説明

減速機構、減速機付モータ、及び車両用電動シート装置

【課題】スティックスリップ現象の発生を抑え、ギヤ間での歯当たり音の発生を防止することができる減速機構、減速機付モータ、及び車両用電動シート装置を提供する。
【解決手段】ギヤケース10とギヤカバー20とにより閉塞された空間に、これらギヤケース10とギヤカバー20とにより回転自在に支持されている金属製の出力ホイール35のギヤケース10と摺動する箇所、及びギヤカバー20と摺動する箇所の面粗さを粗くし、潤滑剤溜り部61,62を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、減速機構、減速機付モータ、及び車両用電動シート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の電動シート装置の駆動源として、車両に搭載されたバッテリなどの電源により作動するモータを使用した減速機構付モータ装置が用いられている。この減速機構付モータ装置には、モータの出力軸の回転数を所要の回転数に減速するための減速機構が取り付けられている。そして、減速機構付モータ装置により、シート座面が昇降動作したり、シート背面がリクライニング動作したりする。
【0003】
ここで、シート座面を駆動させるのに十分な駆動力を得るために、モータ軸から出力された駆動トルクを一段目のギヤと二段目の出力ギヤとで二段減速する減速機構付モータ装置や、小型、軽量化を図るために、ギヤケースに対してギヤを直接摺動させるようにし、出力ギヤを回転自在に支持する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−106535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術にあっては、ギヤケースに対するギヤの摺動性を向上させるために、ギヤケースとギヤとの間にグリス等の潤滑剤を塗布する場合が多い。一方、この潤滑剤が切れると摺動性が悪化し、ギヤが回転しにくくなる。とりわけ、出力ギヤが電動モータからの回転力を出力軸を介して出力するとき、所謂スティックスリップ現象と呼ばれるびびりが発生しやすくなるという課題がある。
【0006】
また、出力軸が出力ギヤを回す回転方向と、電動モータが出力ギヤを回す方向が同一の場合、つまり、出力ギヤに追い負荷が作用している場合、出力ギヤにスティックスリップ現象が発生していると、出力ギヤと、他のギヤとの間にバックラッシュがあるので、出力ギヤのびびり動作によって、出力ギヤと、他のギヤとの噛み合いが外れる虞がある。この場合、出力ギヤと、他のギヤとの間で歯当たり音が発生してしまうという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、スティックスリップ現象の発生を抑え、ギヤ間での歯当たり音の発生を防止することができる減速機構、減速機付モータ、及び車両用電動シート装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る減速機構は、ケース内に、複数の歯車を収納すると共に、これら複数の歯車のうちの少なくとも1つを金属により形成して金属製歯車とし、この金属製歯車の少なくとも軸方向一端面を、前記ケースと摺動させるようにし、前記ケースに、前記金属製歯車を回転自在に支持させている減速機構であって、前記金属製歯車の軸方向一端面のうち、前記ケースと摺動する部位、及び前記ケースの前記金属製歯車と摺動する部位の少なくとも何れか一方に、前記金属製歯車と前記ケースとの摺動摩擦を低減するための易摺動部を設けたことを特徴とする。
【0009】
このように構成することで、ケースと金属製歯車との間の摺動摩擦抵抗を減少させることができるので、金属製歯車のスティックスリップ現象の発生を抑えることができる。このため、金属製歯車と他の歯車との間での歯当たり音の発生を防止することができる。
【0010】
本発明に係る減速機構は、前記易摺動部は、潤滑剤を溜めておくことが可能な潤滑剤溜り部であることを特徴とする。
【0011】
このように構成することで、ケースと金属製歯車の摺動面との間の潤滑剤が切れてしまうことを防止できる。このため、確実に金属製歯車と他の歯車との間での歯当たり音の発生を防止することができる。
【0012】
本発明に係る減速機構は、前記潤滑剤溜り部は、この潤滑剤溜り部が形成されている部位の面粗さを粗くすることにより形成されていることを特徴とする。
【0013】
このように構成することで、簡素な構造で、確実にケースと金属製歯車の摺動面との間の潤滑剤の切れを防止することができる。
【0014】
本発明に係る減速機構は、前記易摺動部は、前記金属製歯車と前記ケースとの摩擦抵抗を低減するための低摩擦部材からなることを特徴とする。
