説明

温度補償回路および温度補償方法

【課題】複雑な温度依存性を示すセンサからの検出信号を精度良く温度補償することが出来、更にはセンサの応答性能を損なうことなく温度補償することができる温度補償回路を提供する。
【解決手段】物理量検出センサ15と同等の温度依存性を示し環境温度に対応した電圧を出力する第1の温度検出部11aと、この第1の温度検出部11aに一定の電流を供給する定電流供給回路12と、第1の温度検出部11aからの出力電圧を電流に変換する電圧/電流変換回路14と、電圧/電流変換回路14が変換した電流を受けて物理量検出センサ15と同等の温度依存性を示し環境温度に対応した電圧を出力する第2の温度検出部11bとを備え、この第2の温度検出部11bの出力電圧を物理量検出センサ15の出力信号に対する温度補償電圧とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償回路および温度補償方法に関し、特に湿度計測装置、流量流速計測装置、ガス検出装置、ガスクロマトグラフなどにおいて、対象となる物理量に応じた出力を発生すると共に環境の温度変化に対して非線形の温度依存性を示すセンサの出力信号を温度補償する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業計測用や研究用、各種装置搭載用として、物理量の検出精度が高い計測器が求められている。これら計測器に用いられているセンサは、環境の温度変化に対して非線形に出力値が変動するものが多く、中でも発熱抵抗を発熱させて発熱抵抗体からの熱放散量や熱の移動を検出する原理による湿度センサ、フローセンサなどや、ピエゾ抵抗効果を利用した圧力センサなどは、物理量検出信号に対して温度依存性による影響が大きいため温度補償が必須になっており、温度補償方法に関して、さまざまに工夫されたものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、発熱抵抗を発熱させて発熱抵抗体からの熱放散量を検出する原理による雰囲気センサに関して提案したもので、測定雰囲気中で加熱される少なくとも2つのセンサ(周囲温度測定用及び周囲雰囲気測定用)を有し、これらセンサの抵抗値の差に基づいて周囲雰囲気を検出する自己温度補償型の雰囲気計に関するものである。
この先行技術の温度補償方法として、シリコン基板上に形成された同一組成で同一形状の5つのセンサを4つの周囲温度測定用センサと1つの雰囲気センサとする構成で用い、4つの周囲温度測定用センサは直列に接続され、雰囲気測定用センサに流す電流の1/4の電流を通電し、雰囲気センサで発生する電圧と等価な電圧を得られるようにして、且つ、電流を異ならしめたことで、雰囲気測定用センサの発熱温度は高温となり、周囲気体への熱放散量を多くして、雰囲気(湿度など)に依存した電圧を得、周囲温度測定用センサでは低温となり、周囲気体への熱放散量を少なくして周囲温度に依存した電圧を得て、これらの電圧差を求めることで温度依存成による誤差を無くした雰囲気を計測するようにしている。
【0004】
また、用いられているセンサ技術は半導体加工技術を応用したものであり、シリコンウェハーなどをベースにして、Ptなどの感温抵抗材料を蒸着し、抵抗パターンなどを形成したもので容易に製作できるものであり、このように複数のセンサを用いて構成しても、生産性やコストに関して影響を与える物ではない。
更に、このように同一形状で同一組成のセンサを発熱させて熱放散量を計測し、発熱しないようにして温度を計測するなど、目的に応じて使い分けられるので、温度補償用として別の組成のセンサを用いる必要が無く効率がよい。
【0005】
また、特許文献2は、感温抵抗体を一定温度に発熱させて、そのときの熱放散量を検出する原理により湿度やガス濃度や流速を計測する感温抵抗体の温度制御(発熱温度切り替え方法)に関して提案したものである。
この先行技術の温度補償方法は、熱伝導式湿度センサでは、ジュール熱で自己発熱する発熱体により加熱された感温抵抗体からの熱放散が変化することを利用して湿度を測定している。このような熱伝導式湿度センサにおいては、発熱により抵抗値が変化する発熱抵抗体に一定時間内に2回のパルス電圧を印加することにより、感温抵抗体を一定時間(例えば、1秒間)内に300℃以上の第1の一定温度THと100℃〜150℃の第2の一定温度TLとに発熱制御する。そして、感温抵抗体の温度を第1の一定温度THに制御したときに湿度測定を行う。湿度(相対湿度、絶対湿度のどちらでも良い)Hを除く雰囲気温度や湿度感応部の形状効果等による湿度センサの出力特性変化を、感温抵抗体の温度を第2の一定温度TLに制御した状態のときの出力特性で温度補償(校正)する。
