説明

熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法及び製造装置

【課題】ドロップ光ケーブル用テンションメンバーなどとして用いられる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の外径を長尺に亘って精度よく整径して製造する方法及び製造装置を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスを通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外周を加熱軟化させ、次いで該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスを順次通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外径を整径する熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法及び製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロップ光ケーブル用テンションメンバーなどとして用いられる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の外径を長尺に亘って精度よく整径する製造方法及び製造装置に関するものである。
【0002】
情報化社会が到来し、インターネットなどの伝送情報容量の増大化に伴い、ビル、住宅など加入者へ光ファイバケーブルを敷設するFTTH化が急速に進展している。
FTTH用ドロップ用光ファイバケーブルとして、テンションメンバー(以下、TMということがある。)に金属線を使用したものが提案されているが、雷によるサージングを回避するためにアースが必要となり、アース工事の手間と工事費用が嵩み、各家庭への普及において問題があった。
そこで、金属線のTMに代えてFRP(繊維強化合成樹脂)線などのノンメタリックTMを使用することによりアース工事が不要となるノンメタリック型のドロップ光ファイバケーブルが検討され、現在、ノンメタリック型のドロップ光ファイバケーブルが主流となっている。
【0003】
本出願人は、ノンメタリック型のドロップ光ファイバケーブルとして、FRP製の抗張力体(TM)に、熱可塑性樹脂製の被覆層を施した被覆付きFRPTMと、光ファイバ心線と、前記被覆付きFRPTMと前記光ファイバ心線とを一括して熱可塑性樹脂で被覆する本体被覆部とを有し、被覆付きFRPTM外周と、本体被覆部とが、相互に融合接着し、被覆層の内周とFRP抗張力体の外周とが、アンカー接着しているものを特許文献1で提案した。
しかし、この特許文献1で開示した被覆付きFRPTMにおいては、実際にドロップ光ファイバケーブルを製造する際に、製造条件、とりわけ比較的低速で被覆付きFRPTMに熱可塑性樹脂による本体被覆を行なう場合、及び押出温度がやや高温域で本体被覆を施す場合、被覆部が発泡する現象により、外観不良と光ファイバへの悪影響を生じる場合があることが判明した。
【0004】
本出願人らは、この問題、すなわちドロップ光ファイバケーブルを製造する際に、本体被覆部又は被覆付FRP製抗張力体の被覆部が発泡する現象を解消することを検討した結果、特に、FRP部の残存スチレンモノマーがこの発泡現象の原因であることが判明した。そこで、補強繊維を熱硬化性樹脂で結着したFRP部と、前記FRP部の外周に、前記FRP部の外表面とアンカー接着構造で被覆形成された熱可塑性樹脂被覆層とを有するドロップ光ファイバケーブル用FRP製抗張力体において前記FRP部の残存スチレンモノマー量を、0.03重量%以下に制限することを特許文献2で提案した。
【0005】
また、特許文献2に示されているように、被覆付FRP抗張力体において、熱可塑性樹脂被覆層表面は整径加工されるが、その外径精度は、レーザー外径測定器による表面凹凸度を2〜3/100mm以下とすることが、本体被覆時の発泡トラブルの発生を防止するために望ましいことも知得された。
【0006】
このような表面凹凸度とするためには、特許文献3に示されているように、被覆付FRP製抗張力体を予熱ダイス、整形ダイスに通して外皮(表面被覆層)を切削する方法が用いられていた。
しかし、前述の残存スチレン濃度を下げるため、長い高温蒸気硬化槽の温度を150℃程度にし、かつ生産速度を30m/分や50m/分に増速すると、被覆層に用いたポリエチレン系樹脂の溶融物がガイド類などの接触箇所に蓄積し、それらが熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線に異状部として付着するというトラブルが発生し、これらの異状部が、特許文献3記載の予熱ダイス部で過大抵抗を生じ、線条物の切断や、被覆の剥がれの原因となり、途中切断を余儀なくされる事象が多く発生し、特許文献3記載の方法では対応できない。
【0007】
被覆付FRP製抗張力体は、FRP部外周と熱可塑性樹脂被覆層の内周とがアンカー接着していることがTMとしての機能上重要であり、その製造方法は特許文献4に記載のように、補強繊維束に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させてなる未硬化状芯部を、溶融した熱可塑性樹脂で被覆し、その後直ちに該熱可塑性樹脂による被覆層を冷却固化した後、これを加圧高温蒸気による硬化槽に導いて被覆熱可塑性樹脂の融点近傍の温度を加え、該未硬化状芯部と該被覆層との界面部分を軟化、流動状態で接触させつつ該熱硬化性樹脂を硬化させて、該熱硬化性樹脂を該被覆熱可塑性樹脂とアンカー接着させ、次いで該被覆熱可塑性樹脂を冷却固化して製造される。