【0015】
このように構成することで、ケースと金属製歯車との間の摺動摩擦抵抗を減少させることができるので、金属製歯車と他の歯車との間での歯当たり音の発生を防止することができる。
【0016】
本発明に係る減速機付モータは、請求項1〜請求項4の何れかに記載の減速機構に、電動モータを取付けた減速機構付モータであって、前記複数の歯車は、前記電動モータの回転力が入力される第1ギヤと、この第1ギヤに噛合され、外部機器に回転力を伝達するための金属製の第2ギヤとにより構成され、前記ケースに、前記第2ギヤが摺動するようにして回転自在に支持されていることを特徴とする。
【0017】
このように構成することで、第2ギヤに追い負荷が作用した場合であっても、第2ギヤと、第1ギヤとの間で歯当たり音が発生してしまうことを確実に防止できる。
【0018】
本発明に係る車両用電動シート装置は、請求項5に記載の減速機付モータを、車両に搭載されるシートの駆動用として用いたことを特徴とする。
【0019】
このように構成することで、作動音の小さい、騒音対策の良好な車両用電動シート装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ケースと金属製歯車との間の摺動摩擦抵抗を減少させることができるので、金属製歯車のスティックスリップ現象の発生を抑えることができる。このため、金属製歯車と他の歯車との間での歯当たり音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態における車両の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における減速機付モータの斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態におけるギヤカバーを取り外したときの減速機付モータの部分断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態における出力ホイールの平面図である。
【図5】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態におけるギヤケースの平面図である。
【図7】本発明の第1実施形態におけるギヤカバーの底面図である。
【図8】本発明の第2実施形態における減速機構の要部断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態における減速機構の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
(車両用電動シート装置)
次に、この発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、減速機付モータ1を搭載した車両100の概略構成図である。
減速機付モータ1は、車両100に搭載された車両用電動シート装置91の駆動源として用いられている。具体的に本第1実施形態の減速機付モータ1は、車両用電動シート装置91のシート座面93を昇降させるために使用される。
【0023】
(減速機付モータ)
図2は、減速機付モータ1の斜視図、図3は、ギヤカバー20を取り外したときの減速機付モータ1の部分断面図である。
図2、図3に示すように、減速機付モータ1は、主に減速機付モータ1の一方側(図2、図3における左側)に配された電動モータ40と、他方側(図2、図3における右側)に配置され電動モータ40に連結された減速機構30とを備えている。
【0024】
(電動モータ)
電動モータ40は、不図示のブラシを用いて電力を給電する、所謂ブラシ付モータである。電動モータ40は、有底筒状のモータハウジング41と、モータハウジング41内に回転自在に支持されているアーマチュア43とを備えている。
モータハウジング41は、鉄等の金属により、例えば深絞りによるプレス加工等を施して成型されている。モータハウジング41は、この開口部41aが、他端側に配置された減速機構30側を向くように取り付けられている。
【0025】
モータハウジング41の開口部41a周縁には、外フランジ部41bが屈曲形成されている。外フランジ部41bには、不図示のボルト孔が形成されており、このボルト孔にボルト85を挿通し、減速機構30にボルト85を締結するようになっている。これにより、電動モータ40と減速機構30とが一体化される。
モータハウジング41の内周面41cには、複数のマグネット42が接着剤等により取り付けられている。モータハウジング41の底部には、軸方向外側に向かって突出した突出部48が形成されており、この内側に、すべり軸受45aが嵌合されている。
【0026】
