無段変速機の変速制御装置
【課題】目標変速比が無用に制限されて、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまうことを防止できる無段変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】一対のプーリー11,12に掛け回された無端トルク伝達部材13を介して一対のプーリー間で変速する無段変速機の変速制御装置において、変速機の目標変速比を算出する目標変速比算出部B51と、プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方と、変速機に入力されるトルクと、に基づいて目標変速比の制限値を算出する制限値算出部B52〜B54と、目標変速比算出部で算出された目標変速比算出値が制限値を越えれば、制限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が制限値を越えなければ、目標変速比算出値を目標変速比として設定する目標変速比設定部B55と、を有する。
【解決手段】一対のプーリー11,12に掛け回された無端トルク伝達部材13を介して一対のプーリー間で変速する無段変速機の変速制御装置において、変速機の目標変速比を算出する目標変速比算出部B51と、プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方と、変速機に入力されるトルクと、に基づいて目標変速比の制限値を算出する制限値算出部B52〜B54と、目標変速比算出部で算出された目標変速比算出値が制限値を越えれば、制限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が制限値を越えなければ、目標変速比算出値を目標変速比として設定する目標変速比設定部B55と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無段変速機の変速を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸に設けられるプライマリープーリーと、出力軸に設けられるセカンダリープーリーと、これらのプーリーに掛け渡される無端トルク伝達部材と、を備える無段変速機(Continuously Variable Transmission;以下適宜「CVT」と称す)が公知である。そして、プライマリープーリー及びセカンダリープーリーは、それぞれ、固定シーブと可動シーブとを備える。
【0003】
変速比が制御されるときには、まず、アクセラレーターペダル操作量や車速が変速特性マップに適用されて、プライマリープーリーの目標回転速度が設定される。次いで、この目標回転速度を実現するための目標変速比が設定される。そして、この目標変速比を実現するように、プライマリープーリーの可動シーブが軸方向に移動する。これに合わせて、セカンダリープーリーは、無端トルク伝達部材が滑らないように、所定の推力で無端トルク伝達部材を締め付ける。このようにすることで、無端トルク伝達部材の巻き付け径が変化し、変速比が無段階に制御される。
【0004】
無端トルク伝達部材には、スチールベルトやチェーンベルトがある。
【0005】
スチールベルトは、多数のエレメントがバンドによって環状に保持されている。スチールベルトは、セカンダリープーリーに押圧力を作用させて動力を伝達する。
【0006】
一方、チェーンベルトは、多数のブロックがリンクやピンを介して環状に連結されている。チェーンベルトは、セカンダリープーリーに引っ張り力を作用させて動力を伝達する。このとき、チェーンベルトには弾性変形による伸びが発生する可能性がある。この伸びを考慮しないと、変速制御に応答遅れが生じる。
【0007】
たとえば、目標変速比が最小値に設定される場合、すなわち車両がオーバードライブ状態で走行する場合に、入力トルクが増大してチェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてセカンダリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもロー側に変化する。このとき、制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違するので、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。しかしながら、チェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできない。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がアップシフト側に蓄積されてしまう。
【0008】
フィードバック値が蓄積された状態で、ダウンシフト指令があると、アップシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のダウンシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0009】
このように、チェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びていなければ、実現できる目標変速比であっても、チェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実現できないことがある。
【0010】
そこで特許文献1では、入力トルクに応じて目標変速比を実現可能な範囲に制限することで、フィードバック値の蓄積を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−189079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本件発明者らは、鋭意研究を重ねることで、特許文献1では、車両の運転状態によっては、目標変速比が無用に制限されることとなり、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまう可能性があることを見いだし、さらに精緻に無段変速機の変速を制御する手法を知見した。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、目標変速比が無用に制限されて、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまうことを防止できる無段変速機の変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0015】
本発明は、一対のプーリーに掛け回された無端トルク伝達部材を介して前記一対のプーリー間で変速する無段変速機の変速制御装置に関する。そして、変速機の目標変速比を算出する目標変速比算出部と、プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方と、変速機に入力されるトルクと、に基づいて目標変速比の制限値を算出する制限値算出部と、前記目標変速比算出部で算出された目標変速比算出値が前記制限値を越えれば、前記制限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記制限値を越えなければ、目標変速比算出値を目標変速比として設定する目標変速比設定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変速機に入力されるトルクのみならずプーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方にも基づいて目標変速比の制限値を算出するようにしたので、目標変速比が無用に制限されて、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまうことを防止できる。
【0017】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明による無段変速機の変速制御装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図2は、推力比マップの一例を示す図である。
【図3】図3は、推力比が1以上の領域での指示推力の内訳を例示する図である。
【図4】図4は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【図5】図5は、変速比マップの一例を示す図である。
【図6】図6は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【図7】図7は、変速比マップの一例を示す図である。
【図8】図8は、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めるための三次元マップの一例を示す図である。
【図9】図9は、チェーン伸び量から変速比上限及び変速比下限を求めるためのマップの一例を示す図である。
【図10】図10は、本実施形態による作用効果を説明する図である。
【図11】プライマリー入力トルクTpが一定であっても、プライマリー回転速度Nsが異なる場合について説明する図である。
【図12】図12は、第2実施形態における変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【図13】図13は、プライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めるための三次元マップの一例を示す図である。
【図14】図14は、第2実施形態による作用効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明による無段変速機の変速制御装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【0020】
図1を参照すると、車両駆動システムは、走行用動力源として内燃エンジン1を備える。内燃エンジン1の出力回転は、トルクコンバーター2、第1ギヤ列3、CVT4、第2ギヤ列5、及び終端減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
【0021】
CVT4は、チェーン式無段変速機構である。CVT4は、プライマリープーリー11と、セカンダリープーリー12と、Vチェーン13と、を備える。
【0022】
プライマリープーリー11は、入力軸に設けられ、内燃エンジン1の回転トルクが、トルクコンバーター2と第1ギヤ列3を介して入力される。プライマリープーリー11は、固定シーブと、固定シーブにシーブ面を対向させてV溝を形成する可動シーブと、を含む。プライマリープーリー11の可動シーブの背面には、可動シーブを軸方向に変位させる油圧シリンダー15が設けられる。
【0023】
セカンダリープーリー12の基本構造はプライマリープーリー11と同様である。すなわちセカンダリープーリー12は、出力軸に設けられ、第2ギヤ列5と終端減速装置6を介して駆動輪7に出力される。セカンダリープーリー12は、固定シーブと、固定シーブにシーブ面を対向させてV溝を形成する可動シーブと、を含む。セカンダリープーリー12の可動シーブの背面には、可動シーブを軸方向に変位させる油圧シリンダー16が設けられる。
【0024】
Vチェーン13は、プライマリープーリー11とセカンダリープーリー12とに掛け渡される無端トルク伝達部材である。Vチェーン13はプライマリープーリー11の回転トルクをセカンダリープーリー12に伝達する。Vチェーン13の断面は、Vチェーン13の中心方向に向かって幅を漸減するV字形である。Vチェーン13は、多数のブロックがリンクやピンを介して環状に連結されている。Vチェーン13は、セカンダリープーリーに引っ張り力を作用させて動力を伝達する。そのためVチェーン13には、弾性変形による伸びが発生しやすい。
【0025】
油圧シリンダー15と16は供給される油圧に応じた推力を可動シーブに及ぼし、V溝の幅を変化させる。結果として、Vチェーン13の各プーリー11と12への巻き付き半径が変化し、CVT4は変速比を無段階に変化させる。なお、「変速比」は、プライマリープーリー11の回転速度をセカンダリープーリー12の回転速度で割って得られる値である。
【0026】
CVT4の変速制御は、内燃エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して油圧シリンダー15と16に供給する油圧制御回路21と、油圧制御回路21を制御する変速コントローラー22によって行われる。
【0027】
変速コントローラー22は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリー(ROM)、ランダムアクセスメモリー(RAM)及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。コントローラーを複数のマイクロコンピューターで構成してもよい。
【0028】
変速コントローラー22は内燃エンジン1の負荷と車両の速度に基づき公知の方法で目標変速比を決定し、CVT4の変速比を目標変速比へとフィードバック制御する。
【0029】