この製造方法による被覆付FRP製抗張力体は、TMの機能を有するFRP部外周と熱可塑性樹脂被覆層の内周とがアンカー接着しているので、これを光ファイバケーブルのTMとして使用し、ケーブル製造のため本体被覆を施すと、本体被覆樹脂とFRP被覆の樹脂とが溶融接着し、FRPのTM機能を有効に発現できる。
しかし、この製造方法において、コストダウンや、前述の本体被覆における発泡現象回避のための残存スチレンモノマー低減のためには、硬化槽を長くし、硬化槽温度を高温にすることなどにより、生産速度や硬化度を上げることを余儀なくされており、被覆素線径より径大の異状部の発生の回避は現状においては困難である。
【0008】
さらに、最近ドロップ光ファイバケーブル製造工程における生産効率の向上などの要請から、長尺品(25km、50kmなど)のTMが求められている。
しかし、前述の如く、被覆付FRP製抗張力体の製造条件はより厳しい条件となっているので、長い硬化槽中で、そのシャッターやガイドに溶融した熱可塑性樹脂が溜まり、これが走行する素線に付着するなどして、素線径より極端に径大の異物となる場合があり、これが被覆破れなどの整径トラブルとなって、長尺品歩留まりの低下原因となっている。
特に、ドロップ光ファイバケーブル用TMの熱可塑性樹脂被覆外径は、0.6〜0.8mmと非常に細く、FRP径が0.4mmまたは0.5mmであるため、被覆樹脂の肉厚が0.15mmであり、整径によって精度を出す際に、特に前述の素線径より極端に径大の異物による被覆破れなどの整径トラブルが発生して、表面状態の良好な製品を25kmや50kmなどの長尺で製造することが難しかった。
【0009】
【特許文献1】特開2004−163501号公報
【特許文献2】特開2005−172939号公報
【特許文献3】特公昭63−58691号公報
【特許文献4】特公昭63−2772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ドロップ光ケーブル用テンションメンバーなどとして用いられる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の外径を長尺に亘って精度よく整径して製造する方法及び整造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスを通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外周を加熱軟化させ、次いで該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスを順次通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外径を整径する熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、
熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスを通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外周を加熱軟化させ、次いで該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスを順次通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外径を整径することを特徴とする熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法、
(2)熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスと該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスとを備えてなることを特徴とする熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置、
(3)予熱ダイス、第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスが芯合わせされストレートピンにより一体に固定されたブロックとされてなる前記(2)記載の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置、及び
(4)予熱ダイス、第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスの材質が硬度(HRA)90以上の超高硬度合金である前記(2)又は(3)記載の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法は、熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスを通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外周を加熱軟化させ、次いで該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスを順次通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外径を整径するので、従来の予熱ダイスを用いた方法において、素線の外径よりも径大の異常部により発生していた異常な張力の発生とそれに伴う被覆破れが激減し、表面平滑な定長の長尺品を安定して製造できる。
