説明

無線装置、無線通信方法

【課題】従来の無線装置においては、隠れ端末状態にあった端末を適切に検出できなかったという課題があった。
【解決手段】パケット送信に用いるキャリアセンス感度と、パケット受信に用いる受信感度でありキャリアセンスレベルより大きい値の受信感度とを格納し得るキャリアセンス感度管理部と、外部からパケットを受信し、復調する復調部と、データを変調し、変調したパケットを外部に送信する変調部と、復調部が復調したデータを処理し、かつ、変調部にデータを渡すデータ処理部と、キャリアセンス感度管理部に格納されているキャリアセンス感度を用いて、変調部にパケットを外部に送信するように指示し、キャリアセンス感度管理部に格納されている受信感度を用いて、復調部にパケットを復調するように指示するキャリアセンス部とを具備する無線装置により、隠れ端末状態にあった端末を適切に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車々間通信等に用いる無線装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の第一の技術において、キャリアセンス方式で無線通信を行うにあたって、隠れ端末を高い精度で判定できる、とする技術があった(特許文献1参照)。本発明は、各端末装置において、通信状態判定部が送信および受信時における無線通信部での通信状態を判定する。次に、ログ生成部が、エラー無く送受信できたかどうかの判定結果を、時計部で得られた時刻情報と対応付けて、送信状態管理ログおよび受信状態管理ログを生成し、記憶部に記憶させる。そして、信号処理部は、生成された送信状態管理ログを、無線通信部を介して他端末と交換する。そして、他端末から受信した送信状態管理ログと記憶部に記憶している受信状態管理ログとを比較し、自機で受信エラーが発生した際、他の複数の端末で送信エラーが発生していた場合は、それらの他の端末は互いに隠れ端末の関係にあると判定し、外部へ報知するものである。
【0003】
また、従来の第二の技術において、パケットの送信タイミングがほぼ同じとなる自動車が特定の場所に集中するような場合にパケット衝突を低減することが可能な車々間通信装置があった(特許文献2参照)。本車々間通信装置は、送受信制御手段と送信位相制御手段とを備える。送受信制御手段は、キャリアセンスにより無線キャリアを監視する機能と自車情報を含むパケットを一定送信間隔で送信する機能とを有する。送信位相制御手段は、キャリアの状況に基づきパケットの送信タイミングがBusyであると判定した場合に、送信タイミングの位相の変更を指示する。そして、送受信制御手段は、前記指示に従いパケットの送信タイミングの位相を変更し、以降、変更後の新たな送信タイミングを基準として一定送信間隔でパケットを送信するものである。
【0004】
また、従来の第三の技術は、見通し不良通信(出会い頭衝突防止)での隠れ端末対策を行おうとしている技術である(非特許文献1参照)。本従来技術では、時間軸方向に対して、如何に隠れ端末問題を回避するかが課題となる。しかしながら、本従来技術における無線仕様(図7)から、以下の様な特徴があることが分かる。本従来技術で利用する周波数帯が720MHz帯であり、5.8GHz帯のITS通信に比べて、電波が回り込みやすい。すなわち、見通し不良(NLOS:Non Line of Sight)環境下でも電波の回りこみが期待される。また、周波数帯720MHz、周波数帯域10MHzから雑音電力は約−98dBm程度になる。また、本従来技術では、受信感度及びキャリアセンス感度は、−77dBmである。
さらに、従来の第四の技術は、AGC増幅器の利得を電子的に制御して、無線端末の受信感度を調節することを特徴とする技術である(特許文献3参照)。本技術は、受信できるダイナミックレンジを調整する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−237840号公報
【特許文献2】特開2008−301370号公報
【特許文献3】特開2000−36981号公報(段落[0055]等)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「車々間通信に適した通信制御プロトコルの検討」、日本無線技報, No.55, 2008-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の第一の技術においては、効率的な無線送信を実現できなかった。つまり、従来の第一の技術では、送受信すべきパケットだけでなく、管理ログを送る必要があり、これがトラフィックの冗長成分になり、逆に、管理ログを送信しているために、本来送るべきパケットが送信できない可能性もあった。また、パケット衝突の可能性が高くなる、という課題があった。
