説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】それぞれのノズルごとにヒーターを高密度に形成でき、それぞれのノズル開口から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて、ノズル開口に対応するヒーターの加熱タイミングをそれぞれ制御する手段を構築できる液体噴射ヘッドの提供。
【解決手段】複数のノズル開口13からなるノズル列が形成されたノズルプレート14と、ノズルプレート14と接し、複数のノズル開口13のそれぞれに連通路としてのノズル連通孔24を介して連通する複数の圧力発生室11が、ノズル列方向に形成された流路形成基板12と、ノズルプレート14と接し、複数の圧力発生室11と対向する位置であって液体が流れる流路外に設けられ、複数の圧力発生室11内の液体としてのインクを加熱する少なくとも一つの加熱体部としてのヒーター60と、を備え、ヒーター60は、ノズル列方向に亘って形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの一例として、例えば圧力発生素子及び圧力発生室が設けられたアクチュエーターユニットを備え、圧力発生室に連通してノズルプレートに設けられたノズル開口からインクなどの液体を吐出する液体噴射ヘッドがある。このような液体噴射ヘッドを用いて、高粘度の液体を噴射しようとすると、圧力発生素子に高い電圧を供給して圧力発生素子の駆動力を高める必要がある。そこで、特許文献1では、ノズル開口ごとに液体の粘度を低減させる加熱手段としてのヒーターを備え、ノズル開口から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じてヒーターによる加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段を備えた液体噴射装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−104135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、高解像度の画像を形成するためにノズルプレートに形成されるノズル開口の個数を多くすることが行われる。しかしながら、ノズルプレートに形成されるノズル開口の個数を多くすると、ノズルプレートにはノズル開口を高密度に形成しなくてはならない。そのため、特許文献1のように、それぞれのノズル開口ごとにヒーターを高密度に形成することは容易ではないという課題がある。また、それぞれのノズル開口から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて、ノズル開口に対応するヒーターの加熱タイミングをそれぞれ制御する手段を構築するのは容易ではないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]複数のノズル開口からなるノズル列が形成されたノズルプレートと、前記ノズルプレートと接し、前記複数のノズル開口のそれぞれに連通路を介して連通する複数の圧力発生室が、前記ノズル列方向に形成された流路形成基板と、前記ノズルプレートと接し、前記複数の圧力発生室と対向する位置であって液体が流れる流路外に設けられ、前記複数の圧力発生室内の液体を加熱する少なくとも一つの加熱体部と、を備え、前記加熱体部は、前記ノズル列方向に亘って形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この構成によれば、ノズルプレートと接し、圧力発生室と対向する位置であって液体が流れる流路外に設けられ、圧力発生室内の液体を加熱する少なくとも一つの加熱体部を備える。これにより、加熱体部から発生した熱がノズルプレートを伝導してノズル開口を流れる液体の温度を上げるとともに、圧力発生室内を流れる液体の温度を上げることができる。そのため、高粘度の液体を低粘度化させてからノズル開口から吐出させることが可能となる。また、少なくとも一つの加熱体部が、ノズル列方向に亘って形成されている。そのため、加熱体部によって、液体噴射ヘッドに形成された複数のノズル開口を通過する液体と、複数の圧力発生室内を流れる液体の温度を上げることができる。従って、少なくとも一つの加熱体部を液体噴射ヘッドに形成すればよいので、加熱体部を容易に形成することが可能となる。
【0008】
[適用例2]前記圧力発生室と前記加熱体部とが対向する方向と直交する方向において、前記流路形成基板と前記加熱体部との間には空洞が設けられたことを特徴とする上記液体噴射ヘッド。
【0009】
この構成によれば、空洞によって、圧力発生室と加熱体部とが対向する方向と直交する方向への熱伝導性が低下する。これにより、加熱体部で発生し、圧力発生室と加熱体部とが対向する方向に伝導する熱量が増えるので、圧力発生室内の液体の温度をさらに上げることができる。
【0010】
[適用例3]前記圧力発生室と前記加熱体部とが対向する方向において、前記流路形成基板より高い熱伝導性を有し、前記圧力発生室の一部の壁面を形成し、前記加熱体部と接する熱伝導性プレートを備えたことを特徴とする上記液体噴射ヘッド。
【0011】
