説明

流水用FRP製整流板の製造方法および流水用FRP製整流板

【課題】長手方向の寸法が長くなっても、面内反りが殆ど無く、機械のスロットへの取付け側が常に殆ど真っ直ぐになっているFRP製整流板の提供。
【解決手段】補強繊維基材の積層構成を、幅方向の各部位において、長手方向の硬化後の熱収縮量と飽和吸水後の湿潤膨張量の差ができるだけ小さくなるように設計しておき、上記積層構成の補強繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させ加熱により硬化成形して熱収縮由来の面内反りの有る成形品を製造した後、その成形品に飽和吸水量まで吸水させることで湿潤膨張させて面内反りを戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流水に浸漬して使用するFRP(繊維強化プラスチック)製整流板の製造方法とFRP製整流板に係り、特に、面内反りの殆ど無い真直度の高い整流板の製造方法とFRP製整流板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FRP製品は、軽量でありながら、十分な強度・剛性を有すると共に、錆が発生し難く、耐食性にも優れるため、耐久性もよい。また、表面が平滑に成形できる上に耐菌性もよい。さらに、要求仕様(形状、強度・剛性)に合わせて、各部位での形状や強度・剛性を自在に設計できるので、各用途で有望視されている。
殊に、図1に示すように、流水用整流板1は、板面の大きさに比べて板厚が薄い長方形になっている。厚さ方向の上下で対称となっており、且つ長手方向では厚みが一様な断面を呈するが、幅方向ではテーパー部3とホルダー部9の間には、フラット部5、整流部7が配置されてそれぞれ厚みが異なっており、比較的複雑な異方性形状になっていることから、FRPで製造することが有望視されている。
【0003】
ところで、FRPで成形する際、型内にマトリックス樹脂を注入した後に加熱して成形硬化すると、マトリックス樹脂が熱収縮する。
従って、厚み方向の各部位で補強繊維基材の積層構成を一様に設計したのでは、長手方向の寸法が長くなるほど、幅方向のテーパー部3側の長手方向への熱収縮量がホルダー部9側の長手方向への熱収縮量より大きくなってしまう。そのため、整流板は、面内反りが大きく生じて扇子を開いたときのように、逆刀反り状態となる。
而して、整流板は機械のスロットにホルダー部9を挿入して取り付けるので、取り付け側であるホルダー部9は真直度が高い、即ち真っ直ぐになっていることが必要である。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4617091号明細書
【特許文献2】特開2004−308081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献にも、FRP製整流板は提案されているが、熱収縮による面内反りの問題については何ら考慮されていない。
予め熱収縮量を考慮して補強繊維基材の積層構成を設計しておけば、新品の取り付け時には不都合はない。
しかしながら、整流板は長時間にわたって被整流体に暴露されるものであり、その被整流体が水のような場合には樹脂は吸水して湿潤膨張する。従って、今度は経時的に湿潤膨張による面内反りが大きくなるので、古くなったものを取り外し難くなる。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、長手方向の寸法が長くなっても、経時的に面内反りが発生し難く、機械のスロットへの取付け側が常に殆ど真っ直ぐになっているFRP製整流板の製造方法および流水用FRP製整流板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、流水に浸漬させて用いる整流板の場合には、流水に浸漬すると樹脂が吸水して長手方向に湿潤膨張するが、湿潤膨張方向は熱収縮方向と逆であることを利用して、二段階にわたる曲げを経て最終的に面内反りを殆ど無くし、しかも使用中その状態を保持できるものを作り出すことを提案するに至った。
即ち、請求項1の発明は、流水用FRP製整流板の製造方法であって、補強繊維基材の積層構成を、幅方向の各部位において、長手方向の硬化後の熱収縮量と飽和吸水後の湿潤膨張量の差ができるだけ小さくなるように設計しておき、上記積層構成の補強繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させ加熱により硬化成形して熱収縮由来の面内反りの有る成形品を製造した後、その成形品に飽和吸水量まで吸水させることで湿潤膨張させて面内反りを戻すことを特徴とする整流板の製造方法である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、補強繊維基材として炭素繊維を少なくとも一部用いており、且つ繊維体積含有率を30〜65%の範囲内としたことを特徴とする整流板の製造方法である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、湿潤膨張量を整流板の厚さtの1/√tに比例すると仮定して、補強繊維基材の積層構成を設計することを特徴とする整流板の製造方法である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、成形品を65〜75℃の温水に浸漬させて飽和吸水量まで吸水させることを特徴とする整流板の製造方法である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、飽和吸水量まで吸水させた後の最終的な長手方向軸線に対する曲がり量が0〜3mm以内となるよう、補強繊維基材の積層構成を設計することを特徴とする整流板の製造方法である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂のいずれかを用いたことを特徴とする整流板の製造方法である。