さらに、モータハウジング41の突出部48の底部には、スラストプレート46が設けられている。スラストプレート46は、スチールボール46aを介してモータシャフト44のスラスト荷重を受けている。スチールボール46aは、モータシャフト44とスラストプレート46との間の摺動抵抗を減少するとともにモータシャフト44の芯ズレを吸収し、モータシャフト44のスラスト荷重をスラストプレート46に確実に伝達するためのものである。
【0027】
モータハウジング41内に回転自在に支持されているアーマチュア43は、モータシャフト44と、モータシャフト44に外挿固定されるアーマチュアコア43aと、アーマチュアコア43aよりも減速機構30側に配置されたコンミテータ47とを有している。
モータシャフト44は鉄等の金属からなる棒状部材である。モータシャフト44のモータハウジング41側端部は、モータハウジング41に設けられたすべり軸受45aを介し、モータハウジング41に回転自在に支持されている。また、モータシャフト44の減速機構30側端部は、モータハウジング41に圧入される後述のブラシホルダ90に設けられた不図示のすべり軸受を介し、モータハウジング41に回転自在に支持されている。
【0028】
アーマチュアコア43aは、例えば電磁鋼板等の磁性材を積層して形成された部材である。アーマチュアコア43aは、マグネット42に対応した位置に配置される。アーマチュアコア43aには不図示の巻線が巻回されており、この巻線の端末部がコンミテータ47に接続されている。
【0029】
コンミテータ47は略円柱状の部材であって、アーマチュア43の他端側に配置されている。コンミテータ47の外周面には、板状に形成された不図示のセグメントが複数並設されている。これらセグメントに、巻線の端末部が接続されている。また、コンミテータ47には、ブラシホルダ90に収容された不図示のブラシが摺接する。このブラシが不図示の外部電源に電気的に接続されており、ブラシ、及びコンミテータ47を介して巻線に電流が供給されるようになっている。
【0030】
(減速機構)
このように構成されている電動モータ40に連結された減速機構30は、一面が開口された箱状のギヤケース10と、ギヤケース10の開口を閉塞するギヤカバー20とを有しており、ギヤケース10にギヤカバー20がタッピングネジ87により締結固定されている。そして、これらギヤケース10とギヤカバー20とにより閉塞された空間に、電動モータ40の動力が伝達されるウォーム軸31と、このウォーム軸31に噛み合うウォームホイール33と、このウォームホイール33に噛合う出力ホイール35とが収納されている。
【0031】
ウォーム軸31は、モータシャフト44と同軸上に配置され、モータシャフト44の他端側にジョイント部材88を介して相対回転不能に連結されている。また、ウォーム軸31は、両端をギヤケース10に設けられたすべり軸受45b、及び不図示のすべり軸受を介してギヤケース10に回転自在に支持されている。
【0032】
ウォーム軸31に噛合うウォームホイール33は、樹脂製の大径ギヤ33aに金属製の焼結体からなる小径ギヤ33bがインサート成型されたものである。大径ギヤ33aと小径ギヤ33bとは同芯に配置されており、大径ギヤ33aがウォーム軸31と噛合される。一方、小径ギヤ33bは、出力ホイール35の出力ギヤ35aと噛合している。
このように構成されたウォームホイール33は、ウォームホイール軸34により軸支されている。ウォームホイール軸34は、この両端がそれぞれギヤケース10に形成されている軸受部17(図6参照)、及びギヤカバー20に形成されている軸受部27(図7参照)に回転自在に支持されている。
【0033】
(出力ホイール)
図4は、出力ホイール35を、ギヤケース10の底壁側からみた平面図、図5は、図2のA−A線に沿う断面図である。
図3〜図5に示すように、小径ギヤ33bに噛合う出力ホイール35は、金属製の焼結体を略円板状に形成したものであって、外周に出力ギヤ35aが形成されている。一方、出力ホイール35の略中央には、外部に回転トルクを出力する出力取出部35bが形成されている。
【0034】
出力取出部35bは、出力ホイール35を厚さ方向に貫通する孔であり、不図示の出力軸が挿通されるようになっている。出力取出部35bの内周面には、周方向に沿って係合部35cが形成されており、出力軸の凹部と係合するようになっている。これにより、出力軸と出力取出部35bとの相対回転が規制され、出力軸から回転トルクを出力することができる。
【0035】
出力ホイール35のギヤカバー20側の面37には、出力ホイール35と同芯となるように、軸方向平面視で略円環状の摺接凹部36が形成されている。摺接凹部36は、底面36aと、出力ギヤ35aの内径側に配置される外径側面36bとにより構成されている。
【0036】
