説明

無段変速機の制御装置

【課題】無段変速機においてアップシフト変速状態の正常判定の実施頻度を多くする。
【解決手段】アップシフト変速指令による変速中に、実変速比RATIOが目標変速比RATIOTをオーバシュートして、アップシフト変速指令(DS1変速Duty出力)からダウンシフト変速指令(DS2変速Duty出力)に切り替わっても、アップシフト変速速度が速い場合、具体的には、最大実シーブ位置変化率DWDRmaxが判定閾値g以上である場合には、アップシフト変速能力があると判断して、アップシフト変速状態が正常であると判定することで、正常判定の実施頻度を多くする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルク及び回転速度を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。
【0003】
車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチ及びブレーキなどの摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いて変速比(ギヤ比)を設定する遊星歯車式変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【0004】
ベルト式無段変速機は、プーリ溝(V溝)を備えたプライマリプーリ(入力側プーリ)とセカンダリプーリ(出力側プーリ)とにベルトを巻き掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に、他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。このベルト式無段変速機において伝達されるトルクは、ベルトとプーリとを相互に接触させる方向に作用する荷重に応じたトルクとなり、従ってベルトに張力を付与するようにプーリによってベルトを挟み付けている。
【0005】
ベルト式無段変速機の変速は、例えば、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量及び車速などに基づいて目標変速比(変速機入力側の目標回転数)を算出し、その目標変速比に実際の変速比が一致するように、プライマリプーリの可動シーブをその背面側に設けた油圧アクチュエータにより移動させ、プーリ溝の溝幅を拡大・縮小させることで行っている。
【0006】
このようなベルト式無段変速機においては、例えば下記の特許文献1に記載されているように、アップシフト用変速制御バルブ及びダウンシフト用変速制御バルブを用いて変速比を制御している。これら2つの変速制御バルブにはライン圧が元圧として供給される。
【0007】
アップシフト用変速制御バルブ及びダウンシフト用変速制御バルブにはデューティソレノイドバルブ(以下、変速制御ソレノイドという場合もある)が接続されており、アップシフト変速指令またはダウンシフト変速指令に応じて変速制御ソレノイドが作動し、その変速制御ソレノイドが出力する制御油圧によってアップシフト用変速制御バルブ及びダウンシフト用変速制御バルブが切り替わる。これによって、アップシフト用変速制御バルブを介してプライマリプーリの油圧アクチュエータに供給される油量と、プライマリプーリの油圧アクチュエータからダウンシフト用変速制御バルブを介して排出される油量とが制御される。このようにしてプライマリプーリの油圧アクチュエータにおける作動油の流入出量を制御することによって、プライマリプーリの溝幅つまりプライマリプーリ側のベルトの巻き掛け半径が変化して変速比が制御される。
【0008】
また、セカンダリプーリの油圧アクチュエータにはベルト挟圧力制御バルブが接続されている。ベルト挟圧力制御バルブにはライン圧が供給され、そのライン圧をリニアソレノイドバルブが出力する制御油圧をパイロット圧として制御してセカンダリプーリの油圧アクチュエータに供給することにより、ベルト挟圧力が制御される。
【0009】
以上の変速制御及びベルト挟圧力制御に用いるライン圧は、オイルポンプが発生する油圧をライン圧制御バルブ(プライマリレギュレータバルブ)で調圧することによって生成される。ライン圧制御バルブは、ライン圧制御用のリニアソレノイドバルブが出力する制御油圧をパイロット圧として作動するように構成されている。
【特許文献1】特開2007−177833号公報
【特許文献2】特開平07−286665号公報
【特許文献3】特開平07−315082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記したベルト式無段変速機においては、変速制御ソレノイドなどの変速系部品の正常判定(変速状態の正常判定)を実施している。具体的には、例えば、アップシフト変速指令があり、かつ、プライマリプーリの可動シーブの目標シーブ位置移動量に対する実シーブ位置移動量との割合が所定値以上であるという判定条件が成立したときに、アップシフト変速状態が正常であると判定している。しかしながら、ベルト式無段変速機の変速制御においては、例えば、アップシフト変速速度が速くて実変速比が目標変速比をオーバシュートしたときに、アップシフト変速指令からダウンシフト変速指令に切り替わる(例えば図9参照)。こうした状況になると、アップシフト変速能力があるのにも関わらず、上記した判定条件が成立しなくなるため、正常判定が中止されてしまう。その結果として、アップシフト正常判定の実施頻度が低下する可能性がある。
【0011】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、アップシフト変速状態の正常判定の実施頻度を多くすることが可能な無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられたベルトと、前記プライマリプーリのシーブを移動してプーリ溝の溝幅を変化させるアクチュエータと、アップシフト変速指令またはダウンシフト変速指令に応じて前記アクチュエータを制御して変速を行う変速制御手段と、アップシフト変速指令があり、かつ、目標変速比に対する実変速比の追従度合が正常判定閾値以上であるときにアップシフト変速状態が正常であると判定する正常判定手段とを備えた無段変速機の制御装置を前提とし、このような無段変速機の制御装置において、前記正常判定手段は、アップシフト変速中にアップシフト変速指令がない状態となっても、目標変速比に対する実変速比の追従度合が正常判定閾値以上であり、かつ、アップシフト変速中における変速速度の最大値が判定閾値以上である場合はアップシフト変速状態が正常であると判定することを特徴とする。
【0013】
本発明の具体的な構成として、アップシフト変速指令があり、かつ、前記プライマリプーリのシーブの目標シーブ位置移動量に対する実シーブ位置移動量の割合が正常判定閾値以上であるときにアップシフト変速状態が正常であると判定し、アップシフト変速中にアップシフト変速指令がない状態となっても、目標シーブ位置移動量に対する実シーブ位置移動量の割合が正常判定閾値以上であり、かつ、アップシフト変速中における前記プライマリプーリのシーブの最大実シーブ位置変化率が判定閾値以上である場合はアップシフト変速状態が正常であると判定するという構成を挙げることができる。より具体的には、プライマリプーリのアクチュエータが作動油の流入出によって駆動される油圧アクチュエータであり、その油圧アクチュエータの作動油の流入出量をソレノイドバルブによって制御するように構成されており、前記アップシフト変速指令が前記ソレノイドバルブに出力するアップシフト変速デューティ信号であるという構成を挙げることができる。
