説明

燃料電池搭載車両の冷却システム、冷却制御方法

【課題】車両の運転の状況に応じて、好適な冷却を行える燃料電池搭載車両の冷却システムの提供。
【解決手段】車両の冷却システム10では、車速風の上流側のエアコン用ラジエータ42と、下流側の燃料電池用ラジエータ62とが、車速風の流路において重なるように配置されている。この冷却システム10の制御コンピュータ80は、燃料電池スタック32の温度が所定値TH以上であるか否かを判断する。その結果、所定値TH以上であれば、ラジエータ搭載可変制御として、エアコン用ラジエータ42を構成する熱交換ユニット42aの設置位置、あるいは、熱交換ユニット42a及び熱交換ユニット42bの設置位置を車両上面方向に移動させて、エアコン用ラジエータ42により高温化することなく、また、風速を低下させることなく燃料電池用ラジエータ62に導かれる車速風を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を搭載した車両の冷却技術に関し、詳しくは、複数の熱交換器を備えた冷却システムの冷却制御に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載した車両では、燃料電池スタック内に冷媒を循環させて燃料電池反応の発熱を吸収し、その熱を燃料電池用ラジエータで放熱することで、燃料電池の適正な運転温度が確保される。また、こうした燃料電池搭載車両には、燃料電池用ラジエータの他に、燃料電池以外の駆動系機器の冷却を行うEV系ラジエータや、エアコン用ラジエータ等が設置される。これらのラジエータは、一般的に、燃料電池搭載車両冷却システムとして集約して構成され、車両の走行や冷却ファンにより発生する冷却風と熱交換させることで、ラジエータ内を通過する冷媒を冷却する。
【0003】
こうした燃料電池搭載車両においては、内燃機関を動力源とする車両と比べて、排気による放熱量が極めて小さいため、燃料電池用ラジエータの負荷が大きくなる。そこで、上述のラジエータ群は、燃料電池用ラジエータで効率的な熱交換が可能となるような配置が検討される。このような配置の検討がなされた燃料電池搭載車両として、例えば、下記特許文献1に記載の技術が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−216398号公報
【0005】
この特許文献1では、車両前方から流入する冷却風の上流側に配置されたエアコン用ラジエータの高温部が、車両前方から見た正面視にて、下流側に配置された燃料電池用ラジエータと重ならないように、エアコン用ラジエータと燃料電池用ラジエータとを互いに部分的にオフセットさせている。この結果、下流側の燃料電池用ラジエータが、冷却風上流側のエアコン用ラジエータの高温部の影響を受けることがなく、冷却効率の低下を抑制することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなラジエータの配置では、エアコン用ラジエータと燃料電池用ラジエータとの重なりの部分を大きく(オフセット部分を小さく)とれば、上流側のエアコン用ラジエータの影響により、下流側の燃料電池用ラジエータに当たる冷却風が高温化すると共に、風速が低下してしまい、運転の状況によっては、十分な冷却効率が得られない場合が発生することがあった。一方、上述の重なり部分を小さく(オフセット部分を大きく)とれば、スペースの制約から互いのラジエータ面積が小さくなり、同様に、運転の状況によっては、十分な冷却効率が得られない場合が発生することがあった。
【0007】
このような問題は、エアコン用ラジエータと燃料電池用ラジエータとの間での問題に限らず、複数のラジエータを備えた冷却システムに共通する問題であった。上述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、車両の運転の状況に応じて、好適な冷却を行える燃料電池搭載車両の冷却システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の冷却システムは、
燃料電池を搭載した車両の冷却システムであって、
前記車両の走行及び/または前記車両が備える所定の機械装置の駆動により発生する冷却風の流れ方向に、該冷却風の流路において少なくとも一部の重なり部が生じるように配置され、前記冷却風と熱交換を行う複数の熱交換器と、
前記車両の運転の状況に応じて、前記重なり部の大きさが変化するように、前記複数の熱交換器の設置位置の少なくとも一部を移動させるアクチュエータと
を備えたことを要旨とする。
【0009】
