説明

液晶装置および電子機器

【課題】液晶中のイオン性不純物の偏在が抑制され、優れた表示品質が得られる液晶装置、この液晶装置を備えた電子機器を提供すること。
【解決手段】本適用例の液晶装置は、一対の基板と、一対の基板に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子を含む液晶層と、マトリックス状に配置された複数の画素Pを含む表示領域E1と、一対の基板の液晶層に面する側にそれぞれ設けられ、液晶分子を傾斜させる傾斜方向θaが平面的に見て複数の画素Pの配列方向に対して交差する方向にプレチルトを与えて液晶分子を垂直配向させる配向膜と、表示領域E1を囲むように配置された複数のダミー画素DPと、を備え、表示領域E1の傾斜方向θaの角部に配置される画素Pに対して、傾斜方向θaにおける対角方向に配置されるダミー画素DPは、他のダミー画素DPよりも高い電位が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置およびこれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶装置は、一般的に配向処理が施された一対の基板間に液晶が注入封止された構造となっている。このような液晶装置の製造過程において、イオン性不純物が例えば液晶注入時に混入したり、液晶層を取り囲むシール材から溶出すると、表示領域に拡散・凝集して表示特性の劣化を招くことが知られている。
【0003】
このようなイオン性不純物に起因する表示特性の劣化を抑制することを目的として、例えば特許文献1には、一対の基板のうち、一方の基板は画素領域に形成された画素電極と、画素領域の周辺領域に形成された周辺電極とを含み、他方の基板は、該画素領域に形成された画素電極部と、該周辺領域に形成された周辺電極とを含み、少なくとも一方の周辺電極は隣接する複数の電極により構成され、該周辺電極の隣り合う電極間で印加する駆動電圧の電圧値が異なる液晶表示装置が開示されている。
【0004】
上記特許文献1の液晶表示装置によれば、上記周辺電極の隣接する電極間の電位を変化させることにより、該電極間に横方向の電界が生じ、液晶の微小な揺らぎによる流れに加えて、画素領域内のイオン性不純物を画素領域の外側に移動させることができ、イオン性不純物に起因する焼き付きなどの表示不良を防止できるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、マトリックス状に配置された複数の表示画素からなる表示部に画像を表示させるために、液晶層に印加される最低電圧の大きさが1.2v以上である液晶表示装置が開示されている。
特許文献2の液晶表示装置によれば、上記最低電圧を規定することにより、イオン性不純物の流れ(フロー)が存在する部分と存在しない部分との境界近傍において焼き付きが発生することを防止できるとしている。つまり、液晶中のイオン性不純物の滞留を防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−58497号公報
【特許文献2】特開2010−113148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1あるいは特許文献2の液晶表示装置は、用いられる液晶の電気光学特性に応じた専用の駆動用ICなどの電子部品が必要となったり、駆動電圧(駆動波形)の調整が必要となるなど、製造コストの上昇、生産性の低下を招くおそれがあるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例の液晶装置は、一対の基板と、前記一対の基板に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子を含む液晶層と、マトリックス状に配置された複数の画素を含む表示領域と、前記一対の基板の前記液晶層に面する側にそれぞれ設けられ、前記液晶分子を傾斜させる傾斜方向が平面的に見て前記複数の画素の配列方向に対して交差する方向にプレチルトを与えて前記液晶分子を垂直配向させる配向膜と、前記表示領域を囲むように配置された複数のダミー画素と、を備え、前記表示領域の前記傾斜方向の角部に配置される画素に対して、前記傾斜方向における対角方向に配置されるダミー画素は、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、液晶層を駆動すると配向膜に対してプレチルトが与えられて垂直配向した液晶分子はその配向状態が前記傾斜方向において変化する。液晶層中に含まれるイオン性不純物は、液晶分子の配向状態の変化によって生じたフローに沿って表示領域における前記傾斜方向の角部に向かって移動する。角部に移動したイオン性不純物は、当該角部に位置する画素に対して、他のダミー画素よりも高い電位が与えられた前記傾斜方向における対角方向に配置されるダミー画素に向かって拡散する。つまり、表示領域の角部におけるイオン性不純物の偏在が抑制され、焼き付きなどの表示不具合が生じ難い優れた表示品質を有する液晶装置を提供できる。