【0014】
本発明によれば、アップシフト変速指令による変速中に、実変速比が目標変速比をオーバシュートして、アップシフト変速指令からダウンシフト変速指令に切り替わっても、アップシフト変速速度が速い場合(最大実シーブ位置変化率が判定閾値以上である場合)には、アップシフト変速能力があると判断して、アップシフト変速状態が正常であると判定するので、正常判定の実施頻度を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用する車両の概略構成図である。
【0017】
この例の車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、走行用動力源であるエンジン(内燃機関)1、流体伝動装置としてのトルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機(CVT)4、減速歯車装置5、差動歯車装置6、及び、ECU(Electronic Control Unit)8などが搭載されており、そのECU8、後述する油圧制御回路20、プライマリプーリ回転数センサ105及びセカンダリプーリ回転数センサ106などによってベルト式無段変速機の制御装置が実現されている。
【0018】
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4及び減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪(図示せず)へ分配される。
【0019】
これらエンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4、及び、ECU8の各部について以下に説明する。
【0020】
−エンジン−
エンジン1は、例えば多気筒ガソリンエンジンである。エンジン1に吸入される吸入空気量は電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。スロットルバルブ12は運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ102によって検出される。また、エンジン1の冷却水温は水温センサ103によって検出される。
【0021】
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU8によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数Ne、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル操作量Acc)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ102を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0022】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、入力側のポンプインペラ21、出力側のタービンランナ22、及び、トルク増幅機能を発現するステータ23などを備えており、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。ポンプインペラ21はエンジン1のクランクシャフト11に連結されている。タービンランナ22はタービンシャフト27を介して前後進切換装置3に連結されている。
【0023】
トルクコンバータ2には、当該トルクコンバータ2の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ24が設けられている。ロックアップクラッチ24は、係合側油室25内の油圧と解放側油室26内の油圧との差圧(ロックアップ差圧)を制御することにより完全係合・半係合(スリップ状態での係合)または解放される。
【0024】
ロックアップクラッチ24を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ24を所定のスリップ状態(半係合状態)で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。一方、ロックアップ差圧を負に設定することによりロックアップクラッチ24は解放状態となる。
【0025】
そして、トルクコンバータ2にはポンプインペラ21に連結して駆動される機械式のオイルポンプ(油圧発生源)7が設けられている。
【0026】
−前後進切換装置−
前後進切換装置3は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構30、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を備えている。
【0027】
遊星歯車機構30のサンギヤ31はトルクコンバータ2のタービンシャフト27に一体的に連結されており、キャリア33はベルト式無段変速機4の入力軸40に一体的に連結されている。また、これらキャリア33とサンギヤ31とは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ32は後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。
【0028】
前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、後述する油圧制御回路20によって係合・解放される油圧式摩擦係合要素であって、前進用クラッチC1が係合され、後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置3が一体回転状態となって前進用動力伝達経路が成立(達成)し、この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側
へ伝達される。
【0029】
一方、後進用ブレーキB1が係合され、前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置3によって後進用動力伝達経路が成立(達成)する。この状態で、入力軸40はタービンシャフト27に対して逆方向へ回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置3は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
【0030】
−ベルト式無段変速機−
ベルト式無段変速機4は、入力側のプライマリプーリ41、出力側のセカンダリプーリ42、及び、これらプライマリプーリ41とセカンダリプーリ42とに巻き掛けられた金属製のベルト43などを備えている。
【0031】
