説明

熱処理炉

【課題】ワークを熱処理する際に昇温時間を短縮することができる熱処理炉を提供する。
【解決手段】ワーク2を搬送しながら熱処理を行う熱処理炉20であって、前記ワーク2を、所定の熱処理温度まで過熱蒸気を用いて昇温する昇温部8と、前記ワーク2を熱処理する際に、雰囲気温度が前記熱処理温度となるように熱風を用いて略均一に保持する均熱部9と、を備え、前記昇温部8において前記ワーク2を昇温する際、及び前記均熱部9において前記ワーク2を熱処理する際に、前記昇温部8及び前記均熱部9をそれぞれ独立した区画として分割可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに対して熱処理を行うための熱処理炉の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱処理炉は、金属部品の焼入れ等を行う熱処理の際に広く用いられている。金属部品の焼入れに適用される熱処理炉としては、例えば、炉床部分が搬送ローラで構成されており、熱源を用いて温度制御された複数の区画(例えば、ワークを所定温度まで昇温する昇温部、当該所定温度を均一に保持してワークの熱処理を行う均熱部等)に分けられるトンネル状の炉内を上流側から下流側に向けて、搬送ローラによりワークを搬送しながら熱処理を行うことができるものがある。このような処理炉としては、ワークを焼き入れ温度に加熱する加熱室(前記昇温部に相当)と、当該加熱室にて加熱されたワークを等温保持する等温保持室(前記均熱部に相当)とを有し、各室を扉によって分割可能とした熱処理システムが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
他方、熱処理炉の構成として、昇温部と均熱部とを区切る扉がない一体構造とし、熱源として熱風を用い、昇温部における昇温工程と均熱部における均熱工程とを一連の工程として共通の区画内で行う一体構造型の熱処理炉がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−320593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の熱処理システムでは、昇温部に相当する加熱室にてワークを昇温する場合、加熱室を真空状態にしたうえで加熱を行うという構成であり、このような構成にすると、熱処理炉が大型化するとともに、ワークを昇温する際に真空状態にするため、その分昇温時間も余計にかかると考えられる。
【0006】
また、一体構造型の熱処理炉では、その構造上炉内温度の管理が区画に関係なく一体的になされるため、品質管理上、均熱部の処理温度以上にワーク自体を昇温することができず、炉内温度がワークの熱処理温度に設定されることになる。そのため、昇温部においては、ワークを熱処理温度まで昇温させる時間である昇温時間が長くなってしまう。この結果として、一体構造型の熱処理炉では、昇温部におけるワークの保有量が多くなり、当該保有量により熱処理炉のサイズが決まってしまう。また、ワークを均熱部において所定温度に均一に保持する均熱時間は、ワークの熱処理に要する時間であり品質確保上必要な時間であるのに対し、昇温部におけるワークの昇温時間は、ワークの品質確保に直接関与しない時間(非加工時間)であるため短縮することが望まれているが、一体構造型の熱処理炉を用いる場合では、その構造上、昇温時間を短縮することが困難である。加えて、熱源として熱風を用いた場合、ワークへの伝熱量が少なく昇温に時間を要する。このため、熱処理炉の小型化を図る場合、昇温部において昇温時間を短縮することが技術的な課題となる。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ワークを熱処理する際に昇温時間を短縮することができる熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、
ワークを搬送しながら熱処理を行う熱処理炉であって、
前記ワークを、所定の熱処理温度まで過熱蒸気を用いて昇温する昇温部と、
前記ワークを熱処理する際に、雰囲気温度が前記熱処理温度となるように熱風を用いて略均一に保持する均熱部と、を備え、
前記昇温部において前記ワークを昇温する際、及び前記均熱部において前記ワークを熱処理する際に、前記昇温部及び前記均熱部をそれぞれ独立した区画として分割可能であるものである。
