説明

炉壁形状測定装置、炉壁形状測定システム、および炉壁形状測定方法

【課題】炉壁表面の凹凸形状を測定するためのレーザ光と炉壁の自発光とを同時に取得しつつもレーザ光と自発光とが干渉せず、炉壁表面に対し垂直方向の計測可能範囲およびレーザ光の照射範囲を広くする。
【解決手段】スリット状の窓2を有する断熱性保護箱3の内部に配置された、スリット状のレーザ光を射出するスリットレーザ光源4と、レーザ光を反射して窓2を介して炉壁表面へレーザ光を照射するレーザ光用ミラー5と、窓2を介して断熱性保護箱3の内部に入射する、レーザ光の照射による炉壁表面の反射光および炉壁表面が発する自発光を反射する撮像用ミラー6と、撮像用ミラー6から反射された自発光と反射光とを光学フィルタ7を介して撮像する撮像装置8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉壁形状測定装置、炉壁形状測定システム、および炉壁形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用炉の炉体寿命に影響を及ぼす炉壁表面付着物としては、例えばコークス炉の炉壁表面に付着したカーボンがある。コークス炉では、炉内に投入した石炭を一定時間乾留し、出来上がった赤熱コークスを、コークス押出し装置によって炉外へ排出するという操業を繰り返し行う。このような操業を行っていくと、コークス炉の炉壁表面上にカーボンが析出し、不均一に成長する。この成長が進むと、析出カーボンの一部が剥離を起こして、炉内に脱落する場合がある。
【0003】
また、炉壁表面を構成している耐火煉瓦は、石炭投入時の機械的または熱的な衝撃を受ける、もしくは壁面に成長したカーボンとともに耐火煉瓦の一部が剥離すること等により徐々に侵食を受ける。この結果、コークス炉の炉壁表面が凹凸となり、コークス押出し作業の際には窯詰まりの原因となる。窯詰まりは、コークス炉の操業効率を低下させるだけでなく、炉体に対して大きな負荷をかけてしまい、さらには炉体の寿命を縮めてしまう。特に、炉壁表面上に付着および成長したカーボンが剥離すると、炉壁表面上に生じた凹凸による段差が大きくなる場合が多いため、コークス押出し時に窯詰まりが発生しやすくなる。従って、コークス炉において壁面の平滑度を保つことは、コークス炉の操業上たいへん重要である。
【0004】
一方、現在行われている操業では、コークス炉において炉壁表面に凹凸が生じることは不可避である。したがって、炉体の寿命をできるだけ長く延ばすためには、炉壁表面に生じた凹凸を把握し、効率良く凹凸を平滑化するような補修を適宜行っていく必要がある。
【0005】
このための炉壁形状測定装置として、例えば、リニアイメージカメラで炉壁表面画像を撮像するとともに、スポット状のレーザ光を用いて凹凸形状計測を行う技術が知られている(特許文献1参照)。また、同一の撮像装置が、スリット状のレーザ光を炉壁表面に照射して凹凸形状計測を行い、かつ炉壁表面の自発光を撮像する技術も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−266475号公報
【特許文献2】特開2004−77019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、スポット状のレーザ光を各炉壁煉瓦に1点照射して炉壁の凹凸情報を得るので、炉壁全面の凹凸情報は取得できない。また、特許文献2に記載の技術は、スリット状のレーザ光の照射角度が浅く、炉壁表面に対し垂直方向の計測可能範囲を広く取ることができず、また、凹凸情報にかかるレーザ光と自発光とを同時に1台の撮像装置で取得しているが、互いにハレーションしないように輝度レベルを調整することが難しいという問題点があった。したがって、炉壁表面の凹凸形状を測定するためのレーザ光と自発光とが干渉せず、炉壁表面に対し垂直方向の計測可能範囲およびレーザ光の照射範囲が広い炉壁形状測定装置が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、炉壁表面の凹凸形状を測定するためのレーザ光と炉壁の自発光とを同時に取得しつつもレーザ光と自発光とが干渉せず、炉壁表面に対し垂直方向の計測可能範囲およびレーザ光の照射範囲が広い炉壁形状測定装置、炉壁形状測定システム、および炉壁形状測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる炉壁形状測定装置は、スリット状の窓を有する断熱性保護箱内に配置された、スリット状のレーザ光を射出するスリットレーザ光源と、前記レーザ光を反射して前記窓を介して炉壁表面へ該レーザ光を照射するレーザ光用ミラーと、前記窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による炉壁表面からの反射光および前記炉壁表面が発する自発光を反射する撮像用ミラーと、前記撮像用ミラーから反射された前記自発光と前記反射光とを光学フィルタを介して撮像する撮像装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる炉壁形状測定システムは、本発明にかかる炉壁形状測定装置と、前記炉壁形状測定装置の位置を検出する位置検出手段と、前記炉壁形状測定装置の撮像装置により撮像された画像と前記炉壁形状測定装置の位置とから前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる炉壁形状測定システムは、炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光と、を1つの画像