プライマリプーリ41は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸40に固定された固定シーブ411と、入力軸40に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412とによって構成されている。セカンダリプーリ42も同様に有効径が可変な可変プーリであって、出力軸44に固定された固定シーブ421と、出力軸44に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ422とによって構成されている。
【0032】
プライマリプーリ41の可動シーブ412側には、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ413が配置されている。また、セカンダリプーリ42の可動シーブ422側にも同様に、固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ423が配置されている。
【0033】
以上の構造のベルト式無段変速機4において、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を制御することにより、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42の各V溝幅が変化してベルト43の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(γ=プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin/セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout)が連続的に変化する。また、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧は、ベルト滑りが生じない所定の挟圧力でベルト43が挟圧されるように制御される。これらの制御はECU8及び油圧制御回路20によって実行される。
【0034】
−油圧制御回路−
油圧制御回路20は、図1に示すように、変速速度制御部20a、ベルト挟圧力制御部20b、ライン圧制御部20c、ロックアップ係合圧制御部20d、クラッチ圧力制御部20e、及び、マニュアルバルブ20fなどによって構成されている。
【0035】
また、油圧制御回路20を構成する変速速度制御用の変速制御ソレノイド(DS1)304及び変速制御ソレノイド(DS2)305、ベルト挟圧力制御用のリニアソレノイド(SLS)202、ライン圧制御用のリニアソレノイド(SLT)201、並びに、ロックアップ係合圧制御用のデューティソレノイド(DSU)307にはECU8からの制御信号が供給される。
【0036】
次に、油圧制御回路20のうち、ベルト式無段変速機4のプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧制御回路(変速速度制御部20aの具体的な油圧回路構成)、及び、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧制御回路(ベルト挟圧力制御部20bの具体的な油圧回路構成)について、図2及び図3を参照して説明する。
【0037】
まず、図3に示すように、オイルポンプ7が発生した油圧はプライマリレギュレータバルブ203により調圧されてライン圧PLが生成される。プライマリレギュレータバルブ
203には、リニアソレノイド(SLT)201が出力する制御油圧がクラッチアプライコントロールバルブ204を介して供給され、その制御油圧をパイロット圧として作動する。
【0038】
なお、クラッチアプライコントロールバルブ204の切り替えにより、リニアソレノイド(SLS)202からの制御油圧がプライマリレギュレータバルブ203に供給され、その制御油圧をパイロット圧としてライン圧PLが調圧される場合もある。これらリニアソレノイド(SLT)201及びリニアソレノイド(SLS)202には、ライン圧PLを元圧としてモジュレータバルブ205にて調圧された油圧が供給される。
【0039】
リニアソレノイド(SLT)201は、ECU8が出力するDuty信号によって決まる電流値に応じて制御油圧を出力する。リニアソレノイド(SLT)201はノーマルオープンタイプのソレノイドバルブである。
【0040】
また、リニアソレノイド(SLS)202は、ECU8が出力するDuty信号によって決まる電流値に応じて制御油圧を出力する。このリニアソレノイド(SLS)202も上記リニアソレノイド(SLT)201と同様にノーマルオープンタイプのソレノイドバルブである。
【0041】
なお、図2及び図3に示す油圧制御回路において、モジュレータバルブ206は、モジュレータバルブ205が出力する油圧を一定の圧力に調圧して、後述する変速制御ソレノイド(DS1)304、変速制御ソレノイド(DS2)305、及び、ベルト挟圧力制御バルブ303などに供給する。
【0042】
[変速制御]
次に、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧制御回路について説明する。図2に示すように、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413にはアップシフト用変速制御バルブ301が接続されている。
【0043】
アップシフト用変速制御バルブ301には、軸方向に移動可能なスプール311が設けられている。スプール311の一端側(図2の上端側)にはスプリング312が配置されており、このスプール311を挟んでスプリング312とは反対側の端部に、第1油圧ポート315が形成されている。また、スプリング312が配置されている上記の一端側に第2油圧ポート316が形成されている。
【0044】
第1油圧ポート315には、ECU8が出力するDuty信号(DS1変速Duty(アップシフトDuty))によって決まる電流値に応じて制御油圧を出力する変速制御ソレノイド(DS1)304が接続されており、その変速制御ソレノイド(DS1)304が出力する制御油圧が第1油圧ポート315に印加される。第2油圧ポート316には、ECU8が出力するDuty信号(DS2変速Duty(ダウンシフトDuty))によって決まる電流値に応じて制御油圧を出力する変速制御ソレノイド(DS2)305が接続されており、その変速制御ソレノイド(DS2)305が出力する制御油圧が第2油圧ポート316に印加される。
【0045】
さらに、アップシフト用変速制御バルブ301には、ライン圧PLが供給される入力ポート313、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に接続(連通)される入出力ポート314及び出力ポート317が形成されており、スプール311がアップシフト位置(図2の右側位置)にあるときには、出力ポート317が閉鎖され、ライン圧PLが入力ポート313から入出力ポート314を経てプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される。一方、スプール311が閉じ位置(図2の左側位置)にあるときには、入力ポート313が閉鎖され、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ4