かかる構成の冷却システムは、車両の運転状況に応じて、複数の熱交換器の設置位置の少なくとも一部を、冷却風の流路における重なり部の大きさが変化するように移動させる。したがって、冷却風の下流側に位置する熱交換器に当たる冷却風の温度や風速を調整して、車両の運転状況に応じて、好適な冷却を行うことができる。
【0010】
また、かかる構成の冷却システムにおいて、複数の熱交換器のひとつは、冷却風の下流側に配置され、車両を駆動させる所定の装置を冷却するための冷媒を冷却する駆動系熱交換器であり、複数の熱交換器の他のひとつは、冷却風の上流側に設置され、車両が備える車内空調システムの冷媒を冷却する空調用熱交換器としてもよい。
【0011】
このような構成とすれば、空調用熱交換器よりも下流側に配置される駆動系熱交換器を優先して熱交換を行うので、空調よりも車両の走行性を優先した好適な冷却を行うことができる。
【0012】
また、かかる構成の冷却システムにおいて、駆動系熱交換器の少なくともひとつは、燃料電池を冷却するための冷媒を冷却する熱交換器としてもよい。
【0013】
このような構成とすれば、燃料電池搭載車両の冷却システムにおいて負荷の大きい、燃料電池用の熱交換器を優先して熱交換を行うので、安定的な走行のための好適な冷却を行うことができる。
【0014】
また、かかる構成の冷却システムにおいて、アクチュエータが移動させる熱交換器は、空調用熱交換器としてもよい。
【0015】
このような構成とすれば、空気用熱交換器を移動させることで、冷却風の下流側に設置される駆動系熱交換器に当たる冷却風の温度や風速を調節するので、駆動系熱交換器を常に冷却風の流路との関係で冷却効率の良い位置に配置し、好適な冷却を行うことができる。
【0016】
また、かかる構成の冷却システムにおいて、空調用熱交換器は、直列または並列に接続される複数の熱交換ユニットを備え、アクチュエータは、複数の熱交換ユニットの設置位置の少なくとも一部を移動するものとしてもよい。
【0017】
このような構成とすれば、空調用熱交換器の配置の自由度が向上するので、効率的な配置が行える。したがって、各熱交換器の面積を十分に確保し、適切な冷却を行うことができる。
【0018】
また、かかる構成の冷却システムにおいて、アクチュエータは、複数の熱交換ユニットの少なくとも一部を、所定方向にスライドさせて、該所定方向に寄せるものとしてもよい。
【0019】
このような構成とすれば、スライド移動により熱交換ユニットを移動させるので、熱交換ユニットの配置のコンパクト化が可能となる。したがって、各熱交換器の面積を十分に確保し、適切な冷却を行うことができる。
【0020】
また、かかる構成の冷却システムにおいて、アクチュエータが、重なり部が少なくなる所定の位置まで空調用熱交換器の設置位置を移動させた場合であって、駆動系熱交換器の能力が不足した所定の状況に達したときには、車内空調システムは、該空調システムの出力を低下させるものとしてもよい。
【0021】
このような構成とすれば、空調用熱交換器を移動させても駆動系熱交換器の能力が不足している場合には、空調システムの出力を低下させるので、車両の走行に不可欠な駆動系機器を優先して好適な冷却を行うことができる。
【0022】
なお、本発明の燃料電池を搭載した車両の冷却システムは、燃料電池を搭載した車両が備える冷却装置の冷却制御方法としても構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
A.実施例:
本発明の実施例について以下に説明する。
A−1.冷却システム10の概略構成:
図1は、本発明の実施例としての燃料電池搭載車両の冷却システム10の概略構成を示す説明図である。冷却システム10は、エアコンシステム20、燃料電池システム30、エアコン冷却系統40、燃料電池冷却系統60、冷却ファン70、制御コンピュータ80を備えている。
【0024】
エアコンシステム20は、車室内の空調管理を行うヒートポンプ式の空調ユニットであり、蒸発器、コンプレッサ等を備えている。なお、後述するエアコン冷却系統40は、エアコンシステム20の構成要素の一部であるが、本願においては、説明の便から、エアコン冷却系統40を別途取り出して説明する。
【0025】
燃料電池システム30は、燃料電池の電気化学反応により発電を行うための発電システムであり、燃料電池スタック32のほか、図示しない燃料ガス供給系、酸化ガス供給系等を備えている。ここで発電した電力は車両の動力源等に利用される。本実施例においては、燃料電池スタック32は、固体高分子形燃料電池を採用したが、他の形式であってもよい。なお、後述する燃料電池冷却系統60は、燃料電池システム30の構成要素の一部であるが、本願においては、説明の便から、燃料電池冷却系統60を別途取り出して説明する。
