説明

燃料噴射弁の異常判定装置

【課題】誤判定の発生を抑制しつつ、速やかに且つ高い精度で開固着の発生を判定することのできる燃料噴射弁の異常判定装置を提供する。
【解決手段】この発明の異常判定装置は、内燃機関の各気筒に対してそれぞれ設けられる燃料噴射弁20に、同燃料噴射弁20に供給される燃料の圧力を検出する圧力センサ46をそれぞれ設け、燃料を噴射した燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出された燃料圧力の変化態様と、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出された燃料圧力の変化態様とに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁20に開固着が発生したことを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料噴射弁の異常判定装置に関し、特に内燃機関の各気筒に対してそれぞれ設けられた燃料噴射弁における開固着の発生を判定する異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射弁が開弁したまま閉弁しない状態になる開固着の発生を判定する方法として、コモンレールやデリバリパイプ内の燃料の圧力であるレール圧の変化や、機関回転速度の変化を監視し、これらの変化態様に基づいて閉弁指令に反して燃料が噴射され続けていることを検知して噴射弁が開固着していることを判定する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、こうした方法では、開固着が発生してからその影響によってレール圧や機関回転速度に変動が生じるまでは開固着の発生を判定することができないため、開固着の発生を判定するまでに時間がかかってしまう。また、各気筒に対してそれぞれ設けられた燃料噴射弁のうち、どの噴射弁に開固着が発生しているのかを判別することが難しい。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の燃料噴射弁の異常判定装置にあっては、各気筒に対してそれぞれ設けられた噴射弁に、同噴射弁に供給されている燃料の圧力を検出する圧力センサを個別に設けるようにしている。そして、噴射に伴う燃料圧力の変化を噴射弁毎に監視し、その変化態様に基づいて各噴射弁の異常を判定するようにしている。
【0005】
こうした構成によれば、噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の小さな変動も各噴射弁に設けられた圧力センサによって速やかに検出することができるようになる。そのため、例えば、燃料噴射の終了に伴い燃料圧力が上昇するはずであるにも拘わらず、その噴射弁における燃料圧力が上昇していないことが検知されたときに、これに基づいて当該噴射弁に開固着が発生していることを判定することができる。すなわち、レール圧や機関回転速度の変化に基づいて開固着の発生を判定する場合と比較して、速やかに開固着の発生を判定することができるとともに、どの噴射弁に開固着が発生しているのかを容易に判別することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009‐85164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記のように燃料噴射が終了しているにも拘わらずその噴射弁における燃料圧力が上昇していないことが検知されたときにこれに基づいて即座に開固着の発生を判定するようにした場合には、燃料圧力の検出値へのノイズの重畳等に起因して開固着が発生している旨の誤判定が生じるおそれがある。また、こうした誤判定の発生を抑制するために燃料圧力の判定閾値を変更する等して開固着判定の判定基準を厳しく、すなわち開固着判定がなされにくくなるようにすると、実際には開固着が発生しているにも拘わらず、開固着判定がなされなくなってしまう。
【0008】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は誤判定の発生を抑制しつつ、速やかに且つ高い精度で開固着の発生を判定することのできる燃料噴射弁の異常判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の各気筒に対してそれぞれ設けられる燃料噴射弁に、同燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を検出する圧力センサをそれぞれ設け、同圧力センサによって検出される燃料圧力の変化態様に基づいて前記燃料噴射弁の異常を判定する燃料噴射弁の異常判定装置において、燃料を噴射した燃料噴射弁における燃料圧力の変化態様と、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁における燃料圧力の変化態様とに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁に開固着が発生したことを判定することをその要旨とする。
【0010】
内燃機関の各気筒に対してそれぞれ設けられた燃料噴射弁のうち、いずれかの噴射弁から燃料が噴射された場合には、コモンレールやデリバリパイプ等の燃料供給通路を介して連結されている他の燃料噴射弁に供給されている燃料の圧力にもその影響が伝播する。具体的には、いずれかの噴射弁から燃料が噴射されると、噴射された燃料の分だけ同噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力が低下するとともに、燃料供給通路を介して連結された他の噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力も低下するようになる。そのため、燃料を噴射しなかった噴射弁における燃料圧力の変化態様を監視することによっても、燃料を噴射した噴射弁に開固着が発生したか否かを推定することができる。
【0011】
