形態において洗浄媒体の溶媒として使用するCO2は、臨界温度が31℃であり室温近傍で超臨界流体となる特徴を有し、臨界圧力は73atmであり、不燃性、毒性が低く、安価等の特徴がある。
【0080】
更に、密度、粘度、拡散係数については、超臨界ガスは気体や液体に比べて抜群の特性を有しており、超臨界CO2はステンシルマスクの洗浄媒体として非常に適した物質であると言える。
【0081】
本実施の形態は、このような特性を有する超臨界CO2を洗浄媒体とし、これを加圧して図1に示した洗浄装置1のチャンバー2内に供給し、A室とB室とに超臨界CO2の圧力差を形成することにより、高圧力のB室側の超臨界CO2が低圧力のA室側へ、チャンバー内に装着されたステンシルマスク67の貫通孔59を通過する際に、この超臨界CO2の運動エネルギーによって、この貫通孔59内に詰まったごみ等の異物を除去して貫通孔59内を洗浄するものであるが、その異物除去のメカニズムの一例を図5及び図6に示す。
【0082】
図5(a)は、既述した図17の状態の一部分を図示したものであり、図5(b)は(a)における一部分Eの拡大図を示す。
【0083】
即ち、ステンシルマスク67のメンブレン51より上方のA室の超臨界CO2の圧力P2と、メンブレン51より下方のB室の超臨界CO2の圧力P1との圧力差ΔP=P1−P2が形成されることにより、例えば貫通孔59内に詰まったごみ等の異物27は、CO2ガスのΔPに対応する運動エネルギーによって、実線で示す異物27は矢印方向へ仮想線で示すように押し出される。
【0084】
また、図6は、図5と同様の拡大図を示すものであるが、圧力差を時間的に変化させる例を示すものである。
【0085】
即ち、図5の場合と同様に、A室側に圧力P2、B室側に圧力P1が形成された状態から、圧力差を時間的に変化させること、即ち、B室への加圧ガスを脈動ポンプによって供給してB室のガス圧を時間変化させることにより、両室間の圧力差ΔP(t)=P1(t)−P2(t)を形成することによって、貫通孔59内に詰まったパーティクル等の異物27が揺動され、実線で示す異物27は仮想線で示す状態と破線で示す状態とを往復し、離脱され易くなり、最後はA室側へ除去される。
【0086】
また、貫通孔59内に詰まった異物27や貫通孔59内壁に付着した異物(貫通孔59の大きさに比較して小さな異物)が、上記したような両室間の圧力差ΔPにおいて、洗浄媒体である超臨界CO2の流れによるエネルギーのみで除去できない場合には、洗浄媒体である超臨界CO2に添加剤(洗浄剤)を添加し、ステンシルマスク67の表面と異物27との結合力(付着力)を弱めることにより、洗浄媒体の流れによって除去し、貫通孔59内から排除するようにしてもよい。
【0087】
更に、洗浄媒体である超臨界CO2に添加剤(洗浄剤)として、ステンシルマスク67の表面を微小にエッチングする化学物質(ステンシルマスクの材質がシリコンの場合、フッ素化合物。例えば、フッ酸やフッ化アンモニウムなどで、無機物に限らず有機物でもよい。)を添加し、ステンシルマスク67の表面を微小にエッチングし、例えば、貫通孔59内壁と異物27の付着部分を微小にエッチングして、貫通孔59の内壁表面と異物27との距離を離すことで、異物の付着力の主な作用力であるファンデルワールス力を低減し、貫通孔59の内壁表面から異物を除去してもよい。
【0088】
この場合、除去された異物(ステンシルマスク67の表面との相互作用が無視できる程度になった異物)は、そのままではブラウン運動などでステンシルマスク67の貫通孔59の内壁や表面に接近して、再びステンシルマスク67の貫通孔59の内壁や表面に再付着してしまうため、上記したような両室間の圧力差ΔPによる洗浄媒体超臨界CO2の流れを形成して、上記の如き異物が再付着する前に、ステンシルマスク67の貫通孔59から排出したり、ステンシルマスク67の表面から十分離れたところに移動させたり、系外に排出することで、洗浄効果を向上させることができる。
【0089】
以上、本実施の形態による洗浄装置及び洗浄方法を詳細に説明したが、図7(フロー図)により洗浄プロセスを総括的に説明する。
【0090】
図1に示した洗浄装置1を用いてステンシルマスク67の洗浄を開始する場合は、まず、ステンシルマスク67をチャンバー2に装填(S1)を行う。次に、バイパス3の弁3aを開いてA室とB室とを連通させると共に、排出口6の閉じ(S2)を行う。次に、供給口4からCO2が液化しない温度或いは臨界温度以上に加熱したCO2ガスの供給(S3)を行う。この時、ヒータ12を作動させてチャンバー2内をCO2の臨界温度以上に保つと共に、供給するCO2ガスは昇圧ポンプ5によりチャンバー2内が臨界圧力以上になるように供給加圧する。これにより、チャンバー2の両室(A室、B室)がバイパス3を介して等圧力の臨界CO2で満たされる。この圧力は圧力計7a、7bで確認する。
