説明

炭素繊維複合シート及びその製造方法

【課題】熱伝導性が高く、ピッチ系炭素短繊維が著しく高充填された炭素繊維複合シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂マトリクスとして、芳香族ポリアミドを用いることで、極めて大量のピッチ系炭素繊維フィラーを添加した熱伝導率の高いシートを、湿式法で作製する。また、それらを用いた熱伝導性シート、電気伝導性シート、電波遮蔽体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合シート及びその製造方法に関わる。さらに詳しくは、芳香族ポリアミドを用いてピッチ系炭素短繊維を高充填した熱伝導性に優れた炭素繊維複合材シート及びその製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途などに広く用いられている。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が問題になっている。これらを解決するためには、熱を効率的に処理するという、所謂サーマルマネジメントを達成する必要がある。
【0004】
炭素繊維は、通常の合成高分子に比較しての熱伝導率が高いが、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さくサーマルマネジメントの観点からは必ずしも好適であるとは言い難い。これに対して、ピッチ系炭素繊維は黒鉛化性が高いためにPAN系炭素繊維に比べて高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。
【0005】
一般に、熱伝導性充填剤として、酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などを充填したものが知られており、等方性材料である。また、金属材料系の充填材は比重が高く複合材としたときに重量が大きくなってしまう。その一方で、炭素系材料であるカーボンブラック等の球形材料は、添加量が高くなると、所謂粉落ちが発生し、特に電子機器においては、その導電性が機器に悪影響を与える。さらに、これらの材料は所謂煤の加工品であり、熱伝導率は高いとは言いがたい。これに対して、炭素繊維は比重が小さく金属材料系の充填材と同じ体積で添加した場合の複合材の重量を軽くできるというメリットがあるのみならず、その形状に異方性がある繊維状であることより、粉落ちが起こり難いというメリットもある。
【0006】
次にサーマルマネジメントに用いる複合材の特徴について考察する。炭素繊維の高い熱伝導率を効果的に利用するためには、何らかのマトリクスを介在させた状態において炭素繊維がネットワークを形成していることが好ましい。ネットワークが三次元的に形成されている場合には、成形体の面内方向のみならず厚み方向に対しても炭素繊維の高い熱伝導が達成され、例えば放熱板の用途には非常に効果的であると考えられる。このような理想的な成形体を作製するには、熱伝導率が発現する熱伝導パスを上手く形成する必要がある。
【0007】
また、熱伝導に着目した場合、高い熱伝導率を達成するためには、熱伝導材料を樹脂中に高濃度で分散させる必要がある。ところが、従来のマトリクスへの熱伝導材料の添加では、到達できる添加量に限界があった。
【0008】
複合材の熱伝導を高めることを主眼にした先行事例として、特許文献1には、一方向に引揃えた炭素繊維に黒鉛粉末と熱硬化性樹脂を含浸した機械的強度の高い熱伝導性成形品が開示されている。しかし、一方向に引揃えた炭素繊維での成形では、応用製品として考えられる複雑形状に追随させることは難しい。また、連続的な成形法も特殊な手法となってしまう。簡便に少量の炭素繊維の持つ熱伝導性をうまく発揮させるには、炭素繊維の形状を工夫することが望ましいと考えられる。
【0009】
また、特許文献2においては、炭素繊維の物性の向上で熱伝導度等の物性を向上させることが開示されているが、成形体の使い易さや熱物性の明確な性能向上に関しては不明である。
【0010】
さらに特許文献3においては、繊維長2〜12mmの炭素繊維前駆体繊維と、抄紙バインダーとを混抄して前駆体繊維粗シートを得、次いで樹脂処理して樹脂を添着させた後、焼成し炭素化する炭素繊維シートの製造方法が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開平5−17593号公報
【特許文献2】特開平2−242919号公報
【特許文献3】特開2004−27435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、炭素繊維の高熱伝導率化という観点では開発が進みつつある。しかし、サーマルマネジメントの観点からは複合材としての熱伝導性が高くなっていることが必要とされてきた。そのため、大量にマトリクスに添加できるような炭素繊維の検討が進められてきた。しかし、マトリクスによって添加量に制限が発生している点は依然として問題であった。
【0013】
そこで、複合材の熱伝導性を最大限に発揮できるようなマトリクスの選定及びそれを用いた製造方法の出現が強く望まれていた。また、特殊な技術ではなく汎用性の高い方法で、複合材の熱伝導性を向上させることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、炭素繊維複合材の熱伝導率を向上せしめるためには、大量のピッチ系炭素短繊維が添加されることが必要であることを鑑み、特にフィラーが添加されるマトリクス樹脂の種類によっても強く左右されることを見出した。その結果、マトリクスとして芳香族ポリアミド系樹脂を用いると、極めて高濃度でピッチ系炭素短繊維が添加でき、効率よく熱伝導パスが形成され、高い熱伝導性が発現するとともに、驚くべきことに、フィラーの粉落ちが抑制された炭素繊維複合シートが得られることを見出し本願発明に到達した。