この方法によると周囲温度によらない一定の低温発熱温度から一定の高温発熱温度までに要するエネルギー量として感温抵抗体の出力を計測しているので温度依存性を無くすことが出来る。
【0006】
また、特許文献3は、ピエゾ抵抗効果などの応力により抵抗値が変化する歪検出素子を利用した力覚計測にかかる温度補償方法を提案しており、温度変化に対して非線形の特性を示す温度検出素子と直線的な特性を示す温度検出素子とを歪検出素子の近傍で且つ応力を受けない位置に配置して、各々の温度検出素子からの出力信号を増幅、反転、シフトなどの信号加工を行って組み合わせる事によって、歪検出素子の温度依存信号に近似した温度補償信号を得るものである。
【特許文献1】特許第3370801号
【特許文献2】特許第2946400号
【特許文献3】特開平03−21838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、高温で発熱させる雰囲気センサの制御方式が一定温度に制御される物ではないため、周囲環境の温度変化に応じて雰囲気センサの発熱温度も変化することになる。このような場合、雰囲気センサの周辺気体の温度も雰囲気センサの発熱により暖められるため気体温度も変化することになる。気体温度が変化すると気体の熱伝導率には温度依存性がある為、雰囲気センサからの熱放散量が変化することとなる。図9は、大気を構成する主な気体の熱伝導率温度依存性を示したものである。
このことから、計測する気体の温度が、20℃〜40℃の狭い範囲では誤差は少ないが、広範囲の温度でより精度良く計測する場合には、気体の温度依存性についても温度補償を行う必要があるが、気体の温度依存性は図9に示すように非線形である為、温度補償の信号も気体の温度依存性に合わせた非線形の特性を示すようにする必要があった。
【0008】
また、特許文献2においては、感温抵抗体(特許文献1では雰囲気センサ)を一定温度の高温で発熱させており、この場合、感温抵抗体の発熱温度が周囲気体の温度に対して充分高い温度であれば、感温抵抗体周辺の気体の温度は感温抵抗体の発熱温度で規定されるので上で説明したような気体熱伝導率の温度依存性による影響はほとんど受けなくなる。
しかしながら、感温抵抗体の発熱温度を切り替えて温度補償を行う方法の場合、感温抵抗体に熱容量があり、このため発熱温度が安定するのに時間を要し、計測サイクルが遅くなるという問題がある。
このような事象に対して、単純に低温発熱する感温抵抗体と高温発熱する感温抵抗体とを2つに分けて対応する方法も考えられるが、この場合、消費電力が増える、発熱部が2つになることで互いの熱によって干渉を受ける、2つの感温抵抗体のばらつきによる誤差が生じる、などの問題がある。
【0009】
また、特許文献3では、拡散抵抗の温度依存性出力は、直線と2次曲線を合成した曲線的に変化する信号であり、温度変化により直線的に特性が変化するPNダイオードと2次曲線的に特性が変化する拡散抵抗(圧力の影響を受けない位置に配置することで)からの信号を変形・合成することで温度補償信号を得ているが、2次曲線的に変化する拡散抵抗のばらつきを回路で補正するには限界があり、また調整工程も複雑なものになってしまう。
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであり、複雑な温度依存性を示すセンサからの検出信号を精度良く温度補償することが出来、更にはセンサの応答性能を損なうことなく温度補償することができる温度補償回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、対象となる物理量に応じた出力を発生するセンサの出力信号に対する温度補償を行う温度補償回路であって、前記センサと同等の温度依存性を示す温度検出部と、該温度検出部で環境温度に対応した電気量を出力する温電変換手段と、を備え、前記温電変換手段を複数個直列に接続し、最終段の温電変換手段からの出力を前記物理量を検出するセンサからの出力の温度補償信号に使用することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の発明は、発熱させた感温抵抗体からの熱放散量を検出するセンサの出力信号に対する温度補償を行う温度補償回路であって、前記感温抵抗体が非発熱時に示す温度依存性と同等の温度依存性を示す感温抵抗体を有し、温度に対応した電圧を出力する第1の温度検出部と、該第1の温度検出部に一定の電流を供給する定電流供給手段と、前記第1の温度検出部からの