【0091】
次に、バイパス弁3aの閉じ(S4)を行い、昇圧ポンプ5によってB室側に更に超臨界CO2ガスを供給加圧し、B室側の圧力を高めて圧力差(ΔP=P1−P2)を形成(S5)する。この圧力差は圧力計7a、7bで確認する。これにより高圧力のB室から超臨界CO2ガスがステンシルマスク67の貫通孔59内を流れ、貫通孔59内の異物を押し流して貫通孔59内を洗浄する。この圧力差は第2ヒータ15でB室側の温度を高めることにより形成してもよい。
【0092】
次に、バイパス弁3aの開き(S6)、続いて排出口6の開き(S7)を行い、この際、チャンバー2内の温度をCO2の臨界温度に保つと共に、CO2が液相状態及び気液2相共存状態とならない温度条件を保ちながら、徐々に内部の圧力を下げる(S8)。しかる後、チャンバー2内が常温、常圧に戻ったところでステンシルマスク67を取り出し(S9)、洗浄作業は終了する。
【0093】
なお、上記した実施の形態1は後述する実施の形態3にも応用する。
【0094】
本実施の形態によれば、チャンバー2に加圧して供給する超臨界CO2によって、B室側の圧力をA室側の圧力より高めて、圧力差を形成するので、高圧力のB室側から低圧力のA室側へ移動しようとする超臨界CO2の運動エネルギーによって、ステンシルマスク67の貫通孔59を通過する超臨界CO2に流れが生じ、この超臨界CO2の運動エネルギーによってマスク表面は勿論のこと、貫通孔59内をも十二分かつ効果的に洗浄することができる。しかも、CO2ガスが超臨界状態であるため、気−液界面がなく、表面張力によりステンシルマスク67の貫通孔59を変形させたり、損傷させることがない。
【0095】
また、一般にガス洗浄や蒸気洗浄と称される方法が、異物そのものを化学的に溶解したり、蒸発させたりする方法であり、洗浄効果は組成に非常に大きく依存する。しかし、ステンシルマスク67に付着する異物27は不特定の異物であり、予め組成が分からず、異物個々に組成が異なるために、異物そのものを化学的に溶解したり蒸発させたりする方法は有効ではない。
【0096】
一方、本実施の形態ではステンシルマスク67の表面を微量エッチングする方法を併用しても、ステンシルマスク67の構成材料の組成は既知の物質であるため、エッチング薬品の選定は容易であり、貫通孔59を通過する超臨界CO2の流れを利用する物理的洗浄方法であるため、異物の種類にあまり影響されないので、非常に有効な方法である。
【0097】
実施の形態2
ガスや蒸気又は超臨界流体を用いてステンシルマスクを洗浄する場合、ステンシルマスク67によって分離された一方の空間(A室)に拡散物質を添加することで、ステンシルマスク67の一方の面側と他方の面側の間に濃度勾配を作り、ステンシルマスク67の貫通孔59を通って拡散物質が他方の面側に拡散する拡散流を作り出すことにより、ステンシルマスク67の貫通孔59の中に流れを形成し、洗浄効果を向上させることができる。本実施の形態はこの原理を用いた洗浄方法である。
【0098】
図8は、本発明の第2の洗浄方法及びその装置に基づく本実施の形態の洗浄装置を示す概略断面図であるが、上記した実施の形態1と同様な基本構成に対し、洗浄媒体の供給系及び排出系が増設されている。
【0099】
即ち、この洗浄装置1Aも、チャンバー2の内部側壁の全面にホルダー11が設けられ、チャンバー2の内部を仕切るようにステンシルマスク67がホルダー11に支持されて配され、チャンバー2の内部空間がA室とB室とに分離されている。そして、ステンシルマスク67と所定間隔を置いてA室側には整流板9b、B室側には整流板9a、パーティクルフィルター10の順に、いずれもホルダー11に支持され、更にチャンバー2を囲むようにヒータ12が設けられ、また、A室とB室とを連通するバイパス3とその弁3aが設けられ、A室、B室にそれぞれの圧力計7a、7bが設けられている。
【0100】
そして、上記した実施の形態1と異なる構成は、B室側のCO2供給口4aに合流するように拡散物質供給口8が設けられ、供給口4a側にはポンプ5a、拡散物質供給口8側にはポンプ5cが設けられ、バルブ18を切り替えることにより、供給4aからのCO2ガスに拡散物質を添加したり、又は拡散物質供給口8側から独自に拡散物質のみを供給可能になっている。
【0101】
更にA室側にも内部のCO2ガスの供給又は置換用として、供給口4bが独自のポンプ5bを有して設けられ、A室側のみにCO2ガスを供給したり、内部のCO2ガスを入れ換える機能が付されている。そしてA室、B室とも排出口6a、6bが設けられ、それぞれ独自に内在するCO2ガスを排出可能になっている。
【0102】
なお、ヒータ12は実施の形態1と同様に構成され(図2参照)、A室及びB室に供給したCO2ガスを臨界温度以上の等温に加熱する機能と、B室側のみを更に加熱する機能を有している。