13が入出力ポート314を介して出力ポート317に連通する。
【0046】
ダウンシフト用変速制御バルブ302には、軸方向に移動可能なスプール321が設けられている。スプール321の一端側(図2の下端側)にはスプリング322が配置されているとともに、その一端側に第1油圧ポート326が形成されている。また、スプール321を挟んでスプリング322とは反対側の端部に第2油圧ポート327が形成されている。第1油圧ポート326には、上記変速制御ソレノイド(DS1)304が接続されており、その変速制御ソレノイド(DS1)304が出力する制御油圧が第1油圧ポート326に印加される。第2油圧ポート327には、上記変速制御ソレノイド(DS2)305が接続されており、その変速制御ソレノイド(DS2)305が出力する制御油圧が第2油圧ポート327に印加される。
【0047】
さらに、ダウンシフト用変速制御バルブ302には、入力ポート323、入出力ポート324及び排出ポート325が形成されている。入力ポート323にはバイパスコントロールバルブ306が接続されており、そのバイパスコントロールバルブ306にてライン圧PLを調圧した油圧が供給される。そして、このようなダウンシフト用変速制御バルブ302において、スプール321がダウンシフト位置(図2の左側位置)にあるときには入出力ポート324が排出ポート325に連通する。一方、スプール321が閉じ位置(図2の右側位置)にあるときには入出力ポート324が閉鎖される。なお、ダウンシフト用変速制御バルブ302の入出力ポート324は、アップシフト用変速制御バルブ301の出力ポート317に接続されている。
【0048】
以上の図2の油圧制御回路において、ECU8が出力するDS1変速Duty(アップシフト変速指令)に応じて変速制御ソレノイド(DS1)304が作動し、その変速制御ソレノイド(DS1)304が出力する制御油圧がアップシフト用変速制御バルブ301の第1油圧ポート315に供給されると、その制御油圧に応じた推力によって、スプール311がアップシフト位置側(図2の上側)に移動する。このスプール311の移動(アップシフト側への移動)により、作動油(ライン圧PL)が制御油圧に対応する流量で入力ポート313から入出力ポート314を経てプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給されるとともに、出力ポート317が閉鎖されてダウンシフト変速制御バルブ302への作動油の流通が阻止される。これによって変速制御圧が高められ、プライマリプーリ41のV溝幅が狭くなって変速比γが小さくなる(アップシフト)。
【0049】
なお、変速制御ソレノイド(DS1)304が出力する制御油圧がダウンシフト用変速制御バルブ302の第1油圧ポート326に供給されると、スプール321が図2の上側に移動し、入出力ポート324が閉鎖される。
【0050】
一方、ECU8が出力するDS2変速Duty(ダウンシフト変速指令)に応じて変速制御ソレノイド(DS2)305が作動し、その変速制御ソレノイド(DS2)305が出力する制御油圧がアップシフト用変速制御バルブ301の第2油圧ポート316に供給されると、その制御油圧に応じた推力によって、スプール311がダウンシフト位置側(図2の下側)に移動する。このスプール311の移動(ダウンシフト側への移動)により、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413内の作動油が制御油圧に対応する流量でアップシフト用変速制御バルブ301の入出力ポート314に流入する。このアップシフト用変速制御バルブ301に流入した作動油は出力ポート317及びダウンシフト用変速制御バルブ302の入出力ポート324を経て排出ポート325から排出される。これによって変速制御圧が低められ、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くなって変速比γが大きくなる(ダウンシフト)。
【0051】
なお、変速制御ソレノイド(DS2)305が出力する制御油圧がダウンシフト用変速制御バルブ302の第2油圧ポート327に供給されると、スプール321が図2の下側に移動し、入出力ポート324と排出ポート325とが連通する。
【0052】
以上のように、変速制御ソレノイド(DS1)304から制御油圧が出力されると、アップシフト用変速制御バルブ301から作動油がプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給されて変速制御圧が連続的にアップシフトされる。また、変速制御ソレノイド(DS2)305から制御油圧が出力されると、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413内の作動油がダウンシフト用変速制御バルブ302の排出ポート325から排出されて変速制御圧が連続的にダウンシフトされる。
【0053】
そして、この例では、例えば図4に示すように、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量Acc及び車速Vをパラメータとして予め設定された変速マップから入力側の目標回転数Nintを算出し、実際の入力軸回転数Ninが目標回転数Nintと一致するように、それらの偏差(Nint−Nin)に応じてベルト式無段変速機4の変速制御、すなわち、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に対する作動油の供給・排出によって変速制御圧が制御され、変速比γが連続的に変化する。図4のマップは変速条件に相当し、ECU8のROM82(図6参照)内に記憶されている。
【0054】
なお、図4のマップにおいて、車速Vが小さくてアクセル操作量Accが大きい程大きな変速比γになる目標回転数Nintが設定されるようになっている。また、車速Vはセカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Noutに対応するため、プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Ninの目標値である目標回転数Nintは目標変速比に対応し、ベルト式無段変速機4の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で設定されている。
【0055】
[ベルト挟圧力制御]
次に、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧制御回路について図3を参照して説明する。
【0056】
図3に示すように、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423にはベルト挟圧力制御バルブ303が接続されている。
【0057】
ベルト挟圧力制御バルブ303には、軸方向に移動可能なスプール331が設けられている。スプール331の一端側(図3の下端側)にはスプリング332が配置されているとともに、その一端側に第1油圧ポート335が形成されている。また、スプール331を挟んでスプリング332とは反対側の端部に第2油圧ポート336が形成されている。
