説明

潤滑油組成物、該潤滑油組成物を用いた摺動機構

【課題】低摩擦摺動材料用の潤滑油として用いた際に極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物を提供すること、及び該潤滑油組成物を用いて、特定の低摩擦摺動材料の皮膜を摺動面に有する摺動部材とを組み合わせることにより、低摩擦性に優れた摺動機構を提供すること。
【解決手段】特定のリン−亜鉛含有化合物、および特定の硫黄含有化合物から選ばれる添加剤を配合してなる低摩擦摺動材料に用いられる潤滑油組成物、及び相互に摺動する2つの摺動部材の摺動面に、前記潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面が、水素を5〜50atom%含有するDLC皮膜が形成されている摺動機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物及び該潤滑油組成物を用いた摺動機構に関し、さらに詳しくは、低摩擦摺動材料用の潤滑油として用いた際に極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物及び該潤滑油組成物を用いた低い摩擦係数を示す摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において環境問題への対応が重要になっており、省エネルギー化や二酸化炭素の排出量の低減化に関する技術開発が進められている。例えば、自動車に関しては燃費の向上が課題の一つであり、潤滑油や摺動材料の技術開発が重要になっている。
【0003】
潤滑油に関しては、これまでに各種性能向上を目的として、種々の基油や添加剤が開発されている。例えば、エンジン油に要求される性能としては、適切な粘度特性、酸化安定性、清浄分散性、摩耗防止性、あわ立ち防止性等があり、種々の基油及び添加剤の組み合わせによりこれらの性能向上が図られている。特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は耐摩耗添加剤として優れることから、エンジン油の添加剤としてよく使用されている。
【0004】
一方、摺動材料に関しては、摩擦摩耗環境が苛酷な部位(例えば、エンジンの摺動部位)用の材料として、耐摩耗性向上等に寄与するTiN皮膜やCrN皮膜等の硬質皮膜を有する材料が知られている。さらに、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を利用することで、空気中、潤滑油非存在下において摩擦係数を低下できることが知られ、DLC皮膜を有する材料(以下、DLC材料と称する。)が低摩擦摺動材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、DLC材料は、潤滑油の存在下においてはその摩擦低減効果が小さいことがあり、この場合省燃費効果は得られにくい。このため、これまでにDLC材料等の低摩擦摺動材料用の潤滑油組成物の開発が行われてきた。
例えば、特許文献1にはエーテル系無灰摩擦低減剤を含む、低摩擦摺動部材に用いられる潤滑油組成物が開示されている。特許文献2、3には、DLC部材と鉄基部材との摺動面やDLC部材とアルミニウム合金部材との摺動面に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物を用いる技術が開示されている。特許文献4には、DLCコーティング摺動部材を有する低摩擦摺動機構において、含酸素有機化合物や脂肪族アミン系化合物を含有する低摩擦剤組成物を用いる技術が開示されている。
このように低摩擦摺動材料用の潤滑油組成物が開発されているが、これらの技術を応用した場合であっても、耐摩耗性等の更なる向上を求めてZnDTPを配合すると摩擦係数が大きくなるという傾向があった。したがって、潤滑油に求められる各種性能を維持することができ、特に低摩擦摺動材料用の潤滑油として用いた際に極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物が求められている。
【0006】
そして、このような潤滑油としての各種特性を維持しながら優れた低摩擦性を発揮することができる潤滑油組成物を用いて、前記DLC皮膜を摺動面に有する摺動部材と組み合わせた低摩擦性に優れた摺動機構が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−36850号公報
【特許文献2】特開2003−238982号公報
【特許文献3】特開2004−155891号公報
【特許文献4】特開2005−98495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低摩擦摺動材料用の潤滑油として用いた際に極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。また、本発明は、潤滑油としての各種特性を維持しながら優れた低摩擦性を発揮することができる潤滑油組成物を用いて、特定の低摩擦摺動材料の皮膜を摺動面に有する摺動部材とを組み合わせることにより、低摩擦性に優れた摺動機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の添加剤を配合してなる潤滑油組成物によって、前記課題が解決することを見出した。また、本発明は、この潤滑油組成物からなる潤滑油と、特定の低摩擦摺動材料の皮膜が形成されている摺動部材とにより摺動機構を構成することによって、前記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1.一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、X1、X2は酸素原子または硫黄原子を示す。R1は、酸素原子または硫黄原子を含む炭素数2〜30の有機基を示す。nは1〜3から選ばれる整数である。)