【0015】
即ち本発明は、平均繊維長が10〜700μmの範囲であるピッチ系炭素短繊維50〜94重量部と芳香族ポリアミド6〜50重量部とからなる厚み0.03〜1mmの炭素繊維複合シートである。好ましくは平均繊維径が5〜15μmであり、繊維径の分散を平均繊維径で除した値の百分率が5〜20%であり、繊維軸方向の熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、灰分が0.2重量%以下で、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である炭素繊維複合シートである。さらに好ましくは、芳香族ポリアミドが、メタ型芳香族ジアミン及び/またはパラ型芳香族ジアミンを主骨格とした炭素繊維複合シートである。さらに好ましくは、当該炭素繊維複合シートの熱伝導率が2W/(m・K)以上である炭素繊維複合シートである。
【0016】
また、有機溶剤に溶解した芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなる混合液をキャスト法で膜状に成形し、有機溶剤を除去した後、プレスすることにより本発明の炭素繊維複合シートを製造することができる。その際、当該混合液におけるピッチ系炭素短繊維と芳香族ポリアミドからなる固形分濃度は5〜30重量%であることが好ましい。またキャスト方法が、グラビアコート法、ドクターナイフ法、および押出法からなる群から選択される少なくとも1つの方法であることが好ましい。また有機溶剤が、NMP、DMAc、トルエン、キシレン、1M2P、およびMIBKよりなる群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。また、有機溶剤を除去する方法が乾燥であり、乾燥工程の温度が、200℃以上であることが好ましい。プレス工程が、加熱及び/または常温のロールを用いたカレンダー法、真空プレス法、常圧プレス法、およびベルトプレス法よりなる群より選ばれた少なくとも一つの工法よりなることが好ましい。また、この炭素繊維複合シートの製造方法で作製した炭素繊維複合シートにおいて、残留溶媒が0.1重量%以下であることが好ましい。本発明の炭素繊維複合シートは、熱伝導性シート、電気伝導性シート、および電波遮蔽シートとして用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭素繊維複合シートは、ピッチ系炭素短繊維を添加してなる樹脂マトリクスとして芳香族ポリアミドを用い、また平均繊維長が10〜700μmのピッチ系炭素短繊維を用いることで、ピッチ系炭素短繊維を分散性良く高濃度で添加でき、熱伝導性に優れるともに、面状体としての加工方法にて製造ができ、種々の熱対策分野への応用が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について順次説明していく。
【0019】
本願発明で用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組合せて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることがピッチ系炭素短繊維の結晶配向を制御し熱伝導性を向上させる上で特に望ましい。
【0020】
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、260℃以上355℃以下が好ましい。軟化点が260℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、355℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
【0021】
原料ピッチは公知の方法によって紡糸することができる。連続糸或いはメルトブロー法による短繊維が一般的である。本願発明では生産性が高いという観点よりメルトブロー法で紡糸を行うことを主眼においている。メルトブロー法により紡糸されたピッチは、3次元ランダムマット状とし、その後不融化、焼成によって3次元ランダムマット状炭素繊維となる。これを粉砕し、黒鉛化することでピッチ系炭素短繊維としている。以下各工程について説明する。
【0022】
本願発明においては、ピッチ系炭素短繊維の原料となるピッチ繊維の紡糸ノズルの形状については特に制約はないが、孔径に対するノズル孔の長さの比が2よりも大きいものが好ましく用いられ、更に好ましくは5よりも大きいものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜25Pa・S(20〜250Poise)、好ましくは5〜17Pa・S(50〜170Poise)になる温度であればよい。
【0023】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜360℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化され、ピッチ繊維となる。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が望ましい。
【0024】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマット状となる。
【0025】
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマット状の形態をいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が三次元的に反映されるようになる。
