説明

測位方法、プログラム、測位装置及び電子機器

【課題】測位装置の移動状態を適切に判定してフィルタ特性を可変することで、測位精度
の向上を図ること。
【解決手段】携帯型電話機1において、速度補正処理で補正された状態ベクトル「X」か
ら求められる携帯型電話機1の速度「V」に含まれる速度誤差「σV」(速度成分の精度
)が、速度予測処理で予測された誤差共分散行列「P」に基づいて決定され、当該速度誤
差「σV」に基づいて、携帯型電話機1の移動状態を判定するための速度閾値(速度条件
)が設定される。そして、速度補正処理で補正された状態ベクトル「X」から求められる
速度「V」と、先に設定された速度閾値とが比較されて携帯型電話機1の測位モード(移
動状態)が判定され、当該測位モードに応じたプロセスノイズ「Q」(フィルタ特性)で
カルマンフィルタ処理が実行されて、現在位置が測位される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位方法、プログラム、測位装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が
広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利
用されている。GPSでは、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパ
ラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情
報に基づいて求める測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0003】
しかし、測位用衛星からの衛星信号を用いた測位では、いわゆるマルチパスによる影響
等、種々の誤差要因が存在しており、測位誤差の発生を回避することが困難であるため、
測位誤差を低減させるための様々な技術が考案されている。その一例として、特許文献1
には、カルマンフィルタを用いた測位処理に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−337156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術は、測位装置の速度と予め定められた速度の閾値とを
比較することによって測位装置が静止しているか否かを判定し、その判定結果に基づいて
、カルマンフィルタのパラメータを可変する技術である。しかし、速度の閾値を固定値と
しているため、測位装置の移動状態が適切に判定されない限り、正確な測位位置(カルマ
ンフィルタによりフィルタ処理された位置)が求められない可能性がある。
【0005】
具体例を挙げて説明すると、測位装置を携行したユーザが歩行しているような場合には
、計測された測位装置の速度が閾値に満たず、実際には測位装置は移動しているにも関わ
らず、誤って静止していると判定される場合がある。この場合、カルマンフィルタのパラ
メータには、測位装置が静止状態にあるとするパラメータが設定される。その結果、カル
マンフィルタは、測位位置の変動を抑制するように作用するため、測位装置の実在位置に
対して測位位置に位置遅れが発生し、測位位置の追従性が低下するという問題がある。
【0006】
また、測位装置を携行したユーザが車で移動しているような場合において、車が停止し
ている状態であっても、衛星信号の受信環境が悪いと測位装置の速度が正しく計測されず
、実際には測位装置は静止しているにも関わらず、誤って移動していると判定される場合
がある。この場合、カルマンフィルタのパラメータには、測位装置が移動状態にあるとす
るパラメータが設定される。その結果、カルマンフィルタは、測位位置の変動を促進する
ように作用するため、測位装置の実在位置とはかけ離れた位置が出力されるおそれがある

