説明

流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、及びディスク駆動装置

【課題】外的要因等による強い衝撃等が加わっても、潤滑オイルが外部に漏れ出しにくい流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、及びディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【解決手段】中心軸Lを含む断面における環状部材35の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面44aとの幅をA、中心軸Lを含む断面におけるシール部材44の下面44bの最も径方向内側に位置する部位と回転部材41の端面41bとの幅をB、中心軸Lを含む断面における第3微小間隙Rの幅をCとし、幅Aを幅Bよりも小さく、幅Aを幅Cよりも大きくなるように、各幅の大小関係を設定する。幅Aをできるだけ狭く設定しておくことにより、強い衝撃等が加わっても変動幅が小さいため、潤滑オイルが外部に出にくい構成にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置、当該流体動圧軸受装置を備えるスピンドルモータ、及び当該スピンドルモータを備えるディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータやカーナビゲーション等に使用される磁気ディスクや光ディスク等の記録ディスク駆動装置では、小型化、薄型化、および軽量化に加えて、高密度化への要求が強いことから、ディスク回転に使用されるスピンドルモータの回転数の高速化や回転動作の高精度化が要請されている。このような要請に応えるために、スピンドルモータ用の軸受装置として、従来のボールベアリングに代わって、シャフトとスリーブとの間に潤滑オイルを充填させた流体動圧軸受装置が多く使用されている。
【0003】
従来の流体動圧軸受装置は、シャフト又はスリーブを径方向及び軸方向に支持するコニカル動圧軸受部を有している。そのため、シャフトとスリーブとが相対回転すると、コニカル動圧軸受部の動圧溝列によるポンピング作用により、微小間隙に充填された潤滑オイルに流体動圧を誘起して、シャフト又はスリーブを径方向及び軸方向に支持する。
【0004】
このような従来の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータについては、例えば、特許文献1又は特許文献2に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−327528号公報
【特許文献2】特開2004−350494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の動圧軸受装置では、環状部材外周面とそれに対向するシール部材内周面(シール部材を配置しない場合はハブ等の回転部材の内周面)との間に形成されたテーパシール部において、外的要因等により強い衝撃が流体動圧軸受装置に加わったときに、中心軸を含む断面における環状部材の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面(若しくは回転部材の内周面)との微小間隙の幅が一時的にゼロになってしまい、その箇所において環状部材とシール部材(若しくは回転部材)とが当接し、テーパシール部の保持されていた潤滑オイルが一時的にその箇所より上側(外側)に広がってしまう等の問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題を解決すべく、外的要因等による強い衝撃等が加わっても、潤滑オイルが外部に漏れ出しにくい流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、及びディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、流体動圧軸受装置であって、流体動圧軸受装置の中心軸として配置されるシャフトと、前記シャフトの外周面から径方向外側に突出し、前記シャフトと固定又は一体成形される環状部材と、を有する固定部と、前記シャフトの外周面と微小間隙を介して対向する内周面を有し、前記シャフト及び前記環状部材に対して相対的に回転自在であり、軸方向の少なくとも一方に端面を有し、前記端面からその内部を軸方向に貫通する1つ又は複数の連通孔を有する回転部材と、その径方向内周面と前記環状部材の径方向外周面との間の第1微小間隙に、前記回転部材側に向けて漸次に収束するテーパシール部を形成し、前記回転部材の軸方向の端面に第2微小間隙を介して固定されるシール部材と、を有する回転部と、前記回転部材の前記端面の径方向内側に連続する回転部材軸受面と、前記回転部材軸受面に対向する前記環状部材の環状部材軸受面との第3微小間隙に形成される動圧軸受部と、互いに連通する前記第1、第2、第3微小間隙を含む空間中に作動流体として充填される潤滑オイルと、を備え、前記中心軸を含む断面における前記環状部材の最も径方向外側に位置する部位と前記シール部材内周面との幅をA、前記中心軸を含む断面における前記シール部材の最も径方向内側に位置する部位と前記回転部材の軸方向の端面との幅をB、前記中心軸を含む断面における前記第3微小間隙の幅をC、としたとき、前記幅Aは前記幅Bよりも小さく、前記幅Aは前記幅Cよりも大きいことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の流体動圧軸受装置において、前記シール部材の前記回転部材側の端面に、径方向において段差部を形成し、前記段差部を介して径方向外側の第1端面と径方向内側の第2端面とを有し、前記第1端面を前記回転部材の前記端面に固定させることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の流体動圧軸受装置において、前記シール部材の前記回転部材側の端面に、少なくとも径方向内側を開口した径方向溝が1つ又は複数形成し、前記回転部材の1つ又は複数の前記連通孔とそれぞれ連通していることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、流体動圧軸受装置であって、流体動圧軸受装置の中心軸として配置されるシャフトと、前記シャフトの外周面から径方向外側に突出し、前記シャフトと固定又は一体成形される環状部材と、を有する固定部と、その第1内周面と前記シャフトの外周面とが微小間隙を介して対向し、その第2内周面と前記環状部材の外周面との間の第1微小間隙に、軸方向外側に向けて漸次に拡大するテーパシール部を形成し、その軸方向の少なくとも一方に有した端面と前記環状部材の軸方向の端面とが第2微小間隙を介して対向し、前記シャフト及び前記環状部材に対して相対的に回転自在であり、前記端面からその内部を軸方向に貫通する1つ又は複数の連通孔を有する回転部材と、を有する回転部と、前記回転部材の前記端面の径方向内側に連続する回転部材軸受面と、前記環状部材の前記端面の径方向内側に連続し、前記回転部材軸受面に対向した環状部材軸受面との第3微小間隙に形成される動圧軸受部と、互いに連通する前記第1、第2、第3微小間隙を含む空間中に作動流体として充填される潤滑オイルと、を備え、前記中心軸を含む断面における前記環状部材の最も径方向外側に位置する部位と前記回転部材の前記第2内周面との幅をA、前記中心軸を含む断面における前記第2微小間隙の幅をB、前記中心軸を含む断面における前記第3微小間隙の幅をC、としたとき、前記幅Aは前記幅Bよりも小さく、前記幅Aは前記幅Cよりも大きいことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の流体動圧軸受装置において、前記環状部材の前記回転部材側の端面又は前記回転部材の前記環状部材側の端面に、径方向において段差部を形成し、前記段差部を介して径方向外側の第1端面と径方向内側の第2端面とを有し、前記第2端面が前記環状部材軸受面又は前記回転部材軸受面であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、前記回転部材の前記端面より径方向内側の部位は、前記中心軸を含む断面において、前記回転部材の前記端面の内縁部分から前記シャフトの軸方向中央に向かって傾斜した略台形状をなしており、その部位の傾斜面に位置する前記回転部材軸受面と、それに対向する前記環状部材軸受面との第3微小間隙にコニカル動圧軸受部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、前記環状部材軸受面と、それに対向する前記回転部材軸受面とが、前記シャフトの外周面に対して垂直になるように形成及び配置され、それらの間の第3微小間隙にスラスト動圧軸受部が形成され、前記シャフトの径方向外側に位置するシャフト軸受面と、それに対向する前記回転部材軸受面との微小間隙にラジアル動圧軸受部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、前記中心軸を含む断面における前記連通孔の幅をD、としたとき、前記幅Bは前記幅Dより小さいことを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、前記回転部材は、前記シャフトの外周面に微小間隙を介して嵌挿されるスリーブと、前記スリーブの外周面に固定又は一体成形されるハブと、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の流体動圧軸受装置において、前記スリーブの外周面又は前記ハブの内周面に、軸方向一方側端部から軸方向他方側端部にわたって軸方向溝を1つ又は複数形成し、前記軸方向溝と、それに対向する前記ハブの内周面又は前記スリーブの外周面とで前記連通孔を形成することを特徴とする。