【0026】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、公知の方法で不融化し、最終的に2000〜3500℃で黒鉛化される。
【0027】
不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。
【0028】
不融化されたピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で形状を維持できる程度に低温焼成される。低温焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される。低温焼成の温度は500〜1200℃程度で実施される。これは、形状を維持できる最低限の温度での低温焼成により、次いで実施する粉砕工程を容易に遂行させるためである。
【0029】
焼成を行った3次元ランダムマットは、公知の方法により粉砕を行う。粉砕には回転ローター式、衝突粉砕式、ジェットミル、ボールミル、ターボミル等の粉砕機を用いることができる。また平均繊維長を制御するために適切なサイズのメッシュを置き、分級しても良い。さらに、複数の方式の粉砕を適宜組合せることができる。また、粉砕にて平均繊維長を制御することが可能である。
【0030】
このように粉砕を行った炭素短繊維は、次いで黒鉛化を行う。黒鉛化温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするために、2300〜3500℃で実施することが好ましい。より好ましくは2500〜3500℃である。黒鉛化の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の原料となる炭素短繊維を、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、黒鉛化中、または冷却中に炉内の酸化性のガス、または炭素蒸気との反応による炭素短繊維の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。黒鉛化は、アチソン炉等にて非酸化性雰囲気下で実施される。
【0031】
本願発明で用いるピッチ系炭素繊維は、上述した工程を経て好ましく得られる炭素短繊維である。ここで、平均繊維長が1mm以下の炭素繊維を炭素短繊維と呼ぶ。このような炭素繊維は、カットファイバー或いはミルドファイバーと呼ばれることもある。そして、本発明に用いるピッチ系炭素短繊維の平均繊維長は、10〜700μmであることを特徴とする。平均繊維長が10μmを下回ると熱伝導パスの構築が困難になり、700μm以上になると樹脂側をいかようにしても高充填させることが困難になる。より望ましくは20〜500μmの範囲である。
【0032】
本願発明で用いるピッチ系炭素短繊維は、六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズが20nm以上であることが望ましい。六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(002)面からの回折線によって求めることができる。より望ましくは、30nm以上であり、さらに望ましくは40nm以上である。同様に、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上である。より望ましくは50nm以上であり、さらに望ましくは70nm以上である。六角網面の成長方向での結晶子サイズはフォノンのロスを低減させるために、大きいことが求められる。
【0033】
本願発明に用いるピッチ系炭素短繊維の真密度は、1.5〜2.2g/ccの密度を有する。より望ましい範囲は、1.9〜2.2g/ccであり、密度が高い方が樹脂への分散性が高いと考えられる。
【0034】
ピッチ系炭素短繊維の平均繊維径は5〜20μmであることが好ましい。5μm未満の場合には、ピッチ繊維の形状が保持できなくなることがあり生産性が悪い。平均繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりするところが発生する。より望ましくは6〜15μmであり、さらに望ましくは7〜12μmである。平均繊維径の平均値に対する平均繊維径の分散値の百分率として求められるCV値は、5〜20%であることが望ましい。より望ましくは7〜17%の範囲である。CV値が20%を超えると不融化でトラブルを起こす繊維径20μmを超えるの繊維が増え生産性の観点より望ましくない。また、5%以下の揺らぎでピッチ繊維を作製は困難である。
【0035】
ここで、CV値とは、下記式(I)で示される分散の平均に対する百分率である。
【0036】
【数1】

【0037】
ピッチ系炭素短繊維の添加量は芳香族ポリアミド6〜50重量部に対して50〜94重量部の範囲である。50重量部未満では、成形されてなる炭素繊維複合材の熱伝導率が小さい。また、94重量部超では、一部成形は可能であるものの、フィラーの落下が起る。
【0038】
本発明に用いるピッチ系炭素短繊維は灰分が0.2重量%以下である。より望ましくは0.1重量%以下である。灰分は残留不純物を意味し、より少ないものが、純度が高く、熱伝導性が高いピッチ系炭素短繊維となる。
【0039】
本発明に用いるピッチ系炭素短繊維の熱伝導率は、電気比抵抗より求めることができ、繊維軸方向の熱伝導率は200W/(m・K)以上であり、より好ましくは、400W/(m・K)以上、さらに好ましくは600W/(m・K)以上である。
【0040】