出力電圧を電流に変換する電圧/電流変換部と、該電圧/電流変換部が変換した電流を受けて前記感温抵抗体と同等の温度依存性を示し環境温度に対応した電圧を出力する第2の温度検出部とを備え、前記第2の温度検出部の出力電圧を前記熱放散量を検出する感温抵抗体の出力信号に対する温度補償電圧とすることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項2記載の温度補償回路において、前記第1の温度検出部と電圧/電流変換部との間に第1の温度検出部からの出力電圧の増幅と0点シフトを行う電圧検出手段を設けたことを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項2または3記載の温度補償回路において、前記第1の温度検出部および第2の温度検出部に供給する電流を発熱しない程度の微弱電流にしたことを特徴とする。
また、請求項5の発明は、請求項2、3または4記載の温度補償回路において、前記第1の温度検出部および第2の温度検出部を電気絶縁性基板上の隣接する位置に配置したことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6の発明は、請求項5記載の温度補償回路において、前記第1の温度検出部および第2の温度検出部を配置した前記電気絶縁性基板の下部に通気のための空間を設けたことを特徴とする。
また、請求項7の発明は、環境の温度変化に対する温度依存性を有するセンサによって対象となる物理量に応じた出力を発生するセンサの出力信号に対する温度補償を行う温度補償方法であって、前記センサと同等の温度依存性を示す温度センサを有し環境温度に対応した電気量を出力する温電変換手段を複数直列に接続し、最終段の温電変換手段からの出力を前記物理量を検出するセンサの出力に加えて温度補償を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複雑な温度依存性を示すセンサ検出信号でも精度良く温度補償することができ、しかも温度検出部に使用する抵抗体に温度特性のバラツキが少ないものを容易に調達でき、更に調整も容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる計測装置のブロック図である。本発明の温度補償回路は破線で囲んだ部分である。第1の温度検出部11aと第2の温度検出部11bは、物理量検出センサ15と同一環境に配置されたもので、第1および第2の温度検出部11aおよび11bに用いる感温材料(感温抵抗体)は、物理量検出センサ15の温度依存性にあわせて選択したものである。
【0016】
同図を参照して動作について説明する。第1の温度検出部11aに定電流回路12から一定の電流を流して、第1の温度検出部11aに生じる電圧を第1の電圧検出回路13aで検出する。第1の電圧検出回路13aは、電圧増幅器と0点シフト回路を有しており、検出した電圧を周囲温度に見合った電圧値に変換する。本実施形態の計測装置では、第1の電圧検出回路13aから得られる電圧を温度出力電圧としても利用している。
このようにして得られた電圧を電圧/電流変換回路14にて電流に変換して、温度変化に比例して変化する電流を得ることができる。この電流を第2の温度検出部11bに供給することで、第2の温度検出部11bに生じる電圧は、環境の温度変化に対して、第1の温度検出部11aの温度特性×第2の温度検出部11bの温度特性の関数式で表せる電圧になる。本実施形態は、この電圧を第2の電圧検出回路13bにて、物理量検出センサからの検出信号(電圧)の温度依存性にあわせ調整し、温度補償電圧を得るものである。
【0017】
本ブロック図の第2電圧検出回路13bからの出力に、新たに電圧/電流変換回路と第3の温度検出部と第3の電圧検出回路を設ければ、第1の温度検出部の温度特性×第2の温度検出部の温度特性×第3の温度検出部の温度特性の高次関数式で表せる電圧を得ることができる。この電圧を加算器17で物理量検出センサ15の出力に加え、オフセット調整/増幅回路18で物理量検出信号として得ることができる。このように、温度を電気に変換する温電変換手段を複数直列に接続して、図1に示すブロックのように構成することで、複雑な非線形を示す気体の温度依存性などにも対応させることが可能となる。
図1の第1および第2の温度検出部11a、11bの温度特性は、温度変化に対して抵抗値が直線的に変化するものであるが、本実施形態に示した方法を用いると温度補償電圧の温度依存性は2次関数になる。
【0018】