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータであって、前記流体動圧軸受装置の前記固定部と、磁束発生部と、を有するベース部材と、前記流体動圧軸受装置の前記回転部と、前記磁束発生部に対向して前記回転部に取り付けられたロータマグネットとを有するロータユニットと、を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項12に係る発明は、ディスクを回転させるディスク駆動装置であって、装置ハウジングと、前記装置ハウジングの内部に固定された請求項11記載のスピンドルモータと、前記ディスクに対して情報の読み出しおよび/または書き込みを行うアクセス部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1及びその従属項に記載の発明によれば、前記中心軸を含む断面における前記環状部材の最も径方向外側に位置する部位と前記シール部材内周面との幅をA、前記中心軸を含む断面における前記シール部材の最も径方向内側に位置する部位と前記回転部材の軸方向の端面との幅をB、前記中心軸を含む断面における前記第3微小間隙の幅をC、としたとき、前記幅Aは前記幅Bよりも小さく、前記幅Aは前記幅Cよりも大きい。このような構成にしたことにより、従来の流体動圧軸受装置では、環状部材外周面とシール部材内周面との間に形成されたテーパシール部において、外的要因等により強い衝撃が流体動圧軸受装置に加わったときに、中心軸を含む断面における環状部材の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面との微小間隙の幅が一時的にゼロになってしまい、その箇所において環状部材とシール部材とが当接し、テーパシール部の保持されていた潤滑オイルが一時的にその箇所より外側に広がってしまう等の問題があった。そこで本発明は、幅Aをできるだけ狭く設定しておくことにより、強い衝撃等が加わっても変動幅が小さいため、潤滑オイルが外部に出にくい構成にすることができる。なお、ここでいう「幅Aをできるだけ狭く」の「できるだけ狭い幅」というのは、テーパシール部がオイル溜まりとしての機能を有するのに十分な幅であり、かつ、幅Aの微小間隙を通過して気泡が排出されるのに十分な幅であることを指す。
【0021】
また、第2微小間隙を流れてきた潤滑オイルは、分岐路で第1微小間隙と第3微小間隙のいずれかに流れることになるが、幅Cの方が幅Aより狭いので、毛細管力により潤滑オイルは第3微小間隙へ流れる。一方、潤滑オイルに混在して第2微小間隙を流れてきた気泡は、同じく分岐路で第1微小間隙と第3微小間隙のいずれかに流れることになるが、幅Aの方が幅Cより広いので、毛細管力により気泡は第1微小間隙へ流れる。以上より、潤滑オイルは動圧軸受部が構成されている第3微小間隙へ、気泡は排出口であるテーパシール部を有した第1微小間隙へそれぞれ流すことができる。
【0022】
また、テーパシール部を構成することにより、潤滑オイルが漏洩しようとしても、回転時に、このテーパシール部により回転部材側に潤滑オイルを引きつける作用を発揮する。このため、モータ外部に潤滑オイルを漏洩させることを防ぐことができる。また、遠心力や温度上昇等により潤滑オイルの体積が増加したり、あるいはその他の何らかの作用により、テーパシール部のメニスカスが軸方向外側に移動することがあるが、潤滑オイルの表面張力と外気圧とが均衡して、潤滑オイルのモータ外部への流出が防止される。したがって、信頼性の高いモータを提供することができる。
【0023】
特に、請求項2に記載の発明によれば、前記シール部材の前記回転部材側の端面に、径方向において段差部を形成し、前記段差部を介して径方向外側の第1端面と径方向内側の第2端面とを有し、前記第1端面を前記回転部材の前記端面に固定させる。このような構成にしたことにより、回転部材の端面と、シール部材の第2端面との間に空間ができる。ここを第2微小間隙とすることができ、連通孔内の空間を、第2微小間隙を介して、第1微小間隙及び第3微小間隙とを互いに連通させることができる。
【0024】
特に、請求項3に記載の発明によれば、前記シール部材の前記回転部材側の端面に、少なくとも径方向内側を開口した径方向溝が1つ又は複数形成し、前記回転部材の1つ又は複数の前記連通孔とそれぞれ連通している。このため、シール部材の径方向溝内の空間を第2微小間隙とすることができ、連通孔内の空間を、第2微小間隙を介して、第1微小間隙及び第3微小間隙とを互いに連通させることができる。
【0025】
また、請求項4及びその従属項に記載の発明によれば、前記中心軸を含む断面における前記環状部材の最も径方向外側に位置する部位と前記回転部材の前記第2内周面との幅をA、前記中心軸を含む断面における前記第2微小間隙の幅をB、前記中心軸を含む断面における前記第3微小間隙の幅をC、としたとき、前記幅Aは前記幅Bよりも小さく、前記幅Aは前記幅Cよりも大きい。このような構成にしたことにより、従来の流体動圧軸受装置では、環状部材外周面と回転部材内周面との間に形成されたテーパシール部において、外的要因等により強い衝撃が流体動圧軸受装置に加わったときに、中心軸を含む断面における環状部材の最も径方向外側に位置する部位と回転部材の第2内周面との微小間隙の幅が一時的にゼロになってしまい、その箇所において環状部材と回転部材の第2内周面とが当接し、テーパシール部の保持されていた潤滑オイルが一時的にその箇所より外側に広がってしまう等の問題があった。そこで本発明は、幅Aをできるだけ狭く設定しておくことにより、強い衝撃等が加わっても変動幅が小さいため、潤滑オイルが外部に出にくい構成にすることができる。なお、ここでいう「幅Aをできるだけ狭く」の「できるだけ狭い幅」というのは、テーパシール部がオイル溜まりとしての機能を有するのに十分な幅であり、かつ、幅Aの微小間隙を通過して気泡が排出されるのに十分な幅であることを指す。
【0026】
また、第2微小間隙を流れてきた潤滑オイルは、分岐路で第1微小間隙と第3微小間隙のいずれかに流れることになるが、幅Cの方が幅Aより狭いので、毛細管力により潤滑オイルは第3微小間隙へ流れる。一方、潤滑オイルに混在して第2微小間隙を流れてきた気泡は、同じく分岐路で第1微小間隙と第3微小間隙のいずれかに流れることになるが、幅Aの方が幅Cより広いので、毛細管力により気泡は第1微小間隙へ流れる。以上より、潤滑オイルは動圧軸受部が構成されている第3微小間隙へ、気泡は排出口であるテーパシール部を有した第1微小間隙へそれぞれ流すことができる。
【0027】
また、テーパシール部を構成することにより、潤滑オイルが漏洩しようとしても、回転時に、このテーパシール部により回転部材側に潤滑オイルを引きつける作用を発揮する。このため、モータ外部に潤滑オイルを漏洩させることを防ぐことができる。また、遠心力や温度上昇等により潤滑オイルの体積が増加したり、あるいはその他の何らかの作用により、テーパシール部のメニスカスが軸方向外側に移動することがあるが、潤滑オイルの表面張力と外気圧とが均衡して、潤滑オイルのモータ外部への流出が防止される。したがって、信頼性の高いモータを提供することができる。
【0028】
特に、請求項5に記載の発明によれば、前記環状部材の前記回転部材側の端面又は前記回転部材の前記環状部材側の端面に、径方向において段差部を形成し、前記段差部を介して径方向外側の第1端面と径方向内側の第2端面とを有し、前記第2端面が前記環状部材軸受面又は前記回転部材軸受面である。このような構成にしたことにより、回転部材又は環状部材の軸方向の端面と、環状部材又は回転部材の第1端面との間に空間ができる。ここを第2微小間隙とすることができ、連通孔内の空間を、第1微小間隙を介して、第1微小間隙及び第3微小間隙とを互いに連通させることができる。
【0029】
特に、請求項6に記載の発明によれば、前記回転部材の前記端面より径方向内側の部位は、前記中心軸を含む断面において、前記回転部材の前記端面の内縁部分から前記シャフトの軸方向中央に向かって傾斜した略台形状をなしており、その部位の傾斜面に位置する前記回転部材軸受面と、それに対向する前記環状部材軸受面との第3微小間隙にコニカル動圧軸受部が形成されている。このため、回転部材及び環状部材の両軸受面の少なくとも一方には、適宜の形状のコニカル動圧溝列が形成されていて、回転部材を環状部材に対して相対回転させた時に、コニカル動圧溝列のポンピング作用により、微小間隙に充填された潤滑オイルに流体動圧を誘起して、その潤滑オイルの流体動圧を利用して、回転部材と環状部材とを径方向及び軸方向の双方に相対的に浮上させ、それら両部材同士を非接触で回転支持させることができる。
【0030】
特に、請求項7に記載の発明によれば、前記環状部材軸受面と、それに対向する前記回転部材軸受面とが、前記シャフトの外周面に対して垂直になるように形成及び配置され、それらの間の第3微小間隙にスラスト動圧軸受部が形成され、前記シャフトの径方向外側に位置するシャフト軸受面と、それに対向する前記回転部材軸受面との微小間隙にラジアル動圧軸受部が形成されている。このため、回転部材を環状部材に対して相対回転させた時に、ラジアル動圧溝列又はスラスト動圧溝列のポンピング作用により、微小間隙に充填された潤滑オイルに流体動圧を誘起して、その潤滑オイルの流体動圧を利用して、回転部材と環状部材とを径方向及び軸方向の双方に相対的に浮上させ、それら両部材同士を非接触で回転支持させることができる。