【0058】
第1油圧ポート335にはリニアソレノイド(SLS)202が接続されており、そのリニアソレノイド(SLS)202が出力する制御油圧が第1油圧ポート335に印加される。第2油圧ポート336にはモジュレータバルブ206からの油圧が印加される。
【0059】
さらに、ベルト挟圧力制御バルブ303には、ライン圧PLが供給される入力ポート333、及び、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に接続(連通)される出力ポート334が形成されている。
【0060】
この図3の油圧制御回路において、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド(SLS)202が出力する制御油圧が増大すると、ベルト挟圧力制御バルブ303のスプール331が図3の上側に移動する。この場合、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給される油圧が増大し、ベルト挟圧力が増大する。
【0061】
一方、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド(SLS)202が出力する制御油圧が低下すると、ベル
ト挟圧力制御バルブ303のスプール331が図3の下側に移動する。この場合、セカンダリプーリ42の油圧シリンダに供給される油圧が低下し、ベルト挟圧力が低下する。
【0062】
このようにして、リニアソレノイド(SLS)202が出力する制御油圧をパイロット圧としてライン圧PLを調圧制御してセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給することによってベルト挟圧力が増減する。
【0063】
そして、この例では、例えば図5に示すように、伝達トルクに対応するアクセル開度Acc及び変速比γ(γ=Nin/Nout)をパラメータとし、ベルト滑りが生じないように予め設定された必要油圧(ベルト挟圧力に相当)のマップに従って、リニアソレノイド(SLS)202が出力する制御油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機4のベルト挟圧力、つまり、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧を調圧制御することによって行われる。図5のマップは挟圧力制御条件に相当し、ECU8のROM82(図6参照)内に記憶されている。
【0064】
−ECU−
ECU8は、図6に示すように、CPU81、ROM82、RAM83及びバックアップRAM84などを備えている。
【0065】
ROM82には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM83はCPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM84はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0066】
これらCPU81、ROM82、RAM83、及び、バックアップRAM84はバス87を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース85及び出力インターフェース86に接続されている。
【0067】
ECU8の入力インターフェース85には、エンジン回転数センサ101、スロットル開度センサ102、水温センサ103、タービン回転数センサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、セカンダリプーリ回転数センサ106、アクセル開度センサ107、CVT油温センサ108、ブレーキペダルセンサ109、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)を検出するレバーポジションセンサ110などが接続されており、その各センサの出力信号、つまり、エンジン1の回転数(エンジン回転数)Ne、スロットルバルブ12のスロットル開度θth、エンジン1の冷却水温Tw、タービンシャフト27の回転数(タービン回転数)Nt、プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout、アクセルペダルの操作量(アクセル関度)Acc、油圧制御回路20の油温(CVT油温Thc)、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無(ブレーキON・OFF)、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)などを表す信号がECU8に供給される。
【0068】
出力インターフェース86には、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及び油圧制御回路20(ロックアップ制御回路200)などが接続されている。
【0069】
ここで、ECU8に供給される信号のうち、タービン回転数Ntは、前後進切換装置3の前進用クラッチC1が係合する前進走行時にはプライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Ninと一致し、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Noutは車速Vに対応する。また、アクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。
【0070】
また、シフトレバー9は、駐車のためのパーキング位置「P」、後進走行のためのリバース位置「R」、動力伝達を遮断するニュートラル位置「N」、前進走行のためのドライブ位置「D」、前進走行時にベルト式無段変速機4の変速比γを手動操作で増減できるマニュアル位置「M」などの各位置に選択的に操作されるようになっている。
【0071】
マニュアル位置「M」には、変速比γを増減するためのダウンシフト位置やアップシフト位置、あるいは、変速範囲の上限(変速比γが小さい側)が異なる複数の変速レンジを選択できる複数のレンジ位置等が備えられている。
【0072】
レバーポジションセンサ110は、例えば、パーキング位置「P」、リバース位置「R」、ニュートラル位置「N」、ドライブ位置「D」、マニュアル位置「M」やアップシフト位置、ダウンシフト位置、あるいはレンジ位置等へシフトレバー9が操作されたことを検出する複数のON・OFFスイッチ等を備えている。なお、変速比γを手動操作で変更するために、シフトレバー9とは別にステアリングホイール等にダウンシフトスイッチやアップシフトスイッチ、あるいはレバー等を設けることも可能である。
【0073】
そして、ECU8は、上記した各種のセンサの出力信号などに基づいて、エンジン1の出力制御、上述したベルト式無段変速機4の変速速度制御及びベルト挟圧力制御、並びにロックアップクラッチ24の係合・解放制御などを実行する。さらに、ECU8は、後述する[アップシフト状態の正常判定]を実行する。
【0074】
