説明

熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法、及び放熱装置

【課題】発熱体や放熱体への密着性が高く、応力緩和性を有し、熱伝導性の高い熱伝導シートを提供する。
【解決手段】熱伝導シートは、熱伝導層10と、熱伝導層10の表面の両面又は片面に設けられた粘着層20と、を有する。熱伝導層10は、(A)10Ω・m以上の体積抵抗率及び20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子12と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物14と、を含み、非球状粒子12の長軸方向が、熱伝導層10の厚み方向に沿うように配向する。そして、粘着層20は、熱伝導層10に含有される前記有機高分子化合物14を主成分として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法、及び放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板、半導体パッケージに対する配線の高密度化や電子部品の搭載密度が大きくなり、また半導体素子も高集積化して単位面積あたりの発熱量が大きくなったため、半導体パッケージから発せられる熱の放散を効率よく行うことが望まれている。
【0003】
半導体パッケージでは、発熱体とアルミや銅等の放熱体との間に、熱伝導グリース又は熱伝導シートをはさんで密着させることにより熱を放散する放熱装置が一般に簡便に使用されている。このなかでも熱伝導シートは固体として取り扱えるため、熱伝導グリースよりも放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。
【0004】
また、熱伝導シートが接着可能な場合は、発熱体又は放熱体に熱伝導シートを仮付けすることが可能となり、作業性はさらに向上する。そのような熱伝導シートとしてはフェイズチェンジシートが挙げられる。しかしながら、接着型の伝熱シートを被設体に接着する際には、熱その他のエネルギーを加えなくてはならない。そのため、接着型の伝熱シートは、耐熱性の低い部材の放熱用途に用いることができない。また、更なる工程を追加するという工程の煩雑化の問題がある。
【0005】
これに対して、粘着性を有する熱伝導シートは、加熱工程を経ずに済むため用途に限定がなく、また追加の工程も不要であるため作業性は更に向上する。
【0006】
熱伝導シートに粘着性を付与する方法としては、表層に粘着性を有する膜や層を形成する方法がある。このような例として、例えば特許文献1では、熱伝導性の支持体の両面にシリコーンゲル層を設け、発熱体や放熱体との密着性を高めている。このシリコーンゲル層によってシートの密着力が向上し、実装においても発熱体又は放熱体への仮固定が可能となる。特許文献2では、シリコーン系放熱シートの片面にアクリル系粘着剤又はウレタン系粘着剤を設け、発熱体と放熱体とを固定させている。特許文献3ではシート状黒鉛の両面にシート状エラストマー層が形成され、かつシート状黒鉛に貫通孔を設けてエラストマーを充填することで、熱伝導シート全体の強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−17923号公報
【特許文献2】特開2001−348542号公報
【特許文献3】特開2001−358264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前出の特許文献1の熱伝導シートでは、シリコーンゲル層は十分な接着力を有していないため、熱応力の発生する放熱装置において、長期間の接着状態を維持するよう更なる改善が望まれる。また、特許文献2の熱伝導シートでは、シリコーン系放熱シートと粘着剤層とを接着するために、粘着剤層へのプライマー層の形成、粘着剤層へのシリコーンの直接塗工、その後の加熱架橋等、熱伝導シートの製造工程が複雑である。また、粘着剤層上にシリコーンを塗布するために、熱伝導シートの片面にしか粘着性を付与することができない。また、特許文献3の熱伝導シートでは、シート状黒鉛の貫通孔にエラストマーが充填されているために、シート状エラストマー層とシート状黒鉛との界面剥離が抑制されるが、貫通孔の形成や充填のために液状エラストマーにシート状黒鉛を浸漬する等、熱伝導シートの製造工程が複雑である。
【0009】
本発明の目的は、発熱体や放熱体への密着性が高く、応力緩和性を有し、熱伝導性の高い熱伝導シート、この熱伝導シートの製造方法、及びこの熱伝導シートを用いた放熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の通りである。
<1> 熱伝導層と、前記熱伝導層の表面の両面又は片面に設けられた粘着層と、を有し、
前記熱伝導層が、(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物と、を含み、前記非球状粒子(A)の長軸方向が、前記熱伝導層の厚み方向に沿うように配向し、
前記粘着層は、前記熱伝導層に含有される前記有機高分子化合物(B)を主成分として含み、
70℃におけるアスカーC硬度が40以下である熱伝導シート。
【0011】
<2> 非球状粒子(A)が、窒化ホウ素粒子及びアルミナ粒子の少なくとも一つを含む前記<1>に記載の熱伝導シート。
【0012】
<3> 前記粘着層の厚みが、0.1μm〜25μmである前記<1>又は<2>に記載の熱伝導シート。
【0013】
<4> 前記有機高分子化合物(B)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含む前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0014】
<5> 前記熱伝導層が、更に(C)りん酸エステル系難燃剤を、1〜50体積%の範囲で含有する前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0015】
<6> 前記熱伝導層の厚みが、前記非球状粒子(A)の長径の20倍以下である前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0016】
<7> 熱伝導率が、0.5W/mK以上である前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0017】
<8> 前記粘着層の外側表面のピール強度が、0.5N/25mm以上である前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0018】