【0103】
被洗浄物であるステンシルマスク67の洗浄に際しては、まず、ステンシルマスク67をチャンバー2の内部に装填する。ステンシルマスク67をホルダー11に取りつけることにより、チャンバー2がこのステンシルマスク67によってA室とB室とに分離される。この時、分離されたA室とB室はバイパス3を通る経路以外に流通がないようにすることが望ましい。
【0104】
この場合も、ステンシルマスク67をチャンバー2に入れる作業は常温常圧で行われるため、ステンシルマスク67をチャンバー2に入れた後に、チャンバー2内をCO2の臨界温度及び臨界圧力以上の温度にする。
【0105】
このため、例えば、バイパス弁3aを開放してバイパス3を流通させ、各排出口7a、7bを閉じて、A室とB室との圧力差がないようにした後、第1ヒータ114によってA室、B室共に室内をCO2の臨界温度以上の温度に加熱しておき、CO2が液化しない温度以上或いは臨界温度以上に加熱したCO2ガスを供給口4a及び供給口4bから供給して加圧し、更にA室、B室の温度及び圧力をCO2の臨界以上にすることで、チャンバー2内部を超臨界状態にする。この際、CO2を供給する前に、内部の空気などを排出してもよい。
【0106】
次に、B室内の圧力を保ったまま、超臨界CO2に溶解した時に超臨界CO2よりも分子量が大きく或いは密度が高く、超臨界CO2への溶解性のある物質(第1の拡散物質である、例えばエタノール)をバルブ18を開いて、拡散物質供給口8からポンプ5cを介してB室に添加する。或いは、超臨界CO2よりも密度が高く、超臨界CO2への溶解性のある同種の物質(拡散物質)を含んだ超臨界CO2を供給口4aからポンプ5aを介してB室に供給し、B室に既存の超臨界CO2を排出口6aから排出して置換する。
【0107】
これにより、ステンシルマスク67を境に、A室とB室とは同一圧力であるが、拡散物質のあるB室と拡散物質のないA室が形成される。
【0108】
しかし、A室とB室との間はステンシルマスク67の貫通孔59で連通しているため、B室の超臨界CO2中の拡散物質は貫通孔59を通ってA室に拡散していく。この時、拡散物質の拡散によりA室側への拡散流が発生するため、貫通孔59に流れが生じ、貫通孔59内部の洗浄効果が向上する。
【0109】
即ち、例えば、分子量の大きな拡散物質が、B室からステンシルマスク67の貫通孔59を通ってA室に拡散する場合、逆に、A室からも貫通孔59を通ってB室側に超臨界CO2が拡散することになる。しかしこの場合、分子量が異なるため、即ち分子量の大きな拡散物質によってB室側のガスの運動量(E=1/2mV2)は大きくなるので、ガスの運動エネルギーはB室からA室の方向に向って発生する。この運動量が貫通孔59内の異物に伝わることにより、貫通孔59内の異物がA室側に押し流される。しかも、超臨界CO2の拡散流であるため、ステンシルマスク67を変形させたり貫通孔59を損傷させることがない。
【0110】
しかし、拡散物質がA室側へ移動するに伴れ、A室の拡散物質の濃度が高くなると効果が減少するので、A室側を拡散物質を含まない超臨界CO2と置換し、B室と比較して拡散物質の濃度差(例えばエタノールの濃度差)が十分発生するようにした方がよい。A室側の置換は排出口6bを開き、供給口4bから置換用のCO2を供給して行う。
【0111】
または、同様に拡散によってB室側の拡散物質の濃度が低下するので、B室の拡散物質の濃度が低下しないように、B室側に拡散物質の添加又は拡散物質を含有した超臨界CO2で置換することが望ましい。
【0112】
本実施の形態では、超臨界CO2よりも密度が高く、超臨界CO2への溶解性のある物質(拡散物質)を含んだ超臨界CO2をB室に入れるようにしたが、超臨界CO2よりも分子量や密度が低く、超臨界CO2への溶解性のある物質(第2の拡散物質である、例えば水素やアルゴンなど)をできる限り高い濃度で含んだ超臨界CO2をA室に入れるようにしてもよい。
【0113】
この場合も、A室の拡散物質とB室の超臨界CO2は、貫通孔59を通して互いに両室の濃度が同一になるように拡散することになるが、A室から流れ込む拡散物質の分子量が相対的に小さいため、拡散物質の運動量はB室側からA室側に向かう方が大きくなる。この運動量によって貫通孔59に付着していたごみ等の異物は、A室内へ押し流されて除去される。
【0114】
洗浄処理が終了した後は、A室とB室との圧力差をなくし、バイパス弁3aを開放してバイパス3を流通させ、チャンバー2内部の圧力を低下させる。この時、CO2が臨界温度以上の温度或いは、CO2がガス状態になる温度以上に保つことで、CO2が液相状態及び気液2相共存状態を経ることなしに減圧されるので、CO2が液体化した場合に発生する表面張力によるステンシルマスク67の破壊を防止できる。その後、常温常圧に戻し、ステンシルマスク67をチャンバー2から取り出し、洗浄を終了する。