で示されるリン含有化合物と亜鉛化合物とを反応させて得られるリン−亜鉛含有化合物、および一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、nは1〜5から選ばれる整数、R2及びR3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の有機基、A1及びA2は、それぞれ独立に炭素数1〜20の二価の炭化水素基を示す。)
で示される硫黄含有化合物から選ばれる添加剤を配合してなる、低摩擦摺動材料に用いられる潤滑油組成物、
2.添加剤が、上記(I)式中のX1およびX2の少なくとも一つが酸素原子であるリン含有化合物を用いて得られたリン−亜鉛含有化合物である、上記1に記載の潤滑油組成物、
3. 添加剤が、一般式(III)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R4は炭素数4〜24の有機基、R5は炭素数1〜6の二価の有機基を示す。nは1〜3から選ばれる整数である。)
で示されるリン含有化合物を用いて得られたリン−亜鉛含有化合物である、上記1または2に記載の潤滑油組成物、
4. 添加剤が、一般式(IV)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R6及びR7は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる原子を含んでいてもよい炭素数1〜29の有機基、A3及びA4は、それぞれ独立に炭素数1〜12の二価の炭化水素基を示す。)
で示される硫黄含有化合物である、上記1に記載の潤滑油組成物、
5. 低摩擦摺動材料が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を有する材料である上記1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物、
6.相互に摺動する2つの摺動部材の摺動面に、上記1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面に、水素を5〜50atom%含有するDLC皮膜が形成されている摺動機構、
7.DLC皮膜が、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜である上記6に記載の摺動機構、
8.DLC皮膜におけるグラファイト結晶の結晶径が、15〜100nmである上記7に記載の摺動機構、
9.摺動部材とDLC皮膜との間に、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、及びシリコン(Si)の中から選ばれる一種又は二種以上の金属層、金属窒化層あるいは金属炭化層を有する上記7又は8に記載の摺動機構、
10.DLC皮膜が、陰極PIGプラズマCVD法により、高密度プラズマ雰囲気下で形成されたものである上記7〜9のいずれかに記載の摺動機構、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低摩擦摺動材料用の潤滑油として用いた際に極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記潤滑油組成物と特定の低摩擦摺動材料を皮膜した摺動面との組み合わせにおいて、低摩擦性に優れた摺動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係るDLC皮膜の形成装置の一例である陰極PIGプラズマCVD装置の概要を示す図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係るDLC皮膜のX線回折スペクトルの測定例である。
【図5】図4のDLC皮膜の微分スペクトルである。
【図6】図4のDLC皮膜の結晶ピーク抽出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、潤滑油組成物、該潤滑油組成物を用いた摺動機構に関する。以下、これらについて詳細に説明する。
1、潤滑油組成物
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油および特定の添加剤を含有し、低摩擦摺動材料の摺動面に用いる潤滑油として用いられる。
【0021】
本発明で用いる潤滑油基油に特に制限はなく、従来使用されている公知の鉱物系基油及び合成系基油の中から適宜選択して用いることができる。
ここで、鉱油としては、例えばパラフィン基系原油、中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか、又は常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、あるいはこれを常法に従って精製することによって得られる精製油、例えば溶剤精製油、水添精製油、脱ろう処理油、白土処理油などを挙げることができる。
一方、合成油としては、例えば炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマーであるポリα−オレフィン、ポリブテン、ポリオールエステル、アルキルベンゼンなどを挙げることができる。
本発明においては、基油として、上記鉱油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記基油としては、100℃における動粘度が、通常2〜50mm2/s、好ましくは3〜30mm2/s、特に好ましくは3〜15mm2/sであるものが有利である。100℃における動粘度が2mm2/s以上であると蒸発損失が少なく、また50mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が良好に発揮される。