内にて分離して撮像することができる炉壁形状測定装置と、前記炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出手段と、前記炉壁形状測定装置の撮像装置により撮像された画像と前記炉壁形状測定装置の炉内位置とから前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる炉壁形状測定方法は、位置検出手段が炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出ステップと、前記炉壁形状測定装置が炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光と、を1つの画像内にて分離して撮像する撮像ステップと、画像処理手段が前記自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインを抽出する1次元自発光ライン抽出ステップと、前記画像処理手段が前記反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向の1次元凹凸形状ラインを算出した凹凸形状算出ステップと、画像処理手段が、前記位置検出ステップにより検出した前記炉壁形状測定装置の炉内位置と、前記1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、前記凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインと、を用いて前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像生成ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる炉壁形状測定装置、炉壁形状測定システム、および炉壁形状測定方法によれば、炉壁表面の凹凸形状を測定するためのレーザ光と炉壁の自発光とを同時に取得しつつもレーザ光と自発光とが干渉せず、炉壁表面に対し垂直方向の計測可能範囲およびレーザ光の照射範囲を広くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置の部分構成図である。
【図3】図3は、自発光および反射光の光路を示す図である。
【図4】図4は、光学フィルタを拡大した模式図である。
【図5】図5は、撮像装置で撮像した画像およびその輝度分布のグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定方法の一部を成す炉壁の自発光画像と形状画像とを合成する方法を示すフローチャートである。
【図7】図7は、炉壁形状測定装置1の現在位置Xごとに得られる自発光および炉壁の形状の1ラインデータを概念的に表した図である。
【図8】図8は、炉壁レンガの自発光画像および凹凸形状の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1の概略構成図である。図1に示されるように、炉壁形状測定装置1は、スリット状の窓2を有する断熱性保護箱3の中に配置された、スリット状のレーザ光を射出するスリットレーザ光源4と、レーザ光を反射して窓2を介して炉壁表面へと導くレーザ光用ミラー5と、炉壁表面が発する自発光とレーザ光による炉壁表面からの反射光とを反射する撮像用ミラー6と、撮像用ミラー6から反射された自発光と反射光とを光学フィルタ7を介して撮像する撮像装置8とを備える。
【0017】
本実施形態の炉壁形状測定装置1は、右側の炉壁形状と左側の炉壁形状とを同時に測定可能な構成であり、スリットレーザ光源4、レーザ光用ミラー5、および撮像用ミラー6は、それぞれ、右炉壁用スリットレーザ光源4と左炉壁用スリットレーザ光源4、右炉壁用レーザ光用ミラー5と左炉壁用レーザ光用ミラー5、および右炉壁用撮像用ミラー6と左炉壁用撮像用ミラー6という対を成している。なお、光学フィルタ7および撮像装置8は、右側の炉壁形状の測定と左側の炉壁形状の測定とにおいて共通利用する構成である。以下、右側の炉壁形状測定にかかる構成要素と左側の炉壁形状測定にかかる構成要素とは、参照符号の添字「r」「l」によって区別し、とくに両者を区別する必要がないときは当該添字を省略した参照符号を用いる。また、説明中における右側及び左側は、図中矢印A方向を基準として定義する。
【0018】
本実施形態の炉壁形状測定装置1におけるスリットレーザ光源4は、断熱性保護箱3の長手面に対し平行に配置され、スリット状のレーザ光断面が断熱性保護箱3の長手面に対し平行になるようにレーザ光を射出する。レーザ光用ミラー5は、上記断熱性保護箱3の長手面に対して30度以上の角度をなして配置し、レーザ光の入射角φが60度以下となるよう配置する。
【0019】
このとき、右炉壁用スリットレーザ光源4は、断熱性保護箱3の長手面のうち、左側の長手面3の近傍に配置し、左側の炉壁形状を測定するための左炉壁用スリットレーザ光源4は、断熱性保護箱3の長手面のうち右側の長手面3の近傍に配置する。すなわち、右炉壁用スリットレーザ光源4および左炉壁用スリットレーザ光源4から射出されたレーザ光は、それぞれ右炉壁用レーザ光用ミラー5と左炉壁用レーザ光用ミラー5で反射された後に、光路が交差して炉壁に照射される構成である。
【0020】
