説明

熱処理履歴のないガスバリア性積層フィルムの製造方法

【課題】ポリアルコール系樹脂とポリカルボン酸系樹脂及び金属化合物を併用し、熱処理によるエステル結合架橋及び金属イオン架橋を利用してガスバリア性を高めたガスバリア性積層フィルムにおいては、高温でのかなりの時間の熱処理により、フィルム基材の変質や変形或いはガスバリア性樹脂の熱劣化や着色さらにはエネルギー消費などの問題が避け難いので、このような問題の解決を図り、ガスバリア性に富むフィルム材料を製造する、工業的に優れた製法を開発する。
【解決手段】フィルム基材にガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂を塗布し乾燥してなる積層フィルムを、熱処理をすることなく、多価金属の化合物を含み、加圧下に100℃を超えて加熱された水溶液にて浸漬処理し、必要により洗浄液にて洗浄し、次いで乾燥させて、金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させることによって、ガスバリア性積層フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層フィルムの製造方法に関し、詳しくは、フィルム基材にポリカルボン酸系樹脂を塗布し熱処理をすることなく金属イオン架橋を行うことにより、熱処理履歴がなく柔軟性とガスバリア性を併せ有し、飲食品や医薬品などの包装材料として有用なガスバリア性積層フィルムを製造する方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、その優れた成形性や透明性及び経済性や物性などにより、従来から包装材料として食品保存などにおける日常生活や各種の産業分野において汎用されている。
そして最近では、かかる包装材料において、酸素ガスの侵入は包装食品の酸化劣化や微生物の発育の促進による変質をもたらし、水分の蒸発は収納食品の味覚を低下し、易揮発性成分の散逸は医薬品の重要成分の損逸となり、さらに酸素ガスは収納電子機器や精密機器などの変質劣化を派生することがあるので、外部から侵入する酸素ガスの遮蔽或いは収納品の水分や易揮発性成分の外部への散逸抑止などのために、包装用プラスチックフィルムにおけるガスバリア性(酸素ガスや水蒸気などの透過遮断性)の向上の要望が強くなっている。
特に、飲食品における衛生指向による保存管理の重要化や消費者の嗜好の多様化による美味や香りの保持志向、或いは医薬品における品質管理の厳格化や電子機器や精密機器における高度多機能化などの傾向からも、包装用フィルム材料においてそのガスバリア性の重要性が増大している。
【0003】
ところが、プラスチック汎用フィルムは概してガスバリア性が低く、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどは比較的ガスバリア性が高いとしても、廃棄時の環境汚染の問題から需要度が低下しており、これらの塩素系ポリマーに代わり得る材料として、ポリビニルアルコールなどのポリアルコール系樹脂の積層フィルムは安価で環境問題がなく低湿度雰囲気下でのガスバリア性が高いが、その水酸基に起因して高湿度雰囲気下ではガスバリア性が急激に低下してしまい、湿潤雰囲気下では保存用包装フィルムとして使用できず、また、水分を含む飲食品の包装には実用的ではない。
高湿度下でのガスバリア性の低下を改善したポリマーとして、ビニルアルコールとエチレンの共重合体が知られているが、高湿度下でのガスバリア性を実用レベルにするためには高いエチレン含有量が必要であり、そのようなポリマーは水に難溶となり成形や塗布などの加工が容易でなくなる。
【0004】
そのため、ポリビニルアルコールなどのポリアルコール系樹脂を(メタ)アクリル酸樹脂などのポリカルボン酸系樹脂と併用して、それらの熱処理によるエステル結合架橋によって耐高湿潤性を高めてガスバリア性も高くしたガスバリア性フィルム及びその製法が多数開示されている(例えば、特許文献1を参照)。また、当ガスバリア性フィルムの樹脂材料に金属化合物も併用し、エステル架橋に加えてカルボン酸基の金属イオン架橋も利用してガスバリア性をさらに高めたガスバリア性フィルム及びその積層フィルムも多数開示され注目されている(例えば、特許文献2,3を参照)。
これらの手法では高湿潤雰囲気下でのガスバリア性は格別に高められているが、高温での熱処理工程(例えば、200℃で15分:特許文献2の段落0066の表1−1)を要するために、エネルギー消費及びフィルム基材とガスバリア性樹脂の熱劣化や変質変形などの問題が派生し、熱処理工程を低温で行えば長時間の処理を要し生産性が低下してしまい工業的生産が困難となる。
このため、ポリビニルアルコールとエチレン−マレイン酸共重合体を併用して熱処理工程を緩和する(200℃で15秒程度:特許文献4の段落0022)ガスバリア性フィルムの製法も提案されているが(特許文献4を参照)、なお高温の熱処理が不可避でありガスバリア性も充分高められているともいえない。
【0005】
ところで、上記の特許文献2においては、ポリアルコール系樹脂とポリカルボン酸系樹脂とを併用し200℃で15分の熱処理をした積層フィルムを水道水中に浸漬し、90℃で1時間の浸漬処理イオン架橋を行っているが(段落0062の実施例3を参照。なお、段落0039には、水道水もカルシウムなどの多価金属イオンを含むので、浸漬液として使用できることが記載されている。)、このガスバリア性積層フィルムの製法と同一のガスバリア性積層フィルムの製法が最近に提示され(特許文献5を参照)、イオン架橋処理を加圧加熱水中で行う、或いは熱水を噴霧した高温多湿状態にて行う類似の方法も同時に提示されて(特許文献6,7を参照)、熱処理工程の条件を緩和すると記載されているが(特許文献5の段落0008など)、いずれも160℃で2分間(特許文献5の段落0026〜0027及び0069など)程度の高温の熱処理及び100℃以下で60分以内のイオン架橋処理を行っており、熱処理工程の条件が先行技術に比べて格別に緩和されているとはいえない。
【0006】
さらに新しい樹脂材料からのガスバリア性フィルムの改良を目指して、ポリアルコール系樹脂とポリカルボン酸系樹脂とを併用せずに、ポリカルボン酸系樹脂と多価金属の化合物のみを使用し、ポリカルボン酸系樹脂層に金属化合物の層を設けた、或いはポリカルボン酸系樹脂と金属化合物の混合物からなるフィルムを使用する、ガスバリア性フィルム材料も開示され(特許文献8を参照)、その他、表面のカルボン酸濃度を規定した熱可塑性樹脂フィルムに金属蒸着などにより金属層を設けたガスバリア性フィルム(特許文献9を参照)、ポリアクリル酸とイソシアネート化合物などの特定の架橋剤によるガスバリア性フィルム(特許文献10を参照)、ポリカルボン酸及び有機金属化合物と金属イオンの2種の架橋剤を使用するガスバリア性樹脂組成物(特許文献11を参照)なども知られている。
また、フィルム基材にポリカルボン酸系樹脂層を形成し、多価金属の化合物の溶液を塗布した積層フィルムを、熱処理を行わずに水分の存在下に放置して架橋させる、ガスバリア性積層フィルムの製法も開示されているが(特許文献12を参照)、熱処理工程を行わないとしても放置して架橋させるので、イオン架橋に長時間を要し生産性が非常に低く実用的ではない。
【0007】
【特許文献1】特開平6−220221号公報(要約)
【特許文献2】特開平10−237180号公報(要約、特許請求の範囲の請求項15、及び段落0039,0062,0066)
【特許文献3】特開2000−931号公報(要約)
【特許文献4】特開2000−323204号公報(要約)
【特許文献5】特開2005−81699号公報(要約、特許請求の範囲の請求項1,2、及び段落0008,0026,0027,0069)
【特許文献6】特開2005−81698号公報(要約、特許請求の範囲の請求項1,2、及び段落0030,0031,0074)
【特許文献7】特開2005−81700号公報(要約、特許請求の範囲の請求項1,2、及び段落0026,0027,0069)
【特許文献8】国際出願公開パンフレットWO03/091317(第1頁の要約、及び第89,91頁の請求の範囲2,22)
【特許文献9】特開平7−314612号公報(要約、特許請求の範囲の請求項1、及び段落0051)
【特許文献10】特開2001−310425号公報(特許請求の範囲の請求項2,6)
【特許文献11】特開2003−292713号公報(特許請求の範囲の請求項1)
【特許文献12】特開2005−125693号公報(要約、及び段落0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
段落0002〜0006において概述した、包装材料としてのガスバリア性積層フィルムに関する背景技術を鑑みると、その技術的な進歩における流れのなかで、ガスバリア性の向上は、ガスバリア性樹脂材料の改良により、特に、ポリアルコール系樹脂とポリカルボン酸系樹脂とを使用し金属化合物をも併用して、それらの熱処理によるエステル結合架橋及びカルボン酸基の金属イオン架橋を利用してガスバリア性を高めたガスバリア性積層フィルムなどにおいて、充分に達成されているといえるけれども、このようなガスバリア性樹脂材料においては、その製造過程において多数の問題を内在しており、すなわち、高温でのかなりの時間の熱処理を伴うために、ガスバリア性樹脂材料及びフィルム基材の変質や変形或いは熱劣化や着色、さらにはエネルギー消費による経済性や環境負荷などの問題が避け難いので、このような問題を解決して、ガスバリア性に富むフィルム材料を製造する、工業的に優れた製法を開発することを、本発明は発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決することを目指して、ガスバリア性フィルムにおける樹脂材料の選定、エステル架橋及びイオン架橋における工程や処理装置、或いはイオン架橋剤の種類や付与方法、さらには熱処理条件及びその緩和手段などについて、多観点から思考し勘案して、実験による実証と比較を積み重ねた。
その過程において、本発明の前記した課題を解決するには、ガスバリア性樹脂材料としてポリカルボン酸系樹脂とイオン架橋剤の金属化合物の組み合わせを選択し、さらに、その選択により熱処理をすることなく、ガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂を塗布し乾燥してなる積層フィルムにおいて、二価以上の金属の化合物を含む加熱水溶液を貯蔵する処理槽にて、特にその際に、加圧下に加熱されたその水溶液を貯蔵する処理槽にて、浸漬処理し金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させることが有効かつ必要であると認識することができ、本発明を創作するに至った。
【0010】
本発明においては、基本的な手法として、プラスチックフィルム基材にガスバリア層形成のために、ガスバリア性樹脂としてのポリカルボン酸系樹脂層を塗布して、熱処理を行うことなく、ポリカルボン酸系樹脂を二価以上の金属の化合物における金属イオンによりカルボキシル基において架橋させる、新規な工程を採用して、ガスバリア性積層フィルムとするものである。
熱処理を行わないので、従来のエネルギー問題を派生せず、熱処理によるガスバリア性樹脂材料の劣化などの問題もなく、高湿度下でも優れたガスバリア性を有し、柔軟性とガスバリア性を併せもつガスバリア性積層フィルムを形成することができる。
【0011】