なお、エンジン1の出力制御は、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及びECU8などによって実行される。
【0075】
−アップシフト状態の正常判定−
この例では、アップシフト変速用の変速制御ソレノイド(DS1)304などの部品の正常判定(変速状態の正常判定)を実施している。具体的には、変速制御ソレノイド(DS1)304にDS1変速Duty(アップシフトDuty)が出力されており、かつ、プライマリプーリ41の可動シーブ411の目標シーブ位置移動量に対する実シーブ位置移動量との割合(目標変速比に対する実変速比の追従度合)が所定値以上であるという判定条件が成立したときに、アップシフト変速状態が正常であると判定している。また、アップシフト変速中に、DS1変速Duty(アップシフトDuty)の出力がない状態となっても、アップシフト変速速度が速い場合はアップシフト変速状態が正常であると判定する。
【0076】
その具体的な制御(アップシフト状態の正常判定処理)の一例について、図7に示すフローチャートを参照して説明する。図7の処理ルーチンはECU8において所定時間(例えば数ms)毎に繰り返して実行される。
【0077】
まず、この例の正常判定処理に用いる目標シーブ位置は、上記した目標入力回転数Nintに対応する目標変速比RATIOTから算出する。また、実シーブ位置は、実変速比RATIO(RATIO=実際のプライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin/実際のセカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout)から算出する。
【0078】
また、この例の判定処理においては、DS1変速Dutyの出力があった時点(後述するDS1変速Duty≧aとなった時点)からの実シーブ位置変化率(プライマリプーリ41の可動シーブ411の位置変化率)DWDRを算出する。この実シーブ位置変化率DWDRの算出は、アップシフト変速中に、DS1変速DutyからDS2変速Dutyに切り替わっても、アップシフト変速が終了するまで継続し、その間のピークホールド処理により、アップシフト変速中の最大シーブ位置変化率DWDRmax(図9参照)を採取する。
【0079】
次に、図7の判定処理ルーチンをステップ毎に説明する。
【0080】
ステップST101において、[DS1変速Dutyが判定閾値a以上]、[目標シーブ位置と実シーブ位置との偏差DWDLPRが判定閾値b以上]及び[推定タービントルクTTが判定閾値c以上]の3つ条件の全てが成立しているか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST102に進む。ステップST101の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0081】
ここで、DS1変速Dutyに対して設定する判定閾値aは、アップシフト用の変速制御ソレノイド(DS1)304が作動状態(バルブ開で制御油圧の出力状態)であることを判別できる値を適合して設定する。
【0082】
目標シーブ位置と実シーブ位置との偏差DWDLPRに対する判定閾値bは、実変速比RATIOに対して目標変速比RATIOTがアップシフト側にあること(アップシフト変速を確実に実施していること)を判別するための閾値であって、実験・計算等によって適合した値を設定する。
【0083】
推定タービントルクTTに対して設定する判定閾値cについては、例えば、ベルト式無段変速機4では、アップシフト変速制御用の変速制御ソレノイド(DS1)304などの部品が故障している場合、ベルト式無段変速機4の入力トルク(タービントルクTT)が低くてもアップシフト変速が実行されてアップシフト状態が正常であると誤判定する可能性があるという点を考慮し、そのような誤判定を回避できるような大きさの正トルク(タービントルクTT)を実験・計算等によって適合した値を判定閾値cとする。
【0084】
なお、タービントルクTTは、エンジントルクTe、トルクコンバータ2のトルク比及び入力慣性トルクに基づいて算出することができる。エンジントルクTeは、例えばスロットル開度θth及びエンジン回転数Neから算出することができる。トルク比は、[プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin/エンジン回転数Ne]の関数であり、入力慣性トルクは、プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Ninの時間変化量から算出することができる。
【0085】
ステップST102では、目標変速比RATIOT及び実変速比RATIOの両方が条件[d≦RATIOT<e]及び[d≦RATIO<e]を満たしているか否かを判定する。具体的には、目標変速比RATIOT及び実変速比RATIOの両方が終了判定値d以上であることを条件に、目標変速比RATIOT及び実変速比RATIOの両方が開始判定値e未満になったか否かを判定し、その判定結果が肯定判定となった時点を開始点(例えば、図8の開始点t11)としてステップST103に進む。ステップST102の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0086】
ステップST103では、開始点に達した時点での目標シーブ位置初期値LINTGTPS及び実シーブ位置初期値LINGTPSを算出する。目標シーブ位置初期値LINTGTPSは、開始点に達した時点での目標入力回転数Nintに対応する目標変速比RATIOTから算出する。また、実シーブ位置初期値LINGTPSは、開始点に達した時点での実変速比RATIO(プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin/セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout)から算出する。
【0087】
次に、ステップST104において、DS1変速Dutyが判定閾値a以上の状態が継続(アップシフト変速指令が継続)しているか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST105に進む。ステップST104の判定結果が否定判定である場合はステップST109に進む。
【0088】
ステップST105では、目標変速比RATIOTまたは実変速比RATIOが、条件[(RATIOT<d)or(RATIOT≧e)]または[(RATIO<d)or(RATIO≧e)]を満たしているか否かを判定する。
【0089】
このステップST105は、目標変速比RATIOT及び実変速比RATIOが上記した開始点(例えば図8の開始点t11)に達した後に、目標変速比RATIOTまたは実変速比RATIOのいずれか一方が終了判定値d未満になったか否かを判定するステップであり、その判定結果が肯定判定となった時点を終了点(例えば図8の終了点t12)としてステップST106に進む。ステップST105が判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0090】