【0008】
また、従来の第二の技術は、受信電力レベルを用いて、送信側タイミング、および受信側ロックタイミングの調整を行なうものであり、パケット衝突を低減できるが、エラーを含むパケットの受信確率を低減できず、効率的な無線通信を実現できなかった。
【0009】
また、従来の第三の技術では、周波数帯域が広い場合、また、電波が周波数帯の特徴により回り込む場合、雑音電力以上で、かつ、受信感度以下の電力を受信していた場合、アイドルと判断してしまい、パケットを送信してしまうため、パケット衝突が発生していた。
さらに、従来の第四の技術では、検知するレベルを無線仕様に基づいて調整するようなものではない。
【0010】
つまり、従来技術においては、雑音電力以上受信感度以下の電力を受信中に、キャリアセンスの結果、アイドル状態と判断してしまい、パケット衝突が発生する。一方、キャリアセンス感度を単純に下げすぎると、無線装置の雑音電力に反応し、常にbusy状態になりかねない。受信感度は、例えば、BER(Bit Error Rate)が10−5の時のEb/Noで規定される。PERはBERに対して、例えば、2桁悪いとすると、10−3の割合でパケットエラーは発生する。また、パケット受信に対して、所望CNR以下のパケットを検知して復調しても、パケット誤りになってしまう、という課題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本第一の発明の無線装置は、パケット送信に用いるキャリアセンス感度と、パケット受信に用いる受信感度でありキャリアセンスレベルより大きい値の受信感度とを格納し得るキャリアセンス感度管理部と、外部からパケットを受信し、復調する復調部と、データを変調し、変調したパケットを外部に送信する変調部と、復調部が復調したデータを処理し、かつ、変調部にデータを渡すデータ処理部と、キャリアセンス感度管理部に格納されているキャリアセンス感度を用いて、変調部にパケットを外部に送信するように指示し、キャリアセンス感度管理部に格納されている受信感度を用いて、復調部にパケットを復調するように指示するキャリアセンス部とを具備する無線装置である。
【0013】
かかる構成により、パケット衝突を少なくし、かつ、効率的な無線通信を実現できる。
【0014】
また、本第二の発明の無線装置は、第一に対して、キャリアセンス感度は、雑音電力レベル+α(αは正の値)である無線装置である。
【0015】
かかる構成により、パケット衝突を少なくし、かつ、効率的な無線通信を実現できる。
【0016】
また、本第三の発明の無線装置は、第一または第二に対して、受信感度は、雑音電力レベル+SNR±β(βは正の値)である無線装置である。
【0017】
かかる構成により、パケット衝突を少なくし、かつ、効率的な無線通信を実現できる。
【0018】
また、本第四の発明の無線装置は、第一から第三いずれかに対して、キャリアセンス部は、パケットの受信電力が、キャリアセンス感度管理部に格納されている受信感度以上、または受信感度より大きい場合、復調部にパケットを復調するように指示する無線装置である。
【0019】
かかる構成により、効率的な無線通信を実現できる。
【0020】
また、本第五の発明の無線装置は、第一から第四いずれかに対して、キャリアセンス感度、および受信感度は、周波数帯、占有帯域幅、所望のCNR(キャリア対ノイズ比)、雑音電力、および受信感度のうちの1以上の情報を用いてシミュレーションされた結果である電波伝搬特性評価を用いて決定された値である無線装置である。
【0021】
かかる構成により、パケット衝突を非常に少なくし、かつ、極めて効率的な無線通信を実現できる。
【0022】
また、本第六の発明の無線装置は、第一から第五いずれかに対して、無線装置は、車々間通信装置に利用される無線装置である。
【0023】
かかる構成により、車々間通信装置において、パケット衝突を少なくし、かつ、効率的な無線通信を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明による無線装置によれば、効率的な無線通信を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態1における無線装置1が利用される一態様を示す概念図