【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための第1の発明は、測位用衛星からの衛星信号を捕捉して、自
測位装置の位置及び速度を成分とする状態ベクトル及び当該状態ベクトルの誤差共分散を
予測する予測処理と、各捕捉衛星毎に当該捕捉衛星からの受信信号周波数の実測値と予測
値との差を観測値として前記状態ベクトルの速度成分を補正する速度補正処理と、各捕捉
衛星毎に当該捕捉衛星と自測位装置間の距離を示す距離相当値の実測値と予測値との差を
観測値として前記状態ベクトルの位置成分を補正する位置補正処理とを含むカルマンフィ
ルタ処理を実行して、現在位置の測位を行う測位装置における測位方法であって、前記速
度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分の精度を、前記予測処理で予測された誤
差共分散に基づいて決定することと、前記測位装置の移動状態を判定するための速度条件
を、前記決定された速度成分の精度に基づいて設定することと、前記速度補正処理で補正
された状態ベクトルの速度成分と、前記設定された速度条件とを比較して、前記測位装置
の移動状態を判定することと、前記判定された移動状態に応じて、フィルタ特性を可変し
て前記カルマンフィルタ処理を実行して現在位置を測位することと、を含む測位方法であ
る。
【0009】
また、第7の発明として、測位用衛星からの衛星信号を捕捉して、自測位装置の位置及
び速度を成分とする状態ベクトル及び当該状態ベクトルの誤差共分散を予測する予測処理
と、各捕捉衛星毎に当該捕捉衛星からの受信信号周波数の実測値と予測値との差を観測値
として前記状態ベクトルの速度成分を補正する速度補正処理と、各捕捉衛星毎に当該捕捉
衛星と自測位装置間の距離を示す距離相当値の実測値と予測値との差を観測値として前記
状態ベクトルの位置成分を補正する位置補正処理とを含むカルマンフィルタ処理を実行し
て、現在位置の測位を行う測位装置であって、前記速度補正処理で補正された状態ベクト
ルの速度成分の精度を、前記予測処理で予測された誤差共分散に基づいて決定する精度決
定部と、前記測位装置の移動状態を判定するための速度条件を、前記決定された速度成分
の精度に基づいて設定する速度条件設定部と、前記速度補正処理で補正された状態ベクト
ルの速度成分と、前記設定された速度条件とを比較して、前記測位装置の移動状態を判定
する移動状態判定部と、前記判定された移動状態に応じて、フィルタ特性を可変して前記
カルマンフィルタ処理を実行して現在位置を測位する測位部と、を備えた測位装置を構成
してもよい。
【0010】
この第1の発明等によれば、速度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分の精度
が、予測処理で予測された状態ベクトルの誤差共分散に基づいて決定され、当該速度成分
の精度に基づいて、測位装置の移動状態を判定するための速度条件が設定される。そして
、速度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分と、先に設定された速度条件とが比
較されて測位装置の移動状態が判定され、当該移動状態に応じて可変されたフィルタ特性
でカルマンフィルタ処理が実行されて、現在位置が測位される。
【0011】
例えば、状態ベクトルの速度成分の精度が高いほど、測位装置が移動していると判定す
る速度条件を高く設定し、逆に、状態ベクトルの速度成分の精度が低いほど、測位装置が
移動していると判定する速度条件を低く設定することで、測位装置の移動状態を適切に判
定することが可能となる。そして、測位装置の移動状態と整合するようにカルマンフィル
タのフィルタ特性を可変することで、測位装置の実在位置に対して位置遅れや位置飛びが
発生することが防止され、測位精度が向上する。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の測位方法であって、前記速度条件を設定することは、前記
測位装置の静止状態を含む予め定められた複数の移動状態それぞれの速度条件を設定する
ことであり、前記移動状態を判定することは、前記測位装置の現在の移動状態が、前記予
め定められた複数の移動状態のうちの何れであるかを判定することであり、前記現在位置
を測位することは、前記複数の移動状態それぞれに対応して予め定められたフィルタ特性
のうち、前記判定された移動状態に対応するフィルタ特性で前記カルマンフィルタ処理を
実行して現在位置を測位することである測位方法である。
【0013】
また、第8の発明として、第7の発明の測位装置であって、前記速度条件設定部は、静
止状態を含む予め定められた複数の移動状態それぞれの速度条件を設定し、前記移動状態
判定部は、現在の移動状態が、前記予め定められた複数の移動状態のうちの何れであるか
を判定し、前記測位部は、前記複数の移動状態それぞれに対応して予め定められたフィル
タ特性のうち、前記判定された移動状態に対応するフィルタ特性で前記カルマンフィルタ
処理を実行して現在位置を測位する測位装置を構成してもよい。
【0014】
この第2の発明等によれば、測位装置の静止状態を含む複数の移動状態それぞれの速度
条件が設定され、測位装置の現在の移動状態が、複数の移動状態のうちの何れであるかが
判定される。また、複数の移動状態それぞれに対応してフィルタ特性が予め定められてお
り、判定された移動状態に対応するフィルタ特性でカルマンフィルタ処理が実行されるこ
とで、現在位置が測位される。従って、静止状態を含む測位装置の移動状態を適切に判定
して、測位位置を精度良く求めることが可能となる。
【0015】
第3の発明は、第2の発明の測位方法であって、前記移動状態を判定することには、各
測位タイミングそれぞれにおいて、前記補正された状態ベクトルの速度成分と前記設定さ
れた速度条件とを比較して、前記測位装置の移動状態を判定するが、各測位タイミングに
おける前記比較において、静止状態と判定する速度条件を連続して満たした場合にのみ前
記測位装置の移動状態が静止状態であると判定することを含む測位方法である。
【0016】
また、第9の発明として、第8の発明の測位装置であって、前記移動状態判定部は、各
測位タイミングそれぞれにおいて、前記補正された状態ベクトルの速度成分と前記設定さ
れた速度条件とを比較して移動状態を判定するが、各測位タイミングにおける前記比較に
おいて、静止状態と判定する速度条件を連続して満たした場合にのみ移動状態が静止状態
であると判定する測位装置を構成してもよい。
【0017】
この第3の発明等によれば、各測位タイミングそれぞれにおいて、補正された状態ベク
トルの速度成分と設定された速度条件とが比較されて測位装置の移動状態が判定されるが
、各測位タイミングにおける比較において、静止状態と判定する速度条件を連続して満た
した場合にのみ、測位装置の移動状態が静止状態であると判定される。測位用信号の受信
環境等によっては、測位装置(ユーザ)が移動しているにも関わらず、静止状態と判定す
る速度条件が単発的に満たされる場合があり得るが、このような場合であっても、直ちに
静止状態とは判定しないようにすることができる。
【0018】
また、第4の発明は、第1〜第3の何れかの発明の測位方法であって、受信信号に基づ
いて前記測位用信号の受信環境を判定することを更に含み、前記速度条件を設定すること
は、前記決定された速度成分の精度と、前記判定された受信環境とに基づいて前記速度条
件を設定することである測位方法である。
【0019】
また、第10の発明として、第7〜第9の何れかの発明の測位装置であって、受信信号
に基づいて前記測位用信号の受信環境を判定する受信環境判定部を更に備え、前記速度条
件設定部は、前記決定された速度成分の精度と、前記判定された受信環境とに基づいて前
記速度条件を設定する測位装置を構成してもよい。
【0020】
この第4の発明等によれば、受信信号に基づいて測位用信号の受信環境が判定され、決
定された速度成分の精度と、判定された受信環境とに基づいて、速度条件が設定される。
速度条件の設定基準に測位用信号の受信環境を加えることで、速度条件の設定を適確に行
うことができ、ひいては、測位装置の移動状態をより正確に判定することが可能となる。
【0021】
第5の発明は、第4の発明の測位方法であって、前記受信環境を判定することは、少な
くともアウトドア環境及びインドア環境の何れかを判定することであり、前記速度条件を
設定することは、受信環境がアウトドア環境と判定された場合に、前記決定された速度成
分の精度が高精度である程、前記測位装置が静止状態にあるとする速度条件を低く設定す
ることを含む測位方法である。
【0022】
また、第11の発明として、第10の発明の測位装置であって、前記受信環境判定部は
、少なくともアウトドア環境及びインドア環境の何れかを判定し、前記速度条件設定部は
、受信環境がアウトドア環境と判定された場合に、前記決定された速度成分の精度が高精
度である程、静止状態にあるとする速度条件を低く設定する測位装置を構成してもよい。
【0023】
この第5の発明等によれば、受信環境が少なくともアウトドア環境及びインドア環境の
何れであるかが判定され、受信環境がアウトドア環境と判定された場合に、決定された速
度成分の精度が高精度である程、測位装置が静止状態にあるとする速度条件が低く設定さ
れる。従って、受信環境がアウトドア環境であり、速度成分の精度が高精度である程、測
位装置が静止状態であるとの判定がなされにくくなる。
【0024】
また、第6の発明として、第1〜第5の何れかの発明の測位方法を、測位装置に内蔵さ
れたコンピュータに実行させるためのプログラムを構成してもよいし、さらには、第12
の発明として、第7〜第11の何れかの発明の測位装置を備えた電子機器を構成してもよ
い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。尚、以下では、測
位装置を備えた電子機器として携帯型電話機を例に挙げ、測位システムとしてGPSを用
いた場合について説明するが、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけでは
ない。
【0026】
1.原理
携帯型電話機1は、測位用衛星であるGPS衛星から発信(送出)されている測位用信
号としてのGPS衛星信号を受信し、受信したGPS衛星信号に重畳されているGPS衛
星の軌道情報(エフェメリスデータやアルマナックデータ)等の航法メッセージに基づい
て、GPS衛星の位置、移動方向、速度等の衛星情報を算出する。GPS衛星信号は、C
/A(Coarse and Acquisition)コードと呼ばれるスペクトラム拡散変調された信号であ
り、1.57542[GHz]を搬送波周波数とするL1帯の搬送波に重畳されている。
【0027】
尚、GPS衛星は、6つの周回軌道面それぞれに4機ずつ配置され、原則、地球上のど
こからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている
。以下では、捕捉したGPS衛星信号を発信したGPS衛星を、他のGPS衛星と区別す
るために「捕捉衛星」と称する。
【0028】
また、携帯型電話機1は、内蔵している水晶時計により特定されるGPS衛星信号の受
信時刻と、当該受信したGPS衛星信号のGPS衛星からの送信時刻との差に基づいて、
捕捉衛星から自機までの電波伝搬時間を計算する。そして、計算した電波伝搬時間に光速
度を乗算することで、捕捉衛星から自機までの距離(疑似距離)を計算する。
【0029】
携帯型電話機1は、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメー
タの値を、複数の捕捉衛星の衛星情報や各捕捉衛星から自機までの距離(擬似距離)等の
情報に基づいて算出する測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0030】
本実施形態では、携帯型電話機1は、GPS起動後の1回目の測位では最小二乗法を用
いた測位処理(以下、「LS(Least Square)測位処理」と称す。)を行い、2回目以降
の測位ではカルマンフィルタを用いた測位処理(以下、「KF(Kalman Filter)測位処
理」と称す。)を行って現在位置を測位する。LS測位処理は周知の処理であるため説明
を省略し、ここでは本実施形態におけるKF測位処理について詳細に説明する。
【0031】
カルマンフィルタは、誤差を含む観測値を利用して、時々刻々と変化する状態量を推定
する確率理論に基づく推定方法である。本実施形態では、携帯型電話機1の状態を状態ベ
クトル「X」で表し、状態ベクトル「X」と真値との誤差の共分散を誤差共分散行列「P
」で表す。
【0032】
状態ベクトル「X」は、携帯型電話機1の3次元の位置ベクトル(x,y,z)、クロ
ックバイアス(b)、3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(d)
を成分とする8次元のベクトルである。また、誤差共分散行列「P」は、状態ベクトル「
X」の各成分の誤差の共分散を示す8×8の行列である。
【0033】
KF測位処理では、状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「P」の予測処理(Predic
tion)及び補正処理(Correction)を行う。以下説明においては、この計算処理上の時間
経過(計算処理上の所定時間間隔)を表す単位を「1時刻」と称し、時刻1つ1つを進め
ながら、各時刻毎に携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0034】
図1は、本実施形態におけるKF測位処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、前回のKF測位処理終了時の状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「P」を読
み出す(ステップA1)。そして、読み出した状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「
P」を用いて、携帯型電話機1の速度を予測する速度予測処理を行う(ステップA3)。
具体的には、式(1)及び式(2)に従って、現在の状態ベクトル「X」及び誤差共分散
行列「P」の予測値を算出する。
【数1】