この構成によれば、熱伝導性プレートによって加熱体部と圧力発生室との熱伝導性が向上する。これにより、加熱体部から発生した熱が熱伝導性プレートを伝導して圧力発生室内の液体の温度をさらに上げることができる。
【0012】
[適用例4]前記圧力発生室よりも上流側には前記圧力発生室に連通する液体供給口をさらに備え、前記ノズル開口から液体が吐出されているとき、前記ノズル開口を通過する液体の粘度は、前記液体供給口を通過する液体の粘度より低いことを特徴とする上記液体噴射ヘッド。
【0013】
この構成によれば、圧力発生室内の液体が吐出されようとする際に、圧力発生室の上流側に流れようとする液体と圧力発生室の下流側に流れようとする液体とが存在する。圧力発生室の下流側の液体は圧力発生室の上流側に流れようとする液体よりも低粘度になっているため、圧力発生室内の液体は、圧力発生室の上流側よりも圧力発生室の下流側にあるノズル開口側に流れようとする。そのため、圧力発生室の液体をノズル開口から吐出することが容易となる。
【0014】
[適用例5]上記液体噴射ヘッドと、前記加熱体部に通電し、前記加熱体部を発熱させる通電回路部と、温度センサーを有し、前記圧力発生室内の液体の温度を検出する液体温度検出部と、前記液体温度検出部によって検出された前記温度に基づいて、前記通電回路部を制御し、前記加熱体部の発熱量を制御する加熱制御部と、を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0015】
この構成によれば、液体噴射ヘッドに形成された複数の圧力発生室内の液体の温度の範囲を調整することができる。そのため、複数の圧力発生室内の液体の粘度の範囲を調整し、ノズル開口から高粘度の液体を噴射させることが容易となる。従って、加熱体部を加熱するための制御手段を容易に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】インクジェット式プリンターの概略斜視図。
【図2】液体噴射ヘッドの断面図。
【図3】液体噴射ヘッドの部分断面図。
【図4】ノズルプレートに備えられたヒーターの部分斜視図。
【図5】インクジェット式プリンターの電気的な概略構成を示すブロック図。
【図6】第2実施形態における液体噴射ヘッドの断面図。
【図7】第3実施形態における液体噴射ヘッドの断面図。
【図8】第4実施形態における液体噴射ヘッドの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の液体噴射装置の一例としてのインクジェット式プリンター(以下「プリンター」という)1の概略斜視図である。プリンター1のキャリッジ9は、キャリッジモーター6により駆動されるタイミングベルト3によって、ガイド軸2に案内されて主走査方向D1に往復移動されるように構成されている。
【0018】
プリンター1には、一定間隔のスリットが主走査方向D1に亘って描かれたリニアスケール4と、キャリッジ9に固定された光学系センサー(不図示)からなるリニアエンコーダーが備えられる。光学系センサーによって、スリットを検出し、主走査方向D1の位置を検出することができる。
【0019】
紙送りモーター7によって駆動される紙送りローラー(不図示)と回転自由な従動ローラー(不図示)に挟まれながら、記録媒体としての記録用紙Pが副走査方向D2に搬送される。
【0020】
図2は、インクジェット式液体噴射ヘッド(以下「液体噴射ヘッド」という)10の断面図である。図1のキャリッジ9の記録用紙Pに対向する側には、図2の液体噴射ヘッド10が搭載され、キャリッジ9の図面上側には、液体噴射ヘッド10に液体としてのインクを供給するブラックインクカートリッジ5a及びカラーインクカートリッジ5bが着脱可能に装填されている。
【0021】
ブラックインクカートリッジ5a及びカラーインクカートリッジ5bには、例えば、紫外線硬化型インクのような高粘度の液体であるインクが充填される。主走査方向D1に往復移動する液体噴射ヘッド10とプラテン8の間を、副走査方向D2に通過する記録用紙Pに、液体噴射ヘッド10からインクが液体噴射方向D3に吐出され、文字や画像が形成される構成となっている。
【0022】
図2に示すように、液体噴射ヘッド10は、圧力発生室11を有する流路形成基板12と、圧力発生室11に連通するノズル開口13が穿設されたノズルプレート14と、流路形成基板12のノズルプレート14とは反対側の面に設けられる振動板15とを具備する流路ユニット16を有する。さらに、振動板15上の圧力発生室11に対応する領域に設けられる圧電素子17を有する圧電素子ユニット18と、振動板15上に固定されて圧電素子ユニット18が収容される収容部19を有するケースヘッド20とを有する。
【0023】
ノズルプレート14には、図1の副走査方向D2に複数のノズル開口13からなるノズル列が形成されている。流路形成基板12には、一方面側の表層部分に、隔壁によって区画された複数の圧力発生室11が、各ノズルに対応してノズル列方向に並んで設けられている。
【0024】