【図2】同無線装置のブロック図
【図3】同無線装置の動作について説明するフローチャート
【図4】同キャリアセンス感度と受信感度との関係を示す図
【図5】同車々間通信を行う環境の例を示す図
【図6】同受信電力特性を示すグラフ
【図7】同従来技術における無線装置の無線仕様を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、無線装置等の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0027】
(実施の形態1)
【0028】
本実施の形態において、「キャリアセンス感度<受信感度」とすることにより、効率的な無線通信を実現する無線装置等について説明する。
【0029】
図1は、本実施の形態における無線装置1が利用される一態様を示す概念図である。図1において、車々間通信装置を有する移動体(自動車、二輪車など)を複数有する。車々間通信装置は、移動体に設置され、無線装置1を具備する。図1において、例えば、移動体C1と移動体C2が相互に通信する(車々間通信を行う)。
【0030】
図2は、本実施の形態における無線装置1のブロック図である。無線装置1は、キャリアセンス感度管理部11、復調部12、データ処理部13、変調部14、キャリアセンス部15、受付部16、設定変更部17を具備する。なお、無線装置1は、キャリアセンス機能を有し、例えば、CSMA/CA方式により無線通信を行う。
【0031】
キャリアセンス感度管理部11は、パケット送信に用いるキャリアセンス感度と、パケット受信に用いる受信感度とを格納し得る。そして、受信感度は、キャリアセンスレベルより大きい値である。また、キャリアセンス感度は、雑音電力レベル+α(αは正の値)であることは好適である。また、受信感度は、雑音電力レベル+所望SNR±β(βは正の値)であることは好適である。さらに、キャリアセンス感度、および受信感度は、周波数帯、占有帯域幅、所望のCNR(キャリア対ノイズ比)、雑音電力、および受信感度のうちの1以上の情報を用いてシミュレーションされた結果である電波伝搬特性評価を用いて決定された値であることは好適である。
【0032】
具体的には、シミュレーションにおいて、周波数帯は、電波の回り込みの特性を考慮して決定される。また、占有帯域幅は、雑音電力を見積もるために設定される。また、見通し通信か見通し外通信かを考慮して、アプリケーションシナリオが設定される。なお、アプリケーションシナリオとは、アプリケーションの種類をいう。アプリケーションの種類には、例えば、出会い頭衝突防止アプリケーション、右折事故防止アプリケーションなどがある。
【0033】
キャリアセンス感度管理部11は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。また、キャリアセンス感度管理部11にキャリアセンス感度と受信感度が記憶される過程は問わない。例えば、記録媒体を介してキャリアセンス感度等がキャリアセンス感度管理部11で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信されたキャリアセンス感度等がキャリアセンス感度管理部11で記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力されたキャリアセンス感度等がキャリアセンス感度管理部11で記憶されるようになってもよい。
【0034】
復調部12は、外部からパケットを受信し、復調する。復調部12は、通常、他の移動体に搭載されている無線装置1からパケットを受信し、復調する。復調部12は、例えば、受信手段と復調回路で実現され得る。
【0035】
データ処理部13は、復調部12が復調したデータを処理し、かつ、変調部14にデータを渡す。データ処理部13が変調部14に渡すデータは、復調部12が復調したデータを処理した結果でも良いし、無線装置1を有する車々間通信装置が搭載された移動体や、車々間通信装置などから取得したデータなど、何でも良い。つまり、復調部12に渡すデータは問わず、かつ、データ処理部13が行う処理の内容は問わない。例えば、復調部12が復調したパケットには、当該パケットを送付した移動体の識別情報である移動体識別子と、当該移動体の位置を示す位置情報とが含まれる、とする。そして、データ処理部13は、例えば、復調部12が復調したパケットに含まれる位置情報を用いて、図示しないナビゲーション端末の地図上に、当該位置情報が示す位置に、移動体識別子または移動体の存在を示す図柄などを出力する。また、データ処理部13は、図示しないGPS受信機(車々間通信装置が有するGPS受信機)が取得した位置情報と、自車の識別情報である自車両識別子とを含む情報を構成し、後述する変調部14に渡す。そして、変調部14は、受け付けた情報を変調し、送信する。なお、かかる情報を、他の移動体に送信するのは、例えば、自車の位置を他の移動体に知らせる等の目的のためである。
