説明

無段変速機

【課題】動力循環することなく、かつ車輌の減速時にフライホイールを増速して回転させることが可能な無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機1は、エンジン2に接続される入力部材21と駆動車輪3に接続される出力部材22とを有する無段変速装置20を備えており、エンジン2と駆動車輪3との相対回転を動力循環することなく無段変速し得る。この無段変速機1に、無段変速装置20の入力部材21に接続されるキャリヤCR、無段変速装置20の出力部材22に接続されるリングギヤR、キャリヤCRの回転に基づきリングギヤRの回転に対して増速回転するサンギヤSを備えた増速プラネタリギヤ10を設け、該サンギヤSにフライホイール30を接続して構成する。車輌の減速時に、無段変速装置20の減速比が大きくなるように変速することで、フライホイール30を増速しつつ回転させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌等に搭載される無段変速機に係り、詳しくは、走行時の車輌の慣性エネルギーを蓄積し得るフライホイールを備えた無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題等に起因して車輌の燃費向上が求められるようになっており、燃費向上のためには、走行時の車輌の慣性エネルギーを減速時に蓄え、加速時、発進時、エンジンの再始動時等にその蓄えたエネルギーを用いることが考えられる。このように慣性エネルギーを蓄えるものとして、フライホイールを用いたものが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2004/000595 A1
【特許文献2】特表2002−543340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のものは、駆動源の回転を無段変速する無段変速装置と動力循環用プラネタリギヤとを用い、駆動源の回転と無段変速した回転とを合成して動力循環する無段変速機、いわゆるIVT(Infinitely
Variable Transmission)において、フライホイールを無段変速装置の出力側に接続し、上記動力循環用プラネタリギヤを介して該フライホイールの回転を駆動車輪に出力し得るように構成している。しかしながら、この特許文献1のものは、動力循環するIVTであるため、無段変速装置で動力循環する際に該無段変速装置におけるエネルギーロスが大きく、せっかくフライホイールを用いて車輌の慣性エネルギーを蓄えたとしても、無段変速機全体として効率を向上することが難しく、車輌の燃費向上に向いていないという問題がある。
【0005】
また、特許文献2のものは、ベルト式無段変速装置の入力側に連結されたリングギヤと、ベルト式無段変速装置の出力側に連結されたキャリヤ(ピニオンギヤ)と、フライホイールに連結されるサンギヤとからなるプラネタリギヤを備えて構成されている(特に特許文献2の図2参照)。そのため、フライホイールの回転は、駆動源の回転(入力側回転)に対して駆動車輪の回転(出力側回転)が減速された関係にあり、フライホイールの回転力を無段変速しつつレスポンスよく駆動車輪に伝達することが可能であるとしても、車輌の減速時(無段変速装置の減速比を大きくする際)にフライホイールを高回転にすることができず、特にフライホイールが蓄えるエネルギーは回転数の2乗に比例することも相俟って、車輌の慣性エネルギーを大きく蓄えることが難しいという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、動力循環することなく、かつ車輌の減速時にフライホイールを増速して回転させることを可能にし、もって燃費向上を図ることが可能な無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図15参照)、駆動源(2)に接続される入力部材(21)と駆動車輪(3)に接続される出力部材(22)とを有して前記駆動源(2)と駆動車輪(3)との相対回転を無段変速し得る無段変速装置(20)を備えた無段変速機(1)において、
前記無段変速装置(20)の入力部材(21)に接続される第1回転要素(11)、前記無段変速装置(20)の出力部材(22)に接続される第2回転要素(12)、前記第1回転要素(11)の回転に基づき前記第2回転要素(12)の回転に対して増速回転する第3回転要素(13)を備えた増速プラネタリギヤ(10)と、
前記第3回転要素(13)に接続されるフライホイール(30)と、を備えた、
ことを特徴とする無段変速機(1)にある。
【0008】
請求項2に係る本発明は(例えば図4、図9、図12、図14、図15参照)、前記第3回転要素(13)と前記フライホイール(30)との間を係脱自在な第1クラッチ(C)を備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1)にある。
【0009】
請求項3に係る本発明は(例えば図5、図13参照)、前記無段変速装置(20)の出力部材(22)と前記第2回転要素(12)との間を係脱自在な第2クラッチ(C)を備えた、
ことを特徴とする請求項1または2記載の無段変速機(1)にある。
【0010】
請求項4に係る本発明は(例えば図6、図8、図9、図10、図11参照)、前記駆動源(2)と前記第1回転要素(11)との間を係脱自在な第3クラッチ(C)を備えた、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載の無段変速機(1)にある。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、駆動源の回転と駆動車輪の回転とを無段変速する無段変速装置によって、動力循環することなく無段変速することができるものでありながら、増速プラネタリギヤの第1回転要素を無段変速装置の入力部材に接続し、第2回転要素を無段変速装置の出力部材に接続し、第1回転要素の回転に基づき第2回転要素の回転に対して増速回転する第3回転要素をフライホイールに接続したので、車輌の減速時に無段変速装置の減速比を大きくしていくことでフライホイールを増速しつつ回転させることができ、車輌の慣性エネルギーをより効率良くフライホイールに溜めることができて、車輌の燃費向上を図ることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によると、第3回転要素とフライホイールとの間を係脱自在な第1クラッチを備えているので、駆動車輪の回転が停止する車輌の停止時にあっても、増速プラネタリギヤとフライホイールとの回転接続を切断して該フライホイールの回転状態を維持することができ、車輌の発進時にフライホイールの回転エネルギーを用いることができる。また、増速プラネタリギヤの回転要素を連れ回す必要がないので、エネルギー損失を最小限に抑えることができる。