本実施形態の炉壁形状測定装置1は、上記構成により、断熱性保護箱3が小さくても有効にレーザ光の光路長を延長することができる。断熱性保護箱3を小さくすることにより、冷却する容積を小さく抑えられるのと同時に、光路長を延長することにより1台の炉壁形状測定装置1でコークス炉の高さ方向に測定可能な範囲を大きく確保できる。よって、コークス炉の全体を計測するために複数台の炉壁形状測定装置1を高さ方向に並べて使用する際に、台数を少なく抑えることが可能である。例えば、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を利用するコークス炉における壁面間距離の最短距離は300mm程度である。したがって、炉壁形状測定装置1の幅(つまり断熱性保護箱3の幅)は、上述した300mmよりも小さく構成する必要がある。例えば、本発明の実施形態の炉壁形状測定装置1において、断熱性保護箱3を幅250mm、長手方向長さ500mmと設計した場合でも、断熱性保護箱3を斜めに横切る距離分を有効に使うことができる。そのため、レーザ光の光路長を250〜500mm程度確保することができる。このとき、広がり角が90度のスリットレーザ光源4を用いれば、レーザ光のライン方向(スリット方向)の照射範囲を500〜1000mm程度と広く確保することができる。
【0021】
本実施形態の炉壁形状測定装置1における撮像装置8は、右炉壁用撮像用ミラー6と左炉壁用撮像用ミラー6による反射を介して、右側の炉壁と左側の炉壁との像を同時に撮像する。このとき、後に詳述するように、光学フィルタ7によって、炉壁表面が発する自発光とレーザ光による炉壁表面からの反射光とを分離して撮像する。つまり、撮像装置8は、右側炉壁における自発光およびレーザ光の反射光と、左側炉壁における自発光およびレーザ光の反射光とを同時に取得することになる。
【0022】
なお、右炉壁用撮像用ミラー6および左炉壁用撮像用ミラー6は、断熱性保護箱3の左右対称位置に設けられた右炉壁用撮像用窓2および左炉壁用撮像用窓2を介して、右側の炉壁および左側の炉壁を適切に撮像できるように、互いに略90度の角度をなして配置される。
【0023】
次に、図2を参照しながら、本実施形態にかかる炉壁形状測定装置1の撮像視野Fおよび計測可能範囲Rについて説明する。
【0024】
図2は、炉壁形状測定装置1における左側炉壁の計測にかかる構成のみを表示した部分構成図であり、本実施形態にかかる炉壁形状測定装置1は左右対称の構成をしているので、左側炉壁の計測にかかる構成を省略している。図2に示されるように、スリットレーザ光源4から射出したレーザ光は、撮像装置8の撮像視野Fの一部を照射する。このとき、スリットレーザ光源4から射出したレーザ光は照射角度θ(ここではレーザ光と断熱性保護箱3の長手面との角度をいう)で炉壁を照射するので、撮像視野Fの中に炉壁の凹凸があった場合、レーザ光の照射位置が変化する。図2においては、高さhの突部が撮像視野Fにある場合、視野の端からxの位置にレーザ光の照射位置が変化することが示されている。
【0025】
以上の考察から、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1の測定可能範囲Rは、撮像視野Fおよび照射角度θによって定まり、
計測可能範囲R=撮像視野F×tanθ ・・・(式1)
という関係が成り立つことが解る。
【0026】
したがって、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1についての好適な大きさ又は構成が以下のように導かれる。
【0027】
本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を利用するコークス炉における壁面間距離の最短距離は300mm程度である。したがって、炉壁形状測定装置1の幅(つまり断熱性保護箱3の幅)は、上述した300mmよりも小さく構成する必要があり、これに伴い、撮像用ミラー6の大きさは左右の片側で150mm幅の中に収めなければならない。さらに、150mm幅の中には、断熱性保護箱3の厚みや撮像用ミラー6取り付け冶具のための空間が必要となる。そのため、撮像用ミラー6は幅方向に100mm程度の中に納まる大きさとなる。その結果、撮像装置8の画角による広がり分を考慮したとしても、撮像装置8の撮像視野Fは、最大で120mm程度にしかならない。
【0028】
一方、コークス炉の壁面間距離の最大距離は450mm程度である。また、煉瓦の劣化による凹凸の範囲が約50mmあることを考慮すると、
炉壁表面最長幅450mm−装置幅約300mm+凹凸範囲約50mm=200mm
が、要求される計測可能範囲Rである。ここで、(式1)の関係を考慮すると、120mm×tan(60°)≒200mmなので、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1では照射角度θが60度以上であることが必要であると導かれる。
【0029】
なお、レーザ光の入射角φと、上記の照射角度θには
180度=2φ+θ
の関係がある。この関係から、上記の照射角度θが60度以上であるという条件は、レーザ光用ミラー5を断熱性保護箱3の長手面に対して30度以上の角度をなして配置し、入射角φが60度以下となるよう配置することで満たされる。
【0030】
次に、図3および図4を参照しながら、本実施形態にかかる炉壁形状測定装置1の光学フィルタ7の作用効果について説明する。
【0031】
図3は、撮像装置8が炉壁表面を撮像する際の、炉壁表面が発する自発光およびレーザ光による炉壁表面からの反射光の光路を示す図である。図3に示されるように、炉壁表面が発する自発光およびレーザ光による炉壁表面の反射光は、断熱性保護箱3に設けられた窓2を介して断熱性保護箱3に入射し、撮像用ミラー6で反射した後に、光学フィルタ7を透過して撮像装置8に入射するという点で同じである。しかしながら、自発光と反射光とでは、透過する光学フィルタ7の領域が異なる。図3に示される例では、反射光が光学フィルタ7の反射光透過領域7aを透過し、自発光が光学フィルタ7の自発光透過領域7bを透過している。