また、この基油は、粘度指数が60以上、さらには70以上、特に80以上のものが好ましい。粘度指数が60以上であると、基油の温度による粘度変化が小さく、安定した潤滑性能を発揮する。
【0023】
本発明においては特定のリン含有化合物と亜鉛化合物とを反応させて得られるリン−亜鉛含有化合物、または特定の硫黄含有化合物が添加剤として用いられる。これらの添加剤は、耐摩耗性効果を有するとともに、摩擦係数の低減化にも寄与する。
本発明で用いるリン−亜鉛含有化合物の調製には、一般式(I)
【0024】
【化5】

【0025】
で示されるリン含有化合物が用いられる。(I)式中、X1、X2は酸素原子または硫黄原子を示す。R1は、酸素原子または硫黄原子を含む炭素数2〜30の有機基を示す。nは1〜3から選ばれる整数である。特に、X1およびX2の少なくとも一つが酸素原子である化合物が好ましい。
【0026】
(I)式で表されるリン含有化合物の中で、特に、一般式(III)
【0027】
【化6】

【0028】
で示されるリン含有化合物が好ましい。(III)式中、R4は炭素数4〜24の有機基、R5は炭素数1〜6の二価の有機基を示す。nは1〜3から選ばれる整数である。
4の有機基としては、炭素数4〜24の炭化水素基が好ましく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基などが用いられるが、特に炭素数8〜16のアルキル基が好ましい。また、R5は炭素数1〜6の炭化水素基が好ましく、特に炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい。具体的にはメチレン基,エチレン基,1,2−プロピレン基;1,3−プロピレン基,各種ブチレン基,各種ペンチレン基,各種ヘキシレン基の二価の脂肪族基、シクロヘキサン,メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素に2個の結合部位を有する脂環式基、各種フェニレン基などを挙げることができる。
【0029】
上記一般式(I)または(III)で表わされるリン含有化合物の具体例としては、ハイドロジェンジ(ヘキシルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンジ(オクチルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンジ(ドデシルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンジ(ヘキサデシルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンモノ(ヘキシルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンモノ(オクチルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンモノ(ドデシルチオエチル)リン酸エステル、ハイドロジェンモノ(ヘキサデシルチオエチル)リン酸エステルなどが挙げられる。
上記リン含有化合物の製造方法については、例えば、アルキルチオアルキルアルコール、またはアルキルチオアルコキシドと、オキシ塩化リン(POCl3)とを、無触媒または塩基の存在下で反応させることにより得ることができる。
【0030】
リン−亜鉛含有化合物の調製に用いられる亜鉛化合物としては、金属亜鉛、亜鉛酸化物、有機亜鉛化合物、亜鉛酸素酸塩、ハロゲン化亜鉛、亜鉛錯体などが好ましく、具体的には亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、カルボン酸亜鉛、亜鉛錯体などが挙げられる。
リン含有化合物と亜鉛化合物との反応は、無触媒または触媒存在下で反応させることにより得ることができる。この反応において、リン含有化合物と亜鉛化合物の使用割合は、亜鉛原子とリン原子のモル比(Zn/P)が0.55以上で反応させて行うことが好ましい。0.55以上であることで、十分な極圧性、耐摩耗性を有し、塩基価維持性能が十分となり、好ましくは0.56〜1、より好ましくは0.58〜1である。1以下であることで、基油に対する優れた溶解性が得られる。また、反応温度は、通常室温〜200℃、好ましくは40〜150℃の範囲で選ばれる。
このようにして得られた反応物は、リン含有化合物の亜鉛塩等を主成分とするものであり、通常、不純物を常法により精製して使用する。
【0031】
本発明で用いる硫黄含有化合物は、一般式(II)
【0032】
【化7】

【0033】
で示される。(II)式中、nは1〜5から選ばれる整数、R2及びR3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の有機基、A1及びA2は、それぞれ独立に炭素数1〜20の二価の炭化水素基を示す。一般式(II)で表わされる硫黄化合物の中でも、特に一般式(IV)
【0034】
【化8】

【0035】
で示される硫黄含有化合物が好ましい。(IV)式中、R6及びR7は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる原子を含んでいてもよい炭素数1〜29の有機基、A3及びA4は、それぞれ独立に炭素数1〜12の二価の炭化水素基を示す。R6及びR7は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、好ましくは、炭素数が1〜20であり、より好ましくは2〜18、特に好ましくは3〜18である。また、A3及びA4は好ましくは、炭素数が1〜8の炭化水素基である。
【0036】