図2を用いて回路要部の出力の状態を説明する。図2(a)は、第1の温度検出部11aに定電流を流し、得られた電圧に対して、第1の電圧検出回路13aで0点シフトと増幅を行い、更に電圧/電流変換回路14にて、電流に変換した出力特性である。第1の温度検出部11aには一定の電流を流してあるので、温度が上昇すると第1の温度検出部11aの抵抗値が増加し、電流が一定という条件から、抵抗値が増加すると両端にかかる電圧も上昇する。よって、電圧/電流変換回路14にて、電流に変換した出力特性も温度の上昇とともに増加することになる。
図2(b)は、第2の温度検出部11b(第1の温度検出部11aも同じ)の抵抗値温度依存性を示している。既に上で述べたように、温度検出部の抵抗値は温度と共に増加するので、この図2(b)の抵抗に図2(a)の電流を流すことで、図2(c)に示す2次関数で表せる電圧が得られる。
このように、温度センサに直線性の優れた白金抵抗素子などを用いれば、得られる2次関数は、他の成分(対数成分や高次成分など)を含まない純粋な2次関数で表せる信号として取り扱うことができる。よって、使用する温度センサの温度特性が直線であれば、ばらつきの調整なども抵抗トリミングなどで簡単に行えて再現性も非常に優れたものにすることができる。更に、2次関数で表せる温度特性をもったセンサにも2つの温度検出部を備えることで温度補償が行える。
【実施例1】
【0019】
図3を用いて実施例1を説明する。図3は、本発明の一実施例にかかる温度補償回路の温度検出部の外観を示す図である。本実施例の温度検出部は、電気絶縁基板34に銅箔でパターンを形成したプリント基板に3つの同一の感温抵抗体31、32、33を実装している。
図1に示したブロック図のように、3つの感温抵抗体のうち1つ(例えば温感素子32)を物理量検出用センサとして大電流を流して発熱させて、周囲気体への熱放散量を計測するために使用し、残り2つの感温抵抗体は、図1中の第1および第2の温度検出部11a、11bとして使用する。第1、第2の温度検出部に流す電流は、温感温度が発熱しない程度の微弱電流として、定電流回路12と電圧/電流変換回路14は、微弱電流に対応させた定数に設定する。また、第1および第2の温度検出部から得られる電圧が微小電圧となるため、第1および第2の温度検出部13a、13bも増幅率が高い回路になる。
動作は、上で述べた実施形態と同様で、定電流回路から微弱電流を温感素子31に流して、得られた電圧を第1の電圧検出回路で0点シフトと増幅を行い、電圧/電流変換回路にて周囲温度に依存した微弱電流を得て、この電流を第2の温度検出部(温感素子33)に供給することによって生じる電圧は、環境の温度変化に対して第1の温度検出部の温度特性×第2の温度検出部の温度特性の関数式で表せる電圧を得る。このように構成することで、検出用センサの温度依存性が非線形のものにも対応することが可能になる。
【実施例2】
【0020】
次に、図4他を参照して実施例2の構成および動作を説明する。図4は、実施例2にかかる温度補償回路の温度検出部の外観を示す図である。本実施例は複合センサの例であり、電気絶縁基板44の上に薄膜抵抗材料として白金を蒸着させてエッチングして、感温抵抗体41、42、43を形成し、更に感温抵抗体の下部の電気絶縁基板44に空洞45を設けることで、周囲温度による応答性能の向上を狙ったものである。図4において、感温抵抗体42を一定温度に発熱させて熱放散量を検出する目的に使用して、感温抵抗体41と43を温度補償に用いる温度検出部として使用している。
【0021】
図5は、感温抵抗体を一定温度に発熱させて熱放散量を電圧として出力する回路の例を示す図である。この回路は、感温抵抗体の周囲温度が変化した場合でも感温抵抗体の温度を一定に保つように制御するもので、この制御によって気体熱伝導率の温度依存性の影響を受けないようにできる。
図5を参照して同回路の動作を説明する。同図において、抵抗R23と抵抗R24で発生する電圧は、オペアンプOP8とFETQ2による制御で同一電圧となる。よって、感温抵抗体S3に流れる電流と、抵抗R26に流れる電流の比は、R23とR24の抵抗比と同じになる。このとき感温抵抗体S3と抵抗R26で発生する電圧は、オペアンプOP10とFETQ3により同じ電圧になるように流す電流が制御される。この制御によって、R23:R24=S3:R26でバランスが保たれる。(感温抵抗体S3は正の温度特性を示すもので、電流を流すことで自己発熱して、感温抵抗体の温度が上昇し、温度が上昇することで抵抗値が大きくなり、抵抗値が大きくなる事で更に温度が上昇する。)このとき、感温抵抗体S3の抵抗値が示すものは温度であるので、S3はR23:R24=S3:R26で決定される温度に保たれることになる。