【0115】
上記したように、本実施の形態は、例えば超臨界CO2をA室とB室に等圧力に供給して加圧した後に、B室に拡散物質を添加してA室内の超臨界CO2との間に濃度勾配を形成することにより、B室側の超臨界CO2に拡散流を生じさせ、この拡散流がステンシルマスク67の貫通孔59内を通過し、A室側へ流れ込む際に、貫通孔59内の異物を除去して洗浄するものであるが、その異物除去のメカニズムの一例を図9(図5(a)の一部Eの拡大図)に示す。
【0116】
即ち、ステンシルマスク67のメンブレン上り上方(A室)の超臨界CO2中の拡散物質Aの濃度D2と、メンブレン51より下方(B室)の超臨界CO2中の拡散物質Aの濃度D1(CO2+拡散物質A(分子量が大))との間に、拡散物質Aの濃度差ΔD=D1−D2が形成されることにより、例えば貫通孔59内に詰まったごみ等の異物27は、B室側からの拡散物質の拡散流によって、実線で示す位置から矢印方向(即ち、A室側)へ仮想線で示すように押し流される。
【0117】
また、図10はA室側に超臨界CO2よりも分子量の小さい拡散物質Bを添加する場合のメカニズムの例である。即ち、A室の超臨界CO2中の拡散物質Bの濃度D2’(CO2+拡散物質B(分子量が小))と、B室の超臨界CO2中の拡散物質の濃度D1’との間に拡散物質AとBの濃度差ΔD’=D1’−D2’が形成されることにより、A室側からもB室側へ拡散物質Bが流れようとする現象が生じると共に、B室側からA室側へのCO2の流れが生じる。しかし、A室内の拡散物質BよりもB室内のCO2の分子量が大きいため、運動量はB室側からA室側へ向かう方が大きいので、例えば貫通孔59内に詰まったごみ等の異物27は、A室側へ押し流され、実線で示す位置から矢印方向へ仮想線で示すように移動する。
【0118】
以上、本実施の形態による洗浄装置及び洗浄方法を説明したが、図11(フロー図)により洗浄プロセスを総括的に説明する。
【0119】
図8に示した洗浄装置1Aを用いてステンシルマスク67の洗浄を開始する場合は、図8のS1〜S4の工程は実施の形態1と同様に行う。
【0120】
即ち、まずステンシルマスク67をチャンバー2へ装填(S1)を行う。次に、バイパス弁3aを開いてA室とB室とを連通させると共に、排出口6a、6bの閉じ(S2)を行う。次に供給口4a、4bからCO2が液化しない温度或いは臨界温度以上に加熱したCO2ガスの供給(S3)を行う。この時、第1ヒータ14を作動させてチャンバー2内をCO2の臨界温度以上に保つと共に、更にポンプ5a、5bにより臨界温度以上のCO2ガスを供給加圧する。これによりチャンバー2の内部が等圧力に超臨界CO2で満たされる。この圧力は圧力計7a、7bで確認する。
【0121】
次に、バイパス弁3aの閉じ(S4)を行い、B室内の圧力を保ったまま、超臨界CO2に溶解した時に超臨界CO2よりも分子量が大きく、或いは超臨界CO2に溶解性のある拡散物質を添加する。又は超臨界CO2よりも密度が高く、超臨界CO2に溶解性のある拡散物質を含有した超臨界CO2とB室内の超臨界CO2を置換(S10)する。拡散物質の添加は供給口8からポンプ5cを作動させて行う。
【0122】
これによりB室内に拡散物質の拡散流が生じ、超臨界CO2中の拡散物質がステンシルマスク67の貫通孔59を通ってA室側へ流入するため、貫通孔59内を洗浄する。
【0123】
しかし、この拡散流によって次第にB室内よりもA室内の拡散物質の濃度が高くなり、洗浄効果が低下するため、B室内の拡散物質の濃度が低下した場合(S11)は、拡散物質の濃度が高くなったA室の超臨界CO2を拡散物質を含まない超臨界CO2で置換する。またB室側も更に拡散物質を添加するか、又は拡散物質を含有した超臨界CO2で置換(S11)を行う。
【0124】
この場合、A室には超臨界CO2よりも分子量や密度が低く、超臨界CO2へ溶解性のある拡散物質を含有した超臨界CO2を供給するようにしてもよい。
【0125】
次に、バイパス弁3a開き(S6)、続いて排出口6a、6b開き(S7)を行い、この際、チャンバー2内の温度をCO2の臨界温度に保つと共に、CO2が液相状態及び気液2相共存状態とならない温度条件を保ちながら、徐々に内部の圧力を下げる(S8)。しかる後、チャンバー2内が常温常圧に戻ったところでステンシルマスクを取り出し(S9)、洗浄は終了する。
【0126】
なお、本実施の形態は後述する実施の形態にも応用できる。
【0127】
本実施の形態によれば、A室及びB室に超臨界CO2を等圧力に供給した後、B室側に拡散物質を添加して拡散物質の濃度差を形成するので、高い分子密度で拡散物質濃度の高いB室側から拡散物質濃度の低いA室側へ移動しようとする拡散物質の拡散流によって、ステンシルマスク67の貫通孔59を通過する流れが生じ、この拡散物質の運動エネルギーによって貫通孔59内をも十二分かつ効果的に洗浄することができ、洗浄されるべき異物の種類も広範囲となる。しかも、CO2ガスが超臨界状態であり、拡散物質もガスであるため表面張力により、ステンシルマスク67の貫通孔59を変形させたり、損傷させることがない。