【数2】

【0035】
ここで、各式における下付きの添え字「t」は時刻を示しており、上付きの添え字「−
」は予測値、「+」は補正値、「T」は転置行列をそれぞれ示している。また、「φ」は
、状態遷移行列と呼ばれる8×8の行列であり、「Q」は、プロセスノイズと呼ばれる8
×8の行列である。状態遷移行列「φ」及びプロセスノイズ「Q」の行と列の並びは、状
態ベクトル「X」の8次元の成分(x,y,z,b,u,v,w,d)にそれぞれ対応し
ている。
【0036】
本実施形態では、次式(3)で表される状態遷移行列「φ」を用いて計算を行う。
【数3】

但し、「dt」は、前回のKF測位処理時の時刻と現在(今回)の時刻との時刻差であ
る。
【0037】
式(1)からわかるように、速度予測処理では、1時刻前の状態ベクトル「X」の補正
値を現在の状態ベクトル「X」の予測値とする。すなわち、携帯型電話機1の現在の速度
が、1時刻前に求められた速度と同一であると予測する。速度予測処理を行った後、予測
速度を補正する速度補正処理を行う(ステップA5)。
【0038】
図2は、速度補正処理の流れを示すフローチャートである。
速度補正処理では、各捕捉衛星について、ループAの処理を実行する(ステップB1〜
B19)。ループAでは、先ず当該捕捉衛星の位置、移動方向及び速度の情報(衛星情報
)と、状態ベクトル「X」の予測値から得られる携帯型電話機1の位置、移動方向及び速
度の情報(以下、包括的に「自機情報」と称す。)とに基づいて、携帯型電話機1から当
該捕捉衛星への視線方向を示す視線方向行列「H」を算出する(ステップB3)。
【0039】
次いで、当該捕捉衛星からのGPS衛星信号を受信した受信周波数を取得して、受信周
波数に関する実測値(以下、受信したGPS衛星信号に関する実測値のことを「メジャメ
ント実測値」と称す。)とする(ステップB5)。GPS衛星信号の周波数は、1.57
542[GHz]に規定されているが、GPS衛星と携帯型電話機1との相対的な移動方
向・移動速度の変化に応じて携帯型電話機1での受信周波数が変化する。この周波数偏移
がいわゆるドップラー周波数であり、受信周波数はドップラー周波数による偏移後の周波
数である。
【0040】
また、当該捕捉衛星の衛星情報と自機情報とに基づいて、当該GPS衛星信号の受信周
波数を予測して、受信周波数に関する予測値(以下、メジャメント実測値を予測した値の
ことを「メジャメント予測値」と称す。)とする(ステップB7)。そして、受信周波数
に関して、ステップB5で取得したメジャメント実測値と、ステップB7で算出したメジ
ャメント予測値との差を算出して、当該捕捉衛星の観測値「Z」とする(ステップB9)

【0041】
GPS衛星信号の受信周波数の実測値と予測値との差をカルマンフィルタの入力値とす
ることで、状態ベクトル「X」の3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリ
フト(d)の変化量を求めることができる。尚、この場合、状態ベクトル「X」の3次元
の位置ベクトル(x,y,z)及びクロックバイアス(b)の変化量は「0」である。
【0042】
その後、速度補正処理で用いる観測値「Z」の測定誤差を示す行列として、所定の測定
誤差行列「R」を設定する(ステップB11)。また、速度予測処理で算出された誤差共
分散行列「P」の予測値と、視線方向行列「H」と、測定誤差行列「R」とを用いて、次
式(4)に従ってカルマンゲイン「K」を算出する(ステップB13)。
【数4】

【0043】
そして、カルマンゲイン「K」と、観測値「Z」と、視線方向行列「H」とを用いて、
次式(5)に従って状態ベクトルの差分「ΔX」を算出する(ステップB15)。
【数5】

【0044】
また、カルマンゲイン「K」と、視線方向行列「H」と、誤差共分散行列「P」の予測
値とを用いて、次式(6)に従って誤差共分散行列「P」を補正する(ステップB17)

【数6】

但し、「I」は単位行列である。
【0045】
ステップB3〜B17の処理を全捕捉衛星について順次行い、状態ベクトルの差分「Δ
X」及び誤差共分散行列「P」を更新していく。そして、次式(7)に従って、速度予測
処理で算出された状態ベクトル「X」の予測値に、状態ベクトルの差分「ΔX」を加算し
て状態ベクトル「X」を補正することで、携帯型電話機1の速度を決定する(ステップB
21)。
【数7】

【0046】
ステップB21で得られた状態ベクトル「X」は、3次元の速度ベクトル(u,v,w
)及びクロックドリフト(d)が、それぞれ予測値から補正されたものとなっている。こ
れは、上述したように、GPS衛星信号の受信周波数に関するメジャメント実測値とメジ
ャメント予測値との差を観測値「Z」として、状態ベクトルの差分「ΔX」を算出したこ
とによるものである。補正後の状態ベクトル「X」の3次元の速度ベクトル(u,v,w
)から現在の時刻の速度を求めることができる。
【0047】
図1のKF測位処理に戻って、速度補正処理を行った後、測位モード判定処理を行う(
ステップA7)。測位モード判定処理は、速度補正処理で決定された状態ベクトル「X」
から求まる速度と、誤差共分散行列「P」から求まる速度の誤差(以下、「速度誤差」と
称す。)とに基づいて、携帯型電話機1が測位を行うモードを判定する処理であり、本実
施形態における特徴的な処理の1つである。
【0048】
本実施形態では、測位モードとして、「ダイナミックモード」及び「スタティックモー
ド」の2種類のモードが存在する。ダイナミックモードは、携帯型電話機1が移動してい
る状態にあると判定された場合に設定される測位モードである。一方、スタティックモー
ドは、携帯型電話機1が静止状態にあると判定された場合に設定される測位モードである
。本実施形態では、この2つの測位モードに対して、それぞれ異なるプロセスノイズ「Q
」を用いてステップA3の速度予測処理を行うことで、カルマンフィルタのフィルタ特性
を可変する。
【0049】
図4は、ダイナミックモードにおいて用いられるプロセスノイズであるダイナミックモ
ード用プロセスノイズ「QD」の一例を示す図である。ダイナミックモード用プロセスノ
イズ「QD」では、左上の3×3の行列部分MP1の各成分が「A・dt3/3」、右上の
3×3の行列部分MP2及び左下の3×3の行列部分MP3の各成分が「A・dt2/2
」、右下の3×3の行列部分MP4の各成分が「A・dt」となっている。但し、「A」
は、GPS衛星信号の信号強度等に基づいて決定される定数である。
【0050】
また、ダイナミックモード用プロセスノイズ「QD」では、クロックバイアス「b」の
交差成分が「Pd・dt2」となっており、クロックドリフト「d」の交差成分が「ΔS2
」となっている。但し、「Pd」は、前回のKF測位処理で求められた誤差共分散行列「
P」のクロックドリフト成分であり、「ΔS2」は、今回のクロックドリフトの予測値と
前回のクロックドリフトの予測値との差分である。また、上述した成分以外の成分は全て
「0」となっている。
【0051】
図5は、スタティックモードにおいて用いられるプロセスノイズであるスタティックモ
ード用プロセスノイズ「QS」の一例を示す図である。スタティックモード用プロセスノ
イズ「QS」がダイナミックモード用プロセスノイズ「QD」と異なっているのは、左上の
3×3の行列部分MP1の各成分が「((V+σV)/3)2」となっていることと、右上
の3×3の行列部分MP2及び左下の3×3の行列部分MP3の各成分が「0」になって
いることである。但し、「V」は、前回のKF測位処理時における状態ベクトル「X」か
ら算出される速度であり、「σV」は、前回のKF測位終了時における誤差共分散行列「
P」から算出される速度誤差である。
【0052】
より具体的には、速度「V」及び速度誤差「σV」は、それぞれ次式(8)及び(9)
に従って算出される。
【数8】