<9>(イ)(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物、を含む組成物を混錬する工程、
(ロ)前記組成物に圧力をかけて、前記非球状粒子の長軸方向が主たる面に対して略平行な方向に配向する1次シートを作製する工程、
(ハ)前記1次シートを積層又は捲回して成形体を作製する工程、
(ニ)前記成形体に含まれる前記非球状粒子の長軸方向に対して90度〜60度の角度で、前記成形体をスライスして2次シートを作製する工程、及び
(ホ)前記2次シートの両面あるいは片面に、有機高分子化合物(B)を含む粘着層を形成する工程、
を経て形成される前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0019】
<10> 発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と前記放熱体との間に、該発熱体及び放熱体の双方に接するように配置した、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の熱伝導シートと、
を有する放熱装置。
【0020】
<11>(イ)(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物、を含む組成物を混錬する工程、
(ロ)前記組成物に圧力をかけて、前記非球状粒子の長軸方向が主たる面に対して略平行な方向に配向する1次シートを作製する工程、
(ハ)前記1次シートを積層又は捲回して成形体を作製する工程、
(ニ)前記成形体に含まれる前記非球状粒子の長軸方向に対して90度〜60度の角度で、前記成形体をスライスして2次シートを作製する工程、及び
(ホ)前記2次シートの両面あるいは片面に、有機高分子化合物(B)を含む粘着層を形成する工程、
を含む前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【0021】
<12> 前記工程(ニ)が、前記有機高分子化合物(B)のガラス転移温度よりも40℃低い温度から該ガラス転移温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内で実施される前記<11>に記載の熱伝導シートの製造方法。
【0022】
<13> 前記工程(ホ)が、支持基材上に形成された前記粘着層を2次シートに転写する工程である前記<11>又は<12>に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、実装工程を容易にする粘着性を有し、発熱体や放熱体への密着性が高く、応力緩和性を有し、熱伝導性の高い熱伝導シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の熱伝導シートの一例における断面構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<熱伝導シート>
本発明は、熱伝導層と、前記熱伝導層の表面の両面又は片面に設けられた粘着層と、を有する。そして、前記熱伝導層が、(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物と、を含む。また、前記非球状粒子(A)の長軸方向が、前記熱伝導層の厚み方向に沿うように配向している。前記粘着層は、前記熱伝導層に含有される前記(B)有機高分子化合物を主成分として含む。そして、70℃におけるアスカーC硬度が40以下である。
【0026】
本発明の熱伝導シートは、熱伝導層の表面に形成された粘着層に含まれる有機高分子化合物と、前記熱伝導層に含まれる有機高分子化合物とが、同じ系の有機高分子化合物で形成される。例えば、熱伝導層に含まれる有機高分子化合物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系化合物の場合には、粘着層に含まれる有機高分子化合物もポリ(メタ)アクリル酸エステル系化合物とする。そのため、有機高分子化合物どうしの相溶性が比較的高く、粘着層と熱伝導層は特別な接着工程を必要とせずに貼合するだけで高い密着力を示す。これにより、実装工程での固定部材数を低減できるほどの高い粘着力を有する。
【0027】
また、本発明の熱伝導シートは、20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子(A)の長軸方向が、熱伝導シートの厚み方向に配向しているため、膜厚方向への高い熱伝導率が達成される。更に、前記非球状粒子(A)は、10Ω・m以上の体積抵抗率であることから、この非球状粒子(A)を含有する熱伝導シートは非導電性を有する。
【0028】
更に、本発明の熱伝導シートは、70℃におけるシートのアスカーC硬度が40以下であるため、熱源となる半導体パッケージやディスプレイ等の発熱体に充分に密着される。その結果、放熱体への熱の伝達が良好となる。
【0029】
図1に、本発明の熱伝導シートの一例における断面構造を示す。
本発明の熱伝導シートは、熱伝導層10と、熱伝導層10の表面の両面又は片面に設けられた粘着層20と、を有する。熱伝導層10は、(A)10Ω・m以上の体積抵抗率及び20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子12と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物14と、を含む。そして、粘着層20は、熱伝導層10に含有される前述の有機高分子化合物14を主成分として構成される。
【0030】
非球状粒子12は、その長軸が熱伝導層10の厚み方向に沿うように配向している。熱伝導層10中での非球状粒子12の配向は、シート断面をSEM(走査型電子顕微鏡)等により観察できる。具体的には、任意の粒子50個について観察し、それら粒子の長軸方向が熱伝導層の主たる面に対する角度(90度以上となる場合は補角を採用する)の平均値を測定する。この平均値が60度〜90度の範囲となる場合を、熱伝導層10の厚み方向に沿うように非球状粒子12の長軸が配向していると判断する。
本発明の熱伝導層10で、非球状粒子12が上述のような配向を示さなければ、充分な熱伝導性を得ることができない。
【0031】
また、非球状粒子12は、熱伝導層10の表面から露出していることが好ましい。
熱伝導層10の表面での非球状粒子12の露出は、熱伝導層10の表面のSEM観察で評価できる。少なくとも3個以上の粒子を画面内で確認できる倍率でシート表面の写真を撮影し、総計30個以上の粒子が確認できる枚数の写真を用いて、観察される粒子の面積と表示画面の面積との比の平均値から、粒子の露出した面積率を求めることができる。
【0032】