また、出力ホイール35のギヤケース10側の面38には、中央の大部分に段差により僅かに突出した凸部38aが一体成形されている。さらに凸部38aおける出力取出部35bの外周側には、軸方向平面視で出力ホイール35と同芯となるように、軸支持部39aが軸方向に沿って突出形成されている。
【0037】
軸支持部39aの外周面39bの直径は、ギヤケース10の出力取出孔16における側面16aの直径と略同一か、若干小さく設定されている。軸支持部39aは、ギヤケース10の出力取出孔16に挿入される。出力ホイール35の軸支持部39aの外周面39bは、ギヤケース10の出力取出孔16の側面16aと摺接し、出力ホイール35を回転可能に支持している。
ここで、出力ホイール35は、ギヤケース10に凸部38aが摺接した状態で、且つギヤカバー20に摺接凹部36の底面36aが摺接した状態で、ギヤカバー20、及びギヤケース10に回転自在に支持されている。
【0038】
(ギヤケース)
図6はギヤケース10の平面図である。
図5、図6に示すように、ギヤケース10は、例えば樹脂等からなる部材であり、インジェクション成型等により形成される。ギヤケース10は、電動モータ40側(図3における左側)に形成されたモータ取付部11と、このモータ取付部11の電動モータ40とは反対側に形成されたギヤ収納部13とにより構成されている。
【0039】
モータ取付部11は、電動モータ40側が開口されており、この開口とギヤ収納部13は、モータシャフト44が挿通される貫通孔(不図示)を介して連通している。そして、開口側から貫通孔にモータシャフト44を挿通しつつ、ボルト85を用いてモータ取付部11にモータハウジング41を固定することにより、電動モータ40がギヤケース10に取り付けられる。また、モータ取付部11には、ブラシホルダ90を介して電動モータ40に給電するためのコネクタ部材70が組みつけられている。
【0040】
ギヤ収納部13は、収納壁部14で囲まれた領域に形成されており、ウォーム軸31を収容するウォーム軸収容部13aと、ウォームホイール33を収容するウォームホイール収容部13bと、出力ホイール35を収容する出力ホイール収容部13cとにより構成されている。ギヤケース10の収納壁部14の端面14aは、ギヤカバー20との合わせ面となっている。
【0041】
ウォーム軸収容部13aは、ギヤ収納部13の底面におけるウォーム軸31に対応した位置を凹ませることにより形成される。ウォームホイール収容部13b、及び出力ホイール収容部13cは、収納壁部14をウォームホイール33および出力ホイール35の外形に沿わせることで形成される。ウォームホイール収容部13bの径方向略中央には、底面を凹ませることにより軸受部17が形成されている。この軸受部17にウォームホイール軸34(図3参照)を挿入することにより、このウォームホイール軸34が軸受部17を介してウォームホイール収容部13bに回転自在に支持される。
【0042】
出力ホイール収容部13cの略中央には、出力取出孔16が形成されており、ここに不図示の出力軸が挿通されている。出力取出孔16の側面16aは、出力ホイール35の軸支持部39aと摺接しており、出力ホイール35を径方向に支持している。
また、出力ホイール収容部13cの底面には、ケース側リブ15が形成されている。ケース側リブ15は、軸方向平面視で略円環状をしており、減速機構30側に突出して形成されている。ケース側リブ15の端面15aは、出力ホイール35の凸部38aと摺接しており、出力ホイール35を軸方向に支持している。
【0043】
ギヤケース10の外周部には、タッピングネジ87が螺入される平面部18が複数箇所に形成されている。また、平面部18に、タッピングネジ87を案内する凹部12が形成されている。これにより、タッピングネジ87を締結する際、タッピングネジ87の位置決めを容易にすることができ、組み立て作業性も向上する。
【0044】
また、モータ取付部11とギヤ収納部13との間には、減速機付モータ1を車両等に固定するための取付孔19が形成されている。取付孔19に不図示のボルトを挿通することにより、車両用電動シート装置91(図1参照)に減速機付モータ1が取り付けられる。
取付孔19には、金属製のカラー19aが内嵌されており、ボルトを締結した際、ギヤケース10の取付孔19の座屈変形が防止される。
【0045】
(ギヤカバー)
図7は、ギヤカバー20の底面図である。
図5、図7に示すように、ギヤカバー20は、略平板状に形成されており、ギヤケース10の開口を閉塞するカバーとして、つまり、ギヤ収納部13を覆うカバーとして機能している。より具体的には、ギヤカバー20は、ウォームホイール33を覆うウォームホイールカバー部21と、出力ホイール35を覆う出力ホイールカバー部23と、を有している。
【0046】