【0011】
[適用例2]上記適用例の液晶装置において、前記表示領域の前記傾斜方向の角部に配置される画素に対して、前記傾斜方向における対角方向に連続して配置される複数のダミー画素に、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることが好ましい。
これによれば、表示領域の角部に引き寄せられたイオン性不純物を表示領域の角部からより離れた周辺領域へと拡散させることができる。すなわち、表示領域の角部におけるイオン性不純物の偏在をより低減できる。
【0012】
[適用例3]本適用例の他の液晶装置は、一対の基板と、前記一対の基板に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子を含む液晶層と、マトリックス状に配置された複数の画素を含む表示領域と、前記一対の基板の前記液晶層に面する側にそれぞれ設けられ、前記液晶分子を傾斜させる傾斜方向が平面的に見て前記複数の画素の配列方向に対して交差する方向にプレチルトを与えて前記液晶分子を垂直配向させる配向膜と、前記表示領域を囲むように配置された複数のダミー画素と、を備え、前記表示領域の前記傾斜方向の角部に配置される画素に対して、隣り合って配置される少なくとも1つのダミー画素は、他のダミー画素よりも高い電位が供給されるとしてもよい。
これによれば、表示領域の角部に引き寄せられたイオン性不純物を当該角部に配置された画素に対して隣り合うダミー画素へと拡散させることができる。すなわち、表示領域の角部におけるイオン性不純物の偏在を低減できる。
【0013】
[適用例4]上記適用例の他の液晶装置において、前記少なくとも1つのダミー画素に対して前記傾斜方向における対角方向に連続して配置される複数のダミー画素に、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることが好ましい。
これによれば、表示領域の角部に引き寄せられたイオン性不純物を表示領域の角部からより離れた周辺領域へと拡散させることができる。すなわち、表示領域の角部におけるイオン性不純物の偏在をより低減できる。
【0014】
[適用例5]上記適用例の液晶装置において、前記他のダミー画素に与えられる電位は、前記液晶層の閾値電位と中間電位との間の電位であることが好ましい。
これによれば、上記他のダミー画素に与えられる電位が閾値電位と中間電位との間の電位であるため、他のダミー画素からの光漏れを抑制することができる。
また、上記他のダミー画素に与えられる電位が例えばGND電位である場合に比べて、表示領域の縁部に位置する画素と隣接する上記他のダミー画素との間の電位差に起因する横電界の発生を抑制することができる。すなわち、当該横電界による表示領域の表示ムラを低減できる。
【0015】
[適用例6]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、優れた表示品質を有する電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は液晶装置の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のH−H’線で切った概略断面図。
【図2】液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】(a)は液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図、(b)は液晶分子の挙動を示す概略図。
【図4】表示領域と周辺領域との関係を示す概略平面図。
【図5】(a)〜(c)は周辺領域におけるダミー画素の駆動状態の実施例を示す要部拡大平面図。
【図6】ノーマリーブラックモードにおける駆動電圧と透過率との関係を示すグラフ。
【図7】電子機器としての投射型表示装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0018】
なお、以下の形態において、例えば「基板上に」と記載された場合、基板の上に接するように配置される場合、または基板の上に他の構成物を介して配置される場合、または基板の上に一部が接するように配置され、一部が他の構成物を介して配置される場合を表すものとする。
【0019】
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリックス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0020】
<液晶装置>