一般式(IV)で表される硫黄含有化合物の製造方法としては、例えば、メルカプトアルカンカルボン酸エステルを酸化カップリングする方法が挙げられる。この場合の酸化剤としては、酸素、過酸化水素、ジメチルスルホキシドなどが用いられる。
【0037】
上記一般式(II)または(IV)で表わされる硫黄含有化合物の具体例としては、ビス(メトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(エトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−プロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(イソプロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−ブトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−オクトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−ドデシルオキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(シクロプロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−ブチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−ヘキシル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−オクチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−ドデシル)ジスルフィド、2,2−ビス(2−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、α,α−ビス(α−メトキシカルボニルベンジル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−エトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−n−プロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−イソプロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−シクロプロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−ブチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−ヘキシル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、2,2−ビス(3−メトキシカルボニル−n−ペンチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−1−フェニルエチル)ジスルフィドなどを挙げることができる。
【0038】
前記リン−亜鉛含有化合物や前記硫黄含有化合物の配合量は、組成物全量基準で、通常、0.05〜5質量%であり、好ましくは0.1〜4質量%である。配合量が0.05質量%以上であれば、十分な耐摩耗性が得られ、5質量%以下であれば、腐食などが生ずる恐れがない。本発明においては、これらの添加剤により耐摩耗性が向上するため、ZnDTPを使用しなくても十分な性質を有する潤滑油組成物が得られ、低摩擦摺動材料に用いられる場合においても低い摩擦係数が得られる。
このように本発明の潤滑油組成物においては、ZnDTPの配合量が少ないことが、摩擦係数の低減化の観点から好ましく、通常リン量換算で0.06質量%以下であり、配合しないことが特に好ましい。
【0039】
本発明の潤滑油組成物は本発明の効果を損なわない限りにおいて、従来公知の添加剤を配合しても良く、例えば、金属系清浄剤、無灰系分散剤、摩擦低減剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、防錆剤等が挙げられる。
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルフォネート、サリシネート、およびフィネート等が挙げられる。これらの中で、摩擦低減化の観点から、アルカリ土類金属スルフォネートおよびサリシネートが好ましい。
無灰系分散剤としては、例えばコハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価のカルボン酸のアミド類などが挙げられる。これらの中で、摩擦低減化の観点から、ホウ素を含有しないコハク酸イミド類が好ましい。
摩擦低減剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、高級アルコール系などの無灰摩擦低減剤が挙げられる。粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステル又はこれらの任意の組合せに係る共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体及びその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量に基づき0.1〜40.0質量%程度である。流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレートなどが挙げられる。
【0040】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−
ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4