このため、製造速度の増加や、硬化槽温度の上昇などに伴い発生頻度が増加する素線の外径よりも径大の異常部を除去して整径された製品とできるので、生産性と、歩留まり(収率)の向上を図ることができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法により得られた定長の長尺状熱可塑性樹脂被覆FRP線条物を、ドロップ光ファイバケーブルのTMとして使用すれば、ケーブル製造工程で途中でのTMボビンの交換など不定長や短尺のTMを使用する場合の生産効率低下の問題などを回避し、効率よく生産できる。
また、本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置を用いれば、上記の効果が得られる製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の外径を所定の製品径とする製造方法は、熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスを通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外周を加熱軟化させ、次いで該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスを順次通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外径を整径する熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法である。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法の好適な実施の形態について添付図面を参照にして詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法にかかる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物をTM(以下、被覆付きFRPTMということがある。)として用いたドロップ光ファイバケーブルの一実施例を示している。同図に示したドロップ光ファイバケーブル1は、光ファイバ心線2,3と、被覆付きFRPTM6と、支持線7とを備えている。光ファイバ心線2,3は、中心に上下に隣接するようにして配置されている。被覆付きFRPTM6は、繊維強化熱硬化性樹脂製のFRP4を、熱可塑性樹脂製の被覆層5で被覆した円形断面に形成されていて、一対の被覆付きFRPTM6が、光ファイバ心線2,3の上下に所定の間隔を置いて、これを挟むようにして、同軸上に配置されている。支持線7は、一方の被覆付きFRPTM6の上方に配置されていて、光ファイバ心線2,3、被覆付きFRPTM6および支持線7は、熱可塑性樹脂製の本体被覆部8により一括被覆した構成を備えている。
【0016】
被覆付きFRPTM6は、FRP(繊維強化熱硬化性樹脂硬化物)抗張力体4に熱可塑性樹脂製の被覆層5を施したものであり、FRP抗張力体4の外周と被覆層5の内周とは、相互にアンカー接着している。
アンカー接着を得るためには、特許文献4に記載された方法、すなわち、補強繊維束に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させてなる未硬化状補強芯部を、溶融し、その後直ちに該熱可塑性樹脂の被覆層を冷却固化した後、これを加圧高温蒸気の硬化槽に導いて、補強芯部と該被覆層の界面部分を軟化、流動状態で接触させつつ該熱硬化性樹脂を加熱硬化させ、引続いて被覆熱可塑性樹脂を冷却して繊維強化熱硬化性樹脂(FRP)からなる芯部界面と被覆熱可塑性樹脂とをアンカー接着させた状態で、本発明の製造装置に通して本発明の製造方法により所定の外径の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物を得ることができる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法が適用できる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物に使用できる補強繊維としては、各種ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維などの合成繊維、カーボン繊維などが一般的であり、TMなどとして要求される引張強度や弾性率によって選択される。
ガラス繊維を使用する場合においては、FRP抗張力体4を、直径が0.9mm以下に細くするためには、ガラスヤーンが望ましく、E、S、Tなどのガラス繊維から要求される性能により選択されるが、経済性の面からはEガラスが奨用される。
ガラスヤーンとしては、構成する単繊維径が3〜13μmで 、複数のヤーンを合撚していない単糸状のものが望ましく、11.2〜67.5Texが使用される。この場合、番手の大きいもの、つまり67.5Texを超えるガラスヤーンを用いた場合、FRPとした際の真円度に悪影響を及ぼし、後の熱可塑性樹脂による薄肉被覆成形工程において、均一な被覆を行うことが難しくなる。
一方、11.2Tex以下のヤーンも市販されているが、工程が煩雑となる上、コスト上昇につながり経済的でない。ガラスヤーンを選択するのは、ヤーンには、例えば、1個/インチなどの撚りが施されており、熱硬化性樹脂の含浸ないしは絞り工程で、ガラス単繊維の乱れや、弛み、もつれが少なく、外周が均一な未延伸棒状物が得られるからである。