【数9】

但し、(Pu,Pv,Pw)は、誤差共分散行列「P」における(u,v,w)に対応す
る各成分である。
【0053】
ダイナミックモード用プロセスノイズ「QD」では、行列部分MP1の各成分を「A・
dt3/3」とし、行列部分MP2及びMP3の各成分を「A・dt2/2」とすることに
よって、フィルタの効果を弱め、時刻変化に伴う測位位置の変動が大きくなるようにして
いる。一方、スタティックモード用プロセスノイズ「QS」では、行列部分MP1の各成
分を「((V+σV)/3)2」とし、行列部分MP2及びMP3の各成分を「0」とする
ことによって、フィルタの効果を強め、時刻変化に伴う測位位置の変動が小さくなるよう
にしている。
【0054】
測位モード判定処理を行った後、測位モードがスタティックモードからダイナミックモ
ードに変化したか否かを判定し(ステップA9)、変化しなかったと判定した場合は(ス
テップA9;No)、ステップA17へと処理を移行する。また、変化したと判定した場
合は(ステップA9;Yes)、速度補正処理で求められた状態ベクトル「X」及び誤差
共分散行列「P」を、前回のKF測位処理終了時の状態ベクトル「X」及び誤差共分散行
列「P」に戻す(ステップA11)。そして、速度予測処理及び速度補正処理を再度行う
(ステップA13、A15)。
【0055】
測位モードがスタティックモードからダイナミックモードに変化したということは、ス
テップA3では、図5に示したスタティックモード用プロセスノイズ「QS」を用いて速
度予測処理を行ったということになる。しかし、測位モード判定処理において測位モード
をダイナミックモードと判定した以上、ステップA5の速度補正処理で求められた状態ベ
クトル「X」及び誤差共分散行列「P」を用いて後段の処理を行うことは適切ではないた
め、図4に示したダイナミックモード用プロセスノイズ「QD」を用いて、速度予測処理
及び速度補正処理をやり直すことにしている。
【0056】
その後、携帯型電話機1の位置を予測する位置予測処理を行う(ステップA17)。具
体的には、次式(10)に従って、速度補正処理で得られた状態ベクトル「X」の補正値
に状態遷移行列「φ」を乗算することで、状態ベクトル「X」の予測値を算出する。
【数10】