【0014】
請求項3に係る本発明によると、無段変速装置の出力部材と第2回転要素との間を係脱自在な第2クラッチを備えているので、駆動車輪の回転が停止する車輌の停止時にあっても、駆動車輪と第2回転要素との回転接続を切断して該第2回転要素を空転させることにより、フライホイールの回転状態を維持することができ、車輌の発進時にフライホイールの回転エネルギーを用いることができる。
【0015】
請求項4に係る本発明によると、駆動源と第1回転要素との間を係脱自在な第3クラッチを備えているので、該第3クラッチを解放して駆動源の回転を停止した状態から、該第3クラッチを係合することでフライホイールの回転エネルギーにより駆動源を回転させることができる。これにより、例えば駆動源が内燃エンジンである場合にあっては、車輌の停止時にアイドルストップを行い、発進時にフライホイールによりエンジンの再始動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る無段変速機の基本構成を示すブロック図。
【図2】増速プラネタリギヤをシングルピニオンプラネタリギヤで具体化した無段変速機を示すブロック図。
【図3】増速プラネタリギヤをステップピニオンプラネタリギヤで具体化した無段変速機を示すブロック図。
【図4】増速プラネタリギヤの第3回転要素とフライホイールとの間に第1クラッチを介在した無段変速機を示すブロック図。
【図5】増速プラネタリギヤの第2回転要素と駆動車輪との間に第2クラッチを介在した無段変速機を示すブロック図。
【図6】増速プラネタリギヤの第1回転要素と駆動源との間に第3クラッチを介在した無段変速機を示すブロック図。
【図7】走行中における無段変速機の状態を説明する図で、(a)は無段変速機のブロック図、(b)は走行中の回転状態を示す速度線図。
【図8】車輌減速時における無段変速機の状態を説明する図で、(a)は無段変速機のブロック図、(b)は車輌減速時の回転状態を示す速度線図。
【図9】車輌停車時における無段変速機の状態を説明する図で、(a)は無段変速機のブロック図、(b)は車輌停車時の回転状態を示す速度線図。
【図10】車輌発進時における無段変速機の状態を説明する図で、(a)は無段変速機のブロック図、(b)は車輌発進時の回転状態を示す速度線図。
【図11】エンジン再始動時における無段変速機の状態を説明する図で、(a)は無段変速機のブロック図、(b)はエンジン再始動時の回転状態を示す速度線図。
【図12】第1実施例に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図13】第2実施例に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図14】第3実施例に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図15】第4実施例に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に沿って説明する。まず、図1乃至図6に沿って、本実施の形態に係る理論的な構造を説明する。
【0018】
図1に示すように、無段変速機1は、エンジン(Eng)(駆動源)2に接続される入力軸1aと駆動車輪(Wheel)3に接続される出力軸1bとを備えており、それら入力軸1aと出力軸1bとの間には、無段変速装置(VAR)20が備えられている。該無段変速装置20は、例えばベルト式、トロイダル式、コーンカップ式等の何れの形態のものでもよく、入力軸1aを介してエンジン2に接続される入力部材21と、出力軸1bを介して駆動車輪3に接続される出力部材22とを有し、それら入力部材21と出力部材22との間の相対回転状態、つまりエンジン2と駆動車輪3との相対回転状態を無段変速し得る。従って、本無段変速機1は、動力循環することなく無段変速を行う、いわゆるCVT(Continuously
Variable Transmission)からなる。
【0019】
本無段変速機1には、上記無段変速装置20と並列的に増速プラネタリギヤ10が備えられている。該増速プラネタリギヤ10は、第1回転要素11、第2回転要素12、第3回転要素13の3つの回転要素からなる構造であり、かつ第3回転要素13が、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転に対して増速回転する構成からなる。そして、該第3回転要素には、本発明に係るフライホイール30が接続されている。
【0020】
具体的に、上記増速プラネタリギヤ10としては、図2に示すようなシングルピニオンプラネタリギヤと、図3に示すようなステップピニオンプラネタリギヤとが考えられる。図2に示す増速プラネタリギヤ10は、第1回転要素11がピニオンPを回転自在に支持するキャリヤCRと一体回転するように構成され、第2回転要素12がリングギヤRと一体回転するように構成され、第3回転要素がサンギヤSと一体回転するように構成される。即ち、サンギヤSは、キャリヤCRの回転に基づきリングギヤRの回転に対して増速して回転される。
【0021】
また、図3に示す増速プラネタリギヤ10は、第1回転要素11が大径なサンギヤS1と一体回転するように構成され、第2回転要素12が小径なサンギヤS2と一体回転するように構成され、第3回転要素がそれらサンギヤS1及びサンギヤS2に噛合するステップピニオンSPを回転自在に支持するキャリヤCRと一体回転するように構成される。即ち、キャリヤCRは、サンギヤS1の回転に基づきサンギヤS2の回転に対して増速して回転される。
【0022】