上記請求項1に記載の構成によれば、燃料を噴射した噴射弁における燃料圧力の変化態様のみならず、燃料を噴射しなかった噴射弁における燃料圧力の変化態様も参照した上で燃料を噴射した燃料噴射弁に開固着が発生したことの判定がなされるようになる。したがって、別々のセンサによって検出された燃料圧力の変化態様から総合的に開固着が発生したことが判定されるため、圧力センサの検出値へのノイズの重畳等による誤判定の発生が抑制されるようになる。また、こうした構成を採用すれば、燃料を噴射した噴射弁における燃料圧力の変化態様のみに基づいて噴射弁の開固着を判定する異常判定装置のように、誤判定を抑制するために燃料圧力の判定閾値を変更する等して開固着判定の判定基準を厳しく、すなわち開固着判定がなされにくくなるようにしなくてもよいため、開固着の発生時にこれを速やかに判定することができるようになる。すなわち、上記請求項1に記載の発明によれば、誤判定の発生を抑制しつつ、速やかに且つ高い精度で開固着の発生を判定することができるようになる。
【0012】
燃料を噴射している燃料噴射弁に閉弁指令がなされた場合には、燃料噴射弁が閉弁されて燃料の噴射が停止されるため、燃料ポンプからの燃料の圧送に伴って同燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力が上昇するようになる。これに対して閉弁指令がなされたにも拘わらず同燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力に上昇する傾向がみられない場合には、閉弁指令に反して噴射弁が開弁しており燃料が噴射され続けていることが推定される。すなわちこの場合には燃料噴射弁に開固着が発生していることが推定される。
【0013】
また、燃料を噴射していない燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力は、他の燃料噴射弁での燃料の噴射が終了すると若干遅れて上昇するようになる。これに対して、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力に、燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられない場合には、閉弁指令に反して燃料を噴射した燃料噴射弁において燃料が噴射され続けていることが推定される。すなわち、この場合にも燃料を噴射した燃料噴射弁に開固着が発生していることが推定される。
【0014】
そこで、具体的には、請求項2に記載されているように、燃料を噴射した燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に同燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する第1の確認手段と、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する第2の確認手段とを設け、前記第1の確認手段及び前記第2の確認手段の双方によって圧力上昇がみられないことが確認されていることに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁に開固着が発生したことを判定するようにすることが好ましい。
【0015】
こうした構成を採用すれば、第1の確認手段と第2の確認手段の双方によって閉弁に伴う圧力上昇がみられないことが確認されていることを条件に、燃料を噴射した燃料噴射弁において開固着が発生したことが判定されるようになるため、高い精度で開固着の発生を判定することができるようになる。
【0016】
燃料の噴射に伴い開固着が発生した場合には、閉弁指令後も燃料が噴射され続けるため、燃料を噴射した燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力が閉弁指令後も上昇せずに低下し続けることとなる。
【0017】
そのため、第1の確認手段として具体的には、請求項3に記載されているように燃料を噴射した燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力が、同燃料噴射弁への閉弁指令がなされた後に、開弁期間から推定される最小燃料圧力よりも小さな第1の閾値以下になっているか否かを判定する構成を採用してもよい。
【0018】
こうした構成によれば、燃料圧力が第1の閾値以下まで低下していることに基づいて閉弁指令後も燃料圧力が低下し続けたことを判定することができるため、これに基づいて燃料噴射弁の閉弁による燃料圧力の上昇がみられないことを確認することができるようになる。
【0019】
尚、第1の閾値は、閉弁指令がなされた後に燃料圧力が同第1の閾値以下になっていることに基づいて、閉弁指令後も燃料圧力が低下し続けたことを判定することができるようにその大きさが設定されていればよい。具体的には、燃料を噴射した燃料噴射弁の開弁期間から推定される同燃料噴射弁における燃料圧力の最小値、すなわち燃料噴射弁が正しく閉弁した場合の燃料圧力の最小値である最小燃料圧力よりも小さな値に設定されていればよい。尚、第1の閾値を上記最小燃料圧力に近い値に設定するほど、閉弁指令後も燃料圧力が低下し続けた旨の判定がなされやすくなり、開固着判定がなされやすくなる。
【0020】
燃料の噴射に伴い開固着が発生した場合には、燃料を噴射した燃料噴射弁から閉弁指令後も燃料が噴射され続けるため、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力も上昇せずに低下し続けることとなる。
【0021】
そのため、第2の確認手段として具体的には、請求項4に記載されているように燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力が、燃料を噴射した燃料噴射弁への閉弁指令がなされた後に、その燃料噴射に伴う開弁期間から推定される最小燃料圧力よりも小さな第2の閾値以下になっているか否かを判定する構成を採用してもよい。
【0022】
こうした構成によれば、燃料圧力が第2の閾値以下まで低下していることに基づいて閉弁指令後も燃料圧力が低下し続けたことを判定することができるため、これに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による燃料圧力の上昇がみられないことを確認することができるようになる。
【0023】