【0031】
特に、請求項8に記載の発明によれば、前記中心軸を含む断面における前記連通孔の幅をD、としたとき、前記幅Bは前記幅Dより小さい。このため、第1、第2、第3微小間隙と互いに連通する、幅Dの連通孔を形成したことにより、外的要因等により強い衝撃が流体動圧軸受装置に加わって、第3微小間隙の幅Cが一時的に狭まろうとしたとき、第3微小間隙に介在していた潤滑オイルは、テーパシール部の界面側に流れるのではなく、第2微小間隙を介して連通孔内側へと一時的に流れることができる。そのため、外部衝撃時のテーパシール部から外部への潤滑オイル漏れを防止することができる。また、第2微小間隙の幅Bを連通孔の幅Dより小さくしたことにより、潤滑オイルは毛細管力が小さい(間隙の幅が広い)領域から大きい(間隙の幅が狭い)領域へ流れようとするので、外部衝撃等がない通常時は、連通孔内の空間を流れてきた潤滑オイルは、第2微小間隙へ流入しやすくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、説明の便宜上、中心軸Lに沿ってロータ部4側を「上」とし、ステータ部3側を「下」とする。しかしながら、これにより本発明に係る流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、及びディスク駆動装置の設置姿勢が限定されるものではない。
【0033】
<1.ディスク駆動装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るスピンドルモータ1を備えたディスク駆動装置2の縦断面図である。ディスク駆動装置2は、4枚の磁気ディスク22を回転させつつ、磁気ディスク22からの情報の読み出し及び/又は磁気ディスク22への情報の書き込みを行うハードディスク装置である。図1に示したように、ディスク駆動装置2は、主として、装置ハウジング21、4枚の磁気ディスクや光ディスク等の記録ディスク(以下、単に「ディスク」という)22、アクセス部23、及びスピンドルモータ1を備えている。
【0034】
装置ハウジング21は、カップ状の第1ハウジング部材211と、板状の第2ハウジング部材212とを有している。第1ハウジング部材211は、上部に開口を有し、第1ハウジング部材211の内側の底面には、スピンドルモータ1とアクセス部23とが設置されている。第2ハウジング部材212は、第1ハウジング部材211の上部の開口を覆うように第1ハウジング部材211に接合され、第1ハウジング部材211と第2ハウジング部材212とに囲まれた装置ハウジング21の内部空間213に、4枚のディスク22、アクセス部23、及びスピンドルモータ1が収容されている。装置ハウジング21の内部空間213は、塵や埃が少ない清浄な空間とされている。
【0035】
4枚のディスク22は、いずれも中央部に孔を有する円板状の情報記録媒体である。各ディスク22は、スピンドルモータ1の回転部材41に装着され、スペーサ221を介して互いに平行かつ等間隔に積層配置されている。一方、アクセス部23は、4枚のディスクの上面及び下面に対向する8つのヘッド231と、各ヘッド231を支持するアーム232と、アーム232を揺動させる揺動機構233とを有している。アクセス部23は、揺動機構233により8本のアーム232をディスク22に沿って揺動させ、8つのヘッド231をディスク22の必要な位置にアクセスさせることにより、回転する各ディスク22の記録面に対して情報の読み出し及び書き込みを行う。なお、ヘッド231は、ディスク22の記録面に対して情報の読み出し及び書き込みのいずれか一方のみを行うものであってもよい。
【0036】
<2.スピンドルモータの構成>
続いて、上記のスピンドルモータ1の詳細な構成について説明する。図2は、スピンドルモータ1の縦断面図である。図2に示したように、スピンドルモータ1は、主として、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21に固定されるステータ部3と、ディスク22を装着して所定の中心軸Lを中心として回転するロータ部4とを備えている。
【0037】
<2−1.ステータ部の構成>
ステータ部3は、ベース部材31、ステータコア32、コイル33、シャフト34及び環状部材35を有している。
【0038】
ベース部材31は、アルミニウム等の金属材料により形成され、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21にねじ止め固定されている。ベース部材31の中央部には、中心軸に沿ってベース部材31を貫通する貫通孔311が形成されている。また、ベース部材31の貫通孔311よりも外周側(中心軸Lに対する外周側。以下同じ。)には、軸方向(中心軸Lに沿った方向。以下同じ。)に突出した略円筒形状のホルダ部312が形成されている。なお、本実施形態では、ベース部材31と第1ハウジング部材211とが別体となっているが、ベース部材31と第1ハウジング部材211とが単一の部材により構成されていてもよい。
【0039】
ステータコア32は、ベース部材31のホルダ部312の外周面に嵌着された円環状のコアバック321と、コアバック321から径方向(中心軸Lに直交する方向。以下同じ。)の外周側に突出した複数本のティース部322とを有している。ステータコア32は、例えば、電磁鋼板を軸方向に積層させた積層鋼板により形成されている。
【0040】
コイル33は、ステータコア32の各ティース部322の周囲に巻回された導線により構成されている。コイル33は、コネクタ331を介して所定の電源装置(図示省略)と接続されている。電源装置からコネクタ331を介してコイル33に駆動電流を与えると、ティース部322には径方向の磁束が発生する。ティース部322に発生した磁束は、後述するロータマグネット42の磁束と互いに作用し、中心軸Lを中心としてロータ部4を回転させるためのトルクを発生させる。
【0041】
シャフト34は、中心軸Lに沿って配置された略円柱形状の部材である。シャフト34は、ベース部材31の貫通孔311に下端部を嵌入させた状態でベース部材31に固定されている。
【0042】
環状部材35は、シャフト34の外周面34aから径方向外側に突出し、シャフト34と固定又は一体成形される部材である。環状部材35は、後述する回転部材41と線膨張係数が近い金属材料(例えば、アルミニウムを主成分とする合金や、銅を主成分とする合金)又は樹脂材料により形成されている。本実施形態では、図2に示すように、シャフト外周面34aに軸方向に間隔をおいて上下に、2つの環状部材35・35が圧入等により固定されているが、これに限定されず、上方若しくは下方のいずれか一方のみを固定する構成でもよい。なお、以下の説明では、便宜上、シャフト外周面34aの軸方向上側に固定された環状部材35について説明する。
【0043】
環状部材35の形状は、環状部材35の下面35aと、それに対向する回転部材41の端面41bとの間の微小間隙に備える動圧軸受部の構造により異なる。詳しい動圧軸受部の構成については後述するが、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合(図9参照)、環状部材35の形状は略円錐形状であり、環状部材35の外周面上部が上向きに漸次小径となる上部円錐面に形成されているとともに、外周面下部が下向きに漸次小径となる下部円錐面に形成されている。以下、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合において、環状部材35の下面35aとは、環状部材35の下部円錐面のことを指し、環状部材35の外周面35bとは、環状部材35の上部円錐面のことを指す。また、動圧軸受部の構造がスラスト型の場合(図12参照)、環状部材35の形状は円環形状であり、環状部材35の下面35aはシャフト外周面34aに対して垂直な面に構成される。環状部材35の外周面35bは、スラスト型の場合も、上向きに漸次小径となる円錐面に形成されている。
【0044】
<2−2.ロータ部の構成>
図2に戻る。ロータ部4は、回転部材41、ロータマグネット42、及びシール部材44を有している。
【0045】
次に、回転部材41について、図2乃至図5に基づいて説明する。回転部材41は、中心軸Lの周囲において径方向に広がる形状を有する部材であり、回転部材41は、シャフト34の外周面34aと微小間隙を介して対向する内周面(以下、この内周面を第1内周面41aとする)を有し、径方向外側へ向けて広がる胴部411と、胴部411の外周縁から垂下する円筒部412とを有している。胴部411の径方向内側は、上部環状部材35と下部環状部材35との間に配置され、シャフト外周面34a、環状部材35下面、及び下部環状部材35上面に対して回転可能に支持されている。また、胴部411の外周面411aは、ディスク22の内周部(内周面又は内周縁)に当接する当接面となる。また、円筒部412には、径方向外側へ向けて突出し、その上面がディスク22を載置するフランジ面413aとなる台部413が形成されている。
【0046】