変速コントローラー22には、内燃エンジン1の負荷として車両が備えるアクセラレーターペダルの操作量APOを検出するアクセラレーターペダル操作量センサー41、車両が備えるセレクターレバーのセレクト位置を検出するインヒビタースイッチ45、プライマリープーリー11の回転速度Npを検出する回転速度センサー42、セカンダリープーリー12の回転速度Nsを検出する回転速度センサー43から、それぞれの検出データが信号入力される。なおセカンダリープーリー12の回転速度Nsと車速VSPとは、一定の比例関係にあるので、回転速度センサー43が検出する回転速度Nsから車速VSPを求めることができる。
【0030】
続いて、CVT4のプライマリープーリー及びセカンダリープーリーの推力の設定方法について説明しておく。なお以下の説明では、油圧シリンダー15がプライマリープーリー11に加える推力をプライマリー推力、油圧シリンダー16がセカンダリープーリー12に加える推力をセカンダリー推力と称する。
【0031】
まず最初に滑り限界推力について説明する。プライマリー推力とセカンダリー推力との少なくとも一方が、基準推力を下回ると実質的な滑りが発生し、摩擦面の損耗により表面状態が悪化するため無端トルク伝達部材の耐久性を損ねるおそれがある。そこで、無端トルク伝達部材とプーリーとの間でトルクを伝達するときに、実質的な滑りを発生させないために必要な基準推力を滑り限界推力と称する。なお、実質的な滑りと記載したのは、Vチェーン13の場合は正常なトルク伝達においてもプライマリープーリー11及びセカンダリープーリー12に対してそれぞれ極微小な滑りを生じるからである。以下の説明において、実質的な滑りはトルク伝達に支障を来すようなVチェーン13の滑りを意味する。
【0032】
プライマリープーリーと無端トルク伝達部材との間、及びセカンダリープーリーと無端トルク伝達部材との間の双方で滑りを発生させないためには、プライマリー推力及びセカンダリー推力をともに滑り限界推力よりも大きくする必要がある。
【0033】
次にバランス推力について説明する。バランス推力とは、目標変速比を実現するときの推力比を満たす推力である。なお推力比とは、プライマリー推力Fpとセカンダリー推力Fsとの比(Fp/Fs)である。
【0034】
プライマリープーリーに作用する入力トルクがゼロ、すなわち無負荷状態では、プライマリー推力とセカンダリー推力とを同等とすると変速比1となる。プライマリー推力をセカンダリー推力よりも小さくすると、ロー側の変速比になる。プライマリー推力をセカンダリー推力よりも大きくすると、ハイ側の変速比になる。
【0035】
プライマリープーリーに作用する入力トルクが正、すなわちベルトに負荷がかかる状態では、プライマリープーリー側のベルト入口の張力が、出口の張力より大きいことに基因して、プライマリー巻き付き半径が小さくなろうとする。そのため無負荷状態のときよりも、より大きなプライマリー推力が必要である。したがって、目標変速比を実現するために、プライマリー推力及びセカンダリー推力は、それぞれ目標変速比や無端トルク伝達部材にかかる負荷の状態により定まる推力比を実現するようなバランス推力とする必要がある。
【0036】
セカンダリー推力及びプライマリー推力は、無端トルク伝達部材の滑りを起こさず、かつ目標変速比を実現するために、それぞれが滑り限界推力よりも大きく、バランス推力となるように設定される必要がある。
【0037】
ここで、滑り限界推力(滑り限界セカンダリー推力及び滑り限界プライマリー推力)は、一般的に次式(1)で表される。
【0038】
【数1】
【0039】
また滑り限界セカンダリー推力は、次式(2)でも表される。
【0040】
【数2】
【0041】
通常、変速比をipとすると、プライマリープーリー入力トルクTpとセカンダリープーリー入力トルクTsとは、次式(3)の関係にある。
【0042】
【数3】
【0043】
またプライマリープーリー11へのVチェーン13の巻き付き半径Rpとセカンダリープーリー12へのVチェーン13の巻き付き半径Rsとは、次式(4)の関係にある。
【0044】
【数4】
【0045】
以上の関係から、式(1)と式(2)とは同等であり、すなわちセカンダリー滑り限界推力Fs_minとプライマリー滑り限界推力Fp_minとは、同じとすることができる。部品の製造誤差などがあっても確実にベルト滑りを回避するには、滑り限界推力を式(1)で得られる値よりも少し大きな値とすることが望ましい。
【0046】
バランスセカンダリー推力Fs及びバランスプライマリー推力Fpは、一般に、図2に示した推力比マップから求まる。図2において横軸は、無端トルク伝達部材の伝達トルク容量(Tin_max)に対するプライマリープーリーへの入力トルクTpの割合である入力トルク比(Tp/Tin_max)である。ここで伝達トルク容量とは、無端トルク伝達部材が滑ることなくプライマリープーリーからセカンダリープーリーに伝達可能な最大トルクのことを言い、換言すれば、伝達トルク容量は、式(1)から逆算される実際のセカンダリー推力及びプライマリー推力のうち低いほうを滑り限界推力としたときに、プライマリープーリーへ入力されるトルク(実際のセカンダリー推力・プライマリー推力に対して無端トルク伝達部材の滑りを起こさない最大のプライマリープーリーへの入力トルク)である。図2において縦軸は各目標変速比ごとのバランスセカンダリー推力に対するバランスプライマリー推力の割合、すなわち推力比(Fp/Fs)である。
【0047】
以上から無端トルク伝達部材の滑りを防止したうえで目標変速比を実現するには、推力比が1以上の領域では、セカンダリー推力を少なくとも滑り限界推力に設定するとともに、このセカンダリー推力とのバランス推力になるようにプライマリー推力を設定する。一方、推力比が1未満の領域では、プライマリー推力を少なくとも滑り限界推力に設定するとともに、このプライマリー推力とのバランス推力になるようにセカンダリー推力を設定する。
【0048】
図3は、推力比が1以上の領域での指示推力の内訳を例示する図である。
【0049】
まずセカンダリー推力Fsとプライマリー推力Fpとの両方を滑り限界推力よりも大きくする。そして、セカンダリー推力Fsとプライマリー推力Fpとの比が、推力比を満たすようにプライマリー推力に不足分を増大させる。このようにすることで、セカンダリー推力Fs及びプライマリー推力Fpの両方が滑り限界推力を下回ることなく、バランス推力とすることができる。このようにして、セカンダリー推力Fs及びプライマリー推力Fpを設定するのである。
【0050】
図4は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【0051】
なお図4に示すブロックB1−B15は変速コントローラー22の制御機能を仮想的なユニットとして示したものであり、物理的な存在を意味するものではない。
【0052】
変速コントローラー22は、滑り限界推力Fmin、目標変速比Dip、セカンダリーバランス推力Fs、プライマリーバランス推力Fpを算出するために、プライマリー入力トルク算出部B1と、滑り限界推力算出部B2と、Vチェーン伝達トルク容量算出部B3と、目標プライマリー回転速度算出部B4と、目標変速比設定部B5と、推力比算出部B6と、セカンダリーバランス推力算出部B7と、プライマリーバランス推力算出部B8と、を備える。
【0053】
プライマリー入力トルク算出部B1は、エンジン制御ユニット(ECU)から受信するエンジントルクTengと、クラッチの締結状態と、トルクコンバーターのロックアップ状態(すなわち速度比及び流体性能)と、エンジンからプライマリープーリーまでの部分におけるイナーシャトルクと、に基づいて、プライマリー入力トルクTpを算出する。
【0054】
滑り限界推力算出部B2は、式(1)に基づいて、プライマリー入力トルクTpと、プライマリー巻き付き半径Rpと、Vチェーン−プーリー間摩擦係数μと、シーブ角αから滑り限界推力Fminと、を算出する。なおプライマリー巻き付き半径Rpは、通常変速比に基づいて算出される。滑り限界推力Fminは、シーブ角αから算出される。またVチェーンの滑りを確実に防止するために、式(1)による算出結果にマージンを加えて少し大きな値としてもよい。
【0055】
Vチェーン伝達トルク容量算出部B3は、式(1)に基づいて、プライマリー入力トルクTpと滑り限界推力FminとからVチェーン伝達トルク容量Tin_mix(式(1)のTp)を算出する。
【0056】
目標プライマリー回転速度算出部B4は、変速線(一例を図5に示す)に基づいてアクセラレーターペダル操作量APOとセカンダリー回転速度Nsとから目標プライマリー回転速度DNpを算出する。具体的な内容は、後述する。
【0057】
目標変速比設定部B5は、目標プライマリー回転速度DNpとセカンダリー回転速度Nsとから目標変速比Dipを算出する。
【0058】
推力比算出部B6は、目標変速比Dipと、プライマリー入力トルクTpと、Vチェーン伝達トルク容量Tin_maxを基とする入力トルク比Tp/Tin_maxとから推力比Fp/Fsを算出する。
【0059】
セカンダリーバランス推力算出部B7は、推力比Fp/Fsが1以上の場合にはFminをセカンダリーバランス推力Fsとして出力し、推力比Fp/Fsが1未満の場合にはFmin/(Fp/Fs)をセカンダリーバランス推力Fsとして出力する。
【0060】
プライマリーバランス推力算出部B8は、推力比Fp/Fsが1以上の場合にはFmin×Fp/Fsをプライマリーバランス推力Fpとし、推力比Fp/Fsが1未満の場合にはFminをプライマリーバランス推力Fpとする。
【0061】
また変速コントローラー22は、目標変速比Dipに対する実変速比ipをフィードバック制御するために、実変速比算出部B9と、変速比フィードバックセカンダリー推力算出部B10と、変速比フィードバックプライマリー推力算出部B11と、変速比フィードバックセカンダリー推力加算部B12と、変速比フィードバックプライマリー推力加算部B13と、を備える。
【0062】
実変速比算出部B9は、プライマリー回転速度Npとセカンダリー回転速度Nsとから実変速比ipを算出する。
【0063】
変速比フィードバックセカンダリー推力算出部B10は、実変速比ipと目標変速比Dipとに基づいて変速比フィードバックセカンダリー推力Fs_fbを算出する。なお、変速比フィードバックセカンダリー推力加算後の指示セカンダリー推力が滑り限界推力を下回らない範囲で、変速比フィードバックセカンダリー推力Fs_fbを算出する。
【0064】
変速比フィードバックプライマリー推力算出部B11は、実変速比ipと目標変速比Dipに基づいて変速比フィードバックプライマリー推力Fp_fbを算出する。なお、変速比フィードバックプライマリー推力加算後の指示プライマリー推力が滑り限界推力を下回らない範囲で、変速比フィードバックプライマリー推力Fp_fbを算出する。
【0065】
変速比フィードバックセカンダリー推力加算部B12は、セカンダリーバランス推力Fsに変速比フィードバックセカンダリー推力Fs_fbを加算する。これによってセカンダリー推力に変速比フィードバックが適用される。
【0066】
変速比フィードバックプライマリー推力加算部B13は、プライマリーバランス推力Fpに変速比フィードバックプライマリー推力Fp_fbを加算する。これによってプライマリー推力にも変速比フィードバックが適用される。
【0067】
さらに変速コントローラー22は、目標セカンダリー圧Psと目標プライマリー圧Ppを算出するために、セカンダリー油圧換算部B14と、プライマリー油圧換算部B15と、を備える。
【0068】
セカンダリー油圧換算部B14は、変速比フィードバック後のセカンダリー推力から遠心推力、ばね推力を減算後、セカンダリー受圧面積で割ることで、目標セカンダリー圧Psを算出する。なお遠心推力は、セカンダリープーリー12の回転速度Nsとあらかじめ定められたセカンダリープーリー遠心推力係数とから算出される。ばね推力は油圧シリンダー16のストローク距離から算出する。
【0069】
プライマリー油圧換算部B15は、変速比フィードバック後のプライマリー推力から遠心推力、ばね推力を減算後、プライマリー受圧面積で割ることで目標プライマリー圧Ppを算出する。なお遠心推力は、プライマリープーリー11の回転速度Npとあらかじめ定められたセカンダリープーリー遠心推力係数とから算出される。ばね推力は油圧シリンダー15のストローク距離から算出する。
【0070】
そして目標セカンダリー推力に基づいてセカンダリー圧ソレノイドが調節されるとともに、目標プライマリー推力に基づいてプライマリー圧ソレノイドが調節されることで、セカンダリープーリー及びプライマリープーリーのそれぞれでVチェーン伝達トルク容量を確保しつつ、目標変速比を実現できる。
【0071】
図5は、変速比マップの一例を示す図である。
【0072】
目標プライマリー回転速度算出部B4では、この変速比マップに、セカンダリー回転速度Ns(出力回転、≒車速VSP)とアクセラレーターペダル操作量APOとを適用して、目標プライマリー回転速度DNpを算出する。
【0073】
変速比マップには、図5に示すように最Low変速比から最High変速比までの間に、アクセラレーターペダル操作量に応じた複数の変速線が設定されている。なお図5では、図面の煩雑を防ぐために、最Low変速比線及び最High変速比線の他には、1本の変速線のみを破線で示した。