まず、本実施形態の液晶装置について、図1および図2を参照して説明する。図1(a)は液晶装置の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のH−H’線で切った概略断面図、図2は液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。
【0021】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、対向配置された素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。素子基板10および対向基板20は、透明な例えば石英などのガラス基板が用いられている。
【0022】
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、額縁状に配置されたシール材40を介して接合され、その隙間に液晶が封入されて液晶層50を構成している。シール材40は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性のエポキシ樹脂などの接着剤が採用されている。シール材40には、一対の基板の間隔を一定に保持するためのスペーサー(図示省略)が混入されている。
【0023】
額縁状に配置されたシール材40の内側には、同じく額縁状に遮光膜21が設けられている。遮光膜21は、例えば遮光性の金属あるいは金属酸化物などからなり、遮光膜21の内側が画素領域Eとなっている。画素領域Eには、マトリックス状に画素Pが複数配置されている。なお、図1では図示省略したが、画素領域Eにおいても複数の画素Pを平面的に区分する遮光部が設けられている。
【0024】
素子基板10の1辺部に沿ったシール材40との間にデータ線駆動回路101が設けられている。また、該1辺部に対向する他の1辺部に沿ったシール材40の内側に検査回路103が設けられている。さらに、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿ったシール材40の内側に走査線駆動回路102が設けられている。該1辺部と対向する他の1辺部のシール材40の内側には、2つの走査線駆動回路102を繋ぐ複数の配線105が設けられている。これらデータ線駆動回路101、走査線駆動回路102に繋がる配線は、該1辺部に沿って配列した複数の外部接続端子104に接続されている。
以降、該1辺部に沿った方向をX方向とし、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿った方向をY方向として説明する。
【0025】
図1(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素Pごとに設けられた光透過性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター(TFT;Thin Film Transistor)30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
また、TFT30における半導体層に光が入射して光リーク電流が流れ、不適切なスイッチング動作となることを防ぐ遮光構造が採用されている。
【0026】
対向基板20の液晶層50側の表面には、遮光膜21と、これを覆うように成膜された層間膜層22と、層間膜層22を覆うように設けられた共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜24とが設けられている。
【0027】
遮光膜21は、図1(a)に示すように平面的にデータ線駆動回路101や走査線駆動回路102、検査回路103と重なる位置において額縁状に設けられている。これにより対向基板20側から入射する光を遮蔽して、これらの駆動回路を含む周辺回路の光による誤動作を防止する役目を果たしている。また、不必要な迷光が画素領域Eに入射しないように遮蔽して、画素領域Eの表示における高いコントラストを確保している。
【0028】
層間膜層22は、例えば酸化シリコンなどの無機材料からなり、光透過性を有して遮光膜21を覆うように設けられている。このような層間膜層22の形成方法としては、例えばプラズマCVD法などを用いて成膜する方法が挙げられる。
【0029】
共通電極23は、例えばITOなどの透明導電膜からなり、層間膜層22を覆うと共に、図1(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0030】
画素電極15を覆う配向膜18および共通電極23を覆う配向膜24は、液晶装置100の光学設計に基づいて選定される。本実施形態では、負の誘電異方性を有する液晶分子が配向膜面に対してプレチルトを与えられて垂直配向するように施されたものであって、例えば、SiOx(酸化シリコン)などの無機材料を物理気相成長法を用いて成膜した無機配向膜が用いられている。物理気相成長法としては、無機材料を真空中で気化して被成膜物上に到達させ成膜する、真空蒸着法、真空スパッタ法などが挙げられる。無機配向膜の形成方法や液晶分子の詳しい配向状態については後述する。