4枚のディスク22は、回転部材41のフランジ面413a上に水平姿勢で、かつ等間隔に積層配置される。すなわち、最下層のディスク22がフランジ面413a上に載置され、その上部に、他の3枚のディスク22がそれぞれスペーサ221を介して順に載置される。そして、最上層のディスク22の上面は、回転部材41の胴部411に取り付けられた押さえ部材414により押圧固定される。また、各ディスク22の内周部は胴部411の外周面411aに接触し、これにより各ディスク22の径方向の移動が規制される。本実施形態では、ディスク22及び回転部材41は、いずれもアルミニウムを主たる材料としている。このため、ディスク22及び回転部材41の線膨張係数は同一又は近似しており、温度が変化した場合にもディスク22と回転部材41との間に過度の応力が発生することはない。
【0047】
回転部材41の胴部411について、図3乃至図5に基づいて説明する。図3は、回転部材41とシール部材44との関係を示す、環状部材35及びその周囲の構成を示した一部分解縦断面図、図4は、図2におけるM−M方向から回転部材41を見た断面斜視図であり、図5は、図4の他の実施形態(スラスト動圧軸受部の場合)を示した図である。第1内周面41aの軸方向外縁部分から径方向外方に向かって形成された端面を、その端面の径方向内側から径方向外側にかけて第1端面41ba、第2端面41bb、第3端面41bcとし、その総称として41bとする。なお、以下の説明では、第1端面41ba、第2端面41bb、第3端面41bcは、回転部材41の胴部411の上側の端面41bの場合について説明するが、これに限定されず、胴部411の下側の端面の場合についても同様に適用することができる。
【0048】
第1端面41baは、環状部材35の下面35aと微小間隙を介して対向する回転部材41の端面41bであり、第1端面41baの軸方向外側に位置する回転部材軸受面と、それに対向する環状部材35の環状部材軸受面との微小間隙には、動圧軸受部を備えている。また、回転部材41の上端面から下端面にかけてその内部を軸方向に貫通する1つ又は複数の連通孔415を有しており、連通孔415の開口部415aが、第1端面41baと径方向外側に隣接する部位に設けられている第2端面41bbに開口している。第2端面41bbは、シャフト外周面34aに対して垂直な面である。図3に示すように、回転部材41の端面41bにおいて、軸方向に伸びる2本の2点鎖線で径方向に挟まれた部位が、後述するシール部材44の第2端面44bbと微小間隙を介して対向する回転部材41の第2端面41bbに相当する。本実施形態では、3つの連通孔415が貫通しており、その開口部415aが周方向に等間隔に配置されている。
【0049】
回転部材41の形状は、環状部材35の下面35aと、それに対向する回転部材41の第1端面41baとの間の微小間隙に形成される動圧軸受部の構造により異なる。つまり、第1端面41baに対向する面35aを有する環状部材35の形状に合わせる。
【0050】
動圧軸受部の構造がコニカル型の場合、環状部材35が略円錐形状であるため、第1端面41baは、回転部材41の第2端面41bbの内縁部分からシャフト34の軸方向中央に向かって傾斜した構成になっている。回転部材41の上下の第1端面41ba・41bと、第1内周面41aとで囲まれた部分の回転部材41の形状は、断面視略台形状を成している。コニカル動圧軸受部は、傾斜面である第1端面41baに位置する回転部材コニカル軸受面と、それに対向する環状部材コニカル軸受面との間の微小間隙に備えられている。
【0051】
また、動圧軸受部の構造がスラスト型の場合、図5に示すように、環状部材35が円環形状であるため、第1端面41baはシャフト外周面34aに対して垂直な面に構成されている。スラスト動圧軸受部は、第2端面41bbと同一平面上に設けられている第1端面41baに位置する回転部材スラスト軸受面と、それに対向する環状部材スラスト軸受面との間の微小間隙に備えられている。
【0052】
また、第2端面41bbと径方向外側に隣接する部位に第3端面41bcが設けられており、第3端面41bcは第2端面41bbと同一平面上にある面である。動圧軸受部の構造がスラスト型の場合は、第1端面41baとも同一平面上に設けられた構成になる。また、回転部材41の突出部416が、第3端面41bcの径方向外縁部分から軸方向上方に向けて突出して形成されている。その突出部416の内周面を回転部材41の第2内周面41cとする。
【0053】
また、ロータマグネット42は、回転部材41の胴部411の下面に、ヨーク421を介して取り付けられている。ロータマグネット42は、中心軸Lを取り囲むように円環状に配置されている。ロータマグネット42の内周面は磁極面となっており、ステータコア32の複数のティース部322の外周面に対向する。
【0054】
このようなスピンドルモータ1において、ステータ部3のコイル33に駆動電流を与えると、ステータコア32の複数のティース部322に径方向の磁束が発生する。そして、ティース部322とロータマグネット42との間の磁束の作用によりトルクが発生し、ステータ部3に対してロータ部4が中心軸Lを中心として回転する。回転部材41上に支持された4枚のディスク22は、回転部材41とともに中心軸Lを中心として回転する。
【0055】
また、回転部材41の胴部411の上面及び/又は下面には、モータ1外部への潤滑オイル5の漏洩を防ぐためにシール部材44が取り付けられている。シール部材44について、図3及び図6に基づいて説明する。シール部材44は、環状部材35の外周面35bと微小間隙を介して対向する壁面部441と、壁面部441の上端部から径方向内側へ向けて広がるカバー部442と、壁面部441の下端部から径方向外側へ向けて広がる固定部443とを有している。壁面部441及びカバー部442が環状部材35の側方及び上方を覆い、固定部443が溶接や接着等により回転部材41に固定されている。
【0056】
環状部材35の外周面35bとシール部材壁面部441の内周面(以下、シール部材44の内周面44aとする)との微小間隙は、下方から上方へ漸次に広くなり、その間の潤滑オイル5が毛細管力によってその微小間隙中にメニスカスを形成して保持され、表面張力と外気圧とが均衡する位置に潤滑オイル5の境界面を形成するテーパシール部が構成されている。テーパシール部を構成することにより、潤滑オイル5が漏洩しようとしても、このテーパシール部により下方側に潤滑オイル5を引きつける作用を発揮する。これにより、潤滑オイル5の上方側への漏洩を防ぐことができ、モータ1外部に潤滑オイル5を漏洩させることを防ぐことができる。また、遠心力や温度上昇等により潤滑オイル5の体積が増加したり、あるいはその他の何らかの作用により、テーパシール部のメニスカスが上方側に移動することがあるが、潤滑オイル5の表面張力と外気圧とが均衡して、潤滑オイル5のモータ1外部への流出が防止される。
【0057】
また、カバー部442は、その中心にシャフト孔を有する円環形状の部材であり、その内周面442aとシャフト外周面34aとが微小間隙を介して対向している。
【0058】
<3.第1実施形態:シール部材下面に段差部>
次に、シール部材44の固定部443について説明する。なお、以下の説明では、固定部443の下面をシール部材44の下面44bとし、固定部443の外周面をシール部材44の外周面44cとする。第1実施形態に係るシール部材44は、径方向において段状の面を構成する段差部44bcをシール部材下面44cに形成し、段差部44bcを介して径方向外側の第1端面44baと径方向内側の第2端面44bbとを有し、第1端面44baが、第2端面44bbより回転部材41の端面41bに近接するように構成をしている。このような構成にしたことにより、シール部材44を回転部材41の端面41bに取り付けたとき、シール部材44の第1端面44baは、回転部材41の第3端面41bcと軸方向に当接し、シール部材44の第2端面44bbは、回転部材41の第2端面41bbと微小間隙を介して対向し、シール部材44の外周面44cは、回転部材41の第2内周面41cと径方向に当接する。なお、シール部材44の段差部44bcは、スロープ状でも直角状でも構わない。
【0059】
図2乃至図3では、シール部材44の第2端面44bbと回転部材41の第2端面41bbとが平行な場合について図示したが、図7に示すように、シール部材44の第2端面44bbを傾斜面に構成させてもよい。この場合、シール部材44の第2端面44bbの径方向外端部が回転部材41の第2端面41bbに最も近接し、径方向内端部(シール部材下面44bの最も径方向内側に位置する部位)が回転部材41の第2端面41bbから最も離れている構成にする。つまり、シール部材44の第2端面44bbと回転部材41の第2端面41bbとの微小間隙が、径方向外側から径方向内側にかけて漸次に拡大する構成にする。中心軸Lを含む断面におけるシール部材44の第2端面44bbの径方向外端部と回転部材41の第2端面41bbとの幅をX、中心軸Lを含む断面におけるシール部材44の第2端面44bbの径方向内端部と回転部材41の第2端面41bbとの幅をYとすると、幅Yは幅Xよりも大きくなるように設定する。回転部材41に当接し固定されている固定面(シール部材44の第1端面44ba及び外周面44c)に隣接する第2端面41bbの径方向外端部に比べて、固定面から径方向に最も離れている第2端面41bbの径方向内端部は、外的要因により軸方向にかかる衝撃等の影響を強く受けやすく、衝撃時に第2端面41bbの径方向内端部が径方向外端部を支点として軸方向に揺動して回転部材41の第2端面41bbに当接してしまう恐れがあったが、このように構成したことにより、そういった問題を解消することができる。以下の説明では、第2端面44bbが傾斜している場合について説明する。