各圧力発生室11の列の外側には、ケースヘッド20外部のインク供給手段としてのブラックインクカートリッジ5a及びカラーインクカートリッジ5bに連通するインク導入口21を介してインクが供給されて、複数の圧力発生室11に対して共通の液体室となるリザーバー22が、流路形成基板12を厚さ方向に貫通して設けられている。そして、リザーバー22と各圧力発生室11とは、インク供給口23を介して連通され、各圧力発生室11には、インク供給手段からインク導入口21及びリザーバー22を介してインクが供給される。もちろん、リザーバー22は流路形成基板12に形成されている必要は無く、たとえば、ケースヘッド20にリザーバー22を設けて、振動板15に後述のインク供給口23を設けて、リザーバー22と圧力発生室11を液体的に連通させても良い。
【0025】
インク供給口23(液体供給口の一種)は、圧力発生室11毎に形成されている。また、インク供給口23は、圧力発生室11よりも狭い断面積で形成されているため、リザーバー22から圧力発生室11に流入するインクの流路抵抗を一定に保持する役割を果たしている。さらに、圧力発生室11のリザーバー22とは反対の端部側には、流路形成基板12を貫通して、圧力発生室11毎にノズル連通孔24が形成されている。
【0026】
このように、本実施形態では、リザーバー22からインク供給口23を介して流路形成基板12の面方向にインクを流すことにより各圧力発生室11にインクを充填するように構成してある。すなわち、流路形成基板12には圧力発生室11、リザーバー22、インク供給口23、ノズル連通孔24が設けられている。
【0027】
このような流路形成基板12は、シリコン単結晶基板からなり、流路形成基板12に設けられる上記圧力発生室11等は、流路形成基板12をエッチングすることによって形成されている。もちろん、流路形成基板12の材料としては、シリコン単結晶基板以外にステンレスなどの金属材料や感光性樹脂などの樹脂材料を用いても良い。
【0028】
流路形成基板12の一方面側にはノズルプレート14が接着剤50を介して接着され、各ノズル開口13は、流路形成基板12に設けられたノズル連通孔24を介して各圧力発生室11と連通している。一方、流路形成基板12の他方面側には振動板15が接合されている。各圧力発生室11はこの振動板15によって画成されている。
【0029】
振動板15は、例えば樹脂フィルム等の弾性部材からなる弾性膜25と、この弾性膜25を支持する、例えば金属材料等からなる支持板26との複合板で形成されており、弾性膜25側が流路形成基板12に接着剤51を介して接合されている。
【0030】
また、振動板15の各圧力発生室11に対向する領域内には島部27が設けられ、島部27には圧電素子17の先端部が当接する。圧電素子17の先端部は、接着剤28によって島部27に接合されている。
【0031】
また、振動板15のリザーバー22に対向する領域には、支持板26がエッチングにより除去されて実質的に弾性膜25のみで構成されるコンプライアンス部29が設けられている。尚、コンプライアンス部29は、リザーバー22内の圧力変化が生じた時に、コンプライアンス部29の弾性膜25が変形することによって圧力変化を吸収し、リザーバー22内の圧力を常に一定に保持する役割を果たす。さらに、振動板15にはインク導入口21とリザーバー22とが液体的に連通するように開口30が設けられている。
【0032】
圧電素子17は、一つの圧電素子ユニット18において一体的に形成されている。すなわち、圧電材料31と電極形成材料32,33とを縦に交互にサンドイッチ状に挟んで積層した圧電素子形成部材34を形成し、この圧電素子形成部材34を各圧力発生室11に対応して櫛歯状に切り分けることによって各圧電素子17が形成されている。
【0033】
圧電素子17(圧電素子形成部材34)の振動に寄与しない不活性領域、すなわち圧電素子17の基端部側が固定基板35に固着されている。本実施形態では、これら圧電素子17(圧電素子形成部材34)と固定基板35とで圧電素子ユニット18が構成されている。そして、圧電素子17の基端部近傍には、固定基板35とは反対側の面に、各圧電素子17を駆動するための信号を供給する配線36を有する回路基板37が接続されている。
【0034】
このような圧電素子ユニット18は、圧電素子17の先端部が、上述したように振動板15の島部27に当接された状態で固定されている。例えば、本実施形態では、振動板15上にケースヘッド20が固定されており、圧電素子ユニット18は、このケースヘッド20の収容部19内に収容されて、圧電素子17が固定された固定基板35が、圧電素子17とは反対面側でケースヘッド20に固定されている。具体的には、ケースヘッド20の収容部19内には、段差部38が設けられており、固定基板35は、このケースヘッド20の段差部38に接着剤39によって接合されている。
【0035】
さらにケースヘッド20上には、回路基板37の各配線36がそれぞれ接続される複数の導電パッド40が設けられた配線基板41が固定されており、ケースヘッド20の収容部19は、この配線基板41によって実質的に塞がれている。配線基板41には、ケースヘッド20の収容部19に対向する領域にスリット状の開口部42が形成されており、回路基板37はこの配線基板41の開口部42から収容部19の外側に引き出されている。
【0036】