本発明のガスバリア性積層フィルムの製造における具体的な工程としては、プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂を塗布し乾燥してなる積層フィルムを、熱処理をすることなく、二価以上の金属の化合物を含み加圧下に100℃を超える温度に加熱された水溶液を貯蔵する処理槽にて浸漬処理し、必要により洗浄槽中を搬送させ洗浄液にて洗浄し、次いで乾燥させて、金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させる各工程を採用する。
金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させるためには、二価以上の金属の化合物を含む加熱水溶液を貯蔵する処理槽に、好ましくは連続的に、浸漬させて金属イオンをポリカルボン酸系樹脂層に移行させ取り込むことが必要であり、二価以上の金属の化合物を含む水溶液を加圧下に加熱すると、100℃を超える温度に加熱することが可能となり、ポリカルボン酸系樹脂層への金属イオンの侵入及び金属イオンによるカルボキシル基の架橋を、短時間に効率よく行うことができる。しかして、短時間化により加熱工程の熱影響を減縮できることとなる。
以上の段落0010及び0011に記載された主要な構成が、本発明の前記した課題を解決するために、合理性と有意性を有するものであることは、後述する実施例と比較例との対照により実証されている。
【0012】
さらに、二価以上の金属の化合物を含む水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱するために、その水溶液を貯蔵する処理槽において、積層フィルム材料の送入口及び送出口(搬入口及び搬出口)が、大気雰囲気からシール材又は水頭圧シールにて遮断されている構造が採用される。
また、好ましくは、フィルム基材にアンカーコート層を介してポリカルボン酸系樹脂層が積層される。アンカーコート層及びポリカルボン酸系樹脂層はそれらの溶液を塗布して、好ましくは連続的に、フィルム基材に形成される。
本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法において使用されるポリカルボン酸系樹脂は、好ましくは、単独でフィルムに成形したときの、30℃で相対湿度0%における酸素透過係数が規定される。樹脂材料としては、主として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸の群から選ばれる少なくとも一種の不飽和酸を重合した単独重合体若しくはそれらの共重合体又はそれらの重合体の混合物が使用される。
金属化合物は、主としては、アルカリ土類金属化合物又は有機酸金属塩が使用され、ポリカルボン酸系樹脂にポリアルコール系樹脂が併用される態様も使用可能である。
さらに、ポリカルボン酸系樹脂に予め一価アルカリ金属化合物及び/又は多価金属化合物を含有させておく態様も使用できる。
【0013】
本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法の構成における主要な特徴としては、次のものを列記することができる。
i)フィルム基材にガスバリア層を形成するためのポリカルボン酸系樹脂層が塗布され、金属イオンによりカルボキシル基において架橋させられ、ii)これらの工程において熱処理を受けることがなく、iii)高湿度下においても優れたガスバリア性を有し、柔軟性とガスバリア性を併せもつことを特徴とするガスバリア性積層フィルムが製造される。
iv)ガスバリア層を形成するために、専らポリカルボン酸系樹脂と二価以上の金属の化合物が使用され、ポリカルボン酸系樹脂層において金属イオンによりカルボキシル基の相互が架橋させられる。ポリカルボン酸系樹脂とポリアルコール系樹脂を併用した態様においてもエステル架橋の形成は不要なので、熱処理を受ける必要がない。v)高温でかなりの時間の熱処理工程がないので、フィルム基材のカールなどの変形や収縮及び熱劣化さらにはガスバリア性樹脂層の変質や着色化などの従来の問題が解消され、耐熱性の低いフィルム基材の使用も可能になり、vi)多量のエネルギー使用も不要となって、製造工程も短縮されて、製造工程の経済性が高まりエネルギー消費による環境負荷も低減される。
vii)イオン架橋のみなので、高温かつかなりの時間の熱処理工程は不要となり、柔軟性とガスバリア性を併せもつことを特徴とするガスバリア性積層フィルムが製造されることにもなる。viii)また、熱処理によるエステル架橋が生じないので、ガスバリア性のための樹脂層表面が比較的に柔らかくて、金属イオンが侵入し易く、温和な条件で浸漬処理を行うことができ、洗浄処理工程においても、樹脂層表面が比較的に柔らかいので、余分の金属化合物や遊離のイオンを洗い出し易く、異臭を生じる有機イオン性化合物の残留が無く、生成フィルムの透明性(ヘーズ値)も良好となるという付加的な特徴も有している。
【0014】
ところで、段落0002〜0007において記述した先行技術の各特許文献さらには他の特許文献を精査すると、特許文献1〜4においては、本発明とは異なるガスバリア性樹脂が使用されいずれも熱処理を受けるものであり、特許文献5〜7は、特許文献2(段落0062など)及び本発明と同様に、金属化合物を含む加熱水などの媒体によりイオン浸漬処理を行っているが、本発明とは異なるガスバリア性樹脂が使用されいずれも熱処理を受けるものである。
特許文献8では、本発明と同様に、ポリカルボン酸系樹脂と多価金属の化合物のみを使用するが、本発明と異なりポリカルボン酸系樹脂層に金属化合物の層を設けた、或いはポリカルボン酸系樹脂と金属化合物の混合物からなるフィルムを使用するものである。なお、特許文献8には、金属化合物を含む加熱水などの媒体によりイオン浸漬処理を行う記載も見られるが(52頁)、本発明とは異なる、エステル結合させるガスバリア性樹脂が使用されて熱処理も受け、構成が異なるものである。
特許文献9では金属蒸着などによる金属層を設け、特許文献10ではイソシアネート化合物などの特定の架橋剤を使用し、特許文献11では有機金属化合物と金属イオンの2種の架橋剤を使用し、いずれも熱処理を受けるものである。なお、特許文献11の比較例7(6頁の表)に、ポリカルボン酸系樹脂と金属イオンのみを使用し熱処理を行わず金属イオン浸漬処理をする記載があり、本発明の構成に類似した例が記載されているが、金属化合物の溶解性が低く、酸素透過度は測定不可であり耐熱性が劣り外観も極端に悪い積層フィルムの結果となり全く実用化できない製品なので、明らかな失敗例というべきものであって、失敗例であるがゆえに、本発明の新規性や進歩性に関わるものでないのは明白である。
さらに、本発明でも、後記の実施例8においては上記の特許文献11の比較例7と同様に、ポリカルボン酸系樹脂のNa中和物を使用しているが、当比較例7では、浸漬処理液として溶解性の低いCa(OH)を使用しており、このような多価金属化合物を使用すると均一なイオン架橋が進行せずガスバリア性や耐熱水性及び外観が劣ったものとなる問題を呈し、一方、本発明の実施例8では溶解性の高い酢酸亜鉛を使用してこの問題を解決しており、本発明の卓越性が窺える。加えて、本発明では、溶解性の低い多価金属化合物を使用する場合には粒子径の小さい微粒子を使用して上記の問題を抑止することもでき、このような点にまで本発明の優位性が潜在している。
特許文献12では、フィルム基材にポリカルボン酸樹脂層を形成し、多価金属の化合物の溶液を塗布した積層フィルムを、熱処理を行わずに水分の存在下に放置して架橋させる製法であり、熱処理を行わない僅かの従来例のひとつであるが、熱処理工程を行わないとしても単に放置して架橋させるので、イオン架橋に長時間を要し生産性が非常に低く実用的ではなく、本発明と異なり、金属化合物を含む加熱水などの媒体によりイオン浸漬処理を行うものでもない。
以上の考察からすれば、従来のいずれの先行技術も、段落0010,0011及び0013に記載した新規な構成とそれによる格別の特徴を呈する本発明を、示唆するものではなく窺わせるものでもないといえる。また、これらの先行技術の各特許文献以外の他の特許文献においても、本発明を窺わせる記載は見い出せない。
【0015】
以上においては、本発明の創作される経緯とその構成の特徴などについて概述したので、ここで本発明についてその全体を俯瞰して、その構成全体を明確に記載すると、本発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]の発明を基本発明として、それ以外の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。(なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。)
【0016】
[1]プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂を塗布し乾燥してなる積層フィルムを、熱処理をすることなく、二価以上の金属の化合物を含む水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱貯蔵する処理槽にて浸漬処理し、必要により洗浄槽中を搬送させ洗浄液にて洗浄し、次いで乾燥させて、金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させることを特徴とする、ガスバリア性積層フィルムの製造方法。
[2]金属化合物の水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱貯蔵する処理槽において、積層フィルム材料の送入口及び送出口が、大気雰囲気からシール材又は水頭圧シールにて遮断されていることを特徴とする、[1]におけるガスバリア性積層フィルムの製造方法。
[3]フィルム基材にアンカーコート剤を塗布し乾燥させ、次いでポリカルボン酸系樹脂溶液が塗布されることを特徴とする、[1]又は[2]におけるガスバリア性積層フィルムの製造方法。
[4]ポリカルボン酸系樹脂とポリアルコール系樹脂混合溶液が塗布されることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおけるガスバリア性積層フィルムの製造方法。
[5]ポリカルボン酸系樹脂が、単独でフィルムに成形したときに、30℃で相対湿度0%における酸素透過係数が1,000cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下であり、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸の群から選ばれる少なくとも一種の不飽和酸を重合した単独重合体若しくはそれらの共重合体又はそれらの重合体の混合物であり、金属化合物がアルカリ土類金属化合物又は有機酸金属塩であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおけるガスバリア性積層フィルムの製造方法。
[6]ポリカルボン酸系樹脂に予め一価アルカリ金属化合物及び/又は多価金属化合物が含有されていることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかにおけるガスバリア性積層フィルムの製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかにおけるガスバリア性積層フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とし、プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にガスバリア性ポリカルボン酸系樹脂層が形成され、ポリカルボン酸系樹脂が、熱処理を受けることなく二価以上の金属の化合物における金属イオンによりカルボキシル基において架橋させられ、柔軟性とガスバリア性を併せて有するガスバリア性積層フィルム、及びそのガスバリア性積層フィルムを使用する、ガスバリア性包装フィルム又はガスバリア性加熱殺菌用包装材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法においては、高温でかなりの時間の熱処理工程を受けないので、フィルム基材のカールなどの変形や収縮及び熱劣化さらにはガスバリア性樹脂層の変質や着色化などの従来の問題が解消され、多量のエネルギー使用も不要となって、製造工程も短縮され製造工程の経済性が高まりエネルギー消費による環境負荷も低減され、高湿度下でも優れたガスバリア性を有する、ガスバリア性積層フィルムを工業的に安価に連続生産できる。