【0026】
エアコン冷却系統40は、エアコン用ラジエータ42、コンプレッサ46、配管48、エアコン用ラジエータ移動システム50を備えている。エアコン用ラジエータ42は、エアコンシステム20から配管48を介してエアコン用ラジエータ42に導かれた高温の冷媒を、冷却風としての、車両の走行により生じる車速風との間で熱交換させる凝縮器であり、3つの熱交換ユニット42a〜42cが並列的に接続されて構成されている。なお、本実施例においては、冷媒には二酸化炭素を用いているが、炭化水素系など各種冷媒が利用可能である。コンプレッサ46は、冷媒を圧縮することにより高温化して、エアコン用ラジエータ42に供給するコンプレッサである。エアコン用ラジエータ移動システム50は、エアコン用ラジエータ42の設置位置を、車両の運転状況に応じて移動させるための機構である。これらの機器で構成されるエアコン冷却系統40の詳細については、図2を用いて後述する。
【0027】
燃料電池冷却系統60は、燃料電池用ラジエータ62、冷却水循環ポンプ64、配管66を備えている。燃料電池用ラジエータ62は、燃料電池スタック32との間を冷却水循環ポンプ64及び配管66を介して循環させる冷媒を、車速風との間で熱交換させるための熱交換器であり、燃料電池反応により発生する熱を吸収して、燃料電池スタック32の温度を好適に調節する。この燃料電池用ラジエータ62は、上述のエアコン用ラジエータ42よりも車速風の下流側に設置されている。なお、本実施例においては、冷媒としてエチレングリコールを含む不凍液を用いたが、他の不凍液や純水、それらに防錆添加剤、イオン交換樹脂を添加したもの、空気など種々の冷媒を用いてもよい。
【0028】
冷却ファン70は、車両の走行速度が遅く、エアコン用ラジエータ42や燃料電池用ラジエータ62での熱交換に十分な車速風が発生しないときなどに、補助的に冷却風を発生させるための吸気ファンである。
【0029】
制御コンピュータ80は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、エアコンシステム20や燃料電池システム30が備える各種センサからの信号を受けて、エアコンシステム20、燃料電池システム30、エアコン用ラジエータ移動システム50を始めとする冷却システム10の運転全体を制御する。なお、本実施例においては、制御コンピュータ80が冷却システム10を構成する全てのシステム及び装置を制御するものとしたが、一部を分散制御してもかまわない。
【0030】
A−2.エアコン冷却系統40の詳細構成:
次に、エアコン冷却系統40の詳細構成について図2を用いて説明する。本実施例のエアコン冷却系統40を構成するエアコン用ラジエータ42は、同じ大きさの3つの熱交換ユニット42a〜42cで構成される。これらの熱交換ユニット42a〜42cは、車両上面から見ると、図2(b)に示すように、車速風の流路においてそれぞれが重なるように、車速風の流れ方向に並べられて構成されている。一方、このエアコン用ラジエータ42を車両側面から見ると、図2(a)に示すように、各熱交換ユニットは、車速風の流路において重なる部分がないように上下にオフセットさせて配置されている。
【0031】
これらの熱交換ユニット42a〜42cは、フレキシブル構造の配管48a〜48fによって並列的に接続されている。すなわち、配管48aから熱交換ユニット42cに供給されたエアコン用冷媒は、配管48b及び48cを介して、並列的に熱交換ユニット42b及び42aにも供給される。そして、熱交換ユニット42a〜42cの各々に供給された冷媒は、熱交換ユニット42a〜42cのそれぞれが備える熱交換部(フィンチューブ)を通過して車速風と熱交換を行い、冷却される。そして、熱交換ユニット42cで冷却された冷媒は、配管48dを介して熱交換ユニット42bで冷却された冷媒と合流し、さらに、配管48eを介して熱交換ユニット42aで冷却された冷媒と合流して、配管48fに排出される。このように、複数の熱交換ユニットを並列に接続することで、直列的に接続する場合と比べて、1つの系列におけるエアコン用冷媒の流路抵抗を小さくできるとともに、車速風との温度差を大きくとれる箇所が増えるので、効率的な熱交換を行うことができる。ただし、これらの熱交換ユニット42a〜42cは直列的に接続してもかまわない。
【0032】
また、熱交換ユニット42a及び42bは、エアコン用ラジエータ移動システム50を備えている。このエアコン用ラジエータ移動システム50は、エアコン用ラジエータ42と嵌合するガイドレール52a〜52h、アクチュエータとしての電動機56a、56b、電動機56a,56bによりプーリを介して駆動する駆動ベルト54a,54b、駆動ベルトとエアコン用ラジエータ42を連結するブラケット58a,58bから構成される。