【0057】
式(3)からわかるように、状態遷移行列「φ」のうち、3次元の速度ベクトル(u,
v,w)に対応する3×3の行列部分の対角成分は、前回の時刻と現在の時刻との時刻差
「dt」となっている。従って、状態ベクトル「X」の補正値に状態遷移行列「φ」を乗
算した場合、その位置成分に着目すると、1時刻前の測位位置に予測移動距離が加算され
ることになり、携帯型電話機1の現在の予測位置が算出される。位置予測処理を行った後
、予測位置を補正する位置補正処理を行う(ステップA19)。
【0058】
図3は、位置補正処理の流れを示すフローチャートである。
位置補正処理の流れは速度補正処理の流れとほぼ同一であるため、異なる部分を中心に
説明する。位置補正処理では、当該捕捉衛星から受信したGPS衛星信号のコード位相を
取得してコード位相に関するメジャメント実測値とし(ステップC5)、当該GPS衛星
信号のコード位相を予測してコード位相に関するメジャメント予測値とする(ステップC
7)。そして、このコード位相に関するメジャメント実測値とメジャメント予測値との差
を算出して、カルマンフィルタの入力値である観測値「Z」とする(ステップC9)。
【0059】
ここで、コード位相とは、GPS衛星信号に変調されているC/Aコードの位相のこと
であり、当該GPS衛星と携帯型電話機1間の距離を示す距離相当値である。観念的には
、GPS衛星と携帯型電話機1との間には、C/Aコードが連続的に並んでいると考える
ことができるが、GPS衛星から携帯型電話機1までの距離がC/Aコードの長さの整数
倍になるとは限らない。この場合、C/Aコードの長さの整数倍に端数部分を加えた長さ
がGPS衛星と携帯型電話機1間の距離になるが、この端数部分に相当する位相がコード
位相である。
【0060】
尚、コード位相は距離に換算して表すことも可能であるため、コード位相に関するメジ
ャメント実測値とメジャメント予測値との差を観測値「Z」として位置補正処理を行うこ
とは、捕捉衛星と携帯型電話機1間の距離(C/Aコードの長さの整数倍に端数部分を加
えた長さ)の実測値と予測値との差を観測値「Z」として位置補正処理を行うことと等価
である。このため、コード位相は、捕捉衛星と携帯型電話機1間の距離に相当する値とい
える。
【0061】
GPS衛星信号のコード位相に関するメジャメント実測値とメジャメント予測値との差
をカルマンフィルタの入力値とすることで、状態ベクトル「X」の3次元の位置ベクトル
(x,y,z)及びクロックバイアス(b)の変化量を求めることができる。尚、この場
合、3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(d)の変化量は「0」
である。
【0062】
そして、ステップC3〜C17の処理を全捕捉衛星について順次行い、状態ベクトルの
差分「ΔX」及び誤差共分散行列「P」を更新していく。そして、式(7)に従って、位
置予測処理で算出された状態ベクトル「X」の予測値に、状態ベクトルの差分「ΔX」を
加算して状態ベクトル「X」を補正することで、携帯型電話機1の測位位置を決定する(
ステップC21)。
【0063】
ステップC21で得られた状態ベクトル「X」は、3次元の位置ベクトル(x,y,z
)及びクロックバイアス(b)が、それぞれ予測値から補正されたものとなっている。こ
れは、上述したように、GPS衛星信号のコード位相の実測値と予測値との差を観測値「
Z」として、状態ベクトルの差分「ΔX」を算出したことによるものである。補正後の状
態ベクトル「X」の3次元の位置ベクトル(x,y,z)で表される位置が、最終的に求
めた現在の時刻における測位位置となる。
【0064】
2.機能構成
図6は、携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GP
Sアンテナ10と、GPS受信部20と、TCXO(Temperature Compensated Crystal
Oscillator)40と、ホストCPU(Central Processing Unit)50と、操作部60と
、表示部70と、携帯電話用アンテナ80と、携帯電話用無線通信回路部90と、ROM
(Read Only Memory)100と、RAM(Random Access Memory)110とを備えて構成
される。
【0065】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF信号
を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部20に出力する。
【0066】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10から出力された信号に基づいて携帯型電話機
1の現在位置を測位する測位部であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックで
ある。GPS受信部20は、RF(Radio Frequency)受信回路部21と、ベースバンド
処理回路部30とを備えて構成される。尚、RF受信回路部21と、ベースバンド処理回
路部30とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも
、1チップとして製造することも可能である。
【0067】
RF受信回路部21は、高周波信号(RF信号)の回路ブロックであり、TCXO40
により生成された発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生
成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ10から出力されたRF信号に乗
算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)
信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジ
タル信号に変換して、ベースバンド処理回路部30に出力する。
【0068】
ベースバンド処理回路部30は、RF受信回路部21から出力されたIF信号に対して
相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや
時刻情報等を取り出して測位演算を行う回路部である。ベースバンド処理回路部30は、
演算制御部31と、ROM35と、RAM37とを備えて構成される。また、演算制御部
31は、メジャメント取得演算部32と、測位演算部33とを備えて構成される。
【0069】
尚、メジャメント取得演算部32と、測位演算部33とは、それぞれ別のLSIとして
製造することも、1チップとして製造することも可能である。また、本実施形態において
は現在位置の測位演算そのものは測位演算部33で実行することとして説明するが、測位
演算部33で実行する処理全てをホストCPU50で実行することとしてもよいのは勿論
である。
【0070】
メジャメント取得演算部32は、RF受信回路部21から出力された受信信号(IF信
号)から、GPS衛星信号の捕捉・追尾を行う回路部であり、相関演算部321を備えて
構成されている。メジャメント取得演算部32は、捕捉・追尾したGPS衛星信号の受信
周波数やコード位相等の情報を取得し、メジャメント実測値として測位演算部33に出力
する。
【0071】
相関演算部321は、受信信号に含まれるC/Aコードとレプリカコードとの相関を、
例えばFFT演算を用いて算出するコヒーレント処理(相関処理)を行い、このコヒーレ
ント処理の結果である相関値を所定秒数分(例えば「1秒分」)積算して積算相関値を算
出するインコヒーレント処理(相関値積算処理)を行うことで、GPS衛星信号を捕捉す
る。レプリカコードとは、擬似的に発生させた捕捉しようとするGPS衛星信号に含まれ
るPRN(Pseudo Random Noise)コードの一種であるC/Aコードを模擬した信号であ
る。C/Aコードは、1023チップで構成されている。
【0072】
捕捉しようとするGPS衛星信号が間違いなければ、そのGPS衛星信号に含まれるC
/Aコードとレプリカコードとは一致し(捕捉成功)、間違っていれば一致しない(捕捉
失敗)。そのため、算出された積算相関値のピークを判定することによってGPS衛星信
号の捕捉が成功したか否かを判定でき、レプリカコードを次々に変更して、同じ受信信号
との相関演算を行うことで、GPS衛星信号を捕捉することが可能となる。
【0073】
また、相関演算部321は、上述したコヒーレント処理を、レプリカコードの発生信号
の周波数と、C/Aコードとレプリカコードとを相関演算する際の位相とを変更しつつ行
っている。レプリカコードの発生信号の周波数と受信信号の周波数とが一致し、且つ、C
/Aコードとレプリカコードとの相関演算時の位相が一致した場合に、積算相関値が最大
となる。
【0074】
より具体的には、捕捉対象のGPS衛星信号に応じた所定の周波数及びコード位相の範
囲をサーチ範囲として設定し、このサーチ範囲内で、C/Aコードの開始位置(コード位
相)を検出するための位相方向の相関演算と、周波数を検出するための周波数方向の相関
演算とを行う。サーチ範囲は、周波数についてはGPS衛星信号の搬送波周波数である1
.57542[GHz]を中心とする所定の周波数掃引範囲、コード位相についてはC/
Aコードのチップ長である1023チップのコード位相範囲内に定められる。
【0075】
測位演算部33は、メジャメント取得演算部32から入力したメジャメント実測値に基
づいて、携帯型電話機1の現在位置を測位する測位演算を行う。特に本実施形態では、測
位演算部33は、環境判定スコアに基づいて判定したGPS衛星信号の受信環境と、速度
誤差「σV」に基づいて設定した速度閾値とを用いて測位モードを判定する測位モード判
定処理を行う。本実施形態では、GPS衛星信号の受信環境として、良好な順に「アウト
ドア」、「中間(アウトドアとインドアの中間)」、「インドア」の3種類の受信環境が
定められている。
【0076】
図7は、ROM35に格納されたデータの一例を示す図である。ROM35には、測位
演算部33により読み出され、ベースバンド処理(図11参照)として実行されるベース
バンド処理プログラム351と、速度閾値を設定するためのテーブルである速度閾値設定
用テーブル353とが記憶されている。
【0077】
また、ベースバンド処理プログラム351には、LS測位処理として実行されるLS測
位プログラム3511と、KF測位処理(図1〜図3参照)として実行されるKF測位プ
ログラム3513と、測位モード判定処理(図12参照)として実行される測位モード判
定プログラム3515とがサブルーチンとして含まれている。
【0078】
ベースバンド処理とは、測位演算部33が、1回目の測位ではLS測位処理を行って携
帯型電話機1の現在位置を測位し、2回目以降の測位ではKF測位処理を行って携帯型電
話機1の現在位置を測位して出力する処理である。ベースバンド処理については、フロー
チャートを用いて詳細に後述する。
【0079】
LS測位処理とは、測位演算部33が、複数の捕捉衛星について最小二乗法を用いた測
位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。LS測位処理に
ついては公知の処理内容であるため、詳細な説明を省略する。
【0080】
KF測位処理とは、測位演算部33が、複数の捕捉衛星についてカルマンフィルタを用
いた測位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。KF測位
処理については、図1〜図3を参照して説明した通りである。
【0081】
測位モード判定処理とは、測位演算部33が、携帯型電話機1の速度「V」及びその速
度誤差「σV」と、環境判定スコアに基づいて判定したGPS衛星信号の受信環境とに基
づいて速度閾値を可変に設定しながら、測位モードを判定する処理である。より具体的に
は、測位演算部33は、速度「V」が速度閾値を超えた場合であって所定の条件を満たす
場合には、測位モードをダイナミックモードと判定し、速度「V」が速度閾値以下の場合
であって所定の条件を満たす場合には、測位モードをスタティックモードと判定する。測
位モード判定処理についても、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0082】
図9は、速度閾値設定用テーブル353のテーブル構成例を示す図である。速度閾値設
定用テーブル353には、受信環境3531と、環境判定スコア3533と、速度誤差乗
算係数3535とが対応付けて記憶されている。
【0083】
受信環境3531は、GPS衛星信号の受信環境を示しており、「アウトドア」と「中
間」とが記憶されている。環境判定スコア3533は、環境判定処理において算出される
環境判定用のスコアであり、例えば各捕捉衛星から受信したGPS衛星信号の信号強度を
合算することで算出される。速度誤差乗算係数3535は、速度誤差に乗算される係数で
あり、乗算結果の値が速度閾値として設定される。
【0084】
具体的には、環境判定スコア3533が「70」〜「120」の範囲に含まれる場合は
、「アウトドア」の受信環境3531であると判定され、「10」〜「69」の範囲に含
まれる場合は、「中間」の受信環境3531であると判定される。また、「アウトドア」
、「中間」の何れの受信環境3531においても、環境判定スコア3533が高くなるほ
ど、小さな速度誤差乗算係数3535が設定されている。従って、環境判定スコア353
3が高いほど(受信環境が良いほど)、小さな値が速度閾値として設定されることになり
、その結果、測位モードをダイナミックモードにし易くなる。
【0085】
尚、環境判定スコア3533が「0」〜「9」の範囲に含まれる場合は、「インドア」
の受信環境であると判定するが、この場合は、環境判定スコアに関係なく、速度誤差の値
を速度閾値として設定する。また、「アウトドア」の受信環境と判定した場合であっても
、速度誤差が「2m/s」よりも小さい場合は、環境判定スコアに関係なく、速度誤差の
1/4(0.25倍)の値を速度閾値として設定し、速度誤差が「3m/s」以上となっ
た場合は、環境判定スコアに関係なく、速度誤差の値を速度閾値として設定する。
【0086】
実際には、速度誤差は概ね「1m/s」〜「6m/s」の範囲内であり、ユーザの歩行
時における携帯型電話機1の速度は「1m/s」程度である。従って、例えば、「アウト
ドア」の受信環境において速度誤差が「2m/s」よりも小さい場合は、速度閾値として
必ず「1m/s」よりも小さな値が設定されることになるため、測位モードをダイナミッ
クモードにし易くなる。
【0087】
図8は、RAM37に格納されるデータの一例を示す図である。RAM37には、KF
パラメータデータ371と、捕捉衛星別メジャメントデータ372と、環境判定スコアデ
ータ373と、速度閾値データ374と、測位モード判定カウンタデータ375と、測位
モードデータ376とが記憶される。
【0088】
KFパラメータデータ371は、KF測位処理において用いられるカルマンフィルタの
各種パラメータの値が記憶されたデータであり、KF測位処理において測位演算部33に
より更新される。
【0089】
図10は、捕捉衛星別メジャメントデータ372のデータ構成例を示す図である。捕捉
衛星別メジャメントデータ372には、捕捉衛星3721と、メジャメント実測値372
3と、メジャメント予測値3725とが対応付けて記憶される。捕捉衛星3721には、
当該捕捉衛星の番号が記憶され、メジャメント実測値3723及びメジャメント予測値3
725には、当該捕捉衛星から受信したGPS衛星信号の受信周波数やコード位相の実測
値及び予測値がそれぞれ記憶される。
【0090】
例えば、捕捉衛星「S1」についてのメジャメント実測値は、受信周波数が「SFre
q1」、コード位相が「SCP1」であり、メジャメント予測値は、受信周波数が「EF
req1」、コード位相が「ECP1」である。KF測位処理では、測位演算部33は、
メジャメント実測値とメジャメント予測値との差を観測値「Z」として、速度補正処理及
び位置補正処理を行う。
【0091】
環境判定スコアデータ373は、環境判定処理において算出された環境判定スコアが記
憶されたデータであり、測位モード判定処理において測位演算部33により更新される。
【0092】
速度閾値データ374は、環境判定スコア及び速度誤差「σV」に基づいて算出された
速度閾値が記憶されたデータであり、測位モード判定処理において測位演算部33により
更新される。
【0093】
測位モード判定カウンタデータ375は、測位モード判定用のカウンタ(以下、「測位
モード判定カウンタ」と称す。)が記憶されたデータであり、測位モード判定処理におい
て測位演算部33により更新される。
【0094】
測位モードデータ376は、測位モードとしてダイナミックモード、スタティックモー
ドの何れかが記憶されたデータであり、測位モード判定処理において測位演算部33によ
り更新される。
【0095】
TCXO40は、所定の発振周波数で発振信号を生成する温度補償型水晶発振器であり
、生成した発振信号をRF受信回路部21及びベースバンド処理回路部30に出力する。
【0096】
ホストCPU50は、ROM100に記憶されているシステムプログラム等の各種プロ
グラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCP
U50は、測位演算部33から入力した測位位置をプロットしたナビゲーション画面を、
表示部70に表示させる。
【0097】
操作部60は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であ
り、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU50に出力する。この操作部60の操
作により、通話要求やメールの送受信要求等の各種指示入力がなされる。
【0098】
表示部70は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU5
0から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部70には、
ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0099】
携帯電話用アンテナ80は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地
局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0100】
携帯電話用無線通信回路部90は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構
成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで
、通話やメールの送受信等を実現する。
【0101】
ROM100は、ホストCPU50が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログ
ラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している