【0060】
次に、軸受構造について説明する。まず第1実施形態として、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合について、図8に基づいて説明する。
【0061】
上述したように、回転部材の第1端面(傾斜面)に位置する回転部材コニカル軸受面と、それに対向する環状部材コニカル軸受面との微小間隙には、径方向及び軸方向の荷重を同時に支持するコニカル動圧軸受部を備えており、回転部材コニカル軸受面又は環状部材コニカル軸受面の少なくとも一方に、相対回転時に潤滑オイル5に流体動圧を誘起するコニカル動圧溝列50が形成されている。
【0062】
本実施形態では、環状部材35の下面35aにヘリングボーン形状のコニカル動圧溝列50が形成されている。コニカル動圧溝列50は、第1動圧発生溝50aと第2動圧発生溝50bとから構成されている。第1動圧発生溝50aによって誘起される潤滑オイル5を上方から下方に圧送する力と、第2動圧発生溝50bによって誘起される潤滑オイル5を下方から上方に圧送する力とが、その隣接点50c(「く」字状ラジアル動圧溝列50の屈曲部)においてぶつかり合い重畳して局所的に圧力が上昇し、径方向及び軸方向に対して強い支持力を発生させる。
【0063】
環状部材35の下面35aの周方向に沿って間隔をおいてそれぞれ複数並べられて軸方向に向き合った第1動圧発生溝50aの数と第2動圧発生溝50bの数とが同数である場合、図8(a)に示すように、第1動圧発生溝50aの軸方向の溝スパンaを、第2動圧発生溝50bの軸方向の溝スパンbよりも大きく設定する。
【0064】
また、図8(b)に示すように、環状部材35の下面35aの周方向に沿って間隔をおいて並べられた第1動圧発生溝50aの数を、第2動圧発生溝50bの数よりも多くする。この場合、第1動圧発生溝50aの軸方向の溝スパンcと、第2動圧発生溝50bの軸方向の溝スパンdとが同じであっても、上記のような効果を得ることができる。
【0065】
このため、モータ1の回転により、環状部材35に対して回転部材41が回転駆動すると、コニカル動圧溝列50のポンピング作用により、微小間隙中に充填された潤滑オイル5に流体動圧を誘起して、回転部材41は、環状部材35と非接触となりつつも径方向及び軸方向に支持され、環状部材35に対して回転自在に支承される。
【0066】
なお、本実施形態では、コニカル動圧溝列50をヘリングボーン形状に形成したが、これに限らず、スパイラル形状やテーパードランド形状でもよく、流体動圧軸受として機能すればどのような溝パターンでもよい。また、コニカル動圧溝列50を環状部材35の下面35aに形成したが、回転部材コニカル軸受面である回転部材41の第1端面41baに形成する構成にしてもよい。また、回転部材41の上方に配置される環状部材35について記載したが、回転部材41の下方に配置される環状部材35の場合は、軸方向中央に対して上環状部材35と対称的な構成となる。
【0067】
次に、図9に示すように、潤滑オイル5が充填されている各微小間隙について定義する。
【0068】
環状部材35の外周面35bとシール部材44の内周面44aとの微小間隙を第1微小間隙P、シール部材44の第2端面44bbと回転部材41の第2端面41bbとの微小間隙を第2微小間隙Q、環状部材35の下面35aと回転部材41の第1端面41baとの微小間隙を第3微小間隙R、連通孔415が形成する空間を第4微小間隙S、シャフト34の外周面34aと回転部材41の第1内周面41aとの微小間隙を第5微小間隙T、とすると、第1微小間隙P、第2微小間隙Q、第3微小間隙R、第4微小間隙S、第5微小間隙Tが互いに連通して空間を形成し、その空間中に作動流体として連続的に潤滑オイル5が充填されている。但し、第2微小間隙Q又は第3微小間隙Rから第1微小間隙Pに流入し保持される潤滑オイル5は、上述したように、第1微小間隙Pはテーパ状であるため、第1微小間隙P内にメニスカスを形成して保持され、表面張力と外気圧とが均衡する位置に潤滑オイル5の境界面を形成する。
【0069】
潤滑オイル5としては、例えば、ポリオールエステル系オイルやジエステル系オイル等のエステルを主成分とするオイルが使用される。エステルを主成分とするオイルは、耐摩耗性、熱安定性、及び流動性に優れているため、流体動圧軸受装置6の潤滑オイル5として好適である。なお、流体動圧軸受装置6は、上述したシャフト34、環状部材35、回転部材41、及びシール部材44を少なくとも備える装置である。
【0070】
したがって、シール部材44の下面44bに段差部44bcを形成し上記のように構成したことにより、シール部材44の第2端面44bbは、回転部材41の第2端面41bb、つまり、連通孔415の開口部415aと第2微小間隙Qを介して対向した位置関係になり、その結果、連通孔415内を軸方向に流れてきた潤滑オイル5が第2微小間隙Qを通過して、軸受面の第3微小間隙Rに流れ込むことができる。
【0071】
次に、環状部材35及びその周囲の部材との各微小間隙の幅の大小関係について、図9に基づいて説明する。
【0072】
従来の流体動圧軸受装置では、環状部材外周面とシール部材内周面との間に形成されたテーパシール部において、外的要因等により強い衝撃が流体動圧軸受装置に加わったときに、中心軸を含む断面における環状部材の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面との微小間隙の幅(後述する幅Aに相当)が一時的にゼロになってしまい、その箇所において環状部材とシール部材とが当接し、テーパシール部の保持されていた潤滑オイルが一時的にその箇所より上側(外側)に広がってしまう等の問題があった。そこで、以下のように各微小間隙の幅に大小関係を設定することで、そのような問題を解消した。
【0073】
まず各幅の定義を行う。つまり、中心軸Lを含む断面における環状部材35の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面44aとの幅(第1微小間隙Pの下側開口部の幅)をA、中心軸Lを含む断面におけるシール部材44の下面44b(本実施形態では、第2端面44bb)の最も径方向内側に位置する部位と回転部材41の端面41b(本実施形態では、第2端面41bb)との幅(第2微小間隙Qの径方向内側開口部の幅)をB、中心軸Lを含む断面における第3微小間隙Rの幅をC、中心軸Lを含む断面における第4微小間隙Sの幅をD、とする。なお、ここでいう「環状部材35の最も径方向外側に位置する部位」とは、環状部材35の上部円錐面(外周面35b)の下端と下部円錐面(下面35a)の上端とが一致している部位のことを指す。また、「シール部材44の第2端面44bbの最も径方向内側に位置する部位」とは、シール部材44の第2端面44bbが傾斜面である場合は、第2端面44bbの径方向内端部のことを指し、上述したように第2微小間隙Qが径方向外側から径方向内側にかけて漸次に拡大する構成になっているので、幅Bとはその第2微小間隙Qの最大径(図7では幅Yに相当)のことを指す。
【0074】
そして、各幅の大小関係を設定する。つまり、幅Aを幅Bよりも小さく、幅Aを幅Cよりも大きくなるように設定する。そして、幅Bを幅Dよりも小さくなるように設定する。各幅A、B、C、Dの寸法は、例えば、幅Aは0.02乃至0.2mm程度、幅Bは0.05乃至0.5mm程度、幅Dは0.3乃至1.2mm程度であり、動圧軸受面の微小間隙である第3微小間隙Rの幅Cは、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合は、0.001乃至0.005mm程度、動圧軸受部の構造がスラスト型の場合は、0.010乃至0.020mm程度それぞれとることができる。実施形態では、上述した各幅の大小関係を満たすように各幅がそれぞれ寸法をとる。このような構成にしたことにより、以下の効果を奏することができる。
【0075】
本実施形態で、幅Aをできるだけ狭く設定したことにより、強い衝撃等が加わっても変動幅が小さいため、潤滑オイル5がモータ1外部に出にくい構成にすることができる。なお、ここでいう「幅Aをできるだけ狭く」の「できるだけ狭い幅」というのは、テーパシール部がオイル溜まりとしての機能を有するのに十分な幅であり、かつ、幅Aの第1微小間隙Pを通過して気泡が排出されるのに十分な幅であることを指す。
【0076】
また、第2微小間隙Qを流れてきた潤滑オイル5は、分岐路(第1微小間隙Pの下側開口部と、第2微小間隙Qの径方向内側開口部と、第3微小間隙Rの径方向外側開口部とが囲む場所)で第1微小間隙Pか第3微小間隙Rのいずれかに流れ込むことになるが、幅Cが幅Aより狭いので、毛細管力の作用により潤滑オイル5は第3微小間隙Rへ流れる。一方、潤滑オイル5に混在して第2微小間隙Qを流れてきた気泡は、同じく分岐路で第1微小間隙Pか第3微小間隙Rのいずれかに流れることになるが、幅Aが幅Cより広いので、毛細管力の作用により気泡は第1微小間隙Pへ流れる。以上より、潤滑オイル5はコニカル動圧軸受部が構成されている第3微小間隙Rへ、気泡は排出口であるテーパシール部を有した第1微小間隙Pへそれぞれ選別して流すことができる。
【0077】
<4.第2実施形態:シール部材下面に径方向溝>
上記第1実施形態では、シール部材44の下面44bにおいて段差部44bcを形成した構成を記載したが、段差部44bcを形成しない場合の他の実施形態(第2実施形態)について、図10乃至図11に基づいて説明する。本実施形態の構成が奏する効果は、第1実施形態と同様の効果であるので、図中では第1実施形態と同一の符号を使用して図示している。また、第1実施形態と基本的に同じことについては、詳しい説明を省略する。
