説明

潤滑剤組成物

【課題】 厳しい条件下での長時間の使用を可能にする低摩擦性であり、かつ耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、(a)液晶相を形成しうるメソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いトラクション係数の最小値を発現させる性質を有する、少なくとも一種の有機化合物、(b)潤滑油基油、及び(c)少なくとも一種の粘度指数向上剤及び/又は(d)少なくとも一種の酸化防止剤を含有することを特徴とする潤滑剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦摺動する種々の機械要素の摺動面に介在する潤滑剤組成物に関し、特に弾性流体潤滑条件下での様々な界面への潤滑性と耐久性に優れる潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トライボロジーとは、OECD用語集によれば、『相対運動をする2物体間の相互作用を及ぼしあう表面、ならびにこれに関連した諸問題と実地応用に関する科学と技術』である。
トライボロジーは世の中の稼動するあらゆる産業機械・機器に共通の基盤技術であり、その産業分野は、輸送、電子機器/精密機械、産業機械/化学機械、機械・部品製造、宇宙開発、生体・健康および家庭電化製品と非常に多岐に渉っている。
しかし、いわゆる潤滑油によって軸受けやエンジンなどの摺動接触部位の摩擦係数が下げられ、摩耗が低減され、機械寿命が延ばされる主要な界面の材質は鋼鉄がほとんどであった。
現行の潤滑剤技術は、低摩擦係数と耐摩耗性の両立を使命としているが、起動時また低荷重では低粘性基油により低摩擦係数を、高荷重では境界潤滑膜によって低摩擦係数を得ており、一方、(低粘性基油ゆえに損なう)耐摩耗性を鉄への反応性膜の形成を基本とする境界潤滑膜技術によって補償するという機能分担が行われてきた。
【0003】
ところがこれまでの状況が最近劇的に変わろうとしている。
それは、ひとつには、現行の境界潤滑膜技術が(皮肉にも)すべて環境有害(硫黄、リン、ハロゲン)もしくは懸念物質(重金属)により構成されており、ELV(End of Life Vehicles)、WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)、RoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)などの法律が相次いで制定されるような環境意識の高まりの状況下、迅速かつ抜本的な技術改善が求められているためである。
別の要因としては、高硬度のエンジニアリングプラスティックや加工精度の高いセラミックス、また様々な表面加工技術がでてきて、鋼鉄には無かった性質、軽量かつ高硬度、腐食耐性等のメリットをもった素材がでてきたし、用途的にも広がったため、その材質に適した耐摩耗性潤滑技術が求められるようになったからである。
さらに、科学技術戦略推進機構(JCII)の「グリーントライボ材料の創製に関する調査」報告書には、保全費・部品交換費の削減、故障で生じる波及損失の削減、耐用年数の延長による設備投資の削減が、2002年度のトライボロジー改善による経済効果8.63兆円の82%を占めていることが指摘されており、機械要素の長寿命化とメンテナンスフリーを可能とする、極圧高剪断条件でより高性能を発揮する新しい潤滑技術が必要であることを示唆している。それは、流体としての潤滑作用の一層の高性能化と、さらに極限条件でも破損を最小限に抑えられる境界潤滑膜を提供できる潤滑油である。
【0004】
しかしながら、これまでの境界潤滑膜技術はいずれも鋼への反応性が基軸にあり、そのような強い鋼に反応し、かつ無害な“新たな”元素とは、強い反応性と安全性を同時に求めるものであるため、その代替技術の開発は容易ではない。
しかし、その耐摩耗性技術がなければ、低粘性基油技術が活きてこないし、種々の添加剤技術も使えない。当然ながら、それ以外の高硬度が期待される界面(セラミック、エンジニアリングプラスチックス、ダイヤモンドライクカーボンのような鉄以外の無機被膜)にも非反応性であることから、耐摩耗性機能の同様な展開も期待できない。
上記の議論から、今、求められているものは、鋼鉄の界面が歪む(弾性変形する)ような高圧高剪断条件での、環境にやさしい元素で構成された、低摩擦性かつ耐摩耗性に優れる“新たな”潤滑油膜の形成技術である。
【0005】
高圧下での相転移、界面近傍の吸着分子膜、配向分子膜のように、Newtonの粘性法則に従わない環境および脂肪族化合物でない極性分子、ひも状分子でない(異方性)円盤状分子については、現在のトライボロジーではその物性から界面での振る舞いを予測することは容易ではない。
さらに分子の配向が界面の性質に大きく左右されることは液晶ディスプレーで開発された液晶用配向膜の技術によってよく知られており、高圧粘度が発生する状況での界面の性質が従来と異なる場合には、我々は従来知見をもって信頼性ある予測をすることは難しいと言わざるを得ない。
【0006】
本来、潤滑剤の基本的役割は低摩擦性、耐摩耗性の両立であるが、極圧状態の剪断場での低摩擦性と強靭な油膜形成による耐摩耗性とを両立し得る有機素材系は、脂肪族化合物では得られてはいない。また、それ以外の有機化合物系材料、例えば、複素環を有する極性な有機化合物や、自己組織的に配向する液晶性化合物、また液晶性はなくとも構造的異方性が大きい有機化合物の振る舞いについては、トライボロジーの観点から詳細に検討されたことはなかった。
【0007】
特許文献1に示されるように、柔らかい基油(合成基油、鉱物系基油等)とその高温での柔らかすぎる欠点を補う粘度指数向上剤の配合によって、低摩擦性と耐摩耗性の両立した内燃機関用潤滑油組成物が提供されている。しかし、粘度指数向上剤の耐久性向上についての記載はない。
【0008】
特許文献2では、トリアジン構造を有する円盤状化合物を含んだ低摩擦係数を発現する潤滑油組成物が提供されている。また、SUJ−2鋼については耐摩耗性に優れることが記載されている。特に分子配向性は、その界面の影響が著しいことは液晶ディスプレーにおいて液晶配向膜の技術が極めて重要なことから容易に想像されるが、この点に関するトライボロジー的研究は学際的にも皆無である。特許文献2にもその低摩擦係数が分子の配向効果に起因する可能性が示唆されており興味深いが、耐摩耗性に関する示唆また、他の界面での作用についての記載はない。また、粘度指数向上剤の耐久性向上についての記載もない。
【0009】
特許文献3では、流体潤滑条件下、弾性流体潤滑条件下において、摺動部の摩擦抵抗をより低減できる低摩擦性流体およびこれを含むエンジンオイルが提供されている。その低摩擦流体によって、流体潤滑下及び弾性流体潤滑下のいずれにおいても低摩擦抵抗が得られることが記載されている。しかし、それは逆に粘度圧力係数が相対的に小さいことを示唆し、弾性流体潤滑下で特徴的な低摩擦抵抗が得られる本発明の技術とは異なる技術であることを示唆している。また分子の配向に関する記述および他の界面の耐摩耗性に関する記述もない。また、粘度指数向上剤の耐久性向上についての記載はない。
【0010】
すなわち、これまでの特許文献で開示された低摩擦流体は、実施例に示された範囲の低摩擦値を鋼鉄界面において実際に与えることは事実であるが、耐摩耗性との両立に関しては、鋼鉄において特許文献2に開示された化合物はその性能を有することは開示しているものの、鋼鉄以外の他の素材界面での記述は見られない。また、粘度指数向上剤の耐久性向上についての記載はない。しかし、省エネルギーや地球温暖化防止、環境保護の観点から、潤滑剤を含む機械要素の燃費向上、高寿命化、リユース適性などの厳しい性能要求がある。したがって、あらゆる界面部材系での低摩擦係数と耐摩耗性との両立、及び長寿命化が可能な潤滑剤技術、機械要素系が今後の展開において、非常に重要な技術としての位置づけにあることがわかる。
【0011】
ところで、二面間の摩擦・潤滑の世界では、一般的に摩擦力Fはそこにかかった荷重Wとその摩擦界面の性質を反映した摩擦係数μの積で表されるが、その二面間に油膜が介在し剪断がかかるいわゆる流体潤滑において、特に摩擦機械要素として最も一般的な軸受けの周速の異なる二円筒が転がり/すべり接触をする場合の摩擦に関しては、摩擦係数μに相等するトラクション係数φが定義されている。トラクション係数は、接触面の形状、二面間の相対速度や荷重のほかに、介在する油膜の性質に大きく依存する。そして、この油膜の性質は、理論的には粘性流体の運動を記述するNavier−Stokesの方程式によって表されるが、Reynoldsはさらにこれを狭い隙間の流れに適用し、今日の流体潤滑理論の基礎になったReynolds方程式を導出し、それによって、圧力、壁面速度、密度、粘度及びその間隙の膜厚が決まることを示した。
【0012】
潤滑剤により摩擦、摩耗の低減を必要とする機械要素が決まれば、その圧力、壁面速度は制御できる。潤滑剤である有機化合物液体の密度や粘度は、圧力、温度により変化するが、特に粘度は密度よりはるかに大きく変化する。自動車や各種製造機械には多くの軸受けが用いられているが、荷重に対する接触部が小さいため、そこには数トン/cm2(=数100MPa)の圧力がかかることは珍しいことではない。従って高圧状態での粘度物性はトラクション係数φに影響する重要な因子である。
【0013】
高圧状態の粘度はBARUSの式η=η0exp(αP)(なお、η0は常圧の粘度を表す)に従い、圧力の関数として表される。非特許文献1の表1にあるように、通常の粘性有機化合物の液体では、粘度圧力係数α、圧力Pの積は1以上であるため、例外なく、圧力の増加に伴いその粘度は指数関数的に増加する。非特許文献2には、この現象がピエゾ粘性効果と呼ばれ、一般の潤滑油ではその圧力の影響が100MPaを超えると顕在化し、くさび作用とピエゾ粘性効果の相乗作用により圧力上昇が加速される。さらに弾性変形がなければ油膜圧力は爆発的に上昇するので、弾性変形しにくい鋼であっても比較的厚い油膜を形成することが可能となることが記載されている。このピエゾ粘性効果、すなわち粘度と圧力の正の相関関係は、高い圧力がかかる油膜で一般的に起こる現象であり、弾性流体潤滑領域では、この油膜による潤滑の重要な現象の解析が今日でも積極的に進められている。
【0014】
非特許文献3には、ヘルツ接触のような高圧下では潤滑油がガラス転移ないしは固化現象を引き起こし、これが転がり軸受けの作動や寿命、トラクション駆動装置のトラクション特性等に極めて重要な役割を果たしてきたことが述べられている。すなわち、一般的潤滑油においては、極圧状態では粘度が固体レベルにも上昇することがあることが指摘されており、ピエゾ粘性効果の究極が固体粘度に至ることがわかる。
【0015】
圧力の上昇は、摺動する二面間の間隙から油を排除し、油膜を薄膜化する。固体表面近傍のそのような液体超薄膜は、バルク液体の性質とはまったく違った性質を示すことが知られている。このような固体表面近傍あるいは超薄膜液体の力学的性質は、主に表面力測定装置(SFA,Surface Force Apparatus)あるいは原子間力顕微鏡(AFM,Atomic Force Microscope)などを用いて測定され、ナノトライボロジーやナノレオロジーといった原子分子のレベルから現象の本質を探る学問に重要な知見を与えている。非特許文献4には、密度が固体表面からの距離に対して振動的に変化し、構造的には一般的に潤滑剤として用いられている油脂化合物液体の分子が分子集合体的に層状に秩序配向化することで、その粘度がバルクと比べて非常に大きくなる事実が示されている。これはバルクのピエゾ粘性効果とは異なるが、圧力の上昇によって膜厚がナノメートルオーダーまで薄くなると粘度が指数関数的に上昇し、結果的にはピエゾ粘性効果と同様の効果を与えることがわかる。
【0016】
上記の極薄膜の分子の秩序化による高粘性効果の対極的現象として、バルク液体の特殊な性質のひとつとして、異方性配向状態にある液晶分子層での異方的低粘性の存在が挙げられる。すなわちMiesowicsは、常圧において、液晶分子の配向方向に応じた粘度の異方性の存在を非特許文献5において明らかにし、Miesowics viscosityとして定義した。非特許文献6には、液晶の電場配向と剪断方向の差すなわち異方性粘度の差を利用して粘度によるアクティブ制御素子の提案がなされている。しかし、この現象は、分子の異方性配向に起因する拡散断面積の最も小さい方向に剪断される際の粘度が最も小さいという理由により生じており、これまでの粘度の概念と科学的基礎は同じであるため、方向による相対的粘度差は生じるが、そのいずれの方向の粘度も圧力の増加に従って増加するという傾向は上記の非配向性液体の場合のピエゾ粘性効果と同じである。
【0017】
上記の非特許文献はすべてピエゾ粘性効果の範疇に入る科学的現象であり、圧力の上昇が粘度の上昇を引き起こし、ひいてはトラクション係数φの上昇に至る現象としてまとめることができる。以上のように、摺動する二面間に介在する油膜に極圧がかかり、膜厚が減少する非常に厳しい条件での液体薄膜では、その粘度が増加し、トラクション係数が増加することは、自然科学の理であることがわかる。
【0018】
一方、非特許文献7には、トラクションフルードとして有用なナフテン系化合物の環構造も含めた分子各部の剛さが、粘度・圧力粘度係数および高温トラクション係数と正の良い相関があることが述べられている。すなわち、相対的に剛い分子ほどトラクション係数φが大きいという一般的経験則がナフテン系トラクションフルードには成り立つというものである。剛い分子ほどトラクション係数が大きいという経験則も、逆にやわらかい分子ほど厳しい条件ではその油膜が容易に破壊されることから潤滑能を失い境界潤滑領域での二面間の融着による機械要素の破壊に至るために実用的には剛い分子を使わざるを得ない、すなわちトラクション係数は大きいものを選択せざるを得ないことを示唆している。
【0019】