ステップST106では、終了点に達した時点での目標シーブ位置終値LINTGTPE及び実シーブ位置終値LINGTPEを算出する。さらに、それら目標シーブ位置終値LINTGTPE及び実シーブ位置終値LINGTPEと、上記したステップST103で算出した目標シーブ位置初期値LINTGTPS及び実シーブ位置初期値LINGTPSとを用いて、シーブ位置移動量割合DWDLHIを演算式[(LINGTPE−LINGTPS)/(LINTGTPE−LINTGTPS)]から算出する。
【0091】
なお、ステップST106において、目標シーブ位置終値LINTGTPEは、終了点に達した時点での目標入力回転数Nintに対応する目標変速比RATIOTから算出する。また、実シーブ位置終値LINGTPEは、終了点に達した時点での実変速比RATIO(プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin/セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout)から算出する。
【0092】
そして、ステップST107において、ステップST106で算出したシーブ位置移動量割合DWDLHIが正常判定閾値f以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(DWDLHI≧f)、アップシフト状態が正常であると判定する(ステップST108)。ステップST107の判定結果が否定判定である場合(DWDLHI<f)はリターンする。
【0093】
一方、ステップST104の判定結果が否定判定である場合、つまり、DS1変速Dutyの出力が継続されず、DS2変速Dutyに切り替わった場合においても、上記したステップST105及びステップST106と同様な処理により、シーブ位置移動量割合DWDLHIを算出する(ステップST109及びステップST110)。
【0094】
次に、ステップST111において、ステップST110で算出したシーブ位置移動量割合DWDLHIが正常判定閾値f以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(DWDLHI≧f)はステップST112に進む。ステップST111の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0095】
ステップST112では、アップシフト変速中の最大実シーブ位置変化率DWDRmaxが判定閾値g以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(DWDRmax≧g)は、アップシフト変速速度が速くてアップシフト変速能力があると判断して、アップシフト変速状態が正常であると判定する(ステップST108)。ステップST112の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0096】
ここで、シーブ位置移動量割合DWDLHIに対して設定する正常判定閾値fについては、例えば、アップシフト変速用の変速制御ソレノイド(DS1)304が故障しておらず、アップシフト変速が正常な状態で実行されるときのシーブ位置移動量割合DWDLHI(目標変速比RATIOTに対する実変速比RATIOの追従度合)を実験・計算等によって取得しておき、その取得したシーブ位置移動量割合に対して余裕度(追従度合の許容値)を見込んで適合した値を正常判定閾値fとする。
【0097】
また、最大実シーブ位置変化率DWDRmaxに対して設定する判定閾値gは、例えば実際のアップシフト変速によって実変速比RATIOのオーバシュート(目標変速比RATIOTに対するオーバシュート)が発生する変速速度の下限値を実験・計算等によって取得しておき、その取得した変速速度下限値に対して余裕度(追従度合の許容値)を見込んで適合した値を判定閾値gとして適合すればよい。
【0098】
以上のアップシフト状態の正常判定処理の具体的な例について図8及び図9を参照して説明する。なお、図8及び図9は車両発進時のアップシフト変速の例を示す。
【0099】
まず、図8のタイムチャートにおいて、DS1変速Dutyの出力があった時点(DS1変速Duty≧aとなった時点)t10から目標変速比RATIOTがアップシフト側(変速比が小さくなる側)に変化していき、これに追従して実変速比RATIOがアップシフト側に変化していく。
【0100】
この図8の例では、変速制御を開始した後、目標変速比RATIOTが実変速比RATIOに対してアップシフト側(変速比が小さい側)にある状態で、DS1変速Dutyの出力が継続しているので、アップシフト正常判定が実行される。具体的には、目標変速比RATIOTが開始判定値e未満(RATIOT<e)になり、次いで実変速比RATIOが開始判定値e未満(RATIO<e)になった時点t11(開始点t11)で、目標シーブ位置初期値LINTGTPS及び実シーブ位置初期値LINGTPSを算出する。この後、目標変速比RATIOTが終了判定値d未満(RATIOT<d)になった時点t12(終了点t12)で、目標シーブ位置終値LINTGTPE及び実シーブ位置終値LINGTPEを算出する。そして、上記開始点t11で算出した目標シーブ位置初期値LINTGTPS及び実シーブ位置初期値LINGTPSと、終了点t12で算出した目標シーブ位置終値LINTGTPE及び実シーブ位置終値LINGTPEとを用いて、上記した演算式からシーブ位置移動量割合DWDLHIを算出し、その算出結果が上記した正常判定閾値f以上である場合はアップシフト状態が正常であると判定する。
【0101】
このように、アップシフト変速中において、実変速比RATIOに対して目標変速比RATIOTがアップシフト側で、DS1変速Dutyの出力(アップシフト指令)が連続している状況のときには、アップシフト正常判定が実施される。
【0102】
ここで、図9のタイムチャートに示すように、アップシフト変速速度が速くて実変速比RATIOが目標変速比RATIOTをオーバシュートしたときに、DS1変速Duty出力(アップシフト変速指令)からDS2変速Duty出力(ダウンシフト変速指令)に切り替わる。こうした状況(DS1変速Dutyの出力がない状況)になった場合、従来制御では、アップシフト正常判定を中止しているため、アップシフト正常判定の実施頻度が低下する。
【0103】
これに対し、この例では、アップシフト変速中にDS1変速Duty出力からDS2変速Duty出力に切り替わっても、アップシフト変速速度が速い(判定閾値以上)場合、具体的には、図9に示すように、アップシフト変速中の最大実シーブ位置変化率DWDRmaxが判定閾値g以上である場合には、アップシフト変速能力があると判断して、アップシフト変速状態が正常であると判定する(図7のステップST109〜ステップST112)。これによってアップシフト正常判定の実施頻度を多くすることができる。
【0104】