そして、イオン架橋のみなので、高温かつかなりの時間の熱処理工程は不要となり、柔軟性とガスバリア性を併せもつことを特徴とするガスバリア性積層フィルムが製造されることとなる。また、ガスバリア性のための樹脂層表面が熱処理を受けずエステル結合もしていないので比較的に柔らかくて、金属イオンが侵入し易く、温和な条件で浸漬処理を行うことができ、洗浄処理工程においても、樹脂層表面が比較的に柔らかいので、余分の金属化合物や遊離のイオンを洗い出し易く、異臭を生じる有機イオン性化合物の残留が無く、生成フィルムの透明性(ヘーズ値)も良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明については、発明の課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿ってその概略を前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を、主として、ガスバリア性樹脂積層フィルムの製造方法について、具体的に詳しく説明する。
【0019】
1.ガスバリア性積層フィルムの製造
(1)ガスバリア性積層フィルムの基本的な構造
本発明の主体となるガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にポリカルボン酸系樹脂層が形成され、ポリカルボン酸系樹脂が、熱処理を受けることなく二価以上の金属の化合物における金属イオンによりカルボキシル基の相互において架橋させられ、高湿度下でもガスバリア性が優れ、柔軟性とガスバリア性を併せもつ構成が採用される。
ガスバリア性ポリカルボン酸系樹脂層は、フィルム基材の一方の面に形成されるが、よりガスバリア性を高める必要があれば両面に形成することもできる。
積層フィルムの基本的な層構成が図1及び図2に模式断面図として示されており、ガスバリア性ポリカルボン酸系樹脂層1は、アンカーコート(アンダーコート)層2を介して又は直接に基材フィルム3上に積層されている。
【0020】
(2)ガスバリア性積層フィルムの基本的な製造法
ガスバリア性積層フィルムの製造方法は、プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、必要により両面に、ガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂溶液を塗布し乾燥してなる積層フィルムを、熱処理をすることなく、二価以上の金属の化合物を含む水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱貯蔵する処理槽にて、好ましくは連続的に、浸漬処理し、必要により洗浄槽中を搬送させ洗浄液にて洗浄し、次いで乾燥させて、金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させることを、基本的な構成とする。
【0021】
(3)製造工程
本発明の製造工程が、製造プロセスの概略図として図3及び図4に例示されている。製造工程の主要例を図3及び図4に沿って説明すると、ロール状に巻かれたフィルム基材4を連続的に送り出し、必要によりアンカーコート剤を、グラビアコーター5により塗布し、乾燥炉6を通過させて乾燥させ溶媒を除去し、次いでポリカルボン酸系樹脂溶液を、グラビアコーター7により塗布し、再び乾燥炉6を通過させて乾燥させ溶媒を除去し、フィルム基材にポリカルボン酸系樹脂層が塗布積層されたガスバリア性積層フィルムの前駆体8として、一旦巻き取りロールに巻き取り保管する。
次いで、金属化合物溶液への浸漬処理を行うために、上記の積層フィルムの前駆体9を、イオン架橋を行う金属化合物溶液が貯蔵された処理槽10中を搬送させて金属化合物を浸漬させ、好ましくは、図3に例示されるように、洗浄液の貯蔵された洗浄槽11中を搬送させて、或いは図4に例示されるように、洗浄液のシャワー処理13により、積層フィルムの表面上及び表層中の過剰の金属化合物や遊離のイオンなどを洗浄除去し、次いで乾燥炉6中を通過させて溶媒や洗浄液を除去乾燥し、最後にガスバリア性積層フィルム12の製品として巻き取りロールに巻き取られ出荷される。
【0022】
(4)アンカーコート剤の塗布及び乾燥
i)アンカーコート剤の塗布
本発明においては、アンカーコート層はアンダーコート層として、フィルム基材とポリカルボン酸系樹脂層との接合性を高めるために、好ましくは使用されるが必須のものではない。図1及び図2には、ガスバリア性積層フィルムにおける、アンカーコート層の有無による積層構造図が例示されている。
アンカーコート層は、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、エポキシ系など各種のポリマー材料が乾燥時に0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜5μmの厚みになるように塗布される。
【0023】
塗布装置は特に限定されず、通常の各種の塗布装置が使用される。アンカーコート剤と溶剤からなる溶液を基材上へ塗布する方法や装置として、ディッピング法やスプレー法、或いはコーターや印刷機を使用する。塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバース方式、オフセットグラビア方式など、コーターとしては、グラビアコーター、リバースグラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーターなどを用いることができる。
より接合性を高くするために、予めフィルム基材の塗布面に、コロナ放電やプラズマ処理或いはイトロ処理などの物理的予備処理を施しておいてもよい。
【0024】
ii)乾燥
乾燥は、好ましくは乾燥炉中を搬送させて行い、乾燥条件は溶媒を除去できる範囲であればよく、例えば、乾燥温度は40〜120℃の範囲であることが好ましく、乾燥時間は0.5秒以上10分以下であることが好ましい。
アンカーコート剤と溶剤からなる溶液を、基材上へ塗工後、溶剤を蒸発し乾燥させる方法は特に限定されない。自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、上記のコーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤーなどを用いることもできる。
【0025】
(5)ポリカルボン酸系樹脂の塗布と乾燥
i)ポリカルボン酸系樹脂の塗布
ポリカルボン酸系樹脂としての、ポリアクリル酸などの各種のポリマー材料が乾燥時に0.001μm〜1mmの範囲に、好ましくは、0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜10μm、特に好ましくは0.05〜5μmの範囲の厚みになるように塗布される。
塗布装置は特に限定されないが、通常の各種の塗布装置が使用される。具体的な方法又は装置としては、ディッピング法やスプレー法、或いはコーターや印刷機を使用する。塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバース方式、オフセットグラビア方式など、コーターとしては、グラビアコーター、リバースグラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーターなどを用いることができる。
溶媒は特に限定されないが、溶解性や経済性などからして、水系又はアルコール系が好ましい。
【0026】
ii)ポリカルボン酸系樹脂層の乾燥
乾燥は主として、乾燥炉中を搬送させて行い、乾燥条件は、使用する樹脂や溶媒によるので特に限定されない。自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、上記のコーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤーなどを用いることもできる。
【0027】
ポリカルボン酸系樹脂を塗布後の乾燥温度は、溶媒を除去できる温度であればよく、30℃から160℃の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、40℃から150℃の範囲であり、最も好ましくは、45℃から140℃の範囲である。30℃未満であると乾燥に時間がかかり過ぎるため工業的な製造に適さない。160℃を超えると、耐熱性のある基材を使用しなければならないなど基材が限定される。また、160℃を超えると、ポリカルボン酸系樹脂層の耐水性が上がり過ぎ、浸漬処理過程における処理速度が遅くなり好ましくない。
【0028】
乾燥時間も上記同様に、特に限定されないが、1秒以上60分以内であることが好ましい。さらに好ましくは、1秒以上20分以内であり、最も好ましくは3秒以上10分以内である。1秒未満であると、ポリカルボン酸系樹脂塗液中の溶媒除去が不充分であり、60分を超えると処理時間がかかり過ぎるため工業的な製造には適さない。
特に本発明において、ポリカルボン酸系樹脂層の乾燥の最適条件は、ポリカルボン酸中のカルボキシル基が、脱水反応や脱カルボニル化反応、或いはポリアルコール系樹脂を使用した場合のエステル化反応を起こさない条件である。乾燥過程で、脱水反応や脱カルボニル化反応、或いはエステル化反応が生じると、ポリカルボン酸系樹脂層の耐水性が上がり過ぎ、また表面樹脂層が硬くなって、浸漬処理時間が長時間になってしまい、また、処理時間を短縮させるためには、処理温度を高温にする必要がでてきてしまい、工業的な製造に適さなくなる。
【0029】
以上のことから、上記の耐水性を付与しない程度の、乾燥温度としては、45〜100℃の範囲が好ましい。45〜100℃の乾燥温度範囲においては、乾燥時間は特に制限はないが、工業的な製造を考えると、10分以内であることが好ましい。さらに好ましくは5分以内であり、最も好ましくは3分以内である。
ただし、100〜160℃の乾燥条件であっても、ポリカルボン酸系樹脂層の耐水性が付与されない程度に、乾燥時間が短時間であれば、浸漬処理に用いる基材として好ましい条件になる。この場合に、耐水性を付与しない条件と工業的な製造を考えると、2分以内であることが好ましく、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは30秒以内である。
【0030】
(6)浸漬処理工程
i)浸漬処理
二価以上の金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂におけるカルボキシル基を架橋させ、高いガスバリア性を発現させるために、フィルム基材にアンダーコート剤(省略することも可能である)及びポリカルボン酸系樹脂を塗布して乾燥した、ガスバリア性積層フィルムの材料としての前駆体を、多価金属の化合物溶液へ浸漬させ浸漬処理を行い、金属イオンをポリカルボン酸系樹脂層に移行させ取り込むことが必要である。そのために、当前駆体を二価以上の金属の化合物の加熱溶液が貯蔵された処理槽中を搬送させて金属化合物を浸漬させ、その後にイオン架橋を行う。