【0032】
図4は、光学フィルタ7を拡大した模式図である。図4において、反射光透過領域7aは光学フィルタ7の中央の帯状領域であり、自発光透過領域7bは反射光透過領域7aの両側に縁取られた帯状領域である。反射光透過領域7aは、スリットレーザ光源4のレーザ光波長が透過する狭帯域のバンドパスフィルタとし、自発光透過領域7bは、炉壁の自発光を透過する広帯域のバンドパスフィルタとする。したがって、光学フィルタ7における反射光透過領域7aの帯状領域は、スリットレーザ光源4からのレーザ光による炉壁表面の反射光が透過できるように、スリット方向に平行な(すなわち炉壁表面の垂直方向に同じ)帯状領域として構成される。また、光学フィルタ7における自発光透過領域7bの帯状領域は、反射光透過領域7aの両側に縁取られた帯状領域であるので、必然的にスリット方向に平行な帯状領域として構成される。
【0033】
本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1がレーザ光の照射位置を撮像装置8で撮像するためには、レーザ光による反射光の輝度が炉壁の自発光の輝度より大きいという条件Aを満たさなければならない。しかしながら、仮に単一の波長特性を持つ光学フィルタ7を炉壁形状測定装置1に用いた場合、条件Aを満たすようにスリットレーザ光源4の出力調節を行うのは困難である。そこで、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1では、光学フィルタ7に波長特性の異なる領域を作ることで、レーザ光が撮像される範囲では常にレーザ光による反射光の輝度が炉壁の自発光の輝度より大きくなるようにしている。
【0034】
次に、上記に説明した本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定方法について説明する。以下では、上記に説明した本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を用いた炉壁形状測定システムにしたがって炉壁形状測定方法の説明を行うが、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定方法の実施は、炉壁形状測定装置1を用いた炉壁形状測定システムに限定されない。
【0035】
図5は、コークス炉内を撮像装置8で撮像した画像の一部および上記一部画像の横方向の輝度分布を縦方向に平均して数値化したグラフを対比して表示したものである。図5における上画像は、コークス炉内を撮像装置8で撮像した1枚の画像の中から、左側炉壁に対応している画像の左半分を切り出した後、その縦方向の一部を切り出した画像であり、左側炉壁表面が発する自発光と左側炉壁から反射されたスリット状のレーザ光が含まれた領域である。図5に示された画像の輝度は、256階調で取得されており、この輝度を画像の縦方向に平均して数値化したグラフの値(すなわち縦軸)も256階調となっている。
【0036】
図5における上画像の左端付近(横方向の0〜50ピクセルの位置)は、光学フィルタ7の自発光透過領域7bを介して、また、残りの領域(横方向の50〜150ピクセルの位置)は光学フィルタ7の反射光透過領域7aを介して取得された光線を画像化したものである。以下、光学フィルタ7の反射光透過領域7aを介して取得された光線の画像を反射光画像と呼び、自発光透過領域7bを介して取得された光線の画像を自発光画像と呼ぶ。また、図5における上画像における反射光画像に相当する領域を反射光画像領域と呼び、自発光画像に相当する領域を自発光画像領域と呼ぶ。
【0037】
図5における上画像および下グラフより理解できるように、左端付近の自発光画像領域ではレーザ光のピーク輝度と自発光の輝度とが同等のレベルの輝度となっているが、右側の反射光画像領域ではレーザ光による反射光の輝度が炉壁の自発光の輝度より大きくなっている。したがって、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1によれば、光学フィルタ7が反射光透過領域7aと自発光透過領域7bとを備えていることにより、レーザ光による反射光と炉壁の自発光とが互いにハレーションを起こさずに、同時に反射光と自発光とを取得することが可能である。以下では、図6のフローチャートを参照しながら、図5に代表される画像から炉壁の自発光画像と形状画像とを合成する手順について説明する。
【0038】
図6は、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定方法の一部を成す炉壁の自発光画像と形状画像とを合成する方法を示すフローチャートである。
【0039】
図6に示されるように、上記炉壁の自発光画像と形状画像とを合成する方法は、コークス炉炭化室内にて炉壁形状測定装置1を移動させて、各位置における下記処理のループにより構成される。上記のループは、コークス炉炭化室内における炉壁形状測定装置1の現在位置Xを測定することより始まる(ステップS1)。この際、炉壁形状測定装置1の現在位置Xは、炉壁形状測定装置1を用いた炉壁形状測定システムが別途備える炉壁形状測定装置1の位置を検出する位置検出手段により測定される。
【0040】
炉壁形状測定装置1の位置を検出する位置検出手段としては、炉壁形状測定装置1を駆動する駆動モーターの回転をPLG等で測定する方法またはタイムオブフライト法によるレーザ距離計を用いる方法などで実現することができる。