また、圧電素子ユニット18を構成する回路基板37は、例えば、本実施形態では、圧電素子17を駆動するための駆動IC(不図示)が搭載されたチップオンフィルム(COF)からなる。そして、回路基板37の各配線36は、その基端部側では、例えば、半田、異方性導電材等によって圧電素子17を構成する電極形成材料32,33に接続されている。一方、先端部側では、各配線36は配線基板41の各導電パッド40に接合されている。具体的には、配線基板41の開口部42から収容部19の外側に引き出された回路基板37の先端部が配線基板41の表面に沿って折り曲げられた状態で、各配線36は配線基板41の各導電パッド40に接合されている。
【0037】
図3は、液体噴射ヘッド10の部分断面図である。図2、図3に示すように、流路形成基板12の液体流路とならない領域であって、圧力発生室11の列に対向する位置に、加熱体部として、例えばフィルムヒーターなどのヒーター60が備えられる。ヒーター60の振動板15側の面は、接着剤61を介して流路形成基板12と接続され、また、ヒーター60のノズルプレート14側の面は、接着剤50を介してノズルプレート14と接続される。また、図3に示すように、ヒーター60は、流路形成基板12の圧力発生室11と対向する領域には形成されているが、インク供給口23に対向する領域には及んで形成されていない。これは後述するが、インク供給口23を通過する液体を、ノズル開口13を通過する液体よりも高粘度にさせておく必要があるからである。
【0038】
図4は、ノズルプレート14に備えられたヒーター60の部分斜視図で、圧力発生室11側から見た図である。図4に示すように、ヒーター60は、ノズル開口13が並んで形成されたノズル列方向D4に亘って形成されている。
【0039】
図5は、プリンター1の電気的な概略構成を示すブロック図である。プリンター1は、プリンターコントローラー70、プリントエンジン100を含んで概略構成されている。
【0040】
プリンターコントローラー70は、ホストコンピューター200等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェース(外部I/F)71と、各種データ等を記憶するRAM72と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM75と、各部の制御を行う制御部73と、クロック信号CKを発生する発振回路74と、ヘッド駆動回路部101へ供給する駆動信号COMを発生する駆動信号発生回路76と、ドットパターンデータや駆動信号等をヘッド駆動回路部101に出力するための内部インターフェース(内部I/F)77とを備えている。
【0041】
RAM72は、受信バッファー、中間バッファー、出力バッファー及びワークメモリー(不図示)として利用されるものである。受信バッファーには、ホストコンピューター200からの印刷データが一時的に記憶され、中間バッファーには中間コードデータが記憶され、出力バッファーにはドットパターンデータが展開される。
【0042】
制御部73は、各部の制御を行うほか、ホストコンピューター200から外部I/F71を通じて印刷データを受信し、印刷データを中間コードデータに変換し、中間コードデータをドットパターンデータに変換する。
【0043】
制御部73は、このドットパターンデータを内部I/F77を通じてヘッド駆動回路部101に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成されている。
【0044】
制御部73は、発振回路74からのクロック信号CKに基づいてヘッド駆動回路部101に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号LATやチャンネル信号CHに含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
【0045】
駆動信号発生回路76は、制御部73によって制御され、圧電素子17を駆動するための駆動信号を発生する。駆動信号発生回路76は、ノズル開口13(図2参照)からインクをインク滴(液滴の一種)として吐出させて記録用紙P上にドットを形成させるための吐出駆動パルスや、ノズル開口13に露出したインクの自由表面、即ち、メニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を一吐出周期内に含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
【0046】
次に、プリントエンジン100の構成について説明する。プリントエンジン100は、キャリッジモーター6とキャリッジモーター6を駆動するための駆動回路部107、紙送りモーター7と紙送りモーター7を駆動するための駆動回路部108と、リニアエンコーダー110、リニアエンコーダー110から出力されたエンコーダーパルスをカウントするための計数回路部109、液体噴射ヘッド10に備えられた圧電素子17を駆動するためのヘッド駆動回路部101、液体噴射ヘッド10の圧力発生室11を加熱するための圧力発生室加熱部114、圧力発生室11内のインクの温度を検出するための液体温度検出部111とから構成されている。
【0047】
制御部73は、エンコーダーパルスがカウントされた値を計数回路部109から取得し、キャリッジ9(液体噴射ヘッド10)の主走査方向D1における走査位置を認識できる。
【0048】