【0102】
RAM110は、ホストCPU50により実行されるシステムプログラム、各種処理プ
ログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形
成している。
【0103】
3.処理の流れ
図11は、測位演算部33によりROM35に記憶されているベースバンド処理プログ
ラム351が読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベース
バンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0104】
ベースバンド処理は、RF受信回路部21によるGPS衛星信号の受信と併せて、測位
演算部33が、操作部60に測位開始指示の操作がなされたことを検出した場合に実行を
開始する処理であり、各種アプリケーションの実行といった各種の処理と並行して行われ
る処理である。尚、携帯型電話機1の電源のON/OFFとGPSの起動/停止とを連動
させ、携帯型電話機1の電源投入操作を検出した場合に処理の実行を開始させることにし
てもよい。原則として、測位演算は「1秒」毎に行われるものとする。
【0105】
また、特に説明しないが、以下のベースバンド処理の実行中は、GPSアンテナ10に
よるRF信号の受信や、RF受信回路部21によるIF信号へのダウンコンバート、メジ
ャメント取得演算部32によるメジャメント実測値の取得・算出等が随時行われている状
態にあるものとする。
【0106】
先ず、測位演算部33は、測位が1回目であるか否かを判定し(ステップS1)、1回
目であると判定した場合は(ステップS1;Yes)、ROM35に記憶されているLS
測位プログラム3511を読み出して実行することで、LS測位処理を行う(ステップS
3)。LS測位処理では、測位演算部33は、複数の捕捉衛星について最小二乗法を用い
た測位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0107】
次いで、測位演算部33は、カルマンフィルタの初期設定を行う(ステップS5)。具
体的には、LS測位処理で得られた測位位置を、カルマンフィルタの状態ベクトル「X」
の位置成分に設定する。また、状態ベクトル「X」の他の成分や誤差共分散行列「P」の
各成分に所定値を設定して、RAM37のKFパラメータデータ371に記憶させる。
【0108】
次いで、測位演算部33は、測位処理により求めた測位位置をホストCPU50に出力
する(ステップS7)。そして、操作部60に対してユーザによる測位終了指示がなされ
たか否かを判定し(ステップS9)、なされなかったと判定した場合は(ステップS9;
No)、ステップS1に戻る。また、測位終了指示がなされたと判定した場合は(ステッ
プS9;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0109】
一方、ステップS1において測位が2回目以降であると判定した場合は(ステップS1
;No)、測位演算部33は、ROM35に記憶されているKF測位プログラム3513
を読み出して実行することで、KF測位処理を行う(ステップS11)。そして、測位演
算部33は、ステップS7へと処理を移行する。
【0110】
KF測位処理では、測位演算部33は、図1〜図3のフローチャートに従って処理を実
行する。この際、図1のKF測位処理のステップA7において、測位演算部33は、RO
M35に記憶されている測位モード判定プログラム3515を読み出して実行することで
、測位モード判定処理を行う。
【0111】
図12は、測位モード判定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、測位演算部33は、式(8)及び式(9)に従って、携帯型電話機1の速度「V
」及び速度誤差「σV」を算出する(ステップT1)。次いで、測位演算部33は、環境
判定処理を行う(ステップT3)。具体的には、各捕捉衛星から受信したGPS衛星信号
の信号強度を合算して環境判定スコアとし、RAM37の環境判定スコアデータ373に
記憶させる。そして、当該環境判定スコアに応じて、現在の受信環境が「アウトドア」、
「中間」、「インドア」の何れの受信環境であるかを判定する(ステップT5)。
【0112】
ステップT5において受信環境が「アウトドア」であると判定した場合は(ステップT
5;アウトドア)、測位演算部33は、ステップT1で算出した速度誤差「σV」が「2
m/s」未満であるか否かを判定する(ステップT7)。そして、「2m/s」未満であ
ると判定した場合は(ステップT7;Yes)、速度誤差「σV」の1/4(0.25倍
)の値を速度閾値として設定し、RAM37の速度閾値データ374に記憶させる(ステ
ップT9)。
【0113】
受信環境が「アウトドア」であり、速度誤差「σV」が「2m/s」未満であるという
ことは、GPS衛星信号の受信環境が良好であり、速度誤差が極めて小さいことを意味し
ている。従って、この場合には、速度閾値を非常に小さな値とすることによって、測位モ
ードをダイナミックモードにし易くしている。
【0114】
一方、ステップT7において速度誤差「σV」が「2m/s」以上であると判定した場
合は(ステップT7;No)、測位演算部33は、速度誤差「σV」が「3m/s」未満
であるか否かを判定する(ステップT11)。そして、「3m/s」未満であると判定し
た場合は(ステップT11;Yes)、速度誤差「σV」と、ROM35に記憶されてい
る速度閾値設定用テーブル353とに基づいて、速度閾値を設定する(ステップT13)