【0036】
データ処理部13は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。データ処理部13の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0037】
変調部14は、データを変調し、変調したパケットを外部に送信する。変調部14は、例えば、変調回路と送信手段により実現され得る。なお、復調部12を構成する受信手段と、変調部14を構成する送信手段とは、物理的に一の手段(送受信手段)により実現されていても良い。また、復調部12を構成する復調回路と、変調部14を構成する変調回路とは、物理的に一の手段(変復調回路)により実現されていても良い。
【0038】
キャリアセンス部15は、キャリアセンス感度管理部11に格納されているキャリアセンス感度を用いて、変調部14にパケットを外部に送信するように指示する。また、キャリアセンス部15は、キャリアセンス感度管理部11に格納されている受信感度を用いて、復調部12にパケットを復調するように指示する。
【0039】
さらに具体的には、「受信感度を用いて」とは、キャリアセンス部15が、パケットの受信電力を取得し、当該受信電力が、キャリアセンス感度管理部11に格納されている受信感度以上、または受信感度より大きい場合、復調部12にパケットを復調するように指示することである。なお、ここでの指示とは、結果として、復調部12がパケットを復調すれば良い。
【0040】
また、具体的には、「キャリアセンス感度」を用いてとは、キャリアセンス部15が、パケットの受信電力を取得し、当該受信電力が、キャリアセンス感度より小さい電力の場合、変調部14にパケットを外部に送信するように指示することである。なお、ここでの指示とは、結果として、変調部14がパケットを送信すれば良い。
【0041】
キャリアセンス部15は、上記の処理を行う制御回路で実現されても良いし、MPUやメモリ等から実現されても良い。
【0042】
受付部16は、キャリアセンス感度、受信感度のうちのどちらか一方または両方の変更を受け付ける。受付部16は、ユーザからキャリアセンス感度等の変更の指示(変更する値を含む)を受け付けても良いし、キャリアセンス感度等を外部から受信しても良いし、図示しない他の処理部からキャリアセンス感度等を受け付けても良い。キャリアセンス感度等の入力手段は、テンキーやキーボードやマウスやメニュー画面によるもの等、何でも良い。受付部16は、テンキーやキーボード等の入力手段のデバイスドライバーや、メニュー画面の制御ソフトウェア等で実現され得る。
【0043】
設定変更部17は、受付部16が受け付けたキャリアセンス感度または/および受信感度を、キャリアセンス感度管理部11に書き込む。ここでの書き込みは、通常、上書きである。なお、設定変更部17は、キャリアセンス感度または/および受信感度の変更履歴をとっておいても良い。設定変更部17は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。設定変更部17の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0044】
次に、無線装置1の動作について図3のフローチャートを用いて説明する。
【0045】
(ステップS301)復調部12は、パケットを受信したか否かを判断する。パケットを受信すればステップS302に行き、パケットを受信しなければステップS307に行く。
【0046】
(ステップS302)キャリアセンス部15は、キャリアセンス感度管理部11に格納されている受信感度を読み出す。
【0047】
(ステップS303)キャリアセンス部15は、受信電力を取得する。
【0048】
(ステップS304)キャリアセンス部15は、「受信電力>受信感度」であるか否かを判断する。「受信電力>受信感度」であればステップS305に行き、「受信電力>受信感度」でなければステップS301に戻る。
【0049】