本来、潤滑剤の基本的役割は低摩擦性、耐摩耗性の両立であるが、極圧状態の剪断場での低トラクション性と強靭な油膜形成による耐摩耗性を両立させる自然科学の理またそれを具体化する素材系はいまだ明らかにされてはいない。このように、極圧条件においてトラクション係数が増加することは機械要素の運転により大きな負荷がかかることを意味しており、省エネルギーや地球温暖化防止、環境保護の観点から燃費向上が厳しく求められている現状では大きな科学原理的な壁と言わざるを得ない。
【0020】
しかし、産業界においてこそ低トラクションと耐摩耗性の両立が潤滑剤の使命であり、エンジンなどの内燃機関、マニュアルトランスミッションなどの駆動系部品及び流体機械などの摺動部位を有する機械全般に用いる潤滑剤はできるだけ低トラクション係数であるほど、流体潤滑または弾性流体潤滑条件下などにおける摺動部位の摩擦抵抗は小さい。摩擦抵抗が小さいと摺動部位のエネルギー損失が低減し、燃費を向上できる。たとえば、自動車においてエンジンオイルが低トラクション性であると燃費が向上する。すなわち、自動車エンジンの駆動時にはピストンリングとシリンダライナが流体潤滑または弾性流体潤滑下で主として摺動するが、低トラクション性流体であるエンジンオイルを用いればその摺動による摩擦抵抗が低減し、燃費が向上する。従って低トラクション性流体の開発が重要であり、より厳しい極圧や高温度条件での低トラクション性の発現が求められている。
【0021】
上記した様に、特許文献1には、柔らかい基油(合成基油、鉱物系基油等)とその柔らかさの欠点を補う粘度指数向上剤の配合によって低トラクション性と耐摩耗性の両立した内燃機関用潤滑油組成物が提供されているが、特許文献1では、滑り率3%で評価を行っていて、この範囲では、一般的に潤滑剤のトラクション係数は小さいということを考慮すれば、この組成物に特徴的であるとは言いきれない。しかも、特許文献1の実施例では、精製鉱油における動粘度値のラチチュードが狭く、その経時劣化等による動粘度の少しの増加または粘度指数向上剤の劣化によってすぐにその理想的潤滑性能が劣化することがその比較例から容易に推察できる。従って、このような欠点を補い合う素材の組み合わせでは、それらの性能が広い温度域と圧力域で発現、維持できることは示されていないし、一般的に補償は難しい。さらにこれもピエゾ粘性効果に従うという点では従来の潤滑剤組成物と大差はない。
【0022】
また、上記した特許文献2には、その低トラクション係数が分子の配向効果に起因する可能性が示唆されているが、それがMiesowicz粘性以外の新規な効果を示唆する記述はない。また同様にピエゾ粘性以外の新規な効果なのかについても一切言及されていない。
【0023】
また、上記した様に、特許文献3には、その低トラクション流体が流体潤滑下と弾性流体潤滑下のいずれにおいても低摩擦抵抗が得られることが記載されているが、それは逆に弾性流体潤滑下で特徴的な低摩擦抵抗が得られる本発明の技術とは異なる技術であることを示唆している。また分子の配向に関する記述はなく、それがMiesowicz粘性以外の新規な効果を示唆する記述はない。また同様にピエゾ粘性以外の新規な効果なのかについても一切言及されていない。
【0024】
すなわち、上記特許文献で開示された低トラクション流体は、実施例に示された範囲の低トラクション値を示すことは事実であるが、自然科学の理であるピエゾ粘性効果を覆す理論あるいは科学的根拠がなければ、極圧がかかる領域で低トラクションが得られなくなることは自明である。現行の潤滑剤はピエゾ粘性効果に従い、極圧条件ほどトラクション係数が増加し、省エネルギーや地球温暖化防止、環境保護の観点から燃費向上が厳しく求められている現状においては大きな科学原理的な壁であった。
【特許文献1】特開2002−3876号公報
【特許文献2】特開2002−69472号公報
【特許文献3】特開2004−315703号公報
【非特許文献1】「高圧密度計測に基づく潤滑油の高圧粘度の予測」トライボロジスト 44 (7) pp560 (1999).
【非特許文献2】「EHL理論の現状と展望」トライボロジスト 49 (4) pp275 (2004).
【非特許文献3】「潤滑油の高圧物性とヘルツ接触下の固・液転換潤滑」トライボロジスト 43 (6) pp462 (1998).
【非特許文献4】「分子オーダのEHLと分子効果の発現」トライボロジスト 49 (4) pp295 (2004).
【非特許文献5】M.Miesowicz Nature 158,4001 (1946) pp27.
【非特許文献6】「Electroviscous Effect of Liquid Crystals」 Proc.19th Leads−Lyon Symposium on tribology pp495 (1993).
【非特許文献7】「トラクションフルードの分子構造とトラクション特性との定量的相関(第二報)」トライボロジスト 39 (3) pp242 (1994).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、従来のような界面への反応性ではなく、摺動面界面近傍において積層傾向を有するとともに、小さな粘度圧力係数を有する有機化合物を利用した新規なメカニズムによって、鋼鉄のみならず、鋼鉄以外の様々な界面に対しても、厳しい条件下での長時間の使用を可能にする低摩擦性であり、且つ耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を提供することにある。
また、本発明は、環境有害または懸念元素の不使用を可能にする技術を背景とする環境調和性の潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、従来用いられていた素材とは異なる有機化合物とその配向構造の組合せにより、より厳しい極圧条件で、従来と比較して、より低トラクション係数が広い範囲で得られる潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者は鋭意検討を行った結果、所定の構造を有するとともに、所定の性質を有する有機化合物を現行の低粘性基油に添加することで、高温での極端な低粘性状態での摩耗性の進行が抑制できることが、耐久性試験から明らかになった。より一層の耐久性を確保するためには粘度指数向上剤の使用は好ましいことであるが、従来、粘度指数向上剤は極圧高剪断条件下では、剪断破壊による低分子量化による性能劣化が著しく、その改善が求められてきた。しかし、驚くべきことに、基油に前記有機化合物を添加した場合には、粘度指数向上剤の剪断破壊が顕著に抑制されることが明らかになった。これは、前記有機化合物が摺動面界面において配向性があること、及び粘度指数向上剤と同様な有機化合物によって境界潤滑膜が形成されること、これらの要因によって、粘度指数向上剤の剪断破壊を抑制しているのではないかと推察している。
同様に、酸化安定剤も耐久性を確保するためには使用は好ましいが、従来、極圧高剪断条件下では、剪断破壊による低分子量化によって性能劣化が著しく、その改善が求められてきた。本発明者が鋭意検討した結果、酸化安定剤についても、前記有機化合物を併用することによって、剪断破壊が抑制され、長寿命化されることを見出した。
さらに、前記有機化合物を単独で使用した場合も、その摺動面界面における配向性及び境界潤滑膜形成性によって、極圧高剪断条件下においても低摩擦性及び低磨耗性に優れた性能を発現し得ることを見出した。
これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0027】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1) 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、
(a)液晶相を形成しうるメソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いトラクション係数の最小値を発現させる性質を有する少なくとも一種の有機化合物、
(b)潤滑油基油、及び
(c)少なくとも一種の粘度指数向上剤及び/又は(d)少なくとも一種の酸化防止剤、
を含有する潤滑剤組成物。
(2) (b)潤滑油基油が、鉱油および/または合成炭化水素である(1)の潤滑剤組成物。
(3) (b)潤滑油基油が、ポリ−α−オレフィンまたはその水素化物、エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリブテンまたはその水素化物、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレン,脂環式化合物、またはそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種からなる(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(4) (b)潤滑油基油が、ポリエーテルである(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(5) (b)潤滑油基油が、ポリグリコール、ポリフェニルエーテルまたはアルキルジフェニルエーテル、またはそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種からなる(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(6) (b)潤滑油基油が、エステルである(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(7) (b)潤滑油基油が、ジエステル、ポリオールエステル、天然油脂、またはそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種からなる(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(8) (b)潤滑油基油が、りん酸エステル、ポリシロキサン化合物、フッ素化ポリエーテルである(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(9) (b)潤滑油基油が、炭化水素、ポリエーテル、エステル、りん酸エステル、ポリシロキサン化合物、フッ素化ポリエーテルから選ばれる少なくとも2種の混合物からなる(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(10) (b)潤滑油基油100質量部に対して、(a)有機化合物を0.1〜10質量部含有する(1)〜(9)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(11) (c)粘度指数向上剤が、ポリメタクリレート(PMA)、オレフィン共重合体(OCP)、水素化スチレン/ジエン共重合体(SDC)、ポリイソブチレン(PIB)及びその混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(10)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(12) (d)酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(10)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(13) (b)潤滑油基油と(c)粘度指数向上剤及び/又は(d)酸化防止剤との混合物100質量部に、(a)有機化合物を0.1〜10質量部配合してなる(1)〜(12)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(14) 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、(a)有機化合物の分子が、その拡散断面積が最も大きくなる分子面を前記二面に対して平行にして配向した分子集合体薄膜を形成可能な(1)〜(13)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(15) (a)有機化合物が、100MPa以上の圧力下で最小のフリクション係数を発現させる(1)〜(14)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(16) (a)有機化合物が、メソゲン構造として、平板状又は円盤状構造を分子内に有するとともに、それを核として三本以上の末端鎖が放射状に伸びた構造を有する(1)〜(15)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(17) (a)有機化合物が、メソゲン構造として、棒状の分子構造を有する(1)〜(15)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(18) (a)有機化合物が、メソゲン構造として、少なくとも二つの芳香族環、少なくとも一つの縮合環、又はπ共役平面を構成要素とする有機化合物である(1)〜(17)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(19) (a)有機化合物が、常圧で液晶相を呈する(1)〜(18)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(20) 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、(a)有機化合物が、結晶相を呈しない(1)〜(19)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
(21) (a)有機化合物が有するメソゲン構造が、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される(1)〜(20)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

