説明

熱伝導シートおよびその製造方法

【課題】柔軟性を有し、かつ、高い熱伝導率を有する熱伝導シートおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】塩素化ポリエチレン100質量部に対し、平均粒径15〜600μmのグラファイトを400〜730質量部配合した組成物を圧延ロール成形した、厚さ0.1〜2.0mmの熱伝導シートによる。該熱伝導シートは、上記組成物を混練した後、厚さ0.1〜2.0mmに圧延ロール成形される。また、前記製造方法で厚さ0.1〜0.5mmに成形した薄層シートを複数枚重ねて熱プレス成形または圧延ロール成形して、厚さ0.5〜2.0mmのシートとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューターのCPUや発光ダイオード等の電子部品からなる発熱体の放熱用または床暖房あるいは融雪に用いられる熱伝導シートに関し、特に面方向への熱伝導特性に優れ、柔軟性のある熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品から発生する熱を効率よく放出し、電子部品の過熱を防止するために、発熱源である電子部品に接触するように柔軟性のある熱伝導材を配置することが行われている。
【0003】
近年、CPUの高速化やLED照明の高輝度化に伴う発熱量の増加に対応するため、高い熱伝導率を有する熱伝導材が必要とされている。この熱伝導材としては、ゴム、樹脂等の母材中に、セラミックス、グラファイト、金属等からなる充填材を分散させたものが使用されてきた。
【0004】
たとえば、シリコーンゴム組成物にグラファイトを充填した熱伝導シート(特許文献1)、エチレンプロピレン系ゴムにグラファイトを充填した熱伝導シート(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−298433号公報
【特許文献2】特開2002−3670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の熱伝導シートは、シリコーンゴムへ充填可能なグラファイトの量が少なすぎるという問題があり、得られる熱伝導シートの熱伝導率の値は1.9W/mK程度である。また、特許文献2に記載の熱伝導シートも、グラファイトを高充填するために大量のプロセスオイルを用いているが、得られる熱伝導シートの熱伝導率の値は4.5W/mK程度で、やはり十分な熱伝導効果とはいえなかった。また、経時的にプロセスオイルがシート表面にブリードしてしまうという問題も生じていた。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、高い熱伝導率を有する熱伝導シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱伝導シートは、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、平均粒径15〜600μmのグラファイトを400〜730質量部配合した組成物からなり、厚さが0.1〜2.0mmであることを特徴とする。この配合によって、高い熱伝導率を付与することができ、かつ、厚さを0.1〜2.0mmとすることによって良好な表面性と柔軟性を両立することが可能となった。
【0009】
また、前記組成物には、さらに難燃剤を配合することが好ましい。上記塩素化ポリエチレン100質量部に対して、水酸化マグネシウムを50〜130質量部を配合するのがさらに好ましい。難燃剤を配合することによって、延焼を防止することができ、さらに難燃剤として水酸化マグネシウムを所定量配合することにより、熱伝導率の低下を最小限とすることができる。
【0010】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、平均粒径15〜600μmのグラファイトを400〜730質量部配合し、配合した組成物を混練した後、圧延ロール成形することにより、厚さ0.1〜2.0mmのシートとすることを特徴とする。圧延ロール成形法によるため、グラファイトを高充填しても良好な表面性が得られ、かつ、シート面方向への熱伝導率を向上することができる。
【0011】
さらに、前記製造方法で成形した厚さ0.1〜0.5mmの薄層シートを、複数枚重ねて熱プレス成形または圧延ロール成形してラミネートすることにより、厚さ0.5〜2.0mmのシートとすることを特徴とする。この製造方法によって、シート面方向へのグラファイト粒子の配向が顕著となるため、面方向への熱伝導率をさらに向上することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱伝導シートは、面方向の熱伝導率が極めて高い値を示すので電子部品の温度の上昇を抑制することができる。さらに、熱伝導率を損なわずに難燃性を付与することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の熱伝導シートおよびその製造方法について説明する。