(ステップS305)復調部12は、ステップS301で受信されたパケットを復調する。
【0050】
(ステップS306)データ処理部13は、ステップS305で復調されたデータを処理する。なお、受信されたデータの処理をデータ処理1とする。ステップS301に戻る。
【0051】
(ステップS307)データ処理部13は、データ処理2を行う。データ処理2とは、外部に送信するデータを構成する処理である。なお、このタイミングでのデータ処理2は、何も行わない(NOP)である場合もある。そして、このタイミングでのデータ処理2がNOPである場合、ステップS308における判断は、データを送信しないとの判断となる。
【0052】
(ステップS308)キャリアセンス部15は、データを送信するか否かを判断する。なお、キャリアセンス部15は、例えば、データを送信すべき領域に入ったことを検知した場合に、データを送信すると判断する。また、キャリアセンス部15は、例えば、定期的に、データを送信するタイミングであると判断する。その他、データを送信するとの判断結果を得るためのアルゴリズムは問わない。例えば、常にデータを送信するとして、本ステップをスキップしても良い。データを送信すると判断した場合はステップS309に行き、データを送信しないと判断した場合はステップS301に戻る。
【0053】
(ステップS309)キャリアセンス部15は、キャリアセンス感度管理部11に格納されているキャリアセンス感度を読み出す。
【0054】
(ステップS310)キャリアセンス部15は、受信電力を取得する。
【0055】
(ステップS311)キャリアセンス部15は、「受信電力<キャリアセンス感度」であるか否かを判断する。「受信電力<キャリアセンス感度」であればステップS312に行き、「受信電力<キャリアセンス感度」でなければステップS310に戻る。
【0056】
(ステップS312)変調部14は、ステップS307で構成されたデータを変調し、送信するパケットを得る。
【0057】
(ステップS313)変調部14は、ステップS312で取得したパケットを外部に送信する。ステップS301に戻る。外部への送信は、通常、ブロードキャストであるが、特定の無線装置に送信するなどしても良い。
【0058】
なお、図3のフローチャートにおいて、ステップS312の変調処理は、ステップS307以降のステップであり、かつステップS313より前のステップであれば、いつに行っても良い。
【0059】
また、図3のフローチャートにおいて、電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。
さらに、図3のフローチャートには示さなかったが、無線装置1の受付部16は、キャリアセンス感度、受信感度のうちのどちらか一方または両方の変更を受け付けた場合、設定変更部17は、受付部16が受け付けたキャリアセンス感度、受信感度のうちのどちらか一方または両方を、キャリアセンス感度管理部11に書き込む。
【0060】
以下、本実施の形態における無線装置1の具体的な動作について説明する。
【0061】
今、無線装置1のキャリアセンス感度管理部11は、例えば、図4に示すようなキャリアセンス感度と受信感度とを格納している、とする。つまり、図4に示すように、本具体例では、パケット送信に対するキャリアセンス感度を「キャリアセンス感度=雑音電力レベル+α(dBm)(αは正の値)」に設定する。また、キャリアセンス感度を受信感度よりも低く設定している。キャリアセンス感度を受信感度よりも低く設定することにより、無線装置1は、受信感度よりも小さい電力を受信中であっても、busy状態と判断することができる。また、雑音電力分に対してα(dB)のマージンを持たせることで、雑音電力に対して、busy状態と判断しないようにすることができる。このことにより、隠れ端末問題が解決し得る。
【0062】
次に、パケット受信側について、説明する。無線装置1が受信感度以下のパケットを復調しても、パケット誤りが発生してしまう可能性がある。そして、受信電力の大きいパケットに受信電力の小さいパケットが衝突した場合、電力の高い方のみをビットエラーなしにデータ復調できれば、パケット衝突エラー低減につながる。受信電力の小さいパケットに受信電力の大きいパケットが衝突した場合には、後から届いた電力の高いパケットのみを復調処理を行なえば良い。よって、パケット復調するか否かを判断するために利用する受信感度を、「受信感度=雑音電力レベル+所望SNR±β(dBm)(βは正の値)」と設定する。そして、復調部12は、「受信電力>受信感度」であれば受信したパケットを復調し、「受信電力>受信感度」でなければ復調しない。かかることにより、ビットエラーなしにデータ復調でき、その結果、効率的な通信処理が可能となる。