【0128】
実施の形態3
本実施の形態は、本発明の第3の洗浄方法及びその装置に基づいて、上記した実施の形態1及び2を同時に行う洗浄方法である。本実施の形態用の洗浄装置等は図8に示したものと同様である。
【0129】
即ち、本実施の形態は、チャンバー2に導入する超臨界CO2をA室及びB室共に等圧力にした後に、B室側に更に超臨界CO2を供給して加圧するか、或いは第2ヒータ15によってB室側を更に加熱して、A室側の超臨界CO2の圧力よりもB室側の超臨界CO2の圧力を高めて、圧力差を形成して行う洗浄方法と、
超臨界CO2をA室及びB室を等圧力にした後に、B室側の超臨界CO2に対して超臨界CO2よりも分子量又は密度の高い拡散物質を添加するか、或いはA室側に分子量又は密度の低い拡散物質を添加して、B室とA室の超臨界CO2中の拡散物質の濃度差を作って行う洗浄方法と
を併用するものである。
【0130】
従って、例えば、図8の洗浄装置1Aを用いて導入した超臨界CO2の圧力差を形成する場合は、ステンシルマスク67をホルダ11に装着後、バイパス弁3aを開き、A室及びB室の排出口6a、6bを閉じ、供給口4a、4bから(一方の供給口からでもよい)臨界温度以上に加熱したCO2ガスを供給し、ヒータ12によりチャンバ2内をCO2の臨界温度以上に保ち、更にCO2ガスを供給加圧してA室及びB室を等圧力の超臨界CO2で満たした後に、バイパス弁3aを閉じ、B室側のみに供給口4aから超臨界CO2を加圧して供給し、B室側の圧力を高めて圧力差を形成する。これにより、高圧力のB室側からA室側へステンシルマスク67の貫通孔59を通る超臨界CO2の流れが生じ、この運動エネルギーによって貫通孔59内が洗浄される。
【0131】
これと同時に、A室及びB室を超臨界CO2で満たしてバイパス弁3aを閉じた後に、B室内の圧力を保ったままで、B室側に拡散物質の添加を行うことにより、上記の圧力差による超臨界CO2の運動エネルギーと拡散物質の拡散流による運動エネルギーとが相乗して、貫通孔59内の洗浄効果は一層向上する。なお、拡散物質の再添加や置換処理等は状況に応じて、実施の形態1及び実施の形態2に基づいて行う。その他、実施の形態1及び実施の形態2で述べた作用効果は、本実施の形態においても同様に得られる。
【0132】
実施の形態4
本実施の形態は、本発明の第4の洗浄方法及びその装置に基づくものであり、ステンシルマスクではなく貫通孔を有する洗浄対象物一般に対し、上記した実施の形態1〜実施の形態3による洗浄の少なくとも一つを行うものである。
【0133】
図12は、本実施の形態による洗浄対象物を示す概略断面図であるが、基板等30に形成された貫通孔32内の異物を洗浄するものである(貫通孔32の断面形状は図示のようにU型に限らず、円弧又はうず巻き型及びその他の形状であってもよい)。
【0134】
図12においては、貫通孔32の一方の開口部32a及び他方の開口部32bがそれぞれチャンバ壁31によって囲まれ、密閉された空間のA室とB室の中に存在しており、A室、B室には洗浄媒体の供給手段、加圧手段、排出手段等が記述した実施の形態と同様に設けられる(図示省略)。そして、実施の形態1における両室間の圧力差、実施の形態2における両室間の拡散物質の濃度差、実施の形態3における両室間の圧力差及び拡散物質の濃度差のいずれかを適用してよい。
【0135】
但し、本実施の形態における圧力差による洗浄では、気相状態の洗浄媒体としては超臨界流体を用い、A室とB室とに圧力差を形成するが、この超臨界流体の圧力差により貫通孔32を洗浄することによって、実施の形態1における超臨界CO2を用いた洗浄と同様に、超臨界流体の運動エネルギーによって貫通孔32内の異物等も十二分かつ効果的に洗浄することができる。
【0136】
また、拡散物質濃度の差による洗浄においては、例えば超臨界流体を用い、B室側に拡散物質を添加するか、或いは拡散物質を含有する超臨界流体の供給等を実施の形態2と同様に行い、拡散物質の濃度差を形成することにより、実施の形態2と同様に拡散物質の拡散流の運動エネルギーによって貫通孔32内の異物等も十二分かつ効果的に洗浄することができる。
【0137】
また、圧力差と拡散物質の濃度の差とを併用する洗浄においては、例えば超臨界流体を用い、実施の形態3と同様に、B室側の圧力をA室側よりも高くすると共に、B室側に拡散物質を添加する等を同時に行うことにより、実施の形態3と同様に、超臨界流体の圧力差による運動エネルギーと拡散物質の拡散流とが相乗して運動エネルギーが向上し、貫通孔32内の異物等を一層効果的に洗浄することができる。