’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−
エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t
−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェ
ノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);
2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチ
リデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−
6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル
−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフ
ェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(
3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[
ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0041】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えばモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジ
フェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフ
ェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェ
ニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン
系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中でジアルキルジフェニルアミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0042】
本発明の潤滑油組成物は、低摩擦摺動材料を有する摺動面に適用され、優れた低摩擦性と耐摩耗性を付与することができ、特に内燃機関に適用した場合には、省燃費効果を付与することができる。
前記の低摩擦摺動材料を有する摺動面としては、少なくとも一方の側に低摩擦摺動材料としてDLC材料を有するものが好ましい。この場合、他方の摺動面の材料については、例えば、DLC材料、鉄基材料あるいはアルミニウム合金材料などがあげられる。
つまり、2つの摺動面がともにDLC材料、一方の摺動面がDLC材料で他方の摺動面が鉄基材料、一方の摺動面がDLC材料で他方の摺動面がアルミニウム合金材料である場合が例示できる。
【0043】
ここで、上記DLC材料は、表面にDLC膜を有するものである。該膜を構成するDLCは、炭素元素を主として構成された非晶質であり、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。
具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられる。
これらの中でも、a−C:H(水素アモルファスカーボン)、中でも、水素を5〜50%含有するa−C:HやDLC Wが好ましい。
さらに、DLCは、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLCが好ましい。
このようなグラファイト結晶ピークを有するDLCは、陰極PIG(Penninng Ionization Gauge)プラズマCVD法により高密度プラズマ雰囲気下で形成することができる。
【0044】
一方、鉄基材料としては、例えば浸炭鋼SCM420やSCr420(JIS)などを挙げることができる。アルミニウム合金材料としては、ケイ素を4〜20質量%及び銅を1.0〜5.0質量%を含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金を用いることが好ましい。具体的にはAC2A、AC8A、ADC12、ADC14(JIS)などを挙げることができる。
また、前記DLC材料及び鉄基材料、あるいはDLC材料及びアルミニウム合金材料のそれぞれの表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μm以下であると局部的なスカッフィングが形成しにくく、摩擦係数の増大を抑制することができる。更に、上記DLC材料は、表面硬さが、マイクロビッカーズ硬さ(98mN荷重)でHv1000〜3500、厚さが0.3〜2.0μmであることが好ましい。
【0045】
一方、前記鉄基材料は、表面硬さがロックウェル硬さ(Cスケール)でHRC45〜60であることが好ましい。この場合は、カムフォロワー部材のように700MPa程度の高面圧下の摺動条件においても、膜の耐久性を維持できるので有効である。
また、前記アルミニウム合金材料は、表面硬さがブリネル硬さHB80〜130であることが好ましい。
DLC材料の表面硬さ及び厚さが上記範囲にあると摩滅や剥離が抑制される。また、鉄基材料の表面硬さがHRC45以上であると、高面圧下で座屈し剥離するのを抑制することができる。一方、アルミニウム合金材料の表面硬さが上記範囲にあれば、アルミニウム合金の摩耗が抑制される。
【0046】