更に、熱伝導層10の表面から露出している非球状粒子12の面積が5%以上の場合に、充分な熱伝導性が得られ好適である。また、シート表面に露出している粒子の面積が60%以下の場合には、シートの柔軟性や密着性に優れる傾向がある。熱伝導性と柔軟性又は密着性とを両立する観点からは、熱伝導層10の表面から露出している粒子の面積は、熱伝導層10の表面の面積の10%〜50%であることがより好ましく、20%〜40%であることが更に好ましい。
【0033】
熱伝導層10の厚みは、非球状粒子12の長径の20倍以下であることが好ましく、1倍以上20倍以下であることがより好ましく、3倍以上15倍以下であることが更に好ましい。非球状粒子12の長径に対する。熱伝導層10の厚みが20倍以内にあると、熱伝導性に優れる。
【0034】
具体的には、熱伝導層10の厚みは、0.05mm以上5mm以下であることが好ましく、0.08mm以上3mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上2mm以下であることがより好ましい。基材シートの厚みが上記範囲内にあると、取扱い性及び伝熱特性に優れる。
【0035】
なお、本発明の熱伝導シート中における熱伝導層の厚みは、厚さゲージによって測定し、その平均値(同一熱伝導層内の任意の5点での測定の平均値)とする。なお、厚さゲージとしては、例えば、デジタルダイヤルゲージ(株式会社ミツトヨ製、デジマチックインジケータID−C112C)が挙げられる。
【0036】
本発明の熱伝導シートは、熱伝導層10の表面の両面又は片面に粘着層20が設けられる。粘着層20に主として含まれる有機高分子化合物14は、熱伝導層10に含有される有機高分子化合物14と同種のものである。
【0037】
本発明の熱伝導シートの粘着力の高さは、粘着層20による被着体への濡れ性が高いこと、粘着層20と被着体との界面の相互作用力が高いこと、さらに熱伝導層10の柔軟性と適度な厚みにより粘弾性効果が得られることに起因する。
特に粘着層20に用いる有機高分子化合物14と熱伝導層10に用いられる有機高分子化合物14の相溶性が高いほど、粘着層20と熱伝導層10が一体化しやすくなり、粘着層20と熱伝導層10との界面の接着力が向上しやすくなる。その結果、粘着層20と熱伝導層10の界面破壊が起こりにくくなり、熱伝導シート全体の粘着力を向上させる傾向がある。
【0038】
熱伝導シートの粘着力をピール強度として表す場合、ピール強度は0.5N/25mm以上が好ましく、0.8N/25mm以上がより好ましく、1N/25mm以上が更に好ましく、1.5N/25mm以上が更に好ましい。ピール強度が上記範囲内にあると、熱伝導シートを仮固定するのに十分な粘着力となる。なお、本発明におけるピール強度は、後述の実施例に記載の方法により測定される値をいう。
【0039】
本発明の熱伝導シートの熱伝導率が高い理由は、熱伝導層10の熱伝導率が高いことに起因する。前記のように本発明に係る熱伝導層10は、20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子12を有し、且つこの非球状粒子12の長軸が熱伝導層10の厚み方向に配向しているため、高い熱伝導率を示す。更には、非球状粒子12が熱伝導層10の表面から露出していると、より高い熱伝導率を示す。
【0040】
熱伝導層10の高い熱伝導率を活かすために、粘着層20の厚みを調整することが好ましい。粘着層20が薄すぎる場合は熱伝導シートの粘着力が低下し、粘着層20が厚すぎる場合は熱伝導率が低下する傾向にある。
そこで、粘着層20の厚みは0.1μm〜25μmとすることが好ましく、0.3μm〜10μmがより好ましく、0.5μm〜8μmがさらに好ましい。
【0041】
本発明の熱伝導シート中における粘着層20の厚みは、光学式の膜厚測定器(例えば、F20、フィルメトリクス社製)によって測定し、その平均値(同一粘着層20内の任意の5点での測定の平均値)とする。
【0042】
また、熱伝導シートの熱伝導率は0.5W/mK以上が好ましく、1W/mK以上がより好ましく、1.5W/mK以上が更に好ましく、2W/mK以上が更に好ましい。熱伝導シートの熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により求める。詳細な測定方法は、後述の実施例に準ずる。
【0043】
本発明の熱伝導シートは、70℃におけるシートのアスカーC硬度が40以下である。70℃におけるシートのアスカーC硬度が40を超えると、熱源となる半導体パッケージやディスプレイ等の発熱体にシートが充分に密着できなくなる傾向がある。その結果、放熱体への熱の伝達が阻害されるだけでなく、熱応力の緩和が不充分となる可能性が高い。熱伝導シートの70℃におけるシートのアスカーC硬度は、好ましくは40以下であり、より好ましくは36以下である。
【0044】
なお、本発明において「70℃におけるシートのアスカーC硬度」とは、シートを厚み5mm以上になるように積層して得られる成形体を、ホットプレート上にのせ、表面温度計で測定される成形体の温度が70℃になるように加熱し、その際にアスカー硬度計C型で測定した値である。
【0045】
また、本発明の熱伝導シートは粘着層20を有するため、熱伝導シートの使用に先立ち、粘着層20の粘着面を保護シートなどにより保護しておくことが好ましい。
以下では、熱伝導シートを構成する部材毎に、用い得る材料を説明する。
【0046】
(1)熱伝導層10
〔(A)非球状粒子〕
本発明の熱伝導シートに含まれる非球状粒子12は、10Ω・m以上の体積抵抗率及び20W/mK以上の熱伝導率を有する。
【0047】
非球状粒子12の熱伝導率は、熱伝導層10の熱伝導性を高める観点から、20W/mK以上であることが好ましく、30W/mK以上であることがより好ましく、40W/mK以上であることが更に好ましい。
【0048】
非球状粒子12は、例えば、鱗片状、板状、楕球状または棒状といった非球状の配向に有利な形状を有する。ここで、本発明において「鱗片状」とは、魚の鱗のように、薄く平たい形状を示す。「楕球状」とは、ラグビーボールのように、楕円を回転した楕円体形状を示す。「棒状」とは、細長い(径に対する長さの割合が大きいもの、具体的には、径に対する長さの割合が100〜500程度)円柱形状や角柱状形状を示す。いずれの形状も異方性を有する形状となる。
【0049】
非球状粒子12に用いる材質の具体例としては、アルミナ(10〜1012Ω・m、21〜40W/mK)、酸化マグネシウム(1012〜1013Ω・m、60W/mK)、酸化ベリリウム(>1010Ω・m、130W/mK)、窒化アルミ(1011〜1012Ω・m、70〜200W/mK)、窒化ホウ素(1012〜1014Ω・m、40〜60W/mK)、窒化珪素(1012〜1014Ω・m、25〜155W/mK)等が挙げられる。