【0063】
なお、キャリアセンス感度管理部11のキャリアセンス感度と受信感度とが用いる雑音電力レベル、雑音指数は無線装置設計に基づいて、調整を行うことが好適である。
また、上記のα及びβの数値は、無線周波数、周波数帯域、電波伝搬特性に基づいて、調整を行なう。また、βの値は、誤り訂正能力を考慮したBER(Bit Error Rate)特性、パケット長から、設定を行なう。
【0064】
今、図5は、交差点の4つの角全てを壁で囲われた道路で、見通し環境下(横方向下側車線、横方向上側車線)と見通し外環境下(縦方向左側車線、縦方向右側車線)での移動体C1と移動体C2等の移動体が相互に通信する(車々間通信を行う)ことを想定する。また、図6は、かかる場合の受信電力特性を示すグラフである。図6中には、所望SNRを10dBとした場合の受信感度も示している。横方向の車線は受信電力からも分かるように、受信感度以上の受信電力が得られ、「キャリアセンス感度=受信感度」であっても、十分にidle状態かbusy状態かを検知できる。しかしながら、縦方向車線の場合には、受信感度以下の受信電力を受ける場合が多い。この場合、「キャリアセンス感度=受信感度」と設定すると、隠れ端末状態になり、idle状態と判断してしまい、送信してしまうことになる。
【0065】
そこで、無線装置1は、図4に示すようなキャリアセンス感度と受信感度とを用いる。そして、かかる場合の無線装置1の動作について説明する。
【0066】
まず、無線装置1のパケットの受信機能について説明する。復調部12は、まず、パケットを受信する。
【0067】
次に、キャリアセンス部15は、キャリアセンス感度管理部11に格納されている受信感度を読み出す。そして、キャリアセンス部15は、受信電力を取得する。
【0068】
そして、キャリアセンス部15は、「受信電力>受信感度」であるか否かを判断する。そして、「受信電力>受信感度」であれば、キャリアセンス部15は、復調部12に受信されたパケットを復調するように指示する。ここで、「受信電力<=受信感度」であれば、キャリアセンス部15は、復調部12に受信されたパケットを復調するように指示しない。
【0069】
そして、復調部12は、指示にしたがって、受信したパケットを復調して、データ処理部13に渡す。
【0070】
次に、データ処理部13は、渡されたパケットを処理する。具体的には、データ処理部13は、例えば、パケットに含まれる位置情報を用いて、移動体が存在する位置を特定し、図示しないナビゲーション端末に移動体を表示する。
【0071】
次に、無線装置1のパケットの送信機能について説明する。例えば、無線装置1のデータ処理部13は、定期的に、図示しないGPS受信機により取得された位置情報(本移動体の位置を示す情報)を得る。そして、データ処理部13は、図示しない記憶媒体に格納されている移動体識別子を読み出す。この移動体識別子は、無線装置1が搭載された移動体を識別する情報である。
【0072】
そして、データ処理部13は、位置情報と移動体識別子を有する情報であり送信する情報である送信情報を構成する。なお、送信情報は、例えば、時刻情報を有するなどしても良い。時刻情報は、例えば、外部から取得しても良いし、移動体や無線装置1内部の図示しない時計から取得しても良い。
【0073】
次に、キャリアセンス部15は、データを送信するタイミングか否かを判断する。なお、キャリアセンス部15は、例えば、定期的に、情報を送信するタイミングであると判断する、とする。
【0074】
そして、キャリアセンス部15は、データを送信するタイミンであると判断した時、キャリアセンス感度管理部11に格納されているキャリアセンス感度を読み出す。
【0075】
次に、キャリアセンス部15は、受信電力を取得する。そして、キャリアセンス部15は、「受信電力<キャリアセンス感度」であるか否かを判断する。「受信電力<キャリアセンス感度」であれば、キャリアセンス部15は、変調部14は送信情報を変調するように指示する。
【0076】
次に、変調部14は、送信情報を変調し、送信するパケットを得る。そして、変調部14は、取得したパケットを外部に送信する。
【0077】