本発明の潤滑油組成物が適用される摺動部については、二つの金属表面が接触し、かつ少なくとも一方が低摩擦摺動材料を有する表面であればよく、特に制限はないが、例えば内燃機関の摺動部を好ましく挙げることができる。この場合は、従来に比べて極めて優れた低摩擦特性が得られ、省燃費効果が発揮されるので有効である。例えば、DLC部材としては、鉄鋼材料の基板にDLCをコーティングした円板状のシムやリフター冠面などが挙げられ、鉄基部材としては、低合金チルド鋳鉄、浸炭鋼又は調質炭素鋼、及びこれらの任意の組合せに係る材料を用いたカムロブなどが挙げられる。
【0047】
2.摺動機構
本発明の摺動機構は、相互に摺動する2つの摺動材料の摺動面間に、上記の潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、2つの摺動材料の少なくとも一方の摺動面に、水素を5〜50atom%含有するDLC皮膜が形成されている摺動機構である。
前記DLC皮膜は、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜であることがより好ましい。
【0048】
前記DLC皮膜を、DLC皮膜がX線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜である場合について、図を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明の他の実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図である。
図1、図2において、1は摺動材料の基材、3はDLC皮膜であり、4はグラファイト結晶である。摺動材料の基材1とDLC皮膜3との間には密着層としての中間層2が設けられている。
基材1と中間層2との間には、図2に示すように、第2の中間層として下地層21を設けても良い。下地層21を設けることにより、基材1と中間層2との密着性をさらに向上させることができる。
【0049】
このようなグラファイト結晶のピークを有するDLC皮膜は、陰極PIG(Penninng Ionization Gauge)プラズマCVD法により高密度プラズマ雰囲気下で形成することができる。
具体的には、例えば、陰極PIGにて発生させたプラズマがコイルで形成された磁場に閉じ込められることにより高密度化され、原料ガスを高い効率で活性な原子、分子、イオンに分解する。さらに、高活性な原料ガス成分を堆積させながら、直流パルスを基材に印加することによって高エネルギーイオンを照射することができる。これによって、摺動特性に優れたDLC皮膜を効率的に形成することが出来る。形成方法の詳細は、特願2008−335718に記載されている方法が好ましい。
【0050】
図3は、前記陰極PIGプラズマCVD装置一例の概略を示す図である。
図3において、40はチャンバー、41は基材、42はホルダー、43はプラズマ源、44は電極、45はコイル、46はカソード、47はガス導入口、48はガス排出口、49はバイアス電源である。そして、50はチャンバー40内に形成されたプラズマである。
上記装置を用いて、以下のようにしてDLC皮膜を形成することができる。
最初に、基材41をホルダー42に支持させてチャンバー40内に配置する。次いで、ガス導入口47よりArガスを注入すると共に、プラズマ源43、電極44、コイル45を用いて、プラズマ50を発生、安定させる。プラズマ中にて分解されたArガスをバイアス電源49にて基材41へ引きつけ、表面エッチングを行う。その後、金属よりなるカソード46、Arガスを用いて下地層である金属層を形成する。さらに、高密度プラズマ雰囲気下でガス導入口47より注入された原料ガスを分解、反応させることにより、DLC皮膜中にグラファイト結晶を生成させる。所定の厚さのDLC皮膜となるまでそのまま維持する。このとき、グラファイト結晶の結晶径は、15〜100nmとなるように制御する。
【0051】
上記陰極PIGプラズマCVD装置においては、プラズマ特性やガス種等を変更することにより、得られるDLC皮膜の特性を変更することが可能であり、前記したグラファイト結晶の結晶径の他に、グラファイト結晶の量、DLC皮膜の硬度や表面粗さ等を適正化することにより、摺動性および耐久性を向上させることができる。
【0052】
形成されたDLC皮膜内におけるグラファイト結晶の存在の確認および結晶径の確認は、以下に示すX線回折測定を用いて行うことが好ましい。
通常、結晶材料のX線回折スペクトルには、個々の格子面に対応した鋭い回折ピークが複数本存在し、これらを照合して結晶構造が確定されるのが一般的である。これに対し、本発明の好ましいDLC皮膜の場合、非晶質に特有のハローパターンと呼ばれるブロードな散乱ピークに混じって、グラファイト結晶の回折ピークが存在する。
【0053】
図4は、グラファイト結晶を含有するDLC皮膜について下記の条件でX線回折スペクトルを実測した。
測定条件
X線源:放射光源、
X線エネルギー:15keV、
入射スリット幅:0.1mm、
検出器:シンチレーションカウンタ(前段にソーラースリットを配置)、
散乱角2θの測定範囲:5〜100°
測定ステップ:0.1°
積算時間:30秒/ステップ
なお、DLC皮膜試料は、基板から剥離し、ガラス細管(キャピラリ)に充填して測定した。
【0054】
図4に示すように、本発明において好ましいDLC皮膜は主成分が非晶質であるため、グラファイト結晶の回折ピーク強度は相対的に弱い場合がある。
この場合でも、分析化学で広く用いられている微分スペクトルを用いることで、主な結晶ピークの存在を確認することができる。図4において用いたのと同じDLC皮膜試料についての微分スペクトルを図5に示す。
【0055】
本実施の形態では、微分スペクトルにおいて認められるピークとして大きいものから順に10本を選び、その中でグラファイト結晶のピーク位置と一致するものが最低3本あれば、そのDLC皮膜はグラファイト結晶を含有していると規定した。この方法は、一般的な結晶材料のX線回折で用いられるHanawalt法、即ち、最も強度の大きい3本のピークを用いて回折図形を特徴付ける方法に準拠している。