【0033】
このシステムでは、電動機56aの駆動により駆動ベルト54aを回転させることで、駆動ベルト54aとブラケット58aにより連結された熱交換ユニット42aを、上下方向に設置されたガイドレール52a〜52dに沿って、上方向へ移動させることができる。熱交換ユニット42bについても、同様の機構で、上方向へ移動させることができる。なお、エアコン用ラジエータ移動システム50は、上述の態様に限らず、種々の移動機構を用いることができる。
【0034】
また、こうした熱交換ユニット42a〜42cよりも車速風の下流側には、車速風の流路において熱交換ユニット42a〜42cと重なるように、燃料電池用ラジエータ62が配置されている。この燃料電池用ラジエータ62では、熱交換ユニット42a〜42cでの熱交換によって高温化され、風速を弱められた車速風と燃料電池用冷媒との熱交換が行われる。そして、燃料電池用ラジエータ62を通過してさらに高温化された車速風は、車両の下部に導かれて車外へ排出される。なお、本実施例においては、車速風の流路において、熱交換ユニット42a〜42cと燃料電池用ラジエータ62とが完全に重なるような大きさ及び位置関係であるが、熱交換ユニット42a〜42c全体の大きさと燃料電池用ラジエータ62の大きさは同一でなくてもよく、また、一部が重なっていることでもよい。
【0035】
A−3.冷却システム10の制御:
次に、冷却システム10の制御手順の一例について、図3のフローチャートを用いて説明する。この処理は、車両の運転状況に応じて、冷却システム10において好適な冷却を行えるように制御する処理である。この処理では、まず、制御コンピュータ80は、燃料電池スタック32の温度が所定値TH以上であるか否かを判断する(ステップS100)。その結果、所定値TH未満であれば(ステップS100:NO)、燃料電池スタック32の温度は適正な範囲にある、すなわち、車両の運転状況は良好であるということであり、冷却システム10を更に制御する必要はなく、処理を終了する。
【0036】
一方、燃料電池スタック32の温度が所定値TH以上であれば(ステップS100:YES)、燃料電池スタック32の温度は適正な範囲を超えているということである。したがって、燃料電池スタック32の温度を適正な範囲に戻す必要があるため、制御コンピュータ80は、ラジエータ搭載可変制御を行う(ステップS110)。
【0037】
このラジエータ搭載可変制御については、図4を用いて説明する。この処理が開始されると、制御コンピュータ80は、エアコン用ラジエータ移動システム50に指示を送り、エアコン用ラジエータ42を構成する熱交換ユニット42aの設置位置、あるいは、熱交換ユニット42a及び熱交換ユニット42bの設置位置を車両上面方向に移動させる。このときの移動量は、上記ステップS100の判断に用いられた燃料電池スタック32の温度に応じて段階的に決定される。本実施例においては、これらの熱交換ユニットが車両上面方面に最大限移動したときの設置位置は、車両側面から見れば、図4(a)に示すとおり、熱交換ユニット42a及び熱交換ユニット42bの設置高さが、熱交換ユニット42cと同じ高さとなる位置である。なお、この状態を車両上面から見れば、図4(b)に示すように、図2(b)に示した状態から変化していない。
【0038】
このように、熱交換ユニット42a及び熱交換ユニット42bの設置位置を移動させるのは、エアコン用ラジエータ42により高温化することなく、また、風速を低下させることなく燃料電池用ラジエータ62に導かれる車速風を増加させることにより、燃料電池用ラジエータ62の冷却効率を向上させるためである。
【0039】
なお、上記の例では、熱交換ユニット42a及び熱交換ユニット42bは、上記ステップS100において燃料電池スタック32の温度が所定値TH以上であると判断されると、図4(a)に示した位置まで移動するものとしたが、図示した位置は例示に過ぎない。例えば、車両のスペース条件によっては、熱交換ユニット42a〜42cを図4(a)に図示した状態よりも上部まで移動させることとしてもよい。また、上述のように、熱交換ユニット42a〜42cの移動は、燃料電池スタック32の温度に応じた段階的な移動に限らず、所定値THを超えれば、設定された最上部の位置まで移動するものとしてもよい。
【0040】