【0031】
また、本実施形態では、画素領域Eは実効的な表示がなされる表示領域と表示領域を囲む周辺領域とを含むものである。周辺領域に配置された画素Pはダミー画素として扱われている。
【0032】
図2に示すように、液晶装置100は、画素領域Eにおいて互いに絶縁されて直交する信号線としての複数の走査線3aおよび複数のデータ線6aと、データ線6a沿って平行するように配置された容量線3bとを有する。
走査線3aが延在する方向がX方向であり、データ線6aが延在する方向がY方向である。
【0033】
走査線3aとデータ線6aならびに容量線3bと、これらの信号線類により区分された領域に、画素電極15と、TFT30と、保持容量16とが設けられ、これらが画素Pの画素回路を構成している。
【0034】
走査線3aはTFT30のゲートに電気的に接続され、データ線6aはTFT30のソースに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素Pに供給する。走査線3aは走査線駆動回路102(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路102から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素Pに供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に線順次で供給してもよく、互いに隣接する複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路102は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングでパルス的に線順次で供給する。
【0035】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に書き込まれた所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極23との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極23との間に形成される液晶容量と並列に保持容量16が接続されている。保持容量16は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。容量線3bは、固定電位に接続されている。固定電位としては例えばGNDや共通電極23に与えられる共通電位(LCCOM)である。
【0036】
なお、図1(a)に示した検査回路103には、データ線6aが接続されており、液晶装置100の製造過程において、上記画像信号を検出することで液晶装置100の動作欠陥などを確認できる構成となっているが、図2の等価回路では省略している。また、検査回路103は、上記画像信号をサンプリングしてデータ線6aに供給するサンプリング回路、データ線6aに所定電圧レベルのプリチャージ信号を画像信号に先行して供給するプリチャージ回路を含むものとしてもよい。
【0037】
このような液晶装置100は透過型であって、画素Pが非駆動時に明表示となるノーマリーホワイトモードや、非駆動時に暗表示となるノーマリーブラックモードの光学設計が採用される。光の入射側と射出側とにそれぞれ偏光素子が上記光学設計に応じて配置されて用いられる。
【0038】
次に、液晶装置100における液晶分子の配向状態について、図3を参照して説明する。図3(a)は液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図、同図(b)は液晶分子の挙動を示す概略図である。
【0039】
図3(a)に示すように、液晶装置100における画素電極15および共通電極23の表面には、酸化シリコンを物理気相成長法の一例である真空蒸着法により斜め蒸着して得られた配向膜18および配向膜24が形成されている。具体的には、液晶層50に面した基板面に対する蒸着方向の角度θbはおよそ45°である。このような斜め蒸着により基板面には蒸着方向に向って酸化シリコンの結晶体が柱状に成長する。この柱状結晶体をカラム18a,24aと呼ぶ。配向膜18,24はこのようなカラム18a,24aの集合体である。また、基板面に対するカラム18a,24aの成長方向の角度θcは蒸着方向の角度θbと必ずしも一致せず、この場合およそ70°となっている。
【0040】
このような配向膜18,24の表面において垂直配向する液晶分子LCのプレチルト角θpはおよそ85°である。また、基板面の法線方向から見た液晶分子LCを傾斜させるプレチルトの方向すなわち傾斜方向は、配向膜18,24における斜め蒸着の平面的な蒸着方向と同じである。垂直配向処理の上記傾斜方向は、液晶装置100の光学設計条件に基づいて適宜設定される。