そして、第1回転要素11と第2回転要素12との相対回転状態は、上記無段変速装置20により無段変速され得るように構成されており、該無段変速装置20の減速比を大きくし、入力部材21の回転に対して出力部材22の回転を減速すると、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転が減速され、それに伴い第3回転要素13の回転が増速されるように構成されている(図7〜図11参照)。
【0023】
以上のような無段変速機1にあって、車輌が停車した際には、駆動車輪3の回転が停止し、無段変速装置20の出力部材22の回転が停止すると、入力部材21の回転も停止するので、第1回転要素11及び第2回転要素12の回転も停止して、第3回転要素の回転も停止してしまうことになる。そこで、図4に示すように、第3回転要素13とフライホイール30との間に、フライホイール切離し用クラッチ(第1クラッチ)Cを設けて構成する。これにより、車輌停止時にもフライホイール切離し用クラッチCを解放することでフライホイール30の回転状態を維持することが可能となる。
【0024】
また、図4のフライホイール切離し用クラッチCの代わりに、図5に示すように、第2回転要素12と出力部材22及び出力軸1bとの間にプラネタリギヤ切離し用クラッチ(第2クラッチ)Cを設けて構成することも可能である。これにより、車輌が停車した際に、駆動車輪3、出力軸1b、及び出力部材22の回転が停止し、入力部材21の回転が停止しても、第1回転要素11が停止するものの、プラネタリギヤ切離し用クラッチCを解放することで出力軸1bから増速プラネタリギヤ10が切離されて、第2回転要素12が空転することを許容し、第3回転要素の回転も許容される。従って、車輌停止時にもプラネタリギヤ切離し用クラッチCを解放することでフライホイール30の回転状態を維持することが可能となる。
【0025】
一方、図6に示すように、該エンジン2と無段変速装置20や増速プラネタリギヤ10との間を切離すエンジン切離し用クラッチ(第3クラッチ)Cを設けて構成することも可能である。例えばエンジン2をアイドルストップさせて回転を停止し、フライホイール30の回転エネルギーにより車輌を発進させる場合やエンジン2を再始動させる場合は、エンジン切離し用クラッチCを解放することで、エンジン2を停止させたまま、フライホイール30や駆動車輪3を回転させることを許容することが可能となる。
【0026】
なお、図1乃至図6においては図示を省略したが、無段変速機1においては、例えば無段変速装置20と駆動車輪3との間に、つまり出力軸1bに介在するように発進クラッチCを設けて構成することが考えられる(図10、図11参照)。この発進クラッチCは、例えばトルクコンバータ等の流体伝動装置の代わりに、車輌停車時におけるアイドル回転を許容するために解放されるものであり、エンジン2から駆動車輪3の間であれば何れの位置にあっても良いが、出力軸1bに介在するように設けることで、例えば車輌のレッカー移動等にあっても無段変速装置20を連れ回らす必要がなくなるので、無段変速装置20の保護の観点からして好ましい。
【0027】
ついで、本無段変速機1の作用を図7乃至図11に沿って説明する。
【0028】
車輌の走行中にあっては、図7(a)及び(b)に示すように、エンジン2が所望の回転状態にあり、無段変速装置20により無段変速されて駆動車輪(OUT)3が回転されている。即ち、第1回転要素11がエンジン2と同回転で回転し、第2回転要素12が出力部材22に連動して回転しているため、増速プラネタリギヤ10により第3回転要素13が無段変速装置20の減速比に応じて決まる回転数で回転される。この状態では、フライホイール切離し用クラッチCを解放してフライホイール30を第3回転要素から切離しておくことで、無段変速装置20における無段変速制御にフライホイール30のイナーシャ(慣性力)が影響することを防止する。これにより、本無段変速機1を走行中は略々通常のCVTとして用いることが可能となる。
【0029】
次に、車輌の減速時にあっては、図8(a)及び(b)に示すように、まず、エンジン切離し用クラッチCの解放によりエンジン2を増速プラネタリギヤ10及び無段変速装置20から切離し、エンジン2をアイドルストップさせる。また、フライホイール切離し用クラッチCを係合して、第3回転要素13とフライホイール30とを連結状態にする。ついで、駆動車輪3の回転数を低下させて車輌を減速させる際、無段変速装置20が減速比を大きくするように無段変速し、つまり駆動車輪3の回転数が小さくなると共に、無段変速装置20の入力部材21及び第1回転要素11の回転数を略々そのまま維持するように変速を行う。これにより、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転に対して増速される第3回転要素13は、図8(b)に示すように、大幅に増速されて回転数が上昇し、フライホイール30が高回転にされていく。従って、フライホイール30が車輌の慣性エネルギーを吸収する形で高回転状態にされ、車輌はフライホイール30の回転上昇によって回生された形で車速が低下し、減速される。
【0030】
その後、車輌の停車時にあっては、図9(a)及び(b)に示すように、車輌停止の直前にフライホイール切離し用クラッチCを解放して、フライホイール30を第3回転要素13から切離し、フライホイール30の高回転状態を維持する。なお、車輌が停止し、駆動車輪3の回転が停止すると、無段変速装置20の出力部材22及び入力部材21の回転も停止し、つまり増速プラネタリギヤ10においても、第1回転要素11、第2回転要素12、第3回転要素13の回転が停止される。
【0031】
ついで、車輌の発進時にあっては、図10(a)及び(b)に示すように、まず、エンジン切離し用クラッチCと発進クラッチCとを解放した状態で、フライホイール切離し用クラッチCを係合し、無段変速装置20の減速比に基づき第1回転要素11と第2回転要素12とを回転状態にする。つづいて発進クラッチCを徐々に係合し、フライホイール30の回転数を徐々に下げながら、駆動車輪3の回転数を上昇していき、つまりフライホイール30の回転エネルギーにより車輌を発進させる。車輌発進後は、エンジン2を再始動して第1回転要素11の回転数に合わせてからエンジン切離し用クラッチCを係合すると共に、フライホイール切離し用クラッチCを解放し、上述した車輌の走行状態に移行する。なお、無段変速機1に発進クラッチCが備えられていない場合は、上記フライホイール切離し用クラッチCを徐々に係合していくことで、同様な車輌の発進を達成することもできる。