【0056】
さらに、上記のような回折ピークの広がりから、グラファイト結晶の結晶径を推定することができる。具体的には、X線散乱スペクトルから非晶質によるハローパターンをバックグランドとして差し引き、グラファイト結晶ピークを抽出した後、式1で示すScherrerの式を適用することにより求めることができる。図4において用いたのと同じDLC皮膜試料についてグラファイト結晶ピークを抽出した結果を図6に示す。
D=(0.9×λ)/(β×cosθ) ・・・式1
但し、D:結晶径(nm)
λ:X線の波長(nm)
β:結晶ピークの半価幅(ラジアン)
θ:結晶ピークの位置
【0057】
得られたDLC皮膜は、前記した通り、炭素を主成分とする非晶質構造であり、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3構造)とグラファイト構造(SP2構造)の両方からなり、10〜35atom%の水素を膜中に含有する。
【0058】
このDLC皮膜は、一般に、鉄基材料やアルミニウム合金等に密着力よく形成することが困難であるため、前記したように密着層としての中間層を設ける。中間層としては、具体的には、例えば、Ti、Cr、W、Siより選択されたいずれかの金属の金属層、金属窒化層、金属炭化層のいずれか1層または2層以上からなる中間層が望ましい。中間層の総厚さは0.1〜2.0μmであることが望ましい。即ち、0.1μm未満である場合には、中間層としての機能が不十分となる。一方、2.0μmを超える場合には、中間層そのものが低硬度であるため、耐衝撃性や密着性が低下する恐れがある。また、下地層としては、具体的には、例えば、Ti、Cr、W、Siより選択された金属膜が挙げられる。
【0059】
本発明に係る摺動機構は、上記した潤滑油と摺動部材により構成されている。上記したように、潤滑油と摺動部材のいずれも優れた低摩擦特性を有しているため、充分に低い摩擦係数を得ることができる。
【0060】
摺動部材では、互いに摺動する摺動面の少なくとも一方の面に上記のDLC皮膜を形成する。相手材の摺動面については特に限定されず、同様にDLC皮膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。DLC皮膜を形成しない場合、相手材としては、上記した鉄基材料やアルミニウム合金材料等を挙げることができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
実施例1〜3及び比較例1〜3
第1表に示す組成を有する潤滑油組成物を調製し、以下に示す摩擦特性試験を行い、摩擦係数を求めた。その結果を第2表に示す。
<摩擦特性試験>
往復動摩擦試験機(オプティマール社製SRV往復動摩擦試験機)を用いて、以下の方法により摩擦係数を測定した。
テストピースとして、DLCコーティングしたディスク(φ24mm×7.9mm)を用い、その上に試料油(潤滑油組成物)を数滴滴下する。SCM420製のシリンダー(φ15mm×22mm)を上記ディスク上部にセットした状態で、荷重400N,振幅1.5mm、周波数50Hz、温度80℃の条件で摩擦係数を求める。
【0063】
【表1】

【0064】
潤滑油組成物の調製に用いた各成分は以下のとおりである。
潤滑油基油:水素化分解鉱油(100℃動粘度4.47mm2/s)
硫黄含有化合物:ビス(n−オクトキシカルボニルメチル)ジスルフィド(硫黄含有量15.8質量)
リン−亜鉛含有化合物:ビス(オクチルチオエステル)リン酸亜鉛(リン含有量6.2質量%、硫黄含有量10.4質量%)
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(1):第2級アルキル型ジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含有量8.2質量%)
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(2):第2級アルキル型ジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含有量6.5質量%)
Caスルフォネート:Caスルフォネート(Ca含有量15.2質量%)
Caサリシレート:Caサリシレート(Ca含有量7.8質量%)
コハク酸イミド:ホウ素未含有ポリブテニルコハク酸イミド(窒素含有量2.1質量%)
粘度指数向上剤:ポリメタクリレート(重量平均分子量 Mw=550,000)
流動点降下剤:ポリメタクリレート(重量平均分子量 Mw=69,000)
酸化防止剤(1):ジアルキルジフェニルアミン(窒素含有量4.62質量%)
酸化防止剤(2):4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)
防錆剤:N−アルキルベンゾトリアゾール
【0065】
【表2】

【0066】
なお、DLCコーティングしたディスクは以下のもの用いた。
DLC:水素20atom%含有DLC
DLC W:水素20atom%含有(タングステン添加)DLC
【0067】
第2表より、DLCコーティングしたディスク(摺動面)に本発明の潤滑油組成物を用いると、摩擦係数が低くなる(実施例1〜3)。これに対し、本発明で用いる硫黄含有化合物やリン−亜鉛含有化合物を含まない潤滑油組成物を用いても、摩擦係数を小さくすることはできないことが分かる(比較例1〜3)。
【0068】
実施例4、5、比較例4、5
以下に示す潤滑油と摺動部材とを組み合わせて同様に摩擦特性試験を行い、摩擦係数を求めた。その結果を第3表に示す。
(1)潤滑油
OIL1:実施例1に記載の潤滑油組成物からなる潤滑油
OIL2:比較例1に記載の潤滑油組成物からなる潤滑油
(2)摺動部材(テストピース)