このように配向膜面に対して負の誘電異方性を有する液晶分子LCが90°未満のプレチルト角θpを与えられて倒立している配向状態を略垂直配向と呼ぶ。
【0041】
対向配置された素子基板10および対向基板20ならびにこれら一対の基板間に挟持された液晶層50を含めたものを液晶パネル110と呼ぶ。液晶装置100は、液晶パネル110の光の入射側と射出側とにそれぞれ配置された偏光素子41,42を有して用いられる。また、偏光素子41,42は、偏光素子41,42のうちの一方の透過軸または吸収軸がX方向またはY方向に対して平行となるように、且つ互いの透過軸または吸収軸が直交するように液晶パネル110に対してそれぞれ配置されている。
【0042】
本実施形態では、画素領域Eにおいて偏光素子41,42の透過軸または吸収軸に対して液晶分子LCのプレチルトの方位角が45°で交差するように略垂直配向処理が施されている。したがって、図3(b)に示すように画素電極15と共通電極23との間に駆動電圧を印加して液晶層50を駆動すると、液晶分子LCがプレチルトの傾斜方向に倒れることにより、高い透過率が得られる光学的な配置となっている。
液晶層50の駆動(ON/OFF)を繰り返すと、液晶分子LCはプレチルトの傾斜方向に倒れたり、初期の配向状態に戻ったりする挙動を繰り返す。このような液晶分子LCの挙動が起る略垂直配向処理を1軸の略垂直配向処理という。
【0043】
なお、液晶パネル110に対する光の入射方向は、図3(a)に示すように素子基板10側から入射することに限定されない。また、光の入射側または射出側に位相差板などの光学補償素子を備える構成としてもよい。
【0044】
図4は画素領域における表示領域と周辺領域との関係を示す概略平面図である。
図4に示すように、液晶装置100における画素領域Eは、実効的な表示がなされる表示領域E1とこれを取り囲む周辺領域E2とにより構成されている。
【0045】
表示領域E1には画素Pがマトリックス状に配置されている。周辺領域E2には、表示領域E1を取り囲むように同じくマトリックス状に複数のダミー画素DPが配置されている。具体的には、表示領域E1のX方向における両端側において、複数のダミー画素DPからなる列がそれぞれ4列配置され、表示領域E1のY方向における両端側において、複数のダミー画素DPからなる行がそれぞれ4行配置されている。ダミー画素DPは、前述した画素Pと同じ電気的な構成を備えるものであって、与えられた信号によって駆動することができる。なお、周辺領域E2におけるダミー画素DPの配置数は、これに限定されるものではない。
【0046】
表示領域E1において液晶分子LCのプレチルトの傾斜方向は、Y方向となす方位角θaが45°となるように設定されている。具体的には、破線で示した矢印方向が素子基板10に対する斜め蒸着の方向であり、右上から左下に向かう方向である。一方、実線で示した矢印方向が素子基板10に対向配置される対向基板20に対する斜め蒸着の方向であり、左下から右上に向かう方向である(図3参照)。このような表示領域E1における液晶分子LCのプレチルトの傾斜方向を方位角θaをそのまま利用して傾斜方向θaと呼ぶ。
【0047】
このような傾斜方向θaによれば、画素Pを駆動することにより、基板面に対して略垂直配向した液晶分子LCが傾斜方向θaに振られる挙動を示す(図3(b)参照)。これにより、傾斜方向θaに向かう液晶分子LCの挙動すなわち流れ(フロー)が生じて、液晶中に含まれたイオン性不純物はこの流れ(フロー)に沿って液晶中を移動し、やがて表示領域E1の傾斜方向θaに位置する角部に運ばれてイオン性不純物の偏在が生ずる。そうすると、図4に示すように表示領域E1の角部においてイオン性不純物の偏在に起因する例えば焼き付きや輝度ムラなどの表示ムラが発生する。
なお、傾斜方向θaが45°とは、図4に示すように右上がり45°だけでなく、右下がり45°でもよく、その場合には図4において表示領域E1の左上と右下の角部に表示ムラが発生する。
【0048】
発明者は、イオン性不純物の偏在による上記角部の表示ムラを改善すべく、ダミー画素DPの駆動方法を開発した。以下、図5に示した実施例を参照して説明する。図5(a)〜(c)は周辺領域におけるダミー画素の駆動状態の実施例を示す要部拡大平面図である。なお、図5(a)〜(c)において、表示領域E1の角部に位置する画素Pを画素P1として、他の画素Pに対してハッチングを異ならせている。これは、画素P1の位置を明確にするためであって、駆動時におけるコントラストの違いを表すものではない。また、図5(a)〜(c)は、表示領域E1における上記傾斜方向の一方の角部を表しているが、他方の角部も同様な駆動が行われるものである。
【0049】
(実施例1)