【0010】
請求項2においては、
前記均熱部では、前記均熱部からの放熱分を補うだけの熱風を前記均熱部内に供給することで、前記均熱部内の雰囲気温度を前記熱処理温度に略均一に保持するものである。
【0011】
請求項3においては、
前記昇温部において前記ワークの温度を検出する温度検出手段と、
当該温度検出手段により検出された前記ワークの温度を管理する温度管理手段と、をさらに備えるものである。
【0012】
請求項4においては、
前記温度管理手段は、
前記昇温部において前記ワークを昇温する際に、前記昇温部の雰囲気温度を前記熱処理温度よりも高い温度にするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、ワークを昇温及び熱処理する際に、昇温部及び均熱部をそれぞれ独立した区画として分割するとともに、ワークを昇温するために過熱蒸気を用いることで昇温時間の短縮を図ることができる。
【0015】
請求項2においては、エネルギー消費量を抑えて、エネルギー費を低減できる。
【0016】
請求項3においては、温度検出手段によりワーク自体の温度を測定し、当該ワーク温度を温度管理手段により管理することで、ワークの過昇温・昇温不足を防ぐことができる。
【0017】
請求項4においては、昇温部内の雰囲気温度を熱処理温度より高くすることで昇温時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係る熱処理炉の全体構成を示す模式図。
【図2】熱処理の温度パターンを示す図であり、(a)は従来の一体構造型熱処理炉による熱処理温度パターンを示す図、(b)は本実施例に係る熱処理炉による熱処理温度パターンを示す図。
【図3】過熱蒸気と熱風とによりワークを昇温した場合の昇温曲線を示す図。
【図4】熱処理の温度パターンを示す図であり、(a)は従来の一体構造型熱処理炉による熱処理温度パターンを示す図、(b)はワーク昇温の際に、過熱蒸気と高温熱風を併用した場合の熱処理パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の一実施例に係る熱処理炉の全体的な構成について、図1を用いて説明をする。
なお、本実施例におけるワークは、機械加工前の金属製の粗材である。
また、以下にいう「過熱蒸気」とは、飽和蒸気を更に加熱した100℃以上の水蒸気のことである。
【0020】
熱処理炉20は、図1に示す如く、ワーク2を上流から下流に向けて搬送しながらワーク2の熱処理を行う炉であり、炉体1、過熱蒸気供給手段3、熱風供給手段4、ゲート11・12・13・14・15、搬送ローラ5、制御手段6等により構成されている。
【0021】
炉体1は、鋼製の外板を断面視略矩形のダクト状に形成し、外板の内面を耐火煉瓦等の耐熱部材やロックウール等の断熱部材で覆いトンネル状に炉内を形成する構成としている。また、炉体1は、上流側(図1における左側)から順に投入部7、昇温部8、均熱部9、搬出部10の4つの区画に分けられている。
【0022】
投入部7は、ワーク2を熱処理炉20の炉体1内に投入するための区画であり、トンネル状の炉体1の最も上流側に位置する区画である。
【0023】
昇温部8は、ワーク2を、所定の熱処理温度まで過熱蒸気を用いて昇温するための区画であり、投入部7の下流側に隣接する区画である。昇温部8は、過熱蒸気供給手段3と、温度検出手段である温度センサー16とを備える。
【0024】
過熱蒸気供給手段3は、熱源である過熱蒸気を昇温部8内に供給するための手段であり、昇温部8近傍の所定の位置に配置されている。過熱蒸気供給手段3は、昇温部8の内壁に配置された過熱蒸気を昇温部8内に噴出するための複数の噴出しノズル3aを介して過熱蒸気を昇温部8内に供給することが可能である。こうして、昇温部8では、過熱蒸気供給手段3により昇温部8内のワーク2に向けて過熱蒸気を噴出して供給することで、ワーク2を加熱してワーク2を昇温することが可能となる。また、過熱蒸気供給手段3は、制御手段6と接続されている。
なお、前記噴出しノズル3aをワーク形状に対して均等に過熱蒸気を噴出できるように昇温部8内に適宜配置することで、ワーク2に対する伝熱効率を向上することが可能である。