【0138】
上記した各実施の形態は、本発明の技術的思想に基づいて変形することができる。
【0139】
例えば、実施の形態1では、ステンシルマスク67を水平に設置して、チャンバー2を上下に分断するように設置したが、90度回転させたような設置方法などでもよく、実施の形態に限定されるものではない。つまり、B室側をA室側よりも高い圧力になるようにして、超臨界CO2が下方から上方に流れるようにしたが、この逆でもよく、また90度回転させて左右どちらから流れるようにしてもよい。但し、フィルター10はステンシルマスク67の上流側に設置することが望ましい。
【0140】
またA室とB室とに圧力差を発生させる方法として、A、B両室のガス圧を同一とした状態で、図2に示したヒータ15をオンし、B室側の温度をA室よりも上昇させることにより、間接的に圧力を上昇させる方法を用いてもよい。この場合、熱対流等が発生するので、これを防止するには、図1に示したチャンバーの上下を反転させ、上部に位置するB室の温度を上昇させればよい。なお、上記のヒータ14、15に限らず、熱水等の他の熱源を用いてもよい。
【0141】
また、上述の実施の形態では、チャンバーをヒータで加熱したが、チャンバを十分に断熱性の高い材質で形成すれば、チャンバ内に臨界点以上に加熱された超臨界流体を導入するだけでも、理論的にはチャンバ内を臨界点以上に保持することができる。実際には、上述したようにヒータによってチャンバを加熱することが望ましい。
【0142】
また、実施の形態1では、A室とB室とに圧力差を時間変化させていないが、ステンシルマスクが破壊しない圧力範囲内で、圧力を時間的に変動させることで、付着汚染物を揺動し、除去効果を高めるとき、変動させる圧力として、A室側がB室側よりも高い圧力になるようにして、流れを一時的に反転させてもよい。
【0143】
また、実施の形態1〜4では、超臨界CO2を用いたが、その他の超臨界流体や、超臨界状態でないガス、蒸気を用いてもよい。この場合には、超臨界流体は臨界温度、臨界圧力以上とし、ガスや蒸気の場合には、液化しない状態で供給するのがよい。
【0144】
また、上述した洗浄装置の構造や形状及び各部材の配置も適宜であってよく、上記した各部材のほかに、チャンバー2の内部や供給機構の温度を調整する温度調整機構、圧力調整機構、使用済みの超臨界CO2のリサイクル機構などを設けてもよい。
【0145】
なお、本発明は、ステンシルマスクはLEEPL用に限らず、EPL用、IPL用のステンシルマスク、その他の露光マスクや、貫通孔のある被洗浄物一般にも適用可能である。
【0146】
【発明の作用効果】
上述した如く、本発明によれば、高圧力側から低圧力側へ流動する洗浄媒体の運動エネルギー、又は/及び、拡散物質濃度の高い側から拡散物質濃度の低い側へ流動する拡散流によって、露光マスクのビーム貫通孔内をも十二分かつ効果的に洗浄することができ、いかなる種類の異物も洗浄することができ、しかも洗浄媒体が気相状態であるため、表面張力が生じず、露光マスクのビーム貫通孔を変形及び損傷させることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1による洗浄装置を示す概略断面図である。
【図2】同、洗浄装置に設けるヒータを示し、(a)は概略構成図、(b)は回路図である。
【図3】同、洗浄装置に用いる洗浄媒体の相変化を示す図である。
【図4】同、洗浄装置に用いる洗浄媒体の特性を示す図である。
【図5】同、洗浄のメカニズムを示す図である。
【図6】同、洗浄のメカニズムを示す図である。
【図7】同、洗浄方法のフロー図である。
【図8】同、実施の形態2による洗浄装置を示す概略断面図である。
【図9】同、洗浄のメカニズムを示す図である。
【図10】同、洗浄のメカニズムを示す図である。
【図11】同、洗浄方法のフロー図である。
【図12】同、実施の形態4による洗浄対象物を示す概略断面図である。
【図13】ステンシルマスクを示し、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X’断面図である。
【図14】ステンシルマスクに電子ビームを照射してパターン転写する状態を示し、(a)は概略断面図、(b)は転写面を示す平面図である。
【図15】ステンシルマスクの作製プロセスを示す概略断面図である。
【図16】ステンシルマスクの作製プロセスを示す概略断面図である。
【図17】ステンシルマスクの貫通孔に異物等が存在する状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1、1A…洗浄装置、2…チャンバー、3…バイパス、4…供給口、
5、5a、5b、5c…ポンプ、6、6a、6b…排出口、
7a、7b…圧力計、8…拡散物質供給口、9a、9b…整流板、
10…パーティクルフィルター、11…ホルダー、12…ヒータ、