【0032】
また、車輌停止状態からフライホイール30の回転エネルギーで車輌を発進させるのではなく、エンジン2の再始動を行うことも可能である。図11(a)及び(b)に示すように、まず、エンジン切離し用クラッチCと発進クラッチCとを解放した状態で、フライホイール切離し用クラッチCを係合し、無段変速装置20の減速比に基づき第1回転要素11と第2回転要素12とを回転状態にする。つづいてエンジン切離し用クラッチCを徐々に係合し、フライホイール30の回転数を徐々に下げながら、エンジン2の回転数を上昇していき、つまりフライホイール30の回転エネルギーによりエンジン2を回転上昇させ、エンジン2の再始動を行う。エンジン再始動後は、発進クラッチCを徐々に係合すると共に、フライホイール切離し用クラッチCを解放し、上述した車輌の走行状態に移行する。
【0033】
以上のように本発明に係る無段変速機1によると、エンジン2の回転と駆動車輪3の回転とを無段変速する無段変速装置20によって、動力循環することなく無段変速することができるものでありながら、増速プラネタリギヤ10の第1回転要素11を無段変速装置20の入力部材21に接続し、第2回転要素12を無段変速装置20の出力部材22に接続し、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転に対して増速回転する第3回転要素13をフライホイール30に接続したので、車輌の減速時に無段変速装置20の減速比を大きくしていくことでフライホイール30を増速しつつ回転させることができ、車輌の慣性エネルギーをより効率良くフライホイールに溜めることができて、車輌の燃費向上を図ることができる。
【0034】
また、第3回転要素13とフライホイール30との間を係脱自在なフライホイール切離し用クラッチCを備えていることで、駆動車輪3の回転が停止する車輌の停止時にあっても、増速プラネタリギヤ10とフライホイール30との回転接続を切断して該フライホイール30の回転状態を維持することができ、車輌の発進時にフライホイール30の回転エネルギーを用いることができる。また、増速プラネタリギヤ10の回転要素を連れ回す必要がないので、エネルギー損失を最小限に抑えることができる。
【0035】
また、無段変速装置20の出力部材22と第2回転要素12との間を係脱自在なプラネタリギヤ切離し用クラッチCを備えていることでも、駆動車輪3の回転が停止する車輌の停止時にあって、駆動車輪3と第2回転要素12との回転接続を切断して該第2回転要素12を空転させることにより、フライホイール30の回転状態を維持することができ、車輌の発進時にフライホイール30の回転エネルギーを用いることができる。
【0036】
さらに、エンジン2と第1回転要素11との間を係脱自在なエンジン切離し用クラッチCを備えていることで、該エンジン切離し用クラッチCを解放してエンジン2の回転を停止した状態から、該エンジン切離し用クラッチCを係合することでフライホイール30の回転エネルギーによりエンジン2を回転させることができる。これにより、内燃エンジンであるエンジン2を車輌の停止時にアイドルストップすることができ、発進時にフライホイール30により該エンジン2の再始動を行うことができる。
【実施例1】
【0037】
ついで、以上説明した本実施の形態に係る無段変速機の実施例1を図12に沿って説明する。
【0038】
図12に示すように、本実施例1に係る無段変速機(CVT)1は、ダンパ装置4、フライホイール30、増速プラネタリギヤ10、ベルト式無段変速装置20、前後進切換え装置40、カウンタ機構50、及びディファレンシャル装置60等を有しており、図示を省略したケースに収納されている。
【0039】
即ち、エンジン2のクランク軸に接続される入力軸1aは、ダンパ装置4を介して第1軸5に接続されており、該第1軸5上には、上記フライホイール30、増速プラネタリギヤ10、ベルト式無段変速装置20のプライマリプーリ(入力部材)21、前後進切換え装置40が配置されている。該第1軸5は、プライマリプーリ21の中心を通って前後進切換え装置40のサンギヤS2と前進クラッチCとに接続されている。
【0040】
上記前後進切換え装置40は、前進クラッチCと後進ブレーキBとを備えていると共に、上記プライマリプーリ21に接続されると共に上記前進クラッチCに接続され、かつ2つのピニオンP2,P3を回転自在に支持するキャリヤCR2、該ピニオンP2に噛合するサンギヤS2、後進ブレーキBによりケースに対して係止自在であると共にピニオンP3に噛合するリングギヤR2、を有するダブルピニオンプラネタリギヤを備えて構成されている。なお、本実施例1においては、これら前進クラッチC及び後進ブレーキBが、入力軸1aとプライマリプーリ21との間の接続を接・断し得るので、エンジン切離し用クラッチCとしての役目も担う。
【0041】
上記ベルト式無段変速装置20は、上述のプライマリプーリ21、セカンダリプーリ22及びこれら1対のプーリに挟持されて巻掛けられたベルト23とを有している。プライマリプーリ21は、ベルト式無段変速装置20の入力部材であり、上記前後進切換え装置40のキャリヤCR2に(前進クラッチCDを介して入力軸1aに)接続されると共に、増速プラネタリギヤ10の第1回転要素11に接続されている。
【0042】
また、セカンダリプーリ22は、ベルト式無段変速装置20の出力部材であり、第2軸22aに接続されている。該第2軸22aの端部には、スプロケット22bが一体的に設けられており、増速プラネタリギヤ10の第2回転要素12のスプロケット12aとの間には、チェーン12bが巻掛けられている。また、第2軸22a上には、発進クラッチCが配設されており、該第2軸22aは、発進クラッチCの係脱により後述の出力側部材51に対して接・断されるように構成されている。
【0043】