【0074】
これらの変速線から、セカンダリー回転速度が一定であっても、アクセラレーターペダル操作量が小さければ目標プライマリー回転速度が小さく、アクセラレーターペダル操作量が大きければ目標プライマリー回転速度が大きいことが判る。
【0075】
セカンダリー回転速度がNs0、アクセラレーターペダル操作量がAPO0である場合には、変速線から目標プライマリー回転速度はDNp0となる。
【0076】
そして、この場合には、セカンダリー回転速度Ns0と目標プライマリー回転速度DNpから、目標変速比はDipとなる。
【0077】
このためセカンダリー回転速度が小さいときに(すなわち低車速のときに)、アクセラレーターペダル操作量が大きいと、目標変速比が最Low変速比となる。セカンダリー回転速度が大きいときに(すなわち高車速のときに)、アクセラレーターペダル操作量が小さいと、目標変速比が最High変速比となる。
【0078】
上述したように、本実施形態で用いられるCVT4は、無端トルク伝達部材としてVチェーン13を使用するチェーン式無段変速機構である。すなわちCVT4は、Vチェーン13によってプライマリープーリー11の回転トルクをセカンダリープーリー12に伝達する。Vチェーン13は、セカンダリープーリーに対する引っ張り力によって動力を伝達する。そのためVチェーン13には、弾性変形による伸びが発生しやすい。この伸びを考慮しないと、変速制御に応答遅れが生じる。
【0079】
たとえば、目標変速比が最小値に設定される場合、すなわち車両がオーバードライブ状態で走行する場合に、入力トルクが増大してVチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてセカンダリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもロー側に変化する。このとき、制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違するので、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。しかしながら、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできない。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がアップシフト側に蓄積されてしまう。
【0080】
フィードバック値が蓄積された状態で、ダウンシフト指令があると、アップシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のダウンシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0081】
このように、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びていなければ、実現できる目標変速比であっても、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実現できないことがある。
【0082】
そこで上述のように特許文献1では、入力トルクに応じて目標変速比を実現可能な範囲に制限することで、フィードバック値の蓄積を防止しているが、それでもまだ不十分であることが知見された。
【0083】
すなわち、たとえば停車中にアクセラレーターペダルの踏み込みがあって発進するときには、直後に大きな入力トルクが見込まれるので、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の滑りを防止すべく、予めプーリー推力を上げて無端トルク伝達部材(Vチェーン)を締め付けるようにしている。このような状態では、入力トルクは不変であるが、プーリー推力が上昇しているために、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の伸び量が大きくなる可能性がある。
【0084】
そこでこのような場合であっても、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の伸び量を正確に推定することで、さらに精緻に無段変速機の変速を制御する手法を提案する。具体的な内容を以下に説明する。
【0085】
図6は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【0086】
変速コントローラー22には、上述のように、目標プライマリー回転速度算出部B4と、目標変速比設定部B5と、が含まれているが、さらに詳細に説明すると以下のようになる。
【0087】
目標プライマリー回転速度算出部B4は、アクセラレーターペダルの操作量APO及びセカンダリープーリー12の回転速度Nsに基づいて、目標プライマリー回転速度DNpを算出する。この説明は、前述の説明と重複するが、発明を正確に理解するために、あえて説明する。具体的には、図7に示すような変速比マップにアクセラレーターペダルの操作量APO及びセカンダリープーリー12の回転速度Nsを適用することで目標プライマリープーリー回転速度DNpを求める。図7では、セカンダリー回転速度がNs1、アクセラレーターペダル操作量がAPO1の場合である。この場合には、変速線から目標プライマリー回転速度はDNp1となる。
【0088】
目標変速比算出部B51は、目標プライマリー回転速度DNpをセカンダリープーリー12の回転速度Nsで除して目標変速比算出値Dip1を算出する。
【0089】
チェーン伸び算出部B52は、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求める。具体的には、xz座標が図8(A)で示され、yz座標が図8(B)で示される三次元マップにプライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsを適用することでチェーン伸び量ΔLを求める。なおVチェーン13の伸び量ΔLは、Vチェーン13の張力に依存する。そして図8(A)から判るようにVチェーン13の伸び量ΔLは、プライマリープーリー11とセカンダリープーリー12の変速比、セカンダリープーリー12の可動シーブ推力Fs、及びプライマリープーリー11の回転速度Npを一定とすると、プライマリープーリー11の入力トルクTpが増大するにつれて緩やかに増大する。また図8(B)から判るようにVチェーン13の伸び量ΔLは、プライマリープーリー11の入力トルクTpと回転速度Np、及びプライマリープーリー11とセカンダリープーリー12の変速比を一定とすると、セカンダリープーリー12の可動シーブ推力Fsが大きいほど大きい。
【0090】
なお、プライマリー入力トルクTpは、上述のように、エンジン制御ユニット(ECU)より受信するエンジントルクTengと、クラッチの締結状態と、トルクコンバーターのロックアップ状態(すなわち速度比及び流体性能)と、エンジンからプライマリープーリーまでの部分におけるイナーシャトルクと、に基づいて、算出される。プライマリー回転速度Npは、プライマリー回転速度センサー42で検出される。セカンダリー推力Fsは、入力トルクから概算した値、前回算出値などを用いればよい。
【0091】
変速比上限算出部B53は、チェーン伸び量ΔLに基づいて変速比上限Dip_MAXを算出する。具体的には、図9に示すような変速比マップにチェーン伸び量ΔLを適用して変速比上限Dip_MAXを求める。たとえば変速比上限Dip_MAXは、チェーン伸び量ΔLがゼロであれば、破線で示される最Low変速比になり、チェーン伸び量ΔLが最大値であれば、実線で示される最Low変速比になる。この間は、チェーン伸び量に比例して、最Low変速比が設定される。変速比下限算出部B54も、同様にチェーン伸び量ΔLに基づいて変速比下限Dip_MINを算出する。
【0092】
目標変速比設定部B55は、目標変速比算出値Dip1が変速比上限Dip_MAXよりも大きいときには、変速比上限Dip_MAXを目標変速比Dipとして設定する。目標変速比算出値Dip1が変速比下限Dip_MINよりも小さいときには、変速比下限Dip_MINを目標変速比Dipとして設定する。目標変速比算出値Dip1が変速比上限Dip_MAX以下であって、かつ変速比下限Dip_MIN以上であれば、目標変速比算出値Dip1を目標変速比Dipとして設定する。
【0093】
図7では、目標変速比算出値Dip1が変速比下限Dip_MINよりも小さかったので、変速比下限Dip_MINが目標変速比Dipとして設定された。
【0094】
なお変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINは、チェーン長L、プーリーストッパーの位置などのハード緒元よって決まる。チェーン長Lはチェーンに作用する張力によって決まるので、入力トルクTp、プライマリー推力Fp、セカンダリー推力Fs、遠心項(プライマリー回転速度Np及びセカンダリー回転速度Nsに基づいて算出できる)によって求まる。このチェーン長Lとストッパーの位置とによって変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINが決まるので、変速比上限算出部B53や変速比下限算出部B54において、これらの算出結果をマップに設定しておき、各入力に対応した変速比上限Dip_MAX・変速比下限Dip_MINを算出するようにしてもよい。たとえば最High変速比に対応するストッパーがプライマリープーリー側に設けられている場合には、チェーンが伸びると最Low変速比はLowシフトすることとなる。各入力のうち入力トルクTpのみが上昇した場合には、チェーンにかかる張力が上昇してチェーンが伸びるので、最High変速比がLowシフトする。また各入力のうちプライマリー回転速度Np及びセカンダリー回転速度Nsのみが上昇した場合には、チェーンにかかる張力が上昇してチェーンが伸びるので、最High変速比がLowシフトする。さらに各入力のうちセカンダリー推力Fs及びプライマリー推力Fpのみが上昇した場合には、チェーンにかかる張力が上昇してチェーンが伸びるため、最High変速比がLowシフトする。
【0095】
図10は、本実施形態による作用効果を説明する図である。
【0096】
時刻t11でアクセラレーターペダルが踏み込まれると(図10(A))、直後に大きな入力トルクが見込まれるので、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の滑りを防止すべく、プーリー推力が大きくなる(図10(C))。これによりVチェーンの張力が大きくなりVチェーンが伸びる(図10(D))。
【0097】
このとき本実施形態では、プライマリープーリーに入力されるトルクTp及びセカンダリープーリーに作用する推力Fsに基づいてチェーン長Lを算出する。このとき、セカンダリープーリーに作用する推力Fsが大きいほど、チェーン長Lを長く算出する。そして、これに合わせて目標変速比の制限値を設定するので、時刻t11で目標変速比の制限値が変更される(図10(E))。
【0098】
一方、比較形態のようにプライマリープーリーに入力されるトルクTpにのみ基づいて目標変速比の制限値を設定する場合は、トルクTpの上昇に合わせて、目標変速比の制限値も変化する(図10(E))。したがってこのようにしては、目標変速比が無用に制限されることとなり、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまう可能性があった。
【0099】
これに対して本実施形態によれば、時刻t11で目標変速比の制限値が変更されるので(図10(E))、目標変速比が無用に制限されることがなく、実際に採用しうる範囲で最大の変速比幅を確保できる。
【0100】
また目標変速比の下限値を算出する場合においても、ホイルスピン対応時やフェールセーフ時における入力トルクと独立した推力上昇にも対応できることとなり、目標変速比と実変速比が乖離を防止し、フィードバック制御のフィードバック値の蓄積を回避できるのである。
【0101】
さらに本実施形態では、入力トルクのみでなく、推力に応じたチェーン伸び量を推定して変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを算出するので、より適切な変速比幅を確保できる。したがって、より緻密に目標変速比と実変速比の乖離によるフィードバック制御のフィードバック値の蓄積を回避できるのである。
【0102】
さらにまた本実施形態では、発進時の推力増大補正に応じてチェーン伸び量を大きく推定することによって、高い変速比が求められる発進時において変速比上限Dip_MAXを引き上げることができるのである。
【0103】