尚、第2の閾値は、上記第1の閾値と同様に、閉弁指令がなされた後に燃料圧力が同第2の閾値以下になっていることに基づいて、閉弁指令後も燃料圧力が低下し続けたことを判定することができるようにその大きさが設定されていればよい。具体的には、燃料を噴射した燃料噴射弁の開弁期間から推定される燃料を噴射しなかった燃料噴射弁における燃料圧力の最小値、すなわち燃料噴射弁が正しく閉弁した場合の燃料圧力の最小値である最小燃料圧力よりも小さな値に設定されていればよい。尚、第2の閾値を上記最小燃料圧力に近い値に設定するほど、閉弁指令後も燃料圧力が低下し続けた旨の判定がなされやすくなり、開固着判定がなされやすくなる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁の異常判定装置において、前記第2の確認手段は、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサのうち、燃料を噴射した燃料噴射弁の次に燃料を噴射する燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様を監視し、同圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認するものであることをその要旨とする。
【0025】
燃料を噴射した燃料噴射弁の次に燃料を噴射する燃料噴射弁は、内燃機関の各気筒に対してそれぞれ設けられた燃料噴射弁のうち、前回燃料を噴射してから最も長い時間が経過している噴射弁である。そのため、燃料を噴射した燃料噴射弁の次に燃料を噴射する燃料噴射弁にあっては、同燃料噴射弁における前回の噴射に伴う燃料圧力の変動の影響が小さくなっており、同燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力は検出値が安定している。
【0026】
したがって、燃料を噴射した燃料噴射弁の次に燃料を噴射する燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出される燃料圧力の変化態様を監視する第2の確認手段を備える上記請求項5に記載の発明によれば、同燃料噴射弁における前回の噴射に伴う燃料圧力の変動の影響を受けずに燃料圧力の変化態様に閉弁による圧力上昇がみられないことを確認することができるようになり、判定の精度をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の一実施形態にかかる燃料噴射装置の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態にかかる燃料噴射弁の断面図。
【図3】燃料を噴射した燃料噴射弁における燃料圧力の変化態様と、燃料を噴射しなかったその他の燃料噴射弁における燃料圧力の変化態様との関係を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態にかかる開固着判定処理の一連の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明にかかる燃料噴射弁の異常判定装置を、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置に適用した一実施形態について、図1〜4を参照して説明する。尚、図1はこの発明にかかる燃料噴射弁の異常判定装置が適用された燃料噴射装置の概略構成を示す模式図である。
【0029】
図1に示されるように本実施形態にかかる燃料噴射装置は、ディーゼルエンジンの各気筒に対して1つずつ、合計4つの燃料噴射弁20を備えている。各燃料噴射弁20は、それぞれ分岐通路31aを介してコモンレール34に接続されている。
【0030】
コモンレール34は、供給通路31bを介して燃料タンク32に接続されており、供給通路31bの途中には燃料ポンプ33が設けられている。これにより、この燃料ポンプ33によって圧送された燃料が、コモンレール34内に蓄えられ、コモンレール34及び分岐通路31aを介して各燃料噴射弁20に供給されるようになっている。
【0031】
また、各燃料噴射弁20には、リターン通路35が接続されている。リターン通路35は燃料タンク32に接続されており、燃料噴射弁20から噴射されなかった燃料の一部がこのリターン通路35を通じて燃料タンク32に戻されるようになっている。
【0032】
このように構成された本実施形態にかかる燃料噴射装置は、ディーゼルエンジンを統括的に制御する電子制御ユニット40によって制御される。電子制御ユニット40には、機関冷却水温THWを検出する水温センサ41、機関回転速度NEを検出する回転速度センサ42、ディーゼルエンジンの吸入空気量GAを検出する吸気量センサ43、車速SPDを検出する車速センサ44、運転者によるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルセンサ45等が接続されている。
【0033】
また、図1に示されるように本実施形態にかかる燃料噴射装置の各燃料噴射弁20には、燃料噴射弁20に供給されている燃料の圧力である燃料圧力PQを検出する圧力センサ46がそれぞれ設けられており、電子制御ユニット40にはこの圧力センサ46もそれぞれ接続されている。
【0034】
電子制御ユニット40は、これら各種センサ41〜46から出力される信号を取り込み、その信号に基づいて各種演算を行う。そして、その演算結果に応じて燃料噴射制御を実行する。
【0035】
例えば、吸入空気量GAや機関回転速度NE、燃料圧力PQ、アクセル操作量ACCP等に基づいて、噴射パターンを選択し、同噴射パターンに即した噴射時期及び噴射量となるように各燃料噴射弁20の開閉時期の目標値をそれぞれ算出する。そして、これらの目標値に対応するように各燃料噴射弁20に噴射指令として開弁指令及び閉弁指令を出力し、各燃料噴射弁20を各別に開閉駆動する。これにより、そのときどきの機関運転状態に適した噴射パターンで同機関運転状態に見合う量の燃料が各燃料噴射弁20から噴射されるようになる。
【0036】
尚、本実施形態にかかる燃料噴射装置にあっては、メイン噴射やパイロット噴射、アフター噴射等を組み合わせた複数の噴射パターンが予め設定されて電子制御ユニット40に記憶されており、燃料噴射制御に際してそのときどきの機関運転状態に適した噴射パターンが、予め記憶された噴射パターンの中から選択されるようになっている。
【0037】
次に図2を参照して本実施形態にかかる燃料噴射弁20の内部構造及び圧力センサ46の取り付け位置について説明する。尚、図2は本実施形態にかかる燃料噴射弁20の断面図である。
【0038】
図2の下方に示されるように、燃料噴射弁20のハウジング21の内部には、ニードル弁22を収容する収容空間21aが形成されている。また、ハウジング21の先端部には、ハウジング21を貫通して外部に連通する噴孔21bが設けられている。