また、本実施例においては、過熱蒸気供給手段3により昇温部8に過熱蒸気を供給してワーク2を短時間にて昇温を行うことができる構成としているが、特に限定するものではなく、例えば、過熱蒸気のかわりに高速かつ高温で熱風を供給可能である熱風供給手段により高速かつ高温の熱風を昇温部8に供給してワーク2を短時間にて昇温する構成とすることも可能である。
【0025】
温度センサー16は、昇温部8においてワーク2の温度を検出する接触式の温度検出手段である。
なお、温度センサー16は、ワーク2の温度だけではなく、昇温部8における雰囲気温度を検出することも可能である。
【0026】
こうして、昇温部8では、当該昇温部8内においてワーク2を下流に向けて搬送しながら、温度センサー16によりワーク温度を検出するとともに、過熱蒸気供給手段3により加熱蒸気が供給されて、ワーク2を所定の熱処理温度まで昇温することができる。
なお、本実施例においては温度検出手段として接触式の温度センサーを用いたが、特に限定するものではなく、非接触式の温度センサーを用いてもかまわない。
【0027】
均熱部9は、ワーク2を熱処理する際に、均熱部9内の雰囲気温度が前記熱処理温度となるように、熱風を用いて前記雰囲気温度を略均一に保持するための区画であり、昇温部8の下流側に隣接する区画である。均熱部9は、熱風供給手段4と、雰囲気温度検出手段17とを備える。
【0028】
熱風供給手段4は、熱源である熱風を均熱部9内に供給するための手段であり、均熱部9近傍の所定の位置に配置されている。熱風供給手段4は、所定の不燃性ガス等をガスバーナーにより加熱して熱風を発生させ、均熱部9内に導入する熱風発生手段4aと、当該熱風発生手段4aにより均熱部9内に導入された熱風を撹拌して均熱部9内を循環させるための送風手段であるファン4b(本実施例においては、均熱部9内天井部に複数配置)とにより構成される。こうして、熱風供給手段4は、熱風発生手段4aにより発生させた熱風を供給配管を介して均熱部9内に供給し、供給された熱風をファン4bにより撹拌して均熱部9内を循環させることで、均熱部9の雰囲気を均一に加熱することが可能である。すなわち、均熱部9では、均熱部9内に収納されたワーク2に対して熱風供給手段4により熱風を供給することで、均熱部9の雰囲気を加熱するとともにワーク2を加熱してワーク温度を所定の温度(本実施例においては、熱処理温度)に均熱することが可能となる。具体的には、均熱部9では、雰囲気温度が熱処理温度となるように熱風を用いて、均熱部9からの放熱分を補うだけの熱風を均熱部9内に供給し、均熱部9内の雰囲気温度を略均一に保持することで、均熱部9内に収納されたワーク2自体の温度が熱処理温度となるように略均一に保持することが可能である。また、熱風供給手段4は、制御手段6と接続されている。
なお、本実施例では、前記熱風発生手段4aにおいて均熱部9に供給する熱風を発生させるためにガスバーナーを適用しているが特に限定するものではなく、電気ヒータなどを適用してもかまわない。
【0029】
雰囲気温度検出手段17は、均熱部9内の雰囲気温度、すなわちワーク2の熱処理温度を検出する温度検出手段である。雰囲気温度検出手段17としては、熱電対等の接触式温度センサーや非接触式の温度センサーを適用することができる。
【0030】
搬出部10は、ワーク2を熱処理炉20の炉体1外に搬出するための区画であり、均熱部9に隣接するとともにトンネル状の炉体1の最も下流側に位置する区画である。
【0031】
ゲート11・12・13・14・15は、断熱性を有する平板状の部材であり、上流側から順に投入部7上流側に位置する投入口7a、投入部7と昇温部8の間、昇温部8と均熱部9の間、均熱部9と搬出部10の間、搬出部10の下流側に位置する搬出口10aの各々において上下に開閉可能に設けられており、炉内の温度や雰囲気が異なる区画を形成することが可能な構成としている。ゲート11・12・13・14・15は、図示しない駆動手段をそれぞれ具備しており、当該駆動手段は制御手段6に接続される。制御手段は、ワーク2の搬送状況や各区画内で行われる処理に応じてゲート11・12・13・14・15を各々独立して開閉制御することが可能である。また、ゲート12・13は、前記昇温部8においてワーク2を昇温する際に閉じることで、昇温部8を独立した区画として分割可能である。また、ゲート13・14は、均熱部9においてワーク2を熱処理する際に閉じることで、均熱部9を独立した区画として分割可能である。