浸漬された金属イオンはポリカルボン酸系樹脂層の表面から層内部に移行して、金属イオンとしてポリカルボン酸系樹脂の二個又はそれ以上のカルボキシル基の相互を、イオン結合によりイオン架橋する。金属化合物ではなく金属単体としても使用可能である。そのイオン架橋によりポリカルボン酸系樹脂層の層内部が緻密となり、酸素などのガスの層中の透過を抑制してガスバリア性が高められる。
【0031】
ii)浸漬処理槽
二価以上の金属の化合物を含む水溶液を常圧を超える加圧下に加熱すると、100℃を超える温度に加熱することが可能となり、ポリカルボン酸系樹脂層への金属イオンの侵入及び金属イオンによるカルボキシル基の架橋を、短時間に効率よく行うことができる。
本発明においては、基本的には、熱処理によるエステル架橋が生じないので、ガスバリア性のための樹脂層表面が比較的に柔らかく、金属イオンが侵入し易く、温和な条件で浸漬処理を行うことができるが、工業的な製造の観点からは、浸漬処理時間をより短くして工程の効率化をなすために、また、ガスバリア性積層フィルムの製造における最も重要な工程である、金属イオンの浸漬を充分に均一に行うためにも、加圧下に100℃を超える温度を採用する。そして、短時間化により加熱工程の熱影響を減縮できることにもなる。
あまり高温にし過ぎるとフィルム基材やポリカルボン酸系樹脂層に悪影響が生じる惧れがあるので、160℃程度以下とする。
二価以上の金属の化合物を含み、常圧を超える加圧下に100℃を超える温度に加熱された水溶液を貯蔵する処理槽においては、加圧下に100℃を超える温度に加熱するために、図3及び図4に例示されるように、処理槽は蓋部材により密封され、積層フィルム材料前駆体の送入口及び送出口が、大気雰囲気からシール材又は水頭圧シールにて遮断されている。
【0032】
加圧は、処理槽中の蓋部材下の空間部に加熱水溶液を強制的に吹き込むなどの手段により適宜に行うことができ、密封化下の水溶液の加熱による加圧もなされる。加熱は、加熱水溶液の吹き込みや処理槽に備えたヒーターの加熱などの手段により適宜に行うことができる。
処理槽における、大気雰囲気の外部からの遮断は、フッ素系樹脂などのシール材による手法が好ましいが、図3及び図4に例示されるように、水頭圧シールにて遮断してもよい。水頭圧シールは、処理槽における積層フィルム材料前駆体の送入口及び送出口に隔壁を設けて、処理槽中央部から送入口及び送出口を隔離し、密封下の処理槽上部の空間部の加圧によって、隔離部の加熱水溶液の液面を処理槽中央部の加熱水溶液の液面より高くすることにより、備えることができる。
処理槽においては、好ましくは、多数の搬送ローラが設置されて積層フィルムの浸漬経路を長くしている。
【0033】
iii)浸漬処理液
本発明においては、各種の金属化合物を浸漬処理に使用するが、浸漬処理時間の短縮及び浸漬処理温度の緩和の観点からして、浸漬処理液としては、水溶液中での溶解性が高くて水溶液中でイオンとして存在する、酢酸塩、乳酸塩、塩化物、硫酸塩などの水溶性金属塩の使用が好ましい。水溶液以外に、金属化合物の分散液も使用し得る。
【0034】
iv)浸漬処理液の多価金属の化合物濃度
浸漬処理液の多価金属の化合物濃度としては、0.1〜50(重量)%含有することが好ましく、1〜30%含有することがさらに好ましい。最も好ましくは、3〜20%含有することである。
多価金属の化合物の濃度が0.1%未満であると、ポリカルボン酸系樹脂層をイオン化するのには金属化合物量が不足してガスバリア性が充分に発現しない。また、50%を超えると、浸漬処理時に過剰の多価金属の化合物がポリカルボン酸系樹脂層へ付着してしまい、洗浄工程がない場合に、塗布面の外観が不良になる。洗浄工程がある場合でも、過剰の多価金属化合物を洗浄して外観を良好にするためには、洗浄時間がかかり過ぎるので工業的な製造に適さない。
【0035】
v)浸漬処理液温度
浸漬処理液温度は、ポリカルボン酸系樹脂をイオン化させるために、ポリカルボン酸系樹脂を浸漬処理槽中の多価金属の化合物でイオン化できる100℃以上の温度であれば、特に限定されない。
100〜130℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、100〜120℃の範囲である。130℃を超えると、フィルム基材やポリカルボン酸系樹脂に高熱による悪影響が生じる惧れがあり工業的な製造に適さない。
【0036】
vi)浸漬処理時間
本発明においては、金属水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱しているので、浸漬処理時間は、0.1秒以上15分以内であることが好ましい。さらに好ましくは、0.1秒以上10分以内であり、最も好ましくは0.1秒以上1分以内である。0.1秒未満であると、ポリカルボン酸系樹脂層のイオン化が不充分となり、15分を超えると、フィルム基材やポりカルボン酸系樹脂に高熱による悪影響が生じる惧れがあり工業的な製造には適さない。
【0037】
(7)洗浄処理工程
i)洗浄処理
ポリカルボン酸系樹脂層が多価金属イオンを含む水溶液で浸漬された積層フィルムは、次いで、好ましくはガスバリア性積層フィルムの透明性を確保し、或いは異臭の発生を抑止する必要性により、積層フィルム表面及び表層中に付着した過剰の金属化合物及び金属化合物のカウンターイオンを除去するために、洗浄処理を受ける。洗浄工程の具体例が図3及び図4に示されている。
洗浄は浸漬処理時に付着した過剰な多価金属の化合物などを除去できれば特に限定はなく、図3に例示されるように、洗浄液を貯蔵する洗浄槽を通過させてもよいし、図4に例示されるように、洗浄槽中で洗浄液をシャワー状に吹き付けてもよい。
洗浄槽は好ましくは、多数の搬送ローラが設置されて積層フィルムの洗浄経路を長くしてもよい。
【0038】
水溶性の有機酸の金属塩を使用した場合には、ポリカルボン酸系樹脂層中へ多価金属イオンと共に、酢酸イオンなどの有機酸成分が侵入する。有機酸成分が臭いを放つ物質であって、臭いの影響を除去する必要のある、飲食品や医薬品などの包装材料に使用する場合には、浸漬処理後のガスバリア性積層体を充分に洗浄し有機酸成分を除去して、臭いの影響を除く必要がある。
本発明では、基本的には、熱処理によるエステル架橋が生じないので、ガスバリア性のための樹脂層表面が比較的に柔らかく、余分の金属化合物などを洗い出し易くなっている。
【0039】
ii)洗浄液
洗浄液は、浸漬処理時に付着した過剰な多価金属の化合物や余分なイオンなど除去できれば、特に限定はなく、水道水や蒸留水或いはイオン交換水などを使用することができる。
【0040】
iii)洗浄液温度
洗浄液温度は、浸漬処理時に付着した過剰な多価金属の化合物などを除去できれば、特に限定はないが、5℃から100℃の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、10℃から70℃の範囲であり、最も好ましくは、20℃から50℃の範囲である。5℃未満であると洗浄機能が低く洗浄に時間がかかり過ぎるため工業的な製造に適さない。100℃を超えると高圧下での処理が必要となるため特殊な処理装置が必要となり好ましくない。
【0041】
iv)洗浄時間
洗浄時間も特に限定されないが、0.1秒以上60分以内であることが好ましい。さらに好ましくは、0.1秒以上20分以内であり、最も好ましくは0.1秒以上3分以内である。0.1秒未満であると、洗浄が不充分であり、60分を超えると処理時間がかかり過ぎるため工業的な製造には適さない。
【0042】
(8)乾燥工程
浸漬処理及び洗浄後に乾燥処理が行われ、乾燥は好ましくは乾燥炉中を搬送させて行う。
洗浄後のフィルムの乾燥方法は特に限定されない。乾燥には、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、前記のコーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤーなどを用いることができる。
乾燥温度は、浸漬処理液溶媒及び洗浄液を除去できる温度であれば、特に限定されないが、20〜160℃の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、40〜120℃の範囲であり、最も好ましくは、45〜100℃の範囲である。20℃未満であると乾燥に時間がかかり過ぎるため工業的な製造に適さない。160℃を超えると耐熱性のある基材を使用しなければならず基材の限定を受けることとなり好ましくない。
また、乾燥時間も、特に限定されないが、1秒以上60分以内であることが好ましい。さらに好ましくは、1秒以上20分以内であり、最も好ましくは3秒以上5分以内である。1秒未満であると、浸漬処理液及び洗浄液の除去が不充分となり、60分を超えると処理時間がかかり過ぎるため工業的な製造には適さない。
【0043】
2.ポリカルボン酸系樹脂積層フィルムにおける原材料について
(1)ポリカルボン酸系樹脂
i)ポリカルボン酸系樹脂の特性値
ポリカルボン酸系樹脂の数平均分子量については、特に限定されないが、フィルム成形性の観点から、2,000〜10,000,000の範囲であることが好ましく、さらには、5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
ポリカルボン酸系樹脂は、その単独のフィルム状形成物について、乾燥条件下(30℃・相対湿度0%)で測定した酸素透過係数が、好ましくは1,000cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下、さらに好ましくは500cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下であり、最も好ましくは100cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下である。
ここで、酸素透過係数は、例えば以下の方法で求めることができる。プラスチックフィルム基材上に厚さ1μmのポリカルボン酸系樹脂層が形成された積層フィルムを作成し、用いたプラスチックフィルム基材の酸素透過度が既知であるとき、積層フィルムの酸素透過度が基材として用いたプラスチックフィルム単独の酸素透過度に対して10分の1以下であれば、積層フィルムの酸素透過度の測定値が、ほぼポリカルボン酸系樹脂層単独の酸素透過度とみなすことができる。そして、得られた値は、厚さ1μmのポリカルボン酸系樹脂の酸素透過度であるため、その値に1μmを乗じることにより、酸素透過係数に換算することができる。
フィルムの酸素透過度は、Modern Control社製の酸素透過度試験器OXTRAN2/20を用いて、温度30℃・相対湿度0%の条件下で測定した。測定方法は、JIS K−7126 B法(等圧法)、及びASTM D3985−81に準拠し、測定値は、単位cm(STP)/(m・day・MPa)である。ここで(STP)は酸素の体積を規定するための標準条件(0℃・1気圧)を意味する。
【0044】
ii)ポリカルボン酸系樹脂の具体例
本発明で用いるポリカルボン酸系樹脂は、既存のポリカルボン酸系重合体(樹脂)を用いることができるが、既存のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する重合体の総称である。
具体的には、重合性単量体としての、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸の重合体、その単量体と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、さらにアルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチンなどの分子内にカルボキシル基を有する酸性多糖類を例示することができる。これらのポリカルボン酸系重合体は、それぞれを単独で、または少なくとも2種のポリカルボン酸系重合体を混合して用いることができる。