【0018】
また、合成繊維としては、特開2005−148373号公報に開示されているように、例えばアラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの中から、引張弾性率が360cN/dtex以上であり、かつ破断時における伸度が3.5%以上であるものから適宜選択できる。この場合、引張弾性率が360cN/dtex以下では、光ファイバ心線2を保護するための抗張力が十分に得られず、その役割を果たすことができない。また、破断時における伸度が3.5%以下では、FRPが曲がり難くなり、ドロップ光ファイバケーブル化した際の曲げ半径を小さくすることが困難になる。すなわち、連続使用許容曲げ半径が大きくなってしまい、敷設時に大きな曲げ半径で敷設せざるを得なくなる。(間接的に言うと、最小曲げ直径が小さい方が敷設時の曲げ半径{直径}を小さくできる)より好ましい引張弾性率は、480cN/dtex以上である。そして、使用する合成繊維としては、構成する単繊維径が10〜15μmで、複数のヤーンを合撚していない所謂マルチフィラメント状のものが望ましく500〜3500dtexが使用される。この場合、番手の大きいもの、つまり3500dtexを超える補強繊維を用いた場合、FRPとした際の真円度に悪影響を及ぼし、後の熱可塑性樹脂による薄肉被覆成形工程において、均一な被覆を行うことが難しくなる。また、単糸の引き揃えが悪くなり、FRP化した際に引張性能が不十分となるおそれがある。一方、500dtex以下のヤーンも市販されているが、工程が煩雑となる上、コスト上昇につながり経済的でない。
【0019】
FRP抗張力体4の補強繊維の体積含有率は、要求される物性により決定されるが、より細径化を目的とする本願発明においては、概ね50〜70VOL%程度が望ましい。
【0020】
また、本発明の製造方法の対象となる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の補強繊維の結着に使用できる熱硬化性樹脂は、テレフタル酸系又はイソフタル酸系の不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート樹脂など)またはエポキシ樹脂などが一般的であり、これらに硬化用触媒などを添加して使用されるが、とりわけビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート樹脂など)が耐熱性などの物性の点から好ましい。
【0021】
未硬化状補強芯部の被覆層5に用いる熱可塑性樹脂は、光ファイバケーブル用のTMとする場合は、本体被覆部8の熱可塑性樹脂と相溶性のある樹脂から選択され、本体被覆部8に難燃性樹脂を使用する場合は、該樹脂との相溶性向上のため、接着性樹脂を使用するか、あるいは、接着性樹脂のマスターバッチを添加することが望ましく、さらに本体被覆部8の色にあわせて着色用マスターバッチを添加して着色しておいてもよい。
【0022】
また、被覆層5に用いる熱可塑性樹脂は、本体被覆部8の難燃化に合せて難燃性付与のための各種変性を施したものであっても良い。さらに、被覆層5に用いる熱可塑性樹脂は、FRP抗張力体4とのアンカー接着構造を得るため、熱硬化性樹脂の加熱硬化時に少なくとも内周が、溶融状ないし軟化状態を呈することが望ましく、硬化温度110〜150℃の範囲に融点または軟化点を有する、ポリオレフィン系樹脂がより好適である。
アンカー接着の度合いは、被覆層5に用いた熱可塑性樹脂からのFRP抗張力体4の引抜力が10N/10mm以上であることが好適である。
【0023】
また、熱可塑性樹脂被覆FRP線条物6は、細径化の点、及び難燃性を本体樹脂に求められる以上、必要以上の被覆厚みは、難燃性の阻害要因となるため、被覆層5は、整径後に0.3mm以下にすることが望ましい。これに伴って、未硬化状FRPの溶融被覆冷却後の被覆厚みは概ね0.2〜0.4mm程度とすることが、内部の熱硬化性樹脂の硬化工程における連続硬化金型的機能を発現させ、より真円に近いFRPを得る観点などから望ましい。
【0024】
さらに、被覆層5の厚みは、細径化の目的で整形後に0.02〜0.2mm程度の厚みとすることがより望ましく、このような薄膜化のためには、薄膜成形性の良い樹脂が望ましく、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが好適である。
【0025】
LLDPEを用いる場合には、次ぎの様な特性を有するものを用いることがより好ましい。その特性とは、JIS K6760によるMFRが1〜4g/10min、密度0.920〜0.940g/cm3、JIS Z1702による引張試験において、引張強度が30 MPa以上であり、1%モジュラスが150〜250 MPaの範囲の値を有するものである。
【0026】
次に本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法の対象となる熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の製造方法について、図2を参照して説明する。