ピッチ系炭素短繊維を表面処理したのちサイジング剤をピッチ系炭素短繊維100重量部に対し0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜2.5重量部添着させてもよい。サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。このような表面処理は、嵩真密度を高くすることを鑑みると有効である。ただ、過剰のサイジング剤の添着は、熱抵抗となるため、必要とされる物性に応じてこれを実施することができる。
【0041】
さらに、ピッチ系炭素短繊維は、電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものを用いることもできる。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの方法によって金属やセラミックスを表面に被覆させることもできる。
【0042】
本願発明の炭素繊維複合シートは、樹脂マトリックスとして芳香族ポリアミドを用いることを特徴とする。芳香族ポリアミドは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されているポリマーである。芳香族ポリアミドが、メタ型芳香族ジアミン及び/またはパラ型芳香族ジアミンを主骨格とするものであることが好ましい。芳香族ポリアミドは実質的に下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす)
の2つの構成単位が交互に繰り返された構造からなる。
【0043】
上記Ar,Arは、各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基であるが、その具体例としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,4’−ジフェニレンスルフィド基、4,4’−ジフェニレンスルホン基、4,4’−ジフェニレンケトン基、4,4’−ジフェニレンエーテル基、3,4’−ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0044】
これらの芳香族基の水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、上記式(A)及び/又(B)の構成単位が、2種以上の芳香族基からなる共重合体であっても差し支えない。
【0045】
これらのうち、Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、3,4’−ジフェニレンエーテル基が好ましく、パラフェニレン基、またはパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用したものがさらに好ましく、パラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用した場合にはそのモル比が1:0.8〜1:1.2の範囲にあることがさらに好ましい。
【0046】
Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、が好ましく、パラフェニレン基がさらに好ましい。
【0047】
芳香族ポリアミドを溶解する有機溶剤としては、NMP(Nーメチルピロリドン)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、トルエン、キシレン、1M2P(プロピレングリコールα−モノメチルエーテル)、およびMIBK(メチルイソブチルケトン)よりなる群から選ばれた少なくとも一種を用いることができる。
【0048】
有機溶剤に溶解した芳香族ポリアミドの固形分濃度は6重量%程度であることがハンドリングの観点より望ましい。さらに、当該混合液は、ピッチ系炭素短繊維と芳香族ポリアミドからなる固形分濃度を5〜30重量%にすると、キャスティング時のハンドリングが良好であり望ましい。30重量%を超えると、溶剤を乾燥する際に、シートにひび割れが生じる。5重量%を下回るとシートの仕上がりが薄くなりすぎて、ピッチ系炭素短繊維を均一に分散させることが困難になる。該固形分濃度は、より望ましくは、10〜25重量%であり、特に好ましくは12〜23重量%である。
【0049】
このように固形分濃度を調整された芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維との混合液の粘度は、10,000〜500,000cPoise(10〜500Pa・s)程度であることが好ましい。ただし、芳香族ポリアミドの種類によっては、この限りではない。
【0050】
本発明の炭素繊維複合シートは、ピッチ系炭素短繊維と芳香族ポリアミドとを溶剤中で混合して作製するが、混合の際には、ミキサー、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。そして、炭素繊維複合シートは、キャスト法によって作製され、かかるキャスト方法はグラビアコート法、ドクターナイフ法、および押出法からなる群から選択される少なくとも1つの方法で達成することができる。
【0051】
本発明の炭素繊維複合シートは、有機溶剤に溶解した芳香族ポリアミドとピッチ系炭素炭素繊維からなる混合液を、上述した手法により膜状に成形し、次いで有機溶剤を除去した後、プレスする工程を経て製造することができる。
【0052】
有機溶剤の除去方法としては、乾燥方法や遠心分離による方法等が挙げられるが、乾燥方法が好ましく、なかでも疎乾燥した後、水洗処理に次いで最終的な乾燥工程に処することが好ましい。
【0053】