本発明に使用される塩素化ポリエチレン(CPE)は、ポリエチレン粉末または粒子を水性懸濁液中、もしくは有機溶媒中で塩素化することにより得られるものであり、原料となるポリエチレンは、エチレンの単独重合体、エチレンとプロピレン、ブテン、オクテン等のα−オレフィンとの共重合体、また、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸およびそれらのエステルとの共重合体が挙げられる。使用される塩素化ポリエチレンの塩素含有量は、25〜40重量%が好ましい。
【0014】
塩素含有量が25重量%未満であるとグラファイトの高充填が困難となり、熱伝導率が低くなるという欠点があり、40重量%を超えるとシートが硬くなり圧延加工が困難となるという欠点がある。
【0015】
具体的な製品としては、昭和電工社製の「エラスレン301A」(塩素含有量:32重量%)、「エラスレン302NA」(塩素含有量:29重量%)、「エラスレン352NA」(塩素含有量:35重量%)、デュポンダウエラストマージャパン社製の「タイリン3600P」(塩素含有量:35重量%)等を挙げることができる。
【0016】
本発明の熱伝導シートに配合されるグラファイトは、混練工程での高充填化および高い熱伝導率を付与するため平均粒径15〜600μm、好ましくは30〜500μmのものを使用する。平均粒径が15μm未満であると高充填特性、熱伝導特性が劣り、また、600μmを超えると混練に時間がかかり、表面平滑性が悪化する。グラファイトの形状は、扁平状、球状、繊維状のものなどが使用できるが、扁平状グラファイトが好ましい。扁平状グラファイトとしては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、コークス、セルロース、糖類、ポリアクリロニトリル等を高温で焼成した人造黒鉛など、いずれであってもよい。市販されているグラファイトの具体例としては、伊藤黒鉛社製の「RP99−100」、日本黒鉛社製の「CB100」、「ACB50」等が挙げられる。
【0017】
熱伝導材料であるグラファイトは、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、400〜730質量部、好ましくは430〜710質量部、さらに好ましくは450〜700質量部を配合する。400質量部未満であると、熱伝導率が小さくなり、また、730質量部を超えるとシート化が困難となり、シートの物性も低下するので好ましくない。
【0018】
難燃性を高めるために使用される難燃剤としては、金属水酸化物が挙げられ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好ましく用いられる。難燃剤の配合量は、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、0〜150質量部、好ましくは、50〜130質量部の範囲で用いられる。
【0019】
また、必要に応じて、カップリング剤、老化防止剤、滑剤等既知の配合剤を配合することができる。
【0020】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、各配合成分を配合する配合工程、組成物を混練する混練工程、圧延ロールでシート化するシート化工程からなる。
【0021】
まず、配合工程は、各配合成分を計量し、配合する工程である。後述するように、全ての配合成分を一度に配合することもできるが、必要に応じて、多段階的に配合・混練してもよいし、複数のグループに分けて配合し、混練工程を経た後、最後に各グループを合一して混練してもよい。
【0022】
混練工程は、ニーダ、バンバリーミキサ、ロール、フィーダールーダー等の機械を用いて、塩素化ポリエチレンとグラファイト、必要に応じて難燃剤、その他の配合材からなる組成物を混練する。複数の機械を用いても良く、配合成分を一括あるいは多段、分割配合して混練してもよい。
【0023】
シート化工程は、温度40〜100℃に調整した圧延ロール装置を用い、混練した組成物を供給して、ロールの圧力により所定の厚さのシートとして成形する。ロールのギャップを調整することによりシートの厚さを調整することができる。シートの厚さは、0.1〜2.0mmとする必要がある。
【0024】
シートの厚さが0.1mm未満であると、シートの強度が低下するため、シートをカレンダロールから引き剥がせなくなる。一方、2.0mmを超えるとシート中に空隙等が発生しやすくなり、熱伝導特性の良好なものが得られ難くなる。
【0025】