【0041】
次に、自発光画像領域の左端付近の縦方向の1ラインを撮像時点での自発光部として抽出し、炉壁形状測定装置1の現在位置Xと対応させて記憶手段に記憶する(ステップS2)。なお、ステップS2の記憶手段は、炉壁形状測定システムが備える画像処理手段が有するメモリーによって実現することができる。そして、自発光画像領域における縦1ライン(つまり炉壁の垂直方向1ライン)の選び方は、ハレーションが発生せず自発光が適切な強度である範囲内において任意に選択することができる。
【0042】
次に、反射光画像領域内にて各横方向1ラインごとに輝度のピークサーチを行い、1ラインのピーク位置データを得る(ステップS3)。ステップS3の処理により求められたレーザ光のピーク位置は、撮像装置とレーザ光の位置関係によって決まり、三角測量の原理に基づいた一般的な復元演算を用いることで炉壁形状測定装置1を中心とした三次元位置に変換することができる(図2参照)(ステップS4)。
【0043】
上記処理により得られた1ライン状の三次元位置に炉壁形状測定装置1の現在位置Xを加えることにより、コークス炉炭化室における炉長方向(つまり水平方向)の位置に対応した炉壁形状の三次元データとして保存する(ステップS5)。
【0044】
ステップS1〜S5のループにて、炉壁形状測定装置1を前進又は後退させながら、上記処理を反復することにより、炉壁形状測定装置1の現在位置Xごとに対応した自発光および炉壁の形状の垂直方向1ラインのデータが得られる。図7は、炉壁形状測定装置1の現在位置Xごとに得られる自発光および炉壁の形状の1ラインデータを概念的に表した図である。
【0045】
このように、炉壁形状測定装置1の現在位置Xごとに得られる自発光および炉壁の形状の1ラインデータを炉壁形状測定装置1の現在位置Xに関して並べることにより、炉壁の自発光画像と形状画像とを構成することができる(ステップS6)。なお、コークス炉炭化室は垂直方向にもある程度の高さを有するので、炉壁形状測定装置1を垂直方向に並べて測定することにより、垂直方向に全ての炉壁の自発光画像と形状の画像を得ることが可能である。
【0046】
図8は、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を用いて撮像した、炉壁レンガの自発光画像と炉壁の凹凸形状をグレースケール表示した画像である。図8において、上段の自発光画像では、炉壁レンガの自発光の輝度をグレースケール表示し、下段の炉壁の凹凸形状を示す画像は、奥行き方向(Z方向)距離をグレースケール表示している。図8に示される画像は、炉壁形状測定装置1の撮像装置8により取得される画像(例えば図5に示される画像)と、炉壁形状測定装置1の炉内位置とから生成することができる。そのために、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を用いた炉壁形状測定システムは、炉壁形状測定装置1の炉内位置を測定する手段と、撮像装置8により取得される画像から炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段とを別途備える。図8によれば、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1はレンガの自発光画像と凹凸形状の両方同時取得が可能であることを確認できる。
【0047】
以上より、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1は、スリット状の窓2を有する断熱性保護箱3の内部に配置された、スリット状のレーザ光を射出するスリットレーザ光源4と、レーザ光を反射して窓2を介して炉壁表面へレーザ光を照射するレーザ光用ミラー5と、窓2を介して断熱性保護箱3の内部に入射する、レーザ光の照射による炉壁表面の反射光および炉壁表面が発する自発光を反射する撮像用ミラー6と、撮像用ミラー6から反射された自発光と反射光とを光学フィルタ7を介して撮像する撮像装置8とを備えるので、レーザ光の照射角度を深くすることができ、かつ、レーザ光の光路長を長く確保できる。その結果、炉壁形状測定装置1を大きくすることなく、炉壁垂直方向の計測可能範囲およびレーザ光の照射範囲を広く取ることができる。
【0048】
また、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1は、光学フィルタ7がレーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ反射光透過領域7aと自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ自発光透過領域7bとを有するので、炉壁の凹凸形状と自発光を同時に計測してもハレーションを起こさない。
【0049】
さらに、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を用いた炉壁形状測定システムは、炉壁形状測定装置1の位置を検出する位置検出手段と、炉壁形状測定装置1の撮像装置8により撮像された画像および炉壁形状測定装置1の位置から炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段とを備えるので、複合的に炉の劣化状態を把握することができる。凹凸形状の画像からは凹凸性の劣化状態を判断できる一方、自発光画像からはレンガごとの熱伝導の差やレンガの表面状態を判断することができる。これらの情報から戦略的な炉の補修を行うことで、炉の延命が可能である。
【0050】