(式中、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。)
【0030】
(22) 前記有機化合物を二種類以上含有する(1)〜(21)のいずれかの潤滑剤組成物。
(23) 前記有機化合物とともに、その液晶相形成温度を低下させる有機化合物を少なくとも一種含有する(1)〜(22)のいずれかの潤滑剤組成物。
(24) 平均圧力が10MPa以上で摩擦摺動する二面間に(1)〜(23)のいずれかの潤滑剤組成物を配置して二面間の摩擦を軽減する方法。
(25) 平均圧力が10MPa以上で摩擦摺動する二面間の潤滑剤であることを特徴とする(1)〜(24)のいずれかの潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、これまで用いられてきた極圧下での潤滑技術すなわち低粘性、低トラクション性の鉱物油や油脂系合成潤滑油での油膜の弱さをポリマーや硫黄、重金属系の界面被覆剤によって補ってきた従来技術を、極圧、剪断下での新しい異方性素材の高秩序配向化膜の形成による極圧下での分子間反発機構の発現という新規技術に置き換えることによって、従来の低トラクション係数をさらに凌駕する極低トラクション性と界面を高秩序に配向しながら平面的に被覆することによるさらに強靭な耐摩耗性が同時に得られる。これは、省エネルギーや地球温暖化防止、環境保護の観点から燃費向上が厳しく求められている現状においては、大きな科学原理的な壁であったピエゾ粘性効果に由来するそれらの諸問題を一気に解決する新技術の提供である。本発明によれば、環境有害物の懸念がある硫黄化合物、りん化合物及び亜鉛やモリブデンなどの重金属類を用いなくとも、有機化合物のみで高性能、好対環境性の潤滑剤組成物が提供される。
また、本発明によれば、摺動面界面近傍において積層傾向を有するとともに、小さな粘度圧力係数を有する有機化合物を利用した新規なメカニズムによって、鋼鉄のみらなず、鋼鉄以外の様々な界面に対しても、厳しい条件下での長時間の使用を可能にする低摩擦性であり、且つ耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物に関する。本発明の潤滑剤組成物は、(a)液晶相を形成しうるメソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いトラクション係数の最小値を発現させる性質を有する、少なくとも一種の有機化合物、(b)潤滑油基油、及び(c)少なくとも一種の粘度指数向上剤及び/又は(d)少なくとも一種の酸化防止剤を含有することを特徴とする潤滑剤組成物である。
【0033】
本発明の潤滑剤組成物が用いられる互いに異なる周速で運動する二面については特に制限されず、種々の機械要素に含まれる摺動面間等に用いることができる。前記二面の周速度については特に限定されず、大きい周速度をu1(>0)、小さい周速度をu2、即ち|u1|>|u2|と定義すると、平均速度(u2+u1)/2はゼロより大きく無限に可能であるが、通常は二面の平均速度は1000m/s以下であり、好ましくは1cm/s以上50m/s以下である。2×(u2−u1)/(u2+u1)で定義される滑り率Σの絶対値もゼロより大きく無限に可能であるが、u2がゼロすなわち停止している機械要素では−2となり、−2≦Σ<0の範囲で用いられるが、通常は−2以上で−0.01以下の範囲で用いられる機械要素が多い。
【0034】
(u1−u2)/二面間の潤滑剤組成物の膜厚で定義される剪断速度は、ゼロより大きく無限に可能であるが、通常は109/s以下で用いられ、好ましくは10/s以上107/s以下で用いられる。前記潤滑剤組成物が、常圧で液晶性を呈する場合は、小さな剪断速度で所望の高秩序配向度が維持されるが、非液晶性の場合は剪断による高秩序配向化が必要であり、たとえば104/s以上の剪断速度を要することもあるが、それは潤滑剤組成物に含有される前記有機化合物の構造や、圧力又は温度等によって変化するので、適正な範囲を一義的に定義することは困難である。潤滑剤組成物に含有される前記有機化合物の配向秩序度は、通常、液晶の配向秩序度の定義を用いると、好ましくは0.3以上0.99以下である。また、二面間の膜厚は、通常10nm以上100μm以下であり、好ましくは50nm以上5μm以下である。
【0035】
運動する二面の材質について特に制限されず、鋼鉄、鋼鉄以外の各種金属、金属以外の無機又は有機材料、及びこれらの混合体のいずれであってもよい。
鋼鉄以外の金属材料としては、鋳鉄、銅・銅−鉛・アルミニウム合金、その鋳物及びホワイトメタルが挙げられる。有機材料としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、四フッ化エチレン樹脂(PFPE)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリピロメリットイミド、ポリピロメリットイミド、ポリピロメリットイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、などの各種プラスチックが挙げられる。無機材料としては、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、ジルコニア、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニア(ZrC)、窒化チタン(TiN)などのセラミックス;及びカーボン材料が挙げられる。またこれらの混合体として、プラスチックにガラス、カーボン又はアラミドなどの繊維を複合化した有機−無機複合材料、セラミックと金属の複合材料サーメットなどが挙げられる。
【0036】
また、鋼鉄としては、機械構造用炭素鋼、ニッケルクロム鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼材、クロム鋼材、クロムモリブデン鋼材、アルミニウムクロムモリブデン鋼材などの構造機械用合金鋼;ステンレス鋼、マルチエージング鋼などの鋼材;が挙げられる。これらの表面の少なくとも一部が、鉄鋼以外の金属材料、又は金属材料以外の有機もしくは無機材料からなる膜で被覆されていてもよい。被覆膜としては、ダイヤモンドライクカーボンの薄膜等の気相コーティング法、たとえば化学蒸着や物理蒸着法による薄膜、めっき等の液相コーティング法による薄膜、粉体塗装や溶射による薄膜、及び有機もしくは無機多孔質膜などが挙げられる。
【0037】
また、前記二面の少なくとも一方の面に、多孔性焼結層を形成して、かかる多孔質層に潤滑剤組成物を含浸させて、摺動時に摺動面に潤滑剤組成物が適宜供給されるように構成してもよい。前記多孔質層は、金属材料、有機材料及び無機材料のいずれからなっていてもよい。具体的には、焼結金属、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)とマグネシア(MgO)の微粒子が互いに強く結合して形成されるような多孔質セラミックス、シリカとホウ酸系成分を熱的に相分離させることにより得られる多孔質ガラス、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結多孔質成形体、四フッ化エチレン等フッ素樹脂系多孔質膜、ミクロフィルターなどに用いられるポリスルホン系多孔質膜、予め成形体の貧溶媒とその成形体形成モノマーを重合時相分離を起こさせて形成される多孔質膜などが挙げられる。
【0038】
金属又は酸化金属焼結層としては、銅系、鉄系又はTiO2系の粉末を焼結することにより形成される多孔質層が挙げられる。銅系金属焼結層は、鋳鉄基板の上に銅粉末(例えば、88質量%)、スズ(例えば、10質量%)及び黒鉛(例えば、2質量%)の混合物を設置し、250MPaで圧縮形成したものを還元気流中で、高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、鉄系金属焼結層は、鋳鉄基板上に、鉄粉末に銅粉末(例えば、3質量%)及び化学炭素(0.6質量%)を添加した混合物を設置して、250MPaで圧縮成形したものを還元気流中で高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、TiO2焼結層は、Ti(OC817−n)(例えば、33質量%)、TiO2の微粉末(例えば、57質量%)及びPEO(分子量MW=3000)の混合物を、鋳鉄上に設置して、UV光を照射しつつ560℃に3時間加熱焼結することによって形成される。
【0039】
二面間の平均圧力に関しては、通常、100MPa程度の圧力下から有機化合物が非圧縮性となり、化学反応に対する「質量作用」の効果があまり重要でなくなり、圧力が有機化合物の立体障害を克服して反応する例があることが、K.E.WEALE著 「高圧化学反応」 培風館発行(1969)p1.に記載されている。
【0040】
(a)所定の有機化合物
本発明の潤滑剤組成物は、液晶相を形成しうるメソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いトラクション係数の最小値を発現させる性質を有する、少なくとも一種の有機化合物を含有する。
上記(a)有機化合物は、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いより低いトラクション係数を発現し、トラクション係数の最小値を発現させる。さらに、100MPa以上の圧力下で最小のトラクション係数を発現させるのが好ましい。また、上記(a)有機化合物は、0.07以下の低トラクション係数を発現させるのが好ましく、0.05以下の低トラクション係数を発現させるのがさらに好ましい。10MPa以上の領域の圧力下から、ガラスや鋼でもその界面に弾性歪みの影響が出始めることが分かっている。従って、本発明の潤滑剤組成物が用いられる二面は、主な運動が10MPa以上の圧力下で行われるのが好ましく、50MPa以上の圧力で行われるのがより好ましく、100MPa以上の圧力下で行われるのがさらに好ましい。なお、前記潤滑剤組成物は、圧力上昇に伴い、混合潤滑領域まで達し、その膜界面が破壊されると考えられる。従って、前記潤滑剤組成物のトラクション係数の低下は、10MPa以上であり、且つ混合潤滑領域となる圧力以下の範囲における圧力上昇に伴って生じる。
【0041】
ここで、トラクション係数とは、転がりにすべりが入るときに生じる接線力を法線力(垂直荷重)で割った無次元量、すなわち、滑り摩擦係数のことである。「トライボロジー」山本・兼田共著 理工学社発行(1998)p.1
29.図5.18に記載されているように、トラクション係数は滑り率が小さいときには、それに比例して増加し、その後一定値になり、さらに滑り率が増加すると摩擦熱の影響で徐々に減少傾向を示すことが分かっている。したがって、トラクション係数を比較するには、温度を一定にし、最大トラクション係数が得られる比較的大きな滑り率の領域で比較すべきである。
【0042】
また、上記(a)有機化合物は、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に従いより低トラクション係数を発現させる。ここで、粘度圧力係数はトライボロジスト 第38巻 第10号 pp927 (1993)に記載される方法によって、算出することができる。本発明の潤滑剤組成物は、40℃における粘度圧力係数が13GPa-1であるのが好ましい。
但し、40℃で固体の化合物の場合は、測定条件で液体を呈する2以上の温度で粘度圧力係数を求め、それらの値を低温側に外挿して求めた40℃の値と定義する。
【0043】