【0115】
具体的には、速度閾値設定用テーブル353のうち、受信環境3531が「アウトドア
」に設定されているデータ部分を参照し、ステップT3で算出した環境判定スコア353
3に対応する速度誤差乗算係数3535を読み出す。そして、ステップT1で算出した速
度誤差「σV」に当該速度誤差乗算係数3535を乗算した値を速度閾値として設定し、
RAM37の速度閾値データ374に記憶させる。
【0116】
ステップT5において受信環境が「中間」であると判定した場合は(ステップT5;中
間)、測位演算部33は、速度誤差「σV」と速度閾値設定用テーブル353とに基づい
て、速度閾値を設定する(ステップT15)。この場合の速度閾値の設定は、速度閾値設
定用テーブル353のうち、受信環境3531が「中間」に設定されているデータ部分を
参照することによって、ステップT13と同様に実現される。
【0117】
また、ステップT5において受信環境が「インドア」であると判定した場合(ステップ
T5;インドア)、又は、ステップT11において速度誤差「σV」が「3m/s」以上
であると判定した場合は(ステップT11;No)、測位演算部33は、ステップT1で
算出した速度誤差「σV」の値を速度閾値として設定し、RAM37の速度閾値データ3
74に記憶させる(ステップT17)。
【0118】
ステップT9、T13、T15、T17の何れかにおいて速度閾値を設定した後、測位
演算部33は、ステップT1で算出した携帯型電話機1の速度「V」が速度閾値よりも大
きいか否かを判定し(ステップT19;Yes)、大きいと判定した場合は(ステップT
19;Yes)、最新の測位位置の決定時刻からの経過時間が「1.5秒」未満であるか
否かを判定する(ステップT21)。
【0119】
そして、経過時間が「1.5秒」以上であると判定した場合は(ステップT21;No
)、測位モード判定カウンタを「0」に設定して(ステップT23)、測位モード判定処
理を終了する。最新の測位位置の決定時刻からの経過時間が「1.5秒」以上である場合
は、最後に測位位置が決定(Fix)されてから長い時間が経過しているため、測位モー
ドを変化させずに、同じ測位モードでカルマンフィルタによる測位演算を行うことにして
いる。
【0120】
一方、ステップT21において経過時間が「1.5秒」未満であると判定した場合は(
ステップT21;Yes)、測位演算部33は、測位モード判定カウンタデータ375に
記憶されている測位モード判定カウンタをインクリメントする(ステップT25)。そし
て、測位モード判定カウンタが「1」以上であるか否かを判定し(ステップT27)、「
1」未満であると判定した場合は(ステップT27;No)、測位モード判定処理を終了
する。
【0121】
また、測位モード判定カウンタが「1」以上であると判定した場合は(ステップT27
;Yes)、測位演算部33は、測位モード判定カウンタを「1」に設定する(ステップ
T29)。そして、測位モードをダイナミックモードと判定して、RAM37の測位モー
ドデータ376に記憶させた後(ステップT31)、測位モード判定処理を終了する。
【0122】
一方、ステップT19において速度「V」が速度閾値以下であると判定した場合は(ス
テップT19;No)、測位演算部33は、当該捕捉衛星の測位モード判定カウンタをデ
クリメントする(ステップT33)。そして、測位モード判定カウンタが「0」よりも小
さいか否かを判定し(ステップT35)、「0」以上であると判定した場合は(ステップ
T35;No)、測位モード判定処理を終了する。
【0123】
一方、測位モード判定カウンタが「0」よりも小さいと判定した場合は(ステップT3
5;Yes)、測位演算部33は、測位モード判定カウンタを「0」に設定する(ステッ
プT37)。そして、測位モードをスタティックモードと判定して、RAM37の測位モ
ードデータ376に記憶させた後(ステップT39)、測位モード判定処理を終了する。
【0124】
測位モード判定カウンタが「1」に設定されている場合は、2回連続して速度「V」が
速度閾値以下とならなければ、測位モード判定カウンタが「0」よりも小さくなることは
ない。これは、GPS衛星信号の受信環境によっては、携帯型電話機1(ユーザ)が移動
しているにも関わらず、単発的に速度「V」が速度閾値以下となってしまう場合があるた
め、測位モードをスタティックモードに判定するための条件を厳しくしたものである。
【0125】
4.実験結果
図13は、カルマンフィルタの速度閾値を固定とした従来の処理で測位を行った場合と
、本実施形態の処理で測位を行った場合それぞれの実験結果の一例を示す図である。携帯
型電話機1を携行したユーザが、一対の太線で示した道路上を、図中右上から車で移動開
始し、中央付近で所定期間車を停止させた後、左下に向かって再度移動を開始した場合の
各時刻における測位位置をプロットした結果を示している。
【0126】
従来の処理では、本来車が停止しているはずの部分において測位位置が大きく変動して
いることがわかる。一方、本実施形態の処理では、道路の中央部に測位位置が集中してお
り、車の停止状態を精度良く検出(測位)することに成功している。
【0127】
また、図14は、従来の処理における測位誤差の分布を示す図であり、図15は、本実
施形態の処理における測位誤差の分布を示す図である。各図では、グラフの中央を真値(
0,0)と設定して、横軸に経度方向の誤差[m]、縦軸に緯度方向の誤差[m]をプロ
ットした結果を示している。
【0128】
従来の手法では、誤差の分散(Sigma)が22.13[m]、誤差の平均値(Avg Error
)が19.76[m]、誤差の最大値(Max Error)が52.66[m]となっているの
に対し、本実施形態の手法では、誤差の分散が12.90[m]、誤差の平均値が11.
21[m]、誤差の最大値が30.18[m]となっており、測位精度が向上しているこ
とがわかる。
【0129】
5.作用効果
本実施形態によれば、速度補正処理で補正された状態ベクトル「X」から求められる携
帯型電話機1の速度「V」に含まれる速度誤差「σV」(速度成分の精度)が、速度予測
処理で予測された誤差共分散行列「P」に基づいて決定され、当該速度誤差「σV」に基
づいて、携帯型電話機1の移動状態を判定するための速度閾値(速度条件)が設定される
。そして、速度補正処理で補正された状態ベクトル「X」から求められる速度「V」と、
先に設定された速度閾値とが比較されて携帯型電話機1の測位モード(移動状態)が判定
され、当該測位モードに応じたプロセスノイズ「Q」(フィルタ特性)でカルマンフィル
タ処理が実行されて、現在位置が測位される。
【0130】
GPS衛星信号の受信環境が良好であり(例えばアウトドア環境)、状態ベクトル「X
」の速度誤差が小さい場合は、速度閾値を低く設定して携帯型電話機1が移動していると
判定され易くする。逆に、GPS衛星信号の受信環境が悪い場合(例えばインドア環境)
や、受信環境が良好であっても状態ベクトル「X」の速度誤差が大きい場合には、速度閾
値を高く設定して携帯型電話機1が移動していると判定されにくくする。このようにする
ことで、携帯型電話機1の移動状態を適切に判定することが可能となる。そして、携帯型
電話機1の移動状態と整合するようにカルマンフィルタのフィルタ特性を可変することで
、携帯型電話機1の実在位置に対して位置遅れや位置飛びが発生することが防止され、測
位精度が向上する。
【0131】
6.変形例
6−1.電子機器
本発明は、測位装置を備えた電子機器であれば何れの電子機器にも適用可能である。例
えば、ノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション
装置等についても同様に適用可能である。
【0132】
6−2.衛星測位システム
上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WA
AS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)
、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛
星測位システムであってもよい。
【0133】
6−3.処理の分化
測位演算部33が実行する処理の一部又は全部を、ホストCPU50が実行することに
してもよい。例えば、ホストCPU50が測位モード判定処理を行うこととし、判定され
た測位モードに従って、測位演算部33がKF測位処理を行うようにする。また、KF測
位処理も含めてホストCPU50が行うことにしてもよい。
【0134】
6−4.環境判定処理
上述した実施形態では、各捕捉衛星から受信したGPS衛星信号の信号強度を合算する
ことで環境判定スコアを算出するものとして説明したが、例えば衛星配置の指標値である
PDOP(Position Dilution Of. Precision)値に基づいて環境判定スコアを算出する
ことにしてもよい。この場合は、PDOP値が小さいほど、環境判定スコアが高くなるよ
うにする。
【0135】
また、信号強度やPDOP値を変数とする環境判定関数に基づいて環境判定スコアを算
出することにしてもよい。環境判定関数は、例えば信号強度に比例し、PDOP値に反比
例する線形関数で表現することができる。尚、環境判定関数を用いて環境判定スコアを算
出する代わりに、信号強度及びPDOP値と環境判定スコアとの対応関係を定めたテーブ
ルをROM35に記憶させておき、当該テーブルに従って環境判定スコアを算出すること
にしてもよいことは勿論である。
【0136】
さらに、環境判定スコアに基づいて環境判定を行うのではなく、受信信号の信号強度や