【0078】
本実施形態では、シール部材44の下面44bに、径方向内側に開口した所定幅の径方向溝444を1つ又は複数形成し(本実施形態では、3つ)、回転部材の1つ又は複数の連通孔415(本実施形態では、3つ)とそれぞれ連通するように構成する。このとき、シール部材下面44bに形成する径方向溝444の数は、連通孔415の数に対応するようにする。ここでいう「径方向溝444の所定幅」とは、回転部材41の第2端面41bbの径方向の幅と対応する幅であり、径方向溝444と回転部材41の第2端面41bbとがなす空間が第1実施形態における第2微小間隙Qに相当する(図11において、破線で囲まれた箇所は、連通孔415の開口部415aの位置に相当する)。以上のような構成にすることにより、連通孔444を流れてきた潤滑オイル5が、第2微小間隙Qを通過して、第1微小間隙P若しくは第3微小間隙Rに流れ込むことができる。
【0079】
なお、本実施形態では、径方向溝444の径方向の幅を、第2端面41bbの径方向の幅と対応する幅としたが、これに限定されず、径方向溝444を、シール部材下面44bの径方向内側端部から径方向外側端部にわたって形成することも可能である。この場合、径方向溝444の径方向外側端部(シール部材44の外周面44c)は開口した構成になるが、シール部材44を回転部材41に固定したとき、シール部材44の外周面44cが回転部材41の第2内周面41cに当接されるため、その開口した端部は閉塞される。
【0080】
<5.第3実施形態:スラスト及びラジアル動圧軸受部>
上記第1実施形態及び第2実施形態では、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合について記載したが、上述した幅A、B、C、Dの大小関係を設定できる構成であれば、動圧軸受部の種類はコニカル型に限定することなく、例えば、スラスト型による動圧軸受部の構造についても適用することができる。但し、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合は、コニカル動圧軸受部が傾斜面に備えられていることにより、径方向及び軸方向に対して強い支持力を発生させていたのに対し、スラスト動圧軸受部は軸方向にのみ支持力を発生されるので、スラスト型による動圧軸受部の構造について適用するときは、スラスト動圧軸受部だけでなく、径方向に支持力を発生させるラジアル動圧軸受部も備える必要がある。なお、以下の説明で用いる図12乃至図13には、動圧軸受部の構造がスラスト型で、第1実施形態に示した段差部44bcをその下面44bに形成したシール部材44を固定した構成を図示している。
【0081】
第3実施形態における軸受構造について説明する。
【0082】
上述したように、第2端面41bbと同一平面上に設けられている第1端面41baに位置する回転部材スラスト軸受面と、それに対向する環状部材スラスト軸受面との間の第3微小間隙Rには、軸方向の荷重を支持するスラスト動圧軸受部を備えており、回転部材スラスト軸受面又は環状部材スラスト軸受面の少なくとも一方に、相対回転時に潤滑オイル5に流体動圧を誘起するスラスト動圧溝列60が形成されている。
【0083】
本実施形態では、上記実施形態と同様に環状部材35の下面35aに、中心軸L側から径方向外方へ放射状に広がるスパイラル形状のスラスト動圧溝列60が形成されている。
【0084】
このため、モータ1の回転により、環状部材35に対して回転部材41が回転駆動すると、スラスト動圧溝列60のポンピング作用により、第3微小間隙R中に充填された潤滑オイル5に流体動圧を誘起して、回転部材41は、環状部材35と非接触となりつつも軸方向に支持され、環状部材35に対して回転自在に支承される。
【0085】
なお、本実施形態では、スラスト動圧溝列60をスパイラル形状に形成したが、これに限らず、ヘリングボーン形状やテーパードランド形状でもよく、流体動圧軸受として機能すればどのような溝パターンでもよい。また、スラスト動圧溝列60を環状部材35の下面35aに形成したが、回転部材スラスト軸受面である回転部材41の第1端面41baに形成する構成にしてもよい。
【0086】
また、回転部材41の第1内周面に位置する回転部材ラジアル軸受面と、それに対向するシャフト外周面34aに位置するシャフトラジアル軸受面との第5微小間隙Tには、径方向の荷重を支持するラジアル動圧軸受部を備えており、回転部材ラジアル軸受面又はシャフトラジアル軸受面の少なくとも一方に、相対回転時に潤滑オイル5に流体動圧を誘起するラジアル動圧溝列65が形成されている。
【0087】
本実施形態では、シャフト34の外周面34aに、軸方向に間隔をおいて上下にヘリングボーン形状のラジアル動圧溝列65a・65b(その総称を65とする)が形成されている。
【0088】
このため、モータ1の回転により、シャフト34に対して回転部材41が回転駆動すると、ラジアル動圧溝列65a・65bのポンピング作用により、第5微小間隙T中に充填された潤滑オイル5に流体動圧を誘起して、回転部材41は、シャフト34と非接触となりつつも径方向に支持され、シャフト34に対して回転自在に支承される。
【0089】
なお、本実施形態では、ラジアル動圧溝列65をヘリングボーン形状に形成したが、これに限らず、スパイラル形状やテーパードランド形状でもよく、流体動圧軸受として機能すればどのような溝パターンでもよい。また、ラジアル動圧溝列65をシャフト34の外周面34aに形成したが、回転部材ラジアル軸受面である回転部材41の第1内周面に形成する構成にしてもよい。
【0090】
第3実施形態は、環状部材35の形状(特に下面35aがシャフト外周面34aに対して垂直な面であること)以外は第1及び第2実施形態と同様な構成をしているので、第1及び第2実施形態に記載した幅A、B、C、Dを形成する部材間の空間があり、各幅の大小関係を設定することができる構成であれば、第1及び第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0091】
<6.第4実施形態>
なお、第1実施形態及び第3実施形態において、シール部材下面44bに段差部44bcを形成し、シール部材44の第2端面44bbと回転部材41の第2端面41bbとが第2微小間隙Qを介して対向する構成にしたが、段差部を形成するのをシール部材下面44bではなく、図14に示すように、シール部材下面44bと対向する回転部材41の端面41bに形成する構成でもよい。詳しくは、回転部材41の第1端面41baと第2端面41bbとの隣接点を段差部41bdとし、回転部材41の第3端面41bcとシール部材下面44bとを当接、固定させ、回転部材41の第2端面41bbとシール部材下面44bとを微小間隙を介して対向させる。この微小間隙が、第1実施形態における第2微小間隙Qに相当する。動圧軸受部の構造がスラスト型の場合は、回転部材41の第2端面41bbが、径方向内側又は径方向外側にそれぞれ隣接する第1端面41baと第3端面41bcに比べて軸方向内方に凹んだ構成になるが、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合は、回転部材41の第2端面41bbが凹んだ分だけ、コニカル軸受面である第1端面41baのスパンが小さくなってしまい、その点で動圧軸受部の構造がコニカル型の場合は、シール部材下面44bに段差部44bcを形成するのが望ましい。
【0092】
<7.第5実施形態:シール部材無し>
第1乃至第4実施形態では、シール部材44を回転部材41に取り付け、環状部材35の外周面35bとシール部材44の内周面44aとの微小間隙を第1微小間隙Pとし、第1微小間隙Pの下側開口部の幅、つまり、中心軸Lを含む断面における環状部材35の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面44aとの幅をAとしていた。また、シール部材下面44bの形状に応じて適宜第2微小間隙Q、及び幅Bを定義していた。以下で説明する実施形態では、シール部材を用いず、回転部材41と環状部材35との関係から、第1微小間隙P、第2微小間隙Q、幅A、幅Bを定義する構成について、図15、図16に基づいて説明する。動圧軸受部の構造がスラスト型の場合について説明する。なお、上記実施形態で記載した回転部材41の第3端面41bcは、設けても設けなくてもどちらでもよい。以下の実施形態では、第3端面41bcを設けない場合について説明している。
【0093】
本実施形態では、シール部材44の代わりに、回転部材41の突出部416の上面及び/又は下面には、モータ1外部への潤滑オイル5の漏洩を防ぐためにキャップ46が溶接や接着等により取り付けられている。キャップ46は、環状部材35の上方を覆い、その中心にシャフト孔を有する円環形状の部材であり、その内周面46aとシャフト外周面34aとが微小間隙を介して対向している。
【0094】