上記(a)有機化合物は、メソゲン構造を分子内に有する。ここで、メソゲン構造とは、中間相(=液晶相)形成分子(液晶辞典、日本学術振興会、情報科学用有機材料第142委員会、液晶部会編、1989年)とも称され、液晶性分子構造とほぼ同義である。典型的メソゲンとして具体的には、棒状構造でネマティック相及びスメクティック相を呈するものでは、アゾメチン基、フェニルアゾ基、フェニルアゾキシ基、安息香酸エステル基、ビフェニル基、ターフェニル基、シクロヘキシルカルボン酸エステル基、フェニルシクロヘキサン基、ビフェニルシクロヘキサン基、ピリミジン基、ジオキサン基、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル基、シクロヘキシルエチル基、トラン基、2,3−ジフルオロフェニレン基、アルケニル基、シクロヘキシル基またはそれらの複合、連結した基が挙げられる。コレステリック相を呈するものでは、コレステロール誘導体エステルが挙げられる。平板状及び円盤状構造でディスコティックネマティック相およびカラムナー相を呈するものでは、六置換ベンゼン、1,3,5−トリアジン、ヘキサアリールエチニルベンゼン、2,3,6,7,10,11−六置換トリフェニレン、2,3,7,8,12,13−六置換トルキセン、六置換トリオキサトルキセン、1,2,3,5,6,7−六置換アントラキノン、八置換フタロシアニンまたはポルフィリン、六置換マクロサイクレン、ビス(1,3−ジケトン)銅錯体、テトラアリールビピラニリデン、テトラチアフルバレン、イノシトール等が挙げられる。
【0044】
前記有機化合物の分子は、二面間で剪断を受けている際に、拡散断面積が最も大きくなる分子面を剪断面と平行に向けて配向しているのが好ましい。棒状分子の場合、その慣性軸または光学軸が剪断面と平行になるような配向状態での分子集合体薄膜の形成が必要である。平板状及び円盤状構造化合物の場合は、最も広い分子面を剪断面と平行になるような配向状態での分子集合体薄膜の形成が必要である。
【0045】
トラクション係数の観点からは、棒状構造の有機化合物と、平板状及び円盤状構造の有機化合物とでは、一般的には、後者の方が、小さいトラクション係数を与える。この理由は、後者の方が界面への吸着性や、隣接分子間の反発に寄与する面積が相対的に大きいことによると推察される。また、平面性と分子間反発を効率的に保持する上でも、π結合による縮合環を構成要素とする平板状及び円盤状構造の有機化合物が好ましい。しかし、縮合環の数が多くなると結晶化温度も高くなり、相対的に粘度が上昇し、室温付近での利用が困難になる傾向があるため、特殊な高温での利用以外はあまりπ−平面は大きくないほうがよい。
【0046】
平板状及び円盤状構造化合物とは、その母核に平板状あるいは円盤状の分子部分を有する化合物をいう。側鎖部を除いた母核部分の平板状あるいは円盤状の形態的特徴は、例えば、その原形化合物である水素置換体について、以下のように表現され得る。まず、分子の大きさを以下のようにして求める。
1)該分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いることが好ましく、例えば日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II分冊15章(1993年刊 丸善)を参照することができる。
2)前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian98、MOPAC2000、CHARMm/QUANTA、MM3が挙げられ、好ましくはGaussian98である。
3)構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4)各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5)ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、b、cとする。
以上の手順により求められたa、b、cを用いて円盤状の形態を定義すると、c≦b<aかつa/2≦b≦a、好ましくはc≦b<aかつ0.7a≦b≦aと表すことができる。また、b/2>cであることが好ましい。
【0047】
また具体的化合物として挙げると、例えば日本化学会編、季刊化学総説No.22「液晶の化学」第5章、第10章2節(1994年刊 学会出版センター)、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.Liq.Cryst.71巻、111頁(1981年)、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)、J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhang、J.S.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年)に記載の母核化合物の誘導体が挙げられる。例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、アザクラウン誘導体、シクロヘキサン誘導体、ヘテロ環誘導体、β−ジケトン系金属錯体誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体およびフェニルアセチレンマクロサイクルの誘導体が挙げられる。さらに、日本化学会編、“化学総説No.15 新しい芳香族の化学”(1977年東京大学出版会刊)に記載の環状化合物およびそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。また、上記金属錯体の場合と同様に、水素結合、配位結合等により複数の分子の集合体を形成して円盤状の分子となるものでもよい。これらを分子の中心の母核とし、直鎖もしくは分岐のアルキル基やアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された構造により円盤状液晶化合物が形成される。
【0048】
平板状及び円盤状構造化合物の分子の中心の母核の好ましい例には、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される構造が含まれる。なお、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表し、即ち、[5]及び[6]は中心金属を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
母核は、極性元素を含むπ共役系の骨格を有するのが好ましく、上記の中で、[1],[2],[3],[4],[5],[6],[9],[11],[12],[17],[20],[21],[23],[24],[28],[29],[30],[36],[38],[42],[46],[56],[58],[67],[68],[73],[74]が好ましく、その中でも[1],[2],[3],[6],[11],[12],[21],[23],[30],[46],[58],[68],[73]が好ましく、特に好ましくは合成的に安価に入手できる[1]のベンゼン環または[2]の1,3,5−トリス(アリールアミノ)−2,4,6−トリアジン環である。
【0052】
側鎖としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオ基、アシルオキシ基が挙げられ、側鎖中にアリール基、ヘテロ環基を含んでいても良い。また、C.Hansch、A.Leo、R.W.Taft著、ケミカルレビュー誌(Chem.Rev.)1991年、91巻、165〜195ページ(アメリカ化学会)に記載されている置換基で置換されていてもよく、代表例としてアルコキシ基、アルキル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子が挙げられる。更に側鎖中に、例えばエーテル基、エステル基、カルボニル基、シアノ基、チオエーテル基、スルホキシド基、スルホニル基、アミド基のような官能基を有していても良い。
【0053】
より詳細には、側鎖部分としては、例えば、アルカノイルオキシ基(例えば、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ノナノイルオキシ、デカノイルオキシ、ウンデカノイルオキシ)、アルキルスルホニル基(例えば、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、ノニルスルホニル、デシルスルホニル、ウンデシルスルホニル)、アルキルチオ基(例えば、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、ドデシルチオ)、アルコキシ基(例えば、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ)、2−(4−アルキルフェニル)エチニル基(例えば、アルキル基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)、末端ルオキシ、7−ビニルヘプチルオキシ、8−ビニルオクチルオキシ、9−ビニルノニルオキシ)、4−アルコキシフェニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルコキシメチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルキルチオメチル基(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオエトキシメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルコキシエトキシメル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、2−アルコキシカルボニルエチル基例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、コレステリルオキシカルボニル、β−シトステリルオキシカルボニル、4−アルコキシフェノキシカルボニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイルオキシ基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルキルベンゾイルオキシ基(例えばアルキルシ基として、前述の2−(4−アルキルフェニル)エチニル基挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)が挙げられる。また、前述のもののうち、フェニル基は他のアリール基(例えば、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセン基)でもよいし、また前述の置換基に加えて更に置換されてもよい。また、該フェニル基はヘテロ芳香環(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアリル基、オキサジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基)であってもよい。
一つの側鎖に含まれる炭素原子の数は1以上30以下が好ましく、1以上20以下がさらに好ましい。
【0054】
前記円盤状化合物は、円盤状部分構造である環状の基と、該環状の基に結合した複数個(好ましくは2〜11個)の側鎖とを有する化合物であるのが好ましい。側鎖の少なくとも一つは、エステル結合を有しているのが好ましい。特に、側鎖の少なくとも一つが、下記一般式(4a)または一般式(4b)で表される基を含んでいるのが好ましい。なお、以下の式中、左側(−X0)がD側に結合する。
【0055】
【化5】