【0039】
収容空間21aには、ニードル弁22がその軸方向、すなわち図2における上下方向に摺動可能に収容されている。また、収容空間21aには、コモンレール34に接続された分岐通路31aと連通している導入通路21cが接続されており、コモンレール34側から供給される燃料がこの導入通路21cを通じて収容空間21aに導入される。図2の上方に示されるように、圧力センサ46は燃料噴射弁20の上部に設けられており、この導入通路21c内の燃料の圧力を燃料圧力PQとして検出する。
【0040】
尚、図2に示されるようにニードル弁22は、スプリング23によって図2の下方に向かって常に付勢されている。そして、図2に示されるようにニードル弁22の先端部がハウジング21の先端側の内周面に着座しているときには、収容空間21a側から噴孔21b側への燃料の導入が停止され、燃料の噴射が停止されるようになっている。
【0041】
ハウジング21内におけるニードル弁22の後端側の部分には、背圧室21dが設けられている。この背圧室21dは図2に示されるように制御室21eを介して収容空間21aに連通されている。
【0042】
制御室21eには、リターン通路35に接続された排出通路21gに連通する排出孔21fが設けられており、制御室21eにはこの排出孔21fを閉塞する制御弁24が収容されている。尚、制御弁24はスプリング25によって排出孔21fを閉塞する方向に常に付勢されている。
【0043】
ハウジング21内における排出孔21fを挟んで制御弁24と対向する位置には、圧電効果によって伸縮するピエゾ素子を積層したピエゾ素子アクチュエータ26が配設されており、ピエゾ素子アクチュエータ26の先端部26aが、排出孔21fの内部で制御弁24に当接している。ピエゾ素子アクチュエータ26は、図示しない駆動回路に電荷が充電されることによって伸長する一方、駆動回路に蓄えた電荷が放電されることによって収縮するアクチュエータであり、電子制御ユニット40によって操作される駆動電流に応じて伸縮する。
【0044】
駆動回路に電荷が蓄えられていないときには、ピエゾ素子アクチュエータ26は収縮しており、図2に示されるように制御弁24がスプリング25の付勢力によって排出孔21fを閉塞する位置に保持されている。これにより、導入通路21cを通じて導入された燃料は収容空間21a、制御室21e、背圧室21dに充填されるようになり、ニードル弁22の収容空間21a側の部分に作用する燃料の圧力と、背圧室21d側の部分に作用する燃料の圧力がともに高い状態に保持される。
【0045】
このとき、ニードル弁22の収容空間21a側の部分に作用する燃料の圧力と、ニードル弁22の背圧室21d側の部分に作用する燃料の圧力との間には大きな差は生じないため、ニードル弁22はスプリング23の付勢力によってハウジング21に着座した状態に保持される。
【0046】
燃料噴射弁20から燃料を噴射するときには、電子制御ユニット40は開弁指令としてピエゾ素子アクチュエータ26の駆動回路に電荷を充電するように駆動電流を操作する。その結果、ピエゾ素子アクチュエータ26が伸長し、ピエゾ素子アクチュエータ26の先端部26aによって押圧された制御弁24がスプリング25の付勢力に抗して開弁側に変位し、排出孔21fを介して制御室21eと排出通路21gとが連通されるようになる。こうして制御室21eと排出通路21gとが連通されると、制御室21eと連通している背圧室21dの燃料が制御室21eの燃料とともに排出通路21gを通じてリターン通路35に排出され、背圧室21dの燃料の圧力が低下する。こうして背圧室21dの燃料の圧力が低下すると、ニードル弁22に作用している燃料の圧力のバランスが崩れて、ニードル弁22がスプリング23の付勢力に抗して背圧室21dの容積を減少させる方向、すなわち図2における上方に変位するようになる。こうしてニードル弁22が変位することにより、ニードル弁22の先端とハウジング21の先端側の内周面との間に生じた隙間を通じて収容空間21a側の燃料が噴孔21b側に流れ込み、噴孔21bを通じて燃料が噴射されるようになる。
【0047】
一方、燃料の噴射を停止するときには、電子制御ユニット40は閉弁指令としてピエゾ素子アクチュエータ26の駆動回路から電荷を放電するように駆動電流を操作する。その結果、ピエゾ素子アクチュエータ26が収縮し、ピエゾ素子アクチュエータ26の先端部26aによって押圧されていた制御弁24がスプリング25の付勢力によって閉弁側に変位し、排出孔21fが制御弁24によって閉塞される。こうして排出孔21fが閉塞されることにより、制御室21e及び背圧室21dからの燃料の排出が停止され、背圧室21dの燃料の圧力が上昇し、ニードル弁22が背圧室21dの容積を増大させる方向、すなわち図2における下方に変位するようになる。こうしてニードル弁22が変位し、ニードル弁22の先端部がハウジング21の先端側の内周面に着座することにより、収容空間21a側から噴孔21b側への燃料の導入が停止され、燃料の噴射が停止されるようになる。
【0048】
次に、各燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQの変化態様について、図3を参照して説明する。尚、図3は燃料を噴射した燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様と、燃料を噴射しなかったその他の燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様との関係を示すタイムチャートである。
【0049】
燃料噴射制御を通じて4つの燃料噴射弁20のうちの1つに噴射指令がなされ、図3の上段に示されるように駆動電流が充電側、放電側に操作されると、これに伴って上述したように噴射指令がなされた燃料噴射弁20のニードル弁22が駆動され、燃料噴射弁20が開閉される。
【0050】
燃料噴射弁20が開弁されると、同燃料噴射弁20から燃料が噴射され、燃料を噴射した燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQは、図3の中段に示されるように噴射された燃料の分だけ低下する(時刻t1〜t2)。そして、燃料噴射弁20が閉弁されると、燃料の噴射が停止されるため、燃料圧力PQの低下が停止し、コモンレール34側からの燃料の供給に伴って燃料圧力PQが上昇し、燃料圧力PQが元の水準に近い水準まで回復するようになる(時刻t2〜t3)。
【0051】