ここで、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などが代表的なものである。また、それらと共重合可能な単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、スチレンなども使用される。ポリカルボン酸系重合体がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体の場合には、さらにケン化することにより、飽和カルボン酸ビニルエステル部分をビニルアルコールに変換して使用することができる。
【0045】
本発明で用いるポリカルボン酸系重合体が、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、得られるフィルムのガスバリア性及び高温水蒸気や熱水に対する耐性の観点から、その共重合組成は、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が60モル%以上であることが好ましい。より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%、即ち、ポリカルボン酸系重合体がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体であることが最も好ましい。
さらに、ポリカルボン酸系重合体がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる場合には、その好適な具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体若しくは共重合体又はそれらの混合物を用いることができる。より好ましくは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸などの樹脂、及びそれらの混合物を用いることである。
ポリカルボン酸系重合体がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体以外の、例えば、酸性多糖類の場合には、アルギン酸を好ましく用いることができる。
【0046】
本発明で使用するポリカルボン酸系重合体は、一価アルカリ金属化合物及び/又は多価金属化合物を加えたものであってもよい。使用態様は、ポリカルボン酸系重合体に添加しておいてもよいし、その塗布液に添加してもよい。
ポリカルボン酸系重合体に加える一価のアルカリ金属化合物としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、フランシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、無機酸塩、有機酸塩などが挙げられる。また、多価金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛などの遷移金属やアルミニウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、無機酸塩、有機酸塩、その他のアンモニウム錯体や2〜4級アミン錯体とそれらの炭酸塩や有機酸塩、アルキルアルコキシドなどが挙げられる。
【0047】
ポリカルボン酸系重合体に一価アルカリ金属化合物を加える場合の組成は、塗工適性と塗液安定性の観点で、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基に対して、一価アルカリ金属化合物は0.01〜0.35化学当量であることが好ましい。
ポリカルボン酸系重合体に多価金属化合物を加える場合の組成は、塗工適性と塗液安定性の観点で、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基に対して、多価金属化合物は0.05〜0.30化学当量であることが好ましい。
また、ポリカルボン酸系重合体に一価アルカリ金属化合物と多価金属化合物を共に加える場合の組成は、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基に対して、一価アルカリ金属化合物は多価金属化合物の溶解性とガスバリア性の観点で0.01〜0.35化学当量であることが好ましく、多価金属化合物は塗液安定性の観点で、0.05〜0.75化学当量であることが好ましい。
【0048】
(2)ポリアルコール系樹脂
本発明では、ポリカルボン酸系樹脂にポリアルコール系樹脂を併用してもよく、これは分子内に2個以上の水酸基を有するアルコール系重合体であり、ポリビニルアルコールや糖類及び澱粉類を含むものである。
ポリビニルアルコールは、ケン化度が好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であり、数平均重合度が通常300〜1,500である。
糖類としては、単糖類やオリゴ糖類及び多糖類を使用する。これらの糖類には、糖アルコールや各種置換体や誘導体、サイクロデキストリンのような環状オリゴ糖なども含まれる。これらの糖類は、水に溶解性のものが好ましい。
澱粉類は、多糖類に含まれるが本発明で使用される澱粉類としては小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、モチトウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉などの生澱粉(未変性澱粉)のほか、各種の加工澱粉がある。加工澱粉としては、物理的変性澱粉、酵素変性澱粉、化学分解変性澱粉、化学変性澱粉、澱粉類にモノマーをグラフト重合したグラフト澱粉などが挙げられる。これらの澱粉類の中でも、焙焼デキストリンやそれらの還元性末端をアルコール化した還元澱粉糖化物などの、水に可溶性の加工澱粉が好ましい。澱粉類は、含水物であってもよい。また、これらの澱粉類は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
(3)金属化合物
i)金属化合物の種類
イオン架橋のための金属化合物としては多価金属の化合物が使用され、多価金属化合物の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属、さらにアルミニウムなどを挙げることができる。多価金属化合物の具体例としては、前記多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩、その他、多価金属のアンモニウム錯体や多価金属の2〜4級アミン錯体とそれら錯体の炭酸塩や有機酸塩などが挙げられる。
有機酸塩としては、酢酸塩、蓚酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩などが挙げられる。無機酸塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などを挙げることができる。さらには多価金属のアルキルアルコキシドも使用できる。
これらの多価金属化合物はそれぞれ単独で、又は少なくとも2種の多価金属化合物を混合して用いることができる。
【0050】
ii)好適な金属化合物
本発明で用いる多価金属化合物としては、本発明の材料のガスバリア性、高温水蒸気や熱水に対する耐性、及び製造性の観点から、二価以上の金属化合物が好ましく用いられる。さらに好ましくは、アルカリ土類金属、及びコバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの酸化物、塩化物、硫酸塩、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、さらにはコバルト、ニッケル、亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。
最も好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛の各酸化物、塩化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩及び乳酸塩である。
【0051】
浸漬処理時間の短縮や浸漬処理温度の緩和の観点から、好ましい多価金属の化合物としては、ポリカルボン酸系樹脂層のイオン化処理に用いることを考慮して、水溶液中での溶解性が高く、水溶液中でイオンとして存在する、酢酸塩、乳酸塩、塩化物、硫酸塩などの水溶性金属塩の使用が好ましい。
また、溶解性が低く、水溶液中でイオンとして存在する量が少ない、酸化物、水酸化物、炭酸塩などの多価金属の化合物を使用する場合には、ポリカルボン酸系樹脂層のイオン化速度を高める観点から、一次粒子径が100nm以下の微粒子を使用することが好ましい。
製造時の材料費の観点からは、高価な多価金属化合物微粒子を使用するよりも、安価な水溶性金属塩を使用することが好ましい。
【0052】
本発明の浸漬処理で使用する多価金属化合物を含有する浸漬処理液に、一価金属の化合物を添加して使用することもできる。一価金属化合物を添加することで、浸漬処理時のイオン化の挙動(ポリカルボン酸系重合体層の膨潤及びイオン化速度)を制御でき、より効率的な処理が可能になることがあり得る。この点も本発明の潜在した特徴点のひとつであるといえる。
一価金属化合物としては、アルカリ金属、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
【0053】
(4)フィルム基材
本発明においては、フィルム基材は、特に材料は限定されないが透明な熱可塑性樹脂が好ましく使用される。
具体的には、熱可塑性樹脂を押出成形や射出成形或いはブロー成形や延伸ブロー成形さらには流延成形などの汎用の手段で成形した、フィルム状基材が使用される。フィルム基材は、単一の層から構成されたものであってもよいし、或いは、同時溶融押出成形などのラミネーションによる複数の層から構成されたものであってもよい。
本発明は高温での熱処理を受けないので、フィルム基材のカールや収縮或いは変形や変質などの惧れがなく、耐熱性の低いフィルム基材も使用することが可能である。
【0054】
プラスチックフィルム基材を構成する熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、スチレン系(共)重合体、塩化ビニル系(共)重合体、アクリル系(共)重合体、ポリカーボネートなど各種の素材が使用できる。経済性や包装材料の物性からして、オレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリアミドが好ましい。
オレフィン系樹脂としては、好ましくは、各種のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−共重合体などが使用され、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレートなどが使用され、ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド重合体などが使用される。
これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合し使用してもよい。
【0055】
(5)アンカーコート剤
アンカーコート層の材料としては、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、エポキシ系など各種のポリマー材料が使用されるが、ポリオール成分とポリイソシアネートとを含有するウレタン系コート剤が好ましい。