14…第1ヒータ、15…第2ヒータ、27…パーティクル、30…基板、
32…貫通孔、51…メンブレン(薄膜)、59…パターン開口部(貫通孔)、
67…ステンシルマスク、Pc…臨界圧力、Tc…臨界温度、C…臨界点、
D…超臨界領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面側と他方の面側との間にビーム貫通孔を有する露光マスクの洗浄方法であって、
前記一方の面側と前記他方の面側とに気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体
を存在させる工程と、
前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に圧力差を形成する工程

を有する、洗浄方法。
【請求項2】
前記露光マスクの前記一方の面側と前記他方の面側とに前記洗浄媒体を等圧力に配した状態で、前記一方の面側に前記洗浄媒体を加圧して供給するか、或いは/並びに、前記一方の面側を前記他方の面側よりも昇温することにより、前記圧力差を形成する、請求項1に記載した洗浄方法。
【請求項3】
チャンバー内を仕切るように前記露光マスクを配して第1空間と第2空間を形成し、前記第1空間と前記第2空間とを選択的に連通するバイパスを設けた状態で、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間とに存在する前記洗浄媒体を等圧力にした後、前記バイパスを閉じ、更に前記第1空間に前記洗浄媒体を加圧して供給するか或いは、前記第1空間を昇温して前記圧力差を形成する、請求項2に記載した洗浄方法。
【請求項4】
前記チャンバーの洗浄媒体供給側から排出側の方向において、前記第1空間内のフィルタ及び整流板、前記露光マスク、前記第2空間内の整流板を順次配し、前記第1空間側及び前記第2空間側に、前記洗浄媒体を供給又は排出するための供給口及び排出口をそれぞれ設け、前記洗浄媒体を加圧して供給する加圧供給手段又は昇温する昇温手段、及び前記洗浄媒体の圧力を測定するための圧力測定手段を設ける、請求項3に記載した洗浄方法。
【請求項5】
前記加圧供給手段として昇圧ポンプ、前記昇温手段として加熱ヒータを前記チャンバに設ける、請求項4に記載した洗浄方法。
【請求項6】
前記圧力差を時間的に変動させる、請求項1に記載した洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄媒体として、超臨界流体、ガス又は蒸気、又はこれらを溶媒(或いは希釈物質)として洗浄剤を含有させたものを用いる、請求項1に記載した洗浄方法。
【請求項8】
前記第1空間及び前記第2空間に超臨界流体を供給し、この超臨界流体を超臨界状態の圧力及び温度に保持し、前記第1空間と前記第2空間とで前記超臨界流体を等圧力とした後に、前記第1空間と前記第2空間との間に前記圧力差を形成する、請求項3に記載した洗浄方法。
【請求項9】
洗浄処理後は、前記第1空間及び前記第2空間に存在する前記超臨界流体を臨界温度以上又はガス状態とする温度以上に保ちつつ、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間との圧力差を解除し、しかる後に前記第1空間及び前記第2空間内を前記超臨界流体が気相と液相との2相共存状態とならない条件に保ちつつ、常温、常圧とする、請求項1に記載した洗浄方法。
【請求項10】
電子ビーム露光用のステンシルマスクを洗浄する、請求項1に記載した洗浄方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載した洗浄方法を実施するように構成された洗浄装置。
【請求項12】
一方の面側と他方の面側との間にビーム貫通孔を有する露光マスクの洗浄方法であって、
前記一方の面側と前記他方の面側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは
超臨界状態の洗浄媒体を存在させる工程と、
前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に前記拡散物質の濃度差
を形成する工程と
を有する、洗浄方法。
【請求項13】
前記露光マスクの前記一方の面側と前記他方の面側とに前記洗浄媒体を等圧力に配した状態で、前記一方の面側の前記洗浄媒体に拡散係数の大きい気体状の第1の拡散物質を添加するか、或いは/並びに、前記他方の面側の前記洗浄媒体に拡散係数の小さい気体状の第2の拡散物質を添加する、請求項12に記載した洗浄方法。
【請求項14】