次に、図9の例について具体的に説明する。まず、DS1変速Dutyの出力があった時点(DS1変速Duty≧aとなった時点)t20から目標変速比RATIOTがアップシフト側(変速比が小さくなる側)に変化していき、これに追従して実変速比RATIOがアップシフト側に変化していくが、アップシフト変速速度が速いので、目標変速比RATIOTが開始判定値e未満(RATIOT<e)になった後に実変速比RATIOが開始判定値e未満(RATIO<e)になるタイミングt21(開始点t21)は、図8の例よりも速くなる。このようにアップシフト変速速度が速いと、開始点T21に達した後に、目標変速比RATIOTに対して実変速比RATIOがアップシフト側にオーバシュートしてDS1変速Duty出力からDS2変速Duty出力に切り替わる状況が発生するが、この例では、それに関係なく、アップシフト正常判定を継続する(図7のステップST109〜ステップST112の処理を実行する)。
【0105】
そして、実変速比RATIOまたは目標変速比RATIOTのいずれか一方(図9の例の場合は実変速比RATIO)が終了判定値d未満(RATIO<d)になった時点t22(終了点t22)で、シーブ位置移動量割合DWDLHIを算出し、その算出結果が上記した正常判定閾値f以上であり、アップシフト変速中に採取した最大実シーブ位置変化率DWDRmaxが判定閾値g以上である場合はアップシフト状態が正常であると判定する。
【0106】
−他の実施形態−
以上の例では、目標変速比RATIOTに対する開始判定値及び終了判定値と、実変速比RATIOに対する開始判定値及び終了判定値とを同じ値(開始判定値e,終了判定値d)としているが、これに限られることなく、目標変速比RATIOTに対する開始判定値及び終了判定値と、実変速比RATIOに対する開始判定値及び終了判定値とは異なる値としてもよい。
【0107】
以上の例では、アップシフト用の変速制御ソレノイド(DS1)304、及び、ダウンシフト用の変速制御ソレノイド(DS2)305を備えた無段変速機に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、それら変速制御ソレノイドDS1、DS2を備えていない他の変速制御手段を搭載した無段変速機の変速制御にも適用可能である。
【0108】
以上の例では、ガソリンエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置にも適用可能である。また、車両の動力源については、エンジン(内燃機関)のほか、電動モータ、あるいはエンジンと電動モータの両方を備えているハイブリッド形動力源であってもよい。
【0109】
また、本発明は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に限れられることなく、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両、4輪駆動車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明を適用するベルト式無段変速機が搭載された車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】油圧制御回路のうちベルト式無段変速機のプライマリプーリの油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路の回路構成図である。
【図3】油圧制御回路のうちベルト式無段変速機のベルトの挟圧力を制御する油圧制御回路の回路構成図である。
【図4】ベルト式無段変速機の変速制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図5】ベルト式無段変速機のベルト挟圧力制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図6】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図7】アップシフト変速状態の正常判定処理の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】アップシフト変速時の目標変速比及び実変速比の変化の一例を示すタイミングチャートである。
【図9】アップシフト変速時の目標変速比及び実変速比の変化の他の例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0111】
1 エンジン
4 ベルト式無段変速機
41 プライマリプーリ
411 可動シーブ
413 油圧アクチュエータ
42 セカンダリプーリ
421 可動シーブ
423 油圧アクチュエータ
43 ベルト
101 エンジン回転数センサ
105 プライマリプーリ回転数センサ
106 セカンダリプーリ回転数センサ
20 油圧制御回路
304 アップシフト用の変速制御ソレノイド(DS1)
305 変速制御ソレノイド(DS2)
301 アップシフト用変速制御バルブ
302 ダウンシフト用変速制御バルブ
8 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられたベルトと、前記プライマリプーリのシーブを移動してプーリ溝の溝幅を変化させるアクチュエータと、アップシフト変速指令またはダウンシフト変速指令に応じて前記アクチュエータを制御して変速を行う変速制御手段と、アップシフト変速指令があり、かつ、目標変速比に対する実変速比の追従度合が正常判定閾値以上であるときにアップシフト変速状態が正常であると判定する正常判定手段とを備えた無段変速機の制御装置において、
前記正常判定手段は、アップシフト変速中にアップシフト変速指令がない状態となっても、目標変速比に対する実変速比の追従度合が正常判定閾値以上であり、かつ、アップシフト変速中における変速速度の最大値が判定閾値以上である場合はアップシフト変速状態が正常であると判定することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の制御装置において、
前記正常判定手段は、アップシフト変速指令があり、かつ、前記プライマリプーリのシーブの目標シーブ位置移動量に対する実シーブ位置移動量の割合が正常判定閾値以上であるときにアップシフト変速状態が正常であると判定し、アップシフト変速中にアップシフト変速指令がない状態となっても、前記目標シーブ位置移動量に対する実シーブ位置移動量の割合が正常判定閾値以上であり、かつ、アップシフト変速中における前記プライマリプーリのシーブの最大実シーブ位置変化率が判定閾値以上である場合はアップシフト変速状態が正常であると判定することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置において、
前記プライマリプーリのアクチュエータが作動油の流入出によって駆動される油圧アクチュエータであり、その油圧アクチュエータの作動油の流入出量をソレノイドバルブによって制御するように構成されており、前記アップシフト変速指令が前記ソレノイドバルブに出力するアップシフト変速デューティ信号であることを特徴とする無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−96266(P2010−96266A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267414(P2008−267414)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】