上記増速プラネタリギヤ10は、動力伝達軸としての第1回転要素11と一体的に構成され、ピニオンP1を回転自在に支持するキャリヤCR1と、動力伝達軸としての第2回転要素12と一体的に構成されると共にピニオンP1に噛合するリングギヤR1と、動力伝達軸としての第3回転要素13と一体的に構成されると共にピニオンP1に噛合するサンギヤS1と、を有するシングルピニオンプラネタリギヤにより構成されている。そして、第3回転要素13には、フライホイール切離し用クラッチCが接続されており、該フライホイール切離し用クラッチCを介してフライホイール30が接・断し得るように接続されている。
【0044】
一方、上記発進クラッチCに接続された出力側部材51には、端部にカウンタギヤ51aが形成されており、該カウンタギヤ51aは、カウンタ機構50のカウンタシャフト52の一端上に配設された大径ギヤ52aに噛合されている。また、カウンタシャフト52の他端には、小径ギヤ52bが形成されており、該小径ギヤ52bは、ディファレンシャル装置60のデフリングギヤ61に噛合されている。
【0045】
そして、ディファレンシャル装置60は、ディファレンシャルギヤを内包したデフケース62を有しており、該デフケース62は上記デフリングギヤ61を固定して有している。該デフリングギヤ61は、デフケース62に内包されたディファレンシャルギヤに接続されており、該ディファレンシャルギヤには、左右車軸63r,63l(即ち出力軸1b)が接続され、これら左右車軸63r,63lに駆動車輪3が接続されている。
【0046】
以上のように構成された実施例1に係る無段変速機1において、車輌の前進走行中にあっては、前進クラッチCが係合されると共に発進クラッチCが係合された状態にあり、エンジン2が所望の回転状態にあって、入力軸1aからダンパ装置4を介して第1軸5に入力された入力回転が、ベルト式無段変速装置20により無段変速され、カウンタ機構50やディファレンシャル装置60を介して左右車軸63r,63l(駆動車輪3)から出力される。
【0047】
この状態では、第1回転要素11が前進クラッチC及びキャリヤCR2を介して入力回転(エンジン2と同回転)で回転し、第2回転要素12がセカンダリプーリ22と同回転で(駆動車輪3と連動して)回転しているため、第3回転要素13は、増速プラネタリギヤ10のギヤ比に基づくベルト式無段変速装置20の減速比に応じて決まる回転数で回転される。ここでは、フライホイール切離し用クラッチCを解放してフライホイール30を第3回転要素13から切離しておくことで、ベルト式無段変速装置20における無段変速制御にフライホイール30のイナーシャ(慣性力)が影響することを防止する。これにより、本無段変速機1を走行中は略々通常のCVTとして用いられる(図7(b)参照)。
【0048】
なお、車輌の後進走行中にあっては、前進クラッチCの代わりに後進ブレーキBが係合されてリングギヤR2が係止され、第1軸5及びサンギヤS2の回転が反転されてキャリヤCR2より出力される。そのため、ベルト式無段変速装置20、増速プラネタリギヤ10、カウンタ機構50、ディファレンシャル装置60等が全て逆回転となるが、回転が逆となる以外は、前進走行中と略々同様に動作することになる。
【0049】
次に、車輌の減速時にあっては、前進クラッチC(エンジン切離し用クラッチCと同等)の解放によりエンジン2を第1回転要素11(増速プラネタリギヤ10)及びプライマリプーリ21(ベルト式無段変速装置20)から切離し、エンジン2をアイドルストップさせる。また、フライホイール切離し用クラッチCを係合して、第3回転要素13とフライホイール30とを連結状態にする。
【0050】
ついで、駆動車輪3の回転数を低下させて車輌を減速させる際、即ち、ディファレンシャル装置60及びカウンタ機構50等を介して、第2軸22a、セカンダリプーリ22、チェーン12bを介して第2回転要素12を減速させる際、ベルト式無段変速装置20が減速比を大きくするように無段変速し、つまり第2回転要素12の回転数が小さくなると共に、プライマリプーリ21及び第1回転要素11の回転数を略々そのまま維持するように変速を行う。これにより、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転に対して増速される第3回転要素13は、大幅に増速されて回転数が上昇し、フライホイール30が高回転にされていく(図8(b)参照)。従って、フライホイール30が車輌の慣性エネルギーを吸収する形で高回転状態にされ、車輌はフライホイール30の回転上昇によって回生された形で車速が低下し、減速される。
【0051】
車輌の停車時にあっては、車輌停止の直前にフライホイール切離し用クラッチCを解放して、フライホイール30を第3回転要素13から切離し、フライホイール30の高回転状態を維持する(図9(b)参照)。なお、車輌が停止し、駆動車輪3の回転が停止すると、ベルト式無段変速装置20のセカンダリプーリ22及びプライマリプーリ21の回転も停止し、つまり増速プラネタリギヤ10においても、第1回転要素11、第2回転要素12、第3回転要素13の回転が停止される。
【0052】
その後、車輌の発進時にあっては、前進クラッチC(エンジン切離し用クラッチC)と発進クラッチCとを解放した状態で、フライホイール切離し用クラッチCを係合し、無段変速装置20の減速比に基づき第1回転要素11と第2回転要素12とを回転状態にする。つづいて発進クラッチCを徐々に係合し、フライホイール30の回転数を徐々に下げながら、第2回転要素12(即ち駆動車輪3)の回転数を上昇していき、つまりフライホイール30の回転エネルギーにより車輌を発進させる(図10(b)参照)。
【0053】
車輌発進後は、エンジン2を再始動して第1回転要素11の回転数に合わせてから前進クラッチC(エンジン切離し用クラッチC)を係合すると共に、フライホイール切離し用クラッチCを解放し、上述した車輌の走行状態に移行する。なお、無段変速機1に発進クラッチCが備えられていない場合は、上記フライホイール切離し用クラッチCを徐々に係合していくことで、同様な車輌の発進を達成することもできる。
【0054】