テストピースとしては、以下のDLC皮膜をコーティングしたディスクを用いた。
DLC1:X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶のピークを有するDLC皮膜(グラファイトの結晶粒径:20nm)、水素含有量25atom%、陰極PIGプラズマCVD法による
DLC2:X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶のピークを有しない水素含有DLC皮膜、水素含有量30atom%、高周波プラズマCVD法による
【0069】
【表3】

【0070】
第3表より、以下のことが分かる。
DLCコーティングしたディスク(摺動面)に本発明の潤滑油組成物を用いると、摩擦係数が低くなる(実施例4,5)。これに対し、本発明で用いる硫黄含有化合物やリン−亜鉛含有化合物を含まない潤滑油組成物を用いても、摩擦係数を小さくすることはできない(比較例4,5)。
また、本発明の同じ潤滑油組成物を用いた場合、グラファイト結晶のピークを有するDLC皮膜の方が、グラファイト結晶のピークを有しないDLC皮膜より摩擦低減効果が優れている(実施例4と5の対比)。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の潤滑油組成物は、DLC材料のような低摩擦摺動材料からなる摺動面に適用され、優れた低摩擦特性を付与することができ、特に内燃機関に適用した場合に、省燃費効果を付与することができる。また、このような潤滑油を介在させた本発明の摺動機構は、低摩擦性に優れている。
【符号の説明】
【0072】
1、41 基材
2 中間層
3 DLC皮膜
4 グラファイト結晶
21 下地層
40 チャンバー
42 ホルダー
43 プラズマ源
44 電極
45 コイル
46 カソード
47 ガス導入口
48 ガス排出口
49 バイアス電源
50 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、X1、X2は酸素原子または硫黄原子を示す。R1は、酸素原子または硫黄原子を含む炭素数2〜30の有機基を示す。nは1〜3から選ばれる整数である。)
で示されるリン含有化合物と亜鉛化合物とを反応させて得られるリン−亜鉛含有化合物、および一般式(II)
【化2】

(式中、nは1〜5から選ばれる整数、R2及びR3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の有機基、A1及びA2は、それぞれ独立に炭素数1〜20の二価の炭化水素基を示す。)
で示される硫黄含有化合物から選ばれる添加剤を配合してなる、低摩擦摺動材料に用いられる潤滑油組成物。
【請求項2】
添加剤が、上記(I)式中のX1およびX2の少なくとも一つが酸素原子であるリン含有化合物を用いて得られたリン−亜鉛含有化合物である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
添加剤が、一般式(III)
【化3】

(式中、R4は炭素数4〜24の有機基、R5は炭素数1〜6の二価の有機基を示す。nは1〜3から選ばれる整数である。)
で示されるリン含有化合物を用いて得られたリン−亜鉛含有化合物である、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
添加剤が、一般式(IV)
【化4】

(式中、R6及びR7は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる原子を含んでいてもよい炭素数1〜29の有機基、A3及びA4は、それぞれ独立に炭素数1〜12の二価の炭化水素基を示す。)
で示される硫黄含有化合物である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
低摩擦摺動材料が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を有する材料である請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
相互に摺動する2つの摺動部材の摺動面に、請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面に、水素を5〜50atom%含有するDLC皮膜が形成されている摺動機構。
【請求項7】
DLC皮膜が、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜である請求項6に記載の摺動機構。
【請求項8】
DLC皮膜におけるグラファイト結晶の結晶径が、15〜100nmである請求項7に記載の摺動機構。
【請求項9】
摺動部材とDLC皮膜との間に、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、及びシリコン(Si)の中から選ばれる一種又は二種以上の金属層、金属窒化層あるいは金属炭化層を有する請求項7又は8に記載の摺動機構。
【請求項10】
DLC皮膜が、陰極PIGプラズマCVD法により、高密度プラズマ雰囲気下で形成されたものである請求項7〜9のいずれかに記載の摺動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−84722(P2011−84722A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126368(P2010−126368)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(591029699)日本アイ・ティ・エフ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】