まず、環状部材35の下面35aと、それに対向する回転部材41の端面41bについて説明する。本実施形態に係る環状部材35は、図15に示すように、径方向において段状の面を構成する段差部35acを環状部材35の下面35aに形成し、段差部35acを介して径方向外側の第2端面35abと径方向内側の第1端面35aaとを有し、第1端面35aaが、第2端面35abより回転部材41の端面41bに近接するように構成をしている。このとき、環状部材35の第1端面35aaに位置する環状部材スラスト軸受面と、それに対向する回転部材41の第1端面41baに位置する回転部材スラスト軸受面との間の微小間隙には、軸方向の荷重を支持するスラスト動圧軸受部が備えられている。この微小間隙を第3微小間隙Rとし、その幅をCとする。また、環状部材35の第2端面35abは、連通孔415の開口部415aが開口している回転部材41の第2端面41bbと微小間隙を介して対向している。この微小間隙を第2微小間隙Qとし、その幅をBとする。
【0095】
したがって、環状部材35の下面35aに段差部35acを形成し上記のように構成したことにより、環状部材35の第2端面35abは、回転部材41の第2端面41bb、つまり、連通孔415の開口部415aと第2微小間隙Qを介して対向した位置関係になり、その結果、連通孔415内を軸方向に流れてきた潤滑オイル5が第2微小間隙Qを通過して、軸受面の第3微小間隙Rに流れ込むことができる。なお、環状部材35の段差部35acは、スロープ状でも直角状でも構わない。
【0096】
次に、環状部材35の外周面35bと、それに対向する回転部材41の第2内周面44eについて説明する。上述したように、環状部材35の外周面35bは、上向きに漸次小径となる円錐面に形成されているため、環状部材35の外周面35bと回転部材41の第2内周面41cとの微小間隙は、下方から上方へ漸次に広くなり、その間の潤滑オイル5が毛細管力によってその微小間隙中にメニスカスを形成して保持され、表面張力と外気圧とが均衡する位置に潤滑オイル5の境界面を形成するテーパシール部が構成されている。テーパシール部を構成することにより、潤滑オイル5が漏洩しようとしても、このテーパシール部により下方側に潤滑オイル5を引きつける作用を発揮する。これにより、潤滑オイル5の上方側への漏洩を防ぐことができ、モータ1外部に潤滑オイル5を漏洩させることを防ぐことができる。また、遠心力や温度上昇等により潤滑オイル5の体積が増加したり、あるいはその他の何らかの作用により、テーパシール部のメニスカスが上方側に移動することがあるが、潤滑オイル5の表面張力と外気圧とが均衡して、潤滑オイル5のモータ1外部への流出が防止される。ここで、環状部材35の外周面35bと回転部材41の第2内周面41cとの微小間隙を第1微小間隙Pとし、中心軸Lを含む断面における環状部材35の最も径方向外側に位置する部位と回転部材41の第2内周面41cとの幅(第1微小間隙Pの下側開口部の幅)をAとする。ここでいう「環状部材35の最も径方向外側に位置する部位」とは、環状部材35の外周面35bの下端と、環状部材35の下面35a(本実施形態では環状部材35の第2端面35ab)の径方向外方端とが一致している部位(環状部材35の外周面35bと第2端面35abとがなす角部)のことを指す。
【0097】
そして、各幅の大小関係を設定する。つまり、幅Aを幅Bよりも小さく、幅Aを幅Cよりも大きくなるように設定する。そして、幅Bを幅Dよりも小さくなるように設定する。このような構成にしたことにより、以下の効果を奏することができる。
【0098】
本実施形態で、幅Aをできるだけ狭く設定したことにより、強い衝撃等が加わっても変動幅が小さいため、潤滑オイル5がモータ1外部に出にくい構成にすることができる。なお、ここでいう「幅Aをできるだけ狭く」の「できるだけ狭い幅」というのは、テーパシール部がオイル溜まりとしての機能を有するのに十分な幅であり、かつ、幅Aの第1微小間隙Pを通過して気泡が排出されるのに十分な幅であることを指す。
【0099】
また、第2微小間隙Qを流れてきた潤滑オイル5は、分岐路(第1微小間隙Pの下側開口部と、第2微小間隙Qの径方向内側開口部と、第3微小間隙Rの径方向外側開口部とが囲む場所)で第1微小間隙Pか第3微小間隙Rのいずれかに流れ込むことになるが、幅Cが幅Aより狭いので、毛細管力の作用により潤滑オイル5は第3微小間隙Rへ流れる。一方、潤滑オイル5に混在して第2微小間隙Qを流れてきた気泡は、同じく分岐路で第1微小間隙Pか第3微小間隙Rのいずれかに流れることになるが、幅Aが幅Cより広いので、毛細管力の作用により気泡は第1微小間隙Pへ流れる。以上より、潤滑オイル5はスラスト動圧軸受部が構成されている第3微小間隙Rへ、気泡は排出口であるテーパシール部を有した第1微小間隙Pへそれぞれ選別して流すことができる。
【0100】
なお、上記第5実施形態では、動圧軸受部の構造がスラスト型の場合について記載したが、上述した幅A、B、C、Dの大小関係を設定できる構成であれば、動圧軸受部の種類はスラスト型に限定することなく、例えば、コニカル型による動圧軸受部の構造についても適用することができる。
【0101】
<8.第6実施形態>
第5実施形態では、環状部材35の下面35aに段差部35acを形成し、環状部材35の第2端面35abと回転部材41の第2端面41bbとが第2微小間隙Qを介して対向する構成にしたが、段差部を形成するのを環状部材35の下面35aではなく、図16に示すように、環状部材35の下面35aと対向する回転部材41の端面41bに形成する構成でもよい。詳しくは、回転部材41の第1端面41baと第2端面41bbとの隣接点を段差部41bdとし、第1端面41baが、第2端面41bbより環状部材35の下面35aに近接するように構成をしている。このとき、回転部材41の第2端面41bbと、環状部材35の下面35aとが対向している微小間隙を第2微小間隙Qとする。動圧軸受部の構造がスラスト型の場合は、回転部材41の第2端面41bbが、径方向内側又は径方向外側にそれぞれ隣接する第1端面41baに比べて軸方向内方に凹んだ構成になるが、動圧軸受部の構造がコニカル型の場合は、回転部材41の第2端面41bbが凹んだ分だけ、コニカル軸受面である第1端面41baのスパンが小さくなってしまい、その点で動圧軸受部の構造がコニカル型の場合は、環状部材35の下面35aに段差部35acを形成するのが望ましい。
【0102】
<9.その他>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、第1乃至第4実施形態では、回転部材41に突出部416を設けて、その内周面(回転部材41の第2内周面41c)とシール部材44の外周面44cとを径方向に当接させ固定する構成を記載したが、これに限定されず、突出部416を設けず、シール部材44の下面44aを回転部材41の端面41bに軸方向に当接させ固定するだけでもよい。しかし、固定強度の点から、回転部材41の突出部416のようなシール部材44の外周面44cを固定する部材を設けていることが好ましい。
【0103】
また、回転部材41を、図17に示すように、シャフト34の外周面34aに微小間隙を介して嵌挿されるスリーブ70と、スリーブ70の外周面70aに固定又は一体成形されるハブ71とを有する構成にしてもよい。スリーブ70は、シャフト34の外周側に配置されてその内周面70bがシャフト34を取り囲む略円筒形状の部材である。スリーブ70は、その端面が環状部材35の下面35aと対向するように配置され、シャフト34及び環状部材35に対して回転可能に支持されている。また、ハブ71は、スリーブ70に固定されてスリーブ70とともに回転する部材である。ハブ71は、中心軸Lの周囲において径方向に広がる形状を有する。
【0104】
この場合、スリーブ70の外周面70aに、スリーブ70の上端面から下端面にかけてその内部を軸方向に貫通する1つ又は複数の軸方向溝を有しており、その軸方向溝72と、スリーブ外周面70aに対向するハブ内周面71aとで連通孔72を形成する。この連通孔72は、上述した回転部材41の連通孔415に対応する。
【0105】
また、上述した回転部材41の端面41bを構成する第1端面41ba、第2端面41bb、第3端面41bcに対応する部位については、特に限定せず、スリーブ70の端面とハブ71の端面とで適宜構成することができる。
【0106】
上記実施形態では、環状部材35とシャフト34とを別個に製造しておき、その後に固定した構成を示したが、環状部材35とシャフト34とを単一の部材から構成されたものでもよい。
【0107】
上記実施形態では、軸固定型のアウターロータ型スピンドルモータについて説明したが、本発明は、軸回転型のモータや、インナーロータ型スピンドルモータにも適用することができる。なお、軸回転型のモータの場合、スリーブ70とハブ71との間にスリーブハウジングを挟持した構成のものがあるが、その場合、スリーブ、ハブ、スリーブハウジングは単一の部材から構成されたものでも、また、それぞれ別個に製造しておき、その後に固定又は一体加工する構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】ディスク駆動装置の縦断面図である。
【図2】スピンドルモータの縦断面図である。
【図3】回転部材とシール部材との関係を示す、環状部材及びその周囲の構成を示した一部分解縦断面図である。
【図4】図2におけるM−M方向から回転部材を見た断面斜視図である。
【図5】図4の他の実施形態(スラスト動圧軸受部の場合)を示した図である。
【図6】第1実施形態に係るシール部材の裏面斜視図である。
【図7】シール部材の第2端面が傾斜面である場合の拡大縦断面図である。
【図8】環状部材に形成されたコニカル動圧発生溝を示す図である。
【図9】各微小間隙の幅の大小関係を示す図である。
【図10】第2実施形態に係るシール部材と、回転部材との関係を示した拡大断面図である。
【図11】第2実施形態に係るシール部材の裏面斜視図である。