さらに、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定装置1を用いた炉壁形状測定システムは、画像処理手段が、自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインと、反射光が撮像された画像領域のうちスリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向1ラインの凹凸形状を算出した1次元凹凸形状ラインと、を位置検出手段が検出した炉壁形状測定装置1の炉内位置に関して整列することにより、炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することにより、炉壁のレンガの自発光画像と凹凸形状の両方同時取得が可能である。
【0051】
また、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定システムは、炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光と、を1つの画像内にて分離して撮像することができる炉壁形状測定装置1と、炉壁形状測定装置1の炉内位置を検出する位置検出手段と、炉壁形状測定装置1の撮像装置8により撮像された画像と炉壁形状測定装置1の炉内位置とから炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理とを備えるので、複合的に炉の劣化状態を把握することができる。凹凸形状の画像からは凹凸性の劣化状態を判断できる一方、自発光画像からはレンガごとの熱伝導の差やレンガの表面状態を判断することができる。これらの情報から戦略的な炉の補修を行うことで、炉の延命が可能である。
【0052】
さらに、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定システムは、画像処理手段が、自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインと、反射光が撮像された画像領域のうちスリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向1ラインの凹凸形状を算出した1次元凹凸形状ラインと、を位置検出手段が検出した炉壁形状測定装置1の炉内位置に関して整列させることにより、炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することにより、炉壁のレンガの自発光画像と凹凸形状の両方同時取得が可能である。
【0053】
また、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定方法は、位置検出手段が炉壁形状測定装置1の炉内位置を検出する位置検出ステップと、炉壁形状測定装置1が炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光と、を1つの画像内にて分離して撮像する撮像ステップと、画像処理手段が自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインを抽出する1次元自発光ライン抽出ステップと、画像処理手段が反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向の1次元凹凸形状ラインを算出した凹凸形状算出ステップと、画像処理手段が、位置検出ステップにより検出した炉壁形状測定装置の炉内位置と、1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインと、を用いて炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像生成ステップとを含むことにより、複合的に炉の劣化状態を把握することができる。凹凸形状の画像からは凹凸性の劣化状態を判断できる一方、自発光画像からはレンガごとの熱伝導の差やレンガの表面状態を判断することができる。これらの情報から戦略的な炉の補修を行うことで、炉の延命が可能である。
【0054】
さらに、本発明の実施形態にかかる炉壁形状測定方法は、画像生成ステップが、画像処理手段が、1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインと、炉壁形状測定装置1の炉内位置に関して整列させることにより前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することにより、炉壁のレンガの自発光画像と凹凸形状の両方同時取得が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 炉壁形状測定装置
2 窓
3 断熱性保護箱
4 スリットレーザ光源
5 レーザ光用ミラー
6 撮像用ミラー
7 光学フィルタ
8 撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット状の窓を有する断熱性保護箱内に配置された、
スリット状のレーザ光を射出するスリットレーザ光源と、
前記レーザ光を反射して前記窓を介して炉壁表面へ該レーザ光を照射するレーザ光用ミラーと、
前記窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による反射光および前記炉壁表面が発する自発光を反射する撮像用ミラーと、
前記撮像用ミラーから反射された前記自発光と前記反射光とを光学フィルタを介して撮像する撮像装置と、
を備えることを特徴とする炉壁形状測定装置。
【請求項2】