目標変速比が最小値に設定される場合、すなわち車両がオーバードライブ状態で走行する場合に、入力トルクが増大してVチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてセカンダリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもロー側に変化する。制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違すると、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。本実施形態が適用されないと、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできないことがある。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がアップシフト側に蓄積されてしまう。フィードバック値が蓄積された状態で、ダウンシフト指令があると、アップシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のダウンシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0104】
またセカンダリープーリーの可動シーブが広がってストッパーに当接した状態、すなわちVチェーン(無端トルク伝達部材)のセカンダリープーリーへの巻き付け半径が固定された状態で、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてプライマリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもハイ側に変化する。このとき、制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違するので、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。本実施形態が適用されないと、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできないことがある。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がダウンシフト側に蓄積されてしまう。フィードバック値が蓄積された状態で、アップシフト指令があると、ダウンシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のアップシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0105】
これに対して本実施形態では、プライマリープーリーに入力されるトルクTp及びセカンダリープーリーに作用する推力Fsに基づいてチェーン長Lを算出して、これに合わせて目標変速比の制限値を設定するので、目標変速比の制限値が適切に変更される。したがって、実現できない目標変速比が設定されないので、フィードバック値が蓄積されることがなく、変速制御の応答性の低下を防止でき、運転者に違和感を感じさせないのである。
【0106】
(第2実施形態)
第1実施形態では、チェーンに作用する張力は、入力トルクTpのみならず、プーリー推力にも影響を受けるという技術知見に鑑み、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めた。
【0107】
しかしながら、チェーンに作用する張力は、プーリーの回転速度にも影響を受ける。すなわちプーリーの回転速度が大きいほど、遠心力が大きく作用して、チェーンに作用する張力が大きくなる。そこで本実施形態では、プライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求める。
【0108】
ここで図11を参照して、プライマリー入力トルクTpが一定であっても、プライマリー回転速度Nsが異なる場合について説明する。
【0109】
トルクコンバーターのロックアップクラッチがオン(締結状態)の場合には、エンジントルクがCVTへの入力トルクになる。エンジントルクTeは、アクセラレーターペダル操作量(吸気スロットル開度)APO、及びエンジン回転速度Neごとに所定の値となり、図11のように表される。所定のアクセラレーターペダル操作量APOのときに、エンジントルクがTe0であっても、エンジン回転速度がNe2の場合とNe3の場合とがある。またアクセラレーターペダル操作量APOが変われば(大きくなれば)、エンジントルクがTe0であっても、エンジン回転速度がNe1の場合がある。
【0110】
さらに、トルクコンバーターのロックアップクラッチがオフ(解放状態)の場合においても、エンジン回転速度Ne、速度比(タービン回転速度をエンジン回転速度で割ったもの)から定まるトルク比と容量係数の状況によっては、入力トルクが同じであっても、入力回転速度が変わることがある。
【0111】
このようなことから、プライマリー入力トルクTpが一定であっても、プライマリー回転速度Nsが異なる場合が存在するのである。
【0112】
図12は、第2実施形態における変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【0113】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0114】
上記技術知見に鑑み、本実施形態では、チェーン伸び算出部B521において、プライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求める。具体的には、xz座標が図13(A)で示され、yz座標が図13(B)で示される三次元マップにプライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsを適用することでチェーン伸び量ΔLを求める。図13(A)は、図8(A)と同様である。図13(B)から判るように、Vチェーン13の伸び量ΔLは、プライマリープーリー11への入力トルク、セカンダリープーリー12の可動シーブ推力、及びプライマリープーリー11を一定とすると、プライマリープーリー11の回転速度Npが大きいほど大きい。
【0115】
図14は、第2実施形態による作用効果を説明する図である。
【0116】
時刻t21でアクセラレーターペダルが踏み込まれると(図14(A))、それに伴ってプライマリープーリーに入力されるトルクTpが大きくなり、時刻t22以降は一定になるが(図14(B))、プライマリー回転速度Npは時刻t22以降も大きくなることがある(図14(C))。具体的な運転シーンを考えると、たとえば路面勾配が変化したために、入力トルクTpが変わらなくとも、車速が上昇する場合などである。
【0117】
このような場合に、本実施形態では、プライマリープーリーに入力されるトルクTp及びプライマリープーリー11の回転速度Npに基づいてチェーン伸び量ΔLを算出する。このとき、プライマリープーリー11の回転速度Npが大きいほど、チェーン伸び量ΔLを長く算出する。そして、これに合わせて目標変速比の制限値を設定するので、時刻t22以降も目標変速比の制限値が変更される(図14(E))。
【0118】
一方、比較形態のようにプライマリープーリーに入力されるトルクTpにのみ基づいて目標変速比の制限値を設定する場合は、時刻t22以降は目標変速比の制限値が変更されない(図14(E))。したがってこのようにしては、目標変速比が無用に制限されることとなり、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまう可能性があった。
【0119】
これに対して本実施形態によれば、時刻t22以降も目標変速比の制限値が変更されるので、目標変速比が無用に制限されることがなく、実際に採用しうる範囲で最大の変速比幅を確保できる。
【0120】
また、最High変速比付近では同一のコーストトルクであっても車速によってプライマリープーリー11の回転速度が異なるので、比較形態ではチェーンが最も伸びる最大回転速度が常に入力される前提で変速比下限Dip_MINを設定する必要があった。一方、本実施形態では、回転速度に応じて変速比下限Dip_MINを変化させることができるので、回転速度の小さな領域で目標変速比を下げることができる。以上のことから、本実施形態によれば、より適切な変速比上限Dip_MAXを指示し、実際に採用しうる範囲で最大の変速比幅を確保できるのである。
【0121】
さらに本実施形態では、入力トルクのみでなく、回転速度に応じたチェーン伸び量を推定して変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを算出するので、より適切な変速比幅を確保できる。したがって、より緻密に目標変速比と実変速比の乖離によるフィードバック制御のフィードバック値の蓄積を回避できるのである。
【0122】
さらにまた本実施形態では、入力回転速度に応じてチェーン伸び量を推定することによって、低回転速度の最High変速比での走行時に変速比下限Dip_MINを引き下げることで、エンジンが低回転速度で走行でき、燃費を向上できるという効果が得られるのである。
【0123】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0124】
たとえば、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて、チェーン伸び算出部において、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めてもよい。この場合は、チェーン伸び量ΔL、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsを軸とする4次元マップに、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsを適用してチェーン伸び量ΔLを求めればよい。
【0125】
たとえば、上記説明においては、無端トルク伝達部材としてVチェーンを例示したが、これには限定されない。たとえばゴムその他の樹脂製のベルトであってもよい。セカンダリープーリーに作用して動力を伝達するときに弾性変形による伸びが発生するものに適用可能である。
【0126】
また上記説明においては、プーリー推力としてセカンダリー推力に基づいてチェーン伸び量を算出したが、プライマリー推力に基づいて算出してもよい。
【0127】
さらに上記説明においては、プーリー回転速度としてプライマリー回転速度に基づいてチェーン伸び量を算出したが、セカンダリー回転速度に基づいて算出してもよい。
【0128】
さらにまた、上記実施形態では、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいて、またはプライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいて、一旦チェーンの伸び量ΔLを算出して変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを求めたが、予めマップなどを準備しておいて、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsから変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを直接求めてもよい。
【符号の説明】
【0129】
4 無段変速機(CVT)
11 プライマリープーリー
12 セカンダリープーリー
13 Vチェーン(無端トルク伝達部材)
22 変速コントローラー
B51 目標変速比算出部
B52 チェーン伸び算出部(制限値算出部)
B53 変速比上限算出部(制限値算出部)
B54 変速比下限算出部(制限値算出部)
B55 目標変速比設定部
【技術分野】
【0001】
この発明は、無段変速機の変速を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸に設けられるプライマリープーリーと、出力軸に設けられるセカンダリープーリーと、これらのプーリーに掛け渡される無端トルク伝達部材と、を備える無段変速機(Continuously Variable Transmission;以下適宜「CVT」と称す)が公知である。そして、プライマリープーリー及びセカンダリープーリーは、それぞれ、固定シーブと可動シーブとを備える。
【0003】
変速比が制御されるときには、まず、アクセラレーターペダル操作量や車速が変速特性マップに適用されて、プライマリープーリーの目標回転速度が設定される。次いで、この目標回転速度を実現するための目標変速比が設定される。そして、この目標変速比を実現するように、プライマリープーリーの可動シーブが軸方向に移動する。これに合わせて、セカンダリープーリーは、無端トルク伝達部材が滑らないように、所定の推力で無端トルク伝達部材を締め付ける。このようにすることで、無端トルク伝達部材の巻き付け径が変化し、変速比が無段階に制御される。
【0004】
無端トルク伝達部材には、スチールベルトやチェーンベルトがある。
【0005】
スチールベルトは、多数のエレメントがバンドによって環状に保持されている。スチールベルトは、セカンダリープーリーに押圧力を作用させて動力を伝達する。
【0006】
一方、チェーンベルトは、多数のブロックがリンクやピンを介して環状に連結されている。チェーンベルトは、セカンダリープーリーに引っ張り力を作用させて動力を伝達する。このとき、チェーンベルトには弾性変形による伸びが発生する可能性がある。この伸びを考慮しないと、変速制御に応答遅れが生じる。