また、厚さ0.5mmを超えるシートを得る場合、厚さ0.1〜0.5mmの薄層シートを成形した後、複数枚の該薄層シートを積層した状態で熱プレス成形または圧延ロール成形してラミネートする方法も用いることができる。成形加工条件は、80〜140℃の温度で、1〜10分間程度、0.5〜5.0MPaの圧力で行うことが好ましい。この方法によれば、厚みのある熱伝導シートであっても、シート中に空隙等が発生し難くなり、表面性も良好になり、かつ、グラファイトの面方向への配向の度合いも大きくなるため、熱伝導特性がさらに向上する。
【0026】
また、ラミネートしない場合であっても、さらにラミネートした後であっても、上記した特性向上のために熱伝導シートを熱プレスすることもできる。熱プレスの条件は、80〜140℃の温度で、1〜10分間程度、0.5〜5.0MPaの圧力で行うことが好ましい。
【0027】
このようにして製造された熱伝導シートは、グラファイトがシートの面方向に配向するので面方向の熱伝導率の値が45W/m・K以上、好ましくは50W/m・K以上、より好ましくは55W/m・K以上となる。
【0028】
なお、本発明の熱伝導シートの成形方法としては、圧延ロール成形法に限定されるものではなく、プレス成形法や押出成形法等の公知の成形方法を用いることができる。圧延ロール成形法を用いれば、グラファイトを高充填しても表面性に問題を生じ難くなるため、好ましい成形法である。
【実施例】
【0029】
実施例および比較例で使用される原料または実施例および比較例で製造した熱伝導シートの物性等の測定は、以下の方法によった。
【0030】
[グラファイトの粒径]
レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置(セイシン企業製レーザーマイクロンサイザー「LSM−350」)を用いて測定した。
【0031】
[成形性]
以下の基準で実施例および比較例で製造した熱伝導シートを目視で評価した。
○:均一に混練でき、成形性が良好で、シート表面にあばたが生じない。
△:均一な混練は可能であるが、シート表面に若干あばたが生じてしまう。
×:均一に混練できず、表面にグラファイトが露出してしまう。シート化も不可能(したがって、以下の特性は測定していない)。
【0032】
[熱伝導率]
以下に記載した密度、熱拡散率および比熱容量の測定値を用い、次式によって計算した。
熱伝導率(W/m・K)=密度(g/cm)×熱拡散率(cm/s)×比熱容量(J/g・K)×100
【0033】
[密度]
METTLER社製電子天秤「XS64」(測定温度:室温、浸せき液:純水)を用い、アルキメデス法で測定した。
【0034】
[熱拡散率]
幅:5mm、長さ:30mmのサンプルを、アルバック理工社製熱定数測定装置「PIT−1」(測定温度:室温、雰囲気:5×10−5Torr)によって光交流法で測定した。
【0035】
[比熱容量]
TAインスツルメンツ社製「DSCQ100」(測定温度:室温、比熱校正:サファイア)を用い、示差走査熱量計法で測定した。
【0036】
[難燃性]
実施例および比較例で製造した熱伝導シートを幅 mm、長さ mmの大きさに切断した試料として用い、UL94の試験を行い、第一、第二接炎後の残炎時間(秒)の合計で示した。燃え尽きた場合は、「全焼」と表示した。
【0037】
実施例および比較例で使用した樹脂、グラファイト、水酸化マグネシウムは次のとおり。
塩素化ポリエチレンA:昭和電工社製「エラスレンCIA301」、塩素含有率:32重量%
塩素化ポリエチレンB:デュポンダウエラストマージャパン社製の「タイリン3600P」、塩素含有量:35重量%
EPDM:住友化学社製「EPDM514F」
シリコーンゴム:東レダウコーニングシリコーン「DY32−1005U」
グラファイトA:伊藤黒鉛工業社製「RP99−100」(扁平粉)、平均粒径:43μm
グラファイトB:日本黒鉛工業社製「CB100」(扁平粉)、平均粒径:80μm
グラファイトC:日本黒鉛工業社製「ACB50」(扁平粉)、平均粒径:500μm
グラファイトD:日本黒鉛工業社製「SG−BL40」(球状)、平均粒径:41μm
グラファイトE:日本黒鉛工業社製「CPB20」(扁平粉)、平均粒径:19μm
グラファイトF:日本黒鉛工業社製「CSP」(扁平粉)、平均粒径:10μm
水酸化マグネシウム:協和化学工業社製「キスマ5B」
【0038】
[実施例1]
塩素化ポリエチレンA:100質量部に対して、グラファイトA:570質量部をニーダに投入し、100℃の温度で20分間混練して組成物を得た。この組成物を圧延ロール成型機に供給し、ロール温度70℃、ロールギャップ0.4mmで、厚さ0.4mmのシートを製造した。成形性は良好で、密度は1.95g/cm、熱拡散率は0.336cm/s、比熱容量は0.945J/gKの測定値であって、計算の結果、熱伝導率は、61.9W/mKの値が得られた。難燃性は、2秒であった。
【0039】
[実施例2〜6および比較例1〜5]
実施例1と同様に、表1に示す組成物を得た後、圧延ロール成型機で厚さ0.4mmのシートを得た。評価は表1に示す。ただし、シリコーンゴムを用いた比較例2,5においては、さらに架橋剤1質量部を配合した。