乾燥工程における有機溶剤の乾燥時間は、適宜決めることができるが、膜に自立性が発生するレベルになれば最終的な乾燥工程に進むことができる。有機溶剤の乾燥を急速に行うことが可能な場合は、自立性の発現後、連続的に乾燥温度を高くし最終的な乾燥を施すことができる。しかし、本発明方法において好ましく用いる有機溶剤は大量に蒸散させることがあまり好ましくない。設備として、これらを回収できれば、連続的に加温し、最終的な乾燥をすることが生産性の観点から望ましい。
【0054】
有機溶剤の乾燥を急速に行う以外のケースにおいては、疎乾燥によって膜の自立性が発現した後、水洗処理に次いで最終的な乾燥工程に処することが望ましい。水洗処理は脱溶剤を促進させる効果がある。水洗処理にて炭素繊維複合シートの含有有機溶剤量を低減した後に、最終的な乾燥に処することが好ましい。
【0055】
最終的な乾燥工程において、乾燥温度は200℃以上とすることが望ましく、より好ましくは300℃、さらに好ましくは350℃以上が望ましい。最終的な乾燥時間は、水洗処理によりどの程度の溶剤が抜けているかに依存するが、10分から120分の間で適宜実施することができる。
【0056】
本発明の炭素繊維複合シートは、プレス工程によって平面性を高めることができる。プレス工程としては加熱及び/または常温のロールを用いて行うカレンダー法、真空プレス法、常圧プレス法、およびベルトプレス法よりなる群から選ばれた少なくとも一つの工法を適応することができる。炭素繊維複合シートを小回りよく作製するためには、真空プレス法、常圧プレス法を好適に用いることができる。炭素繊維複合シートを連続的に作製するためには、カレンダー法やベルトプレス法が好適に用いられる。
【0057】
プレス工程がなされた後、炭素繊維複合シートの厚みは0.03〜1mmであることが好ましい。0.03mmより厚みが薄いと、乾燥の際にピッチ系炭素短繊維がムラになり、熱伝導の性能のムラとして顕在化してしまう。厚みが1mmより厚くなると平面性が悪くなり、熱抵抗の原因となってしまう。より好ましくは、0.05〜0.2mmである。
このようにして作製された炭素繊維複合シートは、熱伝導率が2W/(m・K)以上である。より好ましくは5W/(m・K)以上である。また、残留溶媒は、0.1重量%以下である。より好ましくは、0.05重量%以下である。なお、2W/(m・K)の熱伝導率は、樹脂マトリクスに比較すると約一桁高い熱伝導率である。
【0058】
本発明の炭素繊維複合シートの熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、その中でも、プローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法が好ましく、特にプローブ法が簡易的で好ましい。一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、成形体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。よって、熱伝導性成形体としての熱伝導率は実質的に1W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかし、本発明ではマトリクス樹脂を芳香族ポリアミドとすることで、極めて高濃度にピッチ系炭素短繊維を充填することを達成し、高い熱伝導を達成している。
【0059】
本発明では、主として、ピッチ系炭素短繊維を熱伝導材料として用いているが、新たな機能を付与するために、アルミニウム、珪素、ホウ素、亜鉛からなる群より選ばれてなる金属の酸化物及び/又は窒化物及び/又は酸窒化物及び/又は炭化物の微粒子を共添してもよい。当該微粒子のサイズは1〜100μmであることが好ましいが、1〜50μmがさらに好ましい。添加量は、必要な機能にも依存するが、ピッチ系炭素短繊維の添加重量に対して10〜90%の範囲で添加しても構わない。
【0060】
そして、本発明の炭素繊維複合シートは、熱伝導性シートや電気伝導性シートや電波遮断シートとして用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示すが、本願発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素短繊維の平均繊維径は、黒鉛化を経た炭素短繊維の直径を光学顕微鏡下でスケールを用いて20本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系炭素短繊維の平均繊維長は、黒鉛化を経た炭素短繊維の長さを光学顕微鏡下でスケールを用いて2000本測定し、その平均値から求めた。
(3)熱伝導性成形体の熱伝導率は、京都電子製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
(4)ピッチ系炭素短繊維の結晶子サイズは、六角網面の成長方向として、X線回折に現れる(110)面、を、六角網面の重なり方向として、X線回折に現れる(002)面からの反射を学振法に準拠した方法で求めた。
(5)ピッチ系炭素短繊維の密度は、ガス置換法で求めた。
(6)ピッチ系炭素短繊維の灰分は、白金坩堝中に一定重量で仕込んだ検体を空気中で十分に燃焼させ残留した灰分の重量を測定することで求めた。
(7)ピッチ系炭素短繊維の熱伝導率は、粉砕工程を通さなかった3次元ランダムマットを黒鉛化し、黒鉛化した3次元ランダムマットから単糸を抜き取りピッチ系炭素繊維の比抵抗を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(2)より求めた。
K=1272.4/ER−49.4 (2)
ここで、Kは黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは同じピッチ系炭素短繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