ウォームホイールカバー部21は、ウォームホイール33の外形よりも若干大きく形成されている。ウォームホイールカバー部21の径方向略中央には、内面側に軸受部27が形成されている。軸受部27にはウォームホイール軸34が挿入され、軸受部27を介して回転自在に支持されている。
出力ホイールカバー部23は、出力ホイール35の外形よりも若干大きく形成されている。出力ホイールカバー部23の径方向略中央には、出力取出孔26が形成されており、ここに、不図示の出力軸が挿通されている。
【0047】
また、出力ホイールカバー部23には、カバー側リブ25が形成されている。カバー側リブ25は、軸方向平面視で略円環状をしており、減速機構30側に向かって突出形成されている。
カバー側リブ25の外径は、出力ホイール35に形成されている摺接凹部36の外径側面36bの直径とほぼ同一か、又はやや小さい程度に設定されている。さらに、カバー側リブ25の高さは、この端面25aが摺接凹部36における底面36aと摺接可能な高さに設定されている。このように、出力ホイールカバー部23のカバー側リブ25により、出力ホイール35の軸方向、及び径方向への変位が規制される。そして、カバー側リブ25により、出力ホイールカバー部23に出力ホイール35が回転自在に支持される。
【0048】
ウォームホイールカバー部21、及び出力ホイールカバー部23の外周側には、ギヤケース10の収納壁部14の端面14aと当接する当接面24が形成されている。また、タッピングネジ87に対応した位置に、座面28が複数箇所に形成されている。座面28は、タッピングネジ87の座面に対応した大きさで形成される。
【0049】
座面28には、ギヤカバー20を厚さ方向に貫通する締結孔22が形成されている。この締結孔22にタッピングネジ87を挿通し、ギヤケース10にタッピングネジ87を締結することで、ギヤケース10にギヤカバー20が固定される。このとき、ギヤカバー20のカバー側リブ25が、出力ホイール35の摺接凹部36を、ギヤケース10のギヤ収納部13における底面13d側に向かって僅かに押圧するようにして、ギヤケース10にギヤカバー20が固定される。
ここで、出力ホイール35の摺接凹部36とカバー側リブ25とが摺動する箇所、及び出力ホイール35の凸部38aとケース側リブ15とが摺動する箇所には、グリス等の潤滑剤が塗布されている。
【0050】
そして、図3〜図5に詳示するように、出力ホイール35の摺接凹部36のうち、カバー側リブ25と摺接している部位、及びその周辺の表面(以下、カバー側摺接部という)は、ショット加工を施すことにより、カバー側摺接部の周囲の表面よりも面粗さが粗くなるように形成されている(図3〜図5におけるドットハッチ部参照)。さらに、出力ホイール35のケース側リブ15と摺接する部位、つまり、凸部38aの表面(以下、ケース側摺接部という)、及び出力ホイール35の軸支持部39aの外周面は、ショット加工を施すことにより、ケース側摺接部の周囲の表面よりも面粗さが粗くなるように形成されている(図3〜図5におけるドットハッチ部参照)。
【0051】
ここで、カバー側摺接部の粗く形成された表面は、潤滑剤溜り部61として機能する。また、ケース側摺接部の粗く形成された表面は、潤滑剤溜り部62として機能する。さらに、出力ホイール35の軸支持部39aの粗く形成された外周面は、潤滑剤溜り部63として機能する。
すなわち、面粗さを粗く形成することにより、出力ホイール35が回転した際、この出力ホイール35と、ギヤケース10、及びギヤカバー20との間の潤滑剤が潤滑剤溜り部61,62,63に留まり、潤滑剤の切れが防止されるようになっている。
【0052】
(効果)
したがって、上述の第1実施形態によれば、出力ホイール35と、ギヤケース10、及びギヤカバー20との間の摺動摩擦抵抗を減少させることができるので、出力ホイール35のスティックスリップ現象の発生を抑えることができる。このため、例えば、出力ホイール35に追い負荷が作用した場合であっても、出力ホイール35とウォームホイール33との間での歯当たり音の発生を防止することができる。よって、作動音の小さい、騒音対策の良好な車両用電動シート装置91を提供することができる。
また、出力ホイール35のカバー側摺接部、及びケース側摺接部の面粗さを粗く形成することで、潤滑剤溜り部61,62,63を形成しているので、簡素な構造で、安価に出力ホイール35とウォームホイール33との間での歯当たり音の発生を防止することができる。
【0053】
尚、上述の第1実施形態では、出力ホイール35のカバー側摺接部、及びケース側摺接部の面粗さを粗く形成することで、潤滑剤溜り部61,62,63を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ギヤケース10のケース側リブ15、及びギヤカバー20のカバー側リブ25の面粗さを粗く形成し、これらケース側リブ15、及びカバー側リブ25の表面を潤滑剤溜り部として機能させてもよい。また、出力ホイール35の軸支持部39aに潤滑剤溜り部63を形成せずに、カバー側摺接部、及びケース側摺接部のみに潤滑剤溜り部61,62を形成してもよい。