【0007】
たとえば、目標変速比が最小値に設定される場合、すなわち車両がオーバードライブ状態で走行する場合に、入力トルクが増大してチェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてセカンダリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもロー側に変化する。このとき、制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違するので、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。しかしながら、チェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできない。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がアップシフト側に蓄積されてしまう。
【0008】
フィードバック値が蓄積された状態で、ダウンシフト指令があると、アップシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のダウンシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0009】
このように、チェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びていなければ、実現できる目標変速比であっても、チェーンベルト(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実現できないことがある。
【0010】
そこで特許文献1では、入力トルクに応じて目標変速比を実現可能な範囲に制限することで、フィードバック値の蓄積を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−189079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本件発明者らは、鋭意研究を重ねることで、特許文献1では、車両の運転状態によっては、目標変速比が無用に制限されることとなり、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまう可能性があることを見いだし、さらに精緻に無段変速機の変速を制御する手法を知見した。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、目標変速比が無用に制限されて、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまうことを防止できる無段変速機の変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0015】
本発明は、一対のプーリーに掛け回された無端トルク伝達部材を介して前記一対のプーリー間で変速する無段変速機の変速制御装置に関する。そして、変速機の目標変速比を算出する目標変速比算出部と、プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方と、変速機に入力されるトルクと、に基づいて目標変速比の制限値を算出する制限値算出部と、前記目標変速比算出部で算出された目標変速比算出値が前記制限値を越えれば、前記制限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記制限値を越えなければ、目標変速比算出値を目標変速比として設定する目標変速比設定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変速機に入力されるトルクのみならずプーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方にも基づいて目標変速比の制限値を算出するようにしたので、目標変速比が無用に制限されて、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまうことを防止できる。
【0017】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明による無段変速機の変速制御装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図2は、推力比マップの一例を示す図である。
【図3】図3は、推力比が1以上の領域での指示推力の内訳を例示する図である。
【図4】図4は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【図5】図5は、変速比マップの一例を示す図である。
【図6】図6は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【図7】図7は、変速比マップの一例を示す図である。
【図8】図8は、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めるための三次元マップの一例を示す図である。
【図9】図9は、チェーン伸び量から変速比上限及び変速比下限を求めるためのマップの一例を示す図である。
【図10】図10は、本実施形態による作用効果を説明する図である。
【図11】プライマリー入力トルクTpが一定であっても、プライマリー回転速度Nsが異なる場合について説明する図である。
【図12】図12は、第2実施形態における変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【図13】図13は、プライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めるための三次元マップの一例を示す図である。
【図14】図14は、第2実施形態による作用効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明による無段変速機の変速制御装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【0020】
図1を参照すると、車両駆動システムは、走行用動力源として内燃エンジン1を備える。内燃エンジン1の出力回転は、トルクコンバーター2、第1ギヤ列3、CVT4、第2ギヤ列5、及び終端減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
【0021】
CVT4は、チェーン式無段変速機構である。CVT4は、プライマリープーリー11と、セカンダリープーリー12と、Vチェーン13と、を備える。
【0022】
プライマリープーリー11は、入力軸に設けられ、内燃エンジン1の回転トルクが、トルクコンバーター2と第1ギヤ列3を介して入力される。プライマリープーリー11は、固定シーブと、固定シーブにシーブ面を対向させてV溝を形成する可動シーブと、を含む。プライマリープーリー11の可動シーブの背面には、可動シーブを軸方向に変位させる油圧シリンダー15が設けられる。
【0023】
セカンダリープーリー12の基本構造はプライマリープーリー11と同様である。すなわちセカンダリープーリー12は、出力軸に設けられ、第2ギヤ列5と終端減速装置6を介して駆動輪7に出力される。セカンダリープーリー12は、固定シーブと、固定シーブにシーブ面を対向させてV溝を形成する可動シーブと、を含む。セカンダリープーリー12の可動シーブの背面には、可動シーブを軸方向に変位させる油圧シリンダー16が設けられる。
【0024】
Vチェーン13は、プライマリープーリー11とセカンダリープーリー12とに掛け渡される無端トルク伝達部材である。Vチェーン13はプライマリープーリー11の回転トルクをセカンダリープーリー12に伝達する。Vチェーン13の断面は、Vチェーン13の中心方向に向かって幅を漸減するV字形である。Vチェーン13は、多数のブロックがリンクやピンを介して環状に連結されている。Vチェーン13は、セカンダリープーリーに引っ張り力を作用させて動力を伝達する。そのためVチェーン13には、弾性変形による伸びが発生しやすい。
【0025】
油圧シリンダー15と16は供給される油圧に応じた推力を可動シーブに及ぼし、V溝の幅を変化させる。結果として、Vチェーン13の各プーリー11と12への巻き付き半径が変化し、CVT4は変速比を無段階に変化させる。なお、「変速比」は、プライマリープーリー11の回転速度をセカンダリープーリー12の回転速度で割って得られる値である。
【0026】
CVT4の変速制御は、内燃エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して油圧シリンダー15と16に供給する油圧制御回路21と、油圧制御回路21を制御する変速コントローラー22によって行われる。
【0027】
変速コントローラー22は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリー(ROM)、ランダムアクセスメモリー(RAM)及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。コントローラーを複数のマイクロコンピューターで構成してもよい。
【0028】
変速コントローラー22は内燃エンジン1の負荷と車両の速度に基づき公知の方法で目標変速比を決定し、CVT4の変速比を目標変速比へとフィードバック制御する。
【0029】
変速コントローラー22には、内燃エンジン1の負荷として車両が備えるアクセラレーターペダルの操作量APOを検出するアクセラレーターペダル操作量センサー41、車両が備えるセレクターレバーのセレクト位置を検出するインヒビタースイッチ45、プライマリープーリー11の回転速度Npを検出する回転速度センサー42、セカンダリープーリー12の回転速度Nsを検出する回転速度センサー43から、それぞれの検出データが信号入力される。なおセカンダリープーリー12の回転速度Nsと車速VSPとは、一定の比例関係にあるので、回転速度センサー43が検出する回転速度Nsから車速VSPを求めることができる。
【0030】
続いて、CVT4のプライマリープーリー及びセカンダリープーリーの推力の設定方法について説明しておく。なお以下の説明では、油圧シリンダー15がプライマリープーリー11に加える推力をプライマリー推力、油圧シリンダー16がセカンダリープーリー12に加える推力をセカンダリー推力と称する。
【0031】
まず最初に滑り限界推力について説明する。プライマリー推力とセカンダリー推力との少なくとも一方が、基準推力を下回ると実質的な滑りが発生し、摩擦面の損耗により表面状態が悪化するため無端トルク伝達部材の耐久性を損ねるおそれがある。そこで、無端トルク伝達部材とプーリーとの間でトルクを伝達するときに、実質的な滑りを発生させないために必要な基準推力を滑り限界推力と称する。なお、実質的な滑りと記載したのは、Vチェーン13の場合は正常なトルク伝達においてもプライマリープーリー11及びセカンダリープーリー12に対してそれぞれ極微小な滑りを生じるからである。以下の説明において、実質的な滑りはトルク伝達に支障を来すようなVチェーン13の滑りを意味する。
【0032】
プライマリープーリーと無端トルク伝達部材との間、及びセカンダリープーリーと無端トルク伝達部材との間の双方で滑りを発生させないためには、プライマリー推力及びセカンダリー推力をともに滑り限界推力よりも大きくする必要がある。
【0033】
次にバランス推力について説明する。バランス推力とは、目標変速比を実現するときの推力比を満たす推力である。なお推力比とは、プライマリー推力Fpとセカンダリー推力Fsとの比(Fp/Fs)である。
【0034】
プライマリープーリーに作用する入力トルクがゼロ、すなわち無負荷状態では、プライマリー推力とセカンダリー推力とを同等とすると変速比1となる。プライマリー推力をセカンダリー推力よりも小さくすると、ロー側の変速比になる。プライマリー推力をセカンダリー推力よりも大きくすると、ハイ側の変速比になる。
【0035】
プライマリープーリーに作用する入力トルクが正、すなわちベルトに負荷がかかる状態では、プライマリープーリー側のベルト入口の張力が、出口の張力より大きいことに基因して、プライマリー巻き付き半径が小さくなろうとする。そのため無負荷状態のときよりも、より大きなプライマリー推力が必要である。したがって、目標変速比を実現するために、プライマリー推力及びセカンダリー推力は、それぞれ目標変速比や無端トルク伝達部材にかかる負荷の状態により定まる推力比を実現するようなバランス推力とする必要がある。
【0036】
セカンダリー推力及びプライマリー推力は、無端トルク伝達部材の滑りを起こさず、かつ目標変速比を実現するために、それぞれが滑り限界推力よりも大きく、バランス推力となるように設定される必要がある。
【0037】
ここで、滑り限界推力(滑り限界セカンダリー推力及び滑り限界プライマリー推力)は、一般的に次式(1)で表される。
【0038】
【数1】
【0039】
また滑り限界セカンダリー推力は、次式(2)でも表される。
【0040】
【数2】
【0041】