【0050】
特に限定するものではないが、本発明では、耐水性の高さ、および人体に対する有害性の低さの観点から、窒化ホウ素及びアルミナからなる群から選択される粒子の少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0051】
非球状粒子12の配合量は、特に限定されるものではないが、熱伝導層全体の体積を基準として、30〜70体積%の範囲が好ましい。配合量が30体積%以上の場合には、熱伝導性率が十分となる傾向があり、配合量が70体積%以下の場合には、アスカーC硬度が低くなって密着性が向上する傾向にある。
【0052】
なお、本明細書における非球状粒子の含有量(体積%)は、次式により求めた値とする。
【0053】
非球状粒子の含有量(体積%)=(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+・・・)×100
【0054】
Aw:非球状粒子の質量組成(質量%)
Bw:有機高分子化合物の質量組成(質量%)
Cw:その他の任意成分の質量組成(質量%)
Ad:非球状粒子の比重(本発明においてAdは黒鉛の場合は2.1、窒化ほう素の場合は2.2、炭素繊維の場合は1.8で計算する。)
Bd:有機高分子化合物の比重
Cd:その他の任意成分の比重
【0055】
〔(B)有機高分子化合物〕
有機高分子化合物14は、10Ω・m以上の体積抵抗率を有し、かつガラス転移温度(Tg)が50℃以下となる有機高分子化合物であれば、特に限定なく使用することが可能である。
【0056】
有機高分子化合物14の具体例としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を主要な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(いわゆるアクリルゴム、>1013Ω・m)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(いわゆるシリコーン樹脂、1012〜1013Ω・m)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(いわゆるイソプレンゴム、天然ゴム、1013〜1015Ω・m)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(ポリクロロプレン、いわゆるネオプレンゴム1010〜1011Ω・m)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(いわゆるブタジエンゴム、>1010Ω・m)等、一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。
【0057】
これらの中では、特に、アクリル酸ブチル、又はアクリル酸2−エチルヘキシル等を主な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得やすく、化学的安定性および加工性に優れ、さらに粘着性をコントロールしやすく、比較的廉価であるため好ましい。
【0058】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物としては、Tgが−30℃以下となるようなアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2エチルヘキシル等から選ばれるモノマーの共重合体(ホモポリマー)に、アクリル酸、アクリロニトリル、ヒドロキシエチルアクリレート等を共重合し、−COOH基、−CN基、−OH基等の極性基を導入した構造を有する共重合体が好ましい。
【0059】
有機高分子化合物14のガラス転移温度(Tg)は、50℃以下であり、−70〜20℃であることが好ましく、−60〜0℃であることがより好ましい。前記Tgが50℃以下の場合は、柔軟性に優れ、発熱体及び放熱体に対する密着性が向上する傾向がある。本発明において、ガラス転移温度の測定は、熱機械測定(TMA)を用いて行う。
【0060】
特に限定するものではないが、本発明で好適に使用できる化合物として、例えば、ナガセケムテックス製のアクリル酸エステル共重合樹脂「HTR−280DR(商品名)」(アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、Mw90万、Tg−30.9℃、体積抵抗率>1013Ω・m)が挙げられる。
【0061】
また、柔軟性を損なわない範囲で架橋構造を含ませることが、長期間の密着保持性と膜強度の点で好ましい。例えば、−OH基等の極性基を有するポリマに複数のイソシアネート基やエポキシ基等の前記極性基と結合する官能基を持つ化合物を、前記極性基と反応させることで架橋構造を含ませることができる。
【0062】
有機高分子化合物14の含有量は特に制限されないが、熱伝導層全体の体積に対して、10〜70体積%であることが好ましく、20〜50体積%がより好ましい。
【0063】
〔難燃剤〕
熱伝導層10は、難燃剤を含有することができる。難燃剤としては特に限定されず、例えば、赤りん系難燃剤やりん酸エステル系難燃剤を含有することができ、りん酸エステル系難燃剤を含有することが好ましい。
【0064】
赤りん系難燃剤としては、純粋な赤りん粉末の他に、安全性や安定性を高める目的で種々のコーティングを施したもの、マスターバッチになっているもの等が挙げられ、具体的には、例えば、燐化学工業株式会社製、商品名:ノーバレッド、ノーバエクセル、ノーバクエル、ノーバペレット等が挙げられる。
【0065】
りん酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル;等が挙げられる。
【0066】
これらは一種類を用いても、二種類以上を併用してもよい。また、難燃剤がりん酸エステル系化合物であり、かつ凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物であると、難燃性と柔軟性やタック性を両立するのが容易となり、好ましい。凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物のリン酸エステル系難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0067】
難燃剤の含有量は特に制限されないが、熱伝導層全体の体積に対して、1〜50体積%が好ましく、5〜50体積%がより好ましく、10〜40体積%が更に好ましい。難燃剤の含有量が前記範囲であれば、充分な難燃性が発現され、かつ柔軟性の点で有利となる。前記難燃剤の含有量が1体積%以上の場合は、充分な難燃性が得られ易く、50体積%以下の場合は、シート強度が向上する傾向がある。