尚、駆動電流が操作されてから燃料噴射弁20のニードル弁22が変位し、燃料が噴射されるまでには若干の遅れが伴う。そのため、図3に示されるように燃料圧力PQは駆動電流の変化に対して若干の遅れを伴って変動する。また、燃料噴射に伴うこうした燃料圧力PQの変動の影響により、燃料噴射を行った直後の燃料圧力PQには図3の中段右側に示されるように脈動が生じるようになる(時刻t3〜)。尚、この脈動は時間の経過とともに次第に収束する。
【0052】
また、燃料噴射制御を通じて噴射指令がなされず、燃料を噴射しなかったその他の燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQは、上記の燃料噴射によるコモンレール34内の燃料圧力の低下の影響を受けて図3の下段に示されるように変動する。具体的には、上記の燃料噴射に伴うコモンレール34内の燃料圧力の低下に伴って圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQが低下する(時刻t4〜t5)。そして、燃料噴射の停止に伴うコモンレール34内の燃料圧力の上昇に伴って燃料圧力PQが上昇し、噴射前の水準とほぼ等しい水準まで回復する(時刻t5〜t6)。
【0053】
尚、いずれか1つの燃料噴射弁20において燃料噴射が実行されてからコモンレール34を介して接続されたその他の燃料噴射弁20にその影響による圧力変動が伝播するまでには、若干の時間がかかる。そのため、燃料を噴射しなかったその他の燃料噴射弁20における燃料圧力PQに上記の燃料噴射の影響による変動が生じるまでには図3に示されるように若干の遅れが伴う。また、燃料を噴射していないその他の燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQにあっても、燃料噴射直後には図3の下段右側に示されるように燃料圧力PQの変動の影響によって脈動が生じるようになる(時刻t6〜)。
【0054】
ところで、燃料噴射の実行に伴ってニードル弁22等の可動部分に異物が噛み混んだりすることにより、燃料噴射弁20が開弁状態のまま閉弁しなくなる開固着が発生した場合には、閉弁指令がなされて駆動電流が放電側に操作されたにも拘わらず、燃料が噴射され続けることとなる。そのため、こうした開固着が発生した場合には、図3の中段及び下段に二点鎖線で示されるように各圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQが噴射前の水準に向かって上昇せずに低下し続けることとなる。
【0055】
したがって、駆動電流が放電側に操作され、閉弁指令がなされたにも拘わらず各圧力センサ46によって検出された燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられない場合には、閉弁指令に反して燃料噴射弁20が開弁し続けていることが推定される。すなわちこの場合には燃料噴射弁20に開固着が発生していることが推定される。
【0056】
本実施形態の燃料噴射装置にあっては、この関係を利用して各燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQの変化態様に基づいて燃料噴射弁20に開固着が発生したことを判定する開固着判定処理を実行するようにしている。
【0057】
以下、図4を参照して本実施形態にかかる開固着判定処理について説明する。尚、図4は開固着判定処理にかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。この開固着判定処理は、各燃料噴射弁20から燃料が噴射されるたびに電子制御ユニット40によって繰り返し実行される。
【0058】
尚、電子制御ユニット40は、燃料噴射実行後にその燃料噴射に伴う燃料圧力PQの変化態様を参照し、次回の燃料噴射時に各目標値を補正することができるように機関運転に伴って各圧力センサ46から出力される燃料圧力PQの値をメモリに逐次記憶している。本実施形態にかかる開固着判定処理にあっては、メモリに記憶されている燃料圧力PQの変化態様を参照して燃料噴射弁20に開固着が発生したか否かを判定する。
【0059】
具体的には、電子制御ユニット40は、いずれかの燃料噴射弁20において燃料噴射が実行されると、図4に示される開固着判定処理を実行する。そして、まずステップS100において、燃料を噴射した燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出された燃料圧力PQの変化態様を読み出し、読み出した燃料圧力PQの変化態様に燃料噴射弁20の閉弁に伴う圧力上昇がみられないことを確認する。
【0060】
尚、燃料圧力PQの変化態様に燃料噴射弁20の閉弁に伴う圧力上昇がみられないことを確認する方法としては、様々な方法を採用することができる。本実施形態にかかる開固着判定処理にあっては、燃料を噴射した燃料噴射弁20の燃料圧力PQが、閉弁指令がなされた後に第1の閾値X以下になったか否かを判定し、この判定結果に基づいて圧力上昇がみられないことを確認するようにしている。
【0061】
すなわち、本実施形態の開固着判定処理にあっては、読み出した燃料圧力PQの変化態様を参照し、燃料圧力PQが閉弁指令がなされた後に第1の閾値X以下になっているか否かを判定し、図3の中段に実線で示されるように第1の閾値X以下になっていない場合には、この燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられる旨を判定する。一方、図3の中段に二点鎖線で示されるように閉弁指令がなされた後に燃料圧力PQが第1の閾値X以下になっている場合には、これに基づいてこの燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられない旨を判定する。
【0062】
尚、第1の閾値Xは、閉弁指令がなされた後に燃料圧力PQが同第1の閾値X以下になっていることに基づいて、閉弁指令後も燃料圧力PQが低下し続けたことを判定することができるようにその大きさが設定されていればよい。そこで、本実施形態にあっては、第1の閾値Xを、燃料噴射に伴う燃料噴射弁20の開弁期間から推定される同燃料噴射弁20における燃料圧力PQの最小値、すなわち図3の中段に示されるように燃料噴射弁20が正しく閉弁した場合の燃料圧力PQの最小値である最小燃料圧力P1よりも僅かに小さな値に設定している。尚、第1の閾値Xを最小燃料圧力P1に近い値に設定するほど、圧力上昇がみられない旨の判定がなされやすくなる。