【0040】
【表1】

【0041】
[比較例1′および比較例4′]
実施例1と同様に、表1に示すとおり、それぞれ比較例1および比較例4と同じ種類の配合成分からなり、グラファイトの配合量を30質量部増量した組成物を混練したが、グラファイトの量が多すぎたため均一に混練できなかった。
【0042】
[実施例7]
実施例1で製造した厚さ0.4mmのシートを3枚重ね、圧延ロール成型機を用いてロールプレスして厚さ1.0mmのシートを得た。評価を表2に示す。なお、熱伝導率に代わり、熱拡散温度を測定した。
【0043】
[熱拡散温度]
厚さ1.0mm、幅50mm、長さ100mmの測定試料を断熱材の上に設置し、断熱材の左半分に50mm角のラバーヒーター(100V,30W)を置き、断熱材と重りを乗せる。また、断熱材の右半分には、中央部に温度センサーを置き、さらに、断熱材と重りを乗せる。
前記ラバーヒーターには、電圧調整器(VARITAP VPM−11A)を用いて28Vで電気を供給する。スタート時の温度センサーの表示と300秒後の温度センサーの表示の差を熱拡散温度とした。
【0044】
[実施例8]
実施例3で製造した厚さ0.4mmのシートを3枚重ね、圧延ロール成型機を用いてロールプレスして厚さ1.0mmのシートを得た。評価を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
[比較例6,7]
比較例1および比較例4で製造した厚さ0.4mmのシートを3枚重ね、圧延ロール成型機を用いてロールプレスして厚さ1.0mmのシートを得た。評価を表2に示す。
【0047】
実施例は全て熱伝導率が50W/mK以上の値が得られた。比較例1では、グラファイト200質量部が限度、また比較例4では、グラファイト270質量部が限度であった。比較例1′および比較例4′では、混練りが不良となりシート化が出来なかった。
【0048】
また、比較例では、難燃剤を配合しても完全に不燃化が困難であったが、実施例では、熱伝導率を下げずに不燃化することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱伝導シートは、柔軟性に優れたエラストマである塩素化ポリエチレンをバインダとし、熱伝導性に優れたグラファイトを高濃度で均一充填したことにより、柔軟性と熱伝導性の両方に優れた熱伝導材として有用であり、コンピューターのCPUや発光ダイオード等の電子部品からなる発熱体の放熱用または床暖房あるいは融雪に用いられる熱伝導シートとして好適に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリエチレン100質量部に対し、平均粒径15〜600μmのグラファイトを400〜730質量部配合した組成物からなり、厚さ0.1〜2.0mmの熱伝導シート。
【請求項2】
前記組成物に、さらに難燃剤を配合することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記難燃剤が水酸化マグネシウムであり、前記塩素化ポリエチレン100質量部に対して50〜130質量部を配合してなることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
塩素化ポリエチレン100質量部に対して、平均粒径15〜600μmのグラファイトを400〜730質量部を配合し、配合した組成物を混練した後、圧延ロール成形により厚さ0.1〜2.0mmにシート化することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
塩素化ポリエチレン100質量部に対して、平均粒径15〜600μmのグラファイトを400〜730質量部配合し、配合した組成物を混練した後、圧延ロール成形により厚さ0.1〜0.5mmに薄層シート化し、該薄層シートを複数枚重ねて熱プレス成形または圧延ロール成形により厚さ0.5〜2.0mmにラミネートすることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記組成物に、さらに難燃剤を配合することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記難燃剤が水酸化マグネシウムであり、前記塩素化ポリエチレン100質量部に対して50〜130質量部を配合することを特徴とする請求項6に記載の熱伝導シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−87193(P2012−87193A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234041(P2010−234041)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】