【0068】
〔添加剤〕
熱伝導層10は、更に必要に応じてウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物等の接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ向上剤;シリコーン油等の消泡剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;等を適宜添加することができる。
【0069】
(2)粘着層20
粘着層20は、熱伝導層10に含有される有機高分子化合物14と同種の有機高分子化合物14が主成分として含有される。よって、粘着層20に含有される有機高分子化合物14は、10Ω・m以上の体積抵抗率を有し、かつ50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する。ここで、「主成分として」とは、粘着層20中、50体積%以上含むことをいい、有機高分子化合物14を50体積%以上含むことが好ましく、60体積%以上含むことがより好ましく、70体積%以上含むことが更に好ましい。
【0070】
熱伝導層10に含有される有機高分子化合物14と同種の有機高分子化合物14であれば、粘着層20に用いる有機高分子化合物14は、特に限定なく使用することが可能である。その中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得やすく、化学的安定性及び加工性に優れ、さらに粘着性をコントロールしやすく、比較的廉価であるために好ましい。なお、本発明において「同種」の有機高分子化合物とは、化学構造が同じものと意味し、分子量は異なるものであってもよい。但し、入手性などの製造上の簡便さを考慮すると、分子量も同じであることが好適である。
【0071】
また、粘着層20には、難燃剤や添加剤を必要に応じて加えてもよい。粘着層20に添加し得る難燃剤やその他の添加剤は、熱伝導層10において説明したものを挙げることができる。
【0072】
粘着層20を塗布によって作製する場合には、有機高分子化合物14を有機溶媒に含有させた塗布液を用いてもよい。このような有機溶媒としては、メチルエチルケトン、トルエン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール、メタノール、エタノールなど、有紀高分子化合物14の種類に応じて適宜選択することができる。
塗布液を塗布して塗膜を形成した後、有機溶媒を除去すべく乾燥・加熱することが好ましい。
【0073】
(3)その他の層
本発明の熱伝導シートの粘着層20の粘着面は、保護シートによって保護されていてもよい。
保護シートの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が挙げられる。
【0074】
保護シートは、単層のシートであっても、2枚以上を積層する多層シートであってもよい。また、保護シートとしては、シリコーン系、シリカ系等の離型剤などで表面処理された離型性を有するシートが好ましく使用される。
【0075】
<熱伝導シートの製造方法>
本発明の熱伝導シートは、(1)混練工程、(2)1次シート形成工程、(3)成形体形成工程、(4)スライス工程[2次シート(熱伝導層)形成工程]、(5)粘着性付与工程を含む工程により製造する。
【0076】
(1次シート)
1次シートは、下記の(1)混練工程、及び(2)1次シート形成工程、を含む工程を経て作製される。
【0077】
(1)混練工程
混錬工程では鱗片状、楕球状又は棒状である熱伝導性の非球状粒子12と有機高分子化合物14とを含有する組成物を混練し、混練物を得る。混練手段としては公知の方法を用いることができ、2本ロール、ニーダー等の装置を利用することが好ましい。
組成物の調製は、所定の非球状粒子12と所定の有機高分子化合物14とを均一に混合することが可能であれば、いずれの公知の方法を用いて実施してもよい。特に限定されるものではないが、例えば、予め有機高分子化合物14を溶剤に溶かして溶液を形成し、その溶液に非形状粒子および難燃剤などその他の添加剤を加え、それらを攪拌した後に乾燥する方法、またはロール混練、ニーダー、ブラベンダ、あるいは押出機を使用して各成分を混合する方法に従って組成物を調製することが可能である。
【0078】
(2)1次シート形成工程
1次シート形成工程では、混練して得られた混練物をシート状にすることで1次シートを形成する。シート状にする方法は、圧延、プレス、押出および塗工からなる群から選択される少なくとも1つの成形方法を用いることが好ましい。特に圧延およびプレスを用いることで非球状粒子12の長軸をより確実にシート面内方向に配向させることが可能となる。また、圧延およびプレスを用いることで、シート成形時に圧力が加えることができ、非球状粒子12同士を接触させやすくなり、より高い熱伝導性が得られる傾向がある。
【0079】
シート状にする際の温度条件は高温すぎると樹脂が脆性化し、低温すぎると軟化しないことから、25〜150℃の範囲が好ましい。
【0080】
1次シート厚みは、0.2〜2.0mmの厚みが好ましい。一般には、1次シート厚みは薄いほど好適であるが、薄すぎると次の成形体形成工程での積層又は捲回の回数が増えすぎるために好ましくない。厚すぎると鱗片状、楕球状又は棒状である非球状粒子12の1次シート中での配向性が低下するために好ましくない。
【0081】
(2次シート)
2次シートは、下記の(3)成形体形成工程、及び(4)スライス工程、を含む工程を経て作製される。
【0082】
(3)成形体形成工程
成形体形成工程では、1次シートを積層する、又は捲回することで成形体を作製する。
積層工程では1次シートを所定の大きさに切り抜き積層して成形体を得る、あるいは一枚のシートをその端を切断せずに折り畳む形態で積層して成形体を得てもよい。捲回工程では、1次シートを捲回して成形体を得る。捲回する方法は特に限定されない。捲回の形状は特に限定されず、例えば円筒形でも角筒形でもよい。
【0083】
成形体の形状は、積層した面に対して60度〜90度の角度で成形体をスライスする際に不都合が生じなければ、いかなる形状であってもよい。例えば、各シートの形状を円形に成形し、それらを積層することによって円柱状の成形体を作製し、その後のスライスを「かつら剥き」のような方法で実施することも可能である。
【0084】
積層時の押圧力や捲回時の引張力は、大きくすればするほど、成形体における各1次シート同士の接着力が高くなる。一方で、積層時の押圧力や捲回時の引張力を小さくすればするほど、成形体のスライス面が潰れるのを抑えることができ、結果、非球状粒子12がスライシート(2次シート、熱伝導層)の表面から露出する面積が低くなりすぎるのを抑えることができる。これらの点を勘案して、積層時の押圧力や捲回時の引張力を調整することが望ましい。具体的には、例えば、0.05MPa〜1MPaの圧力をかけて積層又は捲回することが好ましい。