チャンバー内を仕切るように前記露光マスクを配して第1空間と第2空間を形成し、前記第1空間と前記第2空間とを選択的に連通するバイパスを設けた状態で、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間とに存在する前記洗浄媒体を等圧力にした後、前記バイパスを閉じ、更に前記第1空間の前記洗浄媒体に前記第1の拡散物質を添加するか或いは、前記第2空間の前記洗浄媒体に前記第2の拡散物質を添加する、請求項13に記載した洗浄方法。
【請求項15】
前記チャンバーの洗浄媒体供給側から排出側の方向において、前記第1空間内のフィルタ及び整流板、前記露光マスク、前記第2空間内の整流板を順次配し、前記第1空間側及び前記第2空間側に、前記洗浄媒体を供給又は排出するための供給口及び排出口をそれぞれ設け、前記洗浄媒体に前記第1の拡散物質又は第2の拡散物質を添加する添加供給手段、及び前記洗浄媒体の圧力を測定するための圧力測定手段を設ける、請求項14に記載した洗浄方法。
【請求項16】
前記第1の拡散物質として前記洗浄媒体よりも分子量又は密度が大きくて前記洗浄媒体に溶解性のある物質を用い、前記第2の拡散物質として前記洗浄媒体よりも分子量又は密度が小さくて前記洗浄媒体に溶解性のある物質を用いる、請求項15に記載した洗浄方法。
【請求項17】
前記洗浄媒体として、超臨界流体、ガス又は蒸気、又はこれらを溶媒(或いは希釈物質)として洗浄剤を含有させたものを用いる、請求項12に記載した洗浄方法。
【請求項18】
前記第1空間及び前記第2空間に超臨界流体を供給し、この超臨界流体を超臨界状態の圧力及び温度に保持し、前記第1空間と前記第2空間とで前記超臨界流体を等圧力とした後に、前記第1空間と前記第2空間との間で前記超臨界流体に前記拡散物質の濃度差を形成する、請求項14に記載した洗浄方法。
【請求項19】
前記第1空間に対して、前記第1の拡散物質の添加又は前記第1の拡散物質を含有した超臨界流体との置換を行い、或いは/並びに前記第2空間に対して、前記第2の拡散物質の添加又は前記第2の拡散物質を含有した超臨界流体との置換を行う、請求項14に記載した洗浄方法。
【請求項20】
洗浄処理後は、前記第1空間及び前記第2空間に存在する前記超臨界流体を臨界温度以上又はガス状態とする温度以上に保ちつつ、前記バイパスを開放して前記第1空間と前記第2空間との圧力差を解除し、しかる後に前記第1空間及び前記第2空間内を前記超臨界流体が液相状態及び気液2相共存状態とならない条件に保ちつつ、常温、常圧とする、請求項18に記載した洗浄方法。
【請求項21】
電子ビーム露光用のステンシルマスクを洗浄する、請求項12に記載した洗浄方法。
【請求項22】
請求項12〜21のいずれか1項に記載した洗浄方法を実施するように構成された洗浄装置。
【請求項23】
一方の面側と他方の面側との間にビーム貫通孔を有する露光マスクの洗浄方法であって、
前記一方の面側と前記他方の面側とに気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させ、前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に圧力差を形成する工程と、
前記一方の面側と前記他方の面側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させ、前記一方の面側と前記他方の面側とで前記洗浄媒体に前記拡散物質の濃度差を形成する工程と
を併用する、洗浄方法。
【請求項24】
請求項2〜10、請求項13〜21のいずれか1項に記載した洗浄方法を適用する、請求項23に記載した洗浄方法。
【請求項25】
請求項23又は24のいずれか1項に記載した洗浄方法を実施するように構成された、洗浄装置。
【請求項26】
貫通孔を有する洗浄対象物の洗浄方法であって、
前記貫通孔の一方の側と他方の側とに超臨界流体を存在させ、前記一方の側と前記他方の側とで前記超臨界流体に圧力差を形成することと、
前記一方の側と前記他方の側とに、拡散物質を添加した気相状態或いは超臨界状態の洗浄媒体を存在させ、前記一方の側と前記他方の側とで前記洗浄媒体に前記拡散物質の濃度差を形成することと
の少なくとも一つを行う、洗浄方法。
【請求項27】
請求項2〜10、請求項12〜21のいずれか1項に記載した洗浄方法を適用する、請求項26に記載した洗浄方法。
【請求項28】
請求項26又は27のいずれか1項に記載した洗浄方法を実施するように構成された、洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2004−202351(P2004−202351A)
【公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−373972(P2002−373972)
【出願日】平成14年12月25日(2002.12.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】