要求される抗張力や耐曲げ性などに応じて選択された補強繊維11をFRP層の繊維体積含有率に応じた必要本数を、未硬化状熱硬化性樹脂が収納された含浸槽12中に通して補強繊維に未硬化状熱硬化性樹脂を含浸し、引続いてこれを、透孔の最終内径が得ようとするFRP部の外径と同径でこの内径に向かって順次縮径する複数の絞りノズル13に通して所定の径に絞り成形した未硬化状線条物の外周に、溶融押出機14より被覆用熱可塑性樹脂を環状に押出して被覆し、これを冷却水槽15に導いて表面の熱可塑性樹脂被覆層を冷却固化し、次いで、両端がシールされた加圧蒸気硬化槽16に挿通して、熱可塑性樹脂被覆層を溶融状態とし、熱硬化性樹脂との界面において圧力下流動接触状態を経て内部の熱硬化性樹脂を硬化し、以後、冷却水槽17で冷却された被覆付きFRP素線6'とした後、整径装置18により所定の製品径に整径し、外径検査装置19を経て巻取り装置によりボビン20に巻き取られる。
【0027】
整径のための製造装置18は、図3に示すようにベースブロック21に予熱用金型ブロック22、第1の整径用金型ブロック23、第2の整径用金型ブロック24がそれぞれの間に介挿された断熱材層25を介して密接配置されている。各金型ブロック22,23,24内にはヒーター26が埋設され、さらに供給される被覆付きFRP素線6'の挿通方向に沿ってダイス31,32,33が配設されている。
【0028】
また、図3(b)に示すように、製造時に被覆付きFRP線条物の走行芯と各ダイスの芯が一致する様に、予熱用金型ブロック22、第1の整径用金型ブロック23、第2の整径用金型ブロック24を芯合わせして、各ブロックに設けたピン孔に4本のピン34を挿通し、ブロック23に設けられたネジ孔にブロック22及び24のそれぞれからボルト35を螺着して、各ブロックが一体に固定されたブロックとすることができる。このようにすると、製品に合わせてダイスを交換したり、ダイスの磨耗により交換する際の芯合わせが容易になる。
【0029】
予熱ダイス31は、図4(a)に示すように、テーパー角αが90〜150度の切削刃31aと、FRP素線6'の素線の外径よりも大なる内径D1の透孔31bを有している。αは、90〜150°、より好ましくは100〜140°、特に好ましくは110〜130°である。αが90〜150°の範囲であれば、被覆付きFRP素線6'の外径よりも大なる異常部を除去することができる。αが90°未満では、切削刃31aの先端部が欠け易く、150°を超えると異常部の切削をスムースに行うことができず、切削抵抗が衝撃となって正常品の連続生産に支障を来たしたり、製品が切断するなどのトラブルが発生する。
【0030】
第1及び第2の整径ダイス32、33は図4(b),(c)に示すように内径D2、D3のストレート状透孔を有している。このストレート状透孔とすることにより、整径後の表面状態を良好にすることができる。但し被覆樹脂厚さを薄くした製品を得る場合には、第1の整径ダイス32'は、図4(d)に示すように素線の導入側の外方に向かって角度γで拡径するテーパー部を有し、それに続く内径D2の透孔を有するようにしてもよい。
第1の整径ダイス32及び第2の整径ダイス33の透孔の内径は、第1の整径ダイス32の内径が前記の予熱ダイスより径小であって、被覆付きFRP素線6'の径よりも径小、被覆付きFRP線条物の最終径より径大、第2の整径ダイス33の内径は前記の第1の整径ダイス32の内径より径小であって、被覆付きFRPの製品径と概略等しくなっている。
このように、各ダイス31,32,33の透孔内径を、段階的に変えることで被覆付きFRP線条物の引取り(巻取り)抵抗を小さくすることができ、しかも被覆付きFRP線条物6を所望の製品径に無理なく整径できる。
【0031】
各ダイス31,32,33の材質は、長時間連続使用可能性、表面仕上がりの平滑性、高速生産性などの観点から、耐熱性、耐磨耗性を有する超高硬度合金であってロックウェルAスケールによる硬度(HRA)が90以上のものが望ましい。
市販の超高硬度合金としては、株式会社シルバーロイのSHタイプ超高硬度合金:SH10(HRA95.0、抗折力2,290Mpa)、SH15(HRA94.2、抗折力2,470Mpa)、SH20(HRA93.5、抗折力2,830Mpa)、Gタイプ超硬合金:G1(HRA92.0、抗折力2,980Mpa)、G2(HRA91.0、抗折力3,360Mpa)(HRA90.0、抗折力3,240Mpa)などを挙げることができる。
【0032】
また、本発明の整径のための製造装置において、ダイス透孔内面やテーパー部の摩擦係数を減じて耐磨耗性を向上させるため、フッ素系樹脂やシリコーン樹脂などを表面コーティングすることができる。表面コーティングによりダイスの長寿命化を図ることができる。
【0033】
上記各金型ブロック22、23、24内にはそれぞれ熱電対28(図3bに1個のみ示す。)が挿入され、この熱電対28の検出温度に応じて各金型ブロック22,23,24は、棒状ヒーター26を熱源として各別に温度制御される。
また、金型ブロック22,23に形成されたダイス用透孔の下部には切削屑排出孔22b、23bが形成されている。
被覆付きFRP線条物素線6'は、図示しない引取りローラで引取られ、ガイドブロックを通り、次いで整径装置18にセットされた各ダイス31、32、33を通り切削・整径され外径検査装置19を経て所定の製品としてドラム20に巻取られる。
ここで、素線より径大の異常部は、予熱ダイス31の切削刃31aで除去され、第1の整径ダイス32及び第2の整径ダイス33で薄皮状に剥ぎ取られた切削屑は、ダイス32,33の下方に位置する排出孔22b、23bから下方に溶融状で連続的に排出される。
【0034】