【0085】
なお、通常は、成形体の形成時における引張力を調整することによって、成形体における1次シート間の充分な接着を得ることが可能である。しかし、1次シート間の接着力が不足する場合、溶剤または接着剤等をシート表面に薄く塗布した後に積層または捲回を実施してもよい。
【0086】
(4)スライス工程
スライス工程では、前記成形体の積層面に対して60度〜90度の角度でスライスすることによって、任意の厚みの2次シート(熱伝導層)を得る。
スライスに使用可能な切断具は、特に限定されるものではないが、鋭利な刃を備えたスライサーおよびカンナ等を使用することが好ましい。鋭利な刃を備えた切断具の使用により、スライス後に得られる2次シートの表面近傍の粒子配向の乱れを抑制でき、かつ厚みの薄いシートを作製できる。
【0087】
スライス工程は、シートを構成する組成物のガラス転移温度(Tg)よりも30℃高い温度(Tg+30℃)〜Tgよりも40℃低い温度(Tg−40℃)の範囲で実施することが好ましい。スライス時の温度がTg+30℃より高いと、成形体が柔軟になってスライスを実施し難くなるだけでなく、シート内の粒子の配向が乱れる傾向がある。一方、スライス時の温度がTg−40℃よりも低くなると、成形体が固く脆くなり、スライスを実施し難くなるだけでなく、スライス直後にシートが割れ易くなる傾向がある。スライスを実施するより好ましい温度は、Tg+25℃〜Tg−25℃の温度範囲である。
【0088】
スライスはスライスナイフを使用し行う。ナイフの刃断面形状は特に限定されず、対称でも非対称でもよい。スライス方法は、(1)ナイフを固定して成形体を動かす方法、(2)成形体を固定してナイフを動かす方法の2種類がある。
【0089】
例えば、一次シートの積層方向に対応する特定面が水平方向となるように成形体を配置した場合、スライスナイフはほぼ水平に配置する。そして、スライスナイフの刃面が成形体の特定面から成形体の内部側に入り込むように、スライスナイフを所定の高さだけずらして配置する。この状態で、成形体とスライスナイフを互いに向かいあわせに移動させることでスライスが実施される。例えば、スライスナイフを台に固定し、台のスライド面からスライスナイフの刃面が所定の高さだけ突出するようにしてスライスナイフを台に固定し、このスライド面上で成形体を滑らせて移動させることで、スライスが実施される。
【0090】
スライスシート(2次シート)の膜厚のばらつきを抑えるために、スライス実行時に成形体はスライド面に押圧されていることが好ましい。また、押圧力を大きくするに従い、流動性のある樹脂成分が成形体の表面から滲み出て、2次シート表面の粘着力が増す。また、押圧力を大きくすると、2次シートの厚さが厚くなる。なお、2次シートの厚さは、ナイフのスライド面からの突出量によっても調整することが可能であり、突出量が多くなるほど、2次シートの厚さは厚くなる。ここで、スライス実行時の成形体に対しての押圧力が大きすぎるとナイフへの負担が増し、さらに水平方向へのナイフの移動が困難となる。そのため、押圧力は0.05〜2.5MPaが好ましく、0.2〜0.6MPaが最も好ましい。
【0091】
(熱伝導シート)
熱伝導シートは、下記の(5)粘着性付与工程を含む工程を経て作製される。
【0092】
(5)粘着性付与工程
粘着性付与工程では、粘着性を付与する2次シートのいずれかの面、例えば、2次シートの両面又は片面に、有機高分子化合物14を含有する粘着層20を形成して熱伝導シートを得ることができる。
粘着層20を形成する方法は公知の方法で形成することができる。例えば、粘着層20を形成するための塗布液を用いたバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、リバースロール・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、カーテン・コート法、スピンコート法、ディップコート法、交互積層法などを採用することができる。
【0093】
粘着層20を前記コート法で形成する際、粘着層形成用塗布液を付与する基材は、前記2次シートであってもよいし、離型性を有するシート(離型シート)であってもよい。離型シートに粘着層形成用塗布液をコーティングして、粘着層付き離型シートを形成した場合、粘着層付き離型シートにおける粘着層20を前記2次シートに貼合した後、離型シートを剥離することで、粘着層20を2次シートに転写することができる。特にこの方法では、粘着層形成用塗布液中の有機溶媒によって、2次シートが溶解・膨潤するのを防ぐことができる。
【0094】
特に、粘着層付き離型シートにおける離型シートは、そのまま保護シートとして用いることができる。
【0095】
<放熱装置>
本発明の放熱装置は、発熱体と放熱体との間に本発明の熱伝導シートを介在させた構造を有する。
本発明の熱伝導シートを適用する発熱体としては、少なくともその表面温度が200℃を超えないものであることが好ましい。本発明の熱伝導シートを好適に使用できる温度は−10℃〜120℃の範囲である。本発明の放熱装置に好適な発熱体としては、例えば、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、電灯等が挙げられる。
【0096】
一方、本発明の放熱装置に使用可能な放熱体は、特に限定されるものではなく、放熱装置に適用される代表的なものであってよい。例えば、アルミや銅製のフィンまたは板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミや銅製のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミや銅製のブロック、ペルチェ素子およびこれを備えたアルミや銅製のブロック等が挙げられる。
【0097】
本発明の放熱装置は、上述の発熱体と放熱体との間に本発明の熱伝導シートを設置し、各々の面を接触させて固定したものである。熱伝導シートの固定は、各接触面を十分に密着させた状態で固定できる方法であれば、特に限定されずに、如何なる方法を用いてもよい。例えば手で押し当てて密着させる、ロボット等を用いて自動で密着させる等の手段を用いることができる。本発明の熱伝導シートは粘着性を有するために、押し付け力が持続しなくても十分に密着を持続させる。但し、ばねを用いてねじ止めする方法、クリップを用いて挟み込む方法のように、押し付け力が持続するような方法はより密着を高めるために好ましい。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0099】