(8)炭素繊維複合シートの熱伝導率は0.3mmの同じ製造方法から作られた炭素繊維複合シートから京都電子製のQTM−500で測定した。
(9)炭素繊維複合シートの残留溶媒量は、250℃10分の熱処理の前後の重量変化から求めた。
(10)炭素繊維複合シートの粉落ちは、白色の木綿布で表面を3回軽く擦った後の、布表面の色で判断した。色が転写していないものは粉落ち無し、転写しているものは粉落ちありと判断した。
【0062】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が270℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5600mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径11.2μmのピッチ繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付350g/mのピッチ繊維からなる3次元ランダムマットとした。
この3次元ランダムマットを空気中で190℃から320℃まで平均昇温速度6℃/分で昇温して不融化を行った。不融化した3次元ランダムマットを800℃で焼成した。焼成後の3次元ランダムマットを回転ローターミルで粉砕しピッチ系炭素短繊維中間体とし、3000℃で黒鉛化した。黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維の平均繊維径は8.2μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比は13%であった。平均繊維長は200μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは90nmであった。六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズは27nmであった。密度は2.20g/ccであった。灰分は0.1重量%以下であった。電気比抵抗は1.7μΩmであり、熱伝導率は700W/(m・K)であった。これをピッチ系炭素短繊維Aとした。
芳香族ポリアミドとして、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレン・テレフタラミド(帝人テクノプロダクツ製テクノーラ(登録商標))の3%NMP溶液を樹脂マトリクスドープAとして用いた。加温した樹脂マトリクスドープA180gとピッチ系炭素短繊維A20gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が13%の混合液Aを作製した。混合液Aの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド20重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維Aは80重量部であった。
混合液AをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって0.3mm厚みで塗工し、110℃で20分間疎乾燥した。その後、流水中で溶媒であるNMPを流し、塗膜をガラス板から剥離し、芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなるシートを得た。このシートを定長下で流水中に1時間浸漬した後、室温で乾燥させ、200℃に加熱した熱風乾燥機内で10分間熱処理した。このようにして作製されたシートを常圧プレス機において2MPaで1分間プレス処理し、炭素繊維複合シートAを得た。厚みは0.1mmであった。残留溶媒量は、0.1重量%以下であった。粉落ちはなかった。熱伝導率は、5W/(m・K)であった。
【0063】
[実施例2]
3次元ランダムマットの粉砕を回転ローターミルからターボミルに変更した以外は、実施例1と同じ方法で、平均繊維長が50μmのピッチ系炭素短繊維を作製した。これをピッチ系炭素短繊維Bとする。
実施例1と同様に加温した樹脂マトリクスドープA180gとピッチ系炭素短繊維B20gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が13%の混合液Bを作製した。混合液Bの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド20重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維Aは80重量部であった。
混合液BをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって0.3mm厚みで塗工し、110℃で20分間疎乾燥した。その後、流水中で溶媒であるNMPを流し、塗膜をガラス板から剥離し、芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなるシートを得た。このシートを定長下で流水中に1時間浸漬した後、室温で乾燥させ、200℃に加熱した熱風乾燥機内で10分間熱処理した。このようにして作製されたシートを常圧プレス機において2MPaで1分間プレス処理し、炭素繊維複合シートBを得た。厚みは0.1mmであった。残留溶媒量は、0.1重量%以下であった。粉落ちはなかった。熱伝導率は、2.7W/(m・K)であった。
【0064】
[実施例3]