また、本実施例においては、上述の通り、熱交換ユニット42a及び42bの設置位置を車両上部に移動させるものとしている。このような態様としているのは、車速風の流れが、上述の通り、燃料電池用ラジエータ62を通過して車両の下部に導かれるために、燃料電池用ラジエータ62の下部に、エアコン用ラジエータ42の影響を受けない車速風の風道を確保した方が、燃料電池用ラジエータ62の冷却効率をより向上できるからである。したがって、例えば、車速風の流れが、車両の下部への流れと車両のフード側への流れとの2方向あるような場合には、熱交換ユニット42aの設置位置を車両上部方向に移動させるとともに、熱交換ユニット42cの設置位置を車両下部方向に移動させて、熱交換ユニット42a〜42cを車両中央部に寄せ、燃料電池用ラジエータ62の上部と下部にエアコン用ラジエータ42の影響を受けない風道を確保することとしてもよい。つまり、どの熱交換ユニットがどの方向に移動するのかは、燃料電池用ラジエータ62の冷却効率をより向上させるために、車速風の風道を妨げない方向を考慮して決定することが望ましい。
【0041】
そして、ラジエータ搭載可変制御を行うと、制御コンピュータ80は、再度、燃料電池スタック32の温度が所定値TH以上であるか否かを判断する(ステップS120)。その結果、所定値TH未満であれば(ステップS120:NO)、燃料電池スタック32の温度は、上記ステップS110に基づく燃料電池用ラジエータ62の冷却効率の向上により、適正な範囲に戻ったということであり、冷却システム10を更に制御する必要はなく、処理を終了する。
【0042】
一方、燃料電池スタック32の温度が所定値TH以上であれば(ステップS120:YES)、燃料電池スタック32の温度は適正な範囲を未だ超えているということである。そこで、制御コンピュータ80は、冷却制御が最大限行われているか否かを判断する(ステップS130)。本実施例において、上述の冷却制御が最大限行われているか否かの判断基準は、上記ステップS110において、熱交換ユニット42a〜42cの位置が、設定された最上部の位置まで移動しているか否かである。
【0043】
その結果、冷却制御が最大限行われていなければ(ステップ130:NO)、制御コンピュータ80は、処理を上記ステップS110に戻す。すなわち、上記ステップS120の判断に用いた燃料電池スタック32の温度を考慮して、再度、ラジエータ搭載可変制御を行い、燃料電池スタック32の温度を低下させる。
【0044】
一方、冷却制御が最大限行われていれば(ステップ130:YES)、これ以上、燃料電池スタック32の温度を低下させるラジエータ搭載可変制御はできないということである。そこで、制御コンピュータ80は、さらなる温度低下手段として、エアコンシステム20の出力をゼロにする(ステップS140)。このように、エアコンシステム20の出力をゼロにするのは、燃料電池用ラジエータ62に導かれる車速風の温度がエアコン用ラジエータ42により高温化することを抑制することにより、燃料電池用ラジエータ62の冷却効率を向上させるためである。以上により、冷却システム制御は完了する。なお、このステップS140においては、出力をゼロにすることに限らず、上記ステップS120の判断に用いた燃料電池スタック32の温度に応じて、出力をカットすることでもよい。
【0045】
なお、本実施例においては、上記ステップS100及びS120において、燃料電池スタック32の温度を判断基準として、冷却システム制御を行ったが、これに限られるものではない。例えば、EV系ラジエータの温度が所定値以上に上昇していないかといった判断で行う構成、燃料電池スタック32のI−V特性が所定値以下に低下していないかといった判断で行う構成、アクセルを踏んでも出力が出ない状態にないかといった判断で行う構成、あるいは、これらの組合せなど、冷却システム10を構成する、駆動系装置を冷却するための熱交換器の能力が不足した状況であることを示す種々の基準を用いる構成とすることができる。
【0046】
また、本実施例においては、ラジエータ搭載可変制御のみで燃料電池スタック32の温度を低下させる例を示したが、これに限られるものではなく、種々の冷却制御方法と組み合わせてもよい。例えば、上記ステップ110において、ラジエータ搭載可変制御と併せて、冷却水循環ポンプ64及び冷却ファン70の出力制御を行うこととし、上記ステップS130においては、冷却制御が最大限行われているか否かの判断基準として、熱交換ユニット42a〜42cの位置に加え、冷却水循環ポンプ64及び冷却ファン70の出力を加えてもよい。こうすれば、エアコンシステム20の出力を極力低下させないで、冷却制御を行うことができる。
【0047】