図5(a)に示すように、実施例1では、表示領域E1の傾斜方向θaの角部に位置する画素P1に対して、傾斜方向θaにおける対角方向に配置されるダミー画素DP1と、該ダミー画素DP1に対して傾斜方向θaにおける対角方向に連続して配置される複数のダミー画素DPとを、他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動する。
角部に位置する画素P1にイオン性不純物が移動してきても、ダミー画素DP1を他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動することにより、上記した液晶層50中のフローが生じ、イオン性不純物をダミー画素DP1から傾斜方向θaに連続して配置される複数のダミー画素DPへと拡散させることができる。つまり、イオン性不純物を周辺領域E2へと拡散させ、表示領域E1における角部に偏在することが抑制され、角部における表示ムラを低減できる。
なお、表示領域E1を囲むダミー画素DPが、周辺領域E2において1行または1列だけの場合は、画素P1に対して、傾斜方向θaにおける対角方向に配置されるダミー画素DP1に他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動すればよい。
【0050】
(実施例2)
図5(b)に示すように、実施例2では、角部に位置する画素P1に対して傾斜方向θaにおける対角方向に配置されるダミー画素DP1だけでなく、Y方向に隣り合うダミー画素DP2、X方向に隣り合うダミー画素DP3を含めて、これらに対して傾斜方向θaにおける対角方向に連続して配置される複数のダミー画素DPを他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動する。
これによれば、角部に多くのイオン性不純物が移動してきても、周辺領域E2に確実に拡散させることができる。
【0051】
(実施例3)
図5(c)に示すように、実施例3は、実施例1と実施例2の中間的なイオン性不純物の拡散方法であって、高い電位を与えて駆動するダミー画素DPの数を表示領域E1から離れるに従って増やしたものである。具体的には、角部に位置する画素P1に隣接するダミー画素DP1と、その次に配列したダミー画素DP4と、該ダミー画素DP4に対してX方向とY方向において隣接すると共に、傾斜方向θaに配列するダミー画素DPを含めて高い電位を与えて駆動する。
【0052】
周辺領域E2に配列した複数のダミー画素DPの一部を駆動することは、当該部分における光漏れを招くおそれがあるので、駆動するダミー画素DPの数を極力減らすという観点では、実施例1が好ましい。または、実施例2のうち、角部の画素P1に対して隣り合うダミー画素DP2,DP3のうちの少なくとも1つ、あるいは、ダミー画素DP2,DP3を含み、ダミー画素DP2,DP3に対して上記傾斜方向における対角方向に連続して配置される複数のダミー画素DPに、他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動することが好ましい。
その一方で、表示領域E1の傾斜方向θaにおける角部へのイオン性不純物の偏在を確実に抑制する観点では、実施例2のように他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動するダミー画素DPの数を増やすことが好ましい。
ダミー画素DPを駆動することによる周辺領域E2の光漏れの影響を表示領域E1に及ぼし難くする観点では、実施例1と実施例2の中間的な方法である実施例3が好ましい。
【0053】
液晶層50中におけるイオン性不純物の量は、液晶パネル110の大きさやこれを製造する工程の影響を受けることは言うまでもないので、実施例1〜実施例3の中から適宜、ダミー画素DPの駆動方法を選択すればよい。
【0054】
次にダミー画素DPの駆動条件について、図6を参照して説明する。図6は本実施形態の液晶装置における駆動電位と透過率との関係の一例を示すグラフである。より具体的には、ノーマリーブラックモードにおける駆動電位(v)と透過率(%)との関係、つまり透過率曲線の一例を示すものである。
【0055】
本実施形態における液晶装置100は、画素電極15と共通電極23との間に交流駆動の電位(電位差)を与えることにより、液晶層50を駆動する。ノーマリーブラックモードでは、透過率が10%となる電位を閾値としており、この場合、およそ1.7vである。これに対して、透過率が90%を安定的に越える最大電位を5vとしている。一方、透過率が10%と90%の中間つまり50%となる電位を中間電位としており、この場合、およそ2.5vである。
なお、ノーマリーホワイトモードでは、透過率が90%となる電位が閾値電位となり、透過率が10%を安定的に下回る電位が最大電位となる。
【0056】