【0054】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を図2を援用し、図8に基づいて説明する。尚、第1実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明する。
図8は、本発明の第2実施形態における減速機構230の要部断面図であって、前述の第1実施形態の図5に対応している。
【0055】
同図に示すように、この第2実施形態において、減速機付モータ201は、電動モータ40と、電動モータ40に連結された減速機構230とを備えている点、減速機構230は、ギヤケース10と、ギヤカバー20とを有しており、これらギヤケース10とギヤカバー20とにより閉塞された空間に、ウォーム軸31と、このウォーム軸31に噛み合うウォームホイール33と、このウォームホイール33に噛合う出力ホイール35とが収納されている点等の基本的構成は、前述した第1実施形態と同様である。
【0056】
ここで、第2実施形態と前述の第1実施形態との相違点は、第1実施形態の出力ホイール35は、カバー側摺接部、及びケース側摺接部の面粗さを粗く形成することで、潤滑剤溜り部61,62が形成されているのに対し、第2実施形態の出力ホイール235は、ギヤカバー20のカバー側リブ25が摺接する箇所に、平面視略環状の潤滑剤溝261が形成されていると共に、ギヤケース10のケース側リブ15が摺接する部位に、平面視略環状の潤滑剤溝262が形成されている点にある。
【0057】
すなわち、出力ホイール235の摺接凹部36に潤滑剤溝261が形成され、出力ホイール235の凸部38aに潤滑剤溝262が形成される。
潤滑剤溝261の溝幅は、カバー側リブ25の肉厚よりもやや小さく設定されており、潤滑剤溝261内にカバー側リブ25が挿入されないようになっている。一方、潤滑剤溝262の溝幅は、ケース側リブ15の肉厚よりもやや小さく設定されており、潤滑剤溝262内にケース側リブ15が挿入されないようになっている。
【0058】
このような構成のもと、出力ホイール235の摺接凹部36とカバー側リブ25とが摺動する箇所、及び出力ホイール35の凸部38aとケース側リブ15とが摺動する箇所に、グリス等の潤滑剤を塗布すると、各々潤滑剤溝261,262に潤滑剤が溜り、出力ホイール235が回転した際の潤滑剤の切れが防止される。
【0059】
したがって、上述の第2実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。これに加え、潤滑剤溝261,262に潤滑剤を溜める分、前述の第1実施形態よりもより多くの潤滑剤を、出力ホイール235の摺接凹部36とカバー側リブ25とが摺動する箇所、及び出力ホイール35の凸部38aとケース側リブ15とが摺動する箇所に介在させることができる。このため、さらに出力ホイール235と、ギヤケース10、及びギヤカバー20との間の摺動摩擦抵抗を減少させることができる。よって、出力ホイール35とウォームホイール33との間での歯当たり音の発生をより確実に防止することができる。
【0060】
尚、上述の第2実施形態では、出力ホイール235のカバー側リブ25が摺接する箇所に、潤滑剤溝261が形成されていると共に、出力ホイール235のケース側リブ15が摺接する部位に、潤滑剤溝262が形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、出力ホイール235に潤滑剤溝261,262を形成することなく、カバー側リブ25上、及びケース側リブ15に沿って、それぞれ潤滑剤溝261,262を形成してもよい。
【0061】
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態を図9に基づいて説明する。
図9は、本発明の第3実施形態における減速機構330の要部断面図であって、前述の第1実施形態の図5に対応している。
同図に示すように、第3実施形態と前述の第1実施形態との相違点は、第1実施形態の減速機付モータ1では、ギヤケース10にケース側リブ15が形成されていると共に、ギヤカバー20にカバー側リブ25が形成されており、これらケース側リブ15、及びカバー側リブ25が出力ホイール35に摺接しているのに対し、第3実施形態の減速機付モータ301では、ギヤケース310にケース側リブ15が形成されていないと共に、ギヤカバー320にカバー側リブ25が形成されておらず、出力ホイール35とギヤケース310との間、及び出力ホイール35とギヤカバー320との間に、それぞれ低摩擦部材71,72が設けられている点にある。