かかる構成の冷却システム10は、車両の運転状況に応じて、車速風上流側に配置されたエアコン用ラジエータ42の設置位置を移動させることで、エアコン用ラジエータ42により高温化することなく、また、風速を低下させることなく燃料電池用ラジエータ62に導かれる車速風を増加させることができる。したがって、燃料電池用ラジエータ62において、車両の運転状況に応じた好適な冷却が行える。
【0048】
また、かかる構成の冷却システム10は、エアコン用ラジエータ42を複数の熱交換ユニットから構成しているため、単一の熱交換ユニットで構成する場合と比べて、配置の自由度が向上し、効率的な配置が可能となる。したがって、各ラジエータの面積を十分に確保し、適切な冷却を行うことができる。
【0049】
また、かかる構成の冷却システム10は、スライド移動により少ないデッドスペースでエアコン用ラジエータ42を構成する熱交換ユニットを移動させるので、熱交換ユニットをコンパクトに配置することができる。したがって、各ラジエータの面積を十分に確保し、適切な冷却を行うことができる。
【0050】
また、かかる構成の冷却システム10は、エアコン用ラジエータ42を車速風の上流側に、燃料電池用ラジエータ62を下流側に設置し、エアコン用ラジエータ42を車両の状況に応じて移動させるので、下流側の燃料電池用ラジエータ62の冷却を優先、すなわち空調よりも走行性を優先した好適な冷却を行うことができる。このように、冷却を優先するラジエータほど、車速風の下流側に設置することが望ましい。
【0051】
また、かかる構成の冷却システム10は、燃料電池用ラジエータ62を固定し、エアコン用ラジエータ42を移動させるので、燃料電池用ラジエータ62を常に車速風の流路との関係で冷却効率の良い位置に配置し、好適な冷却を行うことができる。
【0052】
また、かかる構成の冷却システム10は、エアコン用ラジエータ42を移動させても、燃料電池用ラジエータ62など、駆動系の装置を冷却するための熱交換器の能力が不足する場合には、エアコンシステム20の出力を低下させるので、車両の走行に不可欠な駆動系機器を優先して好適な冷却を行うことができる。
【0053】
B.変形例:
次に、本発明のいくつかの変形例について例示する。
B−1.変形例1:
変形例1としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成について図5に示す。この例では、エアコン用ラジエータ42を構成する同じ大きさの3つの熱交換ユニット42d〜42fが、車速風の流路において重なる部分がないようにオフセットさせて配置されている(図5(b)において、熱交換ユニット42d及び42eは図中の一点鎖線部)。
【0054】
この熱交換ユニット42d〜42fでは、上記ステップS110のラジエータ搭載可変制御において、熱交換ユニット42d及び42eが、図5(b)に示すように(熱交換ユニット42d及び42eは実線部)、車速風の流路において熱交換ユニット42fと重なる位置まで右方向に移動する。
【0055】
このように、エアコン用ラジエータ42を構成する熱交換ユニットの移動は、実施例で示した車両の上下方向の移動に限らず、車両の左右方向であってもよい。あるいは、斜め方向や、上下方向と左右方向の両方に移動できるものであってもよい。
【0056】
B−2.変形例2:
変形例2としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成について図6に示す。この例では、エアコン用ラジエータ42を構成する、同じ大きさの4つの熱交換ユニット42h〜42kと、これらの熱交換ユニットの2つ分に相当する大きさの熱交換ユニット42gとが、車速風の流路において重なる部分がないようにオフセットさせて配置されている(図6(b)において、熱交換ユニット42h〜42kは図中の一点鎖線部)。
【0057】
この熱交換ユニット42g〜42kでは、上記ステップS110のラジエータ搭載可変制御において、熱交換ユニット42h及び42iが車両左側方向に移動するとともに、熱交換ユニット42j及び42kが右側方向に移動して、熱交換ユニット42h〜42kを車両中央部に寄せ、図6(b)に示すように(熱交換ユニット42h〜42kは実線部)、車速風の流路において車速風上流側に配置された熱交換ユニット42gと重なる位置まで移動する。
【0058】
このように、エアコン用ラジエータ42は、実施例で示した3つの熱交換ユニットによる構成に限らず、単数を含む任意のユニット数で構成すればよい。また、エアコン用ラジエータ42を複数の熱交換ユニットで構成する場合、各熱交換ユニットは、実施例で示したような互いが同じ大きさのものに限らず、本例で示したように、大きさが異なるものを含んでもよい。もとより、全ての熱交換ユニットが互いに異なる大きさであってもよい。