ウレタン系コート剤におけるポリオール成分としては、ポリエステル系ポリオールが好ましく、ポリエステル系ポリオールとしては、多価カルボン酸などとグリコール類とを反応させて得られるポリエステル系ポリオールが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フエニレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが例示される。
【0056】
3.ガスバリア性積層フィルムについて
(1)ガスバリア性
本発明のガスバリア性積層フィルムは、高湿度下においても酸素などのガスバリア性に優れた積層フルムである。したがって、本発明のガスバリア性積層フィルムの20℃・相対湿度80%における酸素透過度は、好ましくは1,000cm(STP)/(m・day・MPa)以下、より好ましくは500cm(STP)/(m・day・MPa)以下、さらに好ましくは100cm(STP)・/(m・day・MPa)以下である。酸素透過度がかかる値を有するフィルムであれば、ガスバリア材用フィルムとして好適に用いられる。
【0057】
(2)用途
本発明のガスバリア性積層フィルムは、飲食品や医薬品或いは電子機器や精密機器などのガスバリア性包装フィルムとして基本的に使用されるが、その他の用途として、シートやパウチなどとして各種の包装材料、特に、トレイやカップ状の形状などによるガスバリア性加熱殺菌用包装材料としても有用である。
【実施例】
【0058】
以下においては、本発明における実施例を開示して比較例を対照しながら、本発明をより詳細に具体的に示して、本発明の構成をいっそう明らかにし、本発明の構成の各要件の合理性と有意性及び従来技術への卓越性を実証する。
【0059】
〔積層フィルムの各種物性の評価方法〕
i)酸素透過度
本発明におけるガスバリア性積層フィルムの酸素透過度は、Modern Control社製の酸素透過度試験器OXTRAN2/20を用いて、温度20℃・相対湿度80%の条件下で測定した。測定方法は、JIS K−7126 B法(等圧法)、及びASTM D3985−81に準拠し、測定値は単位cm(STP)/(m・day・MPa)で表記した。ここで、(STP)は酸素の体積を規定するための標準条件(0℃・1気圧)を意味する。
【0060】
ii)水に対する溶解性評価方法
本発明中のガスバリア性積層体前駆体([基材/ポリカルボン酸系樹脂層]又は[基材/アンカーコート/ポリカルボン酸系樹脂層])のポリカルボン酸系樹脂層の水に対する溶解性に関する評価である。
上記前駆体(フィルム)から10cm×10cmの大きさの試料片を4枚切り取り、60℃で24時間真空乾燥させて試料片の重量を測定する。次いで試料片を、蒸留水(28℃ 500ml)中に撹拌しながら5分間浸漬する。浸漬後試験片を取り出し、60℃で24時間真空乾燥させた後、重量を測定し、ポリカルボン酸系樹脂層の重量減少率を算出する。算出は次の計算式にて行う。
重量減少率(%)=[{(W−S)−(W−S)}/(W−S)]×100
W:蒸留水で浸漬した後の試験片の重量
:蒸留水に浸漬する前の乾燥試験片の重量
S:試験片の基材及びアンカーコート層の重量
水に対する溶解性の表記は、上記の重量減少率が50%以上であり、かつ浸漬液中に遊離したポリカルボン酸系樹脂層片も目視確認できない場合のみ、易溶と表記する。それ以外は、難溶と表記する。
【0061】
iii)ヘーズ
フィルムのヘーズは、日本電飾工業(株)製の濁度計 NDH2000を用いて、測定した。測定方法は、JIS K7136(プラスチック−透明材料のヘーズの求め方)に準拠した。
【0062】
iv)臭気試験
本発明のガスバリア性積層体の臭いに関する評価であり、上記前駆体(フィルム)から1cm×1cmの大きさの試料片を400枚切り取り、50ccの共栓付きガラス瓶に詰め、共栓をした。試料片を詰めたガラス瓶を100℃で60分間加熱した後、栓を開けて臭覚試験を行った。
臭いの判定は、試料片を入れていない瓶を上記手順で臭覚試験を行ったときを1(無臭)として、本発明中の実施例で使用した金属塩中の酸性成分(例えば酢酸)を0.04mg入れた瓶を上記手順で臭覚試験を行ったときを3(弱い臭いあり)として、0.4mg入れた瓶を上記手順で臭覚試験を行ったときを5(強い臭いあり)として1から5の数字で臭いの判定を表記した。
判定基準 1:臭いなし(空瓶と同等の臭い) 2:1と3の間の臭い
3:臭いあり(酸性分を0.04mg入れた瓶と同等の臭い)
4:3と5の間の臭い 5:強い臭いあり(酸性分を0.4mg入れた瓶 と同等以上の臭い)
【0063】
〔実施例1〕
下記の構成の塗液1,2を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート(AC層)塗液である。塗液2はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリアクリル酸塗液である。
塗液1:大日本インキ化学工業(株)製ドライラミネート及びアンカーコート兼用接着剤;デイックドライTM LX−747A 硬化剤;KX−75 溶剤;酢酸エチル
(配合)LX−747A(ポリエステル系樹脂 62%酢酸エチル溶液)10kg
KX−75(ポリイソシアネート系樹脂 75%酢酸エチル溶液)
1.5kg
酢酸エチル 18.5kg
合計 30kg
塗液2:ポリカルボン酸系樹脂:東亞合成(株)製ポリアクリル酸(アロンTM A−10H) 溶剤;水及びイソプロピルアルコール
(配合)アロンTM A−10H(ポリアクリル酸25%水溶液) 10kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
水 18.5kg
合計 30kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液2を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体1)。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。
得られたガスバリア性積層体前駆体1は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体1のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体1を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体1を得た。
このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、水溶液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体1の、酸素透過度、ヘーズ、フィルムの臭い評価、外観評価を行った。
各実施例及び各比較例における条件及び評価を、下記の表1〜3にまとめて記載した。
【0064】
〔実施例2〕
実施例1で、浸漬処理後の洗浄工程を省いた以外は実施例1と同様に、ガスバリア性積層体前駆体1を処理し、ガスバリア性積層体2を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
〔実施例3〕
浸漬処理槽中の浸漬処理液を、実施例1で用いた酢酸亜鉛が10%含有された水溶液に代えて、酸化亜鉛微粒子(一次粒子径が約50nm)が10%含有された水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体前駆体1を処理して、ガスバリア性積層体3を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
〔実施例4〕
浸漬処理槽中の浸漬処理液を、実施例1で用いた酢酸亜鉛が10%含有された水溶液に代えて、酢酸亜鉛が5%含有された水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体前駆体1を処理して、ガスバリア性積層体4を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
【0065】
〔実施例5〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用した。下記の構成の塗液3を調製した。
塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液3はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリアクリル酸と澱粉の混合塗液である。
塗液3:ポリカルボン酸系樹脂;東亞合成(株)製ポリアクリル酸(アロンTM A−10H) 溶剤;水及びイソプロピルアルコール 添加剤;澱粉
(配合)アロンTM A−10H(ポリアクリル酸25%水溶液) 10kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
澱粉(水溶性) 0.6kg
水 18.5kg
合計 30.6kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液3を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体2)。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体2は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体2のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体2を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体5を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、水溶液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体5を、実施例1と同様の評価を行った。
【0066】
〔実施例6〕
実施例1で用いた、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)に代えて、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP:昭和電工(株)製アロマ−ET−20 厚さ60μm 内面コロナ処理)を基材として用いた以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体前駆体3を作成した。実施例1と同様に処理して、ガスバリア性積層体6を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
〔実施例7〕
実施例1において、浸漬処理槽中の水溶液の温度を120℃とし、処理時間を1秒とした以外は、実施例1と同様に処理して、ガスバリア性積層体7を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
【0067】
〔実施例8〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用し、下記の構成の塗液4を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液4はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリアクリル酸塗液である。
塗液4:ポリカルボン酸系樹脂:東亞合成(株)製ポリアクリル酸(アロンTM A−10H)溶剤;水及びイソプロピルアルコール 添加剤;水酸化ナトリウム