上記実施例1〜上記実施例3において、周辺領域E2の他のダミー画素DPaには、閾値電位(1.7v)から中間電位(2.5v)未満の電位が与えられている。より好ましくは、他のダミー画素DPaに閾値電位近傍の電位を与える。これに対して、イオン性不純物を拡散させるために駆動されるダミー画素DPには、中間電位(2.5v)以上から最大電位(5.0v)以下の電位が与えられている。
【0057】
また、このようなダミー画素DPの駆動は、表示領域E1において表示がなされる期間は常に行われることが望ましい。これによって、定常的にイオン性不純物の偏在が抑制される。また、これに限らず、例えば液晶装置100に電源が供給されているものの、表示が行われていない期間に、上記のようなダミー画素DPの駆動を行うとしてもよい。
【0058】
このようなダミー画素DPの駆動方法によれば、他のダミー画素DPaからの光漏れを抑制しつつ、イオン性不純物を拡散させることができる。また、表示領域E1の縁部に位置する画素Pとこれに隣接する他のダミー画素DPaとの間での横電界の発生を抑制して、横電界に起因する表示ムラを低減できる。
さらには、前述した特許文献1や特許文献2のように、液晶の電気光学特性に応じた専用の駆動用ICなどの電子部品が必要となったり、駆動電圧(駆動波形)の調整が必要となることはないので、製造コストの上昇、生産性の低下を招くことがない。
【0059】
<電子機器>
次に、本実施形態の電子機器について図7を参照して説明する。図7は電子機器としての投射型表示装置の構成を示す概略図である。
【0060】
図7に示すように、本実施形態の電子機器としての投射型表示装置1000は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、光分離素子としての2つのダイクロイックミラー1104,1105と、3つの反射ミラー1106,1107,1108と、5つのリレーレンズ1201,1202,1203,1204,1205と、3つの光変調手段としての透過型の液晶ライトバルブ1210,1220,1230と、光合成素子としてのクロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0061】
偏光照明装置1100は、超高圧水銀灯やハロゲンランプなどの白色光源からなる光源としてのランプユニット1101と、インテグレーターレンズ1102と、偏光変換素子1103とから概略構成されている。
【0062】
ダイクロイックミラー1104は、偏光照明装置1100から射出された偏光光束のうち、赤色光(R)を反射させ、緑色光(G)と青色光(B)とを透過させる。もう1つのダイクロイックミラー1105は、ダイクロイックミラー1104を透過した緑色光(G)を反射させ、青色光(B)を透過させる。
【0063】
ダイクロイックミラー1104で反射した赤色光(R)は、反射ミラー1106で反射した後にリレーレンズ1205を経由して液晶ライトバルブ1210に入射する。
ダイクロイックミラー1105で反射した緑色光(G)は、リレーレンズ1204を経由して液晶ライトバルブ1220に入射する。
ダイクロイックミラー1105を透過した青色光(B)は、3つのリレーレンズ1201,1202,1203と2つの反射ミラー1107,1108とからなる導光系を経由して液晶ライトバルブ1230に入射する。
【0064】
液晶ライトバルブ1210,1220,1230は、クロスダイクロイックプリズム1206の色光ごとの入射面に対してそれぞれ対向配置されている。液晶ライトバルブ1210,1220,1230に入射した色光は、映像情報(映像信号)に基づいて変調されクロスダイクロイックプリズム1206に向けて射出される。このプリズムは、4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が合成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0065】
液晶ライトバルブ1210は、上述した液晶装置100が適用されたものである。液晶装置100は、色光の入射側と射出側とにおいてクロスニコルに配置された一対の偏光素子の間に隙間を置いて配置されている。他の液晶ライトバルブ1220,1230も同様である。
【0066】
このような投射型表示装置1000によれば、液晶中のイオン性不純物の偏在が抑制された液晶装置100を備え、高い表示品位が実現されている。
【0067】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0068】
(変形例1)上記実施形態では、図1(a)に示すように、見切りとして機能する遮光膜21は、画素領域Eを囲むように設けられているが、周辺領域E2と重なるように設けてもよい。これにより、周辺領域E2のダミー画素DPを駆動することで光漏れが生じたとしても、これを遮光することができる。
【0069】