【0059】
B−3.変形例3:
変形例3としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成について図7に示す。この例では、エアコン用ラジエータ42を構成する同じ大きさの2つの熱交換ユニット42m及び42nが、車速風の流路において重なる部分がないように、車両の左右方向に並んで配置されている(図中の一点鎖線部)。
【0060】
この熱交換ユニット42m,42nでは、上記ステップS110のラジエータ搭載可変制御において、熱交換ユニット42m及び42nが、図7(b)に示すように(図中の実線部)、熱交換ユニット42m,42nと燃料電池用ラジエータ62とが車速風の流路において重ならないように、曲線的に車両側面側に移動する。
【0061】
このように、エアコン用ラジエータ42の移動は、車両の上下方向または左右方向の面的な移動に限らない。曲線的なレール機構などを用いて、車両の前後方向も含めて立体的に移動するものとしてもよい。
【0062】
B−4.変形例4:
変形例4としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成について図8に示す。この例では、エアコン用ラジエータ42を構成する同じ大きさの3つの熱交換ユニット42o〜42qが、車速風の流路において重なる部分がないように車両の左右方向に並んで配置されている(図中の一点鎖線部)。
【0063】
この熱交換ユニット42o〜42qでは、上記ステップS110のラジエータ搭載可変制御において、熱交換ユニット42o〜42qが、図8(b)に示すように(図中の実線部)、車両上面から見て熱交換ユニットの短辺の中点を軸として同一方向に回転移動する。このように、エアコン用ラジエータ42の移動は、実施例に示したような直線的な移動に限らず、回転シャフトなどを用いて回転移動するものであってもよい。
【0064】
B−5.変形例5:
変形例5としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成について図9に示す。この例では、エアコン用ラジエータ42を構成する同じ大きさの3つの熱交換ユニット42r〜42tが、車速風の流路において、重なる部分がないように車両の左右方向に並んで配置されている(図9(b)において、熱交換ユニット42r,42tは図中の一点鎖線部)。
【0065】
この熱交換ユニット42r〜42tでは、上記ステップS110のラジエータ搭載可変制御において、熱交換ユニット42r及び42tが、図9(b)に示すように(図中の実線部)、車両上面から見て車両の内部方向に折りたたみ移動する。このように、エアコン用ラジエータ42の移動は、実施例に示したような直線的な移動に限らず、ヒンジ機構などを用いて折りたたみ移動するものであってもよい。
【0066】
このように、エアコン用ラジエータ42を構成する熱交換ユニットの数、配置、移動形態等は、種々の態様を設定可能である。これらの態様は、車両のスペース条件や、求められる燃料電池用ラジエータ62の冷却効率などに応じて、適宜設定すればよい。
【0067】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本実施例では、燃料電池スタック32の温度が所定値以上となるなど、駆動系装置を冷却するための熱交換器の能力が不足した状況となった場合に、エアコン用ラジエータ42を移動させるものとしたが、このような態様に限られるものではない。例えば、エアコンシステム20の不使用時には、エアコン用ラジエータ42を移動させるなど、種々の車両の運転の状況に応じてエアコン用ラジエータ42の位置を変化させてもよい。また、本実施例においては、エアコン用ラジエータ42を移動させて冷却制御を行ったが、このような態様に限らず、燃料電池用ラジエータ62を移動させたり、これらの両方を移動させたりしてもよい。もとより、本発明の冷却システムは、エアコン冷却系統40と燃料電池冷却系統60との組合せに限らず、車両に搭載する種々のラジエータの組合せについて適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池搭載車両の冷却システム10の概略構成を示す説明図である。
【図2】エアコン用ラジエータ42の詳細構成を示す説明図である。
【図3】冷却システム10の制御手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】ラジエータ搭載可変制御についての説明図である。