【0022】
図5の回路出力の温度依存性は、基本特性として、感温抵抗体の温度が一定であり、且つ感温抵抗体S3の抵抗値も一定であるという条件から、温度変化に対して平方根で比例する。これは、周囲温度の変化と感温抵抗体が発熱に要するエネルギー(Wワット)は比例関係にあり、W=RI2でありRが固定であるから、I2が周囲温度変化に比例する事になる。この回路の出力は電圧(RI)であるので、温度変化に対して平方根で比例することになる。より詳細には、周囲温度の変化によって、感温抵抗体の発熱温度分布なども変化するため、単純に平方根で温度補償しても誤差が生じるということである。
【0023】
図5の回路の出力特性を大気中の水分濃度(絶対湿度)と周囲温度をパラメータとして計測したグラフを図6に示す。
図6は、気体温度を10℃から80℃まで10℃刻みで変化させ、各々の温度において相対湿度75%程度の環境(飽和塩化ナトリュウム水溶液による環境)と、相対湿度100%近くの環境とでの温度補償前の絶対湿度と、図5に示した回路からの出力電圧との関係をプロットしたものである。なお、横軸の絶対湿度は相対湿度と温度から換算した数値を用いている。
図5の回路は、感温抵抗体を一定温度に発熱させて熱放散量を電圧として出力するものであるから、図6に示すグラフには、上に示した温度依存性と湿度変化による熱放散量の変化が現れ、その結果、温度に対する出力変化が大変大きい事が解る。
【0024】
図7は、本発明の一実施例にかかる温度補償回路を示す図であり、図1に示したブロック図の構成に合わせて書いてある。基準電源回路には温度安定性に優れたリファレンスICを使用している。C1、C2は安定用のコンデンサである。
図7を参照して同回路の動作を説明する。なお、温度補償回路を構成する破線で囲んだ各ブロックには図1で付した符号と同じ符号を用いてある。
定電流回路12は、基準電源REFからの電圧を抵抗R1とR2で分圧して、オペアンプOP1とFETQ1により抵抗R1に生じる電圧=抵抗R3に生じる電圧とすることで、I=(R1の両端に生じる電圧)/(R3の抵抗値)の一定電流Iを得る回路である。定電流回路12からの電流は感温抵抗体S1に流される。感温抵抗体S1は、雰囲気の温度変化に直線的に比例した抵抗値変化をするので、感温抵抗体S1の両端には雰囲気の温度に直線的に比例した電圧が生じる。第1の電圧検出回路13aでは、感温抵抗体S1の両端に生じた電圧をオペアンプOP2、抵抗R4、R5にて増幅して、更にオペアンプOP3、抵抗R6、R7、R8、R9、可変抵抗VR1にて0点シフトを行い、更にオペアンプOP4、抵抗R10、可変抵抗VR2、抵抗R11にて増幅率の調整を行う。このようにして得られた電圧を電圧/電流変換回路14に加えて電流変換を行う。
【0025】
第1の電圧検出回路13aの出力電圧は、抵抗R12を経てオペアンプOP6に入力し、抵抗R14、R15の比率に応じた電圧を抵抗R16に印加する。オペアンプOP5は、感温抵抗体S2+VR3(可変抵抗)に発生する電圧を抵抗R13を経てオペアンプOP6に帰還させる。このとき、R13:R12=R15:R14=1:1であればオペアンプOP6から出力される電圧は、第1の電圧検出回路13aの出力電圧+感温抵抗体S2で生じる電圧+VR3で生じる電圧になる。よって、抵抗R16の両端には常に第1の電圧検出回路13aの出力電圧と同じ電圧値が生じるので、第1の電圧検出回路13aの出力電圧/(R16の電流が感温抵抗体S2+VR3)の電流が感温抵抗体S2に流されることになる。(図2(a)の電流が得られる。)
なお、感温抵抗体S2と直列に接続される可変抵抗VR3は、最終的に得られる温度補償信号の曲率(2次関数の1次成分)を調整するために用いるもので、本実施例においては、VR3の抵抗値は感温抵抗体の1/3程度の抵抗値として使用している。そして、感温抵抗体S2+VR3で生じた電圧を第2の電圧検出回路13bにて必要な温度補償量にあわせて増幅調整を行い出力する。
【0026】
以上説明した本実施例の温度補償回路を図5で説明した回路と共に図1に適用した場合の出力特性を図8に示す。図8の動作条件は図6における条件と同じ条件である。
この結果から、絶対湿度計測などのセンサを発熱させて、そのときの熱放散量を検出する原理により雰囲気を計測する方法において、高精度な温度補償が可能であることがわかる。