[実施例1]
<1次シート用組成物の混錬>
非球状粒子として板状の窒化ホウ素粉末(HP−1CAW、水島合金鉄社製、平均粒子径16μm、熱伝導率60W/mK、体積抵抗率1012Ω・m)を50体積%、有機高分子化合物としてアクリル酸エステル共重合樹脂(HTR−280DR、ナガセケムテックス社製、アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、Mw90万、Tg−30.9℃、体積抵抗率>1013Ω・m、15質量%トルエン溶液)の固形分を22.3体積%、難燃剤としてりん酸エステル系であるクレジル−ジ2,6−キシレニルホスフェート(PX−110、大八化学社製)を27.7体積%配合して、1次シート用組成物を得た。
【0100】
次いで、上記1次シート用組成物の3.5kgを、加圧ニーダーにより、温度100℃で40分間混錬し、混錬物を得た。
【0101】
<1次シートの作製>
油圧プレスにより前記混練物を数十mm厚まで圧縮し、さらに80℃のメタルロールを数回通し、端部を切り落とし、50mm×200mm×1mm厚の1次シートを作製した。
【0102】
<成形体の形成>
前記1次シートを積層し、厚みが50mmの成形体を得た後、油圧プレスにより0.1MPa以下の圧力で加圧した。
【0103】
<スライス工程>
台にナイフが固定され、そのナイフの刃先が台のスライド面から突出しているスライス工具に、前記成形体の積層面がスライド面に接するように成形体を載せた。これを0.3MPaで押圧しながらスライドさせて、成形体をスライスし、2次シート(熱伝導層)を得た。スライスする際、成形体の温度は−10℃に調節し、成形体を5cm/分でスライドさせた。また、台からの刃先の突出量は、2次シートの厚みが0.20mmになるように調整した。
【0104】
<粒子露出度の評価>
得られた2次シートをSEMで観察したところ、2次シートの表面から露出する粒子の面積率は50%であった。
【0105】
<粘着層の形成>
アクリル酸エステル共重合樹脂(HTR−280DR、ナガセケムテックス社製、アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、Mw90万、Tg−30.9℃、体積抵抗率>1013Ω・m、15質量%トルエン溶液)をメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒で希釈し、粘着剤塗工液を得た。粘着剤塗工液を離型PETフィルム(A−31、帝人ディポンフィルム)に塗工し、100℃5分間乾燥し、厚み1μmの粘着層を形成した粘着フィルムを得た。粘着層の厚みは、光学式の膜厚測定器(F20、フィルメトリクス社製)により測定した。
【0106】
粘着フィルムを2次シートの片面にロールラミネータにより貼合し、次いで2次シートの反対面にも粘着フィルムをロールラミネータにより貼合した。貼合は、ロール温度25℃、ラミネート圧力0.3MPa、ラミネート速度0.3m/minで行った。こうして、2次シートの両面に粘着層を有する熱伝導シートを得た。
【0107】
<粒子配向性の評価>
得られた熱伝導シートをSEMで観察したところ、粒子の平均長径は25μm、粒子の長軸方向のシート表面に対する角度の平均値は85度であり、シートの厚み方向に対する粒子の配向が認められた。
【0108】
<熱伝導シートの硬度>
得られた熱伝導シートの70℃におけるアスカーC硬度を、上述の方法により測定したところ、36であった。
【0109】
<熱伝導率の評価>
熱伝導シートの熱伝導率をレーザーフラッシュ法にて評価した。キセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製NanoflashLFA447)を用いて、熱伝導シートを0.6MPaで挟んだ2枚の銅板(1mm厚)にXeフラッシュを照射し、裏面銅板の温度の時間依存性を測定し、3層モデルを解析することで熱伝導シートの熱伝導率を評価した。
次いで、熱抵抗を計算式(熱抵抗[℃・cm/W]=10×熱伝導シートの厚み[mm]/熱伝導率[W/mK])から評価した。ここで熱伝導シートの厚みは、前記の熱伝導シートを0.6MPaで挟んだ2枚の銅板の厚みから、銅板の厚みを差し引いた値とした。得られた厚み、熱伝導率を表1に示す。
【0110】
<粘着力の評価>
熱伝導シートの一方の面の離型PETフィルムを剥離して粘着層を露出させ、易接着層付きPETフィルム(A4100、東洋紡社製)における易接着層が形成されていない面に、露出した粘着層をラミネータにより25℃、0.3MPa、0.1m/minで貼合した。
【0111】
次いで、熱伝導シートの他方の面の離型PETフィルムを剥離して粘着層を露出させ、易接着層付きPETフィルム(A4100、東洋紡社製)における易接着層が形成されていない面に、露出した粘着層をラミネータにより25℃、0.3MPa、0.1m/minで貼合した。これにより、熱伝導シートの両面の粘着層の外側をPETフィルムで挟んだ測定試料が得られた。
【0112】
得られた測定試料のPETフィルムを剥離する際のピール強度を、引張試験機(テンシロン万能試験機RTA−100、オリエンテック社製)により測定した。剥離条件は25℃、剥離角度180度、剥離速度0.5m/minとした。得られたピール強度を表1に示す。
【0113】
[実施例2]
実施例1と同様にして、但し、粘着層の厚みを3μmに変えて、熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートについて、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
【0114】
[実施例3]
実施例1と同様にして、但し、粘着層の厚みを6μmに変えて、熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートについて、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
【0115】
[実施例4]
実施例1と同様にして、但し、粘着層の厚みを25μmに変えて、熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートについて、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
【0116】
[比較例1]
下記の粘着フィルムを実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
【0117】
<粘着フィルムの作製>