実施例1と同じピッチ系炭素短繊維を用いて、加温した樹脂マトリクスドープA180gとピッチ系炭素短繊維A50gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が24%の混合液Cを作製した。混合液Cの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド10重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維Aは90重量部であった。
【0065】
混合液CをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって0.2mm厚みで塗工し、110℃で10分間疎乾燥した。その後、流水中で溶媒であるNMPを流し、塗膜をガラス板から剥離し、芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなるシートを得た。このシートを定長下で流水中に1時間浸漬した後、室温で乾燥させ、200℃に加熱した熱風乾燥機内で10分間熱処理した。このようにして作製されたシートを常圧プレス機において2MPaで1分間プレス処理し、炭素繊維複合シートCを得た。厚みは0.1mmであった。残留溶媒量は、0.1重量%以下であった。粉落ちはなかった。熱伝導率は、6.0W/(m・K)であった。
【0066】
[実施例4]
実施例2と同じピッチ系炭素短繊維を用いて、加温した樹脂マトリクスドープA180gとピッチ系炭素短繊維B50gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が24%の混合液Dを作製した。混合液Dの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド10重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維Bは90重量部であった。
混合液DをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって0.2mm厚みで塗工し、110℃で10分間疎乾燥した。その後、流水中で溶媒であるNMPを流し、塗膜をガラス板から剥離し、芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなるシートを得た。このシートを定長下で流水中に1時間浸漬した後、室温で乾燥させ、200℃に加熱した熱風乾燥機内で10分間熱処理した。このようにして作製されたシートを常圧プレス機において2MPaで1分間プレス処理し、炭素繊維複合シートDを得た。厚みは0.1mmであった。残留溶媒量は、0.1重量%以下であった。粉落ちはなかった。熱伝導率は、3.2W/(m・K)であった。
【0067】
[実施例5]
加温した樹脂マトリクスドープA180gと実施例1で用いたピッチ系炭素短繊維A20gと実施例2で用いたピッチ系炭素短繊維B30gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が24%の混合液Eを作製した。混合液Eの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド10重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維AとBの合計は90重量部であった。
混合液EをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって0.2mm厚みで塗工し、110℃で10分間疎乾燥した。その後、流水中で溶媒であるNMPを流し、塗膜をガラス板から剥離し、芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなるシートを得た。このシートを定長下で流水中に1時間浸漬した後、室温で乾燥させ、200℃に加熱した熱風乾燥機内で10分間熱処理した。このようにして作製されたシートを常圧プレス機において2MPaで1分間プレス処理し、炭素繊維複合シートDを得た。厚みは0.1mmであった。残留溶媒量は、0.1重量%以下であった。粉落ちはなかった。熱伝導率は、6W/(m・K)であった。
【0068】
[比較例1]
実施例1と同じピッチ系炭素短繊維を用いて、加温した樹脂マトリクスドープA180gとピッチ系炭素短繊維A4gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が5%の混合液Fを作製した。混合液Fの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド58重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維Aは42重量部であった。
混合液FをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって、1mmのクリアランスで塗工したが、110℃での疎乾燥時にピッチ系炭素短繊維の分散にムラが発生し、ヌケが生じており、粉落ちテストで粉落ちはなかったが、シートが破れてしまった。また、熱伝導率は1.2W/(m・K)であった。
【0069】
[比較例2]
実施例1と同じピッチ系炭素短繊維を用いて、加温した樹脂マトリクスドープA180gとピッチ系炭素短繊維A110gとを目視で均一になるように攪拌し、固形分濃度が39%の混合液Gを作製した。混合液Gの芳香族ポリアミド成分の固形分重量は5gであり、芳香族ポリアミド5重量部に対し、ピッチ系炭素短繊維Aは95重量部であった。