【0056】
【化6】

【0057】
式中、X0は単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。
0は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。二価の連結基は置換基を有していてもよい。L0はアルキレン基が好ましい。
また、X0とL0との組み合わせの基としては、−O(C=O)−アルキレン−、−O(C=O)−シクロアルキレン−が好ましい。
0は化合物の側鎖末端に位置し、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
【0058】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つは、前記一般式(4a)で表される基を含んでいるのがより好ましい。中でも、側鎖が下記一般式(4)で表される基を含んでいるのがさらに好ましい。なお、以下の式中、左側(−L01)が環状の基側に結合する。
【0059】
【化7】

【0060】
01はX0と同義である。L01は酸素原子、硫黄原子、−(C=O)O−、−NH−(C=O)O−であるのが好ましい。R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、pおよびqは各々整数を表す。R01の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)およびアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、バンゾイルオキシ等)や、アリール基、複素環基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、およびウレイド基等が挙げられる。pは1〜20が好ましく、2〜10がより好ましい。qは1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0061】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つが、下記一般式(5)又は(6)で表される基を含んでいるのも好ましい。
【0062】
【化8】

【0063】
式中、R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、mおよびnは各々整数を表し、一般式(4)におけるR01と同じ意味の基を表す。
【0064】
【化9】

【0065】
式中、R25は置換基を表し、a24は1〜5の整数を表す。
【0066】
また、前記側鎖の少なくとも一部が、下記一般式(7)で表される基であるのも好ましい。
【0067】
【化10】