本実施例において、雰囲気センサ(感温抵抗体S3)は、一定発熱温度に保つ制御方法を用いたが、その温度依存性は図6から読み取れるように非線形を示すものであり、このような非線形の温度依存性を示すセンサ出力にも本方式によって容易に温度補償の対応ができるものであり、更にこのような複合センサを用いることで応答速度が速く高安定な雰囲気計測装置の提供も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかる計測装置のブロック図である。
【図2】図1における回路要部の出力の状態を説明する図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる温度補償回路の温度検出部の外観を示す図である。
【図4】本発明の実施例2にかかる温度補償回路の温度検出部の外観を示す図である。
【図5】感温抵抗体を一定温度に発熱させて熱放散量を電圧として出力する回路の例を示す図である。
【図6】温度補償前の絶対湿度と、図5に示した回路からの出力電圧との関係をプロットしたグラフ図である。
【図7】本発明の一実施例にかかる温度補償回路の回路図である。
【図8】温度補償後の絶対湿度と出力電圧の関係をプロットしたグラフ図である。
【図9】大気を構成する主な気体の熱伝導率温度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10…温度補償回路、11a、11b…温度検出部、12…定電流回路、13a、13b…電圧検出回路、14…電圧/電流変換回路、15…物理量検出センサ、31、32、33、41、42、43…温感抵抗体、34、44…電気絶縁基板、45…空洞、S1、S2、S3…感温抵抗体、C1〜C5…コンデンサ、OP1〜OP10…オペアンプ、Q1〜Q3…FET、R1〜R18、R23〜R27…固定抵抗、VR1〜VR4…可変抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる物理量に応じた出力を発生するセンサの出力信号に対する温度補償を行う温度補償回路であって、
前記センサと同等の温度依存性を示す温度検出部と、該温度検出部で環境温度に対応した電気量を出力する温電変換手段と、を備え、
前記温電変換手段を複数個直列に接続し、最終段の温電変換手段からの出力を前記物理量を検出するセンサからの出力の温度補償信号に使用することを特徴とする温度補償回路。
【請求項2】
発熱させた感温抵抗体からの熱放散量を検出するセンサの出力信号に対する温度補償を行う温度補償回路であって、
前記感温抵抗体が非発熱時に示す温度依存性と同等の温度依存性を示す感温抵抗体を有し、温度に対応した電圧を出力する第1の温度検出部と、該第1の温度検出部に一定の電流を供給する定電流供給手段と、前記第1の温度検出部からの出力電圧を電流に変換する電圧/電流変換部と、該電圧/電流変換部が変換した電流を受けて前記感温抵抗体と同等の温度依存性を示し環境温度に対応した電圧を出力する第2の温度検出部とを備え、
前記第2の温度検出部の出力電圧を前記熱放散量を検出する感温抵抗体の出力信号に対する温度補償電圧とすることを特徴とする温度補償回路。
【請求項3】
前記第1の温度検出部と電圧/電流変換部との間に第1の温度検出部からの出力電圧の増幅と0点シフトを行う電圧検出手段を設けたことを特徴とする請求項2記載の温度補償回路。
【請求項4】
前記第1の温度検出部および第2の温度検出部に供給する電流を発熱しない程度の微弱電流にしたことを特徴とする請求項2または3記載の温度補償回路。
【請求項5】
前記第1の温度検出部および第2の温度検出部を電気絶縁性基板上の隣接する位置に配置したことを特徴とする請求項2、3または4記載の温度補償回路。
【請求項6】
前記第1の温度検出部および第2の温度検出部を配置した前記電気絶縁性基板の下部に通気のための空間を設けたことを特徴とする請求項5記載の温度補償回路。
【請求項7】
環境の温度変化に対する温度依存性を有するセンサによって対象となる物理量に応じた出力を発生するセンサの出力信号に対する温度補償を行う温度補償方法であって、前記センサと同等の温度依存性を示す温度センサを有し環境温度に対応した電気量を出力する温電変換手段を複数直列に接続し、最終段の温電変換手段からの出力を前記物理量を検出するセンサの出力に加えて温度補償を行うことを特徴とする温度補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−333430(P2007−333430A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162685(P2006−162685)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】