また、車輌停止状態からフライホイール30の回転エネルギーで車輌を発進させるのではなく、エンジン2の再始動を行うことも可能である。その場合は、前進クラッチC(エンジン切離し用クラッチC)と発進クラッチCとを解放した状態で、フライホイール切離し用クラッチCを係合し、無段変速装置20の減速比に基づき第1回転要素11と第2回転要素12とを回転状態にする。つづいて前進クラッチC(エンジン切離し用クラッチC)を徐々に係合し、フライホイール30の回転数を徐々に下げながら、エンジン2の回転数を上昇していき、つまりフライホイール30の回転エネルギーによりエンジン2を回転上昇させ、エンジン2の再始動を行う(図11(b)参照)。エンジン再始動後は、発進クラッチCを徐々に係合すると共に、フライホイール切離し用クラッチCを解放し、上述した車輌の走行状態に移行する。
【0055】
以上のように本発明に係る無段変速機1によると、エンジン2の回転と駆動車輪3の回転とを無段変速するベルト式無段変速装置20によって、動力循環することなく無段変速することができるものでありながら、増速プラネタリギヤ10の第1回転要素11を無段変速装置20のプライマリプーリ21に接続し、第2回転要素12を無段変速装置20のセカンダリプーリ22に接続し、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転に対して増速回転する第3回転要素13をフライホイール30に接続したので、車輌の減速時に無段変速装置20の減速比を大きくしていくことでフライホイール30を増速しつつ回転させることができ、車輌の慣性エネルギーをより効率良くフライホイールに溜めることができて、車輌の燃費向上を図ることができる。
【0056】
また、第3回転要素13とフライホイール30との間を係脱自在なフライホイール切離し用クラッチCを備えていることで、駆動車輪3の回転が停止する車輌の停止時にあっても、増速プラネタリギヤ10とフライホイール30との回転接続を切断して該フライホイール30の回転状態を維持することができ、車輌の発進時にフライホイール30の回転エネルギーを用いることができる。また、増速プラネタリギヤ10の回転要素を連れ回す必要がないので、エネルギー損失を最小限に抑えることができる。
【0057】
さらに、エンジン2と第1回転要素11との間を係脱自在な前進クラッチC(又は後進ブレーキB)を備えていることで、該前進クラッチC(又は後進ブレーキB)を解放してエンジン2の回転を停止した状態から、該前進クラッチC(又は後進ブレーキB)を係合することでフライホイール30の回転エネルギーによりエンジン2を回転させることができる。これにより、内燃エンジンであるエンジン2を車輌の停止時にアイドルストップすることができ、発進時にフライホイール30により該エンジン2の再始動を行うことができる。
【実施例2】
【0058】
続いて、上記実施例1の無段変速機1を一部変更した、実施例2に係る無段変速機1を図13に沿って説明する。
【0059】
本実施例2に係る無段変速機1は、上記実施例1の無段変速機1におけるフライホイール切離し用クラッチCの代わりに、プラネタリギヤ切離し用クラッチCを配設して構成したものである。それ以外の部分は、同様の構成であるので、同符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
このように構成された無段変速機1においては、車輌の走行中にあって、プラネタリギヤ切離し用クラッチCを解放することで、左右車軸63r,63l(即ち出力軸1b)、ディファレンシャル装置60、カウンタ機構50、第2軸22a、チェーン12b、スプロケット12aに対して、増速プラネタリギヤ10を切離すことができ、第2回転要素12が空転して、第3回転要素13の自由回転状態を確保する。そのため、第3回転要素13及びフライホイール30は、第1回転要素11の回転状態とは無関係に切離され、その回転が停止した状態となる。
【0061】
そして、車輌の発進時やエンジン2の再始動時に、プラネタリギヤ切離し用クラッチCを係合することで、上記フライホイール切離し用クラッチCを係合した状態と同様となり、つまり第2回転要素12が左右車軸63r,63l(即ち出力軸1b)やセカンダリプーリ22に対して連動した回転状態となり、ベルト式無段変速装置20の減速比に応じて第1回転要素11と第2回転要素12との相対回転状態が制御され、それによって第3回転要素13及びフライホイール30の回転エネルギーがエンジン2又は左右車軸63r,63lに伝達される。
【0062】
以上のように本発明に係る無段変速機1によると、無段変速装置20のセカンダリプーリ22と第2回転要素12との間を係脱自在なプラネタリギヤ切離し用クラッチCを備えていることで、駆動車輪3の回転が停止する車輌の停止時にあって、プラネタリギヤ切離し用クラッチCを解放して駆動車輪3と第2回転要素12との回転接続を切断して該第2回転要素12を空転させることにより、フライホイール30の回転状態を維持することができ、車輌の発進時やエンジン2の再始動時にプラネタリギヤ切離し用クラッチCを係合してフライホイール30の回転エネルギーを用いることも可能とすることができる。
【実施例3】
【0063】
続いて、上記実施例1の無段変速機1を一部変更した、実施例3に係る無段変速機1を図14に沿って説明する。
【0064】
本実施例3に係る無段変速機1は、上記実施例1の無段変速機1における増速プラネタリギヤ10としてのシングルピニオンプラネタリギヤを、ステップピニオンプラネタリギヤとして構成したものである。即ち、第1回転要素11は大径なサンギヤS2に接続され、第2回転要素12は小径なサンギヤS1に接続され、これらサンギヤS1及びサンギヤS2にそれぞれ噛合するステップピニオンSPを回転自在に支持するキャリヤCR1が第3回転要素13に接続されて構成されている。
【0065】
なお、該第3回転要素13とフライホイール30との間にフライホイール切離し用クラッチCが介在されている。また、前後進切換え装置40において、ダブルピニオンプラネタリギヤをピニオンP1及びピニオンP2を回転自在に支持するキャリヤCR3、ピニオンP1に噛合するサンギヤS3、ピニオンP2に噛合するリングギヤR3で表記しているが、実施例1と同様なものである。
【0066】
本実施例3に係る無段変速機1のそれ以外の部分は、同様の構成であるので、同符号を付して、その説明を省略する。また、本実施例3に係る無段変速機1の作用、効果も、上記実施例1の無段変速機1と略々同様であるので、その説明を省略する。
【実施例4】
【0067】
続いて、上記実施例1の無段変速機1を一部変更した、実施例4に係る無段変速機1を図15に沿って説明する。