【0068】
式中、L21は、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。好ましくは、酸素原子、オキシアルキレン基、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、カルボニルオキシ基およびカルボニル基であり、オキシカルボニル基およびカルボニル基がより好ましい。
【0069】
前記式中、置換基R25、R71およびR72の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素)、アルキル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル基で、例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル)、アルケニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルケニル基で、例えば、ビニル、2−ブテン−1−イル、オレイル)、アルキニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルキニル基で、例えば、プロパルギル)、アリール基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリール基で、例えば、フェニル、ナフチル)、ヘテロ環基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロ環基で、例えば、2−フリル、2−チエニル、4−ピリジル,2−イミダゾリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾオキサゾリル、1−ベンゾイミダゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、エトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ)、アリールオキシ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ、1−ナフトキシ)、シリルオキシ基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20のシリルオキシ基で、例えば、トリメチルシリルオキシ)、ヘテロオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロオキシ基で、例えば、2−フリルオキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ、3−ピリジルオキシ、2−イミダゾリルオキシ)、アシルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ、ブタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ドデカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ)、カルバモイルオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のカルバモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニルオキシ基で、例えば、エトキシカルボニルオキシ、ブトキシカルボニルオキシ、2−エチルへキルオキシカルボニルオキシ、ドデシルオキシカルボニルオキシ、ヘキサデシルオキシカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニルオキシ基で、例えば、フェノキシカルボニルオキシ)、アミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは1〜20のアミノ基で、例えば、アミノ、N−メチルアミノ、N−2−エチルヘキシルアミノ、N−テトラデシルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジオクチルアミノ)、アシルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアシルアミノ基で、例えば、アセチルアミノ、オクタノイルアミノ、ドデカノイルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアミノカルボニルアミノ基で、例えば、N,N−ジオクチルカルバモイルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、テトラデシルオキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のスルファモイルアミノ基で、例えば、N,N−ジメチルスルファモイルアミノ)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキルおよびアリールスルホニルアミノ基で、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、ドデシルスルホニルアミノ、p−トルエンスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキルチオ基で、例えば、メチルチオ、エチルチオ、2−エチルヘキシルチオ、ドデシルチオ)、アリールチオ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリールチオ基で、例えば、フェニルチオ)、ヘテロ環チオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロ環チオ基で、例えば、4−ピリジルチオ、チアゾール−2−イルチオ、ベンゾオキサゾール−2−イルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ、1,3,4−チアジアゾール−2−イルチオ)、スルファモイル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のスルファモイル基で、例えば、スルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル、N−ヘキサデシルスルファモイル)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキルおよびアリールスルフィニル基で、例えば、メチルスルフィニル、フェニルスルフィニル)、アルキルおよびアリールスルホニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキルおよびアリールスルホニル基で、例えば、メチルスルホニル、ブチルスルホニル、ヘキサデシルスルホニル、p−トリルスルホニル)、アシル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアシル基で、例えば、アセチル、プロピオニル、イソブチリル、テトラデカノイル、ベンゾイル)、アリールオキシカルボニル基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フォノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニル基で、例えば、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のカルバモイル基で、例えば、カルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−ドデシルカルバモイル)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアリールおよびヘテロ環アゾ基で、例えば、フェニルアゾ、3−メチル−1,2,4−オキサジアゾール−5−イルアゾ、2−メチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−5−イルアゾ)、イミド基(炭素原子数4〜40の、好ましくは4〜20のイミド基で、例えば、スクシンイミド、フタルイミド)、ホスフィノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィノ基)、ホスフィニル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニルアミノ基)、シリル基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20のシリル基で、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル)が含まれる。さらに、置換基R71及びR72は、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。R71の置換基としては直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換された、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびアシル基が好ましい。aは0あるいは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
71の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0070】
また、前記m個の側鎖(R−X−)の少なくとも一つが、部分フッ化炭素基、フッ化炭素基を含んでいるのも好ましい。すなわち、前記一般式(4a)、(4b)、(4)、(5)、(6)および(7)の少なくとも一つが、部分フッ化炭素基、フッ化炭素基を含んでいるのも好ましい。フッ化炭素基について二重結合、分岐、環状基、芳香環の有無は問わない。
【0071】
ここで、液晶性にとっては、立体的要因である直線性や平面性と剛直性、及び静電的要因である分極率の異方性が重要である。ほぼすべての液晶性化合物の構造は、模式的に、剛直なコア構造とフレキシブルな側鎖で表すことができる。メソゲン構造とは、中間相(メソフェーズ)が誘起(ジェネレート)される構造という造語であり、前者の剛直なコア構造部分を指す。液晶性化合物は、単独で、ある特定の温度、圧力範囲で熱力学的に安定な液晶相を呈するサーモトロピック液晶と、溶媒中である特定の温度、圧力、濃度範囲で液晶相を呈するリオトロピック液晶とに分類される。しかし、メソゲン構造とフレキシブルな側鎖を有する化合物でも必ずしも液晶性を呈するわけではない。従って、本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機化合物は、メソゲン構造を分子内に有することは必須だが、液晶性化合物である必要はない。
【0072】
有機化合物が有するこの剛直な平面構造による剛体的斥力が液晶性発現に重要な因子となっているが、同時に存在するフレキシブルな側鎖が自由に振舞える空間、すなわち自由体積が大きいことが、相対的にこれまで用いられてきた潤滑剤組成物にない特徴を与えることを見出した。すなわち、液晶性化合物、より好ましくは円盤状メソゲン構造を有する化合物は剛直な平面構造の環のまわりにフレキシブルな側鎖を数本配するがゆえに、相対的にそれら側鎖の自由体積が大きくなり、圧力がかかり、自由体積が圧縮される状況下でもその自由体積を確保しうることが期待される。それゆえに、相対的に圧力に対する粘度の上昇率が小さくなり、動植物油脂と同等の小さな粘度圧力係数を呈する。したがって、高圧下でも、剪断方向には低い粘性係数を示し、界面方向には平面分子が高い吸着力と配向(積層)性による高い粘性係数を発現し、これまでのいわゆる等方性の油性化合物では発現し得なかった極圧下での低粘性と耐摩耗性を両立しているものと推定される。
【0073】
本発明の潤滑剤組成物は、極圧条件下すなわち弾性流体潤滑領域でとくに低トラクション係数を与えることが特徴である。そのため、常圧域でのいわゆる流体潤滑領域では一般的に平面性の高い広いπ共役平面を有する有機化合物の粘度は相対的に大きい。したがって、この領域すなわち常圧で液晶性であることは、剪断によるミエソビッツの低粘性を発現させることが可能であり、より有利であると言える。したがって、できるだけ広い温度域で低トラクション係数を発現させるには、常圧で液晶相を呈する有機化合物を用いるのが好ましく、さらに常圧での液晶温度領域ができるだけ広く、且つ低粘性の平板状あるいは円盤状構造の有機化合物を用いるのがより好ましい。その点では、トリアリールメラミン環やヘキサ−及びペンタアリールエチニルベンゼン、さらにトリフェニレン環等の円盤状メソゲン構造を二つ以上連結し、結晶性を弱め、広い温度域で液晶相を形成しうる有機化合物も好ましい。一方、二面間に介在して剪断をうけている際は、前記有機化合物は、結晶相温度では極めて高いトラクション係数を発現することが分かっている。一方、それが明確な結晶相を形成せず無定形(アモルフォス)状態を呈したり、結晶相を形成する速度が遅い場合は過冷却状態になり見かけ上無定形(アモルフォス)状態を呈するような場合には小さなトラクション係数が維持されることが一般的に起こるので、二面間に介在して剪断をうけている際は、結晶相を呈しないのが好ましいと考えられる。
【0074】
以下に、上記(a)有機化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0075】
【化11】

【0076】
【化12】

【0077】
【化13】

【0078】
【化14】

【0079】
【化15】

【0080】
【化16】

【0081】
【化17】

【0082】
【化18】

【0083】
【化19】

【0084】
【化20】

【0085】
【化21】

【0086】
【化22】

【0087】
【化23】

【0088】
【化24】

【0089】
【化25】

【0090】
【化26】

【0091】
【化27】

【0092】
【化28】

【0093】
【化29】

【0094】
【化30】

【0095】
【化31】

【0096】
【化32】

【0097】
【化33】

【0098】
【化34】

【0099】
【化35】

【0100】
【化36】

【0101】
【化37】

【0102】
【化38】

【0103】
【化39】

【0104】
【化40】

【0105】
本発明の潤滑剤組成物は、メソゲン構造を分子内に有する有機化合物を二種類以上含有していてもよい。かかる場合は、異なるメソケ゛ン構造を有する二種以上の化合物を有してもよく、同一のメソゲン構造を有し、且つ各々異なる側鎖が置換された有機化合物を複数種類用いてもよい。また、前記潤滑剤組成物は、前記有機化合物とともに、その液晶相形成温度を低下させる有機化合物を含有していてもよい。常圧におけるそのような化合物の組み合わせとしては、非特許文献 Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1981,Vol.71,pp111.の図5.から図10.の化合物、及び特許文献 特開平9−104866号公報に記載される化合物があげられる。参照文献にも記載されるように、かかる化合物の組み合わせに関する記載は少ないが、特に構造的に除外されたり、制限される化学構造はなく、より効率的にその液晶相形成温度を低下させる構造として、用いる液晶化合物の側鎖に類似した構造であり、好ましくは、エーテル基やカルボニル基といった極性官能基が少なくとも一種類含まれる化合物、例えばオリゴエチレンオキシ基と炭素数6以上のアルキル基を含むエーテル化合物やエステル化合物等下記の具体的化合物例が挙げられる。
【0106】
【化41】