ヘッド駆動回路部101は、シフトレジスター(SR)102、ラッチ103、デコーダー104、レベルシフター(LS)105、スイッチ106を備えている。プリンターコントローラー70から出力されたドットパターンデータSIは、発振回路74からのクロック信号CKに同期して、シフトレジスター102にシリアル伝送される。ドットパターンデータSIは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(吐出階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
【0049】
シフトレジスター102には、ラッチ103が電気的に接続されており、プリンターコントローラー70からのラッチ信号(LAT)がラッチ103に入力されると、シフトレジスター102のドットパターンデータをラッチする。このラッチ103にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー104に入力される。デコーダー104は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電素子17に対する吐出駆動パルスの供給又は非供給が選択される。
【0050】
デコーダー104は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター105に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター105に入力される。このレベルシフター105は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ106を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター105で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ106に供給される。スイッチ106の入力側には、駆動信号発生回路76からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ106の出力側には、圧電素子17が接続されている。
【0051】
パルス選択データは、スイッチ106の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電素子17への供給を制御する。例えば、スイッチ106に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ106が接続状態になって、対応する吐出駆動パルスが圧電素子17に供給され、この吐出駆動パルスの波形に倣って圧電素子17の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター105からはスイッチ106を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ106は切断状態となり、圧電素子17へは吐出駆動パルスが供給されない。
【0052】
このような動作を行うデコーダー104、レベルシフター105、スイッチ106、制御部73、及び駆動信号発生回路76は、吐出制御手段として機能し、ドットパターンデータSIに基づき、駆動信号の中から吐出駆動パルスを選択して圧電素子17に印加(供給)する。その結果、吐出駆動パルスの電圧変化に応じて圧電素子17が伸張又は収縮し、この圧電素子17の伸縮に伴って圧力発生室11(図2参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータSIを構成する階調情報に応じた量のインク滴がノズルから吐出される。
【0053】
圧力発生室加熱部114は、液体噴射ヘッド10に備えられた加熱体部としてのヒーター60と、ヒーター60に通電し、ヒーター60を発熱させる通電回路部115とから構成される。
【0054】
液体温度検出部111は、温度センサー113としてのサーミスター(不図示)とサーミスターから出力された信号を検出する検出回路部112とから構成される。サーミスターは、図3の圧力発生室11の近傍である、例えばノズルプレート14または流路形成基板12に備えられ、ノズルプレート14または流路形成基板12を介して圧力発生室11内のインクの温度を検出する。ノズル開口13から吐出されるインクの粘度は、吐出しやすい一定の粘度にする必要がある。ノズル開口13のメニスカスを利用して吐出する液体のスピードや量を制御するためには、低粘度化しすぎるのも良くない。しかしながら、圧力発生室11内に流れてくる液体の粘度は使用環境や噴射頻度によって一定ではない。また、粘度と温度とは相関がある。
【0055】
そのため、加熱制御部78は、温度センサー113と検出回路部112とからなる液体温度検出部111によって圧力発生室11内の温度を検出することで、圧力発生室11内の粘度を把握し、通電回路部115から出力される通電量を制御し、ヒーター60から発熱される発熱量を制御する。
【0056】
加熱制御部78は、ROM75に記憶された制御プログラムから構成され、制御部73がROM75から制御プログラムを読み出して、RAM72で実行することによって機能する。
【0057】