【図12】第3実施形態に係るシール部材と、回転部材との関係を示した拡大断面図である。
【図13】第3実施形態に係る環状部材の下面図である。
【図14】第4実施形態に係るシール部材と、回転部材との関係を示した拡大断面図である。
【図15】第5実施形態に係るシール部材と、回転部材との関係を示した拡大断面図である。
【図16】第6実施形態に係るシール部材と、回転部材との関係を示した拡大断面図である。
【図17】回転部材がスリーブとハブとを有している場合のスピンドルモータの縦断面図である。
【図18】第3実施形態に係る場合のスピンドルモータの縦断面図である。
【図19】第5実施形態に係る場合のスピンドルモータの縦断面図である。
【図20】シャフトと環状部材とが一体となった場合のスピンドルモータの縦断面図である。
【符号の説明】
【0109】
1 スピンドルモータ
2 ディスク駆動装置
3 ステータ部
35 環状部材
35a 下面
35b 外周面
4 ロータ部
41 回転部材
411 胴部
41a 第1内周面
41b 端面
41ba 第1端面
41bb 第2端面
41bc 第3端面
41bd 段差部
412 円筒部
413 台部
413a フランジ面
414 押さえ部材
415 連通孔
415a 開口部
416 突出部
41c 第2内周面
44 シール部材
441 壁面部
44a 内周面
442 カバー部
442a 内周面
443 固定部
44b 下面
44ba 第1端面
44bb 第2端面
44bc 段差部
44c 外周面
444 径方向溝
50 コニカル動圧溝列
5 潤滑オイル
6 流体動圧軸受装置
60 スラスト動圧溝列
65 ラジアル動圧溝列
L 中心軸
A 中心軸を含む断面における環状部材の最も径方向外側に位置する部位とシール部材内周面との幅
B 中心軸を含む断面におけるシール部材の下面の最も径方向内側に位置する部位と回転部材の端面との幅
C 中心軸を含む断面における第3微小間隙の幅
D 中心軸を含む断面における第4微小間隙の幅
P 第1微小間隙
Q 第2微小間隙
R 第3微小間隙
S 第4微小間隙
T 第5微小間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体動圧軸受装置であって、
流体動圧軸受装置の中心軸として配置されるシャフトと、
前記シャフトの外周面から径方向外側に突出し、前記シャフトと固定又は一体成形される環状部材と、
を有する固定部と、
前記シャフトの外周面と微小間隙を介して対向する内周面を有し、前記シャフト及び前記環状部材に対して相対的に回転自在であり、軸方向の少なくとも一方に端面を有し、前記端面からその内部を軸方向に貫通する1つ又は複数の連通孔を有する回転部材と、
その径方向内周面と前記環状部材の径方向外周面との間の第1微小間隙に、前記回転部材側に向けて漸次に収束するテーパシール部を形成し、前記回転部材の軸方向の端面に第2微小間隙を介して固定されるシール部材と、
を有する回転部と、
前記回転部材の前記端面の径方向内側に連続する回転部材軸受面と、前記回転部材軸受面に対向する前記環状部材の環状部材軸受面との第3微小間隙に形成される動圧軸受部と、
互いに連通する前記第1、第2、第3微小間隙を含む空間中に作動流体として充填される潤滑オイルと、
を備え、
前記中心軸を含む断面における前記環状部材の最も径方向外側に位置する部位と前記シール部材内周面との幅をA、
前記中心軸を含む断面における前記シール部材の最も径方向内側に位置する部位と前記回転部材の軸方向の端面との幅をB、
前記中心軸を含む断面における前記第3微小間隙の幅をC、
としたとき、
前記幅Aは前記幅Bよりも小さく、前記幅Aは前記幅Cよりも大きいことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体動圧軸受装置において、
前記シール部材の前記回転部材側の端面に、径方向において段差部を形成し、前記段差部を介して径方向外側の第1端面と径方向内側の第2端面とを有し、前記第1端面を前記回転部材の前記端面に固定させることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の流体動圧軸受装置において、
前記シール部材の前記回転部材側の端面に、少なくとも径方向内側を開口した径方向溝が1つ又は複数形成し、前記回転部材の1つ又は複数の前記連通孔とそれぞれ連通していることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項4】
流体動圧軸受装置であって、
流体動圧軸受装置の中心軸として配置されるシャフトと、
前記シャフトの外周面から径方向外側に突出し、前記シャフトと固定又は一体成形される環状部材と、
を有する固定部と、
その第1内周面と前記シャフトの外周面とが微小間隙を介して対向し、
その第2内周面と前記環状部材の外周面との間の第1微小間隙に、軸方向外側に向けて漸次に拡大するテーパシール部を形成し、
その軸方向の少なくとも一方に有した端面と前記環状部材の軸方向の端面とが第2微小間隙を介して対向し、
前記シャフト及び前記環状部材に対して相対的に回転自在であり、前記端面からその内部を軸方向に貫通する1つ又は複数の連通孔を有する回転部材と、
を有する回転部と、
前記回転部材の前記端面の径方向内側に連続する回転部材軸受面と、前記環状部材の前記端面の径方向内側に連続し、前記回転部材軸受面に対向した環状部材軸受面との第3微小間隙に形成される動圧軸受部と、
互いに連通する前記第1、第2、第3微小間隙を含む空間中に作動流体として充填される潤滑オイルと、
を備え、
前記中心軸を含む断面における前記環状部材の最も径方向外側に位置する部位と前記回転部材の前記第2内周面との幅をA、
前記中心軸を含む断面における前記第2微小間隙の幅をB、
前記中心軸を含む断面における前記第3微小間隙の幅をC、
としたとき、
前記幅Aは前記幅Bよりも小さく、前記幅Aは前記幅Cよりも大きいことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項4に記載の流体動圧軸受装置において、
前記環状部材の前記回転部材側の端面又は前記回転部材の前記環状部材側の端面に、径方向において段差部を形成し、前記段差部を介して径方向外側の第1端面と径方向内側の第2端面とを有し、前記第2端面が前記環状部材軸受面又は前記回転部材軸受面であることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、
前記回転部材の前記端面より径方向内側の部位は、前記中心軸を含む断面において、前記回転部材の前記端面の内縁部分から前記シャフトの軸方向中央に向かって傾斜した略台形状をなしており、その部位の傾斜面に位置する前記回転部材軸受面と、それに対向する前記環状部材軸受面との第3微小間隙にコニカル動圧軸受部が形成されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、
前記環状部材軸受面と、それに対向する前記回転部材軸受面とが、前記シャフトの外周面に対して垂直になるように形成及び配置され、それらの間の第3微小間隙にスラスト動圧軸受部が形成され、
前記シャフトの径方向外側に位置するシャフト軸受面と、それに対向する前記回転部材軸受面との微小間隙にラジアル動圧軸受部が形成されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、
前記中心軸を含む断面における前記連通孔の幅をD、
としたとき、
前記幅Bは前記幅Dより小さいことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の流体動圧軸受装置において、
前記回転部材は、
前記シャフトの外周面に微小間隙を介して嵌挿されるスリーブと、
前記スリーブの外周面に固定又は一体成形されるハブと、
を有することを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項10】
請求項9に記載の流体動圧軸受装置において、
前記スリーブの外周面又は前記ハブの内周面に、軸方向一方側端部から軸方向他方側端部にわたって軸方向溝を1つ又は複数形成し、前記軸方向溝と、それに対向する前記ハブの内周面又は前記スリーブの外周面とで前記連通孔を形成することを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータであって、
前記流体動圧軸受装置の前記固定部と、
磁束発生部と、
を有するベース部材と、
前記流体動圧軸受装置の前記回転部と、
前記磁束発生部に対向して前記回転部に取り付けられたロータマグネットと
を有するロータユニットと、
を備えることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項12】
ディスクを回転させるディスク駆動装置であって、
装置ハウジングと、
前記装置ハウジングの内部に固定された請求項11記載のスピンドルモータと、
前記ディスクに対して情報の読み出しおよび/または書き込みを行うアクセス部と、
を備えることを特徴とするディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−216183(P2009−216183A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60769(P2008−60769)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】