(変形例2)上記実施形態では、画素Pおよびダミー画素DPは平面視で同じ大きさの正方形であるが、これに限定されない。例えば、Y方向に細長い矩形状であってもよいし、画素Pの大きさとダミー画素DPの大きさが同じでなくても、本発明を適用することができる。とりわけ、画素PがY方向に細長い矩形状である場合には、角部に位置する画素Pに対して、Y方向よりもX方向に隣り合うダミー画素DPに他のダミー画素DPaよりも高い電位を与えて駆動することにより、イオン性不純物を効果的に周辺領域へと移動させることができる。
【0070】
(変形例3)液晶装置100における配向膜18,24は無機配向膜に限定されない。例えば、光反応性の有機膜に紫外線などの光を配向方向に基づいて照射して略垂直配向処理が施された有機配向膜を用いても、本発明を適用することができる。
【0071】
(変形例4)液晶装置100は透過型に限定されない。画素電極15が光反射性を有する反射型の液晶装置100であっても、本発明を適用することができる。
【0072】
(変形例5)上記液晶装置100が適用される電子機器は、投射型表示装置1000に限定されない。例えば、投射型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)や直視型のHMD(ヘッドマウントディプレイ)、または電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオレコーダー、カーナビゲーションシステム、電子手帳、POSなどの情報端末機器の表示部として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
10…素子基板、18,24…配向膜、20…対向基板、50…液晶層、100…液晶装置、1000…電子機器としての投射型表示装置、E…画素領域、E1…表示領域、E2…周辺領域、P,P1…画素、DP,DP1,DP2,DP3…ダミー画素、DPa…他のダミー画素、LC…液晶分子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と、
前記一対の基板に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子を含む液晶層と、
マトリックス状に配置された複数の画素を含む表示領域と、
前記一対の基板の前記液晶層に面する側にそれぞれ設けられ、前記液晶分子を傾斜させる傾斜方向が平面的に見て前記複数の画素の配列方向に対して交差する方向にプレチルトを与えて前記液晶分子を垂直配向させる配向膜と、
前記表示領域を囲むように配置された複数のダミー画素と、を備え、
前記表示領域の前記傾斜方向の角部に配置される画素に対して、前記傾斜方向における対角方向に配置されるダミー画素は、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記表示領域の前記傾斜方向の角部に配置される画素に対して、前記傾斜方向における対角方向に連続して配置される複数のダミー画素に、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
一対の基板と、
前記一対の基板に挟持された負の誘電異方性を有する液晶分子を含む液晶層と、
マトリックス状に配置された複数の画素を含む表示領域と、
前記一対の基板の前記液晶層に面する側にそれぞれ設けられ、前記液晶分子を傾斜させる傾斜方向が平面的に見て前記複数の画素の配列方向に対して交差する方向にプレチルトを与えて前記液晶分子を垂直配向させる配向膜と、
前記表示領域を囲むように配置された複数のダミー画素と、を備え、
前記表示領域の前記傾斜方向の角部に配置される画素に対して、隣り合って配置される少なくとも1つのダミー画素は、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることを特徴とする液晶装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのダミー画素に対して前記傾斜方向における対角方向に連続して配置される複数のダミー画素に、他のダミー画素よりも高い電位が供給されることを特徴とする請求項3に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記他のダミー画素に与えられる電位は、前記液晶層の閾値電位と中間電位との間の電位であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−150380(P2012−150380A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10573(P2011−10573)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】