【0063】
ステップS100において、燃料を噴射した燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられない旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)には、ステップS200へと進む。
【0064】
そして、電子制御ユニット40は、燃料を噴射しなかったその他の3つの燃料噴射弁20のうち、次に燃料を噴射する燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出された燃料圧力PQの変化態様を読み出し、読み出した燃料圧力PQの変化態様に、燃料を噴射した燃料噴射弁20の閉弁に伴う圧力上昇がみられないことを確認する。
【0065】
このように燃料を噴射しなかった3つの燃料噴射弁20のうち、次に燃料を噴射する燃料噴射弁20の燃料圧力PQの変化態様を参照して閉弁に伴う圧力上昇がみられないことを確認するのは、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20にあっては圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQが最も安定しているためである。これは、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20は、各気筒に対してそれぞれ設けられた燃料噴射弁20のうち、前回燃料を噴射してから最も長い時間が経過している噴射弁であるためである。そのため、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20にあっては、同燃料噴射弁20における前回の噴射に伴う燃料圧力PQの脈動が収束しており、同燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQは検出値が安定している。
【0066】
尚、本実施形態にかかる開固着判定処理にあっては、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20の燃料圧力PQが、閉弁指令がなされた後に第2の閾値Y以下になったか否かを判定し、この判定結果に基づいて圧力上昇がみられないことを確認するようにしている。
【0067】
すなわち、本実施形態の開固着判定処理にあっては、読み出した燃料圧力PQの変化態様を参照し、燃料圧力PQが閉弁指令がなされた後に第2の閾値Y以下になっているか否かを判定し、図3の下段に実線で示されるように第2の閾値Y以下になっていない場合には、この燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられる旨を判定する。一方、図3の下段に二点鎖線で示されるように閉弁指令がなされた後に燃料圧力PQが第2の閾値Y以下になっている場合には、これに基づいてこの燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられない旨を判定する。
【0068】
尚、第2の閾値Yは、上記第1の閾値Xと同様に、閉弁指令がなされた後に燃料圧力PQが同第2の閾値Y以下になっていることに基づいて、閉弁指令後も燃料圧力PQが低下し続けたことを判定することができるようにその大きさが設定されていればよい。そこで、本実施形態にあっては、第2の閾値Yを、燃料噴射に伴う燃料噴射弁20の開弁期間から推定されるこの燃料圧力PQの最小値、すなわち図3の下段に示されるように燃料噴射弁20が正しく閉弁した場合の燃料圧力PQの最小値である最小燃料圧力P2よりも僅かに小さな値に設定している。尚、第2の閾値Yを最小燃料圧力P2に近い値に設定するほど、圧力上昇がみられない旨の判定がなされやすくなる。
【0069】
ステップS200において、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられない旨の判定がなされた場合(ステップS200:YES)には、ステップS300へと進む。
【0070】
そして、ステップS300において、電子制御ユニット40は、燃料を噴射した燃料噴射弁20に開固着が発生した旨を判定し、その判定結果を異常判定値としてメモリに記憶する。こうして開固着が発生したことを判定すると電子制御ユニット40は、この処理を一旦終了する。
【0071】
一方、ステップS100において、燃料を噴射した燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様に閉弁に伴う圧力上昇がみられる旨の判定がなされた場合(ステップS100:NO)には、電子制御ユニット40はステップS200及びステップS300をスキップしてこの処理を一旦終了する。
【0072】
また、ステップS100において閉弁による圧力上昇がみられない旨の判定がなされた(ステップS100:YES)ものの、ステップS200において閉弁による圧力上昇がみられる旨の判定がなされた場合(ステップS200:NO)には、電子制御ユニット40はステップS300をスキップし、この処理を一旦終了する。
【0073】
すなわち、本実施形態にかかる開固着判定処理にあっては、ステップS100及びステップS200の双方において閉弁による圧力上昇がみられないことが確認されたことを条件に、燃料を噴射した燃料噴射弁20に開固着が発生したことが判定されるようになっている。
【0074】
本実施形態にかかる燃料噴射装置にあっては、このような開固着判定処理を通じて各燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ46によって検出される燃料圧力PQに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁20に開固着が発生したか否かを判定するようにしている。
【0075】