混合液GをA4サイズのガラス板上にドクターナイフ法によって0.15mm厚みで塗工し、110℃で10分間疎乾燥した。その後、流水中で溶媒であるNMPを流し、塗膜をガラス板から剥離し、芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなるシートを得た。このシートを定長下で流水中に1時間浸漬し、室温で乾燥させ、200℃に加熱した熱風乾燥機内で10分間熱処理した。このようにして作製されたシートを常圧プレス機において2MPaで1分間プレス処理し、炭素繊維複合シートGを得た。厚みは0.1mmであった。残留溶媒量は、0.1重量%以下であった。粉落ちがあり、電子部品には適さない。
【0070】
[実施例6]
実施例3で作製した混合液Aを用いて0.1mm厚みの炭素繊維複合シート上に70℃に加温した20gの分銅を載せ150秒加熱し炭素繊維複合シートの温度を約70℃にした。その後、分銅を取除き放熱をさせたところ、60秒後に30℃になっていた。放熱効果が高いことがわかった。
【0071】
[比較例3]
比較例1で作製した混合液Gを用いて0.1mmt厚みの炭素繊維複合シート上に70℃に加温した20gの分銅を載せ150秒加熱し炭素繊維複合シートの温度を約70℃にした。その後、分銅を取除き放熱をさせたところ、60秒後に55℃になっていた。放熱効果があまり高くないことがわかった。
【0072】
[実施例7]
実施例6で使用した炭素繊維複合シートの表面抵抗は1.4Ω/□であり、導電性シートであった。
【0073】
[実施例8]
実施例6で作製した炭素繊維複合シートの1〜3GHzの電波の近傍界の遮断性能を測定したところ、平均で16dBであった。
【0074】
[比較例4]
比較例3で作製した炭素繊維複合シートの1〜3GHzの電波の近傍界の遮断性能を測定したところ、平均で8dBであった。実施例8に比較して遮蔽性能が小さかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が10〜700μmの範囲であるピッチ系炭素短繊維50〜94重量部と芳香族ポリアミド6〜50重量部とからなる厚み0.03〜1mmの炭素繊維複合シート。
【請求項2】
ピッチ系炭素短繊維の平均繊維径が5〜20μmであり、繊維径の分散を平均繊維径で除した値の百分率が5〜20%であり、繊維軸方向の熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、灰分が0.2重量%以下で、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である請求項1記載の炭素繊維複合シート。
【請求項3】
芳香族ポリアミドが、メタ型芳香族ジアミン及び/またはパラ型芳香族ジアミンを主骨格とする請求項1または2記載の炭素繊維複合シート。
【請求項4】
当該炭素繊維複合シートの熱伝導率が2W/(m・K)以上である請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維複合シート。
【請求項5】
有機溶剤に溶解した芳香族ポリアミドとピッチ系炭素短繊維からなる混合液をキャスト法で膜状に成形し、有機溶剤を除去した後、プレスすることによる請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項6】
当該混合液におけるピッチ系炭素短繊維と芳香族ポリアミドからなる固形分濃度が5〜30重量%である請求項5に記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項7】
キャスト方法が、グラビアコート法、ドクターナイフ法、および押出法からなる群から選択される少なくとも1つの方法である請求項5または6に記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項8】
有機溶剤が、NMP、DMAc、トルエン、キシレン、1M2P、およびMIBKよりなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項5〜7のいずれかに記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項9】
有機溶剤を除去する方法が疎乾燥した後水洗処理に次いで最終的な乾燥工程に処する方法である請求項5〜8のいずれかに記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項10】
有機溶剤を除去する方法が乾燥方法であり、最終的な乾燥温度が200℃以上である請求項5〜9のいずれかに記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項11】
プレス工程が、加熱及び/または常温のロールを用いたカレンダー法、真空プレス法、常圧プレス法、およびベルトプレス法よりなる群より選ばれた少なくとも一つの工法よりなる請求項5〜10のいずれかに記載の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれかに記載の炭素繊維複合シートの製造方法で作製した炭素繊維複合シートにおいて、残留溶媒が0.1重量%以下である炭素繊維複合シート。
【請求項13】
請求項1〜4、12のいずれかに記載の炭素繊維複合シートを用いた熱伝導性シート。
【請求項14】
請求項1〜4、12のいずれかに記載の炭素繊維複合シートを用いた電気伝導性シート。
【請求項15】
請求項1〜4、12のいずれかに記載の炭素繊維複合シートを用いた電波遮蔽シート。

【公開番号】特開2008−308543(P2008−308543A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156328(P2007−156328)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】