(配合)アロンTM A−10H(ポリアクリル酸25%水溶液) 10kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
水酸化ナトリウム 137g
水 18.5kg
合計 30.137kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液4を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体4)。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体4は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体4のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体4を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体8を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、水溶液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体8を、実施例1と同様の評価を行った。
【0068】
〔実施例9〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用した。下記の構成の塗液5を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液5はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリイタコン酸塗液である。
塗液5:ポリカルボン酸系樹脂;POLYSCIENCES,INC.製ポリイタコン酸 溶剤;水及びイソプロピルアルコール
(配合) ポリイタコン酸 2.5kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
水 26.0kg
合計 30kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液5を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体5)。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体5は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体5のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体5を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体9を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、水溶液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体9を、実施例1と同様の評価を行った。
【0069】
〔実施例10〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用した。下記の構成の塗液6を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液6はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリマレイン酸塗液である。
塗液6:ポリカルボン酸系樹脂;POLYSCIENCES,INC.製ポリマレイン酸 溶剤;水及びイソプロピルアルコール
(配合) ポリマレイン酸 2.5kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
水 26.0kg
合計 30kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液6を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体6)。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体6は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体6のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体6を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体10を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、水溶液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体10を、実施例1と同様の評価を行った。
【0070】
〔実施例11〕
浸漬処理槽中の浸漬処理液を、実施例1で用いた酢酸亜鉛が10%含有された水溶液に代えて、酢酸カルシウムが10%含有された水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体前駆体1を処理して、ガスバリア性積層体11を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
〔実施例12〕
浸漬処理槽中の浸漬処理液を、実施例1で用いた酢酸亜鉛が10%含有された水溶液に代えて、乳酸カルシウムが10%含有された水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体前駆体1を処理して、ガスバリア性積層体12を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
【0071】
〔実施例13〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用し、下記の構成の塗液7を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液7はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリアクリル酸塗液である。
塗液7:ポリカルボン酸系樹脂:東亞合成(株)製ポリアクリル酸(アロンTM A−10H)溶剤;水及びイソプロピルアルコール 添加剤;水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウム
(配合)アロンTM A−10H(ポリアクリル酸25%水溶液) 10kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
水酸化ナトリウム 28g
水酸化カルシウム 257g
水 18.5kg
合計 30.29kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液7を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体7)。括弧内には各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体7は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体7のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて金属化合物水溶液の処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体7を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体13を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、浸漬処理液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体13について、実施例1と同様の評価を行った。
【0072】
〔実施例14〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用し、下記の構成の塗液8を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液8はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリアクリル酸塗液である。
塗液8:ポリカルボン酸系樹脂;東亞合成(株)製ポリアクリル酸(アロンTM A−10H)溶剤;水及びイソプロピルアルコール 添加剤;酸化亜鉛
(配合)アロンTM A−10H(ポリアクリル酸25%水溶液) 10kg
イソプロピルアルコール 1.5kg
酸化亜鉛 283g
水 18.5kg
合計 30.28kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液8を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させて、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体8)。括弧内には各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体8は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体8のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して易溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて金属化合物水溶液の処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体8を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体14を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、浸漬処理液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体14について、実施例1と同様の評価を行った。
【0073】
〔比較例1〕
実施例1で、浸漬処理しない以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体前駆体1を使用してガスバリア性積層体15を得て、実施例1と同様に評価した。
【0074】
〔比較例2〕
塗液1は実施例1における塗液1を使用した。下記の構成の塗液9を調製した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系樹脂層との密着性を向上させるためのアンカーコート塗液である。塗液9はポリカルボン酸系樹脂として用いたポリアクリル酸とポリビニルアルコールの混合塗液である。
塗液9:ポリカルボン酸系樹脂;東亞合成(株)製ポリアクリル酸(アロンTM A−10H) 溶剤;水 添加剤;ポリビニルアルコール及び水酸化ナトリウム
(配合)アロンTM A−10H(ポリアクリル酸25%水溶液) 10kg
ポリビニルアルコール(ユニチカケミカル社製 UF040G
ケン化度 98.4% 平均重合度400) 1.1kg
水酸化ナトリウム 137g
水 20kg
合計 31.237kg