通常、変速比をipとすると、プライマリープーリー入力トルクTpとセカンダリープーリー入力トルクTsとは、次式(3)の関係にある。
【0042】
【数3】
【0043】
またプライマリープーリー11へのVチェーン13の巻き付き半径Rpとセカンダリープーリー12へのVチェーン13の巻き付き半径Rsとは、次式(4)の関係にある。
【0044】
【数4】
【0045】
以上の関係から、式(1)と式(2)とは同等であり、すなわちセカンダリー滑り限界推力Fs_minとプライマリー滑り限界推力Fp_minとは、同じとすることができる。部品の製造誤差などがあっても確実にベルト滑りを回避するには、滑り限界推力を式(1)で得られる値よりも少し大きな値とすることが望ましい。
【0046】
バランスセカンダリー推力Fs及びバランスプライマリー推力Fpは、一般に、図2に示した推力比マップから求まる。図2において横軸は、無端トルク伝達部材の伝達トルク容量(Tin_max)に対するプライマリープーリーへの入力トルクTpの割合である入力トルク比(Tp/Tin_max)である。ここで伝達トルク容量とは、無端トルク伝達部材が滑ることなくプライマリープーリーからセカンダリープーリーに伝達可能な最大トルクのことを言い、換言すれば、伝達トルク容量は、式(1)から逆算される実際のセカンダリー推力及びプライマリー推力のうち低いほうを滑り限界推力としたときに、プライマリープーリーへ入力されるトルク(実際のセカンダリー推力・プライマリー推力に対して無端トルク伝達部材の滑りを起こさない最大のプライマリープーリーへの入力トルク)である。図2において縦軸は各目標変速比ごとのバランスセカンダリー推力に対するバランスプライマリー推力の割合、すなわち推力比(Fp/Fs)である。
【0047】
以上から無端トルク伝達部材の滑りを防止したうえで目標変速比を実現するには、推力比が1以上の領域では、セカンダリー推力を少なくとも滑り限界推力に設定するとともに、このセカンダリー推力とのバランス推力になるようにプライマリー推力を設定する。一方、推力比が1未満の領域では、プライマリー推力を少なくとも滑り限界推力に設定するとともに、このプライマリー推力とのバランス推力になるようにセカンダリー推力を設定する。
【0048】
図3は、推力比が1以上の領域での指示推力の内訳を例示する図である。
【0049】
まずセカンダリー推力Fsとプライマリー推力Fpとの両方を滑り限界推力よりも大きくする。そして、セカンダリー推力Fsとプライマリー推力Fpとの比が、推力比を満たすようにプライマリー推力に不足分を増大させる。このようにすることで、セカンダリー推力Fs及びプライマリー推力Fpの両方が滑り限界推力を下回ることなく、バランス推力とすることができる。このようにして、セカンダリー推力Fs及びプライマリー推力Fpを設定するのである。
【0050】
図4は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【0051】
なお図4に示すブロックB1−B15は変速コントローラー22の制御機能を仮想的なユニットとして示したものであり、物理的な存在を意味するものではない。
【0052】
変速コントローラー22は、滑り限界推力Fmin、目標変速比Dip、セカンダリーバランス推力Fs、プライマリーバランス推力Fpを算出するために、プライマリー入力トルク算出部B1と、滑り限界推力算出部B2と、Vチェーン伝達トルク容量算出部B3と、目標プライマリー回転速度算出部B4と、目標変速比設定部B5と、推力比算出部B6と、セカンダリーバランス推力算出部B7と、プライマリーバランス推力算出部B8と、を備える。
【0053】
プライマリー入力トルク算出部B1は、エンジン制御ユニット(ECU)から受信するエンジントルクTengと、クラッチの締結状態と、トルクコンバーターのロックアップ状態(すなわち速度比及び流体性能)と、エンジンからプライマリープーリーまでの部分におけるイナーシャトルクと、に基づいて、プライマリー入力トルクTpを算出する。
【0054】
滑り限界推力算出部B2は、式(1)に基づいて、プライマリー入力トルクTpと、プライマリー巻き付き半径Rpと、Vチェーン−プーリー間摩擦係数μと、シーブ角αから滑り限界推力Fminと、を算出する。なおプライマリー巻き付き半径Rpは、通常変速比に基づいて算出される。滑り限界推力Fminは、シーブ角αから算出される。またVチェーンの滑りを確実に防止するために、式(1)による算出結果にマージンを加えて少し大きな値としてもよい。
【0055】
Vチェーン伝達トルク容量算出部B3は、式(1)に基づいて、プライマリー入力トルクTpと滑り限界推力FminとからVチェーン伝達トルク容量Tin_mix(式(1)のTp)を算出する。
【0056】
目標プライマリー回転速度算出部B4は、変速線(一例を図5に示す)に基づいてアクセラレーターペダル操作量APOとセカンダリー回転速度Nsとから目標プライマリー回転速度DNpを算出する。具体的な内容は、後述する。
【0057】
目標変速比設定部B5は、目標プライマリー回転速度DNpとセカンダリー回転速度Nsとから目標変速比Dipを算出する。
【0058】
推力比算出部B6は、目標変速比Dipと、プライマリー入力トルクTpと、Vチェーン伝達トルク容量Tin_maxを基とする入力トルク比Tp/Tin_maxとから推力比Fp/Fsを算出する。
【0059】
セカンダリーバランス推力算出部B7は、推力比Fp/Fsが1以上の場合にはFminをセカンダリーバランス推力Fsとして出力し、推力比Fp/Fsが1未満の場合にはFmin/(Fp/Fs)をセカンダリーバランス推力Fsとして出力する。
【0060】
プライマリーバランス推力算出部B8は、推力比Fp/Fsが1以上の場合にはFmin×Fp/Fsをプライマリーバランス推力Fpとし、推力比Fp/Fsが1未満の場合にはFminをプライマリーバランス推力Fpとする。
【0061】
また変速コントローラー22は、目標変速比Dipに対する実変速比ipをフィードバック制御するために、実変速比算出部B9と、変速比フィードバックセカンダリー推力算出部B10と、変速比フィードバックプライマリー推力算出部B11と、変速比フィードバックセカンダリー推力加算部B12と、変速比フィードバックプライマリー推力加算部B13と、を備える。
【0062】
実変速比算出部B9は、プライマリー回転速度Npとセカンダリー回転速度Nsとから実変速比ipを算出する。
【0063】
変速比フィードバックセカンダリー推力算出部B10は、実変速比ipと目標変速比Dipとに基づいて変速比フィードバックセカンダリー推力Fs_fbを算出する。なお、変速比フィードバックセカンダリー推力加算後の指示セカンダリー推力が滑り限界推力を下回らない範囲で、変速比フィードバックセカンダリー推力Fs_fbを算出する。
【0064】
変速比フィードバックプライマリー推力算出部B11は、実変速比ipと目標変速比Dipに基づいて変速比フィードバックプライマリー推力Fp_fbを算出する。なお、変速比フィードバックプライマリー推力加算後の指示プライマリー推力が滑り限界推力を下回らない範囲で、変速比フィードバックプライマリー推力Fp_fbを算出する。
【0065】
変速比フィードバックセカンダリー推力加算部B12は、セカンダリーバランス推力Fsに変速比フィードバックセカンダリー推力Fs_fbを加算する。これによってセカンダリー推力に変速比フィードバックが適用される。
【0066】
変速比フィードバックプライマリー推力加算部B13は、プライマリーバランス推力Fpに変速比フィードバックプライマリー推力Fp_fbを加算する。これによってプライマリー推力にも変速比フィードバックが適用される。
【0067】
さらに変速コントローラー22は、目標セカンダリー圧Psと目標プライマリー圧Ppを算出するために、セカンダリー油圧換算部B14と、プライマリー油圧換算部B15と、を備える。
【0068】
セカンダリー油圧換算部B14は、変速比フィードバック後のセカンダリー推力から遠心推力、ばね推力を減算後、セカンダリー受圧面積で割ることで、目標セカンダリー圧Psを算出する。なお遠心推力は、セカンダリープーリー12の回転速度Nsとあらかじめ定められたセカンダリープーリー遠心推力係数とから算出される。ばね推力は油圧シリンダー16のストローク距離から算出する。
【0069】
プライマリー油圧換算部B15は、変速比フィードバック後のプライマリー推力から遠心推力、ばね推力を減算後、プライマリー受圧面積で割ることで目標プライマリー圧Ppを算出する。なお遠心推力は、プライマリープーリー11の回転速度Npとあらかじめ定められたセカンダリープーリー遠心推力係数とから算出される。ばね推力は油圧シリンダー15のストローク距離から算出する。
【0070】
そして目標セカンダリー推力に基づいてセカンダリー圧ソレノイドが調節されるとともに、目標プライマリー推力に基づいてプライマリー圧ソレノイドが調節されることで、セカンダリープーリー及びプライマリープーリーのそれぞれでVチェーン伝達トルク容量を確保しつつ、目標変速比を実現できる。
【0071】
図5は、変速比マップの一例を示す図である。
【0072】
目標プライマリー回転速度算出部B4では、この変速比マップに、セカンダリー回転速度Ns(出力回転、≒車速VSP)とアクセラレーターペダル操作量APOとを適用して、目標プライマリー回転速度DNpを算出する。
【0073】
変速比マップには、図5に示すように最Low変速比から最High変速比までの間に、アクセラレーターペダル操作量に応じた複数の変速線が設定されている。なお図5では、図面の煩雑を防ぐために、最Low変速比線及び最High変速比線の他には、1本の変速線のみを破線で示した。
【0074】
これらの変速線から、セカンダリー回転速度が一定であっても、アクセラレーターペダル操作量が小さければ目標プライマリー回転速度が小さく、アクセラレーターペダル操作量が大きければ目標プライマリー回転速度が大きいことが判る。
【0075】
セカンダリー回転速度がNs0、アクセラレーターペダル操作量がAPO0である場合には、変速線から目標プライマリー回転速度はDNp0となる。
【0076】
そして、この場合には、セカンダリー回転速度Ns0と目標プライマリー回転速度DNpから、目標変速比はDipとなる。
【0077】
このためセカンダリー回転速度が小さいときに(すなわち低車速のときに)、アクセラレーターペダル操作量が大きいと、目標変速比が最Low変速比となる。セカンダリー回転速度が大きいときに(すなわち高車速のときに)、アクセラレーターペダル操作量が小さいと、目標変速比が最High変速比となる。
【0078】
上述したように、本実施形態で用いられるCVT4は、無端トルク伝達部材としてVチェーン13を使用するチェーン式無段変速機構である。すなわちCVT4は、Vチェーン13によってプライマリープーリー11の回転トルクをセカンダリープーリー12に伝達する。Vチェーン13は、セカンダリープーリーに対する引っ張り力によって動力を伝達する。そのためVチェーン13には、弾性変形による伸びが発生しやすい。この伸びを考慮しないと、変速制御に応答遅れが生じる。
【0079】
たとえば、目標変速比が最小値に設定される場合、すなわち車両がオーバードライブ状態で走行する場合に、入力トルクが増大してVチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてセカンダリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもロー側に変化する。このとき、制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違するので、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。しかしながら、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできない。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がアップシフト側に蓄積されてしまう。
【0080】
フィードバック値が蓄積された状態で、ダウンシフト指令があると、アップシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のダウンシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0081】
このように、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びていなければ、実現できる目標変速比であっても、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実現できないことがある。
【0082】
そこで上述のように特許文献1では、入力トルクに応じて目標変速比を実現可能な範囲に制限することで、フィードバック値の蓄積を防止しているが、それでもまだ不十分であることが知見された。
【0083】