【0107】
【化42】

【0108】
(b)潤滑油基油
本発明の潤滑剤組成物は、さらに(b)潤滑油基油を含有する。現行の潤滑油基油のいずれも使用することができる。現行の潤滑油基油については、トライボロジーハンドブック C編 第一章 潤滑油 1.1.1基油 p.579〜589 第一版 2001年 編集:社団法人日本トライボロジー学会 発行:(株)
養賢堂 に詳細に記載されているが、それは原油蒸留精製から得られる重質留分を溶剤抽出や水素化処理で精製した鉱油系基油と、化学合成を主たる製造プロセスとする合成油系基油に大別される。鉱油系基油としては、(1) 主成分炭化水素の構造的分類から、パラフィン系、ナフテン系および芳香族系とに分類されるが、特殊基油を除くとほとんどが前二者である。減圧蒸留の留分には、パラフィン系やナフテン系および単環、二環、多環芳香族系の主成分炭化水素の他に、サルファイド、チオフェン等の硫黄化合物、キノリン、カルバゾール等の窒素化合物、レジン質等が含まれ、高油粘度指数、低温流動性、スラッジ溶解性、引火点、酸化安定性などの基油としての基本的性能の制御が必ずしも容易ではなく、より高性能の潤滑油のために、合成系基油が求められてきている。その合成系基油としては、 (2−1) 炭化水素基油( a)ポリオレフィン系:α−オレフィン(1−デセン)を原料として重合反応と水素化処理で製造されるポリ−α−オレフィン(PAO)と、イソブチレンを主体としn−ブテンとの共重合物であるポリブテン、そしてエチレンとα−オレフィンとの共重合物(OCP)など、b)アルキル芳香族系:アルキルベンゼン系とアルキルナフタレン系がある、c)脂環式化合物系:ナフテン環を有し、高い粘度圧力係数(高トラクション係数)が特徴であり、主にトラクションオイルの炭化水素基油に供される)、(2−2) ポリエーテル系基油(エチレンオキシド、プロピレンオキシドの重合物であるポリグリコール系と3〜5の芳香環を有するフェニルエーテル系があり、前者は高粘度指数、後者は酸化安定性に特徴を有する)、 (2−3)エステル系基油:( 二塩基酸と一価アルコールから合成されるジエステル系、多価アルコールと一価カルボン酸から合成されるポリオールエステル系、動植物から得られる天然油脂系基油がある)、(2−4)りん化合物系基油(すべてりん酸エステル系化合物であり、トリアリールまたはトリアルキルリン酸エステル系基油があり、難燃性が特徴)、(2−5)珪素化合物系基油(Si−C結合とSi−O−Si結合を有するポリマー系化合物であるシリコーン油が一般的)、および(2−6)ハロゲン化合物系基油(パーフルオロ化したポリグリコールタイプ系基油のフッ素化ポリエーテル(PFPEあるいはPFPAEと略称)系基油で化学的に極めて安定)が挙げられる。
【0109】
本発明では、(b)潤滑油基油として、鉱油及び合成油のいずれも用いることができ、又それらの混合物であってもよい。合成油が好ましく、合成炭化水素系油がより好ましい。中でも、ポリ−α−オレフィンまたはその水素化物、エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリ−α−オレフィンまたはその水素化物とアルキルナフタレンとの混合物、及びエチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物とアルキルナフタレンとの混合物から選ばれる少なくとも1種を用いると、前記(a)有機化合物との相溶性も良好であり、耐久性の点でも好ましい。
【0110】
本発明に使用可能なポリα−オレフィン水素化物(以下、PAOという)については特に制限されず、種々のものを用いることができる。通常平均分子量が200〜1600のPAOが好ましく、400〜800のPAOがより好ましい。このようなPAOは、デセン−1、イソブデン等をルイス酸コンプレックス又は酸化アルミニウム触媒等で重合させて得られた重合物を水素化することにより得られる。PAOを基油に用いることで、耐熱性の向上が図れ、なおかつ油から生じるスラッジの量を極端に抑えることができるので、より長寿命な潤滑剤組成物が得られる。
【0111】
本発明に使用可能なエチレン−α−オレフィン共重合体水素化物(以下、PEAOという)については、特に制限されず種々のものを用いることができる。PEAOとしては、例えば、エチレンと1−デセン、イソブテン等のα−オレフィンをルイス酸触媒等で重合させて得られた重合物を水素化することにより得られたものを用いることができる。PEAOの数平均分子量は、通常200〜4000であるのが好ましく、1000〜2000であるのがより好ましい。
【0112】
本発明に使用可能なアルキルナフタレンについては、ナフタレン環上に1個以上のアルキル基を有するものであれば特に制限されることなく種々のものを用いることができる。好ましくはアルキル基の炭素数の合計が5〜25程度のモノ、ジ又はトリアルキルナフタレンであり、より好ましくは低級アルキル基と高級アルキル基の両方を有するものである。低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられ、特にメチル基が好ましい。また、高級アルキル基は、特に制限されるものではなく、直鎖アルキル基又は分枝アルキル基であってもよいが、粘度指数と潤滑性が優れている直鎖アルキル基を有するものが好ましい。このようなアルキルナフタレンは、例えば特開平8−302371号公報に記載されている、ナフタレン環上にメチル基1個と炭素数10〜24の第2級アルキル基を有するジアルキルナフタレン又はその混合物が挙げられる。実用的には、公知のもの、特に市販されているものが入手の容易さの点で有利である。
【0113】
本発明に用いる(b)潤滑油基油としては、PAO及びPEAOとアルキルナフタレンの混合物が好ましく、その配合割合は、前者が0.1〜50質量%、好ましくは2〜40質量%で、後者が50〜99.9質量%、好ましくは60〜98質量%である。PAO及びPEAOの配合割合が0.1質量%より少ないと耐熱性を向上させることができず、50質量%を超えると基油中のアルキルナフタレンの比率が低下し、油膜形成率が低下する。
【0114】
本発明の潤滑剤組成物において、(b)潤滑油基油100質量部に対して、(a)有機化合物を0.01〜30質量部含有するのが好ましく、0.1〜10質量部含有するのがより好ましく、0.5〜5質量部含有するのがより好ましい。かかる範囲であると、低摩擦係数の長期耐久性およびコストパフォーマンスの点で好ましい。
【0115】
(c)粘度指数向上剤
本発明の潤滑剤組成物は、(c)粘度指数向上剤及び/又は(d)酸化防止剤を含有する。まず、(c)粘度指数向上剤について説明する。本発明には、従来公知の種々の粘度指数向上剤を用いることができる。
近年、地球環境保護の機運が高まり、産業機械や自動車の省燃費性がよりいっそう要求されてきている。省燃費性の向上には、その駆動部分の摩擦抵抗の減少、特に潤滑油の粘性に関する特性改良、すなわち低温から高温まで広い範囲にわたって粘度ができるだけ変化しないことが実用上望ましい。この尺度として粘度指数(VI:viscosity index)が用いられ、粘度指数が大きいほど温度変化に対する安定性が高い。粘度指数は、ある種の重合体(粘度指数向上剤)を基油及び/又は潤滑油に添加することにより向上できることが知られている。粘度指数向上剤の添加により潤滑油の粘度の温度依存性が小さくなる理由は、以下のように考えられている。すなわち、低温(通常40℃)では粘度指数向上剤が低粘性オイルに溶解し難くオイルの粘度は上昇しないが、高温(通常100℃)ではオイル自身の粘度低下より、温度上昇による粘度指数向上剤のオイル溶解性が向上しその増粘効果でオイル全体の粘度が上昇する。
そのような重合体は粘度指数向上剤とよばれ、本発明においても上記(c)粘度指数向上剤として用いることができる。粘度指数向上剤の例には、ポリメタクリレート(PMA)(より具体的には特開平7−62372号公報に記載のPMA)、オレフィン共重合体(OCP)(より具体的には特公昭46−34508号公報に記載のOCP)、水素化スチレン/ジエン共重合体(SDC)(より具体的には特公昭48−39203号公報に記載のSDC)、ポリイソブチレン(PIB)等が含まれる。SDCからなる粘度指数向上剤としては、ランダム共重合体の他に、ブロック共重合体(例えば、特開昭49−47401号公報に記載のランダム共重合体)や星型重合体(例えば、特開昭52−96695号公報に記載の星型重合体)が開発されていて、いずれも本発明に用いることができる。これらの重合体を添加した潤滑油にはそれぞれ特徴がある。すなわち、PMAは粘度指数向上性に優れていて流動点降下作用もあるが、増粘効果が劣る。増粘効果を向上させるためには分子量を大きくすれば良いが、この場合、潤滑油の攪拌などに伴う剪断力に対する安定性が極端に悪くなる。PIBは増粘効果が大きいが、粘度指数向上性に劣る。OCP及びSDCは増粘効果が大きく、低温における粘度も低いが、粘度指数向上性はPMAに劣る。また、PMAは極性単量体を共重合することにより、他のものに比べてスラッジを潤滑油中に分散させる清浄分散性能を容易に付与することができる(特公昭51−20273号公報参照)。現在、潤滑油としては粘度指数向上性能の優れたマルチグレード油が一般に用いられているが、最近燃費向上等の要求から、さらに高性能な粘度指数向上剤が望まれるようになってきた。この要求を満足させる組成物として、PMAとOCP又はSDCを混合して用いることが考えられる。しかし、これらを単純に混合しただけでは相溶性が悪いため、潤滑油は二相に分離してしまう。そこで、この分離を防ぐために、異なる2種の重合体のグラフト共重合体が提案されている(具体的には、特公平4−50328号公報及び特開平6−346078号公報などに記載のグラフと共重合体〕。かかるグラフト共重合体も、(c)粘度指数向上剤として勿論用いることができる。
【0116】
一方、このような粘度指数向上剤には、粘度指数を向上する性能と同時に、剪断安定性が要求される。本明細書において「剪断安定性」とは、剪断を加える前の粘度に対する、剪断が加えられた後の粘度の低下率を意味する。従って、剪断断安定性が良好であるとは、剪断が加えられた後の粘度の低下率が小さいことを意味する。自動車のエンジンオイルは駆動系潤滑油なので、オイルに添加された粘度指数向上剤はクランク軸やギアによって強い剪断力(又は物理的な剪断応力)を受ける。この剪断応力によって、粘度指数向上剤のベースポリマーであるポリアルキル(メタ)アクリレートは剪断方向に配向し(即ち、向きを揃え伸び)、ポリマー鎖が切断され、ポリマーの分子量低下を生じ得る。その結果、粘度指数の低下を生じ易くなる。この傾向は、分子量が大きくなるほど強くなる。従って、剪断安定性を向上させるためには、粘度指数向上剤の重量平均分子量を低くすることが必要である。しかし、粘度指数向上剤の重量平均分子量を低くすると、粘度指数を十分に向上するために、粘度指数向上剤の潤滑油への添加量を増やすことが必要である。この根本的原理に関わる課題に対して、ビニル系モノマーの重合法(特開2002−12883号公報参照)、オレフィン共重合体組成の最適化(特開2003−48931号公報参照)及び基油とアルキルメタアクリレート組成の最適化(特開2004−307551号公報及び特開2004−149794号公報参照)の技術が提案され、それによって同時に低温流動性の確保が可能であることが開示されている。本発明にも、勿論、かかる技術により改良された粘度指数向上剤を用いることができる。また、特開2001−234186号公報には、アルキルメタアクリレート組成の最適化によってシャダー防止能が、特開平6−17077号公報にはアルキルフェノールを含有させて酸化防止能が、また特開2002−3873号公報にはポリアルキレンチオエーテルを含有させて耐コーキング性が付与できることが開示されている。本発明において、(c)粘度指数向上剤として、これらの高機能化された剤を用いてもよい。
【0117】
(d)酸化防止剤
次に、本発明に使用可能な(d)酸化防止剤について説明する。酸化防止剤としては、遊離基連鎖反応停止剤として働くフェノール系、アミン系酸化防止剤や、過酸化物分解剤として働く硫黄系酸化防止剤やリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上の酸化防止剤を単独又は混合して用いることができる が、好ましくはアミン系とフェノール系を併用するのがよい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−n−ブチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕、4,4’−ブチリデン−ビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)フェノールなどが挙げられる。蒸発特性の点から、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)が好適である。
【0118】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジ(p−オクチルフェニル)アミン、ジ(p−ノニルフェニル)アミン、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミンやノニルフェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジンなどが挙げられ、ジオクチルジフェニルアミン、フェノチアジンが好適である。
また、硫黄系酸化防止剤としては、例えば、硫化油脂、ジベンジルサルファイト、ジセチルサルファイドなどが挙げられる。
また、リン系酸化防止剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリルジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0119】
酸化防止を間接的に作用するものとして、金属不活性剤を配合することができる。金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が代表的なものであるが、その他イミダゾリン、ピリジン誘導体がある。これらは、少なくともN−CN結合を有する化合物中に効果のあるものが多く、金属表面に不活性皮膜を作る作用と酸化防止作用を有する。これら以外では、N−C−S結合を有する化合物もあるが、揮発性などからベンゾトリアゾール誘導体などが有効である。
【0120】
本発明の潤滑剤組成物において、(b)潤滑油基油と(c)粘度指数向上剤及び/又は(d)酸化防止剤との混合物100質量部に、(a)有機化合物を0.1〜10質量部配合してもよい。また、(b)潤滑油基油が、アルキルナフタレンを50〜99.9質量%、及びポリα−オレフィン水素化物又はエチレン−α−オレフィン共重合体水素化物を50〜0.1質量%含有し、(c)粘度指数向上剤及び/又は(d)酸化防止剤50〜1質量部に対し、(a)有機化合物を0.1〜10質量部含有する潤滑剤組成物が好ましい。
【0121】
本発明の潤滑剤組成物には、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、その他の各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。但し、他の成分を含有する場合も、1種又は2種以上の前記有機化合物が、全組成物中50モル%以上であるのが好ましく、80モル%以上であるのがより好ましい。
【0122】
本発明の潤滑剤組成物が利用される機械要素は、異なる周速で運動する二面を有する限り、特にその構造については限定されない。潤滑油、グリース等を必要とする従来公知の摩擦摺動部分に組み込まれる機械要素のいずれであってもよい。異なる周速で運動する二面は、曲面であっても、平面であってもよいし、また面の全部または一部に凹凸部を有していてもよい。例えば、すべり軸受けや、転がり軸受けの摩擦摺動部分などが挙げられる。本発明の機械要素は、さらに、伝動要素として、歯車、カム、ねじ、トラクションドライブを備えていてもよい。また、前記潤滑剤組成物を密封するための密封要素として、オイルシール、メカニカルシール、ピストンリングなどの接触式シールを備えていてもよい。
【実施例】
【0123】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0124】
[実施例1〜30]
潤滑油基油に、(a)所定の有機化合物、(d)酸化防止剤を配合して潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。これらの潤滑剤組成物について、摩擦係数および酸価をそれぞれ測定した。次に、潤滑剤組成物の評価として、JISK2415に準じて165.5℃×1300回転×36時間加熱試験を行った後の摩擦係数および酸価を測定した。
摩擦係数測定試験は、SRV測定試験機を用いて線接触、荷重200N、温度80℃、測定時間15分間、振幅1mm、サイクル50Hzにて行った。また、酸価は、滴定によってオレイン酸分として示す。但し、劣化判定の場合は赤外線のカルボン酸吸収の大きさあるいはこれをオレイン酸分に換算して示す。
結果を表1に示した。
【0125】
[比較例1〜10]
(a)所定の有機化合物又は(d)酸化防止剤が配合されていない潤滑剤組成物をそれぞれ調製し、実施例と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0126】
[実施例31〜60]
潤滑油基油に、(a)所定の有機化合物、(c)粘度指数向上剤を配合して潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。
これらの潤滑剤組成物について摩擦係数を測定した。摩擦係数測定試験は、SRV測定試験機を用いて線接触、荷重200N、温度100℃、測定時間15分間、振幅1mm、サイクル50Hzにて行った。
また、これらの潤滑剤組成物について、剪断安定性をJPS−5S−29−88に準拠して超音波照射による粘度損失率(下の式により算出)より評価した。この値は小さい方が好ましい。
粘度低下率(%)=((Vo −Vf)/Vo)×100
Vo ;超音波照射前の動粘度(cSt)
Vf ;超音波照射後の動粘度(cSt)
結果を表3に示した。
【0127】
[比較例11〜20]
(a)所定の有機化合物又は(c)粘度指数向上剤が配合されていない潤滑剤組成物を調製し、実施例と同様の評価を行った。結果を表4に示した。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
【表5】