【0032】
搬送ローラ5は、耐熱鋼製の略円柱状部材であり、炉内に配設される支持部材(図示せず)により回動自在に支持される。そして、複数の搬送ローラ5・5・・・を、互いに平行かつ等間隔に、同一水平面上にワーク2の搬送方向に対して直交する向きに配設して、熱処理炉20の炉床を形成する構成としている。搬送ローラ5は、図示せぬ駆動手段に接続されており、当該駆動手段を駆動することにより回動駆動することが可能である。駆動手段は、制御手段6に接続される。そして、制御手段6は各搬送ローラ5・5・・・を回転駆動して、搬送ローラ5・5・・・上のワーク2を搬送ローラ5の回転方向に応じて前方または後方に搬送することができる。
なお、ワーク2の炉体1内における搬送位置は炉体1内に設けられたワーク位置検出手段(図示せず)により検出可能であり、ワーク2の炉体1内における搬送位置に応じて搬送ローラ5を回転駆動してワーク2を適宜所定の位置に搬送することが可能である。
【0033】
制御手段6は、本実施例にて説明する制御、ワーク2の昇温、及びワーク2の熱処理の実行を可能とするコンピュータであり、ワーク2の炉体1内における搬送位置の検出、搬送ローラ5によるワーク2の搬送制御、ゲート11・12・13・14・15の開閉の制御、過熱蒸気供給手段3及び、熱風供給手段4の制御等も併せて行うものである。具体的には、制御手段6は、過熱蒸気供給手段3を制御して過熱蒸気を昇温部8内に供給するとともに、ワーク2の温度を温度センサー16によりリアルタイムで検出することが可能である。さらに、制御手段6は、熱風供給手段4を制御して熱風を均熱部9内に供給するとともに、ワーク2の熱処理温度(雰囲気温度)を雰囲気温度検出手段17によりリアルタイムで検出することが可能である。また、制御手段6は、ワーク2に対する昇温条件(昇温速度等)及び熱処理条件(熱処理温度等)の設定である熱処理の温度パターン(図2(b)参照)に従って、昇温部8におけるワーク温度や均熱部9における熱処理温度(雰囲気温度)をモニターしつつ、過熱蒸気供給手段3や熱風供給手段4とのそれぞれを適宜制御してワーク2の昇温や熱処理を連続する工程として実行することができる。また、制御手段6は、温度管理手段(図示せず)を具備する。
【0034】
温度管理手段は、昇温部8において、前記温度センサー16により検出されたワーク2の温度を管理する手段である。また、温度管理手段は、例えば、昇温部8においてワーク2を昇温する際に、昇温部8の雰囲気温度を、熱処理温度よりも高い雰囲気温度に設定することが可能である。具体的には、温度管理手段は、過熱蒸気供給手段3を制御して過熱蒸気を昇温部8内に供給して、所定の熱処理温度よりも高い雰囲気温度に設定するともに、当該過熱蒸気により昇温されるワーク2自体の温度を温度センサー16によりリアルタイムに検出することが可能である。
【0035】
次に、熱処理炉20を用いてワーク2に対して熱処理を行う熱処理方法について図1を用いて説明する。
熱処理炉20に適用する熱処理方法は、投入工程、昇温工程、均熱工程、搬出工程、を主に有する。
【0036】
投入工程は、ワーク2を投入部7の炉体1内の搬送ローラ5上に投入する工程である。搬送ローラ5上に載置したワーク2は搬送ローラ5の回転駆動により搬送されて、隣接した区画である昇温部8内へと収納される。
投入工程が終了したら、昇温工程に進む。
【0037】
昇温工程は、昇温部8内にワーク2を収納後、ゲート12・13を閉めることにより昇温部8を独立した区画とし、過熱蒸気により所定の熱処理温度までワーク2を昇温する工程である。
すなわち、昇温工程では、昇温部8の前後のゲート12・13を閉めて、熱源として過熱蒸気を過熱蒸気供給手段3により昇温部8内に供給し、昇温部8における炉内雰囲気温度を予め設定されるワーク2の熱処理温度(均熱部9の雰囲気温度)よりも高くするように制御する。そうして、昇温工程では、制御手段6(温度管理手段)が温度センサー16によりワーク温度を測定し、ワーク2が目標設定温度である熱処理温度に到達した際に、速やかに過熱蒸気の供給を停止して昇温を停止し、ゲート13を開いてワーク2を均熱部9へ搬送する。
【0038】