【0068】
本実施例4に係る無段変速機1は、大まかに、上記実施例1の無段変速機1におけるベルト式無段変速装置20を、コーンカップ式無段変速装置20に変更したものである。
【0069】
詳細には、図15に示すように、本実施例4に係る無段変速機(CVT)1は、ダンパ装置4、フライホイール30、増速プラネタリギヤ10、コーンカップ式無段変速装置20、前後進切換え装置40、及びディファレンシャル装置60等を有しており、図示を省略したケースに収納されている。
【0070】
即ち、エンジン2のクランク軸に接続される入力軸1aは、ダンパ装置4及びエンジン切離し用クラッチCを介して第1軸5に接続されており、該第1軸5上には、コーンカップ式無段変速装置20のプライマリコーンカップ21が配設されている。コーンカップ式無段変速装置20は、上述のプライマリコーンカップ21、セカンダリコーンカップ22及びこれらのコーンカップに挟持されるリング23とを有している。このリング23が両コーンカップの間を軸方向に移動することで、その接触半径が変化し、これにより無段変速が行われる。このリング23の軸方向移動は、軸方向に対して傾斜させるだけで自走しつつ移動される。
【0071】
上記プライマリコーンカップ21は、コーンカップ式無段変速装置20の入力部材であり、第1軸5を介して増速プラネタリギヤ10の第1回転要素11に接続されている。また、セカンダリコーンカップ22は、コーンカップ式無段変速装置20の出力部材であり、第2軸22aに接続されている。該第2軸22aには、大径ギヤ22bが一体的に設けられており、増速プラネタリギヤ10の第2回転要素12のギヤ12aと噛合している。また、第2軸22a上の端部には、スプロケット22cが一体的に設けられており、後述する前後進切換え装置40の第3軸41のスプロケット41aとの間にチェーン22dが巻掛けられている。
【0072】
上記増速プラネタリギヤ10は、動力伝達軸としての第1回転要素11と一体的に構成され、ピニオンP1を回転自在に支持するキャリヤCR1と、動力伝達軸としての第2回転要素12と一体的に構成されると共にピニオンP1に噛合するリングギヤR1と、動力伝達軸としての第3回転要素13と一体的に構成されると共にピニオンP1に噛合するサンギヤS1と、を有するシングルピニオンプラネタリギヤにより構成されている。上述のように第2回転要素12にはギヤ12aが一体的に設けられており、第2軸22aの大径ギヤ22bに噛合されている。そして、第3回転要素13には、フライホイール切離し用クラッチCが接続されており、該フライホイール切離し用クラッチCを介してフライホイール30が接・断し得るように接続されている。
【0073】
上記前後進切換え装置40は、第3軸41上に配設されており、前進クラッチCと後進ブレーキBとを備えていると共に、第3軸41に上記前進クラッチCを介して接続され、かつ2つのピニオンP2,P3を回転自在に支持するキャリヤCR2、第3軸41に接続されると共にピニオンP2に噛合するサンギヤS2、後進ブレーキBによりケースに対して係止自在であると共にピニオンP3に噛合するリングギヤR2、を有するダブルピニオンプラネタリギヤを備えて構成されている。そして、キャリヤCR2には、発進クラッチCが接続されており、キャリヤCR2は、発進クラッチCの係脱により出力側部材42に対して接・断されるように構成されている。
【0074】
上記発進クラッチCに接続された出力側部材42は、ディファレンシャル装置60のデフリングギヤ61に噛合されている。ディファレンシャル装置60は、ディファレンシャルギヤを内包したデフケース62を有しており、該デフケース62は上記デフリングギヤ61を固定して有している。該デフリングギヤ61は、デフケース62に内包されたディファレンシャルギヤに接続されており、該ディファレンシャルギヤには、左右車軸63r,63l(即ち出力軸1b)が接続され、これら左右車軸63r,63lに駆動車輪3が接続されている。
【0075】
以上のように構成された実施例4に係る無段変速機1において、車輌の前進走行中にあっては、前進クラッチC、エンジン切離し用クラッチC、及び発進クラッチCが係合された状態にあり、エンジン2が所望の回転状態にあって、入力軸1aからダンパ装置4を介して第1軸5に入力された入力回転が、コーンカップ式無段変速装置20により無段変速され、前後進切換え装置40、ディファレンシャル装置60を介して左右車軸63r,63l(駆動車輪3)から出力される。
【0076】
この状態では、第1回転要素11が第1軸5を介して入力回転(エンジン2と同回転)で回転し、第2回転要素12がセカンダリコーンカップ22に連動して回転しているため、第3回転要素13は、増速プラネタリギヤ10のギヤ比に基づくコーンカップ式無段変速装置20の減速比に応じて決まる回転数で回転される。ここでは、フライホイール切離し用クラッチCを解放してフライホイール30を第3回転要素13から切離しておくことで、コーンカップ式無段変速装置20における無段変速制御にフライホイール30のイナーシャ(慣性力)が影響することを防止する。これにより、本無段変速機1を走行中は略々通常のCVTとして用いられる(図7(b)参照)。
【0077】
なお、車輌の後進走行中にあっては、前進クラッチCの代わりに後進ブレーキBが係合されてリングギヤR2が係止され、コーンカップ式無段変速装置20の回転が反転されてキャリヤCR2より出力される。そのため、出力側部材42、ディファレンシャル装置60における回転が逆回転となるが、回転が逆となる以外は、前進走行中と略々同様に動作することになる。
【0078】
次に、車輌の減速時にあっては、エンジン切離し用クラッチCの解放によりエンジン2を第1軸5から切離し、エンジン2をアイドルストップさせる。また、フライホイール切離し用クラッチCを係合して、第3回転要素13とフライホイール30とを連結状態にする。ついで、駆動車輪3の回転数を低下させて車輌を減速させる際、即ち、ディファレンシャル装置60及び前後進切換え装置40等を介して、第2軸22a、セカンダリコーンカップ22、大径ギヤ22b、ギヤ12aを介して第2回転要素12を減速させる際、コーンカップ式無段変速装置20が減速比を大きくするように無段変速し、つまり第2回転要素12の回転数が小さくなると共に、プライマリコーンカップ21、第1軸5、及び第1回転要素11の回転数を略々そのまま維持するように変速を行う。これにより、第1回転要素11の回転に基づき第2回転要素12の回転に対して増速される第3回転要素13は、大幅に増速されて回転数が上昇し、フライホイール30が高回転にされていく(図8(b)参照)。従って、フライホイール30が車輌の慣性エネルギーを吸収する形で高回転状態にされ、車輌はフライホイール30の回転上昇によって回生された形で車速が低下し、減速される。