【0133】
表1〜表4の結果から、比較例1〜10の潤滑剤組成物は加熱試験の前後で摩擦係数が変動していたが、一方、本発明の実施例1〜30の潤滑剤組成物は、加熱試験の前後で摩擦係数の変動がほとんどなく、高耐久性であることがわかった。
また、表5〜表8の結果から、比較例11〜20の潤滑剤組成物と比較して、本発明の実施例31〜60の潤滑剤組成物は、剪断安定性が優れており、摩擦係数の低減効果もあることが確認された。以上の結果は、(a)所定の有機化合物を含有する本発明の潤滑剤組成物は、省燃費性に優れていること、及び長寿命であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、
(a)メソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いトラクション係数の最小値を発現させる性質を有する少なくとも一種の有機化合物、
(b)潤滑油基油、及び
(c)少なくとも一種の粘度指数向上剤及び/又は(d)少なくとも一種の酸化防止剤、
を含有する潤滑剤組成物。
【請求項2】
(b)潤滑油基油が、鉱油および/または合成炭化水素である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
(b)潤滑油基油が、ポリ−α−オレフィンまたはその水素化物、エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリブテンまたはその水素化物、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレン,脂環式化合物、またはそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
(b)潤滑油基油が、ポリエーテルである請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
(b)潤滑油基油が、ポリグリコール、ポリフェニルエーテルまたはアルキルジフェニルエーテル、またはそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
(b)潤滑油基油が、エステルである請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
(b)潤滑油基油が、ジエステル、ポリオールエステル、天然油脂、またはそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
(b)潤滑油基油が、りん酸エステル、ポリシロキサン化合物、フッ素化ポリエーテルである請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
(b)潤滑油基油が、炭化水素、ポリエーテル、エステル、りん酸エステル、ポリシロキサン化合物、フッ素化ポリエーテルから選ばれる少なくとも2種の混合物からなる請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
(b)潤滑油基油100質量部に対して、(a)有機化合物を0.1〜10質量部含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
(c)粘度指数向上剤が、ポリメタクリレート(PMA)、オレフィン共重合体(OCP)、水素化スチレン/ジエン共重合体(SDC)、ポリイソブチレン(PIB)及びその混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜10のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
(d)酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜10のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
(b)潤滑油基油と(c)粘度指数向上剤及び/又は(d)酸化防止剤との混合物100質量部に、(a)有機化合物を0.1〜10質量部配合してなる請求項1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、(a)有機化合物の分子が、その拡散断面積が最も大きくなる分子面を前記二面に対して平行にして配向した分子集合体薄膜を形成可能な請求項1〜13のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
(a)有機化合物が、100MPa以上の圧力下で最小のフリクション係数を発現させる請求項1〜14のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
(a)有機化合物が、メソゲン構造として、平板状又は円盤状構造を分子内に有するとともに、それを核として三本以上の末端鎖が放射状に伸びた構造を有する請求項1〜15のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
(a)有機化合物が、メソゲン構造として、棒状の分子構造を有する請求項1〜15のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
(a)有機化合物が、メソゲン構造として、少なくとも二つの芳香族環、少なくとも一つの縮合環、又はπ共役平面を構成要素とする有機化合物である請求項1〜17のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項19】
(a)有機化合物が、常圧で液晶相を呈する請求項1〜18のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項20】
互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、(a)有機化合物が、結晶相を呈しない請求項1〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項21】
(a)有機化合物が有するメソゲン構造が、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される請求項1〜20のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【化1】

【化2】

(式中、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。)

【公開番号】特開2006−257383(P2006−257383A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246320(P2005−246320)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】