【0013】
請求項7の発明は、流水用FRP製整流板であって、補強繊維基材の積層構成が、幅方向の各部位において、長手方向の硬化後の熱収縮量と飽和吸水後の湿潤膨張量の差ができるだけ小さくなるように設計されていることを特徴とする整流板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法で整流板を製造すれば、新品のときも古くなって交換するときも、殆ど真っ直ぐになっているので、機械のスロットへの取り付けや取り外しが簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の整流板の製造方法を図面にしたがって説明する。
この整流板1は流水用のものであり、水中に浸漬させて使用する。なお、水は純粋な水のみならず、何らかの成分が混入された混合水や水溶液も含まれる。
整流板1は、図1に示す典型的な外形状のものであり、板面の大きさに比べて板厚が薄い長方形になっている。厚さ方向の上下で対称となっており、且つ長手方向では厚みが一様な断面を呈するが、幅方向では厚みが異なり、一端側端部は先細りになる断面を呈するなど、比較的複雑な異方性形状になっている。
【0016】
図2は、整流板1の具体的な断面を示す。マトリックス樹脂11が補強繊維基材13に含浸されて成形されている。
マトリックス樹脂11は熱硬化性樹脂で構成されており、一旦飽和吸水した後は水を放出し難く使用時には既に安定して飽和吸水しているものが好ましいことから、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂のいずれかを用いるのが推奨される。
【0017】
補強繊維基材13は複数の補強繊維の層15a、15b、15c、15d、15eが交互に上下対称に積層されている。補強繊維としては、要求される強度などや使用環境に応じて、負(マイナス)の線膨張率を有する炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などから適宜選択したものを用いることができる。軽量・高強度のFRP製品を得るためには、炭素繊維を用いるのが好ましいが、コストとのバランスを考慮すると、ガラス繊維/炭素繊維のハイブリッドのものを用いるのが好ましく、その体積比率は、1:0.05〜1:1の範囲内に設定するのが最も好ましい。
【0018】
炭素繊維の種類としては、炭素繊維の高い強度・剛性の観点からは特に制限されないが、より低コストであることを考えると、いわゆるラージ・トウの炭素繊維を用いることが好ましい。たとえば、炭素繊維糸1本のフィラメント数が通常の10,000本未満のものではなく、10,000〜300,000本の範囲、より好ましくは50,000〜150,000本の範囲にあるトウ状の炭素繊維フィラメント糸を用いる方が、マトリックス樹脂の含浸性、強化繊維基材としての取扱い性、さらには強化繊維基材の経済性の点からより好ましい。
要求される強度などに応じて、複数の補強繊維の層を積層して補強繊維基材を形成する。補強繊維の層として、一方向に引き揃えた繊維層や織物層を適宜用いることができ、その繊維配向方向も適宜選択できる。
【0019】
繊維体積含有率は30〜65%の範囲内にあり、好もしくは、40〜60%の繊維体積含有率とすることにより、強度・剛性の発現率が最も高いFRP製整流板が得られる。
【0020】
補強繊維基材を形成する補強繊維層の積層構成は、以下の指針に基づいて、幅方向の各部位において、長手方向の硬化後の熱収縮量と飽和吸水後の湿潤膨張量の差ができるだけ小さく、好ましくは飽和吸水量まで吸水させた後の最終的な長手方向軸線に対する曲がり量(w2)が0〜3mm以内となるよう、設計する。
(1)補強繊維の種類、繊維比率、目付けなどから、補強繊維層の長手方向線膨張率が変更する。また、厚み方向への複数の補強繊維層の積層により、長手方向の単位長さ当たりの熱収縮量は減少する。
(2)繊維体積含有率が30〜65%の範囲内にあるときには、含浸し硬化した樹脂の吸水による湿潤膨張量は、成形品の厚さtの1/√tに比例する。
実際の設計に際しては、幅方向のいずれかに部位を中立軸(x―x軸)として、その左右の部位に分けて熱収縮量と湿潤膨張量とのバランスをとることになる。
【0021】
なお、上記での「長手方向軸線に対する曲がり量」とは、整流板1の長手方向のホルダー部側両端部を結んだ線分と実際の輪郭線との最大距離量(mm単位)を示す。図3では、成形後熱収縮したときの長手方向軸線に対する曲がり量はw1で示し、吸水後湿潤膨張したときの長手方向軸線に対する曲がり量はw2で示している。
本発明では面内反りの程度を長手方向軸線に対する曲がり量で評価している。
【0022】
次に、製造方法について、図3にしたがって説明する。