すなわち、たとえば停車中にアクセラレーターペダルの踏み込みがあって発進するときには、直後に大きな入力トルクが見込まれるので、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の滑りを防止すべく、予めプーリー推力を上げて無端トルク伝達部材(Vチェーン)を締め付けるようにしている。このような状態では、入力トルクは不変であるが、プーリー推力が上昇しているために、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の伸び量が大きくなる可能性がある。
【0084】
そこでこのような場合であっても、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の伸び量を正確に推定することで、さらに精緻に無段変速機の変速を制御する手法を提案する。具体的な内容を以下に説明する。
【0085】
図6は、変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【0086】
変速コントローラー22には、上述のように、目標プライマリー回転速度算出部B4と、目標変速比設定部B5と、が含まれているが、さらに詳細に説明すると以下のようになる。
【0087】
目標プライマリー回転速度算出部B4は、アクセラレーターペダルの操作量APO及びセカンダリープーリー12の回転速度Nsに基づいて、目標プライマリー回転速度DNpを算出する。この説明は、前述の説明と重複するが、発明を正確に理解するために、あえて説明する。具体的には、図7に示すような変速比マップにアクセラレーターペダルの操作量APO及びセカンダリープーリー12の回転速度Nsを適用することで目標プライマリープーリー回転速度DNpを求める。図7では、セカンダリー回転速度がNs1、アクセラレーターペダル操作量がAPO1の場合である。この場合には、変速線から目標プライマリー回転速度はDNp1となる。
【0088】
目標変速比算出部B51は、目標プライマリー回転速度DNpをセカンダリープーリー12の回転速度Nsで除して目標変速比算出値Dip1を算出する。
【0089】
チェーン伸び算出部B52は、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求める。具体的には、xz座標が図8(A)で示され、yz座標が図8(B)で示される三次元マップにプライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsを適用することでチェーン伸び量ΔLを求める。なおVチェーン13の伸び量ΔLは、Vチェーン13の張力に依存する。そして図8(A)から判るようにVチェーン13の伸び量ΔLは、プライマリープーリー11とセカンダリープーリー12の変速比、セカンダリープーリー12の可動シーブ推力Fs、及びプライマリープーリー11の回転速度Npを一定とすると、プライマリープーリー11の入力トルクTpが増大するにつれて緩やかに増大する。また図8(B)から判るようにVチェーン13の伸び量ΔLは、プライマリープーリー11の入力トルクTpと回転速度Np、及びプライマリープーリー11とセカンダリープーリー12の変速比を一定とすると、セカンダリープーリー12の可動シーブ推力Fsが大きいほど大きい。
【0090】
なお、プライマリー入力トルクTpは、上述のように、エンジン制御ユニット(ECU)より受信するエンジントルクTengと、クラッチの締結状態と、トルクコンバーターのロックアップ状態(すなわち速度比及び流体性能)と、エンジンからプライマリープーリーまでの部分におけるイナーシャトルクと、に基づいて、算出される。プライマリー回転速度Npは、プライマリー回転速度センサー42で検出される。セカンダリー推力Fsは、入力トルクから概算した値、前回算出値などを用いればよい。
【0091】
変速比上限算出部B53は、チェーン伸び量ΔLに基づいて変速比上限Dip_MAXを算出する。具体的には、図9に示すような変速比マップにチェーン伸び量ΔLを適用して変速比上限Dip_MAXを求める。たとえば変速比上限Dip_MAXは、チェーン伸び量ΔLがゼロであれば、破線で示される最Low変速比になり、チェーン伸び量ΔLが最大値であれば、実線で示される最Low変速比になる。この間は、チェーン伸び量に比例して、最Low変速比が設定される。変速比下限算出部B54も、同様にチェーン伸び量ΔLに基づいて変速比下限Dip_MINを算出する。
【0092】
目標変速比設定部B55は、目標変速比算出値Dip1が変速比上限Dip_MAXよりも大きいときには、変速比上限Dip_MAXを目標変速比Dipとして設定する。目標変速比算出値Dip1が変速比下限Dip_MINよりも小さいときには、変速比下限Dip_MINを目標変速比Dipとして設定する。目標変速比算出値Dip1が変速比上限Dip_MAX以下であって、かつ変速比下限Dip_MIN以上であれば、目標変速比算出値Dip1を目標変速比Dipとして設定する。
【0093】
図7では、目標変速比算出値Dip1が変速比下限Dip_MINよりも小さかったので、変速比下限Dip_MINが目標変速比Dipとして設定された。
【0094】
なお変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINは、チェーン長L、プーリーストッパーの位置などのハード緒元よって決まる。チェーン長Lはチェーンに作用する張力によって決まるので、入力トルクTp、プライマリー推力Fp、セカンダリー推力Fs、遠心項(プライマリー回転速度Np及びセカンダリー回転速度Nsに基づいて算出できる)によって求まる。このチェーン長Lとストッパーの位置とによって変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINが決まるので、変速比上限算出部B53や変速比下限算出部B54において、これらの算出結果をマップに設定しておき、各入力に対応した変速比上限Dip_MAX・変速比下限Dip_MINを算出するようにしてもよい。たとえば最High変速比に対応するストッパーがプライマリープーリー側に設けられている場合には、チェーンが伸びると最Low変速比はLowシフトすることとなる。各入力のうち入力トルクTpのみが上昇した場合には、チェーンにかかる張力が上昇してチェーンが伸びるので、最High変速比がLowシフトする。また各入力のうちプライマリー回転速度Np及びセカンダリー回転速度Nsのみが上昇した場合には、チェーンにかかる張力が上昇してチェーンが伸びるので、最High変速比がLowシフトする。さらに各入力のうちセカンダリー推力Fs及びプライマリー推力Fpのみが上昇した場合には、チェーンにかかる張力が上昇してチェーンが伸びるため、最High変速比がLowシフトする。
【0095】
図10は、本実施形態による作用効果を説明する図である。
【0096】
時刻t11でアクセラレーターペダルが踏み込まれると(図10(A))、直後に大きな入力トルクが見込まれるので、無端トルク伝達部材(Vチェーン)の滑りを防止すべく、プーリー推力が大きくなる(図10(C))。これによりVチェーンの張力が大きくなりVチェーンが伸びる(図10(D))。
【0097】
このとき本実施形態では、プライマリープーリーに入力されるトルクTp及びセカンダリープーリーに作用する推力Fsに基づいてチェーン長Lを算出する。このとき、セカンダリープーリーに作用する推力Fsが大きいほど、チェーン長Lを長く算出する。そして、これに合わせて目標変速比の制限値を設定するので、時刻t11で目標変速比の制限値が変更される(図10(E))。
【0098】
一方、比較形態のようにプライマリープーリーに入力されるトルクTpにのみ基づいて目標変速比の制限値を設定する場合は、トルクTpの上昇に合わせて、目標変速比の制限値も変化する(図10(E))。したがってこのようにしては、目標変速比が無用に制限されることとなり、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまう可能性があった。
【0099】
これに対して本実施形態によれば、時刻t11で目標変速比の制限値が変更されるので(図10(E))、目標変速比が無用に制限されることがなく、実際に採用しうる範囲で最大の変速比幅を確保できる。
【0100】
また目標変速比の下限値を算出する場合においても、ホイルスピン対応時やフェールセーフ時における入力トルクと独立した推力上昇にも対応できることとなり、目標変速比と実変速比が乖離を防止し、フィードバック制御のフィードバック値の蓄積を回避できるのである。
【0101】
さらに本実施形態では、入力トルクのみでなく、推力に応じたチェーン伸び量を推定して変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを算出するので、より適切な変速比幅を確保できる。したがって、より緻密に目標変速比と実変速比の乖離によるフィードバック制御のフィードバック値の蓄積を回避できるのである。
【0102】
さらにまた本実施形態では、発進時の推力増大補正に応じてチェーン伸び量を大きく推定することによって、高い変速比が求められる発進時において変速比上限Dip_MAXを引き上げることができるのである。
【0103】
目標変速比が最小値に設定される場合、すなわち車両がオーバードライブ状態で走行する場合に、入力トルクが増大してVチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてセカンダリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもロー側に変化する。制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違すると、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。本実施形態が適用されないと、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできないことがある。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がアップシフト側に蓄積されてしまう。フィードバック値が蓄積された状態で、ダウンシフト指令があると、アップシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のダウンシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0104】
またセカンダリープーリーの可動シーブが広がってストッパーに当接した状態、すなわちVチェーン(無端トルク伝達部材)のセカンダリープーリーへの巻き付け半径が固定された状態で、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びると、伸び量に応じてプライマリープーリーの巻き付け径が拡大する。すると、実際の変速比は目標変速比よりもハイ側に変化する。このとき、制御ユニットが把握する目標変速比と無段変速機の実変速比とが相違するので、制御ユニットは目標変速比に向けてフィードバック制御を実行する。つまり、制御ユニットは、実変速比を目標変速比に近づけようとフィードバック制御を実行する。本実施形態が適用されないと、Vチェーン(無端トルク伝達部材)が伸びているときには、実変速比が目標変速比に一致させることはできないことがある。それでも、制御ユニットは、フィードバック制御を実行し続ける。すると、フィードバック値がダウンシフト側に蓄積されてしまう。フィードバック値が蓄積された状態で、アップシフト指令があると、ダウンシフト側に蓄積されたフィードバック値が解消されるまで、無段変速機のアップシフト操作が実質的に停止する。すなわち、変速制御の応答性が低下する。このような応答遅れがあると、運転者は違和感を感じる。
【0105】
これに対して本実施形態では、プライマリープーリーに入力されるトルクTp及びセカンダリープーリーに作用する推力Fsに基づいてチェーン長Lを算出して、これに合わせて目標変速比の制限値を設定するので、目標変速比の制限値が適切に変更される。したがって、実現できない目標変速比が設定されないので、フィードバック値が蓄積されることがなく、変速制御の応答性の低下を防止でき、運転者に違和感を感じさせないのである。
【0106】
(第2実施形態)
第1実施形態では、チェーンに作用する張力は、入力トルクTpのみならず、プーリー推力にも影響を受けるという技術知見に鑑み、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めた。
【0107】
しかしながら、チェーンに作用する張力は、プーリーの回転速度にも影響を受ける。すなわちプーリーの回転速度が大きいほど、遠心力が大きく作用して、チェーンに作用する張力が大きくなる。そこで本実施形態では、プライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求める。
【0108】
ここで図11を参照して、プライマリー入力トルクTpが一定であっても、プライマリー回転速度Nsが異なる場合について説明する。
【0109】