PDOP値の直値に基づいて環境判定を行うことにしてもよい。この場合は、信号強度や
PDOP値の範囲と環境とを対応付けたテーブルをROM35に記憶させておき、当該テ
ーブルに従って環境を判定するようにする。
【0137】
6−5.速度閾値の設定
上述した実施形態では、「インドア」の受信環境では、速度誤差「σV」の値をそのま
ま速度閾値に設定するものとして説明したが、「アウトドア」や「中間」の受信環境と同
様にして速度閾値を設定することにしてもよい。
【0138】
具体的には、図9の速度閾値設定用テーブル353において、受信環境3531に「イ
ンドア」を追加し、「0」〜「9」の環境判定スコア3533それぞれに対して、速度誤
差乗算係数3535を設定しておく。この場合、環境判定スコア3533が大きくなるほ
ど、速度誤差乗算係数3535が小さくなるように値を設定する。
【0139】
そして、図12の測位モード判定処理において、ステップT5で環境が「インドア」で
あると判定した場合は、測位演算部33は、速度閾値設定用テーブル353の受信環境3
531が「インドア」に設定されているデータ部分を参照し、環境判定処理により算出し
た環境判定スコア3533に対応する速度誤差乗算係数3535を速度誤差に乗算した値
を、速度閾値に設定する。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】KF測位処理の流れを示すフローチャート。
【図2】速度補正処理の流れを示すフローチャート。
【図3】位置補正処理の流れを示すフローチャート。
【図4】ダイナミックモード用プロセスノイズ「QD」の一例を示す図。
【図5】スタティックモード用プロセスノイズ「QS」の一例を示す図。
【図6】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図7】ROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図8】RAMに格納されたデータの一例を示す図。
【図9】速度閾値設定用テーブルのテーブル構成例を示す図。
【図10】捕捉衛星別メジャメントデータのデータ構成例を示す図。
【図11】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図12】測位モード判定処理の流れを示すフローチャート。
【図13】実験結果の一例を示す図。
【図14】実験結果の一例を示す図。
【図15】実験結果の一例を示す図。
【符号の説明】
【0141】
1 携帯型電話機 、 10 GPSアンテナ、 20 GPS受信部、
21 RF受信回路部、 30 ベースバンド処理回路部、 31 演算制御部、
32 メジャメント取得演算部、 33 測位演算部、 35 ROM、
37 RAM、 40 TCXO、 50 ホストCPU、 60 操作部、
70 表示部、 80 携帯電話用アンテナ、 90 携帯電話用無線通信回路部、
100 ROM、 110 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用衛星からの衛星信号を捕捉して、自測位装置の位置及び速度を成分とする状態ベ
クトル及び当該状態ベクトルの誤差共分散を予測する予測処理と、各捕捉衛星毎に当該捕
捉衛星からの受信信号周波数の実測値と予測値との差を観測値として前記状態ベクトルの
速度成分を補正する速度補正処理と、各捕捉衛星毎に当該捕捉衛星と自測位装置間の距離
を示す距離相当値の実測値と予測値との差を観測値として前記状態ベクトルの位置成分を
補正する位置補正処理とを含むカルマンフィルタ処理を実行して、現在位置の測位を行う
測位装置における測位方法であって、
前記速度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分の精度を、前記予測処理で予測
された誤差共分散に基づいて決定することと、
前記測位装置の移動状態を判定するための速度条件を、前記決定された速度成分の精度
に基づいて設定することと、
前記速度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分と、前記設定された速度条件と
を比較して、前記測位装置の移動状態を判定することと、
前記判定された移動状態に応じて、フィルタ特性を可変して前記カルマンフィルタ処理
を実行して現在位置を測位することと、
を含む測位方法。
【請求項2】
前記速度条件を設定することは、前記測位装置の静止状態を含む予め定められた複数の
移動状態それぞれの速度条件を設定することであり、
前記移動状態を判定することは、前記測位装置の現在の移動状態が、前記予め定められ
た複数の移動状態のうちの何れであるかを判定することであり、
前記現在位置を測位することは、前記複数の移動状態それぞれに対応して予め定められ
たフィルタ特性のうち、前記判定された移動状態に対応するフィルタ特性で前記カルマン
フィルタ処理を実行して現在位置を測位することである、
請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
前記移動状態を判定することには、各測位タイミングそれぞれにおいて、前記補正され
た状態ベクトルの速度成分と前記設定された速度条件とを比較して、前記測位装置の移動
状態を判定するが、各測位タイミングにおける前記比較において、静止状態と判定する速
度条件を連続して満たした場合にのみ前記測位装置の移動状態が静止状態であると判定す
ることを含む請求項2に記載の測位方法。
【請求項4】
受信信号に基づいて前記測位用信号の受信環境を判定することを更に含み、
前記速度条件を設定することは、前記決定された速度成分の精度と、前記判定された受
信環境とに基づいて前記速度条件を設定することである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項5】
前記受信環境を判定することは、少なくともアウトドア環境及びインドア環境の何れか
を判定することであり、
前記速度条件を設定することは、受信環境がアウトドア環境と判定された場合に、前記
決定された速度成分の精度が高精度である程、前記測位装置が静止状態にあるとする速度
条件を低く設定することを含む、
請求項4に記載の測位方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の測位方法を、測位装置に内蔵されたコンピュータに
実行させるためのプログラム。
【請求項7】
測位用衛星からの衛星信号を捕捉して、自測位装置の位置及び速度を成分とする状態ベ
クトル及び当該状態ベクトルの誤差共分散を予測する予測処理と、各捕捉衛星毎に当該捕
捉衛星からの受信信号周波数の実測値と予測値との差を観測値として前記状態ベクトルの
速度成分を補正する速度補正処理と、各捕捉衛星毎に当該捕捉衛星と自測位装置間の距離
を示す距離相当値の実測値と予測値との差を観測値として前記状態ベクトルの位置成分を
補正する位置補正処理とを含むカルマンフィルタ処理を実行して、現在位置の測位を行う
測位装置であって、
前記速度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分の精度を、前記予測処理で予測
された誤差共分散に基づいて決定する精度決定部と、
前記測位装置の移動状態を判定するための速度条件を、前記決定された速度成分の精度
に基づいて設定する速度条件設定部と、
前記速度補正処理で補正された状態ベクトルの速度成分と、前記設定された速度条件と
を比較して、前記測位装置の移動状態を判定する移動状態判定部と、
前記判定された移動状態に応じて、フィルタ特性を可変して前記カルマンフィルタ処理
を実行して現在位置を測位する測位部と、
を備えた測位装置。
【請求項8】
前記速度条件設定部は、静止状態を含む予め定められた複数の移動状態それぞれの速度
条件を設定し、
前記移動状態判定部は、現在の移動状態が、前記予め定められた複数の移動状態のうち
の何れであるかを判定し、
前記測位部は、前記複数の移動状態それぞれに対応して予め定められたフィルタ特性の
うち、前記判定された移動状態に対応するフィルタ特性で前記カルマンフィルタ処理を実
行して現在位置を測位する、
請求項7に記載の測位装置。
【請求項9】
前記移動状態判定部は、各測位タイミングそれぞれにおいて、前記補正された状態ベク
トルの速度成分と前記設定された速度条件とを比較して移動状態を判定するが、各測位タ
イミングにおける前記比較において、静止状態と判定する速度条件を連続して満たした場
合にのみ移動状態が静止状態であると判定する請求項8に記載の測位装置。
【請求項10】
受信信号に基づいて前記測位用信号の受信環境を判定する受信環境判定部を更に備え、
前記速度条件設定部は、前記決定された速度成分の精度と、前記判定された受信環境と
に基づいて前記速度条件を設定する、
請求項7〜9の何れか一項に記載の測位装置。
【請求項11】
前記受信環境判定部は、少なくともアウトドア環境及びインドア環境の何れかを判定し

前記速度条件設定部は、受信環境がアウトドア環境と判定された場合に、前記決定され
た速度成分の精度が高精度である程、静止状態にあるとする速度条件を低く設定する、
請求項10に記載の測位装置。
【請求項12】
請求項7〜11の何れか一項に記載の測位装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−156734(P2009−156734A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335945(P2007−335945)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】