このように、昇温部8においてワーク2を昇温する際に、昇温部8を独立した区画として分割し、ワーク2を昇温するために熱風等に比べて昇温能力の高い過熱蒸気を用いることで、ワーク2の昇温時間の短縮が図れる。加えて、昇温部8内の炉内雰囲気温度を熱処理温度よりも高く設定する(炉内雰囲気温度>熱処理温度)ことにより、ワーク2の昇温時間の短縮がさらに図れる。ただし、この設定の場合は、過加熱・昇温不足を発生させないように温度センサー16によりワーク温度を測定し、温度管理手段によりワーク温度を管理しながら、炉内雰囲気温度を設定された熱処理温度よりも大幅に上げ過ぎることなく適宜制御する必要がある。つまり、温度センサー16によりワーク2自体の温度を測定し、当該ワーク温度を温度管理手段により管理することで、高温雰囲気内においても、過昇温・昇温不足を防ぐことができるのである。従来の一体構造型の熱処理炉では、その構造上雰囲気温度にてワーク温度を管理しているため、雰囲気温度を熱処理温度以上に設定することは困難であったが、本実施例の熱処理炉20によれば、ワーク2を昇温及び熱処理する際に、昇温部8及び均熱部9をそれぞれ独立した区画として分割できるため、隣接した区画の熱的影響を受けることがなくなり、熱処理温度以上の高温雰囲気中でワーク2を昇温することができる。また、温度センサー16により直接ワーク温度を計測することで、粗材重量、季節変動にかかわらず、ワーク2を目標温度まで確実に昇温できる。
昇温工程が終了したら、均熱工程へ進む。
【0039】
均熱工程は、均熱部9内にワーク2を収納後、ゲート13・14を閉めることにより均熱部9を独立した区画とし、雰囲気温度が熱処理温度となるように熱風を用いて略均一に保持する工程である。
すなわち、均熱工程では、均熱部9の前後のゲート13・14を閉めて、熱源として熱風を熱風供給手段4により均熱部9内に供給し、均熱部9からの放熱分の熱量を補うだけの熱風を用いて均熱部9内雰囲気温度が設定された熱処理温度となるように略均一に保持することでワーク2の熱処理を行う。つまり、均熱工程では、炉内雰囲気温度が熱処理温度となる(炉内雰囲気温度=熱処理温度)ように制御手段6により適宜制御される。このように、均熱部9内を所定の熱処理温度になるように保持する際に、均熱部9からの放熱分を補うための熱源として安価な熱風を用いることで、熱処理炉20全体としてのエネルギー消費量を抑えて、ワーク2を熱処理する際のエネルギー費を低減することができる。
均熱工程が終了したら、搬出工程に進む。
【0040】
搬出工程は、ワーク2を熱処理炉20の炉体1外に搬出する工程であり、搬出工程が終了することで、熱処理炉20を用いたワーク2の熱処理工程が終了する。熱処理炉20から搬出されたワーク2は、図示しないワーク冷却手段により所定温度まで冷却される(冷却工程)。
【0041】
図2に、上記のように、本実施例に係る熱処理炉20によりワーク2の熱処理を行った場合の熱処理の温度パターン(図2(b))と、前述した従来の一体構造型の熱処理炉(昇温部と均熱部が一体構造であり、熱源が熱風)によりワーク2の熱処理を行った場合の熱処理パターン(図2(a))を示す。
図2に示すように、本実施例のように、ワーク2を昇温する際に、過熱蒸気を用い、かつ昇温部8と均熱部9との間をゲート12・13を閉めることで分割して各部を別体構造とすることで、従来の一体構造型の熱処理炉と比べて昇温時間(非加工時間)を1/10程度に短縮することが可能である。
なお、所定の熱処理温度によりワーク2を熱処理する時間(図2(a)(b)に示す品質確保の時間)については、ワーク2の品質確保上必要な時間であるため、本実施例と従来とでは、同じ時間となるように設定される。
【0042】
次に、本発明においてワークの昇温の際に過熱蒸気を適用した効果を実験検証するために、熱源として本実施例で用いた過熱蒸気と、比較用の熱源として熱風とをそれぞれ適用してワークの一例であるアルミシリンダーヘッドの昇温実験を行った。なお、発生熱源である過熱蒸気及び熱風の温度、供給量は同等として評価を実施した(図3参照)。
【0043】
図3に、熱源として熱風及び過熱蒸気を適用したアルミシリンダーヘッドの昇温曲線を示す。図3において、横軸が時間(秒)であり、縦軸が温度(℃)である。図中、Aが熱風により所定数のシリンダーヘッドを昇温させた場合のワーク温度平均値、Bが過熱蒸気により所定数のシリンダーヘッドを昇温させた場合のワーク温度平均値、Cが熱風雰囲気(炉内)の温度、Dが過熱蒸気雰囲気(炉内)の温度をそれぞれ示している。