トルクコンバーターのロックアップクラッチがオン(締結状態)の場合には、エンジントルクがCVTへの入力トルクになる。エンジントルクTeは、アクセラレーターペダル操作量(吸気スロットル開度)APO、及びエンジン回転速度Neごとに所定の値となり、図11のように表される。所定のアクセラレーターペダル操作量APOのときに、エンジントルクがTe0であっても、エンジン回転速度がNe2の場合とNe3の場合とがある。またアクセラレーターペダル操作量APOが変われば(大きくなれば)、エンジントルクがTe0であっても、エンジン回転速度がNe1の場合がある。
【0110】
さらに、トルクコンバーターのロックアップクラッチがオフ(解放状態)の場合においても、エンジン回転速度Ne、速度比(タービン回転速度をエンジン回転速度で割ったもの)から定まるトルク比と容量係数の状況によっては、入力トルクが同じであっても、入力回転速度が変わることがある。
【0111】
このようなことから、プライマリー入力トルクTpが一定であっても、プライマリー回転速度Nsが異なる場合が存在するのである。
【0112】
図12は、第2実施形態における変速コントローラーの制御内容を示すブロック図である。
【0113】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0114】
上記技術知見に鑑み、本実施形態では、チェーン伸び算出部B521において、プライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求める。具体的には、xz座標が図13(A)で示され、yz座標が図13(B)で示される三次元マップにプライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsを適用することでチェーン伸び量ΔLを求める。図13(A)は、図8(A)と同様である。図13(B)から判るように、Vチェーン13の伸び量ΔLは、プライマリープーリー11への入力トルク、セカンダリープーリー12の可動シーブ推力、及びプライマリープーリー11を一定とすると、プライマリープーリー11の回転速度Npが大きいほど大きい。
【0115】
図14は、第2実施形態による作用効果を説明する図である。
【0116】
時刻t21でアクセラレーターペダルが踏み込まれると(図14(A))、それに伴ってプライマリープーリーに入力されるトルクTpが大きくなり、時刻t22以降は一定になるが(図14(B))、プライマリー回転速度Npは時刻t22以降も大きくなることがある(図14(C))。具体的な運転シーンを考えると、たとえば路面勾配が変化したために、入力トルクTpが変わらなくとも、車速が上昇する場合などである。
【0117】
このような場合に、本実施形態では、プライマリープーリーに入力されるトルクTp及びプライマリープーリー11の回転速度Npに基づいてチェーン伸び量ΔLを算出する。このとき、プライマリープーリー11の回転速度Npが大きいほど、チェーン伸び量ΔLを長く算出する。そして、これに合わせて目標変速比の制限値を設定するので、時刻t22以降も目標変速比の制限値が変更される(図14(E))。
【0118】
一方、比較形態のようにプライマリープーリーに入力されるトルクTpにのみ基づいて目標変速比の制限値を設定する場合は、時刻t22以降は目標変速比の制限値が変更されない(図14(E))。したがってこのようにしては、目標変速比が無用に制限されることとなり、実際に採用できる変速比幅を不当に狭めてしまう可能性があった。
【0119】
これに対して本実施形態によれば、時刻t22以降も目標変速比の制限値が変更されるので、目標変速比が無用に制限されることがなく、実際に採用しうる範囲で最大の変速比幅を確保できる。
【0120】
また、最High変速比付近では同一のコーストトルクであっても車速によってプライマリープーリー11の回転速度が異なるので、比較形態ではチェーンが最も伸びる最大回転速度が常に入力される前提で変速比下限Dip_MINを設定する必要があった。一方、本実施形態では、回転速度に応じて変速比下限Dip_MINを変化させることができるので、回転速度の小さな領域で目標変速比を下げることができる。以上のことから、本実施形態によれば、より適切な変速比上限Dip_MAXを指示し、実際に採用しうる範囲で最大の変速比幅を確保できるのである。
【0121】
さらに本実施形態では、入力トルクのみでなく、回転速度に応じたチェーン伸び量を推定して変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを算出するので、より適切な変速比幅を確保できる。したがって、より緻密に目標変速比と実変速比の乖離によるフィードバック制御のフィードバック値の蓄積を回避できるのである。
【0122】
さらにまた本実施形態では、入力回転速度に応じてチェーン伸び量を推定することによって、低回転速度の最High変速比での走行時に変速比下限Dip_MINを引き下げることで、エンジンが低回転速度で走行でき、燃費を向上できるという効果が得られるのである。
【0123】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0124】
たとえば、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて、チェーン伸び算出部において、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsに基づいてチェーン伸び量ΔLを求めてもよい。この場合は、チェーン伸び量ΔL、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsを軸とする4次元マップに、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsを適用してチェーン伸び量ΔLを求めればよい。
【0125】
たとえば、上記説明においては、無端トルク伝達部材としてVチェーンを例示したが、これには限定されない。たとえばゴムその他の樹脂製のベルトであってもよい。セカンダリープーリーに作用して動力を伝達するときに弾性変形による伸びが発生するものに適用可能である。
【0126】
また上記説明においては、プーリー推力としてセカンダリー推力に基づいてチェーン伸び量を算出したが、プライマリー推力に基づいて算出してもよい。
【0127】
さらに上記説明においては、プーリー回転速度としてプライマリー回転速度に基づいてチェーン伸び量を算出したが、セカンダリー回転速度に基づいて算出してもよい。
【0128】
さらにまた、上記実施形態では、プライマリー入力トルクTp及びセカンダリー推力Fsに基づいて、またはプライマリー入力トルクTp及びプライマリー回転速度Nsに基づいて、一旦チェーンの伸び量ΔLを算出して変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを求めたが、予めマップなどを準備しておいて、プライマリー入力トルクTp、セカンダリー推力Fs及びプライマリー回転速度Nsから変速比上限Dip_MAX及び変速比下限Dip_MINを直接求めてもよい。
【符号の説明】
【0129】
4 無段変速機(CVT)
11 プライマリープーリー
12 セカンダリープーリー
13 Vチェーン(無端トルク伝達部材)
22 変速コントローラー
B51 目標変速比算出部
B52 チェーン伸び算出部(制限値算出部)
B53 変速比上限算出部(制限値算出部)
B54 変速比下限算出部(制限値算出部)
B55 目標変速比設定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプーリーに掛け回された無端トルク伝達部材を介して前記一対のプーリー間で変速する無段変速機の変速制御装置において、
変速機の目標変速比を算出する目標変速比算出部と、
プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方と、変速機に入力されるトルクと、に基づいて目標変速比の制限値を算出する制限値算出部と、
前記目標変速比算出部で算出された目標変速比算出値が前記制限値を越えれば、前記制限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記制限値を越えなければ、目標変速比算出値を目標変速比として設定する目標変速比設定部と、
を有する無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくとも一方と入力トルクとに基づいて、前記無端トルク伝達部材の伸び量を算出し、その伸び量に基づいて、目標変速比の制限値を算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、前記無端トルク伝達部材の伸び量に基づいて、目標変速比の上限値及び下限値を算出し、
前記目標変速比設定部は、前記目標変速比算出値が前記上限値よりも大きいときには、その上限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記下限値よりも小さいときには、その下限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記上限値以下、かつ前記下限値以上であるときには、目標変速比算出値を目標変速比として設定する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、プーリー推力が大きいほど、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、発進時には、発進以外のときと比較して、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、プーリー回転速度が大きいほど、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項7】
請求項2から請求項6までのいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、下り坂を走行するときは、下り坂以外を走行するときと比較して、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項1】
一対のプーリーに掛け回された無端トルク伝達部材を介して前記一対のプーリー間で変速する無段変速機の変速制御装置において、
変速機の目標変速比を算出する目標変速比算出部と、
プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくともいずれか一方と、変速機に入力されるトルクと、に基づいて目標変速比の制限値を算出する制限値算出部と、
前記目標変速比算出部で算出された目標変速比算出値が前記制限値を越えれば、前記制限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記制限値を越えなければ、目標変速比算出値を目標変速比として設定する目標変速比設定部と、
を有する無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、プーリー推力及びプーリー回転速度の少なくとも一方と入力トルクとに基づいて、前記無端トルク伝達部材の伸び量を算出し、その伸び量に基づいて、目標変速比の制限値を算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、前記無端トルク伝達部材の伸び量に基づいて、目標変速比の上限値及び下限値を算出し、
前記目標変速比設定部は、前記目標変速比算出値が前記上限値よりも大きいときには、その上限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記下限値よりも小さいときには、その下限値を目標変速比として設定し、目標変速比算出値が前記上限値以下、かつ前記下限値以上であるときには、目標変速比算出値を目標変速比として設定する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、プーリー推力が大きいほど、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、発進時には、発進以外のときと比較して、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、プーリー回転速度が大きいほど、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【請求項7】
請求項2から請求項6までのいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置において、
前記制限値算出部は、下り坂を走行するときは、下り坂以外を走行するときと比較して、前記無端トルク伝達部材の伸び量を大きく算出する、
無段変速機の変速制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−149660(P2012−149660A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6653(P2011−6653)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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