以上、本実施形態におけるプリンター1に備えられた液体噴射ヘッド10は、複数のノズル開口13からなるノズル列が形成されたノズルプレート14と、ノズルプレート14と接し、複数のノズル開口13のそれぞれに連通路としてのノズル連通孔24を介して連通する複数の圧力発生室11が、ノズル列方向D4に形成された流路形成基板12と、ノズルプレート14と接し、複数の圧力発生室11と対向する位置に設けられ、複数の圧力発生室11内の液体としてのインクを加熱する少なくとも一つの加熱体部としてのヒーター60と、を備え、ヒーター60は、ノズル列方向D4に亘って形成されている。
【0058】
この構成によれば、ヒーター60から発生した熱がノズルプレート14を伝導してノズル開口13を流れるインクの温度を上げるとともに、圧力発生室11内を流れるインクの温度を上げることができる。そのため、高粘度の液体であるインクをノズル開口13から吐出させることが可能となる。また、少なくとも一つのヒーター60が、ノズル列方向D4に亘って形成されている。そのため、ヒーター60によって、液体噴射ヘッド10に形成された複数のノズル開口13を通過するインクと、複数の圧力発生室11内を流れるインクの温度を上げることができる。従って、少なくとも一つのヒーター60を液体噴射ヘッド10に形成すればよいので、ヒーター60を容易に形成することが可能となる。
【0059】
また、圧力発生室11よりも上流側には圧力発生室11に連通する液体供給口としてのインク供給口23を備える。インク供給口23がノズルプレート14に対向する位置には、ヒーター60は備えられていない。このため、ノズルプレート14に対向する位置にヒーター60が備えられた圧力発生室11内を流れ、ノズル開口13を通過するインクの温度は、インク供給口23内を通過するインクの温度より高い。従って、ノズル開口13からインクが吐出されているとき、ノズル開口13を通過するインクの粘度は、インク供給口23を通過するインクの粘度より低いことになる。
【0060】
この構成によれば、圧力発生素子となる圧電素子17が駆動した結果、圧力発生室11内の圧力が発生した際に、圧力発生室11内のインクは、圧力発生室11の上流側よりも相対的に圧力発生室11の下流側にあるノズル開口13側に流れようとするので、圧力発生室11内のインクをノズル開口13から吐出することが容易となる。
【0061】
また、本実施形態で説明したプリンター1は、液体噴射ヘッド10と、加熱体部としてのヒーター60に通電し、ヒーター60を発熱させる通電回路部115と、温度センサー113としてのサーミスターを有し、圧力発生室11内の液体の温度を検出する液体温度検出部111と、液体温度検出部111によって検出された温度に基づいて、通電回路部115を制御し、ヒーター60の発熱量を制御する加熱制御部78と、を備える。
【0062】
この構成によれば、液体噴射ヘッド10に形成された複数の圧力発生室11内のインクの温度の範囲を調整することができる。そのため、複数の圧力発生室11内のインクの粘度の範囲を調整し、ノズル開口13から高粘度のインクを噴射させることが容易となる。従って、ヒーター60を加熱するための制御手段を容易に構築することができる。
【0063】
(第2実施形態)
第2実施形態では、流路形成基板12とヒーター60との間に空洞を設けた液体噴射ヘッドについて説明する。図6は、第2実施形態における液体噴射ヘッド10aの断面図である。
【0064】
図6の液体噴射ヘッド10aには、液体噴射方向D3と交わる方向において、ヒーター60のリザーバー22側に空洞62を設け、ヒーター60のノズル連通孔24側に空洞63が設けられている。空洞62,63により、ヒーター60からの熱が、液体噴射方向D3と交わる方向に伝わることが抑制される。すなわち、ヒーター60と流路形成基板12において、液体噴射方向D3と交わる方向における熱伝導性は、液体噴射方向D3における熱伝導性より低くすることができる。
【0065】
従って、ヒーター60で発生した熱量のうち、液体噴射方向D3に伝わる熱量の割合が増えるので、圧力発生室11内のインクの温度がさらに上がる。
【0066】
本実施形態におけるその他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同じである。
【0067】
(第3実施形態)
第2実施形態では、液体噴射方向D3と交わる方向において、ヒーター60の両側に空洞を設けたが、第3実施形態では、ヒーター60の片側に空洞を設けた液体噴射ヘッドについて説明する。図7は、第3実施形態における液体噴射ヘッド10bの断面図である。
【0068】
図7に示すように、液体噴射方向D3と交わる方向において、ヒーター60のリザーバー22側に空洞62を設け、ヒーター60のノズル連通孔24側には空洞を設けない。
【0069】
これにより、ヒーター60からノズル連通孔24側への熱伝導性は、ヒーター60からリザーバー22側への熱伝導性より高い。これにより、ノズル連通孔24内を流れるインクの温度は、リザーバー22内を流れるインクの温度より高くなる。
【0070】
これにより、ノズル開口13からインクが吐出されているとき、ノズル開口13を通過するインクの粘度は、リザーバー22内を通過するインクの粘度より低い。従って、圧力発生室11内のインクが、圧力発生室11の上流側に位置するリザーバー22側よりも圧力発生室11の下流側にあるノズル開口13側に流れようとするので、インクをノズル開口13から吐出することが容易となる。