図3において、室温から100℃まで昇温する際にかかる時間を過熱蒸気と熱風で比較すると、すなわち、図3に示すE部分とF部分とを比較すると、過熱蒸気の凝集熱により、熱風より過熱蒸気のほうが圧倒的に昇温が早い(熱風に比べて約1/6)。
さらに、図3において、120℃から163℃まで昇温する際にかかる時間を過熱蒸気と熱風で比較すると、すなわち、図3に示すG部分とH部分とを比較すると、過熱蒸気の比熱が大きいため、熱風より過熱蒸気のほうが約30%早い。
【0044】
また、本実施例においては昇温部8にてワーク2を昇温する際に、過熱蒸気のみを用いたが、特に限定するものではない。例えば、別の実施例として、図4(b)に示すように、昇温部8においてワーク2の昇温を行う場合に、100℃までの昇温には伝熱効果が非常に高い過熱蒸気(図3に示す昇温曲線B参照)を使用し、100℃から熱処理温度までの間の昇温には前述した高速かつ高温で熱風を供給することが可能である熱風供給手段により高温熱風を供給して、ワーク2の昇温時間を短縮することも可能である。これにより、過熱蒸気の特性を活かしつつ、安価な熱風を極力使用することで熱処理炉におけるエネルギー効率を向上してエネルギー費を抑えることが可能である。
なお、所定の熱処理温度によりワーク2を熱処理する時間(図4(a)(b)に示す品質確保の時間)については、ワーク2の品質確保上必要な時間であるため、上記別実施例と従来とでは、同じ時間となるように設定される。
【0045】
本発明は、熱容量、伝熱の大きい過熱蒸気と、安価な熱風を併用して熱処理を実施することを特徴としたものである。また、本発明は、昇温時間の短縮を図るために、昇温部におけるワークの昇温の際に熱容量の多い過熱蒸気を用いたものであるが、過熱蒸気は熱容量が多くエネルギー費が高価になる。そこで、本発明は、熱処理の際に使用するエネルギーの効率を熱処理炉全体として考慮したものであり、昇温時間短縮を図るため従来一体構造であった昇温部と均熱部とを分割可能とし、かつ熱源を昇温の際には熱容量の多い過熱蒸気を使用し、均熱の際には安価な熱風を使用するように分け、炉内温度を個別に設定可能である熱処理炉を提供するものである。
【0046】
本発明によれば、熱処理炉の小型化にあたり、課題であったワークの昇温時間を短縮することが可能である。また、昇温時や熱処理時にゲートを閉めることで昇温部と均熱部とを分割構造(別体構造)とし、かつ熱源を分離しているため、熱源の回収利用も容易に可能となる。
【符号の説明】
【0047】
2 ワーク
8 昇温部
9 均熱部
20 熱処理炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを搬送しながら熱処理を行う熱処理炉であって、
前記ワークを、所定の熱処理温度まで過熱蒸気を用いて昇温する昇温部と、
前記ワークを熱処理する際に、雰囲気温度が前記熱処理温度となるように熱風を用いて略均一に保持する均熱部と、を備え、
前記昇温部において前記ワークを昇温する際、及び前記均熱部において前記ワークを熱処理する際に、前記昇温部及び前記均熱部をそれぞれ独立した区画として分割可能であることを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記均熱部では、前記均熱部からの放熱分を補うだけの熱風を前記均熱部内に供給することで、前記均熱部内の雰囲気温度を前記熱処理温度に略均一に保持する特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記昇温部において前記ワークの温度を検出する温度検出手段と、
当該温度検出手段により検出された前記ワークの温度を管理する温度管理手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記温度管理手段は、
前記昇温部において前記ワークを昇温する際に、前記昇温部の雰囲気温度を前記熱処理温度よりも高い温度にすることを特徴とする請求項3に記載の熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−220555(P2011−220555A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87344(P2010−87344)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】