グラビアコーターを用いて、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)のコロナ処理面に上記塗液1を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を1分間通過させて、0.2μmのアンカーコート層を形成した。次いで、形成したアンカーコート層の上に上記塗液9を塗工し、90℃に設定した乾燥装置を2分間通過させた後、160℃にコントロールした熱処理炉を2分間で通過させて熱処理して、PET/AC(0.3g/m、0.2μm)/ポリカルボン酸系樹脂層(0.5g/m、0.4μm)からなる積層体を得た(ガスバリア性積層体前駆体9)。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。得られたガスバリア性積層体前駆体9は外観及び透明性は良好であった。また、得られたガスバリア性積層体前駆体9のポリカルボン酸系樹脂層は、28℃の水に対して難溶であった。
図3に示した浸漬処理装置を用いて処理を行った。図3中の巻き出し装置に上記で得たガスバリア性積層体前駆体9を取り付け、該積層体を連続的に浸漬処理槽中及び洗浄処理槽中へ搬送して連続的に浸漬処理及び洗浄処理をした後、90℃に設定した乾燥装置を1分間で通過させてガスバリア性積層体16を得た。このとき、浸漬処理槽中の処理液は、酢酸亜鉛が10%含有された水溶液であり、水溶液の温度は110℃、処理時間は5秒であった。また、洗浄処理槽中の洗浄液は蒸留水であり、蒸留水の温度は23℃、処理時間は5秒であった。
以上のようにして作製したガスバリア性積層体16を、実施例1と同様の評価を行った。
【0075】
〔比較例3〕
比較例2に用いた、熱処理炉の通過時間の2分間に代えて、15分間にした以外は、比較例2と同様にして、ガスバリア性積層体前駆体10を作成した。得られたガスバリア性積層体前駆体10を実施例1と同様に処理して、ガスバリア性積層体17を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
〔比較例4〕
比較例2に用いた、浸漬処理条件(浸漬処理液の温度110℃ 処理時間5秒)に代えて、浸漬処理液の温度110℃、処理時間15分にした以外は、比較例2と同様にして、ガスバリア性積層体18を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
〔比較例5〕
比較例4に用いた、浸漬処理槽中の浸漬処理液(酢酸亜鉛が10%含有された水溶液)に代えて、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムが合計で100ppm含有された水溶液にした以外は、比較例4と同様にして、ガスバリア性積層体19を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
〔比較例6〕
比較例2で用いた、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ(株)製ルミラーTM P−60 厚さ12μm 内面コロナ処理)に代えて、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP:昭和電工(株)製アロマ−ET−20 厚さ60μm 内面コロナ処理)を基材として用いた以外は、比較例2と同様にガスバリア性積層体前駆体11を作製した。160℃にコントロールした熱処理炉を通過させる工程で、未延伸ポリプロピレンフィルム基材の収縮及び変形が起こり、良好なガスバリア性積層体前駆体11を作成することができなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

判定基準 1:臭いなし(空瓶と同等の臭い) 2:1と3の間の臭い
3:臭いあり(酸性分を0.04mg入れた瓶と同等の臭い)
4:3と5の間の臭い 5:強い臭いあり(酸性分を0.4mg入れた瓶と 同等以上の臭い)
【0079】
[実施例と比較例の結果の考察]
以上の各実施例及び各比較例を対照することにより、本発明の製造方法によるガスバリア性積層フィルムは、ガスバリア性に優れ、透明性が良好で、臭気発生の問題もなく、積層フィルムにカールや皺も生じなく、比較例においては、ガスバリア性に劣り、或いはフィルムにカールや皺などが生じ、基材によっては熱収縮や変形により使用に耐えない例があることが明らかにされている。
本発明は、プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂を塗布し乾燥してなる積層フィルムを、熱処理をすることなく、二価以上の金属の化合物を含む水溶液を加圧下100℃を超えて貯蔵する処理槽にて浸漬処理し、必要により洗浄液にて洗浄し、次いで乾燥させて、金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させる、特有の製造方法における構成要件によって、特に、ガスバリア層形成のためにポリカルボン酸系樹脂を使用し、熱処理を受けない条件にてイオン架橋して、ガスバリア性積層フィルムを製造しているので、かかる良好な結果が各実施例において得られている。
【0080】
したがって、本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法においては、高温でのかなりの時間の熱処理を行わなくても、充分に優れたガスバリア性が発現されていることが明らかであり、高温での熱処理による、ガスバリア性樹脂材料及びフィルム基材の変質や変形或いは熱劣化や着色、さらにはエネルギー消費による経済性や環境負荷などの問題が解消され、ガスバリア性に富むフィルム材料を製造する、工業的に優れた製法が開発されていることを立証している。
各比較例においては、本発明における上記の構成の要件のいずれかを欠いているので、おしなべて良好な結果が得られていない。
【0081】
具体的には、実施例1〜14において、ポリカルボン酸系樹脂とフィルム基材及び金属イオンの各種類において、さらには浸漬処理条件を変化させて、本発明の構成要件の合理性と有意性を実証している。
実施例2においては、透明性と臭気においてやや劣るが、洗浄処理を省いているためである。実施例6では未延伸フィルム基材を使用しているのに、比較例6と対照的に、積層フィルムの収縮や変形を生じていない。
比較例1では浸漬処理をせずイオン架橋を行っていないので、ガスバリア性が非常に劣っており、比較例2〜6では、ポリアクリル酸とポリビニルアルコールを併用して水酸化ナトリウムにより中和した樹脂材料を使用しているが、比較例2,3では、熱処理により、浸漬処理において金属イオンが樹脂層に侵入し難くなっており、ガスバリア性が充分に発現されていない。比較例4,5では、熱処理のために浸漬処理において金属イオンが樹脂層に侵入し難くなってガスバリア性を発現させるには高温でのかなりの時間の浸漬処置を要し、また、熱処理により、積層フィルムにカールや皺が派生している。比較例6では未延伸フィルム基材を使用して、熱処理を受けているので、積層フィルムの収縮や変形のためにガスバリア性積層フィルムを形成できない。
以上の各実施例と各比較例の対照及び考察からして、本発明の構成が合理性と有意性を充分に備え、従来技術に対する卓越性をも有していることが明確にされている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のガスバリア性積層フィルムの層構成を例示する、模式断面図である。
【図2】本発明のガスバリア性積層フィルムの層構成を例示する、模式断面図である。
【図3】本発明のガスバリア性積層フィルムの製造工程を例示する、プロセス概略図である。
【図4】本発明のガスバリア性積層フィルムの製造工程を例示する、プロセス概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1 イオン架橋したポリカルボン酸系樹脂層 2 アンカーコート層 3 フィルム基材 4 フィルム基材の巻き出し部 5 アンカーコート剤の塗工部(グラビアコーター) 6 乾燥炉 7 ポリカルボン酸系樹脂溶液の塗工部(グラビアコーター) 8 ガスバリア性積層フィルム前駆体の巻き取り部 9 ガスバリア性積層フィルム前駆体の巻き出し部 10 金属化合物の水溶液を貯蔵する加圧加熱式浸漬処理槽 11 浸漬式の洗浄槽 12 ガスバリア性積層フィルムの巻き取り部 13 シャワー式の洗浄槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にガスバリア層形成のためのポリカルボン酸系樹脂を塗布し乾燥してなる積層フィルムを、熱処理をすることなく、二価以上の金属の化合物を含む水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱貯蔵する処理槽にて浸漬処理し、必要により洗浄槽中を搬送させ洗浄液にて洗浄し、次いで乾燥させて、金属イオンによりポリカルボン酸系樹脂を架橋させることを特徴とする、ガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
金属化合物の水溶液を加圧下に100℃を超える温度に加熱貯蔵する処理槽において、積層フィルム材料の送入口及び送出口が、大気雰囲気からシール材又は水頭圧シールにて遮断されていることを特徴とする、請求項1に記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルム基材にアンカーコート剤を塗布し乾燥させ、次いでポリカルボン酸系樹脂溶液が塗布されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
ポリカルボン酸系樹脂とポリアルコール系樹脂混合溶液が塗布されることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリカルボン酸系樹脂が、単独でフィルムに成形したときに、30℃で相対湿度0%における酸素透過係数が1,000cm(STP)・μm/(m・day・MPa)以下であり、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸の群から選ばれる少なくとも一種の不飽和酸を重合した単独重合体若しくはそれらの共重合体又はそれらの重合体の混合物であり、金属化合物がアルカリ土類金属化合物又は有機酸金属塩であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
ポリカルボン酸系樹脂に予め一価アルカリ金属化合物及び/又は多価金属化合物が含有されていることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とし、プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にガスバリア性ポリカルボン酸系樹脂層が形成され、ポリカルボン酸系樹脂が、熱処理を受けることなく二価以上の金属の化合物における金属イオンによりカルボキシル基において架橋させられ、柔軟性とガスバリア性を併せて有するガスバリア性積層フィルム、及びそのガスバリア性積層フィルムを使用する、ガスバリア性包装フィルム又はガスバリア性加熱殺菌用包装材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−160303(P2007−160303A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305989(P2006−305989)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】