【0071】
本実施形態におけるその他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同じである。
【0072】
(第4実施形態)
第4実施形態では、圧力発生室11のヒーター60側に、熱伝導性プレートを備えた液体噴射ヘッドについて説明する。図8は、第4実施形態における液体噴射ヘッド10cの断面図である。
【0073】
図8の液体噴射ヘッド10cの圧力発生室11のヒーター60側に、熱伝導性プレート64を備える。熱伝導性プレート64は、流路形成基板12を形成するシリコンより熱伝導性が高く、例えば、ステンレスやニッケルなどの部材によって形成され、圧力発生室11におけるヒーター60側の一部の壁面を構成する。
【0074】
これにより、熱伝導性プレート64によってヒーター60と圧力発生室11との熱伝導性が向上する。これにより、ヒーター60から発生した熱が熱伝導性プレート64を伝導して圧力発生室11内を流れるインクの温度をさらに上げることができる。
【0075】
本実施形態では、図7を用いて説明したように、ヒーター60のリザーバー22側に空洞62を有し、ヒーター60からの熱伝導性を低くしている。
【0076】
本実施形態におけるその他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同じである。
【0077】
第1実施形態から第4実施形態においては、液体噴射ヘッド10,10a,10b,10cには一つのヒーター60を備えたが、長手方向がノズル列方向D4の複数のヒーターを備えてもよい。
【0078】
また、第1実施形態から第4実施形態においては、記録用紙Pが搬送する副走査方向D2のノズル列が形成された液体噴射ヘッドを備えたプリンターについて説明したが、主走査方向D1にノズル列が形成された液体噴射ヘッドを備えたプリンターにも適用する。
【0079】
また、第1実施形態から第4実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例として、記録用紙Pに画像を形成するインクジェット式液体噴射ヘッドについて説明したが、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用する。
【符号の説明】
【0080】
1…インクジェット式プリンター、10,10a,10b,10c…液体噴射ヘッド、11…圧力発生室、12…流路形成基板、13…ノズル開口、14…ノズルプレート、24…ノズル連通孔、60…ヒーター、62,63…空洞、64…熱伝導性プレート、78…加熱制御部、111…液体温度検出部、115…通電回路部、D4…ノズル列方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル開口からなるノズル列が形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートと接し、前記複数のノズル開口のそれぞれに連通路を介して連通する複数の圧力発生室が、前記ノズル列方向に形成された流路形成基板と、
前記ノズルプレートと接し、前記複数の圧力発生室と対向する位置であって液体が流れる流路外に設けられ、前記複数の圧力発生室内の液体を加熱する少なくとも一つの加熱体部と、を備え、
前記加熱体部は、前記ノズル列方向に亘って形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧力発生室と前記加熱体部とが対向する方向と直交する方向において、前記流路形成基板と前記加熱体部との間には空洞が設けられたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧力発生室と前記加熱体部とが対向する方向において、前記流路形成基板より高い熱伝導性を有し、前記圧力発生室の一部の壁面を形成し、前記加熱体部と接する熱伝導性プレートを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧力発生室よりも上流側には前記圧力発生室に連通する液体供給口をさらに備え、
前記ノズル開口から液体が吐出されているとき、前記ノズル開口を通過する液体の粘度は、前記液体供給口を通過する液体の粘度より低いことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記加熱体部に通電し、前記加熱体部を発熱させる通電回路部と、
温度センサーを有し、前記圧力発生室内の液体の温度を検出する液体温度検出部と、
前記液体温度検出部によって検出された前記温度に基づいて、前記通電回路部を制御し、前記加熱体部の発熱量を制御する加熱制御部と、を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−136460(P2011−136460A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297057(P2009−297057)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】