以上説明した本実施形態の燃料噴射装置によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)燃料を噴射した燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様のみならず、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様も参照した上で燃料を噴射した燃料噴射弁20に開固着が発生したか否かの判定を行うようにしている。したがって、別々の圧力センサ46によって検出された燃料圧力PQの変化態様から総合的に開固着が発生したか否かが判定されるため、圧力センサ46の検出値へのノイズの重畳等による誤判定の発生が抑制される。また、燃料を噴射した燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様のみに基づいて燃料噴射弁20の開固着を判定する異常判定装置のように、誤判定を抑制するために燃料圧力PQの判定閾値を変更する等して開固着判定の判定基準を厳しく、すなわち開固着判定がなされにくくなるようにしなくてもよくなる。そのため、開固着の発生時にこれを速やかに判定することができる。すなわち、誤判定の発生を抑制しつつ、速やかに且つ高い精度で開固着の発生を判定することができる。
【0076】
(2)燃料を噴射した燃料噴射弁20の燃料圧力PQの変化態様と、燃料を噴射した同燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20の燃料圧力PQの変化態様との双方に閉弁に伴う圧力上昇がみられないことが確認されていることを条件に、燃料を噴射した燃料噴射弁20において開固着が発生したことを判定するようにしている。そのため、高い精度で開固着の発生を判定することができる。
【0077】
(3)各気筒に対して設けられた4つの燃料噴射弁20のうち、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20の燃料圧力PQの変化態様に基づいて燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20における燃料圧力の変化態様に閉弁による圧力上昇がみられないことを確認するようにしている。そのため、同燃料噴射弁20における前回の噴射に伴う燃料圧力PQの脈動の影響を受けずに閉弁による圧力上昇がみられないことを確認することができるようになり、開固着判定の精度を向上させることができる。
【0078】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態にあっては、開固着判定処理を通じて開固着が発生したことが判定された場合に、その判定結果を異常判定値としてメモリに記憶する構成を示した。これに対して開固着が発生したことが判定されたときに警告灯を点灯させる等して開固着の発生を報知する構成を採用することもできる。
【0079】
・上記実施形態の開固着判定処理にあっては、まず第1の確認手段であるステップS100を実行し、ステップS100において燃料を噴射した燃料噴射弁20における燃料圧力PQの変化態様に閉弁による圧力上昇がみられない旨の判定がなされたときに、第2の確認手段であるステップS200を実行する構成を示した。これに対して開固着判定処理におけるステップS100とステップS200の順番は入れ替えてもよい。
【0080】
すなわち、開固着判定処理は、第1の確認手段と第2の確認手段との双方によって閉弁に伴う圧力上昇がみられないことが確認されていることを条件に、燃料を噴射した燃料噴射弁20において開固着が発生したことが判定されるようになっていればよく、その処理手順は適宜変更することができる。
【0081】
・また、第2の確認手段としてのステップS200は、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20の燃料圧力PQの変化態様に閉弁による圧力上昇がみられないことを確認するものであればよい。そのため、ステップS200は、燃料を噴射した燃料噴射弁20の次に燃料を噴射する燃料噴射弁20に替えて、燃料を噴射しなかったその他の燃料噴射弁20の燃料圧力PQを監視して、燃料を噴射した燃料噴射弁20の燃料圧力PQの変化態様に圧力上昇がみられないことを確認するものであってもよい。
【0082】
・また、その他、第2の確認手段としてのステップS200は、燃料を噴射しなかった複数の燃料噴射弁20の燃料圧力PQの平均値を監視して、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20の燃料圧力PQの平均値の変化態様に燃料を噴射した燃料噴射弁20の閉弁に伴う圧力上昇がみられないことを確認するものであってもよい。
【0083】
更には、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20の中にいずれか一つでも閉弁による圧力上昇がみられないものがあった場合に、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20の燃料圧力PQに閉弁による圧力上昇がみられない旨を判定するものであってもよい。
【0084】
また、燃料を噴射しなかった全ての燃料噴射弁20において燃料圧力PQに閉弁による圧力上昇がみられなかった場合に、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁20の燃料圧力PQに閉弁による圧力上昇がみられない旨を判定するものであってもよい。
【0085】
・上記実施形態にあっては、ステップS100及びステップS200において、燃料圧力PQの変化態様に閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する手段として、閉弁指令がなされた後に燃料圧力PQが第1の閾値X又は第2の閾値Y以下になったか否かを判定する構成を採用した例を示した。これに対して燃料圧力PQの変化態様に閉弁による圧力上昇がみられないことを確認するための具体的な手段は適宜変更することができる。
【0086】
その他に燃料圧力PQの変化態様に燃料噴射弁20の閉弁に伴う圧力上昇がみられないことを確認する方法としては、例えば、燃料圧力PQの微分値を算出し、その微分値が正の値になっていないことに基づいて閉弁に伴う圧力上昇がみられない旨を判定する構成を採用することができる。また、閉弁指令から所定期間経過するまでの間に燃料圧力PQが所定の閾値以上にならない場合に閉弁に伴う圧力上昇がみられない旨を判定する構成等を採用することもできる。
【0087】
・上記実施形態にあっては、燃料噴射弁20の上部に圧力センサ46を設ける構成を例示したが、各燃料噴射弁20に供給されている燃料の圧力を個別に検出することのできる構成であれば、圧力センサ46の配設位置は適宜変更することができる。
【0088】