【0062】
より詳しくは、出力ホイール35の摺接凹部36には、外径側面36bに沿うように、略環状に形成された低摩擦部材71が設けられている。また、出力ホイール35の凸部38aには、外周縁に沿うように、略環状に形成された低摩擦部材72が設けられている。
これら低摩擦部材71,72は、出力ホイール35と、ギヤケース310、及びギヤカバー320との間の摺動摩擦抵抗を低減するためのものである。低摩擦部材71,72は、例えば、金属(SUS材など)等により形成される。
【0063】
したがって、上述の第3実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、ギヤケース310にケース側リブ15を形成する必要がなく、且つギヤカバー320にカバー側リブ25を形成する必要がなくなるので、この分、ギヤケース310やギヤカバー320の材料コストを低減することが可能になる。
【0064】
尚、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、減速機付モータ1,201,301は、車両100に搭載された車両用電動シート装置91の駆動源として用いられている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、さまざまな装置の駆動源として減速機付モータ1,201,301を採用することができる。
【0065】
また、上述の実施形態では、ウォームホイール33は、樹脂製の大径ギヤ33aに金属製の焼結体からなる小径ギヤ33bがインサート成型されたものである場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、大径ギヤ33aと小径ギヤ33bとを一体の金属製の焼結体としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,201,301 減速機付モータ
10 ギヤケース(ケース)
20 ギヤカバー(ケース)
30,230,330 減速機構
31 ウォーム軸(歯車)
33 ウォームホイール(第1ギヤ)
33a 大径歯車(歯車)
33b 小径歯車(金属製歯車)
35 出力ホイール(第2ギヤ、金属製歯車)
40 電動モータ
61,62 潤滑剤溜り部
71,72 低摩擦部材
91 車両用電動シート装置
93 シート座面(シート)
261,262 潤滑剤溝(潤滑剤溜り部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、複数の歯車を収納すると共に、これら複数の歯車のうちの少なくとも1つを金属により形成して金属製歯車とし、この金属製歯車の少なくとも軸方向一端面を、前記ケースと摺動させるようにし、前記ケースに、前記金属製歯車を回転自在に支持させている減速機構であって、
前記金属製歯車の軸方向一端面のうち、前記ケースと摺動する部位、及び前記ケースの前記金属製歯車と摺動する部位の少なくとも何れか一方に、前記金属製歯車と前記ケースとの摺動摩擦を低減するための易摺動部を設けたことを特徴とする減速機構。
【請求項2】
前記易摺動部は、潤滑剤を溜めておくことが可能な潤滑剤溜り部であることを特徴とする請求項1に記載の減速機構。
【請求項3】
前記潤滑剤溜り部は、この潤滑剤溜り部が形成されている部位の面粗さを粗くすることにより形成されていることを特徴とする請求項2に記載の減速機構。
【請求項4】
前記易摺動部は、前記金属製歯車と前記ケースとの摩擦抵抗を低減するための低摩擦部材からなることを特徴とする請求項1に記載の減速機構。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の減速機構に、電動モータを取付けた減速機構付モータであって、
前記複数の歯車は、前記電動モータの回転力が入力される第1ギヤと、この第1ギヤに噛合され、外部機器に回転力を伝達するための金属製の第2ギヤとにより構成され、
前記ケースに、前記第2ギヤが摺動するようにして回転自在に支持されていることを特徴とする減速機付モータ。
【請求項6】
請求項5に記載の減速機付モータを、車両に搭載されるシートの駆動用として用いたことを特徴とする車両用電動シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−29150(P2013−29150A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165313(P2011−165313)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】