【図5】変形例1としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成を示す説明図である。
【図6】変形例2としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成を示す説明図である。
【図7】変形例3としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成を示す説明図である。
【図8】変形例4としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成を示す説明図である。
【図9】変形例5としてのエアコン用ラジエータ42の詳細構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
10...冷却システム
20...エアコンシステム
30...燃料電池システム
32...燃料電池スタック
40...エアコン冷却系統
42...エアコン用ラジエータ
42a〜42t...熱交換ユニット
46...コンプレッサ
48...配管
48a〜48f...配管
50...エアコン用ラジエータ移動システム
52a〜52h...ガイドレール
54a,54b...駆動ベルト
56a,56b...電動機
58a,58b...ブラケット
60...燃料電池冷却系統
62...燃料電池用ラジエータ
64...冷却水循環ポンプ
66...配管
70...冷却ファン
80...制御コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を搭載した車両の冷却システムであって、
前記車両の走行及び/または前記車両が備える所定の機械装置の駆動により発生する冷却風の流れ方向に、該冷却風の流路において少なくとも一部の重なり部が生じるように配置され、前記冷却風と熱交換を行う複数の熱交換器と、
前記車両の運転の状況に応じて、前記重なり部の大きさが変化するように、前記複数の熱交換器の設置位置の少なくとも一部を移動させるアクチュエータと
を備えた冷却システム。
【請求項2】
請求項1記載の冷却システムであって、
前記複数の熱交換器のひとつは、前記冷却風の下流側に配置され、前記車両を駆動させる所定の装置を冷却するための冷媒を冷却する駆動系熱交換器であり、
前記複数の熱交換器の他のひとつは、前記冷却風の上流側に設置され、前記車両が備える車内空調システムの冷媒を冷却する空調用熱交換器である
冷却システム。
【請求項3】
請求項2記載の冷却システムであって、
前記駆動系熱交換器の少なくともひとつは、前記燃料電池を冷却するための冷媒を冷却する熱交換器である
冷却システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の冷却システムであって、
前記アクチュエータが移動させる熱交換器は、前記空調用熱交換器である
冷却システム。
【請求項5】
請求項4記載の冷却システムであって、
前記空調用熱交換器は、直列または並列に接続される複数の熱交換ユニットを備え、
前記アクチュエータは、前記複数の熱交換ユニットの設置位置の少なくとも一部を移動する
冷却システム。
【請求項6】
請求項5記載の冷却システムであって、
前記アクチュエータは、前記複数の熱交換ユニットの少なくとも一部を、所定方向にスライドさせて、該所定方向に寄せる
冷却システム。
【請求項7】
請求項2ないし請求項6のいずれか記載の冷却システムであって、
前記アクチュエータが、前記重なり部が少なくなる所定の位置まで前記空調用熱交換器の設置位置を移動させた場合であって、前記駆動系熱交換器の能力が不足した所定の状況に達したときには、前記車内空調システムは、該空調システムの出力を低下させる
冷却システム。
【請求項8】
燃料電池を搭載した車両が備える冷却装置の冷却制御方法であって、
前記車両の走行及び/または前記車両が備える所定の機械装置の駆動により発生する冷却風の流れ方向に、該冷却風の上流側からの正面視にて少なくとも一部の重なり部が生じるように配置され、前記冷却風と熱交換を行う複数の熱交換器の設置位置の少なくとも一部を、前記車両の運転の状況に応じて、前記重なり部の大きさが変化するように移動させる
冷却制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−207569(P2008−207569A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43214(P2007−43214)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】