・上記実施形態にあっては、ピエゾ素子アクチュエータ26を備えるピエゾ式の燃料噴射弁20を採用している燃料噴射装置において、燃料噴射弁20の開固着を判定する構成を例示した。これに対して、本発明はピエゾ式の燃料噴射弁に限定されるものではないため、ピエゾ式の燃料噴射弁20に替えて、ソレノイドコイルにより駆動されるソレノイド式の燃料噴射弁を採用している燃料噴射装置に本発明を適用することもできる。
【0089】
・上記実施形態にあっては、電子制御ユニット40によって開固着判定処理を実行する構成を採用し、燃料噴射装置に本発明の異常判定装置としての機能を持たせる構成を例示した。これに対して、電子制御ユニット40とは別に開固着判定処理を実行するための電子制御装置を新たに設け、燃料噴射装置とは別に、この電子制御装置と圧力センサ46とによって本発明にかかる燃料噴射弁の異常判定装置を構成するようにしてもよい。
【0090】
・4つの気筒を有するディーゼルエンジンに限らず、2つの気筒を有するディーゼルエンジン、3つの気筒を有するディーゼルエンジン、あるいは5つ以上の気筒を有するディーゼルエンジンにも、本発明にかかる燃料噴射弁の異常判定装置を適用することができる。
【0091】
・上記実施形態にあっては、本発明にかかる燃料噴射弁の異常判定装置をディーゼルエンジンの燃料噴射装置に適用した例を示したが、本発明にかかる燃料噴射弁の異常判定装置は、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンや天然ガスエンジンにも適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
20…燃料噴射弁、21…ハウジング、21a…収容空間、21b…噴孔、21c…導入通路、21d…背圧室、21e…制御室、21f…排出孔、21g…排出通路、22…ニードル弁、23…スプリング、24…制御弁、25…スプリング、26…ピエゾ素子アクチュエータ、31a…分岐通路、31b…供給通路、32…燃料タンク、33…燃料ポンプ、34…コモンレール、35…リターン通路、40…電子制御ユニット、41…水温センサ、42…回転速度センサ、43…吸気量センサ、44…車速センサ、45…アクセルセンサ、46…圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の各気筒に対してそれぞれ設けられる燃料噴射弁に、同燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を検出する圧力センサをそれぞれ設け、同圧力センサによって検出される燃料圧力の変化態様に基づいて前記燃料噴射弁の異常を判定する燃料噴射弁の異常判定装置において、
燃料を噴射した燃料噴射弁における燃料圧力の変化態様と、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁における燃料圧力の変化態様とに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁に開固着が発生したことを判定する
ことを特徴とする燃料噴射弁の異常判定装置。
【請求項2】
燃料を噴射した燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に同燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する第1の確認手段と、
燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する第2の確認手段とを備え、
前記第1の確認手段及び前記第2の確認手段の双方によって燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことが確認されていることに基づいて燃料を噴射した燃料噴射弁に開固着が発生したことを判定する
請求項1に記載の燃料噴射弁の異常判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射弁の異常判定装置において、
前記第1の確認手段は、燃料を噴射した燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力が、同燃料噴射弁への閉弁指令がなされた後に、開弁期間から推定される最小燃料圧力よりも小さな第1の閾値以下になっていることに基づいて
燃料を噴射した燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に同燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する
ことを特徴とする燃料噴射弁の異常判定装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の燃料噴射弁の異常判定装置において、
前記第2の確認手段は、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力が、燃料を噴射した燃料噴射弁への閉弁指令がなされた後に、その燃料噴射に伴う開弁期間から推定される最小燃料圧力よりも小さな第2の閾値以下になっていることに基づいて
燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認する
ことを特徴とする燃料噴射弁の異常判定装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁の異常判定装置において、
前記第2の確認手段は、燃料を噴射しなかった燃料噴射弁に設けられた圧力センサのうち、燃料を噴射した燃料噴射弁の次に燃料を噴射する燃料噴射弁に設けられた圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様を監視し、同圧力センサによって検出された燃料圧力の変化態様に燃料を噴射した燃料噴射弁の閉弁による圧力上昇がみられないことを確認するものである
ことを特徴とする燃料噴射弁の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132864(P2011−132864A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292235(P2009−292235)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】