以上の装置を用いて整径加工を行うに際し、最も重要な条件は、熱可塑性樹脂被覆層の表面側、好ましくは外表面層のみを加熱軟化することである。内部まで軟化した場合には、FRP層との接着力が低下し、整径時に被覆付きFRP線条物6に剪断力が加わり、熱可塑性樹脂被覆が剥けたり、或いは不必要な部分まで削り取られることになり、また表面の軟化が充分でない場合には切削による凹凸痕が発生することになる。
この問題を解決するには、熱可塑性樹脂によって異なるが、熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線がダイスに接する時間を短くすることがより寸法精度の高い製品を効率よく得るための大きなポイントとなる。この観点から、各ダイスの長さを、予熱ダイス、第1の整径ダイスが概ね10〜30mm、切削量の多い第2の整径ダイスは概ね2〜10mmとすることが好ましい。
また、各ダイスの温度は、予熱ダイスは走行する熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線を非接触で予熱し、かつ異状部を切削刃で除去するため、熱可塑性樹脂の融点以上の温度であって、かつ各ダイスの中では一番高温とし、第1、第2整径ダイスの順に、10〜30℃程度づつ降温することが望ましい。
各ダイスの設定温度は、ダイスの磨耗、製品の表面状態などにより、±40℃程度適宜変更される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の製造)
ビニルエステル樹脂(三井化学社製:H8100)100質量部に熱硬化性触媒(化薬アクゾー社製、カドックスBCH50)を4質量部、カヤブチルBを1質量部添加した樹脂含浸槽12中に、補強繊維束11としてパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン製:ケブラー29、単糸径12μm、1110dtex)のマルチフィラメント1本をガイドを介して導き、引き続いて、内径を段階的に小さくした絞りノズル13に導いて、未硬化状樹脂を絞り成形し、外径が0.405mmの細径線条物を得、これを溶融押出機14のクロスヘッドダイ(200℃)に通して、MI=2.4、密度0.921g/cm3、30μmのキャストフィルムによる1%モジュラスが170MPaであるLLDPE樹脂(日本ユニカー社製:TUF2060)により、被覆厚み0.25mmで環状に被覆し、直ちに冷却水槽15に導いて、表面の被覆部を冷却固化した。
【0037】
引き続いて、この被覆未硬化線状物を入口及び出口に加圧シール部を設けた長さ18mの加圧蒸気硬化槽16に50m/minの速度で導いて蒸気圧32.5Pa(145℃)で硬化し、冷却水槽17を経て被覆外径が約0.85mmの熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線として、表1に示す実施例及び比較例の整径条件で整径装置18に連続して供給して連続整径性を比較した。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1、2
製品の被覆外径が0.7mm、FRP外径が0.4mmの熱可塑性樹脂被覆FRP線条物を連続生産するに際して、株式会社シルバーロイのSHタイプ超高硬度合金:SH10(HRA95.0、抗折力2,290Mpa)を用いた表1の0.7×0.4用の欄に示す孔径と設定温度であって、図4(a)に示す導入側先端角αが120°の逆テーパー状切削刃を備える予熱ダイス、第1の整径ダイス、及び第2の整径ダイスを備えた整径装置に導いて被覆熱可塑性樹脂外周面を整径し、被覆外径0.8mmの被覆抗張力体10を得、ボビンに連続状に巻き取った。巻長50km品(巻取り所要時間:16.7時間)の生産を連続5日間行ったが、その間の生産トラブルは、大型の異物付着による芯ズレに起因する被覆樹脂破れによるもの2件のみであった。
また、後述の比較例の後に、同じ予熱ダイス、整径ダイスで同様に5日間の連続生産を行ったが、発生トラブルは大型の異物付着による芯ズレに起因する被覆樹脂破れによるもの1件のみであった。
【0040】
比較例1
導入側先端に図4(d)に示すように導入側の外方に向かってテーパー角γが120°で拡径するテーパー部を備える予熱ダイスを用いた他は、実施例と同様に巻長50km品の5日間の連続生産を行ったところ、その間のトラブル発生件数は16件であった。トラブルの内容は、大半が予熱ダイス詰りによる異常抵抗、被覆樹脂破れであった。
【0041】
実施例3
熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の製造において、補強繊維束11としてパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン製:ケブラー29、単糸径12μm、1670dtex)のマルチフィラメント1本を用いた他は前述同様として、未硬化状外径0.490mmの細径線条物に被覆厚み0.25mmで環状に被覆し、直ちに冷却水槽15に導いて、表面の被覆部を冷却固化した。
引き続いて、実施例1と同一材質で表1の0.8×0.5用の欄に示す孔径及び設定温度の予熱ダイス及び整径ダイスを用いて巻長26km品の生産を連続5日間行ったが、その間のトラブルは、1回のみであった。
【0042】
実施例4、5、6
実施例1において、予熱ダイス及び整径ダイスの材質として実施例4では株式会社シルバーロイのGタイプ超硬合金:G1(HRA92.0、抗折力2,980Mpa)、実施例5では同社製G2(HRA91.0、抗折力3,360Mpa)、実施例6では同社製G3(HRA90.0、抗折力3,240Mpa)、を用いた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の生産を行った。