FRP製整流板の定法に従って製造する。所定形状の金型内に上記指針に基づいて設計した積層構成による補強繊維基材を配置し、マトリックス樹脂を注入後加熱して硬化成形後、金型から取り出す。その後、必要に応じてアフターキュアーをする。この段階では、成形品は逆刀反り状態となっている。好ましくは、長手方向軸線に対する曲がり量を、目的とする曲がり基準に対して−2〜+2mmの範囲内に収まるように成形条件を調整する。
その後、水に浸漬させて飽和量まで吸水させる。好ましくは65〜75℃、より好ましくは70℃前後の温水に浸漬して吸水を促進する。吸水により、今度は逆方向に曲がるので、殆ど真っ直ぐか或いは僅かな逆刀反り状態になる。
なお、図3では、視認の便宜のため、曲がりが実際より極端に大きくなっている。
【実施例】
【0023】
長手方向の寸法が9,000mmからなる整流板を製造することを目的として、
図2に示す補強繊維基材の積層構成を、以下の表のように設計した。
【0024】
【表1】

【0025】
長手方向の寸法:9,500mm、幅方向の寸法:680mm、フラット部の厚み寸法:3mm、テーパー部先端の厚み寸法:0.7mmの整流板を製造すべく、対応する形状の金型に上記の積層構成による補強繊維基材を配置し、75℃に加温するとともに、キャビティ内を−0.095MPaに減圧した。その後、真空脱泡したビスフェノール系のエポキシ樹脂(マトリックス樹脂)を注入後、115℃に昇温し、硬化成形後、金型から取り出した。そして、アフターキュアー後、長手方向軸線に対する曲がり量は、目的とする曲がり基準に対して−2〜+2mmの範囲内に収まっていた。
上記の成形品を、70℃に保持した温水漕内で、30日間吸水させたところ、最終的に長手方向軸線に対する曲がり量(w2)は0〜3.0mm以内になった。
幅方向の各部位における長手方向の変形量を、図4に示す。
上記のように製造した整流板を、実際の装置に取り付けて使用したところ、半年経過しても、長手方向の真直度に変化は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法で製造した整流板は、機械のスロットへの取付け取り外しが容易で、さらにFRP製品本来の特性を有するので、非常に有望である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一例の整流板の斜視図である。
【図2】図1の整流板の一例の断面図である。
【図3】本発明の製造方法の説明図である。
【図4】実施例における長手方向変形量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1…整流板 3…テーパー部 5…フラット部
7…整流部 9…ホルダー部
11…マトリックス樹脂 13…補強繊維基材
15a、15b、15c、15d、15e…補強繊維の層
x−x軸…中立軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水用FRP製整流板の製造方法であって、補強繊維基材の積層構成を、幅方向の各部位において、長手方向の硬化後の熱収縮量と飽和吸水後の湿潤膨張量の差ができるだけ小さくなるように設計しておき、
上記積層構成の補強繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させ加熱により硬化成形して熱収縮由来の面内反りの有る成形品を製造した後、その成形品に吸水させることで湿潤膨張させて面内反りを戻すことを特徴とする整流板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、補強繊維基材として炭素繊維を少なくとも一部用いており、且つ繊維体積含有率を30〜65%の範囲内としたことを特徴とする整流板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、湿潤膨張量を整流板の厚さtの1/√tに比例すると仮定して、補強繊維基材の積層構成を設計することを特徴とする整流板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、成形品を65〜75℃の温水に浸漬させて飽和吸水量まで吸水させることを特徴とする整流板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、飽和吸水量まで吸水させた後の最終的な長手方向軸線に対する曲がり量が0〜+3mm以内となるよう、補強繊維基材の積層構成を設計することを特徴とする整流板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載した流水用FRP製整流板の製造方法において、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂のいずれかを用いたことを特徴とする整流板の製造方法。
【請求項7】
流水用FRP製整流板であって、補強繊維基材の積層構成が、幅方向の各部位において、長手方向の硬化後の熱収縮量と飽和吸水後の湿潤膨張量の差ができるだけ小さくなるように設計されていることを特徴とする整流板。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−233886(P2009−233886A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79781(P2008−79781)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000105899)サカイ・コンポジット株式会社 (11)
【Fターム(参考)】