以上、本実施の形態における無線装置1によれば、これまで受信感度以下で隠れ端末状態となり、未検出であった端末に対しても、busy/idle検出が可能になり、パケット衝突が回避可能となる。また、本実施の形態における無線装置1によれば、受信電力が小さいエラーを含む可能性の高いパケットを復調することを行うことを回避でき、効率的な通信処理が行える。
【0078】
また、本実施の形態において、キャリアセンス感度と受信感度とが用いる雑音電力レベル、雑音指数は無線装置設計に基づいて、調整を行うことにより、環境に適用したキャリアセンス感度と受信感度とが設定でき、隠れ端末問題をより適切に回避したり、より効率的な通信処理(冗長パケットの削減)が行える。
具体的には、以下のように、雑音電力レベル等が調整され得る。
図4において、「キャリアセンス感度(dBm)=雑音電力密度+雑音帯域幅+雑音指数+α」((1)式)である。なお、キャリアセンス感度は、無線装置1(本発明)のキャリアセンス感度である。
(1)式において、雑音電力密度は、「−173.1dBm/Hz」である。また、雑音帯域幅は、「10log10(w)」で求められる。ここで、wは無線仕様で規定される帯域幅(Hz)である。さらに、雑音指数は、無線装置1に依存する数値である。
一方、図4に示すように、従来技術のキャリアセンス感度は、「従来技術のキャリアセンス感度(dBm)=雑音電力密度+雑音帯域幅+雑音指数+SNR」((2)式)として規定される。このSNRは、例えば、「BER(Bit Error Rate)=10−5」となる時のSNRである。ここで、SNRは、誤り訂正能力を含んだ所望Eb/No値である。
【0079】
さらに、本実施の形態において、上記のα及びβの数値を、無線周波数、周波数帯域、電波伝搬特性に基づいて、調整を行なったり、βの値を、誤り訂正能力を考慮したBER(Bit Error Rate)特性、パケット長から設定を行なうことにより、隠れ端末問題をより適切に回避したり、より効率的な通信処理(冗長パケットの削減)が行える。
αを調整する上で、下限に関しては無線装置1に依存し、無線装置1が常時、busy状態にならないようにレベルの調整を行う。上限に関しては電波伝搬特性に依存する。上限に関して電波伝搬特性に依存することは、すなわち、無線周波数(例えば、700MHz帯、5.8GHz帯)、アンテナ高さに依存することである。そのために、図6に示す電波伝搬特性をシミュレーション評価及び実測値から測定を行い、各アプリケーションシナリオで要求される通信サービスエリアから、αを決定する必要がある。
一方、無線装置1の受信感度は、「受信感度=雑音電力密度+雑音帯域幅+雑音指数+SNR±β」((3)式)となる。βの値は、誤り訂正とパケット長を考慮したPER(Packet Error Rate)から、算出される。例えば、従来の規定が「PER=10−3」で規定されている場合、「PER=10−2」と規定しても良い。
なお、上記の(1)式から(3)式では、電力のレベルに対する式を記載しているが、受信電力が変動することを考慮して、各出力の数サンプルの平均を用いても良い。
また、例えば、図7の無線仕様を有する無線装置は、720MHzの無線装置であり、このUHF帯の特徴として、電波が回り込むことが着たいされている。実際、図6中のNLOSの特性((3)縦方向左側車線(4)縦方向)右側車線の特性では、(2)式中で「SNR=10dB」とした際の受信感度を記載しており、受信感度以下であるが、電波が届いている。また、無線使用特性が図6と図7で異なるところがあり、一概には比較できないが、図7では受信感度が「−77dB」と高い値になっている。これは、周波数帯域が10MHzと広いため、雑音電力が上がった結果である。
よって、図6から、(2)式中の「SNR=0dB」とすると、±200mの通信エリアでは受信電力を検知することが可能となる。しかし、「SNR=0dB」とすると、自局の雑音電力を検知して、常にbusy状態になってしまう可能性がある。α値を下げるための算出には、アプリケーションシナリオのサービスエリア範囲と図6の特性から調整を行うことができる。α値を上げるための算出には、無線装置1が対雑音電力に対して、キャリア検知しないかを実機により、調整すればよい。また、電力値の変動に対応するために、数から数十のサンプルの平均を取得することで抑制できると好適である。上記の方法により算出されるα、βは、ともに概ね0〜10db程度の数値となる。
【0080】
なお、本実施の形態において、上述したように、データ処理部13における処理内容は問わない。
【0081】
また、上記各実施の形態において、一の装置に存在する2以上の通信手段は、物理的に一の媒体で実現されても良いことは言うまでもない。