これらの材質によるものも、生産トラブルの発生は少なかったが、使用開始後1〜2日で、整径後のレーザー外径測定器による表面凹凸度が3〜5/100mm以上となり、ダイスの交換を余儀なくされた。
【0043】
参考例1
実施例1において、予熱ダイス及び整径ダイスの材質として、硬度が89である株式会社シルバーロイのGタイプ超硬合金:G4(HRA89.0、抗折力2,980Mpa)を用いた他は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の生産を行った。
この材質によるものは、生産トラブルの発生は少なかったが、使用開始後12時間で、整径後のレーザー外径測定器による表面凹凸度が3〜5/100mm以上となり、ダイスの交換を余儀なくされた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法は、素線径よりも径大の異常部により発生していた異常な張力の発生とそれに伴う被覆破れを激減し、表面平滑な定長の長尺品を安定して製造できる。
このため、製造速度の増加や、硬化槽温度の上昇などに伴い発生頻度が増加する素線の外径よりも径大の異常部を除去して整径された製品とできるので、生産性と、歩留まり(収率)の向上を図ることができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法により得られた定長の長尺状熱可塑性樹脂被覆FRP線条物を、ドロップ光ファイバケーブルのTMとして使用すれば、ケーブル製造工程で途中でのTMボビンの交換など不定長や短尺のTMを使用する場合の生産効率低下の問題などを回避し、効率よく生産できる。
また、本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置を用いれば、上記の効果が得られる製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の製造方法により得られた熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の使用例の説明図である。
【図2】本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法の工程例の説明図である。
【図3】本発明の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置の構成例の説明図である。
【図4】本発明の製造装置を構成するダイスの説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ドロップ光ファイバケーブル
2、3 光ファイバ心線
4 FRPテンションメンバー(抗張力体)
5 熱可塑性樹脂被覆層
6 熱可塑性樹脂被覆FRP線条物(被覆付きFRPTM)
6' 熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線
7 支持線
8 本体被覆層
11 補強繊維
12 含浸槽
13 絞りノズル
14 溶融押出機
15、17 冷却水槽
16 加圧蒸気硬化槽
18 製造(整径)装置
19 外径検査装置
20 巻取りボビン
21 ベースブロック
22 予熱用金型ブロック
23、24 第1、第2整径用金型ブロック
25 断熱材
26 ヒーター
28 熱電対
31、32、33、40 ダイス
34 ピンゲージ
35 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスを通過させて熱可塑性樹脂被覆層の外周を加熱軟化させ、次いで該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスを順次通過させて、熱可塑性樹脂被覆層の外径を整径することを特徴とする熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂被覆FRP線条物素線の外径よりも径大の透孔とテーパー角が90〜150度の切削刃とを備えた予熱ダイスと該予熱ダイスよりも低温に保たれ素線の外径よりも径小の透孔を備えた第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスとを備えてなることを特徴とする熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置。
【請求項3】
予熱ダイス、第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスが芯合わせされストレートピンにより一体に固定されたブロックとされてなる請求項2記載の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置。
【請求項4】
予熱ダイス、第1の整径ダイス及び第2の整径ダイスの材質が硬度(HRA)90以上の超高硬度合金である請求項2又は3記載の熱可塑性樹脂被覆FRP線条物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−179010(P2008−179010A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12837(P2007−12837)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】