【0079】
車輌の停車時にあっては、車輌停止の直前にフライホイール切離し用クラッチCを解放して、フライホイール30を第3回転要素13から切離し、フライホイール30の高回転状態を維持する(図9(b)参照)。なお、車輌が停止し、駆動車輪3の回転が停止すると、コーンカップ式無段変速装置20のセカンダリコーンカップ22及びプライマリコーンカップ21の回転も停止し、つまり増速プラネタリギヤ10においても、第1回転要素11、第2回転要素12、第3回転要素13の回転が停止される。
【0080】
その後、車輌の発進時にあっては、エンジン切離し用クラッチCと発進クラッチCとを解放した状態で、フライホイール切離し用クラッチCを係合し、コーンカップ式無段変速装置20の減速比に基づき第1回転要素11と第2回転要素12とを回転状態にする。つづいて発進クラッチCを徐々に係合し、フライホイール30の回転数を徐々に下げながら、第2回転要素12(即ち駆動車輪3)の回転数を上昇していき、つまりフライホイール30の回転エネルギーにより車輌を発進させる(図10(b)参照)。
【0081】
車輌発進後は、エンジン2を再始動して第1回転要素11の回転数に合わせてからエンジン切離し用クラッチCを係合すると共に、フライホイール切離し用クラッチCを解放し、上述した車輌の走行状態に移行する。なお、無段変速機1に発進クラッチCが備えられていない場合は、上記フライホイール切離し用クラッチCを徐々に係合していくことで、同様な車輌の発進を達成することもできる。
【0082】
また、車輌停止状態からフライホイール30の回転エネルギーで車輌を発進させるのではなく、エンジン2の再始動を行うことも可能である。その場合は、エンジン切離し用クラッチCと発進クラッチCとを解放した状態で、フライホイール切離し用クラッチCを係合し、コーンカップ式無段変速装置20の減速比に基づき第1回転要素11と第2回転要素12とを回転状態にする。つづいてエンジン切離し用クラッチCを徐々に係合し、フライホイール30の回転数を徐々に下げながら、エンジン2の回転数を上昇していき、つまりフライホイール30の回転エネルギーによりエンジン2を回転上昇させ、エンジン2の再始動を行う(図11(b)参照)。エンジン再始動後は、発進クラッチCを徐々に係合すると共に、フライホイール切離し用クラッチCを解放し、上述した車輌の走行状態に移行する。
【0083】
なお、以上のように構成され、作用する無段変速機1の効果は、実施例1の効果と略々同様であるので、その説明を省略する。
【0084】
なお、以上説明した実施例1〜実施例4においては、無段変速装置としてベルト式やコーンカップ式のものを説明したが、これに限らず、例えばトロイダル式のものであってもよく、つまり無段変速し得るものであれば、どのような無段変速装置であってもよい。
【0085】
また、以上説明した実施例1〜実施例4における、増速プラネタリギヤ10、前後進切換え機構40、カウンタ機構50、ディファレンシャル装置60等の構成は、その用途に応じて種々変更が可能であることは言うまでもない。
【0086】
また、本発明におけるフライホイール30は、例えば真空状態に密閉して隔離する等、回転状態において長時間放置された場合にも回転エネルギーが低下することの防止を図る構造を付加することが好ましい形態である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る無段変速機は、乗用車、トラック、バス、農機等の車輌に搭載されるものとして用いることが可能であり、特に車輌の走行時の慣性エネルギーを溜めて、加速時、再発進時、エンジンの再始動時等に利用することで燃費向上等が図られるものに用いて好適である。
【符号の説明】
【0088】
1 無段変速機
2 駆動源(エンジン)
3 駆動車輪
10 増速プラネタリギヤ
11 第1回転要素
12 第2回転要素
13 第3回転要素
20 無段変速装置
21 入力部材
22 出力部材
30 フライホイール
第1クラッチ(フライホイール切離し用クラッチ)
第2クラッチ(プラネタリギヤ切離し用クラッチ)
第3クラッチ(エンジン切離し用クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続される入力部材と駆動車輪に接続される出力部材とを有して前記駆動源と駆動車輪との相対回転を無段変速し得る無段変速装置を備えた無段変速機において、
前記無段変速装置の入力部材に接続される第1回転要素、前記無段変速装置の出力部材に接続される第2回転要素、前記第1回転要素の回転に基づき前記第2回転要素の回転に対して増速回転する第3回転要素を備えた増速プラネタリギヤと、
前記第3回転要素に接続されるフライホイールと、を備えた、
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記第3回転要素と前記フライホイールとの間を係脱自在な第1クラッチを備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記無段変速装置の出力部材と前記第2回転要素との間を係脱自在な第2クラッチを備えた、
ことを特徴とする請求項1または2記載の無段変速機。
【請求項4】
前記駆動源と前記第1回転要素との間を係脱自在な第3クラッチを備えた、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−208417(P2010−208417A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55097(P2009−55097)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】