【0082】
また、上記各実施の形態において、各処理(各機能)は、単一の装置(システム)によって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置によって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0083】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明にかかる無線装置は、隠れ端末状態にあった端末を適切に検出できるという効果を有し、無線装置等として有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 無線装置
11 キャリアセンス感度管理部
12 復調部
13 データ処理部
14 変調部
15 キャリアセンス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パケット送信に用いるキャリアセンス感度と、パケット受信に用いる受信感度であり前記キャリアセンスレベルより大きい値の受信感度とを格納し得るキャリアセンス感度管理部と、
外部からパケットを受信し、復調する復調部と、
データを変調し、当該変調したパケットを外部に送信する変調部と、
前記復調部が復調したデータを処理し、かつ、前記変調部にデータを渡すデータ処理部と、
前記キャリアセンス感度管理部に格納されているキャリアセンス感度を用いて、前記変調部にパケットを外部に送信するように指示し、前記キャリアセンス感度管理部に格納されている受信感度を用いて、前記復調部にパケットを復調するように指示するキャリアセンス部とを具備する無線装置。
【請求項2】
前記キャリアセンス感度は、
雑音電力レベル+α(αは正の値)である請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
前記受信感度は、
雑音電力レベル+SNR±β(βは正の値)である請求項1または請求項2記載の無線装置。
【請求項4】
前記キャリアセンス部は、
パケットの受信電力が、前記キャリアセンス感度管理部に格納されている受信感度以上、または前記受信感度より大きい場合、前記復調部にパケットを復調するように指示する請求項1から請求項3いずれか記載の無線装置。
【請求項5】
前記キャリアセンス感度、および前記受信感度は、
周波数帯、占有帯域幅、所望のCNR(キャリア対ノイズ比)、雑音電力、および受信感度のうちの1以上の情報を用いてシミュレーションされた結果である電波伝搬特性評価を用いて決定された値である請求項1から請求項4いずれか記載の無線装置。
【請求項6】
前記無線装置は、
車々間通信装置に利用される請求項1から請求項5いずれか記載の無線装置。
【請求項7】
記憶媒体に、
パケット送信に用いるキャリアセンス感度と、パケット受信に用いる受信感度であり前記キャリアセンスレベルより大きい値の受信感度とを格納しており、
外部からパケットを受信し、復調する復調ステップと、
データを変調し、当該変調したパケットを外部に送信する変調ステップと、
前記復調ステップで復調されたデータを処理し、かつ、前記変調ステップにデータを渡すデータ処理ステップと、
前記記憶媒体に格納されているキャリアセンス感度を用いて、前記変調ステップにおいてパケットを外部に送信するように指示し、前記記憶媒体に格納されている受信感度を用いて、前記復調ステップにおいてパケットを復調するように指示するキャリアセンスステップとを具備する無線通信方法。
【請求項8】
前記キャリアセンスステップにおいて、
パケットの受信電力が、前記キャリアセンス感度管理部に格納されている受信感度以上、または前記受信感度より大きい場合、前記復調部にパケットを復調するように指示する請求項7記載の無線通信方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−4084(P2011−4084A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144606(P2009−144606)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「民間基盤技術研究促進制度/高レスポンスマルチホップ自律無線通信システムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】