前記光学フィルタは、前記レーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ第1透過領域と前記自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ第2透過領域とを有することを特徴とする請求項1に記載の炉壁形状測定装置。
【請求項3】
前記スリットレーザ光源が射出するレーザ光の光軸は、前記断熱性保護箱の長手面に対し平行に配置され、
前記レーザ光用ミラーに対する前記レーザ光の入射角が60度以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の炉壁形状測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の炉壁形状測定装置と、
前記炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出手段と、
前記炉壁形状測定装置の撮像装置により撮像された画像と前記炉壁形状測定装置の位置とから前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段と、
を備える炉壁形状測定システム。
【請求項5】
前記画像処理手段は、前記自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインと、前記反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向1ラインの凹凸形状を算出した1次元凹凸形状ラインとを、前記位置検出手段が検出した前記炉壁形状測定装置の炉内位置に関して整列することにより、前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することを特徴とする請求項4に記載の炉壁形状測定システム。
【請求項6】
炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光とを、1つの画像内にて分離して撮像することができる炉壁形状測定装置と、
前記炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出手段と、
前記炉壁形状測定装置の撮像装置により撮像された画像と前記炉壁形状測定装置の炉内位置とから前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段とを備えることを特徴とする炉壁形状測定システム。
【請求項7】
前記画像処理手段は、前記自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインと、前記反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向1ラインの凹凸形状を算出した1次元凹凸形状ラインとを、前記位置検出手段が検出した前記炉壁形状測定装置の炉内位置に関して整列させることにより、前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することを特徴とする請求項6に記載の炉壁形状測定システム。
【請求項8】
位置検出手段が、炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出ステップと、
前記炉壁形状測定装置が、炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光とを、1つの画像内にて分離して撮像する撮像ステップと、
画像処理手段が、前記自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインを抽出する1次元自発光ライン抽出ステップと、
前記画像処理手段が、前記反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向の1次元凹凸形状ラインを算出した凹凸形状算出ステップと、
前記画像処理手段が、前記位置検出ステップにより検出した前記炉壁形状測定装置の炉内位置と、前記1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、前記凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインとを用いて、前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像生成ステップと
を含むことを特徴とする炉壁形状測定方法。
【請求項9】
前記画像生成ステップは、前記画像処理手段が、前記1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、前記凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインと、前記炉壁形状測定装置の炉内位置に関して整列させることにより前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することを特徴とする請求項8に記載の炉壁形状測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−150103(P2012−150103A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275631(P2011−275631)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】