アクリル酸エステル共重合樹脂(HTR−280DR、ナガセケムテックス社製、アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、Mw90万、Tg−30.9℃、体積抵抗率>1013Ω・m、15質量%トルエン溶液)をメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒で希釈し、粘着剤塗工液を得た。粘着剤塗工液を離型PETフィルム(A−31、帝人ディポンフィルム)に塗工し、100℃5分間乾燥し、厚み10μmの粘着層を形成した粘着フィルムを得た。
【0118】
[比較例2]
実施例1と同様にして、但し、2次シートに粘着層を付設せずに、熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートについて、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
【0119】
[比較例3]
粘着性の熱伝導シート(熱伝導性両面粘着シリコーンテープ、TC−10SAS、信越化学工業社製)を用いて、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
上記表に示すように、実施例1〜4の熱伝導シートは、粘着層のみからなる比較例1の熱伝導シートや、粘着層を有さない比較例2の熱伝導シート、及び市販の粘着シリコーンテープ付き熱伝導シート(比較例3)に比べて、熱伝導率を低下させることなく、ピール強度に優れていることが分かる。
また、実施例1〜4の熱伝導シートは、アスカーC硬度が40以下であることから、熱応力緩和性に優れる。
【符号の説明】
【0122】
10 熱伝導層
12 非球状粒子
14 有機高分子化合物
20 粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導層と、前記熱伝導層の表面の両面又は片面に設けられた粘着層と、を有し、
前記熱伝導層が、(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物と、を含み、前記非球状粒子(A)の長軸方向が、前記熱伝導層の厚み方向に沿うように配向し、
前記粘着層は、前記熱伝導層に含有される前記有機高分子化合物(B)を主成分として含み、
70℃におけるアスカーC硬度が、40以下の熱伝導シート。
【請求項2】
非球状粒子(A)が、窒化ホウ素粒子及びアルミナ粒子の少なくとも一つを含む請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記粘着層の厚みが、0.1μm〜25μmである請求項1又は請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記有機高分子化合物(B)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記熱伝導層が、更に(C)りん酸エステル系難燃剤を、1〜50体積%の範囲で含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記熱伝導層の厚みが、前記非球状粒子(A)の長径の20倍以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
熱伝導率が、0.5W/mK以上である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
前記粘着層の外側表面のピール強度が、0.5N/25mm以上である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
(イ)(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物、を含む組成物を混錬する工程、
(ロ)前記組成物に圧力をかけて、前記非球状粒子の長軸方向が主たる面に対して略平行な方向に配向する1次シートを作製する工程、
(ハ)前記1次シートを積層又は捲回して成形体を作製する工程、
(ニ)前記成形体に含まれる前記非球状粒子の長軸方向に対して90度〜60度の角度で、前記成形体をスライスして2次シートを作製する工程、及び
(ホ)前記2次シートの両面あるいは片面に、有機高分子化合物(B)を含む粘着層を形成する工程、
を経て形成される請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項10】
発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と前記放熱体との間に、該発熱体及び放熱体の双方に接するように配置した、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の熱伝導シートと、
を有する放熱装置。
【請求項11】
(イ)(A)10Ω・m以上の体積抵抗率および20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子と、(B)10Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物、を含む組成物を混錬する工程、
(ロ)前記組成物に圧力をかけて、前記非球状粒子の長軸方向が主たる面に対して略平行な方向に配向する1次シートを作製する工程、
(ハ)前記1次シートを積層又は捲回して成形体を作製する工程、
(ニ)前記成形体に含まれる前記非球状粒子の長軸方向に対して90度〜60度の角度で、前記成形体をスライスして2次シートを作製する工程、及び
(ホ)前記2次シートの両面あるいは片面に、有機高分子化合物(B)を含む粘着層を形成する工程、
を含む請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項12】
前記工程(ニ)が、前記有機高分子化合物(B)のガラス転移温度よりも40℃低い温度から該ガラス転移温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内で実施される請求項11に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項13】
前記工程(ホ)が、支持基材上に形成された前記粘着層を2次シートに転写する工程である請求項11又は請求項12に記載の熱伝導シートの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−109312(P2012−109312A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255173(P2010−255173)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】